説明

胸腺間質性リンホポエチンを使用する、新生物の処置および診断

本発明は、一般に、哺乳動物のサイトカイン分子および関連する試薬の使用に関する。より具体的には、本発明は、癌の処置において使用され得る哺乳動物のサイトカイン様タンパク質およびそのインヒビターの同定に関する。本発明はまた、胸腺間質性リンホポエチン(TSLP)を投与することによる腫瘍の処置を提供する。本発明はさらに、サンプルと、抗TSLPまたは抗TSLPレセプターとを接触させ、抗体−抗原複合体の形成を検出することによる、新生物の診断を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2003年7月18日に出願された、米国仮特許出願番号60/488,263(これは、その全体が本明細書中に参考として援用される)の利益を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、一般に、哺乳動物のサイトカイン分子および関連する試薬の使用に関する。より具体的には、本発明は、癌の処置において使用され得る哺乳動物のサイトカイン様タンパク質およびそのインヒビターの同定に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
癌は、通常は、変異の活性化または非活性化の結果として、一連の十分に規定された工程で生じる、進行性疾患である。これらの変異はしばしば、増殖細胞を、自律成長性にし、成長阻害シグナルに対して非感受性にし、最終分化、老化もしくはアポトーシスのプログラムに対して抵抗性にし、さらに、これらに、無制限の自己再生能力、組織化する能力、および持続的な脈管新生を命令する能力、ならびに異所性の組織環境下で浸潤および成長する能力を与える(例えば、HanahanおよびWeinberg(2000)Cell 100:57−70を参照のこと)。
【0004】
哺乳動物の免疫応答は、一連の複雑な細胞相互作用(「免疫ネットワーク」と呼ばれる)に基づく。最近の研究は、このネットワークの内部の仕組みに新しい洞察を提供している。この応答の多くが、実際に、リンパ球、マクロファージ、顆粒球および他の細胞のネットワーク様の相互作用を中心に展開することが明らかなままである一方、免疫学者は、現在、一般に、リンホカイン、サイトカインまたはモノカインとして知られる可溶性タンパク質が、これらの細胞相互作用の制御において重要な役割を果たすという見解を保持している。
【0005】
リンホカインは、種々の方法で細胞の活動を媒介する。これらは、多能性の造血幹細胞の、複雑な免疫系を形作る多様な細胞系統を含む、膨大な数の前駆体への増殖、成長、および分化を支持することが示されている。細胞構成要素間の適切かつバランスの取れた相互作用は、健常な免疫応答に必須である。
【0006】
近年、マウスの胸腺間質性細胞株からクローン化された新規のIL−7様サイトカインが、胸腺間質性リンホポエチン(lymphoietin)(TSLP)として同定された(例えば、J.E.Simsら(2000)J.Exp.Med.192:671−680;9月24日、200に出願された米国出願番号09/963,347;ならびに配列番号1および2を参照のこと)。TSLPの活動は、IL−7の活動と重なり合う;両方とも、胸腺細胞および成熟なT細胞を刺激し、そして、胎仔の肝臓および骨髄性リンパ球前駆体の培養物において、Bリンパ球産生を促進する。TSLPに対するレセプターが、IL−7−R−α鎖および一般的なγ様レセプター鎖から構成されるヘテロ二量体であることがまた見出されている(例えば、Recheら(2001)J.of Immunol.167:336−343;Y.Tonozukaら(2001)Cytogenet Cell Genet.93:23−25;A.Pandeyら(2000)Nat.Immunol.1:59−64;L.S.Parkら(2000)J.Exp.Med.192:659−670;ならびに配列番号3、4、5および6を参照のこと)。
【0007】
癌の発症および転移は、局所的な新生物の成長、および侵襲、その後の遠位部位への普及および再構築を含む多段階プロセスである。新生物または腫瘍は、細胞のトランスフォーム、ならびに間質性細胞および免疫系の細胞の浸潤から構成され得る。腫瘍が転移する能力は、癌患者の死亡率の主要な決定要因である。TGF−βは、腫瘍の抑制および進行の両方に関係していると考えられている(例えば、Oftら(2002)Nat.Cell Bio.4:487−494を参照のこと)。
【0008】
転移と先天性免疫と癌との間の関係を媒介する分子および細胞の機構の多くは、未解決のままである。腫瘍におけるTGF−βの発現は、転移の形成を促進する。本発明は、TSLPがTGF−βにより抑制されると示唆する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
本発明は、免疫モジュレーターであるTSLPの発現が、腫瘍の進行の間に減少し、そして、外因性のTSLPの追加が、腫瘍の退行を生じるという発見に基づく。
【0010】
本発明は、新生物を調節する方法を提供し、この方法は、有効量のTSLPまたはそのアゴニストを新生物に接触させる工程を包含する。新生物は、癌性であり、そして上皮由来の腫瘍であり、これらとしては、乳房腫瘍、結腸腫瘍、肺腫瘍、卵巣腫瘍または前立腺腫瘍が挙げられる。特定の実施形態において、調節は、腫瘍拒絶による腫瘍の進行の阻害である。この腫瘍拒絶は、腫瘍サイズの縮小または転移能の喪失であり得る。さらなる実施形態において、新生物は、樹状細胞を含み得、そして、アゴニストは、TSLPのムテイン、低分子またはアゴニスト抗体であり得る。
【0011】
本発明はさらに、新生物に罹患する患者を処置する方法を提供し、この方法は、有効量のTSLPまたはそのアゴニストを被験体に投与する工程を包含する。新生物は、上皮由来の癌性腫瘍であり、これらは、乳房腫瘍、結腸腫瘍、肺腫瘍、卵巣腫瘍、または前立腺腫瘍であり得る。
【0012】
また、本発明により提供されるのは、新生物の発症を予防する方法であり、この方法は、有効量のTSLPまたはそのアゴニストを被験体に投与する工程を包含する。新生物は、上皮由来の癌性腫瘍であり、これらは、乳房腫瘍、結腸腫瘍、肺腫瘍、卵巣腫瘍、または前立腺腫瘍であり得る。特定の実施形態において、TSLPまたはそのアゴニストは、ワクチンアジュバントとして投与され得る。
【0013】
