説明

脱ユビキチン化酵素およびユビキチン化ポリペプチドを調節するための方法および材料

本明細書は、脱ユビキチン化酵素(例えば、USP10ポリペプチド)および/またはユビキチン化ポリペプチド(例えば、腫瘍抑制因子ポリペプチド、もしくは腫瘍抑制因子ポリペプチドの変異体型)を調節することに関与する方法および材料に関する。例えば、脱ユビキチン化酵素(例えば、USP10ポリペプチド)発現または活性を増加させるための方法および材料、脱ユビキチン化酵素(例えば、USP10ポリペプチド)発現または活性を低下させるための方法および材料、腫瘍抑制因子ポリペプチド(例えば、野生型p53ポリペプチド)を安定化させるための方法および材料、腫瘍抑制因子ポリペプチドの変異体型(例えば、変異型p53ポリペプチド)を脱安定化させるための方法および材料、ならびにがん細胞増殖を低減する、がん細胞アポトーシスを増加させる、および/またはがん(例えば、低下したレベルの野生型p53ポリペプチドを有するがん、もしくは増加したレベルの変異型p53ポリペプチドを有するがん)を治療するための方法および材料を提供する。本明細書はまた、p53ポリペプチドのUSP10ポリペプチド仲介型安定化のアゴニストまたはアンタゴニストを同定するための方法および材料も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2009年11月12日に出願された米国特許仮出願第61/260,637号、および2009年9月10日に出願された米国特許仮出願第61/241,152号の恩典を主張する。先行出願の開示は、本願の開示の一部と考慮される(また、参照により組み入れられる)。
【0002】
1. 技術分野
本明細書は、脱ユビキチン化酵素およびユビキチン化ポリペプチド(例えば、野生型p53ポリペプチド等の腫瘍抑制因子)を調節することに関与する方法および材料に関する。例えば、本明細書は、脱ユビキチン化酵素の発現または活性を増加または低下させるための方法および材料、ユビキチン化ポリペプチドを安定化または脱安定化させるための方法および材料、ならびにがんを治療するための方法および材料に関する。
【背景技術】
【0003】
2. 背景情報
p53は、ヒトのがんのうち50%を上回るがんで変異している腫瘍抑制因子であり、その主な機能は、細胞ストレス後の細胞の運命を調節し、および損傷した細胞の増殖を抑止することである(Lane, 1992;Rileyら, 2008;Vogelsteinら, 2000)。p53は、転写因子として機能し、その標的遺伝子を介して、細胞老化から、エネルギー代謝、DNA修復、細胞分化、細胞周期の進行、およびアポトーシスまで様々な細胞機能を調節する。転写の活性化に加えて、p53は、腫瘍発生に関係するタンパク質であるCD44の抑制の場合と同様に、転写のリプレッサーとしても作用し得る(Godarら, 2008)。最後に、p53は、タンパク質-タンパク質相互作用を介したアポトーシスを調節する等、転写非依存性機能も有する(Mollら, 2005)。
【発明の概要】
【0004】
概要
本明細書は、脱ユビキチン化酵素(例えば、USP10ポリペプチド)および/またはユビキチン化ポリペプチド(例えば、腫瘍抑制因子ポリペプチド、もしくは腫瘍抑制因子ポリペプチドの変異体型)を調節することに関与する方法および材料に関する。例えば、本明細書は、脱ユビキチン化酵素(例えば、USP10ポリペプチド)発現または活性を増加させるための方法および材料、脱ユビキチン化酵素(例えば、USP10ポリペプチド)発現または活性を低下させるための方法および材料、腫瘍抑制因子ポリペプチド(例えば、野生型p53ポリペプチド)を安定化させるための方法および材料、腫瘍抑制因子ポリペプチドの変異体型(例えば、変異型p53ポリペプチド)を脱安定化させるための方法および材料、ならびにがん細胞の増殖を低減する、がん細胞のアポトーシスを増加させる、および/またはがん(例えば、低下したレベルの野生型p53ポリペプチドを有するがん、もしくは増加したレベルの変異型p53ポリペプチドを有するがん)を治療するための方法および材料を提供する。本明細書はまた、p53ポリペプチドのUSP10仲介型安定化のアゴニストまたはアンタゴニストを同定するための方法および材料も提供する。
【0005】
一部のがん細胞が低下したレベルのp53ポリペプチドを発現し得る一方で、他のがん細胞はp53ポリペプチドの変異体型を平均的なまたは上昇したレベルで発現し得る。本明細書に記載するように、USP10ポリペプチドは、野生型または変異型p53ポリペプチドと相互作用し、脱ユビキチン化して、それらの安定性を増すことができる。低下したレベルの野生型p53ポリペプチドを有するがん細胞の場合、本明細書で提供する方法および材料を使用して、USP10ポリペプチド発現または活性を増加させることにより、野生型p53ポリペプチドの安定性を高めることができる。これにより、がん細胞内での野生型p53ポリペプチドのレベルが増加し、がん細胞増殖の低下およびがん細胞アポトーシスの増加をもたらし得る。変異型p53ポリペプチドを発現するがん細胞の場合、本明細書で提供する方法および材料を使用して、USP10ポリペプチド発現または活性を低下させることにより、変異型p53ポリペプチドの安定性を低下させることができる。これにより、がん細胞内での変異型p53ポリペプチドのレベルが低下し、がん細胞増殖の低下およびがん細胞アポトーシスの増加をもたらし得る。
【0006】
概して、本明細書の一局面は、がん細胞を有する哺乳動物におけるがん細胞増殖を低下させる方法を特徴とする。本方法は、以下の工程を含むか、またはそれにより本質的に構成される:組成物ががん細胞内のUSP10ポリペプチド発現または活性を調節する条件下で、哺乳動物に該組成物を投与する工程であって、それによりがん細胞増殖を低下させる工程。がん細胞は、低下したレベルの野生型p53ポリペプチド発現を有する可能性があり、前記組成物はUSP10ポリペプチド発現または活性を増加させることができる。組成物は、USP10ポリペプチドをコードする核酸を含み得る。前記組成物は、SEQ ID NO:2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸を含み得る。がん細胞は、p53ポリペプチドの変異体型を発現する可能性があり、前記組成物は、USP10ポリペプチド発現または活性を低下させることができる。前記組成物は、p53ポリペプチドのUSP10ポリペプチド仲介型安定化のアンタゴニストを含み得る。アンタゴニストは、USP10ポリペプチドの発現に対してRNA干渉を誘導する能力を有する核酸を含み得る。USP10ポリペプチドは、ヒトUSP10ポリペプチドであり得る。
【0007】
別の局面では、本明細書は、哺乳動物においてがんを治療するための方法を特徴とする。本方法は、以下の工程を含むか、またはそれらにより本質的に構成される:(a)低下したレベルの野生型p53ポリペプチドを発現するか、または変異型p53ポリペプチドを発現するがん細胞を有すると哺乳動物を同定する工程;(b)該哺乳動物が、低下したレベルの野生型p53ポリペプチドを発現するがん細胞を有すると同定された場合に、USP10ポリペプチド、または該がん細胞におけるUSP10ポリペプチド発現もしくは活性を増加させる組成物を投与する工程;および(c)該哺乳動物が変異型p53ポリペプチドを発現するがん細胞を有すると同定された場合に、該がん細胞におけるUSP10ポリペプチド発現または活性を低下させる組成物を投与する工程。
【0008】
別の局面では、本明細書は、p53ポリペプチドのUSP10ポリペプチド仲介型安定化のアンタゴニストを同定する方法を特徴とする。本方法は、試験作用物質の存在下でUSP10ポリペプチドと接触したユビキチン化p53ポリペプチドの安定化レベルが、該試験作用物質の不在下でUSP10ポリペプチドと接触したユビキチン化p53ポリペプチドの安定化レベルを下回るかどうかを判定する工程を含むか、またはそれにより本質的に構成され、該試験作用物質の不在下でUSP10ポリペプチドと接触したユビキチン化p53ポリペプチドの安定化レベルを下回る、該試験作用物質の存在下でUSP10ポリペプチドと接触させたユビキチン化p53ポリペプチドの安定化レベルの存在は、該試験作用物質がアンタゴニストであることを示す。
【0009】
別の局面では、本明細書は、p53ポリペプチドのUSP10ポリペプチド仲介型安定化のアゴニストを同定する方法を特徴とする。本方法は、試験作用物質の存在下でUSP10ポリペプチドと接触したユビキチン化p53ポリペプチドの安定化レベルが、該試験作用物質の不在下でUSP10ポリペプチドと接触したユビキチン化p53ポリペプチドの安定化レベルを上回るかどうかを判定する工程を含むか、またはそれにより本質的に構成され、該試験作用物質の不在下でUSP10ポリペプチドと接触したユビキチン化p53ポリペプチドの安定化レベルを上回る、該試験作用物質の存在下でUSP10ポリペプチドと接触させたユビキチン化p53ポリペプチドの安定化レベルの存在は、該試験作用物質がアゴニストであることを示す。
【0010】
別の局面では、本明細書は、がん細胞のp53遺伝子型を評価するための方法を特徴とする。本方法は、以下の工程を含むか、またはそれらにより本質的に構成される:がん細胞におけるUSP10ポリペプチド発現のレベルを決定する工程;該がん細胞が低下したレベルのUSP10ポリペプチド発現を含む場合に、該がん細胞が野生型p53を有すると診断する工程;および該がん細胞が増加したレベルのUSP10ポリペプチド発現を含む場合に、該がん細胞が変異型p53を有すると診断する工程。
【0011】
特に定義しない限り、本明細書で使用される全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する分野の当業者に一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本発明の実施または試験において、本明細書に記載するものと似ているかまたは等しい方法および材料が使用できるが、適切な方法および材料を以下に記載する。本明細書で言及する全ての文献、特許出願、特許、および他の参照文献は、それらの全体が参照により本明細書に組み入れられる。矛盾した場合には、定義を含めて、本明細書が優先する。さらに、材料、方法、および実施例は例示にすぎず、限定することを意図したものではない。
【0012】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明、および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】USP10はp53と相互作用する。(AおよびD)U20S細胞溶解物を、対照IgGまたは抗USP10抗体との免疫沈降に供した。次いで、免疫沈降物を、抗p53、抗Mdm2、または抗USP10抗体でブロッティングした。(BおよびC)HCT116p53+/+およびp53-/-細胞溶解物を、対照IgG、または抗USP10抗体(B)もしくは抗p53抗体(C)との免疫沈降に供した。次いで、免疫沈降物を、抗p53または抗USP10抗体でブロッティングした。(HC:重鎖)。(E)。精製FLAGタグ付きUSP10を、GSH-セファロースに結合した、GSTまたはGST-p53とインキュベートした。次いで、セファロース上に保持されたタンパク質を、表示の抗体でブロッティングした。(F)FLAGタグ付き完全長(FL)または欠失変異型のUSP10をコードする構築物を、H1299細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、細胞を溶解し、細胞溶解物を、GSH-セファロースに結合した、GSTまたはGST-p53とインキュベートした。セファロース上に保持されたタンパク質を、表示の抗体を用いて分析した。
【図2】USP10は、p53を安定化および脱ユビキチン化する。(A)HCT116細胞を、ベクターまたはFLAGタグ付きUSP10をコードする構築物でトランスフェクトした。48時間後、細胞を溶解し、細胞溶解物を表示の抗体でブロッティングした。(B)HCT116細胞を、shRNAをコードするレンチウイルスに感染させた。72時間後、細胞を溶解し、細胞溶解物を表示の抗体でブロッティングした。(C)HCT116細胞は、対照shRNA、USP10 shRNA、またはshRNA耐性USP10およびUSP10 shRNAを安定して発現していた。細胞を、シクロヘキシミド(0.1 mg/mL)で処理し、表示の時間に回収した。上のパネルは、p53およびUSP10の免疫ブロットを示す。β-アクチンを対照として含めた。下のパネル:β-アクチンに対するp53タンパク質レベルの定量化。(D)HCT116細胞を、表示のプラスミドでトランスフェクトした。48時間後、細胞を溶解し、細胞溶解物を表示の抗体でブロッティングした。(E〜G)USP10によるインビボでのp53ユビキチン化レベルの調節。表示の構築物(E)、または安定的に発現している対照もしくはUSP10 shRNA(F)でトランスフェクトされたH1299細胞をFLAG-p53でトランスフェクトした。48時間後、細胞を、回収前にMG132で4時間処理した。p53を抗FLAG抗体で免疫沈降させ、抗p53抗体で免疫ブロッティングした。(G)USP10によるインビトロでのp53の脱ユビキチン化。ユビキチン化p53を、精製USP10またはUSP10CAでインビトロにてインキュベートし、抗p53抗体でブロッティングした。
【図3】USP10によるp53の細胞内局在性の調節。(A)USP10、およびユビキチン特異的プロテアーゼであるHAUSPの細胞内局在性。U20S細胞を、FLAG-USP10またはFLAG-HAUSPをコードする構築物でトランスフェクトした。48時間後、細胞を固定し、表示の抗体およびDAPIで染色した。(B)H1299細胞を、表示の構築物で共トランスフェクトした。48時間後、細胞を、MG132で処理し、回収し、本明細書に記載のように分画した。次いで、細胞画分を表示の抗体でブロッティングした。(C、細胞質;N、核)。細胞質マーカータンパク質(GAPDH)および核マーカータンパク質(ヒストン3)を対照として使用して、分画化の質を確認した。(C)H1299細胞を表示の構築物でトランスフェクトした。48時間後、細胞をMG132で処理し、固定し、表示の抗体およびDAPIで染色した。(D)U20S細胞を、対照shRNAまたはUSP10 shRNAをコードするレンチウイルスに感染させた。72時間後、細胞を、MG132で処理し、固定し、表示の抗体またはDAPIで染色した。(C〜D)右パネル:異なるp53細胞内局在性を有する細胞の定量化。Nuc:核のみ;Cyto + Nuc:細胞質および核の両方。データは3つの実験の平均を表し、それぞれの実験において150の細胞をモニタリングした。
【図4】p53仲介型転写活性、細胞増殖抑止、およびアポトーシスに対するUSP10の影響。(A)p21プロモーターに対するp53レポーター構築物を、表示の構築物で共トランスフェクトして、HCT116p53+/+およびHCT116p53-/-細胞を得た。次いで、レポーター活性を、本明細書に記載のように確認した。(B)対照shRNAまたはUSP10 shRNAを安定して発現しているHCT116p53+/+およびHCT116p53-/-細胞において、p53レポーターアッセイを行った。(C)H1299細胞を、表示の構築物でトランスフェクトした。48時間後、アポトーシス細胞を本明細書に記載の通り判別した。(D)対照shRNAまたはUSP10 shRNAを安定して発現しているHCT116p53+/+およびHCT116p53-/-細胞をプレーティングした後、細胞増殖を表示の時間に定量した。(E)対照shRNA、USP10 shRNA、またはshRNA耐性USP10およびUSP10 shRNAを安定して発現しているHCT116p53+/+およびHCT116p53-/-細胞を用いて、軟寒天コロニー形成アッセイを行った。右パネル:軟寒天にて形成されたコロニーの定量化。バー、400μm(A〜E)。エラーバーは、三重実験の平均±SEMを表す。**は、P < 0.01 両側スチューデントt検定を表す。
