説明

肺ならびに肺の疾患および障害の治療

肺組織の血管新生を刺激および支持するため、肺組織への血流をを改善するため、肺疾患、障害および/または傷害により損傷した肺組織を再生、修復、および改善するため、患者の肺疾患、障害および/または傷害により生じる損傷から肺組織を保護するために、臍帯組織由来の細胞を使用する、組成物および方法。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
〔関連出願への相互参照〕
本出願は、2008年12月19日出願の米国仮特許出願第61/139,425号の利益を主張するものであり、この仮特許出願の内容は、参照により全体として本明細書に組み込まれる。
【0002】
〔発明の分野〕
本発明は、肺の障害、疾患、および傷害の、細胞に基づいた療法または再生療法の分野に関する。
【0003】
〔発明の背景〕
特許、公開済み出願、および技術論文を含む、さまざまな文献を、本明細書全体にわたって挙げる。挙げられたそれらの文献はそれぞれ、参照により全体として本明細書に組み込まれる。
【0004】
肺疾患は、慢性および急性のいずれであっても、世界中で、罹患率および死亡率の大きな原因のままである。慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、世界で死因の第4位であり(Spurzem and Rennard, Semin Respir Crit Care Med,2005;26:142−153)、これは、気道が解剖学的に狭まるか、または正常な呼吸を妨げる粘液で気道が遮られることによって、生じ得る。さらに、肺線維症としても知られる間質性肺疾患は、さまざまな慢性肺障害を含む制限的疾患として分類される。慢性肺疾患の管理には、薬物療法、酸素療法、手術、および肺のリハビリテーションが含まれる。
【0005】
COPD患者の90%が喫煙家であるが、喫煙家のうちわずか10%がこの疾患を発病し、このことは、遺伝的素因が重要な予後因子であることを示唆している(Siafakas and Tzortzaki, Respir Med, 2002 Aug.;96(8):615−24)。喫煙家の肺疾患は、慢性活動性炎症、気道粘液分泌過多、および気腫により特徴付けられ(MacNee, Proc Am Thorac Soc.,2005;2(4):258−66;discussion 290−1)、禁煙した場合、部分的に元に戻せるにすぎない(Spurzem and Rennard, Semin Respir Crit Care Med,2005;26:142−153)。気道および肺実質の炎症は、慢性閉塞性肺疾患の病変形成に、主要な役割を果たす。タバコの煙は、タバコの煙への暴露がやめられていたとしても、肺の炎症を誘発し、最終的にはCOPDを引き起こすことが分かっている。
【0006】
気腫は、慢性閉塞性肺疾患における罹患率および死亡率を決定する主要な要因の1つである。この疾患は、例えば、肺胞などの肺組織を支持する構造体の破壊、および肺胞への送り込みをする(feeding)毛細血管の破壊による、肺組織の弾性損失によって、特徴付けられる。この破壊は、炎症性酵素、例えばエラスチンによって生じ得る。気腫は、肺(呼吸細気管支および肺胞を含む)における末梢気腔の拡張として定義され、これは肺胞壁構造の破壊を伴うものである。気腫を有する患者の出現頻度は、環境汚染物質、喫煙、および他の、有害物質への暴露の増加の結果として、過去数十年で増加している。現在の標準治療は、今日、肺移植のみが重篤な気腫の治療を提供できることを明示している。エラスターゼ誘発気腫などの気腫を有する患者において、肺の損傷を治療し、修復し、かつ/または改善する、適切かつ有用なアプローチに対する必要性が残っている。
【0007】
タバコの煙にさらされた動物モデルが、病態、およびさまざまな治療的介入の有効性を調べるために、研究された。残念ながら、これらの研究は、限られた成功しか証明できなかった。問題の一部は、一般的に使用されるラットおよびマウス株が、タバコの煙に対して、軽度の炎症および粘液分泌を示したに過ぎないことであり(Guerassimov, A, et al, Am J Respir Crit Med, 2004 Nov.1;170(9):974−80. Epub 2004 JuI.28)、対応する傷害は、迅速に元に戻すことができる。したがって、実験室の健康なげっ歯類は、傷害後に肺機能を補い再生する、並外れた能力を有することができ、これは、COPDの発症に対するげっ歯類の相対抵抗の基礎となることができるものである。遺伝的に罹患しやすい自発性過敏症のラット(genetically predisposed spontaneous hypersensitive (SH) rats)が、COPDの患者でも見られる表現型(例えば、全身炎症、凝固亢進、酸化的ストレス、および抑制された免疫機能)を示すことが、最近分かった(Yu, B, et al.,Inhal Toxicol, 2008 May;20(7):623−33)。したがって、SHラットモデルは、実験的COPDのより関連的なモデルとなり得る。
【0008】
制限的肺疾患は、罹患率および死亡率の最も一般的な原因の1つであり、3つの一次病因、すなわち、肺がん、肺炎、および肺線維症を有する。突発性肺線維症(IPF)は、進行性の呼吸困難により特徴付けられる有害な疾患であり、高い死亡率、進行性固定組織線維症、構築的歪み、および機能喪失を伴う(Ortiz, LA, et al.,Proc Natl Acad Sci U S A.,2003 JuI.8,2003;100(14):8407−11.Epub 2003 Jun.18)。過度の線維化促進サイトカイン(profibrotic cytokines)、または抗線維化サイトカインの欠乏が、病理過程に関わっている。米国では、突発性肺線維症の有病率評価は、10万人当たり3〜6件とさまざまである。現在、疾患の経過を逆行させるかまたは遅らせる、有効な療法はない。副腎皮質ステロイド、免疫抑制剤、免疫調節剤、または抗線維化薬などの大部分の治療薬が、炎症を抑制しようとするが、IPF疾患の進行を変えるものは何も証明されていない。したがって、線維症を遅らせるかもしくは停止させると共に、内在性の肺修復および再生を促進することを目的とした、新規な療法の開発に対するかなりの必要性がある。
【0009】
間葉系幹細胞(MSC)は、ブレオマイシン(BLM)で損傷されたマウスの損傷した肺において肺胞上皮細胞に分化することができ、MSCの生着により、損傷した肺組織における炎症およびコラーゲン沈着を抑制することができることが示されている(Zhao, F, et al, Transplant Proceedings,2008 Jun.;40(5):1700−1705;Ortiz, LA, et al,Proc Natl Acad Sci USA.,2003 Jul.8,2003;100(14):8407−11, Epub 2003 Jun.18;Rojas et al.,Am J Respir Cell Mol Biol,2005;33:145)。BLMは、抗腫瘍活性のある細胞増殖抑制性抗生物質であり、動物モデルにおいて肺線維症を研究するための、よく認識された化合物である。BLMは、肺胞上皮細胞傷害および炎症を肺において誘発し、肺線維症を引き起こす。
【0010】
急性肺傷害(ALI)および急性呼吸窮迫症候群(ARDS)も、引き続き、集中治療環境において罹患率および死亡率の大きな原因である。ALIおよびARDSは、直接的な傷害(例えば、溺水、肺炎、有毒ガス吸い込み、および肺挫傷)または間接的な傷害(例えば、重篤な敗血症、輸血、ショック、および膵炎)に反応して、びまん性肺水腫を伴う低酸素血症が突然発症することにより特徴付けられる、重い疾患である。ALIおよびARDSは、現在、機械的換気、および支持的ケアによって治療される。
【0011】
細胞療法は、探索医療の最も面白い分野の1つであり、広範囲の臨床的障害を治療する新しい治療プラットフォームに発展している。過去5年間にわたり、肺疾患における細胞療法の分野は、急速に発展し続けた。いくつかの研究が、肺疾患を治療するため細胞療法を採用する可能性を証明している。例えば、循環血管内皮前駆細胞(EPC)は、罹患した肺血管系の再生に貢献でき、また、肺高血圧症を持つ患者において調べられている(Diller, G P, et al.,Circulation,2008 Jun 10,117(23):3020−30,EPub 2008 Jun 2)。さらに、最近の出版物では、間葉系幹細胞(MSC)も、炎症および免疫介在性の肺疾患のいくつかのマウスモデルにおいて肺傷害および炎症を抑制することが証明されている(Weiss, D J, et al, Proc Am Thorac. Soc.,2008 JuL 15;5(5):637−67)。これらの見込みある発見にもかかわらず、ALIの細胞療法の発展に関して、ほとんど注意が払われていない。
【0012】
現在、分裂および分化できる幹細胞、または、平滑筋細胞および骨格筋細胞を含む、他の供給源からの筋細胞のいずれかを使用して、肺の疾患、障害、または傷害による肺損傷などの組織損傷の修復または回復を助けることへの関心がある。幹細胞の移植を、臨床ツールとして用いて、標的組織を再構成し、それにより、生理学的および解剖学的な機能性を回復することができる。幹細胞テクノロジーの適用は、組織工学、遺伝子療法送達(gene therapy delivery)、および細胞治療学、すなわち、生物学的薬物(biotherapeutic agents)を、それらの薬物を産生もしくは含有する外因的に供給された生細胞または細胞成分を介して標的場所に送達すること、を含めて、広範囲にわたる。幹細胞の識別により、再生医療のため特定の細胞型を選択的に生成することを目的とした調査が振興された。
【0013】
血管構造を含め、多くの肺組織に分化する能力を有するそのような細胞の実質的に同種の集団の、確実でよく特徴付けられたたくさんの供給は、肺の修復、再生、保護および改善のため、また、肺疾患、障害、および/または傷害による肺損傷前、その最中、またはその後の、血流ならびに酸素/CO交換の改善のため、さまざまな診断および治療の適用において有利であろう。
【0014】
〔発明の概要〕
本発明の一態様は、肺の疾患、障害、および/または傷害を有する患者を治療する方法を特徴とする。そのような疾患、障害、および/または傷害には、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺線維症、急性肺傷害(ALI)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、およびそれに関連する損傷が含まれるがこれらに限定されない。
【0015】
本発明の一態様は、肺疾患、障害および/または傷害を有する患者を治療する方法を特徴とし、この方法は、肺疾患、障害および/または傷害、ならびにそれに伴う損傷を治療するのに有効な量の臍帯組織由来細胞を患者に投与することを含む。
【0016】
特定の実施形態では、肺疾患、障害、および/または傷害は、閉塞性であり、拘束性であり、かつ/または、ALIおよび/もしくはARDSと関連するかまたはそれらを引き起こすような傷害から生じる。ある実施形態では、細胞は、投与前に肺組織細胞、例えば、血管平滑筋、周皮細胞、または血管内皮系細胞に分化するように、in vitroで誘発される。他の実施形態では、細胞は、遺伝子操作されて、肺疾患、障害、および/または傷害の治療を促進する遺伝子産物を産生する。
【0017】
この方法のいくつかの実施形態では、細胞は、少なくとも1つの他の細胞型と共に投与され、これには、肺組織細胞、例えば、肺前駆細胞、血管平滑筋細胞、血管平滑筋前駆細胞、周皮細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、または他の多分化能もしくは多能性幹細胞が含まれ得る。その他の細胞型は、臍帯組織由来細胞と同時に、その前に、またはその後で、投与されてもよい。
【0018】
他の実施形態では、細胞は、少なくとも1つの他の薬剤と共に投与され、これは、例えば、抗血栓薬、抗炎症薬、免疫抑制薬、免疫調節薬、血管新生促進薬、または抗アポトーシス薬であってよい。その他の薬剤は、臍帯組織由来細胞と同時に、その前、またはその後に、投与されることができる。
【0019】
細胞は、肺疾患、障害、および/または傷害の部位で、またはその近位で投与されるのが好ましいが、そのような部位の遠位の場所で投与されてもよい。細胞は、注射、注入、患者に植え込まれる装置によって、またはそれらの細胞を含有するマトリックスもしくは足場の植え込みによって、投与されることができる。細胞は、患者の肺組織に対し、増殖などの栄養作用を及ぼすことができる。細胞は、肺疾患、障害、および/または傷害の部位への、肺組織細胞、例えば、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞、肺前駆細胞、周皮細胞、血管平滑筋前駆細胞、または血管内皮前駆細胞の遊走を誘発し得る。
【0020】
本発明の別の態様は、肺疾患、障害、および/または傷害を有する患者を治療するための、医薬組成物およびキットを特徴とし、これは、医薬的に許容可能な担体、希釈剤および/または緩衝液、ならびに臍帯組織由来細胞またはそのような臍帯組織由来細胞から作られた製剤を含む。いくつかの好適な実施形態では、この製剤は、FGFおよびHGFを含む。医薬組成物およびキットは、前記に概説したような本発明の方法を実行するために設計および/または処方される。
【0021】
本発明の別の態様によると、前述した方法は、臍帯組織由来細胞から作られた製剤を用いて実行されてよく、製剤は、臍帯組織由来細胞の細胞可溶化液、臍帯組織由来細胞の細胞外マトリックス、もしくは臍帯組織由来細胞が中で成長する馴化培地を含む。このような製剤はFGFおよびHGFを含むのが好ましい。本発明の別の態様は、臍帯組織由来細胞の産物、例えば、栄養因子で本発明を実施することを含む。
【0022】
本発明の他の態様は、臍帯組織由来細胞の細胞可溶化液、細胞外マトリックス、または馴化培地を含む製剤を含有する、医薬組成物およびキットを特徴とする。組成物はまた、当技術分野で既知のような、医薬的に許容可能な担体、希釈剤および/または緩衝液を含むこともできる。本発明の他の態様は、臍帯組織由来細胞の産物を含む医薬組成物およびキットでの治療を特徴とする。
【0023】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および実施例を参照することにより、理解されるであろう。
【0024】
〔詳細な説明〕
以下の、例示的な実施形態の詳細な説明では、この一部を形成する添付図面について参照を行う。これらの実施形態は、当業者が本発明を実施できるよう十分詳細に説明してあり、他の実施形態を使用してよいこと、ならびに、本発明の主旨または範囲から逸脱せずに、論理的、構造的、機械的、電気的および化学的変更がなされてよいこと、が理解される。本明細書に記載する実施形態を当業者が実施できるようにするのに必要ない詳細を回避するために、この説明は、当業者に既知の、ある情報を省略する場合がある。したがって、以下の詳細な説明は、限定的な意味で理解されるものではない。
【0025】
明細書および請求項を通じて、さまざまな用語が使用される。そのような用語は、特に指定のない限り、当技術分野の通常の意味が与えられている。特に定義された他の用語は、本明細書で提供される定義と一致するように解釈されるものである。
【0026】
「肺組織」には、全ての肺組織構造体および関連組織(静脈、動脈、血管、毛細血管、およびそのような構造体の一部であるかもしくはそれと関連する種類の細胞を含むがそれらに限定されない);肺および胸膜組織(pleaural tissue);および血管平滑筋、周皮細胞、ならびに血管内皮系列および/または表現型が含まれ得るがこれらに限定されない。
【0027】
本明細書で使用される「呼吸器または肺疾患、障害、および傷害」には、閉塞性肺疾患、拘束性肺疾患、気道感染症(上下)、呼吸器の腫瘍、胸膜腔の疾患、および肺血管疾患が含まれるがこれらに限定されない。このような疾患、障害、および/または傷害により生じる、肺組織への損傷は、本発明の範囲内の肺損傷として特徴付けられ得る。さらに、本発明に包含される損傷肺組織には、全ての肺組織構造体および関連組織(静脈、動脈、血管、毛細血管、およびそのような構造体の一部であるかもしくはそれと関連する種類の細胞を含むがそれらに限定されない)が含まれる。「閉塞性肺疾患」には、COPD、嚢胞性線維症、気管支拡張症、細気管支炎、気腫、およびアレルギー性気管支肺アスペルギルス症が含まれ得る。COPDは、例えば、肺で異常な炎症反応を誘発する、(最も一般的には喫煙による)有害な粒子またはガスにより、生じる。大きな気道での炎症反応は、慢性気管支炎として知られ、これは、人が定期的に咳をして痰を吐き出す場合に臨床的に診断される。肺胞では、炎症反応により、肺組織の破壊が生じ、これは気腫として知られるプロセスである。これらの問題は、本発明に関連するので、COPDに付随するものであることが、認識されるべきである。COPDの病因には、喫煙、職業的に職場のほこりにさらされること(例えば、採炭、金採掘、木綿工業、および化学工業)、大気汚染、ならびに遺伝学が含まれるが、これらに限定されない。
【0028】
本明細書で使用される「拘束性肺疾患」は、間質性肺疾患(ILD)としても知られる。これらの多くは、突発性である。その例には、突発性肺線維症、突発性間質性肺炎(数種類)、サルコイドーシス、好酸球性肺炎、リンパ脈管筋腫症、肺のランゲルハンス細胞の組織球症、および、肺の肺胞タンパク質症が含まれる。ILDは肺の間質:すなわち、肺胞上皮、肺の毛細血管内皮、基底膜、血管周囲組織および外リンパ組織に影響を及ぼす。ILDのほとんどの種類が線維症を含む。
【0029】
呼吸器腫瘍には、悪性腫瘍および良性腫瘍の双方が含まれる。悪性腫瘍には、例えば、小細胞肺がん、非小細胞肺がん(腺がん、扁平上皮がん、および大細胞未分化がん)、リンパ腫、ならびに他のがんが含まれる。良性腫瘍は稀であるが、例えば肺の過誤腫および先天奇形が含まれ得る。
【0030】
本明細書で使用される、「急性肺障害」(ALI)は、低酸素血症、非心原性肺水腫、低い肺コンプライアンス、および広範囲に及ぶ毛細血管の漏れにより特徴付けられる、びまん性異種性肺傷害である。ALIは、局所または全身の炎症の任意の刺激により生じる。急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は、ALIよりさらに重篤である。本明細書で使用される、ALIおよびARDSは、直接的傷害または間接的傷害に応答して、びまん性肺水腫のある低酸素血症が突然発症することにより特徴付けられ得る。本明細書で使用される、「直接的傷害」には、溺水エピソード(drowning episodes)、肺炎、有毒ガスの吸い込み、および肺挫傷から生じる肺傷害が含まれるがこれらに限定されない。本明細書で使用される「間接的傷害」は、例えば重篤な敗血症、輸血、ショック、および膵炎によるものであり得る。ALIおよびARDSを引き起こすこれらの傷害は、肺胞−毛細血管のインターフェースの崩壊、タンパク質を豊富に含む流体の、間質および肺胞空間への漏れ、サイトカインの広範な放出、ならびに、好中球の遊走を結果として生じる。
【0031】
本発明の方法により包含される肺疾患、障害、および傷害は、当技術分野で既知である。関連する合併症、病因、および治療を含むそれぞれの特徴は、当業者によって知られている。これには、本明細書で特に説明しない肺疾患、障害、および傷害が含まれるが、これは閉塞性および拘束性肺疾患、障害、および傷害に当てはまるためである。
【0032】
本発明で使用される細胞は、概して、分娩後細胞または分娩後由来細胞(PPDC)と呼ばれる。これらの細胞は、より具体的には「臍由来細胞」または「臍帯由来細胞」(UDC)、または「臍帯組織由来細胞」(UTC)である。さらに、この細胞は、幹細胞または前駆細胞として記載されていてよく、前駆細胞という用語は、広い意味で使用されている。「由来(derived)」という用語は、細胞がそれらの生物学的起源から入手され、in vitroで成長するかまたは別様に処置された(例えば、成長培地で培養されて集団を増殖させ、かつ/もしくは細胞株を産生した)ことを示すために使用される。本発明の、臍幹細胞のin vitro処置および臍由来細胞の独自の特徴を以下で詳細に説明する。
【0033】
幹細胞は、自己再生前駆体、非再生前駆体、および最終分化細胞を含む子孫細胞を産生するため自己再生および分化する、単一の細胞の能力により定められる未分化細胞である。幹細胞はまた、複数の胚葉(内胚葉、中胚葉および外胚葉)からさまざまな細胞系統の機能細胞へin vitroで分化し、かつ移植後、複数の胚葉の組織を生じさせ、また、胚盤胞への注射後、全部ではなくても大部分の組織に実質的に貢献する、それら幹細胞の能力により特徴付けられる。
【0034】
幹細胞は、それらの発生能に従って、(1)全能性;(2)多能性;(3)多分化能性;(4)寡能性(oligopotent);および(5)単能性と分類される。全能性細胞は、全ての胚細胞型および胚体外細胞型を生じることができる。多能性細胞は、全ての胚細胞型を生じさせることができる。多分化能細胞は、細胞系統のサブセットではあるが、全てが特定の組織、臓器、もしくは生理系内にあるものを生じさせることができるものを含む。例えば、造血性幹細胞(HSC)が、HSC(自己再生性)、血液細胞に制限された寡能性前駆体、ならびに、血液の正常な成分である全ての細胞型および要素(例えば、血小板)を含む子孫を産生することができる。寡能性の細胞は、多分化能幹細胞よりも制限された、細胞系統のサブセットを生じさせることができる。単能性の細胞は、単一の細胞系統(例えば、精子形成幹細胞)を生じさせることができる。
【0035】
幹細胞はまた、幹細胞を入手する供給源に基づいて分類される。成体幹細胞は、概して、複数の分化細胞型を含む組織に見られる、多分化能未分化細胞である。成体幹細胞は、それ自体で再生することができる。通常環境下では、起源を発する組織の特殊化された細胞型、および恐らくは他の組織型を生じるように分化することもできる。胚幹細胞は、胚盤胞期胚の内側細胞集団からの多能性細胞である。胎児幹細胞は、胎児組織または膜から生じるものである。分娩後幹細胞は、出生後利用可能な胚外組織、すなわち臍帯から実質的に生じる多分化能または多能性細胞である。これらの細胞は、急速な増殖、および多くの細胞系統に分化する可能性を含む、多能性幹細胞に特有の特徴を有することが分かっている。分娩後幹細胞は、血液由来(例えば、臍帯血から得られるもの)、または非血液由来(例えば、臍帯および胎盤の非血液組織から得られるもの)であってよい。
【0036】
培養中の細胞を説明するため、さまざまな用語が使用される。「細胞培養」は、概して、生物から採取され制御条件下で成長した(「培養中」または「培養された」)細胞を指す。「初代細胞培養」は、生物から直接採取された細胞、組織または臓器を、最初の二次培養前に培養することである。細胞は、細胞増殖および/または分裂を促進する条件下で成長培地に入れられると、培養中に「増殖(expanded)」し、結果として、大きな細胞集団をもたらす。細胞が培養中に増殖すると、細胞増殖速度は、時には、細胞が2倍の数になるのに必要な時間の長さで測定される。これを、「倍加時間」という。
【0037】
「細胞株」という用語は、概して、初代細胞培養の1回または複数回の二次培養により形成された細胞集団を指す。二次培養の各ラウンドは、継代と呼ばれる。細胞が二次培養されると、それらは、「継代されて」きたと言われる。特定の細胞集団、または細胞株は、時には、継代されてきた回数で呼ばれるか、またはそれによって特徴付けられる。例えば、10回継代されてきた培養細胞集団は、P10培養物と呼ばれ得る。初代培養物、すなわち、組織から細胞を単離した後の最初の培養物は、P0と呼ばれる。最初の二次培養の後、細胞は、2度目の培養物(P1または1代継代)と説明される。2度目の二次培養後、細胞は、第3培養物(P2または2代継代)になる、等である。継代期間中に多くの集団倍加があり得、そのため、培養物の集団倍加数は、継代数より大きいことが、当業者には理解されるであろう。継代相互間の時間中の細胞増殖(すなわち、集団倍加数)は、播種密度、基質、培地、成長条件、および継代相互間の時間を含むがこれらに限定されない多くの要因に依存している。
【0038】
「分化」は、分化していない(unspecialized)(「コミットしていない(uncommitted)」)かまたはあまり分化していない(less specialized)細胞が例えば神経細胞もしくは筋細胞などの、分化した細胞の特徴を取得するプロセスである。「分化」細胞は、細胞系統内で、より分化した(「コミットした」)位置についたものである。用語「コミットした(committed)」は、分化のプロセスに使用される場合、通常環境下で特定の細胞型または細胞型のサブセットに分化し続け、また、通常環境下で、異なる細胞型に分化したり、あまり分化していない細胞型に戻ったりできない時点まで、分化経路を進んできた細胞を指す。「脱分化」は、細胞が細胞系統内で、あまり分化していない(またはコミットした)位置に戻るプロセスを指す。本明細書で使用される、細胞の「系統」は、細胞の遺伝形質、すなわち、どの細胞から生じたか、また、何の細胞を生じさせることができるのかを定める。細胞系統は、発生および分化の遺伝的スキームの中にその細胞を位置付ける。
【0039】
広義には、「前駆細胞」は、それ自身よりも分化した子孫を作る能力を有するが、前駆体の集まり(pool)を補充する能力を有する、細胞である。その定義により、幹細胞自体は、最終分化細胞に対してより直接的な前駆体であるので、これも前駆細胞である。本発明の細胞について言及する場合、以下でさらに詳細に説明するように、前駆細胞の、この広義の定義を使用することができる。狭義では、前駆細胞は、分化経路における中間体である細胞としばしば定義される。すなわち、前駆細胞は、幹細胞から生じており、成熟細胞型または細胞型のサブセットの産生における中間体である。この型の前駆細胞は、概して、自己再生することができない。したがって、この型の細胞に本明細書中で言及する際、「非自己再生前駆細胞」または「中間前駆細胞」もしくは「中間前駆体細胞」と呼ぶ。
【0040】
細胞もしくは組織移植、または細胞置換療法に関して、いくつかの用語を本明細書で使用する。用語「自家移転」、「自家移植」、「自家移植片(autograft)」などは、細胞または移植ドナーが細胞または移植レシピエントでもある処理を指す。用語「同種移転」、「同種移植」、「同種移植片」などは、細胞または移植ドナーがレシピエントと同じ種であるが、同じ個体ではない処理を指す。ドナーの細胞がレシピエントと組織適合的に一致している細胞移転は、時には、「同系移転」と呼ばれる。用語「異種移転」、「異種移植」、「異種移植片」などは、細胞または移植ドナーがレシピエントとは異なる種である移植を指す。
【0041】
用語「医薬的に許容可能な担体」または「薬剤的に許容可能な培地」は、用語「生物学的に適合性の担体」または「生物学的に適合性の培地」と交換して使用されてよく、概して、治療的に投与されるべき細胞および他の薬剤と適合性があるだけでなく、妥当なリスク/ベネフィット比に比例した過度の毒性、刺激、アレルギー反応、または他の合併症なしで、ヒトおよび動物の組織と接触して使用されるのに適している、試薬、細胞、化合物、材料、組成物、および/または剤形を指す。本明細書でさらに詳細に説明するように、本発明で使用するのに適した、医薬的に許容可能な担体には、液体、半固体(例えばゲル)、および固体材料(例えば、細胞足場およびマトリックス、チューブ、シート、ならびに、当技術分野で既知であり、本明細書でさらに詳細に説明される、他のそのような材料)が含まれる。これらの半固体および固体材料は、体内での分解に抵抗するよう設計されてよく(非生分解性)、またはそれらは、体内で分解するように設計されてもよい(生分解性、生体侵食性)。生分解性材料は、さらに、生体再吸収性(bioresorbable)または生体吸収性(bioabsorbable)であってよい。すなわち、生分解性材料は、体液中に溶解および吸収されてよく(水溶性インプラントが1例である)、または他の材料への変換、もしくは天然経路を通じた崩壊および排除によって、分解され、最終的には体から排除される。生分解速度は、いったん体内に植え込まれたら、所望の放出速度によって変わることができる。
【0042】
「馴化培地」は、特定の細胞または細胞集団が培養され、その後取り除かれる培地である。細胞が培地で培養されると、細胞因子を分泌することができ、この細胞因子は、他の細胞に栄養に関する支援を与えることができる。そのような栄養因子には、ホルモン、サイトカイン、細胞外マトリックス(ECM)、タンパク質、小胞、抗体、および顆粒が含まれるがこれらに限定されない。細胞因子を含む培地は、馴化培地である。
【0043】
概して、「栄養因子」は、細胞の生存、成長、増殖および/または成熟化を促進するか、または細胞の活性増大を刺激する、物質として定義される。
【0044】
本明細書で使用される用語「成長培地」は、概して、分娩後由来細胞を培養するのに十分な培地を指す。具体的には、本発明の細胞を培養する、現在好ましい1つの培地は、ダルベッコ変法基本培地(DMEM)を含む。特に好ましいのは、DMEM−低グルコース(DMEM−LG)(Invitrogen,Carlsbad,Calif.)である。DMEM−LGは、好ましくは、血清、最も好ましくはウシ胎仔血清またはヒト血清を補充される。典型的には、15%(v/v)のウシ胎仔血清(例えば、規定のウシ胎仔血清、Hyclone,Logan Utah)が、抗生物質/抗真菌薬(好ましくは100単位/mLペニシリン、100mg/mLストレプトマイシン、および0.25μg/mLアンホテリシンB;(Invitrogen,Carlsbad,Calif.))、ならびに0.001%(v/v)の2−メルカプトエタノール(Sigma,St.Louis Mo.)と共に加えられる。場合によっては、異なる成長培地を使用するか、または異なる補充物(supplementations)が提供され、これらは通常、成長培地への補充物として本文中で示される。化学的に定義されたある培地では、細胞は、血清が全く存在しない状態で成長することができる。そのような場合、細胞は、ある成長因子を必要としてよく、この成長因子は、培地に加えられて、細胞を支持および維持することができる。無血清培地で成長するために加えられるべき、現在好ましい因子は、bFGF、EGF、IGF−I、およびPDGFのうち1つまたは複数を含む。さらに好適な実施形態では、これらの因子のうち2つ、3つ、または4つ全てが無血清培地または化学的に定義された培地に加えられる。他の実施形態では、LIFを無血清培地に加えて、細胞の成長を支持または改善する。
【0045】
本明細書で使用される用語「標準的な成長条件」は、5%のCO、および約100%に維持された相対湿度を含む標準大気において37℃で細胞を培養することを指す。前述した条件は、培養に有用であるが、そのような条件は、細胞を培養するために当技術分野で利用可能なオプションを認識するであろう当業者によって変えられ得ることが理解される。
【0046】
用語「有効量」は、特定の生物学的結果を達成するのに有効な、本明細書に記載する化合物、材料、または組成物の濃度または量を指す。そのような結果は、骨格組織の再生、修復、もしくは改善、血流の改善、ならびに/または、本発明の範囲内の疾患、障害、および傷害から肺の損傷を受けた患者における血管新生の刺激および/もしくは支持を含むが、これらに限定されない。そのような効果的な活性は、例えば、本明細書に記載するように、本発明の細胞および/または組成物を、肺に損傷のある患者に投与することによって、達成され得る。UTCを患者にin vivoで投与することに関して、有効量は、わずか数百未満から、数百万以上まで変化してよい。特定の実施形態では、有効量は、約10〜約1011個の細胞、さらに具体的には少なくとも約10個の細胞に及ぶ。投与されるべき細胞数は、医薬生物学者によく知られている要因の中でも、治療される大きさまたは総体積/表面積、治療される領域の場所に対する投与部位の近さを含むがこれらに限定されない、治療されるべき肺疾患、障害または傷害の詳細によって異なることが認識されるであろう。
【0047】
用語「治療する(treat)」、「治療している(treating)」または「治療(treatment)」は、症状の寛解、緩解、減弱、または傷害、病態もしくは状態が患者にとってより耐えられるものとなること、変性もしくは減退の速度が遅くなること、変性の最終地点があまり衰弱させるものでなくなる(less debilitating)こと、被験者の身体的もしくは精神的幸福の改善、または生存長さが長くなること、などの客観的または主体的なパラメータを含む、傷害、病態または状態の希薄化または回復の成功または成功の兆しを指す。症状の治療または回復は、身体検査、または神経学的検査の結果を含む、客観的または主観的なパラメータに基づいていてよい。
【0048】
用語「有効期間(effective period)」、「有効時間(effective period of time)」または「有効条件」は、概して、意図する結果を達成するために、薬剤または医薬組成物に必要であるかまたは好ましい、時間、または他の制御可能な条件(例えば、in vitroでの方法の温度、湿度)を指す。
【0049】
用語「個体」、「患者」または「被験者」は、本明細書では交換可能に使用され、これらは、製薬または治療組成物で、または本明細書に記載する方法に従って、治療される、動物、好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトを指す。
【0050】
本明細書で使用される用語「マトリックス」は、概して、細胞と共に患者に投与される、生分解性および/または生体再吸収性材料を指す。マトリックスは、骨格筋、周皮細胞、血管平滑筋、または血管内皮組織などの新たに成長した細胞により置き換えられるまで、一時的な足場として作用することができる。いくつかの実施形態では、マトリックスは、細胞と関連して使用される栄養因子(trophic factures)または他の薬剤の徐放をもたらすことができ、また、患者における組織成長を展開する構造体を提供することができる。他の実施形態では、マトリックスは単に、発達している組織の一時的な足場を提供するだけである。マトリックスは、粒子形態(直径が10μm(10ミクロン)超のマクロ粒子、または直径が10μm(10ミクロン)未満の微小粒子)であってよく、あるいは、構造的に安定した3次元インプラント(例えば足場)の形態であってもよい。マトリックスは、スラリー、ヒドロゲル、または3次元構造体、例えば、立方体、円筒、チューブ、ブロック、フィルム、シート、もしくは適切な解剖学的な形態、であってよい。
【0051】
本明細書で使用される用語「足場」は、概して、細胞成長のテンプレートを提供する3次元の多孔性構造体を指す。足場は、体内で時間とともに分解する生分解性および/または生体再吸収性材料で作られる。足場が分解するのにかかる時間の長さは、材料の分子量に依存していてよい。したがって、より高い分子量の材料は、より長い期間にわたって構造的完全性を維持するポリマー足場を生じることができ、一方、より低い分子量のものは、遅い放出、および短い足場寿命を生じる。足場は、当技術分野で既知の任意の手段により作られてよい。足場を形成するのに使用され得るポリマーの例には、天然および合成ポリマーが含まれる。
【0052】
本明細書で使用される用語「単離する」は、概して、自然環境から分離されている細胞を指す。この用語は、自然環境からの全体的な物理的分離(gross physical separation)、例えば、ドナー動物からの除去、を含む。好適な実施形態では、単離した細胞は、組織に存在しない、すなわち、その細胞は、通常は接触している隣接細胞から分離または解離する。好ましくは、細胞は、細胞懸濁液として投与される。本明細書で使用される語句「細胞懸濁液」は、培地に接触していて、また、例えば組織片を穏やかな粉砕(gentle trituration)にかけることによって、解離されている、細胞を含む。
【0053】
本明細書に記載されるさまざまな実施形態では、本発明は、分娩後組織、特に臍組織由来の、前駆細胞および細胞集団を使用する、肺疾患、障害および/または傷害治療のための方法および医薬組成物を特徴とする。これらの方法および医薬組成物は、血管新生を刺激および支持し、血流を改善し、肺疾患、障害および/もしくは傷害により損傷を受けた肺組織を再生、修復、および改善し、かつ/または、そのような疾患、障害および/もしくは傷害から肺組織を保護するように設計される。本発明の医薬製剤および方法に使用される、細胞、細胞集団、および細胞可溶化液、馴化培地などを含む製剤は、米国特許出願公開第2005/0032209号、2005/0058631号、および2005/0054098号に、また、本明細書中以下にも、詳細に説明されている。
