説明

脊髄損傷治療剤

【課題】簡便且つ高い効果を示す脊髄損傷を回復する薬剤、それを含有する食品・医薬品組成物、及び脊髄損傷の回復方法を提供する。
【解決手段】含酸素複素環を有するステロイド配糖体であり、アシュワガンダ(Ashwaganda:Withania somnifera Dunalの根)から単離することができ、また化学合成手法により合成することも可能であり、脊髄損傷回復治療効果の高いウィタノシド(Withanoside)IV及びその周辺化合物を提供することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脊髄損傷治療剤に関し、特にウィタノシド(Withanoside)IV及びその周辺化合物を有効成分とする脊髄損傷治療剤、それを含む食品・医薬品組成物、及びそれを用いた脊髄損傷の回復方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本の脊髄損傷患者は10万人以上となっており、その数は毎年5,000人ずつ増えていると言われている。脊髄損傷の原因の多くは交通事故、スポーツ事故、高所からの転落・転倒などが挙げられ、これらの受傷時に屈曲、伸展、回旋、圧迫などの外力が複合的に脊椎に作用し、脊椎、脊髄損傷並びに靱帯損傷がもたらされる。(脊椎・脊髄損傷、[平成18年1月20日検索]、インターネット<http://www.rd.mmtr.or.jp/〜sumihosp/sekisonbun.htm>)。また外傷以外には、脊髄腫傷、椎間板ヘルニアなどがある。
【0003】
脊髄が損傷すると、その損傷の仕方、損傷程度、損傷部位により、四肢の運動や感覚の麻痺や、重篤な場合には呼吸障害すら起こる可能性もある。損傷部位の位置が高いほど(仙随→腰随→胸随→頸随)、麻痺の発生する範囲は広く傷害が重度になる。例えば、胸随の損傷であれば下半身麻痺、頸随の損傷であれば全四肢の麻痺となる可能性もある。
【0004】
脊髄損傷に対する治療法は現在の所、外科的な方法、薬剤投与による方法などが挙げられるが、完全には確立されておらず、また完全損傷の場合には機能回復はかなり困難である。例えば、急性期脊髄損傷に対して現在行われている治療法としては、ステロイド短期大量投与法である(非特許文献1)。しかしこの方法は、受傷後8時間以内に治療を行う必要があり実質困難である。また、ステロイド大量投与法そのものを否定している文献も見受けられ、未だ完全には確立されていないとも言える。また他の方法として、ES細胞あるいは骨髄間細胞を移植する等の治療法の開発も現在行われている(非特許文献2、非特許文献3)。
【0005】
一方、神経機能不全疾患に対する薬剤による治療法についても種々検討が進んでいる。例えば、特許文献1には脊髄損傷などの神経損傷の治療薬として樹状細胞からの分泌物質や樹状細胞を誘導・増殖・活性化する物質などを有効成分とする治療薬が提案されている。
【0006】
また、特許文献2、特許文献3、特許文献4では、オキサゾピロロキノリン類、ピロロキノリン類、インドールキノン誘導体などを神経成長因子産出促進剤として提案している。
【0007】
【非特許文献1】クロンバルE等(Kronvall E. et al.),Lakartidningen,2005年6月,13−26;102(24−25):1887−8,1890
【非特許文献2】リロイPH等(Lerou PH.et al.),Blood Rev.,2005年11月,19(6),p.321−331
【非特許文献3】デザワM等(Dezawa M. et al.),Curr Mol Med.,2005年11月,5(7),p.723−732
【特許文献1】特開2004−002412号公報
【特許文献2】特開平06−009396号公報
【特許文献3】特開平06−211660号公報
【特許文献4】特開平07−118152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記の特許文献1に示した治療薬及び治療法は樹状細胞あるいはそのサブセットを用いているために簡便性に欠け、規格化も困難である。またそれ以外の上記した方法や治療薬剤の何れについても、未だ完全に確立されたものではなく、その効果についても不十分である。したがって脊髄損傷患者が増加していく背景を考慮すると、脊髄損傷に対して簡便かつ高い効果を示す治療方法及び/又は治療薬剤の開発がより強く望まれている。
【0009】
したがって本発明の目的は、簡便且つ高い効果を示す脊髄損傷を回復する薬剤及び脊髄損傷の回復方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題について鋭意検討したところ、本発明者等は脊髄損傷マウスをモデルとして作製し、行動学的評価および免疫組織染色を行った結果、ウィタノシド(Withanoside)IV及びその周辺化合物において著しい脊髄損傷回復作用があることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明によれば、ある特定構造を有するウィタノシド(Withanoside)IV及びその周辺化合物を提供することで、上記課題を解決することが可能となった。
【0011】
したがって、本発明のある態様としては、下記構造式1の化合物の少なくとも1種を有効成分とする脊髄損傷治療剤である。
【0012】
構造式1
【化1】

