説明

脈波信号計測装置、およびプログラム

【課題】光電変換による脈波測定を行う場合において、血液灌流に対する重力の影響を考慮して脈波を計測することを可能にする。
【解決手段】光電変換方式の脈波測定により得られた脈波信号から被験者の動脈血管の脈動に起因して振幅が変動する変動成分信号Xとその他の信号成分である非変動成分信号Zとを抽出する。演算処理回路120は変動成分信号Xと非変動成分信号Zの少なくとも一方から被験者の血液灌流の良否を判定する。そして、演算処理回路120は、その判定結果に応じて、被験者の測定部位に照射する光の強度または変動成分信号Zの増幅率を調整しつつ、変動成分信号Xを解析して被験者の脈拍等を計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脈波を光学的に計測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、生体、特に人体における脈波計測の一般的方法として、光電変換による脈波計測方法が用いられてきた。この種の脈波計測方法では、血液に吸収されやすい波長の光を発光ダイオードなどの発光素子から生体へ向けて照射し、生体を透過した光または生体内に進入後散乱等によって反射されてくる光をフォトダイオードやフォトトランジスターなどの受光素子にて受光して電気信号(以下、脈波信号)に変換することにより脈波の検出が実現され、この脈波信号を解析することで脈波の計測(脈間隔や単位時間当たりの脈拍数の計測)が実現される。ここで、脈間隔とは心電におけるRR間隔に相当する時間長である。生体内に進入した光の吸収は、動脈拡張時のほうが、動脈収縮時に比べて大きく、脈波信号の信号レベルは動脈の脈動に応じて変化するからである(例えば、特許文献1から3参照)。特許文献4には、外光などの外部環境の変化があっても、S/N比を維持することを可能にする技術が開示されている。また、特許文献5には、被験者の体質に起因する影響(具体的には脈動が小さく、脈波信号の交流成分が小さいなど)を受けずに検出精度を維持することを可能にする技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−118038号公報
【特許文献2】特開2003−169780号公報
【特許文献3】特開2007−117591号公報
【特許文献4】特開2010−004972号公報
【特許文献5】特開2010−233908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
血液の流れ方(以下、血液灌流)は被験者の体質等に応じて被験者毎に異なり、測定部位における局所的な血液灌流は重力による影響も受ける。例えば、被験者の左手の指を測定部位として脈波の計測を行う場合、左腕を肩と同じ程度の高さに水平に伸ばした姿勢と同左腕を垂直に垂らした姿勢とでは検出される脈波信号の振幅に違いが生じ、S/N比も変化することが知られている。さらに、血液灌流に対する重力の影響の度合いは被験者の体質等に応じて被験者毎に異なる。光電変換による脈波測定を行う場合には、血液灌流に対する重力の影響を考慮し、その影響を緩和するような対策を施すことが望ましいのであるが、特許文献1〜5に開示された技術では、このような対策は為されていない。
【0005】
本発明は,上記課題に鑑みて為されたものであり、光電変換による脈波測定を行う場合において、血液灌流に対する重力の影響を考慮して脈波を計測することを可能にする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、被験者の測定部位に光を照射する発光手段と、前記発光手段を駆動して発光させる駆動手段と、前記発光手段から前記測定部位に向けて照射された光のうち前記測定部位にて反射された光、または前記測定部位を透過した光、を受光しその受光強度に応じた振幅を有する出力信号を出力する受光手段と、前記受光手段の出力信号から前記被験者の動脈血管の脈動を反映した変動成分信号と動脈血管以外の生体組織の活動を反映した非変動成分信号とを抽出する信号生成手段と、前記信号生成手段により抽出された前記変動成分信号を解析して脈波を計測するとともに、前記変動成分信号と前記非変動成分信号の少なくとも一方を解析して前記測定部位における血液灌流の良否に応じた制御信号を出力する演算処理手段と、前記測定部における血液灌流が悪いことを示す前記制御信号を前記演算処理手段から受け取ったことを契機として、前記変動成分信号の信号強度が強まるように前記信号生成手段または前記駆動手段の少なくとも一方を制御する制御手段と、を有することを特徴とする脈波信号計測装置、を提供する。
【0007】
このような脈波信号計測装置によれば、変動成分信号と非変動成分信号の少なくとも一方から測定部位における血液灌流の良否が検知され、その結果に応じて制御信号が生成される。これによって、信号生成手段または駆動手段の少なくとも一方の作動制御が行われる。例えば、血液灌流が悪いと判定された場合には、血液灌流が良い場合に比較して発光手段の発光強度が高くなるように(または変動成分信号の増幅率が高くなるように)駆動手段(または、信号生成手段)の作動制御を行わせるのである。駆動手段または信号生成手段についての作動制御を行わないとしたならば、血液灌流が悪い状態では重力の影響によって抹消部分に血液が溜り、この血液溜りによる吸光の増加によって上記反射光(または透過光)の光量が減少する。その結果、変動成分信号の信号強度が低下(S/N比が低下)して脈波の計測に支障が生じるといった不具合が起こり得る。しかし、本発明の脈波信号計測装置においては、被験者の血液灌流が悪い状態では、変動成分信号の信号強度が強まるように駆動手段または信号生成手段が制御されるため、上記のような不具合が回避されるのである。
