脂肪組織由来幹細胞から骨髄を形成するための組成物およびその方法
【課題】 本発明は、ドナーの負担が少なく、確実に骨髄障害を回復し得る手段として、脂肪組織由来幹細胞から骨髄を形成する方法に関する。
【解決手段】 本発明において、脂肪組織由来幹細胞から骨髄を形成可能な組成物、および、脂肪組織由来幹細胞から骨髄を形成する方法を提供する。脂肪組織より幹細胞を採取して、これを骨髄支持組織となる支持担体に播種し骨髄形成可能組成物を得、これを動物体内に移植することによって、骨髄が形成され得る。
【解決手段】 本発明において、脂肪組織由来幹細胞から骨髄を形成可能な組成物、および、脂肪組織由来幹細胞から骨髄を形成する方法を提供する。脂肪組織より幹細胞を採取して、これを骨髄支持組織となる支持担体に播種し骨髄形成可能組成物を得、これを動物体内に移植することによって、骨髄が形成され得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪組織由来幹細胞から骨髄を形成するための組成物および方法に関する。更に本発明は、前記の骨髄における、造血幹細胞および間葉系幹細胞の製造のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨髄は、骨組織の内部に形成された腔(骨髄腔)に存在する組織であり、脊椎動物、特に両生類以上の高等動物では主要な造血組織である。骨髄には、赤血球、顆粒球、単球-マクロファージ、巨核球-血小板、マスト細胞、リンパ球などのあらゆる血球系細胞の前駆細胞が存在する。これら前駆細胞は全て多能性造血幹細胞に由来する。すなわち、単一の造血幹細胞から、多種に渡る血球系細胞が分化できる。
【0003】
骨髄の造血機能障害を伴う疾患(例えば、白血病、再生不良性貧血、小児において先天性免疫不全症や一部の先天性代謝疾患など)の治療として、骨髄や臍帯血に含まれている造血幹細胞の移植または骨髄移植が行なわれている。しかし、骨髄には、主要組織適合抗原(ヒトでは、HLA(Human Leukocyte Antigen))により規定される適合型が数万種類存在し、患者の主要組織適合抗原の適合型が一致する骨髄提供者(ドナー)を見つけることは困難であり、骨髄移植による治療には、限界がある。また骨髄移植は、造血機能障害を抑制するために化学療法や放射線療法を用いるため患者自身の骨髄に負荷を与え、患者の肉体的、精神的苦痛が大きい。さらに、骨髄を採取される側のドナーの肉体的、精神的苦痛も大きい。また、骨髄移植では、ドナーから得た造血幹細胞を患者の血管中に直接移植するため、血流によって患者体内の他の臓器に補足されて骨髄に生着する細胞が少なく、骨髄移植による充分な治療効果を得ることが困難な場合も少なくない。
【0004】
また、骨髄由来幹細胞を患者本人の骨髄から得てそれを患者に導入するという自家移植による治療方法についても研究が行われてきた。しかし、骨髄に障害がある場合、当然骨髄由来幹細胞にも機能障害があり、これを本人に移植しても問題解決にはならない場合が多い。さらに、ハイドロキシアパタイト多孔体を筋肉内に移植して筋肉内で骨髄を作製する方法も報告されている(特許文献1参照のこと)。しかし、筋肉内への多孔体構造物の移植は、筋肉組織の障害を伴う。
【0005】
近年、幹細胞が全身いたるところに存在しており、脂肪組織にも幹細胞が存在することが判明した。脂肪組織は局所麻酔下で簡単に採取でき、しかも美容外科領域では脂肪吸引術、脂肪除去術などで採取されたのち廃棄されてしまっている。一方従来から研究されている骨髄由来幹細胞は、採取するのに全身麻酔を要し、患者の負担が非常に大きい。そこで、この脂肪由来幹細胞を用いて、種々の組織を作成することが試みられており、脂肪、骨、筋、軟骨に関しては、その発生が確認されている(特許文献2参照のこと)。
【0006】
骨髄由来幹細胞と脂肪組織由来幹細胞の実質的な違いに関しては現在、世界中で検討されている段階であるが、両者とも間葉系の種々の組織に分化する能力を持っている点では共通である。脂肪組織由来幹細胞は骨髄由来幹細胞と異なり、血管再生に関しても関与しているとの報告がなされている(非特許文献1参照のこと)。また、骨髄由来幹細胞に対して脂肪組織由来幹細胞は圧倒的に増殖能が優れており、容易に短期間で培養が可能である。
【0007】
そこで、脂肪組織から幹細胞を採取し、造血機能障害がある患者に投与する方法も考えられてきた(特許文献3参照のこと)が、脂肪組織由来幹細胞移植を用いても骨髄の造血機能を再生させることはまだ証明されていない。
【0008】
【特許文献1】特開平8−336584号公報
【特許文献2】特表2002−537849号公報
【特許文献3】特表2003−523767号公報
【非特許文献1】Circulation. 2004;109:656-663.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明においては、脂肪組織由来幹細胞から骨髄を形成可能な組成物、および脂肪組織由来幹細胞から骨髄を形成する方法を提供する。ドナーの負担が少なく、確実に骨髄障害を回復し得る手段を提供する。更には、HLA適合検査をするまでもなく患者自身の細胞を用いて、障害を回復し得る手段を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を達成するために鋭意検討を進めた結果、脂肪組織より幹細胞を採取して、これを骨髄支持組織となる支持担体に撒き、動物の皮下に移植することによって、新規な骨髄が製造できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
【0011】
すなわち本発明は、以下の態様に関する:
1.脊椎動物から採取した脂肪組織由来幹細胞を含む、骨髄形成可能組成物;
2.脊椎動物の脂肪組織由来幹細胞から骨細胞に分化した細胞を含む、骨髄形成可能組成物;
3.脊椎動物が哺乳動物である、上記1または2記載の骨髄形成可能組成物;
4.支持担体をさらに含む、上記1〜3のいずれかに記載の骨髄形成可能組成物;
5.上記支持担体が、生体適合性の材料からなり、立体網状多孔質構造を有するものである、上記4記載の骨髄形成可能組成物;
6.上記支持担体が、ポリビニルフォルマール樹脂、ガラス、セラミック、ヒドロキシアパタイト、キトサン、セルロース、不溶性コラーゲンおよびデキストランからなる群より選択される1つ以上の材料からなるものである、上記4または5記載の骨髄形成可能組成物;
7.骨髄の造血機能障害を伴う疾患を治療または予防するための、上記1〜6のいずれかに記載の骨髄形成可能組成物;
8.脊椎動物から採取した脂肪組織から脂肪組織由来幹細胞を含む細胞含有物を調製するステップ、および該細胞含有物を支持担体と接触させて骨髄形成可能組成物を得るステップを含む、骨髄を作製する方法;ならびに
9.骨髄形成可能組成物または骨髄を作製するための、脊椎動物の脂肪組織から得た脂肪組織由来幹細胞の使用。
【0012】
本明細書において、用語「脂肪組織由来幹細胞」とは、哺乳動物の脂肪組織内に存在する多能性幹細胞をいう。該細胞は、発生学的には、中胚葉に由来する間葉系の幹細胞であると考えられている。脂肪組織は、脊椎動物、好ましくは哺乳動物、例えば囓歯類動物(ラット、マウスなど)、特に好ましくはヒトから公知の方法で採取することができる。脂肪組織に存在する幹細胞が生存している限り、採取される動物の生死は問わない。十分量の脂肪組織由来幹細胞が採取できれば、動物のいかなる部位から脂肪組織を採取してもよいが、例えば大網脂肪組織等から採取することができる。かかる採取は、公知のいかなる方法で実施してもよく、いわゆる脂肪吸引術または脂肪除去術により実施することも可能である。
【0013】
