説明

胆汁酸耐性細菌を含有する動物用飼料添加剤

【課題】飼料に添加することにより、消化活動を補助し、好ましい作用を及ぼす細菌を分離し、動物の成長を促進するための動物用飼料添加剤を提供する。
【解決手段】胆汁酸耐性、耐酸性、かつ耐熱性であるバチルス属細菌を動物用飼料添加剤に用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胆汁酸耐性、耐酸性、かつ耐熱性である細菌及びこれを含有する動物用飼料添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒトを始めとする動物の疾病を予防、治療する方法として合成薬剤を用いず、微生物の働きを利用するプロバイオティクス療法が盛んに行われるようになっている。プロバイオティクスは、生きたまま宿主の腸に到達し、腸内フローラのバランスを改善することにより、整腸作用や免疫調節作用など、宿主に有益な作用をもたらす。
プロバイオティクスの代表的な例としては、乳酸菌やビフィズス菌が挙げられ、これらの細菌はヨーグルトやその他乳製品に広く利用されている。
【0003】
細菌をプロバイオティクスとして利用するためには、胃液、胆汁酸などに耐性を有し、生きたまま腸に到達する能力を有すること、宿主の腸内フローラを構成していること、小腸下部や大腸で増殖する能力を有すること、宿主に対して有用な作用を及ぼすこと、食品や飼料の形態中で一定以上の菌数を維持できること、安全であることなどが要求される。
【0004】
このような状況下で、畜産業、ペット産業などの領域において、動物の消化活動を補助し、腸内細菌を増強したり、腸内の有毒細菌の増殖を抑制したりすることにより、ヒトや動物の成長を促進したり、ウイルスなどによる炎症性腸疾患を予防・改善するために、プロバイオティクス細菌の利用が拡大している。
例えば、胆汁酸耐性であるバチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)、バチルス・ズブチルス(Bacillus subtilis)、バチルス・クラウジ(Bacillus clausii)を動物の体重増加の促進、各種酵素産生による消化補助、及び病原体増殖制御を目的として動物用飼料強化剤として用いることが報告されている(特許文献1)。しかしながら、ここで報告されているバチルス属細菌は、胞子の状態では耐酸性であるものの、栄養細胞の状態では耐酸性ではなく、栄養細胞をプロバイオティクスとして用いる場合は、胃の酸性環境による死滅から細胞を保護するために酸耐性担体でコーティング又はカプセル化しなければならないという問題があった。また、乳酸を産生し、耐熱性かつ耐酸性であるバチルス・コアギュランスを動物などに経口投与すること(特許文献2)、胆汁酸耐性であるバチルス属細菌(特許文献3、4、非特許文献1)、胆汁酸耐性かつ耐酸性であるラクトバチルス属細菌(特許文献5、特許文献6)などが知られているが、耐酸性、胆汁酸耐性かつ耐熱性であるバチルス属細菌及びこのような細菌を動物に経口投与して用いることは知られていなかった。
このような技術背景において、動物の消化機能を補助し、成長を促進するための新たな細菌種であって、安全性、取り扱いの容易性を満足する細菌種が探し求められていた。
【0005】
【特許文献1】特表2005−507670号公報
【特許文献2】特表2003−513469号公報
【特許文献3】特開平5−268944号公報
【特許文献4】国際公開第96/024659号パンフレット
【特許文献5】特表2004−523241号公報
【特許文献6】特開2005−000160号公報
【非特許文献1】「インターナショナル ジャーナル オブ フード マイクロバイオロジー(international Journal of Food Microbiology)」2000年,第61巻,p.193−197
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