【0008】
より好ましい態様においては、前記演算処理手段は、前記測定部位における血液灌流が良い姿勢から血液灌流が悪い姿勢への体動を被験者に促し、当該姿勢の変化に伴う前記非変動成分信号の信号強度の変化と前記変動成分信号のボトム・ピーク間隔の変化の少なくとも一方に基づいて前記被験者の血液灌流の変化のし易さを示す灌流状態を判定することが好ましい。被験者の血液灌流は姿勢によって変化する。測定部位が指であれば、被験者が腕を上げた状態と下げた状態では、血液灌流に対する重力の影響の度合いが異なる。腕を下げた状態は腕を上げた状態と比較して鬱血して血液灌流が悪くなる。また、姿勢の変化に伴う血液灌流の変化は、被験者の体質によって異なる。例えば、冷え性の被験者は、腕を下げても指の毛細血管の血液量が直ちに増加する分けではないが、健康な被験者は血液量が短時間で増加する傾向にある。従って、姿勢の変化に伴う非変動成分信号の信号強度の変化や変動成分信号のボトム・ピーク間隔の変化等に基づいて、被験者の血液灌流の変化のし易さを示す灌流状態指標を生成することができる。この灌流状態指標によって被験者の体質を客観的に評価することが可能となる。
【0009】
さらに好ましい態様においては、前記演算処理手段は、前記脈波の計測において、前記脈波の計測において、前記変動成分信号に対してノイズを除去するフィルター処理を施して処理結果を解析し、当該フィルター処理の制御パラメーターを前記灌流状態指標に応じて切り換えることが好ましい。このような態様によれば、被験者の灌流状態の良否(すなわち、被験者の血液灌流に対する重力の影響の大きさ)に応じた態様で変動成分信号から決め細やかにノイズを除去することが可能になる。
【0010】
別の好ましい態様においては、データ記憶回路を備え、前記演算処理手段は、データ記憶回路を備え、前記演算処理手段は、前記灌流状態を判定する毎に当該灌流状態を示すデータを前記データ記憶手段に追記することを特徴とする。このような態様によれば、被験者の灌流状態を判定する度にそのデータがデータ記憶回路に蓄積され、データ記憶回路に蓄積されたデータを解析することで被験者の灌流状態の変化(例えば、加齢に伴う変化や、動脈硬化の進行に伴う変化)を検出し、被験者に報知することが可能になる。
【0011】
また、別の好ましい態様においては、前記測定部位に働く加速度を互いに直交する3つの軸方向の成分に分解して検出する加速度計測手段をさらに備え、前記演算処理手段は、前記加速度計速手段により検出される重力加速度の方向を加味して前記測定部位における血液灌流の良否を判定することを特徴とする。このような態様によれば、変動成分信号或いは非変動成分信号の解析のみによって血液灌流の良否を判定する態様に比較して、より正確に血液灌流の良否を判定することが可能になる。
【0012】
また、本発明の別の態様においては、コンピューターに、被験者の身体のうち脈波の測定部位として予め定められた部位に向けて照射される光のうちの前記測定部位からの反射光の受光強度または前記測定部位を透過した透過光の受光強度を表す信号から抽出される前記被験者の動脈血管の脈動を反映した変動成分信号を解析して脈波を計測する脈波計測処理と、前記受光強度を示す信号から抽出される他の信号であって、動脈血管以外の生体組織の活動を反映した非変動成分信号と前記変動成分信号の少なくとも一方から前記被験者の血液灌流の良否を検知し、血液灌流が悪い検知結果が得られた場合には、前記変動成分信号の信号強度が強まるように前記測定部位に向けて照射される光の強度または前記受光強度を示す信号から前記変動成分信号を抽出する際の増幅率を調整する最適化処理と、を実行させることを特徴とするプログラム、を提供する。このようなプログラムにしたがって一般的な光電変換方式の脈波信号計測装置の演算処理回路を作動させることによって、その脈波信号測定装置を本発明の脈波信号測定装置として機能させることが可能になる。なお、上記プログラムの具体的な提供態様としては、CD−ROM(Compact Disk-Read Only Memory)やメモリースティックなどのコンピューター読み取り可能な記録媒体に書き込んで配布する態様や、インターネットなどの電気通信回線経由のダウロードにより配布する態様が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態の脈波信号計測装置1の外観を示す図である。
【図2】同脈波信号計測装置1のセンサー部30の装着態様の一例を示す図である。
【図3】同脈波信号計測装置1の電気的な構成例を示す図である。
【図4】血液灌流が良い姿勢と血液灌流が悪い姿勢の一例を示す図である。
【図5】血液灌流の状態と変動成分信号のボトム・ピーク間隔の関係を表す図である。
【図6】被験者の血液灌流に対する重力の影響の一例を示す図である。
【図7】本実施形態の最適化処理を説明するための図である。
【図8】本発明の第2実施形態の脈波信号計測装置の構成例を示す図である。
【図9】変形例(2)を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(A:第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態の脈波信号計測装置1の外観を示す図である。
