脈波伝播情報測定装置
【課題】動脈の種類毎の脈波伝播情報を相対的に評価し得る脈波伝播情報測定装置を提供する。
【解決手段】被験者10における所定の部位から検出される脈波に基づいて、その被験者10の動脈内を脈波が伝播する速度に関連する脈波伝播情報を測定する脈波伝播情報測定装置20であって、被験者10における複数種類の動脈それぞれに対応して測定される脈波伝播情報を同一画面内に相対的に表示させるものであることから、動脈の種類毎の脈波伝播情報を客観的に視認可能に示すことができる。
【解決手段】被験者10における所定の部位から検出される脈波に基づいて、その被験者10の動脈内を脈波が伝播する速度に関連する脈波伝播情報を測定する脈波伝播情報測定装置20であって、被験者10における複数種類の動脈それぞれに対応して測定される脈波伝播情報を同一画面内に相対的に表示させるものであることから、動脈の種類毎の脈波伝播情報を客観的に視認可能に示すことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脈波伝播速度や脈波伝播時間等、生体の動脈内を脈波が伝播する速度に関連する情報を測定する脈波伝播情報測定装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
生体における所定の部位から検出される脈波に基づいて、その生体の動脈内を脈波が伝播する速度に関連する脈波伝播情報を測定する脈波伝播情報測定装置が知られている。その一態様として、生体の動脈硬化度が脈波伝播速度情報に影響を与えることを利用して、脈波伝播速度情報に基づいて動脈硬化度を評価する技術が知られている。斯かる脈波伝播速度の測定では、例えば、測定対象となる生体における2点において脈波が検出され、その2点間の距離及び脈波伝播の時間差から脈波伝播速度の計測が行われる。この脈波伝播速度は、血管(動脈)の径及び弾性に依存する値であり、対象となる血管の硬さが増すほどその速度が増加することが知られている。そのような性質を利用して、例えば、特許文献1に記載された動脈硬化度評価装置では、上述のようにして測定された脈波伝播速度から対象となる生体の動脈硬化度乃至血管年齢等の評価が行われる。
【0003】
【特許文献1】特開2004−321438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、生体における動脈は、例えば、弾性動脈、筋性動脈、及びその中間の性質を有する動脈というように、その特性から複数の種類に分類することができる。この分類に関して、大動脈は弾性動脈、末梢動脈は筋性動脈、中動脈はその中間の性質を有する動脈にそれぞれ属する。また、そのように種類の異なる動脈では脈波伝播速度もそれぞれに異なることが知られている。同様に、動脈硬化の進行度については、同一生体内においても動脈の種類によって時間差があると考えられる。例えば、大動脈の動脈硬化は10歳代後半から始まることが知られており、60歳代で脈波伝播速度の進展は飽和する傾向がみられる。従って、前述したような従来の技術によって測定される大動脈及び末梢動脈を含む平均的な脈波伝播速度は、60歳代までは大動脈成分の脈波伝播速度の変化を主に反映し、それ以降は末梢動脈成分等、他の種類の動脈に係る脈波伝播速度の変化に依存するようになるものと考えられる。しかし、そのような動脈の種類毎の脈波伝播情報を相対的に評価し得る脈波伝播情報測定装置は、未だ開発されていないのが現状である。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、動脈の種類毎の脈波伝播情報を相対的に評価し得る脈波伝播情報測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる目的を達成するために、本発明の要旨とするところは、生体における所定の部位から検出される脈波に基づいて、その生体の動脈内を脈波が伝播する速度に関連する脈波伝播情報を測定する脈波伝播情報測定装置であって、前記生体における複数種類の動脈それぞれに対応して測定される脈波伝播情報を同一画面内に相対的に表示させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
このようにすれば、生体における所定の部位から検出される脈波に基づいて、その生体の動脈内を脈波が伝播する速度に関連する脈波伝播情報を測定する脈波伝播情報測定装置であって、前記生体における複数種類の動脈それぞれに対応して測定される脈波伝播情報を同一画面内に相対的に表示させるものであることから、動脈の種類毎の脈波伝播情報を客観的に視認可能に示すことができる。すなわち、動脈の種類毎の脈波伝播情報を相対的に評価し得る脈波伝播情報測定装置を提供することができる。
【0008】
ここで、好適には、前記生体における大動脈及び末梢動脈それぞれに対応して測定される脈波伝播情報を同一画面内に相対的に表示させるものである。このようにすれば、大動脈及び末梢動脈それぞれに対応する脈波伝播情報を客観的に視認可能に示すことができる。
【0009】
また、好適には、前記大動脈に対応する脈波伝播情報は、前記生体における動脈起始部から大腿部までの区間を脈波が伝播する速度に相当するものである。このようにすれば、実用的な態様で大動脈に対応する脈波伝播情報を得ることができる。
【0010】
また、好適には、前記大動脈に対応する脈波伝播情報は、前記生体における動脈起始部から上腕部までの区間を脈波が伝播する速度に相当するものである。このようにすれば、実用的な態様で大動脈に対応する脈波伝播情報を得ることができる。
【0011】
また、好適には、前記末梢動脈に対応する脈波伝播情報は、前記生体における大腿部から足首部までの区間を脈波が伝播する速度に相当するものである。このようにすれば、実用的な態様で末梢動脈に対応する脈波伝播情報を得ることができる。
【0012】
また、好適には、前記生体における大動脈、末梢動脈、及び末梢細動脈それぞれに対応して測定される脈波伝播情報を同一画面内に相対的に表示させるものである。このようにすれば、大動脈、末梢動脈、及び末梢細動脈それぞれに対応する脈波伝播情報を客観的に視認可能に示すことができる。
【0013】
また、好適には、前記末梢細動脈に対応する脈波伝播情報は、前記生体における足首部から足指部までの区間を脈波が伝播する速度に相当するものである。このようにすれば、実用的な態様で末梢細動脈に対応する脈波伝播情報を得ることができる。
【0014】
また、好適には、前記生体の正中面を対称面とする左右身それぞれにおける動脈に対応して測定される脈波伝播情報を同一画面内に相対的に表示させるものである。このようにすれば、左右身それぞれにおける動脈の種類毎の脈波伝播情報を客観的に視認可能に示すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0016】
図1は、本発明の一実施例である脈波伝播情報測定装置20の構成を説明するブロック図である。この図1に示すように、本実施例の脈波伝播情報測定装置20は、脈波伝播速度関連値(脈波伝播情報)算出のための脈波及び血圧値の測定部位として頸部11、上腕部12(右上腕部12R及び左上腕部12L)、大腿部14(右大腿部14R及び左大腿部14L)、足首部16(右足首部16R及び左足首部16L)、及び足趾部18(右足趾部18R及び左足趾部18L)が選択されたものであり、斯かる脈波伝播情報測定装置20おいては、測定部位である上記上腕部12、大腿部14、足首部16、及び足趾部18が何れも略同じ高さとなるように、測定対象である被験者10が伏臥位、側臥位、乃至仰臥位の何れかの姿勢をとった状態で以下に詳述する測定が行われる。なお、本実施例の脈波伝播情報測定装置20は、脈波伝播情報と共に血圧値を算出できるように構成されているが、この血圧値の算出は必ずしも実行できるものでなくともよい。
【0017】
上記頸部11は、測定対象である被験者10の頭部と体幹部とを接続する部分、所謂首に相当する部位である。また、上記上腕部12は、測定対象である被験者10の肩関節と肘関節との間の部分、所謂二の腕に相当する部位である。また、上記大腿部14は、上記被験者10の腰から膝までの間の部分、すなわち大腿骨のある部分であり、所謂太腿に相当する部位である。また、上記足首部16は、上記被験者10の足(脚)における踝の上の部位である。また、上記足趾部18は、上記被験者10の足における末梢部であり、好適にはその親指である。
【0018】
前記脈波伝播情報測定装置20には、上記左右の上腕部12R、12Lにそれぞれ巻回されるための上腕部用カフ22R、22L(以下、特に区別しない場合には単に上腕部用カフ22という)、上記左右の大腿部14R、14Lにそれぞれ巻回されるための大腿部用カフ24R、24L(以下、特に区別しない場合には単に大腿部用カフ24という)、上記左右の足首部16R、16Lにそれぞれ巻回されるための足首部用カフ16R、16L(以下、特に区別しない場合には単に足首部用カフ16という)、及び上記左右の足趾部18R、18Lにそれぞれ巻回されるための足趾部用カフ28R、28L(以下、特に区別しない場合には単に足趾部用カフ28という)を備えている。これら上腕部用カフ22、大腿部用カフ24、足首用カフ26、及び足趾部用カフ28(以下、特に区別しない場合にはカフ22等という)は、何れも巻回される部位を圧迫する圧迫帯であり、好適には布或いはポリエステル樹脂等の伸展性のない素材から成る帯状外袋内にゴム製袋を有して構成されている。また、これら上腕部用カフ22、大腿部用カフ24、足首用カフ26、及び足趾部用カフ28は、配管30を介してそれぞれ対応する脈波検出部32UL、32UR、32TL、32TR、32AL、32AR、32BL、32BR(以下、特に区別しない場合には単に脈波検出部32という)に接続されている。これら脈波検出部32は、好適には、何れも同一の構成を有するものであるため、図1に示すように左上腕部12Lに対応する脈波検出部32ULを例として以下、その構成を詳述する。
【0019】
図1に示すように、上記脈波検出部32は、調圧弁34、圧力センサ36、静圧弁別回路38、及び脈波弁別回路40を備えており、上記配管30は調圧弁34及び圧力センサ36に接続されている。また、その調圧弁34は、配管42を介して空気ポンプ44に接続されている。上記調圧弁34は、上記空気ポンプ44により発生させられた圧力空気を上記カフ22等内へ供給することを許容する圧力供給状態、そのカフ22等内の圧力を維持する圧力維持状態、電動バルブの開度が制御されることによりそのカフ22等内の圧力を所定の速度で徐々に排圧する徐速排圧状態、及びそのカフ22等内を急速に排圧する急速排圧状態の4つの状態に切り替えられるようになっている。
【0020】
上記圧力センサ36は、上記カフ22等内の圧力を検出してその圧力を表す圧力信号SPbを上記静圧弁別回路38及び脈波弁別回路40にそれぞれ供給する。この静圧弁別回路38はローパスフィルタを備え、上記圧力信号SPbに含まれる定常的な圧力すなわちカフ圧PCbを表すカフ圧信号SKbを弁別してそのカフ圧信号SKbを図示しないA/D変換器を介して演算制御装置46へ供給する。上記脈波弁別回路40はバンドパスフィルタを備え、上記圧力信号SPbの振動成分である脈波信号SMbを周波数的に弁別してその脈波信号SMbを図示しないA/D変換器を介して上記演算制御装置46へ供給する。
