胆汁酸結合能を有する新規菌株
【課題】 従来知られている乳酸菌よりも、胆汁酸結合能の高い乳酸菌の提供。
【解決手段】 高い胆汁酸結合能を持ち、特定配列の16SrRNAを有するロイコノストックsp.B0321株、ロイコノストックsp.B0811株、ロイコノストックsp.B0911株、ラクトバチルス・プランタルムB1021株、及びこれらの類似菌株。上記菌株を含有するパン、ヨーグルト、漬物、ピザ等の食品、および、上記菌株を有効成分として含有することを特徴とする動脈硬化予防剤。
【解決手段】 高い胆汁酸結合能を持ち、特定配列の16SrRNAを有するロイコノストックsp.B0321株、ロイコノストックsp.B0811株、ロイコノストックsp.B0911株、ラクトバチルス・プランタルムB1021株、及びこれらの類似菌株。上記菌株を含有するパン、ヨーグルト、漬物、ピザ等の食品、および、上記菌株を有効成分として含有することを特徴とする動脈硬化予防剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胆汁酸結合能を有する新規菌株、並びにそれを利用した食品及び動脈硬化予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コレステロールは、ステロイドホルモンや胆汁酸の合成原料となる一方、その血中濃度が高い場合には、動脈硬化、心筋梗塞、脳出血などの疾患の原因となる。このため、血中のコレステロール値が一定値以上の場合には、その値を薬剤によって下げることが一般に行われている。コレスチラミンは、このようなコレステロール低下薬の一つであり、腸管内で胆汁酸と結合し、その排泄を促進することによって、胆汁酸の原料であるコレステロールを減少させる働きを持つ。コレスチラミンは、コレステロール値の低下には有効な薬剤であるが、便秘や肝機能障害などの副作用があるため、日常的な使用には適さない。
【0003】
ところで、ラクトバチルス属に属する幾つかの菌株は、コレスチラミンと同様に胆汁酸結合能を持つことが知られている(特許文献1)。ラクトバチルス属の細菌は、ヨーグルトや漬物などの食品中に含まれている細菌であることから、人体に対する安全性は高い。従って、このラクトバチルス属の菌株を利用することにより、副作用のない安全なコレステロール低下薬を作り出せる可能性がある。
【0004】
【特許文献1】特開2003−235501号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、特許文献1中の菌株は、コレスチラミンと同様に胆汁酸結合能を持つ。しかし、その結合能は、コレスチラミンの結合能の4〜5割程度にすぎないため、実際にコレステロール値を下げることができるかどうかは必ずしも明らかではない。
【0006】
本発明は、以上のような技術的背景の下になされたものであり、より胆汁酸結合能の高い菌株を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ビール酵母を含むパン種から単離された菌株が非常に高い胆汁酸結合能を持ち、また、この菌株を高コレステロール飼料と共にラットに与えると、総コレステロール値の上昇が抑制されるだけでなく、善玉コレステロールと呼ばれるHDLCの値の低下が抑制されることを見出し、これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(16)を提供するものである。
【0009】
(1)ロイコノストックsp.B0321株、ロイコノストックsp.B0811株、ロイコノストックsp.B0911株、及びラクトバチルス・プランタルムB1021株。
【0010】
(2)ロイコノストックsp.B0321株の類似菌株。
【0011】
(3)配列番号1記載の塩基配列と同等の塩基配列で表される16SrDNAを有することを特徴とする(2)記載のロイコノストックsp.B0321株の類似菌株。
【0012】
(4)リボース、D−キシロース、L−キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、α−メチル−D−マンノシド、α−メチル−D−グルコシド、セロビオース、マルトース、ラクトース、メリビオース、スクロース、ラフィノース、D−ツラノース、2−ケトグルコン酸、及び5−ケトグルコン酸に対する資化性を持ち、グリセロール、エリスリトール、D−アラビノース、L−アラビノース、アドニトール、β−メチル−D−キシロシド、ガラクトース、ソルボース、ラムノース、ズルシトール、イノシトール、マンニトール、ソルビトール、N−アセチル−グルコサミン、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシン、トレハロース、イヌリン、メレジトース、デンプン、グリコーゲン、キシリトール、ゲンチオビオース、D−リキソース、D−タガトース、D−フコース、L−フコース、D−アラビトール、L−アラビトール、及びグルコン酸に対する資化性を持たないことを特徴とする請求項2記載のロイコノストックsp.B0321株の類似菌株。
【0013】
(5)ロイコノストックsp.B0811株の類似菌株。
【0014】
(6)配列番号2記載の塩基配列と同等の塩基配列で表される16SrDNAを有することを特徴とする(5)記載のロイコノストックsp.B0811株の類似菌株。
【0015】
(7)グリセロール、L−アラビノース、リボース、D−キシロース、ガラクトース、グルコース、フルクトース、マンノース、ソルビトール、α−メチル−D−マンノシド、α−メチル−D−グルコシド、N−アセチル−グルコサミン、アミグダリン、エスクリン、セロビオース、マルトース、ラクトース、メリビオース、スクロース、トレハロース、メレジトース、ラフィノース、ゲンチオビオース、及びD−ツラノースに対する資化性を持ち、エリスリトール、D−アラビノース、L−キシロース、アドニトール、β−メチル−D−キシロシド、ソルボース、ラムノース、ズルシトール、イノシトール、マンニトール、アルブチン、サリシン、イヌリン、デンプン、グリコーゲン、キシリトール、D−リキソース、D−タガトース、D−フコース、L−フコース、D−アラビトール、L−アラビトール、グルコン酸、2−ケトグルコン酸、及び5−ケトグルコン酸に対する資化性を持たないことを特徴とする(5)記載のロイコノストックsp.B0811株の類似菌株。
【0016】
(8)ロイコノストックsp.B0911株の類似菌株。
【0017】
(9)配列番号3記載の塩基配列と同等の塩基配列で表される16SrDNAを有することを特徴とする(8)記載のロイコノストックsp.B0911株の類似菌株。
【0018】
(10)リボース、D−キシロース、L−キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、α−メチル−D−マンノシド、α−メチル−D−グルコシド、セロビオース、マルトース、ラクトース、メリビオース、スクロース、ラフィノース、及びD−ツラノースに対する資化性を持ち、グリセロール、エリスリトール、D−アラビノース、L−アラビノース、アドニトール、β−メチル−D−キシロシド、ガラクトース、ソルボース、ラムノース、ズルシトール、イノシトール、マンニトール、ソルビトール、N−アセチル−グルコサミン、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシン、トレハロース、イヌリン、メレジトース、デンプン、グリコーゲン、キシリトール、ゲンチオビオース、D−リキソース、D−タガトース、D−フコース、L−フコース、D−アラビトール、L−アラビトール、グルコン酸、2−ケトグルコン酸、及び5−ケトグルコン酸に対する資化性を持たないことを特徴とする(8)記載のロイコノストックsp.B0911株の類似菌株。
【0019】
(11) ラクトバチルス・プランタルムB1021株の類似菌株。
【0020】
(12)配列番号4記載の塩基配列と同等の塩基配列で表される16SrDNAを有することを特徴とする(11)記載のラクトバチルス・プランタルムB1021株の類似菌株。
【0021】
(13)リボース、ガラクトース、グルコース、フルクトース、マンノース、マンニトール、ソルビトール、α−メチル−D−マンノシド、N−アセチル−グルコサミン、アミグダリン、エスクリン、サリシン、セロビオース、マルトース、ラクトース、メリビオース、スクロース、トレハロース、メレジトース、ラフィノース、ゲンチオビオース、L−アラビトール、及び2−ケトグルコン酸に対する資化性を持ち、グリセロール、エリスリトール、D−アラビノース、L−アラビノース、D−キシロース、L−キシロース、アドニトール、β−メチル−D−キシロシド、ソルボース、ラムノース、ズルシトール、イノシトール、α−メチル−D−グルコシド、アルブチン、イヌリン、デンプン、グリコーゲン、キシリトール、D−ツラノース、D−リキソース、D−タガトース、D−フコース、L−フコース、D−アラビトール、グルコン酸、及び5−ケトグルコン酸に対する資化性を持たないことを特徴とする(11)記載のラクトバチルス・プランタルムB1021株の類似菌株。
【0022】
(14)(1)乃至(13)のいずれか記載の菌株を含有することを特徴とする食品。
【0023】
(15)食品が、パン、ヨーグルト、又は漬物であることを特徴とする(14)記載の食品。
【0024】
(16)(1)乃至(13)のいずれか記載の菌株を有効成分として含有することを特徴とする動脈硬化予防剤。
【発明の効果】
【0025】
本発明の菌株は、高コレステロール食によって生じる総コレステロール値の上昇とHDLC値の低下を抑制する作用を持つので、動脈硬化の予防などの用途に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0027】
本発明には、ロイコノストックsp.B0321株、ロイコノストックsp.B0811株、ロイコノストックsp.B0911株、及びラクトバチルス・プランタルムB1021株の4菌株が含まれる。これらの菌株は、それぞれ受託番号NITE P-42、NITE P-43、NITE P-44、NITE P-45として独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(住所:千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に寄託されている(受託日:平成16年12月7日)。これらの菌株の16SrDNAの塩基配列は、それぞれ配列番号1、配列番号2、配列番号3及び配列番号4に示すとおりである。また、これらの菌株の糖に対する資化性(酸の生成)は、実施例7中の表8に示すとおりである。
【0028】
本発明には、前記4菌株の類似菌株も含まれる。ここで、「類似菌株」とは、前記4菌株と同様に高い胆汁酸結合能を有する菌株をいい、前記4菌株の変異株のほか、ビール酵母パン種中から新たに単離される前記4菌株と同様の性質を持つ菌株なども含まれる。ここでいう「高い胆汁酸結合能」とは、コレスチラミン比で、通常60%以上、好適には64%以上であることを意味するが、これらの数値に限定されるわけではない。
【0029】
