説明

肺病態に対する治療

患者に有効量のシトルリンなどの一酸化窒素前駆体を投与することから成る、患者における気管支肺異形成症や低酸素症誘発性肺高血圧症などの肺疾患を治療する方法及びそのための組成物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2008年1月31日に出願した米国仮出願61/025,157に基づく優先権を主張する。
この発明は、幼児におけるような、気管支肺異形成症(以下「BPD」という。)、及び慢性低酸素症誘発性肺高血圧症などの肺疾患の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
気管支肺異形成症(BPD)は通常幼児、特に早産児に発生し、肺に対する酸素及び/又は機械的人工換気による急性障害であり、肺胞及び血管発生への干渉又は阻害をもたらすものとして特徴づけられる(非特許文献1)。動物モデルにおいて、吸入したNOは、ガス交換及び肺の構造的発育を改善するが、BPDの危険性を有する幼児へのこの治療法の使用には、意見が分かれる(非特許文献2)。
慢性肺疾患及びチアノーゼ性先天性心疾患を持つ幼児は、しばしば低酸素症を羅患する。生存及び肺動脈の発育の両者に効果を持つので、慢性低酸素症は、肺循環の機能及び構造に進行性の変化を起こす(非特許文献3,4)。最終的に、慢性低酸素症は、右心不全や死に至る重篤な肺高血圧症をもたらす。
従って、BPD及び慢性低酸素症誘発性肺高血圧症、及び更に幼児におけるような、肺病態の治療に取り組むことは、当該技術分野において長期に継続して特に求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Jobe 他 (2001) Am J Respir Crit Care Med 163:1723-1729
【非特許文献2】Ballard 他(2006) N Engl J Med 355:343-353
【非特許文献3】Shimoda L, 他, Physiol Res (2000) 49:549-560
【非特許文献4】Subhedar, N. V., Acta Paediatr suppl (2004) 444:29-32
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、患者における気管支肺異形成症(BPD)や慢性低酸素症誘発性肺高血圧症などの肺病態を治療するための方法及び組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
いくつかの実施態様において、有効量の一酸化窒素前駆体をBPD及び/又はBPDと関係する合併疾患に罹る患者、及び/又はBPD及び/又はBPDと関係する合併疾患に罹る危険性のある患者に投与する。いくつかの実施態様において、一酸化窒素前駆体は、シトルリン、in vivoにおいてシトルリンを産生する前駆体、これらの薬学的に許容可能な塩、及びこれらの組合せの少なくとも1つからなる。いくつかの実施態様において、シトルリンなどの一酸化窒素前駆体は、経口的に投与される。いくつかの実施態様において、シトルリンなどの一酸化窒素前駆体は、静脈内に投与される。
【0006】
いくつかの実施態様において、一酸化窒素前駆体の有効量を慢性低酸素症誘発性肺高血圧症及び/又は関係する合併症に罹る患者及び/又は一酸化窒素前駆体の有効量を慢性低酸素症誘発性肺高血圧症及び/又は慢性低酸素誘発性肺高血圧症に関係する合併症に罹る危険性のある患者に投与する。いくつかの実施態様において、一酸化窒素前駆体は、シトルリン、in vivoにおいてシトルリンを産生する前駆体、これらの薬学的に許容可能な塩、及びこれらの組合せの少なくとも1つからなる。いくつかの実施態様において、シトルリンなどの一酸化窒素前駆体は、経口的に投与される。いくつかの実施態様において、シトルリンなどの一酸化窒素前駆体は、静脈内に投与される。
患者の肺病態の治療を提供することが、本発明の目的である。
以下に最善に記載し添付した描画及び実施例と結びついたとき、本明細書に開示した上述の発明の目的、他の目的は、記載が進むに従い明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】尿素回路を示す概略図である。
【図2】実施例に記載された研究過程のフローチャートである。
【図3】対照(n=6)、慢性低酸素症(n=11)、及びL−シトルリン処理慢性低酸素症(n=6)子豚における平均肺動脈圧測定を示す棒グラフである。全ての値は平均±SEMである。*対照と異なる;+慢性低酸素症と異なる;p<0.05、多重比較(事後比較)検定を伴う分散分析(ANOVA)。
【図4】対照(n=6)、慢性低酸素症(n=11)、及びL−シトルリン処理慢性低酸素症(n=6)子豚における計算した肺血管抵抗を示す棒グラフである。全ての値は平均±SEMである。*対照と異なる;+慢性低酸素症と異なる;p<0.05、多重比較(事後比較)検定を伴う分散分析(ANOVA)。
【図5】対照(n=6)、慢性低酸素症(n=11)、及びL−シトルリン処理慢性低酸素症(n=5)子豚における吐気中の一酸化窒素を示す棒グラフである。全ての値は平均±SEMである。*対照と異なる;+慢性低酸素症と異なる;p<0.05、多重比較(事後比較)検定を伴う分散分析(ANOVA)。
【図6】対照(n=17)、慢性低酸素症(n=9)、及びL−シトルリン処理慢性低酸素症(n=5)子豚における肺血潅流液に蓄積した亜硝酸塩/硝酸塩を示す棒グラフである。全ての値は平均±SEMである。*対照と異なる;+慢性低酸素症と異なる;p<0.05、多重比較(事後比較)検定を伴分散分析(ANOVA)。
【図7A】対照(n=3)、慢性低酸素症(n=3)、及びL−シトルリン処理慢性低酸素症(n=3)子豚からの肺組織におけるeNOSタンパク質に対する免疫ブロットの画像であり、アクチンに対して再プローブした画像である。
