説明

脂環式化合物およびその製造方法

【課題】電子材料、光学材料等として良好な物性を有する新規な樹脂材料とその原料単量体となる新規の脂環式化合物および当該新規脂環式化合物の製造方法を提供すること。
【解決手段】特定の構造を有する脂環式化合物;シクロペンタジエンに一般式(2):CH=CHCOOR(式中、Rは、−CHCFCFまたは−CHCH(CFCFで表される官能基を表す。)で表される化合物を反応させることを特徴とする当該新規脂環式化合物の製造方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規脂環式化合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子材料、光学材料の分野では、各種性能を向上させるべく、種々の新規材料が検討されている。特に、脂環式化合物については、電子材料、光学材料等の分野で優れた特性が期待できるため、研究開発が行われている。
本願人も先に種々の新規脂環式化合物を提案している(例えば、特許文献1、2参照)が、さらなる高性能を付与しうる材料が求められている。一方、ペルフルオロアルキル基による電気的、光学的特長の付与は広く知られるところである。しかしながら、ペルフルオロアルキル基をもつ化合物については、分解性、蓄積性の面から毒性が懸念されており、特に、ペルフルオロオクタンスルホン酸やペルフルオロオクタン酸などの炭素数6をこえるものには何らかの残留性があるとされている。よって、炭素数の少ないペルフルオロアルキル基を使用する事は環境負荷および安全性の面から重要である。
【0003】
【特許文献1】特許第3102282号公報
【特許文献2】特許第3304638号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、電子材料、光学材料等として良好な物性を有する新規な樹脂材料とその原料単量体となる新規の脂環式化合物および当該新規脂環式化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、脂環式化合物について鋭意検討したところ、電子材料、光学材料として良好な物性を有することが期待できる新規な樹脂材料の原料単量体となる化合物および当該化合物を製造する方法を見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、一般式(1):
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、Rは、−CHCFCFまたは−CHCH(CFCFで表される官能基を表す。)で表される新規脂環式化合物;シクロペンタジエンに一般式(2):CH=CHCOOR(式中、Rは、−CHCFCFまたは−CHCH(CFCFで表される官能基を表す。)で表される化合物を反応させることを特徴とする当該新規脂環式化合物の製造方法;一般式(3):
【0008】
【化2】

