説明

胃食道逆流疾患治療用組成物

【課題】 新規なGERD治療用組成物を提供すること。
【解決手段】 テアニンを含有することを特徴とする胃食道逆流症の予防および/または治療用組成物によって達成される。この組成物は、食品、医薬品に用いることができる。また、本発明によれば、テアニンを含有する組成物を投与することを特徴とする胃食道逆流症の予防および/または治療方法、並びに胃食道逆流症を有する個体に適用するための食品または医薬品の製造のためのテアニンの使用が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テアニンを有効成分とする胃食道逆流疾患の予防・治療を目的とする組成物に関する。また、胃食道逆流疾患治療用組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
胃食道逆流症(gastroesophageal reflex disease:GERDまたはacid reflux disease:ARD)とは、胸やけや胸痛といったよく見られる症状で、成人の15〜20%に認められるとの調査報告がある。内視鏡検査を行い食道の下部にただれなどの食道炎の所見があれば、食道内に胃酸が逆流するために生じた逆流性食道炎と診断される。しかし、上記症状をうったえる患者の30〜40%には、内視鏡所見により異常が認められないため、食道炎の有無に関わらず食道内への胃酸などの胃内容物逆流による症状があればGERDと呼ばれるようになった。今後は日本においても、高齢者の増加、食生活の欧米化により患者数が増加することが予想される。
【0003】
GERDの治療にはプロトンポンプインヒビター(PPI)やH2ブロッカー、GABA受容体への親和性化合物が使われる。しかし、PPIを長期使用すると胃酸の分泌を抑えタンパク質などの消化異常を引き起こす。また、H2ブロッカーには、頭痛、眠気、不眠などといった軽度の副作用が起こる事が知られている。H2ブロッカーとして使用されているタガメット、ザンタック、ガスターには、精神錯乱、意識障害、痙攣、無呼吸など重篤な副作用も起こる事が知られている。H2ブロッカーによる重篤な中枢性副作用は、睡眠障害、昏睡、幻視、幻聴、見当識障害、全身振戦、幻覚、夢遊病状態、めまい、眠気、譫妄興奮、苦悶、不眠、好戦的、頭痛などの症状を伴うことが報告されており、ありとあらゆる精神症状が出現すると考えられている。
【0004】
一方、テアニンは緑茶の旨味の主要成分として知られ、茶をはじめとする食品の呈味成分として重要な物質である。テアニンを含むγ−グルタミル誘導体は、動・植物体における生理活性物質として作用することが指摘されている。テアニンやL−グルタミンは、カフェインによって誘発される痙攣に拮抗すると言われている。このことからこれらの化合物が中枢神経系に作用することが考えられ、抗ストレス作用(特許文献1)、脳機能改善剤(特許文献2)などの生理作用が知られている。
【特許文献1】特開平06−100442号公報
【特許文献2】特開平08−073350号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、新規なGERD治療用組成物を提供することにあり、更にGERDを有する個体に適用するための食品および医薬品を提供することにある。また、本発明の目的は、GERDを有する個体に投与するGERD改善方法、ならびに前記食品または医薬品の製造のためのテアニンの使用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、テアニンを使用することにより、今まで知られなかったGERDの症状の改善が有効に発揮されたこと、およびその使用が問題とすべき副作用を伴わないことを見出し、基本的には、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明者らは、安全で副作用のないGERDを改善する手段について鋭意検討した結果、テアニンにGERDを改善する効果を見出し、本発明を完成した。テアニンは茶に含まれるアミノ酸であり副作用は認められず、GERDに対して、即効性の効果がある。テアニンの上記効果は、本発明者らが初めて見出した新規効果である。