【0054】
本明細書に記載の方法によると、哺乳動物の臍帯は、満期妊娠または早産の終了時または終了後すぐに、例えば後産(after birth)の娩出後に、回収される。分娩後組織は、分娩場所から研究室まで、フラスコ、ビーカー、培養皿、または袋などの無菌容器に入れて運ばれてよい。容器は、塩類溶液、例えばダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(ダルベッコ最小基本培地としても知られる)もしくはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、または、University of Wisconsin液もしくは全フッ素置換化合物溶液(perfluorochemical solution)など、移植に使用される臓器の輸送に使用される任意の溶液を含むがこれらに限定されない、溶液または培地を有してよい。ペニシリン、ストレプトマイシン、アンホテリシンB、ゲンタマイシン、およびニスタチンなどであるがこれらに限定されない、1つまたは複数の抗生物質および/または抗真菌薬を、培地または緩衝液に加えることができる。分娩後組織を、ヘパリン含有溶液などの抗凝固溶液ですすぐことができる。UTCの抽出前は、組織を約4〜約10℃に保つのが好ましい。UTCの抽出前は、組織を凍らせないことがさらに好ましい。
【0055】
UTCの単離は、好ましくは無菌環境で行われる。臍帯は、当技術分野で既知の手段によって、胎盤から分離され得る。血液および残骸は、好ましくは、UTCの単離前に分娩後組織から除去される。例えば、分娩後組織は、リン酸緩衝生理食塩水を含むがこれに限定されない、緩衝溶液で洗浄されてよい。洗浄用緩衝液はまた、ペニシリン、ストレプトマイシン、アンホテリシンB、ゲンタマイシン、およびニスタチンを含むがこれらに限定されない、1つまたは複数の抗真菌薬および/または抗生物質を含むこともできる。
【0056】
臍帯、またはその破片もしくは断片を含む分娩後組織は、好ましくは、機械の力(刻む力または剪断力)によって脱凝集される。現在好適な実施形態では、単離処置はまた、酵素消化プロセスを用いる。多くの酵素が培養中の成長を促進するため複合組織マトリックスからの個々の細胞の単離に有用であることが、当技術分野で既知である。消化酵素は、消化性の弱いもの(例えば、デオキシリボヌクレアーゼおよび中性プロテアーゼ、ディスパーゼ)から、消化性の強いもの(例えば、パパインおよびトリプシン)までさまざまであり、市販されている。そのような酵素の限定的なリストには、粘液溶解酵素活性、メタロプロテアーゼ、中性プロテアーゼ、セリンプロテアーゼ(トリプシン、キモトリプシン、もしくはエラスターゼなど)、およびデオキシリボヌクレアーゼが含まれる。現在好適なのは、メタロプロテアーゼ、中性プロテアーゼ、および粘液溶解活性から選択される酵素活性である。例えば、コラゲナーゼは、さまざまな細胞を組織から単離するのに有用であることが知られている。デオキシリボヌクレアーゼは、単鎖DNAを消化でき、単離中、細胞凝集を最小限に抑えることができる。好適な方法は、コラゲナーゼおよびディスパーゼ、またはコラゲナーゼ、ディスパーゼ、およびヒアルロニダーゼによる酵素処理を含む。当業者は、さまざまな組織源から細胞を単離する、そのような多くの酵素処理が当技術分野で知られていることを認識するであろうし、本発明の細胞単離における有用性について、新しいかまたは追加の酵素または酵素の組み合わせを評価する知識を身につけている。好適な酵素処理は、約0.5〜2時間以上であってよい。他の好適な実施形態では、組織は、解離工程の酵素処理中、約37℃でインキュベートされる。
【0057】
単離した細胞は、細胞培養を開始するかまたは播種するために使用されてよい。単離した細胞は、コートされていないか、または細胞外マトリックス、またはラミニン、コラーゲン(天然、変性、もしくは架橋)、ゼラチン、フィブロネクチン、および他の細胞外マトリックスタンパク質などのリガンドでコートされた、無菌組織培養容器に移される。細胞は、DMEM(高または低グルコース)、先端的なDMEM(advanced DMEM)、DMEM/MCDB201、イーグルの基本培地、ハムF10培地(F10)、ハムF−12培地(F12)、イスコフ改変ダルベッコ培地、間葉系幹細胞成長培地(MSCGM)、DMEM/F12、RPMI1640、およびCELL−GRO−FREE(Mediatch,Inc.,Herndon,Va.)の商品名で販売される血清/培養液のない培地などであるがこれらに限定されない、細胞の成長を維持できる任意の培養培地で培養される。培養培地は、例えば、ウシ胎仔血清(FBS)、好ましくは約2〜15%(v/v);ウマ血清(ES);ヒト血清(HS);β−メルカプトエタノール(BMEもしくは2−ME)、好ましくは約0.001%(v/v);1つもしくは複数の成長因子、例えば、血小板由来成長因子(PDGF)、上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、インスリン様成長因子−1(IGF−I)、白血球阻害因子(LIF)、およびエリスロポエチン(EPO);L−バリンを含むアミノ酸;ならびにペニシリンG、ストレプトマイシン硫酸塩、アンホテリシンB、ゲンタマイシン、およびニスタチンなど、微生物汚染を制御する1つもしくは複数の抗生物質および/または抗真菌薬を含む、1つまたは複数の成分を、単独または組み合わせて、補充されることができる。培養培地は、好ましくは、成長培地(例えば、DMEM低グルコース、血清、BME、および抗生物質)を含む。
【0058】
細胞は、細胞成長させる密度で培養容器に播種される。好適な実施形態では、細胞は、空気中、約0〜約5容量%のCOで培養される。いくつかの好適な実施形態では、細胞は、空気中、約2〜約25%O、好ましくは空気中、約5〜約20%Oで、培養される。細胞は、好ましくは、約25〜約40℃の温度で培養され、さらに好ましくは37℃で培養される。細胞は、好ましくは、インキュベーター中で培養される。培養容器中の培地は、静止しているか、または例えばバイオリアクターを使用して、攪拌されてもよい。UTCは、好ましくは、低酸化的ストレスで(例えば、グルタチオン、ビタミンC、カタラーゼ、ビタミンE、N−アセチルシステインを加えて)成長する。本明細書で使用される「低酸化的ストレス」は、培養される細胞に対して、フリーラジカルによるダメージが全くないかまたは最小限である状態を指す。
【0059】
最も適切な培養培地、培地製剤、および細胞培養技術を選択する方法は、当技術分野で周知であり、Doyle et al.,(eds.),1995,Cell&Tissue Culture:Laboratory Procedures,John Wiley&Sons,Chichester;およびHo and Wang(eds.),1991,Animal Cell Bioreactors,Butterworth−Heinemann,Boston、を含むさまざまな出典に記載されており、これらは、参照により本明細書に組み込まれる。
【0060】
本発明のいくつかの実施形態では、UTCは、継代されるか、または最初に使用したものと同じかまたは異なる種類の新鮮培地を含む別個の培養容器へと除去され、ここで細胞集団は、有糸分裂的に増殖し得る。本発明の細胞は、0代継代と老化との間のどの時点でも使用されてよい。細胞は、好ましくは、約3〜約25回継代され、さらに好ましくは約4〜約12回継代され、好ましくは、10または11回継代される。クローン化および/またはサブクローン化は、細胞のクローン集団が単離したことを確認するために行われてよい。
【0061】
本発明のいくつかの態様では、分娩後組織に存在する異なる細胞型は、部分集団に分割され、その部分集団からUTCを単離することができる。分割または選択は、分娩後組織をその構成細胞に解離する酵素処理、それに続く特定の細胞型のクローン化および選択(これには、形態学的および/または生化学的マーカーに基づいた選択;所望の細胞の選択的成長(ポジティブ選択);不必要な細胞の選択的破壊(ネガティブ選択);例えば大豆アグルチニンによる、混合集団における差次的細胞凝集力に基づいた分離;凍結融解処置;混合集団における細胞の差次的接着特性;ろ過;従来の、およびゾーン遠心分離;遠心性水簸(流動に対抗する遠心分離(counter−streaming centrifugation));単位重力分離;向流分配;電気泳動;および蛍光励起細胞選別(FACS)が含まれるがこれらに限定されない)を含むがこれらに限定されない、細胞分離の標準技術を用いて達成することができる。
【0062】
培養培地は、例えば、ピペットで培地を皿から注意深く吸引し、新鮮培地を補充することにより、必要に応じて変えられる。インキュベーションは、十分な数または密度の細胞が皿に蓄積するまで続けられる。その後、存在する任意の元の外植組織断片を除去してよく、残りの細胞は、標準技術を用いたトリプシン処理によって、または細胞スクレーパーを使用することによって、皿から分離される。トリプシン処理後、細胞は、前記のとおり、収集され、新鮮培地へと除去され、インキュベートされる。いくつかの実施形態では、培地は、トリプシン処理後の約24時間で、少なくとも1回変えられて、浮遊細胞を除去する。培養物に残る細胞は、UTCであると考えられる。
【0063】
UTCは、冷凍保存されてよい。したがって、以下でさらに詳細に説明する好適な実施形態では、自家移転(母もしくは子)のためのUTCは、子供を出産した後の適切な分娩後組織由来であってよく、その後、移植のため後で必要になった場合に利用可能となるよう、冷凍保存され得る。
【0064】
UTCは、例えば、成長特性(例えば、集団倍加能力、倍加時間、老化までの継代)、核型分析(例えば、正常な核型;母系性もしくは新生児系列)、フローサイトメトリー(例えば、FACS分析)、免疫組織化学および/または免疫細胞化学(例えば、エピトープ検出のため)、遺伝子発現プロファイリング(例えば、遺伝子チップアレイ;ポリメラーゼ連鎖反応(例えば、逆転写酵素PCR、リアルタイムPCR、および従来のPCR))、タンパク質アレイ、タンパク質分泌(例えば、血漿凝固アッセイまたはPDC−馴化培地の分析による、例えば酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)による)、混合リンパ球反応(例えば、PBMC刺激の指標として)、ならびに/または当技術分野で既知の他の方法によって、特徴付けられ得る。
【0065】
臍組織由来のUTCの例は、2004年6月10日にAmerican Type Culture Collectionが預かっており、以下のとおりATCC受入番号が割り当てられている:(1)菌株表示UMB022803(P7)は、受入番号PTA−6067を割り当てられ;(2)菌株表示UMB022803(P17)は、受入番号PTA−6068を割り当てられた。
【0066】
さまざまな実施形態では、UTCは、以下の成長特徴のうち1つまたは複数を有する:(1)培養中、成長のためL−バリンを必要とする;(2)約5%〜約20%の酸素を含有する大気中で、成長することができる;(3)老化に達する前に、培養中、少なくとも約40倍加する可能性を有する;(4)コートされていない組織培養容器、またはゼラチン、ラミニン、コラーゲン、ポリオルニチン、ビトロネクチンもしくはフィブロネクチンでコートされた組織培養容器に付着し、その容器上で増殖する。
【0067】
ある実施形態では、UTCは、細胞が継代するときに維持される正常な核型を有する。核型分析方法が利用可能であり、また、当業者に既知である。
【0068】
他の実施形態では、UTCは、(1)組織因子、ビメンチン、およびα−平滑筋アクチンのうち少なくとも1つの産生、ならびに(2)フローサイトメトリーにより検出されたときにおける、CD1O、CD13、CD44、CD73、CD90、PDGFr−α、PD−L2、およびHLA−A、B、C細胞表面マーカーのうち少なくとも1つの産生、を含む、あるタンパク質の産生により特徴付けられることができる。他の実施形態では、UTCは、フローサイトメトリーにより検出されたときに、CD31、CD34、CD45、CD80、CD86、CD117、CD141、CD178、B7−H2、HLA−G、およびHLA−DR、DP、DQ細胞表面マーカーのうち少なくとも1つの産生がないことにより特徴付けられ得る。特に好ましいのは、組織因子;ビメンチン;およびα−平滑筋アクチンのうち少なくとも2つを産生する細胞である。さらに好ましいのは、組織因子;ビメンチン;およびα−平滑筋アクチンの3つ全てのタンパク質を産生する細胞である。
【0069】
他の実施形態では、UTCは、遺伝子発現により特徴付けられることができ、遺伝子発現は、線維芽細胞、間葉系幹細胞、もしくは腸骨稜骨髄細胞であるヒト細胞に関し、interleukin 8; reticulon 1; chemokine (C-X-C motif) ligand 1 (melonoma growth stimulating activity, alpha); chemokine (C-X-C motif) ligand 6 (granulocyte chemotactic protein 2); chemokine (C-X-C motif) ligand 3; tumor necrosis factor, alpha-induced protein 3; C-type lectin superfamily member 2; Wilms tumor 1; aldehyde dehydrogenase 1 family member A2; renin; oxidized low density lipoprotein receptor 1; Homo sapiens clone IMAGE :4179671; protein kinase C zeta; hypothetical protein DKFZp564F013; downregulated in ovarian cancer 1; および Homo sapiens gene from clone DKFZp547k1113のうちの少なくとも1つをコード化する遺伝子について、増加する。
【0070】
さらに他の実施形態では、UTCは、遺伝子発現により特徴付けられてよく、遺伝子発現は、線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞であるヒト細胞に関し、short stature homeobox 2; heat shock 27 kDa protein 2; chemokine (C-X-C motif) ligand 12 (stromal cell-derived factor 1); elastin (supravalvular aortic stenosis, Williams-Beuren syndrome); Homo sapiens mRNA; cDNA DKFZp586M2022 (from clone DKFZp586M2022); mesenchyme homeo box 2 (growth arrest- specific homeo box); sine oculis homeobox homolog 1 (Drosophila); crystallin, alpha B; disheveled associated activator of morphogenesis 2; DKFZP586B2420 protein; similar to neuralin 1; tetranectin (plasminogen binding protein); src homology three (SH3) and cysteine rich domain; cholesterol 25-hydroxylase; runt-related transcription factor 3; interleukin 11 receptor, alpha; procollagen C-endopeptidase enhancer; frizzled homolog 7 (Drosophila); hypothetical gene BC008967; collagen, type VIII, alpha 1; tenascin C (hexabrachion); iroquois homeobox protein 5; hephaestin; integrin, beta 8; synaptic vesicle glycoprotein 2; neuroblastoma, suppression of tumorigenicity 1; insulin-like growth factor binding protein 2, 36 kDa; Homo sapiens cDNA FLJ12280 fis, clone MAMMA1001744; cytokine receptor-like factor 1; potassium intermediate/small conductance calcium-activated channel, subfamily N, member 4; integrin, beta 7; transcriptional co-activator with PDZ-binding motif (TAZ); sine oculis homeobox homolog 2 (Drosophila); KIAA1034 protein; vesicle-associated membrane protein 5 (myobrevin); EGF-containing fibulin-like extracellular matrix protein 1; early growth response 3; distal-less homeo box 5; hypothetical protein FLJ20373; aldo-keto reductase family 1, member C3 (3-alpha hydroxysteroid dehydrogenase, type II); biglycan; transcriptional co- activator with PDZ-binding motif (TAZ); fibronectin 1; proenkephalin; integrin, beta-like 1 (with EGF-like repeat domains); Homo sapiens mRNA full length insert cDNA clone EUROIMAGE 1968422; EphA3; KIAA0367 protein; natriuretic peptide receptor C/guanylate cyclase C (atrionatriuretic peptide receptor C); hypothetical protein FLJ14054; Homo sapiens mRNA; cDNA DKFZp564B222 (from clone DKFZp564B222); BCL2/adenovirus ElB 19 kDa interacting protein 3 -like; AE binding protein 1; および cytochrome c oxidase subunit VIIa polypeptide 1 (muscle)のうち少なくとも1つをコード化する遺伝子について、減少する。
【0071】
他の実施形態では、UTCは、MCP−1;IL−6;IL−8;GCP−2;HGF;KGF;FGF;HB−EGF;BDNF;TPO;MIP1a;RANTES;およびTIMP1のうち少なくとも1つの分泌により特徴付けられ得る。いくつかの実施形態では、UTCは、ELISAにより検出されたときにTGF−β2;ANG2;PDGFbb;MIP1b;I309;MDC;VEGFのうち少なくとも1つの分泌がないことにより特徴付けられ得る。
【0072】
いくつかの好適な実施形態では、UTCは、血液が実質的にない臍帯組織由来であり、培養中に自己再生および増殖することができ、成長のためL−バリンを必要とし、少なくとも約5%の酸素中で成長でき、以下の特徴のうち少なくとも1つを含む。その特徴とは、(1)培養中に少なくとも約40倍加する能力;(2)コートされていない組織培養容器、またはゼラチン、ラミニン、コラーゲン、ポリオルニチン、ビトロネクチン、またはフィブロネクチンでコートされた組織培養容器上で付着および増殖する能力;(3)ビメンチンおよびα−平滑筋アクチンの産生;(4)CD10、CD13、CD44、CD73、およびCD90の産生;ならびに(5)線維芽細胞、間葉系幹細胞、または腸骨稜骨髄細胞であるヒト細胞に関し、インターロイキン8(interleukin 8)およびレティキュロン1(reticulon 1)をコード化する遺伝子について増加する、遺伝子発現である。いくつかの実施形態では、そのようなUTCは、CD45およびCD117を産生しない。
【0073】
前述したUTCは、末梢血管疾患を有する患者を治療する方法で使用することができ、末梢血管疾患を治療する医薬組成物に使用することができ、例えば、そのような組成物は、これらの特徴を有する細胞、および医薬的に許容可能な担体を含む。また、UTCは、本明細書で説明し例証するそのような方法および医薬組成物を作り、使用し、実行するためのキットに使用することができる。さらに、前述したようなUTCは、馴化細胞培養培地を生成するため、または、本明細書で説明し例証するそのような方法および医薬組成物を作り、使用し、実行するのに使用され得る細胞抽出物および細胞成分分画などの製剤を作るために、使用されることができる。
【0074】
好適な実施形態では、細胞は、前述した成長、タンパク質/表面マーカー産生、遺伝子発現または物質分泌特徴のうち2つまたは3つ以上を含む。さらに好ましいのは、それらの特徴のうち3つ、4つ、5つ、またはそれ以上を含む細胞である。さらに、より好ましいのは、それらの特徴のうち6つ、7つ、8つ、またはそれ以上を含むUTCである。現在さらにいっそう好ましいのは、前記の特徴を全て含む細胞である。
【0075】
本発明の態様のうちいくつかにおいて、本発明で使用されるのに現在好ましい細胞の中には、前述した特徴を有するUTC、さらに具体的には、細胞が正常な核型を有し、継代と共に正常な核型を維持し、さらには、細胞がマーカーCD10、CD13、CD44、CD73、CD90、PDGFr−α、およびHLA−A、B、Cのそれぞれを発現し、細胞が、列挙したマーカーに対応する免疫学的に検出可能なタンパク質を産生するものがある。さらにいっそう好ましいのは、前記に加え、フローサイトメトリーにより検出されたときに、マーカーCD31、CD34、CD45、CD117、CD141、またはHLA−DR、DP、DQの任意のものに対応するタンパク質を産生しない細胞である。
【0076】
さまざまな表現型を生じさせる株(lines)に沿って分化する能力を有する、ある細胞は、不安定であるので、自発的に分化し得る。本発明で使用されるのに現在好ましいのは、例えば、筋芽細胞、骨格筋、血管平滑筋、周皮細胞、血液脈管新生(hemangiogenic)、血管新生、血管原生、または血管内皮の株に沿って、自発的に分化しない細胞である。好適な細胞は、成長培地で成長すると、例えば、GENECHIP(Affymetrix,Inc.,Santa Clara,Calif.)の商品名で販売されている医療診断試験を用いて判断したときに、細胞表面で産生された細胞マーカーに対して、また、さまざまな遺伝子の発現パターンに対して、実質的に安定する。細胞は、継代中にわたり、また、複数回の集団倍加にわたって、例えばそれらの表面マーカー特徴においては、実質的に一定のままである。
【0077】
本発明の別の態様は、前述のUTC集団の使用を特徴とする。いくつかの実施形態では、細胞集団は、異種性であってよい。本発明の異種性細胞集団は、本発明のUTCを少なくとも約5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または95%含んでよい。本発明の異種性細胞集団は、幹細胞または他の前駆細胞、例えば、筋芽細胞または他の筋前駆細胞、血管芽細胞、または血管前駆細胞をさらに含んでよく、あるいは、完全に分化した骨格筋細胞、平滑筋細胞、周皮細胞、または血管内皮細胞をさらに含んでよい。いくつかの実施形態では、集団は、実質的に同種であり、すなわちUTC(好ましくは、少なくとも約96%、97%、98%、99%、またはそれ以上のUTC)のみを実質的に含む。本発明の同種細胞集団は、臍由来細胞を含んでよい。臍由来細胞の同種集団は、好ましくは、母系性系統の細胞がない。細胞集団の同種性は、当技術分野で既知の任意の方法によって、例えば、細胞選別(例えば、フローサイトメトリー)によって、または既知の方法に従ったクローン増殖によって、達成され得る。よって、好適な同種UTC集団は、分娩後由来細胞のクローン細胞株を含むことができる。そのような集団は、非常に望ましい機能性を備えた細胞クローンが単離されたときに、特に有用である。
【0078】
血管平滑筋、血管内皮、または周皮細胞の経路に沿って幹細胞分化を刺激する、1つまたは複数の因子の存在下または条件下でインキュベートされた細胞集団の使用も本明細書で提供される。そのような因子は、当技術分野で既知であり、当業者は、適切な分化条件の決定が、所定の実験で達成され得ることを認識するであろう。そのような条件の最適化は、統計学的な実験デザインおよび分析により達成することができ、例えば、応答曲面法は、生物学的培養における複数の変数を同時に最適化することができる。現在好適な因子は、例えば、血管新生、血液血管新生、血管原生、骨格筋、血管平滑筋、周皮細胞もしくは血管内皮の経路もしくは系統に沿った幹細胞の分化を刺激することが現在既知であるか、または後に決定される、成長因子または栄養因子、ケモカイン、サイトカイン、細胞産物、脱メチル化薬、および他の刺激物を含むがこれらに限定されない。
【0079】
UTCはまた、治療的に有用な遺伝子産物を産生するか、血管新生薬を産生してさらなる血管形成もしくは成長を促進もしくは支援するか、または、血管内皮前駆細胞を肺の損傷エリアまで補給する因子を産生するために、遺伝子操作されてもよい。血管内皮前駆細胞は、虚血性イベントの後で特に、脈管形成および血流を促進する(Urbich C and Dimmeler S, Circ. Res.,2004;95:343−53)。内皮細胞補充において役割を果たす因子は、VEGF、間質由来因子1(SDF−1)、エリスロポエチン(EPO)、G−CSF、スタチン、エストロゲン(strogen)、PPAR−γ、CXCR4、FGF、およびHGFを含むがこれらに限定されない。遺伝子操作は、組み込みウイルスベクター、例えば、レトロウイルスベクター、もしくは、アデノ随伴ウイルスベクター;非組み込み複製ベクター、例えば、パピローマウイルスベクター、SV40ベクター、アデノウイルスベクター;もしくは、複製欠陥ウイルスベクターを含むがこれらに限定されない、様々なベクターのいずれかを使用して達成され得る。DNAを細胞に導入する他の方法は、リポソーム、エレクトロポレーション、パーティクルガンの使用、または直接的なDNA注入によるものを含む。
【0080】
宿主細胞は好ましくは、とりわけプロモーターもしくはエンハンサー配列、転写ターミネーター、ポリアデニル化部位などの1つまたは複数の適切な発現制御要素によって制御されるか、またはそれらと操作的に関連するDNA、および選択可能なマーカーで、形質転換もしくは形質移入される。任意のプロモーターが、挿入遺伝子の発現を駆動するために用いられてよい。例えば、ウイルスプロモーターは、CMVプロモーター/エンハンサー、SV40、パピローマウイルス、エプスタイン・バーウイルス、またはエラスチン遺伝子プロモーターを含むがこれらに限定されない。いくつかの実施形態では、目的の遺伝子の発現を制御するのに使用される制御要素により、遺伝子の発現を調節することができ、産物は、in vivoで必要とされる場合にのみ合成される。一時的な発現を望むならば、非組み込みベクターおよび/もしくは複製欠陥ベクターに、好ましくは、構成的プロモーターを用いる。あるいは、必要ならば、誘導プロモーターを、挿入遺伝子の発現を駆動するために用いることができる。誘導プロモーターは、メタロチオネイン、もしくは、ヒートショックタンパク質と関連したものを含むがこれらに限定されない。
【0081】
外来DNA導入後、操作された細胞を、強化培地で成長させ、その後、選択培地に切り換えることができる。外来DNA中の選択可能なマーカーは、選択物に対する耐性を与え、細胞が(例えば、プラスミド上の)外来DNAを染色体中に安定的に組み込み、巣(foci)を形成するよう成長することを可能にし、この巣は、クローン化し、細胞株中へと増殖することができる。この方法は、遺伝子産物を発現する細胞株を操作するために、有利に用いることができる。
【0082】
本発明の細胞は、植え込み部位の炎症および拒絶反応を促進する因子の発現を「ノックアウト」もしくは「ノックダウン」するように遺伝子操作されてもよい。標的遺伝子の発現レベルもしくは標的遺伝子産物の活性レベルを低減するための陰性調節技術を、以下で説明する。本明細書で用いられる「陰性調節」は、調節処理の不存在下の標的遺伝子産物のレベルおよび/もしくは活性に対する、標的遺伝子産物のレベルおよび/もしくは活性の低減をいう。骨格筋細胞、血管平滑筋細胞、周皮細胞、血管内皮細胞、またはそれらの前駆細胞に固有の遺伝子の発現は、例えば相同組み換え技術を使用して遺伝子を不活性化させることによる発現抑制を含む、いくつかの技術を用いて、低減するか、またはノックアウトすることができる。典型的には、標的遺伝子からの正常なmRNAの産生を阻害し、結果的に遺伝子の不活性化を生じる陽性選択可能マーカー、例えばneo、によって、タンパク質の重要な領域をコードするエキソン(すなわち、その領域の5’側エキソン)が、割り込まれる。また、遺伝子の一部に欠失を作り出すことで、もしくは、全体の遺伝子を欠失することによって、遺伝子を不活性化してもよい。ゲノム中で、離れた、標的遺伝子と相同な2つの領域を備えた構築物を用いることによって、その2つの領域に介在する配列を欠失することができる(Mombaerts et al., Proc. Nat. Acad. Sci. U.S.A.,1991;88:3084−87)。また、アンチセンス、DNAザイム、リボザイム、低分子干渉RNA(small interfering RNA)(siRNA)、および、標的遺伝子の発現を抑制する他のこのような分子を、標的遺伝子活性のレベルを低減するために用いることができる。例えば、主要組織適合性遺伝子複合体(HLA)の発現を抑制するアンチセンスRNA分子は、免疫反応について、最も多用途であることが示されてきた。さらに、三重らせん分子を、標的遺伝子活性のレベルを低減する上で利用することができる。
【0083】
他の態様では、本発明は、UTC、またはUTCを含む異種もしくは同種細胞集団、ならびに、遺伝子操作されるか、もしくは骨格筋、血管平滑筋、周皮細胞、もしくは血管内皮の経路に沿って分化するように刺激されているUTCもしくはその集団から準備された、細胞可溶化液および細胞可溶性分画を利用する。そのような可溶化液およびその分画には多くの実用性がある。UTC可溶化液可溶性分画(すなわち、実質的に膜がない)のin vivoでの使用は、例えば、拒絶反応もしくは他の逆免疫反応の誘因となる可能性が最も高い細胞表面タンパク質を相当量導入することなしに、患者において、有利な細胞内環境を同種的に用いることを可能にする。細胞を可溶化する方法は、当技術分野では周知であり、機械的破砕、酵素的破砕、化学的破砕、またはそれらの組み合わせといった様々な手段を含む。そのような細胞可溶化液は、それらの成長培地において直接細胞から準備されてよく、したがって、分泌された成長因子などを含んでよく、あるいは、例えばPBSもしくは他の溶液中で、洗浄され培地を含まない細胞から準備されてもよい。洗浄された細胞は、好適な場合、元の集団密度より高い濃度で再懸濁されてもよい。
【0084】
一実施形態では、例えば細胞分画を後に分離せずに、細胞を破砕することによって、全体的な細胞可溶化液が準備される。別の実施形態では、細胞膜分画は、当技術分野で既知の所定の方法、例えば、遠心分離、ろ過もしくは同様の方法、によって、細胞の可溶性分画から分離される。
【0085】
分娩後由来細胞集団から準備された細胞可溶化液または細胞可溶性分画は、そのまま使用されるか、例えば限外ろ過もしくは凍結乾燥によってさらに濃縮されるか、あるいは、乾燥して、部分的に精製して、当技術分野において既知の製薬上許容できる担体もしくは希釈剤と組み合わせるか、または、例えば、製薬上有用なタンパク質組成物といった生物製剤のような他の化合物と組み合わせてもよい。細胞可溶化液またはその分画は、in vitroまたはin vivoで、単独で、または、例えば自家もしくは同系の生細胞と共に、使用されることができる。可溶化液は、in vivoで導入される場合、治療部位で局所的に導入してもよいし、あるいは、例えば、患者に必要とされる細胞成長因子を提供するために、遠隔的に導入してもよい。
【0086】
さらなる実施形態では、UTCは、in vitroで培養されて、生物学的産物を高い収量で産生することができる。目的の特定の生物学的産物(例えば、栄養因子)を天然で産生するか、または生物学的産物を産生するよう遺伝子操作したUTCは、本明細書で説明する培養技術を用いて、クローン的に増殖することができる。あるいは、細胞を、骨格筋、血管平滑筋、周皮細胞、もしくは、血管内皮系統への分化を誘導する培地中で、増殖させてもよい。いずれの場合も、細胞によって産生され、培地中に分泌された生物学的産物を、標準的分離技術、例えば、数例挙げると、差次的タンパク質沈殿、イオン交換クロマトグラフィ、ゲルろ過クロマトグラフィ、電気泳動、および、HPLCを用いて、馴化培地から容易に単離することができる。「バイオリアクター」を、フィーディング(feeding)のためのフロー法、例えば、in vitroでの3次元培養、を利用するために用いてもよい。基本的に、新鮮培地が3次元培養を通過するので、生物学的産物が培養物から洗い出され、その後、上記のように流出物から単離されてもよい。
【0087】
あるいは、目的の生物学的産物は、細胞の中にとどまってもよい。したがって、その収集には、上記で説明したように、細胞を可溶化する必要があるかもしれない。生物学的産物を、その後、前記に列記した技術のうち任意の1つまたは複数を用いて、精製してもよい。
【0088】
他の実施形態では、本発明は、以下で説明するように、in vitroおよびin vivoでの使用のために培養されたUTC由来の馴化培地を利用する。UTC馴化培地の使用により、拒絶反応もしくは他の逆免疫反応の誘因となりうる無処理細胞を導入することなしに、UTCによって分泌された有利な栄養因子を、患者において同種的に用いることができる。培養培地中で細胞を培養し、その後、培地から細胞を取り除くことによって、馴化培地を準備する。
【0089】
臍帯由来細胞集団から準備された馴化培地を、そのまま用いるか、例えば限外ろ過もしくは凍結乾燥によってさらに濃縮するか、あるいは、乾燥して、部分的に精製して、当技術分野において既知の製薬上許容可能な担体もしくは希釈剤と組み合わせるか、または、例えば製薬上有用なタンパク質組成物といった生物製剤のような他の化合物と組み合わせることができる。馴化培地を、in vitroもしくはin vivoで、単独で使用するか、または、例えば、自家もしくは同系生細胞と組み合わせることができる。馴化培地は、in vivoで導入される場合、治療部位で局所的に導入してもよいし、患者に必要とされる細胞成長もしくは栄養因子を提供するために、遠隔的に導入してもよい。
【0090】
別の実施形態では、液体、固体、半固体の基質上でUTCを培養することによって産生された細胞外マトリックス(ECM)を、組織修復もしくは置換を必要とする被験者に生細胞を埋め込む代替物として、準備し、収集し、利用する。UTCは、in vitroで、本明細書中で別の箇所で説明するような3次元フレームワーク上で、所望の量のECMをそのフレームワーク上へ分泌するような条件下で、培養される。新組織を含む細胞を取り除き、例えば注入可能な製剤として更に使用するために、ECMを加工する。これを達成するために、フレームワーク上の細胞を殺し、フレームワークから任意の細胞壊死破片を取り除いた。このプロセスは、いくつかの異なる方法で実行されてもよい。例えば、生組織を低温保存することなしに液体窒素中で急速冷凍することができるか、または、組織を無菌蒸留水に浸すことができ、細胞は浸透圧に反応して破裂する。
