説明

脈管形成に関与する遺伝子の同定、および脈管形成障害患者を同定するための脈管形成診断チップの開発

本発明は、ある個体の側副血管の発達が自然状態で良好なのか不十分なのかの見込みを予測するために個々の患者をアンギオタイピングするための方法を対象とする。よって、これには側副血管の発達に関与する遺伝子のリストを得、それを提供することを含み得る。特に、個々の患者のアンギオタイピングは、ある個体の側副血管の発達が特定の脈管形成療法に応答して良好なのか不十分なのかの見込みを予測するために使用できる。実験的研究で、動脈閉塞に応じて側副血管を発達する組織において示差発現されるものと判定された遺伝子のアレイから、単一ヌクレオチド多型(SNP)またはDNAメチル化パターンなどの他の後生的変異が同定できる。SNPまたはDNAメチル化パターンは、側副血管発達に役割を果たすものと判定された遺伝子の総てまたは大部分をアッセイするマイクロアレイまたは類似の技術を用いて検出される。さらに、末梢血細胞などの組織において、候補遺伝子の任意の組合せの異常に低い、または異常に高い示差発現を検出することができる。側副血管の発達が不十分か良好かという素因の存在は、SNPの存在またはDNAメチル化パターンの変化、および/またはこれら遺伝子の1以上に関与する発現レベルの違いによって示される。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、脈管形成(angiogenesis)、および単離された遺伝要素を含むアレイの作出および使用に関連する、遺伝要素の同定および単離のための組成物および方法を提供する。
【0002】
背景技術
冠動脈疾患および末梢血管疾患は西洋社会の風土病である。これらの疾患では、心筋または下肢へ血液を供給する動脈が、動脈の内側での脂肪性物質、繊維性物質または石灰化物質の堆積によって狭くなる。これらの堆積の形成はアテローム性動脈硬化症と呼ばれる。アテローム性動脈硬化症は心臓または下肢の筋肉への血流を減らし、筋肉を酸素欠乏にし、疾患が心臓へ供給する動脈に関わる場合には、狭心症(胸痛)、心筋梗塞(心臓発作)、およびうっ血性心不全を、または下肢へ供給する動脈に関わる場合には下肢の疼痛(跛行)もしくは下肢潰瘍を招く。
【0003】
身体には、動脈の遮断を迂回するために側副血管として知られる新しい血管を成長させる自然のメカニズムがあるが、これらの側副血管が血流を正常に回復させるに十分な場合はまれである。通常は細く狭い側副血管が存在して、大量の血流を運ぶ大きな血管をつないでいるが、狭すぎて通常の条件下では大量の血流を運ぶことはできない。しかし、これらの側副血管が接続している大きな血管がアテローム性硬化斑で詰まってしまうと、これらの側副血管は肥大し、詰まってしまった血管がもともと供給していた組織に血液を送ることができるようになる。
【0004】
心筋の側副血管の機能を増進するための組換え遺伝子または増殖因子の使用は、新血管疾患を処置するための新たなアプローチとなる。Kornowski, R., et al., "Delivery strategies for therapeutic myocardial angiogenesis, Circulation 2000; 101:454-458。コンセプトの証明は心筋虚血の動物モデルでなされており、臨床試験が進められている。Unger, E.F., et al., "Basic fibroblast growth factor enhances myocardial collateral flow in a canine model", Am J Physiol 1994; 266:H1588-1595; Banai, S. et al., "Angiogenic-induced enhancement of collateral blood flow to ischemic myocardium by vascular endothelial growth factor in dogs", Circulation 1994; 83-2189; Lazarous, D.F., et al., "Effect of chronic systemic administration of basic fibroblast growth factor on collateral development in the canine heart", Circulation 1995; 91:145-153; Lazarous, D.F., et al., "Comparative effects of basic development and the arterial response to injury", Circulation 1996; 94:1074-1082; Giordano, F.J., et al., "Intracoronary gene transfer of fibroblast growth factor-5 increases blood flow and contractile function in an ischemic region
of the heart", Nature Med 1996; 2:534-9。
【0005】
冠動脈疾患患者を処置する物理療法としての治療的脈管形成の有望な期待にもかかわらず、臨床上適切な治療的脈管形成応答を最適に増強する新たな戦略が大いに望まれることは明らかである。さらに、特に、罹患組織への血流に適切な改善を機能的にもたらし得る新たな、改良された脈管形成戦略が大いに望まれる。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、現行の戦略に伴う問題および欠点を克服し、ある個体の側副血管の発達が自然状態で良好なのか不十分なのかの見込みを予測するために個々の患者をアンギオタイピング(angiotyping)するためのキット、組成物および方法をデザインし、提供する。
【0007】
いくつかの動物試験では、側副血管の成長を妨げる因子が存在する可能性があり、これらが糖尿病および高コレステロール血症を含むことが示唆されている。側副血管が不十分な冠動脈疾患患者も存在するし、側副血管が旺盛な患者も存在する。動脈閉塞疾患に応じて、または脈管形成の介入に応じて起こる側副血管発達障害は、遺伝因子(特定の遺伝子多型など)により、および/または脈管形成因子をコードする遺伝子の発現を変更する後成因子(DNAメチル化パターンなど)により、かなりの程度まで判定される。側副血管の発達能に存在する著しい個体変動のため、また、そのような個体変動が患者間の遺伝的差異および後成的差異によるところが大きいため、1)患者の側副血管の発達が自然状態で良好なのか不十分なのか、および2)患者が特定の治療的脈管形成戦略に応答する可能性があるかどうかを診断できることが重要である。これらの個体差異があるので、脈管形成処置は結局、個々の患者に合わすことができる。よって、本発明により、DNAチップまたは類似の技術を用いてDNAおよび/またはタンパク質発現プロフィールを通して、患者の側副血管の発達が自然状態で、または特定の脈管形成療法に応答して、良好なのか不十分なのかの見込みを予測するために、個々の患者の診断的「アンギオタイピング(angiotyping)」が可能となる。