16SrDNAの塩基配列は、細菌の分類における指標の一つである。従って、前記4菌株の16SrDNAの塩基配列と同等の塩基配列で表される16SrDNAを持つ菌株は、「類似菌株」に含まれる。即ち、配列番号1、配列番号2、配列番号3、及び配列番号4記載の塩基配列と同等の塩基配列で表される16SrDNAを有する菌株は、それぞれロイコノストックsp.B0321株、ロイコノストックsp.B0811株、ロイコノストックsp.B0911株、及びラクトバチルス・プランタルムB1021株の類似菌株である。なお、ここでいう「同等の塩基配列」とは、配列番号1〜4に記載した塩基配列と完全に同一である塩基配列のほか、完全に同一ではないが、16SrDNAによる細菌分類学上同一であるとみなせる塩基配列も含まれる。通常、配列番号1〜4に記載した塩基配列と99%以上相同である塩基配列は、配列番号1〜4に記載した塩基配列と同一であるとみなすことができる。 糖に対する資化性も、細菌の分類における指標の一つである。従って、糖に対する資化性が、前記4菌株と同一の菌株は、「類似菌株」に含まれる。即ち、(1)リボース、D−キシロース、L−キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、α−メチル−D−マンノシド、α−メチル−D−グルコシド、セロビオース、マルトース、ラクトース、メリビオース、スクロース、ラフィノース、D−ツラノース、2−ケトグルコン酸、5−ケトグルコン酸に対する資化性を持ち、グリセロール、エリスリトール、D−アラビノース、L−アラビノース、アドニトール、β−メチル−D−キシロシド、ガラクトース、ソルボース、ラムノース、ズルシトール、イノシトール、マンニトール、ソルビトール、N−アセチル−グルコサミン、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシン、トレハロース、イヌリン、メレジトース、デンプン、グリコーゲン、キシリトール、ゲンチオビオース、D−リキソース、D−タガトース、D−フコース、L−フコース、D−アラビトール、L−アラビトール、グルコン酸に対する資化性を持たない菌株、(2)グリセロール、L−アラビノース、リボース、D−キシロース、ガラクトース、グルコース、フルクトース、マンノース、ソルビトール、α−メチル−D−マンノシド、α−メチル−D−グルコシド、N−アセチル−グルコサミン、アミグダリン、エスクリン、セロビオース、マルトース、ラクトース、メリビオース、スクロース、トレハロース、メレジトース、ラフィノース、ゲンチオビオース、D−ツラノースに対する資化性を持ち、エリスリトール、D−アラビノース、L−キシロース、アドニトール、β−メチル−D−キシロシド、ソルボース、ラムノース、ズルシトール、イノシトール、マンニトール、アルブチン、サリシン、イヌリン、デンプン、グリコーゲン、キシリトール、D−リキソース、D−タガトース、D−フコース、L−フコース、D−アラビトール、L−アラビトール、グルコン酸、2−ケトグルコン酸、5−ケトグルコン酸に対する資化性を持たない菌株、(3)リボース、D−キシロース、L−キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、α−メチル−D−マンノシド、α−メチル−D−グルコシド、セロビオース、マルトース、ラクトース、メリビオース、スクロース、ラフィノース、D−ツラノースに対する資化性を持ち、グリセロール、エリスリトール、D−アラビノース、L−アラビノース、アドニトール、β−メチル−D−キシロシド、ガラクトース、ソルボース、ラムノース、ズルシトール、イノシトール、マンニトール、ソルビトール、N−アセチル−グルコサミン、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシン、トレハロース、イヌリン、メレジトース、デンプン、グリコーゲン、キシリトール、ゲンチオビオース、D−リキソース、D−タガトース、D−フコース、L−フコース、D−アラビトール、L−アラビトール、グルコン酸、2−ケトグルコン酸、5−ケトグルコン酸に対する資化性を持たない菌株、及び(4)リボース、ガラクトース、グルコース、フルクトース、マンノース、マンニトール、ソルビトール、α−メチル−D−マンノシド、N−アセチル−グルコサミン、アミグダリン、エスクリン、サリシン、セロビオース、マルトース、ラクトース、メリビオース、スクロース、トレハロース、メレジトース、ラフィノース、ゲンチオビオース、L−アラビトール、2−ケトグルコン酸に対する資化性を持ち、グリセロール、エリスリトール、D−アラビノース、L−アラビノース、D−キシロース、L−キシロース、アドニトール、β−メチル−D−キシロシド、ソルボース、ラムノース、ズルシトール、イノシトール、α−メチル−D−グルコシド、アルブチン、イヌリン、デンプン、グリコーゲン、キシリトール、D−ツラノース、D−リキソース、D−タガトース、D−フコース、L−フコース、D−アラビトール、グルコン酸、5−ケトグルコン酸に対する資化性を持たない菌株は、それぞれロイコノストックsp.B0321株、ロイコノストックsp.B0811株、ロイコノストックsp.B0911株、及びラクトバチルス・プランタルムB1021株の類似菌株である。
【0030】
本発明の菌株は、後述するように食品や動脈硬化予防剤に利用することができる。
【0031】
本発明の食品は、上述した本発明の菌株を含有するものである。食品の種類は特に限定されず、パン、ヨーグルト、漬物、ピザなどを例示できる。
【0032】
本発明の食品は、その製造工程のいずれかの時期に本発明の菌株を添加することにより製造できる。添加する菌株は、生菌でも、乾燥菌体でもいずれでもよい(但し、本発明の菌株によって乳酸醗酵を行う場合は生菌を添加する。)。添加する菌株の量は食品の種類などによって異なるが、例えば、本発明の菌株を含むパンを製造する場合、原料中に4〜5重量%の生菌を添加すればよい。
【0033】
本発明の動脈硬化予防剤は本発明の菌株を含有するものである。本発明の動脈硬化予防剤は、経口薬に適用される一般的な製剤化方法に従って製造することができる。製剤化された動脈硬化予防剤中の本発明の菌株の含有率(濃度)は特に限定されないが、1日当たりの投与量は乾燥菌体として5〜30gとするのが好ましい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0035】
〔実施例1〕 ビール酵母パン種からの乳酸菌の分離
ビール酵母パン種(製造元:有限会社ホシノ天然酵母パン種)と滅菌水(25℃)を2:1で混合し、よく混ぜた後、静置培養した。その培養液(生種という)を、適当な濃度に希釈後、APT−トマトジュース寒天培地(表1)にスプレッドし、嫌気培養(25℃、72時間)し、出てきたコロニーを釣菌した。
【0036】
【表1】
【0037】
〔実施例2〕 乳酸菌株の胆汁酸結合能の測定(1)
実施例1で分離した乳酸菌株について、胆汁酸の主成分であるタウロコール酸に対する結合能を調べた。
【0038】
0.01Mのリン酸緩衝生理食塩水にタウロコール酸を加え、1.25mMのタウロコール酸溶液を調製した。この溶液1mlに、B0111株、B1021株、B0321株、B0312株、B0311株、B1111株、及びB1311株の7株の乾燥菌体15mgを加え、37℃で2.5時間インキュベートした。インキュベート後、遠心分離によって、乳酸菌を取り除き、上清中に残ったタウロコール酸の濃度(以下、これを「残存タウロコール酸濃度」という)を測定した。タウロコール酸濃度の測定は、市販のキット(「総胆汁酸−テストワコー」、製造販売:和光純薬工業株式会社)で発色させ、吸光度(560nm)を測定することによって行った。残存タウロコール酸濃度の測定は二回行い、その平均値を求めた。
【0039】
また、乳酸菌を加えず、上記と同様に残存タウロコール酸の濃度を測定し、次式に従って各乳酸菌株の胆汁酸結合能を求めた。なお、乳酸菌を加えない場合の残存タウロコール酸の濃度は969.8μmol/Lであった。
【0040】
胆汁酸結合能(%)={(A−B)/A}×100
A:乳酸菌を添加しない場合の残存タウロコール酸の濃度
B:乳酸菌を添加した場合の残存タウロコール酸の濃度
更に、胆汁酸吸着物質として知られているコレスチラミン15mgを、乳酸菌の代わりに用い、上記と同様に残存タウロコール酸の濃度を測定し、コレスチラミンの胆汁酸結合能を求め、この値を100とした場合の各乳酸菌株の胆汁酸結合能の相対値(コレスチラミン比)も求めた。なお、コレスチラミンの胆汁酸結合能は93.1%であった。以上の結果を表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
表2に示すように、いずれの菌株も高い胆汁酸結合能を示した。
【0043】
〔実施例3〕 乳酸菌株の胆汁酸結合能の測定(2)
乳酸菌株として、B0611株、B0711株、B0811株、B0911株、及びB1211株の5株を用い、他は実施例2と同様にして、各菌株の胆汁酸結合能等を求めた。なお、このときの乳酸菌を添加しない場合の残存タウロコール酸の濃度は1098μmol/Lであり、また、コレスチラミンの胆汁酸結合能は102.4%であった。結果を表3に示す。
【0044】
【表3】
【0045】
実施例2の場合と同様、いずれの菌株も高い胆汁酸結合能及びコレスチラミン比を示した。
【0046】
〔実施例4〕 乳酸菌株の胆汁酸結合能の測定(3)
実施例2及び3で高い胆汁酸結合能を示した5株について、再度胆汁酸結合能を測定した。なお、このときの乳酸菌を添加しない場合の残存タウロコール酸の濃度は1139μmol/Lであり、また、コレスチラミンの胆汁酸結合能は94.5%であった。結果を表4に示す。
【0047】
【表4】
【0048】
表4に示すように、いずれの菌株も高い胆汁酸結合能を示した。
【0049】
〔実施例5〕 乳酸菌株の胆汁酸結合能の測定(4)
実施例2及び4で高い胆汁酸結合能を示したB1021株、納豆菌IOK−1株(市販のオーケー水戸納豆(製造者:株式会社オーサト)から分離)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)JCM1149株(理化学研究所微生物系統保存施設より入手)、大腸菌K12(λ)株の4株を用い、実施例2と同様にして、各菌株の胆汁酸結合能を調べた。ラクトバチルス・プランタラムJCM1149株は、特開2003−235501号公報において使用されている菌株である。なお、このときの乳酸菌を添加しない場合の残存タウロコール酸の濃度は1037μmol/Lであり、また、コレスチラミンの胆汁酸結合能は88.63%であった。結果を表5に示す。
【0050】
【表5】
【0051】
表5に示すように、B1021株は、他の菌株と比較して、胆汁酸結合能が著しく高かった。ラクトバチルス・プランタラムJCM1149株は、特開2003−235501号公報中で高い胆汁酸結合能を示していたが、B1021株は、それよりも3倍以上も高い胆汁酸結合能を示した。
【0052】
〔実施例6〕 MRS培地での生育
乳酸菌同定キットであるAPI50CH(輸入販売:日本ビオメリュー株式会社)を用いた各乳酸菌株の同定を行う前に、MRS培地(表7)において各乳酸菌株が生育できるかどうかを調べた。API50CHによる乳酸菌の同定は、API50CHL培地を用いて行うが、API50CHL培地はMRS培地にブロモクレゾールパープルを加えたものである。従って、API50CHによる同定は、菌株がMRS培地で生育可能であることが前提となる。
【0053】
表6に、各乳酸菌株のMRS培地における生育性を示す。また、各菌株の収量も併せて表5に示す。
【0054】
【表6】
【0055】
表6に示すように、幾つかの菌株はMRS培地で生育できなかった。生育できない原因はMRS培地中に含まれる酢酸ナトリウムにあると予想されたので、以下の実験ではB0321、B0911についてはAPI50CHL培地の代わりに、この培地から酢酸ナトリウムを除いた培地(以下、この培地を「MAPI培地」という)を使用することとした。
【0056】
【表7】
【0057】
〔実施例7〕 乳酸菌株の糖の資化性試験
実施例1、2及び3で高い胆汁酸結合能を示したB0321株、B0811株、B0911株及びB1021株の4株について、API50CHを用いて糖の資化性を調べた(但し、前述したようにB0321株、B0911株についてはAPI50CHL培地ではなく、MAPI培地を使用した。)。
【0058】
なお、上記4株のいずれも、グラム染色:陽性、内生胞子形成:なし、カタラーゼの有無:なし、酸の生成:あり、形状:球菌あるいは桿菌、といった乳酸菌の特有の性質を示した。
【0059】
各菌株の糖の資化性試験の結果を表8に示す。
【0060】
【表8】
【0061】