図1に示すように、脈波信号計測装置1は、腕時計構造を有しており、被験者の手首に装着される装置本体10と、この装置本体10にケーブル20を介して接続されたセンサー部30とを有する。図1に示すように、装置本体10にはリストバンド12が取り付けられている。脈波信号計測装置1は、リストバンド12を被験者の手首(図1に示す例では、左手首)に巻きつけることで当該被験者の身体に装着される。装置本体10の表面には、液晶ディスプレイなどの表示部14が設けられている。表示部14には、センサー部30により検出された脈波信号から算出される脈間隔や単位時間当たりの脈拍数等が表示される。また、装置本体10の外周部にはボタンスイッチ16が設けられている。ボタンスイッチ16は、脈波の計測開始や計測終了、計測結果のリセットなどの各種指示の入力に用いられる。
【0015】
図2は、被験者の身体に対するセンサー部30の装着態様の一例を示す図である。
図2に示すように、センサー部30は、脈波センサー32と、センサー固定用バンド34とを有する。センサー部30は、例えば被験者の左手人指し指の根元から第2指関節までの間の部分(以下、測定部位)にセンサー固定用バンド34を巻きつけることで被験者の身体に装着される。センサー部30が被験者の身体に装着された状態では、脈波センサー32はセンサー固定用バンド34によって外光から遮光される。外光に起因したノイズを排除するためである。本実施形態では、センサー部30を被験者の左手人差し指に装着する場合について説明するが、左手中指や薬指などの他の指に装着しても勿論良い。また、図1に示すように、本実施形態では被験者の左腕に装置本体10を装着するのであるが、右腕に装置本体10を装着しても良く、この場合は右手の指にセンサー部30を装着するようにすれば良い。
【0016】
図3は、脈波信号計測装置1の電気的な構成例を示すブロック図である。
図3に示すように、脈波信号計測装置1は、脈波センサー32の他に、アナログ回路部110、演算処理回路120、データ記憶回路130、およびアナログ制御回路140を含んでいる。図3に示す脈波信号計測装置1の電気的な構成要素のうち、脈波センサー32以外のものは、装置本体10に内蔵されている。なお、図3では詳細な図示は省略したが、表示部14およびボタンスイッチ16は演算処理回路120に接続されている。また、図3に示す構成要素の他にも脈波信号計測装置1は、演算処理回路120に接続され、装置本体10に収納される音声出力部も有している。
【0017】
脈波センサー32は、図3に示すように、発光素子32aと、受光素子32bとを含んでいる。発光素子32aは、例えば青色LED(Light Emitting Diode)であり、血液に吸収されやすい波長の光を、ケーブル20を介して装置本体10から供給された電流の電流値に応じた強度で放射する。センサー部30が被験者の身体に装着された状態(図2参照)では、発光素子32aから測定部位に向けて上記光が照射される。このようにして発光素子32aから測定部位に向けて照射された光は、測定部位内部へ進入した後、一部が真皮内の毛細血管を流れる血液によって吸収される。そして、発光素子32aから照射された光のうちの血液によって吸収されなかった光は、一部が測定部位を透過し、残りは生体組織による散乱等を経て反射光として受光素子32bによって受光される。受光素子32bは、例えばフォトダイオードであり、受光した光の強度に応じた電流値の信号をケーブル20を介して装置本体10に出力する。
【0018】
アナログ回路部110は、受光素子32bの出力信号から変動成分信号と非変動成分信号とを生成して演算処理回路120に与える信号生成手段1110と、発光素子32aの発光制御を行う駆動回路1120とを含んでいる。変動成分信号とは、受光素子32bの出力信号の信号成分のうち、被験者の動脈血管の脈動を反映した信号成分のことである。一方、非変動成分信号とは、静脈血管などの他の生体組織の活動を反映した信号成分であり、主に直流成分である。
【0019】
駆動回路1120は、発光素子32aへの電流の供給を制御することにより、その発光制御を行う。より詳細に説明すると、駆動回路1120は、アナログ制御回路140から与えられる発光強度制御信号LCに応じて発光素子32aに与える電流の電流値を増減させ、発光素子32aの発光強度を制御する。信号生成手段1110は、IV変換回路1112と、フィルター1114aおよび1114bと、増幅回路1116aおよび1116bを含んでいる。IV変換回路1112は、電流・電圧変換回路であり、受光素子32bから受け取った信号の電流値に応じた電圧の脈波信号を生成し、フィルター1114aおよび1114bへ出力する。フィルター1114aは、IV変換回路1112の出力信号から変動成分信号Zを抽出する変動成分信号抽出手段の役割を果たす。一方、フィルター1114bは、脈波信号から非変動成分信号Xを抽出する非変動成分信号抽出手段の役割を果たす。
【0020】
