説明

脊柱の椎体のための保持装具

【課題】脊柱の椎体間にて固定・安定化を行う保持装具において、椎体間の動きの範囲が充分に確保できるようにする。
【解決手段】脊柱の椎体のための保持装具(20a、20b、20c、20d)が、椎体に差し込まれる埋込具(1)と、椎弓根ロッド(2)とを含む。ここで、埋込具(1)が後方(患者の背面)側でスリーブ状に設けられて後方へと開いた空洞部(3)を有し、この空洞部(3)中に椎弓根ロッド(2)の前方部分が配置される。椎弓根ロッド(2)の先端部分にあるネジ部分(5)が、空洞部(3)のネジ係留部(4)に接続し、ネジ部分(5)に隣接して、径の細い部分による可撓性領域(12)が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脊柱の椎体のための保持装具に関する。特には、椎体に埋め込まれる埋込具と椎弓根ロッドとを備えるものに関する。
【背景技術】
【0002】
脊柱の椎体のための従来の保持装具では椎弓根ロッドが、埋込具に対して動かないように設けられている。ここで、二つの椎弓根ロッドの間の接続ロッドへの固定具によって、これら二つの椎弓根ロッドの方向づけが固定され得る。この形態は、椎体の固定及び安定化(固定・安定化)が剛直となっており、そのため、動きの範囲が制限されるという不都合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2008/092422
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の根底をなす課題は、冒頭に述べたような脊柱の椎体のための保持装具について、動きの範囲に関しての従来の保持装具の不都合を克服できるように構成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第一の態様によると、上記課題は、導入部で述べた埋込具において、次のようであることにより解決される。すなわち、埋込具が椎弓根ロッドの可動性のために空洞部を有し、埋込具に対して椎弓根ロッドが持続的な可動性を有するように、椎弓根ロッドがこの空洞部内に配置されていることによって解決される。
【発明の効果】
【0006】
この形態であると、可動のセグメント(脊柱の屈曲などの単位となる部分)についての固定・安定化は、椎弓根のところの水平面の腹側にある生理学的な回転中心の領域に、回旋の中心をもつようにして実現できるといういう利点を有する。これにより、広範囲の生理学的な運動パターンが可能となっている。さらなる利点は、続いての変性の有効な予防及びより大きな動き範囲の維持が実現可能なことである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の第一の実施例に係る脊柱の椎体のための保持装具の断面図である。
【図2】本発明の第二の実施例に係る脊柱の椎体のための保持装具の断面図である。
【図3】本発明の第三の実施例に係る脊柱の椎体のための保持装具の断面図である。
【図4】本発明の第四の実施例に係る脊柱の椎体のための保持装具の断面図である。
【図5】動きの自由度が阻害されている、従来の保持装具についての、図1〜4と同様の断面図である。
【図6】後方の接続部材を備える椎弓根ロッドの断面図である。
【図7】本発明の第一の実施例に係る脊柱の椎体のための第一の保持装具と、脊柱の椎体のための第二の保持装具とを備えた、背部の固定安定化機構の断面図である。
【図8】第二の実施例に係る、多セグメントでの使用のための背部の固定安定化機構の断面図である。
【図9】第三の実施例に係る、フレキシブルな接続部材を備えた背部の固定安定化機構の断面図である。
【図10】背部の固定安定化機構の動きの可能性についての模式的な図である。10aの部分には、静止状態にある背部の固定安定化機構について、上方のものよりもさらに模式的に示す。また、図10bの部分には、図10aの状態から、動きにより、偏位した状態を同様に模式的に示す。
【図11】第四の実施例に係る背部の固定安定化機構の断面図である。
【図12】第五の実施例に係る背部の固定安定化機構の断面図である。
