説明

脂肪族ポリエステルの製造方法

【課題】脂肪族ポリエステル樹脂が含有する環状2量体を効率的に低減することのできる、脂肪族ポリエステル樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】溶融重縮合反応後の脂肪族ポリエステル樹脂を、2軸押出機を用いて、該2軸押出機出口における樹脂温度が220℃以上270℃以下の条件下で溶融押出脱揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリエステルの製造方法に関する。詳しくは、脂肪族ポリエステル中に含まれる環状2量体を効率よく除去することのできる、脂肪族ポリエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の枯渇や大気中の二酸化炭素増加などの環境問題に対する意識が高まってきており、プラスチック業界においても製品の製造から廃棄までのライフサイクルを考慮した環境問題への対策が急務となっている。
【0003】
こうした背景のもと、環境に優しいプラスチックとして、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールからなる脂肪族ポリエステルが注目されている。原料の脂肪族ジカルボン酸(例えばコハク酸やアジピン酸)は、植物由来のグルコースから発酵法を用いて製造でき、脂肪族ジオール(例えばエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール)も植物由来原料から製造できるので、化石燃料の省資源化をはかることができる。同時に、植物の育成により大気中の二酸化炭素が吸収されるため、二酸化炭素排出削減に大きく貢献することができる。更に、優れた生分解性を示すことも知られており、脂肪族ポリエステルは、環境に三重に優しいプラスチックであるといえる。
【0004】
しかしながら、脂肪族ポリエステルの成形品は、成形後一定期間放置すると、その表面に曇り(ブリード、白化現象と同義。)が生じて表面光沢が消失するという問題があった。こうした問題は、脂肪族ポリエステルの製造時、ポリエステルの生成と同時に生成される環状2量体が、成形後、一定期間経過した後に成形品の表面に白色物として析出することによるものである。このため、脂肪族ポリエステルから環状2量体を取り除く方法が研究されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、数平均分子量10,000以上の脂肪族ポリエステルの粉末、ペレット、成形品を、有機溶媒を用いて脂肪族ポリエステルの融点よりも低い温度で洗浄して環状2量体を含むオリゴマーを抽出除去する方法が記載されている。しかしながら、この方法では大量の有機溶媒を用いるため、その処理や回収にエネルギーや特別な装置を要するという問題があった。
【0006】
一方、特許文献2には、ベント付押出機を用いて乳酸系ポリエステル組成物ペレットを溶融させ、ポリエステル中のラクチドを脱揮により除去する方法が記載されている。しかしながら、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとからなる脂肪族ポリエステルが主体となるポリエステルへの適用は記載されていない。また、例えばコハク酸と1,4−ブタンジオールからなるポリブチレンサクシネート中に含有している環状2量体は、ラクチドより分子量が大きく、蒸気圧が低いため、特許文献2の実施例に記載された条件では、温度が低すぎて脱揮することが困難であった。
【特許文献1】特開2002−3606号公報
【特許文献2】特開平9−95603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記問題に鑑み、本発明は、脂肪族ポリエステル樹脂が含有する環状2量体を効率的に低減することのできる、脂肪族ポリエステル樹脂の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題に関して検討を行った結果、製造過程において、特定の条件下で溶融押出脱揮を行うことにより、環状2量体の低減が効果的にできことを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち本発明は、エステル化反応と溶融重縮合反応とを経てポリエステルを得る、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを主成分とする脂肪族ポリエステルの製造方法であって、溶融重縮合反応後の脂肪族ポリエステル樹脂を、2軸押出機を用いて、該2軸押出機出口における樹脂温度が220℃以上270℃以下の条件下で溶融押出脱揮することを特徴とする、脂肪族ポリエステルの製造方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0010】
この態様において、脂肪族ポリエステルは、3官能以上の多官能化合物を共重合成分として含有することが好ましい。
【0011】
また、この態様において、2軸押出機は、該2軸押出機内の溶融ゾーンに少なくとも一箇所のベントを有しており、かつ該ベント部の圧力が40kPa以下にされていることが好ましく、更に、2軸押出機は、該2軸押出機内の溶融ゾーンに少なくとも一箇所の液体注入口も有しており、2軸押出機に供給される脂肪族ポリエステル樹脂100質量部当り0.2〜10質量部の水を少なくとも一箇所以上の液体注入口から注入添加すると共に、該注入口の後ろ側のベントから40kPa以下の圧力で脱揮することが特に好ましい。
【0012】
また、この態様において、脂肪族ポリエステル樹脂の製造方法が連続製造方法であり、溶融重縮合反応後に引き続き連続溶融押出脱揮が行われることも好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、樹脂中の環状2量体が低減された脂肪族ポリエステル樹脂を得ることができる。そのため、樹脂の成形時には環状2量体に起因する口金の汚れ、金型の汚れを低減することができると共に、表面外観の経時による曇りのない品質良好な成形品を得ることができる。
【0014】