より詳細に説明すると、フィルター1114aは、0.1[Hz]〜5[Hz]の周波数帯域を通過域とするバンドパスフィルターであり、フィルター1114bは、カットオフ周波数が0.1[Hz]のローパスフィルターである。つまり、本実施形態の脈波信号計測装置1では、脈波信号に含まれる各種周波数成分のうちの0.1[Hz]〜5[Hz]の周波数成分が変動成分信号Zとして取り出され、0.1[Hz]よりも低い周波数の周波数成分が非変動成分信号Xとして取り出される。フィルター1114aの通過域を0.1[Hz]〜5[Hz]としたのは、人の脈拍の周波数は健常者であれば概ね1[Hz]、心疾患等の既往症を有する人の場合でも概ね3[Hz]程度であることが一般的だからである。また、フィルター1114bのカットオフ周波数を0.1[Hz]としたのは、受光素子32bの出力信号のうち変動成分信号以外の信号成分を非変動成分信号として取り出すためである。なお、本実施形態では、フィルター1114aの通過域を0.1[Hz]〜5[Hz]の周波数帯域とし、フィルター1114bのカットオフ周波数を0.1[Hz]としたが、これら通過域およびカットオフ周波数は上記各値に限定されるものではなく、実験等によって適宜好適な値に定めるようにすれば良い。
【0021】
増幅回路1116aは、フィルター1114aから出力される変動成分信号Zの信号レベルを、演算処理回路120における各種演算処理の実行に適したレベルに増幅して出力する。同様に、増幅回路1116bは、フィルター1114bから出力される非変動成分信号Xの信号レベルを演算処理回路120における各種演算の実行に適したレベルに増幅して出力する。本実施形態では、増幅回路1116bについては、ゲイン(増幅率)が固定のものが用いられているが、増幅回路1116aについては、アナログ制御回路140から与えられるゲイン制御信号GCに応じてゲインを変えられるものが用いられている。このように、変動成分信号Zを増幅するための増幅回路1116aのゲインを可変とした理由については後に明らかにする。
【0022】
演算処理回路120は、A/D変換回路、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)などの揮発性メモリー、およびROM(Read Only Memory)などの不揮発性メモリー(何れも図示略)を含んでいる。A/D変換回路は、アナログ回路部110から出力される増幅された変動成分信号Zおよび非変動成分信号Xを所定のサンプリング周期でサンプリングし、各信号の波形を表すサンプル列(以下、ディジタル形式の変動成分信号および非変動成分信号)を生成する。演算処理回路120の不揮発性メモリーには、変動成分信号Zを解析して脈波の計測を行い、その計測結果を被験者に報知する処理を上記CPUに実行させる制御プログラムが格納されている。上記揮発性メモリーは当該制御プログラムを実行する際のワークエリアとして使用される。
【0023】
このように、本実施形態の脈波信号計測装置1は、前述した光電変換を利用して脈波の計測を行う装置であり、被験者の左手人指し指の根元から第2指関節付近を測定部位としている。被験者が肩の高さと同じ程度に左腕を水平に伸ばしている姿勢と同左腕を垂直に垂らした姿勢とでは重力の影響によって測定部位における血液灌流が変化すること、および血液灌流に対する重力の影響の度合いには個人差があることは前述した通りである。血液灌流に対する重力の影響が全く考慮されていない場合には、血液灌流の変化に起因したS/N比の低下によって、脈波の計測に支障が生じ得る。しかし、本実施形態では、被験者の血液灌流の状態に応じた最適化を行いつつ脈拍等を計数する処理を演算処理回路120のCPUに実行させる。これにより、脈拍等を正確に計数することが実現されるのである。以下、上記制御プログラムにしたがって演算処理回路120のCPUが実行する処理について詳細に説明する。
【0024】
上記制御プログラムにしたがって演算処理回路120のCPUが実行する処理としては、灌流状態判定処理、脈波計測処理、および最適化処理の3つの処理が挙げられる。なお、図3では、灌流状態判定処理は「判定処理」と、脈波計測処理は「計測処理」と略記されている。これら3つの処理の処理内容は以下の通りである。
【0025】
灌流状態判定処理は、脈波信号計測装置1の使用者たる被験者について、灌流状態の良い者であるか、それとも灌流状態の悪い者であるかを変動成分信号Zを解析して判定する処理である。ここで、灌流状態とは、被験者の血液灌流の変化のし易さを意味する。また、灌流状態の良い者とは、血液灌流に対する重力の影響が大きい者をいい、灌流状態が悪い者とは、血液灌流に対する重力の影響が小さい者をいう。以下では、灌流状態判定処理の処理内容の詳細な説明に先立って、血液灌流に対する重力の影響について図4を参照しつつ説明する。
【0026】
図4は、測定部位における血液灌流が良い姿勢(図4に示す例では、左腕を肩と同じ程度の高さに水平に伸ばした姿勢)と、血液灌流が悪い姿勢(図4に示す例では、左腕を垂直に垂らした姿勢)の一例を示す図である。血液灌流が良い姿勢から血液灌流が悪い姿勢へと被験者の姿勢が変化すると、重力の影響によって左手抹消部(すなわち、左手指先)に血液が溜まり、これにより抹消部における血液灌流が変化する。つまり、「血液灌流が悪い状態」とは、末梢部に血液が溜まり、生体組織の鬱血等によって血流が阻害されている状態のことを言い、「血液灌流が良い状態」とは末梢部に血液が溜まっておらず、スムースに血液が流れている状態をいうのである。
【0027】