【図13】第六の実施例に係る背部の固定安定化機構の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
埋込具がスリーブ形の形態を有するなら、椎体への埋込具の差込みまたは埋め込みが容易になり、好ましいことが知られた。
【0009】
椎弓根ロッドが弾力性のある領域を有するならば好ましい。この弾力性を有する領域が、金属及び特にチタン及びその合金、鋼あるいはコバルトクロム合金(CoCr alloy, 例えばASTM-F75のもの)または合成樹脂、並びに、特には、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリエーテルエーテルケトン、炭素繊維強化合成樹脂、または超高弾性のニチノール(ニッケルとチタンの合金、例えばASTM F2063を満たす医療用グレードのもの)を含む群から選択された材料から形成されているなら、特に好ましい。この形態であると、埋込具に対する椎弓根ロッドの可動性が簡単にもたらされ得るという利点を有する。
【0010】
さらに、弾性部材を、埋込具と椎弓根ロッドとの間の接続領域に配置することができる。この実施形態であると、緩衝部材の使用によって付加的な安定が達成され得るという利点を有する。このために、例えばポリカーボネート系ウレタン樹脂(特にはポリカーボネートジオールからなる高耐久性及び弾性を有する樹脂)からなる中空円筒を、埋込具と椎弓根ロッドとの間の空洞部に取り付けることができる。ここで、緩衝と固定・安定化の程度を目的に合わせて決めるために、弾性を有する部材の、形状と幾何学的配置を変化させることができる。例えば、短冊状の弾性部材を、椎弓根ロッドの軸のまわりに、均等になるように所定の角度ごとに配置するといったことが可能である。
【0011】
好ましい実施形態では、埋込具がネジ係留部を空洞部内に有し、椎弓根ロッドがネジ部分を有する。それによって埋込具と椎弓根ロッドとの間に、堅固であって、かつ解除し得る接続が実現できる。さらに、例えば粘着、締め付け、溶接、スナップ留め、または掛け金留めのような他の接合技術を用いることもできる。
【0012】
また、埋込具と椎弓根ロッドとの間に、単軸、二軸または多軸の、ヒンジ接続部その他の可動ジョイント部を設けることもできる。このようであるならば、埋込具に対する椎弓根ロッドの可動性、特には椎骨間の屈曲及び伸展が容易にに実現できる。
【0013】
椎体用のこのような保持装具にあって、埋込具が後方(患者の背面側)の領域にストッパー面を有し、また椎弓根ロッドが、これに対応するストッパー対抗面を有することで、埋込具と椎弓根ロッドとの間の可動性を制限するならば好ましいことが知られた。
【0014】
椎弓根ロッドが後方(患者の背面側に来る部分)に、二次的に閉鎖可能なロッド受入部を有すると好ましい。すなわち、埋込具及び椎弓根ロッドを椎骨に取り付けた後に、閉鎖して他の部材と連結可能であるならば好ましい。これに関連して、ロッド受入部が位置調整可能な閉じ留め部材を含んでいるととりわけ好都合であると明らかになっている。このような形態であると、二次的に、すなわち背部の固定安定化機構を患者の体内にに埋め込んだ後に、経皮的な手術をすることよって、角度を固定した接続を実現することが可能となる。例えば、骨の状況が危険なものである場合に、負担なく埋込具を根づかせることが可能になるという利点を有する。埋込具が根づいた際に、例えば経皮的に局所麻酔にて、背側の部分同士を接続することができる。これにより、可撓性のセグメントの固定・安定化、または、剛直なセグメントの固定・安定化が実現できる。
【0015】
本発明に係る椎体のための保持装具であると、椎弓根ロッドが長円形(幾何学的な楕円形のみならず、小判型などを含むものとする)の横断面を有すると有利である。長円形の横断面によって、屈曲及び/または伸展(すなわち、これら両者の少なくとも一方、以下同様)のための運動範囲が変わらぬ安定性で拡げられ得る。長円形の横断面に基づいて、異なる平面における抵抗モーメントが異なる大きさであることが可能であり、その結果、例えば患者の正中面方向での屈曲が、これに垂直な方向での側屈よりも容易であるようにすることができる。また、これにより、患者が体をねじるための回旋の際の安定性が高められる。