用語「脂肪組織由来幹細胞を含む細胞含有物」とは、採取した脂肪組織に由来する脂肪組織由来幹細胞が、生存能および多能性分化能を維持したまま含まれている状態にあるものを指す。動物個体より採取した脂肪組織は、組織塊として得られる場合が多く、神経組織、血管組織および血球細胞等の他の組織由来の組織片、細胞、細胞片等を含んでいる。したがって、本発明に用いる場合、組織塊の細胞を完全にまたは部分的に解離させ、該脂肪組織に存在する幹細胞とその周辺組織または隣接細胞との接着を完全にまたは部分的に切断することが好ましい。かかる細胞の解離または接着の切断は、当業者には公知の方法で実施できる。例えば、機械的切断、音波処理、機械攪拌、熱エネルギーによる処理、および細胞間接着を切断し得る酵素または薬剤による処理等が挙げられる。限定する意味ではないが、該酵素の例としては、コラゲナーゼ、トリプシン、ディスパーゼ、ヒアルロナーゼ、DNAアーゼ等が挙げられ、上記薬剤の例としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのキレート剤等が挙げられる。また、生理学的緩衝液での洗浄、遠心分離およびろ過等により、脂肪組織片を処理した細胞含有物から組織破片等を除去することが好ましい。これらの処理は、当業者があらゆる公知の技法から適宜選択し、場合によってはそれらを組合わせて実施することができる。これらの処理は、脂肪組織由来幹細胞の生存を維持できる条件下で行われ、生理的緩衝液または細胞培養培地中にて、50℃〜低温(4℃程度または氷冷下)にて行うことが好ましい。ただし、酵素処理はその性質上、37℃付近で実施することが好ましい。
【0014】
さらに、上記にて得た脂肪組織から解離させた細胞含有物を、適切な培養条件下で培養してもよい。かかる培養中は適宜培地交換をするとよい。培養時間はいかなる時間でもよく、その間に採取および処理による細胞のダメージがある程度回復すると考えられる。脂肪細胞由来幹細胞は自己複製能を有しているため、適切な培養条件下では増殖し得る。したがって、培養を3日以上、または1〜数週間続けることにより、その細胞数を増加させることができ、必要な細胞数に応じて培養期間を調節するとよい。
【0015】
上記の処理をしたまたは無処理の脂肪組織から解離した細胞含有物中に、脂肪組織由来幹細胞が生存していることを確認するためには、上記細胞含有物の一部を、脂肪組織由来幹細胞から分化可能ないずれかの細胞(例えば骨細胞、軟骨細胞、骨格筋細胞または脂肪細胞等)へと分化を誘導し得る培地中で培養することができる。かかる培地および培養条件は当業者であれば適宜選択することができる。分化が進行すると、細胞の形態学的変化が観察される。通常、2〜4週間程度で形態変化が観察できる。
【0016】
すなわち、動物より採取した脂肪組織塊ならびに上記処理および培養後の細胞含有物は、本明細書における用語「脂肪組織由来幹細胞を含む細胞含有物」に包含される。また、上記処理等は例示であり、動物より採取した脂肪組織塊に含まれる脂肪組織由来幹細胞をその生存能および多能性分化能を維持したまま含有する該細胞含有物は、公知のいかなる方法で調製してもよく、いかなる組成を有するものでもよく、当業者が適宜、適切な方法で調製することができる。
【0017】
本明細書において、用語「支持担体」とは、三次元的増殖を可能とするための細胞の足場となる立体構造物を意味する。支持担体は、細胞をその構造物内に保持することが可能であれば、いかなる構造物であってもよいが、細胞の付着及び成育がスムーズに行なわれるものが好ましい。生体内に移植する場合、その材料が生体適合性を有していることが好ましい。細胞の接着を促進するために、その表面積が大きくなるような、多孔性の構造を有していることが好ましく、微孔性の立体網状多孔質構造を有することがさらに好ましい。また、水及び培地中で変質せず、高圧滅菌に耐え得るような性質を有し、更に弱酸やアルカリ及び多くの有機溶媒に対して対薬品性を示し、化学的に安定なものが好ましい。限定する意味ではないが、例えば、ポリビニルフォルマール樹脂や多孔質のガラス、セラミック、ハイドロキシアパタイト、キトサン、セルロース、デキストラン、不溶性コラーゲンなどの天然由来の高分子材料で多孔質構造を有するものなどが好ましく、ハイドロキシアパタイトが特に好ましい。ハイドロキシアパタイトを用いた細胞培養用支持担体としては、CELLYARD(商標)(PENTAX社)等が市販されており、これら市販品を用いることもできる。
【0018】
本明細書中における「骨髄形成可能組成物」とは、in vitro培養または生体内に移植した場合において、造血の場となる骨髄を形成し得る組成物をいう。本発明においては、脂肪組織由来幹細胞を含む細胞含有物を、上記支持担体と接触させることにより得られる。該接触は、細胞培養培地中または生理的緩衝液中にて行うとよい。脂肪組織由来幹細胞を含む細胞含有物を支持担体と接触させると、脂肪組織由来幹細胞が支持担体表面に接着し、支持担体表面上で生存・自己複製および/または分化を起こし得る環境が整う。
【0019】
骨髄形成可能組成物から骨髄を形成させるためには、好ましくは、本発明の組成物を動物に移植することにより、該移植箇所において、移植された組成物中に含まれる脂肪組織由来幹細胞が骨髄の周辺組織である骨芽細胞および造血細胞へと分化し、骨髄が形成され得る。あるいはまた、in vitroで該組成物から骨髄を形成させ得ることも可能であろう。移植部位は、任意の部位でよいが、皮下が好ましい。本発明の骨髄形成可能組成物の移植は、脂肪組織を採取した動物への自家移植が最も好ましいが、同系同種移植、異系同種移植および異種移植のいずれも適用可能である。当業者であれば、移植に際して、ドナーとレシピエントを適切に選択することができ、かつ、適切な移植方法および術後管理を選択・実施することができる。
【0020】
本明細書において、「細胞含有物を支持担体と接触させる」とは、上記の細胞含有物に含まれる脂肪組織由来幹細胞が支持担体構造物内に侵入または該構造物に付着し得るような環境下で、接触させることを指す。したがって、細胞の生存および分化能を維持し得る環境中、すなわち、0℃〜50℃、好ましくは4℃〜40℃、最も好ましくは25℃〜37℃程度の温度下で、生理的緩衝液または培地中で接触させる。接触させる時間は、該幹細胞が支持担体構造物に侵入または付着するのに十分な時間であれば任意の長さであってよいが、数時間〜数週間、例えば24時間〜10日間程度の期間、通常の培養条件下にて培養して、幹細胞の支持担体への細胞接着等を完全なものにすることもできる。または、接触後、骨分化誘導培地中で培養してもよい。骨分化誘導培地は種々のものが公知であるが、幹細胞の骨細胞への分化を誘導し得るものであればよく、例えば、標準的な細胞培養培地(例えば、10%ウシ胎児血清含有DMEMなど)に0.1μMのデキサメタゾン(DEX)および約50μMのアスコルビン酸および10mMのβグリセロリン酸を添加したものなどが挙げられる。骨分化誘導培地中での培養は、3日〜10日程度が好ましい。
【0021】
本明細書中における「脊椎動物」とは、任意の脊椎動物を含むが、特には哺乳動物を意味する。さらに、好ましい実施態様においては、該動物は囓歯動物(ウサギ、モルモット、ラットまたはマウスなど)またはヒトであり、最も好ましくはヒトである。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、骨髄由来ではなく、脂肪組織由来の幹細胞より新規な骨髄が形成できることから、ドナーに負担の少ない、骨髄移植を行なうことができる。更には、ドナーを探すことなく、患者自身の細胞を用いた骨髄移植および造血機能を回復できる治療の可能性が開かれた。したがって、本発明により、骨髄の造血機能障害を伴う疾患(例えば、白血病、再生不良性貧血、小児において先天性免疫不全症や一部の先天性代謝疾患など)の、新規かつ有効な治療または予防方法、および治療または予防用組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態の例として下記に詳細に説明する。