【0008】
本発明の一実施形態は、患者の側副血管の発達が自然状態で良好なのか不十分なのかの見込みを予測するために、個々の患者の「アンギオタイピング」する方法を対象とする。よって、これには側副血管の発達に関与する遺伝子のリストを得、それを提供することを含み得る。
【0009】
本発明のもう1つの実施形態は、ある個体の側副血管の発達が特定の脈管形成療法に応答して良好なのか不十分なのかの見込みを予測するために、個々の患者を「アンギオタイピング」する方法を対象とする。
【0010】
本発明のもう1つの実施形態は、本発明者らの実験的研究で、動脈閉塞に応じて側副血管を発達する組織において示差発現されるものと判定された遺伝子のアレイの単一ヌクレオチド多型(SNP)の検出を含む、側副血管が十分は不十分かを検出する方法を対象とする。SNPは側副血管発達に役割を果たすと判定された遺伝子の全て、または大部分に関してアッセイするマイクロチップまたは類似の技術を用いて検出する。側副血管の発達が不十分か良好であるという素因の存在は、側副血管発達の増進をもたらすプロセスに関与している、本発明者らが判定した1以上の遺伝子に関わるSNPが存在することにより示される。
【0011】
本発明のもう1つの実施形態は、本発明者らの実験的研究で、動脈閉塞に応じて側副血管を発達する組織において示差発現されるものと判定された遺伝子のアレイにより発現される、血中、例えば末梢血単核細胞中のタンパク質の変化を検出することを含む、側副血管が十分は不十分かを検出する方法を対象とする。タンパク質レベルは通常レベルよりも高いか、または通常レベルよりも低いかのいずれかであり、あるいは、タンパク質は、限定されるものではないが、リン酸化状態の変化などの転写後修飾されている。このようなタンパク質レベル/修飾の判定は個々のタンパク質の標準的アッセイ(ELISAなど)により、またはプロテオミクス分析などのより新しい方法により行うことができる。側副血管の発達が不十分か良好であるという素因の存在は、側副血管発達の増進をもたらすプロセスに関与している、本発明者らが判定した1以上の遺伝子によりコードされるタンパク質の、より高い、または低い血中レベルで存在することによって示される。タンパク質のレベルは例えば血液にて、および/または末梢血単核細胞(PBMC)などの血球にて測定することができる。
【0012】
本発明のもう1つの実施形態は、動脈閉塞に応じて側副血管を発達する組織において示差発現されるものと判定された遺伝子に関与するDNAメチル化パターンの検出を含む、側副血管が十分は不十分かを検出する方法を対象とする。側副血管の発達が不十分か良好であるという素因の存在は、側副血管発達の増進をもたらすプロセスに関与している、本発明者らが判定した1以上の遺伝子によりコードされるタンパク質をより低い、または高い血中レベルで生じるよう遺伝子発現を変化させるDNAメチル化パターンが存在することに示される。
【0013】
本発明のもう1つの実施形態は、検出用の遺伝子マイクロアレイ分析を行うのに好適なキットを対象とし、このキットは、側副血管発達の増進をもたらすプロセスに関与しているものと判定された遺伝子の大部分または全部の適切なSNPを検出することができる核酸アレイ(ジーンシップ)またはPCRプライマーセットなどの試薬を含んでなる。これらの遺伝子は表1に挙げられている遺伝子群から選択できる。サンプルはその個体のリンパ液、静脈もしく動脈血、および/または血管組織を含み得る。一実施形態では、多型は遺伝子マイクロアレイを用いて検出する。もう1つの実施形態では、多型は定量的PCRを用いて検出する。
【0014】
本発明のもう1つの実施形態は、上記の方法のいずれかを行うためのキットを提供する。
特定の実施形態では、本発明は、被験体が側副血管を発達させる見込みを予測するための方法であって、該哺乳類から得られたサンプルにおいて、該被験体の遺伝子のうち少なくとも3つの発現レベルをアッセイすることを含む方法を提供する。側副血管発達の見込みは、該サンプルにおいて少なくとも3つ、少なくとも5つ、少なくとも10、少なくとも20の遺伝子、または少なくとも20の遺伝子の発現の変化により予測することができる。発現の変化は発現の増加であっても低下であってもよい。発現が増加または低下した遺伝子はそれぞれ表2および3に挙げられている。発現レベルの変化は参照レベルの少なくとも2倍高いか、または低いものであり得る。遺伝子発現のレベルはサンプルにおいてタンパク質発現のレベルをアッセイすることにより決定することができる。これらの各実施形態では、サンプルは被験体からの血液を含んでもよく、かつ/または被験体からの、PBMCなどの血球を含んでもよい。
【0015】
本発明の他の実施形態では、被験体が側副血管を発達させる見込みを予測するための方法であって、該患者からのサンプルにおいて少なくとも3つの遺伝子変異の存在を検出することを含む方法を提供し、ここで該遺伝子変異はSNPまたはDNAメチル化パターンの変化である。側副血管発達の見込みは該サンプルにおいて少なくとも3つ、少なくとも5つ、少なくとも10、少なくとも20の遺伝子、または少なくとも20の遺伝子の遺伝子変異の存在により予測することができる。これらの遺伝子は表1に挙げられている遺伝子からなる群から選択され得る。このアッセイ方法は遺伝子マイクロアレイまたは定量的PCRを用いることを含んでよく、DNAメチル化パターンを検出するため、および/または単一ヌクレオチド多型を検出するための方法であり得る。
【0016】
本発明はまた、上記のアッセイを行うためのキットも提供し、ここでアッセイはPCRを用いて行われ、該キットは表1の遺伝子に対応する少なくとも3つ、少なくとも5つ、少なくとも10、または少なくとも20のDNAもしくはRNA配列を増幅するのに好適なプライマーセットを含んでなる。もう1つの例では、上記のアッセイを行うためのキットが提供され、ここでこのキットは、表1で示される遺伝子の複数または大多数において単一ヌクレオチド多型を検出し得る核酸アレイを含んでなる。
もう1つの実施形態では、これらの遺伝子の発現レベルは表1に挙げられている遺伝子によりコードされているタンパク質、例えば可溶性タンパク質の濃度を測定することにより決定することができる。被験体からのサンプルは血液および/またはリンパ液であってよい。タンパク質発現のレベルは例えばELISAにより決定することができる。
【0017】
