説明

脂肪吸引後の脂肪吸引物からの造血幹細胞の単離および精製

本発明は、脂肪組織から造血幹細胞を単離する方法に関する。この方法により、造血幹細胞を含む、顕著に多い数のCD34+、ALDHbrおよび/またはABCG2発現細胞が得られ、該細胞を増殖させることなく、または最少限で増殖させて使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪吸引後の脂肪吸引物からの造血幹細胞の単離および精製に関する。
【背景技術】
【0002】
造血幹細胞(HSC)は、血液および免疫細胞を形成する幹細胞であり、究極的には、生物の生涯を通して該生物における血液の定常的な再生を担う。HSCは、何十年もの間、研究の焦点であったが、現在では、特に、白血病、リンパ腫、遺伝性血液障害、および大規模化学療法計画後のHSCレスキューなどの多くの治療用途に日常的に用いられている。
【0003】
HSCは、成体生物の組織中に存在する多能性幹細胞の最も特性評価された例である。Trentinおよび共同研究者(Trentin, 1965, Cardiovasc. Res. Cent. Bull 4:38-4; Till & McCulloch, 1961, Rad. Res. 14:213-222)による独創的な研究においては、致死量の放射線を照射したマウスは、その循環する血液細胞を補給することができないため、死亡した。しかしながら、同系のドナー動物からの骨髄細胞の移植は、宿主動物を救った。このドナー細胞は、全ての循環する血液細胞を再生するのを担っていた。より最近では、骨髄移植を受容するヒトにおいて造血を再構成するのを担う細胞が、CD34抗原を発現する細胞(CD34+)のサブセット中に存在することが示された(Berensonら、1991, Blood 77: 1717-1722)。換言すれば、CD34+細胞は、造血幹細胞を含む。細胞表面の免疫表現型に依存しない造血幹細胞について富化された集団を同定および単離する他の方法が追跡されてきた。原始ヒト造血前駆細胞が、アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH)活性に基づいて単離された(Stormsら、1999, Proc. Natl. Acad. Sci. 96:9118-9123; Hessら、2004, Blood 104:1648-1655))。さらに、ヒトにおける移植は、ALDH活性(ALDHbr)および低い側方散乱(SSClo)を有する注入された細胞数と高度に相関している(Fallonら、2003, Br. J. Haematol. 122:99-108)。
【0004】
的確な研究の財産により、限定数の未分化の造血幹細胞の供与が、宿主動物中の8種以上の異なる血液細胞系列の各々を再生することができることが示された。この研究の大部分は、骨髄移植のための基礎、癌および代謝の先天異常のために幅広く受け入れられた治療様式を提供した。かくして、造血幹細胞は、生涯を通して正常なヒト骨髄中に存在したままである;それらは新生児期に限定されない。
【0005】
骨髄移植のために用いられる造血幹細胞(HSC)には現在3種の主要な起源:成体の骨髄、成体の末梢血、および子供の誕生後の臍帯血の単核画分が存在する。移植のために単離された細胞は、典型的には、成体の骨髄または末梢血から単離される。しかしながら、不利なことに、CD34+細胞は成体の骨髄中では極端に稀であり(約1〜2%)、成体に移植するのに十分な量のHSCを生成するためには、有意な容量の髄質を取得する必要がある。骨髄を取得するための手順は、骨髄ドナーにとって冗長で不愉快であり、骨髄の回収を可能にするためには長い入院を必要とする。典型的には、複数回のサイタフェレシス期間を必要とする、末梢血からのCD34+またはALDHbr細胞の単離は、ドナーにとってあまり不愉快ではないが、しかしながら、HSCを末梢血に動員するためには、ドナーにサイトカインを予め接種する必要がある。動員にも関わらず、末梢血中の、CD34+またはALDHbr細胞数、および結果として、HSCの数は、典型的には、依然として全く少ない。
【0006】
臍帯血(UCB)は、骨髄または動員された末梢血と比較して、CD34+細胞についていくらかより富化されているが(Wangら、1997, Blood 89:3919-3924)、臍帯において利用可能な少量の血液は、回収することができる移植可能なHSCの絶対数を制限し、UCBを元々予想されるものよりもあまり役に立たないものにしている。理論的には、複数の臍帯血サンプルをプールすることにより、十分な数のHSCを提供することができるが、しかしながら、プールすることは、臨床的な実用性においては難色が示されている。かくして、臍帯血由来CD34+細胞は、単離される必然的に少数のHSCが、完全に成長した成体に上手く移植するには少なすぎるため、成体におけるその有用性は限られている。この細胞数を増加させようとする増殖プロトコルが研究されてきた。しかしながら、典型的には、HSCの増殖は、実質的な分化と同時に起こるが、これは常に望ましいわけではない。
【0007】
造血前駆細胞は骨髄の微小環境に限定されないという多くの一連の証拠が存在する。University of Calgaryの研究者らは、神経細胞系列経路に沿って日常的に分化する神経幹細胞を試験した。これらの細胞を、致死量の放射線を照射した宿主に移植した場合、研究者らは、新しく産生された骨髄細胞およびリンパ系細胞におけるドナー細胞マーカーの存在を検出した(Bjornson, 1999, Science 283:534-537)。Baylor College of Medicineの研究者らは、マウス骨格筋から単離された衛星細胞を用いて同様の研究を行った(Jacksonら、1999, PNAS 96:14482-14486)。これらの筋肉由来細胞を、致死量の放射線を照射した宿主に移植した場合、研究者らは、全ての血液細胞系列において筋肉遺伝子マーカーの存在を検出した。同時に、これらの研究は、神経および筋肉組織は、造血分化を行うことができる幹細胞を含むことを示す。これは、骨髄以外の部位が、ヒト疾患治療への潜在的な用途を有する造血前駆細胞の再生可能な起源を提供し得ることを示唆している(Quesenberryら、1999, J. Neurotrauma 16:661-666: Scheffierら、1999, Trends Neurosci 22:348-357; Svendsen & Smith, 1999, Trends Neurosci 22:357-364)。
【0008】
より最近では、脂肪由来間質血管系画分(SVF)細胞が、致死量の放射線を照射したマウスにおいて主要な造血系列を上手く再構成することが示された(Cousinら、2003, Biochem. Biophys. Res. Commun. 301:1016-1022および米国特許公開第2004/0067218号)。脂肪組織から単離された、間葉間質幹細胞も、動員された末梢血から単離された、CD34+細胞と共に同時注入されたが、CD34+細胞の移植の成功を容易にすることが見出された(Kimら、2005, Biochem. Biophys. Res. Commun. 329(1) :25-31)。
【0009】
米国特許公開第2001/0033834号は、造血前駆細胞の少なくとも1個の特徴を発現するように分化した単離された脂肪由来間質細胞を開示している。また、後に造血細胞系列に分化させることができる、完全に機能的な多能性幹細胞に脱分化された脂肪由来間質細胞も開示されている。
【0010】
上記にまとめられた研究にも関わらず、治療および他の用途における使用のための造血幹細胞の豊富な起源の必要性が依然として存在する。本発明は、これらの必要性に取り組み、これを満たすものである。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、脂肪組織から造血幹細胞を単離する方法であって、脂肪組織を取得する工程;該脂肪組織から間質血管系画分(SVF)を調製する工程;およびSVF中の非接着細胞を単離する工程を含み、該非接着細胞が造血幹細胞を含む、前記方法を包含する。好ましくは、前記脂肪組織は、ヒトのものである。一実施形態においては、前記脂肪組織を、脂肪吸引物から取得する。
【0012】
一実施形態においては、造血幹細胞は、ALDHbrSSClo細胞、CD34+細胞、CD34+SSClo細胞、CD34+CD45+細胞、CD34+CD38-CD41-細胞、CD34+CD45-細胞、CD34+CD38-CD41-SSClo細胞、およびABCG2発現細胞からなる群より選択される。別の実施形態においては、造血幹細胞は、コロニー形成単位顆粒球マクロファージ(CFU-GM)、バースト形成単位赤血球(BFU-E)およびコロニー形成単位顆粒球赤血球マクロファージ巨核球(CFU-GEMM)からなる群より選択される。
【0013】
別の実施形態においては、造血幹細胞を単離するための方法はさらに、非接着細胞からCD34hi細胞を単離することを含む。別の実施形態においては、前記方法はさらに、非接着細胞からALDHbr細胞を単離することを含む。一態様においては、ALDHbr細胞は、ALDHbrSSCloである。
【0014】
本発明はまた、CD34+細胞を単離する方法であって、脂肪組織を取得する工程;該脂肪組織から間質血管系画分(SVF)を調製する工程;接着細胞からSVF中の非接着細胞を分離する工程;および該非接着細胞からCD34+細胞を単離し、それによってCD34+細胞を単離する工程を含む、前記方法を提供する。好ましくは、脂肪組織は、ヒトのものである。CD34+細胞を、約1ミリリットルの脂肪組織あたり、単離された少なくとも約1 x 105個のCD34+細胞の比率で単離する、前記方法に従って単離されたCD34+細胞を含む組成物が本発明により提供される。
【0015】
一実施形態においては、脂肪組織を、脂肪吸引物から取得する。一実施形態においては、SVFは、少なくとも約40%のCD34+細胞を含む。一態様においては、CD34+細胞を、約100 mlの脂肪組織あたり、単離された少なくとも約1 x 107個のCD34+細胞の比率で単離する。
【0016】
別の実施形態においては、CD34+細胞は、CD34+SSClo細胞、CD34+CD45+細胞、CD34hiCD38-CD41-細胞、CD34+CD38-CD41-SSClo細胞、CD34loCD45-細胞、CD34loCD45+細胞、CD34+ALDHbr細胞およびCD34+ALDHbrSSClo細胞からなる群より選択される。
【0017】
一実施形態においては、CD34+細胞を単離する方法はさらに、CD34hi細胞またはCD34lo細胞を単離することを含む。
【0018】
被験体に造血幹細胞を提供する方法も、本発明により提供される。この方法は、ドナー被験体から脂肪組織を取得する工程;該脂肪組織から間質血管系画分(SVF)を調製する工程;SVF中の非接着細胞を単離する工程;該非接着細胞から造血幹細胞を単離する工程;および該非接着細胞に由来する治療上有効量の細胞を投与する工程;および治療上有効量の造血幹細胞を、それを必要とするレシピエント被験体に投与する工程を含む。好ましくは、ドナー被験体およびレシピエント被験体はヒトである。一実施形態においては、ドナー被験体およびレシピエント被験体は、同じヒトである。別の実施形態においては、ドナー被験体およびレシピエント被験体は、同じヒトではない。
【0019】
造血幹細胞を提供する方法の一実施形態においては、造血幹細胞はCD34+であり、脂肪組織100 mlあたり、単離された少なくとも約1 x 107個のCD34+細胞の比率で単離する。
【0020】
前記方法の一実施形態においては、前記取得工程は、脂肪吸引術を含む。別の実施形態においては、前記単離工程は、ALDHbrSSClo細胞またはCD34+CD38-CD41-SSClo細胞を単離することを含む。
【0021】
