説明

脈波伝播速度測定装置および脈波伝播速度の測定方法および脈波伝播速度の測定プログラム

【課題】姿勢によって生じる静水圧の影響を受けることなく正確な脈波伝播速度の測定ができる脈波伝播速度測定装置を提供する。
【解決手段】人体の脈波を検出する脈波検出部110と、脈波検出部110により検出された上記脈波に基づいて脈波伝播速度を算出する脈波伝播速度算出部120と、脈波伝播速度算出部120により算出された脈波伝播速度に対して、人体の姿勢に応じて生じる静水圧の影響による脈波伝播速度の増加分を取り除くように補正する脈波伝播速度補正部130とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、脈波伝播速度測定装置に関し、詳しくは、生体の脈波を測定することで、脈波の伝搬する速度を算出する脈波伝播速度測定装置および脈波伝播速度の測定方法および脈波伝播速度の測定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
脈波は、生体の循環器系の状態を把握する上で様々な重要な情報を有していることが知られている。特に生体の2箇所を脈波が伝播する速度および時間は動脈硬化状態などが把握できる可能性が指摘され、医療現場でも注目されている生体指標であり、それぞれ脈波伝播速度(PWV:Pulse Wave Velocity)・脈波伝播時間(PTT:Pulse Transit Time)などと呼ばれている。
【0003】
一般的に、PWVは2箇所の測定点が必要である。しかしながら、生体上のいずれの部位で測定された脈波であっても、心臓からの駆出波と生体内の様々な箇所から反射された反射波との合成波であることが知られており、これらを分離することで、測定部位1箇所の脈波であっても、脈波伝播速度あるいは脈波伝播時間を求めることができる可能性がある。
【0004】
そこで、従来、脈波伝播速度測定装置として、駆出波と反射波を分離することによって、測定部位1箇所の脈波で脈波伝播速度あるいは脈波伝播時間を求めるものが提案されている(例えば、特開2004−313468号公報(特許文献1)、特開2003−010139号公報(特許文献2)参照)。
【0005】
上記従来の脈波伝播速度測定装置では、駆出波と反射波を分離するときには、主たる反射点が腸骨動脈あるいは腹部大動脈周辺にあると仮定すると、生体各部で測定された脈波に対して、駆出波と反射波の分離がうまくいく。
【0006】
上記従来の脈波伝播速度測定装置は、仰向けで寝て、測定部位の脈波を測定し、その時間差と距離から脈波伝播速度を求めているので、測定部位と心臓の高さとは同じ高さになり、静水圧の影響を受けない。
【0007】
しかし、ユーザの使用シーンを考えると、脈波伝播速度を測定する上で、毎回仰向けで寝て測定する必要があることはユーザにとって不便であり、例えば座位や立位で測定できれば、ユーザが測定する上での手間を減らすことができる。また、いつでもどこでも脈波伝播速度が測定できウェアラブルな生体センサを実現することができる。
【0008】
ところで、上記従来の脈波伝播速度測定装置において、駆出波と反射波を分離する際には、主たる反射点が腸骨動脈または腹部大動脈周辺にあると仮定している。つまり、腹部大動脈からの反射波の経路は、心臓から腸骨動脈または腹部大動脈を通って測定部位に到達する。例えば、座位または立位で測定する場合、腸骨動脈または腹部大動脈は必ず心臓より下になる。このため、心臓から腸骨動脈または腹部大動脈を通って反射され、抹消血管に至る経路を通った脈波は静水圧の影響を受け、その経路の血圧値は高くなる。また、血圧と脈波伝播速度は相関があり、血圧が大きくなると脈波伝播速度は増加することが知られている。したがって、座位や立位で測定するときは、仰向けで測定するのに比べて、脈波伝播速度がより速くなる。
【0009】
このため、上記従来の脈波伝播速度測定装置では、仰向けで測定するのではなく例えば座位や立位で測定するとき、静水圧差により脈波伝播速度が増加するので、正確な測定ができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−313468号公報
【特許文献2】特開2003−010139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、この発明の課題は、姿勢によって生じる静水圧の影響を受けることなく正確な脈波伝播速度の測定ができる脈波伝播速度測定装置および脈波伝播速度の測定方法および脈波伝播速度の測定プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、この発明の脈波伝播速度測定装置は、
生体の脈波を検出する脈波検出部と、
上記脈波検出部により検出された上記脈波に基づいて脈波伝播速度を算出する脈波伝播速度算出部と、
上記脈波伝播速度算出部により算出された上記脈波伝播速度に対して、上記生体の姿勢に応じて生じる静水圧の影響による上記脈波伝播速度の増加分を取り除くように補正する脈波伝播速度補正部と
を備えたことを特徴とする。
【0013】
ここで、「生体」は人体に限らず、循環器系の脈波を測定できる他の動物であってもよい。
【0014】
上記構成によれば、脈波伝播速度算出部により算出された脈波伝播速度に対して、脈波伝播速度補正部によって、生体の姿勢に応じて生じる静水圧の影響による脈波伝播速度の増加分を取り除くように補正するので、仰向けでない座位や立位で測定するときに、姿勢によって生じる静水圧の影響を受けることなく正確な脈波伝播速度の測定ができる。
【0015】
また、一実施形態の脈波伝播速度測定装置では、
上記脈波伝播速度補正部は、
上記生体の心臓を基準としたときの上記心臓からの脈波が反射する反射点の鉛直方向の高さを算出する反射点高さ算出部と、