本発明はまた、被験体において側副血管形成を促進するための方法であって、表2で示される少なくとも1つの遺伝子の発現を低下させる、かつ/または表3で示される少なくとも1つの遺伝子の発現を増加させる組成物を被験体に投与する方法も提供する。この組成物は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA分子、RNAi分子、mRNAと結合して三重らせんを形成するオリゴヌクレオチド、または該被験体において転写されてアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA分子、RNAi、もしくはmRNAと結合して三重らせんを形成するオリゴヌクレオチドを産生するDNA分子を含み得る。この組成物は該被験体において側副血管形成を阻害するタンパク質と結合する抗体または可溶性タンパク質受容体、例えばヒト抗体またはヒト可溶性タンパク質受容体を含み得る。この組成物は表3で示される遺伝子によりコードされているタンパク質の欠損を補足するために投与されるタンパク質を含んでもよい。
【0018】
本発明の他の目的、特徴および利点は以下の詳細な説明から明らかになろう。しかし、この詳細な説明から当業者には本発明の精神および範囲内の種々の変更および改変が明らかになろうことから、詳細な説明および特定の実施例は本発明の好ましい実施形態を示すものであって、単に例として示されるものであると理解すべきである。
【発明の具体的説明】
【0019】
本発明は、個々の患者をアンギオタイピングするため、およびある個体の側副血管の発達が自然状態で、または特定の脈管形成療法に応答して、良好なのか不十分なのかの見込みを予測するためのキット、組成物および方法を提供する。具体的には、側副血管の発達の際に発現レベルが変化した遺伝子を同定し、遺伝子発現の変化を定量した。遺伝子発現の変化を測定することで、ある個体の側副血管の発達が自然状態で、または特定の脈管形成療法に応答して、良好なのか不十分なのかというリスクが判定できる。さらに、側副血管発達過程の種々の時点での遺伝子発現の相対的変化を測定し、これらの測定値により側副血管の進行および発達へのさらなる洞察を可能とする。
【0020】
種々の遺伝子発現が側副血管発達に関与しているので、発現の程度の変化またはそれらが示差発現する時間の長さにより種々の側副血管発達程度がもたらされる。冠動脈疾患および末梢血管疾患に関しては、側副血管発達の程度を変化させれば、アテローム性動脈硬化性動脈閉塞疾患に関連する症状を最小限とすることもできるし、症状を重篤にすることもできる。遺伝子発現の程度またはそれらの遺伝子が示差発現する時間の長さの変化は遺伝子のコード領域か遺伝子の調節成分かのいずれかの多型によって生じる。あるいは、これらの変化は、限定されるものではないが、DNAメチル化パターンの変化といった「後生的変化」によって生じ得る。遺伝子発現の変化と側副血管発達とを相関させることで、本発明は、多型またはDNAメチル化パターンの変化が不十分または良好な側副血管発達傾向を伝達し得る遺伝子を同定する。
【0021】
側副血管発達に関与する遺伝子を同定すれば、遺伝子多型またはDNAメチル化パターンの変化を1つの原因として発現の程度または期間が変化した遺伝子を標的として用いて、側副血管発達能の変化を伝達する遺伝的異常を同定することができる。多型またはDNAメチル化パターンの変化を同定することで、血管形成術の実施または脈管形成療法の開始前に患者の側副血管発達が不十分であるリスクを予測することができる。ひと度、術前リスク予測が可能となれば、これはどのように患者を処置するかに重大に影響を及ぼすであろう。側副血管の発達に耐性があると思われる患者にはバイパス手術または血管形成術を施してもよい。また別の患者には脈管形成療法を施し、近接照射療法(血管内照射)で積極的に処置してもよい。よって、本発明は、ある個体の側副血管の発達が自然状態で、または特定の脈管形成療法に応答して、良好なのか不十分なのかの見込みを予測するために患者を「アンギオタイピング」するための新規な方法および改良法を提供する。
【0022】
さらに、DNAメチル化パターンの変化のために個々の患者によって異常に発現される遺伝子を同定することにより、発現が変化した遺伝子の特定のセットまたはサブセットを標的とする療法により疾病を改善または治療するための新規な方法を提供する。患者が異なれば、側副血管の発達に役割を果たす多型およびDNAメチル化パターンも異なることから、本発明により、特定の患者に特徴的と思われる特定の異常の同定が可能となる。よって、本発明では、処置のより高い特異性を見込める。特定の多型プロフィールを有するある患者で有効であり得る治療計画でも、多型プロフィールの異なる別の患者では有効でないかもしれない。このようなプロフィールはまた処置の個別化も可能とし、その結果、特定の患者にとって有効でない治療戦略の不要な副作用が回避可能となる。
【0023】
具体的には、側副血管発達の過程で発現が変化する約575の遺伝子が同定される。これらの遺伝子の示差発現は側副血管発達、発現程度の変化、または示差発現する時間の長さに関与するので、側副血管発達能の変化をもたらす。
【0024】
遺伝子発現の程度またはそれらの遺伝子が示差発現する時間の長さの変化は、遺伝子またはその遺伝子の調節成分の多型によって起こり得る。疾病発症の高いリスクを伝達するこのような多型はいくつかの疾病に関するいくつかの遺伝子ですでに同定されている。よって、本発明は、多型が不十分または良好な側副血管発達傾向を伝達し得る遺伝子を同定する。特定のSNPに関し得る、またはSNPの遺伝子発現を独立に調節し得る、DNAメチル化パターンの変化によって生じる遺伝子発現の変化からも類似の予測が導き出せる。よって、側副血管発達が良好か、不十分かの予測に対する次なる参照は本発明によって同定された遺伝子、それらの調節単位の多型、あるいは次に遺伝子発現を変化させるDNAメチル化パターンの変化に関する。
【0025】
同定された遺伝子のあるものの発現における変化は、側副血管発達が不十分か、良好かの能力に予測因子となる。側副血管発達中に発現が変化する575の遺伝子を同定することにより、本発明者らは、これらの遺伝子の多型またはDNAメチル化パターンを数多く分析すればするほど、側副血管発達能が高まることを認識している。側副血管発達においてこれらの遺伝子により果たされる役割は、これらの遺伝子の発現を操作することができれば、動脈閉塞疾患の治療の向上が可能となることを意味する。当業者ならば、遺伝子発現を増強または低下させる方法が当技術分野で公知のものであることが分かるであろう。例えば、側副血管を増強する方法としては、側副血管発達中にダウンレギュレートされる遺伝子の発現を増強するための遺伝子療法が挙げられる。このような遺伝子療法は当技術分野で公知の方法を用いて行うことができ、例えば、目的遺伝子をコードし、その発現を可能とする核酸を送達するためのウイルスおよび/または非ウイルスベクターが使用できる。