本発明のこのような作用及び利得は、次に説明する発明を実施するための最良の形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の製造方法により製造される脂肪族ポリエステルは、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを主成分とするポリエステルであり、エステル化反応とそれに続く溶融重縮合反応によって製造される。ここで、「脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを主成分とする」とは、本発明のポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分の85モル%以上が脂肪族ジカルボン酸であり、本発明のポリエステルを構成する全ジオール成分の85モル%以上が脂肪族ジオールであることをいう。以下、脂肪族ポリエステルの原料及び本発明の製造方法について、詳細に説明する。
【0016】
(1)脂肪族ポリエステルの原料
脂肪族ポリエステルの原料である脂肪族ジカルボン酸成分としては、具体的には、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカジカルボン酸、ダイマー酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などが挙げられる。これら脂肪族ジカルボン酸は、単独で用いても2種以上併用してもよい。これらの中でも、得られるポリエステルの物性の面から、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸が好ましく、特にはコハク酸が好ましい。コハク酸は得られる脂肪族ポリエステルの融点(耐熱性)、生分解性、力学特性の観点から全脂肪族ジカルボン酸に対して50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上がより好ましく、特に好ましくは90モル%以上である。
【0017】
また、ジカルボン酸成分として、上記脂肪族ジカルボン酸の他に、芳香族ジカルボン酸を併用してもよく、芳香族ジカルボン酸の具体的な例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸等が挙げられる。芳香族ジカルボン酸も、単独で用いても2種以上用いてもよい。
【0018】
脂肪族ポリエステルの他の原料である脂肪族ジオール成分としては、具体的には、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられ、これらは単独で用いても2種以上併用してもよい。これらの中でも、得られるポリエステルの物性の面から、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましく、特に1,4−ブタンジオールが好ましい。1,4−ブタンジオールは、得られる脂肪族ポリエステルの融点(耐熱性)、生分解性、力学特性の観点から全脂肪族ジオールに対して50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上がより好ましく、特に好ましくは90モル%以上である。
【0019】
本発明において、脂肪族ポリエステルには、上記のジカルボン酸成分及び脂肪族ジオール成分の他の構成成分を含有させてもよい。その他の構成成分となる共重合成分としては、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシ3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−ヒドロキシイソカプロン酸、リンゴ酸、クエン酸、及びこれらオキシカルボン酸のエステル、ラクトン、オキシカルボン酸重合体などのオキシカルボン酸類;マレイン酸やフマル酸等の不飽和カルボン酸;グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の3官能以上の多価アルコール;プロパントリカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸ベンゾフェノンテトラカルボン酸及びこれらの無水物などの3官能以上の多価カルボン酸又はその無水物;等が挙げられる。
【0020】
特に、3官能以上のオキシカルボン酸、3官能以上の多価アルコール、3官能以上の多価カルボン酸などの多官能化合物は、共重合成分として少量加えることにより、高粘度のポリエステルが得られるため好ましい。中でも、リンゴ酸、クエン酸などのオキシカルボン酸が好ましく、特にはリンゴ酸が好ましく用いられる。これら3官能以上の多官能化合物を加える場合、その量は、全ジカルボン酸成分に対して、0.001〜5モル%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.5モル%である。この範囲の上限超過ではゲル(未溶融物)が生成しやすく、下限未満では粘度上昇の効果が得にくい傾向がある。
【0021】
本発明の製造方法においては、反応の促進のために、エステル化反応や重縮合反応で反応触媒を添加することもできる。エステル化反応においては無触媒でも十分な反応速度を得ることができるが、重縮合反応においては無触媒では反応が進みにいため、触媒を用いることが好ましい。
【0022】
エステル化反応触媒としては後述する重縮合触媒と同様のものを使用することができ、中でも、チタン化合物、ジルコニウム化合物、ゲルマニウム化合物が好ましい。
【0023】
重縮合反応触媒としては、一般には、周期表1〜14族の金属元素のうち少なくとも1種を含む化合物が用いられる。金属元素としては、具体的には、スカンジウム、イットリウム、サマリウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、錫、アンチモン、セリウム、ゲルマニウム、亜鉛、コバルト、マンガン、鉄、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ナトリウム及びカリウム等が挙げられる。その中では、スカンジウム、イットリウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、モリブデン、タングステン、亜鉛、鉄、ゲルマニウムが好ましく、特に、チタン、ジルコニウム、タングステン、鉄、ゲルマニウムが好ましい。更に、ポリエステルの熱安定性に影響を与えるカルボキシル基末端濃度を低減させるためには、上記金属の中では、ルイス酸性を示す周期表3〜6族の金属元素が好ましい。具体的には、スカンジウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、モリブデン、タングステンであり、特に、入手のし易さからチタン、ジルコニウムが好ましい。
【0024】
本発明においては、触媒として、これらの金属元素を含むカルボン酸塩、アルコキシ塩、有機スルホン酸塩又はβ―ジケトナート塩等の有機基を含む化合物、更には前記した金属の酸化物、ハロゲン化物等の無機化合物及びそれらの混合物が好ましく用いられる。