上記反射点高さ算出部により算出された上記反射点の鉛直方向の高さに基づいて、上記脈波伝播速度の増加分を算出する脈波伝播速度増加分算出部と
を有する。
【0016】
上記実施形態によれば、反射点高さ算出部により、生体の心臓を基準としたときの心臓からの脈波が反射する反射点の鉛直方向の高さを算出し、その算出された上記反射点の鉛直方向の高さに基づいて、脈波伝播速度増加分算出部により脈波伝播速度の増加分を算出することによって、座位または立位の姿勢で測定する場合に、生体の心臓と反射点は水平でなくなって内圧が増加して脈波伝播速度が速くなっても、仰臥位で測定した脈波伝播速度と同等な値を算出できる。
【0017】
ここで、反射点高さ算出部は、例えば、生体内の腸骨動脈または腹部大動脈周辺を反射点とする。
【0018】
また、一実施形態の脈波伝播速度測定装置では、
上記脈波伝播速度増加分算出部は、
上記反射点高さ算出部により算出された上記反射点の鉛直方向の高さに基づいて、上記心臓と上記反射点との間の静水圧差を求めて、その静水圧差から上記脈波伝播速度の増加分を算出する。
【0019】
上記実施形態によれば、反射点高さ算出部により算出された反射点の鉛直方向の高さに基づいて、脈波伝播速度増加分算出部は、心臓と反射点との間の静水圧差を求めて、その静水圧差から上記脈波伝播速度の増加分を算出することによって、脈波伝播速度に対する静水圧の影響を正確に補正することができる。
【0020】
また、一実施形態の脈波伝播速度測定装置では、
上記脈波伝播速度増加分算出部は、
上記生体の姿勢が仰向けであるときに予め測定した脈波伝播速度と、上記生体の姿勢が座位または立位であるときに測定した脈波伝播速度との関係式に基づいて、上記脈波伝播速度の増加分を算出する。
【0021】
上記実施形態によれば、生体の姿勢が仰向けであるときに予め測定した脈波伝播速度と、生体の姿勢が座位または立位であるときに測定した脈波伝播速度との関係式に基づいて、脈波伝播速度増加分算出部は、脈波伝播速度の増加分を算出するので、次回の測定において仰向けで予め測定された脈波伝播速度を用いて上記関係式により脈波伝播速度の増加分を容易に算出することができる。
【0022】
また、一実施形態の脈波伝播速度測定装置では、
上記脈波伝播速度補正部は、
上記生体の測定時の姿勢を検出する測定姿勢検出部と、
上記測定姿勢検出部により検出された上記生体の測定時の姿勢に基づいて、上記生体の心臓を基準としたときの上記脈波が反射する反射点の鉛直方向の高さを算出する反射点高さ算出部と、
上記反射点高さ算出部により算出された上記反射点の鉛直方向の高さに基づいて、上記脈波伝播速度の増加分を算出する脈波伝播速度増加分算出部と
を有する。
【0023】
上記実施形態によれば、測定姿勢検出部により、生体の測定時の姿勢を検出し、その検出された生体の測定時の姿勢に基づいて、反射点高さ算出部により、生体の心臓を基準としたときの脈波が反射する反射点の鉛直方向の高さを算出する。そうして、上記反射点高さ算出部により算出された反射点の鉛直方向の高さに基づいて、脈波伝播速度増加分算出部により脈波伝播速度の増加分を算出することによって、生体の測定姿勢に応じた正確な脈波伝播速度の補正ができる。
【0024】
また、一実施形態の脈波伝播速度測定装置では、
上記測定姿勢検出部は、上記生体の正中線の水平面に対する傾き角度を検出し、
上記反射点高さ算出部は、上記測定姿勢検出部により検出された上記生体の正中線の水平面に対する傾き角度に基づいて、上記反射点高さ算出部により算出された上記反射点の鉛直方向の高さを算出する。
【0025】
上記実施形態によれば、測定姿勢検出部により、生体の正中線の水平面に対する傾き角度を検出し、検出された生体の正中線の水平面に対する傾き角度に基づいて、反射点高さ算出部によって反射点の鉛直方向の高さを算出するので、傾き角度を検出する角度センサなどを用いて簡単に反射点の鉛直方向の高さを算出することが可能となる。
【0026】
また、一実施形態の脈波伝播速度測定装置では、
上記脈波検出部は、上記生体の或る一部位における脈波を検出するものであって、
上記脈波伝播速度算出部は、
上記脈波検出部で検出した上記一部位における脈波に含まれる駆出波成分を特定するための基準時間と上記脈波に含まれる反射波成分を特定するための基準時間とを検出する基準時間検出部と、
上記基準時間検出部で検出した上記駆出波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅を検出すると共に上記基準時間検出部で検出した上記反射波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅を検出する脈波振幅検出部と
を有し、
上記基準時間検出部で検出した上記駆出波成分の基準時間および上記反射波成分の基準時間と、上記脈波振幅検出部で検出した上記駆出波成分の基準時間に対応する脈波の振幅および上記反射波成分の基準時間に対応する脈波の振幅とに基づいて、上記脈波の伝播速度を算出する。
【0027】
上記実施形態によれば、基準時間検出部で検出した駆出波成分の基準時間および反射波成分の基準時間と、脈波振幅検出部で検出した駆出波成分の基準時間に対応する脈波の振幅および反射波成分の基準時間に対応する脈波の振幅とに基づいて、脈波伝播速度算出部により脈波の伝播速度を算出することによって、駆出波成分の振幅と反射波成分の振幅との相違による駆出波と反射波の脈波伝播速度の違いを考慮に入れて高い精度で脈波伝播速度を測定できる。
【0028】
また、この発明の脈波伝播速度の測定方法では、
生体の脈波を脈波検出部により検出するステップと、
上記脈波検出部により検出された上記脈波に基づいて脈波伝播速度を脈波伝播速度算出部により算出するステップと、