本発明はまた、新生物を診断する方法を提供し、この方法は、被験体からの生物学的サンプルを、抗体:抗原複合体の形成に適切な条件下で、TSLPまたはTLSPR抗体と接触させて、この複合体を検出する工程を包含する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(詳細な実施形態の説明)
(I.定義)
句「TSLP」とは、配列番号1および配列番号2の核酸およびアミノ酸をいう。「TSLPR」は、2つのサブユニット、TSLPRおよびIL−7α(配列番号4および6)から構成される。このサブユニットは、TSLPRおよびIL−7αの核酸(配列番号3および5)によりコードされる。
【0015】
句「有効量」とは、症状または病状の徴候を寛解するために十分な量を意味する。代表的な哺乳動物宿主としては、マウス、ラット、ネコ、イヌ、およびヒトを含む霊長類が挙げられる。特定の患者についての有効量は、処置される状態、患者の全身的な健康状態、投与の方法、経路および用量、ならびに、副作用の重篤度のような因子に依存して変化し得る。組み合わされる場合、有効量は、成分の組み合わせに対する比であり、効果は、個々の成分単独に限定されない。
【0016】
治療の有効量は、代表的には、少なくとも約10%;通常は、少なくとも約20%;好ましくは、少なくとも約30%;またはより好ましくは、少なくとも約50%症状を減少する。本発明は、本明細書中の他の箇所(例えば、上記の徴候に関連する障害を処置するための一般的な説明において)で説明されるような治療適用における用途を見出す試薬を提供する。Berkow(編)The Merck Manual of Diagnosis and Therapy,Merck & Co.,Rahway,N.J.;Thornら、Harrison’s Principles of Internal Medicine,McGraw−Hill,NY;Gilmanら(編)(1990)Goodman and Gilman’s:The Pharmacological Bases of Therapeutics,第8版,Pergamon Press;Remington’s Pharmaceutical Sciences,第17版(1990),Mack Publishing Co.,Easton,Penn;Langer(1990)Science 249:1527−1533;Merck Index,Merck & Co.,Rahway,New Jersey;およびPhysician’s Desk Reference(PDR);Cotranら(編),前出;ならびにDaleおよびFederman(編)(2000)Scientific American Medicine,Healtheon/WebMD,New York。
【0017】
句「新生物」とは、比較的自律性の組織の新規成長により生成または誘引された、細胞の異常な塊もしくはコロニーおよび/または浸潤性の細胞を意味する。浸潤性の細胞は、樹状細胞、T細胞およびB細胞であり得る。新生物の多くは、新生物トランスフォーメーションを受けた単一の細胞のクローン性拡大から生じる。正常な細胞から新生物細胞へのトランスフォーメーションは、細胞のゲノムを直接かつ不可逆的に変える、化学的、物理的または生物学的な因子(または事象)により引き起こされ得る。新生物細胞は、いくつかの特化した機能の喪失、および新しい生物学的特性の獲得、そして最も重要なのは、比較的自律性(制御不能)の成長の特性によって特徴付けられる。新生物細胞は、その遺伝性の生物学的特徴を、子孫細胞に与える。
【0018】
新生物の、過去、現在、および未来の予測される生物学的挙動または臨床的経過は、良性または悪性、診断、処置および予後における大きな重要性の区別としてさらに分類される。悪性の新生物は、より大きな自律性の程度を表し、浸襲性かつ転移性拡散が可能であり、処置に対して抵抗性であり得、そして、死をもたらし得る。両性の新生物は、より小さな自律性の程度を有し、通常は浸襲性ではなく、転移せず、そして、一般に、適切に処置される場合は、大きな損害を生じない。
【0019】
句「腫瘍進行の阻害」とは、腫瘍の状態に依存して、腫瘍細胞の成長、浸襲、または転移を停止することをいう。これは、腫瘍の進化に必要な全ての工程(新脈管形成および脈管新生を含む)を網羅すべきである。
【0020】
句「転移能または転移」とは、癌が身体の一部分から別の部分へと拡がるプロセスをいい、原発性腫瘍として最初に生じた位置から、体内の遠隔地へと移動する過程をいう。
【0021】
転移が生じる程度は、腫瘍の個々のタイプで変化する。黒色腫、乳癌、肺癌、直腸癌および前立腺癌は、癌のタイプの中でも、転移する傾向のあるものである。転移が起こると、転移は、体内の種々の部位で形成され得、リンパ節、肺、肝臓、脳および骨髄が、より一般的な部位である。
【0022】
句「ムテイン」すなわち新規な変異タンパク質は、ポリペプチドのフラグメント、誘導体およびアナログを含む。当業者に公知の組換えDNA技術が、単一または複数のアミノ酸置換、欠失、付加または融合タンパク質を含む、新規な変異タンパク質すなわちムテインを作製するために使用され得る。このような修飾されたポリペプチドは、例えば、増強された活性または増加した安定性を示し得る。さらに、これらは、より高い収率で精製され得、そして、少なくとも特定の精製および保存条件下では、対応する天然のポリペプチドよりも良好な溶解性を示す。
【0023】
癌の文脈において句「ワクチンアジュバント」とは、単独で、または異なるサイトカイン、非特異的な刺激因子、全細胞腫瘍、もしくは抗原提示細胞(例えば、樹状細胞)と組合せてのいずれかで使用されるペプチドをいう(例えば、Kochmanら(1999)Current Medical Research and Opinion,15:321−326およびJagerら(2002)Current Opinion in Immunol.,14:178−182およびMendelsohnら;(2001)The Molecular Basis of Cancer,第2版を参照のこと)。ワクチンアジュバントは、腫瘍の予防、寛解、または処置のために投与され得る。
【0024】
(II.概要)