少なくとも約40%の非接着性間質血管系画分(SVF)CD34+細胞を含む単離された細胞の組成物が、本発明により提供される。一実施形態においては、単離された細胞は、少なくとも約20%のCD34+CD45-細胞を含む。別の実施形態においては、間質血管系画分を、ヒト脂肪組織から取得する。一実施形態においては、CD34+細胞は、CD34+CD38-CD41-ALDHbr細胞を含む。別の実施形態においては、CD34+細胞は、CD34+CD38-CD41-SSClo細胞を含む。さらに別の実施形態においては、CD34+細胞は、コロニー形成単位顆粒球マクロファージ(CFU-GM)、バースト形成単位赤血球(BFU-E)およびコロニー形成単位顆粒球赤血球マクロファージ巨核球(CFU-GEMM)を含む。別の実施形態においては、前記細胞を遺伝的に改変する。
【0022】
また、少なくとも約10%の非接着性間質血管系画分(SVF)ALDHbr細胞を含む単離された細胞の組成物も提供される。一実施形態においては、前記組成物は、少なくとも約15%の非接着性SVF ALDHbr細胞を含む。一実施形態においては、ALDHbr細胞は、ALDHbrSSClo細胞である。好ましくは、SVFを、ヒト脂肪組織から取得する。
【0023】
本発明の組成物の1つおよび製薬上許容し得る担体を含む医薬組成物も提供される。
【0024】
図面の簡単な説明
本発明を例示するために、本発明の特定の実施形態を図面に記載する。しかしながら、本発明は、図面に記載された実施形態の正確な配置および手段に限定されない(図面の簡単な説明については別節を参照)。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、脂肪組織の非接着性間質血管系画分(SVF)から単離されたCD34+細胞の様々なサブ集団に関するフローサイトメトリー光散乱データの一連のプロットである。中央パネルにおける4個の囲まれたサブ集団中の数は、そのサブ集団が表す全細胞の割合を表す。2個の左側および2個の右側のパネルにおいては、ゲート化された集団を、黒い点としてプロットし、ゲート化されない集団を灰色密度としてプロットする。SSC-H=側方散乱光;FSC-H=前方散乱光。
【図2】図2は、脂肪組織の非接着性SVFから単離されたCD34+細胞の2つの主要な集団(低い側方散乱光および高い側方散乱光)についてのCD38およびCD41の発現に関するフローサイトメトリーデータの一連のプロットである。右側の2つのプロットは、低い側方散乱光CD34+細胞のものである。
【図3】図3は、脂肪組織の非接着性SVFから単離されたCD34+細胞の2つの主要な集団についてのCD31、CD105およびCD90の発現に関するフローサイトメトリーデータの一連のプロットである。右側の3つのプロットは、低い側方散乱光CD34+細胞のものである。
【図4】図4は、Methocult(登録商標)(Stem Cell Technologies)培養の14日目のBFU-Eコロニーの画像である。このコロニーは、20,000個の非接着性SVF細胞の培養後に観察された(100倍)。
【図5】図5は、20,000個の非接着性SVF細胞の培養後14日目の2個のBFU-Eコロニーの画像である(100倍)。
【図6】図6は、20,000個の非接着性SVF細胞の培養後14日目のCFU-GMコロニーの画像である(100倍)。
【図7】図7は、20,000個の非接着性SVF細胞の培養後14日目のCFU-GEMMコロニーの画像である(100倍)。
【図8】図8(図8Aおよび8Bを含む)は、非接着性SVF細胞におけるABCG2発現を表す一連の2つの画像である。図8Aは、非接着性SVF細胞の光散乱特性のプロットである。一般的には、非接着性SVF細胞中のABCG2発現細胞は区別される領域に認められる(丸で囲った部分)。図8Bは、非接着性SVF細胞に関するABCG2発現データのグラフである。これらのデータは、約16%の非接着性SVF細胞がABCG2発現細胞であることを示している。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、部分的には、脂肪組織の間質血管系画分(SVF)中の非接着細胞が、HSC同定のための重要なマーカーであるCD34+細胞、ALDHbr細胞、ALDHbrSSClo細胞およびABCG2発現細胞について富化されているという観察に基づいている。さらに、これらの細胞は、多能性造血前駆細胞ならびに系列拘束された造血前駆細胞を含むことが示されている。かくして、本発明は、脂肪組織から造血幹細胞を単離する方法を提供する。
【0027】
定義
特に指摘しない限り、本明細書で用いられる全ての技術および科学用語は、一般的には、本発明が属する当業者により一般的に理解されるものと同じ意味を有するものとする。一般的には、本明細書で用いられる命名法ならびに細胞培養、分子遺伝学、有機化学、ならびに核酸化学およびハイブリダイゼーションにおける実験室手順は、当業界でよく知られ、一般的に用いられるものである。
【0028】
標準的な技術を、核酸およびペプチド合成に用いる。一般的には、前記技術および手順を、当業界における従来の方法および種々の一般的な参考文献(例えば、SambrookおよびRussell, 2001, Molecular Cloning, A Laboratory Approach, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY、ならびにAusubelら、2002, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York, NY)(本明細書を通して提供される)に従って実施する。
【0029】
冠詞「a」および「an」は、1個または2個以上(すなわち、少なくとも1個)の該冠詞の文法的目的語を指すように本明細書で用いられる。例えば、「an element」は、1個のエレメントまたは2個以上のエレメントを意味する。
【0030】
用語「約」は、当業者により理解され、それが用いられる文脈に基づいてある程度まで変化するであろう。
【0031】
本明細書で用いられる「in vitro」および「ex vivo」は、生きている生物の身体の外の条件を指すのに互換的に用いられる。かくして、in vitroでの培養およびex vivoでの培養は両方とも、生きている生物の身体の外での培養を指す。
【0032】
「脂肪」とは、任意の脂肪組織を指す。脂肪組織は、褐色、黄色または白色の脂肪組織であってよい。脂肪組織は、脂肪細胞および間質を含む。脂肪組織は、動物の身体を通して見出される。例えば、哺乳動物においては、脂肪組織は、網、骨髄、皮下空間、脂肪体(例えば、肩甲骨脂肪体または膝蓋下脂肪体)、および周囲の多くの器官に存在する。脂肪組織は、脂肪組織を有する任意の生物に由来するものであってよい。ヒト脂肪組織の便利で豊富な起源は、脂肪吸引術から誘導されるものである。しかしながら、脂肪組織の起源または脂肪組織の単離方法は、本発明にとって重要ではない。
【0033】
用語「脂肪組織由来細胞」とは、脂肪組織を起源とする細胞を指す。脂肪組織から得られた細胞は、一次細胞培養物、継代された培養物、または不死化された細胞系であってよい。脂肪組織から単離される最初の細胞集団は、限定されるものではないが、間質血管系画分(SVF)細胞などの不均質の細胞集団である。
【0034】
本明細書で用いられる用語「脂肪由来間質細胞」、「脂肪組織由来間質細胞」、「脂肪組織由来成体間質(ADAS)細胞」、または「脂肪由来幹細胞(ASC)」は互換的に用いられ、限定されるものではないが、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、筋肉およびニューロン/グリア細胞系列などの様々な細胞型に対する幹細胞様前駆細胞として役立ち得る脂肪組織を起源とする間質細胞を指す。ASCは、当業界で公知の標準的な培養手順を用いて脂肪組織の他の成分から分離することができる脂肪組織から誘導されるサブセット集団である。さらに、ASCを、当業界で公知の細胞表面マーカーに基づいて細胞の混合物から単離することができる。
【0035】
本明細書で用いられる用語「脂肪由来造血幹細胞」とは、CD34+、ALDHbr、SSClo、ABCG2発現能力および多能性造血前駆細胞能力からなる群より選択される1個以上のHSC特性を含む脂肪組織の間質血管系画分に存在する非接着細胞を指す。
【0036】
本明細書で用いられる「非接着細胞」とは、SVF細胞のための標準的な組織培養条件下で、組織培養フラスコに接着しない細胞を指す。当業者であれば、SVF細胞のための標準的な組織培養条件に通じているであろう。
【0037】
本明細書で用いられる「ALDHbr」とは、蛍光産物をもたらすALDH基質の細胞への投与後の、高レベルのALDHを発現する細胞の明るい細胞内蛍光を指す。ALDHbr細胞の検出は、当業界でよく知られている。さらに、ALDH発現細胞の同定において用いられる、ALDEFLUOR(登録商標)キット(StemCell Technologies, Vancouver, BC, Canada)は、市販されている。また、米国特許第5,876,956号も参照されたい。
【0038】
用語「前駆細胞(precursor cell)」、「前駆細胞(progenitor cell)」および「幹細胞」は、当業界では互換的に用いられ、本明細書では、潜在的に、非限定回数の有糸分裂を行って、自身を再生するか、または子孫細胞を産生し、所望の細胞型に分化することができる、多能性前駆細胞または系列が決まっていない前駆細胞を指す。多能性幹細胞とは対照的に、系列拘束された前駆細胞は、一般的には、互いに表現型が異なる多くの細胞型を生じることができないと考えられる。代わりに、前駆細胞は、1種またはおそらく2種の系列拘束された細胞型を生じる。
【0039】
本明細書で用いられる用語「多能的」または「多能性」は、幹細胞が2種以上の型の細胞に分化する能力を指すことを意味する。
【0040】
本明細書で用いられる「生体適合性」とは、哺乳動物に移植された場合、任意の材料が、哺乳動物において有害な応答を誘発しないことを指す。個体に導入された場合、生体適合性材料が、その個体に対して毒性的でも損傷的でもなく、該哺乳動物において該材料の免疫学的拒絶も誘導しない。
【0041】
本明細書で用いられる「自己移植」とは、材料を後に再導入することができる同じ個体から誘導された生物学的材料を指す。
【0042】
本明細書で用いられる「同種異系」とは、材料を導入することができる個体と同じ種の遺伝的に異なる個体から誘導された生物学的材料を指す。
【0043】
本明細書で用いられる「同系」とは、材料を導入することができる個体と遺伝的に同一の個体(例えば、一卵性双生児)から誘導された生物学的材料を指す。
【0044】
本明細書で用いられる場合、疾患、欠陥、障害または症状を「軽減する」ことは、該疾患、欠陥、障害または症状の1個以上の兆候の重篤度を減少させることを意味する。
【0045】
本明細書で用いられる場合、「治療する」ことは、疾患、欠陥、障害、または有害な症状などの兆候が患者により経験される頻度を減少させることを意味する。
【0046】
本明細書で用いられる場合、「治療上有効量」は、本発明の組成物を投与する個体に対して有益な効果を提供するのに十分な該組成物の量である。例えば、個体への細胞の投与に関して、「治療上有効量」は、細胞を投与する被験体に対して有益な効果を提供するのに十分である細胞の量である。
【0047】
「治療」処置は、少なくとも1個の兆候を治療または軽減するために少なくとも1個の病理兆候を示す被験体に投与される処置である。
【0048】
本明細書で用いられる用語「増殖培地」は、細胞の増殖を促進する培養培地を指すことを意味する。増殖培地は、一般的には、動物血清を含むであろう。いくつかの例においては、増殖培地は、動物血清を含まなくてもよい。
【0049】
本明細書で用いられる「分化培地」は、幹細胞、HSC、CD34+細胞、脂肪由来生体幹細胞または該培地中でインキュベートされた場合、完全には分化していない、他のそのような前駆細胞が、分化した細胞のいくつかまたは全部の特性を有する細胞に発達するような、添加物を含むか、または添加物を含まない増殖培地を指す。
【0050】
