説明

脂肪族カルボン酸アミドの製造方法

【課題】脂肪族カルボン酸、又はこれらのアルキルエステル(アルキル基の炭素数は1〜4)とモノ又はジアルキルアミンを反応させる上で、触媒を用いて高い反応性と選択性で酸価の低い脂肪族カルボン酸アミドを製造する方法を提供する。
【解決手段】プロトン及び/又は有機カチオンを含む層状チタン酸ナノシートを含有する固体酸触媒の存在下で脂肪族カルボン酸又はこれらのアルキルエステル(アルキル基の炭素数は1〜4)とモノ又はジアルキルアミン(アルキル基の炭素数は1〜4)から脂肪族カルボン酸アミドを製造する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族カルボン酸アミドを製造する方法に関し、更に詳しくは、脂肪族カルボン酸又はこれらのアルキルエステルとモノ又はジアルキルアミンを反応させて酸価の低い脂肪族カルボン酸アミドを高い反応性、選択性で製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
対応する脂肪族カルボン酸、それらの無水物又は低級アルキルエステルから脂肪族カルボン酸アミドを製造する方法として、一般にシリカゲル、アルミナ、リン酸等の脱水触媒を使用して行うことが知られている。しかし、前記触媒を使用した反応は、比較的長い反応時間が必要で、実用的ではない。
また、特許文献1には、アミド化反応を常圧で行い、触媒として、第IVb族又はVb族の金属、好ましくはチタン、ジルコニウム又はタンタルの化合物を使用することが開示され、特許文献2には、触媒量の水和酸化物、好ましくは水和したチタン、ジルコニウム及び酸化スズを使用することを開示している。これらの方法では、良好な収率を達成するのに、120℃〜240℃ の高温、及び100kPa〜1000kPaの圧力を必要とする。更に、特許文献3には、粒子状二酸化チタン存在下に反応させる方法が開示されている。これらの方法はいずれも高い反応圧力を使用することは必要ではないものの、反応性は未だ十分ではなく、未反応な脂肪族カルボン酸を多く含む脂肪族カルボン酸アミドは、それを原料に用いて誘導体化する際に、反応性の低下や得られた製品の色相が悪化する原因になるため、工業的に改善の余地がある。
【0003】
【特許文献1】米国特許第3,816,483号公報
【特許文献2】米国特許第4,655,972号公報
【特許文献3】特開2001-270855号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、脂肪族カルボン酸又はこれらのアルキルエステル(アルキル基の炭素数は1〜4)とモノ又はジアルキルアミンを反応させる上で、触媒を用い、高い反応性と選択性で酸価の低い脂肪族カルボン酸アミドを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、高い反応性と選択性を有するプロトン及び/又は有機カチオンを含む層状チタン酸ナノシートを含有する固体酸触媒が有効であることを見出した。
即ち、本発明は、プロトン及び/又は有機カチオンを含む層状チタン酸ナノシートを含有する固体酸触媒の存在下で脂肪族カルボン酸又はこれらのアルキルエステル(アルキル基の炭素数は1〜4)とモノ又はジアルキルアミン(アルキル基の炭素数は1〜4)から脂肪族カルボン酸アミドを製造する方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、脂肪族カルボン酸又はその低級アルキルエステルとモノ又はジアルキルアミンとを反応させる触媒として、プロトン及び/又は有機カチオンを含む層状チタン酸ナノシートを含有する固体酸触媒を用い、高い反応性と選択性で酸価の低い脂肪族カルボン酸アミドを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の脂肪族カルボン酸アミドの製造方法は、プロトン及び/又は有機カチオンを含む層状チタン酸ナノシートを含有する固体酸触媒の存在下で脂肪族カルボン酸又はこれらのアルキルエステル(アルキル基の炭素数は1〜4)とモノ又はジアルキルアミンを反応させる方法である。
本発明に使用する触媒は、チタンアルコキシド又は水酸化チタンを、有機カチオンを生成する化合物と接触させて得られるプロトン及び/又は有機カチオンを含む層状チタン酸ナノシートを含有する固体酸触媒が好ましく、更に好ましくは、チタンアルコキシド又は水酸化チタンを含む溶液又は懸濁液と、有機カチオンを生成する化合物を含む溶液とを接触、反応させて得られるプロトン及び/又は有機カチオンを含む層状チタン酸ナノシートを含有する固体酸触媒(以下、単に触媒ということがある)が本発明に使用する触媒として優れた反応性を有する。
【0008】
本発明で用いるチタンアルコキシドは、チタンと、アルコール(ROH)のヒドロキシ基からプロトンが脱離したアルコラート(RO−)との、アルコラート錯体を意味する(Rは炭化水素基)。