【図5】USP10は、DNA損傷後に、核に移行し、p53活性を制御する。(A)対照shRNAまたはUSP10 shRNAを安定して発現しているHCT116細胞を照射し(10Gy)、表示の時間に細胞を回収した。次いで、細胞溶解物を表示の抗体でブロッティングした。(B)HCT116細胞を、未処理のままか、または10Gy照射で処理した。4時間後、細胞を抗USP10抗体で染色した。(C)HCT116細胞を、照射(10Gy)するか、または未処理のままにした。4時間後、細胞を回収し、本明細書に記載のように分画化した。次いで、細胞画分を、表示の抗体でブロッティングした。(D)対照shRNAまたはUSP10 shRNAを安定して発現しているHCT116p53+/+またはp53-/-細胞を、未処理のままか、または10Gy照射で処理した。48時間後、アポトーシス細胞を、本明細書に記載のように判別した。エラーバーは三重実験の平均±SEMを表す。**は、P < 0.01両側スチューデントt検定を表す。(E)(D)と同じ細胞を10Gy照射で処理した後、表示の時間に回収した。細胞周期進行をFACSにより検査した。
【図6】ATM によるUSP10リン酸化は、DNA損傷後の、USP10安定化、移行、およびp53 活性化を制御する。(A)HCT116細胞を照射し(10Gy)、表示の時間に回収した。その後、細胞溶解物およびmRNAを抽出し、それぞれウェスタンブロットまたはRT-PCRにより分析した。(B)HCT116細胞を未処理のままか、または照射した。その後、細胞を、シクロヘキシミド(0.1mg/mL)で処理し、表示の時間に回収した。その後、細胞溶解物を、表示の抗体でブロッティングした。(C)HCT116細胞を、FLAGタグ付きUSP10でトランスフェクトした。48時間後、細胞を未処理のままか、または10Gy照射、40J/m2 UV、もしくは20mMエトポシドで処理した。さらに1時間後に、細胞を回収した。細胞溶解物を、抗FLAG抗体での免疫沈降に供し、リン酸化SQ/TQ(pSQ/TQ)抗体で免疫ブロッティングした。(D)HCT116細胞を、FLAGタグ付きUSP10でトランスフェクトし、DMSO、25mM Ku55933、または3mMカフェインで前処理した。2時間のインキュベーションの後、細胞を未処理のままか、または10Gy照射で処理した。USP10のリン酸化を、(C)と同様に検査した。(E)ATM+/+またはATM-/-細胞を照射するか(10Gy)、または未処理のままにした。1時間後、細胞を回収し、細胞溶解物を、抗USP10抗体での免疫沈降に供し、pSQ/TQ抗体でブロッティングした。(F)ATM+/+またはATM-/-細胞を未処理のままか、または照射(10Gy)し、表示の時間に回収した。その後、細胞溶解物を表示の抗体でブロッティングした。(G)USP10 shRNAを安定して発現しているHCT116細胞を、shRNA耐性FLAGタグ付きUSP10WT(野生型)、T42A、S337Aまたは2SA(T42AおよびS337A二重突然変異)で再構成した。細胞を、未処理のままか、照射(10Gy)し、表示の時間に回収した。その後、細胞溶解物を、表示の抗体でブロッティングした。(H)USP10 shRNAを安定して発現しているHCT116細胞を、shRNA耐性FLAGタグ付きUSP10WT、または2SAで再構成した。細胞を、未処理のままか、または10Gy照射で処理した。USP10リン酸化をpSQ/TQ抗体により検査した。(I)(H)と同様の細胞を、照射(10Gy)するか、未処理のままにした。4時間後、細胞を回収し、本明細書に記載のように分画した。(J)(H)と同様の細胞を、未処理のままか、または照射した(10Gy)。細胞を、表示の時間に回収し、細胞溶解物を表示の抗体でブロッティングした。(K)(H)と同様の細胞を、未処理のままか、または照射した。48時間後にアポトーシス細胞を判別した。
【図7】USP10は腎細胞癌においてダウンレギュレーションされる。(A)ヒト尿細管上皮細胞株(HK-2)および腎細胞癌(RCC)細胞株におけるUSP10およびp53の発現。(B)11対の新鮮な冷凍RCC組織、および対応する正常組織を溶解し、細胞溶解物を表示の抗体でブロッティングした(N:正常組織;T:腫瘍組織)。(C)正常な腎組織および腎細胞癌中のUSP10の免疫組織化学染色。下の表:USP10陽性またはUSP10陰性腎細胞癌の症例の定量化。(ccRCC:明細胞型腎細胞癌)。(D〜E)S/FLAG-USP10を安定して発現しているCAKI-1およびCAKI-2細胞(D)、ならびにS/FLAG-USP10またはUSP10 shRNAを安定して発現している786-O細胞(E)を用いて、軟寒天コロニー形成アッセイを行った。下のパネル:軟寒天に形成されたコロニーの定量化。エラーバーは、三重実験の平均±SEMを表す。**は、P < 0.01両側スチューデントt検定を表す。バーは、400μmを表す。(F)USP10がp53をどのように調節するかを示すモデルの模式図。
【図8】(A)対照またはUSP10 shRNAで安定してトランスフェクトされたH1299細胞を、GFP-p53でトランスフェクトした。48時間後、細胞をMG132で処理し、固定し、表示の抗体およびDAPIで染色した。右のパネル:異なるp53細胞内局在性を有する細胞の定量化。Nuc:核のみ;Cyto+nuc:細胞質および核の両方。データは3つの実験の平均を表し、それぞれの実験において150の細胞をモニタリングした。(B)図6Hと同様の細胞を、未処理のままか、または10Gy照射で処理した。4時間後、細胞を固定し、抗FLAG抗体またはDAPIで染色した。右のパネル:異なるUSP10細胞内局在性を有する細胞の定量化。Cyto:細胞質のみ;Cyto+Nuc:細胞質および核。データは、3つの実験の平均を表し、それぞれの実験において150の細胞をモニタリングした。(C)図7D〜Eと同様の細胞を溶解し、細胞溶解物を表示の抗体でブロッティングした。
【図9】ヒトUSP10ポリペプチドをコードする核酸配列(SEQ ID NO:1)の表。
【図10】ヒトUSP10ポリペプチドのアミノ酸配列(SEQ ID NO:2)の表。
【図11】ヒトUSP10ポリペプチドをコードする核酸を標的化できるshRNAの一覧を含む。
【図12】ヒトp53ポリペプチドをコードする核酸配列(SEQ ID NO:3)の表。
【図13】ヒトp53ポリペプチドのアミノ酸配列(SEQ ID NO:4)の表。
【図14】ヒトp53ポリペプチドの変異体型をコードする核酸配列(SEQ ID NO:5)の表。
【図15】ヒトp53ポリペプチドの変異体型のアミノ酸配列(SEQ ID NO:6)の表。
【図16】膵臓がん細胞株(A)、乳がん細胞株(B)、および膵臓組織(C)におけるβ-アクチンおよびUSP10ポリペプチドについてのウェスタンブロットの写真を含む。Nは正常組織を表し、Tは腫瘍組織を表す。
【図17】図17Aは、表示量のUSP10ポリペプチド(μg)とのインキュベーションの後に観察されたUb-AMCの脱ユビキチン化レベルをプロットした濃度曲線グラフである。図17Bは、4μg/mLのUSP10ポリペプチドおよび表示した化合物の存在下(右)または不在下(左)でのUb-AMCの脱ユビキチン化レベルをプロット化 したグラフである。
【図18】HCT116細胞溶解物の抗USP10ポリペプチド抗体(または対照抗体、IgG)での免疫沈降の写真であり、抗G3BPlポリペプチド抗体または抗USP10ポリペプチド抗体で免疫ブロッティングした。
【図19】図19Aは、USP10ポリペプチド(例えば、完全長および完全長USP10ポリペプチドの断片)の模式図であり、表はG3BP1ポリペプチドおよびp53ポリペプチドの両方がUSP10ポリペプチドのN末端領域(例えば、1〜100アミノ酸)と相互作用することを示している。図19Bは、抗p53ポリペプチド抗体(または対照抗体、IgG)でのHCT116細胞溶解物の免疫沈降の写真であり、抗USP10ポリペプチド抗体、抗p53ポリペプチド抗体、または抗G3BPl ポリペプチド抗体で免疫ブロッティングした。MG132、および対照shRNA(対照)またはG3BP1ポリペプチド発現を低減するように設計されたshRNA(G3BP1)のいずれかで処理された細胞から、HCT116細胞溶解物を得た。図19Cは、抗p53ポリペプチド抗体(または対照抗体、IgG)でのHCT116細胞溶解物の免疫沈降の写真であり、抗USP10ポリペプチド抗体、抗p53ポリペプチド抗体、または抗FLAG抗体で免疫ブロッティングした。MG132、および対照ベクター(ベクター)またはG3BP1 ポリペプチドを過剰発現するように設計されたベクター(FLAG-G3BP1)のいずれかで処理された細胞から、HCT116細胞溶解物を得た。
【図20】抗FLAG抗体、抗USP10ポリペプチド抗体、抗p53ポリペプチド抗体、または抗β-アクチン抗体で免疫ブロッティングされたHCT116細胞溶解物の写真である。空ベクター(ベクター)、G3BP1 ポリペプチドを過剰発現するように設計されたベクター(FLAG-G3BP1)、またはG3BP2ポリペプチドを過剰発現するように設計されたベクター(FLAG-G3BP2)でトランスフェクトされた、対照構築物(対照)またはUSP10ポリペプチド発現を低減するように設計されたshRNA構築物(USP10)のいずれかで安定してトランスフェクトされた細胞から、HCT116細胞溶解物を得た。
【図21】対照、またはUSP10ポリペプチドの発現を低減するように設計されたshRNA構築物(USP10 shRNA)のいずれかを安定して発現しており、対照ベクター(ベクター)またはFLAG-G3BP1構築物(G3BP1)でトランスフェクトされたHCT116細胞について、細胞増殖(1日目の細胞数を1とした場合の増殖倍数)、対、時間(日)をプロットしたグラフである。
【図22】抗USP10ポリペプチド抗体(または対照抗体、IgG)でのHCT116細胞溶解物の免疫沈降の写真であり、抗G3BPlポリペプチド抗体および抗USP10ポリペプチド抗体で免疫ブロッティングした。HCT116細胞溶解物は、未処理細胞または、10Gy照射で処理した細胞から得た。
【発明を実施するための形態】
【0014】
詳細な説明
本明細書は、脱ユビキチン化酵素(例えば、USP10ポリペプチド)および/またはユビキチン化ポリペプチド(例えば、腫瘍抑制因子ポリペプチド、または腫瘍抑制因子ポリペプチドの変異体型)を調節することに関与する方法および材料に関する。例えば、本明細書は、脱ユビキチン化酵素(例えば、USP10ポリペプチド)発現または活性を増加させる方法および材料、脱ユビキチン化酵素(例えば、USP10ポリペプチド)発現または活性を低下させる方法および材料、腫瘍抑制因子ポリペプチド(例えば、野生型p53ポリペプチド)を安定化する方法および材料、腫瘍抑制因子ポリペプチド(例えば、変異型p53ポリペプチド)の変異体型を脱安定化させる方法および材料、ならびにがん細胞増殖を低下させる、がん細胞アポトーシスを増加させる、および/またはがん(例えば、低下したレベルの野生型p53ポリペプチドを有するがん、もしくは増加したレベルの変異型p53ポリペプチドを有するがん)を治療する方法および材料を提供する。本明細書はまた、p53ポリペプチドのUSP10仲介型安定化のアゴニストまたはアンタゴニストを同定する方法および材料を提供する。
【0015】
一態様において、本明細書は、がんを患う哺乳動物(例えば、ヒト)を治療することに関する方法および材料を提供する。本明細書に記載のように治療できる哺乳動物の例として、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ラット、およびマウスが挙げられるがこれらに限定されない。本明細書に記載のように治療できるがんの例としては、腎がん(例えば、腎細胞癌)、膵臓がん、乳がん、および神経膠腫が挙げられるがこれらに限定されない。哺乳動物は、任意の適切ながん診断技術を用いてがんを患っていると同定され得る。場合によって、がんが低下したレベルのp53ポリペプチド(例えば、野生型p53ポリペプチド)を有するがんであるかどうかを判定するために、がんは評価され得る。任意の適切な方法を使用して、がん細胞内のp53ポリペプチドのレベルを評価できる。例えば、RT-PCRもしくはマイクロアレイアッセイ等の核酸検出技術を使用してがん細胞内のp53mRNAのレベルを評価するか、または免疫組織化学もしくはELISA等のポリペプチド検出技術を使用してがん細胞内のp53ポリペプチドのレベルを評価できる。
【0016】
本明細書に記載のように、低下したレベルの野生型p53ポリペプチドを有するがんは、USP10ポリペプチド発現または活性のレベルを増加させることによって治療できる。増加したレベルのUSP10ポリペプチド発現または活性は、がん細胞内の野生型p53ポリペプチドを安定化して、がん細胞増殖の低下およびがん細胞アポトーシスの増加をもたらすことができる。場合によって、がん細胞内のUSP10ポリペプチドのレベルは、USP10ポリペプチドを含む組成物を投与することによって増加させることができる。場合によって、がん細胞内のUSP10ポリペプチド発現または活性のレベルは、USP10ポリペプチドアゴニストまたはUSP10ポリペプチドをコードする核酸をがん細胞に投与することによって増加させることができる。このような核酸は、SEQ ID NO:2に記載のアミノ酸配列を有するヒトUSP10ポリペプチド等の完全長USP10ポリペプチド、またはSEQ ID NO:2に記載の配列のアミノ酸残基520〜793を有する生物学的に活性なUSP10ポリペプチド断片をコードし得る。USP10ポリペプチドまたはその断片をコードする核酸は、任意の適切な方法を用いて哺乳動物に投与することができる。例えば、核酸は、ウイルスベクター等のベクターを用いて哺乳動物に投与することができる。
【0017】
核酸(例えば、USP10ポリペプチドをコードする核酸、またはその断片)を哺乳動物に投与するためのベクターは、当該分野で公知であり、標準の材料(例えば、パッケージング細胞株、ヘルパーウイルス、およびベクター構築物)を用いて調製できる。例えば、Gene Therapy Protocols (Methods in Molecular Medicine), Jeffrey R. Morgan編, Humana Press, Totowa, NJ(2002)、およびViral Vectors for Gene Therapy: Methods and Protocols, Curtis A. Machida編, Humana Press, Totowa, NJ(2003)を参照のこと。ウイルス由来の核酸送達ベクターは、典型的に、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、ヘルペスウイルス、およびパピローマウイルス等の動物ウイルスに由来する。レンチウイルスは、レトロウイルス属であり、細胞(例えば、がん細胞)に感染させるために使用できる。アデノウイルスは、ウイルスの能力を不活化して、正常な溶菌化ライフサイクルにおいて複製可能なように操作され得る直鎖状二本鎖DNAゲノムを含む。がん細胞に感染させるために、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスを使用することができる。
【0018】
核酸送達用のベクターは、ウイルスの病原性を変化または除去するように遺伝子操作され得る。ウイルスのゲノムを改変して、USP10ポリペプチドをコードする核酸またはその断片等の核酸の感染性を増すか、および/またはそのパッケージングに適応させることができる。ウイルスベクターは、複製可能または複製欠損であり得、対応する野生型ウイルスよりも少ない数のウイルス遺伝子を含むか、全くウイルス遺伝子を含まない。
【0019】
USP10ポリペプチドをコードする核酸またはその断片に加えて、ウイルスベクターは、USP10ポリペプチドをコードする核酸、またはその断片に機能的に連結した調節エレメントを含み得る。このような調節エレメントとしては、プロモーター配列、エンハンサー配列、応答エレメント、シグナルペプチド、内部リボソーム侵入配列、ポリアデニル化シグナル、ターミネーター、または核酸の発現(例えば、転写もしくは翻訳)を調節する誘導可能なエレメントが挙げられる。ウイルスベクターに含まれ得るエレメントの選択は、誘導能、標的化、および所望の発現レベル(ただし、これらに限定されない)等の複数の因子に依存する。例えば、プロモーターがウイルスベクターに含まれて、USP10ポリペプチドをコードする核酸、またはその断片が転写され易くしてもよい。プロモーターは構成的であっても、(例えば、テトラサイクリンの存在下で)誘導的であってもよく、USP10ポリペプチドをコードする核酸、またはその断片の発現に、全身的にまたは組織特異的に作用し得る。組織特異的プロモーターとしては、エノラーゼプロモーター、プリオンタンパク質(PrP)プロモーター、およびチロシンヒドロキシラーゼプロモーターが挙げられるがこれらに限定されない。
