説明

胃粘膜障害治療薬

【課題】脂質過酸化作用に起因する疾患、特に胃粘膜障害の新規かつ安全な治療剤を提供すること。
【解決手段】ウルソデオキシコール酸またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する胃粘膜障害治療薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウルソデオキシコール酸またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する胃腸障害治療薬に関する。さらに詳しくはウルソデオキシコール酸の脂質過酸化抑制作用に基づく胃粘膜障害治療薬に関する。以下、本明細書において、ウルソデオキシコール酸を「UDCA」と称することがある。
【背景技術】
【0002】
酸素代謝に際して活性酸素が発生する。活性酸素は殺菌など生体に有利な作用を示すこともあるが、基本的には組織を変成し各種疾患を誘発する物質である。活性酸素は細胞膜の主成分である脂質を反応し、過酸化脂質に変化する。生成された過酸化脂質は新たに他の脂質を過酸化する。この反応は繰り返されてラジカル連鎖反応となり、過酸化脂質の生成が細胞膜上全体に広がっていく。組織全体に広がった過酸化脂質により諸処で細胞膜機能も変化、種々の細胞傷害が惹起され、組織は機能不全に陥る。
【0003】
慢性肝炎では、免疫系細胞由来の活性酸素によって肝細胞の破壊と再生が繰り返される。古代中国では、すでに用いられていた熊胆の主成分であるウルソデオキシコール酸にはこの慢性炎症を軽減する作用があり、この機序として肝細胞保護作用、利胆作用、免疫調整作用が報告されている(特許文献1、2、3、4、5参照)。
【特許文献1】特開平9−59162号公報
【特許文献2】特開平9−315979号公報
【特許文献3】特開平10−17474号公報
【特許文献4】特開2003−119144号公報
【特許文献5】特開2004−35503号公報胃酸は19世紀から攻撃因子として位置づけられ、胃粘膜傷害を惹起する物質として定義されてきたが、胃酸による胃粘膜への直性傷害作用についての報告はない。細胞外の水素イオンは細胞内のpHにも影響を与え、酸化ストレス的作用を示す可能性がある。
【0004】
しかし、後述の実施例に示すようにウルソデオキシコール酸が酸環境誘導性の脂質過酸化を抑制することや、胃粘膜障害に対してどのような効果があるかについては明確な検討がなされていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、脂質過酸化作用に起因する疾患の新規な治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、胃粘膜障害に対するウルソデオキシコール酸の効果をみたところ、ウルソデオキシコール酸が酸環境誘導性の脂質過酸化を抑制することを見出し、ウルソデオキシコール酸が、胃腸障害、特に胃粘膜障害に対して有効な薬剤になりうることを見出して本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は次のとおりのものである。
(1)ウルソデオキシコール酸またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する脂質過酸化抑制剤。
(2)ウルソデオキシコール酸またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する胃腸障害治療薬。
(3)ウルソデオキシコール酸またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する胃粘膜障害治療薬。
(4)ウルソデオキシコール酸またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する胃粘膜保護剤。
【0008】
ウルソデオキシコール酸は、胆汁酸の一種であり、市販品として入手可能である。また、その薬理学的に許容される塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩などアルカリ土類金属塩、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、2,6−ルチジン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミンなどの有機塩基との塩などが挙げられる。これらの塩は公知の方法、例えば特開2001−261696号公報などに記載の方法により得ることができる。
【発明の効果】
【0009】
酸環境誘導性の脂質過酸化に起因する疾患としては、胃粘膜障害、胃腸障害などが挙げられ、本発明の薬剤はこれら胃粘膜障害、胃腸障害等の疾患の治療薬あるいは胃粘膜保護剤として使用することができる。
【0010】
本発明の薬剤は、散剤、顆粒剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、貼付剤、坐剤などの固形製剤、あるいは、注射剤、吸入剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤などに製剤化して使用できる。
【0011】
本発明の薬剤は、製剤上の必要に応じて、適宜の薬理学的に許容される担体、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、コーティング剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、等張化剤などを配合して製剤化される。必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、香味料などの添加剤を配合することもできる。