【図7B】対照(n=3)、慢性低酸素症(n=3)、及びL−シトルリン処理慢性低酸素症(n=3)子豚からの肺組織におけるeNOSタンパク質に対する免疫ブロットの濃度計測の棒グラフであり、アクチンに対して基準化した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
早期出産は産科学及び新生児学における主要な難問であり続けており、周産期死亡率及び新生児における神経学的羅患率の大部分の原因となっている。BPDは早産と結びつくことができる多くの合併症の1つである。BPDは、早産児の長期の入院、人生の最初の数年間における複数回数の再入院、及び発達遅延と結びつくことができる。幸いなことに、BPDは、誕生時の体重1,200g以上、又は妊娠期間30週を越えた幼児には今や希である(非特許文献1)。在胎期間36週令に必要な酸素として定義されたBPDの発生率は、誕生時体重<1000gの幼児に対して約30%である(非特許文献1)。これらの幼児の一部は、人工換気及び/又は何ヶ月又は何年もの酸素補給を必要とする、重篤な肺疾患を持つ。
【0009】
多くの因子がBPDの原因となり、また恐らく加算的又は相乗的に働いて障害を促進する。BPDは、主として酸化物又は人工換気を媒介とする障害であると、これまで考えられてきた(非特許文献1)。機械的人工換気及び酸素は、早産児の肺胞及び血管発育を妨害することができて、またBPDの進行の原因とされた(非特許文献1)。肺胞数の減少は、表面積の大きな減少をもたらし、これは異形肺微少血管の減少と関係する。これらの解剖学的変化は、気道標本における白血球及びサイトカインレベルの持続的増加と関係する(非特許文献1)。
【0010】
炎症もまたBPD進行の一因を果たすことができる。複数の炎症誘発性及び化学走化性因子が人口換気されている早産児の気道空間に存在し、またその後BPDが進行した幼児の気道にはこれらの因子がより高濃度存在する(非特許文献1)。BPD進行に重要と考えられる他の因子としては:ボンベシン様のペプチド、高酸素、低酸素、栄養不良、グルココルチコイド処置、及びサイトカイン腫瘍壊死因子−α、TGF-α、IL-6、又はIL-11の過剰発現がある(非特許文献1)。
【0011】
BPDの診断は通常、遅れた肺発達の兆候のために出生最初の数週間幼児の呼吸の監視、及び介助呼吸への連続した及び/又は増加する依存性からなる。BPDの診断を補助するために行うことができる診断検定としては:血液酸素検定、胸部X−線、及び心エコー像を含むことができる。幼児が在胎期間36週令に酸素補給を必要とするとき、伝統的にBPDと診断された。BPDの診断及び定義に使われるより新しい定義付けは、"軽度の"、"中程度の"及び"重篤の"BPDのための特異的な基準を含む(Ryan, R. M. (2006) J Perinatology 26:207-209)。
【0012】
BPDの治療は、容態の症候の治療、及び幼児の肺に発育の機会提供のために、多面的な扱い方を含むことができる。現在可能な治療としては:肺の空気混和を改善するための界面活性剤投与、呼吸不全を補償するための機械的人口換気、充分な血中酸素を保証するための酸素の補給、肺における気流を改善するための気管支拡張薬処方、気道の拡張及び炎症を減らすためのコルチコステロイド、肺浮腫を避けるための水分調節、動脈管開存症の治療、及び適切な栄養、が挙げられる。
【0013】
吸入による一酸化窒素投与により、幼動物モデルにおいて肺発育が改善されることが示されている(非特許文献2)。しかしながら、吸入によるNO投与は、ヒト患者において賛否がある。従って、本発明のいくつかの実施態様に従い、BPD治療としてNO吸入の代替法として、BPDに罹った患者に対するシトルリン又は他のNO前駆体の投与によるin vivo NO合成の増加を提供することができる。
【0014】
慢性低酸素症は、既存及び発育中の肺動脈に効果を有するので、これは、肺循環の機能及び構造の両者の進行性変化の原因となる。Shimoda L, 他 Physiol Res (2000) ;49:549-560; Subhedar, N. V., Acta Paediatr suppl (2004);444:29-32。最終的に、慢性低酸素症は、右心不全に至る重篤な肺の高血圧症、及び死をもたらす。現在のところ、持続的又は一時的低酸素が関係する慢性心肺疾患に罹る幼児における肺高血圧症に対する治療は、背景にある心肺疾患の改善、及び充分な酸化を得る試みに大部分制限されている。Abman, S. H.; Arch Dis Child Fetal Neonatal Ed (2002) 87: F15-F18; Allen, J. 及び ATS subcommittee AoP, Am J Respir Crit Care Med (2003) 168: 356-396; Mupanemunda, R. H., Early Human Development (1997) 47: 247-262; Subhedar, N. V., Acta Paediatr suppl (2004) 444:29-32。従って、本発明のいくつかの実施態様に従い、慢性低酸素症誘発性肺高血圧症に罹る患者に対するシトルリンの投与からなる新規治療法を提供する。
【0015】
シトルリンは、尿素回路における及び一酸化窒素(NO)産生における、主要な中間体である。尿素回路において、シトルリンはアルギニンのde novo合成の前駆体である。アルギニンは、アルギナーゼにより脱アミノ化され尿素を産生することができて、次ぎに尿素を、廃棄物窒素、特にアンモニア、を身体から取り除くために排出することができる。あるいは、アルギニンは一酸化窒素シンターゼ(NOS)によるNO産生を提供することができる。従って、完全な尿素回路機能は、アンモニアの排出ばかりではなく、NOの前駆体であるアルギニンの充分な組織内濃度を維持する上で重要である。
【0016】
