説明

脆化度判定方法

【課題】低温度領域(300〜450℃)で長時間使用後の9〜12%Cr鋼の脆化度の評価が非破壊で可能な脆化度判定手法を提供する。
【解決手段】被測定物の炭窒化物の析出量を、粒界の組織観察における粒界中の析出物の面積比から測定する過程と、炭窒化物の析出量と脆化度との関係を示すマスターカーブを作成する過程と、炭窒化物の析出量からマスターカーブを参照して脆化度を判定する過程と、を備えることを特徴とする脆化度判定方法を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脆化度判定方法に関するものであり、特に、非クリープ温度域(300〜450℃)で長時間使用後の9〜12%Cr鋼(焼き戻しマルテンサイト鋼)の脆化度判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、効率が良くかつクリーンな発電システムとしてガスタービンが注目されており、こうしたガスタービンあるいはコンバインドサイクル発電プラントの効率の一層の向上を図るため、ガスタービンの入口ガス温度は上昇する趨勢にある。このような入口ガス温度の高温化にともない、動翼、静翼、燃焼器、ガスタービンおよびコンプレッサーディスクなども、より優れた高温強度、靭性が要求されている。
【0003】
ガスタービンやジェットエンジンのタービンディスク用材料としては、3.5Ni−Cr−Mo−V鋼やCr−Mo−V鋼等の低合金鋼、9〜12%Cr鋼の高Cr鋼およびNi基超合金などが用いられている。特に、特許文献1には、ガスタービンディスクなどに用いられる9〜12%Cr鋼(焼戻しマルテンサイト鋼)の組成が開示されている。
【0004】
上記の材料は、長時間使用に伴い経年劣化するため、甚大な災害の予防保全のために長時間使用後の経年劣化の評価が必要であった。そこで、低合金鋼について、クリープ損傷は硬さ法、Aパラメータ法、電気抵抗法等が実用化されており、脆化は粒界溝エッチング法等が実用化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3354832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に開示されている9〜12%Cr鋼(焼戻しマルテンサイト鋼)の組織は、低合金鋼のベイナイト組織とは異なる焼戻しマルテンサイト組織であるため、上述したような低合金鋼についての従来の手法が適用できないという問題があった。また、従来の経年劣化の評価手法に適用する部材は、高温域で使用する部材を想定していたため、非クリープ域のように比較的に低温度領域(300〜450℃)での使用について、脆化度の評価手法が確立されていないのが現状であった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、低温度領域(300〜450℃)で長時間使用後の9〜12%Cr鋼の脆化度の評価が非破壊で可能な脆化度判定手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
すなわち、本発明の請求項1に係る発明は、被測定物の炭窒化物の析出量を、組織観察における析出物の面積比から測定する過程と、炭窒化物の析出量と脆化度との関係を示すマスターカーブを作成する過程と、炭窒化物の析出量からマスターカーブを参照して脆化度を判定する過程と、を備えることを特徴とする脆化度判定方法である。
また、本発明の請求項2に係る発明は、前記炭窒化物の析出量に代えて、被測定物の硬度のパラメータにより脆化度を判定することを特徴とする請求項1に記載の脆化度判定方法である。
さらに、本発明の請求項3に係る発明は、被測定物の使用された温度領域が500℃以上である場合に、炭窒化物の析出量を用い、被測定物の使用された温度領域が500℃未満であって被測定物の使用後の硬度が使用前の硬度よりも低い場合に、炭窒化物の析出量を用い、被測定物の使用された温度領域が500℃未満であって被測定物の使用後の硬度が使用前の硬度よりも高い場合に、炭窒化物の析出量及び被測定物の硬度のいずれか一方を用いて脆化度を判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の脆化度判定方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の脆化度判定方法によれば、被測定物の炭窒化物の析出量又は被測定物の硬度の測定値とマスターカーブとから脆化度を判定する構成となっている。また、被測定物の炭窒化物の析出量又は被測定物の硬度は、被測定物を非破壊で得ることができる。したがって、被測定物、特に低温度領域(300〜450℃)で長時間使用後の9〜12%Cr鋼の脆化度を非破壊な手法で判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る析出物の面積率(%)と脆化度(ΔFATT)との関係を表すマスターカーブを示す図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る硬度のパラメータと脆化度(ΔFATT)との関係を表すマスターカーブを示す図である。