上記脈波伝播速度算出部により算出された上記脈波伝播速度に対して、脈波伝播速度補正部により上記生体の姿勢に応じて生じる静水圧による上記脈波伝播速度の増加分を取り除くように補正するステップと
を有することを特徴とする。
【0029】
上記構成によれば、脈波伝播速度算出部により算出された脈波伝播速度に対して、脈波伝播速度補正部によって、生体の姿勢に応じて生じる静水圧の影響による脈波伝播速度の増加分を取り除くように補正するので、仰向けでない座位や立位で測定するときに、姿勢によって生じる静水圧の影響を受けることなく正確な脈波伝播速度の測定ができる。
【0030】
また、この発明の脈波伝播速度の測定プログラムでは、
生体の脈波に基づいて脈波伝播速度を算出する脈波伝播速度算出機能と、
上記脈波伝播速度算出機能により算出された上記脈波伝播速度に対して、上記生体の姿勢に応じて生じる静水圧による上記脈波伝播速度の増加分を取り除くように補正する脈波伝播速度補正機能と
をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0031】
上記構成によれば、コンピュータに脈波伝播速度算出機能と脈波伝播速度補正機能を実行させて、脈波伝播速度算出機能により算出された脈波伝播速度に対して、脈波伝播速度補正機能によって、生体の姿勢に応じて生じる静水圧の影響による脈波伝播速度の増加分を取り除くように補正するので、仰向けでない座位や立位で測定するときに、姿勢によって生じる静水圧の影響を受けることなく正確な脈波伝播速度の測定ができる。
【発明の効果】
【0032】
以上より明らかなように、この発明の脈波伝播速度測定装置によれば、仰向けでない座位や立位で測定するときに、姿勢によって生じる静水圧の影響を受けることなく正確な脈波伝播速度の測定ができる脈波伝播速度測定装置を実現することができる。これにより、従来は脈波伝播速度を測定する上で必要であった仰向けで寝ることがなくなり、仰向けでない座位や立位で測定するので、ユーザにとっての利便性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1はこの発明の第1実施形態の脈波伝播速度測定装置のブロック図である。
【図2】図2は上記脈波伝播速度測定装置の脈波検出部で検出した脈波の波形を(A)欄に示し、上記脈波の加速度波形を(B)欄に示す波形図である。
【図3】図3は上記脈波伝播速度測定装置の脈波検出部で検出した脈波の3回微分波形を(A)欄に示し、上記脈波の4回微分波形を(B)欄に示す波形図である。
【図4】図4は従来の脈波伝播速度測定装置の駆出波成分と反射波成分の振幅値を示す図である。
【図5】図5は上記脈波の波形および脈波の駆出波成分と反射波成分を示す波形図である。
【図6】図6は上記脈波の駆出波成分が人体内を伝播する経路と反射波成分が人体内を伝播する経路を模式的に示す模式図である。
【図7】図7は心臓から腹部大動脈反射点の位置までの経路を微小高さに分割することによって脈波伝搬速度への静水圧の影響を補正することを説明する図である。
【図8】図8はこの発明の第2実施形態の脈波伝播速度測定装置のブロック図である。
【図9】図9は被験者の正中線と水平面とのなす角度を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、この発明の脈波伝播速度測定装置および脈波伝播速度の測定方法および脈波伝播速度の測定プログラムを図示の実施の形態により詳細に説明する。なお、この実施の形態では、生体として人体を扱っているが、人体に限らず、循環器系の脈波を測定できる他の動物であってもよい。
【0035】
〔第1実施形態〕
図1はこの発明の第1実施形態の脈波伝播速度測定装置100のブロック図を示している。
【0036】
この第1実施形態の脈波伝播速度測定装置100の主な構成要素は、脈波検出部110と、脈波伝播速度算出部120と、脈波伝播速度補正部130である。
【0037】
上記脈波検出部110は、人体の或る一部位における脈波を検出する。この脈波検出部110の脈波検出方法には様々な方法がある。例えば、発光素子から出力される赤外光が血管内の血液量に応じて反射あるいは吸収される度合いを受光素子で測定する光電容積脈波法や、血管内の血液が血管を押す圧力の変化を電気信号として取り出す圧脈波法などがある。
【0038】
また、脈波を測定する生体部位は、特に大きな制限事項があるわけではないが、できるならば、非侵襲・非拘束であることが望ましく、例えば、人の指尖・手首・耳朶などが好ましい。
【0039】
また、上記脈波伝播速度算出部120は、基準時間検出部120aと、脈波振幅検出部120bとを有する。この基準時間検出部120aによって、脈波検出部110により検出された脈波に含まれる駆出波成分と反射波成分とを特定するためのそれぞれの基準時間を求める。例えば、Murgoらによる血圧波形分類のTypeCの場合は、脈波の波形における収縮期の極大点の時間を駆出波成分の基準時間として検出し、脈波の4次微分third zero crossを反射波成分の基準点とする(図2,図3参照)。
【0040】
ただし、測定脈波のTypeC以外の波形形状や、ノイズレベル、年齢・性別・疾病の有無・体調などによって、脈波は様々な波形形状を示すことから、より好適に駆出波と反射波の時間基準点を求める手法があればそれを採用してもよい。
【0041】
そして、脈波振幅検出部120bによって、駆出波成分の脈波振幅と反射波成分の脈波振幅とを求める。例えば、図4に示すように、基準時間検出部120aで検出した駆出波成分の基準時間T1に対応した振幅W1を駆出波成分の脈波振幅とすると共に、反射波成分の基準時間T2に対応した振幅W2を反射波成分の脈波振幅とする。これらは、近年、循環器系の診断指標として利用されているAI(Augmentation Index)で採用されている手法である。