【0009】
(式中、Rは、−OH、ハロゲン基または−OR(Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)で表される官能基を示す。)で表される脂環式化合物と、一般式(4):R−OH(式中、Rは、−CHCFCFまたは−CHCH(CFCFで表される官能基を表す。)で表されるアルコールを反応させることを特徴とする当該新規脂環式化合物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の新規脂環式化合物は、重合性官能基を有するため、従来の電子材料、光学材料等に新規な特性を容易に組み込むことができるものである。また、当該化合物の重合体は、電子材料、光学材料等として良好な物性を有するものと期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の新規脂環式化合物は、前記一般式(1)で表されるものである。当該化合物は、Rが−CHCFCFで表される化合物の場合は、常温(20℃)で液体の化合物である。また、Rが、−CHCH(CFCFで表される化合物の場合は、常温(20℃)で液体の化合物である。
【0012】
本発明の新規脂環式化合物は、例えば、シクロペンタジエンに一般式(2):CH=CHCOOR(式中、Rは、−CHCFCFまたは−CHCH(CFCFで表される官能基を表す。)で表される化合物を反応させることにより得られる。
一般式(2)で表される化合物は、特に限定されず公知の方法により合成したものを用いることができる。具体的には、例えば、CH=CHCOR(式中、Rは、−OH、ハロゲン基または−OR(Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)で表される官能基を表す。)とR−OH(式中、Rは、−CHCFCFまたは−CHCH(CFCFで表される官能基を表す。)で表される化合物を反応させる方法などを採用することができる。
シクロペンタジエンと一般式(2)で表される化合物の反応は、ディールスアルダー反応であり、一般的なディールスアルダー反応の反応条件を採用することができる。具体的には、シクロペンタジエン1モルに対し、一般式(2)で表される化合物を、0.1〜10.0モル程度使用し、反応温度を、−20〜300℃程度とすればよい。反応圧力は、特に限定されないが、通常、1〜20MPa程度とすることが反応を速やかに進行させることができるため好ましい。得られた反応物を、公知の方法で精製することにより、本発明の新規脂環式化合物が得られる。
【0013】
また、本発明の新規脂環式化合物は、前記一般式(3)で表される脂環式化合物と、一般式(4):R−OH(式中、Rは、−CHCFCFまたは−CHCH(CFCFで表される官能基を表す。)で表されるアルコールを反応させることによっても得られる。
【0014】
一般式(3)で表される化合物(Rが−OHまたは−ORのもの)は、シクロペンタジエンと、アクリル酸またはアクリル酸アルキルエステルなどをディールスアルダー反応させることにより得られる。ディールスアルダー反応の条件としては、公知の方法を採用することができ、具体的には、例えば、シクロペンタジエン1モルに対し、アクリル酸またはアクリル酸アルキルエステルなどを、0.1〜10.0モル程度使用し、反応温度を、−20〜300℃程度とすればよい。反応圧力は、特に限定されないが、通常、1〜20MPa程度とすることが反応を速やかに進行させることができるため好ましい。なお、Rがハロゲン基である一般式(3)で表される化合物は、例えば、Rが−OHである一般式(3)で表される化合物を調製した後に塩化チオニル等のハロゲン化剤を反応させることにより得られる。このようにして得られた一般式(3)で表される化合物は、そのまま次の反応に使用してもよいが、公知の方法により精製して用いてもよい。なお、精製する場合には、蒸留による方法を採用することが好ましい。
【0015】
得られた一般式(3)で表される化合物と、一般式(4)で表されるアルコールとの反応は、一般式(3)のRの官能基が何であるかにより、反応条件が変わるため、適宜、選択する必要がある。
【0016】
一般式(3)のRがOHの場合、当該反応はエステル化反応となる。このときの反応条件としては、特に限定されず、公知のエステル化反応の反応条件を採用することができる。具体的には、例えば、一般式(3)で表されるカルボン酸1モルに対し、一般式(4)で表されるアルコール0.5〜10モル程度を、公知のエステル化触媒と共に60〜150℃程度に加熱し、生成する水を除去しながら反応させれば良い。エステル化触媒にはパラトルエンスルホン酸などの有機酸、塩酸、硫酸などの無機酸などが挙げられる。また、必要に応じてエステル化剤として、例えば、N,N´−ジシクロヘキシルカルボジイミド、N−エチル−N´−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドなどを用いてもよい。なお、溶媒を使用する場合には、各成分と反応しないものを使用する必要がある。
【0017】
一般式(3)のRがハロゲンの場合、当該反応は酸塩化物とアルコールの求核置換反応となる。このときの反応条件としては、特に限定されず、公知の求核置換反応の反応条件を採用することができる。具体的には、例えば、一般式(3)で表される酸塩化物1モルに対し、一般式(4)で表されるアルコール1.0〜2.0モル程度を、−50〜100℃程度でトリエチルアミン、水素化ナトリウムなどの塩基の存在下で反応させれば良い。
【0018】
一般式(3)のRが−OR(Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)の場合、当該反応はエステル交換反応となる。このときの反応条件としては、特に限定されず、公知のエステル化反応の反応条件を採用することができる。具体的には、例えば、一般式(3)で表されるエステル化合物1モルに対し、一般式(4)で表されるアルコール0.5〜10モル程度を公知のエステル交換触媒と共に60〜150℃程度に加熱し、反応させれば良い。エステル交換触媒としては、例えば、パラトルエンスルホン酸などの有機酸、塩酸、硫酸などの無機酸、水酸化ナトリウム、カリウムエチラート、トリエチルアミン、などの塩基性触媒、テトラアルコキシチタンなどが挙げられる。
【0019】
このようにして得られた反応物を、公知の方法で精製することにより、本発明の新規脂環式化合物が得られる。
【実施例】
【0020】
以下に、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また、各化合物のスペクトル測定には、次の装置を使用した。
【0021】
NMR:GEMINI−300(Varian社製)
IR:NEXUS670(サーモエレクトロン社製)
ガスクロマトフィー(GC):GC6890(アジレント社製)
【0022】
実施例1