【0007】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(5)である。
(1)テアニンを含有することを特徴とする胃食道逆流症の予防および/または治療用組成物。
(2)前記(1)記載の組成物を含有することを特徴とする食品。
(3)前記(1)記載の組成物を含有することを特徴とする医薬品。
(4)テアニンを含有する組成物を投与することを特徴とする胃食道逆流症の予防および/または治療方法。
(5)胃食道逆流症を有する個体に適用するための食品または医薬品の製造のためのテアニンの使用。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、副作用のないGERD治療用組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
本発明に用いられるテアニンとは、茶葉に含まれているグルタミン酸誘導体で、茶の旨味の主成分であって、呈味を用途とする食品添加物として使用されている。本発明に用いられるテアニンの製造法としては、茶葉から抽出する方法、有機合成反応させてテアニンを得る方法(Chem.Pharm.Bull.,19(7)1301−1307(1971))、グルタミンとエチルアミンの混合物にグルタミナーゼを作用させてテアニンを得る方法(特公平7−55154号)、エチルアミンを含有する培地で茶の培養細胞群を培養し、培養細胞群中のテアニン蓄積量を増加させつつ培養細胞群の増殖促進を図る方法(特開平5−123166号)、特公平7−55154号におけるエチルアミンをエチルアミン塩酸塩などのエチルアミン誘導体に置き換えてテアニンを得る方法、茶葉から抽出する方法等がある。本発明においては、いずれの方法により得られたテアニンを用いることができる。また、茶葉とは、緑茶、ウーロン茶、紅茶等があげられる。
【0010】
このような方法により得られたテアニンは、L−体、D−体、DL−体いずれも使用可能であるが、中でもL−体は、食品添加物にも認められており、経済的にも利用しやすいため、本発明においては、L−体が好ましい。
本発明に用いるテアニンは精製品(テアニン含量98%以上)、粗精製品(テアニン含量50〜98%)、抽出エキス(テアニン含量1〜50%)等でいずれの形状でも良い。
本発明に用いられるテアニンの安全性は高く、たとえば、マウスを用いた急性毒性試験において5g/kg経口投与で死亡例がなく、一般状態および体重等に異常は認められない。また、特にテアニンは茶のうまみ成分として知られているものであり、呈味を用途とする食品添加物としても使用され、食品衛生法上、その添加量に制限はない。
【0011】
本発明におけるGERDとは、胃酸の食道への病的な逆流に起因すると言われており、通常「むねやけ症状」と呼ばれるものである。GERDは胃酸を中心とする胃内容物が食道内に逆流し、長時間にわたって食道内に停滞するために胸やけを中心とする症状が出現し健全な生活ができなくなったり、下部食道の粘膜に損傷が形成される病態を総称している。日本人におけるGERDの特徴は、次の通りである。週1回以上の胸やけ症状が高率に認められること、男性より女性に多くみられること、及び高齢者では女性の頻度が高いことである。
【0012】
食道と胃の境界部にある下部食道括約筋(LES)は弁の働きを有しており、胃の内容物が食道内に逆流しないような仕組みになっている。健常者においても、食事摂取時には嚥下運動とともに一過性にLESが弛緩して食べ物が胃の中に入る。しかし、GERD患者では、胃の伸展刺激や胃からの排泄遅延が加わることで一過性LES弛緩現象の頻度が多くなるために、GERDが発症すると考えられている。
【0013】
内視鏡的に明らかな食道炎を認めない症候性GERDとして、symptomatic GERD(S−GERD)がある。S−GERDは、粘膜障害の程度に関係なく、患者が医学的な対応を求める程度の胸やけなどの逆流に由来する不快な自覚症状を有するものである。S−GERDでは、自覚症状があり、かつ内視鏡的に明らかな食道粘膜傷害のあるもの(逆流性食道炎)から、内視鏡的には明らかな粘膜傷害を確認できないもの(内視鏡陰性逆流症)まで、逆流症状のあるものをいう。
【0014】