【0021】
また、前記脈波伝播情報測定装置20は、心音マイク48を備えている。この心音マイク48は、前記被験者10の動脈起始部19に対応する胸部表皮上の所定部位に装着されて、心音を表す心音信号SHを検出して出力する。斯かる心音マイク48から出力された心音信号SHは、A/D変換器50を介して上記演算制御装置46へ供給される。この心音信号SHが表す心音は、前記被験者10の心拍に同期して発生する心拍同期信号であることから、心音信号SHを出力する心音マイク48は心拍同期信号検出装置として機能している。
【0022】
前記演算制御装置46は、CPU52、ROM54、RAM56、及び図示しないI/Oポート等を備えた所謂マイクロコンピュータにて構成されている。上記CPU52は、上記ROM54に予め記憶されたプログラムに従ってRAM56の一時記憶機能を利用しつつ信号処理を実行することにより、I/Oポートから駆動信号を出力して前記空気ポンプ44及び脈波検出部32内の調圧弁34を制御すると共に、後述する脈波伝播速度算出制御及び脈波伝播情報表示制御等の各種制御を実行する。また、前記脈波伝播情報測定装置20は、前記演算制御装置46からの出力に応じて所定の映像(画像)を表示させる表示器58と、前記演算制御装置46による制御に係る各種情報を記憶するための記憶装置60(図2を参照)とを、備えている。
【0023】
また、前記脈波伝播情報測定装置20は、前記被験者10における頸部(頸動脈部)11の脈波を検出するための圧脈波検出装置62を備えている。図2は、斯かる圧脈波検出装置62の構成を説明する図である。この図2に示すように、上記圧脈波検出装置62は、前記被験者10の頸動脈に押圧されてその頸動脈内の圧脈波を非侵襲で検出するものであり、圧脈波検出プローブ64を備えて、装着バンド66(図1を参照)により被験者10の頸部11に装着される。この圧脈波検出プローブ64は、図2に詳しく示すように、容器状を成すセンサハウジング68と、そのセンサハウジング68を頸動脈11aの幅方向に移動させるためにそのセンサハウジング68に螺合され且つケース内に設けられた図示しないモータによって回転駆動されるねじ軸70とを備えている。この圧脈波検出プローブ64は、上記装着バンド66により上記センサハウジング68の開口端が生体の頸部11の体表面11bに対向する状態で取り付けられるようになっている。
【0024】
上記センサハウジング68の内部には、ダイヤフラム72を介して圧脈波センサ74が相対移動可能かつセンサハウジング68の開口端からの突出し可能に設けられており、これらセンサハウジング68及びダイヤフラム72等によって圧力室76が形成されている。この圧力室76内には、空気ポンプ78から調圧弁80を経て圧力空気が供給されるようになっており、これにより、圧脈波センサ74は圧力室76内の圧力に応じた押圧力で上記体表面11bに押圧される。なお、この空気ポンプ78は、図1に示す前記脈波検出部32に空気圧を供給するための空気ポンプ44と共通のものとされてもよい。上記センサハウジング68及びダイヤフラム72は、上記圧脈波センサ74を頸動脈11aに向かって押圧する押圧装置を構成しており、上記ねじ軸70及び図示しないモータは、上記圧脈波センサ74が押圧される押圧位置をその頸動脈11bの幅方向に移動させる押圧位置変更装置を構成している。
【0025】
以上のように構成された圧脈波検出プローブ64が、前記被験者10の頸部11において体表面11bの頸動脈11a上に押圧されることにより、前記圧脈波センサ74は、前記頸動脈11aから発生して体表面11bに伝達される圧力振動波すなわち圧脈波を検出し、その圧脈波を表す圧脈波信号SMOをマルチプレクサ82へ供給する。このマルチプレクサ82は、前記演算制御装置46からの切替信号SCに従って、前記圧脈波センサ74に備えられた図示しない感圧素子からそれぞれ出力される圧脈波信号SMOを、所定の時間ずつ順次バンドパスフィルタ84及びローパスフィルタ86へ供給する。このバンドパスフィルタ84は、図示しないコンデンサ及びコイル或いは抵抗を備えたアナログ信号処理回路から構成され、上記圧脈波信号SMOから、血流雑音の周波数帯域として設定された周波数帯域(例えば200〜600Hz)の信号(すなわち血流雑音成分)を弁別して、その血流雑音成分の信号SM1をA/D変換器88を介して前記演算制御装置46へ供給する。また、上記ローパスフィルタ86は、上記バンドパスフィルタ84と同様に、図示しないコンデンサ及びコイル或いは抵抗を備えたアナログ信号処理回路から構成され、圧脈波信号SMOに含まれる頸動脈波を表す信号(以下、頸動脈波信号という)SM2を抽出(弁別)してその頸動脈波信号SM2を頸動脈11aに対応する脈波信号SNとしてA/D変換器90を介して前記演算制御装置46へ供給する。また、その演算制御装置46は、前記空気ポンプ78及び調圧弁80へ図示しない駆動回路を介して駆動信号を出力して前記圧力室76内の圧力を調節し、前記マルチプレクサ82に脈拍周期よりも十分に短い周期に予め設定された周期で切替信号SCを出力する。
【0026】
図3は、前記演算制御装置46に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。なお、この図2においては、前記上腕部用カフ22、大腿部用カフ24、足首用カフ26、及び足趾部用カフ28それぞれに対応する構成のうち、前記上腕部用カフ22(左上腕部用カフ22L)に相当する構成のみを例示している。この図2に示すカフ圧制御手段92は、血圧測定においては、前記空気ポンプ44及びその空気ポンプ44に接続された各脈波検出部32に対応する調圧弁34を制御することで、前記カフ22等それぞれにおけるカフ圧を所定の目標圧力値PCM(例えば、上腕部用カフ22については180mmHg程度、足首部用カフ26については240mmHg程度の圧力値)まで急速昇圧させ、その後、5mmHg/sec程度の速度で徐速降圧させる。また、脈波の検出においては、前記空気ポンプ44及びその空気ポンプ44に接続された各脈波検出部32に対応する調圧弁34を制御することで、前記カフ22等それぞれにおけるカフ圧を所定の脈波検出圧まで昇圧させた後、一定時間その圧力を保持させる。上記脈波検出圧は、一般的な最低血圧値よりも低く、且つ前記カフ22等の圧迫によりそのカフ下の動脈において発生した圧力振動波が伝達されてそのカフ22等にその圧力振動波を表す脈波が十分な信号強度で発生するような圧力であり、たとえば60mmHgである。
【0027】
血圧値決定手段94は、測定部位に巻回された前記カフ22等が上記カフ圧制御手段92により徐速降圧させられる過程において、順次採取される脈波信号SM1の振幅の変化に基いて、よく知られたオシロメトリック法を用いて各カフに対応する測定部位の血圧値BPである最高血圧値及び最低血圧値を決定する。この血圧値決定手段94により決定された血圧値は、例えば前記記憶装置60に記憶されると共に、所定の操作に応じて前記表示器58に表示される。
【0028】
脈波伝播速度算出手段96は、前記カフ22等が巻回された測定部位から検出される脈波、前記心音マイク48により検出される心音信号SH、及び前記圧脈波検出装置62により検出される頸動脈波SN等に基づいて、前記被験者10の動脈内を脈波が伝播する速度に関連する脈波伝播情報としての脈波伝播速度を算出する。具体的には、動脈起始部すなわち心臓と、各測定部位例えば前記カフ22等が装着されている部位乃至圧脈波検出装置62(装着バンド66)が装着されている部位との間を脈波が伝播する速度を算出する。ここで、生体の動脈内を脈波が伝播する速度に関連する脈波伝播情報としては、対象となる動脈を脈波が伝播する時間である脈波伝播時間やその動脈を脈波が伝播する速度である脈波伝播速度等が考えられるが、本実施例においては脈波伝播速度を測定する態様について説明する。なお、以下の説明において特に言及しないが、脈波伝播速度の測定は、前述のように被験者10における左右それぞれの測定部位に対応して備えられたカフ22等乃至脈波検出部32による検出結果に応じて、その被験者10の正中面を対称面とする左右身それぞれにおける動脈に対応して個別に行われる。
【0029】
上記脈波伝播速度情報算出手段96による脈波伝播速度の算出では、例えば、前記心音マイク48により検出される心音の周期的に繰り返す所定の部位(I音の開始点等)が発生した時点と、各カフに対応する脈波検出部32に備えられた脈波弁別回路40により弁別(抽出)される各測定部の周期的に繰り返す所定波形(立ち上がり点など)が発生した時点との時間差を脈波伝播時間として算出すると共に、その算出結果及び予め定められた各区間毎の距離(動脈長)からそれら区間毎の脈波伝播速度が算出される。図1に示す例では、例えば、前記上腕部用カフ22に対応して動脈起始部と上腕部動脈との間の脈波伝播速度hbPWVが、前記大腿部用カフ24に対応して動脈起始部と大腿部動脈との間の脈波伝播速度hfPWVが、前記足首部用カフ26に対応して動脈起始部と足首部動脈との間の脈波伝播速度haPWVが、前記足趾部用カフ28に対応して動脈起始部と足趾部動脈との間の脈波伝播速度htPWVが、前記圧脈波検出装置62に対応して動脈起始部と頸動脈との間の脈波伝播速度hcPWVがそれぞれ算出される。
【0030】
前記脈波伝播速度算出手段96は、また好適には、前記カフ22等乃至装着バンド66が巻回された測定部位から検出される脈波に基づいて、各測定部位相互間における動脈内を脈波が伝播する速度である脈波伝播速度を算出する。例えば、よく知られた脈波測定法である吉村法を用いて斯かる脈波伝播速度を算出する。吉村法では、例えば、脈波上に大動脈弁閉鎖に伴うノッチが現れる頸動脈脈波を基準にとる。すなわち、前記心音マイク48による検出結果及び前記圧脈波検出装置62による検出結果に関して、大動脈閉鎖に伴う心音が心音第II音の先頭に現れるので、その脈波上のノッチ点との時間差∇thcが動脈起始部と頸動脈部との間の脈波伝播時間とされる。この時間差∇thcと頸動脈脈波と脈波伝播速度測定部位の脈波の立ち上がり点との時間差∇tcfを加算することで、動脈起始部とその部位間の脈波伝播時間が得られる。従って、吉村法では、動脈起始部と大腿部大動脈との間の脈波伝播時間∇thf=∇thc+∇tcfと表すことができる。また、動脈起始部と大腿部動脈相互間の伝播距離をLhfとすると、動脈起始部から大腿部動脈までの間に係る脈波伝播速度hfPWVは、次の(1)式のように表すことができる。同様に、動脈起始部と足首部動脈相互間の伝播距離をLhaとすると、動脈起始部から足首部動脈までの間に係る脈波伝播速度haPWVは、次の(2)式のように表すことができる。
【0031】
hfPWV=Lhf/∇thf
=Lhf/(∇thc+∇tcf) (1)
haPWV=Lha/∇tha
=Lha/(∇thc+∇tca) (2)
【0032】