飲食品や動物用飼料に添加するプロバイオティクスとしては、上述したように胆汁酸耐性、かつ耐酸性であることが要求される。また、細菌が体外に排出された後も、排泄物中で細菌が増殖できれば、排泄物の発酵が促進され、脱水、減量化、消臭に役立つと考えられる。このためには、排泄物中の細菌が発酵熱によって死滅せず、高温条件下においても一定時間増殖し続ける能力を有することが好ましい。そこで、本発明は、胆汁酸耐性、耐酸性、かつ耐熱性である細菌を提供することを課題とする。さらに、細菌が腸内で消化吸収や炎症性障害などに有用な物質を産生する能力を有していれば、消化器官の障害などを予防・改善し、動物の成長促進に有効である。そこで、本発明は、上記性質に加え、このような物質を産生する細菌を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、胆汁酸耐性、耐酸性及び耐熱性を有し、さらに有機酸を産生する能力を有するバチルス属細菌を発見し、これを分離した。そして、この細菌を動物用飼料添加剤に含有させ、動物に与えることにより、動物に有益な作用をもたらすことを知見し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)胆汁酸耐性、耐酸性、耐熱性であるバチルス属細菌を含有する動物用飼料添加剤。(2)バチルス属細菌が、さらに有機酸を産生する能力を有することを特徴とする、(1)に記載の動物用飼料添加剤。
(3)バチルス属細菌が、バチルス・エスピー(Bacillus sp.) COR−24 FERM
AP−20643菌株、バチルス・エスピー(Bacillus sp.) POT−23 FERM AP−20644菌株、バチルス・エスピー(Bacillus sp.) SPI−37 FERM AP−20645菌株、バチルス・エスピー(Bacillus sp.) BUT−6A12 FERM AP−20666菌株又はこれらの変異株である(1)又は(2)に記載の動物用飼料添加剤。
(4)バチルス属細菌が、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis) NBRC 12198菌株又はこの変異株である(1)又は(2)に記載の動物用飼料添加剤。
(5)バチルス・エスピー(Bacillus sp.) COR−24 FERM AP−20643菌株、バチルス・エスピー(Bacillus sp.) POT−23 FERM AP−20644菌株、バチルス・エスピー(Bacillus sp.) SPI−37 FERM AP−20645菌株、バチルス・エスピー(Bacillus sp.) BUT−6A12 FERM AP−20666菌株又はこれらの変異株。
【発明の効果】
【0008】
本発明の動物飼料添加剤を飼料に混合し、動物に与えることにより、動物の腸内で細菌が増殖し、腸内フローラのバランスを改善し、動物の体重増加を促進する。また、細菌が体外に排出された後、発酵熱によって排泄物が高温になってもさらに細菌は増殖するため、排泄物の脱水、消臭、減量化が起こる。さらに、バチルス属細菌が乳酸、酪酸、コハク酸などの有機酸を産生する場合には、腸内で発生する有害なアンモニアを中和し、腸管の吸収阻害などの症状を改善する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の動物用飼料添加剤は、胆汁酸耐性、耐酸性、かつ耐熱性であるバチルス属細菌を含有することを特徴とする。
【0010】
「胆汁酸耐性である」とは、高濃度の胆汁酸を含有する培地において増殖できることをいう。胆汁酸とは、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類の胆汁中に広く見出される4環
構造のステロイドをいい、コール酸、ケノデオキシコール酸、デオキシコール酸、リトコール酸及びウルソデオキシコール酸が含まれる。通常、動物の体内では、胆汁酸は、胆汁中でグリシンやタウリンとアミド結合した抱合型として存在し、ナトリウム塩となっている。本明細書において単に「胆汁酸」という場合は、上記胆汁酸及びこれらの塩並びにこれらの抱合体を含む。
高濃度の胆汁酸を含有する培地とは、例えば、胆汁酸のうち最も殺菌性の高いデオキシコール酸を含む培地において、デオキシコール酸濃度が、300mg/l以上、好ましくは500mg/l以上、さらに好ましくは1000mg/l以上であることが挙げられる。また、通常動物の体内に存在する胆汁を含む培地において、胆汁濃度が、3000mg/l以上、好ましくは5000mg/l以上、さらに好ましくは10000mg/l以上であることが挙げられる。また、増殖できるとは、上記のような高濃度の胆汁酸を含有する培地で、胆汁酸濃度以外の条件をバチルス属細菌の培養に好適な条件にして培養を行ったときに、コロニーが形成されることをいう。
【0011】
「耐酸性である」とは、酸性条件下で細菌の栄養細胞が生存できることをいう。酸性条件とは、pH4.5以下、好ましくはpH3.0以下をいう。酸性条件下で栄養細胞が生存できるとは、例えば、上記酸性条件下で培養したときに、培養開始時の生菌数より培養後の生菌数が多いことをいう。通常、ヒトや動物の胃内部は食物を摂取した状態ではpHは3.5〜6の範囲であるため、このような性質を有するバチルス属細菌は、胃内部においても死滅することなく、腸まで到達する。
【0012】