以上の糖の資化性(酸生成)試験からB1021株はラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)と同定された(同定確率:99%)。B0811株はラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)(同定確率:85%)又はラクトバチルス・ペントサス(Lactobacillus pentosus)(同定確率:15%)である可能性が示唆された。また、B0321株とB0911株は、APIのデータベース上に対応する菌種がなかった。
【0062】
B0321株、B0811株、B0911株の糖資化性(酸生成)データとロイコノストック・シュードメセンテロイデス(Leuconostoc pseudomesenteroides)の文献データ(John A. E. Farrow et al., International Journal of Systematic Bacteriology, Vol. 39, p.279-283 (1989) )との比較を表9に示す。
【0063】
この結果は、B0321株、B0811株、B0911株の糖資化性(酸生成)データが、ロイコノストック・シュードメセンテロイデスに類似する点もあるが、多くの糖においてその反応が異なることを示している。
【0064】
【表9】
(APIによる48時間反応のデータを示す。+、−はそれぞれ陽性、陰性。Leu. pseudomesenteroidesの欄の数字は同種に属する7株の菌株中で陽性を示した菌株の率(%)を表しており、+および−は、それが100%と0%であることを表す。また、括弧内の数字は72時間後の資化率を表す。)
【0065】
〔実施例8〕 乳酸菌株の16SrDNAのホモロジー検索
B0321株、B0811株、B0911株及びB1021株の4株の16SrDNAの塩基配列を決定した。
【0066】
16SrDNAの塩基配列の決定は、以下のように行った。
【0067】
A.菌体からのゲノム抽出
(1)APT寒天培地で嫌気培養(30℃、48時間)して得たコロニーをAPT液体培地50ml中で静置培養(30℃、48時間)した。
【0068】
(2)その培養液を遠心(9000×g、5分間)し、得られたペレットを緩衝液1ml(pH7.5、10mM Tris-HCl、150mM NaCl)に懸濁した後、Tris飽和フェノール150μl(pH7.5)を加えた。
【0069】
(3)その後、-80℃のディープフリーザーに入れての凍結、30℃のウォーターバスでの融解の作業を3回行った後に、0.3gのジルコニウムビーズを加えてbead-beating(1800rpm、5分間)を行った。
【0070】
(4)CI solution 150μl(体積比でクロロホルム:イソアミルアルコール=24:1)を加えて、軽く撹拌し遠心(4℃、15000rpm、5分間)し、水層を採取した。
【0071】
(5)採取した水層に3M酢酸ナトリウム水溶液100μl(pH5.2)を加えた後、Tris飽和フェノール150μl、CI solution 150μlを加えて軽く撹拌し遠心(4℃、15000rpm、5分間)し水層を採取した。
【0072】
(6)採取した水層にその2.5倍量のエタノールを加え、冷却(-80℃、10分)した後、遠心(4℃、15000rpm、5分)し、水層を静かに捨て、沈殿物をTE溶液500μlで溶解させた。
【0073】
(7)DNase-free RNase(Takara) 5units加え、インキュベート(37℃、15分間)した。
【0074】
(8)(5)と(6)の操作を再度行い(液量はすべて半分)、得られた沈殿物を真空条件下に30分おいて乾燥させ、30μlの滅菌水に溶解させた。
【0075】
B.16S rDNA塩基配列の特異的増幅とゲルからの抽出
(1)PCRに用いた反応混合液とプログラムは以下の通りである。
【0076】
a.反応混合液
ゲノム水溶液(Aで得られた水溶液をさらに50倍希釈したもの)・・・1μl
プライマー・・・各1.5pmol
PerfectShot ExTaq kit(Takara)・・・25μl
滅菌水・・・反応混合液量が50μlになるようメスアップ
b.PCRのプログラム
94℃で5分反応させた後、「94℃で30秒、72℃で1分」という反応を1サイクルとして25サイクル行い、その後72℃で7分反応させた。
【0077】
なお、プライマーとしては、以下に示す16S 27f BamHと16S 1525r Hindを使用した。
【0078】
16S 27f BamH:5’-TTAGGATCCAGAGTTTGATCCTGGCTCAG-3’(配列番号5)
16S 1525r Hind:5’-CGGAAGCTTAAAGGAGGTGATCCAGCC-3’(配列番号6)
【0079】
(2)0.9%アガロースゲルのウェルにPCR反応溶液を注入し、電気泳動した。
【0080】
(3)エチジウムブロマイド染色し、紫外線照射下で目的のPCR産物が増幅されていることを確認後、その部分を切り取り一辺2mm程度になるまで細かく切り刻んだ後、飽和フェノール300μlに入れよく撹拌した。
【0081】
(4)凍結(-80℃、20分)、融解(30℃、5分)後よく撹拌し、遠心(15000×g、5分間)した。水層を採取し300μlのCI solutionを加えてよく撹拌し、再度遠心(15000×g、5分間)した。そして、また水層を採取した。
【0082】
(5)採取した水層にTris飽和フェノール150μl、CI solution 150μlを加えて撹拌し、遠心(15000×g、5分間)後、水層採取の操作を2回繰り返した。
【0083】
(6)採取した水層にその10分の1量の3M 酢酸ナトリウム水溶液を加えた後、その2.5倍量のエタノールを加えて冷却(-80℃、10分)し、遠心(15000×g、5分間)した。その後、水層部分を捨て沈殿物を採取した。
【0084】
(7)得られた沈殿物を真空条件下に30分おいて乾燥させ、30μlの滅菌水に溶解させた。
【0085】
(8)その溶解液の一部を使い260nmの吸光度を測定し、『DNA濃度(μg
/ml)=OD260×50』(改訂遺伝子工学実験ノート上、第2版第2刷、田村隆明編、羊土社、2002)をもとにDNA濃度を算出した。
【0086】
C.シークエンス反応と塩基配列決定
(1)シークエンス反応
a.反応混合液
鋳型DNA溶液・・・20ng
プライマー(Sigma)・・・3.2 pmol
BigDye Terminator v3.1(Applied Biosystem)・・・4μl
Buffer(Applied Biosystem)・・・2μl
滅菌水・・・反応混合液総量が20μl
b.シークエンス反応のプログラム
96℃で1分反応させた後、「96℃で30秒、60℃で4分」という反応を1サイクルとして25サイクル行った。
【0087】
(2)BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit 日本語版プロトコール(Applied Biosystem)のEthanol/EDTA/Sodium Acetate法に従って、反応産物を精製した。
【0088】
(3)精製物をホルムアミド15μlに溶解し、ABI 310を用いて塩基配列を決定した。
【0089】
なお、プライマーとしては、以下に示す16S 27f BamH、LAB0589f、LAB0677rf
EUB0933f、LAB0951r、及び16S 1525r Hindを使用した。
【0090】
16S 27f BamH:5’-TTAGGATCCAGAGTTTGATCCTGGCTCAG-3’(配列番号7)
LAB0589f:5’-TCCGGATTTATTGGGCGTAAAGCGA-3’(配列番号8)
LAB0677rf:5’-CACCGCTACACATGGAG-3’(配列番号9)
EUB0933f:5’-GCACAAGCGGTGGAGCATGTGG-3’(配列番号10)
LAB0951r:5’-TCGAATTAAACCACATGCTCCA-3’(配列番号11)
16S 1525r Hind:5’-CGGAAGCTTAAAGGAGGTGATCCAGCC-3’(配列番号12)
B0321株、B0811株、B0911株及びB1021株の16SrDNAの塩基配列をそれぞれ配列番号1、配列番号2、配列番号3及び配列番号4に示す。
【0091】
これらの配列について、blastnを用いてGenBank等のDNAデータベースに対してホモロジー検索を行った。その結果、B0321株、B0811株、及びB0911株の16SrDNAの塩基配列はいずれもロイコノストック・シュードメセンテロイデス(Leuconostoc pseudomesenteroides)のそれと99.5%の相同性を示した。また、B1021株の16SrDNAの塩基配列はラクトバチルス・プランタルムのそれと99.4%の相同性を示した。
【0092】
以上の結果から、B0321株、B0811株、及びB0911株の3株は、ロイコノストック・シュードメセンテロイデスに近い菌株である可能性もあるが、表9のように糖の資化性(酸生成)試験では不一致の点も多いので、これらの菌株は、ロイコノストックsp.と同定した。
【0093】
B1021株は、16SrDNAのホモロジー検索及び糖の資化性試験のいずれにおいても、ラクトバチルス・プランタルムという結果がでたので、この菌株はラクトバチルス・プランタルムと同定した。
【0094】
〔実施例9〕 B1021株を用いたラット実験
7週齢のSD雄ラット(日本クレア株式会社)を購入し、1週間予備飼育をした後実験に供した。飼育は、5:00−19:00点灯、22±2℃、湿度50−70%の条件で行った。ラットを1群6匹で、それを3群に分け、それぞれ表10に示す3種類の高コレステロール飼料(A.パン粉添加飼料、B.乳酸菌入りパン粉添加飼料、C.乾燥菌体添加飼料)を21日間、自由摂食させた(以下、A.パン粉添加飼料を摂食させた群を「A群」、乳酸菌入りパン粉添加飼料を摂食させた群を「B群」、C.乾燥菌体添加飼料を摂食させた群を「C群」という)。
【0095】
摂食量は毎日個別に測定し、体重も経時的に測定した。採血は軽いエーテル麻酔下で尾静脈より行い、0、7、14、21日目及び、21日目の採血の後一昼夜絶食させた後22日目に再び採血を行った。また22日目の採血の後ただちに剖検し、主要臓器の重量を測定した。
【0096】
血液はただちに遠心後、富士ドライケム(富士写真フィルム株式会社)を用いて血液の生化学値(血糖値、中性脂肪値、総コレステロール値、HDLC値、GOT値、GPT値)を測定した。
【0097】
【表10】
【0098】
なお、飼料A、Cの中で使われるパンは表11に示す配合率の製パン原料から製造した。飼料Bの中で使われるパンは、表11に示す配合率の製パン原料に、B1021株を加えた原料から製造した。B1021株の添加量は、水を除いた原料の重量を100%とした場合の5重量%(生乳酸菌体)とした。また、パン製造は松下電気産業株式会社ナショナル自動ホームベーカリー(松下電気産業株式会社製造)を使用し、原料の総重量480gずつ製造した。
【0099】
【表11】
【0100】
飼料B及びCで使用するB1021株は、APT培地(表12)で30℃、48時間培養した菌体を用いた。飼料Cで使用する乾燥菌体は、前記培養によって得られる菌体を100℃で一夜乾燥させた後、粉砕したものを使用した。
【0101】
パン粉は出来上がったパンを105℃で一夜乾燥させた後、ミキサーで粉末にしたものを使用した。
【0102】
飼料配合調製はニッチク薬品工業株式会社に依頼し行った。また、パン製造の酵母は生イースト(オリエンタル酵母工業株式会社)を使用した。
【0103】
採取した血液の生化学値等の結果を以下に示す。
【0104】
(1)血糖値の経時的変化
0日から21日までの血糖値の経時的変化を図1に示す。図に示すように、各群とも0〜21日間血糖値は一定の値で推移した。
【0105】
(2)中性脂肪値の経時的変化
0日から21日までの中性脂肪値の経時的変化を図2に示す。図に示すように、各群とも経時的に増加する傾向を示したが、その増加率は、C群で、他の2群に比べて有意差は認められないものの、やや抑制される傾向を示した。
【0106】
(3)総コレステロール値の経時的変化