胸腺間質性リンホポエチン(lymphopoietin)(TSLP)は、最初に、マウスにおいて発見され、初期のB細胞およびT細胞の発生の支援において、そのホモログであるIL−7と同じ役割を果たすことが見出されている(例えば、J.E.Sims,前出;S.D.Levinら,前出;およびR.J.Rayら,前出)。TSLPは、新規の上皮細胞由来のサイトカインであり、これは、樹状細胞(DC)媒介性のCD4T細胞およびCD8T細胞の応答を誘導する。TSLP活性化CD 11cDCは、CD8T細胞を強力に活性化および拡大させ、そして、乏しい触媒活性を示すインターロイキン(IL)−5およびIL−13産生エフェクターへのそれらの分化を誘導する。TSLP活性化DCの追加CD40L誘因(triggering)は、大量のインターフェロン(IFN)−γを産生する一方で、IL−5およびIL−13を産生するその能力は保持した、強力な細胞溶解活性を有するCD8T細胞を誘導した。TSLPは、T細胞応答の開始因子としての役割を果たすことが見出されており、CD40L発現細胞が、TSLPと協同して機能し得ることを示唆している(例えば、Gillietら(2003)J.Exp.Med.197:1059−1063)。本発明は、TSLPが新生物の発生における重大なメディエーターであるという驚くべき結果に基づく。
【0025】
TSLPを分析した最近の研究は、ナイーブなCD8T細胞を活性化し、IL−15およびIL−13産生T細胞へと分化させるDCの能力に対して、強力な効果を有することを示唆する(例えば、Gillietら(2003)J.Exp.Med.197:1059−1063)。DCの活性化は、腫瘍に対するT細胞媒介性応答の病因論における重大な段階であるようである。T細胞疾患を誘導するためのDCのシグナル伝達の根底にある分子機構は、明白には理解されていない。TSLPがマウス扁平上皮細胞株B9により高度に発現されているという本知見は、TSLPが癌を理解する上で重要な因子であることを示唆している。マウスモデルでの研究は、TSLPが腫瘍抑制において果たす役割を確認する。
【0026】
マウス扁平上皮細胞株B9および派生株であるRS1(これは、過剰発現され、活性化されたSmad2およびH−rasを保有する)を、炎症性サイトカインであるTSLPのmRNA発現レベルについて研究した。B9細胞株は、高いレベルのTSLPを発現するが、RS1細胞株は、強力に減少したTSLPのレベルを発現することが観察された。さらなる研究は、TSLPの発現を観察するために、免疫能のあるマウスに腫瘍細胞を与えることによってなされた。
【0027】
TSLPの発現レベルを、種々の正常組織および腫瘍保有組織において測定した。TSLP発現は、近位の胸部癌腫組織と比較した場合、正常な胸部組織においてわずかに高かった。同様の結果が、正常な結腸、肺、卵巣および前立腺の癌組織、ならびに、近位の結腸癌組織、肺癌組織、卵巣癌組織および前立腺癌組織について観察された。興味深い観察は、ヒト腫瘍細胞が、トランスフォームされていないその対応する細胞カウンターパートと比較した場合に、有意に減少した量のTSLPを発現したことであった。
【0028】
発癌物質で処理した(DMBA(部位特異的発癌物質)およびTPA(腫瘍プロモーター))マウスの皮膚におけるTSLP発現は、5時間および24時間の時点で最初に上昇し、その後、より後の時点で、コントロールレベル、またはコントロールレベルより下に落ち、重ねて、増殖性障害の進行が、TSLP発現の下降と一致することを実証している。
【0029】
TSLPとIL−7とは、同様のシグナル伝達機構に関与することが、示されている。両方とも、転写因子であるStat5のチロシンリン酸化を伴う。IL−7媒介性シグナル伝達は、JanusキナーゼであるJak1およびJak3の活性化を介して生じるが、TSLPは、いずれの酵素も活性化することができない。しかし、TSLPは、代わりに、Jak2と相互作用し得る。TSLPの機能的レセプターであるTSLPRは、活性化された場合に、Stat5およびStat3の両方のリン酸化をもたらすことが、さらに示された(例えば、Recheら(2001)J.Immunol.167:336〜343参照)。
【0030】
インビボでの腫瘍拒絶モデルにおいて、Ep−ラット細胞によりマウスにおいて誘発された腫瘍は、mTSLPを含むアデノウイルス(Ad−TSLP)の単回投与によって、またはmTSLPタンパク質の複数回投与によって、処置された。両方の場合において、mTSLPは、コントロール(Ad−GFPまたはPBS)処置と比較した場合に、腫瘍増殖を有意に阻害したようであった。このデータは、TSLPが、樹立した腫瘍に対する免疫応答の再活性化によっておそらく引きこされる、強力な腫瘍拒絶活性を示すことを示す。
【0031】
上記のように、炎症は、腫瘍進行の重要な構成要素であるようである。なぜなら、多くの癌が、感染症の領域、慢性刺激の領域、および炎症の領域で生じるからである。腫瘍微小環境は、新生物プロセス、増殖の促進、生存の促進、および移動の促進に対する必須関与事項である。この微小環境は、炎症細胞により主として調整されるようである。炎症プロセスおよび内皮増殖因子活性におけるTSLPの重要な役割は、上記に提示されたデータと合わせると、当業者は、TSLP発現の調節およびTSLP活性の調節が腫瘍進行における重要な構成要素であることを、認識する。
【0032】
本発明は、TSLPの活性をアゴナイズすることによってTh2媒介性応答を増強するための、方法および試薬を提供する。この応答の増強は、免疫系の抑制に起因する障害(例えば、癌)の処置において有用である。TSLPによって誘発される樹状細胞活性の増強は、癌の処置において有用である。TSLPおよび/またはそのアゴニストはまた、ワクチンアジュバントとして有用である。
【0033】
(II.アゴニストおよびアンタゴニスト)
アゴニストは、全長サイトカインタンパク質であるTSLP(例えば、配列番号2参照のこと)を包含する。その配列のペプチドまたはその改変体は、レセプターシグナル伝達を誘導するために使用される。これらの改変体は、保存的置換され長い半減期を有する改変体を包含する。アゴニストは、ペグ化(PEG)によって、またはIgG抗体のFc部分でそのアゴニストをタグ化すること(例えば、Karmonos(2001)BioDrugs 15:705〜711参照)によって、より長い半減期を有するように改変され得る。両方の方法は、それ程速く分解しないことによって免疫応答を回避するための方法を提供する。例えば、そのアゴニストをPEGと結合体化すると、血漿からのそのタンパク質のクリアランスが有意に減少する。また、レセプターシグナル伝達を誘導する低分子も、企図される。
【0034】