【0042】
以下に、駆出波と反射波の時間情報と脈波振幅情報を利用して、脈波伝播速度を算出する例を説明する。
【0043】
まず、図2の(A)欄は、脈波検出部110で検出した脈波の波形の一例を示している。図2の(A)欄における縦軸は脈波の振幅(mmHg)に対応する測定電圧値(V)である。この実施形態の脈波伝搬速度測定装置100では、一例として、一般的なカフ式血圧計で測定される血圧(mmHg)でもって、脈波検出部110で測定した電圧値(V)が脈波の振幅(mmHg)にどう対応するかの補正(キャリブレーション)を行っている。なお、この補正(キャリブレーション)は、最初の使用開始時に行えばよく、その後の測定では上記キャリブレーションの結果を用いればよい。
【0044】
上記基準時間検出部120aは、例えば、脈波が、Murgoらによる血圧波形分類のTypeCの場合は、図2の(A)欄に示される脈波の波形における収縮期の極大点Q1の時間T1を駆出波成分の基準時間T1として検出する。図2の(B)欄には、脈波の加速度波を示し、図3の(A)欄には、脈波の3回微分波を示している。そして、基準時間検出部120aは、例えば、脈波が、Murgoらによる血圧波形分類のTypeCの場合は、図3の(B)欄に示される脈波の4次微分波の第3ゼロクロスポイントQ2を反射波成分の基準時間T2として検出する。なお、この第3ゼロクロスポイントQ2は、図2(A)に示す脈波が極小値になった以降に、図3(B)に示す4回微分波形が3回目に下向きにゼロクロスするポイントを意味する。
【0045】
なお、上述の説明では、検出した脈波が血圧波形分類のTypeCである場合について説明したが、検出した脈波が血圧波形分類のTypeC以外の波形形状である場合には、より好適に脈波の駆出波成分の基準時間と反射波成分の基準時間を特定できる手法があればそれを採用してもよい。例えば、脈波は、大きな血圧変動がなければ、基本的にそれほど大きな波形変化を示すわけではないので、測定した複数の脈波を重ね合わせる(加算平均)ことで、脈波検出精度の改善を図ることが可能になる。
【0046】
また、脈波は、ノイズレベルや、年齢,性別,疾病の有無,体調などに応じて、様々な波形形状を示すことから、より好適に脈波の駆出波成分の基準時間と反射波成分の基準時間を特定できる手法があればそれを採用してもよい。例えば、検出した脈波を、その時点の被測定者の状態と合わせて履歴として残すことで、脈波の駆出波成分の基準時間と反射波成分の基準時間を特定する精度の改善を図れる。
【0047】
また、脈波振幅検出部120bは、図4の波形図に例示するように、基準時間検出部120aで検出した駆出波成分の基準時間T1に対応する脈波Sの振幅W1を検出すると共に、基準時間検出部120aで検出した反射波成分の基準時間T2に対応する脈波Sの振幅W2を検出する。
【0048】
さらに、脈波伝播速度算出部120は、図5に示すように、反射波成分S2の基準時間T2に対応する脈波Sの振幅W2から脈波Sの振幅W2に含まれている駆出波成分S1を除去して、反射波成分S2の基準時間T2に対応する反射波成分S2の振幅W3を求める。この反射波成分S2の基準時間T2に対応する反射波成分S2の振幅W3を求める手法としては、例えば、Windkesselモデル等を用いて、脈波における駆出波の減少度合いをモデル化し、反射波成分S2の基準時間T2の周辺で測定された脈波振幅から駆出波S1の残存成分を減算する方法等が考えられる。当然ながら、より正確に駆出波S1の残存成分を特定できる手法があれば採用してもよい。
【0049】
そして、脈波伝播速度算出部120は、駆出波成分の基準時間T1と、反射波成分の基準時間T2と、駆出波成分の基準時間T1に対応する脈波Sの振幅W1と、反射波成分S2の基準時間T2に対応する脈波Sの反射波成分S2の振幅W3とに基づいて、脈波Sの伝播速度を求める。
【0050】
次に、脈波伝播速度算出部120が、脈波Sの伝播速度PWVを求める過程を説明する。
【0051】
一般的に、脈波伝播速度と言うのは、生体部位の2箇所それぞれの脈波を測定し、それぞれの脈波の駆出波成分が伝播する速度を求めるものであるが、その根本原理は、Moens‐Kortewegの原理に基づく。また、脈波伝播速度と血圧の関係は、Moens‐Kortewegの関係から次式(1)で導出される(McCombie,Devin “Development of a wearable blood pressure monitor using adaptive calibration of peripheral pulse transit time measurements”,Ph.D. Thesis, Massachusetts Institute of Technology,Dept. of Mechanical Engineering,2008. 参照)。
(PWV) =α・exp(β×P) … (1)
【0052】
上式(1)において、PWVは、脈波伝播速度(m/秒)、Pは血圧(mmHg)、α,βは、個人毎、個人内においても測定時間毎に若干変化する定数である。
【0053】
ここで、駆出波S1の脈波伝播速度PWV1(m/秒)と反射波S2の脈波伝播速度PWV2(m/秒)のそれぞれに対して、上式(1)を当て嵌めると次式(2),(3)が得られる。
(PWV1) =α・exp(β×W1) … (2)
(PWV2) =α・exp(β×W3) … (3)
【0054】