一酸化窒素は、アルギニンを基質として一酸化窒素シンターゼ(NOS)により合成される。NO合成における律速因子は、細胞内アルギニンの可用性であり、及びNO合成のためのアルギニンの好ましい供給源は、シトルリンよりde novo生合成される。アルギニンに対するin vivo合成経路は、オルニチンで始まる。オルニチンは、カルバミルリン酸と結合してシトルリンを産生し、これもまたアスパラギン酸塩と結合して、アデノシン3リン酸存在下に、アルギニノコハク酸塩を産生する。最終段階において、アルギニノコハク酸塩からフマル酸塩が分離して、アルギニンが産生される。アルギニンの分解経路では、アルギナーゼの加水分解作用により、オルニチン及び尿素が産生される。これらの反応が尿素回路を形成する。図1を参照されたい。
【0017】
尿素合成に至る分解の代わりに、アルギニンは、一酸化窒素シンターゼによるNO合成に必要な基質を提供することができる。更に、外因性シトルリンは、尿素回路に入ることができて、アルギニンのin vivo合成を提供し、これは次ぎにNO合成を提供する。従って、BPDに罹り易い、又はBPDと診断された患者、又は慢性低酸素症誘発性肺高血圧症の患者を含む、がこれらに制限されない、患者に対するシトルリン投与により、アルギニン合成が増加することができる、及び次ぎにNO産生の増加により、BPD又は慢性低血圧症誘発性肺高血圧症を予防し、及び/又は治療することができる。in vivoにおいてシトルリンを産生するシトルリン前駆体も提供することができる。シトルリンの代替えとして、他のNO前駆体を提供することができる。例えば、アルギニン又はin vivoでアルギニンを産生する前駆体をNO前駆体として提供することができる。
【0018】
I.治療法
本発明は、患者におけるNO合成を増加させる方法及び組成物を提供する。いくつかの実施態様において、有効量のシトルリン又は他のNO前駆体を患者に投与して、NO合成を増加させる。いくつかの実施態様において、シトルリン、in vivoにおいてシトルリンを産生する前駆体、アルギニン、in vivoにおいてアルギニンを産生する前駆体又はこれらの組合せを含む、がこれらに制限されない、群からNO前駆体を選択する。いくつかの実施態様において、シトルリン又は他のNO前駆体を、経口的に投与する。いくつかの実施態様において、シトルリン又は他のNO前駆体を、経静脈的に投与する。
【0019】
本発明はまた、患者におけるBPD及び/又は関係する合併症を治療するための方法及び組成物を提供する。いくつかの実施態様において、有効量のシトルリン又は他のNO前駆体をBPD及び/又は関係する合併症及び/又はBPDが伴う合併症に罹る危険性のある患者に投与する。いくつかの実施態様において、シトルリン、in vivoにおいてシトルリンを産生する前駆体、アルギニン、in vivoにおいてアルギニンを産生する前駆体又はこれらの組合せを含む、がこれらに制限されない、群からNO前駆体を選択する。いくつかの実施態様において、シトルリン又は他のNO前駆体を、経口的に投与する。いくつかの実施態様において、シトルリン又は他のNO前駆体を、経静脈的に投与する。いくつかの実施態様において、治療される患者は、BPDが伴う急性症状に罹る患者である。このような症状の代表例は、本明細書に上述のように開示される。
【0020】
本発明はまた、患者における慢性低酸素症誘発性肺高血圧症及び/又は関係する合併症を治療するための方法及び組成物を提供する。いくつかの実施態様において、有効量のシトルリン又は他のNO前駆体を、慢性低酸素症誘発性肺高血圧症及び/又は関係する合併症に罹る患者、及び/又は慢性低酸素症誘発性肺高血圧症と関係する合併症に罹る危険性のある患者に投与する。いくつかの実施態様において、シトルリン、in vivoにおいてシトルリンを産生する前駆体、アルギニン、in vivoにおいてアルギニンを産生する前駆体又はこれらの組合せを含む、がこれらに制限されない、群からNO前駆体を選択する。いくつかの実施態様において、シトルリン又は他のNO前駆体を、経口的に投与する。いくつかの実施態様において、シトルリン又は他のNO前駆体を、経静脈的に投与する。いくつかの実施態様において、治療される患者は、慢性低酸素症誘発性肺高血圧症が伴う急性症状に罹る患者である。このような症状の代表例は本明細書に上述のように開示される。
【0021】
いくつかの実施態様において、一酸化窒素前駆体は、シトルリン、in vivoにおいてシトルリンを産生する前駆体、これらの薬学的に許容可能な塩、及びこれらの組合せの少なくとも1つからなる。図1参照。いくつかの実施態様において、一酸化窒素前駆体は、シトルリン、アルギニン、又はこれらの組合せを含む、又はこれらに制限されない、群から選択される。いくつかの実施態様において、シトルリンなどの一酸化窒素前駆体は、経口的に投与される。いくつかの実施態様において、シトルリンなどの一酸化窒素前駆体は、経静脈的に投与される。
【0022】
いくつかの実施態様において、患者は低シトルリン血症を羅患する。いくつかの実施態様において、低シトルリン血症は、血漿中のシトルリンレベルが37μmol/liter以下、いくつかの実施態様では25μmol/liter以下、いくつかの実施態様では20μmol/liter以下、いくつかの実施態様では10μmol/liter以下、いくつかの実施態様では5μmol/liter以下により特徴付けられる。
いくつかの実施態様において、本明細書に開示した様な病気に罹る患者は、相対的低シトルリン血症に罹る。用語"相対的低シトルリン血症"は、病気に罹ったその患者の血漿シトルリンが、病気に罹ってない患者の場合と比較して、減少する状態を表す。
【0023】