【0020】
本明細書で使用する「機能的に連結された」とは、コードされたポリペプチドの発現を可能または容易にするような、核酸に対するベクターにおける調節エレメントの配置を指す。例えば、ウイルスベクターは、ニューロン特異的エノラーゼプロモーターおよびUSP10ポリペプチドをコードする核酸、またはその断片を含み得る。この場合、エノラーゼプロモーターは、ニューロン腫瘍細胞において転写を推進するように、USP10ポリペプチドをコードする核酸、またはその断片に機能的に連結している。
【0021】
USP10ポリペプチドをコードする核酸、またはその断片は、非ウイルスベクターを用いてがん細胞に投与されてもよい。核酸送達のために非ウイルスベクターを用いた方法は、当業者に公知である。例えば、Gene Therapy Protocols(Method s in Molecular Medicine), Jeffrey R. Morgan編, Humana Press, Totowa, NJ(2002)を参照のこと。例えば、USP10ポリペプチドをコードする核酸もしくはその断片を含む核酸分子(例えば、プラスミド)の直接注射(例えば、腫瘍内注射)により、または脂質、高分子、もしくはナノ粒子と複合体化した核酸分子を投与することにより、USP10ポリペプチドをコードする核酸またはその断片を哺乳動物に投与してもよい。
【0022】
USP10ポリペプチドをコードする核酸、またはその断片は、一般的な分子クローニング、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、化学核酸合成技術、およびそのような技術の組み合わせを含む(ただし、これらに限定されない)標準の技術により生成され得る。例えば、PCRまたはRT-PCRを、USP10ポリペプチドをコードする核酸(例えば、ゲノムDNAもしくはRNA)、またはその断片を増幅するように設計されたオリゴヌクレオチドプライマーと共に使用してもよい。
【0023】
場合によって、USP10ポリペプチドをコードする核酸またはその断片は、健康な哺乳動物、またはがんを患う哺乳動物から単離され得る。例えば、SEQ ID NO:2に記載のアミノ酸配列を有する野生型USP10ポリペプチドをコードする核酸が、その核酸を含むヒトから単離され得る。その後、単離された核酸を使用してウイルスベクターを作製でき、例えば、これを哺乳動物に投与して、哺乳動物内のがん細胞におけるUSP10ポリペプチドまたはその断片のレベルを増加できる。
【0024】
場合によって、がんを評価して、それがp53ポリペプチドの変異体型を発現するがんであるかどうかを判定できる。変異型p53ポリペプチドの例としては、他に記載されている("The UMD-p53 database: New mutations and analysis tools," Christophe BeroudおよびThierry Soussi, Human Mutation, Volume 21: p.176-181;ならびにBerglindら, Cancer Biol. Ther., 7(5): 699-708 (2008))アミノ酸配列を有するものが挙げられるが、これらに限定されない。任意の適切な方法を使用して、p53ポリペプチドの変異体型についてがん細胞を評価できる。例えば、RT-PCRもしくはマイクロアレイアッセイ等の核酸検出技術を使用してp53ポリペプチドの変異体型についてがん細胞を評価するか、または免疫組織化学もしくはELISA等のポリペプチド検出技術を使用してp53ポリペプチドの変異体型についてがん細胞を評価できる。
【0025】
本明細書に記載のように、USP10ポリペプチド発現または活性のレベルを低下させることにより、p53ポリペプチドの変異体型を発現しているがんを治療できる。低下したレベルのUSP10ポリペプチド発現または活性は、がん細胞内の変異型p53ポリペプチドを脱安定化して、がん細胞増殖の低下、およびがん細胞アポトーシスの増加をもたらすことができる。場合によって、USP10ポリペプチドアンタゴニストをがん細胞に投与することによって、がん細胞内のUSP10ポリペプチド発現または活性のレベルを低下できる。細胞内でのUSP10ポリペプチド活性のレベルを低下または阻害する能力を有し得るUSP10ポリペプチドアンタゴニストの例として、N-エチルマレイミド、Z-phe-ala-フルオロメチルケトン、キモスタチン、E-64(trans-エポキシスクシニル-L-ロイシルアミド(4-グアニジノ)ブタン、E-64d((2S、3S)-trans-エポキシスクシニル-L-ロイシルアミド-3-メチルブタンエチルエステル)、アンチパインジヒドロクロライド、シスタチン、およびシアノ-イデノピラジン(indenopyrazine)誘導体が挙げられるがこれらに限定されない。場合によって、USP10ポリペプチドアンタゴニストは、RNA干渉(例えば、RNAi分子またはshRNA分子)を誘導するように設計された核酸分子であり得る。このようなshRNA分子の例としては、図11に記載されるものが挙げられるが、これらに限定されない。USP10ポリペプチド発現に対してRNA干渉を誘導するように設計された核酸分子は、本明細書に記載の方法を含む(ただし、これらに限定されない)任意の適切な方法を用いて哺乳動物に投与され得る。例えば、USP10ポリペプチド発現に対してRNA干渉を誘導するように設計された核酸は、ウイルスベクター等のベクターを用いて哺乳動物に投与され得る。
【0026】
場合によって、G3BP1ポリペプチド(RasGap Sh3ドメイン結合タンパク質1としても知られる)等のUSP10ポリペプチド阻害剤を使用して、細胞内のUSP10ポリペプチド活性のレベルを低下または阻害できる。G3BP1ポリペプチドの例としては、ヒトG3BP1ポリペプチド(例えば、GenBank(登録商標)受託番号NM_005754.2(GI No.38327550)またはNM_198395.1(GI No.38327551)に記載の核酸配列にコードされるヒトG3BP1ポリペプチド)、ラットG3BP1ポリペプチド(例えば、GenBank(登録商標)受託番号NM_133565.1(GI No.281306780)に記載の核酸配列にコードされるラットG3BP1ポリペプチド)、およびマウスG3BP1ポリペプチド(例えば、GenBank(登録商標)受託番号NM_013716.2(GI No.118130851)に記載の核酸配列にコードされるマウスG3BP1ポリペプチド)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
場合によって、USP10ポリペプチドアンタゴニストは、非ポリペプチド分子(例えば、shRNAまたはRNAi分子等の核酸由来分子)であり得る。場合によって、USP10ポリペプチドアンタゴニストは、非G3BPlポリペプチド分子(例えば、shRNAまたはRNAi分子等の核酸由来分子)であり得る。
【0028】
本明細書はまた、p53ポリペプチドのUSP10ポリペプチド仲介型安定化のアゴニストまたはアンタゴニストを同定することに関する方法および材料も提供する。例えば、本明細書は、USP10ポリペプチドおよびp53ポリペプチド(例えば、ユビキチン化p53ポリペプチド)を使用して、USP10ポリペプチドがp53ポリペプチドを安定化する能力を増加または低下させる作用物質を同定する方法および材料を提供する。場合によって、試験作用物質の存在下または不在下においてUSP10ポリペプチドで処理したユビキチン化p53ポリペプチドの安定性を評価して、試験作用物質がユビキチン化p53ポリペプチドの安定性を増加または低下したか否かを判定できる。USP10ポリペプチドに依存してユビキチン化p53ポリペプチドの安定性を増加させる作用物質はp53ポリペプチドのUSP10ポリペプチド仲介型安定化のアゴニストであり得、USP10ポリペプチドに依存してユビキチン化p53ポリペプチドの安定性を低下させる作用物質はp53ポリペプチドのUSP10ポリペプチド仲介型安定化のアンタゴニストであり得る。ユビキチン化p53ポリペプチドの安定性は、無傷の完全長ポリペプチドまたは分解ポリペプチドを検出可能なポリペプチドアッセイを使用して評価できる。USP10ポリペプチドアゴニストおよびアンタゴニストは、試験作用物質(例えば、合成化合物ライブラリーおよび/または天然生成物ライブラリー由来)をスクリーニングすることによって同定できる。試験作用物質は、任意の商業的供給源から得てもよし、当業者に公知の方法を使用して化学的に合成されてもよい。試験作用物質は、インビトロ細胞に基づくアッセイ、無細胞アッセイ、および/またはインビボ動物モデルを使用してスクリーニングおよび特徴決定できる。
【0029】
USP10アゴニストまたはアンタゴニストは、精製Hisタグ付きUSP10ポリペプチドおよび基質としてユビキチン-AMC(BIOMOL)を使用することを含むインビトロスクリーニングを使用して同定できる。ユビキチン-AMCは、幅広い脱ユビキチン化酵素に対する蛍光発生基質である(Dangら, Biochemistry, 37: 1868(1998))。この蛍光物質は、USP10アゴニストおよびアンタゴニストのインビトロでのハイスループットスクリーニングを可能にする。
【0030】
場合によって、USP10ポリペプチドの発現レベルを使用して、がん細胞のp53遺伝子型を評価できる。例えば、増加したレベルのUSP10ポリペプチド発現を有するがん細胞の同定はがん細胞が変異型p53を含むことを示し、低下したレベルのUSP10ポリペプチド発現を有するがん細胞の同定はがん細胞が野生型p53を含むことを示し得る。
【0031】
本発明を、以下の実施例においてさらに説明するが、これらの実施例は特許請求の範囲に記載の本発明の範囲を限定しない。
【実施例】
【0032】
実施例1- USP10は、p53を脱ユビキチン化することで、p53局在性および安定性を調節する
細胞培養物、プラスミド、および抗体
H1299、HCT116p53+/+、HCT116p53-/-、U20S、およびHEK293細胞を、10% FBSを追加したRPMI中で培養した。Caki-1およびCaki-2細胞を、10% FBSで補ったマッコイ5A中で培養した。A-498細胞を、10% FBSを追加したMEM中で培養した。786-Oおよび769-P細胞を、10% FBSを追加したDMEM中で培養した。ATM+/+およびATM-/-MEFを、15% FBSを追加したDMEM中で培養した。
【0033】
USP10をp3xFLAG-CMVベクター(Sigma)およびpET-28aベクター(Novagen)にクローニングした。Mdm2を、pCMV-HAベクター(Clontech)にクローニングした。p53を、pCMV-Mycベクター(Clontech)にクローニングした。pBABE-S/FLAG/SBP(ストレプトアビジン結合ペプチド)タグ付きUSP10を、InvitrogenのGateway Systemを使用して構築した。pcDNA3-FLAG-p53(Dr. T. Roberts提供のAddgeneプラスミド10838)(Gjoerupら, J. Virol, 75:9142-9155(2001))、GFP-p53(Dr. T. Jacks提供のAddgeneプラスミド12091)(Boydら, Nat. Cell Biol, 2:563-568(2000))、GST-p53(Dr. PM Howley提供のAddgeneプラスミド10852)(Huibregtseら, Embo J., 10:4129-4135(1991))、p21プロモーターA(Dr. B. Vogelstein提供のAddgeneプラスミド16462)(el-Deiryら, Cancer Res., 55:2910-2919(1995))、ならびにpCI-neo Flag HAUSP(Dr. B. Vogelstein提供のAddgeneプラスミド16655)(CumminsおよびVogelstein, Cell Cycle, 3:689-692(2004))をAddgeneから得た。部位特異的突然変異誘発(Stratagene)により欠失変異体を生成した。
【0034】
ウサギをGST-USP10(アミノ酸1〜200)で免疫化して、ウサギ抗USP10抗体を生じさせた。抗血清を、Amino Link Plus固定化および精製キット(Pierce)でアフィニティー精製した。抗FLAG(m2)および抗HA抗体をSigmaから購入した。抗p53(DO-1)抗体をSantaCruzから購入した。抗MDM2モノクローナル抗体をCalbiochemから購入した。
【0035】
RNA干渉
SEQ ID NO:7および8に記載の配列を有するUSP10 shRNAをOpenbiosystems(RHS4533-NM_005153)から購入した。OpenBiosystemsが提供している市販プロトコールを使用して、他に記載されているように(Moffatら, Cell, 124:1283-1298(2006);Stewartら, RNA, 9:493-501(2003);Zuffereyら, Nat. Biotechnol., 15:871-85(1997);Zuffereyら, J. Virol., 72:9873-80(1998);ならびにYamamotoおよびTsunetsugu-Yokota, Curr. Gene Ther., 8(1): 1-8(2008))、レンチウイルスUSP10 shRNAを作製した。簡潔に言えば、293T細胞(80%密集度)を、パッケージングプラスミド(1.5μg)およびエンベローププラスミド(1.5μg)と共に、pLKO.lベクター(3μg)で、リポフェクタミン2000を使用してトランスフェクトした。20時間後に培地を変えた(30% FBS含有RPMI培地)。さらに24時間および48時間後にウイルスを含む上清を回収し、濾過した(0.45μm低タンパク質結合フィルター)。細胞を、8μg/mLポリブレンの存在下でウイルスに感染させた。
【0036】
共免疫沈降アッセイ
細胞を、50mMβ-グリセロリン酸、10mM NaF、ならびに各1 mg/mLのペプスタチンAおよびアプロチニンを含むNETN緩衝液(20mM Tris-HCl、pH 8.0、100mM NaCl、1mM EDTA、0.5% Nonidet P-40)で溶解した。遠心分離により得た全細胞溶解物を、2μgの抗体およびタンパク質Aまたはタンパク質Gセファロースビーズ(Amersham Biosciences)と2時間4℃にてインキュベートした。その後、免疫複合体をNETN緩衝液で3回洗浄し、SDS-PAGEにより分離した。標準の手順に従って、免疫ブロッティングを行った。
【0037】
GSTプルダウン
GST融合タンパク質を、他に記載されている標準のプロトコール(EinarsonおよびOrlinick, Identification of Protein-Protein Interactions with Glutathione S-Transferase Fusion Proteins. Protein-Protein Interactions:A Molecular Cloning Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, pp.37-57(2002)に掲載;Einarson, Detection of Protein-Protein Interactions Using the GST Fusion Protein Pulldown Technique. Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, pp.18.55-18.59(2001)に掲載;ならびにVikisおよびGuan, Glutathione-S-Transferase-Fusion Based Assays for Studying Protein-Protein Interactions. Protein-Protein Interactions, Methods and Applications, Methods in Molecular Biology, 261, Fu, H. Ed. Humana Press, Totowa, N.J., pp.175-186(2004)に掲載)に従って調製した。インビトロ結合アッセイについては、GSHセファロースに結合したp53GST融合タンパク質を、細胞溶解物とインキュベートした。洗浄後、結合したタンパク質をSDS-PAGEで分離し、表示の抗体で免疫ブロッティングした。