ここで、後述する脈波伝播情報表示制御手段98による分画表示制御のために仮想的脈波伝播速度vPWVを導入する。先ず、Lha=Lhc+(Lha-Lhc)と書き直すと、前述した(2)式は、次の(3)式に示すように表すことができる。なお、この(3)式におけるca-vPWVは、脈波が動脈起始部から頸動脈部を経由して足首部動脈へと伝播したと仮定した場合における頸動脈部と足首部相互間の仮想的脈波伝播速度(vPWV)を表す。
【0033】
haPWV={Lhc+(Lha-Lhc)}/(∇thc+∇tca)
=Lhc/(∇thc+∇tca)+(Lha-Lhc)/(∇thc+∇tca)
={Lhc/∇thc}{∇thc/(∇thc+∇tca)}
+{(Lha-Lhc)/∇tca}{∇tca/(∇thc+∇tca)}
=hcPWV・ ∇thc/∇tha+ca-vPWV・∇tca/∇tha (3)
【0034】
ここで、∇thc/∇tha+∇tca/∇tha=1であり、∇thc/∇tha、∇tca/∇thaは、haPWV算出の原理に基づくhcPWV及びca-vPWVの寄与率である。haPWVが吉村法或いは他の方法によって得られたとすると、上述と同様の計算により、動脈起始部と大腿部動脈との間に存在する血流路に対応する脈波伝播速度hfPWV、大腿部動脈と足首部動脈との間に存在する血流路に対応する脈波伝播速度faPWVを次の(4)式のように表すことができる。すなわち、測定区間の平均的な脈波伝播速度に含まれる各動脈部の脈波伝播速度の寄与率をその区間に対応する脈波伝播時間の比として得ることができる。なお、(4)式では、∇tha=∇thf+∇tfaとしている。
【0035】
haPWV=hfPWV・∇thf/∇tha+faPWV・∇tfa/∇tha (4)
【0036】
また、全身の平均的な脈波伝播速度の測定結果から大動脈及び末梢動脈にそれぞれ対応する脈波伝播速度を推定することを考えると、個人別の脈波伝播速度が各年代間の平均値fと等しいと仮定してf=∇thf/∇thaと表すことができる。また、動脈長は簡便的に、個人の身長Hの関数として次の(5)〜(7)式のように表すことができる。従って、大動脈に対応する脈波伝播速度hfPWVすなわち動脈起始部から大腿部動脈までの間に係る脈波伝播速度、及び末梢動脈に対応する脈波伝播速度faPWVすなわち大腿部動脈から足首部動脈までの間に係る脈波伝播速度は、次の(8)、(9)式のように推定することができる。
【0037】
Lha=f1(H) (5)
Lhf=f2(H) (6)
Lfa=Lha−Lhf (7)
hfPWV=Lhf/(f・∇tha) (8)
faPWV=Lfa/{(1−f)・∇tha} (9)
【0038】
前記脈波伝播速度算出手段96は、好適には、以上のようにして各測定部位相互間における動脈内を脈波が伝播する速度である脈波伝播速度を算出(推定)するものであるが、より簡便には、各測定部位における脈波測定時間の差に基づいて各測定部位相互間に対応する脈波伝播速度を算出するものであってもよい。例えば、前記大腿部用カフ24に対応する脈波信号の検出時点から前記足首部用カフ26に対応する脈波信号の検出時点までの時間差と、前記大腿部14と足首部16との間の距離から、斯かる大腿部14から足首部16までの間に係る脈波伝播速度faPWVが算出される。また、前記足首部用カフ26に対応する脈波信号の検出時点から前記足趾部用カフ28に対応する脈波信号の検出時点までの時間差と、前記足首部16と足趾部18との間の距離から、斯かる足首部16から足趾部18までの間に係る脈波伝播時間atPWVが算出される。
【0039】
図4は、公表されている各年代の被験者における大動脈とみなされる脈波伝播速度hfPWVの測定データを用いて、平均的な身長の被験者を想定して得られる脈波伝播時間thfと、実際に測定された脈波伝播速度haPWVから同様にして平均的な身長の被験者を想定して得られた脈波伝播時間thaとの比の年代別変化を示すグラフである。また、図5は、身長165cmの被験者に関して、各区間に対応する脈波伝播時間すなわち動脈起始部から足首部までの脈波伝播時間∇tha、動脈起始部から大腿部までの脈波伝播時間∇thf、大腿部から足首部までの脈波伝播時間∇tfaをそれぞれ逆算して示すグラフである。これら図4及び図5に示すように、20歳代から60歳代までの脈波伝播時間∇thaの変化は、脈波伝播時間∇thfの変化に略依存している一方、脈波伝播時間∇tfaは略一定であることがわかる。また、全体の変化に対する脈波伝播時間∇thfの寄与率は、60歳代で極小値をとっていることがわかる。
【0040】
図6は、前述のようにして算出(推定)される各測定部位相互間における動脈内を脈波が伝播する速度である脈波伝播速度の年代別変化を示すグラフであり、動脈起始部から足首部までの間に係る脈波伝播速度haPWVを実線で、動脈起始部から大腿部までの間に係る脈波伝播速度hfPWVを一点鎖線で、大腿部から足首部までの間に係る脈波伝播速度faPWVを二点鎖線でそれぞれ示している。この図6に示す例においても、上述した図5に示す関係と同様に、20歳代から60歳代までの脈波伝播速度haPWVの変化は、脈波伝播速度hfPWVの変化に略依存している一方、脈波伝播速度faPWVは略一定であることがわかる。
【0041】
図7は、図6と同様に、前述のようにして算出(推定)される各測定部位相互間における動脈内を脈波が伝播する速度である脈波伝播速度の年代別変化を示すグラフであり、動脈起始部から足首部までの間に係る脈波伝播速度haPWVを実線で、動脈起始部から上腕部までの間に係る脈波伝播速度hbPWVを破線でそれぞれ示している。この図7に示すように、動脈起始部から上腕部までの間に係る脈波伝播速度hbPWVの年代別変化は60歳代で略飽和する一方、動脈起始部から足首部までの間に係る脈波伝播速度haPWVは60歳代以降も顕著な上昇を継続していることがわかる。
【0042】
以上、図4乃至図7に示す傾向は、動脈の種類に応じた動脈硬化の進行度に関する時間差に起因する違いと考えられる。例えば図7に示す例において、動脈起始部から上腕部までの間に係る脈波伝播速度hbPWVでは、弾性動脈である大動脈に近い年齢依存性を示す一方、動脈起始部から足首部までの間に係る脈波伝播速度haPWVでは、大動脈及び末梢動脈を含む血管系の年齢依存性を示しているものと考えられる。
【0043】
図8は、動脈起始部から上腕部までの間に係る脈波伝播速度hbPWVに関連する動脈を、図9は、動脈起始部から足首部までの間に係る脈波伝播速度haPWVに関連する動脈をそれぞれ示す図である。また、これら図8、9における参照番号(ref.no)は、図13にその概略位置を示す各動脈を示すものである。この図8に示すように、動脈起始部から上腕部までの間に係る動脈では弾性動脈の割合が高く、例えば成人の典型例において全長40cm、その内弾性動脈長15.5cm(39%)、筋性動脈長24.5cm(61%)である。また、図9に示すように、動脈起始部から足首部までの間に係る動脈では筋性動脈の割合が高く、例えば成人の典型例において全長136cm、その内弾性動脈長45.2cm(33%)、筋性動脈長90.8cm(67%)である。これらの例に示すように、生体の各部位相互間において弾性動脈及び筋性動脈の割合はそれぞれ異なる。換言すれば、生体の各部位相互間においてそれぞれ異なる種類の動脈の性質を示すことが言える。
【0044】
図3に戻って、脈波伝播情報表示制御手段98は、前記脈波伝播情報測定装置20の測定結果である前記被験者10における複数種類の動脈それぞれに対応して測定される脈波伝播情報を前記表示器58の同一画面内に相対的に表示させる。すなわち、前記脈波伝播速度算出手段96により算出される、前記被験者10における複数種類の動脈それぞれに対応して測定される脈波伝播速度PWVを前記表示器58の同一画面内に相対的に表示させる。
【0045】
上記脈波伝播情報表示制御手段98は、好適には、前記脈波伝播速度算出手段96により算出される各測定部位相互間における動脈内を脈波が伝播する速度である脈波伝播速度を、それぞれ大動脈、末梢動脈、及び末梢細動脈の何れかに対応する脈波伝播速度として前記表示器58の同一画面内に相対的に表示させる。例えば、前記被験者10における動脈起始部19から大腿部14までの区間に相当する脈波伝播速度hfPWV及び/又は動脈起始部19から上腕部12までの区間に相当する脈波伝播速度hbPWVを大動脈に対応する脈波伝播情報として、前記大腿部14から足首部16までの区間に相当する脈波伝播速度faPWVを末梢動脈に対応する脈波伝播情報として、前記足首部16から足趾部(足指部)18までの区間に相当する脈波伝播速度atPWVを末梢細動脈に対応する脈波伝播情報として、前記表示器58の同一画面内に相対的に表示させる。更に好適には、前記被験者10の正中面を対称面とする左右身それぞれにおける動脈に対応して測定される脈波伝播情報を前記表示器58の同一画面内に相対的に表示させる。
【0046】
図10は、前記脈波伝播情報表示制御手段98により前記表示器58に表示される脈波伝播速度分画の一例を示す図であり、円の中心からの距離が脈波伝播速度を示している。この図10に示す画像では、hC軸において前記被験者10における動脈起始部19から頸部11までの区間に相当する脈波伝播速度hcPWVを、hF軸において前記被験者10における動脈起始部19から大腿部14までの区間に相当する脈波伝播速度hfPWVを、hB軸において前記被験者10における動脈起始部19から上腕部12までの区間に相当する脈波伝播速度hbPWVを、fA軸において前記被験者10における大腿部14から足首部16までの区間に相当する脈波伝播速度faPWVを、aT軸において前記被験者10における足首部16から足趾部18までの区間に相当する脈波伝播速度atPWVをそれぞれ示している。また、右半円において前記被験者10の正中面を対称面とする右半身における動脈に対応して測定される脈波伝播情報を、左半円において前記被験者10の正中面を対称面とする左半身における動脈に対応して測定される脈波伝播情報をそれぞれ示している。更に、大・中動脈系に属する動脈、末梢動脈系に属する動脈、末梢細動脈系に属する動脈の区分を一点鎖線で示しており、軸hC、hF、hBが大・中動脈系に、軸fAが末梢動脈系に、軸aTが末梢細動脈系にそれぞれ属するように区分表示されている。
【0047】
図11は、前記脈波伝播情報表示制御手段98により前記表示器58に表示される脈波伝播速度分画の他の一例を示す図である。この図11に示す画像では、上述した図10の脈波伝播速度分画において、各種類に属する動脈毎の適正範囲(正常速度範囲)が示されるようになっている。図においてグレーで示している領域がその適正範囲であり、大・中動脈系、末梢動脈系、末梢細動脈系それぞれにおいて個別に正常値(健康値)に対応する速度範囲が示されている。なお、この図11に示す脈波伝播速度分画では、何れの軸に対応する動脈に関しても適正範囲に収まっているが、例えば右半身に対応する軸aBに△印で示すようにグレーの範囲を外れた場合には、その軸aBに対応する動脈すなわち大・中動脈系に属する動脈起始部19から上腕部12までの区間に相当する脈波伝播速度hbPWVは適正範囲を逸脱しているものと見なされる。