本明細書で用いられる「増殖因子」は、細胞の増殖、分裂および/または成熟を刺激する物質である。本発明において有用な増殖因子の非限定例としては、エリスロポエチン(EPO)、マクロファージコロニー刺激因子、トロンボポエチン(TPO)、増殖ホルモン(GH)、インターロイキン1-αおよび1-β、インターロイキン3(IL-3)、インターロイキン4(IL-4)、インターロイキン5(IL-5)、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン7(IL-7)、インターロイキン9(IL-9)、インターロイキン10(IL-10)、インターロイキン11(IL-11)、インターロイキン13(IL-13)、c-kitリガンド/幹細胞因子(SCF)、インスリン、インスリン様増殖因子、例えば、IGF-2、上皮増殖因子(EGF)、および線維芽細胞増殖因子(FGF)、例えば、FGF-1、FLT-3/FLK-2リガンド、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、ならびにマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)が挙げられる。典型的には、増殖因子を、ピコグラム/ml〜ミリグラム/mlレベルの濃度で用いる。
【0051】
細胞の「免疫表現型」は、本明細書では、細胞の表面タンパク質プロフィールに関して、細胞の表現型を指すように用いられる。
【0052】
「単離された細胞」とは、他の成分および/または組織もしくは哺乳動物中の細胞に天然で付随する細胞から分離された細胞を指す。
【0053】
本明細書で用いられる「実質的に精製された細胞」は、それがその天然の状態で関連する他の細胞型から精製された細胞である。
【0054】
「増殖能」は、本明細書では、増殖する、例えば、数が増加するか、または細胞の集団の場合、集団の倍増を受ける細胞の能力を指すように用いられる。細胞は、それらが細胞増殖および/または分裂を容易にする条件下で増殖培地中に置かれた場合、培養物中で増殖し、より大きい細胞集団をもたらす。
【0055】
「増殖」は、本明細書では、特に細胞の、類似する形態の再生または増加を指すように用いられる。すなわち、増殖は、より多数の細胞の産生を包含し、特に、単に細胞数を計数すること、細胞への3H-チミジンの取込みを測定することなどにより測定することができる。典型的には、細胞増殖の速度を、さもなければ倍加時間として知られる、細胞数が2倍になるのに必要な時間量により測定する。
【0056】
本明細書で用いられる「細胞培養」とは、生きている生物から取得した細胞を、制御された条件下で増殖させるプロセスを指す。
【0057】
「一次細胞培養物」とは、生物から直接取得された、および最初のサブ培養の前に取得された細胞、組織または器官の培養物を指す。
【0058】
本明細書で用いられる「二次培養」とは、1個の増殖容器から別の増殖容器への細胞の移動を指す。
【0059】
本明細書で用いられる「継代」とは、二次培養のラウンドを指す。かくして、細胞を二次培養する場合、それらを、継代されたものと呼ぶ。特定の集団の細胞、または細胞系は、それが継代された回数に対して言及されることもあるか、またはそれを特徴とする。例えば、10回継代された培養細胞集団を、P10培養物と呼ぶことができる。一次培養物、すなわち、組織からの細胞の単離後の最初の培養物を、P0と呼ぶ。1回目の二次培養後、この細胞を二次培養物(P1または継代1)と記載する。2回目の二次培養後、この細胞は三次培養物(P2または継代2)などになる。当業者であれば、継代期間中に多くの集団倍加が存在することを理解できるであろう;従って、培養物の集団倍加の数は、継代の数よりも多い。継代の間の期間中の細胞の増殖(すなわち、集団倍加の数)は、限定されるものではないが、播種密度、基質、培地、および継代間の時間などの多くの因子に依存する。
【0060】
本明細書で用いられる用語「非免疫原性」とは、混合リンパ球反応(MLR)中でin vitroまたはin vivoで、T細胞の増殖を誘導しない細胞の特性を指す。
【0061】
本明細書で用いられる「組織工学」とは、組織置換または再構築における使用のためにex vivoで組織を作製するプロセスを指す。組織工学は、生物工学材料および技術と共に、細胞、遺伝子または他の生物学的構成要素の取込みによる組織および器官の修復または置換に対する手法を包含する、「再生医学」の一例である。
【0062】
本明細書で用いられる「内因性」とは、生物、細胞または系の中で産生されるか、または生物、細胞または系の内側を起源とする任意の材料を指す。
【0063】
「外因性」とは、生物、細胞または系に導入されるか、または生物、細胞または系の外側で産生される任意の材料を指す。
【0064】
本明細書で用いられる用語「表現型特性」は、少なくとも1個の以下の特性:形態学的外見、特定のタンパク質の発現、限定されるものではないが、細胞質染色パターンなどの染色パターン、特定の細胞関連酵素活性、および物質で染色される能力を意味すると解釈されるべきである。
【0065】
「コードする」とは、ヌクレオチドの規定の配列(すなわち、rRNA、tRNAおよびmRNA)またはアミノ酸の規定の配列およびそれから得られる生物学的特性を有する生物学的プロセスにおける他のポリマーおよび大分子の合成のための鋳型として役立つ、遺伝子、cDNA、またはmRNAなどのポリヌクレオチド中のヌクレオチドの特定の配列の固有の特性を指す。かくして、遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳が、細胞または他の生物学的系においてタンパク質を産生する場合、その遺伝子は該タンパク質をコードする。両方のコード鎖、mRNA配列と同一であり、通常は配列表中に提供されるヌクレオチド配列、ならびに遺伝子またはcDNAの転写のための鋳型として用いられる非コード鎖を、タンパク質またはその遺伝子もしくはcDNAの他の産物をコードするものと呼ぶことができる。
【0066】
別途特定しない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、互いの縮重型であり、同じアミノ酸配列をコードする全てのヌクレオチド配列を含む。タンパク質およびRNAをコードするヌクレオチド配列は、イントロンを含んでもよい。
【0067】
「単離された核酸」とは、天然の状態でそれに隣接する配列から分離された核酸部分または断片、すなわち、通常はDNA断片に近接する配列、すなわち、それが天然のものであるゲノム中の断片に近接する配列から除去された該断片を指す。この用語はまた、核酸、すなわち、RNAもしくはDNAに天然で付随する他の成分または細胞中でそれに天然に付随するタンパク質から実質的に精製された該核酸にも適用される。従って、この用語は、例えば、ベクター中、自己複製するプラスミドもしくはウイルス中、または原核生物もしくは真核生物のゲノムDNA中に組み込まれるか、または他の配列とは関係なく個別の分子として(すなわち、PCRもしくは制限酵素消化により産生されたcDNAまたはゲノムもしくはcDNA断片として)存在する組換えDNAを含む。それはまた、さらなるポリペプチド配列をコードするハイブリッド遺伝子の一部である組換えDNAも含む。
【0068】
本発明の文脈においては、一般的に生じる核酸塩基に関する以下の省略形を用いる。「A」はアデノシンを指し、「C」はシトシンを指し、「G」はグアノシンを指し、「T」はチミジンを指し、および「U」はウリジンを指す。
【0069】
本明細書で用いられる語句「転写制御下」または「機能し得る形で連結された」とは、プロモーターが、RNAポリメラーゼの開始およびポリヌクレオチドの発現を制御する該ポリヌクレオチドに関して、正確な位置および方向にあることを意味する。
【0070】
本明細書で用いられる用語「プロモーター/調節配列」とは、プロモーター/調節配列に機能し得る形で連結された遺伝子産物の発現にとって必要である核酸配列を意味する。いくつかの例においては、この配列は、コアプロモーター配列であってよく、他の例においては、この配列は、エンハンサー配列および遺伝子産物の発現にとって必要である他の調節エレメントをも含んでもよい。プロモーター/調節配列は、例えば、組織特異的様式で遺伝子産物を発現するものであってよい。
【0071】
「構成的」プロモーターは、遺伝子産物をコードするか、または特定するポリヌクレオチドに機能し得る形で連結された場合、細胞のほとんどまたは全部の生理学的条件下で、該遺伝子産物の産生を引き起こすヌクレオチド配列である。
【0072】
「誘導的」プロモーターは、遺伝子産物をコードするか、または特定するポリヌクレオチドに機能し得る形で連結された場合、実質的に該プロモーターに対応する誘導因子が細胞中に存在する場合にのみ、該細胞中での該遺伝子産物の産生を引き起こすヌクレオチド配列である。
【0073】
「組織特異的」プロモーターは、遺伝子産物をコードするか、または特定するポリヌクレオチドに機能し得る形で連結された場合、実質的に細胞が該プロモーターに対応する組織型の細胞である場合にのみ、該細胞中での該遺伝子産物の産生を引き起こすヌクレオチド配列である。
【0074】
「ベクター」は、単離された核酸を含み、該単離された核酸を細胞の内部に送達するのに用いることができる物質の組成物である。限定されるものではないが、線状ポリヌクレオチド、イオン性もしくは両親媒性化合物と結合したポリヌクレオチド、プラスミドまたはウイルスなどの多くのベクターが公知である。かくして、用語「ベクター」は、自己複製するプラスミドまたはウイルスを含む。この用語はまた、核酸の細胞への導入を容易にする非プラスミドおよび非ウイルス化合物、例えば、ポリリジン化合物、リポソームなどを含むと解釈されるべきでもある。ウイルスベクターの例としては、限定されるものではないが、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクターなどが挙げられる。
【0075】
「発現ベクター」とは、発現させようとするヌクレオチド配列に機能し得る形で連結された発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクターを指す。発現ベクターは、発現にとって十分なシス作用エレメントを含む;発現のための他のエレメントを、宿主細胞により、またはin vitro発現系において供給することができる。発現ベクターとしては、組換えポリヌクレオチドを含むコスミド、プラスミド(すなわち、裸であるか、またはリポソーム中に含まれる)およびウイルスなどの、当業者には公知のもの全部が挙げられる。
【0076】
「組換えポリヌクレオチド」とは、天然では一緒に結合しない配列を有するポリヌクレオチドを指す。増幅されるか、または集合した組換えポリヌクレオチドを、好適なベクター中に含有させ、前記ベクターを用いて好適な宿主細胞を形質転換することができる。組換えポリヌクレオチドは、非コード機能(例えば、プロモーター、複製起点、リボソーム結合部位など)を果たし得る。
【0077】
本明細書で用いられる「血液障害」とは、被験体が、限定されるものではないが、単球、マクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、T細胞、B細胞、NK細胞、赤血球、巨核球および樹状細胞などの、少なくとも1つの型の成熟した機能的血液細胞を欠くか、またはその数が医学的に有意に減少した慢性または急性の任意の症状を指す。この症状は、慢性または急性であってよい。限定されるものではないが、化学的に誘導されるか、もしくは遺伝的に誘導されたものなどの、この症状の根本的な原因が公知であってよく、または根本的な原因は未知であるか、もしくは未確認のもの(すなわち、特発性のもの)であってよい。血液障害は、過剰増殖性障害および不十分な数の少なくとも1つの型の成熟血液細胞に付随するか、またはそれを特徴とする過少増殖性障害を包含する。
【0078】
「製薬上許容し得る担体」とは、医薬組成物の生物学的成分と適合し、レシピエントにとって有害ではない任意の担体、希釈剤または賦形剤を意味する。
【0079】
発明の説明