【0091】
一度細胞を殺すと、細胞膜は破砕されて、EDTA、CHAPS、もしくは、双性イオン洗剤のような中性洗剤によるすすぎ処理をすることによって、細胞壊死破片が取り除かれる。あるいは、細胞膜を破壊し、細胞内容物を除去することのできる試薬によって、組織を酵素的に消化し、かつ/もしくは抽出することができる。このような酵素の例は、ヒアルロニダーゼ、ディスパーゼ、プロテアーゼ、ヌクレアーゼを含むがこれらに限定されない。洗剤の例は、例えば、アルキルアリルポリエーテルアルコール(トリトン X−100)、オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(Rohm and Haas,Philadelphia,Pa.)、BRIJ−35、ポリエトキシエタノールラウリルエーテル(Atlas Chemical Co.,San Diego,Calif.)、ポリソルベート20(TWEEN 20)、ポリエトキシエタノールソルビタンモノラウレート(Rohm and Haas,Philadelphia,Pa.)、ポリエチレンラウリルエーテル(Rohm and Haas,Philadelphia,Pa.)のような非イオン性洗剤、および、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、硫酸化高級脂肪族アルコール、スルホン酸化アルカン、枝分かれ鎖もしくは非枝分かれ鎖中に7〜22個の炭素原子を含むスルホン酸化アルキルアーレンのようなイオン性洗剤を含む。
【0092】
少なくとも部分的に、新しい組織が、生分解性もしくは非生分解性の3次元フレームワーク上で形成されたかどうかに応じて、金属の場合のように、さまざまな方法で、ECMの収集を達成することができる。例えば、フレームワークが非生分解性の場合、フレームワークを超音波処理、高圧力水噴流、機械的剥離、または、洗剤もしくは酵素での軽い処理、あるいは、上記の任意の組み合わせにかけることによって、ECMを取り除くことができる。
【0093】
フレームワークが生分解性である場合、ECMは、例えば、フレームワークを溶液中に分解もしくは溶解させることによって、収集され得る。あるいは、生分解性フレームワークがECMとともに注入することが可能な材料から構成される場合、フレームワークおよびECMは全体として、その後の注入のために加工することができる。あるいは、上記で説明した非生分解性フレームワークからECMを収集するための方法のいずれかによって、ECMを生分解性フレームワークから除去することができる。好ましくは、全収集プロセスが、ECMを変性することがないように設計される。
【0094】
収集後、ECMを更に加工してもよい。例えば、超音波処理のような当技術分野で周知の技術を用いて、ECMを細かい粒子に均質化することができ、外科用針を通過することが可能である。所望の場合、ガンマ線照射によって、ECMの成分を架橋することもできる。好ましくは、ECMを滅菌し架橋するために、0.25〜2メガラドで、ECMを照射することができる。グルタルアルデヒドのような有毒な薬剤を用いた化学的架橋は可能であるが、概して好適ではない。
【0095】
本発明の細胞によって産生されたECMを1つまたは複数の他の細胞型のECMと混ぜることによって、ECM中に存在するさまざまな型のコラーゲンのような、タンパク質の量および/もしくは割合を調整してもよい。その上、タンパク質、成長因子、および/もしくは、薬剤のような生物活性物質を、ECM中に取り込むことができる。例示的な生物活性物質は、注入部位での治癒および組織修復を促進する組織成長因子、例えばTGF−βおよび同様のもの、を含む。このような追加的な薬剤は、本明細書において前記で説明したような実施形態のいずれか、例えば、UTCによって産生された全細胞可溶化液、可溶性細胞分画、もしくは、さらに精製した成分および産物とともに利用してもよい。
【0096】
別の態様では、本発明は、末梢虚血発作によって引き起こされた傷害もしくは損傷を治療するための様々な方法で、UTC、UTC集団、UTCの成分および産物を利用する医薬組成物を提供する。ある実施形態は、生細胞(UTC単独、または他の細胞型と混合されたUTC)を含む医薬組成物を包含する。他の実施形態は、UTC細胞成分(例えば、細胞可溶化液、可溶性細胞分画、馴化培地、ECM、もしくは前記のいずれかの成分)、または、産物(例えば、UTCによって天然に、もしくは、遺伝子操作を通じて産生された栄養因子および他の生物学的因子、UTC培養由来の馴化培地)を含む医薬組成物を包含する。本発明に使用され得るUTC成分および産物は、米国特許出願公開第2005/0032209号、2005/0058631号、および2005/0054098号に説明され、参照により本明細書に組み込まれる。いずれの場合も、医薬組成物は、当技術分野で既知の抗炎症薬、抗アポトーシス薬、抗酸化剤、成長因子、筋栄養因子、または筋再生薬もしくは筋保護薬のような他の活性薬剤をさらに含んでもよい。
【0097】
UTC生細胞を含む医薬組成物は、典型的には、液体、半固体(例えばゲル)または固体(例えば、血管または肺組織の処理に適切な、マトリックス、足場など)として処方される。標的の血管もしくは肺組織への生細胞の送達を達成するため、当技術分野で既知である任意の許容できる経路によって投与するために、液体組成物を処方する。典型的には、これらは、ポンプ装置を備えるかもしくは備えない針および/もしくはカテーテルを有する注射器を経由して、筋内送達、静脈内送達、動脈内送達を含むがこれらに限定されない投与経路によって、拡散性の方法の、または、肺の傷害、損傷、もしくは、苦痛に係る部位を標的とした、注入もしくは注射を含む。
【0098】
半固体もしくは固体担体中に生細胞を含む医薬組成物は、典型的には、肺の傷害、損傷、もしくは、苦痛に係る部位での外科的な植え込みのために処方される。液体組成物もまた、外科的手法によって投与されてもよいことが、十分に認識されるだろう。特定の実施形態では、半固体もしくは固体の医薬組成物は、非生分解性もしくは生分解性であってもよい半透過性のゲル、格子、細胞足場、および、同様のものを含んでもよい。例えば、ある実施形態では、周囲の肺組織もしくは血管細胞に対して、細胞が生物学的分子(例えば、筋栄養因子、血管栄養因子、内皮前駆細胞補充因子)を分泌し送達することができるが、周囲からは外因性の細胞を隔絶することが望まれるか、または適切であるかもしれない。これらの実施形態では、細胞を、自律性インプラントとして、処方してもよい。そのインプラントは、移植細胞を宿主組織から物理的に分離するような、非分解性の選択透過性障壁によって囲まれた、生きたUTCもしくはUTCを含む細胞集団を含む。生存、または非分解性で選択的に透過性のバリアにより囲まれたを含む細胞集団を含む。このようなインプラントは、薬理学的に誘導された免疫抑制の不存在下で、免疫細胞および巨大分子が移植細胞を殺すことを妨げることができるため、時折「免疫保護性」と呼ばれる。
【0099】
他の実施形態では、本発明の医薬組成物のために、異なる分解性ゲルおよびネットワークを利用する。例えば、徐放処方に特に適当な分解性材料は、ポリ(乳酸)、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)、メチルセルロース、ヒアルロン酸、コラーゲン、および、同様のもののような生物適合性ポリマーを含む。
【0100】
他の実施形態では、生分解性、好ましくは、生体再吸収性もしくは生体吸収性の足場もしくはマトリックスの上、もしくは、それらの中で、細胞を送達することが望ましいか、または適切であるかもしれない。このような典型的には3次元の生体材料は、足場に付着するか、足場内に拡散するか、または足場の中にとらえられた細胞外マトリックスに取り込まれる、生細胞を含む。いったん体の標的領域に植え込まれると、これらのインプラントは、宿主組織と統合されるようになり、移植細胞は段階的に定着するようになる(例えば、Tresco, P A, et al.,Adv. Drug Delivery Rev.,2000;42:3−27を参照のこと;Hutmacher, D W, J. Biomater. Sci. Polymer Edn.,2001;12:107−174も参照されたい)。
【0101】
生物適合性マトリックスは、天然の生分解性ポリマー、修飾された天然の生分解性ポリマー、合成の生分解性ポリマーで構成されてもよい。そのポリマーは、ホモポリマー、コポリマー、ブロックポリマー、ならびに、それらの組み合わせを含む。概して、ポリマーは合成されるモノマーに基づいて命名されることに留意されたい。
【0102】
適当な生分解性ポリマーもしくはポリマークラスの例は、フィブリン、コラーゲン、エラスチン、ゼラチン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ラミニン、トロンビン、ポリ(アミノ酸)、酸化セルロース、トロポエラスチン、絹、リボ核酸、デオキシリボ核酸、タンパク質、ポリヌクレオチド、再構成基底膜マトリックス、デンプン、テキストラン、アルギン酸、ヒアルロン、キチン、キトサン、アガロース、多糖類、ヒアルロン酸、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリエチレングリコール、脱細胞化組織、自己集合性ペプチド、ポリペプチド、グリコサミノグリカン、それらの誘導体、および、それらの混合物を含む。グリコール酸、乳酸の双方について、中間環状二量体は、典型的には、重合に先行して準備され、精製される。これらの中間二量体は、それぞれ、グリコリド、ラクチドと呼ばれる。他の有用な生分解性ポリマーもしくはポリマークラスは、限定されないが、脂肪族ポリエステル、ポリ(シュウ酸アルキレン)、チロシン由来ポリカーボネート、ポリイミノカーボネート、ポリオルトエステル、ポリオキサエステル、ポリアミドエステル、アミン基を含むポリオキサエステル、ポリ(フマル酸プロピレン)、ポリジオキサノン、ポリカーボネート、ポリシュウ酸、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリ(エステル)、ポリウレタン、ポリ(ウレタンエステル)、ポリ(ウレタンエーテル)、ポリ無水物、ポリアセテート、ポリカプロラクトン、ポリ(オルトエステル)、ポリアミノ酸、ポリアミド、ならびに、そのブレンドおよびそのコポリマーを含む。追加的な有用な生分解性ポリマーは、限定されないが、L−乳酸およびD−乳酸のステレオポリマー、ビス(p−カルボキシフェノキシ)プロパンとセバシン酸とのコポリマー、セバシン酸コポリマー、カプロラクトンのコポリマー、ポリ(乳酸)/ポリ(グリコール酸)/ポリエチレングリコールコポリマー、ポリウレタンとポリ(乳酸)とのコポリマー、α−アミノ酸のコポリマー、α−アミノ酸とカプロン酸とのコポリマー、α−ベンジルグルタミン酸塩とポリエチレングリコールとのコポリマー、コハク酸塩とポリ(グリコール)とのコポリマー、ポリフォスファゼン、ポリ(ヒドロキシアルカノアート)、および、それらの混合物を含む。二成分系、三成分系もまた考えられる。
【0103】
概して、マトリックスとして用いられる適切な生分解性ポリマーは、(1)意図された適用に適切な機械的な特性を有し、(2)組織が成長し治癒されるまで十分無処理のままであり、(3)炎症反応もしくは有毒反応を引き起こさず、(4)その目的を果たした後に体内で代謝され、(5)形成されるべき望ましい最終産物へと容易に加工され、(6)許容できる品質保持期間を示し、(7)容易に滅菌されるように、望ましく構成される。
【0104】
本発明の1つの態様では、マトリックスを形成するために用いられる生物適合性ポリマーは、ヒドロゲルの形態である。概して、ヒドロゲルは、架橋ポリマー材料であり、これは、明らかな3次元構造を維持しながら、その重量の20%より多く吸水することができるものである。この定義は、水で膨脹した材料と同様に、水を含む環境下で膨脹するであろう乾燥した架橋ポリマーも含む。多くの親水性ポリマーは、ポリマーが生物起源、半合成性、全合成性であっても、ヒドロゲルを産生するために架橋されることが可能である。ヒドロゲルを、合成ポリマー材料から産生してもよい。このような合成ポリマーは、特性の範囲および予想できるロット間の一様性にあわせて調整されることが可能であり、概して免疫原性の心配がないような信頼できる材料源を示すことができる。マトリックスは、米国特許第5,670,483号および5,955,343号、米国出願公開第2002/0160471号、PCT出願WO02/062969号で論じられるように、自己集合性ペプチドから形成されるヒドロゲルを含んでもよい。
【0105】
薬剤送達に係る適用において、ヒドロゲルを価値のあるものにする特性は、平衡膨張度、吸着動力学、溶質透過性、in vivoでの実行特性を含む。化合物に対する透過性は、一部には、膨張度もしくは含水量、および生分解速度に依存する。ゲルの機械的強度は膨張度に正比例して減少するため、合成方式が機械的強度を高めるように、ヒドロゲルが基質に付着することが可能なことは、本発明の意図の範囲内である。いくつかの実施形態では、ヒドロゲルは、ヒドロゲルの有用な送達特性と共に、基質の機械的強度を得るために、多孔性基質内に含浸することができる。
【0106】
本発明で用いてもよい足場もしくはマトリックス(時折、まとめて「フレームワーク」と呼ばれる)の非限定的例は、織物、編み物、組みひも、メッシュ、不織布、ねじれ編みのような織物構造、多孔性フォーム、半多孔性フォーム、有孔フィルムもしくはシート、微粒子、ビーズ、球、および、上記の構造体の組み合わせである複合構造体を含む。不織性マットを、例えば、商品名VICRYL縫合糸(Ethicon, Inc., Somerville, N.J.)で販売されているグリコール酸と乳酸との合成吸収性コポリマー(PGA/PLA)から構成される繊維を用いて、形成してもよい。例えば、ポリ(ε−カプロラクトン)/ポリ(グリコール酸)(PCL/PGA)コポリマーから構成され、フリーズドライすなわち凍結乾燥のようなプロセスによって形成され、米国特許第6,355,699号で論じられているようなフォームをも利用してよい。自己集合性ペプチド(例えば、RAD16)のようなヒドロゲルをも使用してよい。in situ形成性分解ネットワーク(in situ−forming degradable network)もまた、本発明での使用に適切である(例えば、Anseth, K S et al,J. Controlled Release,2002;78:199−209;Wang, D. et al,Biomaterials, 2003;24:3969−3980;米国特許出願公開第2002/0022676号を参照のこと)。これらのin situ形成性の材料を、注入に適当な液体として処方し、その後、in situもしくはin vivoでの温度、pH、光照射の変化のような様々な手段によってヒドロゲルを形成するよう誘導してもよい。
【0107】
別の実施形態では、フレームワークは、生体吸収性材料、例えば、PGA、PLA、PCLコポリマーもしくはブレンド、または、ヒアルロン酸、から作られたマルチフィラメント糸から構成されることが可能なフェルトである。糸は、圧着、裁断、梳綿、穿刺から成る標準的な織物加工技術を用いて、フェルトへと製造される。別の実施形態では、複合構造体であってもよいフォーム足場上に、細胞を播種する。
【0108】
前記の実施形態の多くでは、フレームワークを、血管のような有用な形状に成型してもよい。さらに、前形成された、非分解性の外科的なもしくは植え込み可能な装置の上で、例えば、線維芽細胞を含むGDC血管内コイルを準備するために用いられるものに対応するやり方で、UTCを培養してもよい(Marx, WF, et al.,Am. J. Neuroradiol., 2001;22:323−333)ことが理解されるであろう。
【0109】
細胞の植え込みに先立って、マトリックス、足場、もしくは、装置を、細胞付着を高めるために処理してもよい。例えば、植え込みに先立って、ナイロンマトリックスを、ナイロンをコートするために、0.1モル酢酸で処理し、ポリリジン、PBS、および/もしくは、コラーゲン中でインキュベートすることができる。ポリスチレンは、硫酸を用いて同様に処理することができる。例えば、フレームワークをプラズマコーティングすることによって、または、1つまたは複数のタンパク質(例えば、コラーゲン、弾性線維、細網線維)、糖タンパク質、グリコサミノグリカン(例えば、硫酸ヘパリン、コンドロイチン−4−硫酸、コンドロイチン−6−硫酸、ダルマタン硫酸、ケラチン硫酸)、サイトカインおよび成長因子といった遺伝的材料、細胞マトリックス、ならびに/または、他の材料(細胞の生存および分化に影響を与える他の因子のうち、ゼラチン、アルギン酸塩、寒天、アガロース、植物ゴム、を含むがこれらに限定されない)を添加することによって、細胞の付着もしくは成長、および、組織の分化を改善するためにフレームワークの外側表面を修飾してもよい。
【0110】
UTC含有フレームワークを当技術分野で既知の方法に従って準備する。例えば、細胞を、培養容器中でサブコンフルエンスもしくはコンフルエンスまで、自由に成長させ、培養から引き上げ、フレームワーク上に植えつけることができる。成長因子を、所望の場合、分化および組織形成を誘引するよう、細胞の植えつけの前に、その最中に、もしくは、その後、培養培地に加えてもよい。あるいは、フレームワーク自体を、フレームワーク上での細胞成長を高めるか、またはインプラントの拒絶のリスクが減少するように、改変してもよい。したがって、抗炎症化合物、免疫抑制剤、もしくは、成長因子を含むがこれらに限定されない、1つまたは複数の生物活性化合物を、局所的放出のためにフレームワーク上に加えてもよい。
【0111】
特に肺疾患患者において、肺の細胞および組織の修復、再生、改善を補助し、促進するため、血流を改良するため、そして、血管新生を刺激かつ/もしくは補助するため、様々な方法で、UTC、UTCの一部、もしくは、UTCを含む細胞集団、または、UTCの成分もしくはUTCによって産生された産物を用いてもよい。このような実用性は、in vitro法、ex vivo法、およびin vivo法を包含する。
【0112】
一実施形態では、上記で説明したように、生物学的産物を産生するために、UTCをin vitroで培養することができる。その生物学的産物は、細胞によって天然に産生されるか、肺組織へと分化するように誘導された場合に細胞によって産生されるか、または、遺伝子操作経由の細胞によって産生されるものである。例えば、TIMP1、TPO、KGF、HGF、FGF、HBEGF、BDNF、MIP1b、MCP1、RANTES、I309、TARC、MDC、IL−8は、成長培地中で成長した臍由来細胞から分泌されることがわかった(実施例を参照)。さらに、血管内皮前駆細胞を補充するための因子、例えば、VEGF、SDF−1、EPO、G−CSF、スタチン、エストロゲン、PPARγ、CXCR4は、UTCによって産生されてよく、成長培地中に分泌されてもよい。まだ検出されていないか、もしくは試験されていない、肺組織もしくは血管の修復および再生において使用される他の栄養因子は、UTCによって産生されると思われ、かつ培地中へ分泌される可能性がある。
【0113】
この点において、本発明の別の実施形態は、未分化UTC、または、肺組織もしくは血管系統への分化を刺激する条件下でインキュベートしたUTCのいずれかから、馴化培地を産生するために、UTCを使用することを特色とする。このような馴化培地は、例えば、肺組織前駆細胞のin vitroもしくはex vivoでの培養のための使用、あるいはUTCの同種集団、またはUTCおよび肺組織もしくは血管前駆体を含む異種集団を含む移植細胞を補助するための、または血管内皮前駆細胞を肺傷害の部位へ補充するための、in vivoでの使用について、企図される。
【0114】
さらに別の実施形態は、様々な目的のために、UTC細胞可溶化液、可溶性細胞分画、もしくはそれらの成分、または、ECMもしくはそれらの成分の使用を含む。前記のように、これらの成分のうちのいくつかを、医薬組成物中で用いてもよい。他の実施形態では、細胞可溶化液もしくはECMを、外科的に用いる、すなわち、植え込みのため、もしくは、ex vivoの目的のための物質もしくは装置をコーティングするかまたは別様に処理するために用いて、そのような処理の過程で接触される細胞もしくは組織の治癒もしくは生存を促進する。いくつかの好適な実施形態では、このようなUTCから作られる製剤は、FGFおよびHGFを含む。
【0115】
別の実施形態では、他の細胞、特に、肺組織細胞、例えば、骨格筋前駆細胞、血管平滑筋細胞、血管平滑筋前駆細胞、周皮細胞、血管内皮細胞もしくは血管内皮前駆細胞に、栄養的補助を提供するためのin vitroでの共培養において、UTCは有利に用いられる。いくつかの好適な実施形態では、栄養的補助は、細胞の増殖である。共培養については、2つの細胞型が接触している条件下で、UTCおよび所望の他の細胞が共培養されることが望ましいかもしれない。このことは、例えば、異種性細胞集団としての細胞を、培養培地中に、もしくは、適当な培養基質上に播種することによって達成される。あるいは、UTCは、まずコンフルエンスまで成長させられてよく、その後、培養中に、2番目の所望の細胞型の基質として役立つ。この後者の実施形態では、共培養期間後、他の細胞型を取り除き、別個に用いることができるように、例えば、膜もしくは同様の装置によって、細胞をさらに物理的に分離してもよい。肺組織もしくは血管細胞型の増殖および分化を推進するための共培養におけるUTCの使用には、研究および臨床上/治療上の分野において、適用性が見出される。例えば、UTC共培養を、例えば、基礎研究の目的で、もしくは、薬剤スクリーニング解析で使用する目的で、培養中に、肺組織、例えば、血管平滑筋、周皮細胞、もしくは血管内皮細胞の成長や分化を培養中で促進するために利用してもよい。また、後に治療目的で投与するように、例えば、血管平滑筋、周皮細胞、もしくは血管内皮前駆体をex vivoで増殖させるために、UTC共培養を利用してもよい。肺組織、例えば、血管平滑筋、周皮細胞、または血管内皮前駆細胞は、個体から採取され、ex vivoでのUTCとの共培養で増殖され、その後、その個体(自家移転)もしくは他の個体(同系もしくは同種移転)に戻されてもよい。これらの実施形態では、ex vivoでの増殖後、UTC、および、肺組織、例えば血管平滑筋、周皮細胞、もしくは血管内皮前駆体を含む混合細胞集団を、治療が必要な患者に投与することができたことが認識されるであろう。あるいは、自家移転が適切であるかもしくは望ましい状況では、共培養された細胞集団を、患者に投与するために、培養中に物理的に分離してよく、自家の肺組織、例えば、血管平滑筋もしくは血管内皮前駆体、を取り除くことができる。
【0116】
米国特許出願公開第2005/0032209号、2005/0058631号、2005/0054098号、および2005/0058630号に説明されるように、UTC、ならびにその成分および産物は、体の中に効果的に移植され、受け入れられた動物モデルにおいて、血流を改善し、組織壊死を低減することが示されてきた。本発明で説明した発見とともに、これらの成果は、本発明の好適な実施態様を援護するものであり、UTCは、肺損傷患者における肺組織および/もしくは血管組織を修復もしくは再生することによって、あるいは、肺損傷患者における血流を改良するか、または血管新生を刺激および/もしくは補助することによって、肺傷害もしくは損傷を治療するための細胞療法において用いられる。一実施形態では、UTCを、体の標的位置、特に、肺損傷の位置もしくはその近位に移植し、UTCは、肺組織表現型、例えば、血管平滑筋、周皮細胞、もしくは血管内皮表現型のうち1つまたは複数に分化でき、UTCは、肺組織、例えば、血管平滑筋細胞、周皮細胞、もしくは血管内皮細胞前駆体および/または肺組織細胞に栄養的補助を提供することができる。in situで、UTCは、肺傷害の部位へ内皮前駆細胞を補充する因子を産生することができ、あるいは、UTCは、とりわけ、これらの方法のうち2つまたは3つ以上における有利な効果を及ぼすことができる。UTCは、GFGFm、IL−6、IL−8、HGF、IGF−1、TPOおよび同様のものを含むがこれらに限定されない、栄養因子を分泌する。UTCは、新しい血管形成を刺激するための血管芽細胞のような、血管前駆細胞の補充を助けることができる。
【0117】
UTCは、投与された患者の体に、栄養作用を及ぼすことができる。例えば、UTCは、肺組織細胞、例えば、それらの血管平滑筋細胞、血管内皮細胞、周皮細胞、もしくは前駆細胞に栄養作用を及ぼすことができる。いくつかの好適な実施形態では、栄養作用は、このような細胞の増殖である。UTCは、投与された患者の体内で、細胞の遊走を誘導することもできる。このような遊走は、肺の疾患、障害、および/または傷害、例えばCOPD、ALI、ARDS、および肺線維症、の修復、再生、および治療を促進することができる。例えば、肺損傷の部位もしくはその部位の近くに投与されたUTCは、罹患組織およびその周囲を、修復するか、再生するか、もしくは別様に治療するために、肺損傷の部位への細胞の遊走を誘導することができる。そのように投与されたUTCは、肺組織細胞、例えば、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞、周皮細胞、もしくはその前駆細胞の遊走を誘導することができる。好適な実施形態では、UTCは、肺損傷の部位、もしくは、少なくともその部位の近くに、血管内皮細胞および/もしくは血管内皮前駆細胞の遊走を誘導する。いくつかの実施形態では、遊走は、FGFおよび/もしくはHGFによって、好ましくはUTCによって発現されたFGFおよびHGFによって、誘導されるか、もしくは、補助される。細胞可溶化液、細胞内分画、産物、および、同様のものを含む、UTCから作られた製剤を、肺の疾患、障害および/または傷害を治療するために用いることもできる。そのような製剤を、本明細書で説明され、例示されるような医薬的に許容可能な担体と共に処方することができ、また、肺の疾患、障害および/または傷害を治療するために有効な量で、患者に投与することができる。好適な実施形態では、UTCから作られた製剤は、FGFおよびHGFを含む。
【0118】
本発明の特定の実施形態は、肺の傷害または損傷の治療のため、血管の直接の修復、再生、もしくは置換、または修復、再生、もしくは置換の補助に関する。
【0119】
UTCを、単独で(例えば、実質的に同種の集団として)投与してもよいし、他の細胞とともに混合剤として投与してもよい。前述のように、UTCを、マトリックスもしくは足場と共に、または、従来の医薬的に許容可能な担体と共に、医薬製剤の中に処方するように、投与してもよい。UTCを他の細胞と共に投与した場合、他の細胞と同時に投与してもよいし、他の細胞と連続して投与してもよい(他の細胞の前後どちらでも)。UTCと関連して投与してもよい細胞は、筋細胞、肺組織細胞、骨格筋前駆細胞、血管平滑筋細胞、血管平滑筋前駆細胞、周皮細胞、血管内皮細胞、もしくは血管内皮前駆細胞、および/または他の多分化能もしくは多能幹細胞を含むが、これらに限定されない。異なる型の細胞を、投与の直前に、すなわち投与のすぐ前に、UTCと混合してもよいし、投与前、ある期間にわたり、共に共培養してもよい。
【0120】
UTCを、他の有益な薬物もしくは生物学的分子または他の活性薬剤、例えば、当技術分野で既知の抗炎症薬、抗アポトーシス薬、抗酸化剤、成長因子、血管新生因子、または、筋再生薬もしくは筋保護薬、とともに投与してもよい。UTCを他の薬剤とともに投与する場合、単一の医薬組成物中でともに投与してもよいし、別々の医薬組成物中で、他の薬剤と同時に、もしくは、連続して投与してもよい(他の薬剤の投与の前後どちらでも)。他の薬剤は、当技術分野の内科医が適切であると判断した場合、移植前に始まり回復経過全体にわたり連続する治療措置の一部であってもよいし、移植の時点もしくは移植の後でさえ開始してもよい。
【0121】
一実施形態では、UTCを、未分化細胞、すなわち、成長培地の中で培養した細胞として投与する。あるいは、UTCを、培養中で、所望の肺組織表現型、例えば、血管平滑筋、周皮細胞、もしくは血管内皮表現型への分化を刺激する条件にさらした後に、投与してもよい。
【0122】
本発明の細胞を、外科的に植え込み、注入し、送達し(例えば、カテーテル、注射器、シャント、ステント、マイクロカテーテル、もしくはポンプによって)、または別様に、肺の傷害、損傷、苦痛に係る部位へ直接的に、もしくは、間接的に投与してもよい。本発明の細胞、もしくは、その組成物の投与経路は、静脈内、筋内、皮下、鼻内、髄腔内、大槽内、または、ポンプ装置を備えるかもしくは備えない、針もしくはカテーテルを有する注射器を経由することを含むがこれらに限定されない。
【0123】
細胞を半固体もしくは固体装置に投与する場合、体の正確な位置への外科的な植え込みが、典型的には適当な投与手段である。しかしながら、液体または流体医薬組成物を、血液を通じて、もしくは、罹患した肺組織に(例えば、びまん性ALIもしくはARDSの場合などは、びまん性患部全体にわたって)直接投与してもよい。UTCの遊走は、化学的シグナル、成長因子、もしくは、カルパインによって、導かれる。
【0124】
臍帯組織由来細胞もしくは組成物、および/または臍帯組織由来細胞を含むマトリックスを、マイクロカテーテル、カテーテル内方法(intracatheterization)、ミニポンプを経由して部位に送達してもよい。ビヒクル賦形剤もしくは担体は、患者、特に、細胞分化が誘導されるべき部位に局所的に、投与するために薬剤的に許容できることが既知である任意のものでありうる。例としては、液体培地、例えば、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、滅菌生理食塩水、滅菌リン酸緩衝生理食塩水、リーボビッツ培地(L15;Invitrogen,Carlsbad,Calif.)、滅菌ブドウ糖液、および、任意の他の生理学上許容できる液体を含む。
【0125】
他の実施形態は、医薬的に許容できる担体およびUTC細胞成分(例えば、細胞可溶化液もしくはその成分)、もしくは産物(例えば、UTCによって天然に、もしくは、遺伝子操作を通じて産生された栄養因子および他の生物学的因子、ならびに、UTC培養由来の馴化培地)、または、UTC成長培地、もしくは、成長培地から精製された産物を含む治療組成物を投与することによって、肺傷害もしくは損傷を治療する方法を包含する。好適な実施形態では、生物学的因子はFGFおよびHGFである。これらの方法は、当技術分野で既知の、成長因子、血管新生因子、筋再生薬、もしくは、筋保護薬のような、他の活性薬剤の投与をさらに含んでもよい。
【0126】
UTCを投与するための剤形および方法、または、本明細書で説明される他の治療組成物もしくは医薬組成物のいずれかは、個々の患者の病状、例えば、肺損傷事象に由来する傷害もしくは損傷の本質および程度、年齢、性別、体重、一般的医療状態、および、開業医に既知である他の因子)を考慮して、正しい医療行為に従って開発される。このように、患者に投与されるべき医薬組成物の有効量は、当技術分野において既知のこれらの考察によって決定される。
【0127】
UTCは混合リンパ球反応における同種のPBMCを刺激しないことが、示されてきた。したがって、同種、もしくは、異種による、UTCの移植でさえ、いくつかの例で耐性であるかもしれない。いくつかの実施形態では、UTC自体が免疫抑制効果を提供し、それによって、移植されたUTCの宿主拒絶反応を妨げる。このような例では、細胞療法中の薬理学的な免疫抑制は、必ずしも必要でないかもしれない。
【0128】
しかしながら、他の例において、細胞療法の開始に先立って、患者を薬理学的に免疫抑制することが望ましいかまたは適切であるかもしれない。このことは、全身性、もしくは、局所性の免疫抑制薬の使用を通じて達成されてもよいし、上記で説明したように、封入された装置中の細胞を送達することで達成されてもよい。移植細胞に対する免疫反応を低減および排除するためのこれらの手段および他の手段は、当技術分野において既知である。代わりに、UTCを、上記で述べたように、免疫原性を低減するように、遺伝子操作してもよい。
【0129】
生きている患者における移植されたUTCの生存を、様々なスキャン技術、例えば、コンピュータ断層撮影(CAT、またはCT)スキャン、磁気共鳴画像法(MRI)、陽電子放出断層撮影(PET)スキャン、を用いて決定することができる。また、移植片生存の決定は、死後に、肺組織もしくは血管組織を取り除き、可視的に、もしくは、顕微鏡下で検査することによって、なされることが可能である。あるいは、肺組織細胞、例えば、血管平滑筋細胞、周皮細胞、もしくは血管内皮細胞に特異的な染色で、細胞を処理することが可能である。また、例えば、ローダミンもしくはフルオレセイン標識したミクロスフィア、ファストブルー(fast blue)、三価鉄微粒子、ビスベンザミド、または、β−ガラクトシダーゼもしくはβ−グルクロニダーゼのような遺伝的に導入されたレポーター遺伝子産物のような、追跡染料の前もった取り込みによって、移植細胞を同定することができる。
【0130】
別の態様では、本発明は、前記のとおり、血管新生を刺激および/もしくは補助するための、血流を改良するための、そして、肺損傷事象によって傷つけられ、損傷された肺組織を再生し、修復し、改善するための様々な方法で、UTC、UTC集団、UTCの成分および産物を利用するキットを提供する。肺疾患、障害および/もしくは傷害によって引き起こされた損傷もしくは傷害の治療、または、他の予定された治療のために用いられる場合、キットは、少なくともUTCおよび医薬的に許容可能な担体(液体、半固体、もしくは固体)を含む1つまたは複数の細胞集団を含んでもよい。また、キットは、オプションとして、例えば注入によって、細胞を投与する手段を含んでもよい。キットは、細胞の使用説明書を、さらに含んでもよい。軍用などの野戦病院用に準備されたキットは、組織足場、外科縫合糸、および同様のものを含む完全な手順の供給物を含んでもよく、細胞は、急性傷害の修復と関連付けて用いられるものである。本明細書で説明されたアッセイおよびin vitro法のためのキットは、(1)UTC、またはUTCの成分もしくは産物、(2)in vitro法を実践するための試薬、(3)適切な、他の細胞もしくは細胞集団、(4)in vitro法を実行するための説明書、のうちの1つまたは複数を含んでもよい。
【0131】
以下の実施例は、本発明の実施形態のいくつかの態様を、より詳細に説明する。これらの実施例は、本明細書で説明した発明の態様をさらに例示することを意図している。これらの実施例は、そのように例示された態様を限定するものと解釈されるべきではない。
【0132】
実施例1
過酸素症誘導急性肺傷害のマウスモデルにおける肺の保護効果
この実施例は、過酸素症誘導肺傷害のモデルにおいて肺の修復および再生を強化する、ヒトUTC(hUTC)の有効性を例示する(hUTCの単離および特徴づけは、実施例5〜15で見ることができる)。
【0133】
臍細胞培養および単離
臍由来細胞(UDC、hUTC)を、米国特許出願公開第2005/0032209号、2005/0058631号、および2005/0054098号に記載のとおり準備した。細胞は、所望の継代まで培養し、その後、低温貯蔵により保存した。
【0134】
動物モデル
メスのC57BL/6マウス(7週齢)をAce Animals(Boyertown,PA)から入手した。注入の直前に、hUTCを、37℃で解凍し(水浴)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で2回洗って、1mLのPBS中に再懸濁させた。細胞は、血球計数器を用いてカウントした。細胞生存率を、トリパンブルー染料排除により判断した。細胞は、200μLのPBS中で1x10個の細胞の濃度で再構成した。
【0135】
研究の概略は、以下の表1−1にまとめた。0日目、細胞(200μLのPBS中1x10個hUTC)またはPBSビヒクルは、1mL注射器および26ゲージ針を用いて、静脈内尾静脈注入によってゆっくりとマウスに投与され、マウスは、その後、室内空気、または90%のOにさらされた。90%のOへの暴露は、動物をBioSpherixチャンバ(BioSpherix,LTD,Lacona,NY)の中に置くことで達成された。このチャンバは、下準備され、1時間にわたり90%のOに釣り合わせてあったものである。支持療法(熱による支援およびニュートリカル(NutriCal))をこれらの動物に毎日施した。各タンクについての、動物の観察、死亡率、生存、および酸素濃度パーセントを、1日に2回記録した。処理後4日目、50mg/mLのネンブタール(ペントバルビタール)を用いて、動物を安楽死させた。
【表1】