本明細書で用いる様に、成句"治療する"は、患者における容態の緩和(例えば、疾患過程の開始後又は疾病後)及び患者の容態に関係する合併症を緩和するように計画した介入、及び患者に病態が生ずることを防ぐように計画した介入を表す。表現を変えれば、用語"治療"及びこの文法上の変化型は病態の重篤性を減少させること及び/又は病態を治癒することの意味、及び予防を表わす意味を網羅するために広く説明することを意図する。後者の観点で、"治療"はどんな程度でも、病気に罹る危険性のある患者に制限せず、又はそうでなければ患者が病気過程に抵抗する力を増す様に"予防する"ことを表すことができる。
【0024】
本明細書で開示した発明の原理は、本明細書で開示した発明は、哺乳動物及び鳥(これらも用語"患者"に含むことを意図するが)などの温血脊椎動物を含む、全ての脊椎動物種に関して有効であることを示すと理解されているが、本明細書で開示した発明の多くの実施態様で処置した患者は、望ましくはヒト患者である。この文脈において、処理が望まれる、農業又は家畜動物種などの、しかしこれらに制限されない、全ての哺乳動物種を、哺乳動物は含むと理解する。
【0025】
従って、処置が提供されるのは、哺乳動物であり、例えば、ヒト、絶滅にさらされる重要な哺乳動物(シベリア虎)、経済的に重要な哺乳動物(農場で育てられ、ヒトにより消費される動物)、及び/又はヒトに対して社会的に重要な哺乳動物(ペット又は動物園で飼われる動物)、例えば、ヒト以外の肉食動物(ネコ、イヌなど)、スワイン(ブタ、ホッグ、及びイノシシ)、反芻動物(ウシ、雄牛、ヒツジ、キリン、シカ、ヤギ、バイソン及びラクダなど)及びウマである。また、処置が提供されるのは、鳥であり、これらは動物園で飼われ、絶滅にさらされる鳥類、ファウル(家禽の1種)、特に家畜のファウルであり、即ち、七面鳥、チキン、アヒル、ガチョウ、ホロホロ鳥、等の家禽であり、これらはまたヒトにとって経済的に重要である。従って、処置が提供されるのは、家畜であり、家畜化したスワイン(ブタ及びホッグ)、反芻動物、馬、家禽、等が含まれるが、これらに制限されない。
【0026】
II,医薬組成物
本発明の組成物の有効投与量が、これらを必要とする患者に投与される。"有効量"とは、測定できる応答を作り出すに充分な組成物の量である(例えば、処置される患者において生物的又は臨床的に関連した応答である)。本明細書に開示した組成物中の活性成分の実際の投与量は、変わることができて、特定の患者に対して望みの治療上の応答を得るに有効な、活性化合物量を投与する。選択された投与量レベルは治療組成物の活性、投与経路、他の薬剤又は処置との組合せ、処置される病気の重篤性、及び処置を受ける患者の健康状態及び以前の治療歴に依存するであろう。例示の目的であり、制限の目的ではないが、組成物の投与量は、望みの治療効果に達するに必要な量より低レベルで開始し、また望みの効果が得られるまで投与量を次第に増やす。組成物の効能は、変わることができて、従って、"有効量"は変わる。
【0027】
本明細書に示した開示した発明を精査後、当業者は特定の組成物、その組成物に対して用いる投与方法、及び処置する特定の疾患を考慮に入れて、個々の患者に対して投与量を調製することができる。投与量の更なる計算のために、患者の身長、体重、性別、症候の重篤さ及び段階、及び他の有害な病気の存在を考慮することができる。
【0028】
他の例として、担体物質と組み合わせて単一の投与形態物を作ることができる活性成分の量は、治療する患者、及び投与方法により、変わるであろう。例えば、ヒトに投与する目的のある処方は、全組成物の約5%から約95%に変わりうる、適切で、使い易い量の担体物質と混合した0.5 mgから5 gの活性試薬を含むことができる。例えば、成人において、投与当たり、1人当たり、の投与量は、一般的に、一日数回までで1 mgから500 mgの間である。従って、用量一単位形態は一般的に、約1 mgから約500 mgの活性成分、一般的に25 mg、50 mg、100 mg、200 mg、300 mg、400 mg、500 mg、600 mg、800 mg、又は1000 mgの活性成分を含む。
【0029】
一酸化窒素前駆体は、いくつかの実施態様では、約0.01 mgから約1,000 mgの投与量範囲、いくつかの実施態様では、約0.5 mgから約500 mgの投与量範囲、いくつかの実施態様では、約1.0 mgから約250 mgの投与量範囲において投与される。一酸化窒素前駆体はまた、いくつかの実施態様では、約100 mgから約30,000 mgの投与量範囲、いくつかの実施態様では、約250 mgから約1,000 mgの投与量範囲において投与される。代表的投与量は、3.8 g/m2/日のアルギニン又はシトルリン(モル当量、MW L−シトルリン175.2、MW L−アルギニン174.2)である。
【0030】
代表的静脈注射用シトルリン溶液は、100 mg/ml(10%)溶液を含むことができる。代表的静脈注射用シトルリン投与量は、200 mg/kg、400 mg/kg、600 mg/kg、及び 800 mg/kgからなることができる。いくつかの実施態様において、例えば投与量600 mg/kg又は800 mg/kgまでに制限されず、全身性血圧に対する観察された、有害作用を緩和するために、50 mg/kgから100 mg/kgの用量範囲だけ投与量を減少することができる。いくつかの実施態様において、一日などの与えられた時間期間の間1回以上、投与量を投与することができる。
【0031】
いくつかの実施態様において、医薬組成物は、患者における本明細書に開示した病気を治療するために、血漿シトルリンレベルを上昇させるに有効なシトルリン量を含む。いくつかの実施態様において、治療すべき患者の血漿シトルリンレベルと、羅患してない患者の血漿シトルリンレベルを比較して、濃度を測定する。いくつかの実施態様において、シトルリン量は、患者における血漿シトルリンレベルを、少なくとも5μmol/liter、任意に少なくとも10μmol/liter、任意に少なくとも20μmol/liter、任意に少なくとも25μmol/liter及び任意に約37μmol/literの増加に有効である。
【0032】