【図3】本発明の第3の実施形態を説明するためのフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を適用した実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
本発明を適用した第1の実施形態である脆化度判定方法は、被測定物の炭窒化物(MX)の析出量を、組織観察における析出物の面積比から測定する過程(炭窒化物の析出量測定過程)と、炭窒化物の析出量と脆化度との関係を示すマスターカーブを作成する過程(マスターカーブ作成過程)と、炭窒化物の析出量からマスターカーブを参照して脆化度を判定する過程(脆化度判定過程)と、を備えている。以下、各過程について詳細に説明する。
【0012】
(炭窒化物の析出量測定過程)
炭窒化物の析出量測定過程では、被測定物の炭窒化物(MX)の析出量を、組織観察における析出物の面積比から測定する。
本実施形態における被測定物としては、非クリープ域となる比較的に低温度領域(300〜450℃)で使用した9〜12%Cr鋼であり、特に、上述した特許文献1に記載されているような9〜12%Cr鋼(焼戻しマルテンサイト鋼)である。
【0013】
炭窒化物は、MXの組成を有しており、組織中に微細な析出物として析出する。ここで、上記Mとしては、例えば、クロム(Cr)、鉄(Fe)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)等が挙げられる。また、上記Xは、炭素(C)又は窒素(N)である。
【0014】
組織観察は、先ず、長時間使用した被測定物の組織をスンプ法により採取する。ここで、スンプ法とは、Suzuki's Universal Micro-Printing Method.の略称であり、検鏡材料の複製(レプリカ)をとることにより、析出物を転写し、析出物の形態を観察する公知の方法である。スンプ法を用いることにより、被測定物を破壊することなく被測定物の組織を採取することができる。次に、透過型電子顕微鏡を用いて組織観察を行う。次いで、微細な炭窒化物の析出量を測定する。具体的には、微細な炭窒化物の析出量は、例えば、析出物の面積率(%)として得ることができる。
【0015】
(マスターカーブ作成過程)
マスターカーブ作成過程では、被測定物における炭窒化物の析出量と脆化度(ΔFATT)との関係を示すマスターカーブを作成する。
なお、脆化度の評価には、FATTを指標として評価される。また、本明細書において、FATTとは、破面遷移温度(Fracture Appearance Transition Temperature)を意味し、JIS Z 2242に規定されている金属材料のシャルピー衝撃試験により測定される値である。
また、脆化度(ΔFATT)は、脆化度合いを示す指標であり、未使用状態の被測定物の初期破面遷移温度をFATTとし、温度T(℃)で時間t(時間)経過後の被測定物の破面遷移温度を(FATTTt)とした場合に、下記(1)式によって算出される。
ΔFATTTt=FATTTt−FATT・・・(1)
【0016】
マスターカーブは、被測定物の試験片を作成し、実際のFATT及びΔFATTを測定して、上記析出物の面積率(%)との関係式を求める。図1は、析出物の面積率(%)とΔFATTとの関係を表すマスターカーブである。
【0017】
(脆化度判定過程)
脆化度判定過程では、炭窒化物(MX)の析出量から、上述のようにして作成したマスターカーブを参照して、被測定物の脆化度を判定する。すなわち、上記炭窒化物の析出量測定過程で得られた析出物の面積率(%)と、上記マスターカーブ作成過程で得られたマスターカーブとから、被測定物の脆化度(ΔFATT)を推定して、脆化度合いを評価する。
【0018】
以上説明したように、本実施形態の脆化度判定方法によれば、被測定物の炭窒化物(MX)の析出量とマスターカーブとから脆化度を判定することができる。また、被測定物の炭窒化物(MX)の析出量は、被測定物を非破壊で得ることができる。特に低温度域において長時間使用された9〜12%Cr鋼の脆化度の評価が非破壊的に可能となる。
【0019】
次に、本発明を適用した第2の実施形態である脆化度判定方法について説明する。第2の実施形態の脆化度判定方法は、第1の実施形態の脆化度判定方法における炭窒化物の析出量(析出物の面積率(%))に代えて、被測定物の硬度により脆化度を判定する点が異なるものであり、その他の要件については第1の実施形態と同様である。したがって、第1の実施形態と同様の要件については説明を省略する。
【0020】
(硬度測定過程)
被測定物の硬度は、非破壊的な硬さ測定方法であれば特に限定されるものではない。具体的には、超音波硬度測定法を例示することができる。