図5は、左手人指し指を測定部位とし、左腕を肩と同じ程度の高さに水平に伸ばした姿勢から同左腕を垂直に垂らした姿勢へと姿勢を変化させた場合に、光電変換方式の脈波測定により計測される脈強度(変動成分信号Zの波形の谷と山の高低差:以下、ボトム・ピーク間隔)の変化の一例を示す図である。図5に示すように、左腕を肩と同じ程度の高さに水平の伸ばした姿勢から腕を垂直に垂らした姿勢へと姿勢を変化させると、変動成分信号Zのボトム・ピーク間隔は次第に小さくなり、ある一定値まで低下すると、以後、変化しなくなる。腕を垂直に垂らした姿勢へと姿勢を変えた後に変動成分信号Zのピーク・ボトム間隔が次第に小さくなるのは、測定部位に滞留する血液が増加するにつれて発光素子32aから照射された光の吸収量が増え、反射光が減少するからである。また、変動成分信号Zのボトム・ピーク間隔が一定値まで低下した後変化しなくなるのは測定部位に滞留する血液量には上限があるからである。
【0028】
図5に示すように、血液灌流に対する重力の影響は、変動成分信号のボトム・ピーク間隔の変化として現れるのであるが、血液灌流に対する重力の影響の大きさには個人差がある。具体的には、図6(A)に示すように血液灌流が良い状態と悪い状態とにおける変動成分信号のピーク・ボトム間隔の変動幅が大きい者もいれば、図6(B)に示すように同変動幅が小さい者もいる。一般に、冷え性の人のように血管周りの筋肉が強張っている人や動脈硬化の進んだ人のように血管の硬い人の場合、健康な人に比較して血液灌流が良い状態と悪い状態とにおける脈強度の変動幅が小さいことが多い。
【0029】
本実施形態の灌流状態判定処理では、演算処理回路120のCPUは、まず、被験者に対して測定部位における血液灌流が良い姿勢を取らせた後に同血液灌流が悪い姿勢への体動を促す。そして、CPUは、両姿勢における変動成分信号Zを解析して被験者の灌流状態の良否を判定するための指標となるデータを収集し、当該データに基づいて被験者の灌流状態を判定するのである。被験者の灌流状態の良否を判定するための指標としては、血液灌流が良い状態における変動成分信号Zのボトム・ピーク間隔Yと血液灌流が悪い状態における同ボトム・ピーク間隔yの比y/Yや、血液灌流が良い状態から悪い状態へと変化させた後の変動成分信号Zの包絡線の傾きαなどが挙げられる。
【0030】
変動成分信号Zから抽出される上記各指標を用いて被験者の血液灌流の良否をどのように判定するのかについては種々の態様が考えられる。例えば、健康な人についての変動成分信号のボトム・ピーク間隔の比y/Yの平均値を統計的に求めておき、被験者について計測されたボトム・ピーク間隔の比y/Yが当該平均値を上回っている場合には、当該被験者の灌流状態は悪いと判定し、上記測定値が上記平均値以下であれば、逆に、当該被験者の灌流状態は良いと判定する態様が考えられる。また、変動成分信号Zの包絡線の傾きαに基づいて灌流状態の良否を判定する場合についても同様に、健康な人についての平均値を求めておき、この平均値と被験者についての測定値とを比較して灌流状態の良否を判定すれば良い。また、健康な人を対象として変動成分信号のボトム・ピーク間隔の比y/Y、或いは包絡線の傾きαの平均値を求めておくのではなく、冷え性や動脈硬化の進んだ人など灌流状態が悪い人についての変動成分信号のボトム・ピーク間隔比y/Y、或いは包絡線の傾きαの平均値を求めておき、これら平均値と被験者についての測定値との比較により被験者の灌流状態を判定しても勿論良い。
【0031】
そして、演算処理回路120のCPUは、変動成分信号Zから抽出した各指標を示すデータと、それら指標に基づく判定結果を示す判定結果データ(すなわち、被験者が灌流状態の良い者であるか悪い者であるかを示すデータ)とを、例えばEEPROMなどのデータ記憶回路130に書き込んで当該灌流状態判定処理を終了する。本実施形態では、上記判定結果データの値として1または0が用いられており、CPUは灌流状態の良い者であると判定した場合には、値が1の判定結果データを、灌流状態の悪い者であると判定した場合には、値が0の判定結果データをデータ記憶回路130に書き込む。
以上が灌流状態判定処理の内容である。
【0032】
脈波計測処理は、灌流状態判定処理に後続して実行される処理であり、この脈波計測処理は後述する最適化処理と並列に実行される。この脈波計測処理は、A/D変換を経た変動成分信号Zからノイズを除去しつつ脈間隔或いは単位時間当たりの脈拍数を計数する処理である。ここで、変動成分信号に含まれるノイズとしては、被験者の体動に起因した体動ノイズや被験者の呼吸に起因した呼吸変動ノイズが挙げられる。本実施形態では、これらノイズを変動成分信号Zから除去するためのアルゴリズムとして、SGフィルター処理アルゴリズムが用いられている。このSGフィルター処理アルゴリズムの概略は以下の通りである。
【0033】
SGフィルターとは、ディジタル平滑化多項式フィルターであり、SGフィルター処理とは入力信号の波形を予め定められたサンプル数のフレームサイズ毎に所定次数の多項式により近似して平滑化してノイズ成分を除去する処理である。このSGフィルター処理では、上記近似多項式の次数と、近似範囲であるフレームサイズとが制御パラメーターとなっており、近似多項式の次数が低いほど、或いはフレームサイズが大きいほど、平滑化の度合いが強くなる(ローパスフィルターに近づく)ことが知られている。
【0034】
本実施形態では、SGフィルター処理の上記2種類の制御パラメーターのうち、近似多項式の次数については所定の値(例えば、3など)に固定されており、フレームサイズについては被験者の灌流状態に応じて好適な値が設定される。具体的には、演算処理回路120のCPUは、データ記憶回路130に格納されている判定結果データを参照し、その値が1であればフレームサイズを100に設定し、その値が0であればフレームサイズを50に設定する。灌流状態の悪い者の場合、灌流状態の良い者に比較して変動成分信号Zの変動幅が小さく、平滑化を行う波形区間を短くする必要がないからである。なお、本実施形態では、灌流状態の悪い者と灌流状態の良い者とでフレームサイズを異ならせたが、被験者の灌流状態の良否に拘らず、フレームサイズを固定にしても良い。