上式(2)において、W1は駆出波S1の脈波振幅つまり図5の駆出波S1の基準時間T1に対応する脈波Sの振幅W1であり、この振幅W1は駆出波S1の脈波圧力に対応している。また、W3は反射波S2の脈波振幅、つまり図5の反射波S2の基準時間T2に対応する反射波S2の振幅W3であり、この振幅W3は反射波S2の脈波圧力に対応している。
【0055】
一方、図6に示すように、人体の心臓Pから脈波測定部位52までの距離をd(m)とし、心臓Pから反射点53までの距離をd(m)とし、心臓Pの拍動時から駆出波S1の基準時間T1までの時間をΔT1(秒)とし、駆出波S1の基準時間T1と反射波S2の基準時間T2との時間差(T2−T1)をΔT2(秒)とすると、次式(4),(5)が得られる。
(PWV1) =(d/ΔT1) … (4)
(PWV2) =((2d+d)/(ΔT1+ΔT2)) … (5)
【0056】
上式(2)と上式(4)から次式(6)が得られ、上式(3)と上式(5)から次式(7)が得られる。
α・exp(β×W1)=(d/ΔT1) … (6)
α・exp(β×W3)=((2d+d)/(ΔT1+ΔT2)) … (7)
【0057】
上式(6)と上式(7)とから、時間ΔT1を消去できる。すなわち、上式(7)から、次式(8)が得られる。
(ΔT1+ΔT2) = (2d+d)/α・exp(β×W3)
ΔT1+ΔT2 =(2d+d)/ {α・exp(β×W3)}1/2
ΔT1=(2d+d)/{α・exp(β×W3)}1/2 −ΔT2 … (8)
【0058】
この式(8)を上式(4)に代入して、次式(9)が得られる。
(PWV1) =d×[(2d+d)/{α・exp(β×W3)}1/2−ΔT2]−2
PWV1=d×[(2d+d)/α・exp(β×W3)}1/2−ΔT2]−1 …(9)
【0059】
つまり、駆出波S1の脈波伝播速度PWV1を、既知の定数α,βと、既知の測定値である距離d,dと、基準時間検出部120aで求めた基準時間T2とT1との差ΔT2(=T2−T1)と、駆出波成分除去部4で求めた反射波S2の基準時間T2に対応する反射波S2の振幅W3とから算出可能となる。
【0060】
すなわち、脈波伝播速度算出部120は、上述のような式(4)〜(7)に基づいて導出される上式(9)により、駆出波成分S1,反射成分S2の基準時間T1,T2の差ΔT2と反射波成分S2の基準時間T2に対応する脈波Sの駆出波成分S1,反射成分S2の振幅W1,W3とに基づいて、脈波Sの駆出波S1の伝播速度PWV1を求める。したがって、駆出波成分S1の振幅W1と反射成分S2の振幅W3との相違による駆出波と反射波の脈波伝播速度の違いを考慮に入れて高い精度で脈波伝播速度を測定できる。
【0061】
尚、上記実施形態では、脈波振幅検出部120bが反射波S2の振幅W3を用いた場合を説明したが、脈波振幅検出部120bが反射波S2の振幅W3を用いない場合は、上式(3)において、反射波S2の基準時間T2に対応する反射波S2の振幅W3に替えて、反射波S2の基準時間T2に対応する脈波Sの振幅W2を採用した次式(10)を用いる。
(PWV2) =α・exp(β×W2) … (10)
【0062】
この場合、上式(10)と上式(5)から次式(11)が得られる。
α・exp(β×W2)=((2d+d)/(ΔT1+ΔT2)) … (11)
【0063】
よって、前述の式(6)と上式(11)から、時間ΔT1を消去して、次式(12)が得られる。
ΔT1=(2d+d)/{α・exp(β×W2)}1/2 −ΔT2 … (12)
【0064】
この式(12)を前述した式(4)に代入して、次式(13)が得られる。
(PWV1) =d×[(2d+d)/{α・exp(β×W2)}1/2−ΔT2]−2
PWV1=d×[(2d+d)/α・exp(β×W2)}1/2−ΔT2]−1 … (13)
【0065】
つまり、駆出波S1の脈波伝播速度PWV1を、既知の定数α,βと、既知の測定値である距離d,dと、基準時間検出部120aで求めた基準時間T2とT1との差ΔT2(=T2−T1)と、脈波振幅検出部120bで求めた反射波S2の基準時間T2に対応する脈波Sの振幅W2とから算出可能となる。
【0066】
すなわち、脈波伝播速度算出部120は、上述のように導出された上式(13)により、駆出波成分S1,反射成分S2の基準時間T1,T2の差ΔT2と反射波成分S2の基準時間T2に対応する脈波Sの基準時間T2の振幅W2とに基づいて、脈波Sの駆出波S1の伝播速度PWV1を求める。したがって、脈波Sの駆出波S1と反射波S2の脈波伝播速度の相違を考慮に入れて高い精度で脈波伝播速度を測定できる。
【0067】
なお、上記実施形態では、脈波伝播速度を測定する装置を説明したが、上式(1)から明らかなように、上記実施形態で測定した脈波伝播速度から血圧を測定することも可能である。すなわち、上記脈波伝播速度測定装置を利用者が使用する場合、この装置で得られた脈波伝播速度をそのまま表示する替わりに血圧値として表示してもよい。上記脈波伝播速度は、医療関係者には極めて馴染みの深い生体指標ではあるが、非医療関係者には脈波伝播速度よりも血圧の方が馴染み易い生体指標であるからである。
【0068】
カフを用いた一般的な血圧計は、数十秒かけて一組の最高血圧・最低血圧・平均血圧・脈拍数などを利用者に提示するが、この発明の実施形態に基づいた血圧計によれば、1拍毎に血圧を検出できるので、生体の状態をより詳細に把握できる可能性がある。また、数拍単位の加算平均・移動平均などを取ることによって、脈波伝播速度と血圧をより高精度で検出できる。
【0069】
また、脈波伝播速度補正部130は、反射点高さ算出部131と脈波伝播速度増加分算出部132とを有する。この脈波伝播速度補正部130は、仰向けで測定するのに比べて、座位または立位で脈波伝播速度を測定する場合に生じる静水圧の影響を補正する。
【0070】