【0026】
これに対し、目的遺伝子の発現および/またはその活性を低下させる方法も当技術分野で周知のものであり、例えば、アンチセンスRNA、およびRNAi/siRNA法が挙げられる。また、処置としても、側副血管発達中にダウンレギュレートされる遺伝子の発現を低下させる方法が挙げられる。
【0027】
また、側副血管発達に関与する遺伝子を同定すれば、側副血管の発達に影響を及ぼすタンパク質の同定も可能となる。これにより、次に、これらのタンパク質の発現またはそれらの代謝の変化させる方法の使用が可能となる。発現したタンパク質の作用を変化させる方法としては、限定されるものではないが、同定されたタンパク質と結合する特定の抗体または抗体フラグメント、同定されたタンパク質と結合する特定の受容体および可溶性受容体フラグメント、または同定されたタンパク質がその生理学的標的に影響を及ぼさないようにし、かつ、その代謝作用および生体作用を発揮しないようにする他のリガンドもしくは小分子の使用が挙げられる。さらに、側副血管発達の過程でダウンレギュレートされるタンパク質は、それらの低下した合成を回復させるべく外因的に補足することができる。
【0028】
患者が異なれば、側副血管の発達に役割を果たす多型およびDNAメチル化パターンは異なる可能性がある。よって、本発明によれば、特定の患者に特徴的な特定の異常の同定(「アンギオタイピング」)が可能となり、処置のより高い特異性を見込める。特定の多型プロフィールを有するある患者で有効であり得る治療計画でも、多型プロフィールの異なる別の患者では有効でないかもしれない。このようなプロフィールはまた処置の個別化も可能とし、その結果、特定の患者にとって有効でない治療戦略の不要な副作用が回避可能となる。
【0029】
側副血管発達における遺伝子発現の変化の解明
本発明者らは側副血管発達中に発現に変化がある遺伝子を同定した。これらの遺伝子は表1に挙げられている。側副血管発達中に発現の上昇および低下を示す遺伝子はそれぞれ表2および表3に、発現の一時的変化の測定値とともに示している。本発明者らは、以下により詳細に示されるネズミ内転筋の核酸アレイ分析を用いてこの分析を行った。しかし、当業者ならば、遺伝子発現を測定するその他の方法も当技術分野で周知であることが分かるであろう。
【0030】
マウスは広く受け入れられている血管研究用のヒトモデルであり、マウスで得られた結果はヒトでの結果の高い予測因子と考えられる。よって、側副血管発達中のヒトでの遺伝子発現の変化は、マウスで見られるものと類似または実質的に同じであると予測される。これらの遺伝子の発現程度またはそれらの遺伝子が示差発現する時間の長さの過度の変化は側副血管が良好か、不十分かを予測する。このような過度の変化は通常、遺伝子または遺伝子の調節成分の多型によって生じることから、脈管形成過程で示差発現するものと同定されたマウス遺伝子は、このような多型が良好な、または不純な側副血管形成能を伝達することが見出されるはずのヒト遺伝子と相同である。なお、表1で示される各遺伝子についてはマウスおよびヒトホモログの双方が知られており、マウス研究で得られた結果はホトで得られる結果の高い予測因子となることをさらに示すものである。
【0031】
ある患者において、SNPかDNAメチル化パターンの変化かのいずれかを観測し、かつ、側副血管発達に関連する遺伝子も治療的介入の標的として役立つ。このように、側副血管発達中にアップレギュレートされる遺伝子は遺伝子発現またはこれらの遺伝子によりコードされるタンパク質の機能を低下させるよう計画された治療法によりターゲッティングすることができ、また、側副血管発達中にダウンレギュレートされる遺伝子は遺伝子発現またはこれらの遺伝子によりコードされるタンパク質の機能を増強する計画された治療法によりターゲッティングすることができる。
【0032】
実験的に誘発させた側副血管発達中のマウス虚血後脚における遺伝子発現の変化を研究した。なお、これはヒトで起こる場合の側副血管発達をシミュレートする合理的動物モデルとして一般に受け入れられているモデルである。マウス後脚のサンプルおよび対照組織を得、これらの組織からRNAを調製し、それから標識cRNAを作製し、Affymetrix GeneChip(商標)マウスゲノムを用いて分析した。サンプルおよび対照組織を比較し、遺伝子発現に有意な変化があった遺伝子を同定した。この研究の目的では、遺伝子発現の2倍の増強または低下が有意としたが、当業者ならば、ある環境下ではもっと小さい遺伝子発現の変化でも有意である場合があることが分かるであろう。発現に有意な変化を有すると判定された各遺伝子に対応するヒト遺伝子を同定した。
【0033】
約575の遺伝子が側副血管発達中に発現の変化があることが示されたが(表1)、これら遺伝子のうちの数個のサブセットを分析することにより側副血管発達が良好か不十分かを信頼をもって予測することができる。本発明の実施形態では、表1に挙げられている遺伝子の少なくとも5、10、15、20または50の遺伝子を検討すればよく、あるいは場合により総て、または大部分を検討することもできる。これらの遺伝子はまた、遺伝子発現を変化させる多型またはDNAメチル化パターンの変化に関して分析することもできる。これらの遺伝子はまず総てを分析してもよいが、数個のメンバーを含む、これらの遺伝子のサブセットを分析することにより信頼性のある予測ができる。他の実施形態では、シーケンシング、ショートタンデムリピート関連研究、単一ヌクレオチド多型関連研究などを用い、表1に挙げられている遺伝子の少なくとも5、10、15、20、または50の遺伝子を検討すればよく、あるいは場合により総て、または大部分を検討することもできる。しかし、各場合で、一般には、より小さなサブセットの遺伝子の遺伝子発現または多型を検討するほうが便宜である。
【0034】
遺伝子サブセットの発現の変化を測定することにより(例えば、血液タンパク質の分析またはPBMCなどの血球中のタンパク質の分析による)、または単一の遺伝子ではなく、遺伝子サブセットの発現に影響を及ぼす多型またはDNAメチル化パターンの同定により、本発明は、例えば個体の信頼性のあるリスクプロフィールを提供することによるなど、観測された変化が側副血管発達が良好か不十分かの予測因子となる高い統計的信頼を提供する。このように、単一遺伝子の発現の変化または単一遺伝子多型は、診断閾値が交差するほどに、良好または不十分な側副血管発達傾向を高めなくともよい。他方、複数の多型および/またはDNAメチル化パターンの存在のために、複数の特定の遺伝子の発現の協調した変化が良好または不十分な側副血管発達の見込みを高める可能性がかなり高い。これは、ある個体がアテローム性動脈硬化症(高コレステロール)の素因となるリスク因子を1つだけ持っているという状況に類似している。リスク因子の数が増えるにつれリスクは著しく高まる(高コレステロール+高血圧症、肥満、喫煙、糖尿病など)。