加圧反応容器に2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルアクリレート30gと重合禁止剤4−メトキシフェノール0.06gを仕込み、170℃まで加熱昇温した後に、内温167〜173℃を維持しながら、シクロペンタジエン9.7gを1時間20分かけて反応容器に仕込んだ。その後、同温度で12時間反応を行い、粗生成物を得た。精留塔を備えた蒸留装置に粗生成物を仕込んで圧力270Paで減圧蒸留精製を行う事により2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル−ビシクロ[2,2,1]ヘプト−5−エン−2−カルボキシレート12.0gを得た(収率30%)。得られた2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル−ビシクロ[2,2,1]ヘプト−5−エン−2−カルボキシレートは純度99.98%であった(GC法)。
【0023】
H−NMR(300MHz、溶媒CDCl3、δ(ppm)):1.31、1.48、1.94、2.32、2.93、3.03、3.25、4.42、4.56、5.92、6.15、6.23
【0024】
13C−NMR(300MHz、溶媒CDCl3、δ(ppm)): 29.17、30.39、41.67、42.52、42.82、43.01、45.79、46.33、46.59、49.67、58.62、58.99、59.36、131.97、135.48、138.16、173.06
【0025】
IR(neat、(cm-1)):712、776、838、953、1029、1075、1105、1148、1201、1273、1337、1358、1450、1756、2978
【0026】
実施例2
冷却管、温度計、滴下ロート、攪拌機を備えた反応容器に、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−5−エン−2−カルボキシリックアシッド15.0g、トルエン90.0g、ジメチルアミノピリジン2.7g、N,N´−ジシクロヘキシルカルボジイミド26.9g、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパノール17.9gを加え、室温で12時間攪拌した。反応終了後、ろ過し、ろ液を3%硫酸30ml、5%水酸化ナトリウム水溶液30ml、イオン交換水30mlで順次洗浄した。得られた有機層を、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた後、トルエンを減圧下で留去させ25.0gの粗生成物を得た。
得られた反応粗生成物を、精留塔を備えた蒸留装置に粗生成物を仕込んで圧力270Paで減圧蒸留精製を行う事により、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル−ビシクロ[2,2,1]ヘプト−5−エン−2−カルボキシレート18.5gを得た(収率57.3%)。H−NMR、13C−NMR、IR分析を行ったところ実施例1と同結果が得られた。
【0027】
実施例3
冷却管、温度計、攪拌機を備えた反応容器に、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−5−エン−2−カルボキシリックアシッド101.0g、トルエン101.0g、塩化チオニル104gを仕込み、80℃まで昇温し4時間反応させた。反応終了後、さらに120℃まで昇温し、未反応の塩化チオニルを留去させ、[2,2,1]ヘプト−5−エン−2−カルボニルクロライドのトルエン溶液を得た。
温度計、攪拌機を備えた反応容器に窒素雰囲気下でトルエン303g、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパノール125g、トリエチルアミン126gを仕込んだ。攪拌しながら、室温にて先に調製した[2,2,1]ヘプト−5−エン−2−カルボニルクロライドのトルエン溶液の全量を1時間かけて滴下し、そのまま2時間反応させた。この反応混合物を5%硫酸400g、5%炭酸水素ナトリウム水溶液400g、次いでイオン交換水400gで洗浄した。得られた有機層を、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた後、トルエンを減圧下で留去させ98gの粗生成物を得た。精留塔を備えた蒸留装置に粗生成物を仕込んで圧力270Paで減圧蒸留精製を行う事により、88gの2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル−ビシクロ[2,2,1]ヘプト−5−エン−2−カルボキシレートを得た(収率39.1%)。H−NMR、13C−NMR、IR分析を行ったところ実施例1と同結果が得られた。
【0028】
実施例4

加圧反応器に3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシルアクリレート30.0g、ハイドロキノン0.06gを仕込み、170℃まで加熱昇温した後に、内温167〜173℃を維持しながら、シクロペンタジエン6.2gを1時間20分かけて反応容器に仕込んだ。その後、同温度で12時間反応を行い、粗生成物を得た。精留塔を備えた蒸留装置に粗生成物を仕込んで圧力10Paで減圧蒸留精製を行う事により3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル−ビシクロ[2,2,1]ヘプト−5−エン−2−カルボキシレート7.4gを得た(収率20.4%)。得られた3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル−ビシクロ[2,2,1]ヘプト−5−エン−2−カルボキシレートは純度99.81%であった(GC法)。
【0029】
H−NMR(300MHz、溶媒CDCl3、δ(ppm)):1.27、1.43、1.93、2.23、2.45、2.94、3.05、3.22、4.34、5.92、6.15、6.20
【0030】
13C−NMR(300MHz、溶媒CDCl3、δ(ppm)): 29.15、30.24、30.30、30.52、30.81、41.64、42.56、43.03、43.03、43.20、45.70、46.33、46.52、49.68、56.06、132.06、135.61、137.98、138.13、174.31
【0031】
IR(neat、(cm-1)):712、747、838、862、878、1017、1081、1112、1133、1169、1185、1199、1221、1298、1337、1740、2979
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の化合物は、透明性、耐熱性、耐水性、撥水性等に優れた特性を有し、電子材料、光学材料等に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される脂環式化合物。
一般式(1):
【化1】

(式中、Rは、−CHCFCFまたは−CHCH(CFCFで表される官能基を表す。)
【請求項2】
シクロペンタジエンに一般式(2):CH=CHCOOR(式中、Rは、−CHCFCFまたは−CHCH(CFCFで表される官能基を表す。)で表される化合物を反応させることを特徴とする請求項1に記載された脂環式化合物の製造方法。
【請求項3】
下記一般式(3)で表される脂環式化合物と、一般式(4):R−OH(式中、Rは、−CHCFCFまたは−CHCH(CFCFで表される官能基を表す。)で表されるアルコールを反応させることを特徴とする請求項1に記載された脂環式化合物の製造方法。
一般式(3):
【化2】


(式中、Rは、−OH、ハロゲン基または−OR(Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す。)で表される官能基を示す。)

【公開番号】特開2007−191399(P2007−191399A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−8238(P2006−8238)
【出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】