前記チタンアルコキシドの具体例としては、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシドなどが挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができるが、一般的に入手のし易さ、取り扱い性の観点からチタンテトライソプロポキシドが好ましい。
前記チタンアルコキシドは、水と混合することにより、又は水と混合した後、加熱することにより加水分解されて水酸化チタンを生成する。
【0009】
また、本発明に使用する触媒に用いられる水酸化チタンは、チタン塩を加水分解することにより生成させることができる。この水酸化チタンを生成するチタン塩としては、四塩化チタン、三塩化チタン、二塩化チタン等の塩化チタン、硫酸チタン、硫酸チタニル、硝酸チタニルなどを挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができるが、一般的に入手し易く、一般的なチタン原料として汎用される四塩化チタン、硫酸チタン、硫酸チタニルがより好ましく用いられる。
このチタン塩は、水と混合することにより、又は水と混合した後、加熱することにより加水分解されて水酸化チタンを生成することができるが、その際、更にアルカリを共存させてもよい。共存させるアルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類水酸化物、更にはアンモニアやアミン類を挙げることができる。これらの中でも、入手のし易さ、取り扱い性の観点から、アルカリ金属水酸化物、アンモニア及びアミン類がより好ましい。
アルカリの添加量は、チタン塩水溶液のpHが2以上となる量、より好ましくはpHが4以上となる量である。
【0010】
本発明で用いる有機カチオンは、炭素数2以上のアルキル基を1個以上有する、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンのプロトン化物及び第4級アンモニウム水酸化物の群から選ばれる少なくとも1種のアミン類に由来する有機カチオンが挙げられる。
アミン類とは、アンモニアの水素原子の1個又は2個以上の水素原子が炭化水素基Rで置換された化合物で、窒素原子上の置換基の数により第1級アミン(RNH2)、第2級アミン(RR’NH),第3級アミン(RR’R’’N)に分類することができる(R,R',R’’は炭化水素基)。本発明に用いるアミン類には、上記以外に第4級アンモニウム水酸化物を含む。これらアミン類については、固体酸触媒として用いる場合の反応溶媒への分散性を考慮して、炭素鎖長の異なる様々なアミン類を使用できる。
【0011】
アミン類の具体的は、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ペンチルアミン、ジペンチルアミン、トリペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、トリヘキシルアミン、ジメチルヘキシルアミン、ジメチルベンジルアミン、ジメチルオクチルアミンなどの第1級アミンから第3級アミン;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、テトラペンチルヒドロキシドなどの第4級アンモニウム水酸化物等を挙げることができる。これらの中では、入手のし易さの観点から、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミンが好ましい。更に好ましくはコスト面から第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンが好ましい。これらのアミン類は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。更には、ナノシート生成の観点から、アミン類濃度9mmol/Lの水溶液におけるpHが9以上であることがより好ましい。
本発明に使用する触媒の調製温度は、層状構造を持ったチタン酸ナノシートが生成する温度領域であれば特に限定されず、2〜200℃の範囲で行うことができ、10〜150℃の温度範囲が好ましく、20〜100℃の範囲がより好ましい。この調製温度が200℃以下であれば、有機カチオンが分解することがなく、及び/又は層状構造のチタン酸の結晶相が転位することがなく層状構造を持ったチタン酸ナノシートを生成することができる。
【0012】
チタンアルコキシド又は水酸化チタン(以下、チタン源と総称する)とアミン類との混合比率は、チタン源/アミン類のモル比が0.1〜2であることが好ましい。また、チタン源を含む溶液又は懸濁液中のチタン濃度は、酸化チタン(TiO2)換算で0.01〜15質量%が好ましく、0.05〜10質量%がより好ましく、0.05〜5質量%が更に好ましい。