【0025】
また、白水春雄著「粘土鉱物学」朝倉書店(1995年)等に記載される公知の層状珪酸塩を単独であるいは上記金属化合物と組み合わせた触媒を使用すると、重縮合速度が向上する場合があるため、このような触媒系もまた好ましく用いられる。
【0026】
層状珪酸塩としては、具体的には、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイト、メタハロイサイト、ハロイサイト等のカオリン族、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライト等の蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト等のスメクタイト族、バーミキュライト等のバーミキュライト族、雲母、イライト、セリサイト、海緑石等の雲母族、アタパルジャイト、セピオライト、パリゴルスカイト、ベントナイト、パイロフィライト、タルク及び緑泥石群等が挙げられる。
【0027】
本発明においては、触媒は、重合時に溶融あるいは溶解した状態であると重合速度が高くなる理由から、重合時に液状であるか、エステル低重合体やポリエステルに溶解する化合物が好ましい。また、重縮合は無溶媒で行うことが好ましいが、これとは別に、触媒を溶解させるために少量の溶媒を使用してもよい。この触媒溶解用の溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール類、エチレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオールなどの前述のジオール類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、ヘプタン、トルエン等の炭化水素化合物、水ならびにそれらの混合物等が挙げられ、その使用量は、触媒濃度が、通常0.0001質量%以上、99質量%以下となるように使用する。
【0028】
チタン化合物としては、テトラアルキルチタネート及びその加水分解物が好ましく、具体的には、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−t−ブチルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラベンジルチタネート及びこれらの混合チタネート、及びこれらの加水分解物が挙げられる。また、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタン(ジイソプロキシド)アセチルアセトネート、チタンビス(アンモニウムラクテイト)ジヒドロキシド、チタンビス(エチルアセトアセテート)ジイソプロポキシド、チタン(トリエタノールアミネート)イソプロポキシド、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、ブチルチタネートダイマー等も好んで用いられる。また、アルコール、アルカリ土類金属化合物、リン酸エステル化合物、及びチタン化合物を混合することにより得られる液状物も用いられる。これらの中では、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート及びテトラ−n−ブチルチタネート、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンビス(アンモニウムラクテイト)ジヒドロキシド、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタンラクテート、ブチルチタネートダイマー及び、アルコール、アルカリ土類金属化合物、リン酸エステル化合物、及びチタン化合物を混合することにより得られる液状物、が好ましく、テトラ−n−ブチルチタネート、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタンラクテート、ブチルチタネートダイマー及び、アルコール、アルカリ土類金属化合物、リン酸エステル化合物、及びチタン化合物を混合することにより得られる液状物がより好ましく、特に、テトラ−n−ブチルチタネート、ポリヒドロキシチタンステアレート、チタン(オキシ)アセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート及び、アルコール、アルカリ土類金属化合物、リン酸エステル化合物、及びチタン化合物を混合することにより得られる液状物が好ましい。
【0029】
ジルコニウム化合物としては、具体的には、ジルコニウムテトラアセテート、ジルコニウムアセテートヒドロキシド、ジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレート、ジルコニルジアセテート、シュウ酸ジルコニウム、シュウ酸ジルコニル、シュウ酸ジルコニウムアンモニウム、シュウ酸ジルコニウムカリウム、ポリヒドロキシジルコニウムステアレート、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウムテトラ−t−ブトキシド、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネートならびにそれらの混合物が例示される。これらの中では、ジルコニルジアセテート、ジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレート、ジルコニウムテトラアセテート、ジルコニウムアセテートヒドロキシド、シュウ酸ジルコニウムアンモニウム、シュウ酸ジルコニウムカリウム、ポリヒドロキシジルコニウムステアレート、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウムテトラ−t−ブトキシドが好ましく、ジルコニルジアセテート、ジルコニウムテトラアセテート、ジルコニウムアセテートヒドロキシド、ジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレート、シュウ酸ジルコニウムアンモニウム、ジルコニウムテトラ−n−プロポキシド、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシドがより好ましく、特にジルコニウムトリス(ブトキシ)ステアレートが着色のない高重合度のポリエステルが容易に得られることから好ましい。
【0030】