【0035】
本実施形態において変動成分信号Zを平滑化するためのアルゴリズムとしてSGフィルター処理アルゴリズムを用いたのは、以下の理由による。変動成分信号Zから脈間隔を求めるには、心電図のRに相当する脈波ボトム・ピーク(すなわち、凸状に現れる1拍ごとの変動成分信号の傾きが最大となる位置)を検出する必要があり、そのためには、変動成分信号Zの微分信号を算出して当該微分信号の振幅ピークを検出する必要がある。前述したように、SGフィルター処理では、入力信号の波形はフレームサイズ毎に所定次数の多項式により近似されるため、この近似多項式の微分によって上記微分信号を容易に求めることができる。これが、変動成分信号Zを平滑化するためのアルゴリズムとしてSGフィルター処理アルゴリズムを用いた理由である。
【0036】
最適化処理は、血液灌流に対する重力の影響を加味した態様で脈波の計測が行われるように、発光素子32aの発光強度および増幅回路1116aのゲインの調整を行う処理である。より詳細に説明すると、この最適化処理では、演算処理回路120のCPUは、ノイズの除去が行われた変動成分信号Zを解析して測定部位における血液灌流に変化が生じたか否かを判定し、その判定結果に応じて、発光素子32aの発光強度および増幅回路1116aのゲインの調整を指示する制御信号をアナログ制御回路140に与える。この制御信号に応じてアナログ制御回路140が発光強度制御信号LCおよびゲイン制御信号GCを出力することで、発光素子32aの発光強度および増幅回路1116aのゲインの調整が実現されるのである。なお、本実施形態では、発光素子32aの発光強度および増幅回路1116aのゲインの両方を調整する態様について説明するが、何れか一方のみの調整でも勿論良い。
【0037】
本実施形態の最適化処理では、演算処理回路120のCPUは、血液灌流が良い状態における同ボトム・ピーク間隔Yと、ノイズを除去済みの変動成分信号のボトム・ピーク間隔との差を算出し、当該差の値を示す制御信号をアナログ制御回路140に与える。アナログ制御回路140は、上記制御信号の示す値が大きいほど、強い発光強度を示す発光強度制御信号LCおよび高い増幅率を示すゲイン制御信号GCを出力する。発光素子32aの発光強度および増幅回路1116aのゲインの調整が行われないとしたならば、測定部位における血液灌流の悪化に伴って図7(A)にて実線により示すように変動成分信号のボトム・ピーク間隔が狭まる。しかし、本実施形態では、発光素子32aの発光強度および増幅回路1116aのゲインが、変動成分信号のボトム・ピーク間隔の減少幅に応じて引き上げられ、同図7(A)にて破線で示すように変動成分信号のボトム・ピーク間隔を略一定に保つことができるのである。本実施形態では、最適化処理において変動成分信号のボトム・ピーク間隔を略一定に保つオートゲインコントローラー的な制御を行う場合について説明したが、変動成分信号のボトム・ピーク間隔が所定の値(例えば、血液灌流が悪い状態におけるボトム・ピーク間隔y)まで低下したことを契機として、以降、発光素子32aの発光強度および増幅回路1116aのゲインを徐々に引き上げ、変動成分信号のボトム・ピーク間隔が徐々に大きくなるようにする態様(図7(B)参照)であっても勿論良い。以上が最適化処理の処理内容である。
【0038】
次いで、本実施形態の脈波信号計測装置1の動作について説明する。
被験者が自身の左腕に脈波信号計測装置1を装着し、脈波信号計測装置1の電源をオンにすると、演算処理回路120は、まず、灌流状態判定処理を実行する。この灌流状態判定処理では、演算処理回路120は、脈波信号計測装置1が装着されている腕を肩の高さと同じ程度に水平に伸ばした姿勢をとることを指示する音声メッセージを音声出力部に放音させ、その状態における変動信号成分Zのピーク・ボトム間隔Yを示すデータを、血液灌流が良い状態を示すデータとしてデータ記憶回路130に記憶させる。
【0039】
次いで、演算処理回路120は、脈波信号計測装置1が装着されている腕を垂直に垂らした姿勢をとることを指示する音声メッセージを音声出力部に放音させる。被験者が、脈波信号計測装置1を装着した腕を肩と同じ程度の高さに水平に伸ばした姿勢から同腕を垂直に垂らした姿勢へと姿勢を変化させると、被験者の左手指先に次第に血液が溜まる。これに伴って、変動成分信号Zのボトム・ピーク間隔は次第に狭まり、被験者の左手指先に溜まった血液が一定量に達すると、変動成分信号Zのボトム・ピーク間隔は略一定となる。演算処理回路120は、変動成分信号のボトム・ピーク間隔は略一定となったことを契機として、そのボトム・ピーク間隔yを示すデータを、血液灌流が悪い状態を示すデータとしてデータ記憶回路130に記憶させる。
【0040】
次いで、演算処理回路120は、被験者の灌流状態を示す値y/Yを算出し、その算出結果と所定の閾値との比較を行って被験者の灌流状態の良否を判定し、その判定結果を示す判定結果データをデータ記憶回路130に書き込むとともに、その判定結果を音声によって被験者に報知して灌流状態判定処理を終了する。この例では、灌流状態の良し悪しを2段階で表現したが、複数の閾値と比較して灌流状態の程度を3段階以上で表現してもよい。