【0016】
埋込具の後方端部分の壁厚が、他のスリーブ部分に比べて小さいなら、特には、この後方端部分にて、後方へと向かって壁厚が小さくなっていくならば、特に好ましい。
【0017】
椎体のための当該保持装具では、埋込具が後方で一方の側に延長部分を有し、この延長部分が、第二の保持装具と接続された接続部材の永続的な取り付けのために連結手段を備えて、特に接続部材受容部を備えて、構成されていると好ましい。この形態は、多セグメントについての動的な使用のためにとりわけ適している。複数のセグメントによる十分な可動性、特に屈曲/伸展の際の充分な可動性を実現するためには、背側の接続部材の領域に生じる長さ変化を補償し、このようにして、個々のセグメントの可動性が累積されるようにできることが必要である。個々の動的な保持装具の間の接続は、それぞれ、一つの保持装具の椎弓根ロッドにおける延長部分が、最も近い頭側の埋込具(スリーブ)に対して、連結手段を介して接続されるように行なわれる。それによって、任意の長い期間にわたっての固定安定化が達成され得る。この利点は、本発明により、この種の保持装具を複数、特には数個備える背部の固定安定化機構について、少なくとも第一の保持装具が接続部材を有し、この接続部材が、第一の保持装具の固定部を介して第一の保持装具の椎弓根ロッドと接続されており、第二の保持装具の連結手段を介して第二の保持装具と接続されていることによって達成され得る。
【0018】
本発明の第二の態様であると、上記課題は以下により解決される。すなわち、背部の固定安定化機構において、上述の実施形態のいずれかに係る椎体のための第一の保持装具と、椎体のための第二の保持装具とが、第一の保持装具における第一の椎弓根ロッドとの第一の連結部及び第二の保持装具の第二の椎弓根ロッドとの第二の連結部を有する接続部材とともに設けられていることによって解決される。このような形態であると、椎体の背側部分に生理学的に置かれた回転中心によってより良いセグメント可動性がもたらされるという利点を有する。それによって、この固定安定化機構は、例えば椎間板プロテーゼとしても使用され得る。さらに、後の段階で椎間関節置換との組み合わせも可能である。
【0019】
このような背部の固定安定化機構において次のようであるならば好ましい。第一の連結部及び/または第二の連結部が、それぞれ、接続部材と第一の保持装具における第一の椎弓根ロッドとの間の第一の角度、及び、接続部材と第二の保持装具における第二の椎弓根ロッドとの間の第二の角度を不変に保つように構成されているならば好ましい。すなわち、第一の連結部と第二の連結部との少なくとも一方において、角度が固定されるように連結が行われているならば好ましい
上記に代えて、当該背部の固定安定化機構では、第一の連結部及び/または第二の連結部が、それぞれ、接続部材と第一の保持装具の第一の椎弓根ロッドとの間の第一の角度、及び、接続部材と第二の保持装具の第二の椎弓根ロッドとの間の第二の角度を可変に保つように構成されていても良い。
【0020】
背部の固定安定化機構において、背側の接続部材の領域で生じる長さ変化を補償するために接続部材が入れ子状の伸縮可能領域及び/またはフレキシブル領域を有するならば好ましいことが知られた。
【0021】
背部の固定安定化機構が、椎体のための第三の保持装具を有し、また、接続部材が第三の保持装具における第三の連結部を介して第三の保持装具の第三の椎弓根ロッドと接続されていると好ましい。このようにして、多セグメントの可撓性の固定・安定化が達成され得る。
【0022】
本発明に係る固定・安定化システムの他の利点は、例えば椎間板の継続的な負荷軽減のために、背側の接続部材によってセグメント同士の伸延が可能であることにある。
【0023】
以下では本発明を、図面に示した実施例によって詳細に説明する。
【0024】