本発明においては、CD34+細胞、ALDHbr細胞およびABCG2発現細胞が、脂肪組織から多量に得られることが証明される。得られる細胞は、HSCに特徴的な様々なサブ集団を含むことがさらに示される。該サブ集団の非限定例としては、ALDHbrSSClo細胞、CD34+SSClo細胞、CD34+ALDHbr細胞、CD34+CD38-CD41-細胞、CD34+CD38-CD41-ALDHbr細胞、CD34+CD38-CD41-SSClo細胞、CD34+CD45-細胞、CD34+CD45+細胞、およびCD34+ALDHbrSSClo細胞が挙げられる。得られるCD34+細胞は、様々な多能性造血前駆細胞および系列が決まっている造血前駆細胞を含むことがさらに示される。かくして、本発明は、脂肪組織から、HSCを含む、CD34+細胞、ALDHbr細胞またはABCG2発現細胞の集団を高収率で単離する方法を提供する。本発明はさらに、一次培養物としてHSCの高度に富化された集団を得るために本発明の方法により単離された、HSCを含む、CD34+細胞、ALDHbr細胞またはABCG2発現細胞の組成物を提供する。本発明はさらに、HSCを必要とする被験体を治療する方法を提供する。従って、有利には、本発明の方法および組成物は、治療的処置における使用の前に、HSCを含む、単離されたCD34+細胞、ALDHbr細胞またはABCG2発現細胞の増殖の必要性を低下させるか、または排除する。
【0080】
脂肪組織は、多能性造血幹細胞の起源として、骨髄または臍帯血に対する有利な代替物を提供する。脂肪組織は容易に入手可能であり、多くの個体において豊富である。実際、肥満は米国における流行的割合の症状であり、50%を超える成人が、その身長および体重に基づく推奨される肥満度指数(BMI)を超えている。脂肪組織を、外来患者ベースで脂肪吸引により取得することができる。脂肪吸引は、美容効果を有する最小的に非侵襲的な手順であり、大部分の患者に受け入れられている。さらに、脂肪細胞は補給可能な細胞集団であることが良好に文書化されている。実際、同じ部位に時間と共に個体中に脂肪細胞の再発を見ることが一般的である。従って、脂肪組織除去の最初の美容効果を評価しない人でも、この手順に従うべきである。
【0081】
骨髄、末梢血および臍帯血などの伝統的な起源とは顕著に対照的に、脂肪組織はCD34+細胞、ALDHbr細胞およびABCG2発現細胞の豊富な起源であることが見出された。具体的には、本明細書では、ヒト脂肪組織から得られるSVF細胞は、HSCを含む、少なくとも約5%およびおそらく少なくとも約10%のCD34+細胞を含むことが示される。さらに、非接着性SVF細胞の少なくとも約40%〜約60%がCD34+であることが示される。非接着性SVF細胞の少なくとも約10%〜約20%がALDHbrであることが示される。また、非接着性SVF細胞の少なくとも約10%〜約20%がABCG2発現細胞であることが示される。これらの高い割合(%)は、中程度の量の脂肪組織から取得することができる、HSCを含む、顕著に高収率のCD34+細胞、ALDHbr細胞またはABCG2発現細胞を可能にする。本発明の方法の一実施形態においては、例えば、少なくとも約1 x 107個のCD34+細胞を、脂肪吸引手順に由来する約100ミリリットル(ml)の脂肪組織から単離することができる。対照的に、典型的には、100 mlの骨髄または臍帯血からは、約1〜2 x 106個のCD34+細胞が得られるに過ぎない。
【0082】
典型的な美容脂肪吸引手順は、約3〜約4リットルの脂肪吸引物を生成する。本発明の方法を用いて、この量の脂肪組織から、長時間の培養または増殖を要することなく、潜在的に少なくとも約3〜4 x 108個のCD34+細胞が得られるであろう。典型的なHSC移植手順においては、体重1キログラムあたり、約2 x 106個のCD34+細胞を、レシピエントに注入して、迅速な移植を達成する必要がある。従って、100 kgの人は、約2 x 108個のCD34+細胞を必要とする。かくして、1人分の脂肪吸引物からの収量は、潜在的に平均的なサイズの成人を治療し、移植するのに十分である。結果として、脂肪組織は、現在まで同定されたHSCの、最も臨床的に関連し、かつ最も豊富な起源であり得る。
【0083】
本発明の組成物および方法は、無数の有用な用途を有する。本発明の方法は、迅速に、および治療用途のために十分な数のHSCを達成するために、増殖または複数回の継代を必要とすることなく、HSCを含む大量のCD34+細胞、HSCを含むALDHbr細胞、またはHSCを含むABCG2発現細胞を調製するのに有用である。脂肪由来造血幹細胞の組成物を、個体における血液障害を軽減するか、または治療するための治療方法において用いることができる。この組成物および方法はまた、限定されるものではないが、HSCの増殖または分化に影響する化合物を同定することなどの研究目的で用いることもできる。
【0084】
I. 脂肪組織からのHSCの単離
本発明において有用な脂肪組織を、当業者には公知の任意の方法を用いて任意の哺乳動物から取得することができる。本発明の方法において脂肪組織の起源として有用な哺乳動物としては、限定されるものではないが、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ウマ、ネコ、非ヒト霊長類およびヒトが挙げられる。好ましくは、脂肪組織を、霊長類、およびより好ましくは、ヒトから単離する。好ましくは、脂肪組織は、皮下の白色脂肪組織である。脂肪組織の好ましい起源は、大網脂肪である。ヒトにおいては、典型的には、脂肪を脂肪吸引術により単離する。本発明の細胞をヒト被験者に移植しようとする場合、脂肪組織を、自己移植片を提供するように、同じ被験者から単離するか、または同系移植片を提供するように遺伝的に同一の兄弟姉妹(例えば、一卵性双生児)から単離するのが好ましい。しかしながら、あるいは、投与されるHSCは同種異系であってよい。
【0085】
本発明の一実施形態に従って、SVFのCD34+非接着細胞を単離することにより、脂肪由来HSCを単離する。別の実施形態においては、SVFのALDHbr非接着細胞を単離することにより、HSCを脂肪組織から単離する。一態様においては、脂肪由来HSCを含む、ALDHbrSSClo非接着性SVF細胞を単離する。別の実施形態においては、SVFのABCG2発現非接着細胞を単離することにより、脂肪由来HSCを単離する。
【0086】
脂肪組織からSVFを調製するための当業者には公知の任意の方法を、本発明の実施において用いることができる。例えば、そのような方法は、その全体が本明細書に組み入れられるものとする米国特許第6,153,432号に記載されている。典型的には、この脂肪組織を、0.01〜0.5%、好ましくは、0.04〜0.3%、最も好ましくは、約0.2%の濃度のコラゲナーゼ、0.01〜0.5%、好ましくは、0.04%、最も好ましくは、約0.2%の濃度のトリプシン;および/または0.5 ng/ml〜10 ng/mlの濃度のジスパーゼ;および/または有効濃度のヒアルロニダーゼもしくはDNase;ならびに約0.01〜2.0 mM、好ましくは、約0.1〜約1.0 mM、最も好ましくは、0.53 mMの濃度のエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)で;25℃〜50℃、好ましくは33℃〜40℃、最も好ましくは、37℃の温度で、10分〜3時間、好ましくは、30分〜1時間、最も好ましくは、45分間に渡って処理する。必要に応じて、細胞を、20μm〜800μm、より好ましくは、40〜400μm、最も好ましくは、70μmのナイロンまたはチーズクロスメッシュフィルターに通す。次いで、細胞を、培地中で直接的に、またはFicollもしくはPercollまたは他の粒子状勾配上での示差的遠心分離に供する。細胞を、100〜3000 X g、より好ましくは200〜1500 X g、最も好ましくは500 X gの速度で、1分〜1時間、より好ましくは、2〜15分間、最も好ましくは5分間、4〜50℃、好ましくは、20〜40℃、最も好ましくは約25℃の温度で遠心分離することができる。この細胞ペレットがSVFである。SVF細胞ペレットを塗布して、非接着細胞を取得する。
【0087】
SVFの非接着細胞を、最初に一定時間、培養装置中の間質細胞培地中でSVF細胞をインキュベートすることにより単離する。「一定時間」は、in vitroでの細胞の培養および接着細胞を接着させるのに好適な任意の時間であってよい。一実施形態においては、一定時間は、約12時間である。好ましい実施形態においては、一定時間は24時間である。培養装置は、in vitroで細胞を培養するのに一般的に用いられる任意の培養装置であってよい。好ましい培養装置は、培養フラスコであり、より好ましい培養装置はT-225培養フラスコである。塗布密度は、約10,000個の細胞/cm2〜約100,000個の細胞/cm2の範囲である。一実施形態においては、細胞を約50,000個の細胞/cm2およびその間の任意の全整数で培養フラスコ中に入れる。しかしながら、本発明は塗布密度によって制限されない。当業者であれば、日常的な実験を用いて好適な塗布密度を決定することができる。
【0088】
HSCを含む非接着細胞を、培養中の任意の時点で培養装置から回収する。非接着細胞を回収する非限定的方法は、培養装置から液体培地を回収することを含む。培地を、任意の時点で、SVF細胞の培養中に取替えてもよい;非接着性SVF細胞(および従って、HSC)を含む取り出された培地を、最初の継代トリプシン処理まで毎日回収することができる。好ましくは、間質細胞培地を、3〜4日毎に取替える。
【0089】
必要に応じて、接着画分に存在する、脂肪組織由来間質細胞(ASC)も、培養装置から取得する。ASCをすぐに用いるか、または凍結保存して、後の時点での使用のために保存することができる。脂肪組織由来間質細胞を、トリプシン処理、EDTA処理、または培養装置から接着細胞を取得するのに用いられる任意の他の手順により取得することができる。脂肪組織由来間質細胞を、HSCを受容する被験体に投与して、例えば、HSCの移植を補助する造血支援細胞を提供することができる。
【0090】
HSCを、当業者には公知の任意の方法により特性評価することができる。HSCの免疫表現型を、HSCのためのユニークな同定因子として役立つように活用することができる。すなわち、目的の細胞上のユニークな細胞表面マーカーを用いて、脂肪組織に由来する細胞の混合集団から、細胞の特定のサブ集団を単離することができる。HSCの表現型マーカーは、当業者にはよく知られており、文献中に豊富に公開されている。さらなる表現型マーカーは継続的に開示されているか、または過度の実験を行うことなく同定することができる。HSCに特異的ないくつかの表現型マーカーとしては、CD34、CD45、CD38lo/-、CD41およびABCG2が挙げられる。HSCに関する他の特性は、高いアルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDHbr)活性および低い側方散乱光(SSClo)である。HSCおよび様々な造血決定系列のための他のマーカーとしては、CD2、CD3、CD4、CD5、CD6、CD7、CD8、CD13、CD14、CD15、CD19、CD20、CD32、CD51、CD52、CD53、CD56、CD57、CD60、CD61、CD62L、CD65、CD72、CD73、CD81、CD82、CD83、CD90、CD99、CDlOO、CD117、TCR、P-セレクチン、HLA-DRなどが挙げられる。当業者であれば、公知の比色分析、蛍光、免疫化学、ポリメラーゼ連鎖反応、化学的または放射化学的方法が、系列特異的マーカーまたは酵素活性の存在または非存在を容易に確認することができることを認識するであろう。
【0091】
好ましくは、脂肪由来HSCは、CD34の細胞表面発現、高いALDH活性(ALDHbr)、光散乱特性(例えば、SSClo)および/またはABCG2発現を特徴とする。SVFから単離される非接着細胞は、少なくとも約10%のCD34+細胞、好ましくは、少なくとも約20%のCD34+細胞およびより好ましくは、少なくとも約40%のCD34+細胞を含む。SVFから単離される非接着細胞は、少なくとも約10%のALDHbr細胞、好ましくは、少なくとも約15%のALDHbr細胞およびより好ましくは、少なくとも約20%のALDHbr細胞を含む。SVFから単離される非接着細胞は、少なくとも約10%のABCG2発現細胞、好ましくは、少なくとも約15%のABCG2発現細胞およびより好ましくは、少なくとも約20%のABCG2発現細胞を含む。