ゲルマニウム化合物としては、具体的には、酸化ゲルマニウムや塩化ゲルマニウム等の無機ゲルマニウム化合物、テトラアルコキシゲルマニウムなどの有機ゲルマニウム化合物が挙げられる。価格や入手の容易さなどから、酸化ゲルマニウム、テトラエトキシゲルマニウム及びテトラブトキシゲルマニウムなどが好ましく、特に、酸化ゲルマニウムが好ましい。
【0031】
その他の金属含有化合物としては、炭酸スカンジウム、スカンジウムアセテート、スカンジウムクロリド、スカンジウムアセチルアセトネート等のスカンジウム化合物、炭酸イットリウム、イットリウムクロリド、イットリウムアセテート、イットリウムアセチルアセトネート等のイットリウム化合物、バナジウムクロリド、三塩化バナジウムオキシド、バナジウムアセチルアセトネート、バナジウムアセチルアセトネートオキシド等のバナジウム化合物、モリブデンクロリド、モリブデンアセテート等のモリブデン化合物、タングステンクロリド、タングステンアセテート、タングステン酸等のタングステン化合物、セリウムクロリド、サマリウムクロリド、イッテルビウムクロリド等のランタノイド化合物等が挙げられる。
【0032】
重縮合触媒として金属化合物を用いる場合の触媒添加量は、生成するポリエステルに対する金属量として、下限値が通常、0.1ppm以上、好ましくは0.5ppm以上、より好ましくは1ppm以上であり、上限値が通常、3000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは250ppm以下、特に好ましくは130ppm以下である。使用する触媒量が多すぎると、経済的に不利であるばかりでなく、理由は未だ詳らかではないが、ポリエステル中のカルボキシル基末端濃度が多くなる場合があるため、カルボキシル基末端量ならびに残留触媒濃度の増大によりポリエステルの熱安定性や耐加水分解性が低下する場合がある。逆に少なすぎると重合活性が低くなり、それに伴いポリエステル製造中にポリエステルの熱分解が誘発され、実用上有用な物性を示すポリエステルが得られにくくなる。
【0033】
触媒の反応系への添加位置は、重縮合反応工程以前であれば特に限定されず、原料仕込み時に添加しておいてもよいが、水が多く存在、もしくは発生している状況下で触媒が共存すると触媒が失活し、異物が析出する原因となり製品の品質を損なう場合があるため、エステル化反応工程以後に添加するのが好ましい。
【0034】
(2)脂肪族ポリエステルの製造方法
本発明の脂肪族ポリエステルの製造方法は、溶融重縮合反応後の脂肪族ポリエステル樹脂を、2軸押出機を用いて溶融押出脱揮を行うことを特徴とするものであり、重縮合反応工程までの反応装置としては、公知のポリエステルの製造に用いられるものを採用することができる。
【0035】
以下に、脂肪族ジカルボン酸としてコハク酸、脂肪族ジオールとして1,4−ブタンジオール、多官能化合物としてリンゴ酸を原料とした、本発明にかかる脂肪族ポリエステルの製造方法の好ましい実施態様について、添付図面の参照符号を付記しつつ説明するが、本発明は図示の形態に限定されるものではない。
【0036】
図1は、本発明におけるエステル化反応工程の一実施形態を示す概略図、図2は、本発明における重縮合工程の一実施形態を示す概略図、図3は、押出脱揮用ベント付、液体注入口付2軸押出機の一実施形態を示す概略図である。
【0037】
図1において、原料のコハク酸、リンゴ酸は、通常、原料混合槽(図示せず)で1,4−ブタンジオールと混合され、原料供給ライン1からスラリー又は液体の形態でエステル化反応槽Aに供給される。また、エステル化反応時に触媒添加する場合は、触媒調整槽(図示せず)で1,4−ブタンジオールの溶液とした後、エステル化槽触媒供給ライン3から供給される。
【0038】
ここで、コハク酸に対する1,4ブタンジオールの仕込みモル比は通常0.95〜2.0、好ましくは1.0〜1.7、より好ましくは1.05〜1.40である。また、コハク酸に対するリンゴ酸の仕込みモル%は0.05〜0.50モル%が好ましい。エステル化反応温度は、下限が通常150℃以上、好ましくは180℃以上、上限が通常260℃以下、好ましくは250℃以下である。反応雰囲気は、通常、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下である。反応圧力は通常、10kPa〜150kPaであるが、常圧が好ましい。反応時間は、通常1時間以上であり、上限が通常10時間以下、好ましくは、4時間以下であり、エステル化率を、通常80%以上、好ましくは88%以上とした後、次工程の溶融重縮合反応工程に送られる。
【0039】
本発明に用いるエステル化反応槽Aとしては、公知のものが使用でき、縦型攪拌完全混合槽、縦型熱対流式混合槽、塔型連続反応槽等の型式のいずれであってもよく、又、単数槽としても、同種又は異種の槽を直列させた複数槽としてもよい。中でも攪拌装置を有する反応槽が好ましく、攪拌装置としては、動力部及び軸受、軸、攪拌翼からなる通常のタイプの他、タービンステーター型高速回転式攪拌機、ディスクミル型攪拌機、ローターミル型攪拌機等の高速回転するタイプも用いることができる。
【0040】
攪拌の形態にも制限はなく、反応槽中の反応液を反応槽の上部、下部、横部等から直接攪拌する通常の攪拌方法の他、反応液の一部を反応槽の外部に配管等で持ち出してラインミキサ−等で攪拌し、反応液を循環させる方法もとることができる。また、攪拌翼の種類も公知のものが選択でき、具体的にはプロペラ翼、スクリュー翼、タービン翼、ファンタービン翼、デイスクタービン翼、ファウドラー翼、フルゾーン翼、マックスブレンド翼等が挙げられる。
【0041】
エステル化反応槽Aから留出するガスは、留出ライン5を経て精留塔Cで高沸成分と低沸成分とに分離される。通常、高沸成分の主成分は1,4−ブタンジオールであり、低沸成分の主成分は、水及びテトラヒドロフランである。
【0042】
精留塔Cで分離された高沸成分は、抜出ライン6から抜き出され、ポンプDを経て、一部は再循環ライン2から反応槽Aに循環され、一部は循環ライン7から精留塔Cに戻される。また、余剰分は抜出ライン8から外部に抜き出される。一方、精留塔Cで分離された軽沸成分はガス抜出ライン9から抜き出され、コンデンサGで凝縮され、凝縮液ライン10を経てタンクFに一時溜められる。タンクFに集められた軽沸成分の一部は、抜出ライン11、ポンプE及び循環ライン12を経て精留塔Cに戻され、残部は、抜出ライン13を経て外部に抜き出される。コンデンサGはベントライン14を経て排気装置(図示せず)に接続されている。反応槽A内で生成したエステル化反応物は、抜出ポンプB及びエステル化反応物の抜出ライン4を経て第1重縮合反応槽aに供給される。
【0043】