(式中、R1及びR2はそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、アルキル基、またはアルコキシ基であり、R3は水素原子、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、または糖残基である。)
【0013】
上記構造式1の脊髄損傷治療剤のうち、特に好ましくは下記構造式2のウィタノシドIVを有効成分とする脊髄損傷治療剤である。
【0014】
構造式2
【化2】

【0015】
また本発明の別の態様としては、上記脊髄損傷治療剤を有効成分として含有し、脊髄損傷の回復作用を有する食品・医薬品組成物である。
【0016】
さらに本発明の別の態様としては、上記脊髄損傷治療剤又は食品・医薬品組成物の有効量を投与することを特徴とする脊髄損傷の回復方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、簡便かつ高い効果を示す特定の化合物による脊髄損傷治療剤又は食品・医薬品組成物を提供することが可能となる。
【0018】
また、上記薬剤又はそれの有効量を含む食品・医薬品組成物により、簡便にヒトなどの脊髄治療を目的とした効果的な治療方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に述べる個々の形態には限定されない。
【0020】
前述の通り上記課題を解決するため、本発明は下記構造式1の化合物の少なくとも1種を有効成分とする脊髄損傷治療剤を提供するものである。
【0021】
構造式1
【化3】

【0022】
上記構造式1において、R1及びR2はそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、アルキル基、またはアルコキシ基であることが好ましく、R3は水素原子、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、または糖残基であることが好ましい。R1及びR2は特に好ましくは、それぞれ独立して、水素原子、水酸基のいずれかである。また、R3は特に好ましくは糖残基である。
【0023】
上記置換基としてのアルキル基の例は、本発明はこれらに限定されないが、好ましくは炭素数が1〜6の直鎖状又は分枝状のアルキル基が挙げられ、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられる。また、アルコキシ基の例は、本発明はこれらに限定されないが、好ましくは炭素数が1〜6の直鎖状又は分枝状のアルコキシ基が挙げられ、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基などが挙げられる。
【0024】
上記置換基としての糖残基の例は、本発明はこれらに限定されないが、単糖、糖誘導体、二〜七糖からなるオリゴ糖又はオリゴ糖誘導体等からのグリコシル基が好ましい。結合については、本発明はこれらに限定されないが、α結合、β結合を問わず、またα結合とβ結合が混在していてもよい。具体的な糖残基としては、本発明はこれらに限定されないが、例えばグルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、フコース、アラビノース等の単糖の残基;グルクロン酸、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、シアル酸等の糖誘導体の残基;マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、ラクトース、ゲンチオビオース、キシロビオース、プリメベロース、メリビオース、ルチノース、ビシアノース、ラミナリビオース、セロビオース、セロトリオース、パノース等の二〜七糖からなるオリゴ糖の残基等が挙げられ、特に好ましくはグルコース及びグルコースで構成される二〜七糖からなるオリゴ糖の残基である。また、2,3,4,6位の水酸基は、例えばアセチル基、マロニル基、リン酸基、メチル基等により修飾されていても良い。
【0025】
上記構造式1にて表される化合物の内、下記構造式2にて表されるウィタノシドIVが、その効果が高く、特に好ましく用いることができる。
【0026】
構造式2
【化4】