【0038】
タンパク質安定性アッセイ
シクロヘキシミドをSigmaから購入した。タンパク質代謝回転分析については、シクロヘキシミドを0.1mg/mLの最終濃度で細胞培養培地に添加し、表示の時点で、細胞を回収した。その後、細胞を溶解し、細胞溶解物をSDS-PAGEで分離し、ウェスタンブロットで分析した。
【0039】
インビボおよびインビトロでのp53のユビキチン化
原則的には他に記載されているように(Liら、Nature、416:648-653(2002))、p53のユビキチン化レベルを検出した。インビボ脱ユビキチン化アッセイについては、H1299細胞を、表示のように、FLAG-p53で、または異なる発現ベクターと組み合わせて、トランスフェクトした。48時間後、細胞を、プロテアソーム阻害剤MG132(50μM)で4時間、回収前に処理した。細胞抽出物を、抗FLAG抗体での免疫沈降に供し、抗p53抗体でブロッティングした。
【0040】
インビトロでの脱ユビキチン化アッセイのための基質となる大量のユビキチン化p53を調製するために、HEK293細胞を、FLAG-p53、pCMV-Mdm2、およびHA-UB 発現ベクターと共にトランスフェクトした。上述したような処理の後、抗FLAG-アフィニティーカラムを用いて、FLAG-溶解緩衝液(50mM Tris-HCl pH 7.8、137mM NaCl、10mM NaF、1mM EDTA、1% Triton X-100、0.2%サルコシル、1mM DTT、10%グリセロール、および新鮮なプロテイナーゼ阻害剤)中で、ユビキチン化p53を細胞抽出物から精製した。FLAG溶解緩衝液での広範囲での洗浄の後、タンパク質をFLAGペプチド(Sigma)で溶出した。組換えHis-USP10およびUSP10CAをBL21細胞中で発現させ、His-tag精製カラム(Novagen)上で精製した。インビトロでの脱ユビキチン化アッセイについては、脱ユビキチン化緩衝液(50mM Tris-HCl pH 8.0、50mM NaCl、1mM EDTA、10mM DTT、5%グリセロール)中で2時間37℃にて、ユビキチン化p53タンパク質を組換えUSP10とインキュベートした。
【0041】
細胞分画化
H1299細胞を表示の構築物でトランスフェクトした。48時間後、細胞を、プロテアソーム阻害剤、MG132(50μM)で、回収前に4時間処理した。細胞質および不明瞭な画分をParisキット(Ambion)を用いて分離した。
【0042】
免疫蛍光
p53移行アッセイについて、H1299細胞をガラスカバースリップ上に蒔き、表示のプラスミドでトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、固定の前に、50μMのプロテアソーム阻害剤(MG132)を4時間添加した。次いで、細胞を、4%パラホルムアルデヒド中で10分間室温にて固定し、標準のプロトコールを使用して染色した。
【0043】
ルシフェラーゼアッセイ
HCT116p53+/+およびHCT116p53-/-細胞を、24-ウェルプレート上に8xl04細胞/ウェルで播種した。翌日、細胞を200 ngのp21レポーター構築物および他の表示のプラスミドでトランスフェクトした。内部対照としてpRL-TK(50 ng)を含めた。製造元の指示書(二重ルシフェラーゼレポーターアッセイ系;Promega)に従って、ルシフェラーゼアッセイを行った。ウミシイタケ属(Renilla)ルシフェラーゼ活性で測定されるpRL-TKの発現について、結果を正規化した。
【0044】
細胞増殖アッセイ
MTS試薬(Promega)を、製造元の指示に従って使用して、細胞増殖を分析した。対照shRNAまたはUSP10 shRNAをコードするレンチウイルスに安定して感染したHCT116p53+/+およびHCT116p53-/-細胞(1,000細胞/ウェル)を、96-ウェルプレート上にプレーティングし、10%血清含有培地上で増殖させた。1、2、3、4、8および10日後に細胞増殖を推定した。
【0045】
コロニーおよび軟寒天コロニー形成アッセイ
軟寒天コロニー形成アッセイを、他に記載されているように(Shimら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、94:6658-6663(1997))行った。簡潔に言えば、細胞を、対照、USP10 shRNA、またはFLAGタグ付きUSP10と共にUSP10 shRNAをコードするレンチウイルスに感染させた。その後、細胞を35mm皿に入った0.3%上層アガロースに蒔き、2週間培養した。室温にて光学顕微鏡(ECLIPSE 80i;Nikon)下で、4倍NA0.10対物レンズ(Nikon)を用いてコロニーを数えた。画像を、カメラ(SPOT 2 Megasample;Diagnostic Instruments)で捕捉し、SPOT4.6ソフトウェア(Diagnostic Instruments)を使用して処理した。Adobe PhotoshopおよびIllustratorを使用して、画像を生成した。
【0046】
アポトーシスアッセイ
細胞をPBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒド中で室温にて15分間固定した。DAPI染色のために、細胞を、50μg/mL DAPIで染色した。アポトーシスに典型的な核形態を有するアポトーシス細胞の数を、各サンプル中少なくとも400の細胞において、蛍光顕微鏡法を使用してスコアリングした。読み取りをする者は、蛍光顕微鏡法における実際のグループについて分からないようにした。
【0047】
組織マイクロアレイ
腎がんサンプルの組織アレイをUS Biomaxから購入した(KD2083、KD991T、KD804、KD241 、KD208t)。IHC Select(登録商標)HRP/DABキット(Cat. DAB50、Millipore)を用いて、USP10に対する免疫組織化学染色(希釈1:500)を行った。免疫染色の程度は、盲目様式で、4段評点方式(0=陰性、1=弱い、2=中程度、および3=強い染色強度)を用いて、有資格の病理学者により判定された。
【0048】
結果
USP10はp53と相互作用し、p53を安定化する
図1A〜Bに示すように、USP10は、U20SおよびHCT116p53+/+細胞中ではp53と免疫共沈降したが、HCT116p53-/-細胞中ではなかった。また、抗p53との相互免疫沈降は、HCT116p53+/+中ではUSP10を沈降させたが、HCT116p53-/-細胞中ではなかった(図1C)。HAUSPとは異なり、USP10はMdm2とは相互作用しなかった(図1D)。これらの結果は、インビボでのUSP10とp53との特異的な相互作用を示唆する。しかし、USP10-p53相互作用が直接的なものであるかどうかは明確ではない。これをテストするため、組換えUSP10およびp53を生成および精製した。精製USP10は、無細胞条件下でp53と相互作用することができ、USP10とp53との間の直接的な相互作用が示唆された(図1E)。USP10-p53相互作用のさらなるマッピングから、USP10の酵素ドメインではなく、N末端領域(AA1-AA101)が、USP10とp53との相互作用に必要であることが明らかになった(図1F).
【0049】
USP10を細胞中で過剰発現させて、USP10がp53を安定化するように機能できるかを確認した。図2Aに示すように、USP10の過剰発現は、内因性p53およびp53標的p21のレベルを有意に高めた。これらの結果を確認するため、USP10特異的shRNAを用いてUSP10発現をノックダウンした。USP10のダウンレギュレーションにより、p53およびp21レベルが低下した(図2B)。第二のUSP10 shRNAも、同様の影響を示した(図2B)。これらの結果は、USP10が、おそらくp53を脱ユビキチン化した結果安定化することによって、p53レベルをアップレギュレートできることを示す。USP10がp53安定性をもたらすことをさらに確認するために、対照細胞、またはUSP10 shRNAを安定して発現している細胞を、シクロヘキシミド(CHX)で処理して、p53安定性を検査した。p53安定性は、USP10 shRNAを安定して発現している細胞では低下していたが、shRNA耐性USP10との再構成によりp53安定性が復元した(図2C)。これらの結果は、USP10が細胞中のp53を安定化することを実証する。
【0050】
USP10はp53を脱ユビキチン化する
USP10は、p53を脱ユビキチン化して、Mdm2等のE3ユビキチンリガーゼの作用に対抗するように機能し得る。実際に、図2Dに示すように、Mdm2の過剰発現はp53の分解を有意に誘導したが、USP10の同時発現によりp53はMdm2誘導型分解から有効に救出された。USP10が、細胞中のp53ユビキチン化のレベルを調節するか否かも試験した。図2Eに示すように、Mdm2はp53のユビキチン化を誘導した;しかし、p53ユビキチン化は、USP10の同時発現により有意に減退した。他方で、コア酵素ドメインに突然変異を含む触媒活性の無いUSP10変異体(Sonciniら、Oncogene、20:3869-3879(2001))であるUSP10-C488A(USP10CA)の同時発現は、Mdm2によって誘導されるp53ユビキチン化を逆転させる能力を失わせた(図2E)。反対に、USP10のダウンレギュレーションは、p53ユビキチン化を増加した(図2F)。これらの結果は、USP10が、細胞中でMdm2により誘導されたp53ユビキチン化を負に調節することを示す。しかし、このデータのみでは、USP10が別のタンパク質に影響してそれがp53ユビキチン化に影響している可能性もあるため、p53 に対するUSP10の影響が直接的かどうかが明確ではない。p53に対するUSP10の脱ユビキチン化活性を直接検査するため、USP10が、無細胞系においてp53を脱ユビキチン化できるか否かを確認した。USP10およびUSP10CAを細菌から精製し、FLAG-p53、pCMV-Mdm2およびHA-ubを発現している細胞からユビキチン化p53を精製した。次いで、USP10およびユビキチン化p53を無細胞系中でインキュベートした。図2Gに示すように、触媒活性の無いUSP10CAではなく、精製した野生型USP10は、p53をインビトロで有効に脱ユビキチン化した。これらの結果は、USP10が、インビトロおよびインビボの両方でp53を脱ユビキチン化することを実証する。
【0051】
USP10は細胞質中に局在し、Mdm2作用に対抗する
先の研究は、Mdm2によるp53のユビキチン化が核から細胞質へのp53の移行を誘導し得ることを示唆している(Boydら, Nat. Cell. Biol., 2:563-568(2000);Geyerら, Nat. Cell. Biol, 2:569-573(2000);Liら, Science, 302:1972-1975(2003);およびStommelら, Embo J., 18:1660-1672(1999))。さらに、細胞質ユビキチンリガーゼParcは、p53をユビキチン化し、p53を細胞質内に閉じ込めることができる(Nikolaevら、Cell、112:29-40(2003)。しかし、HAUSPは主に核内に局在化し、p53に対する細胞質ユビキチン特異的プロテアーゼは同定されていないため、細胞質p53が脱ユビキチン化されて核に戻るのかどうかは明確ではない。HAUSPとは異なり、USP10は主に細胞質に局在化する(図3A)。この結果は、USP10が、p53の細胞質脱ユビキチン化酵素であることを示唆する。従って、USP10がp53のMdm2誘導型核外輸送を逆転できる可能性はある。これをテストするため、細胞分画化実験を行った。Mdm2の発現がp53のユビキチン化をおよび核外輸送を生じ、これはUSP10同時発現によって逆転されることが分かった(図3B)。この結果を確認するために、免疫蛍光アッセイを行って、p53の細胞内局在性を検出した。H1299細胞をGFPタグ付きp53でトランスフェクトした場合、GFP-p53が核内で容易に検出された。既に実証されているように、細胞がMdm2で共トランスフェクトされた場合、Mdm2はp53の細胞質移行を誘導した(Boydら, Nat. Cell. Biol, 2:563-568(2000);Geyerら, Nat. Cell. Biol, 2:569-573(2000);Liら, Science, 302:1972-1975(2003);およびStommelら, Embo J., 18:1660-1672(1999))。しかし、触媒活性の無いUSP10(USP10CA)ではなく、野生型USP10の同時発現は、p53のMdm2誘導型細胞質移行を逆転した(図3C)。これらの結果は、USP10が、p53を脱ユビキチン化して細胞質から核へ戻るp53移行を誘導することによって、Mdm2に対抗することを実証する。従って、USP10とMdm2との平衡がp53局在性を決定し得る。そうであれば、USP10のダウンレギュレーションは、Mdm2過剰発現と同様の影響を有し得る。この発見と一致して、USP10自体のダウンレギュレーションは、内因性p53の核外輸送を誘導した(図3D)。GFP-p53を使用して、同様の結果が得られた(図8A)。これらの結果は、細胞内におけるp53の恒常性の調節におけるUSP10の役割を裏付ける。
【0052】
USP10はp53機能を調節する
p53安定化および核内輸送に対するUSP10の影響は、USP10が、p53依存的転写活性、細胞形質転換、およびアポトーシスを調節する可能性を生じた。図4Aに示すように、触媒活性の無いUSP10(USP10CA)ではなく、野生型USP10の過剰発現が、HCT116p53-/-細胞中ではなくHCT116p53+/+細胞中でのp21プロモーター活性を増加させた。反対に、shRNAによるUSP10の安定したノックダウンは、HCT116p53+/+細胞中でのp21プロモーター活性を阻害したが、HCT116p53-/-中ではほとんど影響がなかった(図4B)。これらの結果は、USP10が、p53依存的転写活性を調節することを実証した。さらに、実験を行って、USP10がp53依存的アポトーシスに直接影響を及ぼすかをテストした。図4Cに示すように、p53の過剰発現はアポトーシスを誘導する一方で、Mdm2はp53依存的アポトーシスを高度に低下させた。しかし、触媒活性の無いUSP10ではなく、USP10の同時発現は、p53仲介型アポトーシスに対するMdm2の阻害効果を有意に逆転させた。USP10がどのように細胞増殖に影響を及ぼすのかも調査した。図4Dに示すように、USP10のダウンレギュレーションにより、p53-/-ではなくp53+/+細胞においてがん細胞増殖が増加した。がん細胞を軟寒天中で培養した場合にも、同様の効果が観察された(図4E)。他方で、USP10ダウンレギュレーションによる細胞におけるUSP10の再構成はがん細胞増殖を阻害し(図4E)、USP10ノックダウンの影響が特異的であることを示唆している。全体的に見て、これらの結果は、USP10が細胞においてp53機能を促進することを実証する。
【0053】
DNA損傷の後に、USP10はアップレギュレーションされ、核に移行し、p53依存的DNA損傷応答を調節する