1.脂肪組織の採取
本発明の脂肪組織由来幹細胞は任意の方法によって脂肪組織から得ることができる。これら全ての方法において、供給源動物からの脂肪組織の単離を必要とする。脂肪組織由来幹細胞がその分化能を維持して生存している限り、供給源となる動物の生死は問わない。また、十分な量の脂肪組織を得ることが出来るのであれば、供給源動物の種、その採取部位も限定されない。供給源動物がヒトである場合は、美容外科領域で行なわれる脂肪吸引術、脂肪除去術と同様の方法で採取することができる。
【0024】
2.脂肪組織由来幹細胞を含む細胞含有物の調製
採取した脂肪組織は、血管、神経、その他の組織などが付着しているため、それらを肉眼にて視認しながら除去し、生理学的に適合した洗浄液、例えばリン酸緩衝液などで洗浄する。その後、損傷を受けた組織、血液、赤血球などの成分を除去するために、洗浄液で何度か攪拌し、沈殿させる。これは、上澄が比較的濁りのない状態になるまで繰り返す。
【0025】
この段階でも組織がある程度大きいため、細胞自身の損傷が最小限ですむように、標準的な細胞培養培地に移して細切後、培養液を加えて培養した後、遠心分離によって培養液を除去する。これにコラゲナーゼやディスパーゼ、トリプシン等細胞間接着を切断し得る活性を有する酵素を加えたのち、酵素活性が発揮され得る条件下で、かつ細胞の生存活性に影響が最小限になるような条件下に放置して、細胞間結合が弱まった状態の脂肪塊を激しく攪拌することで、組織塊を全て分解する。上記条件は当業者には公知である。このような酵素による脂肪塊の分解方法のほかに、機械攪拌、音波エネルギー処理、熱エネルギー処理など、細胞に致命的な損傷を与えないものであれば、どのような方法でも用いることができる。
【0026】
酵素法で脂肪塊を分解させた場合は、酵素活性を失活させるために、再度細胞培養用培地を加えた後、遠心分離して培地を除去することで、細胞以外の混入物を除去する。沈殿に更に細胞培養用培地を加え、ピペットなどでピペッティングすることにより更に細胞間接着を切断することもできる。
【0027】
当業者には自明のことであるが、以上の処理は、脂肪組織に含まれる幹細胞の損傷が最小限になるよう留意しつつ実施する。
【0028】
こうして得られた脂肪組織由来幹細胞を含む細胞含有物は、幹細胞を含む間質細胞集団であるが、場合によっては、これを細胞培養用培地で培地を交換しつつ1週間程度培養してもよい。
【0029】
3.幹細胞の生存の確認
場合によっては、2で調製した脂肪組織由来幹細胞を含む細胞含有物に間葉系幹細胞が含まれていることを確認するために、間葉系細胞の分化を誘導する培地で3週間程度培養し、形態の変化を観察することもできる。分化を誘導する培地は、骨、軟骨または脂肪等、脂肪組織由来幹細胞が分化し得る細胞への分化を誘導するための培地であれば任意のものであってよい。細胞種に応じて、種々の培地が公知である。それぞれの分化誘導培地によって分化した細胞を、任意の方法によって形態学的または生化学的に確認することができる。
【0030】
4.骨髄形成可能組成物の作製
1×104〜6個程度、好ましくは1×105個程度の細胞が含まれる量の脂肪組織由来幹細胞を含む細胞含有物を、支持担体に播種する。または播種の前に、脂肪組織由来幹細胞を含む細胞含有物を更に細胞培養用培地で1〜数回継代培養した後、上記のとおり播種してもよい。この支持担体は幹細胞の足場となる鋳型であり、支持組織の代用となるべきものであれば種類は問わないが、生体適合性を有し、骨髄が支持担体内に保持され得るよう、外部に流出せず、細胞の付着及び成育がスムーズに行なわれるものが好ましい。また、該支持担体は、水及び培地中で変質せず、高圧滅菌に耐え得るような性質を有し、更に弱酸やアルカリ及び多くの有機溶媒に対して対薬品性を示し、化学的に安定なものが好ましい。更には微孔性の立体網状多孔質構造を有することが好ましい。ポリビニルフォルマール樹脂や多孔質のガラス、セラミック、ハイドロキシアパタイト、キトサン、セルロース、水溶性コラーゲンおよびデキストランなどの天然由来の高分子材料で多孔質構造を有するものが好ましいが、この中でも特にハイドロキシアパタイトが特に好ましい。
【0031】
上記細胞含有物を播種した支持担体を、すぐに骨髄形成に用いることも可能であるが、数時間〜1週間程度、培養して幹細胞の支持担体への接着および幹細胞の生育環境の馴化を行ってもよい。また、上記細胞含有物を播種した支持担体を、骨分化誘導培地で1週間程度培養して、骨への分化をある程度進行させた後、骨髄形成に用いることもできる。
【0032】
5.骨髄の形成
上記で調製した骨髄形成可能組成物から骨髄を形成させるためには、これを動物に移植するとよい。移植する場所は特に限定されないが、好ましくは皮下、腹腔内あるいは血液細胞の産生に関与しうる脾臓である。移植方法は公知の外科的手法のうち任意のものを用いる。かかる移植は、自家移植、同系同種移植、異系同種移植および異種移植のいずれであってもよい。移植手術後は、通常の術後管理を行う。移植後3週間程度で、造血機能および骨髄の組織が認められるようになる。
【0033】
骨髄の造血機能障害を伴う疾患(例えば、白血病、再生不良性貧血、小児において先天性免疫不全症や一部の先天性代謝疾患など)を有する個体に移植することにより、新たな骨髄が形成され、新規造血器官となり、上記疾患の進行の抑制および/または治療が可能となる。上記疾患の発症リスクが高いが未だ発症していない個体に骨髄形成可能組成物を移植することにより、上記疾患を予防することも可能である。
【0034】
あるいはまた、上記の骨髄形成組成物を、in vitroで維持し、分化促進させることにより、in vitroで骨髄を形成させることも可能であろう。
【0035】
下記実施例で示すように、マウスの脂肪組織由来幹細胞をヒドロキシアパタイトに播種した本発明の骨髄形成可能組成物を、ヌードマウスに皮下移植した場合、骨髄の形成が確認された。実施例に示す方法にしたがって移植したマウス全例(10例以上)において、骨髄の形成が確認された。一方、特開平8−336584号公報(上述の特許文献1)に記載されているとおり、幹細胞を播種していないヒドロキシアパタイトのみを同様に皮下移植したヌードマウスでは、10例以上行ったが、1例も骨髄の形成は認められなかった。
【0036】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0037】
1.脂肪組織由来幹細胞を含む細胞含有物の調製
幹細胞の由来を証明するために、脂肪組織を採取するマウスには、全身全ての細胞にGFPタンパク質が導入・発現されているGFPトランスジェニックマウス(大阪大学岡部先生提供)を用いた。
【0038】
このマウスをネンブタール(0.1mg/100g)にて麻酔し、両側鼡径部より脂肪塊を採取し、リン酸緩衝食塩水(pH 7.4)にてよく洗浄した。更にこの脂肪塊より肉眼で確認できる血管や神経などを完全に除去した後、10% ウシ胎仔血清と1% 抗菌/抗真菌剤を含むダルベッコ改変イーグル培地(Gibco BRL社製)(以下、コントロール培地)の入った100mm2の培養ディッシュに移し、細切した。37℃、5%CO2で1時間培養した後、培養液と細胞を50mlのチューブに移し、1300rpm(260×g)で5分間遠心して上清を除去した。コラゲナーゼが0.1%となるように溶解したPBSを加え、37℃の温浴槽に30分静置した。その間数回、温浴槽よりチューブを取り出し、激しく撹拌した。肉眼で組織塊が見えなくなったことを確認し、同量のコントロール培地を加えてコラゲナーゼを失活させた後、再度1300rpm(260×g)で5分間遠心して上清を除去した。ペレット状の細胞に適量のコントロール培地を加え、均一になるまでピペッティングし、コントロール培地の入った培養ディッシュに播種し、37℃5%CO2で初代培養した。培地は3日おきに交換した。
【0039】