図1に示す工程においては、再循環1,4−ブタンジオールの再循環ライン2にエステル化槽触媒供給ライン3を連結し、両者を混合した後、反応槽Aの液相部に供給する態様が示されているが、両者は独立していてもよい。また、原料供給ライン1は反応槽Aの液相部に接続されていてもよい。また、重縮合前のエステル化反応物に触媒を添加する場合は、調製槽(図示せず)で所定濃度に調製した後、図2における触媒供給ラインL7を経て、エステル化反応物の抜出ライン4に供給される。
【0044】
抜出ライン4から図2に示される第1重縮合反応槽aに供給されたエステル化反応物は、減圧下に重縮合されてポリエステル低重合体となり、その後、抜出用ギヤポンプc及び抜出ラインL1を経て第2重縮合反応槽dに供給される。第2重縮合反応槽dでは、通常、第1重縮合反応槽aよりも低い圧力で更に重縮合反応が進められる。得られた重縮合物は、引き続き抜出用ギヤポンプe及び抜出ラインL3を経て、第3重縮合反応槽kに供給され、更に重縮合反応が進められる。符号L2、L4、L6は、それぞれ、第1重縮合反応槽a、第2重縮合反応槽d、第3重縮合反応槽kのベントラインである。
【0045】
本発明に用いる重縮合反応槽の型式に特に制限はなく、例えば、縦型攪拌重合槽、横型攪拌重合槽、薄膜蒸発式重合槽などを挙げることができる。重縮合反応槽は、1基とすることも、図示のように同種又は異種の複数基の槽を直列させた複数槽とすることもできるが、複数槽とすることが好ましく、反応液の粘度が上昇する重縮合の後期は界面更新性とプラグフロー性、セルフクリーニング性に優れた薄膜蒸発機能を有した横型攪拌重合槽を選定することが好ましい。例えば本実施態様において、第3重縮合反応槽kは、複数個の攪拌翼ブロックで構成され、2軸のセルフクリーニングタイプの攪拌翼を具備した横型の反応槽である。
【0046】
重縮合反応は、通常、減圧下で行われる。重縮合反応槽の反応圧力は、下限が通常0.01kPa以上、好ましくは0.03kPa以上であり、上限が通常1.4kPa以下、好ましくは0.4kPa以下である。重縮合反応時の圧力が高すぎると、重縮合時間が長くなり、それに伴いポリエステルの熱分解による分子量低下や着色が引き起こされ、実用上充分な特性を示すポリエステルの製造が難しくなる傾向がある。一方、超高真空重縮合設備を用いて製造する手法は重縮合反応速度を向上させる観点からは好ましい態様であるが、極めて高額な設備投資が必要となるため、経済的には不利である。反応温度は、下限が通常150℃以上、好ましくは180℃以上であり、上限が通常270℃以下、好ましくは260℃以下の範囲である。この温度が低すぎると、重縮合反応速度が遅く、高重合度のポリエステル製造に長時間を要するばかりでなく、高動力の撹拌機も必要となるため、経済的に不利である。一方、反応温度が高すぎると製造時のポリマーの熱分解が引き起こされ、高重合度のポリエステルの製造が難しくなる傾向がある。反応時間は、下限が通常1時間以上であり、上限が通常15時間以下、好ましくは8時間以下、より好ましくは6時間以下である。反応時間が短すぎると反応が不充分で高重合度のポリエステルが得にくく、その成形品の機械物性が劣る傾向となる。一方、反応時間が長すぎると、ポリエステルの熱分解による分子量低下が顕著となり、その成形品の機械物性が劣る傾向となるばかりでなく、ポリエステル樹脂の耐久性に悪影響を与えるカルボキシル基末端量が熱分解により増加する場合がある。
【0047】
第3重縮合反応槽kで重縮合反応を終えた脂肪族ポリエステルは、抜出用ギヤポンプmを経てダイスヘッドgから溶融したストランドの形態で抜き出され、水などで冷却された後、回転式カッターhで切断されてペレットとされるか、又は溶融状態のままで、抜出用ギヤポンプn及び抜出ラインL8を経て2軸押出機に導入され脱揮される。
【0048】
図3は、本発明において好ましく用いられる押出脱揮用ベント付、液体注入口付2軸押出機の一実施形態を示す概略図である。図3において、2軸押出機20は、溶融ゾーン21に液体注入ラインL10、L12とそれぞれ繋がる液体注入口22、24と、ベントラインL11、L13とそれぞれ繋がるベント23、25とを有しており、両端にそれぞれモーター26とダイスヘッド27を有している。
【0049】
回転式カッターhによってペレット化されたポリエステル樹脂又はL8より取り出された溶融ポリエステル樹脂は、原料供給ラインL9を通じて2軸押出機20内に供給される。2軸押出機20では液体注入口22、24を通じて水が注入され、ベント23、25を通じて減圧されることにより、ポリエステル樹脂の脱揮が効果的になされ、ポリエステル樹脂中の環状2量体が低減される。ベント部の圧力は40kPa以下が好ましく、より好ましくは10kPa以下である。下限は低圧である方がよいが、通常0.05kPaである。
【0050】
押出機出口、すなわちダイスヘッド27における樹脂温度は、220℃以上270℃以下であることが必要であり、好ましくは上限は265℃、下限は230℃である。樹脂温度が下限以下では環状2量体の低減効果が少なく、また、上限以上ではポリエステル樹脂の熱分解が起こりやすく、品質の劣化を招きやすい。
【0051】
本発明において、脱揮効果を高める観点から、2軸押出機20には図示のように少なくとも一箇所のベント23、25及び液体注入口22、24を設け、液体注入口22、24から注入添加すると共に該注入口の後ろ側のベント23、25から脱揮することが好ましい。図示の形態は液体注入口及びベントがそれぞれ2個ずつの例であるが、これらは1個又は3個以上であってもよい。
【0052】
特に、押出機に供給される脂肪族ポリエステル樹脂100質量部当り0.2〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部の量の水を、少なくとも一箇所の押出機用液体注入口から注入添加すると共に、該注入口後ろ側のベントから40kPa以下の圧力で脱揮すると、環状2量体が効率的に低減できるため好ましい。
【0053】
2軸押出機20で脱揮されたポリエステル樹脂は、ダイスヘッド27、カッターuを通ってペレット化され、公知の方法で射出成形や押出成形されるか、あるいは、溶融状態のまま成形機に供給されフィルム、繊維などに押出成形される。
【0054】
図示の形態においては、連続式にエステル化反応及び溶融重縮合反応を行い、脂肪族ポリエステルを製造する方法が示されているが、これらの反応は連続式であっても回分式(バッチ式)であってもよい。中でも、連続式で、好ましくは横型撹拌重合機を用いて溶融重縮合することが特に好ましい。
【0055】
