説明

肺評価デバイス

肺評価デバイスは、ユーザの肺活動の変動を感知するように構成されたセンサ手段と、前記センサ手段によって駆動され、ユーザの肺の変動を表す連続値を決定するためのフィードバック手段であって、前記値を適切な肺評価情報に変換するように構成されたフィードバック手段とを有する。任意に、センサ手段は、ユーザが着用するかまたはユーザに隣接させて携帯するのに適するアイテムの一部を含むか、または一部を形成し、ユーザの肺活動によって生じる身体の動きに追従して、ユーザの肺活動を評価する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肺評価デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
肺の主な機能は、吸気と肺循環内の血液との間に連続的な気体交換を提供して、酸素を供給し二酸化炭素を除去することである。この除去された二酸化炭素は、後続の呼気によって肺から出される。疾病を抱えていても好ましくない環境下にあっても、確実かつ持続的であり効率的であるこのプロセスに、生存が委ねられている。
【0003】
肺機能テストは、肺がどの程度の空気を保持できるか、空気がどの程度迅速に肺に出入りするか、肺がどの程度良好に酸素を血液に与え、二酸化炭素を血液から除去するかを評価する。このようなテストは、肺疾患診断の助けとなり、通常の呼吸を妨げる肺の不具合の重症度を監視するのに役立てることができる。
【0004】
肺機能テストは、以下の目的で実施される:
・呼吸の不具合の原因を判断するのに役立てる。
・肺疾患を有する人における肺機能の量を監 視し、治療の有効性を観察する。
・肺疾患が発生する高リスクの人を識別する(特に喫煙者)。
・手術前に、人の呼吸能力を評価する。
・肺を損傷させる可能性がある物質に定期的に曝露される人の肺機能を観察する。
【0005】
いくつかの異なるタイプのテストを行うことで、肺機能に関する情報が得られる。このようなテストとしては、肺気量測定、ガス希釈テスト、体プレチスモグラフィ、一酸化炭素拡散能力および動脈血ガスが挙げられる。
【0006】
肺活量測定法は、吸気および呼気される量を時間の関数として測定する方法であり、最も相対的な肺活量を測定するための標準的な方法である。しかし、肺の中の空気の絶対量に関する情報を提供することはできない。したがって、残気量、機能的残気量および総肺気量を測定するために、異なる方法が必要である。
【0007】
絶対肺活量の決定に最も一般的に使用される2つの方法は、ガス希釈および体プレチスモグラフィである。
【0008】
ガス希釈テストは、被検者ができるだけ完全に息を吐き出した後に、肺内に残留する空気の量を測定する(残気量)。体プレチスモグラフィは、肺が保持できる空気の全体量を測定する。
【0009】
体プレチスモグラフィを行う時、被検者は、公知の体積の気密ボックス(体プレチスモグラフまたは「ボディボックス」)内に着座し、シャッタに接続されたマウスピースを通して呼吸する。圧力は、ボックス内および被検者の気道の2箇所で監視され、気道はマウスピースのサイドポートを介して監視される。呼気の終わりには、気道はシャッタによって瞬間的に閉塞され、被検者は、閉塞に対抗して吸気しようと努力する。被検者の胸郭の体積の増加は、ボックスの体積をわずかに減少させ、ボックス内の圧力をわずかに増加させる。
【0010】
ボックス内の圧力の変化を監視し、きちんと裏づけのとれている一連の導出法を適用すれば、胸郭の気体の量および気道の抵抗など、肺に関する多くの測定値を体プレチスモグラフィから求めることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
体プレチスモグラフィに関連する欠点:
・精神的錯乱、筋協調不能、体幹ギプスまたはその他の状態によって、被検者がプレチスモグラフキャビネットに入ったり、または必要な操作(つまり、シャッタの閉鎖に対する浅速呼吸)を適切に行うことができなくなる。
・体プレチスモグラフィキャビネット内に入ることによって、閉所恐怖症が悪化する。
・ポンプまたはその他の機器を用いた持続点滴静注など、中断の許されないプレチスモグラフに適合しない、または圧力変化の妨げとなりうるようなデバイスやその他の状態(例えば胸腔チューブや鼓膜破裂)が存在すること。
・連続酸素療法は、一時的に中断してはならない。
・「浅速呼吸」速度を遅めに維持しない限り、重度の閉塞症の被験者や、誘発性気管支痙攣の被検者の胸郭の気体量が過剰評価される。