いくつかの実施態様において、本発明は、一酸化窒素前駆体及び、ヒトにおいて薬学的に許容可能な担体などの薬学的に許容可能な担体を含む医薬組成物を提供する。いくつかの実施態様において、本発明は、上述の投与量のシトルリン又はアルギニンを含む医薬組成物を提供する。
【0033】
本発明の組成物を、標準的非毒性の薬学的に許容可能な担体、アジュバント、及び好みの媒体を含む投与単位形態にして、一般的に経口的に、又は非経口的に投与する。本明細書で用いる用語"非経口的"は、静脈内注射、筋肉内注射、動脈内注射又は輸液技術を含む。
【0034】
例えば、滅菌した注射可能水溶性又は油性の懸濁物などの注射可能な製剤は、適切な分散剤又は湿潤剤、及び懸濁剤を用いて、既知の技法に従い作成する。滅菌した注射可能製剤はまた、1,3−ブタンジオール溶液などの非毒性許容可能な稀釈剤又は溶媒中の滅菌した注射可能溶液又は懸濁物であることができる。
【0035】
用いることができる許容可能な媒体及び溶媒としては、水、Ringer溶液、及び等脹塩化ナトリウム液がある。更に、滅菌した、不揮発性油は、溶媒又は懸濁媒体として便利に使用される。この目的のために、合成モノグリセリド、又はジグリセリドを含むどんなブランドの不揮発性油も使用できる。更に、オレイン酸などの脂肪酸は、注射可能物質の作成に使い途がある。典型的担体としては、リン酸、乳酸塩、Tris等々を用いた中性食塩緩衝液を含む。
【0036】
代表的実施態様において、関係する治療期間に、1,2,3,4,5,6回又はより多い回数の投与を含むがこれに限らない、数回の投与を患者に与えることができる。
しかしながら、如何なる特定の患者に対する特定の投与量も年齢、体重、一般的健康状態、性別、食習慣、投与の時間、投与の経路、排出速度、薬剤の組合せ、及び治療を受ける特定の疾患の重篤度を含む様々な因子に依存する。
【実施例】
【0037】
以下の実施例を本明細書において開示した発明の代表的モデルを説明するために含めた。本開示及び当業者の一般的レベルを考慮すると、以下の実施例が、無数の変化、修飾及び改変を、本発明の精神及び範囲から離れることなく、使用できる例示のみを意図することを当業者は理解するであろう。
【0038】
実施例1〜4
以下の実施例は、新生子豚を10日間まで低酸素に暴露の間、L−シトルリンの経口投与が肺高血圧症進行、及び同時にNO産生の減少を防止するかどうかについて評価する。
【0039】
実施例1〜4に用いる方法
動物管理
全17匹の低酸素子豚及び17匹の対照子豚を研究した。図2を参照。対照動物については、12日齢で飼育場から到着した日に研究した。低酸素豚(2日齢)を10〜11日間定圧低酸素室に置いた。圧縮空気及び窒素を用いて、8〜11%の吸入酸素(PO2 60〜72Torr(約7980〜9580Pa))を作成して定圧低酸素を提供し、及びCOはソーダ石灰による吸収で3〜6Torr(約400〜800Pa)に維持した。動物体重を毎日測定し、身体検査を1日2回行った。動物はケージ中で供給装置から雌豚代用乳を自由に摂取した。
【0040】
L−シトルリン補給
17匹の低酸素子豚の中6匹に、低酸素暴露第1日目に開始して、経口的にL−シトルリンを補給した。図2参照。L−シトルリン補給を、経口的に投与量を運ぶためにシリンジを用いて1日2回体重キログラム当たり0.13-gmの投与量で提供した。子豚が投与量の大部分を摂取しないと観察されたら、繰り返した。L−シトルリンは調整品(Sigma Pharmaceuticals, St. Louis, Missouri, United States of America, 98% 純度)を用いて、蒸留水1 ml当たり0.13 グラムの濃度で混合し、完全に溶けたとき、溶液を0.20ミクロンフィルターに通した。
【0041】
in vivo 血行動態
in vivo血行動態を6匹の対照子豚及び全低酸素子豚について測定した。図2参照。これらの測定のために、動物の体重を測定し、その後Ketamine (15 mg/kg)及びAcepromazine (2 mg/kg)の筋肉注射で前麻酔した。気管開口術、静脈及び動脈カテーテル、及びサーミスターを、鎮静のために静脈内ペントバルビタールを用いて、前述の様に設定した。Fike, C. D. 他., J Appl Physiol (2000) 88:1797-1803。肺動脈圧、左心室拡張末期圧(LVEDP)及び心拍出量を測定した。心拍出量を熱稀釈法(モデル9520 熱稀釈心拍出量計算機、 Edwards Laboratory, Irvine, California, United States of America)により、大動脈弓及び左心室カテーテルを注入口としてサーミスターを用いて測定した。心拍出量は、3 mlの正常食塩溶液(0℃)を3回注入の平均として、呼気終末時に測定した。吐き出されたNOの測定は以下の記載による。in vivo測定の間、動物は、室内の空気により、1回換気量15〜20 cc/kgで、呼気終末圧2 mmHg及び呼吸速度1分間に15〜20呼吸で、ピストン換気装置を用いて換気を施された。
【0042】
吐息NO測定
麻酔した動物の吐息NO測定のために、各3分間の2〜3回吐息をサンプリングし、化学発光アナライザー(モデル270B NOA; Sievers, Boulder, Colorado, United States of America)を通過させ、前述の様にNO濃度を測定した。Fike, C. D., 他, American Journal of Physiology (Lung, Cellular and Molecular Physiology 18) (1998) 274:L517-L526。吐き出されたNO生産物(nmol/min)を、微少な換気及び測定した吐き出されたNO濃度を用いて計算した。
【0043】
分離した肺血潅流