【0136】
気管支肺胞洗浄液(BALF)総タンパク質分析
各サンプル中の総タンパク質を決定するため、BCAタンパク質アッセイ(Pierce)を用いて、無細胞BALFを分析した。Softmax 4.0プログラムを使用して分析を完了し、Graph Pad Prism Softwareを用いてデータをグラフ化した。
【0137】
BALFおよび肺ホモジネートサイトカイン/ケモカイン分析
BALFを準備するため、1処理群当たり6匹の動物を安楽死させ、1.0mLの無菌PBS(Invitrogen)で肺を1回洗浄し、湿った氷(wet ice)上にチューブを置いた。BALFを1000rpmで5分間遠心分離し、上澄み液を取り除き、さらなる分析に使用した。
【0138】
肺ホモジネートを準備するため、1群当たり6匹の動物を安楽死させ、PBSによる全身灌流にかけ、左肺を切開し、Lysing Matrix Dチューブ内で氷上に置き、その後、FastPrep器具において、4.0の速度で40秒間、遠心分離した。
【0139】
BALFおよび肺ホモジネート双方の上澄み中のサイトカイン/ケモカインレベルを、製造業者のプロトコルに従ってマウス22−マルチプレックスビーズキット(Millipore)を用いて決定し、BioRad Bioplex機器を用いて分析した。結果をグラフ化し、GraphPad Prism Softwareを用いて分析した。
【0140】
ヒト細胞の検出
Asuragen, Inc.により、その会社の標準操作手順に従って、全RNAをマウス組織から単離した。全RNAサンプルの純度および量が、NanoDrop ND−1000 UV分光光度計を用いて、260および280nmで吸収示度により決定された。Agilent Bioanalyzerを用いて、RNAの完全性を評価した。
【0141】
GAPDH mRNA(Hs99999905_ml_GAPDH)のヒト特異性アッセイを使用して、マウスの肺組織内のhUTC数を見積もった。単一チューブTaqMan(登録商標)アッセイ(Applied Biosystems)を用いた、定量的RT−PCR(qRT−PCR)分析用のサンプルを、Asuragen, Inc.により、その会社の標準操作手順に従って処理した。製造業者の説明書に従ってTaqMan(登録商標)High Capacity cDNA Synthesis Kit(Applied Biosystems)を用いて、希釈物当たり20μLの全反応容積で、全RNAの希釈物を逆転写した。50ngの入力cDNAが次に、PCRにより分析された。全ての増幅は、有効なABI 7500リアルタイムサーモサイクラー上で3回(in triplicate)行われた。95℃で10分間のインキュベーション後、サンプルは、95℃で15秒間、その後60℃で1分間の40サイクルで、増幅された。マウスの肺内のhUTC総数は、既知の量の精製hUTC全RNAを分析することで生成される検量線に基づいて見積もられた。
【0142】
BALF総タンパク質
90%のOに4日間さらすことで、室内空気の対照動物に比べて、BALFの総タンパク質含量が増加した(p<0.01、図1、表1−2)。さらに、90%のOのPBS処理群に比べると、90%のOのhUTC処理群においてBALF総タンパク質が、統計的に有意に減少した(p<0.05)。
【表2】