チタン源を含む溶液もしくは懸濁液及び有機カチオンを生成する化合物を含む溶液の調製には溶媒を用いることができる。この溶媒としては、用いるアミン類の種類により異なるが、アミン類が溶解し、且つチタンアルコキシドを用いた場合の加水分解に必要となる水や水酸化チタン中の水との相溶性の良好な溶媒であれば特に限定されず、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、1−ブチルアルコール、イソペンチルアルコールなどのアルコール、アセトン、テトラヒドロフラン、プロピレンカーボネートなどの含酸素有機溶媒、及びアセトニトリルなどの含窒素有機溶媒が挙げられる。また、チタンアルコキシドを出発原料としたときの加水分解に要する水分量としては、水酸化チタンを得るために必要な量以上であればよいが、チタン源の質量に対して5〜50倍の質量が好ましく、10〜15倍の質量がより好ましい。
加水分解の温度及び時間は、用いるチタン源に応じて適宜選択することができる。また、チタン源のチタン成分とともに、他の元素、例えば、珪素成分、ニオブ成分、ジルコニウム成分などを少なくとも1種以上共存させて、その元素を含有させた層状チタン酸ナノシートを得ることができる。
【0013】
本発明に使用する触媒は、チタン源を含む溶液もしくは懸濁液と、有機カチオンを生成する化合物を含む溶液とを接触、反応させることにより得られ、チタン化合物の白濁を生じることがあるが、継続的に撹拌を行なうことで、有機カチオンを含む層状チタン酸ナノシートを含有する無色透明な固体酸触媒の分散液が得られる。
このようにして得た無色透明な分散液から水又は溶媒を除去することにより、有機カチオンを含む層状チタン酸ポリアニオンナノシートを含有する固体酸触媒が得られる。
ここでチタン酸ポリアニオンナノシートは、チタンを中心とした8個の酸素との8面体構造を基本ユニットとし、このユニットが平面状に並んだ構造を有する。具体的には3チタン酸、4チタン酸、5チタン酸、6チタン酸、レピドクロサイト型などの構造を有するチタン酸ナノシートである。
なお、層状構造を持つチタン酸ナノシートの生成は、X線回折、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察などにより確認することができる。例えば、有機カチオンとして、第4級アンモニウム塩を用いて反応させた場合、カチオンサイズが大きくなるにしたがって層間隔は増加することがX線回折より確認されており、有機カチオンは層間に存在しているものと考えられる。
【0014】
本発明に使用する脂肪族カルボン酸又はこれらのアルキルエステル(アルキル基の炭素数は1〜4)としては、直鎖又は分岐鎖の炭素数6〜22(好ましくは炭素数8〜22)の飽和又は不飽和脂肪族カルボン酸又は前記脂肪族カルボン酸のアルキルエステル(アルキル基の炭素数は1〜4)が挙げられる。これらの脂肪族カルボン酸又はこれらのアルキルエステルは、各々単独若しくは2種以上混合して使用することができる。ここで、炭素数1〜4のアルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられ、特にメチル基が好ましい。
前記脂肪族カルボン酸の具体例は、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、ジメチルオクタン酸、ブチルヘペチルノナン酸、ヘキセン酸、オクテン酸、デセン酸、ドデセン酸、テトラデセン酸、ヘキサデセン酸、オクタデセン酸、エイコセン酸、ドコセン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族カルボン酸又は脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。
前記脂肪族カルボン酸のアルキルエステル(アルキル基の炭素数は1〜4)の具体例は、前記脂肪族カルボン酸のメチル、エチル、プロピル、イソプロピルエステル等が挙げられる。
【0015】
本発明に使用するモノ又はジアルキルアミンとしては、炭素数1〜4のアルキル基を一つ又は二つ持ったものが挙げられ、モノアルキルアミンの具体例は、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン等が挙げられる。ジアルキルアミンの具体例は、ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、ジプロピルアミン等が挙げられる。これらの中でも、特にメチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミンが好ましい。
【0016】