【0041】
灌流状態判定処理を終了すると、演算処理回路120のCPUは、脈波計測処理の実行を開始し、さらに、最適化処理を当該脈波計測処理と並列に実行する。脈波計測処理では、上記CPUは、前述したSGフィルター処理アルゴリズムにしたがって変動成分信号Zからノイズを除去しつつ脈波を計測し、その計測結果を表示部14に表示させる。一方、最適化処理では、変動成分信号Zのボトム・ピーク間隔が一定となるようにオートゲインコントローラ的な制御が為される。その結果、被験者の姿勢の変化に伴って測定部位における血液灌流が悪化する場合であっても、変動成分信号Zの信号強度が低下(S/N比が低下)することはなく、脈波の計測に支障が生じることもない。
【0042】
以上説明したように本実施形態の脈波信号計測装置1によれば、被験者毎に異なる血液灌流に対する重力の影響を考慮して的確に脈波信号を捕捉し、脈拍数や脈間隔の計測を行うことが可能になる。
【0043】
(B:第2実施形態)
図8は、本発明の第2実施形態の脈波信号計測装置の電気的な構成例を示すブロック図である。図8と図3とを対比すれば明らかなように、この脈波信号計測装置は加速度計測回路150を有している点が脈波信号計測装置1の構成と異なる。加速度計測回路150は、当該加速度計測回路150に加わった外力に応じて生じた加速度を互いに直交する3つの軸(x、yおよびz軸)方向の成分に分解して検出し、各成分の大きさを示す加速度信号を出力する。この加速度計測回路150は、x軸が図1のリストバンド12の延在方向と一致し、かつy軸が図1の左手人差し指の指す方向と一致するように装置本体10に内蔵されている。
【0044】
このため、図8の脈波信号計測装置を左腕に装着した被験者がその左腕を垂直に垂らした姿勢で静止していると、加速度計測回路150は、y軸方向に重力が加わっていることを示す加速度信号ASを出力する。また、上記被験者が左手親指を上に向けた状態で左腕を肩の高さに伸ばした姿勢で静止していると、加速度計測回路150は、x軸方向に重力が加わっていることを示す加速度信号ASを出力する。つまり、本実施形態では、加速度信号ASを解析することで、xyzの3軸に対する重力加速度の方向を特定することができ、重力の方向を加味して血液灌流が良い状態なのか、それとも悪い状態なのかを判定することができる。前述したように血液灌流の変化には重力が大きく関係しているため、本実施形態によれば、変動成分信号のみに基づいて被験者の血液灌流の変化を検出する場合に比較してより正確に血液灌流の変化を検出することができると考えられる。
【0045】
(C:変形)
以上、本発明の第1実施形態および第2実施形態について説明したが、これら実施形態に以下に述べる変形を加えても勿論良い。
(1)上述した第1および第2実施形態では、変動成分信号を解析して被験者の灌流状態の良否、および測定部位における血液灌流の良否を判定したが、非変動成分信号に基づいてこれらを判定することも可能である。非変動成分信号は、動脈血管の脈動とは無関係な直流成分の信号であるが、変動成分信号と同様に、血液灌流が良い状態と悪い状態とで信号強度が変化する(具体的には、血液灌流が悪化すると信号強度が低下する)からである。また、変動成分信号と非変動成分信号の何れか一方に基づいて被験者の灌流状態の良否、および測定部位における血液灌流の良否を判定するのではなく、変動成分信号と非変動成分信号の両方に基づいて判定するようにしても勿論良い。また、上述した各実施形態では、発光素子32aから測定部位へ向けて照射された光の反射光を解析して脈波の計測、灌流状態および測定部位における血液灌流の良否を判定した。しかし、測定部位を透過した光を解析して脈波の計測、灌流状態および測定部位における血液灌流の良否を判定を行っても勿論良い。
【0046】
(2)上述した第1および第2実施形態では、SGフィルター処理によって変動成分信号に含まれるノイズを被験者の体動に起因したものであるか呼吸に起因したものであるかを問わずに除去した。しかし、呼吸に伴うノイズは、図9に示すように周期的に現れるため、何らかの方法により呼吸の周期を検出し、その周期に対応する周波数成分を除去するフィルター処理によって呼吸変動に起因したノイズを除去しても良い。また、上述した各実施形態では、変動成分信号からノイズを除去するためのアルゴリズムとしてSGフィルター処理アルゴリズムを用いたが、変動成分信号の移動平均を算出するアルゴリズムを用いるようにしても良い。
【0047】
(3)上述した第1および第2実施形態の灌流状態判定処理では、変動成分信号を解析して被験者の灌流状態の指標(ボトム・ピーク間隔比など)となる灌流状態データを取得し、それら灌流状態データに基づいて被験者の灌流状態の良否を判定した。しかし、灌流状態判定処理が実行される毎に灌流状態データをデータ記憶回路130に追記し、データ記憶回路130に記憶されている灌流状態データの時系列から被験者の灌流状態が次第に変化している(次第に悪化、或いは改善している等)のか、それとも変化していないのかを判定し、その判定結果を被験者に報知するようにしても良い。前述したように、被験者の灌流態は動脈硬化の進行や加齢による筋肉の強張りに伴って変化するからである。一般に、動脈硬化の進行等には明確な自覚症状が伴わず、早期発見が難しい。しかし、本変形例によれば灌流状態の変化を通じて動脈硬化の進行等を迅速に把握することが可能になると期待される。また、治療によって動脈硬化や冷え性が改善される場合には、灌流状態の変化(すなわち、灌流状態の良化)を通じてその治療効果を実感することが可能になり、治療に対する励みにもなると期待される。