抗体が、TSLPタンパク質(天然に存在する形態および組換え形態の両方の、種改変体、多型改変体、または対立遺伝子改変体、ならびにそのフラグメントを含む)の種々のエピトープに対して惹起され得る。さらに、抗体が、活性形態または不活性形態(ネイティブバージョンまたは変性バージョンを含む)のいずれかで、TSLPに対して惹起され得る。抗イディオタイプ抗体もまた、企図される。
【0035】
抗原の所定のフラグメントに対する抗体(結合フラグメントおよび単鎖バージョンを含む)が、そのフラグメントと免疫原性タンパク質との結合体で動物を免疫することによって、惹起され得る。モノクローナル抗体が、望ましい抗体を分泌する細胞から調製される。これらの抗体は、正常TSLPもしくは欠損TSLPに対する結合についてスクリーニングされ得るか、またはアゴニスト活性もしくはアンタゴニスト活性(例えば、レセプターを介して媒介される)についてスクリーニングされ得る。
【0036】
TSLP抗体はまた、診断適用において有用であり得る。捕捉抗体または非中和抗体として、これらは、レセプターへの結合を阻害することなく抗原に結合する能力について、スクリーニングされ得る。中和抗体として、これらは、競合結合アッセイにおいて有用であり得る。これらはまた、TSLPタンパク質またはそのレセプターを検出もしくは定量する際に有用である(例えば、Chan編(1987)Immunology:A Practical Guide,Academic Press,Orlando,FL;PriceおよびNewman編(1991)Principles and Practice of Immunoassay,Stockton Press,N.Y.;ならびにNgo編(1988)Nonisotopic Immunoassay,Plenum Press,N.Y.参照のこと)。交差吸収、除去、または他の手段によって、規定された選択性(例えば、独特の種特異性または共有された種特異性)の調製物が提供される。これらは、種々の抗原群を同定する試験の基礎であり得る。
【0037】
さらに、本発明の抗体(抗原結合フラグメントを含む)は、その抗原に結合し、そして例えば、生物学的応答を惹起し得るレセプターへの機能的結合を阻害する、強力なアンタゴニストであり得る。これらはまた、非中和抗体として有用であり得、毒素または放射性核種と結合され得、その結果、その抗体が抗原に結合した場合には、その抗原を(例えば、表面上に)発現する細胞が、死滅する。さらに、これらの抗体は、薬物または他の治療剤に、直接にか、またはリンカーによって間接的に、結合体化され得、そして薬物標的化をもたらし得る。
【0038】
競合結合形態の免疫アッセイが、交差反応性決定のために使用され得る。本発明の抗体はまた、診断適用において有用であり得る。捕捉抗体または非中和抗体として、これらは、レセプターへの結合を阻害することなく抗原に結合する能力について、スクリーニングされ得る。中和抗体として、これらは、競合結合アッセイにおいて有用であり得る。これらはまた、TSLPタンパク質またはそのレセプターを検出もしくは定量する際に有用である(例えば、Chan編(1987)Immunology:A Practical Guide,Academic Press,Orlando,FL;PriceおよびNewman編(1991)Principles and Practice of Immunoassay,Stockton Press,N.Y.;ならびにNgo編(1988)Nonisotopic Immunoassay,Plenum Press,N.Y.参照のこと)。交差吸収、除去、または他の手段によって、規定された選択性(例えば、独特の種特異性または共有された種特異性)の調製物が提供される。これらは、種々の抗原群を同定する試験の基礎であり得る。
【0039】
各TSLPに対して惹起された抗体はまた、抗イディオタイプ抗体を惹起するために有用である。これらは、個々の抗原の発現に関連する種々の免疫学的状態を検出または診断する際に有用である。
【0040】
(III.治療組成物および診断方法)
サイトカイン(例えば、IL−7、IL−12、またはIL−23)、そのアンタゴニストおよびアゴニストが、通常は非経口的(好ましくは静脈内)に投与される。そのようなタンパク質またはペプチドは、免疫原性であり得るので、これらは、好ましくは、従来の静脈内(IV)投与セットによってか、または皮下蓄積物(depot)(Tomasiら、米国特許第4,732,863号により教示される)からのいずれかによって、ゆっくり投与される。免疫学的反応を最小にするための手段が、適用され得る。低分子実体は、経口活性であり得る。
【0041】
非経口治療は、水性ビヒクル(例えば、水、生理食塩水、または緩衝化ビヒクル)中にて、種々の添加剤および/または希釈剤とともにかまたはこれらを伴わずに、投与され得る。あるいは、ワクチンアジュバントまたは懸濁物(例えば、亜鉛懸濁物)が、上記ペプチドを含むように調製され得る。そのような懸濁物は、皮下(SQ)注射または筋肉内(IM)注射のために有用であり得る(例えば、Avisら編(1993)Pharmaceutical Dosage Forms:Parenteral Medications,第2版,Dekker,NY;Liebermanら編(1990)Pharmaceutical Dosage Forms:Tablets,第2版,Dekker,NY;Lieberman編(1990)Pharmaceutical Dosage Forms:Disperse Systems,Dekker,NY;Fodorら(1991)Science 251:767〜773,Coligan編Current Protocols in Immunology;Hoodら,Immunology Benjamin/Cummings;Paul編,Fundamental Immunology;Academic Press;Parceら(1989)Science 246:243〜247;Owickiら(1990)Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 87:4007〜4011;ならびにBlundellおよびJohnson(1976)Protein Crystallography,Academic Press,New York参照のこと)。
【0042】