図1には、本発明の第一の実施例の、脊柱の椎体用の保持装具20aを示す。保持装具20aは、空洞部3を有する埋込具1と、椎弓根ロッド2とを含む。埋込具1がネジアンカリング(係留固定)部4を有しており、このネジ係留部4には、椎弓根ロッド2のネジ部分5を差し込むことができる。ここで、椎弓根ロッド2のネジ部分5は直径が4mm〜5mmであるのが好ましいことが知られた。また、埋込具1は、基本形状を、先端へと向かってすぼまるテーパー状または円錐形その他の紡錘状とすることができ、また、外周面の全部または一部に雄ネジ部を備えることができる。図示の例で、根元部の外面が円筒形であり、先端側が先細のテーパー状となっている。ここで、両皮質係留(bicortical anchoring)が行われるようにすべく、すなわち、椎骨中にて挿入側の皮質層(緻密層)のみならず、逆側の皮質層(緻密層)でも係留固定が行われるようにすべく、先端のネジ部分は鈍く形成することができる。すなわち、周面が埋込具1の軸線に対してなす角度(すなわち、テーパー角)を、他の部分より大きくとることができる。一方、埋込具1の雄ネジ部は、椎弓根を割ったり壊したりするのを防ぐために、後方(挿入方向の手前側)の領域で、後方に向かって、より平坦になっていくようにすることができる。すなわち、後方部分で、先端へと向かってすぼまるテーパー角が小さくなったテーパー面ないしは円筒面をなすようにすることができる。埋込具の表面は、コーティングされているならば好ましい。例えば、ヒドロキシアパタイトのコーティング層を金属材表面に形成しておくことで骨接続性を向上させることができる。埋込具1の壁厚は、後方端部にて、後方へと向かって小さくなって行くように形成することができる。なお、埋込具1は、患者の後方、すなわち背面側から、椎弓根を貫いて腰部の椎体中に差し込んで係留固定することができる。ここで、埋込具1は、スリーブ状に形成するのが好ましいことが知られた。椎体中での係留固定は、埋込具1の表面構造(例えばネジ切部またはコーティング等)によって、及び/または、形状変化(例えば、斜めになるようにする外への拡開、かしめや膨出、またはバルーン膨張)によって実現し得る。
【0025】
また、椎弓根ロッド2は、可撓領域12、係留固定領域14、及び動き範囲規制領域13を有しており、この動き範囲規制領域にて、埋込具1のストッパー面6に椎弓根ロッド2のストッパー対抗面7が突き当てられることで動きが規制される。また、埋込具1及び椎弓根ロッド2は、後方領域において、動き範囲規制が所望の、規制度合の範囲内で行なわれるように形づくられている。埋込具1のストッパー面6と、椎弓根ロッド2のストッパー対抗面7とについて、許容し得る動きの範囲を目的に合わせて決定すべく相応の形態をとるように選択することができる。
【0026】
可撓性の度合い及び回転中心を、患者ごとに特有の要求に、より良く合わせることができるように、椎弓根ロッド2の可撓領域12は、さまざまな直径及び/または異なった形態を有することができる。図1に示された第一の実施例に係る保持装具20aの場合には、椎弓根ロッド2における可撓領域12の直径がネジ部分5の直径と実質的に等しい。ここで、第一の実施例では、椎弓根ロッド2の可撓領域12が、椎弓根ロッド2のネジ部分5に隣接して配置されている。図2以降の図に示す各実施例の説明においては、本実施例と同一の部材または部分について、同一の符号を付している。また、繰り返しを避けるために、なるべく本実施例と相違する部分についてのみ述べることとするが、他の部分は本実施例と同一または同様である。
【0027】
図2には、本発明の第二の実施例に係る脊柱の椎体のための保持装具20bを示す。この実施例では、椎弓根ロッド2における可撓領域12の直径がネジ部分5に比べて小さい。また、第二の実施例でも、椎弓根ロッド2の可撓領域12が、椎弓根ロッド2のネジ部分5に隣接して配置されている。
【0028】
図3には、本発明の第三の実施例に係る脊柱の椎体のための保持装具20cを示す。この実施例では、椎弓根ロッド2における可撓領域12の直径がネジ部分5の直径に比べて小さい。また、第三の実施例では、椎弓根ロッド2の可撓領域12と、椎弓根ロッド2のネジ部分5との間に、これらより直径が大きい補強領域17が配置されており、この補強領域17の外周面が、埋込具1の内周面に当接する。
【0029】