【0092】
当業者であれば、細胞表面マーカーに特異的な抗体を、物理的支持体(すなわち、ストレプトアビジンビーズ)に結合させ、従って、これを用いて、その特異的細胞表面マーカーを有するHSCに結合させ、単離することができることをさらに理解できるであろう。HSCに特異的に結合する抗体の例としては、限定されるものではないが、抗CD34+抗体が挙げられる。結合後、結合したHSCを、例えば、限定されるものではないが、Dynabeads(登録商標)(Dynal Biotech, Brown Deer, WI)などの磁気ビーズを用いる磁気分離により、残存する細胞から分離することができる。Dynabeads(登録商標)の使用に加えて、MACS分離試薬(Miltenyi Biotec, Auburn, CA)を用いて、細胞の混合集団からHSCを取り出すことができる。あるいは、免疫表現型、光散乱特性、および/またはHSCの検出可能なHSCに特徴的な酵素産物の存在により、フローサイトメトリーに基づく細胞選別装置を用いる選別が可能になる。分離工程または細胞選別の結果として、HSCについて富化された、CD34+細胞、ALDHbr細胞および/またはABCG2発現細胞の集団が得られる。一実施形態においては、HSCの集団は、精製された細胞集団である。単離されたHSCを、さらに増殖させることなく、治療用途においてすぐに用いるか、または当業界で公知の技術を用いて凍結保存することができるか、または培養し、増殖させ、必要に応じて、本明細書に開示される方法もしくは従来の方法を用いてin vitroで分化させることができる。
【0093】
また、HSCを、コロニー形成アッセイを実施して、多能性および系列が決まっている造血前駆細胞を評価することにより特性評価することもできる。コロニー形成アッセイを実施するための当業者に公知の任意の方法を用いることができる。好ましくは、SVFから単離される非接着細胞中のHSCは、コロニー形成単位顆粒球マクロファージ(CFU-GM)、バースト形成単位赤血球(BFU-E)およびコロニー形成単位顆粒球赤血球マクロファージ巨核球(CFU-GEMM)を含む。
【0094】
ASCを培養するのに有用な培地を、本明細書では「間質細胞培地」と呼ぶ。HSCを培養するのに有用な培地を、本明細書では「造血幹細胞培地」と呼ぶ。細胞培養物中で線維芽細胞を支援することができる任意の培地を、間質細胞培地、造血幹細胞培地として、またはASCとHSCの同時培養のための培地として用いることができる。典型的には、間質細胞培地または造血幹細胞培地は、基本培地、血清および抗生物質/抗真菌剤を含む。間質細胞培地の非限定例は、DMEM/F 12 Ham's、10%ウシ胎仔血清(FBS)、100 U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン(Pen-Strep)および0.25μg/mlアンホテリシンBを含む培地である。造血幹細胞培地の非限定例は、DMEM、10%ウシ胎仔血清(FBS)、4 mM L-グルタミン、50 mg/mlペニシリンおよびストレプトマイシン、ならびにそれぞれ100 ng/mlのFlt-3リガンド、幹細胞因子ならびに巨核球増殖および発達因子(MGDF)を含む培地である。造血幹細胞培地の別の例は、2%FBSを含むIscove's培地である。この培地は、例えば、CFUアッセイのために細胞を希釈するのに有用である。しかしながら、ASCおよびHSCを、少なくとも1種の増殖因子、サイトカインまたはホルモンを補給し、抗生物質/抗真菌剤を補給しない基本培地中で培養することができる。
【0095】
本発明の方法に従うHSCの単離および増殖において有用な培地は、当業界で公知である。これらの培地はまた、ASCの単離および増殖においても有用である。本発明の方法において有用な基本培地の非限定例としては、最少必須イーグル培地、ADC-1、LPM(ウシ血清アルブミンを含まない)、F10(HAM)、F12(HAM)、DCCM1、DCCM2、RPMI 1640、BGJ培地(Fitton-Jackson Modificationを含むか、含まない)、基本イーグル培地(Earleの塩基剤を添加したBME)、ダルベッコの改変イーグル培地(血清を含まないDMEM)、Yamane、IMEM-20、Glasgow改変イーグル培地(GMEM)、Leibovitz L-15培地、McCoyの5A培地、M199培地(Earleの塩基剤を含むM199E)、M199培地(Hankの塩基剤を含むM199H)、最少必須イーグル培地(Earleの塩基剤を含むMEM-E)、最少必須イーグル培地(Hankの塩基剤を含むMEM-H)および最少必須イーグル培地(非必須アミノ酸を含むMEM-NAA)、特に、199培地、CMRL 1415、CMRL 1969、CMRL 1066、NCTC 135、MB 75261、MAB 8713、DM 145、Williams' G、Neuman & Tytell、Higuchi、MCDB 301、MCDB 202、MCDB 501、MCDB 401、MCDB 411、MDBC 153が挙げられる。本発明における使用にとって好ましい培地は、DMEMである。これらの、および他の有用な培地は、特に、GIBCO、Grand Island, N.Y., USA、およびBiological Industries, Bet HaEmek, Israelから入手可能である。いくつかのこれらの培地は、特に、Methods in Enzymology, Volume LVIII5 "Cell Culture", pp. 62-72, William B. JakobyおよびIra H. Pastan(編), Academic Press, Inc. Sigma-Aldrich, Stemcell Technologies, StemGenix, MabioおよびQuality Biological Inc.(発行)にまとめられており、造血幹細胞の増殖のための特許保護された培地を提供する。
【0096】
本発明において有用な血清としては、限定されるものではないが、少なくとも1%〜約30%、好ましくは、少なくとも約5%〜15%、最も好ましくは、約10%の濃度でウシまたは他の種の胎仔血清が挙げられる。ニワトリまたは他の種の胚抽出物は、約1%〜30%、好ましくは、少なくとも約5%〜15%、最も好ましくは、約10%の濃度で存在してもよい。ヒトのためのいくつかの治療的実施形態においては、非ヒト血清の使用は、血清中の偶発的な感染性夾雑物の伝染の可能性という安全上の危険性のため、望ましくないかもしれない。知識を有する医学的実務者であれば、治療用途のためのHSCの医学的に好適な取り扱いに通じているであろう。
【0097】
「増殖因子、サイトカイン、ホルモン」は、ピコグラム/ml〜ミリグラム/mlレベルの濃度の、限定されるものではないが、エリスロポエチン(EPO)、マクロファージコロニー刺激因子、トロンボポエチン(TPO)、増殖ホルモン(GH)、インターロイキン1-αおよび1-β、インターロイキン3(IL-3)、インターロイキン4(IL-4)、インターロイキン5(IL-5)、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン7(IL-7)、インターロイキン9(IL-9)、インターロイキン10(IL-10)、インターロイキン11(IL-11)、インターロイキン13(IL-13)、c-kitリガンド/幹細胞因子(SCF)、インスリン、インスリン様増殖因子、例えば、IGF-2、白血病阻害因子(LIF)、マクロファージ阻害タンパク質1α(MIP 1α)、上皮増殖因子(EGF)、および線維芽細胞増殖因子(FGF)、例えば、FGF-1、FLT-3/FLK-2リガンド、巨核球増殖および発達因子(MGDF)、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、およびマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)などの特定の因子が意図される。HSCの発現にとって有用な因子としては、限定されるものではないが、IL-3、SCF、FLT-3/FLK-2リガンド、IL-6およびGM-CSFが挙げられる。HSCを治療用途においてヒトに投与する場合、培地中の任意の増殖因子、サイトカインおよび/またはホルモンは、好ましくはヒトのものである。
【0098】
さらなる成分を培養培地に添加することができることがさらに認識される。そのような成分は、抗生物質、抗真菌剤、アルブミン、アミノ酸、および細胞の培養のための当業界で公知の他の成分であってよい。さらに、成分を添加して、分化プロセスを増強することができる。培地に添加することができる抗生物質としては、限定されるものではないが、ペニシリンおよびストレプトマイシンが挙げられる。培養培地中のペニシリンの濃度は、約10〜約200単位/mlである。培養培地中のストレプトマイシンの濃度は、約10〜約200μg/mlである。しかしながら、本発明は、間質細胞および/またはHSCを培養するための任意の1種の培地に限定されるといかなる意味においても解釈されるべきではない。むしろ、組織培養物中の脂肪組織のSVF細胞およびHSCを支援することができる任意の培地を用いることができる。
【0099】
本明細書に記載のように単離された、脂肪由来HSCを、日常的な手順に従って凍結保存することができる。好ましくは、約100万〜1000万個の細胞を、液体N2の蒸気相中、10%DMSOを含む間質細胞培地中で凍結保存する。凍結された細胞を、37℃温浴中で攪拌することにより解凍し、新鮮な増殖培地中に再懸濁し、上記のように増殖させることができる。
【0100】
II. HSCの使用
本発明の方法により得られた脂肪由来HSCを、HSCを使用するための当業界で公知の任意の方法において用いることができる。さらに、HSCを、さらに探索しようとする方法および組成物において用いることができる。HSCを使用する1つの方法は、HSCを必要とするレシピエント被験体にそれらを投与することである。
【0101】
レシピエント被験体は、ウマ、ヤギ、ウシ、イヌ、ヒツジ、ネコ、非ヒト霊長類、およびヒトなどの任意の哺乳動物であってよい。好ましくは、レシピエント被験体は、ヒトである。移植のためにHSCを取得するのに用いられる脂肪組織の起源は、治療のレシピエント被験体と同じであるか(自己移植)、またはドナー被験体に由来するものであってよい。ドナー被験体は、レシピエント被験体と遺伝的に同一であるか(同系移植)、または同じ種の遺伝的に同一ではない被験体(同種異系移植)であってよい。
【0102】