肺を分離し、5%デキストラン、分子量70,000を含むKrebs Ringer重炭酸塩溶液を用いて、37℃でin situ(原位置)で潅流し、前述の様に正常酸素混合気体(21%O2及び5%CO2)で換気した。Fike, C. D. 他, J Appl Physiol (2000) 88:1797-1803。安定した肺動脈圧が得られるまで、肺を30〜60分間潅流した。次ぎに、潅流試料(1 ml)を左動脈カニューレから、60分間の間10分毎に取り除いた。潅流した試料を遠心し、以下に記載する様に、将来の亜硝酸塩/硝酸塩(NOx-)濃度解析のために、上清を−80℃に保存した。潅流の終わりに、回路及びリザーバーに残る潅流液の残りを測定した。一部の場合、潅流直後に肺組織を採取し、液体窒素で凍結し、以下記載の様に、後のeNOS(内皮一酸化窒素シンターゼ)量の測定のために−80℃に保存した。
【0044】
NOx測定
前述の化学発光解析を用いて、各採取時の潅流液中のNOx濃度(nmol/ml)を測定した。Fike, C. D. 他, J Appl Physiol (2000) 88:1797-1803; Turley, J. E.他, Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol (2003) 284:L489-L500。潅流液(20μl)を化学発光NO分析器(モデル170B NOA, Sievers)の反応室に注入した。反応室は、90℃に加熱して亜硝酸塩及び硝酸塩をNOガスに還元するための1 M HCl中の塩化バナジウム(III)を含む。HCl蒸気を取り除くために1 M NaOHを含むガス気泡トラップの通過した一定流量のN気体を用いて、NOガスを分析器に運ぶ。既知量のNaNO3を蒸留水に加えて標準曲線を作成し、潅流試料に対して記述の様に検定した。
試料採取時の潅流液中のNOx濃度に、試料採取時のシステム(潅流回路+リザーバー)の容量を乗じて、取り除いた全ての試料中のNOx量を加えて、各採取時の潅流液中のNOx濃度(nmol/ml)を計算した。NOx産生速度を、最初の60分間の採取時間の時間に対する潅流液中のNOx量に適合する線型回帰線の傾きから決定した。
【0045】
血漿アミノ酸測定
対照及びL−シトルリン処理及び非処理慢性低酸素動物に対する血行動態測定及び/又は肺血潅流研究の日に、研究に先立ち血液を採取し、血漿を後のアミノ酸レベル測定のために−80℃に凍結した。L−シトルリン処理低酸素動物に対して、血液試料を得る時間は、最後のL−シトルリン投与後約12時間で、トラフ(谷底)レベルであった。一部のL−シトルリン処理動物(n=3)において、トラフレベルに対して血液サンプリングの後、L−シトルリン投与は、鼻腔栄養チューブを通して与えられた。この投与の後、90分間(in vivo研究の時間)の間30分毎に血液試料を採取した。全ての試料を遠心し、血漿を集め、アミノ酸解析のために−80℃で凍結した。
血漿シトルリン及びアルギニンの濃度を、タンパク質フリー抽出物を用いたアミノ酸解析により測定した。アミノ酸は日立L8800アミノ酸分析器(Hitachi USA, San Jose, California, United States of America)を用いて陽イオン交換クロマトグラフィーにより分離した。分析器のキャリブレーションを子豚試料の検定前に行った。
【0046】
肺組織中のeNOS(内皮NOシンターゼ)のWesternブロット
既述の様に、標準的免疫ブロット技法を用いて、eNOSのために対照(n=3)、非処理低酸素(n=3)、及びL−シトルリン処理低酸素(n=3)動物からの全肺ホモジェネートの試料を解析した。10μgの全タンパク質、1次eNOS抗体の1:500稀釈物(BD遺伝子導入)及びホースラディッシュ・ペルオキシダーゼと結合した2次抗マウス抗体の1:5000稀釈物を用いた。Fike, C. D., 他 American Journal of Physiology (Lung, Cellular and Molecular Physiology 18) (1998) 274:L517-L526。
【0047】
計算及び統計
肺血管抵抗(PVR)を、in vivo血行動態測定:(肺動脈圧−左心室拡張末期圧(LVEDP))/(心拍出量/体重)から計算した。
データは、平均±SEとして表した。Fisherの制約付最小有意差(PLSD)事後比較テストを伴うワンウェイANOVA(一元配置分散分析)を用いて、対照、非処理低酸素及びL−シトルリン処理低酸素動物間のデータを比較した。0.05以下のp値を有意と考えた(Meier, U., Pharm Stat (2006) 5:253-263)。
【0048】
実施例1 in vivo血行動態測定
L−シトルリン処理及び非処理慢性低酸素動物の両者は、12〜13日齢の研究日において、比較しうる年齢の対照子豚と比べ、より低い心拍出量、体重及びより高い左心室拡張末期圧(LVEDP)測定値を有した(表1)。動脈圧及び血中気体指数の測定は、3グループ間で似ていた(paO2は、対照子豚で74±5 Torr(約9842±665Pa)、非処理低酸素子豚で74±8 Torr(約9842±1064Pa)及びL−シトルリン処理低酸素子豚で78±7 Torr(約9842±931Pa);paCO2は、対照子豚で39±2 Torr(約5187±266Pa)、非処理低酸素子豚で41±4 Torr(約5453±532Pa)及びL−シトルリン処理低酸素子豚で30±1.0 Torr(約3990±133Pa)であった)。図3に示すように、特に、L−シトルリン処理対酸素動物は、非処理低酸素動物と比較し、有意により低い肺動脈圧を有した(0.01のp−値)。肺動脈圧は正常酸素対照及びL−シトルリン処理低酸素動物間で差がなかった(p=0.08)。
更に、図4に示すように、L−シトルリン処理低酸素動物における計算した肺血管抵抗(0.071±0.003)は、非処理低酸素動物の値より有意に低かった(0.001のp−値)。さらに、肺血管抵抗は、L−シトルリン処理低酸素動物と正常酸素対照において同様であった(0.07のp−値)。
【0049】