1週間後、上記培養物中に脂肪組織由来幹細胞が含まれていることを確認するために、培養した細胞を顕微鏡で観察した。図1にその結果を示すが、繊維芽細胞様の形態をしていることが判る。また、同じ試料を蛍光顕微鏡で観察した結果を図2に示す。この培養細胞がGFPトランスジェニックマウス由来の細胞であるため、細胞が緑色に蛍光を発していることがわかる。
【0040】
2.幹細胞の確認
1で採取した細胞を、37℃5%CO2の条件下、コントロール培地で3回継代培養した。この培養細胞を1×105個になるように調製し、骨分化誘導培地(コントロール培地に100pMデキサメタゾン、50μMアスコルビン酸、10mM βグリセロリン酸添加)で満たした培養ディッシュに入れ、37℃5%CO2で3週間培養した。3週間後の形態を図3に示す。細胞の形態が線維芽細胞様形態から円形および四角形に変化していることが確認された。これを蛍光顕微鏡下で観察した結果を図4に示す。この細胞がGFPを有していることが確認された。また骨細胞へ分化誘導されたことを確認する目的で、フォンコッサ染色を行った結果を図5に、アルカリフォスファターゼ染色の結果を図6に示す。フォンコッサ染色は骨基質の主要成分であるカルシウムの沈着物が黒色に染色され、アルカリフォスファターゼ染色では、アルカリフォスファターゼを有する骨細胞が赤色に染色されたと考えられ、骨分化誘導培地によって脂肪組織由来間質細胞が骨細胞へ変化したことが示唆された。これにより、脂肪組織由来幹細胞が含まれていることも確認できた。
【0041】
3.骨髄形成可能組成物の作製と幹細胞の骨への分化誘導
上記1で採取した脂肪組織由来幹細胞を含む細胞含有物を、37℃5%CO2の条件下、コントロール培地で3回継代培養し、この細胞を1×105個になるように調製し、微細な気孔を有するハイドロキシアパタイト(CELLYARD(商標)、ペンタックス社製)に播種し、骨分化誘導培地で満たした培養ディッシュに入れ、37℃5%CO2で1週間培養した。
【0042】
4.骨髄の形成
1週間後、蛍光顕微鏡下にハイドロキシアパタイトを観察し、緑色の蛍光を発する細胞が生着していることを確認した後、ヌードマウスの皮下に移植した。また、同様に免疫応答性を有するマウスの皮下にも移植し、該移植片が定着することを確認した。この時のX線写真像を図7に示す。移植後4週間から16週間でハイドロキシアパタイトを取り出した。16週後に取り出したハイドロキシアパタイトを図8に示す。またこれを蛍光顕微鏡下に観察すると緑色の蛍光を確認することができ、GFPトランスジェニックマウス由来の細胞が生着していることが確認された。ヌードマウスでも免疫応答性を有するマウスでも同様に移植片が定着したことから、他の個体の細胞を用いても、免疫拒否反応が起こらないことが確認された。これを4%パラホルムアルデヒドで固定、10%蟻酸溶液にて脱灰後、パラフィン切片を作成し、顕微鏡下に組織像を観察した。組織像では、ハイドロキシアパタイトの気孔に骨髄の形態を確認し(図10, 11)、またハイドロキシアパタイトに接している部分では、骨と思われる組織が形成されていた。それらを構成する細胞がGFPを有していることを、抗GFP抗体による免疫抗体染色にて確認した。この結果を図12に示す。GFPを有している細胞が茶褐色に染色されている。すなわちこれは、脂肪組織由来幹細胞を採取したマウスの細胞によって、骨髄が形成されたことを意味する。
【0043】
あるいはまた、上記3において、ハイドロキシアパタイトに細胞を播種した後、骨分化誘導培地で培養することなく、播種後4時間37℃5%CO2条件下にてコントロール培地中で培養したものを、ヌードマウスに移植した実験では、骨髄および血管形成が認められ、抗GFP抗体による免疫抗体染色では、骨芽細胞および血管内皮細胞ともGFPを有している細胞であり、即ち脂肪組織由来幹細胞から分化した細胞であることがわかった。血管内皮細胞が再生されたということは、同一の起源を持つとされる血球もまた分化し得る可能性があると考えられる。即ち移植した幹細胞から分化して形成された骨髄が、造血組織として機能し、ドナー由来の血球細胞を産生し得ることを、強く示唆するものである。
【0044】
以上の結果より、脂肪由来の幹細胞より骨髄が形成され、該骨髄内には血液及び未分化な血液細胞の存在もあったことから、脂肪由来幹細胞による造血システムが構築できたことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、脂肪組織から採取した脂肪組織由来幹細胞を含む脂肪組織由来細胞(in vitroでの培養)の顕微鏡像である。線維芽細胞様の形態をしていることがわかる。
【図2】図2は、図1の蛍光顕微鏡像である。すべての細胞にGFPが導入されているマウス由来の細胞であるため、GFPが緑色に蛍光を発している。
【図3】図3は、骨分化誘導培地にて培養した図1の細胞の顕微鏡像である。図1の線維芽細胞様形態から、円形および四角形に変化している。
【図4】図4は、図3の蛍光顕微鏡像である。GFPが確認できるため図1と同じ細胞が変化したと考えられる。
【図5】図5は、骨に分化した細胞を確認するためのフォンコッサ染色を行なった顕微鏡像である。骨基質の石灰が黒色に染色されているのが確認できる。
【図6】図6は、骨に分化した細胞を確認するためのアルカリフォスファターゼ染色を行なった顕微鏡像である。アルカリフォスファターゼを有している細胞が赤色に染色されているのが確認できる。
【図7】図7は、図3の細胞を小さな気孔を有するハイドロキシアパタイトに播種し、ヌードマウスおよび免疫応答性のあるマウスの皮下に移植した際のX線写真である。
【図8】図8は、マウス皮下に移植して1ヵ月の移植片である。ハイドロキシアパタイトに血管が侵入しているのを確認できる。
【図9】図9は、図8の蛍光顕微鏡写真である。GFPを有する細胞が確認でき、細胞が生きていることが確認できる。
【図10】図10は、図8のHE染色像である。ハイドロキシアパタイトの気孔に細胞成分が多数認められ、生体でいえば、骨髄を有する海綿骨のような構造が確認できる。
【図11】図11は、図10の拡大像である。1つの気孔を拡大すると、骨髄に特徴的な脂肪細胞ならびに血液細胞などが観察された。
【図12】図12は、図10の拡大像であり、抗GFP抗体による免疫染色像である。ハイドロキシアパタイトに接している部分には骨細胞と思われる細胞と骨の形成が認められ、これらはGFP陽性であり、すなわちドナー由来の細胞であると考えられる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪組織由来幹細胞から骨髄を形成するための組成物および方法に関する。更に本発明は、前記の骨髄における、造血幹細胞および間葉系幹細胞の製造のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨髄は、骨組織の内部に形成された腔(骨髄腔)に存在する組織であり、脊椎動物、特に両生類以上の高等動物では主要な造血組織である。骨髄には、赤血球、顆粒球、単球-マクロファージ、巨核球-血小板、マスト細胞、リンパ球などのあらゆる血球系細胞の前駆細胞が存在する。これら前駆細胞は全て多能性造血幹細胞に由来する。すなわち、単一の造血幹細胞から、多種に渡る血球系細胞が分化できる。
【0003】
骨髄の造血機能障害を伴う疾患(例えば、白血病、再生不良性貧血、小児において先天性免疫不全症や一部の先天性代謝疾患など)の治療として、骨髄や臍帯血に含まれている造血幹細胞の移植または骨髄移植が行なわれている。しかし、骨髄には、主要組織適合抗原(ヒトでは、HLA(Human Leukocyte Antigen))により規定される適合型が数万種類存在し、患者の主要組織適合抗原の適合型が一致する骨髄提供者(ドナー)を見つけることは困難であり、骨髄移植による治療には、限界がある。また骨髄移植は、造血機能障害を抑制するために化学療法や放射線療法を用いるため患者自身の骨髄に負荷を与え、患者の肉体的、精神的苦痛が大きい。さらに、骨髄を採取される側のドナーの肉体的、精神的苦痛も大きい。また、骨髄移植では、ドナーから得た造血幹細胞を患者の血管中に直接移植するため、血流によって患者体内の他の臓器に補足されて骨髄に生着する細胞が少なく、骨髄移植による充分な治療効果を得ることが困難な場合も少なくない。