本発明の脂肪族カルボン酸アミドの製造方法における反応は、懸濁床による回分、半回分、連続式でも、また固定床流通式でも実施できる。回分、半回分を用いた製造方法では、脂肪族カルボン酸又はこれらのアルキルエステルを溶解させ、所定量の触媒を仕込み、反応槽を充分に窒素置換した後、反応させる温度まで昇温させた後にモノ又はジアルキルアミンガスを流入させる方法で製造できる。連続式、固定床流通式を用いた製造方法では、触媒を充填し、反応させる温度まで昇温させた後に溶解した脂肪族カルボン酸又はこれらのアルキルエステルとモノ又はジアルキルアミンガスを流入させる方法で製造できる。
反応時の圧力は、加圧された状態でも常圧でも行うことができる。本発明の脂肪族カルボン酸アミドの製造温度は、通常110〜300℃、好ましくは150〜280℃、より好ましくは170〜270℃である。本発明に使用するモノ又はジアルキルアミンの使用量は脂肪族カルボン酸又はこれらのアルキルエステル1モルに対して、通常1〜100モル、好ましくは1〜50モル、より好ましくは1〜20モルである。触媒は任意の量を仕込むことができるが、脂肪族カルボン酸又はこれらのアルキルエステルに対して、通常0.01〜20質量%、好ましくは0.1〜15質量%、より好ましくは0.1〜10質量%の範囲である。
【0017】
また、反応で得られた生成物中の未反応脂肪族カルボン酸量を分析するため、反応生成物を窒素バブリングして溶存しているアミンガスを放出させた後、酸価の測定を行う。
酸価とは、試料1g中に含まれる遊離脂肪族カルボン酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数をいい、その測定方法は公定書「JIS K 0070,AOCS Te 2a−64」に記載の試験法に準拠して行う。即ち、試料(例えば、予想される酸価が1未満の場合は20g、酸価が1〜5の場合は20〜5gなど)を、三角フラスコに正しくはかりとり、そこに1%フェノ−ルフタレイン指示薬溶液を加えて使用直前に微紅色に中和したトルエン(1級)−エタノ−ル(1級)混合溶剤(2+1)を約30 mL加えて溶解させる( 試料が溶解しにくい場合は、湯浴で加温溶解して冷却させる)。酸価が低い場合は0.1 mol/L、また、高い場合(50以上の場合)は0.5 mol/L アルコ−ル性水酸化カリウム標準溶液で滴定し、微紅色が30秒間続いたところを終点とする。滴定に要したアルコ−ル性水酸化カリウム標準溶液の使用量A(mL)、アルコ−ル性水酸化カリウム標準溶液のファクタ−f、係数K(5.611(0.1 mol/L アルコ−ル性水酸化カリウム標準溶液使用時)、又は28.05(0.5 mol/L アルコ−ル性水酸化カリウム標準溶液使用時))及び試料採取量(g)を用いて下式より酸価を算出する。但し、酸価が10未満の時は有効数字二桁まで、また、10以上の時は有効数字三桁に丸める。
酸価 = (A×f×K)/試料採取量
【0018】
また、反応で得られた生成物の中で未反応脂肪族カルボン酸量以外の組成分析はガスクロマトグラフィーで測定できる。測定方法は、例えば、反応生成物をフラスコに0.03g採取した後、n−ヘキサンで5mLに希釈して測定サンプルを調製し、ガスクロマトグラフィー[ガスクロ装置:HEWLETT PACKARD Series 6850、カラム:J & W Scientific 製Ultra-2(カラム内径×長さ:0.2mm×25m)]で分析する。
脂肪族カルボン酸アミドの生成量は得られた酸価とガスクロマトグラフィーで測定した脂肪族カルボン酸アミドの組成値(%)(以下、アミドGC組成値と略す)から、下式に従って求められる。
[1 −(反応生成物の酸価/原料脂肪族カルボン酸の酸価)]× アミドGC組成値
【実施例】
【0019】
以下、酸価及び脂肪族カルボン酸アミドの生成量は、上述の方法により算出した。
触媒調製例1(触媒Aの調製)
イソプロピルアルコール100mLにチタンテトライソプロポキシド3.56g(12.5mmol)を溶解させてチタンテトライソプロポキシド溶液を得た。
10質量%テトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液(和光純薬工業(株)製)37.4g(テトラブチルアンモニウムヒドロキシド:14.4mmol)をイオン交換水約1.5Lに加え、室温下攪拌しながら、前記チタンテトライソプロポキシド溶液を徐々に滴下した。滴下とともにチタンテトライソプロポキシド溶液は加水分解して白濁するが、攪拌を続けるとやがて無色透明溶液となった。このときのTiO2換算濃度は0.05質量%であり、Ti/テトラブチルアンモニウムヒドロキシドのモル比は0.87であった。