【0035】
多型またはDNAメチル化パターンの変化を同定することで、血管形成術の実施または脈管形成療法の開始前に患者の側副血管発達が不十分であるリスクの予測が可能となる。この術前リスク予測はどのように患者を処置するかを左右すべく使用することができる。側副血管の発達に耐性があると思われる患者にはバイパス手術または血管形成術を施してもよい。また別の患者には脈管形成療法を施し、近接照射療法(血管内照射)で積極的に処置してもよい。よって、本発明は、ある個体の側副血管の発達が自然状態で、または特定の脈管形成療法に応答して、良好なのか不十分なのかの見込みを予測するために患者を「アンギオタイピング」するための新規な方法および改良法を提供する。
【0036】
不十分または良好な側副血管発達傾向を高める複数の遺伝子の調節不全
側副血管発達中に示差発現する遺伝子の発現に生物学的に重要な変化をもたらす遺伝子多型およびDNAメチル化パターンの変化は患者のサンプルにおいて直接測定することができる。これらのサンプルは末梢血、例えばPBMCから最も便宜に得られるDNAを含む。本発明者らは、急性血管損傷に対する治癒応答の過程で有意に変化した発現を示す完全な遺伝子セットを同定するために核酸アレイ法を用いた。しかし、遺伝子発現を測定する他の方法も当技術分野で周知である。例えば、タンパク質レベルはELISAなどの定量的免疫アッセイを用い、組織サンプル単離物において測定することができる。ELISA法を用いて多くのタンパク質のレベルを測定するためのキットがR&D Systems(Minneapolis, MN)などの供給者から市販されているし、また、ELISA法は周知の技術を用いて開発することもできる。例えば、Antibodies: A Laboratory Manual (Harlow and Lane Eds. Cold Spring Harbor Press)参照。このようなELISA法用いる抗体は市販されているか、または周知の技術を用いて作製することができる。
【0037】
複数のタンパク質を定量分析する他の方法としては、例えば、同位元素コードアフィニティータグ試薬などのプロテオミクス技術、MALDI TOF/TOFタンデム質量分析、および2D−ゲル/質量分析技術が挙げられる。これらの技術は例えばLarge Scale Proteomics Inc.(Germantown MD)およびOxford Glycosystems(Oxford UK)から市販されている。
【0038】
あるいは、定量的RT−PCRなどの定量的mRNA増幅法を用いて遺伝子発現の変化をメッセージレベルで測定することもできる。これらの方法を実施するための系は市販されており、例えばTaqManシステム(Roche Molecular System, Alameda, CA)およびLight Cycler system(Roche Diagnostics, Indianapolis, IN)がある。RT−PCRおよび関連の方法で用いるのに適当なプライマーを考案する方法は当技術分野で周知のものである。特に、PCRプライマー配列を考案するためのソフトウエアパッケージがいくつか市販されている。
【0039】
核酸アレイの提供は複数の遺伝子の発現を研究するのに特に魅力的な方法である。特に、アレイは多数の遺伝子の発現を同時にアッセイする方法を提供する。このような方法は今や当技術分野では周知のものであり、市販の系が例えばAffymetrix(Santa Clara, CA)、Incyte(Palo Alto, CA)、Research Genetics(Huntsville, AL)およびAgilent(Palo Alto, CA)から市販されている。また、引用することによりその全開示内容が本発明の一部とされる、米国特許第5,445,934号、同第5,700,637号、同第6,080,585号、同第6,261,776号を参照。
【0040】
遺伝子発現の程度またはその遺伝子が示差発現する時間の長さの変化は遺伝子または遺伝子の調節成分の多型によって生じ得る。疾病発症の高いリスクを伝達するこのような多型はいくつかの疾病に関するいくつかの遺伝子ですでに同定されている。よって、本発明は、多型またはDNAメチル化パターンの変化が不十分または良好な側副血管発達傾向を伝達し得る遺伝子を同定する。これは、本発明者らが側副血管発達に役割を果たすとして同定した遺伝子に影響を及ぼすSNPの総てを含むDNAマイクロアレイチップを開発することによりこのような多型を同定する(例えば、Affymetrix GeneChip systemの使用による)ための本発明の1つの目的である。
【0041】
遺伝子の多型を同定する方法は当技術分野では周知である。例えば、引用することによりその全開示内容が本明細書の一部とされる、米国特許第6,235,480号および同第6,268,146号参照。ひと度多型が同定されれば、核酸アレイを用いて遺伝子の特定の多型を検出する方法もまた当技術分野で周知である。
【0042】
よって、一実施形態では、本発明は、表1で示される遺伝子から選択される少なくとも3つの遺伝子に関してSNPまたはDNAメチル化パターンの変化が同定される方法を提供する。本発明の他の実施形態では、側副血管発達が良好か、不十分かの見込みを判定するため、少なくとも5つの遺伝子のSNPまたはDNAメチル化パターンの変化が判定される。なおさらなる実施形態では、アッセイされる遺伝子の数は10である。さらにその他の実施形態では、アッセイされる遺伝子の数は20または少なくとも約20である。なおさらにその他の実施形態では、アッセイされる遺伝子の数は50または少なくとも約50である。表1で示される遺伝子から選択される分析遺伝子のサブセットの遺伝子数にかかわらず、多型またはDNAメチル化パターンの集合数は、次に、側副血管発達が良好か、不十分かの予測を可能とする。同様に、本明細書で同定された遺伝子の発現の協調変化もまた、側副血管発達が良好か、不十分かの予測を可能とする。
【0043】
多型に関しては、生物学的に重要な多型の数が増すほど、なし得る予測の信頼性も増す。同様に、より多くの同定遺伝子の発現の協調変化ほど、なし得る予測の信頼性が増すことを示す。表1に挙げられている遺伝子の多型がより多く同定されるほど、いっそう有力のリスクプロフィールが可能となる。よって、本発明の他の実施形態では、側副血管発達能を判定するために、少なくとも5つの遺伝子または少なくとも約5つの遺伝子がアッセイされる。なおさらなる実施形態では、アッセイされる遺伝子の数は10である。さらにその他の実施形態では、アッセイされる遺伝子の数は20または少なくとも約20である。なおさらにその他の実施形態では、アッセイされる遺伝子の数は50または少なくとも約50である。
【0044】