開示された細胞の注入により治療することができる障害としては、限定されるものではないが、正常な血液細胞の産生および成熟の機能障害または障害の結果起こる疾患(すなわち、再生不良性貧血および過少増殖性幹細胞障害)が挙げられる。HSCの投与は、欠陥のある内因性血液細胞の産生および成熟を補給するか、または置換するように意図される。そのような障害は、一般的には、造血器官における新生物性悪性疾患(例えば、白血病およびリンパ腫);非造血器官の広範囲の悪性固形腫瘍;自己免疫症状;または遺伝的障害であってよい。そのような障害としては、限定されるものではないが、正常な血液細胞の産生および成熟の障害または機能障害の結果生じる疾患、薬剤、放射線、もしくは感染に起因する特発性の、再生不良性貧血、汎血球減少症、顆粒球減少症、血小板減少症、赤血球無形成症、Blackfan-Diamond症候群などの過剰増殖性幹細胞障害;急性リンパ芽球性(リンパ球性)白血病、慢性リンパ球性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性悪性骨髄硬化症、多発性硬化症、真性赤血球増加症、原発性骨髄線維症、ヴァルデンストレームマクロフロブリン血症、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫などの造血悪性腫瘍;悪性メラノーマ、胃癌、卵巣癌、乳癌、小細胞肺癌、網膜芽腫、精巣癌、グリア芽腫、横紋筋肉腫、神経芽腫、ユーイング肉腫、リンパ腫などの悪性固形腫瘍を有する患者における免疫抑制;慢性関節リウマチ、I型糖尿病、慢性肝炎、多発性硬化症、全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患;貧血、家族性再生不良性貧血、ファンコニ症候群、ジヒドロ葉酸リダクターゼ欠損症、ホルムアミノトランスフェラーゼ欠損症、レッシュ・ナイハン症候群、先天性赤血球異形成症候群I〜IV、Chwachmann-Diamond症候群、ジヒドロ葉酸リダクターゼ欠損症、ホルムアミノトランスフェラーゼ欠損症、レッシュ・ナイハン症候群、先天性球状赤血球症、先天性楕円赤血球症、先天性ストマトサイト増加症、先天性Rh無効症、発作性夜間血色素尿症、G6PD(グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ)変異体1、2、3ピルビン酸キナーゼ欠損症、先天性エリスロポエチン過敏症、欠損症、鎌状赤血球疾患および形質、α、β、γサラセミア、met-ヘモグロビン血症、免疫の先天性障害、重篤な複合免疫不全疾患(SCID)、不全リンパ球症候群、イオノフォア応答性複合免疫不全症、キャッピング異常を有する複合免疫不全症、ヌクレオシドホスホリラーゼ欠損症、顆粒球アクチン欠損症、幼児性顆粒球減少症、ゴーシェ病、アデノシンデアミナーゼ欠損症、コストマン症候群、細網異形成症、先天性白血球機能障害症候群などの遺伝的(先天性)障害;ならびに骨粗鬆症、骨髄硬化症、後天性溶血性貧血、後天性免疫不全症、一次もしくは二次免疫不全を引き起こす感染症、細菌感染(例えば、ブルセラ症、リステリア症、結核症、らい病)、寄生虫感染(例えば、マラリア、レイシュマニア症)、菌類感染、リンパ球セットの不均衡および加齢による免疫機能の損傷に関連する障害、食作用障害、コストマン顆粒球減少症、慢性肉芽腫性疾患、Chediak-Higachi症候群、好中球アクチン欠損症、好中球膜GP-180欠損症、代謝性蓄積症、粘膜多糖症、粘膜リピドーシス、免疫機構に関連する混合型障害、Wiskott-Aldrich症候群、α1-抗トリプシン欠損症などの他の疾患であってよい。
【0103】
細胞を、様々な方法でレシピエント被験体に投与することができる。投与の好ましい様式は、非経口、腹腔内、静脈内、皮内、硬膜外、髄腔内、幹内(intrastemal)、関節内、滑液内、鞘内、動脈内、心臓内、筋肉内、鼻内、皮下、眼窩内、嚢内、局所、経皮パッチ、座剤、経皮、鼻スプレー、外科的埋込み物、内部外科用塗料、輸液ポンプ、もしくはカテーテルを介するものなどの経直腸、経膣または尿道投与である。一実施形態においては、前記薬剤および担体を、直接組織注射もしくはボーラス、埋込み物、微粒子、ミクロスフェア、ナノ粒子もしくはナノスフェアなどの遅延放出製剤中で投与する。投与の好ましい方法は、静脈内注入である。骨髄移植のための方法は、当業界でよく知られており、例えば、米国特許第4,678,470号および米国特許第5,571,083号に記載されており、細胞を身体の任意の解剖学的位置に移植するための方法を教示している。
【0104】
本発明の細胞をヒトに移植するために、細胞を本明細書に記載のように単離する。続いて、単離されたHSCを、移植にとって医学的に必要な任意の方法で処理することができる。必要に応じて、T細胞などの細胞を、当業界で公知の方法を用いてHSCから除去する。そのような方法としては、限定されるものではないが、対流遠心分離水簸、大豆アグルチニン/E-ロゼット形成、密度勾配遠心分離および免疫学的枯渇が挙げられる。癌治療の一部としての自己移植のために腫瘍細胞を除去する方法も、当業界で公知である。
【0105】
好ましくは、移植しようとする細胞は、細胞を移植しようとする被験体に由来するものである(自己移植)。細胞が患者由来のものではない場合(同種異系移植)、典型的には、ドナー細胞と患者の間で決定される血液型またはハプロタイプ適合性を決定する。当業者であれば、同種異系移植における適合性の問題に通じているであろう。
【0106】
人100 kgあたり、約105〜約1013個のCD34+、ALDHbrおよび/またはABCG2発現細胞を、ヒトに投与する。いくつかの実施形態においては、人100 kgあたり、約1.5 X 106〜約1.5 X 1012個の細胞を投与する。いくつかの実施形態においては、人100 kgあたり、約1 X 108〜約5 X 1011個の細胞を投与する。いくつかの実施形態においては、人100 kgあたり、約1 X 109〜約2 X 1011個の細胞を投与する。他の実施形態においては、人100 kgあたり、約5 X 108〜約1 X 1010個の細胞を投与する。限定されるものではないが、注入および静脈内投与などの様々な方法により、前記細胞を人に投与することができる。
【0107】
いくつかの実施形態においては、細胞の単回投与を提供する。いくつかの実施形態においては、複数回投与を提供する。いくつかの実施形態においては、複数回投与を、続けて3〜7日に渡って提供する。いくつかの実施形態においては、3〜7回の投与を、続けて3〜7日に渡って提供する。他の実施形態においては、5回の投与を、続けて5日に渡って提供する。
【0108】
いくつかの実施形態においては、人100 kgあたり、約105〜約1013個の細胞の単回投与を提供する。いくつかの実施形態においては、人100 kgあたり、約1.5 X 108〜約1.5 X 1012個の細胞の単回投与を提供する。いくつかの実施形態においては、人100 kgあたり、約1 X 108〜約5 X 1011個の細胞の単回投与を提供する。いくつかの実施形態においては、人100 kgあたり、約1 X 109〜約1 X 1010個の細胞の単回投与を提供する。いくつかの実施形態においては、人100 kgあたり、1 X 1010個の細胞の単回投与を提供する。
【0109】
いくつかの実施形態においては、人100 kgあたり、約105〜約1013個の細胞の複数回投与を提供する。いくつかの実施形態においては、人100 kgあたり、約1.5 X 108〜約1.5 X 1012個の細胞の複数回投与を提供する。いくつかの実施形態においては、続けて3〜7日に渡って、人100 kgあたり、約1 X 108〜約5 X 1011個の細胞の複数回投与を提供する。いくつかの実施形態においては、続けて3〜7日に渡って、人100 kgあたり、約4 X 109個の細胞の複数回投与を提供する。いくつかの実施形態においては、続けて3〜7日に渡って、人100 kgあたり、約2 X 1011個の細胞の複数回投与を提供する。いくつかの実施形態においては、続けて5日に渡って、約3.5 X 109個の細胞の5回投与を提供する。いくつかの実施形態においては、続けて5日に渡って、約4 X 109個の細胞の5回投与を提供する。いくつかの実施形態においては、続けて5日に渡って、約1.3 X 1011個の細胞の5回投与を提供する。いくつかの実施形態においては、続けて5日に渡って、約2 X 1011個の細胞の5回投与を提供する。
【0110】
別の実施形態においては、HSCを増殖因子、サイトカインまたはホルモンで処理して、それらの投与前に、特定の分化状態への決定を誘導する。脂肪由来HSCを、該細胞を本明細書の他の場所に記載された分化因子で処理することにより、および当業界で公知の標準的な方法によりin vitroで分化させることができる。
【0111】
部分的または最終的に分化した細胞を、表面および細胞内タンパク質、遺伝子、および/または特定の最終分化状態へのHSCの系列決定を示唆する他のマーカーの同定により特性評価することができる。これらの方法は、限定されるものではないが、(a)フローサイトメトリー法の使用などの、二次蛍光タグを用いて連結されたタンパク質特異的モノクローナル抗体を用いる免疫蛍光方法による細胞表面タンパク質の検出;(b)フローサイトメトリー法の使用などの、二次蛍光タグを用いて連結されたタンパク質特異的モノクローナル抗体を用いる免疫蛍光方法による細胞内タンパク質の検出;(c)ポリメラーゼ連鎖反応、in situハイブリダイゼーション、および/またはノーザンブロット分析による細胞遺伝子の検出を含むであろう。
【0112】
別の実施形態においては、脂肪由来間質細胞(ASC)をもレシピエント被験体に投与して、HSCの移植を助ける造血支援細胞を提供する。ASCをHSCと共に同時注入するか、またはHSC投与の前または後に投与することができる。ASCを、HSCのために提供された同様の投与指針を用いて投与することができる。
【0113】
III. 遺伝子改変
別の実施形態においては、本発明の脂肪由来HSCを遺伝的に改変して、例えば、外因性遺伝子もしくはコード配列を発現させるか、または内因性遺伝子の発現を抑制するか、もしくはさもなければ変化させる。そのような遺伝子改変は、HSCを被験体に投与する場合、治療的利益を有し得る。あるいは、遺伝子改変は、例えば、そのように遺伝子改変された、脂肪由来HSCの被験体への移植後に、そのように改変された細胞を追跡または同定するための手段を提供することができる。細胞の追跡は、移植された遺伝子改変細胞の移動、同化および生存を追跡することを含んでもよい。遺伝子改変は、少なくとも1個の第2の遺伝子を含んでもよい。第2の遺伝子は、例えば、選択可能な抗生物質耐性遺伝子または別の選択可能なマーカーをコードしてもよい。
【0114】
細胞を追跡するのに有用なタンパク質としては、限定されるものではないが、緑色蛍光タンパク質(GFP)、他の蛍光タンパク質のいずれか(例えば、増強された緑色、青緑色、黄色、青色および赤色蛍光タンパク質;Clontech, Palo Alto, CA)、または他のタグタンパク質(例えば、LacZ、FLAGタグ、Myc、His6など)が挙げられる。
【0115】
本発明の細胞の移動、分化および取込みの追跡は、ベクターまたはウイルスから発現される検出可能な分子の使用に限定されない。細胞の移動、取込み、および分化を、移植されるHSCの局在化を可能にする一連のプローブを用いて決定することができる。移植された細胞の追跡はさらに、本明細書の他の場所に詳細に記載する細胞特異的マーカーのための抗体または核酸プローブの使用を伴ってもよい。
【0116】
遺伝子改変されたHSCの治療的使用としては、限定されるものではないが、患者において突然変異され、欠損するか、またはさもなければ機能不全であるタンパク質の発現を提供することが挙げられる。例えば、HSCを遺伝子改変して、鎌状赤血球貧血の治療のために、ヘモグロビンSの代わりに、またはそれに加えて、ヘモグロビンAを提供することができる。サラセミアおよびX連鎖性重症複合免疫不全は、ex vivoで遺伝子改変されたHSCを用いる遺伝子治療のための、他の、非限定的な候補である。所望の単離された核酸を発現する細胞を用いて、より高いレベルの遺伝子産物が、異常な発現および/もしくは活性と関連する疾患、障害または症状を治療または軽減するのに有用である別の細胞、組織、または全哺乳動物に、該単離された核酸の産物を提供することができる。従って、本発明は、所望のタンパク質の発現、タンパク質レベル、および/または活性を増加させることが、造血系に関与する疾患、障害または症状を治療または軽減するのに有用であり得る所望の配列をコードする単離された核酸を発現するHSCを含む。
【0117】
本発明はまた、単離された核酸をそこに導入し、該核酸によりコードされるタンパク質をそこから発現させる場合、それが該細胞中に以前には存在しないか、もしくは該細胞中で発現されないか、またはそれがトランスジーンを導入する前とは異なるレベルで、もしくは異なる環境下で発現され、利益が得られるHSCも含む。そのような利益は、所望の核酸の発現を、研究室でin vitroで、または細胞が常在する哺乳動物において研究することができる系、導入される核酸を含む細胞を研究、診断および治療ツールとして使用することができる系、ならびに哺乳動物における選択された疾患状態のための新しい診断および治療ツールの開発にとって有用である哺乳動物モデルを作製する系が提供されたという事実を含んでもよい。
【0118】
かくして、本発明は、HSCへの外因性DNAの導入、および該細胞中での外因性DNAの発現のための発現ベクターおよび方法を包含する。当業者であれば、発現ベクターを作製し、それを用いて細胞を形質転換するための技術に通じているであろう。例えば、Sambrookら(2001, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York)、およびAusubelら(1997, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York)を参照されたい。