治療剤についての投与レジメンの選択は、いくつかの要因に依存し、その要因としては、その実体の血清代謝回転速度もしくは組織代謝回転速度、症状レベル、その実体の免疫原性、ならびに標的細胞の接近可能性、投与時期、上皮層を通っての吸収などが、挙げられる。好ましくは、投与レジメンは、受容可能な副作用レベルとともに、患者に送達されるその治療剤の量を最大にする。従って、送達される生物剤の量は、部分的には、特定の実体および処置される状態の重篤度に依存する。適切なサイトカイン用量または低分子用量を選択する指針は、標準的方法論を使用して決定される。
【0043】
適切な用量の決定は、臨床医によって、例えば、処置をもたらすかまたは処置をもたらすと予測されることが当該分野で公知もしくは予期されるパラメーターもしくは要因を使用して、なされる。一般的に、その用量は、最適用量にいくらか満たない量で始まる。この用量は、何らかの負の副作用と比較して望ましい効果または最適な効果が達成されるまで、その後少しずつ増加される。重要な診断指標としては、例えば、炎症の症状、または産生される炎症サイトカインのレベルが挙げられる。好ましくは、使用される生物剤は、処置の標的とされる動物と同じ種に由来し、それによって、その試薬に対する体液性応答を最小にする。
【0044】
抗体、抗体フラグメント、およびタンパク質またはポリペプチドが、連続注入によって、または例えば、1日間隔の投与、1週間間隔の投与、もしくは1週間当たり1〜7回の投与によって、提供され得る。投与は、静脈内に、皮下に、局所に、経口的に、鼻に、直腸に、筋肉内に、脳内に、または吸入によって、提供され得る。好ましい投与プロトコルは、望ましくない大きな副作用を回避する最大用量もしくは投与頻度を含むプロトコルである。全1週間量は、一般的には、約0.05μg/体重1kg、より一般的には少なくとも0.2μg/kg、最も一般的には少なくとも0.5μg/kg、代表的には少なくとも1μg/kg、より代表的には少なくとも10μg/kg、最も代表的には少なくとも100μg/kg、好ましくは少なくとも0.2mg/kgmより好ましくはすくなくとも1.0mg/kg、最も好ましくは少なくとも2.0mg/kg、必要に応じて少なくとも10mg/kg、より必要に応じて少なくとも25mg/kg、そして最も必要に応じて少なくとも50mg/kgである。例えば、Yangら(2003)New Engl.J.Med.349:427〜434;Heroldら(2002)New Engl.J.Med.346:1692〜1698;Liuら(1999)J.Neurol.Neurosurg.Psych.67:451〜456;Portieljiら(2003)Cancer Immunol.Immunother.52:133〜144を参照のこと。低分子治療剤(例えば、ペプチド模倣物、天然産物、または有機化学物質)の望ましい用量は、モル/kgベースにて、抗体またはポリペプチドについてとほぼ同じである。
【0045】
本発明はまた、症状(例えば、炎症に関連する症状)を軽減する公知の治療剤(例えば、ステロイド(特に、糖質コルチコイド))または抗生物質もしくは抗感染剤と組合せて生物剤を投与することを提供する。糖質コルチコイドについての一日投与量は、少なくとも約1mg/日、一般的には少なくとも約2mg/日、好ましくは少なくとも約5mg/日の範囲にある。一般的には、その投与量は、約100mg未満/日、代表的には約50mg未満/日、好ましくは約20mg未満/日、より好ましくは少なくとも約10mg/日である。一般に、その範囲は、少なくとも約1mg/日〜約100mg/日、好ましくは約2mg/日〜50mg/日である。適切な用量と、抗生物質、抗感染剤、または抗炎症剤との組合せもまた、公知である。
【0046】
TSLPまたはTSLPRに特異的に結合する抗体は、TSLPまたはTSLPRの発現によって特徴付けられる状態もしくは疾患の診断のために、またはTSLPアゴニスト、TSLPアンタゴニスト、TSLPインヒビター、もしくはTSLPRアゴニスト、TSLPRアンタゴニスト、TSLPRインヒビターで処置されている患者をモニターするためのアッセイにおいて、使用され得る。診断目的のために有用な抗体は、治療剤について上記された様式と同じ様式で調製され得る。TSLPまたはTSLPRについての診断アッセイは、ヒトの体液または細胞抽出物もしくは組織抽出物においてTSLPもしくはTSLPRを検出するために、上記抗体および標識を利用する方法を包含する。この抗体は、改変して使用され得るか、または改変せずに使用され得、そしてその抗体を共有結合もしくは非共有結合のいずれかによってレポーター分子と結合することによって標識され得る。当該分野で公知である広汎な種類のレポーター分子が使用され得、それらのレポーター分子のうちのいくつかは、上記に記載されている。
【0047】
TSLPまたはTSLPRについての種々のプロトコル(ELISA、RIA、およびFACSが挙げられる)が、当該分野で公知である。これらのプロトコルは、変化したTSLP発現レベルもしくは変化したTSLPR発現レベル、または異常なTSLP発現レベルもしくは異常なTSLPR発現レベルを診断するための基礎を提供する。TSLP発現もしくはTSLPR発現に関する正常な値もしくは標準的な値は、正常な哺乳動物被験体(好ましくはヒト)から採取した体液もしくは細胞抽出物を、TSLPに対する抗体もしくはTSLPRに対する抗体と、複合体形成のために適切な条件下で合わせることによって、確立される。標準的な複合体形成の量は、種々の方法によって定量され得るが、好ましくは、光度測定手段によって定量され得る。コントロール被験体および疾患被験体、生検組織から得たサンプルにおいて発現される、TSLPもしくはTSLPRの量が、上記の標準的値と比較される。標準値と被験体の値との間の偏差によって、疾患を診断するためのパラメーターが確立される。使用され得るポリヌクレオチドとしては、オリゴヌクレオチド配列、相補的RNA分子および相補的DNA分子、ならびにPNAが挙げられる。このポリヌクレオチドは、TSLPもしくはTSLPRの発現が疾患と相関し得る生検組織における遺伝子発現を検出および定量するために、使用され得る。この診断アッセイは、TSLPもしくはTSLPRの発現が存在しないことと、これらの発現の存在と、これらの過剰な発現との間を区別するため、そして治療介入の間のTSLPレベルもしくはTSLPRレベルの調節をモニターするために、使用され得る。
【0048】