【0048】
図12は、前記演算制御装置46による脈波伝播情報表示制御の要部を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
【0049】
先ず、ステップ(以下、ステップを省略する)S1において、所定の操作が行われる等して脈波伝播情報の測定が開始されたか否かが判断される。このS1の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S1の判断が肯定される場合には、S2において、前記被験者10の各測定部位に巻回されたカフ22等それぞれのカフ圧及び前記頸部11に装着された圧脈波検出装置62の圧力が、それぞれ所定の脈波検出圧となるように制御される。次に、S3において、前記心音マイク48により心音が検出されると共に、その一拍分の心音に対応する脈波信号が、各測定部位に対応する前記脈波検出部32及び圧脈波検出装置62において検出される。次に、S4において、前記被験者10の各測定部位に巻回されたカフ22等それぞれのカフ圧及び前記頸部11に装着された圧脈波検出装置62の圧力が排圧される。次に、前記脈波伝播速度算出手段96の動作に対応するS5において、前記被験者10の各測定部位相互間に対応する脈波伝播速度がそれぞれ算出される。次に、前記脈波伝播情報表示制御手段98の動作に対応するS6において、S5における算出結果に対応して、前記表示器58に図10乃至図11に示すような脈波伝播速度分画が表示された後、本ルーチンが終了させられる。以上の制御において、S2及びS4が前記カフ圧制御手段92の動作に対応する。
【0050】
このように、本実施例によれば、生体である被験者10における所定の部位から検出される脈波に基づいて、その被験者10の動脈内を脈波が伝播する速度に関連する脈波伝播情報を測定する脈波伝播情報測定装置20であって、前記被験者10における複数種類の動脈それぞれに対応して測定される脈波伝播情報を同一画面内に相対的に表示させるものであることから、動脈の種類毎の脈波伝播情報を客観的に視認可能に示すことができる。すなわち、動脈の種類毎の脈波伝播情報を相対的に評価し得る脈波伝播情報測定装置20を提供することができる。
【0051】
また、前記被験者10における大動脈及び末梢動脈それぞれに対応して測定される脈波伝播情報を同一画面内に相対的に表示させるものであるため、大動脈及び末梢動脈それぞれに対応する脈波伝播情報を客観的に視認可能に示すことができる。
【0052】
また、前記大動脈に対応する脈波伝播情報は、前記被験者10における動脈起始部19から大腿部14までの区間を脈波が伝播する速度に相当するものであるため、実用的な態様で大動脈に対応する脈波伝播情報を得ることができる。
【0053】
また、前記大動脈に対応する脈波伝播情報は、前記被験者10における動脈起始部19から上腕部12までの区間を脈波が伝播する速度に相当するものであるため、実用的な態様で大動脈に対応する脈波伝播情報を得ることができる。
【0054】
また、前記末梢動脈に対応する脈波伝播情報は、前記被験者10における大腿部14から足首部16までの区間を脈波が伝播する速度に相当するものであるため、実用的な態様で末梢動脈に対応する脈波伝播情報を得ることができる。
【0055】
また、前記被験者10における大動脈、末梢動脈、及び末梢細動脈それぞれに対応して測定される脈波伝播情報を同一画面内に相対的に表示させるものであるため、大動脈、末梢動脈、及び末梢細動脈それぞれに対応する脈波伝播情報を客観的に視認可能に示すことができる。
【0056】
また、前記末梢細動脈に対応する脈波伝播情報は、前記被験者における足首部16から足趾部(足指部)18までの区間を脈波が伝播する速度に相当するものであるため、実用的な態様で末梢細動脈に対応する脈波伝播情報を得ることができる。
【0057】
また、前記被験者10の正中面を対称面とする左右身それぞれにおける動脈に対応して測定される脈波伝播情報を同一画面内に相対的に表示させるものであるため、左右身それぞれにおける動脈の種類毎の脈波伝播情報を客観的に視認可能に示すことができる。
【0058】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、更に別の態様においても実施される。
【0059】
例えば、前述の実施例において、前記脈波伝播速度測定装置20は、前記被験者10における各測定部位にカフ22等を巻回して測定を行う態様の装置であったが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば吸盤等により各測定部位にセンサを吸着させて測定を行う態様の装置であってもよい。すなわち、本発明は、生体における所定の部位から検出される脈波に基づいて、その生体の動脈内を脈波が伝播する速度に関連する脈波伝播情報を測定し得る脈波伝播情報測定装置に広く適用されるものである。
【0060】
また、前述の実施例において、前記脈波伝播速度測定装置20は、前記被験者10の頸部11、上腕部12、大腿部14、足首部16、及び足趾部18それぞれにおける脈波を検出して、その検出結果に対応する脈波伝播情報を表示させるものであったが、測定部位はこれよりも少なくともよく、例えば前記被験者10の上腕部12、足首部16、及び足趾部18それぞれにおける脈波を検出して、その検出結果に応じて複数種類の動脈それぞれに対応する脈波伝播情報を表示させるものであってもよい。斯かる態様においても、前記被験者10における動脈起始部19から上腕部12までの区間を脈波が伝播する速度に相当して大動脈に対応する脈波伝播速度、前記足首部16から足趾部18までの区間を脈波が伝播する速度に相当して末梢細動脈に対応する脈波伝播速度を、前記表示器58における同一画面内に比較して表示させることができる。
【0061】
また、前述の実施例において、前記脈波伝播速度測定装置20は、前記被験者10の正中面を対称面とする左右身それぞれにおける動脈に対応してそれぞれ個別のカフ22等乃至脈波検出部32を備えたものであったが、半身に対応する装置のみを備えたものであってもよい。斯かる態様において、好適には、前記被験者10の正中面を対称面とする左右身それぞれにおける動脈に対応する測定が所定の時間間隔をおいてそれそれ個別に実行され、その測定結果が集計されて前記表示器58における同一画面内に表示される。
【0062】
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施例である脈波伝播情報測定装置の構成を説明するブロック図である。
【図2】図1の脈波伝播情報測定装置に備えられた圧脈波検出装置の構成を説明する図である。
【図3】図1の脈波伝播情報測定装置における演算制御装置に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図4】公表されている各年代の被験者における大動脈とみなされる脈波伝播速度の測定データを用いて、平均的な身長の被験者を想定して得られる脈波伝播時間と、実際に測定された脈波伝播速度から同様にして平均的な身長の被験者を想定して得られた脈波伝播時間との比の年代別変化を示すグラフである。
【図5】身長165cmの被験者に関して動脈起始部から足首部までの脈波伝播時間、動脈起始部から大腿部までの脈波伝播時間、大腿部から足首部までの脈波伝播時間を、図4に示すグラフからそれぞれ逆算して示すグラフである。
【図6】本実施例に用いられる方法により算出される各測定部位相互間における動脈内を脈波が伝播する速度である脈波伝播速度の年代別変化を示すグラフであり、動脈起始部から足首部までの間に係る脈波伝播速度を実線で、動脈起始部から大腿部までの間に係る脈波伝播速度を一点鎖線で、大腿部から足首部までの間に係る脈波伝播速度を二点鎖線でそれぞれ示している。
【図7】本実施例に用いられる方法により算出される各測定部位相互間における動脈内を脈波が伝播する速度である脈波伝播速度の年代別変化を示すグラフであり、動脈起始部から足首部までの間に係る脈波伝播速度を実線で、動脈起始部から上腕部までの間に係る脈波伝播速度を破線でそれぞれ示している。
【図8】動脈起始部から上腕部までの間に係る脈波伝播速度に関連する動脈を示す図である。
【図9】動脈起始部から足首部までの間に係る脈波伝播速度に関連する動脈を示す図である。
【図10】図1の脈波伝播情報測定装置により表示器に表示される脈波伝播速度分画の一例を示す図であり、円の中心からの距離が脈波伝播速度を示している。
【図11】図1の脈波伝播情報測定装置により表示器に表示される脈波伝播速度分画の他の一例を示す図であり、図10の脈波伝播速度分画において各種類に属する動脈毎の適正範囲を併せて示すものである。
【図12】図1の脈波伝播情報測定装置における演算制御装置による脈波伝播情報表示制御の要部を説明するフローチャートである。
【図13】図8、9における参照番号に対応する生体の各動脈を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
10:被験者(生体)
12:上腕部
14:大腿部
16:足首部
18:足趾部(足指部)
19:動脈起始部
20:脈波伝播情報測定装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、脈波伝播速度や脈波伝播時間等、生体の動脈内を脈波が伝播する速度に関連する情報を測定する脈波伝播情報測定装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
生体における所定の部位から検出される脈波に基づいて、その生体の動脈内を脈波が伝播する速度に関連する脈波伝播情報を測定する脈波伝播情報測定装置が知られている。その一態様として、生体の動脈硬化度が脈波伝播速度情報に影響を与えることを利用して、脈波伝播速度情報に基づいて動脈硬化度を評価する技術が知られている。斯かる脈波伝播速度の測定では、例えば、測定対象となる生体における2点において脈波が検出され、その2点間の距離及び脈波伝播の時間差から脈波伝播速度の計測が行われる。この脈波伝播速度は、血管(動脈)の径及び弾性に依存する値であり、対象となる血管の硬さが増すほどその速度が増加することが知られている。そのような性質を利用して、例えば、特許文献1に記載された動脈硬化度評価装置では、上述のようにして測定された脈波伝播速度から対象となる生体の動脈硬化度乃至血管年齢等の評価が行われる。
【0003】