図4には、本発明の第四の実施例に係る脊柱の椎体のための保持装具20dを示す。この実施例では、椎弓根ロッド2における可撓領域12の直径がネジ部分5の直径に比べて小さい。また、第四の実施例では、椎弓根ロッド2の可撓領域12が、椎弓根ロッド2のネジ部分5に隣接して配置されている。また、さらに、円筒状またはその他の形状の一つまたは複数の弾性部材10が椎弓根ロッド2の可撓領域12の外周面と、埋込具1の内周面との間に配置されている。
【0030】
したがって、可撓領域12の異なった形態によって、患者ごとの特有の要求に対し、最適化された適合を実現することができる。また、椎骨間の可撓性の固定・安定化から、剛直な固定・安定化への二次的な切替を可能にすべく、または、剛直な固定・安定化から可撓性の固定・安定化への二次的な切替を可能にすべく、剛直な椎弓根ロッドが保持装具のシステムに含まれていても良い。
【0031】
本発明について、より理解しやすいように、図5には脊柱の椎体のための従来の保持装具200が示されている。従来の保持装具200は、埋込具1と椎弓根ロッド2を含んでいるが、可撓領域も運動制限領域も形成されていない。その結果、剛直な固定・安定化だけが実現可能である。
【0032】
図6には、椎弓根ロッド2、及び、他の椎弓根ロッドと接続するための後方の接続部材11についての断面図を示す。ここで、接続部材11は、好ましくは接続ロッドとして形成されている。椎弓根ロッド2は、後方(患者の背面側、施術の際の手前側)に、接続部材11のための閉鎖可能なロッド受入部8を有する。接続を実現すべく、閉じ留め部材9を備えることができる。閉じ留め部材9は、接続を実現すべく図6に示された矢印方向へと動かすことができる。
【0033】
図7には、背部の固定安定化機構50aの断面図を示す。この固定システム50aには、
本発明に係る脊柱の椎体のための第一の保持装具21と、本発明に係る脊柱の椎体のための第二の保持装具22と、接続部材11とが備えられる。この接続部材11は、第一の保持装具21の第一の椎弓根ロッド2aとの接続のための第一の連結部15aと、第二の保持装具22の第二の椎弓根ロッド2bとの接続のためための第二の連結部15bとを備える。これに代えて、本発明に係る背部の固定安定化機構において、第一の保持装具21または第二の保持装具22を、図7には不図示の剛性の椎弓根ロッドを備える脊柱の椎体のための従来の保持装具で置き換えることもできる。このようにして、剛直な固定・安定化と可撓性の固定・安定化の組み合わせが達成され得る。
【0034】
また、図7に示した実施例では、背部の固定安定化機構50が第一の保持装具21に第一の回転中心16aを有し、第二の保持装具22に第二の回転中心16bを有する。第一の連結部15a及び/または第二の連結部15bは、それぞれ、接続部材11と、第一の保持装具21の第一の椎弓根ロッド2aとの間の第一の角度α、及び、接続部材11と第二の保持装具22の第二の椎弓根ロッド2bとの間の第二の角度βを不変に保つように構成することもできる。これに代えて、第一の連結部15a及び/または第二の連結部15bは、それぞれ、接続部材11と、第一の保持装具21の第一の椎弓根ロッド2aとの間の第一の角度α、及び、接続部材11と、第二の保持装具22の第二の椎弓根ロッド2bとの間の第二の角度βを可変に保つように構成することもできる。
【0035】
また、本発明に係る背部の固定安定化機構では、脊柱の椎体のための保持装具の数が二つに限定されているわけではなく、より多くの保持装具を組み入れることもできる。
【0036】
図8は、第二の実施例に係る多セグメントの使用のための背部の固定安定化機構50bの断面図を示す。この背部の固定安定化機構50bは、三つの保持装具21、22、23を備える。保持装具21、22、23は、それぞれ一つの椎弓根ロッド2a、2b、2cを有し、これら椎弓根ロッドには、それぞれ一つの接続部材11a、11b、11cが、対応する連結部15a、15b、15cによって取り付けられている。また、第一及び第二の接続部材11a、11bは、最も近い(患者の)頭側の埋込具に対し、対応する埋込具1の後方の延長部分17にある連結手段18によって接続されている。この実施例では、生理学的な回転中心31a、31b、31cが機械的な回転中心16a、16b、16cの近くにある。