【0004】
また、骨髄由来幹細胞を患者本人の骨髄から得てそれを患者に導入するという自家移植による治療方法についても研究が行われてきた。しかし、骨髄に障害がある場合、当然骨髄由来幹細胞にも機能障害があり、これを本人に移植しても問題解決にはならない場合が多い。さらに、ハイドロキシアパタイト多孔体を筋肉内に移植して筋肉内で骨髄を作製する方法も報告されている(特許文献1参照のこと)。しかし、筋肉内への多孔体構造物の移植は、筋肉組織の障害を伴う。
【0005】
近年、幹細胞が全身いたるところに存在しており、脂肪組織にも幹細胞が存在することが判明した。脂肪組織は局所麻酔下で簡単に採取でき、しかも美容外科領域では脂肪吸引術、脂肪除去術などで採取されたのち廃棄されてしまっている。一方従来から研究されている骨髄由来幹細胞は、採取するのに全身麻酔を要し、患者の負担が非常に大きい。そこで、この脂肪由来幹細胞を用いて、種々の組織を作成することが試みられており、脂肪、骨、筋、軟骨に関しては、その発生が確認されている(特許文献2参照のこと)。
【0006】
骨髄由来幹細胞と脂肪組織由来幹細胞の実質的な違いに関しては現在、世界中で検討されている段階であるが、両者とも間葉系の種々の組織に分化する能力を持っている点では共通である。脂肪組織由来幹細胞は骨髄由来幹細胞と異なり、血管再生に関しても関与しているとの報告がなされている(非特許文献1参照のこと)。また、骨髄由来幹細胞に対して脂肪組織由来幹細胞は圧倒的に増殖能が優れており、容易に短期間で培養が可能である。
【0007】
そこで、脂肪組織から幹細胞を採取し、造血機能障害がある患者に投与する方法も考えられてきた(特許文献3参照のこと)が、脂肪組織由来幹細胞移植を用いても骨髄の造血機能を再生させることはまだ証明されていない。
【0008】
【特許文献1】特開平8−336584号公報
【特許文献2】特表2002−537849号公報
【特許文献3】特表2003−523767号公報
【非特許文献1】Circulation. 2004;109:656-663.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明においては、脂肪組織由来幹細胞から骨髄を形成可能な組成物、および脂肪組織由来幹細胞から骨髄を形成する方法を提供する。ドナーの負担が少なく、確実に骨髄障害を回復し得る手段を提供する。更には、HLA適合検査をするまでもなく患者自身の細胞を用いて、障害を回復し得る手段を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を達成するために鋭意検討を進めた結果、脂肪組織より幹細胞を採取して、これを骨髄支持組織となる支持担体に撒き、動物の皮下に移植することによって、新規な骨髄が製造できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
【0011】
すなわち本発明は、以下の態様に関する:
1.脊椎動物から採取した脂肪組織由来幹細胞を含む、骨髄形成可能組成物;
2.脊椎動物の脂肪組織由来幹細胞から骨細胞に分化した細胞を含む、骨髄形成可能組成物;
3.脊椎動物が哺乳動物である、上記1または2記載の骨髄形成可能組成物;
4.支持担体をさらに含む、上記1〜3のいずれかに記載の骨髄形成可能組成物;
5.上記支持担体が、生体適合性の材料からなり、立体網状多孔質構造を有するものである、上記4記載の骨髄形成可能組成物;
6.上記支持担体が、ポリビニルフォルマール樹脂、ガラス、セラミック、ヒドロキシアパタイト、キトサン、セルロース、不溶性コラーゲンおよびデキストランからなる群より選択される1つ以上の材料からなるものである、上記4または5記載の骨髄形成可能組成物;
7.骨髄の造血機能障害を伴う疾患を治療または予防するための、上記1〜6のいずれかに記載の骨髄形成可能組成物;
8.脊椎動物から採取した脂肪組織から脂肪組織由来幹細胞を含む細胞含有物を調製するステップ、および該細胞含有物を支持担体と接触させて骨髄形成可能組成物を得るステップを含む、骨髄を作製する方法;ならびに
9.骨髄形成可能組成物または骨髄を作製するための、脊椎動物の脂肪組織から得た脂肪組織由来幹細胞の使用。
【0012】
本明細書において、用語「脂肪組織由来幹細胞」とは、哺乳動物の脂肪組織内に存在する多能性幹細胞をいう。該細胞は、発生学的には、中胚葉に由来する間葉系の幹細胞であると考えられている。脂肪組織は、脊椎動物、好ましくは哺乳動物、例えば囓歯類動物(ラット、マウスなど)、特に好ましくはヒトから公知の方法で採取することができる。脂肪組織に存在する幹細胞が生存している限り、採取される動物の生死は問わない。十分量の脂肪組織由来幹細胞が採取できれば、動物のいかなる部位から脂肪組織を採取してもよいが、例えば大網脂肪組織等から採取することができる。かかる採取は、公知のいかなる方法で実施してもよく、いわゆる脂肪吸引術または脂肪除去術により実施することも可能である。
【0013】
用語「脂肪組織由来幹細胞を含む細胞含有物」とは、採取した脂肪組織に由来する脂肪組織由来幹細胞が、生存能および多能性分化能を維持したまま含まれている状態にあるものを指す。動物個体より採取した脂肪組織は、組織塊として得られる場合が多く、神経組織、血管組織および血球細胞等の他の組織由来の組織片、細胞、細胞片等を含んでいる。したがって、本発明に用いる場合、組織塊の細胞を完全にまたは部分的に解離させ、該脂肪組織に存在する幹細胞とその周辺組織または隣接細胞との接着を完全にまたは部分的に切断することが好ましい。かかる細胞の解離または接着の切断は、当業者には公知の方法で実施できる。例えば、機械的切断、音波処理、機械攪拌、熱エネルギーによる処理、および細胞間接着を切断し得る酵素または薬剤による処理等が挙げられる。限定する意味ではないが、該酵素の例としては、コラゲナーゼ、トリプシン、ディスパーゼ、ヒアルロナーゼ、DNAアーゼ等が挙げられ、上記薬剤の例としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのキレート剤等が挙げられる。また、生理学的緩衝液での洗浄、遠心分離およびろ過等により、脂肪組織片を処理した細胞含有物から組織破片等を除去することが好ましい。これらの処理は、当業者があらゆる公知の技法から適宜選択し、場合によってはそれらを組合わせて実施することができる。これらの処理は、脂肪組織由来幹細胞の生存を維持できる条件下で行われ、生理的緩衝液または細胞培養培地中にて、50℃〜低温(4℃程度または氷冷下)にて行うことが好ましい。ただし、酵素処理はその性質上、37℃付近で実施することが好ましい。
【0014】
さらに、上記にて得た脂肪組織から解離させた細胞含有物を、適切な培養条件下で培養してもよい。かかる培養中は適宜培地交換をするとよい。培養時間はいかなる時間でもよく、その間に採取および処理による細胞のダメージがある程度回復すると考えられる。脂肪細胞由来幹細胞は自己複製能を有しているため、適切な培養条件下では増殖し得る。したがって、培養を3日以上、または1〜数週間続けることにより、その細胞数を増加させることができ、必要な細胞数に応じて培養期間を調節するとよい。
【0015】
上記の処理をしたまたは無処理の脂肪組織から解離した細胞含有物中に、脂肪組織由来幹細胞が生存していることを確認するためには、上記細胞含有物の一部を、脂肪組織由来幹細胞から分化可能ないずれかの細胞(例えば骨細胞、軟骨細胞、骨格筋細胞または脂肪細胞等)へと分化を誘導し得る培地中で培養することができる。かかる培地および培養条件は当業者であれば適宜選択することができる。分化が進行すると、細胞の形態学的変化が観察される。通常、2〜4週間程度で形態変化が観察できる。