得られた無色透明溶液をガラス板上に数滴滴下し、乾燥させた膜を用いてX線回折分析を行った。その結果、X線回折パターンでは、d値で16.60(角度2θで5.32°)付近に主ピーク(第1ピーク)が認められ、次いで第2ピークがd=8.56(10.33°)付近に、第3ピークがd=5.71(15.51°)付近に認められた。第1ピークに対して第2ピーク、第3ピークのd値はそれぞれ約1/2及び1/3になっていることから層構造であることが確認でき、第1ピークの相関距離がテトラブチルアンモニウムヒドロキシドの分子サイズに相当することより、層間に有機カチオンが挟まれた構造と推定された。また、無色透明溶液をラマン分光分析した結果、層状チタン酸(レピドクロサイト型層状酸化チタン)に特有の278cm-1、442cm-1、702cm-1付近にピークが認められた。この無色透明溶液の溶媒を留去して濃縮してTiO2換算で1.0gの粉体(触媒A)を含む懸濁液約50gを得た。
【0020】
触媒調製例2(触媒Bの調製)
イソプロピルアルコール100mLにチタンテトライソプロポキシド3.56g(12.5mmol)を溶解させてチタンテトライソプロキシド溶液を得た。
ジメチルオクチルアミン2.55g(14.4mmol)をイオン交換水約0.25L及びイソプロピルアルコール1250gの混合溶媒に加え、室温下攪拌しながら、前記チタンテトライソプロキシド溶液を徐々に滴下した。滴下直後より、溶液は白濁したが、攪拌を続け無色透明溶液を得た。このときのTiO2換算濃度は0.07質量%であり、Ti/ジメチルオクチルアミンのモル比は0.87あった。
この溶液について、ラマン分光分析を行った結果、層状チタン酸(レピドクロサイト型層状酸化チタン)に類似するピークが認められた。この無色透明溶液の溶媒を留去して濃縮してTiO2換算で1.0gの粉体(触媒B)を含む懸濁液約65gを得た。
【0021】
実施例1(脂肪族カルボン酸アミドの製造)
撹拌器、ガス導入管、温度計及び脱水装置を装備した四つ口フラスコに、触媒Aを含む分散溶液約100g(TiO2換算で2.0g)とラウリン酸(花王(株)製ルナックL−98、酸価:279.4)500gを混合し、常圧下反応温度210℃で1100ml/minのジメチルアミンガスの導入を開始した時点を反応0時間とした。反応温度を240℃まで昇温させて後、温度を一定にして6.1時間反応させた。反応生成物の酸価は0.52であり、酸価から求めた脂肪族カルボン酸量とアミドGC組成値とから算出した脂肪族カルボン酸アミドの生成量は99.5%であった。
【0022】
実施例2(脂肪族カルボン酸アミドの製造)
実施例1において、触媒Aの代わりに触媒Bを含む分散溶液約130g(TiO2換算で2.0g)を使用して常圧下反応温度を250℃で一定にして反応を5.1時間行った以外は実施例1と同様に行った。反応生成物の酸価は0.27であり、酸価から求めた脂肪族カルボン量とアミドGC組成値とから算出した脂肪族カルボン酸アミドの生成量は99.4%であった。
【0023】
比較例1
実施例1において、触媒Aの代わりに酸化チタン粉末(石原産業(株)製MC−150)を2.0g使用した以外は実施例1と同様に行った。反応生成物の酸価は2.4であり、酸価から求めた脂肪族カルボン量とアミドGC組成値とから算出した脂肪族カルボン酸アミドの生成量は98.8%であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン及び/又は有機カチオンを含む層状チタン酸ナノシートを含有する固体酸触媒の存在下で脂肪族カルボン酸又はこれらのアルキルエステル(アルキル基の炭素数は1〜4)とモノ又はジアルキルアミン(アルキル基の炭素数は1〜4)から脂肪族カルボン酸アミドを製造する方法。
【請求項2】
有機カチオンが、炭素数2以上のアルキル基を有する、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン及び第4級アンモニウム水酸化物から選ばれる少なくとも1種のアミン類に由来する有機カチオンである請求項1記載の脂肪族カルボン酸アミドを製造する方法。
【請求項3】
固体酸触媒が、チタンアルコキシド又は水酸化チタンを、有機カチオンを生成する化合物と接触、反応させて得られる固形酸触媒である請求項1又は2に記載の脂肪族カルボン酸アミドを製造する方法。
【請求項4】
チタンアルコキシド又は水酸化チタン/アミン類のモル比が0.1〜2である請求項2又は3に記載の脂肪族カルボン酸アミドを製造する方法。
【請求項5】
脂肪族カルボン酸又はこれらのアルキルエステル(アルキル基の炭素数は1〜4)が、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数6〜22の飽和もしくは不飽和脂肪族カルボン酸又はこれらの脂肪族カルボン酸のアルキルエステル(アルキル基の炭素数は1〜4)である請求項1〜3のいずれか記載の脂肪族カルボン酸アミドを製造する方法。


【公開番号】特開2008−37835(P2008−37835A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−217426(P2006−217426)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】