この特に好ましい理由としては、連続式とすることで短い滞留時間で重合できるため、末端カルボキシル基濃度を低減でき、色調を向上できることや、重縮合時に横型撹拌重合機内で環状2量体の脱揮が行われるため、重縮合終了時点での環状2量体含有量が回分式重合に比べ低下し、押出脱揮後の環状2量体量を更に低減することができることが挙げられる。また、溶融重縮合後にペレット化してから2軸押出機に導入すると、ペレット化、押出機による再溶融等の手間、エネルギーが余計にかかることとなることから、後述の押出脱揮を効率的に行うには、連続式で溶融重縮合後、ポリエステル樹脂をペレット化することなく溶融状態で2軸押出機に導入し、連続押出脱揮することが好ましい。
【実施例】
【0056】
以下に実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下で行う物性及び評価項目の測定方法は次の通りである。
【0057】
<触媒中の金属元素分析>
試料0.1gをケルダールフラスコ中で硫酸存在下、過酸化水素で湿式分解の後、蒸留水にて定容したものについて、プラズマ発光分光分析装置(JOBIN YVON社製ICP−AES ULtrace JY−138U型)を用いて定量分析し、触媒中の金属含量(質量%)に換算した。
【0058】
<触媒溶液のpH分析>
東亜DKK社製自動滴定装置(AUT−301型)を用い、大気下でpH電極を液状触媒に浸して測定した。
【0059】
<エステル化率>
以下の計算式(1)によって酸価及びケン化価から算出した。酸価は、ベンジルアルコールに試料を溶解させ、0.1NのKOH/メタノール溶液を使用して滴定により求めた。ケン化価は0.5NのKOH/エタノール溶液でオリゴマーを加水分解し、0.5Nの塩酸で滴定し求めた。
エステル化率=((ケン化価−酸価)/ケン化価)×100・・・(1)
【0060】
<固有粘度(IV)>
ウベローデ型粘度計を使用し次の要領で求めた。すなわち、フェノール/テトラクロロエタン(質量比1/1)の混合溶媒を使用し、30℃において、濃度0.5g/dLのポリマー溶液及び溶媒のみの落下秒数を測定し、以下の式(2)より求めた。
IV=((1+4KηSP0.5−1)/(2KC)・・・(2)
(但し、ηSP=η/η−1であり、ηはポリマー溶液落下秒数、ηは溶媒の落下秒数、Cはポリマー溶液濃度(g/dL)、Kはハギンズの定数である。Kは0.33を採用した。)
【0061】
<環状2量体含有量>
ポリエステルの環状2量体含有量の測定は、高速液体クロマトグラフ分析を用いて下記条件で行った。
使用機種: GLサイエンス社製高速液体クロマトグラフィー
移動相: アセトニトリル/水(容量比4/6)
カラム: 資生堂社製「SHISEIDO CAPCELL PAK C−18 TYPE MG」
カラムオーブン温度: 40℃
流速: 1.0mL/分
検出器:UV検出器(検出波長:210nm)
【0062】
ポリエステル試料0.5gをクロロホルム10mLに室温で溶解させ、エタノール/水(容量比8/2)混合溶媒30mLを加えてポリマー部分を沈殿させた。2mLの上澄み液を採取し、室温で溶媒を留去後、得られた固体を2mLのアセトニトリルに再溶解させた。アセトニトリル溶液中の環状2量体含有量(質量%)はUV検出器を用い、環状2量体純粋品を用いた絶対検量線法で決定した。
【0063】
環状2量体純粋品は下記のようにして得られた。すなわち、コハク酸と1,4−ブタンジオールを重合して得られたポリマーペレットをアセトン中50℃で12時間撹拌して、オリゴマー成分を抽出した。抽出終了後、ペレットを濾別し、オリゴマー成分を抽出したアセトン溶液から、アセトンを揮発させて固形物を得た。この固形物をアセトン中50℃で飽和溶液となるように溶解した後、徐冷し、上澄みを捨て、針状の析出物を取り出し、更に数回この再結晶操作を繰り返して精製した。この針状析出物は、1H−NMR分析及び高速液体クロマトグラフ分析にて環状2量体であることが確認された。
【0064】
<末端カルボキシル基濃度:AV 当量/トン 、eq/t>
ベンジルアルコール25mLにポリエステル試料0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01Nベンジルアルコール溶液を使用して滴定し、以下の式(3)より求めた。
(当量/トン)=(A−B)×0.01×f/W・・・(3)
【0065】
ここで、Aは、滴定に要した0.01Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の量(μL)、Bは、ベンジルアルコール25mLのみでの滴定に要した0.01Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の量(μL)、Wは、試料の質量(g)、fは、0.01Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の力価である。
【0066】
(実施例1)
[触媒溶液の調製]
撹拌装置付き500mlのガラス製ナス型フラスコに酢酸マグネシウム・4水和物を62.0g入れ、更に250gの無水エタノール(純度99%以上)を加えた。更にエチルアシッドホスフェート(モノエステル体とジエステル体の混合質量比は45:55)を35.8g加え、23℃で撹拌を行った。15分後に酢酸マグネシウムが完全に溶解したことを確認後、テトラ−n−ブチルチタネートを75.0g添加した。更に10分間撹拌を継続し、均一混合溶液を得た。この混合溶液を、1Lのナス型フラスコに移し、60℃のオイルバス中でエバポレーターによって減圧下で濃縮を行った。約1時間後に殆どのエタノールが留去され、半透明の粘稠な液体が残った。オイルバスの温度を更に80℃まで上昇させ、665Paの減圧下で更に濃縮を行った。粘稠な液体は表面から粉体状へと徐々に変化し、約2時間後には完全に粉体化した。その後、窒素を用いて常圧に戻し、室温まで冷却し、淡黄色粉体108gを得た。得られた触媒の金属元素分析値は、チタン原子含有量が10.3質量%、マグネシウム原子含有量が6.8質量%、リン原子含有量が7.8質量%であり、各原子のモル比としては、チタン/リン=0.78、マグネシウム/リン=1.0であった。また、エタノール溶媒を除く原料総質量に対して37%の製造時質量減少率が認められた。なお、この粉体においては、エチルアシッドホスフェート由来のエタノールやテトラ−n−ブチルチタネート由来のブタノール、1,4−ブタンジオールのアルコキシド基由来の吸収がNMR上で観測されず、本触媒のチタン金属には有機アルコキシド基が結合していないことが判明した。
【0067】
更に、粉体状の触媒を1,4−ブタンジオールに溶解させ、チタン原子として3.4質量%となるように調製した。1,4−ブタンジオール中における保存安定性は良好であり、窒素雰囲気下40℃で保存した触媒溶液は少なくとも40日間析出物の生成は認められなかった。また、この触媒溶液のpHは6.1であった。