0日から21日までの総コレステロール値の経時的変化を図3に示す。図に示すように、7日目には60%ほど増加し、14、21日目ではさらに増加傾向を示した。このことから3群とも高コレステロール食の影響を受けているものと考えられた。しかしながら、飼料の違いによる差は認められなかった。
【0107】
(4)HDLC値の経時的変化
0日から21日までの総コレステロール値の経時的変化を図4に示す。図に示すように、善玉コレステロールであるHDLC値は、3群とも経時的に減少する傾向を見せた。しかしながら、21日目では、B群ではA群に比べ有意に高い値を示し、また、C群も、A群に比べて高い値を示す傾向があった。
【0108】
また、HDLC値及び総コレステロール値から動脈硬化指数を算出し、動脈硬化指数の経時的変化も調べた(図には示さない。)。その結果、3群とも経時的に増加する傾向があったが、その増加はB群では有意に抑制され、C群でも増加抑制傾向がみられた。
【0109】
(5)GOT値及びGPT値の経時的変化
0日から21日までのGOT値及びGPT値の経時的変化をそれぞれ図5及び図6に示す。GOT値及びGPT値は肝機能の指標になる酵素活性であるが、図に示すように、それらは実験期間中は特に大きな変化を認められず、各群間にも差がなかった。
【0110】
(6)絶食時に採取した血液の生化学値
血液生化学性状については、絶食時の値で比較することが常法である。そこで、実験22日目の絶食時における各群の血液の生化学値を比較した。各群の血糖値、中性脂肪値、総コレステロール値、HDLC値、GOT値、GPT値、及び動脈硬化指数を図7、図8、図9、図10、図11、図12、及び図13に示す。
【0111】
中性脂肪値、総コレステロール値では、B群及びC群は、有意差は認められないものの、A群と比較して低い値を示した(図8及び9)。また、HDLC(善玉コレステロール)値では、B群及びC群は、A群に比べ有意に高い値を示した(図10)。GOT値とGPT値については、A群、B群、C群の間に有意差は認められなかった(図11および12)。
【0112】
(7)剖検所見
剖検時の体重、肝臓、腎臓の重量については、有意差は認められないものの、A群に比べてB群及びC群はわずかに低い値を示した。肝臓は、正常時において表面は滑らかで明るい赤褐色を示すが、3群の肝臓は、異常に白く、また白い斑点が肝全体を覆い明らかに異常所見を示すものであった。また組織標本を作製し、光学顕微鏡による観察の結果、肝脂肪内に脂肪顆粒が多数認められ、精査を要するものの、脂肪肝の疑いが認められた。体脂肪(精巣上体脂肪+腎脂肪)についても3群で大きな変化を認めなかった。
【0113】
【表12】
【0114】
〔実施例10〕 B1021株を用いたヨーグルトの作製
B1021株をAPT培地(表12)に植菌し、30℃で24時間培養した後、その培養液5mlを500mlの牛乳(メグミルク、日本ミルクコミュニティ株式会社製造)と混合した。その後、30℃で保温し、pHを経時的に測定した。この結果を表13に示す。
【0115】
【表13】
【0116】
表13に示すように、菌接種から4日目にpHが4.5以下になった。参考のために市販のヨーグルト(明治ブルガリアヨーグルト微糖)のpHを調べてみたところ、そのpHは4.5であった。このことから、菌接種から4日目には、市販のヨーグルトと同様の品質のヨーグルトが生成していたものと考えられる。
【0117】
上記のように牛乳のみで培養した場合、ヨーグルトができるまでにかなりの時間を要した。そこで、種々の添加物を牛乳に加え、菌接種から24時間後のpHを測定し、ヨーグルト生成までの時間が短縮できるかどうかを検討した。添加物としては、市販のトマトジュース(日本デルモンテ株式会社製造)、Bacto Tryptone、Bacto Yeast Extractを用いた。菌接種から24時間後のpHを表14に示す。
【0118】
【表14】
【0119】
表14に示すように、トマトジュース、Bacto Tryptone、Bacto Yeast Extractのいずれを添加した場合も、24時間後のpHは4前後まで低下していた。この結果から、トマトジュース等の添加物を加えることにより、24時間程度で十分な品質のヨーグルトを作製できると考えられる。
【0120】
〔実施例11〕 B1021株の食塩生育限界、pH耐性試験
B1021株について食塩生育限界試験と、pH耐性試験を行った。実験では種培養として、APT培地10ml(16.5ml試験管使用)に一白金耳B1021株を接種後、シリコ栓(信越ポリマー株式会社)をし、30℃で24時間培養した。そして、NaCl濃度、pHをそれぞれ変えた10mlのAPT培地に前培養物を100μl接種した。その後、30℃で培養した。
【0121】
pH耐性試験の結果を表15に、食塩生育限界試験の結果を表16に示す。
【0122】
【表15】
【0123】
【表16】
【0124】
表15に示すように、B1021株はpH3.5程度まで生育可能であった。また、表16に示すように、B1021株は食塩濃度9.5%程度まで生育可能であった。一般的な漬物のpHは3.5〜4.5、食塩濃度は5〜9%程度であることから、B1021株は漬物の作製に使用できると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】A〜C群の血糖値の経時的変化を示す図。
【図2】A〜C群の中性脂肪値の経時的変化を示す図。
【図3】A〜C群の総コレステロール値の経時的変化を示す図。
【図4】A〜C群のHDLC値の経時的変化を示す図。
【図5】A〜C群のGOT値の経時的変化を示す図。
【図6】A〜C群のGPT値の経時的変化を示す図。
【図7】高コレステロール飼料給餌後、絶食時のA〜C群の血糖値を示す図。
【図8】高コレステロール飼料給餌後、絶食時のA〜C群の中性脂肪値を示す図。
【図9】高コレステロール飼料給餌後、絶食時のA〜C群の総コレステロール値を示す図。
【図10】高コレステロール飼料給餌後、絶食時のA〜C群のHDLC値を示す図。
【図11】高コレステロール飼料給餌後、絶食時のA〜C群のGOT値を示す図。
【図12】高コレステロール飼料給餌後、絶食時のA〜C群のGPT値を示す図。
【図13】高コレステロール飼料給餌後、絶食時のA〜C群の動脈硬化指数を示す図。
【技術分野】
【0001】
本発明は、胆汁酸結合能を有する新規菌株、並びにそれを利用した食品及び動脈硬化予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コレステロールは、ステロイドホルモンや胆汁酸の合成原料となる一方、その血中濃度が高い場合には、動脈硬化、心筋梗塞、脳出血などの疾患の原因となる。このため、血中のコレステロール値が一定値以上の場合には、その値を薬剤によって下げることが一般に行われている。コレスチラミンは、このようなコレステロール低下薬の一つであり、腸管内で胆汁酸と結合し、その排泄を促進することによって、胆汁酸の原料であるコレステロールを減少させる働きを持つ。コレスチラミンは、コレステロール値の低下には有効な薬剤であるが、便秘や肝機能障害などの副作用があるため、日常的な使用には適さない。
【0003】
ところで、ラクトバチルス属に属する幾つかの菌株は、コレスチラミンと同様に胆汁酸結合能を持つことが知られている(特許文献1)。ラクトバチルス属の細菌は、ヨーグルトや漬物などの食品中に含まれている細菌であることから、人体に対する安全性は高い。従って、このラクトバチルス属の菌株を利用することにより、副作用のない安全なコレステロール低下薬を作り出せる可能性がある。
【0004】
【特許文献1】特開2003−235501号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、特許文献1中の菌株は、コレスチラミンと同様に胆汁酸結合能を持つ。しかし、その結合能は、コレスチラミンの結合能の4〜5割程度にすぎないため、実際にコレステロール値を下げることができるかどうかは必ずしも明らかではない。
【0006】
本発明は、以上のような技術的背景の下になされたものであり、より胆汁酸結合能の高い菌株を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ビール酵母を含むパン種から単離された菌株が非常に高い胆汁酸結合能を持ち、また、この菌株を高コレステロール飼料と共にラットに与えると、総コレステロール値の上昇が抑制されるだけでなく、善玉コレステロールと呼ばれるHDLCの値の低下が抑制されることを見出し、これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(16)を提供するものである。
【0009】
(1)ロイコノストックsp.B0321株、ロイコノストックsp.B0811株、ロイコノストックsp.B0911株、及びラクトバチルス・プランタルムB1021株。
【0010】
(2)ロイコノストックsp.B0321株の類似菌株。
【0011】
(3)配列番号1記載の塩基配列と同等の塩基配列で表される16SrDNAを有することを特徴とする(2)記載のロイコノストックsp.B0321株の類似菌株。
【0012】
(4)リボース、D−キシロース、L−キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、α−メチル−D−マンノシド、α−メチル−D−グルコシド、セロビオース、マルトース、ラクトース、メリビオース、スクロース、ラフィノース、D−ツラノース、2−ケトグルコン酸、及び5−ケトグルコン酸に対する資化性を持ち、グリセロール、エリスリトール、D−アラビノース、L−アラビノース、アドニトール、β−メチル−D−キシロシド、ガラクトース、ソルボース、ラムノース、ズルシトール、イノシトール、マンニトール、ソルビトール、N−アセチル−グルコサミン、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシン、トレハロース、イヌリン、メレジトース、デンプン、グリコーゲン、キシリトール、ゲンチオビオース、D−リキソース、D−タガトース、D−フコース、L−フコース、D−アラビトール、L−アラビトール、及びグルコン酸に対する資化性を持たないことを特徴とする請求項2記載のロイコノストックsp.B0321株の類似菌株。
【0013】
(5)ロイコノストックsp.B0811株の類似菌株。
【0014】
(6)配列番号2記載の塩基配列と同等の塩基配列で表される16SrDNAを有することを特徴とする(5)記載のロイコノストックsp.B0811株の類似菌株。
【0015】
(7)グリセロール、L−アラビノース、リボース、D−キシロース、ガラクトース、グルコース、フルクトース、マンノース、ソルビトール、α−メチル−D−マンノシド、α−メチル−D−グルコシド、N−アセチル−グルコサミン、アミグダリン、エスクリン、セロビオース、マルトース、ラクトース、メリビオース、スクロース、トレハロース、メレジトース、ラフィノース、ゲンチオビオース、及びD−ツラノースに対する資化性を持ち、エリスリトール、D−アラビノース、L−キシロース、アドニトール、β−メチル−D−キシロシド、ソルボース、ラムノース、ズルシトール、イノシトール、マンニトール、アルブチン、サリシン、イヌリン、デンプン、グリコーゲン、キシリトール、D−リキソース、D−タガトース、D−フコース、L−フコース、D−アラビトール、L−アラビトール、グルコン酸、2−ケトグルコン酸、及び5−ケトグルコン酸に対する資化性を持たないことを特徴とする(5)記載のロイコノストックsp.B0811株の類似菌株。
【0016】
(8)ロイコノストックsp.B0911株の類似菌株。
【0017】
(9)配列番号3記載の塩基配列と同等の塩基配列で表される16SrDNAを有することを特徴とする(8)記載のロイコノストックsp.B0911株の類似菌株。
【0018】