【特許文献1】特開2004−321438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、生体における動脈は、例えば、弾性動脈、筋性動脈、及びその中間の性質を有する動脈というように、その特性から複数の種類に分類することができる。この分類に関して、大動脈は弾性動脈、末梢動脈は筋性動脈、中動脈はその中間の性質を有する動脈にそれぞれ属する。また、そのように種類の異なる動脈では脈波伝播速度もそれぞれに異なることが知られている。同様に、動脈硬化の進行度については、同一生体内においても動脈の種類によって時間差があると考えられる。例えば、大動脈の動脈硬化は10歳代後半から始まることが知られており、60歳代で脈波伝播速度の進展は飽和する傾向がみられる。従って、前述したような従来の技術によって測定される大動脈及び末梢動脈を含む平均的な脈波伝播速度は、60歳代までは大動脈成分の脈波伝播速度の変化を主に反映し、それ以降は末梢動脈成分等、他の種類の動脈に係る脈波伝播速度の変化に依存するようになるものと考えられる。しかし、そのような動脈の種類毎の脈波伝播情報を相対的に評価し得る脈波伝播情報測定装置は、未だ開発されていないのが現状である。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、動脈の種類毎の脈波伝播情報を相対的に評価し得る脈波伝播情報測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる目的を達成するために、本発明の要旨とするところは、生体における所定の部位から検出される脈波に基づいて、その生体の動脈内を脈波が伝播する速度に関連する脈波伝播情報を測定する脈波伝播情報測定装置であって、前記生体における複数種類の動脈それぞれに対応して測定される脈波伝播情報を同一画面内に相対的に表示させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
このようにすれば、生体における所定の部位から検出される脈波に基づいて、その生体の動脈内を脈波が伝播する速度に関連する脈波伝播情報を測定する脈波伝播情報測定装置であって、前記生体における複数種類の動脈それぞれに対応して測定される脈波伝播情報を同一画面内に相対的に表示させるものであることから、動脈の種類毎の脈波伝播情報を客観的に視認可能に示すことができる。すなわち、動脈の種類毎の脈波伝播情報を相対的に評価し得る脈波伝播情報測定装置を提供することができる。
【0008】
ここで、好適には、前記生体における大動脈及び末梢動脈それぞれに対応して測定される脈波伝播情報を同一画面内に相対的に表示させるものである。このようにすれば、大動脈及び末梢動脈それぞれに対応する脈波伝播情報を客観的に視認可能に示すことができる。
【0009】
また、好適には、前記大動脈に対応する脈波伝播情報は、前記生体における動脈起始部から大腿部までの区間を脈波が伝播する速度に相当するものである。このようにすれば、実用的な態様で大動脈に対応する脈波伝播情報を得ることができる。
【0010】
また、好適には、前記大動脈に対応する脈波伝播情報は、前記生体における動脈起始部から上腕部までの区間を脈波が伝播する速度に相当するものである。このようにすれば、実用的な態様で大動脈に対応する脈波伝播情報を得ることができる。
【0011】
また、好適には、前記末梢動脈に対応する脈波伝播情報は、前記生体における大腿部から足首部までの区間を脈波が伝播する速度に相当するものである。このようにすれば、実用的な態様で末梢動脈に対応する脈波伝播情報を得ることができる。
【0012】
また、好適には、前記生体における大動脈、末梢動脈、及び末梢細動脈それぞれに対応して測定される脈波伝播情報を同一画面内に相対的に表示させるものである。このようにすれば、大動脈、末梢動脈、及び末梢細動脈それぞれに対応する脈波伝播情報を客観的に視認可能に示すことができる。
【0013】
また、好適には、前記末梢細動脈に対応する脈波伝播情報は、前記生体における足首部から足指部までの区間を脈波が伝播する速度に相当するものである。このようにすれば、実用的な態様で末梢細動脈に対応する脈波伝播情報を得ることができる。
【0014】
また、好適には、前記生体の正中面を対称面とする左右身それぞれにおける動脈に対応して測定される脈波伝播情報を同一画面内に相対的に表示させるものである。このようにすれば、左右身それぞれにおける動脈の種類毎の脈波伝播情報を客観的に視認可能に示すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0016】
図1は、本発明の一実施例である脈波伝播情報測定装置20の構成を説明するブロック図である。この図1に示すように、本実施例の脈波伝播情報測定装置20は、脈波伝播速度関連値(脈波伝播情報)算出のための脈波及び血圧値の測定部位として頸部11、上腕部12(右上腕部12R及び左上腕部12L)、大腿部14(右大腿部14R及び左大腿部14L)、足首部16(右足首部16R及び左足首部16L)、及び足趾部18(右足趾部18R及び左足趾部18L)が選択されたものであり、斯かる脈波伝播情報測定装置20おいては、測定部位である上記上腕部12、大腿部14、足首部16、及び足趾部18が何れも略同じ高さとなるように、測定対象である被験者10が伏臥位、側臥位、乃至仰臥位の何れかの姿勢をとった状態で以下に詳述する測定が行われる。なお、本実施例の脈波伝播情報測定装置20は、脈波伝播情報と共に血圧値を算出できるように構成されているが、この血圧値の算出は必ずしも実行できるものでなくともよい。
【0017】
上記頸部11は、測定対象である被験者10の頭部と体幹部とを接続する部分、所謂首に相当する部位である。また、上記上腕部12は、測定対象である被験者10の肩関節と肘関節との間の部分、所謂二の腕に相当する部位である。また、上記大腿部14は、上記被験者10の腰から膝までの間の部分、すなわち大腿骨のある部分であり、所謂太腿に相当する部位である。また、上記足首部16は、上記被験者10の足(脚)における踝の上の部位である。また、上記足趾部18は、上記被験者10の足における末梢部であり、好適にはその親指である。
【0018】
前記脈波伝播情報測定装置20には、上記左右の上腕部12R、12Lにそれぞれ巻回されるための上腕部用カフ22R、22L(以下、特に区別しない場合には単に上腕部用カフ22という)、上記左右の大腿部14R、14Lにそれぞれ巻回されるための大腿部用カフ24R、24L(以下、特に区別しない場合には単に大腿部用カフ24という)、上記左右の足首部16R、16Lにそれぞれ巻回されるための足首部用カフ16R、16L(以下、特に区別しない場合には単に足首部用カフ16という)、及び上記左右の足趾部18R、18Lにそれぞれ巻回されるための足趾部用カフ28R、28L(以下、特に区別しない場合には単に足趾部用カフ28という)を備えている。これら上腕部用カフ22、大腿部用カフ24、足首用カフ26、及び足趾部用カフ28(以下、特に区別しない場合にはカフ22等という)は、何れも巻回される部位を圧迫する圧迫帯であり、好適には布或いはポリエステル樹脂等の伸展性のない素材から成る帯状外袋内にゴム製袋を有して構成されている。また、これら上腕部用カフ22、大腿部用カフ24、足首用カフ26、及び足趾部用カフ28は、配管30を介してそれぞれ対応する脈波検出部32UL、32UR、32TL、32TR、32AL、32AR、32BL、32BR(以下、特に区別しない場合には単に脈波検出部32という)に接続されている。これら脈波検出部32は、好適には、何れも同一の構成を有するものであるため、図1に示すように左上腕部12Lに対応する脈波検出部32ULを例として以下、その構成を詳述する。
【0019】
図1に示すように、上記脈波検出部32は、調圧弁34、圧力センサ36、静圧弁別回路38、及び脈波弁別回路40を備えており、上記配管30は調圧弁34及び圧力センサ36に接続されている。また、その調圧弁34は、配管42を介して空気ポンプ44に接続されている。上記調圧弁34は、上記空気ポンプ44により発生させられた圧力空気を上記カフ22等内へ供給することを許容する圧力供給状態、そのカフ22等内の圧力を維持する圧力維持状態、電動バルブの開度が制御されることによりそのカフ22等内の圧力を所定の速度で徐々に排圧する徐速排圧状態、及びそのカフ22等内を急速に排圧する急速排圧状態の4つの状態に切り替えられるようになっている。
【0020】
上記圧力センサ36は、上記カフ22等内の圧力を検出してその圧力を表す圧力信号SPbを上記静圧弁別回路38及び脈波弁別回路40にそれぞれ供給する。この静圧弁別回路38はローパスフィルタを備え、上記圧力信号SPbに含まれる定常的な圧力すなわちカフ圧PCbを表すカフ圧信号SKbを弁別してそのカフ圧信号SKbを図示しないA/D変換器を介して演算制御装置46へ供給する。上記脈波弁別回路40はバンドパスフィルタを備え、上記圧力信号SPbの振動成分である脈波信号SMbを周波数的に弁別してその脈波信号SMbを図示しないA/D変換器を介して上記演算制御装置46へ供給する。
【0021】
また、前記脈波伝播情報測定装置20は、心音マイク48を備えている。この心音マイク48は、前記被験者10の動脈起始部19に対応する胸部表皮上の所定部位に装着されて、心音を表す心音信号SHを検出して出力する。斯かる心音マイク48から出力された心音信号SHは、A/D変換器50を介して上記演算制御装置46へ供給される。この心音信号SHが表す心音は、前記被験者10の心拍に同期して発生する心拍同期信号であることから、心音信号SHを出力する心音マイク48は心拍同期信号検出装置として機能している。
【0022】
前記演算制御装置46は、CPU52、ROM54、RAM56、及び図示しないI/Oポート等を備えた所謂マイクロコンピュータにて構成されている。上記CPU52は、上記ROM54に予め記憶されたプログラムに従ってRAM56の一時記憶機能を利用しつつ信号処理を実行することにより、I/Oポートから駆動信号を出力して前記空気ポンプ44及び脈波検出部32内の調圧弁34を制御すると共に、後述する脈波伝播速度算出制御及び脈波伝播情報表示制御等の各種制御を実行する。また、前記脈波伝播情報測定装置20は、前記演算制御装置46からの出力に応じて所定の映像(画像)を表示させる表示器58と、前記演算制御装置46による制御に係る各種情報を記憶するための記憶装置60(図2を参照)とを、備えている。
【0023】
また、前記脈波伝播情報測定装置20は、前記被験者10における頸部(頸動脈部)11の脈波を検出するための圧脈波検出装置62を備えている。図2は、斯かる圧脈波検出装置62の構成を説明する図である。この図2に示すように、上記圧脈波検出装置62は、前記被験者10の頸動脈に押圧されてその頸動脈内の圧脈波を非侵襲で検出するものであり、圧脈波検出プローブ64を備えて、装着バンド66(図1を参照)により被験者10の頸部11に装着される。この圧脈波検出プローブ64は、図2に詳しく示すように、容器状を成すセンサハウジング68と、そのセンサハウジング68を頸動脈11aの幅方向に移動させるためにそのセンサハウジング68に螺合され且つケース内に設けられた図示しないモータによって回転駆動されるねじ軸70とを備えている。この圧脈波検出プローブ64は、上記装着バンド66により上記センサハウジング68の開口端が生体の頸部11の体表面11bに対向する状態で取り付けられるようになっている。
【0024】