【0027】
本発明の脊髄損傷治療剤として用いられるウィタノシド(Withanoside)IV及びその周辺化合物は、アシュワガンダ(Ashwagandha:Withania somnifera Dunalの根)から単離することができる。例えば、Chem.Phar.Bull.,第50巻,p760−765(2002年)に記載の方法により単離することが可能である。また、化学合成手法により合成したものでも用いることができ、その方法は特に限定されない。
【0028】
また、ウィタノシドの代謝物として得ることも出来る。たとえば構造式1で包含される化合物の1つであるソミノン(sominone、R1=H、R2=OH、R3=OH)はウィタノシドIVの体内における代謝物であり、例えばHeterocycles,第34巻,p689−698(1992年)に記載の方法で得ることができる。具体的には、ウィタノシドIVを酵素、例えばナリンギナーゼ(naringinase)で、pH5.25、37℃の条件で3日間処理し、分配高速液体クロマトグラフィーなどにより分離、精製することで得ることができる。
【0029】
本発明の食品組成物は、特に脊髄損傷患者用食品に適用することができる。本発明の薬剤を含有する特定保健用食品等の特別用途食品や栄養機能食品として直接摂取することにより脊髄損傷回復治療を簡便に行うことができる。
【0030】
具体的には、食品組成物として使用する場合には、各種飲食品(牛乳、清涼飲料、発酵乳、ヨーグルト、チーズ、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、調製粉乳、流動食、病者用食品、幼児用粉乳等食品、授乳婦用粉乳等食品、栄養食品等)に本発明の薬剤を添加し、これを摂取してもよい。本有効成分をそのまま使用したり、他の食品ないし食品成分と混合するなど、通常の食品組成物における常法にしたがって使用できる。また、その性状についても、通常用いられる飲食品の状態、例えば、固体状(粉末、顆粒状その他)、ペースト状、液状ないし懸濁状のいずれでもよい。
【0031】
その他の成分についても特に限定されないが、本発明の薬剤を含有する飲食物には、水、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー類等を主成分として使用することができる。タンパク質としては、例えば全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、カゼイン、ホエイ粉、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物、ホエイタンパク質分離物、α―カゼイン、β―カゼイン、κ−カゼイン、β―ラクトグロブリン、α―ラクトアルブミン、ラクトフェリン、大豆タンパク質、鶏卵タンパク質、肉タンパク質等の動植物性タンパク質、これら加水分解物;バター、乳性ミネラル、クリーム、ホエイ、非タンパク態窒素、シアル酸、リン脂質、乳糖等の各種乳由来成分などが挙げられる。糖類、加工澱粉(テキストリンのほか、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテル等)、食物繊維などが挙げられる。脂質としては、例えば、ラード、魚油等、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の動物性油脂;パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物性油脂などが挙げられる。ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロチン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸などが挙げられ、ミネラル類としては、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレンなどが挙げられる。有機酸としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸などが挙げられる。これらの成分は、2種以上を組み合わせて使用することができ、合成品及び/又はこれらを多く含む食品を用いてもよい。
【0032】
本発明の脊髄損傷治療剤これを有効成分とする食品・医薬組成物の投与量は、投与経路、ヒトを含む投与対象動物の年齢、体重、症状など、種々の要因を考慮して、適宜設定することができる。本発明はこれに限定されないが、好ましくは、有効成分として0.01〜100μmol/kg/dayが適当である。
また本発明の脊髄損傷治療剤、医薬組成物は、経口投与又は非経口投与(筋肉内、皮下、静脈内、坐薬、経皮等)のいずれでも投与できる。
【0033】
本発明による脊髄損傷治療剤、医薬組成物の投与形態としては、例えば錠剤、被覆錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、溶液、シロップ剤、乳液等による経口投与をあげることができる。これらの各種製剤は、常法に従って主薬である本発明の脊髄損傷治療剤に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用しうる既知の補助剤を用いて製剤化することができる。
【0034】