【0143】
BALFおよび肺ホモジネートサイトカイン分析
BALFのケラチノサイト因子(KC)、γインターフェロン誘導性サイトカイン(IP−IO)、インターロイキン1α(IL−1α)および肺ホモジネート単球走化性因子−1(MCP−1)における統計的に有意な減少が、PBSビヒクルで処理され90%のOにさらされた動物に比べて、hUTCで処理され90%のOにさらされた動物において観察された(p<0.02)(図2aおよび図2b、図3および図4)。
【0144】
ヒト細胞の生着
処理後4日目に、動物を屠殺し、肺を回収し、全RNAを、ヒト細胞検出のため単離した。結果では、hUTC処理した動物の肺の中にhUTCが存在するが、PBS処理した動物の肺にはないことが示された(表1−3)。
【表3】

【0145】
マウスにおける過酸素症誘導急性肺傷害発症に対する、hUTCの予防的静脈内投与の効果を評価した。90%のOにさらされたマウスにhUTC投与した後、BALFにおける総タンパク質レベルが減少することは、hUTCが肺における過酸素症誘導による血管の漏れ/浮腫を減少させることができたことを示唆している。さらに、データは、hUTCが、肺における炎症の減少を示唆する、3つの重要なケモカインのレベルを減少させたことを示した。これらのデータは、hUTCが肺疾患を治療する重要な治療薬かもしれないという証拠をもたらすものである。
【0146】
実施例2
慢性閉塞性肺疾患のげっ歯類モデルにおける治療効果
この実施例は、タバコの煙で誘発された肺傷害のげっ歯類モデルにおいて、肺の修復および再生を高めるhUTCの有効性を示す。データは、COPDの予防的治療に対するhUTCの治療価値を表している。
【0147】
臍細胞の培養および単離
臍由来細胞(UDC、hUTC)を、米国特許出願公開第2005/0032209号、2005/0058631号および2005/0054098号に示されるように準備した。細胞を所望の継代まで培養して、その後、低温貯蔵により保存した。
【0148】
動物モデル
健康なオスの12〜15週齢のSHラットを、Charles River Laboratories,Raleigh,NCから購入する。各ラット系統は、体重によって3つの群に無作為化される(表2−1)。SDラットはその後、全身をタバコの煙(粒子の総濃度:75〜85mg/m(3))またはろ過した室内空気に、6時間/日、15日間さらされる(3日/週)。
【0149】
用量の準備
15日目に、煙による処理を終わらせ、hUTCまたはPBSビヒクルを投与する。注入の直前に、hUTCを37℃(水浴)で解凍し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で2回洗って、1mLのPBS中に再懸濁させる。血球計数器を使用して細胞をカウントする。細胞生存率を、トリパンブルー染料排除によって決定する。細胞は、2mLのPBS中で1e個の細胞および3e個の細胞の適切な濃度で再構築される。細胞は、尾静脈注入によって、2分の間隔にわたりゆっくりと投与される。
【0150】
ビヒクルまたはhUTC注入後2週間で、動物を屠殺して、気管支肺胞洗浄液(BALF)(8匹の動物/処理群)および肺組織(8匹の動物/処理群)を回収する。
【表4】

【0151】
BALFの準備
BALFを準備するため、処理群当たり8匹の動物を安楽死させ、肺を、1.0mLの無菌PBS(Invitrogen)で1回洗浄し、新鮮なBALFを含むチューブを湿った氷の上に置く。BALFを、1000rpmで5分間遠心分離し、上澄み液を取り除いて、さらなる分析のために使う。
【0152】
BALFのサイトカイン分析
BALFのサイトカイン/ケモカインレベルは、製造業者のプロトコルに従ってマウス22−マルチプレックスビーズキット(Millipore)を用いて決定され、BioRad Bioplex機器を用いて分析される。結果をグラフ化し、GraphPad Prism Softwareを使用して分析する。
【0153】
BALF総タンパク質分析
各サンプル中の総タンパク質を決定するため、無細胞BALFが、BCAタンパク質アッセイ(Pierce)を使用して分析される。分析は、Softmax 4.0プログラムを用いて完了され、Graph Pad Prism Softwareを用いてデータをグラフ化する。
【0154】
組織診断
肺を、処理群当たり8匹の動物から回収する。各肺の半分が、10%のホルムアルデヒド中性緩衝溶液で24時間固定され、段階的なエタノールシリーズ(graded ethanol series)中で脱水され、パラフィンに封入され、5μmにスライスされた。パラフィン切片は、病理組織学的分析のため、ヘマトキシリン−エオシン(HE)およびマッソン(Masson)で染色される。残りの肺半分は、急速に凍結され、MPOおよびヒト細胞検出のために処理される(以下を参照)。
【0155】
ミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性
右上葉からの約200mgの肺組織が、20mmol/Lのリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)中でホモジネート化され(homogenated)、超遠心される。沈殿物が、MPO測定のため、HTABと共に−7O℃で保存される。MPO活性をその後決定する。
【0156】
RNA単離
Asuragen, Inc.によって、その会社の標準操作手順に従って、急速凍結された肺組織全てから全RNAを単離する。全RNAサンプルの純度および量は、NanoDrop ND−1000 UV分光光度計を用いて、260および280nmで、吸収示度により決定される。RNA完全性が、Agilent Bioanalyzerを用いて評価される。
【0157】
ヒト細胞の検出
GAPDH mRNA(Hs99999905_ml GAPDH)のヒト特異的アッセイを使用して、マウスの肺組織内部のhUTC数を見積もる。単一チューブTaqMan(登録商標)アッセイ(Applied Biosystems)を用いた定量的RT−PCR(qRT−PCR)分析用のサンプルを、Asuragen, Inc.によって、その会社の標準操作手順に従って処理する。全RNAの希釈物は、製造業者の説明書に従ってTaqMan(登録商標)High Capacity cDNA Synthesis Kit(Applied Biosystems)を用いて、希釈物当たり20μLの全反応容積において、逆転写される。50ngの入力cDNAが次に、PCRにより分析される。全ての増幅は、有効なABI 7500リアルタイムサーモサイクラー上で3回行われる。95℃出10分間のインキュベーション後、サンプルは、95℃で15秒間、その後60℃で1分間の40サイクルで増幅される。
【0158】
実施例3
肺線維症のげっ歯類モデルにおける肺の保護および抗線維化効果
この実施例は、ブレオマイシン(BLM)で誘発された肺線維症のげっ歯類モデルにおいて、線維症を防止し、肺の修復および再生を高めるhUTCの有効性を示す。
【0159】
臍細胞の培養および単離。臍由来細胞(UDC、hUTC)が、米国特許出願公開第2005/0032209号、2005/0058631号、および2005/0054098号に記載されるように準備された。細胞を、所望の継代まで培養して、その後、低温貯蔵により保存した。
【0160】
動物モデル
64匹の成体のSprague−Dawleyラット(体重200〜250g)を入手し、各群16匹の4群にランダムに分割する。動物を、5mg/kgのBLMで気管内灌流する。注入の直前に、hUTCを37℃(水浴)で解凍し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で2回洗って、1mLのPBS中で再懸濁させる。細胞は、血球計数器を使用してカウントする。細胞生存率を、トリパンブルー染料排除によって決定する。細胞は、2mLのPBS中で適切な濃度(concentrating)で再構築される。細胞は、2分間の間隔にわたり、尾静脈注入によってゆっくり投与される。研究デザインを以下の表3−1にまとめる。
【0161】
hUTC処理群では、0.1−x10、1x10、または3x10個のhUTCが、BLM灌流から12時間後に、尾静脈の中へ注入される。PBSビヒクルは単独で、hUTC処理群と同じように投与される。ビヒクルまたはhUTC注入から2週間後、動物を屠殺して、気管支肺胞洗浄液(BALF)(8匹の動物/処理群)および肺組織(8匹の動物/処理群)を回収する。
【表5】

【0162】
BALFの準備
BALFを準備するため、処理群当たり8匹の動物を安楽死させ、肺を1.0mLの無菌PBS(Invitrogen)で1回洗浄し、新鮮なBALFを含むチューブを湿った氷の上に置く。BALFは、1000rpmで5分間遠心分離され、上澄み液を取り除いて、さらなる分析のため使用する。
【0163】
BALFのサイトカイン分析
BALFのサイトカイン/ケモカインレベルは、製造業者のプロトコルに従ってマウス22−マルチプレックスビーズキット(Millipore)を用いて決定され、BioRad Bioplex機器を用いて分析される。結果は、GraphPad Prism Softwareを用いてグラフ化され、分析される。
【0164】
BALFの総タンパク質分析
各サンプル中の総タンパク質を決定するため、無細胞BALFは、BCAタンパク質アッセイ(Pierce)を用いて分析される。Softmax 4.0プログラムを用いて分析を完了し、Graph Pad Prism Softwareを用いてデータをグラフ化する。
【0165】
組織診断
処理群当たり8匹の動物から肺を回収する。各肺の半分が、10%のホルムアルデヒド中性緩衝溶液で24時間固定され、段階的なエタノールシリーズで脱水され、パラフィンに封入され、5μmでスライスされる。パラフィン切片が、病理組織学的分析のため、ヘマトキシリン−エオシン(HE)およびマッソンで染色される。残りの肺半分は、ヒト細胞の検出のため、急速凍結され処理される(以下を参照)。
【0166】
ヒト細胞の検出
Asuragen, Inc.によって、その会社の標準操作手順に従って、全RNAは、急速凍結された全肺組織から単離される。全RNAサンプルの純度および量は、NanoDrop ND−1000 UV分光光度計を使用して、260および280nmで、吸収示度により決定される。RNAの完全性は、Agilent Bioanalyzerを用いて評価される。
【0167】
GAPDH mRNA(Hs99999905_ml GAPDH)のヒト特異的アッセイを使用して、マウス肺組織内部のhUTC数を見積もる。単一チューブTaqMan(登録商標)アッセイ(Applied Biosystems)を用いた定量的RT−PCR(qRT−PCR)分析のためのサンプルが、Asuragen, Inc.によって、その会社の標準操作手順に従って処理される。全RNAの希釈物は、製造業者の説明書に従ってTaqMan(登録商標)High Capacity cDNA Synthesis Kit(Applied Biosystems)を用いて、希釈物当たり20μLの全反応容積において、逆転写される。50ngの入力cDNAが、次に、PCRにより分析される。全ての増幅は、有効なABI 7500リアルタイムサーモサイクラー上で3回行われる。95℃で10分間のインキュベーション後、サンプルは、95℃で15秒間、その後60℃で1分間の40サイクルで、増幅される。
【0168】
実施例4
エラスターゼにより誘発される気腫のげっ歯類モデルにおける肺の保護効果
この研究は、げっ歯類モデルにおいて、エラスターゼにより誘発される気腫を治療し、回復させ、かつ/または防止する上での、静脈内投与されたhUTCの有効性を示すものである。
【0169】
C57BL/6Nマウスまたはラットが、エーテル、またはケタミン(90mg/kg)およびキシラジン(1mg/kg)の腹腔内注入により麻酔をかけられ、0.3または1.2単位のブタ膵臓エラスターゼ(Sigma−Aldrich,St.Louis,Mo,U.S.A)を鼻腔内投与される。対照のマウスは、生理食塩水単独の鼻腔内投与を受ける。
【0170】
エラスターゼ処理から2〜24時間後、濃度が増加したヒト臍組織由来細胞(hUTC)が、尾静脈注入により投与される。表4.1に示すように、PBSビヒクル中で再構築された、0.1x10、1x10、または3x10個のhUTCが、総容量200μLで投与される。hUTCを含まないPBSビヒクルは、hUTC処理群と同じように投与される。ビヒクルまたはhUTC注入から2週間後、動物を屠殺して、肺組織サンプルおよび気管支肺胞洗浄液(BALF)を回収し、分析前に−70℃で保管する。
【表6】

【0171】
BALFの分析
BALFを準備するため、全ての動物を安楽死させ、肺を1.0mLの無菌PBS(Invitrogen)で1回洗浄し、チューブを湿った氷上に置く。BALFを1000rpmで5分間遠心分離し、上澄み液を取り除いて、さらなる分析に使用する。
【0172】
BALFおよび肺ホモジネート双方の上澄み中のサイトカイン/ケモカインレベルは、製造業者のプロトコルに従ってマウス22−マルチプレックスビーズキット(Millipore)を用いて決定され、BioRad Bioplex機器を用いて分析される。結果は、GraphPad Prism Softwareを用いてグラフ化され、分析される。
【0173】
BALFの総タンパク質分析
各サンプル中の総タンパク質を決定するため、無細胞BALFが、BCAタンパク質アッセイ(Pierce)を用いて分析される。分析は、Softmax 4.0プログラムを用いて完了し、データは、Graph Pad Prism Softwareを用いてグラフ化される。
【0174】
組織診断
肺組織サンプルは、10%ホルムアルデヒド中性緩衝溶液で24時間固定され、段階的なエタノールシリーズ中で脱水され、パラフィンに封入され、5μmでスライスされる。パラフィン切片は、病理組織学的分析のため、ヘマトキシリン−エオシン(H&E)およびマッソンで染色される。
【0175】
ヒト細胞の検出
全RNAは、Asuragen, Inc.によって、その会社の標準操作手順に従って、マウス組織から単離される。全RNAサンプルの純度および量は、NanoDrop ND−1000 UV分光光度計を用いて260および280nmで吸収示度によって決定される。RNA完全性は、Agilent Bioanalyzerを用いて評価される。
【0176】
GAPDH mRNA (Hs99999905_ml GAPDH)のヒト特異的アッセイを用いて、マウス肺組織内部のhUTC数を見積もる。単一チューブTaqMan(登録商標)アッセイ(Applied Biosystems)を用いた定量的RT−PCR(qRT−PCR)分析用のサンプルが、Asuragen, Inc.によって、その会社の標準操作手順に従って処理される。全RNAの希釈物が、製造業者の説明書に従って、TaqMan(登録商標)High Capacity cDNA Synthesis Kit(Applied Biosystems)を用いて、希釈物当たり20μLの全反応容積において、逆転写される。50ngの入力cDNAが次にPCRにより分析される。全ての増幅は、有効なABI 7500リアルタイムサーモサイクラー上で3回行われる。95℃で10分間のインキュベーション後、サンプルは、95℃で15秒間、次に60℃で1分間の40サイクルで、増幅される。マウスの肺の中のhUTCの総数は、既知の量の精製されたhUTC全RNAを分析することにより生成される検量線に基づいて見積もられる。
【0177】
BALFの総タンパク質
BALF総タンパク質濃度の統計的に有意な減少が、ビヒクル処理した対照動物と比べて、hUTC処理した動物で観察される。さらに、有意な好中球蓄積がPBS対照動物で観察されるが、hUTC処理群では減少し得ることが可能である。
【0178】
BALFサイトカイン/細胞外マトリックスタンパク質分析
線維化促進性および/または炎症誘発性サイトカインの統計的に有意な減少が、ビヒクル処理した対照動物に比べ、hUTC処理動物で観察される。さらに、エラスターゼが、肺傷害のマーカーであるECMの含量を気管支肺胞洗浄液中で増加させる。これらの影響は、hUTC処理により減弱される。
【0179】
組織学的分析
エラスターゼ処理は、肺実質のかなりの部分を包囲する胸膜下炎症エリアの発生をもたらす。さらに、正常な肺胞および気管支の構造、ならびに脈管構造の損失が観察される。エラスターゼによる攻撃(challenge)のすぐ後のhUTC投与は、正常な肺胞構造を有する大きな非損傷組織エリアにより証明されるように、肺内部の炎症および損傷の程度を減少させる。
【0180】
ヒト細胞の生着
ヒト細胞は、hUTC処理したげっ歯類の肺の内部で検出されるが、PBSビヒクル処理した動物にはない。
【0181】
実施例5
細胞の単離
臍細胞単離。臍帯を、National Disease Research Interchange(NDRI,Philadelphia,PA)から入手した。組織は、通常の運送に従って入手した。細胞単離プロトコルが、層流フードにおいて無菌で行われた。血液および残骸を除去するため、臍帯が、100単位/mLのペニシリン、100mg/mLのストレプトマイシン、および0.25μg/mLのアンホテリシンB(Invitrogen Carlsbad,CA)の存在下で、リン酸緩衝生理食塩水(PBS; Invitrogen,Carlsbad,CA)中で洗浄された。組織は次に、組織が細かな柔らかい塊(fine pulp)に刻まれるまで、50mLの培地(DMEM−低グルコースもしくはDMEM−高グルコース;Invitrogen)の存在下で、150cmの組織培養プレートにおいて機械的に解離された。切り刻まれた組織を、50mLの円錐チューブ(チューブ当たり約5gの組織)へ移した。
【0182】
組織が、次に、DMEM−低グルコース培地もしくはDMEM−高グルコース培地のいずれかで消化された。これらの培地はそれぞれ、100単位/mLのペニシリン、100mg/mLのストレプトマイシン、0.25μg/mLのアンホテリシンB、および消化酵素を含有する。いくつかの実験では、コラゲナーゼおよびディスパーゼの酵素混合物を使用した(「C:D」)(コラゲナーゼ(Sigma,St Louis,MO)、500単位/mL;およびディスパーゼ(Invitrogen)、50単位/mL、DMEM−低グルコース培地中)。他の実験では、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、およびヒアルロニダーゼ(「C:D:H」)の混合物を使用した(C:D:H=コラゲナーゼ、500単位/mL;ディスパーゼ、50単位/mL;およびヒアルロニダーゼ(Sigma)、5単位/mL、DMEM−低グルコース中)。組織、培地および消化酵素を含む円錐チューブは、オービタルシェーカー(Environ,Brooklyn,NY)中、37℃で、225rpmで2時間インキュベートされた。
【0183】
消化後、組織を、150xgで5分間遠心分離し、上澄みを吸引した。ペレットが、20mLの成長培地(DMEM:低グルコース(Invitrogen)、15%(v/v)ウシ胎仔血清(FBS;規定のウシ胎仔血清;ロット番号AND18475;Hyclone,Logan,UT)、0.001%(v/v)2−メルカプトエタノール(Sigma)、100単位/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシン、および0.25μg/mLのアンホテリシンB(それぞれInvitrogen,Carlsbad,CAより))中で再懸濁された。細胞懸濁液は、70μm(70ミクロン)のナイロンBD FALCON細胞ろ過器(BD Biosciences,San Jose,CA)を通してろ過された。成長培地を含む、5mLの追加のリンス剤を、ろ過器に通した。細胞懸濁液を次に、40μmナイロン細胞ろ過器(BD Biosciences,San Jose,CA)に通し、追加の5mLの成長培地のリンス剤がその後に入れられる(chased)。
【0184】
ろ過液は、成長培地(総容量50mL)に再懸濁され、150xgで5分間遠心分離される。上澄みを吸引し、細胞を、50mLの新鮮な成長培地に再懸濁した。このプロセスを、さらに2回繰り返した。
【0185】
最終的な遠心分離の後、上澄みを吸引し、細胞ペレットを、5mLの新鮮な成長培地に再懸濁した。トリパンブルー染色を用いて、生存細胞数を決定した。次に、細胞を、標準条件下で培養した。
【0186】
臍帯組織から単離された細胞を、成長培地において、5,000個の細胞/cmで、ゼラチンコートT−75フラスコ(Corning Inc.,Corning,NY)上に播種した。2日後、使用済み培地、および未付着細胞を、フラスコから吸引した。付着細胞を、PBSで3回洗浄し、残骸および血液由来細胞を除去した。次に、細胞は、成長培地を補充され、コンフルエンスまで成長した(0代継代から1代継代まで約10日)。次の継代では(1から2代継代まで、など)、細胞は、4〜5日でサブコンフルエンス(75〜85%コンフルエンス)に達した。続いて起こるこれらの継代では、細胞を、5,000個の細胞/cmで播種した。細胞は、加湿インキュベーター中、5%の二酸化炭素により、37℃で成長した。
【0187】
いくつかの実験では、LIBERASE(2.5mg/mL,Blendzyme 3;Roche Applied Sciences,Indianapolis,IN)およびヒアルロニダーゼ(5単位/mL,Sigma)による消化の後、細胞は、DMEM−低グルコース培地中で、分娩後組織から単離される。組織の消化、および細胞の単離は、他のプロテアーゼ消化について前述したとおりであるが、LIBERASE/ヒアルロニダーゼ混合物を、C:DもしくはC:D:H酵素混合物の代わりに使用した。LIBERASEによる組織消化は、直ちに増殖した分娩後組織からの細胞集団の単離をもたらした。
【0188】
異なる酵素の組み合わせを用いて、臍帯から細胞を単離する処置を比較した。消化について比較された酵素は、i)コラゲナーゼ;ii)ディスパーゼ;iii)ヒアルロニダーゼ;iv)コラゲナーゼ:ディスパーゼ混合物(C:D);v)コラゲナーゼ:ヒアルロニダーゼ混合物(C:H);vi)ディスパーゼ:ヒアルロニダーゼ混合物(D:H);およびvii)コラゲナーゼ:ディスパーゼ:ヒアルロニダーゼ混合物(C:D:H)を含んだ。これらの異なる酵素消化条件を使用した細胞単離の差異を観察した(表5−1)。
【0189】
異なるアプローチによって臍帯から細胞の集まりを単離する、他の試みを行った。ある場合には、臍帯をスライスし、成長培地で洗浄して、血餅およびゼラチン質の材料を取り除いた。血液、ゼラチン質の材料、および成長培地の混合物を収集し、150xgで遠心分離した。ペレットを再懸濁し、成長培地において、ゼラチンコーティングしたフラスコ上に播種した。これらの実験から、容易に増殖した細胞集団を単離した。
【0190】
細胞はまた、NDRIから入手した臍帯血サンプルからも単離された。使用した単離プロトコルは、Ho, et al.による国際特許出願PCT/US2002/029971のものである。臍帯血のサンプル(それぞれ50mLおよび10.5mL)(NDRI,Philadelphia PA)を、溶解緩衝液(ろ過滅菌された(filter−sterilized)155ミリモルの塩化アンモニウム、10ミリモルの炭酸水素カリウム、0.1ミリモルの、pH7.2に緩衝化されたEDTA(全成分はSigma,St. Louis,MOより))と混合した。細胞は、臍帯血と溶解緩衝液が1:20の割合で溶解された。結果として得られた細胞懸濁液を5秒間ボルテックスし、周囲温度で2分間インキュベートした。可溶化液を遠心分離した(200xgで10分間)。細胞ペレットは、10%のウシ胎仔血清(Hyclone,Logan UT)、4ミリモルのグルタミン(Mediatech Herndon,VA)、100単位/mLのペニシリン、および100μg/mLのストレプトマイシン(Gibco,Carlsbad,CA)を含有するComplete Minimal Essential培地(Gibco,Carlsbad CA)中で再懸濁された。再懸濁した細胞を遠心分離し(200xgで10分間)、上澄みを吸引し、細胞ペレットを完全培地中で洗浄した。細胞を、T75フラスコ(Corning,NY)、T75ラミニンコートフラスコ、またはT175フィブロネクチンコートフラスコ(2つともBecton Dickinson,Bedford,MA)中に直接播種した。
【0191】
細胞集団を異なる条件下で単離し、単離直後にさまざまな条件下で増殖できるかどうかを決定するため、0.001%(v/v)の2−メルカプトエタノール(Sigma, St.Louis,MO)を含むかまたは含まない成長培地で、C:D:Hの酵素組み合わせを用いて、前記の手順に従って細胞を消化した。100単位/mLのペニシリンおよび100μg/mLのストレプトマイシンの存在下で全ての細胞が成長した。全試験条件下で、細胞は、0代継代と1代継代との間で、十分に付着し増殖した(表5−2)。5〜8および13〜16の条件での細胞は、播種後、細胞が低温保存される4回目の継代までは十分増殖したことが示された。
【0192】
C:D:Hの組み合わせは、単離後、最もよい細胞の収量を提供し、他の条件よりも多くの世代にわたって培養中に増殖した細胞を生成した(表5−1)。増殖可能な細胞集団は、コラゲナーゼまたはヒアルロニダーゼ単独を使用した場合では、得られなかった。この結果が試験したコラゲナーゼに特異的なものであるかどうかを判断する試みは行っていない。
【表7】