従来の脈波伝播速度測定装置では、通常仰臥位で測定される。その時は、心臓と反射点(心臓からの脈波が反射する点)である腹部大動脈とは水平になるので、脈波伝播速度への静水圧の影響が無い。しかしながら、座位または立位の姿勢で測定する場合、心臓と反射点である腹部大動脈は水平では無くなり、静水圧の影響を受けるので、その分内圧が増加する。そして、血管の内圧が増加すると、血管の硬さが増加し、血管の硬さが増加すると脈波伝播速度が速くなる。
【0071】
したがって、この第1実施形態では、座位(または立位)で測定した脈波伝播速度と、仰臥位で測定した脈波伝播速度との速度差を補正し、座位(または立位)でも仰臥位で測定した脈波伝播速度と同等な値を算出できるよう、脈波伝播速度補正部130により脈波伝播速度の補正を行う。
【0072】
また、反射点高さ算出部131は、人体内の腸骨動脈または腹部大動脈周辺の反射点の位置を算出する。ここで、この反射点の位置を算出するために、“身長または座高”と“心臓から腸骨動脈または腹部大動脈周辺の反射点の位置までの鉛直方向の高さ”との関係を予め反射点高さ算出部131にテーブルまたは関係式などで設定しておく。そうして、脈波伝播速度測定装置100に入力される被測定者の身長情報または座高情報に基づいて、反射点高さ算出部131は、予め設定されたテーブルまたは関係式などを用いて、心臓を基準としたときの反射点の鉛直方向の高さを算出する。
【0073】
また、脈波伝播速度増加分算出部132は、反射点高さ算出部131によって求められた反射点の鉛直方向の高さに基づいて、静水圧の影響による脈波伝播速度の増加分を算出する。
【0074】
ここで、静水圧の影響を補正する方法として、図7に示すように、心臓Pから反射点の位置までの鉛直方向の高さをある微小高さΔhで分割し、それぞれの位置での静水圧の影響を積分することにより、脈波伝播速度に対する静水圧の影響を補正する。つまり、心臓から反射点の位置までの経路のある領域において、その領域での脈波伝播速度は、心臓の高さで測定した血圧値と心臓からその領域までの鉛直方向の高さに基づいて、次の式(14)により示すことができる。
PWV = β・exp(α(PBP+ρgh) … (14)
ここで、
PWV:脈波伝播速度[m/s]
α,β:定数(個人毎、個人内においても測定時間毎に若干変化する)
BP:心臓の高さで測定した血圧値
ρ:血液の密度
g:重力加速度
h:心臓からのある領域までの鉛直方向の高さ
【0075】
さらに、静水圧の影響による脈波伝播速度の増加分は、次の式(15)で示すことができる。
ΔPWV =PWV0・exp(αPBP)・(exp(αρgh)−1) … (15)
ここで、PWV0は心臓の高さにおける脈波伝搬速度である。
【0076】
そして、分割した領域におけるΔPWVをそれぞれ算出し、算出されたΔPWVの平均値を補正値として求める。
【0077】
次に、脈波伝播速度増加分算出部132において、脈波伝播速度算出部120で算出された脈波伝播速度からΔPWVの平均値を減算すれば、仰臥位で測定された脈波伝播速度を算出することができる。ここで、微小高さΔhは、小さくすればするほど正確な値を算出することができるが、例えば、心臓から反射点の位置までの鉛直方向の高さを10個の領域に分割するのが望ましい。
【0078】
上記構成の脈波伝播速度測定装置100によれば、脈波伝播速度算出部120により算出された脈波伝播速度に対して、脈波伝播速度補正部130によって、人体の姿勢に応じて生じる静水圧の影響による脈波伝播速度の増加分を取り除くように補正するので、仰向けでない座位や立位で測定するときに、姿勢によって生じる静水圧の影響を受けることなく正確な脈波伝播速度の測定を行うことができる。
【0079】
また、脈波伝播速度補正部130の反射点高さ算出部131により、心臓を基準としたときの反射点の鉛直方向の高さを算出し、その算出された上記反射点の鉛直方向の高さに基づいて、脈波伝播速度補正部130の脈波伝播速度増加分算出部132により脈波伝播速度の増加分を算出することによって、座位または立位の姿勢で測定する場合に、心臓と反射点は水平でなくなって内圧が増加して脈波伝播速度が速くなっても、仰臥位で測定した脈波伝播速度と同等な値を算出することができる。
【0080】
また、反射点高さ算出部131により算出された反射点の鉛直方向の高さに基づいて、脈波伝播速度増加分算出部132によって、脈波伝播速度に対する静水圧の影響を正確に補正することができる。
【0081】
また、脈波伝播速度算出部120の基準時間検出部120aで検出した駆出波成分の基準時間および反射波成分の基準時間と、脈波振幅検出部120bで検出した駆出波成分の基準時間に対応する脈波の振幅および反射波成分の基準時間に対応する脈波の振幅とに基づいて、脈波伝播速度算出部120により脈波の伝播速度を算出することによって、駆出波成分の振幅と反射波成分の振幅との相違による駆出波と反射波の脈波伝播速度の違いを考慮に入れて高い精度で脈波伝播速度を測定することができる。
【0082】
なお、上記第1実施形態では、上記式(14),(15)を用いて静水圧の影響による脈波伝搬速度の増加分を算出したが、これに限らず、人体の姿勢が仰向けであるときに予め測定した脈波伝播速度と、人体の姿勢が座位(または立位)であるときに測定した脈波伝播速度との関係式に基づいて、脈波伝播速度の増加分を算出するものであればよい。
【0083】
例えば、脈波伝播速度増加分算出部132は、予め仰臥位と座位(または立位)の2つの条件で脈波伝播速度を測定し、仰臥位で測定した脈波伝播速度PWVaと、座位(または立位)で測定した脈波伝播速度PWVbとの差ΔPWV(=PWVa−PWVb)を算出する。そして、その差ΔPWV(=PWVa−PWVb)の値を脈波伝播速度測定装置100の記憶部(図示せず)に記憶しておくことにより、次回の測定から、脈波伝播速度算出部120で算出された脈波伝播速度値に対して、記憶部に記憶された差ΔPWVを減算する。