当業者ならば、側副血管発達の不均一性のため、側副血管発達の不十分な個体が必ずしも総て、表1に挙げられている遺伝子の少なくとも1つの発現の変化を示すわけではないことが分かるであろう。このように、1つ、数個、または多数の遺伝子が有意な発現変化を示さず(従って、生物学的に重要な多型またはDNAメチル化パターンの変化を含まない)、また、個体が異なれば異なる組合せを示し、さらに、遺伝子全体の発現の多型によって誘導される協調変化が側副血管発達が不十分か、良好かの予測の存在の高い予測因子となる可能性がある。
【0045】
一般に、比較的少数の遺伝子の発現だけを研究する場合、それらの遺伝子の大部分または全部の発現変化を観測して、側副血管発達が良好か、不十分かの信頼性のある診断を得ることができる。例えば、3つの遺伝子だけを測定する場合、3つの遺伝子総てが側副血管発達の不全の信頼性の診断を可能とする、発現の関連の変化を示す可能性がある。5つの遺伝子を検討する場合は、通常、少なくとも4つの遺伝子の変化で信頼性のある診断が得られる。10の遺伝子を測定する場合は、少なくとも7つの遺伝子の変化が見られる場合に信頼性のある診断が得られる。10を超える遺伝子を測定する場合は、測定する遺伝子の90%、80%、70%、60%または50%の変化で側副血管発達不全の予測となる。これらのパーセンテージが下がると、診断の信頼性も低くなるが、当業者ならば、表1に挙げられている遺伝子のうち20または30の遺伝子の発現に協調変化が見られた場合に、これが側副血管発達が良好か、不十分化の見込みの高い予測因子となることが分かるであろう。一般に、遺伝子数が増すほど、検討遺伝子のより小さなサブセットの発現の協調変化の観測により信頼性のある診断を得ることができる。
【0046】
遺伝子発現および関連の遺伝子発現に生物学的に重要な変化をきたす多型の存在を決定するためにサンプリングする組織
核酸を含有するサンプルはいずれもこの目的に適当であるが、サンプリングが最も簡単な組織は末梢静脈血または動脈血である。しかし、血管組織、特に動脈血管組織または静脈血管組織などの他の組織を用いてもよい。
【0047】
表1に挙げられている遺伝子の遺伝子多型、DNAメチル化パターン、およびタンパク質レベルを研究する方法
多型は制限酵素消化、シーケンシング、ショートタンデムリピート関連研究、単一ヌクレオチド多型関連研究などをはじめとするいくつかの方法により同定することができる。これらの方法は当技術分野で周知である。
【0048】
また、遺伝子発現はタンパク質レベルで研究してもよい。まず、標的組織を単離し、次に、周知の方法により全タンパク質を抽出する。例えば、標的タンパク質の特異的な抗体対を用いるELISA法を使用して定量分析を行う。
【0049】
表1に挙げられているタンパク質のサブセットは可溶型であるか、または分泌型である。このような場合、タンパク質は血液、血漿またはリンパ液に見られ、これらのタンパク質の分析はこのような組織におけるタンパク質の分析に関して記載されている方法のいずれによってまかなってもよい。これは、側副血管発生能を予測するための患者サンプルを得る最小限の侵襲手段なる。分泌型タンパク質を同定する方法は当技術分野で公知のものである。
【0050】
遺伝子多型は末梢血をはじめ、いずれの供給源由来の組織でも信頼性よく検出され、血中タンパク質レベルは遺伝子発現の変化を同定する供給源として役立ち得る。
【0051】
RNA発現
組織からRNAを単離する方法は当技術分野で周知である。例えば、Sambrook et al. Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Third Edition) Cold Spring Harbor Press, 2001参照。また、市販の試薬もRNAの単離に利用できる。
【0052】
要するに、例えば、細胞または組織を溶解し、溶解した細胞を遠心分離にかけて核ペレットを除去する。次に、上清を回収し、フェノール/クロロホルム抽出とその後のエタノール沈殿を用いて核酸を抽出する。これにより全RNAが得られ、これは260〜280nMで光学密度を測定することにより定量できる。
【0053】
mRNAは全RNAから、いくつかの市販のキット:QIAGEN mRNA Midiキット(カタログ番号70042);Promega PolyA Ttract(商標)mRNA単離システム(カタログ番号Z5200)を用いてmRNAの「ポリA」テールを利用することにより単離することができる。QIAGENキットは、ポリA mRNAの単離用に設計されたOligotex Resinを用いたスピンカラムを提供しており、30分以内に全RNAから本質的に純粋なmRNAが得られる。Promegaシステムでは、ビオチン化オリゴdTプローブを用いてmRNAポリAテールとハイブリダイズさせ、純粋なmRNAを単離するのに約45分かかる。
【0054】
また、mRNAは、塩化セシウムクッショングラジェント法を用いて単離することもできる。要するに、ホモジネートする場合はグアネテジウム(Guanethedium)イソチオシアネート中でホモジナイズした急速凍結組織を塩化セシウムのクッション上に積層し、24時間超遠心分離を行い、全RNAを得る。
【0055】
遺伝子マイクロアレイ分析
マイクロアレイ技術は1つのmRNAサンプル中で複数の遺伝子の発現をアッセイするのに極めて有効な方法である。例えば、Affymetrix Inc.(Santa Clara, Ca)から市販されているGene Chip(商標)技術では、数千の既知遺伝子に対するプローブと発現配列タグ(EST)が平板化されたチップを用いる。ビオチン化cRNA(線状増幅RNA)を調製し、チップ上のプローブとハイブリダイズさせる。次に、相補的配列を可視化し、シグナル強度をその遺伝子によって発現されるmRNAのコピー数と相関させる。
【0056】
タンパク質発現
また、遺伝子発現は、タンパク質レベルで研究してもよい。まず標的組織 を単離し、次に、周知の方法により全タンパク質を抽出する。例えば、標的タンパク質の特異的な抗体対を用いるELISA法を使用して定量分析を行う。
【0057】
表1に挙げられているタンパク質のサブセットは可溶型であるか、または分泌型である。このような場合、タンパク質は血液、血漿またはリンパ液に見られ、これらのタンパク質の分析はこのような組織におけるタンパク質の分析に関して記載されている方法のいずれによってまかなってもよい。これは、再狭窄の発症またはアテローム性動脈硬化症のリスクを評価するための患者サンプルを得る最小限の侵襲手段なる。分泌型タンパク質を同定する方法は当技術分野で公知のものである。
【0058】
プロテオミクス技術の出現により、多数のタンパク質の変化をアッセイする有効な分析手段が提供される。
【0059】
以下の実施例は本発明の実施形態を例示するために示すものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0060】