【0119】
発現ベクターは、発現カセットを細胞に送達するのに好適な遺伝子ベクターである。所望の最終的な用途に応じて、任意のそのようなベクターをそのように用いて、細胞を遺伝子改変することができる(例えば、プラスミド、裸のDNA、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、レンチウイルス、パピローマウイルス、レトロウイルスなどのウイルスなど)。そのようなベクター内で所望の発現カセットを構築する任意の方法を用いることができ、直接的クローニング、相同組換えなどのその多くが当業界でよく知られている。所望のベクターは、当業界で一般的に知られている、該ベクターを細胞に導入するのに用いられる方法を大きく決定するであろう。好適な技術としては、プロトプラスト融合、リン酸カルシウム沈降法、遺伝子銃、エレクトロポレーション、フォトポレーション、DEAEデキストランまたは脂質担体媒介性トランスフェクション、およびウイルスベクターを用いる感染が挙げられる。
【0120】
発現ベクターは、プロモーターなどの発現制御配列に機能し得る形で連結された、発現させようとするヌクレオチド配列を含む発現カセットを含む。発現させようとするヌクレオチド配列は、タンパク質をコードしてもよく、またはそれは、アンチセンスRNA、siRNAもしくはリボザイムなどの生物学的に活性なRNAをコードしてもよい。かくして、コードポリヌクレオチドは、例えば、毒素への耐性、ホルモン(ペプチド増殖ホルモン、ホルモン放出因子、ならびにインターフェロン、インターロイキン、およびリンホカインなどのサイトカインなど)、細胞表面に結合した細胞内シグナリング部分(細胞接着分子およびホルモン受容体など)、ならびに所与の系列の分化を促進する因子を付与する遺伝子、または任意の他のコード配列をコードしてもよい。
【0121】
好適なプロモーターの例としては、原核プロモーターおよびウイルスプロモーター(例えば、レトロウイルスITR、LTR、極初期ウイルスプロモーター(IEp)、例えば、ヘルペスウイルスIEp(例えば、ICP4-IEpおよびICP0-IEEp)、サイトメガロウイルス(CMV)IEp、および他のウイルスプロモーター、例えば、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、ならびにマウス白血病ウイルス(MLV)プロモーター)が挙げられる。他の好適なプロモーターは、エンハンサー(例えば、ウサギβ-グロビン調節エレメント)、構成的に活性なプロモーター(例えば、β-アクチンプロモーターなど)、シグナル特異的プロモーター(例えば、RU486に応答するプロモーターなどの誘導的プロモーターなど)、および組織特異的プロモーターなどの真核プロモーターである。所定の細胞内容物中で遺伝子発現を駆動するのに好適なプロモーターを選択することは、当業者の技術の範囲内にある。発現カセットは、2個以上のコードポリヌクレオチドを含んでもよく、それは必要に応じて他のエレメント(例えば、ポリアデニル化配列、膜挿入シグナルもしくは分泌リーダーをコードする配列、リボゾーム進入配列、転写調節エレメント(例えば、エンハンサー、サイレンサーなど)など)を含んでもよい。
【0122】
(実施例)
本発明を、以下の実施例を参照することによりさらに詳細に説明する。これらの実施例は、例示の目的でのみ提供されるものであり、別途特定しない限り、限定することを意図するものではない。かくして、本発明は、以下の実施例に限定されるといかなる意味でも解釈されるべきではなく、むしろ、本明細書に提供される教示の結果として明らかになる任意かつ全ての変更を包含すると解釈されるべきである。
【実施例1】
【0123】
脂肪吸引物脂肪組織からの造血幹細胞の単離
脂肪組織を、美容的理由でヒト被験者に対して実施される脂肪吸引術の脂肪吸引物から取得した。50ミリリットル(ml)の脂肪吸引物材料を、50 mlのPBS(リン酸緩衝生理食塩水)と混合し、脂肪分の下の水層を吸引することにより洗浄した。洗浄液が淡黄色になるまで、細胞懸濁液をPBSでさらに2回洗浄した。水性洗浄液をプールし、「吸引物洗浄後ペレット」(APWP)として保存した。50 mlのPBS+1%ウシ血清アルブミン(BSA)に溶解した50 mlの95 mgのコラゲナーゼを、洗浄された細胞懸濁液に添加し、混合物をT-185フラスコに移した。このフラスコを、Belly Dancer(登録商標)振とう器(Stovall Life Science, Greensboro, NC)上で1時間、37℃でインキュベートした。
【0124】
溶解した脂肪を、約550 x g (1600 rpm)で6分間遠心分離した。上部の脂肪層(約10〜20 ml)を、除去した。細胞ペレットを残存する上清中に再懸濁し、100μmの細胞ストレーナーを通して注ぎ、破片を除去した。流出液を約550 x g (1600 rpm)で6分間遠心分離して、細胞を沈降させた。上清を廃棄した。
【0125】
細胞ペレットを、赤血球溶解バッファー(eBioscience)中に懸濁した。懸濁した細胞を、氷上に3分間置いた後、約550 x g (1600 rpm)で6分間遠心分離した。上清を廃棄した。(その後の研究により、赤血球溶解工程は、SVFからのHSCの単離にとって必須ではないか、または望ましくないことが示された)。
【0126】
細胞ペレットをPBS中に懸濁して細胞を洗浄し、この細胞を上記のように沈降させた。次いで、ペレットを5 mlの培養培地(10%ウシ胎仔血清、ペニシリン、ストレプトマイシンおよび抗生物質ならびに0.25μg/mlのアンホテリシンBを補給したDMEM/F12 Ham's)中に懸濁した。これらの細胞は、「未分画SVF」である。
【0127】
未分画SVF細胞を計数し、トリパンブルー排除を用いて生存能力を決定した。次いで、細胞を、T-185フラスコ中、約50,000個の生細胞/cm2で播種した。
【0128】
フラスコを5%CO2で37℃インキュベーター中でインキュベートした。24時間後、非接着細胞を含む培養培地を取り出し、新鮮な培養培地と交換した。非接着細胞画分を、「非接着性SVF」として保持した。
【0129】
非接着性SVF細胞の表面免疫型を、フローサイトメトリーにより特性評価した。HSCの古典的マーカーであるCD34およびCD45の発現を、最初に試験した。図1、中央のパネルに示されるように、この脂肪組織サンプルに由来する非接着性SVF細胞の約40.88%が、HSCのよく知られたマーカーであるCD34+を発現することが見出された(他のドナーに由来する脂肪組織を用いる実験により、非接着性SVF細胞の最大で約50%〜約60%がCD34+を発現することが示された)。これらのデータにより、少なくとも約1 x 107個のCD34+細胞の収量が、約100 mlのヒト脂肪組織から可能であることが示された。
【0130】
複数のCD34+サブ集団が、非接着性SVF集団中で観察された。この代表的なドナーについて観察された2種の異なる側方散乱光集団、低いCD34+(CD34lo)および高いCD34+(CD34hi)が存在した。CD34hi細胞は、約27.2%(23%+4.29%)の非接着性SVF細胞を含み、CD34lo細胞は、約13.59%(8.88%+4.71%)を含んでいた。CD34hiCD45-の集団は、約23%の細胞を含んでいた。CD34loCD45-集団は、約8.88%の非接着性SVF細胞を含んでいた。CD34+CD45+集団は、約9%の非接着性SVF細胞(4.29%+4.71%)を含んでいた。
【0131】
また、バックゲーティングを行って、様々なCD34+サブ集団の前方および側方散乱光を試験した。この分析により、いくつかの異なる側方散乱光群が存在することが示された(図1、左側の2個のパネルおよび右側の2個のパネル)。CD34hi集団(左上および右上のパネル)は、CD34lo集団(左下および右下のパネル)と比較して、より低い側方散乱光(SSClo)を有することが見出された。典型的には、低い側方散乱光は、造血幹細胞集団と関連する。
【0132】
CD38およびCD41は、CD34+細胞のサブ集団を同定するのに用いられてきた細胞表面マーカーであり、HSC移植の改善を予測するのに中程度に有用である。CD41発現は、造血の開始を示し、CD34+細胞の混合集団中で、内皮前駆細胞 (CD34+CD41+細胞)とHSC (CD34+CD38-CD41-細胞)とを識別するのにも用いられる。図2(左側の2個のパネル)に示されるように、約13%の非接着性SVF集団を含む、高い側方散乱光CD34+集団は、有意数のCD41+細胞を含んでいた。注目すべきことに、低い側方散乱光CD34+集団(約16%の非接着性SVF集団)は、CD38およびCD41の両方の発現を欠き、これはHSCに典型的な免疫表現型と一致していた。
【0133】
光散乱獲得ドットプロットにおけるCD34+細胞の2種の主要な集団の同定後、細胞を別々にゲート化して、内皮(CD31)または間質マーカー(CD105およびCD90)が、CD34と共に同時発現されるかどうかを決定した。CD90は造血細胞上で発現することもできるが、Endogin (CD105)は、専ら間質系列マーカーである。図3に示されるように、様々なレベルの同時発現および系列陰性集団が、低い側方散乱光を有するCD34+細胞および高い側方散乱光を有するCD34+細胞中で観察された。CD31およびCD105は、CD34+HSC上で発現されるとは考えられない。CD34+CD31+細胞およびCD34+CD105+細胞は、内皮および間質細胞系列であるようである。
【0134】
かくして、非接着性SVF細胞は、CD34+SSClo集団、CD34+SSClo集団、CD34hiSSClo集団、CD34hiCD38-CD41-SSClo集団;CD34loCD45-集団;およびCD34loCD45+集団などの不均一混合物内での異なる表現型マーカー発現の複数の順列を含んでいた。HSCとも関連するマーカーである、c-kit (CD117)の発現も、約2〜3%の非接着性SVF細胞上で観察された。
【0135】
別のHSCマーカーであるABCG2の発現が、約16%の非接着性SVF細胞上で観察された(図8B)。有利には、明るいABCG2蛍光を有する非接着性SVF細胞は、個別の光散乱プロフィールを有する。図8Aにおいては、全細胞の約25%である、丸で囲んだ領域の細胞は、明るいABCG2蛍光を有する細胞を含む。この特徴により、光散乱データにのみ基づいて、かつ抗体または任意の他の化学的操作を使用することなく、これらの細胞について富化することが可能になる。かくして、非接着性SVFは、骨髄由来HSCと比較可能な免疫表現型および分化能力を示す細胞を含む。
【0136】
コロニー形成単位アッセイは、特定の系列の前駆細胞の頻度を定量するために限界希釈法を用いる。「吸引物洗浄後ペレット」(APWP)および「未分画SVF」および「非接着性SVF」として標識された細胞の個別の集団を、Methocult(登録商標)Media (Stem Cell Technologies, Vancouver, Canada)中に播種して、造血コロニー形成前駆細胞の存在についてアッセイした。様々な細胞画分を、2種の細胞濃度、25,000個の細胞/mlおよび50,000個の細胞/mlで播種した。1.1 mlアリコートのMethocult培地細胞懸濁液を、2個の35 mm培養皿に添加した。培養物中で14日後、プレートあたりのCFU数を計数および分析して、BFU-E、CFU-GMおよびCFU-GEMMコロニーの頻度を決定した。1つの実験の結果を表1に示す。
【0137】
BFU-E、CFU-GMおよびCFU-GEMMなどの、全部で3つの型のコロニーが、アッセイした3つの細胞集団のそれぞれにおいて観察されたが、最も高い頻度は「非接着性SVF」集団において観察された。図4〜7は、非接着性SVF細胞中で観察された代表的なコロニーを示す。図4および図5は、40倍でのBFU-Eコロニーを示す。図6は、CFU-GMコロニーを示し、図7は、CFU-GEMMコロニーを示す。