(10)リボース、D−キシロース、L−キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、α−メチル−D−マンノシド、α−メチル−D−グルコシド、セロビオース、マルトース、ラクトース、メリビオース、スクロース、ラフィノース、及びD−ツラノースに対する資化性を持ち、グリセロール、エリスリトール、D−アラビノース、L−アラビノース、アドニトール、β−メチル−D−キシロシド、ガラクトース、ソルボース、ラムノース、ズルシトール、イノシトール、マンニトール、ソルビトール、N−アセチル−グルコサミン、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシン、トレハロース、イヌリン、メレジトース、デンプン、グリコーゲン、キシリトール、ゲンチオビオース、D−リキソース、D−タガトース、D−フコース、L−フコース、D−アラビトール、L−アラビトール、グルコン酸、2−ケトグルコン酸、及び5−ケトグルコン酸に対する資化性を持たないことを特徴とする(8)記載のロイコノストックsp.B0911株の類似菌株。
【0019】
(11) ラクトバチルス・プランタルムB1021株の類似菌株。
【0020】
(12)配列番号4記載の塩基配列と同等の塩基配列で表される16SrDNAを有することを特徴とする(11)記載のラクトバチルス・プランタルムB1021株の類似菌株。
【0021】
(13)リボース、ガラクトース、グルコース、フルクトース、マンノース、マンニトール、ソルビトール、α−メチル−D−マンノシド、N−アセチル−グルコサミン、アミグダリン、エスクリン、サリシン、セロビオース、マルトース、ラクトース、メリビオース、スクロース、トレハロース、メレジトース、ラフィノース、ゲンチオビオース、L−アラビトール、及び2−ケトグルコン酸に対する資化性を持ち、グリセロール、エリスリトール、D−アラビノース、L−アラビノース、D−キシロース、L−キシロース、アドニトール、β−メチル−D−キシロシド、ソルボース、ラムノース、ズルシトール、イノシトール、α−メチル−D−グルコシド、アルブチン、イヌリン、デンプン、グリコーゲン、キシリトール、D−ツラノース、D−リキソース、D−タガトース、D−フコース、L−フコース、D−アラビトール、グルコン酸、及び5−ケトグルコン酸に対する資化性を持たないことを特徴とする(11)記載のラクトバチルス・プランタルムB1021株の類似菌株。
【0022】
(14)(1)乃至(13)のいずれか記載の菌株を含有することを特徴とする食品。
【0023】
(15)食品が、パン、ヨーグルト、又は漬物であることを特徴とする(14)記載の食品。
【0024】
(16)(1)乃至(13)のいずれか記載の菌株を有効成分として含有することを特徴とする動脈硬化予防剤。
【発明の効果】
【0025】
本発明の菌株は、高コレステロール食によって生じる総コレステロール値の上昇とHDLC値の低下を抑制する作用を持つので、動脈硬化の予防などの用途に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0027】
本発明には、ロイコノストックsp.B0321株、ロイコノストックsp.B0811株、ロイコノストックsp.B0911株、及びラクトバチルス・プランタルムB1021株の4菌株が含まれる。これらの菌株は、それぞれ受託番号NITE P-42、NITE P-43、NITE P-44、NITE P-45として独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(住所:千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に寄託されている(受託日:平成16年12月7日)。これらの菌株の16SrDNAの塩基配列は、それぞれ配列番号1、配列番号2、配列番号3及び配列番号4に示すとおりである。また、これらの菌株の糖に対する資化性(酸の生成)は、実施例7中の表8に示すとおりである。
【0028】
本発明には、前記4菌株の類似菌株も含まれる。ここで、「類似菌株」とは、前記4菌株と同様に高い胆汁酸結合能を有する菌株をいい、前記4菌株の変異株のほか、ビール酵母パン種中から新たに単離される前記4菌株と同様の性質を持つ菌株なども含まれる。ここでいう「高い胆汁酸結合能」とは、コレスチラミン比で、通常60%以上、好適には64%以上であることを意味するが、これらの数値に限定されるわけではない。
【0029】
16SrDNAの塩基配列は、細菌の分類における指標の一つである。従って、前記4菌株の16SrDNAの塩基配列と同等の塩基配列で表される16SrDNAを持つ菌株は、「類似菌株」に含まれる。即ち、配列番号1、配列番号2、配列番号3、及び配列番号4記載の塩基配列と同等の塩基配列で表される16SrDNAを有する菌株は、それぞれロイコノストックsp.B0321株、ロイコノストックsp.B0811株、ロイコノストックsp.B0911株、及びラクトバチルス・プランタルムB1021株の類似菌株である。なお、ここでいう「同等の塩基配列」とは、配列番号1〜4に記載した塩基配列と完全に同一である塩基配列のほか、完全に同一ではないが、16SrDNAによる細菌分類学上同一であるとみなせる塩基配列も含まれる。通常、配列番号1〜4に記載した塩基配列と99%以上相同である塩基配列は、配列番号1〜4に記載した塩基配列と同一であるとみなすことができる。 糖に対する資化性も、細菌の分類における指標の一つである。従って、糖に対する資化性が、前記4菌株と同一の菌株は、「類似菌株」に含まれる。即ち、(1)リボース、D−キシロース、L−キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、α−メチル−D−マンノシド、α−メチル−D−グルコシド、セロビオース、マルトース、ラクトース、メリビオース、スクロース、ラフィノース、D−ツラノース、2−ケトグルコン酸、5−ケトグルコン酸に対する資化性を持ち、グリセロール、エリスリトール、D−アラビノース、L−アラビノース、アドニトール、β−メチル−D−キシロシド、ガラクトース、ソルボース、ラムノース、ズルシトール、イノシトール、マンニトール、ソルビトール、N−アセチル−グルコサミン、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシン、トレハロース、イヌリン、メレジトース、デンプン、グリコーゲン、キシリトール、ゲンチオビオース、D−リキソース、D−タガトース、D−フコース、L−フコース、D−アラビトール、L−アラビトール、グルコン酸に対する資化性を持たない菌株、(2)グリセロール、L−アラビノース、リボース、D−キシロース、ガラクトース、グルコース、フルクトース、マンノース、ソルビトール、α−メチル−D−マンノシド、α−メチル−D−グルコシド、N−アセチル−グルコサミン、アミグダリン、エスクリン、セロビオース、マルトース、ラクトース、メリビオース、スクロース、トレハロース、メレジトース、ラフィノース、ゲンチオビオース、D−ツラノースに対する資化性を持ち、エリスリトール、D−アラビノース、L−キシロース、アドニトール、β−メチル−D−キシロシド、ソルボース、ラムノース、ズルシトール、イノシトール、マンニトール、アルブチン、サリシン、イヌリン、デンプン、グリコーゲン、キシリトール、D−リキソース、D−タガトース、D−フコース、L−フコース、D−アラビトール、L−アラビトール、グルコン酸、2−ケトグルコン酸、5−ケトグルコン酸に対する資化性を持たない菌株、(3)リボース、D−キシロース、L−キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、α−メチル−D−マンノシド、α−メチル−D−グルコシド、セロビオース、マルトース、ラクトース、メリビオース、スクロース、ラフィノース、D−ツラノースに対する資化性を持ち、グリセロール、エリスリトール、D−アラビノース、L−アラビノース、アドニトール、β−メチル−D−キシロシド、ガラクトース、ソルボース、ラムノース、ズルシトール、イノシトール、マンニトール、ソルビトール、N−アセチル−グルコサミン、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシン、トレハロース、イヌリン、メレジトース、デンプン、グリコーゲン、キシリトール、ゲンチオビオース、D−リキソース、D−タガトース、D−フコース、L−フコース、D−アラビトール、L−アラビトール、グルコン酸、2−ケトグルコン酸、5−ケトグルコン酸に対する資化性を持たない菌株、及び(4)リボース、ガラクトース、グルコース、フルクトース、マンノース、マンニトール、ソルビトール、α−メチル−D−マンノシド、N−アセチル−グルコサミン、アミグダリン、エスクリン、サリシン、セロビオース、マルトース、ラクトース、メリビオース、スクロース、トレハロース、メレジトース、ラフィノース、ゲンチオビオース、L−アラビトール、2−ケトグルコン酸に対する資化性を持ち、グリセロール、エリスリトール、D−アラビノース、L−アラビノース、D−キシロース、L−キシロース、アドニトール、β−メチル−D−キシロシド、ソルボース、ラムノース、ズルシトール、イノシトール、α−メチル−D−グルコシド、アルブチン、イヌリン、デンプン、グリコーゲン、キシリトール、D−ツラノース、D−リキソース、D−タガトース、D−フコース、L−フコース、D−アラビトール、グルコン酸、5−ケトグルコン酸に対する資化性を持たない菌株は、それぞれロイコノストックsp.B0321株、ロイコノストックsp.B0811株、ロイコノストックsp.B0911株、及びラクトバチルス・プランタルムB1021株の類似菌株である。
【0030】
本発明の菌株は、後述するように食品や動脈硬化予防剤に利用することができる。
【0031】
本発明の食品は、上述した本発明の菌株を含有するものである。食品の種類は特に限定されず、パン、ヨーグルト、漬物、ピザなどを例示できる。
【0032】
本発明の食品は、その製造工程のいずれかの時期に本発明の菌株を添加することにより製造できる。添加する菌株は、生菌でも、乾燥菌体でもいずれでもよい(但し、本発明の菌株によって乳酸醗酵を行う場合は生菌を添加する。)。添加する菌株の量は食品の種類などによって異なるが、例えば、本発明の菌株を含むパンを製造する場合、原料中に4〜5重量%の生菌を添加すればよい。
【0033】
本発明の動脈硬化予防剤は本発明の菌株を含有するものである。本発明の動脈硬化予防剤は、経口薬に適用される一般的な製剤化方法に従って製造することができる。製剤化された動脈硬化予防剤中の本発明の菌株の含有率(濃度)は特に限定されないが、1日当たりの投与量は乾燥菌体として5〜30gとするのが好ましい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0035】
〔実施例1〕 ビール酵母パン種からの乳酸菌の分離
ビール酵母パン種(製造元:有限会社ホシノ天然酵母パン種)と滅菌水(25℃)を2:1で混合し、よく混ぜた後、静置培養した。その培養液(生種という)を、適当な濃度に希釈後、APT−トマトジュース寒天培地(表1)にスプレッドし、嫌気培養(25℃、72時間)し、出てきたコロニーを釣菌した。
【0036】
【表1】
【0037】
〔実施例2〕 乳酸菌株の胆汁酸結合能の測定(1)
実施例1で分離した乳酸菌株について、胆汁酸の主成分であるタウロコール酸に対する結合能を調べた。
【0038】
0.01Mのリン酸緩衝生理食塩水にタウロコール酸を加え、1.25mMのタウロコール酸溶液を調製した。この溶液1mlに、B0111株、B1021株、B0321株、B0312株、B0311株、B1111株、及びB1311株の7株の乾燥菌体15mgを加え、37℃で2.5時間インキュベートした。インキュベート後、遠心分離によって、乳酸菌を取り除き、上清中に残ったタウロコール酸の濃度(以下、これを「残存タウロコール酸濃度」という)を測定した。タウロコール酸濃度の測定は、市販のキット(「総胆汁酸−テストワコー」、製造販売:和光純薬工業株式会社)で発色させ、吸光度(560nm)を測定することによって行った。残存タウロコール酸濃度の測定は二回行い、その平均値を求めた。
【0039】
また、乳酸菌を加えず、上記と同様に残存タウロコール酸の濃度を測定し、次式に従って各乳酸菌株の胆汁酸結合能を求めた。なお、乳酸菌を加えない場合の残存タウロコール酸の濃度は969.8μmol/Lであった。