本発明におけるGERD治療用組成物が発揮されるテアニンの投与量は、0.1mg/kg体重から500mg/kg体重であり、好ましくは1mg/kg体重から300mg/kg体重であり、更に好ましくは5mg/kg体重から100mg/kg体重である。テアニンの投与量はGERD症状の重症度によって適宜決めることができる。
また、本発明の組成物には、生薬、ハーブ、アミノ酸、ビタミン、ミネラル、その他飲食品、医薬品に許容される素材・原料を併用することができる。生薬とは、特に限定されるものではないが、カノコソウ、当帰、芍薬、牡丹、高麗人参などがあげられる。
【0015】
ハーブとは、特に限定されるものではないが、アニス、キャロットシード、クローブ、コリアンダー、サイプレス、シナモン、ジュニパー、ジンジャー、スイートオレンジ、パインニードル、バジル、パチュリ、ビターオレンジ、フェンネル、ブラックペッパー、ベイ、ペパーミント、ベルガモット、マンダリン、ミルラ、レモングラス、ローズマリー、グレープフルーツ、シダーウッド、シトロネラ、セージ、タイム、ティートゥリー、バイオレットリーフ、バニラ、ヒソップ、ユーカリ、ライム、レモン、イランイラン、カルダモン、クラリセージ、ジャスミン、ゼラニウム、カモミール、ブルガリアローズ、ローズ、オリバナム、ラベンダー、カミツレ、ゼラニウム、サンダルウッドネロリ、バーベナ、プチグレン、ベチバー、マージョラム、メリッサ、ローズウッド、オトギリソウ、セイントジョーンズワート、カワカワなどがあげられる。
【0016】
アミノ酸とは、特に限定されるものではないが、例えば、L型アミノ酸では、アラニン、アルギニン、アルギニン酢酸塩、塩酸アルギニン、アスパラギン、チトルリン、システイン、シスチン、グルタミン酸及びその塩類、グルタミン、グリシン、ヒスチジン及びその塩類、ハイドロキシプロリン、イソロイシン、ロイシン、リジン及びその塩類、メチオニン、オルニチン酢酸塩および塩酸塩、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロジン及びバリンなど、DL型では、アラニン、システイン及びその塩類、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン及びバリンなど、D型では、アラニン、システイン塩酸塩水和物及びフェニルアラニンなど、L−アルギニンL−アスパラギンなどのL−アミノ酸複合塩および混合物、アスパラギン酸カリウムなどのアミノ酸金属塩、塩酸L−エチルシステインなどのアミノ酸エステル、アセチルシステインなどのアセチルアミノ酸、アデニン、アデノシンなどの核酸関連物質、ベータ−アラニンなどのオメガアミノ酸及びヒスタミン二塩酸塩などのアミノ酸代謝物、γ−アミノ酪酸、タウリン、チオタウリン、ヒポタウリンなどが挙げられる。
【0017】
ビタミンとは、特に限定されるものではないが、ビタミンA、ビタミンB 、ビタミンB、ビタミンB 、ビタミンB15、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、葉酸、ニコチン酸、リポ酸、パントテン酸、ビオチン、ユビキノン、プロスタグランジンなどがあげられ、これらビタミンの誘導体も含まれる。
ミネラルとは、特に限定されるものではないが、カルシウム、鉄、マグネシウム、銅、亜鉛、セレン、カリウムなどがあげられる。
【0018】
医薬品は、現在使用されているGERD治療薬を用いることでき、胃酸を中和することを目的としたマルファ液などの制酸薬、粘膜保護、血止を目的としたアルギン酸Naなどの粘膜保護薬、胃酸分泌抑制を目的としたシメチジン、ラニチジン、ファモチジン、ロサチジン、ニザチジンなどのヒスタミンH2受容体拮抗薬、オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾールなどのプロトンポンプ阻害薬、Z−360などのガストリン受容体拮抗薬、一過性下部食道括約筋弛緩を目的としたバクロフェンなどのGABA−B受容体作動薬、胃排出促進や下部食道括約部圧低下減弱効果を目的としたテガセロッドなどの5−HT4受容体作動薬が挙げられる。
【0019】