【0012】
薬理学的に許容される担体や添加剤の具体例としては、乳糖、ショ糖、マンニット、トウモロコシデンプン、合成もしくは天然ガム、結晶セルロースなどの賦形剤、ゼラチン、セルロース誘導体、アラビアゴム、ポリビニルピロリドン等の結合剤、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、デンプン、コーンスターチ、アルギン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール6000などの崩壊剤、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウムなどの滑沢剤等を挙げることができる。
【0013】
投与量は、疾患の種類、投与方法、病態、患者の年令などによっても異なるが、通常、成人に対し1日当り、経口で30〜3000mg、好ましくは150〜1200mg、静注で5〜400mg、好ましくは50〜200mgであり、これを1〜6回、好ましくは1〜3回に分割して投与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に実施例を示して詳細に説明するが、本発明はこれらの記載によって限定されるものではない。
【実施例】
【0015】
実施例1:胃粘膜障害に対するウルソデオキシコール酸の効果
胃粘膜細胞培養系を用い、酸環境によって誘導される細胞内脂質過酸化がウルソデオキシコール酸(UDCA)を予め添加することによってどの程度抑制されるかをDPPP(diphenyl-1-pyrenylphosphine)によって観察した。近年開発された蛍光試薬DPPPは細胞の脂質過酸化を生きたまま測定することが可能である。
方法
胃粘膜細胞培養系RGM−1(ラット胃粘膜上皮細胞)を2穴チャンバースライドに各10個ずつ24時間培養後、無血清培地に切り替えて6時間以上培養したものを実験に用いた。
1)UDCA群・・・UDCA100μmol/mLを2mL/well添加後1時間37℃でインキュベート
→ PBS(−)で3回洗浄
→ pH3緩衝液を2mL/well添加後30分間37℃でインキュベート
→PBS(−)で3回洗浄
2)コントロール群(pH3群)・・・pH3緩衝液を2mL/well添加後30分間37℃でインキュベート
→ PBS(−)で3回洗浄
各群にDPPP溶液を添加して30分後に蛍光観察(ex;352nm, em;380nm)した。DPPPは、ヒドロペルオキシドに高い反応選択性を有する発蛍光分析試薬として、目黒らにより開発された。pH3緩衝液は塩酸と塩化ナトリウムでpHと浸透圧を調節したものを用いた。
結果
蛍光観察の結果を図1、図2に示す。また、蛍光強度を測定したところ、以下のとおりであった。
【0016】
DPPPの蛍光強度(平均±SD)
コントロール群:786.37±34.07
UDCA群 :470.0 ±59.29
上記のとおり、UDCAの添加により、酸環境誘導性の脂質過酸化は、コントロール群に比べて有意に減少したことから、UDCAは酸環境誘導性の脂質過酸化に対して抑制的に作用することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0017】
酸環境誘導性の脂質過酸化作用に関連する疾患が報告され、その作用を抑制する薬剤、あるいは拮抗する薬剤に対する必要性が高まる中で、ウルソデオキシコール酸は、酸環境誘導性の脂質過酸化を抑制し、胃粘膜保護作用を有することが明らかとなった。よって、本発明の薬剤は、その有効成分であるウルソデオキシコール酸が治療薬としての使用実績があり、低毒性で副作用が少ないため、胃粘膜障害、胃腸障害等の治療薬として実用上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】コントロール群を蛍光観察したときの様子を示す図である。
【図2】UDCA群を蛍光観察したときの様子を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウルソデオキシコール酸またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する脂質過酸化抑制剤。
【請求項2】
ウルソデオキシコール酸またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する胃腸障害治療薬。
【請求項3】
ウルソデオキシコール酸またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する胃粘膜障害治療薬。
【請求項4】
ウルソデオキシコール酸またはその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する胃粘膜保護剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−160658(P2006−160658A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−353722(P2004−353722)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(000006725)三菱ウェルファーマ株式会社 (92)
【Fターム(参考)】