超音波による硬度測定は、材料の硬さを、圧子に装着した超音波プローブの振動数の変化として測定するものであり、例えば、KrautKramer社製の装置を用いることができる。
【0021】
(マスターカーブ作成過程)
本実施形態のマスターカーブ作成過程では、被測定物の初期からの硬度変化量(ΔHV)と脆化度(ΔFATT)との関係を示すマスターカーブを作成する。マスターカーブは、被測定物の試験片を作成し、実際のFATT及びΔFATTを測定して、硬度変化量(ΔHV)との関係を求める。図2は、硬度変化量(ΔHV)と脆化度(ΔFATT)との関係を表すマスターカーブである。
【0022】
(脆化度判定過程)
本実施形態の脆化度判定過程では、実測した硬度の値から、上述のようにして作成したマスターカーブを参照して、被測定物の脆化度を判定する。すなわち、上記硬度測定過程で得られた硬度変化量(ΔHV)と、上記マスターカーブ作成過程で得られたマスターカーブとから、被測定物の脆化度(ΔFATT)を推定して、脆化度合いを評価する。
【0023】
以上説明したように、本実施形態の脆化度判定方法によれば、被測定物の硬度とマスターカーブとから脆化度を判定することができる。また、被測定物の硬度(HV)は、被測定物を非破壊で得ることができる。また、硬度(HV)の測定は、非破壊的な測定方法である超音波硬度測定法を用いることができるため、第1の実施形態で用いた析出物の面積率(%)の測定よりも簡便な方法である。
【0024】
次に、本発明を適用した第3の実施形態である脆化度判定方法について、図3を参照しながら説明する。第3の実施形態の脆化度判定方法は、被測定物の非破壊で得られる測定値を、析出物の面積率(%)及び硬度(HV)のいずれを用いるかについて場合分けによって選択する方法である。
【0025】
具体的には、図3に示すように、先ず、被測定物の使用された温度領域について、以下の場合分けを行う。すなわち、被測定物の使用された温度領域が500℃以上である場合には、第1の実施形態で説明したように炭窒化物の析出量(析出物の面積率(%))を用いて脆化度を判定する。この場合に材料が軟化する温度域に入る可能性があり、硬度と脆化度の相関関係が無くなる不具合が発生する可能性があるためである。
【0026】
次に、被測定物の使用された温度領域が500℃未満には、被測定物の硬度(HV)について、以下の場合分けを行う。被測定物の使用後の硬度が使用前の硬度よりも低い場合、すなわち、被測定物の使用後の硬度から使用前の硬度を引いた値(ΔHV)が、0以下である場合(ΔHV≦0)には、第1の実施形態で説明したように炭窒化物の析出量(析出物の面積率(%))を用いて脆化度を判定する。この場合に硬度(HV)を用いると、硬度と脆化度の相関関係が無くなる不具合が発生するためである。
【0027】
一方、被測定物の使用された温度領域が500℃未満であって被測定物の使用後の硬度が使用前の硬度よりも高い場合、すなわち、被測定物の使用後の硬度から使用前の硬度を引いた値(ΔHV)が、0よりも大きい場合(ΔHV>0)には、炭窒化物の析出量及び被測定物の硬度のいずれか一方を用いて脆化度を判定することができる。
【0028】
以上説明したように、本実施形態の脆化度判定方法によれば、被測定物の使用環境に応じて適切な測定値を選択することができるため、被測定物の脆化度を精度よく判定することができる。特に、低温度領域(300〜450℃)で長時間使用後の9〜12%Cr鋼の脆化度の評価が非破壊で可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物の炭窒化物の析出量を、粒界の組織観察における粒界中の析出物の面積比から測定する過程と、
炭窒化物の析出量と脆化度との関係を示すマスターカーブを作成する過程と、
炭窒化物の析出量からマスターカーブを参照して脆化度を判定する過程と、を備えることを特徴とする脆化度判定方法。
【請求項2】
前記炭窒化物の析出量に代えて、被測定物の硬度のパラメータにより脆化度を判定することを特徴とする請求項1に記載の脆化度判定方法。
【請求項3】
被測定物の使用された温度領域が500℃以上である場合に、炭窒化物の析出量を用い、
被測定物の使用された温度領域が500℃未満であって被測定物の使用後の硬度が使用前の硬度よりも低い場合に、炭窒化物の析出量を用い、
被測定物の使用された温度領域が500℃未満であって被測定物の使用後の硬度が使用前の硬度よりも高い場合に、炭窒化物の析出量及び被測定物の硬度のいずれか一方を用いて脆化度を判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の脆化度判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−230637(P2010−230637A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81585(P2009−81585)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】