・不適切な浅速呼吸技術によって、胸郭の気体量、気道抵抗、特定の気道コンダクタンスが誤って測定される。浅速呼吸時の過度な圧力の変動または信号ドリフトがあると、胸郭の気体量、気道の抵抗または特定の気道コンダクタンスの結果が無効になる場合がある。
・全身プレチスモグラフは高価であり、通常は、肺疾患機能研究所、心肺研究所、臨床診療所、および専門の肺疾患診療所で見られる。
【0012】
本発明の目的は、費用効果が高くて使いやすい肺評価デバイスであって、患者を気密ボックス内に配置する必要性がなく、その結果、たとえば一般診療(GP)レベルで使用できるデバイスを提供することである。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、多様な被検者またはユーザが使用できる肺評価デバイスを提供することである。このような被検者としては、新生児、小児、老人、身体障害者、知的障害者、および動物が挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の最も範囲の広い個々の態様により、
・ユーザの肺活動時の変動を感知するように構成されたセンサ手段と、
・前記センサ手段によって駆動され、ユーザの肺の変動を表す連続値を決定するためのフィードバック手段であって、前記値を適切な肺評価情報に変換するように構成されたフィードバック手段とを含む肺評価デバイスであって、
センサ手段が、ユーザが着用するかまたはユーザに隣接させて携帯するのに適するアイテムの一部を含むか、または一部を形成することを特徴とする肺評価デバイスを提供する。
【0015】
この特徴の組み合わせは、肺の評価に有用な結果を求めるために筐体を使用する必要がなくなる点で有利である。その用途の広さから、このような特徴の組み合わせは、多様な被検者や動物にも有用なので、特に有利である。
【0016】
また、患者が筐体内に着座しなくても結果が得られるように、この特徴の組み合わせを用いても良いので、更に有利である。患者は、たとえば、病院の患者自身のベッドに座っていれば良い。
【0017】
この特定の構成の利点の1つは、ユーザが、使用時に静止して着座するのではなく、自由に移動して位置を変えることができることである。これは、たとえば動作時または運動時でも肺機能を評価するのに特に有用である。この構成によって、非活動および活動期間の両方において一連の測定を行い、ユーザの肺活動のより詳細かつ正確なプロファイルを得ることができる。
【0018】
本発明の従属的な態様により、アイテムが使用時にユーザの身体に係合し、ユーザの肺活動によって生じる身体の動きに追従することができるデバイスを提供する。
【0019】
このような構成の利点の1つは、アイテムを係合させることによって、より正確な測定結果が得られることである。
【0020】
このような構成のさらに他の利点は、特定の身体部分に関して、たとえば肺の個人差および/または肺および腹部間の相違に関して、コンプライアンス測定ができることである。
【0021】
本発明の従属的な態様により、前記感知手段が、
・間にチャンバを形成する内壁および外壁と、
・前記チャンバ内の圧力値を感知するように構成された少なくとも1個のセンサとを含むデバイスを提供する。
【0022】
このような構成は、筐体を使用せずに圧力測定値が得られるという点で有利である。したがって、このデバイスの結果は、当業者が、包括的な訓練をしなくても、先行技術の肺評価デバイスに関する知識があれば容易に解釈できる結果をもたらす。
【0023】
本発明のさらに別の従属的な態様では、内壁が実質的に弾性であり、外壁が内壁に対して実質的に剛性であり、その結果、内壁は使用時に、ユーザの肺活動によって生じる運動に追従し、外壁は実質的に剛性を維持するデバイスを提供する。
【0024】
このような構成の利点の1つは、使用時に、ユーザの動きが制限されないことである。
【0025】
この特定の構成のさらに他の利点は、ユーザが衣服の上からデバイスを着用できることである。
【0026】
もう1つの利点は、異なる体形およびサイズの複数のユーザが、デバイスを調節せずに使用できることである。
【0027】
本発明のさらに他の従属的な態様では、前記アイテムは車両のシートベルトである。
【0028】
この構成は、呼吸時にシートベルト上にかかる張力の有無により、他の有用なユーザの肺活動の測定を行うことができるので、特に有利である。
【0029】
本発明のさらに他の従属的な態様では、前記センサ手段がカメラであり、これによって前記カメラがユーザの肺の変動の連続画像を捉らえるデバイスを提供する。
【0030】