実施例2 吐息中NO産出量及び潅流液中NOx
図5に示すように、対照及びL−シトルリン処理低酸素動物における吐息中のNO産生量は、非処理低酸素動物における吐息中NO産生量より高かった(それぞれのp−値は、0.001及び0.032であった)。しかしながら、吐息中のNO産生量は、対照及びL−シトルリン処理低酸素動物の間で差がなかった(p=0.124)。
図6に示すように、対照(p=0.02)及びL−シトルリン処理低酸素動物(p=0.04)からの肺は、非処理低酸素動物からの肺と比較して、有意に高いNOx-蓄積速度を有した。さらに、L−シトルリン処理低酸素動物及び正常酸素対照からの肺の間には、NOx-蓄積速度の差がなかった。
【0050】
実施例3 血漿アミノ酸
表2に示すように、統計的有意性には達しなかったが(p=0.05)、非処理慢性低酸素子豚の血漿L−シトルリンレベルは、処理群低酸素子豚におけるトラフL−シトルリンレベル(L−シトルリン投与後約12時間の血漿レベル)より低かった。更に、投与後90分後採血の場合、処理低酸素動物のL−シトルリンレベルは、非処理慢性低酸素動物の値の殆ど2倍であった(p=0.001)。しかしながら、試料採血の時に関係なく、非処理低酸素動物と比較したとき、L−シトルリン処理慢性低酸素動物の血漿アルギニンレベルは、より高くはなかった。
【0051】
実施例4 肺eNOS(内皮一酸化窒素シンターゼ)タンパク質のWesternブロット
図7A及び7Bに示すように、対照動物の肺組織に存在するeNOS(内皮一酸化窒素シンターゼ)タンパク質の量は、非処理低酸素動物の肺に存在するタンパク質の量より有意に高かった。更に、L−シトルリン処理低酸素子豚の肺組織に存在するeNOSタンパク質の量は、非処理低酸素動物中のタンパク質の量と有意な差異が無く、また対照動物におけるeNOSタンパク質レベルより有意に低かった。
【0052】
表1に、対照、慢性低酸素、及びL−シトルリン処理慢性低酸素子豚のデータを示す。
【表1】

注:N=動物数、値は平均+SEM、*対対照p<0.05、事後比較テストを伴う分散分析(ANOVA)
【0053】
表2に、対照、慢性低酸素、及びL−シトルリン処理慢性低酸素子豚に対する血漿アミノ酸レベルを示す。
【表2】

注:N=動物数、値は平均+SEM、*対対照p<0.05、†対非処理慢性低酸素p<0.05、事後比較テストを伴う分散分析(ANOVA)、「シトルリントラフ」はL−シトルリン投与後約12時間の血漿レベルを示し、「シトルリン90分」はL−シトルリン投与後90分の血漿レベルを示す。
【0054】
実施例の考察
実施例1〜4において、L−シトルリン補給により、10日間慢性低酸素に暴露された新生子豚の肺高血圧症の進行が改善されることが分かった(図3,4)。本研究における他の発見は、吐息中のNO産生及び肺血管のNOx-蓄積速度は、非処理低酸素子豚においてより、L−シトルリン処理低酸素子豚において大きかったことである(図5,6)。従って、これらの発見は、L−シトルリン補給は、顕著に肺NO産生を増加させることを示す。eNOS(内皮一酸化窒素シンターゼ)タンパク質の量は、処理低酸素動物において増加しなかった(図7B)。
【0055】
特定の作用機構の理論に囚われることなく、L−シトルリンがNO産生の増加を媒介する機構は、eNOS(内皮NOシンターゼ)に対する基質として利用可能なL−アルギニン量を増やすことによると信じられている。本実施例においてL−シトルリン処理動物における血漿中のアルギニンレベルは、非処理低酸素動物と比較して有意に増加しなかった(表2)。この細胞内アルギニンとNO産生との間の不一致は、"アルギニンパラドックス"と名付けられ、本実施例においてL−シトルリン補給に対して血漿中アルギニンレベルが不変であるにもかかわらず、NO産生が増加していることに現れている。L−シトルリンは、2種類の酵素、アルギニノコハク酸シンターゼ(AS)、及びアルギニノコハク酸リアーゼ(AL)のリサイクリング経路によりアルギニンに代謝される尿素回路中間体である(図1)。これら2種の酵素、AS及びAL、は肺内皮細胞におけるeNOS(内皮一酸化窒素シンターゼ)と共局在することが発見された(Boger, R. H., Curr Opin Clin Nutr and Met Care (2008) 11:55-61)。これらの酵素は共に、分離された亜細胞のアルギニンプールを作り、NO合成に限定して用いられると考えられている。この亜細胞プールを、組織及び血漿アルギニンレベルにより正確に見積もることはできない。
【0056】
L−シトルリンはまた、付加的な機構により、NO産生及びeNOS機能を改善する。再び、特定の作用機構の理論に囚われることなく、本実施例におけるL−シトルリンの他の潜在的作用は、充分なレベルの基質アルギニンを維持することによるeNOSのアンカップリングの防止である。
再び、特定の作用機構の理論に囚われることなく、L−シトルリンはまた、NO分解の増加を補償することによりNOの生物利用能に影響を持つであろう。慢性低酸素暴露の間、スーパーオキシド産生が、NADPHオキシダーゼなどのeNOS以外の酵素源から増加するであろう(Liu, 他, Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol (2006) 290:L2-L10)。この過剰なスーパーオキシド産生は、直接にNOと相互作用し、スーパーオキシドの局所的産生を減少させるであろう。この場合充分なNO産生を可能にするL−シトルリン提供により、スーパーオキシドが介在する還元を補償することができる。
まとめると、本実施例は、L−シトルリンが、新生子豚の慢性低酸素誘発性肺高血圧症を緩和することを示す。また、このシトルリンの有効性は、NO産生が増加したためであるという証拠を提供した。従って、L−シトルリンは、慢性又は断続的な、未解決の低酸素症による肺高血圧症進行の危険性のある新生児において有効な治療法である。
【0057】