略語:+=良い、 ++=非常に良い、 +++=極めて良い、 X=成功せず
【0193】
細胞は、酵素消化および成長について試験した全条件下において、0代継代と1代継代との間で十分付着および増殖した(表5−2)。実験条件5〜8および13〜16の細胞は、低温保存される4回目の継代までは、播種後十分に増殖した。全ての細胞をさらなる分析のため、低温保存した。
【表8】

【0194】
有核細胞が、急速に付着および成長した。これらの細胞は、フローサイトメトリーにより分析され、酵素消化により得られた細胞と同様であった。
【0195】
製剤は、赤血球および血小板を含有した。最初の3週間は、有核細胞は付着および分裂しなかった。培地は、播種後3週間で変えられ、付着および成長した細胞は観察されなかった。
【0196】
細胞集団は、酵素の組み合わせ、すなわち、コラゲナーゼ(メタロプロテアーゼ)、ディスパーゼ(中性プロテアーゼ)およびヒアルロニダーゼ(ヒアルロン酸を分解する粘液溶解酵素)を用いて、効果的に臍組織から単離できた。コラゲナーゼと中性プロテアーゼとのブレンドであるLIBERASEも使用することができる。コラゲナーゼ(4Wunsch単位/g)およびサーモリシン(1714カゼイン単位/g)である、Blendzyme 3もヒアルロニダーゼと共に使用されて、細胞を分離した。これらの細胞は、成長増殖培地においてゼラチンコートプラスチック上で培養されると、多くの継代にわたり容易に増殖した。
【0197】
細胞は、臍帯中の残りの血液からも単離されたが、臍帯血からは分離されなかった。使用した条件下で付着および成長した、組織から洗浄された血餅中の細胞の存在は、切開プロセス中に放出されている細胞によるものであろう。
【0198】
実施例6
細胞の成長特性
臍由来細胞の細胞増殖能力を、他の単離された幹細胞集団と比較した。老化までの細胞増殖プロセスは、ヘイフリックの限界と呼ばれる(Hayflick, L, J. Am. Geriatr. Soc, 1974;22(1):1−12;Hayflick, L, Gerontologist, 1974;14(1):37−45)。
【0199】
組織培養プラスチックフラスコは、室温で、20分間、20mLの2%(w/v)ゼラチン(タイプB:225 Bloom; Sigma,St Louis,MO)をT75フラスコ(Corning Inc.,Corning,NY)に加えることによってコートされた。ゼラチン溶液の除去後、10mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(Invitrogen,Carlsbad,CA)が加えられ、その後吸引された。
【0200】
成長増殖能力の比較のため、以下の細胞集団を使用した;i)間葉系幹細胞(MSC;Cambrex,Walkersville,MD);ii)脂肪由来細胞(米国特許第6,555,374 Bl;米国特許出願公開US20040058412);iii)正常な皮膚線維芽細胞(cc−2509 ロット番号9F0844;Cambrex,Walkersville,MD);およびiv)臍由来細胞。細胞は、最初に5,000個の細胞/cmで、ゼラチンコートのT75フラスコに成長培地において播種された。その後の継代では、細胞培養を以下のとおり処理した。トリプシン処理後、トリパンブルー染色の後で生存細胞をカウントした。細胞懸濁液(50μL)を、トリパンブルー(50μL, Sigma,St. Louis MO)と混ぜ合わせた。生存細胞数は、血球計数器を用いて見積もった。
【0201】
カウントの後、細胞は、5,000個の細胞/cmで、ゼラチンコートT75フラスコに、25mLの新鮮な成長培地中で播種された。細胞は、37℃で、標準大気(5%(v/v)二酸化炭素)中で成長した。成長培地は、1週間に2回変えた。細胞が約85%のコンフルエンスに達すると、細胞を継代した;このプロセスは、細胞が老化に達するまで繰り返された。
【0202】
各継代で、細胞をトリプシン処理してカウントした。生存細胞収量、集団倍加[ln(最終の細胞/最初の細胞)/ln2]、および倍加時間(培養中の時間/集団倍加)を計算した。最適な細胞増殖を決定する目的で、継代当たりの総細胞収量が、各継代の増殖因子に、前の継代の総収量を掛け合わせることにより、決定された(すなわち、増殖因子=最終の細胞/最初の細胞)。
【0203】
10代継代で保存された(banked)の細胞の増殖能力も試験した。異なる1組の条件を使用した。正常な皮膚の線維芽細胞(cc−2509 ロット番号9F0844;Cambrex,Walkersville,MD)および臍由来細胞を試験した。これらの細胞集団は、その前に10代継代で保存されており、各継代5,000個の細胞/cmで、その時点まで培養されていた。10代継代での細胞解凍後の細胞集団に対する細胞密度の影響を決定した。細胞は、標準条件下で解凍され、トリパンブルー染色を用いてカウントされた。解凍した細胞は次に、成長培地中、1,000個の細胞/cmで播種された。細胞は、37℃で、通常の大気条件下で成長した。成長培地は1週間に2回変えられた。細胞は、約85%コンフルエンスに達すると、継代された。細胞は、その後、老化まで、すなわち、それ以上増殖できなくなるまで、継代された。細胞は、各継代で、トリプシン処理されカウントされた。細胞収量、集団倍加(ln(最終の細胞/最初の細胞)/ln2)、および倍加時間(培養中時間)/集団倍加)を計算した。継代当たりの総細胞収量は、各継代の増殖因子に、その前の継代の総収量を掛け合わせることにより決定された(すなわち、増殖因子=最終の細胞/最初の細胞)。
【0204】
低細胞播種条件下での、新たに単離された臍由来細胞培養物の増殖能力を、別の実験で試験した。臍由来細胞は、先の実施例で述べたように単離された。細胞は、1,000個の細胞/cmで播種され、老化するまで前記のように継代された。細胞は、37℃で、標準的な大気条件下で成長した。成長培地は、1週間に2回変えられた。細胞は、約85%コンフルエンスに達すると継代された。各継代では、細胞は、トリプシン処理され、トリパンブルー染色によりカウントされた。細胞収量、集団倍加(ln(最終の細胞/最初の細胞)/ln2)、および倍加時間(培養中の時間/集団倍加)を、各継代について計算した。継代当たりの総細胞収量は、各継代の増殖因子と、先の継代の総収量を掛け合わせることにより決定された(すなわち、増殖因子=最終的な細胞/最初の細胞)。細胞は、ゼラチンコートのフラスコ、および非ゼラチンコートのフラスコで成長した。
【0205】
低O細胞培養条件が、ある場合には、細胞増殖を改善し得ることが証明されている(例えば、US20040005704を参照)。臍由来細胞の細胞増殖が、細胞培養条件を変えることにより改善され得るかどうかを決定するため、臍由来細胞の培養物を低酸素条件で成長させた。細胞は、成長培地中で、ゼラチンコートしたフラスコに、5,000個の細胞/cmで播種された。細胞は、最初は、5代継代にわたり標準的な大気条件下で培養され、5代継代の時点で、低酸素(5% O)培養条件に移された。
【0206】
他の実験では、細胞は、コーティングなしのプレート、コラーゲンコートされたプレート、フィブロネクチンコートされたプレート、ラミニンコートされたプレート、およびマトリゲルコートされたプレート上で増殖された。培養物は、これらの異なるマトリックス上で十分増殖することが示された。
【0207】
臍由来細胞は、40継代超にわたり増殖し、60日で>1E17個の細胞の細胞収量を生成した。それとは対照的に、MSCおよび線維芽細胞は、<25日後、および<60日後にそれぞれ老化した。脂肪由来細胞および網細胞は双方、ほぼ60日にわたり増殖したが、これらは、4.5E12および4.24E13の総細胞収量をそれぞれ生成した。したがって、使用した実験条件下で、5,000個細胞/cmで播種されると、臍由来細胞は、同じ条件下で成長した他の細胞型よりも、はるかによく増殖した(表6−1)。
【表9】

【0208】
臍由来細胞および線維芽細胞は、10継代超にわたり増殖し、60日で>IE11個の細胞の細胞収量を生成した(表6−2)。これらの条件下では、線維芽細胞および臍由来細胞の集団双方が、80日後に老化し、それぞれ>50集団倍加および>40集団倍加を完了した。
【表10】

【0209】
細胞は低酸素条件下で十分に増殖するが、低酸素条件下での培養は、分娩後由来細胞の細胞増殖に対してはあまり効果がないようである。これらの結果は、低酸素の影響に関して下されるあらゆる究極的結論は、最初の単離から低酸素中における成長細胞に対する実験から引き出されるのが最も良いという意味では、予備的なものである。標準的大気条件は、十分な数の細胞を成長させるのにうまくいくことが既に証明されており、低酸素培養は、分娩後由来細胞の成長には必要でない。
【0210】
標準的な大気中酸素の下、約5,000個の細胞/cm密度で、成長培地中で、ゼラチンコートされるかまたはコートされないフラスコ上で、単離された臍由来細胞を成長させる現在の細胞増殖条件は、多数の細胞を11代継代で生成するのに十分である。さらに、データは、細胞が低密度培養条件(例えば、1,000個細胞/cm)を用いて容易に増殖し得ることを示唆している。低酸素条件における臍由来細胞増殖も、細胞増殖を促進するが、細胞増殖能力の漸進的改善は、これらの成長条件を使用した場合に、観察されていない。現在、標準的な大気条件下で臍由来細胞を培養することが、細胞の大きな集まりを生成するのに好ましい。しかしながら、培養条件を変えた場合、臍由来細胞増殖は同様に変えられることができる。このストラテジーを用いて、これらの細胞集団の増殖および分化能力を高めることができる。
【0211】
利用した条件下で、MSCおよび脂肪由来細胞の増殖能力は限られているが、臍由来細胞は、容易に多くの数まで増殖した。
【0212】
実施例7 D‐バリン含有培地での細胞成長
通常のL−バリンアイソフォームの代わりにD−バリンを含有する培地を用いて、培養中の線維芽細胞様細胞の成長を選択的に抑制できることが報告されている(Hongpaisan, J, Cell Biol Int., 2000;24:1−7;Sordillo, L M, et al.,Cell Biol Int Rep.,1988;12:355−64)。実験を行って、臍由来細胞が、D−バリンを含有する培地で成長できるかどうか判断した。
【0213】
臍由来細胞(P5)および線維芽細胞(P9)を、5,000個細胞/cmで、ゼラチンコートT75フラスコ(Corning,Corning,NY)において播種した。24時間後、培地を取り除き、細胞を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(Gibco,Carlsbad,Ca.)で洗浄して、残りの培地を取り除いた。培地は、修飾成長培地(D−バリンを含むDMEM(特注品 Gibco)、15%(v/v)透析ウシ胎仔血清(Hyclone,Logan,UT)、0.001%(v/v)βメルカプトエタノール(Sigma)、50単位/mLのペニシリン、および50mg/mLのストレプトマイシン(Gibco))と取り替えられた。
【0214】
D−バリン含有培地に播種された臍由来細胞および線維芽細胞は、透析血清を含有する成長培地に播種された細胞と異なり、増殖しなかった。線維芽細胞は形態学的に変化し、サイズが大きくなり、形状が変わった。細胞は全て死滅し、最終的には、4週間後にフラスコ表面から離れた。したがって、臍帯組織由来細胞は、細胞成長のため、および長期間の生存を維持するために、L−バリンを必要とすると結論付けることができる。L−バリンは、好ましくは、臍帯組織由来細胞については成長培地から取り除かれない。
【0215】
実施例8
細胞の核型分析
細胞療法に使用される細胞株は、好ましくは、同種であり、汚染細胞型を含まない。細胞療法に使用されるヒト細胞は、正常な構造を有する、正常な数(46個)の染色体を有していなければならない。同種であり、臍組織由来でない細胞を含まない、臍由来細胞株を識別するため、細胞サンプルの核型を分析した。
【0216】
オスの新生仔(male neonate)の分娩後組織からのUTCを成長培地で培養した。オスの新生仔からの分娩後組織(X、Y)は、新生児由来細胞と母系由来細胞(X、X)との間で識別を行うように選択された。細胞は、1平方センチ当たり5,000個の細胞で、T25フラスコ(Corning,Corning,NY)中、成長培地において播種され、80%コンフルエンスまで増殖された。細胞を含有するT25フラスコは、ネック部分まで成長培地を入れられた。サンプルは、臨床組織遺伝学研究所までクーリエにより送達された(研究所間の輸送時間は1時間と予測される)。染色体分析は、ニュージャージー州ニューアークのNew Jersey Medical SchoolにあるCenter for Human & Molecular Geneticsにより行われた。細胞は、染色体が最もよく見える分裂中期の間に分析された。カウントされた分裂中期の20個の細胞のうち、5個が、正常な同種核型数(2)について分析された。細胞サンプルは、2つの核型が観察された場合に同種であると特徴付けられた。細胞サンプルは、3つ以上の核型が観察された場合に異種であると特徴付けられた。異種性の核型数(4)が識別されると、追加の分裂中期細胞をカウントし、分析した。
【0217】
染色体分析に送られた全細胞サンプルは、細胞遺伝学研究室のスタッフによって、正常外見を呈していると解釈された。分析された16の細胞株のうち3つが、異種性の表現型(XXおよびXY)を表し、これは、新生児由来および母系由来の双方に由来する細胞が存在することを示している(表8−1)。細胞サンプルはそれぞれ、同種であると特徴付けられた(表8−1)。
【表11】

【0218】
染色体分析は、臨床細胞遺伝学研究室により解釈されたように、核型が正常である臍由来UTCを識別した。核型分析はまた、同種核型により判断される、母系性細胞を含まない細胞株も識別した。
【0219】
実施例9
細胞表面マーカーのフローサイトメトリー評価
フローサイトメトリーによる細胞表面タンパク質または「マーカー」の特徴づけを用いて、細胞株の同一性を判断することができる。発現の一貫性は、複数のドナーから、異なる処理および培養条件にさらされた細胞において、判断され得る。臍から単離された分娩後細胞株は、フローサイトメトリーにより特徴付けられ、これらの細胞株の同定のプロファイルを与えた。
【0220】
細胞は、プラズマ処理されたT75、T150、およびT225組織培養フラスコ(Corning,Corning,NY)中、成長培地で、コンフルエントまで培養された。フラスコの成長表面は、2%(w/v)ゼラチン(Sigma,St. Louis,MO)を20分間室温でインキュベートすることにより、ゼラチンによりコートされた。
【0221】
フラスコ中の付着細胞を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS);(Gibco,Carlsbad,MO)で洗浄し、トリプシン/EDTA(Gibco)で分離した。細胞を回収し、遠心分離し、PBS中の3%(v/v)FBSで、1x10/mLの細胞濃度で再懸濁した。製造業者の仕様書に従って、目的の細胞表面マーカーに対する抗体(以下参照)が、100μLの細胞懸濁液に加えられ、混合物が、30分間4℃で暗所においてインキュベートされた。インキュベーション後、細胞を、PBSで洗浄し、遠心分離して、非結合抗体を除去した。細胞を、500μLのPBS中に再懸濁して、フローサイトメトリーにより分析した。フローサイトメトリー分析は、FACS calibur器具(Becton Dickinson,San Jose,CA)を用いて行った。
【0222】
細胞表面マーカーに対する以下の抗体を使用した。
【表12】

【0223】
臍由来細胞は、8代継代、15代継代、および20代継代で分析された。
【0224】
ドナー間の差異を比較するため、異なるドナー由来の臍帯組織由来細胞を互いに比較した。
【0225】
ゼラチンコートフラスコで培養された臍由来細胞もまた、非コートフラスコで培養された臍由来細胞と比較された。
【0226】
細胞の単離および準備に使用される4つの処理を比較した。1)コラゲナーゼ;2)コラゲナーゼ/ディスパーゼ;3)コラゲナーゼ/ヒアルロニダーゼ;および4)コラゲナーゼ/ヒアルロニダーゼ/ディスパーゼでの処理による、分娩後組織由来の細胞を比較した。
【0227】
フローサイトメトリーで分析した、8代継代、15代継代、および20代継代における臍帯由来細胞は全て、IgG対照に対する蛍光の増大で示される、CD10、CD13、CD44、CD73、CD90、PDGFr−αおよびHLA−A、B、Cを発現した。これらの細胞は、CD31、CD34、CD45、CD117、CD141、およびHLA−DR、DP、DQに対して陰性であり、これは、IgG対照と一致する蛍光値により示される。
【0228】
フローサイトメトリーにより分析された別個のドナーから単離された臍帯由来細胞はそれぞれ、CD10、CD13、CD44、CD73、CD90、PDGFr−α、およびHLA−A、B、Cの産生に対して陽性を示し、これは、IgG対照に対する蛍光値の増大に反映される。これらの細胞は、CD31、CD34、CD45、CD117、CD141、およびHLA−DR、DP、DQの産生に対して陰性であり、蛍光値はIgG対照と一致した。
【0229】
フローサイトメトリーにより分析された、ゼラチンコートフラスコおよび非コートフラスコで増殖した臍帯由来細胞は全て、CD10、CD13、CD44、CD73、CD90、PDGFr−α、およびHLA−A、B、Cの産生に対して陽性であり、IgG対照に対する蛍光値は増大した。これらの細胞は、CD31、CD34、CD45、CD117、CD141、およびHLA−DR、DP、DQの産生に対しては陰性であり、蛍光値は、IgG対照と一致していた。
【0230】
フローサイトメトリーによる臍帯由来細胞分析は、これらの細胞株の同一性を証明した。これらの臍帯由来細胞は、CD10、CD13、CD44、CD73、CD90、PDGFr−α、およびHLA−A、B、Cに対して陽性であり、CD31、CD34、CD45、CD117、CD141、およびHLA−DR、DP、DQに対して陰性である。この同一性は、ドナー、継代、培養容器表面コーティング、消化酵素および胎盤層を含む変数の変動間で一致していた。個々の蛍光値のヒストグラム曲線平均および範囲におけるいくらかの変動が観察されたが、試験した全条件下での全ての正の曲線(positive curves)は、正常であり、IgG対照より大きな蛍光値を発現したため、細胞は、マーカーの陽性発現を有する同種集団を含むことが、確認される。
【0231】
実施例10
オリゴヌクレオチドアレイによる細胞の分析
オリゴヌクレオチドアレイを使用して、臍由来細胞および胎盤由来細胞の遺伝子発現プロファイルを、線維芽細胞、ヒト間葉系幹細胞、およびヒト骨髄由来の別の細胞株と比較した。この分析により、分娩後由来細胞の特徴付けがもたらされ、これらの細胞に対する独自の分子マーカーが識別された。
【0232】
分娩後組織由来細胞。ヒト臍帯および胎盤が、患者の同意を得て、正常満期分娩から、National Disease Research Interchange(NDRI,Philadelphia,PA)によって入手された。組織を受け取り、C:D:H混合物による消化後、実施例5に記載するように細胞を単離した。細胞は、成長培地において、ゼラチンコートプラスチック組織培養フラスコ上で培養された。培養物は、37℃、5%のCOでインキュベートされた。
【0233】
線維芽細胞。ヒトの皮膚線維芽細胞を、Cambrex Incorporated(Walkersville,MD;ロット番号9F0844)およびATCC CRL−1501(CCD39SK)から購入した。いずれの株も、10%(v/v)ウシ胎仔血清(Hyclone)、およびペニシリン/ストレプトマイシン(Invitrogen)を含むDMEM/F12培地(Invitrogen,Carlsbad,CA)で培養した。細胞は、標準の組織処理プラスチック上で成長した。
【0234】
ヒト間葉系幹細胞(hMSC)。hMSCsを、Cambrex Incorporated(Walkersville,MD;ロット番号2F1655、2F1656および2F1657)から購入し、製造業者の仕様書に従って、MSCGM培地(Cambrex)で培養した。細胞は、標準の組織培養プラスチック上で37℃、5%COで成長した。
【0235】
ヒト腸骨稜骨髄細胞(ICBM)。ヒト腸骨稜骨髄は、患者の同意を得てNDRIから受け取った。骨髄を、Ho, et al.により概説された方法に従って処理した(WO03/025149)。骨髄は、溶解緩衝液(155mMのNHCl、10mMのKHCO、および0.1mMのEDTA、pH7.2)と、1部の骨髄:20部の溶解緩衝液の割合で混合された。細胞懸濁液は、ボルテックスされ、周囲温度で2分間インキュベートされ、500xgで10分間遠心分離された。上澄みを廃棄し、細胞ペレットを、10%(v/v)ウシ胎仔血清および4mMのグルタミンを補充された、最小基本培地−α(Invitrogen)中で再懸濁した。細胞をもう一度遠心分離し、細胞ペレットを、新鮮培地で再懸濁した。生存単核細胞が、トリパンブルー排除(Sigma,St. Louis,MO)を用いてカウントされた。単核細胞は、プラスチック組織培養フラスコ中、5x10個の細胞/cmで播種された。細胞は、37℃、5%COで、標準の周囲Oもしくは5%Oで、インキュベートされた。細胞は、培地を変えずに5日間培養された。培地および非付着細胞を、培養から5日後に除去した。付着細胞は、培養物中に維持された。
【0236】
細胞の、活発に成長する培養物は、冷たいリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中、細胞スクレーパーによりフラスコから除去された。細胞を、300xgで5分間遠心分離した。上澄みを除去し、細胞を新鮮なPBS中に再懸濁し、再び遠心分離した。上澄みを除去し、細胞ペレットをすぐに冷凍し、−80℃で保管した。細胞mRNAが抽出され、cDNAに転写された。cDNAは次に、cRNAに転写され、ビオチン標識された。ビオチン標識cRNAは、Affymetrix GENECHIP HG−U133A オリゴヌクレオチドアレイ(Affymetrix,Santa Clara,CA)によりハイブリダイズされた。ハイブリダイゼーションおよびデータ収集を、製造業者の仕様書に従って行った。データ分析が、「Significance Analysis of Microarrays」(SAM)バージョン1.21コンピューターソフトウェア(Tusher, V.G. et al.,2001, Proc. Natl. Acad. ScL USA 98:5116−5121)を用いて行われた。分析ソフトウェアのライセンスは、スタンフォード大学のOffice of Technology Licensingを通じて入手でき、さらなる情報は、スタンフォード大学の統計学部のTibshirani教授のウェブサイトで、ワールドワイドウェブ(www−stat.stanford.edu/〜tibs/SAM/)で入手することができる。
【0237】
14個の異なる細胞集団を、この研究では分析した。継代情報、培養基質、および培養培地と共に細胞を表10−1に挙げる。
【表13】