マウス後脚のマイクロアレイ分析
RNAの単離
マウスに大腿動脈結紮および切除を施した。対照群は疑似手術をで処置した。術後および疑似手術後のマウス内転筋を採集し、急速凍結した。プールした筋肉(30〜50mg)を乳鉢と乳棒を用いて粉末中で粉砕し(液体窒素を用いて回収)、次に、グアニジンイソチオシアネート2.5ml中でホモジナイズした。4℃、24時間、塩化セシウムクッショングラジェント上での超遠心分離を用いて全RNAを抽出した。前掲Sambrook et al参照。
【0061】
標的の作製およびDNAマイクロアレイハイブリダイゼーション
第一鎖cDNA合成反応に関しては、5.0〜8.0μgの全RNAをT7−(dT)24プライマーとともに70℃で10分間インキュベートした後、氷上に置いた。温度調節段階では、5×第一鎖cDNAバッファー、0.1M DTT、および10mM dNTPミックスを加え、反応物を42℃で1時間インキュベートした。SSII逆転写酵素を加え、反応物を42℃で1時間インキュベートした。第一鎖合成が完了したところで、5×第二鎖反応バッファー、10mM dATP、dCTP、dGTP、dTTP、DNAリガーゼ、DNAポリメラーゼI、およびRNアーゼHを反応試験管に加えた。その後、サンプルを16℃でインキュベートした。0.5M EDTAを加えた後、フェーズロックゲル−フェノール/クロロホルム抽出、およびその後のエタノール沈殿を用いてcDNAを精製した。
【0062】
ビオチン標識cRNAの合成(in vitro転写)
ビオチン標識cRNAの合成は、ENZO Biochem, Inc., New York, NY製のENZO BioArray RNA転写物標識キットを製造業者のプロトコールに従って用いて完遂した。1μgのcDNAの反応を設定するために、10×ビオチン標識リボヌクレオチド、10×DTT、10×RNアーゼ阻害剤混合物および20×T7 RNAポリメラーゼを37℃で4〜5時間インキュベートした。QIAGEN製のRNeasyスピンカラムを用いて標識されたRNAを精製した後、エタノール沈殿を行い、定量した。
【0063】
標的作製のためのcRNAの断片化
このcRNAに5×断片化バッファー(200mM Tris酢酸,pH8.1、500mM KOAc、150mM MgAc)を加えた。サンプルを94℃で35分間インキュベートした後、氷上に置いた。断片化されたcRNAは−70℃で保存した。
【0064】
標的ハイブリダイゼーション
ハイブリダイゼーションカクテルを次のように作製した:断片化cRNA(15μgに調整)、対照オリゴヌクレオチドB2(Affymetrix)、20×真核生物ハイブリダイゼーション対照(Affymetrix)、ニシン精子DNA、アセチル化BSA、および2×ハイブリダイゼーションバッファー(Affymetrix)を合わせ、99℃で5分間加熱した。次に、ハイブリダイゼーションカクテルを最大速度で5分間遠心分離して、混合物から不溶性物質を除去した。遠心分離後、カクテルを45℃で5分間加熱した。次に、明澄なハイブリダイゼーションカクテルを、1×ハイブリダイゼーションバッファーで予め湿らせたAffymetrixプローブアレイカートリッジに加えた。次に、このプローブアレイを、60rpに設定した45℃の回転式オーブンに入れた。
【0065】
プローブアレイの洗浄、染色および走査
GeneChip(商標)Fluidics Station 400を用いてアレイを洗浄および染色した。要するに、25℃にて非ストリンジェント洗浄バッファーで10回アレイを洗浄した後、50℃にてストリンジェント洗浄バッファーで4回洗浄を行った。次に、このアレイを10分間20℃にて、フィコエリトリン−ストレプトアビジンで染色した。その後、このアレイを25℃にて非ストリンジェント洗浄バッファーで10回洗浄した。このプローブアレイを再び25℃にて10分間、フィコエリトリン−ストレプトアビジン染色した後、30℃にて非ストリンジェント洗浄バッファーで15回洗浄した。ハイブリダイゼーションシグナルは、GeneChip(商標)ソフトウエアを用いて作動させるHP Gene Array(商標)スキャナーにプローブアレイを入れることで検出する。
【0066】
データ解析
データ解析はGeneChip(商標)ソフトウエア(バージョン3.3)を製造業者の説明書に従って用いて行った。Lockhart, D.J. et al., Nat. Biotechnol. 14:1675-80 (1996)。要するに、各遺伝子をチップ上に1〜3プローブセットで表し、クエリーとした。各プローブセットは16の完全マッチ(PM)と16のミスマッチ(MM)の25ヌクレオチド塩基プローブからなる。ミスマッチは25塩基対プローブの中央に単一塩基変異を有する。PMおよびMMプローブからのハイブリダイゼーションシグナルを比較したところ、特異的であり、かつ、2つの対照チップのデータから非特異的交差ハイブリダイゼーションが排除されたシグナル強度の測定値を見込めた。各プローブ対の強度の差ならびに強度の比率を用いて「有」または「無」と表示させる。これらの対照を基準として用い、GeneChip(商標)アッセイ試験値をこの基準と比較して4つのマトリックスを導き出し、これを用いて、特定の遺伝子の転写レベルが変化しているかどうかを示す種々の表示を決定した。
【0067】
反復比較はスプレッドシート(Microsoft Excel)を用いて行った。各遺伝子に対して、特定の時点の各試験データセット(n=2)および対照と試験の間の発現の差を判定した。4つのペアごとの比較の総てにおいて一貫して異なると表示される遺伝子をさらなる分析のために抽出した。
【0068】
GeneSpring(商標)分析
各GneChip(商標)アッセイからのデータをGeneSpring(商標)ソフトウエアに流し込み、それらの一時的発現プロフィールに基づく遺伝子のクラスターを分析した。相関係数0.97以上を、有意な発現ホモロジーを有する遺伝子クラスターを作出するためのカットオフとした。
【0069】
他の実施形態および本発明の使用は、当業者には、本明細書に開示される本発明の明細および実施を勘案すれば明らかとなろう。米国特許および外国特許ならびに特許出願をはじめ、本明細書に挙げられた総ての参照文献は引用することにより具体的に、その全開示内容が本明細書の一部とされる。明細書および実施例は単に説明のためのものであって、本発明の真の範囲および精神は特許請求の範囲によって示されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】側副血管の発達中に発現に検出可能な変化があった遺伝子を挙げる。
【図2】副血管の発達中に発現が増加した遺伝子を挙げ、また、遺伝子発現の経時的変化を示す。
【図3】副血管の発達中に発現が低下した遺伝子を挙げ、また、遺伝子発現の経時的変化を示す。
【図1−1】