【表1】

【0138】
また、アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH)の発現を用いて、造血サブ集団を同定した。ALDH活性およびPCRアレイ分析を実施して、脂肪吸引術の吸引物の間質血管系画分の非接着集団内の潜在的な造血サブ集団を同定した。予備データにより、ALDHbrSSClo集団が、約17%の非接着性SVF細胞集団を含むことが示された。
【実施例2】
【0139】
脂肪由来HSCを用いる骨髄再生アッセイ
実施例1で得られたヒト脂肪組織由来造血幹細胞を、骨髄再生アッセイに基づいて造血分化について試験する。免疫不全SCIDまたはヌード/ベージュマウスに、分割された用量で11 Gyのγ線の致死量を照射し、酸性化された水とオートクレーブされた食品の食餌上で維持する。造血細胞を、マウス起源の場合、約107個の細胞/移植造血細胞(107個の骨髄由来細胞)またはヒト起源の場合、約106個の細胞/移植(106個の脂肪由来HSCもしくは106個のSVF細胞)の量で単離し、尾静脈もしくは逆行眼窩静脈を介する注入、または腹腔内注入による致死量の照射の16時間後にマウスに導入する。あるいは、ヒト細胞を、約1:10の比率でマウス造血細胞と混合した後、致死量以下の放射線を照射した宿主動物中に移植して、競合的再生をアッセイする。動物を、メトキシフルラン麻酔下で輸液する。
【0140】
移植の6〜12週後、血液をレシピエント動物から回収し、限定されるものではないが、Thy1(T細胞マーカー)、B220(B細胞マーカー)、Mac1(マクロファージマーカー)、およびHLA(H-2K、ヒトマーカー)などのヒト造血細胞マーカーに対する特異的モノクローナル抗体を用いるフローサイトメトリー分析に供する。ヒト対マウス起源の全末梢造血細胞の割合を決定する。同様の研究において、レシピエントマウスに由来する骨髄および脾臓を取得し、特定の造血系列に関するin vitroでのクローン形成アッセイに供する。これらの研究は、メチルセルロースコロニーに基づくアッセイを利用する。特定の系列拘束のための比較可能な免疫蛍光方法を用いて、細胞を分析する。
【実施例3】
【0141】
脂肪由来HSCを用いる骨髄再生アッセイ
個々のヒトドナーに由来するヒト脂肪組織を、脂肪吸引術により単離し、脂肪由来HSCを、上記の方法に従ってin vitroで単離する。10%ウシ胎仔血清、5%ニワトリ胚抽出物、幹細胞因子、flt-3リガンドおよび抗生物質を含むIscove's培地中に37℃で最初に播種した後、最大で約5日間、一次培養物として細胞を培養する。
【0142】
細胞を、高用量の化学療法後などの造血障害を有する患者のためにすぐに使用するか、またはドナーもしくは組織適合性レシピエントによる急性の医学的必要性の事象における将来の使用のための凍結保存する。骨髄機能および免疫能力を重篤に損傷する化学療法または照射などの任意の事象後に、自己移植または同種異系移植かどうかに関わらず、脂肪由来HSCをレシピエントに注入する。脂肪由来HSCを、蛍光標識を用いて標識して、医師が移植後のそれらの運命を追跡できるようにする。加速された骨髄回復の証拠を、フローサイトメトリー方法に基づく、末梢血流中で新しく合成された造血細胞(リンパ球、骨髄細胞、赤血球、および血小板)の検出に基づいてモニターする。
【0143】
本明細書で引用されたそれぞれおよび全ての特許、特許出願、および刊行物の開示は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられるものとする。
【0144】
本発明を特定の実施形態を参照して開示してきたが、当業者であれば、本発明の真の精神および範囲を逸脱することなく、本発明の他の実施形態および変更を考案することができることは明らかである。添付の特許請求の範囲は、全てのそのような実施形態および等価な変更を含むと解釈されることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪組織から造血幹細胞を単離する方法であって、
脂肪組織を取得すること、
該脂肪組織から間質血管系画分(SVF)を調製すること、および
SVF中の非接着細胞を単離すること、
を含み、該非接着細胞が造血幹細胞を含む、前記方法。
【請求項2】
前記取得工程が、脂肪吸引術を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記脂肪組織がヒトのものである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記造血幹細胞が、ALDHbrSSClo細胞、CD34+細胞、CD34+SSClo細胞、CD34+CD45+細胞、CD34+CD38-CD41-細胞、CD34+CD45-細胞、CD34+CD38-CD41-SSClo細胞、およびABCG2発現細胞からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記非接着細胞からCD34hi細胞を単離する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記非接着細胞からALDHbr細胞を単離する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ALDHbr細胞が、ALDHbrSSCloである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記造血幹細胞が、コロニー形成単位顆粒球マクロファージ(CFU-GM)、バースト形成単位赤血球(BFU-E)およびコロニー形成単位顆粒球赤血球マクロファージ巨核球(CFU-GEMM)からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
CD34+細胞を単離する方法であって、
脂肪組織を取得すること、
該脂肪組織から間質血管系画分(SVF)を調製すること、
SVF中の非接着細胞を接着細胞から分離すること、および
該非接着細胞からCD34+細胞を単離することによって、CD34+細胞を単離すること、
を含む、前記方法。
【請求項10】
前記SVFが少なくとも約40%のCD34+細胞を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記CD34+細胞を、約100 mlの脂肪組織あたり、少なくとも約1 x 107個の単離されたCD34+細胞の比率で単離する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記取得工程が脂肪吸引術を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記脂肪組織がヒトのものである、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記CD34+細胞が、CD34+SSClo細胞、CD34+CD45+細胞、CD34hiCD38-CD41-細胞、CD34+CD38-CD41-SSClo細胞、CD34loCD45-細胞、CD34loCD45+細胞、CD34+ALDHbr細胞およびCD34+ALDHbrSSClo細胞からなる群より選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
CD34hi細胞またはCD34lo細胞を単離する工程をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
請求項9に記載の方法に従って単離されたCD34+細胞を含む組成物であって、該CD34+細胞が、約1 mlの脂肪組織あたり、少なくとも約1 x 105個の単離されたCD34+細胞の比率で単離されたものである、前記組成物。
【請求項17】
前記脂肪組織がヒトのものである、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
被験体に造血幹細胞を提供する方法であって、
ドナー被験体から脂肪組織を取得すること、
該脂肪組織から間質血管系画分(SVF)を調製すること、
該SVF中の非接着細胞を単離すること、
該非接着細胞から造血幹細胞を単離すること、および
治療上有効量の造血幹細胞を、それを必要とするレシピエント被験体に投与すること、を含む、前記方法。
【請求項19】
前記ドナー被験体およびレシピエント被験体がヒトである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ドナー被験体およびレシピエント被験体が同じヒトである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記ドナー被験体およびレシピエント被験体が同じヒトではない、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記造血幹細胞がCD34+細胞であり、且つ約100 mlの脂肪組織あたり、少なくとも約1 x 107個の単離されたCD34+細胞の比率で単離する、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記取得工程が、脂肪吸引術を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記単離工程が、ALDHbrSSClo細胞またはCD34+CD38-CD41-SSClo細胞を単離することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
少なくとも約40%の非接着性間質血管系画分(SVF)CD34+細胞を含む単離された細胞の組成物。
【請求項26】
前記単離された細胞が、少なくとも約20%のCD34+CD45-細胞を含む、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
前記間質血管系画分が、ヒト脂肪組織から取得されたものである、請求項25に記載の組成物。
【請求項28】
前記CD34+細胞が、CD34+CD38-CD41-ALDHbr細胞を含む、請求項25に記載の組成物。
【請求項29】
前記CD34+細胞が、CD34+CD38-CD41-SSClo細胞を含む、請求項25に記載の組成物。
【請求項30】
前記CD34+細胞が、コロニー形成単位顆粒球マクロファージ(CFU-GM)、バースト形成単位赤血球(BFU-E)およびコロニー形成単位顆粒球赤血球マクロファージ巨核球(CFU-GEMM)を含む、請求項25に記載の組成物。
【請求項31】
前記細胞が遺伝子改変されたものである、請求項25に記載の組成物。
【請求項32】
少なくとも約10%の非接着性間質血管系画分(SVF)ALDHbr細胞を含む単離された細胞の組成物。
【請求項33】
少なくとも約15%の非接着性SVF ALDHbr細胞を含む、請求項32に記載の組成物。
【請求項34】
前記ALDHbr細胞がALDHbrSSClo細胞である、請求項32に記載の組成物。
【請求項35】
前記SVFがヒト脂肪組織から取得されたものである、請求項32に記載の組成物。
【請求項36】
請求項16に記載の組成物および製薬上許容し得る担体を含む医薬組成物。
【請求項37】
請求項25に記載の組成物および製薬上許容し得る担体を含む医薬組成物。
【請求項38】
請求項32に記載の組成物および製薬上許容し得る担体を含む医薬組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公表番号】特表2009−537137(P2009−537137A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−510937(P2009−510937)
【出願日】平成19年1月8日(2007.1.8)
【国際出願番号】PCT/US2007/000285
【国際公開番号】WO2007/136424
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(507077592)コグネート セラピューティクス,インコーポレーテッド (5)
【Fターム(参考)】