【0238】
データは、前記のようにSAMソフトウェアで、主要成分分析によって評価された。分析により、試験した細胞において異なる相対量で発現した290個の遺伝子が明らかになった。この分析により、集団間の相対比較がもたらされた。
【0239】
表10−2は、細胞対の比較のために計算されたユークリッド距離を示す。ユークリッド距離は、細胞型間で差次的に発現した290個の遺伝子に基づいた細胞の比較に基づいていた。ユークリッド距離は、290個の遺伝子の発現間の類似性に反比例している。
【表14】

【0240】
表10−3、10−4および10−5は、胎盤由来細胞で増加した遺伝子の発現(表10−3)、臍帯由来細胞で増加した遺伝子の発現(表10−4)、ならびに臍帯および胎盤由来細胞で減少した遺伝子の発現(表10−5)を示す。
【表15】

【表16】

【表17−1】

【表17−2】

【0241】
表10−6、10−7、および10−8は、ヒト線維芽細胞(表10−6)、ICBM細胞(表10−7)、およびMSC(表10−8)で増加した遺伝子の発現を示す。
【表18】

【表19】

【表20】

【0242】
本実施例は、臍帯および胎盤由来の細胞の分子の特徴づけをもたらすために実行された。この分析は、3つの異なる臍帯および3つの異なる胎盤由来の細胞を含んだ。研究はまた、2つの異なる皮膚線維芽細胞株、3つの間葉系幹細胞株、および3つの腸骨稜骨髄細胞株も含んだ。これらの細胞により発現されたmRNAは、オリゴヌクレオチドプローブを含むGENECHIPオリゴヌクレオチドアレイにおいて、22,000個の遺伝子について分析された。
【0243】
分析により、290個の遺伝子の転写物が、これらの5つの異なる細胞型に、異なる量で存在したことが明らかになった。これらの遺伝子は、胎盤由来細胞で特に増加した10個の遺伝子、および臍帯由来細胞で特に増加した7個の遺伝子を含む。54個の遺伝子が、胎盤由来細胞および臍帯組織由来細胞において特に低い発現レベルを有することが分かった。
【0244】
選択された遺伝子の発現は、実施例11に示すようにPCRで確認された。一般的には、分娩後由来細胞、詳細には臍由来細胞は、例えば、ここで試験した骨髄由来細胞および線維芽細胞などの、他のヒト細胞と比較すると、別個の遺伝子発現プロファイルを有する。
【0245】
実施例11
細胞マーカー
ヒト臍帯由来の細胞の遺伝子発現プロファイルが、Affymetrix GENECHIPを用いて、他の供給源由来の細胞のものと比較された。6つの「シグネチャー(signature)」遺伝子が識別された、すなわち、酸化LDLレセプター1(oxidized LDL receptor 1)、インターロイキン−8(interleukin-8)(IL−8)、レニン(renin)、レティキュロン(reticulon)、ケモカインレセプターリガンド3(chemokine receptor ligand 3)(CXCリガンド3(CXC ligand 3))、および顆粒球走化性タンパク質2(granulocyte chemotactic protein 2)(GCP−2)である。これらの「シグネチャー」遺伝子は、臍由来細胞において比較的高いレベルで発現した。
【0246】
この実施例で説明される手順は、マイクロアレイデータを確認し、遺伝子およびタンパク質の発現についてデータを比較するため、ならびに、臍由来細胞について独自の識別子を検出する一連の確実なアッセイを確立するために、実行された。
【0247】
臍由来細胞(4つの分離物(isolates))、および正常なヒトの皮膚線維芽細胞(NHDF;新生児および成体)を、ゼラチンコートT75フラスコで、成長培地において成長させた。間葉系幹細胞(MSC)が、間葉系幹細胞成長培地Bulletキット(MSCGM;Cambrex,Walkerville,MD)で成長した。
【0248】
IL−8実験について、細胞が、液体窒素から解凍され、ゼラチンコートフラスコに、5,000個の細胞/cmで蒔かれ、成長培地で48時間成長し、10mLの血清飢餓培地[DMEM−低グルコース(Gibco,Carlsbad,CA)、ペニシリン(50単位/mL)、ストレプトマイシン(50μg/mL)(Gibco)、および0.1%(w/v)ウシ血清アルブミン(BSA; Sigma,St. Louis,MO)]で8時間さらに成長した。RNAを次に抽出し、上澄みを、150xgで5分間遠心分離して、細胞の残骸を除去した。上澄みを、ELISA分析まで−80℃で凍らせた。
【0249】
臍帯組織由来細胞、ならびに、ヒト新生児包皮由来のヒト線維芽細胞を、ゼラチンコートT75フラスコにおいて、成長培地で培養した。細胞は、液体窒素中で、11代継代において凍らせた。細胞を解凍し、15mL遠心分離チューブに移した。150xgで5分間の遠心分離の後、上澄みを捨てた。細胞を、4mLの培養培地中に再懸濁し、カウントした。細胞は、15mLの成長培地を含む75cmフラスコにおいて、375,000個の細胞/フラスコで24時間、成長した。培地は、8時間かけて血清飢餓培地に変えた。血清飢餓培地は、インキュベーションの最後に収集され、14,000xgで5分間遠心分離され、−20℃で保管された。
【0250】
各フラスコ内の細胞数を見積もるため、2mLのトリプシン/EDTA(Gibco,Carlsbad,CA)を各フラスコに加えた。細胞がフラスコから離れた後、トリプシン活性が、8mLの成長培地で中和された。細胞を、15mL遠心分離チューブに移し、150xgで5分間、遠心分離した。上澄みを除去し、1mLの成長培地を各チューブに加えて、細胞を再懸濁させた。細胞の数は、血球計数器により判断された。
【0251】
細胞が血清飢餓培地中に分泌したIL−8の量は、ELISAアッセイ(R&D Systems,Minneapolis,MN)を使用して分析された。全てのアッセイは、製造業者が提供する説明書に従って行われた。
【0252】
RNAを、コンフルエントの臍帯由来細胞および線維芽細胞から、またはIL−8発現のため、前記のとおり処理された細胞から、抽出した。細胞は、製造業者の説明書(RNeasy Mini Kit;Qiagen,Valencia,CA)に従って、βメルカプトエタノールを含有する、350μLの緩衝液RLT(Sigma,St. Louis,MO)で溶解した。RNAは、製造業者の説明書(RNeasy Mini Kit;Qiagen,Valencia,CA)に従って抽出され、デオキシリボヌクレアーゼ処理にかけられた(2.7単位/サンプル)(Sigma St. Louis,MO)。RNAは、50μLのDEPC処理水により溶出し、−80℃で保管された。RNAはまた、ヒト臍帯からも抽出された。組織(30mg)は、βメルカプトエタノールを含有する700μLの緩衝液RLT中に懸濁された。製造業者の仕様書に従って、サンプルを機械的に均質化し、RNA抽出を進めた。RNAは、50μLのDEPC処理水で抽出され、−80℃で保管された。
【0253】
RNAは、TaqMan逆転写試薬(Applied Biosystems,Foster City,CA)と共にランダムヘキサマーを使用して、25℃で10分間、37℃で60分間、95℃で10分間、逆転写された。サンプルを−20℃で保管した。
【0254】
cDNAマイクロアレイによって臍帯細胞で特異的に調節されたとして識別された遺伝子(シグネチャー遺伝子‐酸化LDLレセプター、インターロイキン−8、レニン、およびレティキュロンを含む)は、リアルタイムPCRおよび従来のPCRを使用して、さらに調べられた。
【0255】
PCRは、商品名Assays−on−Demand(Applied Biosystems)遺伝子発現産物として販売される遺伝子発現産物を用いて、cDNAサンプルに対して行われた。酸化LDLレセプター(Hs00234028);レニン(HsOO166915);レティキュロン(Hs00382515);CXCリガンド3(Hs00171061);GCP−2(Hs00605742);IL−8(Hs00174103);およびGAPDHが、7000配列検出システムをABI Prism 7000 SDSソフトウェア(Applied Biosystems)と共に使用して、製造業者の説明書(Applied Biosystems)に従って、cDNAおよびTaqMan Universal PCRマスターミックスと混合された。熱サイクル条件は、最初は、50℃で2分間、および95℃で10分間で、その後、95℃で15秒間、および60℃で1分間の40サイクルが続いた。PCRデータは、製造業者の仕様書(ABI Prism 7700 Sequence Detection SystemについてApplied BiosystemsからのUser Bulletin #2)に従って分析された。
【0256】
従来のPCRは、リアルタイムPCRからの結果を確認するため、ABI PRISM 7700(Perkin Elmer Applied Biosystems,Boston,MA)を用いて行われた。PCRは、2μLのcDNA溶液(1xTaqポリメラーゼ(商品名:AMPLITAQ GOLD)ユニバーサルミックスPCR反応緩衝液(Applied Biosystems)および初期変性を使用して、94℃で5分間行われた。増幅が、各プライマーセットについて最適化された。IL−8、CXCリガンド3、およびレティキュロン(94℃で15秒間、55℃で15秒間、および72℃で30秒を30サイクル);レニン(94℃で15秒間、53℃で15秒間、および72℃で30秒間を38サイクル);酸化LDLレセプターおよびGAPDH(94℃で15秒間、55℃で15秒間、および72℃で30秒間を33サイクル)。増幅に使用したプライマーを表11−1に挙げる。最終PCR反応におけるプライマー濃度は1マイクロモルであったが、これは、0.5マイクロモルであったGAPDHを除く。GAPDHプライマーは、製造業者のTaqManプローブが最終PCR反応に加えられなかったことを除けば、リアルタイムPCRと同じであった。サンプルは、2%(w/v)アガロースゲル上で分離され、臭化エチジウム(Sigma,St. Louis,MO)で染色された。画像が、単焦点POLAROIDカメラ(VWR International,South Plainfield,NJ)を使用して、667フィルム(Universal Twinpack, VWR International,South Plainfield,NJ)に取り込まれた。
【表21】

【0257】
臍帯由来細胞が、4%(w/v)の冷パラホルムアルデヒド(Sigma−Aldrich,St. Louis,MO)で10分間、室温にて固定された。0代継代(P0)(単離直後)および11代継代(P11)における臍帯由来細胞のそれぞれ1つの単離物(臍帯由来細胞の2つの単離物)、ならびに線維芽細胞(P11)の単離物を使用した。免疫細胞化学は、以下のエピトープに対する抗体を用いて行った。エピトープは、ビメンチン(1:500,Sigma,St. Louis,MO)、デスミン(1:150;Sigma − ウサギに対して産生;または1:300;Chemicon,Temecula,CA− マウスに対して産生)、α平滑筋アクチン(SMA;1:400;Sigma)、サイトケラチン18(CK18;1:400;Sigma)、フォン・ヴィルブランド因子(vWF;1:200;Sigma),およびCD34(ヒトCD34クラスIII;1:100;DAKOCytomation,Carpinteria,CA)である。さらに、以下のマーカーを、11代継代臍帯由来細胞に対して試験した:抗−ヒトGROα−PE(1:100;Becton Dickinson,Franklin Lakes,NJ)、抗−ヒトGCP−2(1:100;Santa Cruz Biotech,Santa Cruz,CA)、抗−ヒト酸化LDLレセプター1(ox−LDL R1;1:100;Santa Cruz Biotech)、および抗−ヒトNOGA−A(1:100;Santa Cruz,Biotech)。
【0258】
培養物を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、PBS、4%(v/v)ヤギ血清(Chemicon,Temecula,CA)、および0.3%(v/v)トリトン(トリトンX−100;Sigma,St. Louis,MO)を含むタンパク質遮断溶液に30分間さらして、細胞内抗原にアクセスした。目的のエピトープ(CD34, ox−LDL R1)が細胞表面に位置する場合、トリトンX−100は、エピトープ損失を防ぐために手順の全工程で省略した。さらに、一次抗体がヤギに対して産生された場合(GCP−2,ox−LDL R1,NOGO−A)、3%(v/v)のロバ血清をプロセス全体にわたって、ヤギ血清の代わりに使用した。遮断溶液中で希釈された一次抗体を次に、1時間にわたり室温で培養物に加えた。一次抗体溶液を除去し、ヤギ抗マウスIgG−Texas Red(1:250;Molecular Probes,Eugene,OR)および/またはヤギ抗ウサギIgG−Alexa 488(1:250;Molecular Probes)またはロバ抗ヤギIgG−FITC(1:150,Santa Cruz Biotech)と共に遮断溶液(block)を含む二次抗体溶液(室温で1時間)を加える前に、培養物をPBSで洗浄した。培養物をその後洗浄し、10マイクロモルのDAPI(Molecular Probes)を10分間適用して、細胞核を可視化する。
【0259】
免疫染色後、Olympus倒立落射蛍光顕微鏡(Olympus,Melville,NY)上で適切な蛍光フィルターを用いて、蛍光を可視化した。いずれの場合も、一次抗体溶液を適用したことを除いて前記に概説した手順全体に従った場合、ポジティブ染色は対照染色を超えて蛍光信号を表した(1°対照なし)。代表的な画像が、デジタルカラービデオカメラ、およびImageProソフトウェア(Media Cybernetics,Carlsbad,CA)を用いて取り込まれた。三重染色(triple−stained)サンプルでは、各画像は、1回にただ1つの放出フィルターを使用して撮られた。層をなすモンタージュが、次に、Adobe Photoshopソフトウェア(Adobe,San Jose,CA)を用いて準備された。
【0260】
フラスコ中の付着細胞が、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(Gibco,Carlsbad,CA)中で洗浄され、トリプシン/EDTA(Gibco,Carlsbad,CA)により分離された。細胞を回収し、遠心分離し、1x10/mLの細胞濃度で、PBS中3%(v/v)FBSで再懸濁させた。100μLのアリコートを円錐チューブへ送った。細胞内抗原について染色された細胞は、Perm/Wash緩衝液(BD Pharmingen,San Diego,CA)で透過処理された。製造業者の仕様書のとおり、抗体を、アリコートに加え、細胞を、暗所で30分間、4℃でインキュベートした。インキュベーション後、細胞をPBSで洗浄し、遠心分離して、余分な抗体を除去した。二次抗体を必要とする細胞を、100μLの3%FBSで再懸濁した。二次抗体を、製造業者の仕様書に従って加え、細胞を、暗所で30分間、4℃でインキュベートした。インキュベーション後、細胞をPBSで洗浄し、遠心分離して、余分な二次抗体を除去した。洗浄した細胞を、0.5mLのPBSで再懸濁し、フローサイトメトリーにより分析した。以下の抗体を使用した:酸化LDLレセプター1(sc−5813;Santa Cruz,Biotech)、GROa(555042;BD Pharmingen,Bedford,MA)、マウスIgG1κ(P−4685およびM−5284;Sigma)、ならびにロバ抗ヤギIgG(sc−3743;Santa Cruz,Biotech.)。フローサイトメトリー分析が、FACScalibur(Becton Dickinson San Jose,CA)によって行われた。
【0261】
ヒト臍帯由来の細胞、成体および新生児線維芽細胞、ならびに間葉系幹細胞(MSC)からのcDNAに対して行われた、選択された「シグネチャー」遺伝子に関するリアルタイムPCRの結果は、レティキュロンおよび酸化LDLレセプター双方の発現が、臍由来細胞の方が、その他の細胞に比べて高かったことを示している。リアルタイムPCRから得られたデータは、ΔΔCT方法によって分析され、対数尺度で表示された。分娩後細胞と対照との間では、CXCリガンド3およびGCP−2の発現レベルに有意な差は見られなかった。リアルタイムPCRの結果が、従来のPCRにより確認された。PCR産物の配列決定が、これらの観察をさらに確認した。表11‐1に挙げた従来のPCR CXCリガンド3プライマーを使用して、分娩後細胞と対照との間で、CXCリガンド3の発現レベルに有意差は見られなかった。
【0262】
臍帯組織由来細胞におけるサイトカイン、IL−8の発現は、成長培地で培養した臍帯組織由来細胞、および血清が欠乏した臍帯組織由来細胞の双方で、上昇した。リアルタイムPCRデータ全てが、従来のPCRで、またPCR産物を配列決定することによって、有効であった。
【0263】
無血清培地で成長した後、馴化培地が、IL−8の存在について調べられた。最も多い量のIL−8が、臍細胞が成長した培地で検出された(表11‐2)。ヒトの皮膚線維芽細胞が成長した培地では、IL−8が検出されなかった。
【表22】

【0264】
0代継代でのヒト臍帯由来の細胞が、免疫細胞化学的分析によって、選択されたタンパク質の産生について調べられた。単離(0代継代)直後、細胞は、4%パラホルムアルデヒドで固定され、6個のタンパク質の抗体に曝露された。それらのタンパク質とは、フォン・ヴィルブランド因子、CD34、サイトケラチン18、デスミン、α−平滑筋アクチン、およびビメンチンである。臍帯由来細胞は、α−平滑筋アクチンおよびビメンチンに対して陽性であり、染色パターンは、11代継代にわたり一貫していた。
【0265】
11代継代での臍帯由来細胞におけるGROα、GCP−2、酸化LDLレセプター1およびレティキュロン(NOGO−A)の産生を、免疫細胞化学により調べた。臍帯由来細胞は、GCP−2陽性であったが、GROαの産生は、この方法では検出されなかった。さらに、細胞は、NOGO−A陽性であった。
【0266】
マイクロアレイおよびPCR(リアルタイムおよび従来のもの)により測定された遺伝子発現レベル間の一致が、4つの遺伝子:酸化LDLレセプター1、レニン、レティキュロン、およびIL−8について証明された。これらの遺伝子の発現は、臍帯由来細胞において、mRNAレベルで差次的に調節され、IL−8も、タンパク質レベルで差次的に調節された。GCP−2およびCXCリガンド3の差次的発現は、mRNAレベルでは確認されなかった。この結果は、マイクロアレイ実験からもともと入手されたデータを支持するものではないが、これは、方法の感受性における違いによるものであろう。
【0267】
0代継代でのヒト臍帯由来の細胞が、α−平滑筋アクチンおよびビメンチンの発現について調べられ、この双方について陽性であった。染色パターンは、11代継代にわたり保たれた。
【0268】
結論として、完全なmRNAデータは、マイクロアレイ実験から入手したデータを、少なくとも部分的に検証した。
【0269】
実施例12
細胞表現型の免疫組織化学的特徴付け
ヒト臍帯組織内で発見された細胞の表現型を、免疫組織化学的検査により分析した。
【0270】
ヒト臍帯組織を回収し、4%(w/v)パラホルムアルデヒドで一晩、4℃で浸漬固定した。免疫組織化学的検査が、以下のエピトープに対する抗体を用いて行われた(表12−1)。エピトープは、ビメンチン(1:500;Sigma,St. Louis,MO)、デスミン(1:150,ウサギに対して産生;Sigma;または1:300,マウスに対して産生;Chemicon,Temecula,CA)、α−平滑筋アクチン(SMA;1:400;Sigma)、サイトケラチン18(CK18;1:400;Sigma)、フォン・ヴィルブランド因子(vWF;1:200;Sigma)、およびCD34(ヒトCD34クラスIII;1:100;DAKOCytomation,Carpinteria, CA)である。さらに、以下のマーカーを試験した。そのマーカーは、抗ヒトGROα−PE(1:100;Becton Dickinson,Franklin Lakes,NJ)、抗ヒトGCP−2(1:100;Santa Cruz Biotech,Santa Cruz,CA)、抗ヒト酸化LDLレセプター1(ox−LDL R1;1:100;Santa Cruz Biotech)、および抗ヒトNOGO−A(1:100;Santa Cruz Biotech)である。固定された検体は、メスで刈り込まれ、エタノールを含むドライアイス浴上で、OCT包埋化合物(Tissue−Tek OCT;Sakura,Torrance,CA)の中に置かれた。凍結ブロックは、標準のクリオスタット(Leica Microsystems)を用いて切開され(10μm(10ミクロン)厚さ)、染色のため、スライドガラスに載せられた。
【0271】
免疫組織化学的検査が、先の研究と同様に行われた(例えば、Messina et al.,Exper. Neurol, 2003;184:816−829)。組織切片を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、PBS、4%(v/v)ヤギ血清(Chemicon,Temecula,CA)、および0.3%(v/v)トリトン(トリトンX−100;Sigma)を含むタンパク質遮断溶液に1時間さらして、細胞内抗原にアクセスした。目的のエピトープが細胞表面上にある場合(CD34,ox−LDL R1)、トリトンは、エピトープ損失を防ぐために、手順の全工程で省略された。さらに、一次抗体がヤギ(GCP−2,ox−LDL R1,NOGO−A)に対して産生された場合、3%(v/v)ロバ血清が、手順全体にわたってヤギ血清の代わりに使用された。遮断溶液で希釈された一次抗体は、次に、切片に4時間、室温で適用された。一次抗体溶液を除去し、培養物は、ヤギ抗−マウスIgG−Texas Red(1:250; Molecular Probes,Eugene、OR)および/またはヤギ抗−ウサギIgG−Alexa 488(1:250;Molecular Probes)またはロバ抗−ヤギIgG−FITC(1:150;Santa Cruz Biotech)と共に、遮断溶液を含有する二次抗体溶液を適用する(室温で1時間)前に、PBSで洗浄された。培養物を洗浄し、10マイクロモルのDAPI(Molecular Probes)を10分間適用し、細胞核を可視化した。
【0272】
免疫染色後、Olympus倒立落射蛍光顕微鏡(Olympus,Melville,NY)上で適切な蛍光フィルターを用いて蛍光を可視化した。ポジティブ染色は、対照染色を上回って、蛍光信号により表された。代表的な画像が、デジタルカラービデオカメラ、およびImageProソフトウェア(Media Cybernetics,Carlsbad,CA)を使用して、取り込まれた。三重染色サンプルでは、各画像は、1回にただ1つの放出フィルターのみを使用して撮られた。層をなしたモンタージュが、Adobe Photoshopソフトウェア(Adobe,San Jose,CA)を用いて準備された。
【表23】