【0037】
図9は、第三の実施例に係るフレキシブルな接続部材を備える背部の固定安定化機構50cの断面図を示す。その構造は図7に示した実施例と同様であるが、接続部材11が、入れ子状に伸縮可能な領域19と、フレキシブル領域30を有する。このフレキシブル領域は、図示の例で、径の小さい部分及び/またはテーパー状の部分によって接続部材11に形成されている。
【0038】
図10には、1セグメントの器具構成の場合についての、背部の固定安定化機構の運動可能性を、模式的に示す。矢印で示す回転運動の他に並進も可能である。また、埋込具と椎弓根ロッドとを別体とすることによって起こり得る、ネジの緩みを最小限とすることができる。なぜなら、可撓性による動きは、骨と埋込具との接触部分を通じてではなく、埋込具と椎弓根ロッドとの接触部分によって伝えられるからである。また、脊柱の軸方向(縦方向)への伸延は、背側で椎弓根ロッド2と縦方向の支持部材(ここでは接続部材11)とによって行なわれる。そのため、可撓性が引き続き保たれる。加えて、脊柱後湾が防止され得る。その結果、脊柱の箇所での矢状断面に積極的な影響を及ぼすことが、動きの範囲に悪影響を及ぼすことなしに実現できる。
【0039】
図11は第四の実施例に係る背部の固定安定化機構50dの断面図を示す。この実施例では、生理学的な回転中心31が、患者の尾てい骨側にて、埋込具の機械的な回転中心16の近傍にある。これにより、剛性の接続部材11を採用することができ、第二及び第三の保持装具には、従来の保持装具を用いることができる。なぜなら、さらなる可動性が必須でないからである。この結果、第四の実施例に係る背部の固定安定化機構50dは、一つの本発明に係る保持装具及び二つの従来の保持装具からなる。
【0040】
図12は、第五の実施例に係る背部の固定安定化機構50eの断面図を示しており、この実施例では、生理学的な回転中心31が、機械的な回転中心16から大きく離れたところにある。その結果、第二の運動が必須になる。このことは、可撓性の接続部材11を必要とする。図12に示されているように、このことは、例えば径の細い部分及び/またはテーパー状の部分によって形成されるフレキシブル領域30によって実現することができる。第五の実施例に係る背部の固定安定化機構50eも、同様に、一つの本発明に係る保持装具及び二つの従来の保持装具からなる。
【0041】
図13は、第六の実施例に係る背部の固定安定化機構50fの断面図を示す。ここでは、本発明に係る保持装具を三つ備える。この実施例では、三つの生理学的な回転中心31a、31b、31cが、患者の尾てい骨側で三つの機械的な回転中心16a、16b、16cの近傍にある。屈曲と並進を実現するためには、二つの運動領域で充分である1セグメントの器具構成とは対照的に、ここにある多セグメントの器具構成において、他の動き領域が必須である。このような動き領域が、図13に示す実施例の場合には、縦方向の接続部材11における径の小さい部分及び/またはテーパー状の部分として形成されている。
【符号の説明】
【0042】
1 埋込具 1a 第一の埋込具 1b 第二の埋込具
1c 第三の埋込具 2 椎弓根ロッド 2a 第一の椎弓根ロッド
2b 第二の椎弓根ロッド 2c 第三の椎弓根ロッド 3 空洞部
4 埋込具におけるネジ係留部 5 椎弓根ロッドのネジ部分
6 埋込具のストッパー面 7 椎弓根ロッドのストッパー対抗面
8 閉鎖可能なロッド受入部 9 閉じ留め部材 10 弾性部材
11 接続部材 11a 第一の接続部材 11b 第二の接続部材
11c 第三の接続部材 12 可撓領域 13 運動制限領域
14 固定領域 15a 第一の連結部 15b 第二の連結部
15c 第三の連結部 16a 第一の機械的な回転中心
16b 第二の機械的な回転中心 16c 第三の機械的な回転中心
17a 第一の後方の延長部分 17b 第二の後方の延長部分
17c 第三の後方の延長部分 18 連結手段
19 接続部材の入れ子式領域 20a 第一の実施例の保持装具