【0040】
胆汁酸結合能(%)={(A−B)/A}×100
A:乳酸菌を添加しない場合の残存タウロコール酸の濃度
B:乳酸菌を添加した場合の残存タウロコール酸の濃度
更に、胆汁酸吸着物質として知られているコレスチラミン15mgを、乳酸菌の代わりに用い、上記と同様に残存タウロコール酸の濃度を測定し、コレスチラミンの胆汁酸結合能を求め、この値を100とした場合の各乳酸菌株の胆汁酸結合能の相対値(コレスチラミン比)も求めた。なお、コレスチラミンの胆汁酸結合能は93.1%であった。以上の結果を表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
表2に示すように、いずれの菌株も高い胆汁酸結合能を示した。
【0043】
〔実施例3〕 乳酸菌株の胆汁酸結合能の測定(2)
乳酸菌株として、B0611株、B0711株、B0811株、B0911株、及びB1211株の5株を用い、他は実施例2と同様にして、各菌株の胆汁酸結合能等を求めた。なお、このときの乳酸菌を添加しない場合の残存タウロコール酸の濃度は1098μmol/Lであり、また、コレスチラミンの胆汁酸結合能は102.4%であった。結果を表3に示す。
【0044】
【表3】
【0045】
実施例2の場合と同様、いずれの菌株も高い胆汁酸結合能及びコレスチラミン比を示した。
【0046】
〔実施例4〕 乳酸菌株の胆汁酸結合能の測定(3)
実施例2及び3で高い胆汁酸結合能を示した5株について、再度胆汁酸結合能を測定した。なお、このときの乳酸菌を添加しない場合の残存タウロコール酸の濃度は1139μmol/Lであり、また、コレスチラミンの胆汁酸結合能は94.5%であった。結果を表4に示す。
【0047】
【表4】
【0048】
表4に示すように、いずれの菌株も高い胆汁酸結合能を示した。
【0049】
〔実施例5〕 乳酸菌株の胆汁酸結合能の測定(4)
実施例2及び4で高い胆汁酸結合能を示したB1021株、納豆菌IOK−1株(市販のオーケー水戸納豆(製造者:株式会社オーサト)から分離)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)JCM1149株(理化学研究所微生物系統保存施設より入手)、大腸菌K12(λ)株の4株を用い、実施例2と同様にして、各菌株の胆汁酸結合能を調べた。ラクトバチルス・プランタラムJCM1149株は、特開2003−235501号公報において使用されている菌株である。なお、このときの乳酸菌を添加しない場合の残存タウロコール酸の濃度は1037μmol/Lであり、また、コレスチラミンの胆汁酸結合能は88.63%であった。結果を表5に示す。
【0050】
【表5】
【0051】
表5に示すように、B1021株は、他の菌株と比較して、胆汁酸結合能が著しく高かった。ラクトバチルス・プランタラムJCM1149株は、特開2003−235501号公報中で高い胆汁酸結合能を示していたが、B1021株は、それよりも3倍以上も高い胆汁酸結合能を示した。
【0052】
〔実施例6〕 MRS培地での生育
乳酸菌同定キットであるAPI50CH(輸入販売:日本ビオメリュー株式会社)を用いた各乳酸菌株の同定を行う前に、MRS培地(表7)において各乳酸菌株が生育できるかどうかを調べた。API50CHによる乳酸菌の同定は、API50CHL培地を用いて行うが、API50CHL培地はMRS培地にブロモクレゾールパープルを加えたものである。従って、API50CHによる同定は、菌株がMRS培地で生育可能であることが前提となる。
【0053】
表6に、各乳酸菌株のMRS培地における生育性を示す。また、各菌株の収量も併せて表5に示す。
【0054】
【表6】
【0055】
表6に示すように、幾つかの菌株はMRS培地で生育できなかった。生育できない原因はMRS培地中に含まれる酢酸ナトリウムにあると予想されたので、以下の実験ではB0321、B0911についてはAPI50CHL培地の代わりに、この培地から酢酸ナトリウムを除いた培地(以下、この培地を「MAPI培地」という)を使用することとした。
【0056】
【表7】
【0057】
〔実施例7〕 乳酸菌株の糖の資化性試験
実施例1、2及び3で高い胆汁酸結合能を示したB0321株、B0811株、B0911株及びB1021株の4株について、API50CHを用いて糖の資化性を調べた(但し、前述したようにB0321株、B0911株についてはAPI50CHL培地ではなく、MAPI培地を使用した。)。
【0058】
なお、上記4株のいずれも、グラム染色:陽性、内生胞子形成:なし、カタラーゼの有無:なし、酸の生成:あり、形状:球菌あるいは桿菌、といった乳酸菌の特有の性質を示した。
【0059】
各菌株の糖の資化性試験の結果を表8に示す。
【0060】
【表8】
【0061】
以上の糖の資化性(酸生成)試験からB1021株はラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)と同定された(同定確率:99%)。B0811株はラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)(同定確率:85%)又はラクトバチルス・ペントサス(Lactobacillus pentosus)(同定確率:15%)である可能性が示唆された。また、B0321株とB0911株は、APIのデータベース上に対応する菌種がなかった。
【0062】
B0321株、B0811株、B0911株の糖資化性(酸生成)データとロイコノストック・シュードメセンテロイデス(Leuconostoc pseudomesenteroides)の文献データ(John A. E. Farrow et al., International Journal of Systematic Bacteriology, Vol. 39, p.279-283 (1989) )との比較を表9に示す。
【0063】
この結果は、B0321株、B0811株、B0911株の糖資化性(酸生成)データが、ロイコノストック・シュードメセンテロイデスに類似する点もあるが、多くの糖においてその反応が異なることを示している。
【0064】
【表9】
(APIによる48時間反応のデータを示す。+、−はそれぞれ陽性、陰性。Leu. pseudomesenteroidesの欄の数字は同種に属する7株の菌株中で陽性を示した菌株の率(%)を表しており、+および−は、それが100%と0%であることを表す。また、括弧内の数字は72時間後の資化率を表す。)
【0065】
〔実施例8〕 乳酸菌株の16SrDNAのホモロジー検索
B0321株、B0811株、B0911株及びB1021株の4株の16SrDNAの塩基配列を決定した。
【0066】
16SrDNAの塩基配列の決定は、以下のように行った。
【0067】
A.菌体からのゲノム抽出
(1)APT寒天培地で嫌気培養(30℃、48時間)して得たコロニーをAPT液体培地50ml中で静置培養(30℃、48時間)した。
【0068】
(2)その培養液を遠心(9000×g、5分間)し、得られたペレットを緩衝液1ml(pH7.5、10mM Tris-HCl、150mM NaCl)に懸濁した後、Tris飽和フェノール150μl(pH7.5)を加えた。
【0069】
(3)その後、-80℃のディープフリーザーに入れての凍結、30℃のウォーターバスでの融解の作業を3回行った後に、0.3gのジルコニウムビーズを加えてbead-beating(1800rpm、5分間)を行った。
【0070】
(4)CI solution 150μl(体積比でクロロホルム:イソアミルアルコール=24:1)を加えて、軽く撹拌し遠心(4℃、15000rpm、5分間)し、水層を採取した。
【0071】
(5)採取した水層に3M酢酸ナトリウム水溶液100μl(pH5.2)を加えた後、Tris飽和フェノール150μl、CI solution 150μlを加えて軽く撹拌し遠心(4℃、15000rpm、5分間)し水層を採取した。
【0072】
(6)採取した水層にその2.5倍量のエタノールを加え、冷却(-80℃、10分)した後、遠心(4℃、15000rpm、5分)し、水層を静かに捨て、沈殿物をTE溶液500μlで溶解させた。
【0073】
(7)DNase-free RNase(Takara) 5units加え、インキュベート(37℃、15分間)した。
【0074】
(8)(5)と(6)の操作を再度行い(液量はすべて半分)、得られた沈殿物を真空条件下に30分おいて乾燥させ、30μlの滅菌水に溶解させた。
【0075】
B.16S rDNA塩基配列の特異的増幅とゲルからの抽出
(1)PCRに用いた反応混合液とプログラムは以下の通りである。
【0076】
a.反応混合液
ゲノム水溶液(Aで得られた水溶液をさらに50倍希釈したもの)・・・1μl
プライマー・・・各1.5pmol
PerfectShot ExTaq kit(Takara)・・・25μl
滅菌水・・・反応混合液量が50μlになるようメスアップ
b.PCRのプログラム
94℃で5分反応させた後、「94℃で30秒、72℃で1分」という反応を1サイクルとして25サイクル行い、その後72℃で7分反応させた。
【0077】
なお、プライマーとしては、以下に示す16S 27f BamHと16S 1525r Hindを使用した。
【0078】
16S 27f BamH:5’-TTAGGATCCAGAGTTTGATCCTGGCTCAG-3’(配列番号5)
16S 1525r Hind:5’-CGGAAGCTTAAAGGAGGTGATCCAGCC-3’(配列番号6)
【0079】
(2)0.9%アガロースゲルのウェルにPCR反応溶液を注入し、電気泳動した。
【0080】
(3)エチジウムブロマイド染色し、紫外線照射下で目的のPCR産物が増幅されていることを確認後、その部分を切り取り一辺2mm程度になるまで細かく切り刻んだ後、飽和フェノール300μlに入れよく撹拌した。
【0081】
(4)凍結(-80℃、20分)、融解(30℃、5分)後よく撹拌し、遠心(15000×g、5分間)した。水層を採取し300μlのCI solutionを加えてよく撹拌し、再度遠心(15000×g、5分間)した。そして、また水層を採取した。
【0082】
(5)採取した水層にTris飽和フェノール150μl、CI solution 150μlを加えて撹拌し、遠心(15000×g、5分間)後、水層採取の操作を2回繰り返した。
【0083】
(6)採取した水層にその10分の1量の3M 酢酸ナトリウム水溶液を加えた後、その2.5倍量のエタノールを加えて冷却(-80℃、10分)し、遠心(15000×g、5分間)した。その後、水層部分を捨て沈殿物を採取した。
【0084】
(7)得られた沈殿物を真空条件下に30分おいて乾燥させ、30μlの滅菌水に溶解させた。
【0085】
(8)その溶解液の一部を使い260nmの吸光度を測定し、『DNA濃度(μg
/ml)=OD260×50』(改訂遺伝子工学実験ノート上、第2版第2刷、田村隆明編、羊土社、2002)をもとにDNA濃度を算出した。
【0086】
C.シークエンス反応と塩基配列決定
(1)シークエンス反応
a.反応混合液
鋳型DNA溶液・・・20ng
プライマー(Sigma)・・・3.2 pmol
BigDye Terminator v3.1(Applied Biosystem)・・・4μl
Buffer(Applied Biosystem)・・・2μl
滅菌水・・・反応混合液総量が20μl
b.シークエンス反応のプログラム
96℃で1分反応させた後、「96℃で30秒、60℃で4分」という反応を1サイクルとして25サイクル行った。
【0087】
(2)BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit 日本語版プロトコール(Applied Biosystem)のEthanol/EDTA/Sodium Acetate法に従って、反応産物を精製した。
【0088】
(3)精製物をホルムアミド15μlに溶解し、ABI 310を用いて塩基配列を決定した。
【0089】