【0273】
ビメンチン、デスミン、SMA、CK18、vWFおよびCD34マーカーが、臍帯内で発見された細胞の部分集団で発現した(データは不図示)。具体的には、vWFおよびCD34の発現は、臍帯に含まれる血管に制限された。CD34+細胞は、最も内側の層(管腔側)にあった。ビメンチン発現は、臍帯のマトリックスおよび血管全体で見られた。SMAは、動脈および静脈のマトリックスおよび外壁に限定されたが、血管自体には含まれなかった。CK18およびデスミンは、血管内部のみで観察され、デスミンは、中間および外側の層に限定された。
【0274】
これらのマーカーのいずれも臍帯内では観察されなかった(データは不図示)。
【0275】
ビメンチン、デスミン、α−平滑筋アクチン、サイトケラチン18、フォン・ヴィルブランド因子、およびCD34は、ヒト臍帯内部の細胞で発現した。ビメンチンおよびα−平滑筋アクチンのみが発現したことを示す、in vitroでの特徴付けの研究に基づいて、データは、臍帯由来細胞単離の現行のプロセスにより細胞の部分集団が回収されること、または単離細胞が、マーカーの発現を変えて、ビメンチンおよびα−平滑筋アクチンを発現することを示唆している。
【0276】
実施例13
栄養因子の分泌
臍由来細胞からの、選択された栄養因子の分泌を測定した。血管新生活性を有する因子が選択され、それらは、例えば、肝細胞成長因子(HGF)(Rosen et al., Ciba Found. Symp.,1997;212:215−26);単球走化性タンパク質1(MCP−1)(Salcedo et al.,Blood,2000;96;34−40);インターロイキン−8(IL−8)(Li et al., J. Immunol.,2003;170:3369−76);ケラチノサイト成長因子(KGF);塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF);血管内皮成長因子(VEGF)(Hughes et al.,Ann. Thorac. Surg.2004;77:812−8);組織マトリックスメタロプロテアーゼ阻害物質1(TIMP1);アンジオポエチン2(ANG2);血小板由来成長因子(PDGFbb);トロンボポエチン(TPO);ヘパリン結合上皮成長因子(HB−EGF);間質由来因子1α(SDF−1α)、神経栄養/神経保護活性(脳由来神経栄養因子(BDNF)(Cheng et al., Dev. Biol.,2003;258;319−33);インターロイキン−6(IL−6);顆粒球走化性タンパク質−2(GCP−2);形質転換成長因子β2(TGFβ2));またはケモカイン活性(マクロファージ炎症性タンパク質1α(MIP1α);マクロファージ炎症性タンパク質1β(MlP1β);単球走化性因子−1(MCP−1);Rantes(活性時に調節、発現および分泌された正常なT細胞);I309;胸腺および活性調節ケモカイン(TARC);エオタキシン;マクロファージ由来ケモカイン(MDC);ならびに(IL−8)である。
【0277】
臍帯由来の細胞、ならびにヒト新生児の皮膚由来のヒト線維芽細胞が、成長培地中で、ゼラチンコートT75フラスコにおいて培養された。細胞は、11代継代で冷凍保存され、液体窒素中に保存された。解凍後、成長培地が細胞に加えられ、その後、15mL遠心分離チューブに移され、細胞の遠心分離を150xgで5分間行った。細胞ペレットが、4mLの成長培地で再懸濁され、細胞をカウントした。細胞を、5,000個の細胞/cmで、15mLの成長培地をそれぞれ含むT75フラスコに播種し、24時間培養した。培地を、無血清培地(DMEM−低グルコース(Gibco)、0.1%(w/v)ウシ血清アルブミン(Sigma)、ペニシリン(50単位/mL)およびストレプトマイシン(50μg/mL,Gibco))に8時間かけて変えた。馴化無血清培地が、14,000xgで5分間の遠心分離によるインキュベーションの終わりに収集され、‐20℃で保管された。
【0278】
各フラスコ内の細胞の数を見積るため、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、2mLのトリプシン/EDTA(Gibco)を用いて分離した。8mLの成長培地を加えることにより、トリプシン活性が抑制された。細胞を150xgで5分間、遠心分離した。上澄みを除去し、細胞を、1mL成長培地で再懸濁した。細胞数は、血球計数器を用いて見積られた。
【0279】
細胞は、5%二酸化炭素および大気中酸素中で、37℃で成長した。各細胞サンプルにより産生されたMCP−I、IL−6、VEGF、SDF−Iα、GCP−2、IL−8、およびTGF−β2の量は、ELISA(R&D Systems,Minneapolis,MN)によって判断された。すべてのアッセイは、製造業者の説明書に従って行われた。示された値は、100万個の細胞当たりのピコグラム/mL(n=2,sem)であった。
【0280】
ケモカイン(MIP1α、MlP1β、MCP−1、Rantes、I309、TARC、エオタキシン、MDC、IL8)、BDNF、および血管新生因子(HGF、KGF、bFGF、VEGF、TIMP1、ANG2、PDGFbb、TPO、HB−EGFが、Searchlight Proteome Arrays(Pierce Biotechnology Inc.)を用いて測定された。Proteome Arraysは、1つのウェル当たり2〜16個のタンパク質の定量的測定をするための、多重サンドイッチELISAである。アレイは、2x2、3x3、または4x4パターンの、4〜16個の異なる捕捉抗体を、96ウェルプレートの各ウェルにスポッティングすることにより産生される。サンドイッチELISA手順の後、プレート全体が画像化され、プレートの各ウェル内部の各スポットで生成された化学発光信号を捕捉する。各スポットで生成された信号は、元の標準またはサンプルにおける標的タンパク質の量に比例する。
【0281】
MCP−1およびIL−6が、臍由来PPDCおよび皮膚線維芽細胞から分泌された(表13−1)。SDF−1αおよびGCP−2が線維芽細胞により分泌された。GCP−2およびIL−8は、臍由来PPDCにより分泌された。TGF−β2は、ELISAによってはいずれの細胞型からも検出されなかった。
【表24】

略語:ND:不検出、=/−sem
【0282】
Searchlight(商標)多重ELISAアッセイ。TIMP1、TPO、KGF、HGF、FGF、HBEGF、BDNF、MIP1β、MCP1、RANTES、I309、TARC、MDC、およびIL−8が臍由来PPDCから分泌された(表13−2および13−3)。Ang2、VEGF、またはPDGFbbは検出されなかった。
【表25】

略語:hFB(ヒト線維芽細胞)、U1(臍由来PPDC(022803))、U3(臍由来PPDC(071003))
ND:不検出
【表26】

略語:hFB(ヒト線維芽細胞)、U1(臍由来PPDC(022803))、U3(臍由来PPDC(071003))
ND:不検出
【0283】
臍由来細胞は、いくつかの栄養因子を分泌した。これらの栄養因子の一部、例えばHGF、bFGF、MCP−1およびIL−8、は血管新生において重要な役割を果たす。他の栄養因子、例えば、BDNFおよびIL−6は、神経再生または保護に重要な役割を有する。
【0284】
実施例14
In Vitroでの免疫学
免疫学的反応を予測しようとして、臍帯細胞株が、それらの免疫学的特徴についてin vitroで評価され、もしあれば、これらの細胞は、in vivo移植の際に引き出すであろう。分娩後細胞株は、HLA−DR、HLA−DP、HLA−DQ、CD80、CD86、およびB7−H2の発現についてフローサイトメトリーによりアッセイされた。これらのタンパク質は、抗原提示細胞(APC)により発現され、未処理CD4T細胞(Abbas & Lichtman,Cellular and Molecular Immunology,5th Ed.(2003) Saunders, Philadelphia, p.171)の直接刺激のために必要である。細胞株はまた、HLA−G(Abbas & Lichtman,supra);CD178(Coumans et.al.,Journal of Immunological Methods,1999;224:185−196);、およびPD−L2(Abbas & Lichtman, supra;Brown et. al.,The Journal of Immunology,2003;170:1257−1266)の発現について、フローサイトメトリーによって分析された。どの程度まで分娩後臍由来細胞株がin vivoで免疫反応を引き出すかを予測するため、細胞株は、一方向混合リンパ球反応(MLR)で試験された。
【0285】
細胞は、コンフルエントまで、2%ゼラチン(Sigma,St. Louis,MO)でコーティングされた、T75フラスコ(Corning,Corning,NY)において、成長培地中で培養された。
【0286】
細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(Gibco,Carlsbad,CA)で洗浄し、トリプシン/EDTA(Gibco,Carlsbad,MO)で分離した。細胞を回収し、遠心分離し、1x10/mLの細胞濃度で、PBS中3%(v/v)FBSにおいて再懸濁した。抗体(表14−1)が、製造業者の仕様書のとおりに、100μLの細胞懸濁液に加えられ、暗所で30分間、4℃でインキュベートされた。インキュベーション後、細胞は、PBSで洗浄され、遠心分離されて非結合抗体を除去した。細胞は、500μLのPBS中で再懸濁され、FACSCalibur器具(Becton Dickinson,San Jose,CA)を用いてフローサイトメトリーによって分析された。
【表27】

【0287】
細胞株「A」と標識された、10代継代の臍由来PPDCの冷凍保存バイアルが、ドライアイス上で包装され、CTBR(Senneville,Quebec)に送られて、CTBR SOP no. CAC−031を用いて混合リンパ球反応を行った。末梢血液単核細胞(PBMC)が、複数の男性および女性のボランティアドナーから収集された。6個のヒトボランティア血液ドナーをスクリーニングし、残りの5個の血液ドナーとの混合リンパ球反応において強い増殖反応を示した単一の同種ドナーを識別した。このドナーは、同種陽性対照ドナーとして選択された。残りの5つの血液ドナーは、レシピエントとして選択された。刺激剤(ドナー)同種PBMC、自家PBMC、および分娩後細胞株が、マイトマイシンCで処理された。自家およびマイトマイシンCで処理した刺激細胞が、反応者(レシピエント)PBMCに加えられ、4日間培養された。インキュベーション後、[H]チミジンが各サンプルに加えられ、18時間培養された。細胞の回収後、放射標識DNAが抽出され、[H]チミジンの取り込みが、シンチレーションカウンターを用いて測定された。反応は、プレート当たり3つのレシーバーで2細胞培養プレートを用いて3回行われた。
【0288】
同種ドナー(SIAD)の刺激指数が、レシーバー+マイトマイシンC処理同種ドナーをレシーバーのベースライン増殖で割ったものの平均増殖として、計算された。分娩後細胞の刺激指数が、レシーバーのベースライン増殖で割った、レシーバー+マイトマイシンC処理分娩後細胞株の平均増殖として計算された。
【0289】
6個のヒトボランティア血液ドナーがスクリーニングされて、残りの5つの血液ドナーとの混合リンパ球反応で強い増殖反応を示すであろう単一の同種ドナーを識別した。このドナーは、同種陽性対照ドナーとして選択された。残りの5つの血液ドナーは、レシピエントとして選択された。同種陽性対照ドナーおよび臍帯由来細胞株は、マイトマイシンC処理され、5個の個々の同種レシーバーとの混合リンパ球反応において培養された。反応は、プレート当たり3つのレシーバーで2つの細胞培養プレートを用いて3回行われた(表14−2)。平均刺激指数は、6.5(プレート1)〜9(プレート2)の範囲であり、同種ドナー陽性対照は、42.75(プレート1)〜70(プレート2)の範囲であった(表14−3)。
【表28】

【表29】

【0290】
フローサイトメトリーにより分析された臍帯由来細胞のヒストグラムは、IgG対照と一致した蛍光値により示されるように、HLA−DR、DP、DQ、CD80、CD86、およびB7−H2の陰性発現を示し、このことは、臍帯由来細胞株には、同種PBMCを直接刺激するのに必要な細胞表面分子がないこと(例えば、CD4T細胞)を示している。
【0291】
フローサイトメトリーにより分析された臍細胞は、IgG対照に対する蛍光の増大に反映されるように、PD−L2の発現について陽性であった。細胞は、IgG対照と一致した蛍光値により示されるように、CD178およびHLA−Gの発現について陰性であった。
【0292】
臍細胞株で実施された混合リンパ球反応では、平均刺激指数は、6.5〜9の範囲であり、同種陽性対照では、42.75〜70の範囲であった。臍細胞株は、フローサイトメトリーにより測定された場合に、検出可能な量の刺激タンパク質HLA−DR、HLA−DP、HLA−DQ、CD80、CD86、およびB7−H2を発現しなかった。臍細胞株はまた、免疫調節タンパク質HLA−GおよびCD178を発現しなかったが、PD−L2の発現が、フローサイトメトリーにより検出された。同種ドナーPBMCは、HLA−DR、DQ、CD8、CD86、およびB7−H2を発現する抗原提示細胞を含み、それにより、同種リンパ球の刺激を可能にする。未処理CD4T細胞の直接刺激に必要な抗原提示細胞表面分子の臍由来細胞がないこと、ならびに免疫調節タンパク質、PD−L2の存在は、同種対照と比較した場合に、MLR中でこれらの細胞により示される低い刺激指数の説明となる。
【0293】
本発明は、前記で説明し例示した実施形態に限定されるものではない。本発明は、請求項の範囲内でバリエーションおよび改変が可能である。
【0294】
実施例15
テロメラーゼ活性のアッセイ
テロメラーゼは、染色体の完全性を保護し、また細胞の複製寿命を延ばすのに役立つ、テロメア繰り返し体を合成するよう機能する(Liu, K, et al.,PNAS,1999;96:5147−5152)。テロメラーゼは、2つの成分、テロメラーゼRNAテンプレート(hTERT)、およびテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)のみからなる。テロメラーゼの調節は、hTERTではなく、hTERTの転写により決定される。hTERT mRNAのリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、ゆえに、細胞のテロメラーゼ活性を決定する、認められた方法である。
【0295】
細胞単離
リアルタイムPCR実験が行われ、ヒト臍帯組織由来細胞のテロメラーゼ産生が決定された。ヒト臍帯組織由来細胞が、実施例5〜7、および米国特許出願第10/877,012号(’012号出願)に記載される実施例に従って、準備された。概して、正常な運搬後にNational Disease Research Interchange(Philadelphia,Pa.)から入手された臍帯が洗浄され、血液および残骸を除去し、機械的に解離される。組織は次に、コラゲナーゼ、ディスパーゼおよびヒアルロニダーゼを含む消化酵素で、培養培地において37℃でインキュベートされる。ヒト臍帯組織由来細胞は、’012号出願の実施例に記載された方法に従って培養された。間葉系幹細胞および正常な皮膚線維芽細胞(cc−2509 ロット番号9F0844)が、Cambrex, Walkersville, Md.から入手された。多能性ヒト精巣胎児性癌(テラトーマ)細胞株nTera−2細胞(NTERA−2 cl.Dl)(Plaia et al.,Stem Cells,2006;24(3):531−546を参照)をATCC(Manassas,Va.)から購入し、’012号出願に記載した方法に従って培養した。
【0296】
全RNA単離
RNAが、RNeasy(登録商標)kit(Qiagen,Valencia,Ca.)を用いて細胞から抽出された。RNAは、50μLのDEPC処理水で溶出され、−8O℃で保管された。RNAは、TaqMan(登録商標)逆転写試薬(Applied Biosystems,Foster City,Ca.)により、25℃で10分間、37℃で60分間、95℃で10分間、ランダムヘキサマーを用いて逆転写された。サンプルは、‐20℃で保管された。
【0297】
リアルタイムPCR
PCRが、Applied Biosystems Assays−On−Demand(商標)(TaqMan(登録商標)遺伝子発現アッセイとしても知られる)を用いて、製造業者の仕様書(Applied Biosystems)に従って、cDNAサンプルに対して行われた。この市販のキットは、ヒト細胞のテロメラーゼのアッセイに広く使われる。手短に言えば、hTERT(ヒトテロメラーゼ遺伝子)(HsOO162669)およびヒトGAPDH(内部対照)が、ABI prism 7000 SDSソフトウェア(Applied Biosystems)と共に7000配列検出システムを用いて、cDNAおよびTaqMan(登録商標)Universal PCRマスターミックスと混合された。熱サイクル条件は、最初は、50℃で2分、95℃で10分、その後、95℃で15秒および60℃で1分の40サイクルであった。PCRデータは、製造業者の仕様書に従って分析された。
【0298】
ヒト臍帯組織由来細胞(ATCC受入番号 PTA−6067)、線維芽細胞、および間葉系幹細胞は、hTERTおよび18S RNAについてアッセイされた。表22−1に示すように、hTERT、したがってテロメラーゼは、ヒト臍帯組織由来細胞では検出されなかった。
【表30】

ND:不検出; +:信号検出
【0299】
ヒト臍帯組織由来細胞(isolate 022803,ATCC受入番号PTA−6067)およびnTera−2細胞が、アッセイされ、結果は、hUTCの2つのロットではテロメラーゼの発現を示さず、一方、テラトーマ細胞株は、高レベルの発現を表した(表22−1)。
【0300】
〔実施の態様〕
(1) 肺疾患、障害もしくは傷害を有する患者を治療する方法において、
前記肺疾患、障害もしくは傷害、およびそれにより生じた損傷を治療するのに有効な量の臍帯組織由来細胞を前記患者に投与すること、
を含み、
前記臍帯組織由来細胞は、実質的に血液のないヒト臍帯組織由来であり、培養中に自己再生および増殖することができ、少なくとも肺組織の細胞に分化する能力を有する、方法。
(2) 実施態様1に記載の方法において、
前記肺疾患、障害もしくは傷害は、閉塞性の疾患もしくは障害、拘束性の疾患もしくは障害、または直接的もしくは間接的な傷害であるか、あるいはそれらにより生じる、方法。
(3) 肺疾患を有する被験者を治療する方法において、
肺疾患を治療するのに有効な量で臍帯組織由来細胞を前記患者に投与すること、
を含み
前記細胞は、実質的に血液のないヒト臍帯組織由来であり、培養中に自己再生および増殖することができる、方法。
(4) 実施態様3に記載の方法において、
前記臍帯組織由来細胞は、hTERTまたはテロメラーゼを発現しない、方法。
(5) 実施態様3に記載の方法において、
前記臍帯組織由来細胞は、CD117に対して陰性である、方法。
【0301】
(6) 実施態様1に記載の方法において、
前記細胞は、肺組織に分化するようにin vitroで誘導される、方法。
(7) 実施態様1に記載の方法において、
前記細胞は、少なくとも1つの他の細胞型と共に投与される、方法。
(8) 実施態様7に記載の方法において、
前記他の細胞型は、肺前駆細胞、血管平滑筋細胞、血管平滑筋前駆細胞、周皮細胞、血管内皮細胞、血管内皮前駆細胞、または他の多分化能もしくは多能性幹細胞から選択される、肺組織細胞である、方法。
(9) 実施態様1に記載の方法において、
前記細胞は、少なくとも1つの他の薬剤と共に投与される、方法。
(10) 実施態様9に記載の方法において、
前記薬剤は、抗血栓薬、抗炎症薬、免疫抑制剤、免疫調節剤、血管新生促進剤、または抗アポトーシス薬である、方法。
【0302】
(11) 実施態様2に記載の方法において、
前記細胞は、前記肺疾患、障害もしくは傷害の部位で投与される、方法。
(12) 実施態様1に記載の方法において、
前記臍帯組織由来細胞は、注入、注射、前記患者に植え込まれた装置によって、または前記細胞を含有するマトリックスもしくは足場の植え込みによって、投与される、方法。
(13) 実施態様1に記載の方法において、
前記細胞は、前記患者の前記肺組織に栄養作用を及ぼす、方法。
(14) 実施態様1に記載の方法において、
前記細胞は、前記患者の血管平滑筋に栄養作用を及ぼす、方法。
(15) 実施態様14に記載の方法において、
前記栄養作用は、血管平滑筋細胞の増殖である、方法。
【0303】
(16) 実施態様1に記載の方法において、
前記細胞は、前記患者の血管内皮に栄養作用を及ぼす、方法。
(17) 実施態様16に記載の方法において、
前記栄養作用は、血管内皮細胞の増殖である、方法。
(18) 実施態様1に記載の方法において、
前記細胞は、前記肺疾患、障害もしくは傷害の部位への血管内皮細胞の遊走を誘発する、方法。
(19) 実施態様1に記載の方法において、
前記細胞は、前記肺疾患、障害もしくは傷害の部位への血管内皮前駆細胞の遊走を誘発する、方法。
(20) 実施態様1に記載の方法において、
前記細胞は、前記肺疾患、障害もしくは傷害の部位への血管平滑筋細胞の遊走を誘発する、方法。
【0304】
(21) 実施態様1に記載の方法において、
前記細胞は、前記肺疾患、障害もしくは傷害の部位への血管平滑筋前駆細胞の遊走を誘発する、方法。
(22) 実施態様1に記載の方法において、
前記細胞は、前記肺疾患、障害もしくは傷害の部位への周皮細胞の遊走を誘発する、方法。
(23) 肺疾患、障害もしくは傷害を有する患者を治療するための医薬組成物において、
前記肺疾患、障害もしくは傷害を治療するのに有効な量の、医薬的に許容可能な担体および臍帯組織由来細胞、
を含み、
前記臍帯組織由来細胞は、実質的に血液のないヒト臍帯組織由来であり、培養中に自己再生および増殖することができ、少なくとも肺組織の細胞に分化する能力を有する、医薬組成物。
(24) 肺疾患、障害もしくは傷害を有する患者を治療するためのキットにおいて、
医薬的に許容可能な担体と、
臍帯組織由来細胞集団と、
前記患者を治療する方法において前記キットを使用するための説明書と、
を含み、
前記臍帯組織由来細胞は、実質的に血液のないヒト臍帯組織由来であり、培養中に自己再生および増殖することができ、少なくとも肺組織の細胞に分化する能力を有する、キット。
(25) 肺疾患、障害もしくは傷害を有する患者を治療するための医薬組成物において、
医薬的に許容可能な担体と、
臍帯組織由来細胞から作られた製剤と、
を含み、
前記臍帯組織由来細胞は、実質的に血液のないヒト臍帯組織由来であり、培養中に自己再生および増殖することができ、少なくとも肺組織の細胞に分化する能力を有する、医薬組成物。
【0305】
(26) 肺疾患、障害もしくは傷害を有する患者を治療するためのキットにおいて、
実施態様25に記載の医薬組成物、
を含む、キット。
【図面の簡単な説明】
【0306】
【図1】BALF総タンパク質濃度を示す。総タンパク質は、Pierce BCA タンパク質アッセイを用いて測定した。各データ点は、1つの動物から得た測定値を表す。水平な線は、全測定値の平均を表す。スチューデントT検定分析を行った。データは表形式で示す(表8)。
【図2a】肺ホモジネートのサイトカイン/ケモカイン分析を示す。22個の異なるサイトカイン/ケモカインの濃度が、製造業者のプロトコルに従い、マウス22−マルチプレックスビーズキット(Millipore)を用いて、肺ホモジネートについて決定され、BioRad Bioplex機器を用いて分析された。データバーは、6個のサンプルの平均を表す。データは、表形式で以下に示す(図3)。
【図2b】BALFのサイトカイン/ケモカイン分析を示す。22個の異なるサイトカイン/ケモカインの濃度が、製造業者のプロトコルに従い、マウス22−マルチプレックスビーズキット(Millipore)を用いてBALFについて決定され、BioRad Bioplex機器を用いて分析された。データバーは、6個のサンプルの平均を表す。データは、表形式で以下に示す(図4)。
【図3】肺ホモジネートサイトカイン/ケモカイン分析を示す。22個の異なるサイトカイン/ケモカインの濃度が、製造業者のプロトコルに従い、マウス22−マルチプレックスビーズキット(Millipore)を用いて肺ホモジネートについて決定され、BioRad Bioplex機器を用いて分析された。
【図4】BALFサイトカイン/ケモカイン分析を示す。22個の異なるサイトカイン/ケモカインの濃度が、製造業者のプロトコルに従い、マウス22−マルチプレックスビーズキット(Millipore)を用いてBALFについて決定され、BioRad Bioplex機器を用いて分析された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺疾患、障害もしくは傷害を有する患者を治療するための医薬組成物において、
前記肺疾患、障害もしくは傷害を治療するのに有効な量の、医薬的に許容可能な担体および臍帯組織由来細胞、
を含み、
前記臍帯組織由来細胞は、実質的に血液のないヒト臍帯組織由来であり、培養中に自己再生および増殖することができ、少なくとも肺組織の細胞に分化する能力を有する、医薬組成物。
【請求項2】
肺疾患、障害もしくは傷害を有する患者を治療するためのキットにおいて、
医薬的に許容可能な担体と、
臍帯組織由来細胞集団と、
前記患者を治療する方法において前記キットを使用するための説明書と、
を含み、
前記臍帯組織由来細胞は、実質的に血液のないヒト臍帯組織由来であり、培養中に自己再生および増殖することができ、少なくとも肺組織の細胞に分化する能力を有する、キット。
【請求項3】
肺疾患、障害もしくは傷害を有する患者を治療するための医薬組成物において、
医薬的に許容可能な担体と、
臍帯組織由来細胞から作られた製剤と、
を含み、
前記臍帯組織由来細胞は、実質的に血液のないヒト臍帯組織由来であり、培養中に自己再生および増殖することができ、少なくとも肺組織の細胞に分化する能力を有する、医薬組成物。
【請求項4】
肺疾患、障害もしくは傷害を有する患者を治療するためのキットにおいて、
請求項3に記載の医薬組成物、
を含む、キット。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−512911(P2012−512911A)
【公表日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542520(P2011−542520)
【出願日】平成21年12月19日(2009.12.19)
【国際出願番号】PCT/US2009/068881
【国際公開番号】WO2010/071864
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.POLAROID
【出願人】(509263146)アドバンスト・テクノロジーズ・アンド・リジェネレイティブ・メディスン・エルエルシー (17)
【氏名又は名称原語表記】Advanced Technologies and Regenerative Medicine, LLC
【住所又は居所原語表記】325 Paramount Drive, Raynham, MA 02767, United States of America
【Fターム(参考)】