「耐熱性である」とは、高温条件下で細菌の栄養細胞が生存できることをいう。高温条件とは、37℃以上、好ましくは50℃以上をいう。また、生存できるとは、例えば、上記高温条件の水溶液中に細胞を4時間以上置いた場合に、処理後の細胞数が処理前の細胞数より多いことをいう。耐熱性のバチルス属細菌を用いることにより、細菌が排泄物と共に動物体外へ排出された後に、発酵熱により排泄物が高温になっても、細菌が死滅することなく、有機廃棄物を分解し、減量化が促進される。
【0013】
本発明の動物用飼料添加剤に用いる胆汁酸耐性、耐酸性、かつ耐熱性であるバチルス属細菌は、例えば、以下のようにして得ることができる。まず、分離源を含む水溶液を70℃で30分間処理し、次いで、水溶液を上記酸性条件にして37℃以上で30分間処理した後、生存する菌株を選抜する。次に、バチルス属細菌の培養に好適な培地に、デオキシコール酸を上記高濃度になるように添加して、培養を行い、形成したコロニーを分離する。
このようなバチルス属細菌は、動物に摂取させた場合に、細菌が胃内部で死滅することなく腸まで到達し、腸内で増殖することができ、さらに排泄物中においても死滅しない。細菌が消化管内で死滅せず増殖していることは、例えば、動物の排泄物中の菌体の濃度を測定することによって確認することができる。
【0014】
本発明の動物用飼料添加剤に用いるバチルス属細菌は、さらに嫌気的条件下で増殖できることが好ましい。嫌気的条件とは、例えば、動物の腸内に含まれる気体中の酸素濃度以下の条件を意味する。実験室的には、例えば、20℃で測定した酸化還元電位が通常−10mV以下、好ましくは−50mV以下である条件をいう。酸化還元電位は、通常用いられる市販の酸化還元電位計で測定することができる。動物の消化管は、微好気的条件又は嫌気的条件であるため、このような細菌を用いることにより、胃腸内の環境下でも十分に細菌が増殖する。
【0015】
本発明の動物用飼料添加剤に用いるバチルス属細菌は、さらに有機酸を産生する能力を有することが好ましい。有機酸の種類は特に制限されるものではないが、乳酸、酪酸、グルコン酸、酢酸、クエン酸、2−オキソグルタル酸、コハク酸などが挙げられ、これらの
一種又は二種以上を産生することが好ましい。この中でも、乳酸、酪酸、コハク酸を産生することがさらに好ましい。ここで、有機酸を産生するとは、菌体を培養したときに、培養物中に有機酸が検出できる程度に有機酸を産生することをいう。有機酸の生成は、高速液体クロマトグラフィーで定性定量分析することができる。腸内で生成するアンモニアは、腸管からの栄養素の吸収を阻害するが、乳酸、酪酸、コハク酸などの有機酸は、有害なアンモニアを中和し、腸管からの栄養素の吸収阻害などの症状を改善する。
【0016】
また、胆汁酸耐性、耐酸性及び耐熱性に加えて有機酸を産生する能力を有するバチルス属細菌を選抜するためには、上記性質の菌株を選抜する方法に、有機酸を形成するコロニーを選抜するための工程を加えればよい。例えば、胆汁酸を含有する培地に、さらに有機酸の存在を検出するためのマーカー物質を添加して、細菌の培養を行うことにより、有機酸を分泌するコロニーを可視化することができる。例えば、普通寒天培地に溶解度以上の炭酸カルシウムを加えて細菌を培養すると、有機酸を分泌するコロニーの周りの炭酸カルシウムが溶解しクリアゾーンが形成されるため、これを指標に有機酸を産生する能力を有する菌株を得ることができる。また、pHインディケーターを固体、液体培地に添加して、培地の色変化を検出することによっても上記菌株を得ることができる。
【0017】
本発明の動物用飼料添加剤に用いるバチルス属細菌の菌種は、バージーズ・マニュアル・オブ・デターミネイティブ・バクテリオロジー(Bergey's Manual of Determinative Bacteriology)第9版(1994)において「バチルス属(Bacillus)」に分類される細菌であって、上記の性質を有しているものであれば特に制限されない。例えば、バチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)、バチルス・クラウジ(Bacillus clausii)、バチルス・ズブチルス(Bacillus subtilis)、バチルス・スミシー(Bacillus smithii)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)などが挙げられる。この中では、例えば、バチルス・リケニフォルミス NBRC 12198菌株などを好ましく用いることができる。バチルス・リケニフォルミス NBRC 12198菌株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構の生物遺伝資源部門(NBRC)に登録されている株であって、胆汁酸耐性、耐酸性かつ耐熱性であり、乳酸などの有機酸を産生する能力を有する。