【0048】
(4)上述した第1および第2実施形態では、光電変換を利用して被験者の脈拍等を計測する脈波信号計測装置に本発明を適用した。しかし、変動成分信号と非変動成分信号の何れか一方、または両方から被験者の灌流状態を判定し、その判定結果を被験者へ報知する処理のみを実行する灌流状態判定装置を提供しても勿論良い。
【0049】
(5)上述した第1および第2実施形態では、灌流状態判定処理、脈波計測処理、および最適化処理の各処理をソフトウェアによって実現した。しかし、灌流状態判定処理を実行する灌流状態判定手段、脈波計測処理を実行する脈波計測手段、および最適化処理を実行する最適化手段の各手段をハードウェア回路で構成し、これら回路を組み合わせて演算処理回路120を構成しても勿論良い。
【符号の説明】
【0050】
1…脈波信号計測装置、10…装置本体、12…リストバンド、14…表示部、16…ボタンスイッチ、20…ケーブル、30…センサー部、32…脈波センサー、32a…発光素子、32b…受光素子、34…センサー固定用バンド、110…アナログ回路部、1110…信号生成手段、1112…IV変換回路、1114a,1114b…フィルター、1116a,1116b…増幅回路、120…演算処理回路、130…データ記憶回路、140…アナログ制御回路、150…加速度計測回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の測定部位に光を照射する発光手段と、
前記発光手段を駆動して発光させる駆動手段と、
前記発光手段から前記測定部位に向けて照射された光のうち前記測定部位にて反射された光、または前記測定部位を透過した光、を受光しその受光強度に応じた振幅を有する出力信号を出力する受光手段と、
前記受光手段の出力信号から前記被験者の動脈血管の脈動を反映した変動成分信号と動脈血管以外の生体組織の活動を反映した非変動成分信号とを抽出する信号生成手段と、
前記信号生成手段により抽出された前記変動成分信号を解析して脈波を計測するとともに、前記変動成分信号と前記非変動成分信号の少なくとも一方を解析して前記測定部位における血液灌流の良否に応じた制御信号を出力する演算処理手段と、
前記測定部における血液灌流が悪いことを示す前記制御信号を前記演算処理手段から受け取ったことを契機として、前記変動成分信号の信号強度が強まるように前記信号生成手段または前記駆動手段の少なくとも一方を制御する制御手段と、
を有することを特徴とする脈波信号計測装置。
【請求項2】
前記演算処理手段は、前記測定部位における血液灌流が良い姿勢から血液灌流が悪い姿勢への体動を被験者に促し、当該姿勢の変化に伴う前記非変動成分信号の信号強度の変化と前記変動成分信号のボトム・ピーク間隔の変化の少なくとも一方に基づいて前記被験者の血液灌流の変化のし易さを示す灌流状態を判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の脈波信号計測装置。
【請求項3】
前記演算処理手段は、前記脈波の計測において、前記変動成分信号に対してノイズを除去するフィルター処理を施して処理結果を解析し、当該フィルター処理の制御パラメーターを前記灌流状態に応じて切り換える
ことを特徴とする請求項2に記載の脈波信号計測装置。
【請求項4】
データ記憶回路を備え、前記演算処理手段は、前記灌流状態を判定する毎に当該灌流状態を示すデータを前記データ記憶手段に追記することを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載の脈波信号計測装置。
【請求項5】
前記測定部位に働く加速度を互いに直交する3つの軸方向の成分に分解して検出する加速度計測手段をさらに備え、
前記演算処理手段は、前記加速度計速手段により検出される重力加速度の方向を加味して前記測定部位における血液灌流の良否を判定する
ことを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか1項に記載の脈波信号計測装置。
【請求項6】
コンピューターに、
被験者の身体のうち脈波の測定部位として予め定められた部位に向けて照射される光のうちの前記測定部位からの反射光の受光強度または前記測定部位を透過した透過光の受光強度を表す信号から抽出される前記被験者の動脈血管の脈動を反映した変動成分信号を解析して脈波を計測する脈波計測処理と、
前記受光強度を示す信号から抽出される他の信号であって、動脈血管以外の生体組織の活動を反映した非変動成分信号と前記変動成分信号の少なくとも一方から前記被験者の血液灌流の良否を検知し、血液灌流が悪い検知結果が得られた場合には、前記変動成分信号の信号強度が強まるように前記測定部位に向けて照射される光の強度または前記受光強度を示す信号から前記変動成分信号を抽出する際の増幅率を調整する最適化処理と、
を実行させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−152493(P2012−152493A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16162(P2011−16162)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】