その他には、アロエ、ローヤルゼリー、メラトニン、プラセンタ、プロポリス、イソフラボン、大豆レシチン、卵黄レシチン、卵黄油、コンドロイチン、カカオマス、コラーゲン、酢、クロレラ、スピルリナ、イチョウ葉、緑茶、杜仲茶、黄妃茶、ウーロン茶、桑の葉、甜茶、バナバ茶、不飽和脂肪酸、糖アルコールやオリゴ糖などの糖類、ビフィズス菌や紅麹などの菌類、アガリクス茸、姫マツタケ、霊芝、マイタケ等のキノコ類、ブルーベリー、プルーン、ブドウ、オリーブ、うめや柑橘類等の果実類、落花生、アーモンド、ゴマや胡椒等の種実類、ピーマン、唐辛子、ネギ、カボチャ、ウリ、人参、ゴボウ、モロヘイヤ、ニンニク、シソ、ワサビ、トマト、らっきょ、葉菜、芋や豆等の野菜類、ワカメ等の海草類、魚介類、獣鳥鯨肉類、穀類などが使用でき、さらにこれらの抽出物、乾燥品、粗精製品、精製品、加工品、醸造品等も使用できる。
【0020】
本発明品であるGERD治療用組成物を飲食品又は医薬品として摂取するには、テアニンを含有する溶液、懸濁物、粉末、固体成形物等の形態であれば良く、特に限定されない。より具体的には、練り製品、大豆加工品、調味料、ムース、ゼリー、冷菓、飴、チョコレート、ガム、クラッカー、ケーキ、パン、スープ、コーヒー、ココア、緑茶、ウーロン茶、紅茶、ハーブティー等の茶類、濃縮果汁、濃縮還元ジュース、ストレートジュース、果実ミックスジュース、果粒入り果実ジュース、果汁入り飲料、果実・野菜ミックスジュース、野菜ジュース、炭酸飲料、清涼飲料、乳飲料等の飲料、乳製品、錠剤、カプセル、医薬品、顆粒品等が挙げられる。
【0021】
医薬品としての剤形は、内服薬、吸入薬等が挙げられる。内服薬は、従来使用されている錠剤、カプセル、粉末剤、顆粒剤、ドリンク剤等によって摂取されるものである。吸入薬は、従来の方法により吸入させるものであって、例えば、水蒸気又は空気の中に発明品を加えることにより鼻孔あるいは口腔より体内に吸収されるものである。
【0022】
本発明における錠剤の製造方法は、特に限定されないが、原料を混合後直接打錠する方法、原料を湿式造粒または乾式造粒後に打錠する方法などが挙げられる。また、必要に応じて結晶セルロース、糖類などの賦形剤を配合することもできる。打錠特性を良くするために、シュガーエステル、ポリグルタミン酸エステルなどの滑沢剤を併用することもできる。一般的に、飲食品や医薬品等に使用されている矯味剤を含有することができる。そのような矯味剤としては、各種フレーバーを用いることができるが、例としては、レモンフレーバー、オレンジフレーバー、グレープフルーツフレーバー、チョコレートフレーバー、dl−メントール、l−メントール等が挙げられる。
以下、実施例および試験例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は当該実施例および試験例によって限定されるものではない。
【0023】
実施例1 酵素法によるテアニンの製造
0.3Mグルタミン及び1.5M塩酸エチルアミンを0.05Mホウ酸緩衝液(pH11)中、0.3Uグルタミナーゼ(市販品)存在下にて、30℃、22時間反応させ、225nmolのL−テアニンを得た。次いで、反応液をDowex 50×8、Dowex 1×2カラムクロマトグラフィー(共に室町化学工業(株)製)にかけ、これをエタノール処理することにより、反応液から目的物質を単離した。
【0024】
この単離物質をアミノ酸アナライザー(日立製作所株式会社製)、ペーパークロマトグラフィーにかけ、標準物質と同じ挙動を示すことにより、当該物質がL−テアニンであることを確認した。塩酸またはグルタミナーゼで加水分解処理を行うと、1:1の割合でグルタミン酸とエチルアミンを生じた。単離物質がグルタミナーゼによって加水分解されたことから、エチルアミンがグルタミン酸のγ位に結合していたことが示された。また、加水分解で生じたグルタミン酸がL−体であることも、グルタミン酸デヒドロゲナーゼにより確認した。以上より8.5gのL−テアニンが得られた。
【0025】
実施例2 テアニンの茶葉からの抽出
茶(Camellia sinensis)の葉10kgを熱水で抽出後、カチオン交換樹脂(室町化学工業(株)製 Dowex HCR W−2)に通し、1N NaOHにより溶出した。溶出画分を活性炭(二村化学工業(株)製太閤活性炭 SG)に通し、15%エタノールによる溶出画分をRO膜(日東電工(株)製 NTR729HF)を用いて濃縮し、カラムクロマトグラフィーにて精製し、更に再結晶を行い、L−テアニン24.8gを製造した。
【0026】
以下の各試験および各組成物の製造には、L−テアニン[商品名:サンテアニン、太陽化学株式会社製]を用いた。