【0018】
また、バチルス・エスピー(Bacillus sp.)を用いてもよい。例えば、バチルス・エスピー(Bacillus sp.) COR−24菌株、バチルス・エスピー(Bacillus sp.) POT−23菌株、バチルス・エスピー(Bacillus sp.) SPI−37菌株、バチルス・エスピー(Bacillus sp.) BUT−6A12菌株を好ましく用いることができる。COR−24、POT−23及びSPI−37は平成17年8月24日より、BUT−6A12は平成17年9月26日より独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に、それぞれ受領番号FERM AP−20643、FERM AP−20644、FERM AP−20645、FERM AP−20666で寄託されている。
【0019】
COR−24、POT−23及びSPI−37は、それぞれフスマ、下水の沈殿物、豚糞から見出した菌株であって、胆汁酸耐性、耐酸性かつ耐熱性であり、乳酸などの有機酸を産生する能力を有する。
【0020】
また、COR−24、POT−23、SPI−37のそれぞれについて、16S rRNA−500塩基配列を解析した結果、以下のようなことが明らかとなった。
MicroSeqを用いた解析の結果、COR−24、POT−23及びSPI−37の16S rRNA 部分塩基配列は、Bacillus amyloliquefaciens 及びBacillus atrophaeusの16S rRNAに対し、相同率99%以上の高い相同性を示した。分子系統樹でもCOR−24、POT−23及びSPI−37の16S rRNAはB. amyloliquefaci
ensの16S rRNAとクラスターを形成した。
また、BLASTを用いたGenBank/DDBJ/EMBLに対する相同性検索の結果、COR−24、POT−23及びSPI−37の16S rRNAは、相同率100%でBacillus sp. Bchl株の16S rRNAと一致した。また、検索の結果、相同性の高い上位20株のほとんどは、バチルス属由来の16S rRNAが占めていたが、この上位20株内にはBacillus基準株由来の16S rRNAは検索されなかった。
【0021】
上記のことから、COR−24、POT−23及びSPI−37は、B. amyloliquefaciens やB. atrophaeusに近縁と考えられるが、COR−24、POT−23及びSPI−37とこれらの種の16S rRNAは完全には一致しておらず、これらの種と系統的に異なる菌株である可能性は否定できない。また、COR−24、POT−23及びSPI−37の16S rRNAは、B. subtilis subsp. subtilisやB. mojavensisの16S rRNAに対しても高い相同率を示しており、16S rRNAの部分塩基配列を用いた解析結果のみからはCOR−24、POT−23及びSPI−37の種レベルでの帰属を判断することは難しいと考えられ、現時点ではCOR−24、POT−23及びSPI−37及びBUT−6A12をBacillus sp.とすることが妥当であると考えられる。
【0022】
BUT−6A12は、鶏糞から見出した菌株であって、胆汁酸耐性、耐酸性かつ耐熱性であり、乳酸などの有機酸を産生する能力を有する。
また、BUT−6A12の16S rRNA−500塩基配列を解析した結果、以下のようなことが明らかとなった。
BLASTを用いた細菌基準株データベースに対する相同性検索の結果、BUT−6A12の16S rRNAの部分塩基配列は相同率99.2%でBacillus fusiformis DSM2898株の16S rRNAに対し最も高い相同性を示した。
GenBank/DDBJ/EMBLに対する相同性検索の結果においても、BUT−6A12の16S rRNAの部分塩基配列は、Bacillus由来の16S rRNAに対し高い相同性を示し、基準株ではB. fusiformis DMS 2898株の16S rRNAに対し最も高い相同性を示した。
また、BUT−6A12の16S rRNAと細菌基準株データベースに対する相同性検索上位30株の16S rRNAを用いた簡易分子系統樹解析の結果、BUT−6A12はB. fusiformisの16S rRNAとクラスターを形成し、近縁であることが示された。
【0023】
上記のことから、BUT−6A12は、Bacillusに含まれ、既知のBacillusの中ではB.