本明細書で提供する結果は、USP10が、ストレス無負荷細胞においてp53恒常性を調節できることを明らかにした。p53は、DNA損傷応答において役割を果たし、DNA損傷の後に安定化されるため、USP10がDNA損傷後のp53安定化に関与するかどうかを試験した。興味深いことに、USP10のダウンレギュレーションは、DNA損傷後に、p53安定化およびp53標的遺伝子であるp21およびBaxの発現を有意に低下し(図5A)、USP10はDNA損傷後のp53安定化も調節することが示唆された。さらに、DNA損傷後にUSP10自体の発現が増加されることが観察された。これらの結果は、非常に驚くべきことであった。なぜなら、大部分のDNA損傷シグナリングは核において生じると考えられているからである。細胞質に局在するUSP10がどのようにして、DNA損傷応答の間にp53安定化に影響を及ぼすのであろうか。DNA損傷応答の間に、p53がいまだに核外に積極的に外輸送されて、細胞質中で分解されることも可能であるが、これを裏付ける証拠に欠ける。あるいはまた、USP10は、核に移行して、DNA損傷応答に参加し得る。実際、USP10は、免疫蛍光で確認したところ、DNA損傷後に核内にも局所化している(図5B)。USP10の移行を確認するために、細胞分画化アッセイを行った。図5Cに示すように、DNA損傷後の核においてUSP10の量の増加が検出され、DNA損傷誘導型のUSP10の核への移行を確認した。
【0054】
USP10はDNA損傷後のp53安定化を調節するため、DNA損傷応答の間、p53依存的機能のためにUSP10が必要かどうかを試験した。図5Dに示すように、USP10のダウンレギュレーションにより、HCT116p53+/+細胞においてIR誘導型アポトーシスが阻害された。HCT116p53-/-細胞におけるIR誘導型アポトーシスは鈍くなったが、USP10のダウンレギュレーションはそれ以上の影響はなかった。さらに、HCT116p53+/+細胞におけるUSP10のノックダウンは、欠損DNA損傷誘導型のGl期の停止をもたらした(図5E)。これらの結果は、USP10ダウンレギュレーションによる細胞におけるBaxおよびp21発現の低下と一致し(図5A)、USP10がDNA損傷後のp53活性化のために必要であることを示唆した。
【0055】
ATMによるUSP10リン酸化は、DNA損傷後のその安定化および移行のために必要である
以下の実験を行って、USP10アップレギュレーションおよび移行を調節する分子メカニズムを明らかにした。最初の実験は、p21とは異なり、USP10 mRNAが全く変化すること無くUSP10のアップレギュレーションが生じたことを示し(図6A)、転写レベルで調節されるのではなく、転写後レベルで調節されている可能性を示唆している。USP10ポリペプチドが安定化されたかどうかを検査するために、細胞を照射し、細胞をシクロヘキシミドで処理した。図6Bに示すように、USP10は、照射細胞においてより安定し、DNA損傷後のUSP10蓄積が安定性の増加によるものであることが示唆された。
【0056】
リン酸化は、DNA損傷応答経路の主要な転写後改変であり、タンパク質安定性および活性を増強することが示されてきた。例えば、IRの後に、p53はSer20においてチェックポイントキナーゼChk2によってリン酸化され、これによりp53のMdm2からの解離、およびその後の安定化が生じる(Chehabら, Genes Dev., 14:278-288(2000);Hiraoら, Science, 287:1824-1827(2000);およびShiehら, Genes Dev., 14:289-300(2000))。ATMは、p53をSerl5においても直接リン酸化して、p53転写活性および局在性を調節できる(Canmanら, Science, 281: 1677-1679(1998);Silicianoら, Genes Dev., 11:3471-3481(1997);ならびにZhangおよびXiong, Science, 292:1910-1915(2001))。従って、DNA損傷後にUSP10がリン酸化されるのかどうか(これは安定化および局在性に関与するかもしれない)を検査した。図6Cに示すように、IR、UV、またはエトポシド処理の後、USP10はSQ/TQモチーフにおいてリン酸化された(USP10ポリペプチドレベルを等しくして、図6C〜Eの実験においてUSP10リン酸化を特異的に検査した)。SQ/TQモチーフは、DNA損傷応答経路の主要な上流キナーゼであるATM、ATRおよびDNA-PK等のPI3キナーゼ様キナーゼ(PIKKS)のコンセンサスリン酸化部位である(Abraham, Genes Dev., 15:2177-2196(2001))。実験を行って、PIKKがUSP10リン酸化に必要かどうかを、汎用(pan-)PIKK阻害剤カフェインを用いて確認した(Sarkariaら, Cancer Res., 59:4375-4382(1999))。図6Dに示すように、カフェインはDNA損傷後のUSP10リン酸化を阻害した。さらに、特異的なATM阻害剤KU55933(Hicksonら, Cancer Res., 64:9152-9159(2004))もIR後のUSP10リン酸化を阻害した。これらの結果は、PIKKS(おそらくATM)が、DNA損傷後のUSP10リン酸化を調節することを示唆した。USP10リン酸化におけるATMの役割を、ATM+/+またはATM-/-細胞を用いてさらに確認した。図6Eに示すように、USP10は、ATM-/-細胞において、SQ/TQモチーフでリン酸化されなかった。さらに、USP10レベルは、ATM-/-細胞においてDNA損傷後に増加しなかった(図6F)。これらの結果は、DNA損傷後にATMによってUSP10がリン酸化されることを示し、これがその安定化に寄与している可能性がある。
【0057】
実験を行って、USP10のATMリン酸化部位を明らかにした。ATMは、SQ/TQモチーフを特異的にリン酸化し、そのうちUSP10:T42QおよびS337Q において2つの候補部位がある。T42またはS337のいずれかにおける突然変異は、USP10安定化に部分的に影響を及ぼし、T42およびS337の両方の突然変異(USP10 2SA)によりDNA損傷後のUSP10安定化が無効になった(図6G)。T42およびS337の両方の突然変異(USP10 2SA)はまた、ATM によるUSP10リン酸化も無効にした(図6H)。さらに、USP10 2SA変異体はDNA損傷後に核に移行しなかった(図6Iおよび図8B)。これらの結果は、USP10の移行および安定化のために、USP10のATM仲介型リン酸化が必要であることを示す。
【0058】
ATMによるUSP10リン酸化の機能的重要性を試験した。USP10 shRNAを安定して発現しているHCT116細胞を、shRNA耐性野生型USP10またはUSP10 2SAと再構成した。図6Jに示すように、USP10 2SA変異体を発現している細胞は、DNA損傷後にp53 安定化の欠損、ならびにBaxおよびp21の弱い誘導を示した。さらに、USP10 2SA変異体ではなく、野生型USP10との再構成は、DNA損傷誘導型アポトーシスを復元した(図6K)。これらの結果は、DNA損傷後のp53活性化におけるUSP10リン酸化の役割を確立する。
【0059】
USP10は、腎細胞癌においてダウンレギュレートされる
p53は細胞増殖を調節する腫瘍抑制因子であり、USP10はp53を脱ユビキチン化することによりp53機能を促進するため、USP10は腫瘍抑制因子としても作用することが可能である。図4DおよびEに示す結果は、がん細胞増殖を阻害するUSP10の能力を実証し、USP10がインビボで腫瘍抑制因子として機能するという仮説を支持する。この仮説をさらにテストするために、腎細胞癌(RCC)細胞株のパネルにおけるUSP10の発現を試験した。RCCを選択して、USP10発現を調べた。なぜなら、非常に低いパーセンテージのRCCの症例が、p53突然変異を有することが分かっているからである((Soussiら, Hum. Mutat., 15:105-113(2000))。国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer)のp53データベースも参照のこと。腫瘍抑制におけるp53の機能を考慮すると、p53経路が、USP10のダウンレギュレーション等の他のメカニズムを介してRCCにおいて損なわれる可能性がある。実際、USP10発現は、A498、Caki-1 、およびCaki-2細胞(これらは全て野生型p53を含む)を含むいくつかのRCC細胞株で有意に低下していることが分かった(図7A)。p53発現も、これらの細胞において、正常な腎細胞におけるp53発現よりも低かった。しかし、変異型p53を有するRCC細胞株においては、USP10レベルは増加した。USP10レベルは、大部分の新鮮な冷凍RCC組織においても、対応する正常組織と比べて低下した(図7B)。USP10ダウンレギュレーションを有するRCCサンプルは全て、野生型p53遺伝子を含んだが(T1〜T9)、p53レベルは低下していた。これらの結果は、USP10のダウンレギュレーションが、RCCにおいてp53活性を抑制するための代替的な方法であり得ることを示唆している。興味深いことに、RCC細胞株と同様に、いくつかのRCC組織においてUSP10が過剰発現され、これらの組織は変異型p53を含んでいた(T10、T1l)。これらの結果は、変異型p53バックグラウンドにおけるUSP10レベルの増加が腫瘍成長に有益であり得ることを示唆している。
【0060】
RCC組織マイクロアレイを用いて、USP10の発現をさらに試験した。0〜1のスコアを陰性、2〜3のスコアを陽性として、USP10の染色を0〜3でスコアリングした。代表的な染色およびスコアを図7Cに示した。驚くことに、淡明細胞癌のうち90%近くが、USP10の陰性染色を示した。色素嫌性のもののうち約50%および乳頭RCCの約20%が、陰性USP10染色を示した。これらの結果は、RCCの症例、特に淡明細胞癌において、USP10がダウンレギュレーションされることを示唆している。
【0061】
腫瘍抑制におけるUSP10の役割を確認するために、USP10ダウンレギュレーションを有するRCC細胞においてUSP10を再構成し、軟寒天アッセイを用いて腫瘍細胞増殖を試験した。野生型p53を含むCAKI-1およびCAKI-2淡明細胞癌細胞株におけるUSP10の再構成により、p53発現が復元され、p21発現が増加した(図8C)。さらに、USP10再構成により細胞増殖が阻害された(図7D)。これらの結果は、USP10が、p53を安定化することにより腫瘍抑制因子として機能するという仮説と一致する。
【0062】
USP10は、変異型p53を有するRCC細胞株および組織において過剰発現され、p53レベルの増加と相関している。これは、多くのがんにおいて、変異型p53が過剰発現されることが多い現象と一致する。変異型p53は多くの場合支配的であり、機能の獲得を呈するため、p53レベルの増加はがんに対して有利であり得る。野生型p53を有する細胞と対照的に、変異型p53バックグラウンドにおけるUSP10の発現の増加は、がん細胞増殖に対して有益であり得る。実際、変異型p53を含む786-O細胞におけるUSP10の発現の増加は細胞増殖の増加を生じる一方で、USP10のダウンレギュレーションは細胞増殖を阻害した(図7Eおよび図8C)。これらの結果は、USP10が、状況依存的にp53およびがん細胞増殖を調節することを示唆している。
【0063】
乳がんおよび膵臓がん細胞株におけるUSP10の発現を試験した。図16A〜Bに示すように、乳がんおよび膵臓がん細胞株のサブセットにおいてUSP10はダウンレギュレーションされた。さらに、多くの膵臓がん組織においてUSP10発現が失われていた(図16C)。これらの結果は、USP10が、複数のがんにおいて腫瘍抑制因子として機能し得ることをさらに裏付ける。
【0064】
要約すると、本明細書で提供する結果は、USP10が、ストレス無負荷細胞においては細胞質に局在化し、p53恒常性を調節することが示された。DNA損傷の後、USP10の画分が核に移行して、p53活性化に寄与する(図7F)。USP10は、p53を調節することで、腫瘍抑制において役割を果たす。
【0065】
実施例2- USP10ポリペプチド活性を阻害する
幅広い脱ユビキチン化酵素の蛍光発生基質であるユビキチン-AMC(Ub-AMC;BIOMOL)(Dangら, Biochemistry, 37:1868(1998))を、USP10ポリペプチドの基質として使用して、USP10ポリペプチドによるUb-AMCの脱ユビキチン化が用量に依存することを実証した。簡潔に言えば、インビトロでのUb-AMC脱ユビキチン化の量は、USP10ポリペプチドの濃度が上がると共に増加した(図17A)。
【0066】
N-エチルマレイミド(1mM)、Z-phe-ala-フルオロメチルケトン(80μM)、アンチパインジヒドロクロライド(10μg/mL)、E-64(10μM)、キモスタチン(100μM)、フッ化フェニルメタンスルホニル(40μM)、E-64d(0.5μM)、およびシスタチン(36μg/mL)を、USP10ポリペプチド(4μg/mL)およびUb-AMC(300 nmol L)を用いて、USP10ポリペプチド活性を阻害する能力についてテストした。簡潔に言えば、各回について、USP10反応緩衝液(50mmol/L Tris-HC1(pH 7.6)、0.5mmol L EDTA、5mmol/L DTT、0.01% Triton X-100および0.05 mg/mL血清アルブミン)中で、酵素(USP10ポリペプチド)および基質(Ub-AMC)の両方を新しく調製した。典型的なアッセイにおいて各ウェル(基質対照ウェルを除く)は、4μg/mLのUSP10、化合物、または2% DMSOを含んでいた。ウェルを、30分間インキュベートして均衡を得た後、基質(300nmol/LのUb-AMC)を添加して酵素反応を開始した。反応混合液を室温にて2時間インキュベートし、250mmol/L酢酸を添加して反応を止めた。
【0067】
N-エチルマレイミド(1mM)、Z-phe-ala-フルオロメチルケトン(80μM)、およびアンチパインジヒドロクロライド(10μg/mL)によって、DMSOとのインキュベーションと比べて、USP10ポリペプチドの脱ユビキチン化活性が有意に阻害された(p<0.01)(図17B)。
【0068】
実施例3- G3BP1ポリペプチドはUSP10ポリペプチド活性を阻害する
共免疫沈降アッセイを、以下のように行った。細胞を、50mM β-グリセロリン酸、10mM NaF、および各1mg/mLのペプスタチンAおよびアプロチニンを含むNETN緩衝液(20mM Tris-HCl、pH 8.0、100mM NaCl、1mM EDTA、0.5% Nonidet P-40)で溶解した。遠心分離により得た全細胞溶解物を、2μgの抗体およびタンパク質Aまたはタンパク質Gセファロースビーズ(Amersham Biosciences)と2時間4℃にてインキュベートした。その後、免疫複合体をNETN緩衝液で3回洗浄し、SDS-PAGEにより分離した。標準の手順に従って、免疫ブロッティングを行った。
【0069】
細胞増殖アッセイを以下の通りに行った。MTS試薬(Promega)を製造元の指示に従って使用して、細胞増殖を分析した。対照shRNA、またはUSP10ポリペプチド発現を低下させるように設計されたshRNAをコードするレンチウイルスに安定して感染したHCT116細胞(1 ,000細胞/ウェル)を、表示の構築物でトランスフェクトした。24時間後、細胞を96-ウェルプレート上にプレーティングし、10%血清を含有する培地で増殖させた。1、2、3、4および5日後に、細胞増殖を推定した。
【0070】
HCT116細胞を回収し、溶解した。得られた細胞溶解物を、抗USP10ポリペプチド抗体との免疫沈降に供し、抗G3BPlポリペプチド抗体または抗USP10ポリペプチド抗体で免疫ブロッティングした(図18)。これらの結果は、G3BP1ポリペプチドが、USP10ポリペプチドとインビボで相互作用することを実証する。さらに、完全長、および完全長USP10ポリペプチドの断片を使用した実験は、G3BP1ポリペプチドおよびp53ポリペプチドの両方が、USP10ポリペプチドのN末端領域(例えば、1〜100アミノ酸)と相互作用することを示した(図19A)。
【0071】
1つの実験では、HCT116細胞をMG132で4時間処理して、以下の配列:

を有するshRNAを用いてG3BP1ポリペプチド発現を枯渇させた。MG132は、特異的、強力、可逆的かつ細胞透過性のプロテアソーム阻害剤である。別の実験では、FLAG-G3BP1ポリペプチドを発現するように設計されたベクターでトランスフェクトしたHCT116細胞を、MG132で4時間処理した。両方の場合共に、細胞を溶解し、細胞溶解物を抗p53ポリペプチド抗体での免疫沈降に供し、抗USP10ポリペプチド抗体、抗p53ポリペプチド抗体、抗G3BPl抗体、および/または抗FLAG抗体で免疫ブロッティングした。
【0072】
G3BP1ポリペプチドは、USP10ポリペプチド結合についてp53ポリペプチドと競合した(図19Bおよび19C)。shRNAによるG3BP1ポリペプチド発現の枯渇により、USP10ポリペプチドとp53ポリペプチドとの結合が有意に増加した(図19B)。G3BP1ポリペプチドの過剰発現により、USP10ポリペプチドとp53ポリペプチドとの結合が低下した(図19C)。これらの結果は、G3BP1ポリペプチドが、USP10ポリペプチド結合についてp53ポリペプチドと競合することを示す。
【0073】
別の実験では、対照構築物またはUSP10ポリペプチド発現を低下させるように設計されたshRNA構築物のいずれかで安定してトランスフェクトされたHCT116細胞を、空ベクター、FLAGタグ付きG3BP1ポリペプチドを過剰発現するように設計されたベクター、またはFLAGタグ付きG3BP2 ポリペプチドを過剰発現するように設計されたベクターでトランスフェクトした。USP10ポリペプチド発現を低下させるように設計されたshRNAは、以下の配列:

を有していた。48時間後に細胞を溶解し、細胞溶解物を、抗FLAG抗体、抗USP10ポリペプチド抗体、抗p53ポリペプチド抗体、または抗βアクチン抗体でブロッティングした。G3BP2ポリペプチドではなく、G3BP1ポリペプチドの過剰発現は、p53ポリペプチドのレベルを低下させた(図20)。G3BP1ポリペプチドの過剰発現は、USP10ポリペプチドを枯渇させた細胞においてp53ポリペプチドのレベルを変化しなかった(図20)。これらの結果は、G3BP1ポリペプチドが、USP10ポリペプチドを介して、p53ポリペプチドを調節することを示す。
【0074】
別の実験では、対照構築物、またはUSP10ポリペプチドの発現を低下させるように設計されたshRNA構築物(USP10 shRNA)のいずれかを安定して発現しているHCT116細胞を、対照ベクターまたはFLAG-G3BP1ベクターでトランスフェクトした。24時間後、細胞をプレーティングし、1、2、3、4および5日目にMTSアッセイにより細胞増殖を測定した。G3BP1ポリペプチドの過剰発現は、HCT116細胞において細胞増殖を有意に増強したが、USP10ポリペプチドが枯渇したHCT116細胞ではそれはなかった(図21)。これらの結果は、G3BP1ポリペプチドが、USP10ポリペプチドを介してがん細胞増殖を調節することを示す。
【0075】
別の実験においては、HCT116細胞を、未処理のままか、または10Gy照射で処理した。2時間後、細胞を溶解した。得られた細胞溶解物を抗USP10ポリペプチド抗体での免疫沈降に供し、抗G3BPlポリペプチド抗体および抗USP10ポリペプチド抗体で免疫ブロッティングした。X線照射により、USP10ポリペプチドとG3BP1ポリペプチドとの相互作用が劇的に低下した(図22)。これらの結果は、DNA損傷により、USP10ポリペプチドがG3BP1ポリペプチド阻害から解放されることを実証する。
【0076】
その他の態様
本発明をその詳細な説明と併せて説明してきたが、上記説明は例示を意図したものであり、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を限定しないことが理解されよう。その他の局面、利点、および改変は、以下の請求の範囲内にある。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図1D】