【0068】
[脂肪族ポリエステルのバッチ式重合による製造]
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置及び温度計を備えたエステル化反応槽に、窒素雰囲気下で、コハク酸110質量部、1,4―ブタンジオール109質量部、ならびにリンゴ酸0.4質量部を仕込み、系内を撹拌しながら230℃に昇温してエステル化反応させた。反応時間は2.5時間であった。次に、この反応生成物を、攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計及び減圧用排気口を備えた重縮合反応槽に移した後に予め前述手法にて調製した触媒溶液0.8質量部を反応生成物に添加し、250℃で5.5時間、減圧下で重縮合反応を実施することにより、脂肪族ポリエステルを得た。到達真空度は0.07kPaであった。この脂肪族ポリエステルを、窒素雰囲気下で600kPaの加圧下で5分間静置後、600kPaの加圧下で反応槽の底部からストランドとして押し出した。押し出された溶融状態のストランドを、15℃の冷却水と接触させて冷却した。このようにして冷却されたストランドは、カッターにより連続的に切断され、ペレットとして回収した。得られた脂肪族ポリエステル樹脂の固有粘度は2.04dL/g、末端カルボキシル基濃度は53当量/トンであった。
【0069】
[溶融押出脱揮]
上記重合で得られた脂肪族ポリエステル樹脂ペレットをイナートオーブンにて80℃、12時間窒素下で乾燥を行い、乾燥後のペレットを口径30mm、L/D=52.5の同方向回転の2軸押出機で脱揮処理を行った。押出機シリンダブロックは全部で14ブロックあり、ペレット供給側が第1ブロック、ダイスヘッド側が第14ブロックである。第1ブロックは通水冷却し、シリンダーの設定温度は第2ブロックは50℃、第3ブロックは140℃、第4から第14ブロックの設定温度は220℃とし、スクリュー回転数を350rpmに設定した。第1ブロックより重合で得られた脂肪族ポリエステル樹脂ペレットを重量式定量フィーダーを用いて5kg/hで連続的に供給した。ペレットを5kg/hで供給した際にペレットフィードから溶融樹脂がダイスより出るまでの押出機内滞留時間は5分から6分であった。第5ブロックで脂肪族ポリエステル樹脂に対して0.5質量%のイオン交換水を液添ポンプにて連続供給し、第6ブロックのベント口より真空ポンプにて脱揮した。更に第11ブロックで脂肪族ポリエステル樹脂に対して0.5質量%のイオン交換水を液添ポンプにて連続供給し、第13ブロックのベント口より真空ポンプにて脱揮した。第5及び第11ブロックの注水部位のスクリューにはニーディングエレメントを使用し、ニーディング部の前後にはシールリングを装着し、注水部分で水を分散させるようにした。ダイヘッドの温度は第14ブロックと同じ設定とした。ダイから出たストランドを水槽で冷却した後、回転式カッターでカッティングし、脱揮処理後の脂肪族ポリエステル樹脂ペレットを得た。第6ブロック及び第11ブロックのベント口の圧力は9kPaで、ダイ出口における樹脂の温度を樹脂温度計で計測すると232℃であった。脱揮処理前と脱揮処理後の脂肪族ポリエステル樹脂の環状2量体量、固有粘度、末端カルボキシル基濃度をまとめて表1に示す。
【0070】
(実施例2)
実施例1の押出溶融脱揮において第4ブロックから第14ブロック及びダイヘッドの設定温度を235℃に変えた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0071】
(実施例3)
実施例1の押出溶融脱揮において第4ブロックから第14ブロック及びダイヘッドの設定温度を250℃に変えた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0072】
(実施例4)
実施例1の押出溶融脱揮において第6ブロック及び第13ブロックのベント口の圧力を33kPaに変えた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0073】
(実施例5)
実施例2の押出溶融脱揮において第5及び第10ブロックでの注水量をそれぞれ樹脂に対して0に変えた以外は実施例2と同様に行った。結果を表1に示す。
【0074】
(実施例6)
実施例2の押出溶融脱揮において第5及び第10ブロックでの注水量をそれぞれ樹脂に対して4質量%に変えた以外は実施例2と同様に行った。結果を表1に示す。
【0075】
(実施例7)
実施例1の押出溶融脱揮において第6ブロック及び第13ブロックのベント口の圧力を50kPaに変えた以外は実施例2と同様に行った。結果を表1に示す。
【0076】
(実施例8)
脂肪族ポリエステル樹脂を連続式溶融重縮合法で作製し、溶融状態のまま2軸押出機に供給して脱揮を行った。
【0077】
[脂肪族ポリエステルの連続式重合による製造]
図1に示すエステル化工程と図2に示す重縮合工程を通し、次の要領で脂肪族ポリエステル樹脂の製造を行った。まず、コハク酸1.00モルに対して、1,4−ブタンジオール1.30モル及びリンゴ酸0.0033モルの割合で混合した60℃のスラリーをスラリー調製槽から原料供給ライン(1)を通じ、予め、エステル化率99%の脂肪族ポリエステル低重合体を溶融充填したスクリュー型攪拌機を有するエステル化反応槽(A)に、42kg/hとなるように連続的に供給した。同時に、再循環ライン(2)から100℃の精留塔(C)の塔底成分(98質量%以上が1,4−ブタンジオール)を3.0kg/hで供給した。
【0078】
反応槽(A)の内温は230℃、圧力は101kPaとし、生成する水とテトラヒドロフラン及び余剰の1,4−ブタンジオールを、留出ライン(5)から留出させ、精留塔(C)で高沸成分と低沸成分とに分離した。系が安定した後の塔底の高沸成分は、98質量%以上が1,4−ブタンジオールであり、精留塔(C)の液面が一定になるように、抜出ライン(8)を通じてその一部を外部に抜き出した。一方、水とテトラヒドロフランを主体とする低沸成分は塔頂よりガスの形態で抜き出し、コンデンサ(G)で凝縮させ、タンク(F)の液面が一定になるように、抜出ライン(13)より外部に抜き出した。
【0079】
反応槽(A)で生成したエステル化反応物の一定量は、ポンプ(B)を使用し、エステル化反応物の抜出ライン(4)から抜き出し、反応槽(A)内液のコハク酸ユニット換算での平均滞留時間が3時間になるように液面を制御した。抜出ライン(4)から抜き出したエステル化反応物は、第1重縮合反応槽(a)に連続的に供給した。系が安定した後、反応槽(A)の出口で採取したエステル化生成物のエステル化率は90.6%であった。