fusiformisに最も近縁であるもののこれらの種と系統的に異なる菌株である可能性は否定できない。よって、16S rRNAの部分塩基配列を用いた解析結果のみからはBUT−6A12の種レベルでの帰属を判断することは難しいと考えられ、現時点ではB. fusiformisに近縁なBacillus sp.とすることが妥当であると考えられる。
【0024】
また、本発明の動物用飼料添加剤に用いることができるCOR−24、POT−23、SPI−37、BUT−6A12又はNBRC 12198の変異株は、各菌株が自然変異することにより得られた菌株や、各菌株を化学的変異剤や紫外線等で変異処理することにより得られた菌株から、各菌株と同様の菌学的性質を有し、上記性質を有する菌株を選抜することにより得ることができる。
【0025】
本発明の動物用飼料添加剤に用いるバチルス属細菌を培養する方法は特に制限されず、細菌の性質に応じた適当な条件下で定法により行うことができる。例えば、培養温度は20〜50℃で行うことができるが、通常は、28〜40℃で培養することが好ましい。また、培養方法は、往復動式振とう培養、ジャーファーメンター培養などによる液体培養法や固体培養法を用いることができる。
培養に用いる培地成分も特に制限されず、動物性又は植物性の何れを用いてもよく、例えば、大豆粉、フスマ、コメヌカ、麦、乳製品等を含む資材を用いることができる。さらに、炭素源としてグルコース、スクロース、糖蜜などの糖類、クエン酸などの有機酸類、グリセリンなどのアルコール類、また窒素源としてアンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウムなどのアンモニウム塩や硝酸塩等を添加することができる。
【0026】
本発明の動物用飼料添加剤におけるバチルス属細菌の菌体の濃度は、飼料に添加・混合するのに適した濃度であればよく、配合する食品、飼料の種類、与える対象の種類や体重、投与目的などに応じて最適な濃度を決定することができる。通常は、動物用飼料添加剤全量に対して、1×103〜1×1011CFU/g(コロニー形成単位)、好ましくは1×104〜1×1010CFU/g、さらに好ましくは1×105〜1×109CFU/gとすることができる。
【0027】
また、本発明の動物用飼料添加剤に用いるバチルス属細菌は、胞子及び栄養細胞の何れの状態でもよい。細菌に胞子を形成させる場合は、培養の周期において、培地の組成、培地のpH、培養温度、培養湿度、培養する際の酸素濃度などの培養条件を、その胞子形成条件に適合させるように調整することができる。
【0028】
本発明の動物用飼料添加剤は、菌体の培養後、得られた培養物をそのまま動物用飼料添加剤とすることもできるし、得られた培養物から、菌体を含む一部を分離して、適宜任意成分と混合して動物用飼料添加剤とすることもできる。例えば、固体培地を用いて菌体の培養を行う場合には、菌体を培地と共に乾燥、粉砕して飼料添加剤としてもよい。液体培地を用いて菌体の培養を行う場合には、培地を遠心分離することにより菌体を分離するなどした後、菌体のみをスプレー乾燥や凍結乾燥により乾燥して添加してもよい。用いる細菌が有機酸産生能を有するものである場合には、菌体の培養によって得られた培養物中に有機酸が含まれるため、培養物をそのまま動物用飼料添加剤に含有させるか、あるいは全量を乾燥して添加することが好ましい。
【0029】
また、本発明の動物用飼料添加剤は、製品としての品質安定性、保存性を高めるために乾燥することが好ましい。乾燥は、動物用飼料添加剤の水分含有量が20重量%以下となるように行うことが好ましい。
乾燥方法は、特に制限されず、自然乾燥、通風乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥などが挙げられるが、この中でも噴霧乾燥及び通風乾燥が好ましく用いられる。乾燥する際には、スキムミルク、グルタミン酸ナトリウム及び糖類などの保護剤を用いることができる。糖類を用いる場合は、グルコースやトレハロースを用いることができる。さらに、乾燥後は、得られた乾燥物に、脱酸素剤、脱水剤を加えて、ガスバリアー性のアルミ袋に入れて密封し、室温から低温で貯蔵することが好ましい。これにより、細菌を長期間生きたまま保存することが可能となる。