20b 第二の実施例の保持装具 20c 第三の実施例の保持装具
20d 第四の実施例の保持装具 21 第一の保持装具
22 第二の保持装具 23 第三の保持装具
30 接続部材のフレキシブル領域 31 生理学的な回転中心
31a 第一の生理学的な回転中心 31b 第二の生理学的な回転中心
31c 第三の生理学的な回転中心
50a 第一の実施例の背部の固定安定化機構
50b 第二の実施例の背部の固定安定化機構
50c 第三の実施例の背部の固定安定化機構
50d 第四の実施例の背部の固定安定化機構
50e 第五の実施例の背部の固定安定化機構
50f 第六の実施例の背部の固定安定化機構 200 従来の保持装具
α 接続部材と第一の椎弓根ロッドとの間の第一の角度
β 接続部材と第二の椎弓根ロッドとの間の第二の角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
椎体に差し込まれる埋込具(1)及び椎弓根ロッド(2)を有する、脊柱の椎体のための保持装具(20a、20b、20c、20d)において、
埋込具(1)が前記椎弓根ロッド(2)の可動性のために空洞部(3)を有し、
埋込具(1)に対する椎弓根ロッド(2)の持続的な可動性または一時的な可動性を実現すべく、椎弓根ロッド(2)が空洞部(3)内に配置されていることを特徴とする保持装具。
【請求項2】
埋込具(1)がスリーブ状の形態を有することを特徴とする請求項1に記載の椎体のための保持装具(20a、20b、20c、20d)。
【請求項3】
椎弓根ロッド(2)が弾力のある領域を有することを特徴とする請求項1または2に記載の椎体のための保持装具(20a、20b、20c、20d)。
【請求項4】
前記の弾力のある領域が、チタン及びその合金、鋼、ニチノールを含むニッケル・チタン合金、形状記憶合金、コバルト−クロム合金、その他の金属、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリエーテルエーテルケトン、炭素繊維強化合成樹脂、その他の合成樹脂からなる群より選択された材料からなることを特徴とする請求項3に記載の椎体のための保持装具(20a、20b、20c、20d)。
【請求項5】
埋込具(1)が弾性部材(10)を有し、この弾性部材が埋込具(1)と椎弓根ロッド(2)との間の接続領域に配置されていることを特徴とする請求項3または4に記載の椎体のための保持装具(20a、20b、20c、20d)。
【請求項6】
埋込具(1)がネジ固定部(4)を空洞部(3)内に有し、また、椎弓根ロッド(2)がネジ部分(5)を有することを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の椎体のための保持装具(20a、20b、20c、20d)。
【請求項7】
埋込具(1)と椎弓根ロッド(2)との間に、単軸またはは多軸の可動ジョイント部が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の椎体のための保持装具(20a、20b、20c、20d)。
【請求項8】
埋込具(1)と椎弓根ロッド(2)との間の可動性を制限すべく、埋込具(1)がその後方領域にストッパー面(6)を備え、椎弓根ロッド(2)がストッパー対抗面(7)を備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の椎体のための保持装具(20a、20b、20c、20d)。
【請求項9】
椎弓根ロッド(2)が二次的に閉鎖可能なロッド受入部(8)を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の椎体のための保持装具(20a、20b、20c、20d)。
【請求項10】
ロッド受入部(8)が位置調整可能な閉じ留め部材(9)を含むことを特徴とする請求項9に記載の椎体のための保持装具(20a、20b、20c、20d)。
【請求項11】
椎弓根ロッド(2)が長円形の横断面を有することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の椎体のための保持装具(20a、20b、20c、20d)。