実施例3 テアニン配合錠剤の製造
テアニン配合GERD治療用組成物の1例として、表1に示す原料100gを混合後、1粒当り0.75gに打錠し、テアニン配合錠剤を製造した。
【0027】
【表1】

【0028】
試験例1 GERD改善効果例1
<症例>70歳代前半、女性
<主訴>胸焼け、胸痛
<既往歴>66歳高血圧
<現病歴>平成元年頃より胸焼けを自覚するようになり、近くの医院にて胃カメラ施行し、逆流性食道炎の診断にて内服加療していた。その後1年に1回胃カメラを施行していた。平成14年6月頃より食後に左胸部から背部にかけてつまるような痛みが出現し、近くの病院にて心機能検査するも異常なく、逆流性食道炎の悪化も認められないといわれ、経過をみるも症状改善なく、嘔気・嘔吐も伴うようになり精査加療目的にて来院。
<現症>身長153.2cm、体重58.0kg、体温36.7℃、血圧158/80mmHg、脈拍66/分整。眼瞼結膜に貧血なし、眼球結膜に黄疸なし。腹部平坦かつ軟、圧痛なし。肝、脾、腎は触知せず、腹水なし。四肢に浮腫を認めず、表在リンパ節触知せず。
<来院時血液検査所見>腫瘍マーカーも含め、明らかな異常所見は認められなかった。
<来院時内視鏡所見>内視鏡所見には『食道・胃接合部は開大するもビラン・発赤は目立たず、胃は著明に変形、ねじれを伴うも、粘膜面は萎縮を認める以外明らかな潰瘍等は認められなかった。』と記載。
<処置>実施例3のテアニン配合錠剤を食前に2錠、1日6錠を経口投与させた。1ヶ月継続したところ症状の改善が認められた。また、副作用は認められなかった。
【0029】
試験例2 GERD改善効果例2
<患者名(イニシャル)>SN、年齢44歳、男
<職業>会社員
<生年月日>1960年1月1日
<居住地>大阪市西成区
<レポート記載日>2004年6月9日
<疾患・症状名>逆流性食道炎・症状:胸痛、胸やけ、嘔気・嘔吐、食欲不振
<病歴・主訴>食後の胸痛、胸やけ、嘔気・嘔吐
<現病歴>昨年末から食後にげっぷが多くなり、口腔内に苦いものがこみ上げてくる症状を週に1度くらい自覚するようになった。平成16年4月ごろからは、心窩部の鈍痛が持続するようになり、食事を摂取するたびに嘔気が強くなった。4月下旬からは1日中胸やけが持続し、食欲も低下したため1ヶ月で3kgの体重減少を認めた。5月17日からは下前胸部のきりきりとした痛みが出現したため、精査を希望して5月20日に総合診療科外来を受診した。
<既往歴>24歳、十二指腸潰瘍のため内服治療を受け軽快
<家族歴>兄が大腸癌で死亡
<生活習慣>喫煙20本×20年、飲酒量は毎日ビール1缶
<現症>身長170cm、体重52Kg、血圧134/80mmHg、脈拍72/分、意識清明、眼瞼結膜貧血なし、眼球結膜黄染なし、心音、呼吸音は正常であった。腹部所見は、平坦で血管性雑音は聴取せず、腸蠕動も正常であった。心窩部の触診で軽度の圧痛を認めた。
<外来検査所見(平成16年5月20日)>白血球数7200/mm、赤血球450万/mm、Hb14.1g/dl、Ht41%、血小板数17.2万/mm、肝機能、腎機能、血清電解質には異常を認めなかった。CK70IU/Lと正常であった。便潜血陽性。
<胸部X線写真>心陰影拡大(−)、胸水(−)、肺野に異常陰影(−)
<腹部X線所見>胃泡が著明に見られるが、その他の異常所見を認めず。
<心電図>sinus rhythm、HR80/min。虚血性変化は認めず。
<外来経過>食道および胃の病変が強く疑われたため、5月25日に上部消化管内視鏡検査を施行した。食道下部粘膜の発赤、びらんが著明。胃食道逆流(GERD)による胸やけ、胸痛、嘔気・嘔吐と診断し、6月2日から実施例3のテアニン配合錠剤を食前に5錠、1日15錠を経口投与させた。7日間継続した6月9日には症状の改善が認められた。また、副作用は認められなかった。
【0030】
試験例3 自覚症状の改善効果
GERDを自覚する被験者10名を対象として実施例3のテアニン配合錠剤のGERD改善効果を検証した。被験者は実施例3のテアニン配合錠剤を毎食前に3錠、1日9錠を経口摂取した。GERDの症状は表2のFスケールにより、0〜4点の判断基準で症状の程度を判断した。
【0031】
【表2】

【0032】