上記センサハウジング68の内部には、ダイヤフラム72を介して圧脈波センサ74が相対移動可能かつセンサハウジング68の開口端からの突出し可能に設けられており、これらセンサハウジング68及びダイヤフラム72等によって圧力室76が形成されている。この圧力室76内には、空気ポンプ78から調圧弁80を経て圧力空気が供給されるようになっており、これにより、圧脈波センサ74は圧力室76内の圧力に応じた押圧力で上記体表面11bに押圧される。なお、この空気ポンプ78は、図1に示す前記脈波検出部32に空気圧を供給するための空気ポンプ44と共通のものとされてもよい。上記センサハウジング68及びダイヤフラム72は、上記圧脈波センサ74を頸動脈11aに向かって押圧する押圧装置を構成しており、上記ねじ軸70及び図示しないモータは、上記圧脈波センサ74が押圧される押圧位置をその頸動脈11bの幅方向に移動させる押圧位置変更装置を構成している。
【0025】
以上のように構成された圧脈波検出プローブ64が、前記被験者10の頸部11において体表面11bの頸動脈11a上に押圧されることにより、前記圧脈波センサ74は、前記頸動脈11aから発生して体表面11bに伝達される圧力振動波すなわち圧脈波を検出し、その圧脈波を表す圧脈波信号SMOをマルチプレクサ82へ供給する。このマルチプレクサ82は、前記演算制御装置46からの切替信号SCに従って、前記圧脈波センサ74に備えられた図示しない感圧素子からそれぞれ出力される圧脈波信号SMOを、所定の時間ずつ順次バンドパスフィルタ84及びローパスフィルタ86へ供給する。このバンドパスフィルタ84は、図示しないコンデンサ及びコイル或いは抵抗を備えたアナログ信号処理回路から構成され、上記圧脈波信号SMOから、血流雑音の周波数帯域として設定された周波数帯域(例えば200〜600Hz)の信号(すなわち血流雑音成分)を弁別して、その血流雑音成分の信号SM1をA/D変換器88を介して前記演算制御装置46へ供給する。また、上記ローパスフィルタ86は、上記バンドパスフィルタ84と同様に、図示しないコンデンサ及びコイル或いは抵抗を備えたアナログ信号処理回路から構成され、圧脈波信号SMOに含まれる頸動脈波を表す信号(以下、頸動脈波信号という)SM2を抽出(弁別)してその頸動脈波信号SM2を頸動脈11aに対応する脈波信号SNとしてA/D変換器90を介して前記演算制御装置46へ供給する。また、その演算制御装置46は、前記空気ポンプ78及び調圧弁80へ図示しない駆動回路を介して駆動信号を出力して前記圧力室76内の圧力を調節し、前記マルチプレクサ82に脈拍周期よりも十分に短い周期に予め設定された周期で切替信号SCを出力する。
【0026】
図3は、前記演算制御装置46に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。なお、この図2においては、前記上腕部用カフ22、大腿部用カフ24、足首用カフ26、及び足趾部用カフ28それぞれに対応する構成のうち、前記上腕部用カフ22(左上腕部用カフ22L)に相当する構成のみを例示している。この図2に示すカフ圧制御手段92は、血圧測定においては、前記空気ポンプ44及びその空気ポンプ44に接続された各脈波検出部32に対応する調圧弁34を制御することで、前記カフ22等それぞれにおけるカフ圧を所定の目標圧力値PCM(例えば、上腕部用カフ22については180mmHg程度、足首部用カフ26については240mmHg程度の圧力値)まで急速昇圧させ、その後、5mmHg/sec程度の速度で徐速降圧させる。また、脈波の検出においては、前記空気ポンプ44及びその空気ポンプ44に接続された各脈波検出部32に対応する調圧弁34を制御することで、前記カフ22等それぞれにおけるカフ圧を所定の脈波検出圧まで昇圧させた後、一定時間その圧力を保持させる。上記脈波検出圧は、一般的な最低血圧値よりも低く、且つ前記カフ22等の圧迫によりそのカフ下の動脈において発生した圧力振動波が伝達されてそのカフ22等にその圧力振動波を表す脈波が十分な信号強度で発生するような圧力であり、たとえば60mmHgである。
【0027】
血圧値決定手段94は、測定部位に巻回された前記カフ22等が上記カフ圧制御手段92により徐速降圧させられる過程において、順次採取される脈波信号SM1の振幅の変化に基いて、よく知られたオシロメトリック法を用いて各カフに対応する測定部位の血圧値BPである最高血圧値及び最低血圧値を決定する。この血圧値決定手段94により決定された血圧値は、例えば前記記憶装置60に記憶されると共に、所定の操作に応じて前記表示器58に表示される。
【0028】
脈波伝播速度算出手段96は、前記カフ22等が巻回された測定部位から検出される脈波、前記心音マイク48により検出される心音信号SH、及び前記圧脈波検出装置62により検出される頸動脈波SN等に基づいて、前記被験者10の動脈内を脈波が伝播する速度に関連する脈波伝播情報としての脈波伝播速度を算出する。具体的には、動脈起始部すなわち心臓と、各測定部位例えば前記カフ22等が装着されている部位乃至圧脈波検出装置62(装着バンド66)が装着されている部位との間を脈波が伝播する速度を算出する。ここで、生体の動脈内を脈波が伝播する速度に関連する脈波伝播情報としては、対象となる動脈を脈波が伝播する時間である脈波伝播時間やその動脈を脈波が伝播する速度である脈波伝播速度等が考えられるが、本実施例においては脈波伝播速度を測定する態様について説明する。なお、以下の説明において特に言及しないが、脈波伝播速度の測定は、前述のように被験者10における左右それぞれの測定部位に対応して備えられたカフ22等乃至脈波検出部32による検出結果に応じて、その被験者10の正中面を対称面とする左右身それぞれにおける動脈に対応して個別に行われる。
【0029】
上記脈波伝播速度情報算出手段96による脈波伝播速度の算出では、例えば、前記心音マイク48により検出される心音の周期的に繰り返す所定の部位(I音の開始点等)が発生した時点と、各カフに対応する脈波検出部32に備えられた脈波弁別回路40により弁別(抽出)される各測定部の周期的に繰り返す所定波形(立ち上がり点など)が発生した時点との時間差を脈波伝播時間として算出すると共に、その算出結果及び予め定められた各区間毎の距離(動脈長)からそれら区間毎の脈波伝播速度が算出される。図1に示す例では、例えば、前記上腕部用カフ22に対応して動脈起始部と上腕部動脈との間の脈波伝播速度hbPWVが、前記大腿部用カフ24に対応して動脈起始部と大腿部動脈との間の脈波伝播速度hfPWVが、前記足首部用カフ26に対応して動脈起始部と足首部動脈との間の脈波伝播速度haPWVが、前記足趾部用カフ28に対応して動脈起始部と足趾部動脈との間の脈波伝播速度htPWVが、前記圧脈波検出装置62に対応して動脈起始部と頸動脈との間の脈波伝播速度hcPWVがそれぞれ算出される。
【0030】
前記脈波伝播速度算出手段96は、また好適には、前記カフ22等乃至装着バンド66が巻回された測定部位から検出される脈波に基づいて、各測定部位相互間における動脈内を脈波が伝播する速度である脈波伝播速度を算出する。例えば、よく知られた脈波測定法である吉村法を用いて斯かる脈波伝播速度を算出する。吉村法では、例えば、脈波上に大動脈弁閉鎖に伴うノッチが現れる頸動脈脈波を基準にとる。すなわち、前記心音マイク48による検出結果及び前記圧脈波検出装置62による検出結果に関して、大動脈閉鎖に伴う心音が心音第II音の先頭に現れるので、その脈波上のノッチ点との時間差∇thcが動脈起始部と頸動脈部との間の脈波伝播時間とされる。この時間差∇thcと頸動脈脈波と脈波伝播速度測定部位の脈波の立ち上がり点との時間差∇tcfを加算することで、動脈起始部とその部位間の脈波伝播時間が得られる。従って、吉村法では、動脈起始部と大腿部大動脈との間の脈波伝播時間∇thf=∇thc+∇tcfと表すことができる。また、動脈起始部と大腿部動脈相互間の伝播距離をLhfとすると、動脈起始部から大腿部動脈までの間に係る脈波伝播速度hfPWVは、次の(1)式のように表すことができる。同様に、動脈起始部と足首部動脈相互間の伝播距離をLhaとすると、動脈起始部から足首部動脈までの間に係る脈波伝播速度haPWVは、次の(2)式のように表すことができる。
【0031】
hfPWV=Lhf/∇thf
=Lhf/(∇thc+∇tcf) (1)
haPWV=Lha/∇tha
=Lha/(∇thc+∇tca) (2)
【0032】
ここで、後述する脈波伝播情報表示制御手段98による分画表示制御のために仮想的脈波伝播速度vPWVを導入する。先ず、Lha=Lhc+(Lha-Lhc)と書き直すと、前述した(2)式は、次の(3)式に示すように表すことができる。なお、この(3)式におけるca-vPWVは、脈波が動脈起始部から頸動脈部を経由して足首部動脈へと伝播したと仮定した場合における頸動脈部と足首部相互間の仮想的脈波伝播速度(vPWV)を表す。
【0033】
haPWV={Lhc+(Lha-Lhc)}/(∇thc+∇tca)
=Lhc/(∇thc+∇tca)+(Lha-Lhc)/(∇thc+∇tca)
={Lhc/∇thc}{∇thc/(∇thc+∇tca)}
+{(Lha-Lhc)/∇tca}{∇tca/(∇thc+∇tca)}
=hcPWV・ ∇thc/∇tha+ca-vPWV・∇tca/∇tha (3)
【0034】
ここで、∇thc/∇tha+∇tca/∇tha=1であり、∇thc/∇tha、∇tca/∇thaは、haPWV算出の原理に基づくhcPWV及びca-vPWVの寄与率である。haPWVが吉村法或いは他の方法によって得られたとすると、上述と同様の計算により、動脈起始部と大腿部動脈との間に存在する血流路に対応する脈波伝播速度hfPWV、大腿部動脈と足首部動脈との間に存在する血流路に対応する脈波伝播速度faPWVを次の(4)式のように表すことができる。すなわち、測定区間の平均的な脈波伝播速度に含まれる各動脈部の脈波伝播速度の寄与率をその区間に対応する脈波伝播時間の比として得ることができる。なお、(4)式では、∇tha=∇thf+∇tfaとしている。
【0035】
haPWV=hfPWV・∇thf/∇tha+faPWV・∇tfa/∇tha (4)
【0036】
また、全身の平均的な脈波伝播速度の測定結果から大動脈及び末梢動脈にそれぞれ対応する脈波伝播速度を推定することを考えると、個人別の脈波伝播速度が各年代間の平均値fと等しいと仮定してf=∇thf/∇thaと表すことができる。また、動脈長は簡便的に、個人の身長Hの関数として次の(5)〜(7)式のように表すことができる。従って、大動脈に対応する脈波伝播速度hfPWVすなわち動脈起始部から大腿部動脈までの間に係る脈波伝播速度、及び末梢動脈に対応する脈波伝播速度faPWVすなわち大腿部動脈から足首部動脈までの間に係る脈波伝播速度は、次の(8)、(9)式のように推定することができる。
【0037】
Lha=f1(H) (5)
Lhf=f2(H) (6)
Lfa=Lha−Lhf (7)
hfPWV=Lhf/(f・∇tha) (8)
faPWV=Lfa/{(1−f)・∇tha} (9)
【0038】