【請求項12】
前記埋込具(1)の後方部分の壁厚が、後方へと向かって小さくなっていくように設けられたことを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の椎体のための保持装具(20a、20b、20c、20d)。
【請求項13】
埋込具(1)が後方で一方の側に延長部分(17)を有し、この延長部分(17)には、第二の保持装具(20a、20b、20c、20d)に接続された接続部材(11)に対して、堅固に取り付けるための連結手段(18)が備えられることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の椎体のための保持装具(20a、20b、20c、20d)。
【請求項14】
請求項13に記載の椎体のための保持装具(21、22、23)を複数備える背部の固定安定化機構(50b)において、
少なくとも第一の保持装具(21)が接続部材(11)を備え、この接続部材(11)は、第一の保持装具(21)の連結部(15a)を介して第一の保持装具(21)の椎弓根ロッド(2a)に接続されており、また、第二の保持装具(22)の連結手段(18b)を介して第二の保持装具(22)に接続されていることを特徴とする背部の固定安定化機構。
【請求項15】
椎体のための第二の保持装具(22)と請求項1〜12の一つに記載の椎体のための第一の保持装具(21)とを備える背部の固定安定化機構(50a、50c、50d、50e、50f)において、
接続部材(11)は、第一の保持装具(21)の第一の椎弓根ロッド(2a)に連結するための第一の連結部(15a)と、前記第二の保持装具(22)の第二の椎弓根ロッド(2b)に連結するための第二の連結部(15b)とを備えることを特徴とする背部の固定安定化機構。
【請求項16】
第一の連結部(15a)及び/または第二の連結部(15b)は、それぞれ、接続部材(11)と、第一の保持装具(21)における第一の椎弓根ロッド(2a)との間の第一の角度(α)、及び、接続部材(11)と、第二の保持装具(22)における第二の椎弓根ロッド(2b)との間の第二の角度(β)について、不変に保つように構成されていることを特徴とする請求項13に記載の背部の固定安定化機構(50a、50c、50d、50e、50f)。
【請求項17】
第一の連結部(15a)及び/または第二の連結部(15b)が、それぞれ、接続部材(11)と、第一の保持装具(21)における第一の椎弓根ロッド(2a)との間の第一の角度(α)、及び、接続部材(11)と、第二の保持装具(22)における第二の椎弓根ロッド(2b)との間の第二の角度(β)を可変に保つように構成されていることを特徴とする請求項13に記載の背部の固定安定化機構(50a、50c、50d、50e、50f)。
【請求項18】
接続部材(11)が入れ子状の伸縮可能領域(19)及び/またはフレキシブル領域(30)を有することを特徴とする、請求項15〜17のいずれかに記載の背部の固定安定化機構(50a、50c、50d、50e)。
【請求項19】
請求項15〜18のいずれかに記載の背部の固定安定化機構(50a、50c、50d、50e)において、
背部の固定安定化機構が椎体のための第三の保持装具(23)を有し、
接続部材(11)が、第三の保持装具(23)における第三の連結部(15c)を介して、第三の保持装具(23)における第三の椎弓根ロッド(2c)に接続されていることを特徴とする背部の固定安定化機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−235104(P2011−235104A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105558(P2011−105558)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(500430741)ウルリッヒ ゲーエムベーハー ウント コンパニ カーゲー (6)
【Fターム(参考)】