【0080】
実施例1にて調製した触媒溶液を更に1,4−ブタンジオールで希釈して、チタン原子としての濃度を0.17質量%とした液を供給ライン図2(L7)を通じてエステル化反応物の抜出ライン(4)に1.0kg/hで供給した。
【0081】
第1重縮合反応槽(a)の内温は250℃、圧力2.7kPaとし、滞留時間が120分になるように液面制御を行った。減圧機(図示せず)に接続されたベントライン(L2)から、水、テトラヒドロフラン、1,4−ブタンジオールを抜き出しながら、初期重縮合反応を行った。抜き出した反応液は第2重縮合反応槽(d)に連続的に供給した。
【0082】
第2重縮合反応槽(d)の内温は250℃、圧力400Paとし、滞留時間が60分になるように液面制御を行い、減圧機(図示せず)に接続されたベントライン(L4)から、水、テトラヒドロフラン、1,4−ブタンジオールを抜き出しながら、更に重縮合反応を進めた。得られたポリエステルは、抜出用ギヤポンプ(e)により抜出ライン(L3)を経由し、第3重縮合反応槽(k)に連続的に供給した。第3重縮合反応槽(k)の内温は250℃、圧力は130Pa、滞留時間は60分とし、更に、重縮合反応を進めた。第3重縮合反応槽(k)より抜出ライン(L5)を経て抜き出されたポリエステル樹脂の一部は、抜出用ギヤポンプ(m)を経てダイスヘッド(g)からストランド状に連続的に抜き出し、回転式カッター(h)でカッティングされた。得られた脂肪族ポリエステル樹脂の固有粘度は2.04dL/g、末端カルボキシル基濃度は21当量/トンであり、色調及び透明性に優れ、異物が少なかった。
【0083】
(L5)から抜き出された溶融ポリエステルの一部は5kg/hにてギヤポンプ(n)抜きだしライン(L8)を経て実施例2の押出溶融脱揮における2軸押出機第4ブロックに供給された。
【0084】
[溶融押出脱揮]
実施例2の溶融押出脱揮において樹脂ペレットを第1ブロックに供給する代わりに上記溶融ポリエステルを第4ブロックに連続的に供給した以外は実施例2と同様に行った。結果を表1に示す。
【0085】
(比較例1)
実施例1の押出溶融脱揮において第4ブロックから第14ブロック及びダイヘッドの設定温度を表1に示すように280℃に変えた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0086】
(比較例2)
実施例1の押出溶融脱揮において第4ブロックから第14ブロック及びダイヘッドの設定温度を表1に示すように170℃に変えた以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
表1より、本発明の製造方法により製造したポリエステルでは、大幅な粘度の低下や末端カルボキシル基の増加が見られることなしに、脱揮処理による環状2量体含有量の低減が確認された。特に、連続式重合によって製造した実施例8のポリエステルでは、脱揮処理前の環状2量体含有量が非常に少ない上に、脱揮処理による環状2量体の除去量も大きかった。一方、本発明に規定する温度より高い処理温度で脱揮した比較例1では、環状2量体は除去されるものの、粘度の低下や末端カルボキシル基の増加が著しかった。逆に、本発明に規定する温度より低い処理温度で脱揮した比較例2では、環状2量体は除去されなかった。
【0089】
以上、現時点において、最も実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う製造方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明にかかる脂肪族ポリエステルの製造方法におけるエステル化反応工程の一実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明にかかる脂肪族ポリエステルの製造方法における重縮合工程の一実施形態を示す概略図である。
【図3】本発明に使用される押出脱揮用ベント付、液体注入口付2軸押出機の一実施形態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0091】
A:エステル化反応槽
a:第1重縮合反応槽
d:第2重縮合反応槽
k:第3重縮合反応槽
20:2軸押出機
21:溶融ゾーン
27:ダイスヘッド(押出機出口)
22、24:液体注入口
23、25:ベント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル化反応と溶融重縮合反応とを経てポリエステルを得る、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを主成分とする脂肪族ポリエステルの製造方法であって、前記溶融重縮合反応後の脂肪族ポリエステル樹脂を、2軸押出機を用いて、該2軸押出機出口における樹脂温度が220℃以上270℃以下の条件下で溶融押出脱揮することを特徴とする、脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項2】
前記脂肪族ポリエステルが、3官能以上の多官能化合物を共重合成分として含有することを特徴とする請求項1に記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項3】
前記2軸押出機は、該2軸押出機内の溶融ゾーンに少なくとも一箇所のベントを有しており、かつ該ベント部の圧力が40kPa以下にされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項4】
前記2軸押出機は、該2軸押出機内の溶融ゾーンに少なくとも一箇所の液体注入口を有しており、2軸押出機に供給される脂肪族ポリエステル樹脂100質量部当り0.2〜10質量部の水を少なくとも一箇所以上の前記液体注入口から注入添加すると共に、該注入口の後ろ側の前記ベントから40kPa以下の圧力で脱揮することを特徴とする請求項3に記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項5】
前記脂肪族ポリエステル樹脂の製造方法が連続製造方法であり、前記溶融重縮合反応後に引き続き連続溶融押出脱揮が行われることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−67897(P2009−67897A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238030(P2007−238030)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】