したがって、完全な非接触評価を行うことができ、たとえば火傷の被害者および/または汚染物質のない環境を必要とする患者に有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1aは、前部パネル11、後部パネル12および側部パネル13、14を有し、頭からかぶるアイテムつまりガーメント10の形態の肺評価デバイス10を表す。図1bは、頭部開口部15、腕または胴上部開口部16、17、胴下部開口部18、上部調節手段19、20および/または側部調節手段21、22、並びに使用時に患者の脚部間に固定され、脚部開口部24、25を形成する固定手段23を含むデバイス10を示す。
【0032】
各種開口部については、様々な人体部分を比較的自由に動かすことができるようにサイズおよび形状が当業者によって決められる。
【0033】
胴下部18は、ガーメント10を着用する時に、ユーザの上体が入ることが可能なサイズおよび形状に決められる。
【0034】
調節手段19、20、21、22は、上側の前部パネル11、上側の後部パネル12、および側部パネル13、14の間に設けられ、ユーザは、使用時にガーメント10を調節して多少なりとも体に合わせることができる。これらは、VELCRO(登録商標)などの公知の選択肢から当業者が選択すれば良い。
【0035】
固定手段23は、第1端部が下側の前部パネル11または下側の後部パネル12に固定され、その向かい側にあるパネル12、11には第2端部が着脱可能に接続される。胴下部開口部18および固定手段23が固定されると、ユーザの脚部を自由に動かすことのできる脚部開口部24、25が提供される。
【0036】
ガーメント10を構成する材料は、軽量かつ柔軟で、身体にぴったり適合するものであれば良い。
【0037】
ガーメント10を着用すると、前胸壁、および少なくとも上腹部が覆われる。調節手段19、20、21、22は、必要な領域とガーメント10との接触が十分に確保されるように調節をすることができる。
【0038】
図2a〜cは、実質的にユーザと接触する内壁110、および内壁に接続されている外壁120を含み、内壁110と外壁120との間にチャンバ130を形成するガーメント10の内部構成を表す。センサ手段140は、2つの壁部110と120との間に位置する。センサ手段140にはフィードバック手段145が接続され、連続測定値を捉らえて評価する。このようなフィードバック手段は、たとえばマイクロプロセッサ、コンピュータまたは記録計を備えるものであればよい。
【0039】
使用時、着用者は、胴下部開口部18から頭部、腕および胴上部をいれ、頭部を頭部開口部15から出し、腕を腕開口部16、17から出す。ユーザおよび/またはアシスタントは、前胸壁および上腹部がガーメント10によって確実に覆われるようにガーメント10を調節する。固定手段23は、ユーザの脚部の動き、またはユーザの背骨に直角なガーメント10の動きを制限しないようにしつつ、ユーザの背骨に平行なガーメント10の動きを制限するように固定される。
【0040】
呼吸時の着用者の胸壁の動きは、ガーメント10によって追従される。
【0041】
図2a〜2cは、ガーメント10の使用を呼吸サイクルに関連付けて示す。
・図2aは、停止時のデバイス10を示す。
・図2bは、吸気時のデバイス10を示す。ガーメント10の内壁110は、胸郭の動きに追従するが、外壁120は胸郭の動きに追従しない。内壁と外壁との間の一定量の気体は、肺(片方または両方)の膨張によって外壁120方向に押される。ガーメント10内の気体の量は、着用者が呼吸しても、気体の圧力と違って変化しない。センサ手段140は、圧力の変化を観察するために配置される。
・図2cは、呼気時のデバイス10を示す。肺および胸郭の容積が減少すると、内壁110は弛緩し、さらに胸郭の動きに追従し、内壁110によって気体に加わる圧力は減少する。
【0042】
動作時または激しい運動時には、固定手段23によって、使用時のガーメント10の正確な位置が確保される。
【0043】
図3a〜bは、チャンバ103a、103b、130a’、130a’’、130b’、130b’’の配列を含むガーメント10として可能な構成を示す。
【0044】
図3aは、各肺を区別するために使用するとよい2個のチャンバ130a、130bを有するデバイス10を示す。あるいは、上部肋骨領域および下部肋骨領域を区別して測定するために使用するとよい上部および下部チャンバを前部パネル11に含ませてもよい。
【0045】
図3bは、各肺の上部および下部肋骨領域を区別して測定するために使用するとよい4個のチャンバ130a’、130a’’、130b’、130b’’を有するデバイス10を示す。