本発明の脊髄損傷治療剤の量は、その目的、用途(予防剤、治療剤等の医薬品組成物)に応じて任意に定めることができ。本発明はこれに限定されないがその含量としては、全体量に対して通常、0.001〜100%(w/w)、特に0.1〜100%が好ましい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0036】
[脊髄損傷モデルマウスの作製]
マウス(ddY、雄、6週齢)の背部皮膚および筋肉をエーテル麻酔下で切開し、脊椎を露出させた。次いで、胸椎第8−11番レベルの椎弓を電気ドリルで切除した。露出した胸椎に、錘(2.5g)を2cm垂直上方から3回落下させ、脊髄を損傷させた。
一方、椎弓切除まで施術したものをSham群とした。
この時、脊髄損傷モデルマウスは、両方の後肢が麻痺しており、後肢で体重を支えて動くことは出来ない状態であった。また、Sham群は正常な運動機能が保持されていることを確認した。
【0037】
[薬物投与]
脊髄を損傷させた後1時間経過後に、第1回の薬物投与を行った。次いで、翌日から1日1回、20日間の連続経口投与を行った。ウィタノシドIVは蒸留水に溶解し、10mol/kg/dayの用量で投与した。なお、Sham群及び対照群にはビヒクルとして水を経口投与した。なお、ここで使用したウィタノシドIVはアシュワガンダからのメタノール抽出後の単離品であり、HPLCによりその純度を確認した(検出:UV220nm)。
【0038】
[行動学的評価]
以下の行動学的評価を脊髄損傷の翌日より20日目まで行った。
1.Basso,Beattie,and Bresnahan(BBB)scale
現在脊髄損傷動物の評価では最も一般的なスコアリング手法であるBBBscale(バッソ等(Basso,Beattie,Bresnahan),Experimental Neurology,1996年,第139巻,p.244−256)によって評価した。すなわち、ケージ内でのマウスの後肢機能を5分間目視にて観察し、BBBscaleに基づいて0〜21点にスコアリングした。
2.立ち上がり行動
ケージ内での後肢による立ち上がり回数を5分間計測した。
【0039】
[免疫組織染色]
脊髄損傷処理後の21日目のマウスを麻酔し、左心室から生理食塩水を注入し脱血し、続けて4%パラホルムアルデヒド−PBS(PFA)を注入し還流固定した。脊髄を脊椎ごと摘出し4%PFA中で一晩固定した。脊椎を開け、脊髄を摘出し、損傷部位を中心に2cm長の胸椎部をカットした。10%、20%、30%スクロース溶液で順次置換した後、OCT compoundにて包埋し、クリオスタットにより12μm厚のsagital sliceを作製し、ゼラチンコーティングしたスライドグラスに貼り付けた。
【0040】
sliceの周囲をDAKO PEN(ダコ・ジャパン株式会社製)で囲み、4%PFAを滴下し30分間、固定を行った。一次抗体反応には、マウス抗リン酸化型neurofilament−H(NF−H)モノクローナル抗体(希釈倍率 1:1000)(Clone SMI312,Sternberger Monoclonals,Luthervile,メリーランド州、米国)、ウサギ抗myelin basic protein(MBP)ポリクローナル抗体(希釈倍率 1:100)(Chemicon,Temecula,カリフォルニア州、米国)、ウサギ抗peripheral myelin protein(PMP)−22ポリクローナル抗体(希釈倍率 1:500)(Lab Vision,Fremont,カリフォルニア州、米国)をそれぞれ用いた。4℃で一晩反応後、2次抗体にはAlexa Fluor 488標識ヤギ抗マウスIgG抗体と、Alexa Fluor 568標識ヤギ抗ウサギIgG抗体(いずれも希釈倍率 1:200)(Molecular Probes,Carlsbad,カリフォルニア州、米国)とを用いた。二重蛍光免疫染色された試料の灰白質、白質の損傷部位とその前後を蛍光顕微鏡AX−80(オリンパス株式会社製)を用いて拡大観察し、またその蛍光画像を取得し、抗体に陽性の領域の積算値をATTO Densitograph(アトー株式会社製)によって測定した。
【0041】
[データ解析]
データは平均値±標準誤差(s.e.m.)で表した。有意差検定は分散分析(ANOVA)、あるいはtwo way repeated measured ANOVAにより行い、post hoc test はDunnett’s testにより行った。有意水準は5%とした。
【0042】
[実験結果]
以下、得られた結果を図示のグラフ並びに組織の顕微鏡写真を参照しながら説明する。
なお、各群あたりの個体数は4〜6匹とした。
脊髄損傷モデルマウス(対照群)の後肢機能障害は、図1に示すBBB scaleによっても、図2に示す後肢による立ち上がり回数によっても、Sham群と比べて有意に低下していることが分かる。一方、脊髄損傷モデルマウスのウィタノシドIV経口投与群では、後肢機能障害が、対照群と比べてBBB scaleによる判定においても、後肢による立ち上がり回数においても有意に改善されていることが分かった。
【0043】
また、図3に示す軸索組織については、Sham群では水平方向に伸展(NF−H陽性)していることが分かる(図3A、図3G参照)。また、中枢性ミエリンの発現(MBP陽性)が認められた(図3D、図3G参照)。
これに対して、対照群では軸索組織が断裂し、特に損傷中心部では断裂した軸索線維が固まっていることが分かる(図3B、図3H参照)。また、対照群では中枢性ミエリンの脱落が見られた(図3E、図3H参照)。
