説明

脚式離岸堤

【課題】必要な消波性能を有しつつも、形状を簡素なものとした脚式離岸堤を提供する。
【解決手段】海底に貫入された脚部2と、脚部2によって海中に固定された上部工1とからなり、上部工1の縦断面は台形状をしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭基礎による脚式の離岸堤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テトラポット等の消波ブロックを積み上げて形成される従来型離岸堤の代わりに、杭基礎による有脚式離岸堤が考案されるようになった。最近用いられている有脚式離岸堤に関する技術例としては、管構造の脚部を有する有脚式離岸堤を設置箇所に据え付けた後、固定のための杭を脚部の内側を通して海底に打ち込み、間隙をグラウトで固定する有脚式離岸堤の据付方法(特許文献1参照)、表面に突起物を有し、海底に打ち込まれた杭によって傾斜した状態で海面付近に固定された板状の上部工からなる有脚式離岸堤(特許文献2参照)、脚部周囲の海底面を覆うように脚部下端に設置されたプレートからなる有脚式離岸堤の洗掘防止装置(特許文献3参照)、海底に打ち込む杭の周囲にゴム製のリングを取り付け、杭に離岸堤の脚部をかぶせた時に脚部の内壁とリングを密着させる有脚式離岸堤の据付方法(特許文献4参照)がある。
【特許文献1】特開2002−121722号公報
【特許文献2】特開2002−138437号公報
【特許文献3】特開2002−146745号公報
【特許文献4】特開2002−060177号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、これらの技術を用いた有脚式離岸堤は、上部工の規模が大きく、かつ形状が複雑であったため、設計、製作に手間がかかるという問題があった。
【0004】
本発明の課題は、必要な消波性能を有しつつも、形状を簡素なものとした脚式離岸堤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、海底に貫入された脚部と、前記脚部によって海中に固定された上部工とからなり、前記上部工の縦断面は台形状をしていることを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の脚式離岸堤であって、前記上部工の縦断面は等脚台形であることを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の脚式離岸堤であって、前記上部工には通水孔が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、上部工の形状が極めて簡素であるため、必要な消波性能を有する脚式離岸堤を容易に設計、製作することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
図1は、脚式離岸堤の一実施形態の構成を示すもので、1は上部工、2は通水孔、3は凹部、4は杭である。上部工1は鉄筋コンクリート製の箱型で、縦断面は等脚台形となっており、沖側、岸側の両壁面が共に傾斜している。上部工1の天端幅は2メートル程で、底面部には後述する杭4を嵌め込む複数個の凹部3が、杭4に対応する位置に設けられている。また、上部工1には、複数の通水孔2が岸と沖を結ぶ方向に、かつ水面下に位置するように、上部工1内部を貫通して設けられている。勿論、通水孔2は後述する杭4の位置を避けて設ける。
【0010】
図2は海中に設置された脚式離岸堤に波が衝突する瞬間の、上部工1に作用する波圧の強度の分布を示している。矢印の長さは作用する波圧の大きさであり、海底から上に向かうに従って波圧は強まり、静水面付近で最も強くなる。
【0011】
脚部である杭4は、海岸から一定距離離れた海底に、複数本一直線に並んで打ち込まれている。杭4の並びはほぼ海岸線に沿ったものとなっている。杭4の上には上部工1が海底面と離間した状態で設けられている。杭4の上部は図1に示すように上部工1の下部の凹部3に嵌め込まれ、上部工1と杭4との間隙はグラウト等の固化剤によって固定されている。消波性能のみを考慮すれば、上部工1を海底に着底させた状態で設置するのが最も効果的であるが、上部工1の沖側と岸側との海水交換を考慮して離間させてある。
【0012】
また、上部工1の高さは設置箇所の水深とほぼ同程度で、上部工1の上から4分の1程度が水面上に露出した状態で設置されている。上部工1が水面から露出していればいる程消波性能は向上するが、設置箇所の諸条件を考慮して適宜変更することができる。例えば、景観への配慮が求められる箇所に設置をしたい場合には、前述のように設置数を増やす等して必要な消波性能を確保した上で、上部工1を水面上に露出させずに用いるといったことも可能である。
【0013】
上部工1は前述の通り、縦断面が等脚台形の箱型という極めて簡素な形状をしており、上部工1の壁面は平らになっている。上部工1に波が到達すると、波は上部工1の壁面に正面から衝突して強制的に砕波されると共に、壁面で反射されるので、上部工1から先に進行する波を大幅に低減させることができる。また、上部工1波が衝突する際に、海水の一部を前述した通水孔2から逃がすことで、水平波力を低減できると共に、海水交換を向上させることができる。
【0014】
また、図2に示す通り、上部工1は下部が厚く、天端に向かうほど薄い構造となっている。上部工1が薄くなる程、上部工1に対して沖側から波圧が作用する時刻と、岸側から波圧が作用する時刻の差が縮まるので、両側からほぼ同時に波圧が作用することになり、双方の波圧をある程度相殺することができる。上部工1は波と衝突して消波するため、通常であれば、上部工1を支える杭4には非常に大きな負担がかかることになるが、この仕組みにより、上部工1の天端付近に作用する大きな波圧を互いに相殺し、上部工1に作用する水平方向の力を小さくすることで、杭4にかかる負担を軽減させることができる。このため、杭4を細くして設計、製作することができると共に、杭4を海底へ打ち込む深さも短くすることができる。
【0015】
ここでは上部工1の天端幅を2メートルとしたが、これは杭4の径によって決定されるべき値なので、設置箇所の波の強さや、海底地盤の条件によって杭4の径が変わる場合には、それに見合った寸法に変更して設計、製作を行えばよい。
【0016】
また、上部工1の縦断面は、前述したように等脚台形となっており、沖側、岸側の両壁面が共に傾斜している。上部工1の壁面に波が衝突したときに、相殺できずに上部工1に作用した波力の一部は、壁面の傾斜によって下向きの力に変えられるので、上部工1が杭4を海底に押し込むように力が作用し、杭4を安定させることができる。
【0017】
なお、以上の実施形態においては、鉄筋コンクリート製の縦断面が等脚台形をした上部工をとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の材質を用いる、沖側と岸側とで壁面の傾斜を変える等の形態であっても良い。
また、上部工と杭の固定方法、上部工の寸法、設置水深、通水孔の有無、通水孔の大きさ、数、形状等も任意であり、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明を適用した脚式離岸堤の一実施形態の構成を示す断面図である。
【図2】図1の上部工に波が衝突する瞬間の、上部工に作用する波圧の強度を示す断面図である。
【符号の説明】
【0019】
1 上部工
2 通水孔
3 凹部
4 杭(脚部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底に貫入された脚部と、前記脚部によって海中に固定された上部工とからなり、前記上部工の縦断面は台形状をしていることを特徴とする脚式離岸堤。
【請求項2】
前記上部工の縦断面は等脚台形であることを特徴とする請求項1に記載の脚式離岸堤。
【請求項3】
前記上部工には通水孔が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の脚式離岸堤。

【図1】
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【図2】
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