【0046】
後部パネル12は、上記と同じような配列のチャンバを有していればよい。
【0047】
このような配列のチャンバ130a、130b、130a’、130a’’、130b’、130b’’の数および位置に応じて、局所的な測定結果を得ることができる。
【0048】
第2実施態様では、肺評価デバイスは車両のシートベルトの形態を取ることもでき、胴を包囲する肺接触領域と、肺接触領域内にあって、接触領域内の張力を測定できるセンサ手段とを有し、これらはすべて、得られた結果を記憶および評価するマイクロプロセッサに接続される。
【0049】
あるいは、センサ手段は、上記のように間にセンサを有する二重壁部構造を備えていてもよい。このような車両シートベルトの変形例では、心臓を覆うように接触領域を配置すれば、心臓コンプライアンスの測定結果が得られるであろう。
【0050】
第3実施態様では、肺評価デバイスは、肺の変動/変位を監視するカメラを使用する。ユーザが呼吸すると、ユーザの胸壁の外形の画像が複数捉らえられ、次にこれが処理され、呼吸時の変位の判断が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】(a)及び(b)は、本発明の第1実施態様による肺評価デバイスの前面図を示す。
【図2】(a)は、停止時の肺評価デバイスの断面図を示し、(b)は、吸気時の肺評価デバイスの断面図を示し、(c)は、呼気時の肺評価デバイスの断面図を示す。
【図3】(a)及び(b)は、チャンバの配列を有する本発明による肺評価デバイスの前面図を示す。
【符号の説明】
【0052】
150 着用者側
160 非着用者側
170 非着用者側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
・ユーザの肺活動時の変動を感知するように構成されたセンサ手段と、
・前記センサ手段によって駆動され、ユーザの肺の変動を表す連続値を決定するためのフィードバック手段であって、前記値を適切な肺評価情報に変換するように構成されたフィードバック手段と
を含む肺評価デバイスであって、
センサ手段が、ユーザが着用するかまたはユーザに隣接させて携帯するのに適するアイテムの一部を含むか、または一部を形成することを特徴とする肺評価デバイス。
【請求項2】
前記アイテムが使用時にユーザの身体に係合し、ユーザの肺活動によって生じる身体の動きに追従する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記感知手段が、
・間にチャンバを形成する内壁および外壁と、
・前記チャンバ内の圧力値を感知するように構成された少なくとも1個のセンサとを組み込む、請求項1または請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
各々のチャンバがユーザの別個の領域上に配置されるチャンバの配列を含む、請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
内壁が実質的に弾性であり、
外壁が、内壁に関連して実質的に剛性であって、このため、内壁は使用時に、ユーザの肺活動によって生じる動きに追従し、外壁は実質的に剛性を維持する、請求項3または請求項4に記載のデバイス。
【請求項6】
前記アイテムがアームバンドである、先行する請求項の何れか1項に記載のデバイス。
【請求項7】
前記アイテムが車両のシートベルトである、先行する請求項の何れか1項に記載のデバイス。
【請求項8】
前記センサ手段がカメラであり、これによって、前記カメラがユーザの肺の変動の連続画像を捉らえる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項9】
添付の本文および図面の適切な任意の組み合わせに関連して実質的に説明および図示される肺評価デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−501668(P2007−501668A)
【公表日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523051(P2006−523051)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【国際出願番号】PCT/GB2004/003472
【国際公開番号】WO2005/016145
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(504367287)
【Fターム(参考)】