【図1E】

【図1F】

【図2A】

【図2B】

【図2C】

【図2D】

【図2E】

【図2F】

【図2G】

【図3A】

【図3B】

【図3C】

【図3D】

【図4A】

【図4B】

【図4C】

【図4D】

【図4E】

【図5A】

【図5B】

【図5C】

【図5D】

【図5E】

【図6A】

【図6B】

【図6C】

【図6D】

【図6E】

【図6F】

【図6G】

【図6H】

【図6I】

【図6J】

【図6K】

【図7A】

【図7B】

【図7C】

【図7D】

【図7E】

【図7F】

【図8A】

【図8B】

【図8C】

【図9−1】

【図9−2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
がん細胞を有する哺乳動物におけるがん細胞増殖を低下させる方法であって、以下の工程を含む方法:
組成物ががん細胞内のUSP10ポリペプチド発現または活性を調節する条件下で、前記哺乳動物に該組成物を投与する工程であって、それによりがん細胞増殖を低下させる工程。
【請求項2】
前記がん細胞が、低下したレベルの野生型p53ポリペプチド発現を有し、前記組成物が、前記USP10ポリペプチド発現または活性を増加させる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記組成物が、USP10ポリペプチドをコードする核酸を含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記組成物が、SEQ ID NO:2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸を含む、請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記がん細胞がp53ポリペプチドの変異体型を発現し、および前記組成物が前記USP10ポリペプチド発現または活性を低下させる、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記組成物が、p53ポリペプチドのUSP10ポリペプチド仲介型安定化のアンタゴニストを含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記アンタゴニストが、前記USP10ポリペプチドの発現に対してRNA干渉を誘導する能力を有する核酸を含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記USP10ポリペプチドがヒトUSP10ポリペプチドである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
哺乳動物においてがんを治療するための方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)低下したレベルの野生型p53ポリペプチドを発現するか、または変異型p53ポリペプチドを発現するがん細胞を有すると哺乳動物を同定する工程;
(b)該哺乳動物が、低下したレベルの野生型p53ポリペプチドを発現するがん細胞を有すると同定された場合に、USP10ポリペプチド、または該がん細胞におけるUSP10ポリペプチド発現もしくは活性を増加させる組成物を投与する工程;および
(c)該哺乳動物が該変異型p53ポリペプチドを発現するがん細胞を有すると同定された場合に、該がん細胞におけるUSP10ポリペプチド発現または活性を低下させる組成物を投与する工程。
【請求項10】
試験作用物質の存在下でUSP10ポリペプチドと接触したユビキチン化p53ポリペプチドの安定化レベルが、該試験作用物質の不在下でUSP10ポリペプチドと接触したユビキチン化p53ポリペプチドの安定化レベルを下回るかどうかを判定する工程を含む、p53ポリペプチドのUSP10ポリペプチド仲介型安定化のアンタゴニストを同定するための方法であって、該試験作用物質の不在下でUSP10ポリペプチドと接触したユビキチン化p53ポリペプチドの安定化レベルを下回る、該試験作用物質の存在下でUSP10ポリペプチドと接触させたユビキチン化p53ポリペプチドの安定化レベルの存在が、該試験作用物質が該アンタゴニストであることを示す、前記方法。
【請求項11】
試験作用物質の存在下でUSP10ポリペプチドと接触したユビキチン化p53ポリペプチドの安定化レベルが、該試験作用物質の不在下で該USP10ポリペプチドと接触した該ユビキチン化p53ポリペプチドの安定化レベルを上回るかどうかを判定する工程を含む、p53ポリペプチドのUSP10ポリペプチド仲介型安定化のアゴニストを同定するための方法であって、該試験作用物質の不在下でUSP10ポリペプチドと接触したユビキチン化p53ポリペプチドの安定化レベルを上回る、該試験作用物質の存在下でUSP10ポリペプチドと接触させたユビキチン化p53ポリペプチドの安定化レベルの存在が、該試験作用物質が該アゴニストであることを示す、前記方法。

【図10】
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【図11】
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【図12−1】
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【図12−2】
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【図13】
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【図14−1】
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【図14−2】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図16C】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18】
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【図19A】
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【図19B】
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【図19C】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公表番号】特表2013−504586(P2013−504586A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528901(P2012−528901)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/048302
【国際公開番号】WO2011/031884
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(501083115)メイヨ・ファウンデーション・フォー・メディカル・エデュケーション・アンド・リサーチ (27)
【Fターム(参考)】