一局面において、TSLPもしくはTSLPRまたは密接に関連する分子をコードするポリヌクレオチド配列(ゲノム配列が挙げられる)を検出可能なPCRプローブを用いるハイブリダイゼーションが、TSLPもしくはTSLPRをコードする核酸配列を同定するために、使用され得る。このプローブの特異性(そのプローブが非常に特異的な領域(例えば、5’調節領域中の10個の独特のヌクレオチド)から作製されたか、それ程特異的ではない領域(例えば、特に3’コード領域中の領域)から作製されたかに関わらない))ならびにハイブリダイゼーションもしくは増幅のストリンジェンシー(最大のストリンジェンシー、高ストリンジェンシー、中程度のストリンジェンシー、もしくは低ストリンジェンシー)は、そのプローブがTSLPもしくはTSLPRをコードする天然に存在する配列、対立遺伝子、もしくは関連配列のみを同定するか否かを決定する。プローブはまた、関連配列の検出のために使用され得る。プローブは、好ましくは、TSLPコード配列もしくはTSLPRコード配列のいずれかからのヌクレオチドのうちの少なくとも50%を含む。本発明のハイブリダイゼーションプローブは、DNAであってもRNAであってもよい。このプローブは、配列番号1のヌクレオチド配列に由来し得るか、または天然に存在するTSLPもしくはTSLPRのゲノム配列(プロモーター、エンハンサーエレメント、およびイントロンを含む)に由来し得る。
【0049】
TSLPもしくはTSLPRをコードするDNAに対して特異的なハイブリダイゼーションプローブを作製するための手段は、TSLPもしくはTSLPRの核酸配列またはその誘導体を、mRNAプローブの作製のためのベクター中にクローニングすることを包含する。そのようなベクターは、当該分野で公知であり、市販されており、そしてそのベクターは、適切なRNAポリメラーゼおよび適切な標識ヌクレオチドを付加することによって、インビトロでRNAを合成するために使用され得る。ハイブリダイゼーションプローブは、種々のレポーター基(例えば、放射性核種(例えば、32Pもしくは35S)または酵素標識(例えば、アビジン/ビオチンカップリング系を介してプローブに結合した、アルカリホスファターゼ)など)によって、標識され得る。
【0050】
抗体、およびTSLPまたはTSLPRをコードするポリヌクレオチド配列は、TSLPまたはTSLPRの発現と関連する状態または障害の診断のために使用され得る。このような状態または障害の例としては、癌腫、白血病、リンパ腫、黒色腫、骨髄腫、肉腫、および奇形癌、ならびに、特に副腎、膀胱、骨、骨髄、脳、乳房、頸、胆嚢、神経節、胃腸管、心臓、腎臓、肝臓、肺、筋肉、卵巣、膵臓、副甲状腺、陰茎、前立腺、唾液腺、皮膚、脾臓、精巣、胸腺、甲状腺、および子宮の癌が挙げられる。TSLPもしくはTSLPRをコードするポリヌクレオチド配列は、サザン分析もしくはノーザン分析、ドットブロット、または他の膜ベースの技術において;PCR技術において;あるいはTSLPもしくはTSLPR発現を検出するために患者の生検に由来する流体もしくは組織を利用する、ディップスティックアッセイ、ピンアッセイ、ELISAアッセイもしくはマイクロアレイにおいて使用され得る。このような定性的方法または定量的方法は、当該分野で周知である。
【0051】
癌に関して、個体からの生検組織中の比較的多量の転写物の存在は、その疾患の発症についての素因を示し得るか、または実際の臨床的症状の出現の前にその疾患を検出するための手段を提供し得る。この型のより決定的な診断により、保険専門家が、より早期に予防的措置または集中的な処置を採用することが可能になり、このことにより、癌の発症またはさらなる進行が予防され得る。
【0052】
本発明の広い範囲は、以下の実施例を参照して最もよく理解される。以下の実施例は、本発明をその具体的実施形態に限定するとは意図されない。
【実施例】
【0053】
(I.一般的方法)
標準的方法のいくつかが、例えば、以下に記載され、参照される:Maniatisら(1982)Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Press;Sambrookら(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第2版),vols.1−3,CSH Press,NY;Ausubelら,Biology Greene Publishing Associates,Brooklyn,NY;またはAusubelら(1987および補遺)Current Protocols in Molecular Biology,Greene/Wiley,New York。タンパク質精製の方法としては、硫酸アンモニウム沈殿法、カラムクロマトグラフィー、電気泳動、遠心分離、結晶化など(例えば、Ausubelら(1987および定期的補遺);Deutscher(1990)「Guide to Protein Purification」Meth.Enzymol.,vol.182およびこのシリーズの他の巻;ならびにタンパク質精製製品の使用に関する製造業者の文献(例えば、Pharmacia,Piscataway,N.J.,またはBio−Rad,Richmond,CA)を参照のこと)のような方法が挙げられる。組換え技術との組み合わせは、適切なセグメントに(例えば、プロテアーゼで除去可能な配列を介して融合され得るFLAG配列または等価物に(例えば、Hochuli(1990)「Purification of Recombinant Proteins with Metal Chelate Absorbent」Setlow(編)Genetic Engineering,Principle and Methods 12:87−98,Plenum Press,N.Y.;およびCroweら(1992)QIAexpress:The High Level Expression & Protein Purification System QIAGEN,Inc.,Chatsworth,CAを参照のこと)対する融合を可能にする。
【0054】
コンピューター配列分析は、例えば、入手可能なソフトウェアプログラム(GCG(U.Wisconsin)およびGenBank供給源からのものを含む)を用いて行われる。公的な配列データベースもまた、使用した(例えば、GenBankなどから)
(II.ヒト腫瘍細胞株および正常細胞株におけるTSLP発現)