【0084】
このようにして、人体の姿勢が仰向けであるときに予め測定した脈波伝播速度と、人体の姿勢が座位(または立位)であるときに測定した脈波伝播速度との関係式である差ΔPWV=PWVa−PWVbに基づいて、脈波伝播速度増加分算出部132は、脈波伝播速度の増加分を算出するので、次回の測定において仰臥位で予め測定された脈波伝播速度を用いて上記関係式により容易に算出することができる。
【0085】
この場合、仰向けでの脈波伝播速度と座位(または立位)での脈波伝播速度との関係式は、これに限らず、仰向けでの脈波伝播速度と座位(または立位)での脈波伝播速度との相関関係を示す関係式であればよい。
【0086】
〔第2実施形態〕
図8はこの発明の第2実施形態の脈波伝播速度測定装置200のブロック図を示している。この第2実施形態の脈波伝播速度測定装置200は、測定姿勢検出部133を除いて第2実施形態の脈波伝播速度測定装置100と同一の構成をしている。
【0087】
この第2実施形態の脈波伝播速度測定装置200は、脈波検出部110と、脈波伝播速度算出部120と、脈波伝播速度補正部130とを備えている。
【0088】
上記脈波伝播速度補正部130は、測定姿勢検出部133と、反射点高さ算出部131と、脈波伝播速度増加分算出部132で構成される。
【0089】
測定姿勢検出部133は、被測定者の測定姿勢を検出する。この測定姿勢の変化によって、心臓を基準としたときの反射点の鉛直方向の高さは変化する。したがって、その反射点の鉛直方向の高さの変化を測定することにより、被測定者の測定姿勢に影響せず、仰臥位で測定した脈波伝播速度に相当する値を算出することができる。
【0090】
測定姿勢検出部133は、腰などに装着された加速度センサから検出された重力加速度の情報に基づいて、図9に示すように、被験者の正中線61と水平面62とのなす角度α(傾き角度)を算出する。
【0091】
反射点高さ算出部131は、測定姿勢検出部133で得られた角度αと心臓Pから反射点までの距離hsから次の式(16)を用いて、心臓Pから反射点63までの鉛直方向の高さhを求める。
h = hs・sinα … (16)
そうして、反射点高さ算出部131より求められた鉛直方向の高さhに基づいて、脈波伝播速度補正部130は、脈波伝播速度を補正する。この脈波伝播速度補正部130による補正の仕方は、第1実施形態と同様である。
【0092】
上記第2実施形態の脈波伝播速度測定装置は、第1実施形態の脈波伝播速度測定装置と同様の効果を有する。
【0093】
また、測定姿勢検出部133により、人体の測定時の姿勢を検出し、その検出された人体の測定時の姿勢に基づいて、反射点高さ算出部131により、人体の心臓を基準としたときの脈波が反射する反射点の鉛直方向の高さを算出して、反射点高さ算出部131により算出された反射点の鉛直方向の高さhに基づいて、脈波伝播速度増加分算出部130により脈波伝播速度の増加分を算出することによって、人体の測定姿勢に応じた正確な脈波伝播速度の補正ができる。
【0094】
また、測定姿勢検出部133により、人体の正中線の水平面に対する傾き角度を検出し、検出された人体の正中線の水平面に対する傾き角度に基づいて、反射点高さ算出部131によって反射点の高さを算出するので、傾き角度を検出する角度センサなどを用いて簡単に反射点の高さを算出することが可能となる。
【0095】
上記第1,第2実施形態では、人体の或る一部位の脈波の駆出波成分と反射波成分の夫々の基準時間と振幅に基づいて脈波伝播速度を算出する脈波伝播速度算出部120を備えた脈波伝播速度測定装置について説明したが、脈波伝播速度算出部はこれに限らず、他の方法により脈波伝播速度を算出するものであってもよい。例えば、足首の脈波と上腕の脈波との2点の脈波を使う脈波伝播速度測定装置や、心電ともう一箇所の脈波とを使う脈波伝播速度測定装置にこの発明を適用してもよい。
【0096】
また、この発明は、脈波伝播速度測定装置に限らず、生体の脈波を脈波検出部により検出するステップと、上記脈波検出部により検出された上記脈波に基づいて脈波伝播速度を脈波伝播速度算出部により算出するステップと、上記脈波伝播速度算出部により算出された上記脈波伝播速度に対して、脈波伝播速度補正部により上記生体の姿勢に応じて生じる静水圧による上記脈波伝播速度の増加分を取り除くように補正するステップとを有する脈波伝播速度の測定方法として提供してもよい。
【0097】
上記脈波伝播速度の測定方法によれば、脈波伝播速度算出部により算出された脈波伝播速度に対して、脈波伝播速度補正部によって、生体の姿勢に応じて生じる静水圧の影響による上記脈波伝播速度の増加分を取り除くように補正するので、仰向けでない座位や立位で測定するときに、姿勢によって生じる静水圧の影響を受けることなく正確な脈波伝播速度の測定ができる。
【0098】
また、この発明は、生体の脈波に基づいて脈波伝播速度を算出する脈波伝播速度算出機能と、上記脈波伝播速度算出機能により算出された上記脈波伝播速度に対して、上記生体の姿勢に応じて生じる静水圧による上記脈波伝播速度の増加分を取り除くように補正する脈波伝播速度補正機能とを、脈波伝播速度の測定プログラムによってコンピュータに実行させてもよい。
【0099】
上記脈波伝播速度の測定プログラムによれば、コンピュータに脈波伝播速度算出機能と脈波伝播速度補正機能を実行させて、脈波伝播速度算出機能により算出された脈波伝播速度に対して、脈波伝播速度補正機能によって、生体の姿勢に応じて生じる静水圧の影響による脈波伝播速度の増加分を取り除くように補正するので、仰向けでない座位や立位で測定するときに、姿勢によって生じる静水圧の影響を受けることなく正確な脈波伝播速度の測定ができる。