一方、本発明の脊髄損傷治療剤を投与したウィタノシドIV経口投与群では、損傷中心部に軸索線維の塊は見られず、代わりにSham群のような水平方向の軸索伸展が観察された(図3C)。一方、中枢性ミエリンは脱落したままであった(図3F、図3I参照)。
【0044】
末梢性ミエリン検出を試みたところ、対照群では末梢性ミエリンがわずかに増加していた(図8E、図8H参照)。これに対して、本発明のウィタノシドIV経口投与群では損傷部位、特に灰白質の軸索の周囲に末梢性ミエリンが増加していることが分かった(図8F、図8I参照)。
【0045】
以上の結果から、明らかに対照群に比べて本発明のウィタノシドIV経口投与群では損傷部位の修復作用が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
上記したように本発明によるウィタノシド(Withanoside)IV及びその周辺化合物により、簡便かつ高い効果を示す脊髄損傷治療剤又は食品・医薬品組成物を提供することが可能となった。
また、上記薬剤又は食品・医薬品組成物により、簡便にヒトなどの脊髄治療目的とした効果的な治療方法を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】マウスのBBBscaleの判定を示すスコアグラフ図(脊髄損傷後20日目まで)である。○はSham群を、●は対照群を、□は本発明によるウィタノシドIV投与群を示す。
【図2】マウスのケージ内での後肢による立ち上がり回数のグラフ図(脊髄損傷後20日目まで)である。○はSham群を、●は対照群を、□は本発明によるウィタノシドIV投与群を示す。
【図3】脊髄損傷後21日目のマウスの胸椎切片を抗リン酸化NF−Hモノクローナル抗体(A,B,C)と抗MBPポリクローナル抗体(D,E,F)を用いて二重蛍光免疫染色した組織の顕微鏡写真である。左側が頭側、右側が尾側、矢印は圧挫部を示す。「Sham」はSham群を、「Cont」は対照群を、「WS−IV」は本発明によるウィタノシドIV投与群を示す(以下の図面において同様記述は同様の意味を示す)。なお、G,H,Iは、それぞれAにDを、BにEを、またCにFを重ね合わせたもので観察倍率をあげた写真である。
【図4】抗リン酸化NF−Hモノクローナル抗体に対する灰白質の陽性領域の蛍光強度を示すグラフ図である。Rostralは頭側、Caudalは尾側を示す。
【図5】抗リン酸化NF−Hモノクローナル抗体に対する白質の陽性領域の蛍光強度を示すグラフ図である。Rostralは頭側、Caudalは尾側を示す。
【図6】抗MBPポリクローナル抗体に対する灰白質及び白質の陽性領域の蛍光強度を示すグラフ図である。
【図7】脊髄損傷後21日目のマウスの胸椎切片を抗リン酸化NF−Hモノクローナル抗体(左)と抗MBPポリクローナル抗体(右)を用いて二重蛍光免疫染色した組織の顕微鏡写真である。Wは白質部を、Gは灰白質部を示す。
【図8】脊髄損傷後21日目のマウスの胸椎切片を抗リン酸化NF−Hモノクローナル抗体(A,B,C)と抗PMP−22ポリクローナル抗体(D,E,F)を用いて二重蛍光免疫染色した組織の顕微鏡写真である。左側が頭側、右側が尾側、矢印は圧挫部を示す。ShamはSham群を、Contは対照群を、WS−IVは本発明によるウィタノシドIV投与群を示す。なお、G,H,Iは、それぞれAにDを、BにEを、またCにFを重ね合わせたもので観察倍率をあげた写真である。
【図9】抗PMP−22ポリクローナル抗体に対する灰白質及び白質の陽性領域の蛍光強度を示すグラフ図である。
【図10】脊髄損傷後21日目のマウスの胸椎切片をPMP−22ポリクローナル抗体を用いて蛍光免疫染色した組織の顕微鏡写真である。Wは白質部を、Gは灰白質部を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式1の化合物の少なくとも1種を有効成分とする脊髄損傷治療剤。
構造式1
【化1】

(式中、R1及びR2はそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、アルキル基、またはアルコキシ基であり、R3は水素原子、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、または糖残基である。)
【請求項2】
下記構造式2のウィタノシドIVを有効成分とする脊髄損傷治療剤。
構造式2
【化2】

【請求項3】
請求項1又は2に記載の脊髄損傷治療剤を有効成分として含有し、脊髄損傷の回復作用を有する食品・医薬品組成物。
【請求項4】
請求項1若しくは2に記載の脊髄損傷治療剤又は請求項3に記載の食品・医薬品組成物の有効量を投与することを特徴とする脊髄損傷の回復方法。

【図2】
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【図7】
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【図10】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−102226(P2009−102226A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37169(P2006−37169)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年3月30日 社団法人日本薬学会主催の「日本薬学会126年会」において文書をもって発表
【出願人】(000006138)明治乳業株式会社 (265)
【Fターム(参考)】