また、バチルス属細菌の菌体や培養物に製剤化のための担体や増量剤などの任意の物質をさらに加えて、動物用飼料添加剤に加工することも可能である。
【0030】
本発明の動物用飼料添加剤は、通常用いられる飼料に添加、混合して、動物に摂取させることができる。飼料の種類や成分は、バチルス属細菌が死滅しない限りにおいて特に制限されず、通常、家畜の飼料やペットフード、動物用サプリメントなど、動物用の飼料として用いられているものを用いることができる。
【0031】
また、本発明の動物用飼料添加剤を他の飼料成分に添加し、混合することにより動物の成長促進のための飼料を製造することができる。この場合、動物用飼料添加剤の含有量は、与える動物の種類、体重、年齢、性別、使用目的、健康状態、飼料の成分などにより適
宜調節することができ、特に制限されないが、例えば、通常は飼料に対して、菌体濃度が1×104〜1×109CFU/gとなるように添加することが好ましい。
【0032】
飼料への動物用飼料添加剤の混合は、動物用飼料添加剤をそのまま混合することができるが、粉末状、固形状の動物用飼料添加剤を添加、混合する場合は、飼料への混合を容易にするために液状又はゲル状の形態にして使用することもできる。この場合は、水、大豆油、菜種油、コーン油などの植物油、液体動物油、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などの水溶性高分子化合物を液体担体として用いることができる。また、飼料中における菌体濃度の均一性を保つために、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、カゼインナトリウム、アラビアゴム、グアーガム、タマリンド種子多糖類などの水溶性多糖類を配合することも好ましい。また、雑菌の繁殖を防ぐために有機酸を配合し、液体生菌剤を酸性にすることもできる。
【0033】
本発明の飼料を摂取させる動物の種類は、特に制限されず、例えば、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類などが挙げられる。動物に摂取させる飼料の量は、動物の種類、体重、年齢、性別、使用目的、健康状態、飼料の成分などにより適宜調節することができる。
【実施例】
【0034】
<菌体の分離>
フスマ、下水の沈殿物、豚糞及び鶏糞を分離源とし、それぞれ10gずつガラス容器に取り、水90mlを加えて攪拌し、pHを4.5に調整した後、湯浴中で75℃で20分間加温した。この液を250ml容のメディアボトルに移し、40℃の恒温槽に入れ、内部を窒素でパージした後、ブチルゴム栓付きスクリューキャップで密栓し、毎分60回転で7日間攪拌振とうした。その後、メディアボトルを冷却しながら30分間静置し、上澄み液を分離した。この上澄み50mlに4規定塩酸を滴下してpHを2とし、37℃で4時間振とうした。
【0035】
次に、以下に示すデオキシコール酸添加培地を調製し、加温溶解後にシャーレに20mlずつ分注した。胆汁酸成分のうち、微生物に対して最も殺菌効果の高いデオキシコール酸のナトリウム塩を培地に添加することとした。
(デオキシコール酸添加培地) (g/l)
デオキシコール酸ナトリウム 0.5
ペプトン 10.0
クエン酸鉄アンモニウム 2.0
塩化ナトリウム 5.0
リン酸−水素カリウム 2.0
乳糖 10.0
ニュートラルレッド 0.033
炭酸カルシウム 5.0
寒天 20.0
【0036】
このデオキシコール酸添加培地に、上記加熱処理及び酸処理後の上澄み液を200μl滴下し、塗布棒を使って広げた。このシャーレを嫌気ジャーに入れ、脱酸素剤を入れて37℃で5日間培養し、クリアゾーンとなった部分のコロニーを多数分離した。この分離した菌株の中でも特に増殖の旺盛な菌株を4つ選択した。フスマの分離源から分離した菌株をCOR−24、下水の沈殿物の分離源から分離した菌株をPOT−23、豚糞の分離源から分離した菌株をSPI−37、鶏糞の分離源から分離した菌株をBUT−6A12とし、それぞれ受領番号FERM AP−20643、FERM AP−20644、FERM AP−20645、FERM AP−20666として寄託した。これらの菌株の性質は前述したとおりである。