なお、プライマーとしては、以下に示す16S 27f BamH、LAB0589f、LAB0677rf
EUB0933f、LAB0951r、及び16S 1525r Hindを使用した。
【0090】
16S 27f BamH:5’-TTAGGATCCAGAGTTTGATCCTGGCTCAG-3’(配列番号7)
LAB0589f:5’-TCCGGATTTATTGGGCGTAAAGCGA-3’(配列番号8)
LAB0677rf:5’-CACCGCTACACATGGAG-3’(配列番号9)
EUB0933f:5’-GCACAAGCGGTGGAGCATGTGG-3’(配列番号10)
LAB0951r:5’-TCGAATTAAACCACATGCTCCA-3’(配列番号11)
16S 1525r Hind:5’-CGGAAGCTTAAAGGAGGTGATCCAGCC-3’(配列番号12)
B0321株、B0811株、B0911株及びB1021株の16SrDNAの塩基配列をそれぞれ配列番号1、配列番号2、配列番号3及び配列番号4に示す。
【0091】
これらの配列について、blastnを用いてGenBank等のDNAデータベースに対してホモロジー検索を行った。その結果、B0321株、B0811株、及びB0911株の16SrDNAの塩基配列はいずれもロイコノストック・シュードメセンテロイデス(Leuconostoc pseudomesenteroides)のそれと99.5%の相同性を示した。また、B1021株の16SrDNAの塩基配列はラクトバチルス・プランタルムのそれと99.4%の相同性を示した。
【0092】
以上の結果から、B0321株、B0811株、及びB0911株の3株は、ロイコノストック・シュードメセンテロイデスに近い菌株である可能性もあるが、表9のように糖の資化性(酸生成)試験では不一致の点も多いので、これらの菌株は、ロイコノストックsp.と同定した。
【0093】
B1021株は、16SrDNAのホモロジー検索及び糖の資化性試験のいずれにおいても、ラクトバチルス・プランタルムという結果がでたので、この菌株はラクトバチルス・プランタルムと同定した。
【0094】
〔実施例9〕 B1021株を用いたラット実験
7週齢のSD雄ラット(日本クレア株式会社)を購入し、1週間予備飼育をした後実験に供した。飼育は、5:00−19:00点灯、22±2℃、湿度50−70%の条件で行った。ラットを1群6匹で、それを3群に分け、それぞれ表10に示す3種類の高コレステロール飼料(A.パン粉添加飼料、B.乳酸菌入りパン粉添加飼料、C.乾燥菌体添加飼料)を21日間、自由摂食させた(以下、A.パン粉添加飼料を摂食させた群を「A群」、乳酸菌入りパン粉添加飼料を摂食させた群を「B群」、C.乾燥菌体添加飼料を摂食させた群を「C群」という)。
【0095】
摂食量は毎日個別に測定し、体重も経時的に測定した。採血は軽いエーテル麻酔下で尾静脈より行い、0、7、14、21日目及び、21日目の採血の後一昼夜絶食させた後22日目に再び採血を行った。また22日目の採血の後ただちに剖検し、主要臓器の重量を測定した。
【0096】
血液はただちに遠心後、富士ドライケム(富士写真フィルム株式会社)を用いて血液の生化学値(血糖値、中性脂肪値、総コレステロール値、HDLC値、GOT値、GPT値)を測定した。
【0097】
【表10】
【0098】
なお、飼料A、Cの中で使われるパンは表11に示す配合率の製パン原料から製造した。飼料Bの中で使われるパンは、表11に示す配合率の製パン原料に、B1021株を加えた原料から製造した。B1021株の添加量は、水を除いた原料の重量を100%とした場合の5重量%(生乳酸菌体)とした。また、パン製造は松下電気産業株式会社ナショナル自動ホームベーカリー(松下電気産業株式会社製造)を使用し、原料の総重量480gずつ製造した。
【0099】
【表11】
【0100】
飼料B及びCで使用するB1021株は、APT培地(表12)で30℃、48時間培養した菌体を用いた。飼料Cで使用する乾燥菌体は、前記培養によって得られる菌体を100℃で一夜乾燥させた後、粉砕したものを使用した。
【0101】
パン粉は出来上がったパンを105℃で一夜乾燥させた後、ミキサーで粉末にしたものを使用した。
【0102】
飼料配合調製はニッチク薬品工業株式会社に依頼し行った。また、パン製造の酵母は生イースト(オリエンタル酵母工業株式会社)を使用した。
【0103】
採取した血液の生化学値等の結果を以下に示す。
【0104】
(1)血糖値の経時的変化
0日から21日までの血糖値の経時的変化を図1に示す。図に示すように、各群とも0〜21日間血糖値は一定の値で推移した。
【0105】
(2)中性脂肪値の経時的変化
0日から21日までの中性脂肪値の経時的変化を図2に示す。図に示すように、各群とも経時的に増加する傾向を示したが、その増加率は、C群で、他の2群に比べて有意差は認められないものの、やや抑制される傾向を示した。
【0106】
(3)総コレステロール値の経時的変化
0日から21日までの総コレステロール値の経時的変化を図3に示す。図に示すように、7日目には60%ほど増加し、14、21日目ではさらに増加傾向を示した。このことから3群とも高コレステロール食の影響を受けているものと考えられた。しかしながら、飼料の違いによる差は認められなかった。
【0107】
(4)HDLC値の経時的変化
0日から21日までの総コレステロール値の経時的変化を図4に示す。図に示すように、善玉コレステロールであるHDLC値は、3群とも経時的に減少する傾向を見せた。しかしながら、21日目では、B群ではA群に比べ有意に高い値を示し、また、C群も、A群に比べて高い値を示す傾向があった。
【0108】
また、HDLC値及び総コレステロール値から動脈硬化指数を算出し、動脈硬化指数の経時的変化も調べた(図には示さない。)。その結果、3群とも経時的に増加する傾向があったが、その増加はB群では有意に抑制され、C群でも増加抑制傾向がみられた。
【0109】
(5)GOT値及びGPT値の経時的変化
0日から21日までのGOT値及びGPT値の経時的変化をそれぞれ図5及び図6に示す。GOT値及びGPT値は肝機能の指標になる酵素活性であるが、図に示すように、それらは実験期間中は特に大きな変化を認められず、各群間にも差がなかった。
【0110】
(6)絶食時に採取した血液の生化学値
血液生化学性状については、絶食時の値で比較することが常法である。そこで、実験22日目の絶食時における各群の血液の生化学値を比較した。各群の血糖値、中性脂肪値、総コレステロール値、HDLC値、GOT値、GPT値、及び動脈硬化指数を図7、図8、図9、図10、図11、図12、及び図13に示す。
【0111】
中性脂肪値、総コレステロール値では、B群及びC群は、有意差は認められないものの、A群と比較して低い値を示した(図8及び9)。また、HDLC(善玉コレステロール)値では、B群及びC群は、A群に比べ有意に高い値を示した(図10)。GOT値とGPT値については、A群、B群、C群の間に有意差は認められなかった(図11および12)。
【0112】
(7)剖検所見
剖検時の体重、肝臓、腎臓の重量については、有意差は認められないものの、A群に比べてB群及びC群はわずかに低い値を示した。肝臓は、正常時において表面は滑らかで明るい赤褐色を示すが、3群の肝臓は、異常に白く、また白い斑点が肝全体を覆い明らかに異常所見を示すものであった。また組織標本を作製し、光学顕微鏡による観察の結果、肝脂肪内に脂肪顆粒が多数認められ、精査を要するものの、脂肪肝の疑いが認められた。体脂肪(精巣上体脂肪+腎脂肪)についても3群で大きな変化を認めなかった。
【0113】
【表12】
【0114】
〔実施例10〕 B1021株を用いたヨーグルトの作製
B1021株をAPT培地(表12)に植菌し、30℃で24時間培養した後、その培養液5mlを500mlの牛乳(メグミルク、日本ミルクコミュニティ株式会社製造)と混合した。その後、30℃で保温し、pHを経時的に測定した。この結果を表13に示す。
【0115】
【表13】
【0116】
表13に示すように、菌接種から4日目にpHが4.5以下になった。参考のために市販のヨーグルト(明治ブルガリアヨーグルト微糖)のpHを調べてみたところ、そのpHは4.5であった。このことから、菌接種から4日目には、市販のヨーグルトと同様の品質のヨーグルトが生成していたものと考えられる。
【0117】
上記のように牛乳のみで培養した場合、ヨーグルトができるまでにかなりの時間を要した。そこで、種々の添加物を牛乳に加え、菌接種から24時間後のpHを測定し、ヨーグルト生成までの時間が短縮できるかどうかを検討した。添加物としては、市販のトマトジュース(日本デルモンテ株式会社製造)、Bacto Tryptone、Bacto Yeast Extractを用いた。菌接種から24時間後のpHを表14に示す。
【0118】
【表14】
【0119】
表14に示すように、トマトジュース、Bacto Tryptone、Bacto Yeast Extractのいずれを添加した場合も、24時間後のpHは4前後まで低下していた。この結果から、トマトジュース等の添加物を加えることにより、24時間程度で十分な品質のヨーグルトを作製できると考えられる。
【0120】
〔実施例11〕 B1021株の食塩生育限界、pH耐性試験
B1021株について食塩生育限界試験と、pH耐性試験を行った。実験では種培養として、APT培地10ml(16.5ml試験管使用)に一白金耳B1021株を接種後、シリコ栓(信越ポリマー株式会社)をし、30℃で24時間培養した。そして、NaCl濃度、pHをそれぞれ変えた10mlのAPT培地に前培養物を100μl接種した。その後、30℃で培養した。
【0121】
pH耐性試験の結果を表15に、食塩生育限界試験の結果を表16に示す。
【0122】
【表15】
【0123】
【表16】
【0124】
表15に示すように、B1021株はpH3.5程度まで生育可能であった。また、表16に示すように、B1021株は食塩濃度9.5%程度まで生育可能であった。一般的な漬物のpHは3.5〜4.5、食塩濃度は5〜9%程度であることから、B1021株は漬物の作製に使用できると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】A〜C群の血糖値の経時的変化を示す図。
【図2】A〜C群の中性脂肪値の経時的変化を示す図。
【図3】A〜C群の総コレステロール値の経時的変化を示す図。
【図4】A〜C群のHDLC値の経時的変化を示す図。
【図5】A〜C群のGOT値の経時的変化を示す図。
【図6】A〜C群のGPT値の経時的変化を示す図。
【図7】高コレステロール飼料給餌後、絶食時のA〜C群の血糖値を示す図。
【図8】高コレステロール飼料給餌後、絶食時のA〜C群の中性脂肪値を示す図。
【図9】高コレステロール飼料給餌後、絶食時のA〜C群の総コレステロール値を示す図。
【図10】高コレステロール飼料給餌後、絶食時のA〜C群のHDLC値を示す図。
【図11】高コレステロール飼料給餌後、絶食時のA〜C群のGOT値を示す図。
【図12】高コレステロール飼料給餌後、絶食時のA〜C群のGPT値を示す図。
【図13】高コレステロール飼料給餌後、絶食時のA〜C群の動脈硬化指数を示す図。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロイコノストックsp.B0321株、ロイコノストックsp.B0811株、ロイコノストックsp.B0911株、及びラクトバチルス・プランタルムB1021株。
【請求項2】
ロイコノストックsp.B0321株の類似菌株。
【請求項3】
配列番号1記載の塩基配列と同等の塩基配列で表される16SrDNAを有することを特徴とする請求項2記載のロイコノストックsp.B0321株の類似菌株。
【請求項4】