ヒト癌腫細胞株を選択した。これらの細胞株は、NCI 60パネル(http://dtp.nci.nih.gov/docs/misc/common_files/cell_list.html、A.Monksら,J.Natl.Cancer Inst.(1991)83,757.)の一部であるか、または文献において共通して使用されていた。各器官または系からの対応する正常細胞型を、ATCC、Cascade biologics(Portland,OR)またはClonetics(Division of Biowhittaker,Walkersville,MD)から入手した。各場合において、これらは、正常細胞、非形質転換細胞、非不死化細胞、および黒色腫細胞株のための正常コントロールとして供するための、特定の解剖学的領域の代表的な細胞型(例えば、線維芽細胞、メラノサイトおよびケラチノサイト)、乳房癌腫細胞株のための正常コントロールとして供するための正常乳腺上皮細胞などであった。
【0055】
細胞を、標準的な増殖条件下で組織培養において増殖させ、次いで、回収した。総RNAを、標準的なグアニジウムイソチオシアネート/塩化セシウム勾配を用いて単離した(Sambrook,J.,Fritsch EF,Maniatis T:Molecular Cloning:A Laboratory Manual.New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)。総RNAを、DNaseでの処理に供して、あり得るゲノムDNA夾雑物を排除した。DNase処理した総RNAを、製造業者の説明書に従って、Superscript II(Gibco/BRL)を用いて逆転写した。プライマーを、Primer Express(PE Biosystems,Foster City,CA)を用いて設計した。各サンプルからの50ngのcDNAに対するリアルタイム定量的PCRを、ABI 5700機器を用いたPerkin Elmer SYBR greenリアルタイム定量的PCRアッセイを用いて行った。ユビキチンレベルもまた、各サンプルについて測定し、RNAの出発量を正規化するために使用した。この値は、ユビキチンに対して正規化されたデータを示す。
【0056】
(III.形質転換マウス腫瘍細胞におけるTSLP mRNAの発現の分析)
H−Ras形質転換マウスケラチノサイト細胞株PDVおよびH−Ras形質転換マウス乳腺細胞株EP2を、5ng/ml TGFβ1(R&D systems)で5日間処理したか、または未処理のままにした。mRNAを、RNeasyカラム(Qiagen)(例えば、Oftら,(1996)Genes and Dev.10:2462−2477を参照のこと)を用いて調製した。
【0057】
B9扁平上皮癌細胞ならびに変異H−rasおよびmSmad2の活性化変異体を安定して過剰発現するそれらの誘導物(例えば、Oftら(2002)Nature Cell Biol.4:487−494を参照のこと)を、コンフルエントになるまで培養した。mRNAを、Qiagen RNAeasy RNA単離キットを用いて単離した。その後、そのRNAを、mTSLP RNA特異的プライマーを用いるリアルタイムPCRにより分析し、ユビキチンmRNAコントロールに対して正規化した。
【0058】
(IV.TSLP発現は、腫瘍継代(passage)の間に失われる)
このRas形質転換Balb/Cマウス乳腺上皮細胞株であるEP2を、ヌードマウスおよび同系Balb/Cマウスに注射した。腫瘍細胞を、その腫瘍から再び単離し、0.8mg/ml G418(Invitrogen)中で4日間にわたり選択した。mRNAを、上記のように単離した(例えば、Oftら(1996)Genes and Dev.10:2462−2477を参照のこと)。
【0059】
(V.TGFβは、上皮腫瘍細胞株においてTSLP mRNA発現を抑制する)
このEp2およびPDV(DMBA形質転換マウスケラチノサイト)細胞株を、60%コンフルエントで培養した。細胞を、5ng/ml TGFβ1で、連続3日間にわたって処理した。この細胞を掻き取り、遠心し、液体窒素中ですぐに急速凍結した。TSLP mRNAを単離し、mTSLP特異的RNAプライマーを用いるリアルタイムPCRにより発現分析を行った。発現レベルを、ユビキチンmRNAコントロールに対して正規化した。
【0060】
(VI.TSLP mRNA発現および腫瘍の進行)
Ras形質転換上皮細胞を、腫瘍が1cm容積に達した後で再選択した同系マウスに皮下注射した(例えば、Oftら(1996)Genes & Devel.10:2462−2477を参照のこと)。全ての細胞を、90% コンフルエントになるまで培養した。細胞を掻き取り、遠心し、すぐに液体窒素中で急速凍結した。mRNAを単離し、その後、リアルタイムPCRにより分析した。発現の値を、ユビキチンmRNAコントロールに対して正規化した。
【0061】
(VII.腫瘍増殖およびTSLP mRNA発現)
1×10 EPXB腫瘍細胞を皮下注射することにより、免疫能のあるBalb/Cマウスで腫瘍を誘導した。続いて、この実験群に、体重減少後、0.5mgのTSLPを1週間に2回注射した(例えば、Oftら,(1996)Genes and Dev.10:2462−2477を参照のこと)。
【0062】
(VIII.発癌物質で処置したマウス皮膚におけるTSLP mRNA発現)
C57B/6/129マウスを、各200μl アセトン中の50μg DMBAまたは30μg TPA、あるいはアセトン単独(コントロール)で背中に局所的に処置した。種々の時点(すなわち、DMBAについては0.5時間、24時間、48時間および120時間;ならびにTPAについては0.5時間、24時間、および72時間)で、同じマウスから、小さな組織生検物を回収した。その標本を、液体窒素中ですぐに急速凍結した。その後、mRNAを抽出し、mTSLP RNA特異的プライマーを用いるリアルタイムPCRにより分析し、ユビキチンmRNAコントロールに対して正規化した。
【0063】
(IX.TSLPおよび腫瘍耐性)
初代NHEK細胞(Clonetics,Cambrex)を、規定されたケラチノサイト増殖培地(Invitrogen)中で5継代にわたって培養した。その細胞を、60%コンフルエントで、GFPを発現するアデノウイルス(MOI 100)に感染させたかまたは未処理のままにした。その細胞を掻き取り、遠心し、すぐに液体窒素中で急速凍結した。続いて、そのRNAを抽出し、hTSLP RNA特異的プライマーを用いるリアルタイムPCRにより分析し、ユビキチンmRNAコントロールに対して正規化した。TSLP mRNA発現は、アデノウイルス感染ケラチノサイトにおいて有意な発現の増大を示した。
【0064】