実施例3のテアニン配合錠剤摂取前と1週間摂取した結果を図1に示した。摂取前のFスケール値は8.8±0.98(平均±標準偏差)であった。実施例3のテアニン配合錠剤摂取により、Fスケール値は7.5±1.9となった。対応のあるt検定により統計的解析を実施したところ、実施例3のテアニン配合錠剤摂取により症状の改善が有意に(p<0.05)認められた。
【0033】
試験例4 pHモニタリング検査
GERDを自覚する被験者10名を対象として実施例3のテアニン配合錠剤のGERD改善効果を検証した。被験者は実施例3のテアニン配合錠剤を毎食前に3錠、1日9錠を経口摂取した。pHモニタリングは先端にpHセンサーがついたコードを鼻から食道の中に挿入して行った。食道のpHは24時間連続的に測定し、携帯型コンピューターを用いて記録を行った。一般的に、食道のpHは6.5から6.8程度であり、胃酸が食道内に逆流するとpHが4.0以下に下がる。食道内のpHが4.0以下になる時間が1日の4.0%をこえた場合GERDと診断される。
【0034】
実施例3のテアニン配合錠剤摂取前と1週間摂取した時の1日の食道内pHが4.0以下になる時間の割合(%)を図2に示した。摂取前では4.86±0.69%(平均±標準偏差)であった。実施例3のテアニン配合錠剤摂取により3.92±0.66%とpH4.0以下に下がる割合が減少した。対応のあるt検定により統計的解析を実施したところ、実施例3のテアニン配合錠剤摂取により症状の改善が有意に(p<0.01)認められた。
【0035】
実施例4 テアニン配合キャンディーの製造
テアニン配合GERD治療用組成物の一例として、表3に示す原料を用いてテアニン配合キャンディーを製造した。
【0036】
【表3】

【0037】
グラニュー糖を水20kgに溶解しながら110℃まで加熱し、テアニンを溶解した残りの水10kgと水飴を加えて、145℃まで温度を上げた。火を止め、50%酒石酸を添加し混合した。75〜80℃まで冷却し、成形ローラーで成形し、テアニン配合キャンディーを調整した。キャンディー質量、及びテアニン含量を測定した結果、キャンディー質量は1コ1.2g、テアニン含量は89.6mg/gであった。
【0038】
実施例5 テアニン配合ブルーベリー飲料の製造
テアニン配合GERD治療用組成物の一例として、表4に示す原料を用いてテアニン配合飲料を製造した。
【0039】
【表4】

【0040】
果糖ブドウ糖、ブルーベリー濃縮果汁、1/5透明レモン果汁、クエン酸Naおよびテアニンを水に加え攪拌溶解した。50%クエン酸Na(結晶)を用いpHを3.1に調製し、95℃まで昇温後香料を加えて100mlに充填して冷却し、テアニン配合ブルーベリー飲料を製造した。ブルーベリージュース中のテアニンを定量した結果、含量は98.3mg/100mlであった。
このように本実施形態によれば、副作用のないGERD治療用組成物を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】テアニン配合錠剤の投与前と投与1週間後とにおいて、自覚症状の改善をFスケールで比較したグラフである。
【図2】テアニン配合錠剤の投与前と投与1週間後とにおいて、食道のpHが4.0以下になる時間の割合(%)を調べたグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テアニンを含有することを特徴とする胃食道逆流症の予防および/または治療用組成物。
【請求項2】
請求項1記載の組成物を含有することを特徴とする食品。
【請求項3】
請求項1記載の組成物を含有することを特徴とする医薬品。
【請求項4】
テアニンを含有する組成物を投与することを特徴とする胃食道逆流症の予防および/または治療方法。
【請求項5】
胃食道逆流症を有する個体に適用するための食品または医薬品の製造のためのテアニンの使用。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−96728(P2009−96728A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−267305(P2007−267305)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(000204181)太陽化学株式会社 (244)
【Fターム(参考)】