前記脈波伝播速度算出手段96は、好適には、以上のようにして各測定部位相互間における動脈内を脈波が伝播する速度である脈波伝播速度を算出(推定)するものであるが、より簡便には、各測定部位における脈波測定時間の差に基づいて各測定部位相互間に対応する脈波伝播速度を算出するものであってもよい。例えば、前記大腿部用カフ24に対応する脈波信号の検出時点から前記足首部用カフ26に対応する脈波信号の検出時点までの時間差と、前記大腿部14と足首部16との間の距離から、斯かる大腿部14から足首部16までの間に係る脈波伝播速度faPWVが算出される。また、前記足首部用カフ26に対応する脈波信号の検出時点から前記足趾部用カフ28に対応する脈波信号の検出時点までの時間差と、前記足首部16と足趾部18との間の距離から、斯かる足首部16から足趾部18までの間に係る脈波伝播時間atPWVが算出される。
【0039】
図4は、公表されている各年代の被験者における大動脈とみなされる脈波伝播速度hfPWVの測定データを用いて、平均的な身長の被験者を想定して得られる脈波伝播時間thfと、実際に測定された脈波伝播速度haPWVから同様にして平均的な身長の被験者を想定して得られた脈波伝播時間thaとの比の年代別変化を示すグラフである。また、図5は、身長165cmの被験者に関して、各区間に対応する脈波伝播時間すなわち動脈起始部から足首部までの脈波伝播時間∇tha、動脈起始部から大腿部までの脈波伝播時間∇thf、大腿部から足首部までの脈波伝播時間∇tfaをそれぞれ逆算して示すグラフである。これら図4及び図5に示すように、20歳代から60歳代までの脈波伝播時間∇thaの変化は、脈波伝播時間∇thfの変化に略依存している一方、脈波伝播時間∇tfaは略一定であることがわかる。また、全体の変化に対する脈波伝播時間∇thfの寄与率は、60歳代で極小値をとっていることがわかる。
【0040】
図6は、前述のようにして算出(推定)される各測定部位相互間における動脈内を脈波が伝播する速度である脈波伝播速度の年代別変化を示すグラフであり、動脈起始部から足首部までの間に係る脈波伝播速度haPWVを実線で、動脈起始部から大腿部までの間に係る脈波伝播速度hfPWVを一点鎖線で、大腿部から足首部までの間に係る脈波伝播速度faPWVを二点鎖線でそれぞれ示している。この図6に示す例においても、上述した図5に示す関係と同様に、20歳代から60歳代までの脈波伝播速度haPWVの変化は、脈波伝播速度hfPWVの変化に略依存している一方、脈波伝播速度faPWVは略一定であることがわかる。
【0041】
図7は、図6と同様に、前述のようにして算出(推定)される各測定部位相互間における動脈内を脈波が伝播する速度である脈波伝播速度の年代別変化を示すグラフであり、動脈起始部から足首部までの間に係る脈波伝播速度haPWVを実線で、動脈起始部から上腕部までの間に係る脈波伝播速度hbPWVを破線でそれぞれ示している。この図7に示すように、動脈起始部から上腕部までの間に係る脈波伝播速度hbPWVの年代別変化は60歳代で略飽和する一方、動脈起始部から足首部までの間に係る脈波伝播速度haPWVは60歳代以降も顕著な上昇を継続していることがわかる。
【0042】
以上、図4乃至図7に示す傾向は、動脈の種類に応じた動脈硬化の進行度に関する時間差に起因する違いと考えられる。例えば図7に示す例において、動脈起始部から上腕部までの間に係る脈波伝播速度hbPWVでは、弾性動脈である大動脈に近い年齢依存性を示す一方、動脈起始部から足首部までの間に係る脈波伝播速度haPWVでは、大動脈及び末梢動脈を含む血管系の年齢依存性を示しているものと考えられる。
【0043】
図8は、動脈起始部から上腕部までの間に係る脈波伝播速度hbPWVに関連する動脈を、図9は、動脈起始部から足首部までの間に係る脈波伝播速度haPWVに関連する動脈をそれぞれ示す図である。また、これら図8、9における参照番号(ref.no)は、図13にその概略位置を示す各動脈を示すものである。この図8に示すように、動脈起始部から上腕部までの間に係る動脈では弾性動脈の割合が高く、例えば成人の典型例において全長40cm、その内弾性動脈長15.5cm(39%)、筋性動脈長24.5cm(61%)である。また、図9に示すように、動脈起始部から足首部までの間に係る動脈では筋性動脈の割合が高く、例えば成人の典型例において全長136cm、その内弾性動脈長45.2cm(33%)、筋性動脈長90.8cm(67%)である。これらの例に示すように、生体の各部位相互間において弾性動脈及び筋性動脈の割合はそれぞれ異なる。換言すれば、生体の各部位相互間においてそれぞれ異なる種類の動脈の性質を示すことが言える。
【0044】
図3に戻って、脈波伝播情報表示制御手段98は、前記脈波伝播情報測定装置20の測定結果である前記被験者10における複数種類の動脈それぞれに対応して測定される脈波伝播情報を前記表示器58の同一画面内に相対的に表示させる。すなわち、前記脈波伝播速度算出手段96により算出される、前記被験者10における複数種類の動脈それぞれに対応して測定される脈波伝播速度PWVを前記表示器58の同一画面内に相対的に表示させる。
【0045】
上記脈波伝播情報表示制御手段98は、好適には、前記脈波伝播速度算出手段96により算出される各測定部位相互間における動脈内を脈波が伝播する速度である脈波伝播速度を、それぞれ大動脈、末梢動脈、及び末梢細動脈の何れかに対応する脈波伝播速度として前記表示器58の同一画面内に相対的に表示させる。例えば、前記被験者10における動脈起始部19から大腿部14までの区間に相当する脈波伝播速度hfPWV及び/又は動脈起始部19から上腕部12までの区間に相当する脈波伝播速度hbPWVを大動脈に対応する脈波伝播情報として、前記大腿部14から足首部16までの区間に相当する脈波伝播速度faPWVを末梢動脈に対応する脈波伝播情報として、前記足首部16から足趾部(足指部)18までの区間に相当する脈波伝播速度atPWVを末梢細動脈に対応する脈波伝播情報として、前記表示器58の同一画面内に相対的に表示させる。更に好適には、前記被験者10の正中面を対称面とする左右身それぞれにおける動脈に対応して測定される脈波伝播情報を前記表示器58の同一画面内に相対的に表示させる。
【0046】
図10は、前記脈波伝播情報表示制御手段98により前記表示器58に表示される脈波伝播速度分画の一例を示す図であり、円の中心からの距離が脈波伝播速度を示している。この図10に示す画像では、hC軸において前記被験者10における動脈起始部19から頸部11までの区間に相当する脈波伝播速度hcPWVを、hF軸において前記被験者10における動脈起始部19から大腿部14までの区間に相当する脈波伝播速度hfPWVを、hB軸において前記被験者10における動脈起始部19から上腕部12までの区間に相当する脈波伝播速度hbPWVを、fA軸において前記被験者10における大腿部14から足首部16までの区間に相当する脈波伝播速度faPWVを、aT軸において前記被験者10における足首部16から足趾部18までの区間に相当する脈波伝播速度atPWVをそれぞれ示している。また、右半円において前記被験者10の正中面を対称面とする右半身における動脈に対応して測定される脈波伝播情報を、左半円において前記被験者10の正中面を対称面とする左半身における動脈に対応して測定される脈波伝播情報をそれぞれ示している。更に、大・中動脈系に属する動脈、末梢動脈系に属する動脈、末梢細動脈系に属する動脈の区分を一点鎖線で示しており、軸hC、hF、hBが大・中動脈系に、軸fAが末梢動脈系に、軸aTが末梢細動脈系にそれぞれ属するように区分表示されている。
【0047】
図11は、前記脈波伝播情報表示制御手段98により前記表示器58に表示される脈波伝播速度分画の他の一例を示す図である。この図11に示す画像では、上述した図10の脈波伝播速度分画において、各種類に属する動脈毎の適正範囲(正常速度範囲)が示されるようになっている。図においてグレーで示している領域がその適正範囲であり、大・中動脈系、末梢動脈系、末梢細動脈系それぞれにおいて個別に正常値(健康値)に対応する速度範囲が示されている。なお、この図11に示す脈波伝播速度分画では、何れの軸に対応する動脈に関しても適正範囲に収まっているが、例えば右半身に対応する軸aBに△印で示すようにグレーの範囲を外れた場合には、その軸aBに対応する動脈すなわち大・中動脈系に属する動脈起始部19から上腕部12までの区間に相当する脈波伝播速度hbPWVは適正範囲を逸脱しているものと見なされる。
【0048】
図12は、前記演算制御装置46による脈波伝播情報表示制御の要部を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
【0049】
先ず、ステップ(以下、ステップを省略する)S1において、所定の操作が行われる等して脈波伝播情報の測定が開始されたか否かが判断される。このS1の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S1の判断が肯定される場合には、S2において、前記被験者10の各測定部位に巻回されたカフ22等それぞれのカフ圧及び前記頸部11に装着された圧脈波検出装置62の圧力が、それぞれ所定の脈波検出圧となるように制御される。次に、S3において、前記心音マイク48により心音が検出されると共に、その一拍分の心音に対応する脈波信号が、各測定部位に対応する前記脈波検出部32及び圧脈波検出装置62において検出される。次に、S4において、前記被験者10の各測定部位に巻回されたカフ22等それぞれのカフ圧及び前記頸部11に装着された圧脈波検出装置62の圧力が排圧される。次に、前記脈波伝播速度算出手段96の動作に対応するS5において、前記被験者10の各測定部位相互間に対応する脈波伝播速度がそれぞれ算出される。次に、前記脈波伝播情報表示制御手段98の動作に対応するS6において、S5における算出結果に対応して、前記表示器58に図10乃至図11に示すような脈波伝播速度分画が表示された後、本ルーチンが終了させられる。以上の制御において、S2及びS4が前記カフ圧制御手段92の動作に対応する。
【0050】
このように、本実施例によれば、生体である被験者10における所定の部位から検出される脈波に基づいて、その被験者10の動脈内を脈波が伝播する速度に関連する脈波伝播情報を測定する脈波伝播情報測定装置20であって、前記被験者10における複数種類の動脈それぞれに対応して測定される脈波伝播情報を同一画面内に相対的に表示させるものであることから、動脈の種類毎の脈波伝播情報を客観的に視認可能に示すことができる。すなわち、動脈の種類毎の脈波伝播情報を相対的に評価し得る脈波伝播情報測定装置20を提供することができる。
【0051】
また、前記被験者10における大動脈及び末梢動脈それぞれに対応して測定される脈波伝播情報を同一画面内に相対的に表示させるものであるため、大動脈及び末梢動脈それぞれに対応する脈波伝播情報を客観的に視認可能に示すことができる。
【0052】
また、前記大動脈に対応する脈波伝播情報は、前記被験者10における動脈起始部19から大腿部14までの区間を脈波が伝播する速度に相当するものであるため、実用的な態様で大動脈に対応する脈波伝播情報を得ることができる。