上記のインビトロデータが、インビボの状況へと移し変えられるか否かを試験するために、10 Ep−ras細胞を、同系のBalb/Cマウスに皮下注射した。腫瘍サイズが200mmに達したときに、mTSLPまたはGFPを発現するアデノウイルスを1010粒子/マウスで尾静脈に注射した。別個に、mTSLPタンパク質またはPBS(コントロール)もまた、1日目から18日目にいくつかの時点で尾静脈に注射した(5μgを1週間に3回)。両方ともに、腫瘍サイズを30日間にわたって測定した。
【0065】
(X.配列識別子のリスト)
配列番号1 ヒトTSLP核酸配列
配列番号2 ヒトTSLPアミノ酸配列
配列番号3 ヒトIL−7Rα核酸配列
配列番号 4 ヒトIL−7Rαアミノ酸配列
配列番号 5 ヒトTSLPR核酸配列
配列番号 6 ヒトTSLPRアミノ酸配列。
【0066】
本明細書の全ての引用は、各個々の刊行物または特許出願が、具体的にかつ個々に参考として援用されることが示されるかのように、本明細書に参考として援用される。
【0067】
本発明の多くの改変および変形例が、当業者に明らかなように、本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく行われ得る。本明細書に記載される具体的実施形態は、例示として提供されているに過ぎず、本発明は、添付の特許請求の範囲の用語によって、およびこのような特許請求の範囲によって権利付与される等価物の全範囲で限定されるべきである;そして本発明は、例示によって本明細書に示された具体的実施形態によって限定されるべきでない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
新生物を調節する方法であって、該方法は、該新生物と、有効量のTSLPまたはそのアゴニストとを接触させる工程を包含する、方法。
【請求項2】
前記新生物は腫瘍である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記腫瘍は癌性の腫瘍である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記新生物は、上皮由来の腫瘍である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記上皮由来の腫瘍は、以下:
a)乳房腫瘍;
b)結腸腫瘍;
c)肺腫瘍;
d)卵巣腫瘍;または
e)前立腺腫瘍、
である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記調節は、腫瘍進行の阻害である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記腫瘍進行の阻害は、腫瘍拒絶である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記腫瘍拒絶は、以下:
a)腫瘍サイズ縮小;または
b)転移能の喪失、
からなる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記新生物は、樹状細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記アゴニストは、以下:
a)TSLPのムテイン;
b)低分子;または
c)アゴニスト抗体、
である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
新生物に罹患している被験体を処置する方法であって、該方法は、有効量のTSLPまたはそのアゴニストを該被験体に投与する工程を包含する、方法。
【請求項12】
前記新生物は腫瘍である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記腫瘍は癌性の腫瘍である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記新生物は、上皮由来の腫瘍である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記上皮腫瘍は、以下:
a)乳房腫瘍;
b)結腸腫瘍;
c)肺腫瘍;
d)卵巣腫瘍;または
e)前立腺腫瘍、
である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
新生物の発生を予防する方法であって、該方法は、有効量のTSLPまたはそのアゴニストを該被験体に投与する工程を包含する、方法。
【請求項17】
前記新生物は腫瘍である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記腫瘍は癌性の腫瘍である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記新生物は、上皮由来の腫瘍である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記上皮腫瘍は、以下:
a)乳房腫瘍;
b)結腸腫瘍;
c)肺腫瘍;
d)卵巣腫瘍;または
e)前立腺腫瘍、
である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記TSLPまたはそのアゴニストは、ワクチンアジュバントととして投与される、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
被験体における新生物を診断する方法であって、該方法は、該被験体に由来する生物学的サンプルと、抗TSLP抗体または抗TLSPR抗体とを、抗体:抗原複合体の形成に適した条件下で接触させる工程;および該複合体を検出する工程、を包含する、方法。

【公表番号】特表2007−534623(P2007−534623A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520375(P2006−520375)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【国際出願番号】PCT/US2004/022928
【国際公開番号】WO2005/007186
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(596129215)シェーリング コーポレイション (785)
【氏名又は名称原語表記】Schering Corporation
【Fターム(参考)】