リボース、D−キシロース、L−キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、α−メチル−D−マンノシド、α−メチル−D−グルコシド、セロビオース、マルトース、ラクトース、メリビオース、スクロース、ラフィノース、D−ツラノース、2−ケトグルコン酸、及び5−ケトグルコン酸に対する資化性を持ち、グリセロール、エリスリトール、D−アラビノース、L−アラビノース、アドニトール、β−メチル−D−キシロシド、ガラクトース、ソルボース、ラムノース、ズルシトール、イノシトール、マンニトール、ソルビトール、N−アセチル−グルコサミン、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシン、トレハロース、イヌリン、メレジトース、デンプン、グリコーゲン、キシリトール、ゲンチオビオース、D−リキソース、D−タガトース、D−フコース、L−フコース、D−アラビトール、L−アラビトール、及びグルコン酸に対する資化性を持たないことを特徴とする請求項2記載のロイコノストックsp.B0321株の類似菌株。
【請求項5】
ロイコノストックsp.B0811株の類似菌株。
【請求項6】
配列番号2記載の塩基配列と同等の塩基配列で表される16SrDNAを有することを特徴とする請求項5記載のロイコノストックsp.B0811株の類似菌株。
【請求項7】
グリセロール、L−アラビノース、リボース、D−キシロース、ガラクトース、グルコース、フルクトース、マンノース、ソルビトール、α−メチル−D−マンノシド、α−メチル−D−グルコシド、N−アセチル−グルコサミン、アミグダリン、エスクリン、セロビオース、マルトース、ラクトース、メリビオース、スクロース、トレハロース、メレジトース、ラフィノース、ゲンチオビオース、及びD−ツラノースに対する資化性を持ち、エリスリトール、D−アラビノース、L−キシロース、アドニトール、β−メチル−D−キシロシド、ソルボース、ラムノース、ズルシトール、イノシトール、マンニトール、アルブチン、サリシン、イヌリン、デンプン、グリコーゲン、キシリトール、D−リキソース、D−タガトース、D−フコース、L−フコース、D−アラビトール、L−アラビトール、グルコン酸、2−ケトグルコン酸、及び5−ケトグルコン酸に対する資化性を持たないことを特徴とする請求項5記載のロイコノストックsp.B0811株の類似菌株。
【請求項8】
ロイコノストックsp.B0911株の類似菌株。
【請求項9】
配列番号3記載の塩基配列と同等の塩基配列で表される16SrDNAを有することを特徴とする請求項8記載のロイコノストックsp.B0911株の類似菌株。
【請求項10】
リボース、D−キシロース、L−キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、α−メチル−D−マンノシド、α−メチル−D−グルコシド、セロビオース、マルトース、ラクトース、メリビオース、スクロース、ラフィノース、及びD−ツラノースに対する資化性を持ち、グリセロール、エリスリトール、D−アラビノース、L−アラビノース、アドニトール、β−メチル−D−キシロシド、ガラクトース、ソルボース、ラムノース、ズルシトール、イノシトール、マンニトール、ソルビトール、N−アセチル−グルコサミン、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシン、トレハロース、イヌリン、メレジトース、デンプン、グリコーゲン、キシリトール、ゲンチオビオース、D−リキソース、D−タガトース、D−フコース、L−フコース、D−アラビトール、L−アラビトール、グルコン酸、2−ケトグルコン酸、及び5−ケトグルコン酸に対する資化性を持たないことを特徴とする請求項8記載のロイコノストックsp.B0911株の類似菌株。
【請求項11】
ラクトバチルス・プランタルムB1021株の類似菌株。
【請求項12】
配列番号4記載の塩基配列と同等の塩基配列で表される16SrDNAを有することを特徴とする請求項11記載のラクトバチルス・プランタルムB1021株の類似菌株。
【請求項13】
リボース、ガラクトース、グルコース、フルクトース、マンノース、マンニトール、ソルビトール、α−メチル−D−マンノシド、N−アセチル−グルコサミン、アミグダリン、エスクリン、サリシン、セロビオース、マルトース、ラクトース、メリビオース、スクロース、トレハロース、メレジトース、ラフィノース、ゲンチオビオース、L−アラビトール、及び2−ケトグルコン酸に対する資化性を持ち、グリセロール、エリスリトール、D−アラビノース、L−アラビノース、D−キシロース、L−キシロース、アドニトール、β−メチル−D−キシロシド、ソルボース、ラムノース、ズルシトール、イノシトール、α−メチル−D−グルコシド、アルブチン、イヌリン、デンプン、グリコーゲン、キシリトール、D−ツラノース、D−リキソース、D−タガトース、D−フコース、L−フコース、D−アラビトール、グルコン酸、及び5−ケトグルコン酸に対する資化性を持たないことを特徴とする請求項11記載のラクトバチルス・プランタルムB1021株の類似菌株。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか一項記載の菌株を含有することを特徴とする食品。
【請求項15】
食品が、パン、ヨーグルト、漬物、又はピザであることを特徴とする請求項14記載の食品。
【請求項16】
請求項1乃至13のいずれか一項記載の菌株を有効成分として含有することを特徴とする動脈硬化予防剤。
【請求項1】
ロイコノストックsp.B0321株、ロイコノストックsp.B0811株、ロイコノストックsp.B0911株、及びラクトバチルス・プランタルムB1021株。
【請求項2】
ロイコノストックsp.B0321株の類似菌株。
【請求項3】
配列番号1記載の塩基配列と同等の塩基配列で表される16SrDNAを有することを特徴とする請求項2記載のロイコノストックsp.B0321株の類似菌株。
【請求項4】
リボース、D−キシロース、L−キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、α−メチル−D−マンノシド、α−メチル−D−グルコシド、セロビオース、マルトース、ラクトース、メリビオース、スクロース、ラフィノース、D−ツラノース、2−ケトグルコン酸、及び5−ケトグルコン酸に対する資化性を持ち、グリセロール、エリスリトール、D−アラビノース、L−アラビノース、アドニトール、β−メチル−D−キシロシド、ガラクトース、ソルボース、ラムノース、ズルシトール、イノシトール、マンニトール、ソルビトール、N−アセチル−グルコサミン、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシン、トレハロース、イヌリン、メレジトース、デンプン、グリコーゲン、キシリトール、ゲンチオビオース、D−リキソース、D−タガトース、D−フコース、L−フコース、D−アラビトール、L−アラビトール、及びグルコン酸に対する資化性を持たないことを特徴とする請求項2記載のロイコノストックsp.B0321株の類似菌株。
【請求項5】
ロイコノストックsp.B0811株の類似菌株。
【請求項6】
配列番号2記載の塩基配列と同等の塩基配列で表される16SrDNAを有することを特徴とする請求項5記載のロイコノストックsp.B0811株の類似菌株。
【請求項7】
グリセロール、L−アラビノース、リボース、D−キシロース、ガラクトース、グルコース、フルクトース、マンノース、ソルビトール、α−メチル−D−マンノシド、α−メチル−D−グルコシド、N−アセチル−グルコサミン、アミグダリン、エスクリン、セロビオース、マルトース、ラクトース、メリビオース、スクロース、トレハロース、メレジトース、ラフィノース、ゲンチオビオース、及びD−ツラノースに対する資化性を持ち、エリスリトール、D−アラビノース、L−キシロース、アドニトール、β−メチル−D−キシロシド、ソルボース、ラムノース、ズルシトール、イノシトール、マンニトール、アルブチン、サリシン、イヌリン、デンプン、グリコーゲン、キシリトール、D−リキソース、D−タガトース、D−フコース、L−フコース、D−アラビトール、L−アラビトール、グルコン酸、2−ケトグルコン酸、及び5−ケトグルコン酸に対する資化性を持たないことを特徴とする請求項5記載のロイコノストックsp.B0811株の類似菌株。
【請求項8】
ロイコノストックsp.B0911株の類似菌株。
【請求項9】
配列番号3記載の塩基配列と同等の塩基配列で表される16SrDNAを有することを特徴とする請求項8記載のロイコノストックsp.B0911株の類似菌株。
【請求項10】
リボース、D−キシロース、L−キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、α−メチル−D−マンノシド、α−メチル−D−グルコシド、セロビオース、マルトース、ラクトース、メリビオース、スクロース、ラフィノース、及びD−ツラノースに対する資化性を持ち、グリセロール、エリスリトール、D−アラビノース、L−アラビノース、アドニトール、β−メチル−D−キシロシド、ガラクトース、ソルボース、ラムノース、ズルシトール、イノシトール、マンニトール、ソルビトール、N−アセチル−グルコサミン、アミグダリン、アルブチン、エスクリン、サリシン、トレハロース、イヌリン、メレジトース、デンプン、グリコーゲン、キシリトール、ゲンチオビオース、D−リキソース、D−タガトース、D−フコース、L−フコース、D−アラビトール、L−アラビトール、グルコン酸、2−ケトグルコン酸、及び5−ケトグルコン酸に対する資化性を持たないことを特徴とする請求項8記載のロイコノストックsp.B0911株の類似菌株。
【請求項11】
ラクトバチルス・プランタルムB1021株の類似菌株。
【請求項12】
配列番号4記載の塩基配列と同等の塩基配列で表される16SrDNAを有することを特徴とする請求項11記載のラクトバチルス・プランタルムB1021株の類似菌株。
【請求項13】
リボース、ガラクトース、グルコース、フルクトース、マンノース、マンニトール、ソルビトール、α−メチル−D−マンノシド、N−アセチル−グルコサミン、アミグダリン、エスクリン、サリシン、セロビオース、マルトース、ラクトース、メリビオース、スクロース、トレハロース、メレジトース、ラフィノース、ゲンチオビオース、L−アラビトール、及び2−ケトグルコン酸に対する資化性を持ち、グリセロール、エリスリトール、D−アラビノース、L−アラビノース、D−キシロース、L−キシロース、アドニトール、β−メチル−D−キシロシド、ソルボース、ラムノース、ズルシトール、イノシトール、α−メチル−D−グルコシド、アルブチン、イヌリン、デンプン、グリコーゲン、キシリトール、D−ツラノース、D−リキソース、D−タガトース、D−フコース、L−フコース、D−アラビトール、グルコン酸、及び5−ケトグルコン酸に対する資化性を持たないことを特徴とする請求項11記載のラクトバチルス・プランタルムB1021株の類似菌株。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか一項記載の菌株を含有することを特徴とする食品。
【請求項15】
食品が、パン、ヨーグルト、漬物、又はピザであることを特徴とする請求項14記載の食品。
【請求項16】
請求項1乃至13のいずれか一項記載の菌株を有効成分として含有することを特徴とする動脈硬化予防剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−296307(P2006−296307A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−123407(P2005−123407)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(801000027)学校法人明治大学 (161)
【出願人】(503280813)有限会社ホシノ天然酵母パン種 (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(801000027)学校法人明治大学 (161)
【出願人】(503280813)有限会社ホシノ天然酵母パン種 (1)
【Fターム(参考)】
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