参考文献
以下に掲載した参考文献及び明細書に引用した全ての参考文献は、本明細書に用いた方法、技術及び/又は組成物に対する背景を補足、説明、提供又は教える程度に従い参考文献として本明細書に取り込む。
Jobe 他 (2001) Am J Respir Crit Care Med 163:1723-1729.
Ballard 他(2006) N Engl J Med 355:343-353.
Ryan, R. M. (2006) J Perinatology 26:207-209.
米国出願公開番号US-2004-0235953-A1,公開日November 25, 2004.
国際公開 WO 2005/082042, 公開日September 9, 2005.
米国特許第6,343,382号
米国特許第6,743,823号
【0058】
本発明の様々な詳細が、開示した発明の範囲から逸脱することなく変更可能であることは理解されるであろう。更に、先の記載は説明の目的のためだけにあり、制限を目的とするものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療を必要とする患者に有効量の一酸化窒素前駆体を投与することから成る気管支肺異形成症の治療方法。
【請求項2】
前記一酸化窒素前駆体が、シトルリン、in vivoにおいてシトルリンを産生する前駆体、アルギニン、in vivoにおいてアルギニンを産生する前駆体、及びこれらの組合せからなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記投与が経口投与、経静脈投与、又はこれらの組合せからなる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記患者が幼児である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記幼児が早産児である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記一酸化窒素前駆体が約100 mgから約30,000 mgの範囲の投与量で投与される請求項1に記載の方法。
【請求項7】
一酸化窒素前駆体は約250 mgから約1,000 mgの範囲の投与量で投与される請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記患者が、血漿シトルリンレベルが37μmol/liter以下で特徴付けられる低シトルリン血症に罹っている請求項1に記載の方法。
【請求項9】
治療を必要とする患者に有効量の一酸化窒素前駆体を投与することから成る慢性低酸素症誘発性肺高血圧症の治療方法。
【請求項10】
前記一酸化窒素前駆体が、シトルリン、in vivoにおいてシトルリンを産生する前駆体、アルギニン、in vivoにおいてアルギニンを産生する前駆体、及びこれらの組合せからなる群から選択される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記投与が経口投与、経静脈投与、又はこれらの組合せからなる請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記患者が幼児である請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記幼児が早産児である請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記一酸化窒素前駆体が約100 mgから約30,000 mgの範囲の投与量で投与される請求項9に記載の方法。
【請求項15】
一酸化窒素前駆体は約250 mgから約1,000 mgの範囲の投与量で投与される請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記患者が、血漿シトルリンレベルが37μmol/liter以下で特徴付けられる低シトルリン血症に罹っている請求項9に記載の方法。
【請求項17】
患者における気管支肺異形成症又は低酸素症誘発性肺高血圧症を治療するために血漿シトルリンレベルを上昇させるのに有効量のシトルリン及び薬学的に許容可能な担体から成る医薬組成物であって、該血漿シトルリンレベルが、治療すべき患者の血漿シトルリンレベルが、気管支肺異形成症又は低酸素症誘発性肺高血圧症に羅患してない患者の血漿シトルリンレベルと比較して決定されることを特徴とする医薬組成物。
【請求項18】
前記シトルリン量が、患者における血漿シトルリンレベルを少なくとも5μmol/liter、任意に少なくとも10μmol/liter、任意に少なくとも20μmol/liter、任意に少なくとも25μmol/liter、任意に約37μmol/liter上昇させるに有効である請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記医薬組成物が、経静脈投与又は経口投与のために適合している請求項17に記載の医薬組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate


【公表番号】特表2011−511006(P2011−511006A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−545245(P2010−545245)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【国際出願番号】PCT/US2009/032824
【国際公開番号】WO2009/099998
【国際公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(501271033)バンダービルト・ユニバーシティ (9)
【氏名又は名称原語表記】VANDERBILT UNIVERSITY
【Fターム(参考)】