【0037】
<成長試験>
上記で得られたCOR−24、POT−23、SPI−37、BUT−6A12の菌体、及びバチルス・リケニフォルミス NBRC 12198をそれぞれ下記液体培地を用いて、35℃で48時間液体培養した。得られた培養物10lを遠心分離し、菌体を集めた。それぞれの菌体を凍結乾燥し、鳥雛の飼料全質量(SDブロイラー前後期用、日本配合飼料株式会社製、抗菌性物質無添加飼料)に対して100ppmとなるように混合したものを実施例1〜5とした。鳥雛12羽を一群として、各群に実施例1〜5の飼料を30日間与え、成長試験を行った。一方、胆汁酸耐性でないバチルス・ラセミラクティカス(Bacillus racemilacticus) DSM445を同様に培養し、菌体を分離して凍結乾燥したものを飼料に混合したものを比較例とし、菌体を添加しない飼料を対照例とし、同様に成長試験を行った。
【0038】
(液体培地)
(g/l)
グルコース 60.0
KH2PO4 1.2
NaCl 4.8
酵母エキス 5.0
脱脂大豆粉 24.0
MgSO4・7H2O 2.0
コーンスターチ 5.0
(mg/l)
CaCl2・2H2O 0.5
MnCl2・4H2O 7.0
FeSO4・7H2O 2.0
【0039】
30日後の各群の鳥雛の体重を測定し、それぞれの群の平均体重を算出した。また、飼育期間中の糞中における添加菌の濃度を測定し、それぞれ平均濃度を算出した。
結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
実施例1〜5の動物用飼料添加剤を与えた鳥雛は、比較例の動物用飼料添加剤を与えた鳥雛に比して、何れも体重が増加が大きかった。また、実施例の鳥雛の糞からは、7.2×107CFU/g(グラム生鶏糞)以上の添加菌が検出された。これより、本発明の動物用飼料添加剤に用いるバチルス属細菌を含有する動物用飼料添加剤は、胃や腸の消化管内で死滅することなく、腸内で増殖し、動物の体重増加を促進することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胆汁酸耐性、耐酸性、耐熱性であるバチルス属細菌を含有する動物用飼料添加剤。
【請求項2】
バチルス属細菌が、さらに有機酸を産生する能力を有することを特徴とする、請求項1に記載の動物用飼料添加剤。
【請求項3】
バチルス属細菌が、バチルス・エスピー(Bacillus sp.)COR−24 FERM AP−20643菌株、バチルス・エスピー(Bacillus sp.) POT−23 FERM AP−20644菌株、バチルス・エスピー(Bacillus sp.) SPI−37 FERM AP−20645菌株、バチルス・エスピー(Bacillus sp.) BUT−6A12 FERM AP−20666菌株又はこれらの変異株である請求項1又は2に記載の動物用飼料添加剤。
【請求項4】
バチルス属細菌が、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)NBRC
12198菌株又はこの変異株である請求項1又は2に記載の動物用飼料添加剤。
【請求項5】
バチルス・エスピー(Bacillus sp.) COR−24 FERM AP−20643菌株、バチルス・エスピー(Bacillus sp.) POT−23 FERM AP−20644菌株、バチルス・エスピー(Bacillus sp.) SPI−37 FERM AP−20645菌株、バチルス・エスピー(Bacillus sp.) BUT−6A12 FERM AP−20666菌株又はこれらの変異株。

【公開番号】特開2007−117004(P2007−117004A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−314505(P2005−314505)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】