【0016】
すなわち、動物より採取した脂肪組織塊ならびに上記処理および培養後の細胞含有物は、本明細書における用語「脂肪組織由来幹細胞を含む細胞含有物」に包含される。また、上記処理等は例示であり、動物より採取した脂肪組織塊に含まれる脂肪組織由来幹細胞をその生存能および多能性分化能を維持したまま含有する該細胞含有物は、公知のいかなる方法で調製してもよく、いかなる組成を有するものでもよく、当業者が適宜、適切な方法で調製することができる。
【0017】
本明細書において、用語「支持担体」とは、三次元的増殖を可能とするための細胞の足場となる立体構造物を意味する。支持担体は、細胞をその構造物内に保持することが可能であれば、いかなる構造物であってもよいが、細胞の付着及び成育がスムーズに行なわれるものが好ましい。生体内に移植する場合、その材料が生体適合性を有していることが好ましい。細胞の接着を促進するために、その表面積が大きくなるような、多孔性の構造を有していることが好ましく、微孔性の立体網状多孔質構造を有することがさらに好ましい。また、水及び培地中で変質せず、高圧滅菌に耐え得るような性質を有し、更に弱酸やアルカリ及び多くの有機溶媒に対して対薬品性を示し、化学的に安定なものが好ましい。限定する意味ではないが、例えば、ポリビニルフォルマール樹脂や多孔質のガラス、セラミック、ハイドロキシアパタイト、キトサン、セルロース、デキストラン、不溶性コラーゲンなどの天然由来の高分子材料で多孔質構造を有するものなどが好ましく、ハイドロキシアパタイトが特に好ましい。ハイドロキシアパタイトを用いた細胞培養用支持担体としては、CELLYARD(商標)(PENTAX社)等が市販されており、これら市販品を用いることもできる。
【0018】
本明細書中における「骨髄形成可能組成物」とは、in vitro培養または生体内に移植した場合において、造血の場となる骨髄を形成し得る組成物をいう。本発明においては、脂肪組織由来幹細胞を含む細胞含有物を、上記支持担体と接触させることにより得られる。該接触は、細胞培養培地中または生理的緩衝液中にて行うとよい。脂肪組織由来幹細胞を含む細胞含有物を支持担体と接触させると、脂肪組織由来幹細胞が支持担体表面に接着し、支持担体表面上で生存・自己複製および/または分化を起こし得る環境が整う。
【0019】
骨髄形成可能組成物から骨髄を形成させるためには、好ましくは、本発明の組成物を動物に移植することにより、該移植箇所において、移植された組成物中に含まれる脂肪組織由来幹細胞が骨髄の周辺組織である骨芽細胞および造血細胞へと分化し、骨髄が形成され得る。あるいはまた、in vitroで該組成物から骨髄を形成させ得ることも可能であろう。移植部位は、任意の部位でよいが、皮下が好ましい。本発明の骨髄形成可能組成物の移植は、脂肪組織を採取した動物への自家移植が最も好ましいが、同系同種移植、異系同種移植および異種移植のいずれも適用可能である。当業者であれば、移植に際して、ドナーとレシピエントを適切に選択することができ、かつ、適切な移植方法および術後管理を選択・実施することができる。
【0020】
本明細書において、「細胞含有物を支持担体と接触させる」とは、上記の細胞含有物に含まれる脂肪組織由来幹細胞が支持担体構造物内に侵入または該構造物に付着し得るような環境下で、接触させることを指す。したがって、細胞の生存および分化能を維持し得る環境中、すなわち、0℃〜50℃、好ましくは4℃〜40℃、最も好ましくは25℃〜37℃程度の温度下で、生理的緩衝液または培地中で接触させる。接触させる時間は、該幹細胞が支持担体構造物に侵入または付着するのに十分な時間であれば任意の長さであってよいが、数時間〜数週間、例えば24時間〜10日間程度の期間、通常の培養条件下にて培養して、幹細胞の支持担体への細胞接着等を完全なものにすることもできる。または、接触後、骨分化誘導培地中で培養してもよい。骨分化誘導培地は種々のものが公知であるが、幹細胞の骨細胞への分化を誘導し得るものであればよく、例えば、標準的な細胞培養培地(例えば、10%ウシ胎児血清含有DMEMなど)に0.1μMのデキサメタゾン(DEX)および約50μMのアスコルビン酸および10mMのβグリセロリン酸を添加したものなどが挙げられる。骨分化誘導培地中での培養は、3日〜10日程度が好ましい。
【0021】
本明細書中における「脊椎動物」とは、任意の脊椎動物を含むが、特には哺乳動物を意味する。さらに、好ましい実施態様においては、該動物は囓歯動物(ウサギ、モルモット、ラットまたはマウスなど)またはヒトであり、最も好ましくはヒトである。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、骨髄由来ではなく、脂肪組織由来の幹細胞より新規な骨髄が形成できることから、ドナーに負担の少ない、骨髄移植を行なうことができる。更には、ドナーを探すことなく、患者自身の細胞を用いた骨髄移植および造血機能を回復できる治療の可能性が開かれた。したがって、本発明により、骨髄の造血機能障害を伴う疾患(例えば、白血病、再生不良性貧血、小児において先天性免疫不全症や一部の先天性代謝疾患など)の、新規かつ有効な治療または予防方法、および治療または予防用組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態の例として下記に詳細に説明する。
1.脂肪組織の採取
本発明の脂肪組織由来幹細胞は任意の方法によって脂肪組織から得ることができる。これら全ての方法において、供給源動物からの脂肪組織の単離を必要とする。脂肪組織由来幹細胞がその分化能を維持して生存している限り、供給源となる動物の生死は問わない。また、十分な量の脂肪組織を得ることが出来るのであれば、供給源動物の種、その採取部位も限定されない。供給源動物がヒトである場合は、美容外科領域で行なわれる脂肪吸引術、脂肪除去術と同様の方法で採取することができる。
【0024】
2.脂肪組織由来幹細胞を含む細胞含有物の調製
採取した脂肪組織は、血管、神経、その他の組織などが付着しているため、それらを肉眼にて視認しながら除去し、生理学的に適合した洗浄液、例えばリン酸緩衝液などで洗浄する。その後、損傷を受けた組織、血液、赤血球などの成分を除去するために、洗浄液で何度か攪拌し、沈殿させる。これは、上澄が比較的濁りのない状態になるまで繰り返す。
【0025】
この段階でも組織がある程度大きいため、細胞自身の損傷が最小限ですむように、標準的な細胞培養培地に移して細切後、培養液を加えて培養した後、遠心分離によって培養液を除去する。これにコラゲナーゼやディスパーゼ、トリプシン等細胞間接着を切断し得る活性を有する酵素を加えたのち、酵素活性が発揮され得る条件下で、かつ細胞の生存活性に影響が最小限になるような条件下に放置して、細胞間結合が弱まった状態の脂肪塊を激しく攪拌することで、組織塊を全て分解する。上記条件は当業者には公知である。このような酵素による脂肪塊の分解方法のほかに、機械攪拌、音波エネルギー処理、熱エネルギー処理など、細胞に致命的な損傷を与えないものであれば、どのような方法でも用いることができる。
【0026】
酵素法で脂肪塊を分解させた場合は、酵素活性を失活させるために、再度細胞培養用培地を加えた後、遠心分離して培地を除去することで、細胞以外の混入物を除去する。沈殿に更に細胞培養用培地を加え、ピペットなどでピペッティングすることにより更に細胞間接着を切断することもできる。
【0027】
当業者には自明のことであるが、以上の処理は、脂肪組織に含まれる幹細胞の損傷が最小限になるよう留意しつつ実施する。
【0028】
こうして得られた脂肪組織由来幹細胞を含む細胞含有物は、幹細胞を含む間質細胞集団であるが、場合によっては、これを細胞培養用培地で培地を交換しつつ1週間程度培養してもよい。