【図1−2】

【図1−3】

【図1−4】

【図1−5】

【図1−6】

【図1−7】

【図1−8】

【図1−9】

【図1−10】

【図1−11】

【図1−12】

【図1−13】

【図1−14】

【図1−15】

【図1−16】

【図2−1】

【図2−2】

【図2−3】

【図2−4】

【図2−5】

【図2−6】

【図2−7】

【図2−8】

【図2−9】

【図2−10】

【図2−11】

【図2−12】

【図2−13】

【図2−14】

【図2−15】

【図2−16】

【図2−17】

【図2−18】

【図2−19】

【図2−20】

【図2−21】

【図2−22】

【図2−23】

【図2−24】

【図2−25】

【図2−26】

【図3−1】

【図3−2】

【図3−3】

【図3−4】

【図3−5】

【図3−6】

【図3−7】

【図3−8】

【図3−9】

【図3−10】

【図3−11】

【図3−12】

【図3−13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体が側副血管を発達させる見込みを予測するための方法であって、
哺乳類から得られたサンプルにおいて、該被験体の遺伝子のうち少なくとも3つの発現レベルをアッセイすることを含んでなる、方法。
【請求項2】
側副血管発達の見込みが、該サンプルにおける、少なくとも3つ、少なくとも5つ、少なくとも10、少なくとも20の遺伝子、または少なくとも20の遺伝子の発現の変化により予測される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
側副血管発達の見込みが、該サンプルにおける、少なくとも3つ、少なくとも5つ、少なくとも10、少なくとも20の遺伝子、または少なくとも20の遺伝子の発現の増加により予測される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
側副血管発達の見込みが、該サンプルにおける、少なくとも3つ、少なくとも5つ、少なくとも10、少なくとも20の遺伝子、または少なくとも20の遺伝子の発現の低下により予測される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記遺伝子が表1に挙げられている遺伝子から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記遺伝子が表2に挙げられている遺伝子から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記遺伝子が表2に挙げられている遺伝子から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記サンプルが前記被験体からの血液を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記発現レベルの変化が参照レベルの少なくとも2倍高い、または低い、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
遺伝子発現のレベルがサンプル中のタンパク質発現のレベルをアッセイすることにより判定される、請求項1〜9いずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
被験体が側副血管を発達させる見込みを予測するための方法であって、
患者からのサンプルにおいて少なくとも3つの遺伝子変異の存在を検出することを含んでなり、該遺伝子変異がSNPまたはDNAメチル化パターンの変化である、方法。
【請求項12】
側副血管発達の見込みが、該サンプルにおける、少なくとも3つ、少なくとも5つ、少なくとも10、少なくとも20の遺伝子、または少なくとも20の遺伝子の遺伝子変異の存在により予測される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記遺伝子が表1に挙げられている遺伝子からなる群から選択される、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記アッセイ方法が遺伝子マイクロアレイまたは定量的PCRを用いることを含む、請求項1または11に記載の方法。
【請求項15】
前記アッセイがDNAメチル化パターンを検出するための方法を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
アッセイが単一ヌクレオチド多型を検出するための方法を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
請求項1または11に記載のアッセイ法を行うためのキットであって、
アッセイがPCRを用いて行われ、かつ、表1の遺伝子に対応する少なくとも3つ、少なくとも5つ、少なくとも10、または少なくとも20のDNAもしくはRNA配列を増幅するのに好適なプライマーセットを含んでなる、キット。
【請求項18】
表1で示される遺伝子の複数において単一ヌクレオチド多型を検出し得る核酸アレイを含んでなる、請求項11に記載のアッセイ法を行うためのキット。
【請求項19】
前記アレイが、表1で示される遺伝子の大多数において、存在する場合には、単一ヌクレオチド多型を検出し得るものである、請求項18に記載のキット。
【請求項20】
遺伝子の発現レベルが、該遺伝子によってコードされるタンパク質の濃度を濃度を測定することにより決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
タンパク質が可溶性タンパク質である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
サンプルが血液および/またはリンパ液である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
タンパク質発現のレベルがELISAにより決定される、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
被験体において側副血管形成を促進する方法であって、
表2で示される少なくとも1つの遺伝子の発現を低下させ、かつ/または表3で示される少なくとも1つの遺伝子の発現を増加させる組成物を、該被験体に投与することを含んでなる、方法。
【請求項25】
アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA分子、RNAi分子、mRNAと結合して三重らせんを形成するオリゴヌクレオチド、または、該被験体において転写されてアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA分子、RNAi、もしくはmRNAと結合して三重らせんを形成するオリゴヌクレオチドを産生するDNA分子を含んでなる、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記組成物が該被験体において側副血管形成を阻害するタンパク質と結合する抗体または可溶性タンパク質受容体を含んでなる、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記組成物がヒト抗体またはヒト可溶性タンパク質受容体を含んでなる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記組成物が表3で示される遺伝子によりコードされるタンパク質の欠損を補足するために投与されるタンパク質を含んでなる、請求項24に記載の方法。

【公表番号】特表2006−509509(P2006−509509A)
【公表日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−559423(P2004−559423)
【出願日】平成15年12月10日(2003.12.10)
【国際出願番号】PCT/US2003/038950
【国際公開番号】WO2004/053085
【国際公開日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(504294695)メッドスター、リサーチ、インスティテュート (1)
【氏名又は名称原語表記】MEDSTAR RESEARCH INSTITUTE
【Fターム(参考)】