【0100】
この発明の具体的な実施の形態について説明したが、この発明は上記第1,第2実施形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0101】
100,200…脈波伝播速度測定装置
110…脈波検出部
120…脈波伝播速度算出部
120a…基準時間検出部
120b…脈波振幅検出部
130…脈波伝播速度補正部
131…反射点高さ算出部
132…脈波伝播速度増加分算出部
133…測定姿勢検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の脈波を検出する脈波検出部と、
上記脈波検出部により検出された上記脈波に基づいて脈波伝播速度を算出する脈波伝播速度算出部と、
上記脈波伝播速度算出部により算出された上記脈波伝播速度に対して、上記生体の姿勢に応じて生じる静水圧の影響による上記脈波伝播速度の増加分を取り除くように補正する脈波伝播速度補正部と
を備えたことを特徴とする脈波伝播速度測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の脈波伝播速度測定装置において、
上記脈波伝播速度補正部は、
上記生体の心臓を基準としたときの上記心臓からの脈波が反射する反射点の鉛直方向の高さを算出する反射点高さ算出部と、
上記反射点高さ算出部により算出された上記反射点の鉛直方向の高さに基づいて、上記脈波伝播速度の増加分を算出する脈波伝播速度増加分算出部と
を有することを特徴とする脈波伝播速度測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の脈波伝播速度測定装置において、
上記脈波伝播速度増加分算出部は、
上記反射点高さ算出部により算出された上記反射点の鉛直方向の高さに基づいて、上記心臓と上記反射点との間の静水圧差を求めて、その静水圧差から上記脈波伝播速度の増加分を算出することを特徴とする脈波伝播速度測定装置。
【請求項4】
請求項2に記載の脈波伝播速度測定装置において、
上記脈波伝播速度増加分算出部は、
上記生体の姿勢が仰向けであるときに予め測定した脈波伝播速度と、上記生体の姿勢が座位または立位であるときに測定した脈波伝播速度との関係式に基づいて、上記脈波伝播速度の増加分を算出することを特徴とする脈波伝播速度測定装置。
【請求項5】
請求項1に記載の脈波伝播速度測定装置において、
上記脈波伝播速度補正部は、
上記生体の測定時の姿勢を検出する測定姿勢検出部と、
上記測定姿勢検出部により検出された上記生体の測定時の姿勢に基づいて、上記生体の心臓を基準としたときの上記脈波が反射する反射点の鉛直方向の高さを算出する反射点高さ算出部と、
上記反射点高さ算出部により算出された上記反射点の鉛直方向の高さに基づいて、上記脈波伝播速度の増加分を算出する脈波伝播速度増加分算出部と
を有することを特徴とする脈波伝播速度測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の脈波伝播速度測定装置において、
上記測定姿勢検出部は、上記生体の正中線の水平面に対する傾き角度を検出し、
上記反射点高さ算出部は、上記測定姿勢検出部により検出された上記生体の正中線の水平面に対する傾き角度に基づいて、上記反射点高さ算出部により算出された上記反射点の鉛直方向の高さを算出することを特徴とする脈波伝播速度測定装置。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1つに記載の脈波伝播速度測定装置において、
上記脈波検出部は、上記生体の或る一部位における脈波を検出するものであって、
上記脈波伝播速度算出部は、
上記脈波検出部で検出した上記一部位における脈波に含まれる駆出波成分を特定するための基準時間と上記脈波に含まれる反射波成分を特定するための基準時間とを検出する基準時間検出部と、
上記基準時間検出部で検出した上記駆出波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅を検出すると共に上記基準時間検出部で検出した上記反射波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅を検出する脈波振幅検出部と
を有し、
上記基準時間検出部で検出した上記駆出波成分の基準時間および上記反射波成分の基準時間と、上記脈波振幅検出部で検出した上記駆出波成分の基準時間に対応する脈波の振幅および上記反射波成分の基準時間に対応する脈波の振幅とに基づいて、上記脈波の伝播速度を算出することを特徴とする脈波伝播速度測定装置。
【請求項8】
生体の脈波を脈波検出部により検出するステップと、
上記脈波検出部により検出された上記脈波に基づいて脈波伝播速度を脈波伝播速度算出部により算出するステップと、
上記脈波伝播速度算出部により算出された上記脈波伝播速度に対して、脈波伝播速度補正部により上記生体の姿勢に応じて生じる静水圧による上記脈波伝播速度の増加分を取り除くように補正するステップと
を有することを特徴とする脈波伝播速度の測定方法。
【請求項9】
生体の脈波に基づいて脈波伝播速度を算出する脈波伝播速度算出機能と、
上記脈波伝播速度算出機能により算出された上記脈波伝播速度に対して、上記生体の姿勢に応じて生じる静水圧による上記脈波伝播速度の増加分を取り除くように補正する脈波伝播速度補正機能と
をコンピュータに実行させることを特徴とする脈波伝播速度の測定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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