【0029】
3.幹細胞の生存の確認
場合によっては、2で調製した脂肪組織由来幹細胞を含む細胞含有物に間葉系幹細胞が含まれていることを確認するために、間葉系細胞の分化を誘導する培地で3週間程度培養し、形態の変化を観察することもできる。分化を誘導する培地は、骨、軟骨または脂肪等、脂肪組織由来幹細胞が分化し得る細胞への分化を誘導するための培地であれば任意のものであってよい。細胞種に応じて、種々の培地が公知である。それぞれの分化誘導培地によって分化した細胞を、任意の方法によって形態学的または生化学的に確認することができる。
【0030】
4.骨髄形成可能組成物の作製
1×104〜6個程度、好ましくは1×105個程度の細胞が含まれる量の脂肪組織由来幹細胞を含む細胞含有物を、支持担体に播種する。または播種の前に、脂肪組織由来幹細胞を含む細胞含有物を更に細胞培養用培地で1〜数回継代培養した後、上記のとおり播種してもよい。この支持担体は幹細胞の足場となる鋳型であり、支持組織の代用となるべきものであれば種類は問わないが、生体適合性を有し、骨髄が支持担体内に保持され得るよう、外部に流出せず、細胞の付着及び成育がスムーズに行なわれるものが好ましい。また、該支持担体は、水及び培地中で変質せず、高圧滅菌に耐え得るような性質を有し、更に弱酸やアルカリ及び多くの有機溶媒に対して対薬品性を示し、化学的に安定なものが好ましい。更には微孔性の立体網状多孔質構造を有することが好ましい。ポリビニルフォルマール樹脂や多孔質のガラス、セラミック、ハイドロキシアパタイト、キトサン、セルロース、水溶性コラーゲンおよびデキストランなどの天然由来の高分子材料で多孔質構造を有するものが好ましいが、この中でも特にハイドロキシアパタイトが特に好ましい。
【0031】
上記細胞含有物を播種した支持担体を、すぐに骨髄形成に用いることも可能であるが、数時間〜1週間程度、培養して幹細胞の支持担体への接着および幹細胞の生育環境の馴化を行ってもよい。また、上記細胞含有物を播種した支持担体を、骨分化誘導培地で1週間程度培養して、骨への分化をある程度進行させた後、骨髄形成に用いることもできる。
【0032】
5.骨髄の形成
上記で調製した骨髄形成可能組成物から骨髄を形成させるためには、これを動物に移植するとよい。移植する場所は特に限定されないが、好ましくは皮下、腹腔内あるいは血液細胞の産生に関与しうる脾臓である。移植方法は公知の外科的手法のうち任意のものを用いる。かかる移植は、自家移植、同系同種移植、異系同種移植および異種移植のいずれであってもよい。移植手術後は、通常の術後管理を行う。移植後3週間程度で、造血機能および骨髄の組織が認められるようになる。
【0033】
骨髄の造血機能障害を伴う疾患(例えば、白血病、再生不良性貧血、小児において先天性免疫不全症や一部の先天性代謝疾患など)を有する個体に移植することにより、新たな骨髄が形成され、新規造血器官となり、上記疾患の進行の抑制および/または治療が可能となる。上記疾患の発症リスクが高いが未だ発症していない個体に骨髄形成可能組成物を移植することにより、上記疾患を予防することも可能である。
【0034】
あるいはまた、上記の骨髄形成組成物を、in vitroで維持し、分化促進させることにより、in vitroで骨髄を形成させることも可能であろう。
【0035】
下記実施例で示すように、マウスの脂肪組織由来幹細胞をヒドロキシアパタイトに播種した本発明の骨髄形成可能組成物を、ヌードマウスに皮下移植した場合、骨髄の形成が確認された。実施例に示す方法にしたがって移植したマウス全例(10例以上)において、骨髄の形成が確認された。一方、特開平8−336584号公報(上述の特許文献1)に記載されているとおり、幹細胞を播種していないヒドロキシアパタイトのみを同様に皮下移植したヌードマウスでは、10例以上行ったが、1例も骨髄の形成は認められなかった。
【0036】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0037】
1.脂肪組織由来幹細胞を含む細胞含有物の調製
幹細胞の由来を証明するために、脂肪組織を採取するマウスには、全身全ての細胞にGFPタンパク質が導入・発現されているGFPトランスジェニックマウス(大阪大学岡部先生提供)を用いた。
【0038】
このマウスをネンブタール(0.1mg/100g)にて麻酔し、両側鼡径部より脂肪塊を採取し、リン酸緩衝食塩水(pH 7.4)にてよく洗浄した。更にこの脂肪塊より肉眼で確認できる血管や神経などを完全に除去した後、10% ウシ胎仔血清と1% 抗菌/抗真菌剤を含むダルベッコ改変イーグル培地(Gibco BRL社製)(以下、コントロール培地)の入った100mm2の培養ディッシュに移し、細切した。37℃、5%CO2で1時間培養した後、培養液と細胞を50mlのチューブに移し、1300rpm(260×g)で5分間遠心して上清を除去した。コラゲナーゼが0.1%となるように溶解したPBSを加え、37℃の温浴槽に30分静置した。その間数回、温浴槽よりチューブを取り出し、激しく撹拌した。肉眼で組織塊が見えなくなったことを確認し、同量のコントロール培地を加えてコラゲナーゼを失活させた後、再度1300rpm(260×g)で5分間遠心して上清を除去した。ペレット状の細胞に適量のコントロール培地を加え、均一になるまでピペッティングし、コントロール培地の入った培養ディッシュに播種し、37℃5%CO2で初代培養した。培地は3日おきに交換した。
【0039】
1週間後、上記培養物中に脂肪組織由来幹細胞が含まれていることを確認するために、培養した細胞を顕微鏡で観察した。図1にその結果を示すが、繊維芽細胞様の形態をしていることが判る。また、同じ試料を蛍光顕微鏡で観察した結果を図2に示す。この培養細胞がGFPトランスジェニックマウス由来の細胞であるため、細胞が緑色に蛍光を発していることがわかる。
【0040】
2.幹細胞の確認
1で採取した細胞を、37℃5%CO2の条件下、コントロール培地で3回継代培養した。この培養細胞を1×105個になるように調製し、骨分化誘導培地(コントロール培地に100pMデキサメタゾン、50μMアスコルビン酸、10mM βグリセロリン酸添加)で満たした培養ディッシュに入れ、37℃5%CO2で3週間培養した。3週間後の形態を図3に示す。細胞の形態が線維芽細胞様形態から円形および四角形に変化していることが確認された。これを蛍光顕微鏡下で観察した結果を図4に示す。この細胞がGFPを有していることが確認された。また骨細胞へ分化誘導されたことを確認する目的で、フォンコッサ染色を行った結果を図5に、アルカリフォスファターゼ染色の結果を図6に示す。フォンコッサ染色は骨基質の主要成分であるカルシウムの沈着物が黒色に染色され、アルカリフォスファターゼ染色では、アルカリフォスファターゼを有する骨細胞が赤色に染色されたと考えられ、骨分化誘導培地によって脂肪組織由来間質細胞が骨細胞へ変化したことが示唆された。これにより、脂肪組織由来幹細胞が含まれていることも確認できた。
【0041】
3.骨髄形成可能組成物の作製と幹細胞の骨への分化誘導
上記1で採取した脂肪組織由来幹細胞を含む細胞含有物を、37℃5%CO2の条件下、コントロール培地で3回継代培養し、この細胞を1×105個になるように調製し、微細な気孔を有するハイドロキシアパタイト(CELLYARD(商標)、ペンタックス社製)に播種し、骨分化誘導培地で満たした培養ディッシュに入れ、37℃5%CO2で1週間培養した。
【0042】
4.骨髄の形成