【0053】
また、前記大動脈に対応する脈波伝播情報は、前記被験者10における動脈起始部19から上腕部12までの区間を脈波が伝播する速度に相当するものであるため、実用的な態様で大動脈に対応する脈波伝播情報を得ることができる。
【0054】
また、前記末梢動脈に対応する脈波伝播情報は、前記被験者10における大腿部14から足首部16までの区間を脈波が伝播する速度に相当するものであるため、実用的な態様で末梢動脈に対応する脈波伝播情報を得ることができる。
【0055】
また、前記被験者10における大動脈、末梢動脈、及び末梢細動脈それぞれに対応して測定される脈波伝播情報を同一画面内に相対的に表示させるものであるため、大動脈、末梢動脈、及び末梢細動脈それぞれに対応する脈波伝播情報を客観的に視認可能に示すことができる。
【0056】
また、前記末梢細動脈に対応する脈波伝播情報は、前記被験者における足首部16から足趾部(足指部)18までの区間を脈波が伝播する速度に相当するものであるため、実用的な態様で末梢細動脈に対応する脈波伝播情報を得ることができる。
【0057】
また、前記被験者10の正中面を対称面とする左右身それぞれにおける動脈に対応して測定される脈波伝播情報を同一画面内に相対的に表示させるものであるため、左右身それぞれにおける動脈の種類毎の脈波伝播情報を客観的に視認可能に示すことができる。
【0058】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、更に別の態様においても実施される。
【0059】
例えば、前述の実施例において、前記脈波伝播速度測定装置20は、前記被験者10における各測定部位にカフ22等を巻回して測定を行う態様の装置であったが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば吸盤等により各測定部位にセンサを吸着させて測定を行う態様の装置であってもよい。すなわち、本発明は、生体における所定の部位から検出される脈波に基づいて、その生体の動脈内を脈波が伝播する速度に関連する脈波伝播情報を測定し得る脈波伝播情報測定装置に広く適用されるものである。
【0060】
また、前述の実施例において、前記脈波伝播速度測定装置20は、前記被験者10の頸部11、上腕部12、大腿部14、足首部16、及び足趾部18それぞれにおける脈波を検出して、その検出結果に対応する脈波伝播情報を表示させるものであったが、測定部位はこれよりも少なくともよく、例えば前記被験者10の上腕部12、足首部16、及び足趾部18それぞれにおける脈波を検出して、その検出結果に応じて複数種類の動脈それぞれに対応する脈波伝播情報を表示させるものであってもよい。斯かる態様においても、前記被験者10における動脈起始部19から上腕部12までの区間を脈波が伝播する速度に相当して大動脈に対応する脈波伝播速度、前記足首部16から足趾部18までの区間を脈波が伝播する速度に相当して末梢細動脈に対応する脈波伝播速度を、前記表示器58における同一画面内に比較して表示させることができる。
【0061】
また、前述の実施例において、前記脈波伝播速度測定装置20は、前記被験者10の正中面を対称面とする左右身それぞれにおける動脈に対応してそれぞれ個別のカフ22等乃至脈波検出部32を備えたものであったが、半身に対応する装置のみを備えたものであってもよい。斯かる態様において、好適には、前記被験者10の正中面を対称面とする左右身それぞれにおける動脈に対応する測定が所定の時間間隔をおいてそれそれ個別に実行され、その測定結果が集計されて前記表示器58における同一画面内に表示される。
【0062】
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施例である脈波伝播情報測定装置の構成を説明するブロック図である。
【図2】図1の脈波伝播情報測定装置に備えられた圧脈波検出装置の構成を説明する図である。
【図3】図1の脈波伝播情報測定装置における演算制御装置に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図4】公表されている各年代の被験者における大動脈とみなされる脈波伝播速度の測定データを用いて、平均的な身長の被験者を想定して得られる脈波伝播時間と、実際に測定された脈波伝播速度から同様にして平均的な身長の被験者を想定して得られた脈波伝播時間との比の年代別変化を示すグラフである。
【図5】身長165cmの被験者に関して動脈起始部から足首部までの脈波伝播時間、動脈起始部から大腿部までの脈波伝播時間、大腿部から足首部までの脈波伝播時間を、図4に示すグラフからそれぞれ逆算して示すグラフである。
【図6】本実施例に用いられる方法により算出される各測定部位相互間における動脈内を脈波が伝播する速度である脈波伝播速度の年代別変化を示すグラフであり、動脈起始部から足首部までの間に係る脈波伝播速度を実線で、動脈起始部から大腿部までの間に係る脈波伝播速度を一点鎖線で、大腿部から足首部までの間に係る脈波伝播速度を二点鎖線でそれぞれ示している。
【図7】本実施例に用いられる方法により算出される各測定部位相互間における動脈内を脈波が伝播する速度である脈波伝播速度の年代別変化を示すグラフであり、動脈起始部から足首部までの間に係る脈波伝播速度を実線で、動脈起始部から上腕部までの間に係る脈波伝播速度を破線でそれぞれ示している。
【図8】動脈起始部から上腕部までの間に係る脈波伝播速度に関連する動脈を示す図である。
【図9】動脈起始部から足首部までの間に係る脈波伝播速度に関連する動脈を示す図である。
【図10】図1の脈波伝播情報測定装置により表示器に表示される脈波伝播速度分画の一例を示す図であり、円の中心からの距離が脈波伝播速度を示している。
【図11】図1の脈波伝播情報測定装置により表示器に表示される脈波伝播速度分画の他の一例を示す図であり、図10の脈波伝播速度分画において各種類に属する動脈毎の適正範囲を併せて示すものである。
【図12】図1の脈波伝播情報測定装置における演算制御装置による脈波伝播情報表示制御の要部を説明するフローチャートである。
【図13】図8、9における参照番号に対応する生体の各動脈を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
10:被験者(生体)
12:上腕部
14:大腿部
16:足首部
18:足趾部(足指部)
19:動脈起始部
20:脈波伝播情報測定装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体における所定の部位から検出される脈波に基づいて、該生体の動脈内を脈波が伝播する速度に関連する脈波伝播情報を測定する脈波伝播情報測定装置であって、
前記生体における複数種類の動脈それぞれに対応して測定される脈波伝播情報を同一画面内に相対的に表示させることを特徴とするものである脈波伝播情報測定装置。
【請求項2】
前記生体における大動脈及び末梢動脈それぞれに対応して測定される脈波伝播情報を同一画面内に相対的に表示させるものである請求項1に記載の脈波伝播情報測定装置。
【請求項3】
前記大動脈に対応する脈波伝播情報は、前記生体における動脈起始部から大腿部までの区間を脈波が伝播する速度に相当するものである請求項2に記載の脈波伝播情報測定装置。
【請求項4】
前記大動脈に対応する脈波伝播情報は、前記生体における動脈起始部から上腕部までの区間を脈波が伝播する速度に相当するものである請求項2に記載の脈波伝播情報測定装置。
【請求項5】
前記末梢動脈に対応する脈波伝播情報は、前記生体における大腿部から足首部までの区間を脈波が伝播する速度に相当するものである請求項2から4の何れか1項に記載の脈波伝播情報測定装置。
【請求項6】
前記生体における大動脈、末梢動脈、及び末梢細動脈それぞれに対応して測定される脈波伝播情報を同一画面内に相対的に表示させるものである請求項2から5の何れか1項に記載の脈波伝播情報測定装置。
【請求項7】
前記末梢細動脈に対応する脈波伝播情報は、前記生体における足首部から足指部までの区間を脈波が伝播する速度に相当するものである請求項6に記載の脈波伝播情報測定装置。
【請求項8】
前記生体の正中面を対称面とする左右身それぞれにおける動脈に対応して測定される脈波伝播情報を同一画面内に相対的に表示させるものである請求項1から7の何れか1項に記載の脈波伝播情報測定装置。
【請求項1】
生体における所定の部位から検出される脈波に基づいて、該生体の動脈内を脈波が伝播する速度に関連する脈波伝播情報を測定する脈波伝播情報測定装置であって、
前記生体における複数種類の動脈それぞれに対応して測定される脈波伝播情報を同一画面内に相対的に表示させることを特徴とするものである脈波伝播情報測定装置。
【請求項2】
前記生体における大動脈及び末梢動脈それぞれに対応して測定される脈波伝播情報を同一画面内に相対的に表示させるものである請求項1に記載の脈波伝播情報測定装置。
【請求項3】
前記大動脈に対応する脈波伝播情報は、前記生体における動脈起始部から大腿部までの区間を脈波が伝播する速度に相当するものである請求項2に記載の脈波伝播情報測定装置。
【請求項4】
前記大動脈に対応する脈波伝播情報は、前記生体における動脈起始部から上腕部までの区間を脈波が伝播する速度に相当するものである請求項2に記載の脈波伝播情報測定装置。
【請求項5】
前記末梢動脈に対応する脈波伝播情報は、前記生体における大腿部から足首部までの区間を脈波が伝播する速度に相当するものである請求項2から4の何れか1項に記載の脈波伝播情報測定装置。
【請求項6】
前記生体における大動脈、末梢動脈、及び末梢細動脈それぞれに対応して測定される脈波伝播情報を同一画面内に相対的に表示させるものである請求項2から5の何れか1項に記載の脈波伝播情報測定装置。
【請求項7】
前記末梢細動脈に対応する脈波伝播情報は、前記生体における足首部から足指部までの区間を脈波が伝播する速度に相当するものである請求項6に記載の脈波伝播情報測定装置。
【請求項8】
前記生体の正中面を対称面とする左右身それぞれにおける動脈に対応して測定される脈波伝播情報を同一画面内に相対的に表示させるものである請求項1から7の何れか1項に記載の脈波伝播情報測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図11】
【公開番号】特開2010−115321(P2010−115321A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290249(P2008−290249)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000127570)株式会社エー・アンド・デイ (136)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000127570)株式会社エー・アンド・デイ (136)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]