1週間後、蛍光顕微鏡下にハイドロキシアパタイトを観察し、緑色の蛍光を発する細胞が生着していることを確認した後、ヌードマウスの皮下に移植した。また、同様に免疫応答性を有するマウスの皮下にも移植し、該移植片が定着することを確認した。この時のX線写真像を図7に示す。移植後4週間から16週間でハイドロキシアパタイトを取り出した。16週後に取り出したハイドロキシアパタイトを図8に示す。またこれを蛍光顕微鏡下に観察すると緑色の蛍光を確認することができ、GFPトランスジェニックマウス由来の細胞が生着していることが確認された。ヌードマウスでも免疫応答性を有するマウスでも同様に移植片が定着したことから、他の個体の細胞を用いても、免疫拒否反応が起こらないことが確認された。これを4%パラホルムアルデヒドで固定、10%蟻酸溶液にて脱灰後、パラフィン切片を作成し、顕微鏡下に組織像を観察した。組織像では、ハイドロキシアパタイトの気孔に骨髄の形態を確認し(図10, 11)、またハイドロキシアパタイトに接している部分では、骨と思われる組織が形成されていた。それらを構成する細胞がGFPを有していることを、抗GFP抗体による免疫抗体染色にて確認した。この結果を図12に示す。GFPを有している細胞が茶褐色に染色されている。すなわちこれは、脂肪組織由来幹細胞を採取したマウスの細胞によって、骨髄が形成されたことを意味する。
【0043】
あるいはまた、上記3において、ハイドロキシアパタイトに細胞を播種した後、骨分化誘導培地で培養することなく、播種後4時間37℃5%CO2条件下にてコントロール培地中で培養したものを、ヌードマウスに移植した実験では、骨髄および血管形成が認められ、抗GFP抗体による免疫抗体染色では、骨芽細胞および血管内皮細胞ともGFPを有している細胞であり、即ち脂肪組織由来幹細胞から分化した細胞であることがわかった。血管内皮細胞が再生されたということは、同一の起源を持つとされる血球もまた分化し得る可能性があると考えられる。即ち移植した幹細胞から分化して形成された骨髄が、造血組織として機能し、ドナー由来の血球細胞を産生し得ることを、強く示唆するものである。
【0044】
以上の結果より、脂肪由来の幹細胞より骨髄が形成され、該骨髄内には血液及び未分化な血液細胞の存在もあったことから、脂肪由来幹細胞による造血システムが構築できたことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、脂肪組織から採取した脂肪組織由来幹細胞を含む脂肪組織由来細胞(in vitroでの培養)の顕微鏡像である。線維芽細胞様の形態をしていることがわかる。
【図2】図2は、図1の蛍光顕微鏡像である。すべての細胞にGFPが導入されているマウス由来の細胞であるため、GFPが緑色に蛍光を発している。
【図3】図3は、骨分化誘導培地にて培養した図1の細胞の顕微鏡像である。図1の線維芽細胞様形態から、円形および四角形に変化している。
【図4】図4は、図3の蛍光顕微鏡像である。GFPが確認できるため図1と同じ細胞が変化したと考えられる。
【図5】図5は、骨に分化した細胞を確認するためのフォンコッサ染色を行なった顕微鏡像である。骨基質の石灰が黒色に染色されているのが確認できる。
【図6】図6は、骨に分化した細胞を確認するためのアルカリフォスファターゼ染色を行なった顕微鏡像である。アルカリフォスファターゼを有している細胞が赤色に染色されているのが確認できる。
【図7】図7は、図3の細胞を小さな気孔を有するハイドロキシアパタイトに播種し、ヌードマウスおよび免疫応答性のあるマウスの皮下に移植した際のX線写真である。
【図8】図8は、マウス皮下に移植して1ヵ月の移植片である。ハイドロキシアパタイトに血管が侵入しているのを確認できる。
【図9】図9は、図8の蛍光顕微鏡写真である。GFPを有する細胞が確認でき、細胞が生きていることが確認できる。
【図10】図10は、図8のHE染色像である。ハイドロキシアパタイトの気孔に細胞成分が多数認められ、生体でいえば、骨髄を有する海綿骨のような構造が確認できる。
【図11】図11は、図10の拡大像である。1つの気孔を拡大すると、骨髄に特徴的な脂肪細胞ならびに血液細胞などが観察された。
【図12】図12は、図10の拡大像であり、抗GFP抗体による免疫染色像である。ハイドロキシアパタイトに接している部分には骨細胞と思われる細胞と骨の形成が認められ、これらはGFP陽性であり、すなわちドナー由来の細胞であると考えられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脊椎動物から採取した脂肪組織由来幹細胞を含む、骨髄形成可能組成物。
【請求項2】
脊椎動物の脂肪組織由来幹細胞から骨細胞に分化した細胞を含む、骨髄形成可能組成物。
【請求項3】
脊椎動物が哺乳動物である、請求項1または2記載の骨髄形成可能組成物。
【請求項4】
支持担体をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の骨髄形成可能組成物。
【請求項5】
上記支持担体が、生体適合性の材料からなり、立体網状多孔質構造を有するものである、請求項4記載の骨髄形成可能組成物。
【請求項6】
上記支持担体が、ポリビニルフォルマール樹脂、ガラス、セラミック、ヒドロキシアパタイト、キトサン、セルロース、不溶性コラーゲンおよびデキストランからなる群より選択される1つ以上の材料からなるものである、請求項4または5記載の骨髄形成可能組成物。
【請求項7】
骨髄の造血機能障害を伴う疾患を治療または予防するための、請求項1〜6のいずれか1項記載の骨髄形成可能組成物。
【請求項8】
脊椎動物から採取した脂肪組織から脂肪組織由来幹細胞を含む細胞含有物を調製するステップ、および該細胞含有物を支持担体と接触させて骨髄形成可能組成物を得るステップを含む、骨髄を作製する方法。
【請求項9】
骨髄形成可能組成物または骨髄を作製するための、脊椎動物の脂肪組織から得た脂肪組織由来幹細胞の使用。
【請求項1】
脊椎動物から採取した脂肪組織由来幹細胞を含む、骨髄形成可能組成物。
【請求項2】
脊椎動物の脂肪組織由来幹細胞から骨細胞に分化した細胞を含む、骨髄形成可能組成物。
【請求項3】
脊椎動物が哺乳動物である、請求項1または2記載の骨髄形成可能組成物。
【請求項4】
支持担体をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の骨髄形成可能組成物。
【請求項5】
上記支持担体が、生体適合性の材料からなり、立体網状多孔質構造を有するものである、請求項4記載の骨髄形成可能組成物。
【請求項6】
上記支持担体が、ポリビニルフォルマール樹脂、ガラス、セラミック、ヒドロキシアパタイト、キトサン、セルロース、不溶性コラーゲンおよびデキストランからなる群より選択される1つ以上の材料からなるものである、請求項4または5記載の骨髄形成可能組成物。
【請求項7】
骨髄の造血機能障害を伴う疾患を治療または予防するための、請求項1〜6のいずれか1項記載の骨髄形成可能組成物。
【請求項8】
脊椎動物から採取した脂肪組織から脂肪組織由来幹細胞を含む細胞含有物を調製するステップ、および該細胞含有物を支持担体と接触させて骨髄形成可能組成物を得るステップを含む、骨髄を作製する方法。
【請求項9】
骨髄形成可能組成物または骨髄を作製するための、脊椎動物の脂肪組織から得た脂肪組織由来幹細胞の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−252393(P2007−252393A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−133837(P2004−133837)
【出願日】平成16年4月28日(2004.4.28)
【出願人】(803000034)学校法人日本医科大学 (37)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年4月28日(2004.4.28)
【出願人】(803000034)学校法人日本医科大学 (37)
【Fターム(参考)】
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