説明

脱気用複合中空糸膜

【課題】脱気時に薬液の漏れを生ずることがなく、耐溶剤性や低溶出性に優れ、酸素や窒素等の気体の透過流量が大きいことを維持しながら、インク液との接触する表面積の大きな脱気用複合膜においても結晶性分子錯体等の異物の生成が抑制された脱気用複合中空糸膜を提供する。
【解決手段】気体透過能を有する均質膜と、該均質膜を支持する多孔質支持層とを有する脱気用複合中空糸膜において、酸化防止剤量が0.005質量%以下であることを特徴とする脱気用複合中空糸膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、水溶液又は有機溶剤を主成分とするインクジェット用インクおよびレジスト液の製造工程やプリンターの流路などにおける異物の析出を抑制しながら溶存ガスを脱気するためのポリオレフィン系脱気用複合中空糸膜に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶やプラズマディスプレーの製造工程では、供給された薬液に気泡が混入すると処理斑等の不都合が生じてしまう。また特に、近年の液晶及びプラズマディスプレーには、大画面化・高精細化が求められている。
【0003】
それらの対策として、インクジェット方式による製造方法が開発されている。インクジェット方式は、微細なノズルからインク組成物を小滴として吐出し、文字や画像(以下、単に「画像」ということもある。)を記録媒体表面に記録する方法である。インクジェット記録方式としては、電歪素子を用いて電気信号を機械信号に変換して、ノズルヘッド部分に貯えたインク組成物を断続的に吐出して記録媒体表面に文字や画像を記録する方法、ノズルヘッド部分に貯えたインク組成物を吐出部分に極近い一部を急速に加熱して泡を発生させて、その泡による体積膨張で断続的に吐出して、記録媒体表面に文字や画像を記録する方法等が実用化されている。
【0004】
特に、インク液あるいはレジスト液中に気泡が混入したままの状態では、インクジェット方式においてもパターン不良が生じる場合がある。気泡が混入する原因は、窒素ガスにより薬液を吐出ノズルへ圧送する点にあると考えられる。
【0005】
すなわち、薬液が吐出ノズルから吐出される際に薬液に加わる圧力が大気圧に戻るので、薬液中の溶存ガスが過飽和となり、その過飽和分が気泡となるのである。そこで、薬液圧送工程において膜式脱気の手法で溶解ガス量を低減し、気泡の発生を抑制する技術が求められる。溶剤中の溶存ガスを脱気する為に使用する中空糸膜として、例えば、特許文献1には、疎水性多孔質膜で両面を被覆したガス選択透過性均質膜よりなる3層構造の中空糸膜が開示されている。
【0006】
特許文献2には、均質膜の素材として線状低密度ポリエチレンが例示されている。また特許文献3には、ポリ4−メチルペンテン−1からなる外表面から深さ約1μmまでを非多孔質層とした中空糸膜が開示されている。
【0007】
インク接触部材に、酸化防止剤を多く含有するエラストマ樹脂を用いたとき、インクとの接触で結晶性分子錯体を生成する場合があることが判明している。この結晶性分子錯体は脆く、針状に壊れるために、異物トラップ用のフィルターを通過してノズルヘッドの微小流路に詰まって吐出異常を引き起こす。
【0008】
特許文献4および5には、インクジェット用インク液の充填装置あるいはインクジェットプリンターの構造材について、その含まれる酸化防止剤が反応を起こし、結晶性の分子錯体を形成しインクヘッドの吐出部を詰まらせる現象への対策として酸化防止剤量を規定することについて開示されている。
【0009】
一般に、脱気用中空糸膜はその被表面積を多くすることで実用的な脱気性能を得るようにしている。被表面積が大きくなると脱気性能を向上させることが可能となるが、それだけ樹脂表面からブリードアウトする酸化防止剤量が多くなるので、通常の配管類などよりも厳しい管理が求められている。
【特許文献1】特開平5−185067号公報
【特許文献2】特開平11−47565号公報
【特許文献3】特開平6−335623号公報
【特許文献4】特開2006−15564号公報
【特許文献5】特開2006−28325号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
インクジェット用インクの脱気用途として良く用いられるポリオレフィン類からなる脱気膜の例として、特許文献2に記載の直鎖状低密度ポリエチレンを用いたものが挙げられる。この樹脂は、気体透過係数が低いので、実用上有効な溶存ガスの透過流量を得るためには、0.3μm以下の極めて薄い膜とする必要がある。そして、このような薄い均質膜を形成すると機械的強度が低下し、さらにはピンホールが発生し易い。
【0011】
また、特許文献3に記載のポリ4−メチルペンテン−1を用いた脱気膜は、気体透過性能が高いが、酸化に弱い為に、酸化防止剤の使用量を多くする必要がある。その結果、インク液中に溶出(ブリードアウト)した酸化防止剤とインク液の成分が反応してインクジェットのヘッドの素子を詰まらせることがある。
【0012】
また、特許文献4および特許文献5に記載の目詰まりを生じないための酸化防止剤の量は、インクジェット用インク液の製造・充填設備あるいは、インクジェットプリンタの配管設備・構造体に関するものであり、脱気膜のような特に大きな被表面積をベースとしてないために必ずしも脱気膜に適用可能なものではない。
【0013】
本発明の目的は、脱気時に薬液の漏れを生ずることがなく、耐溶剤性や低溶出性に優れ、酸素や窒素等の気体の透過流量が大きいことを維持しながら、インク液との接触する表面積の大きな脱気用複合膜においても結晶性分子錯体等の異物の生成が抑制された脱気用複合中空糸膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、気体透過能を有する均質膜と、該均質膜を支持する多孔質支持層とを有する脱気用複合中空糸膜において、酸化防止剤量が0.005質量%以下、あるいは酸化防止剤を含まないことを特徴とする脱気用複合中空糸膜である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、脱気用複合中空糸膜に求められる特性を維持しつつ、結晶性分子錯体等の異物の生成を抑制できる。したがって、例えば、インクジェットプリンタやそのインク液製造装置の配管の中でも特に被表面積の大きな脱気用中空糸膜モジュールにおけるインクの変質や異物の生成を抑制し、その結果プリントヘッドやインク供給部の目詰まりを防止し、安定な印刷が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
一般に、脱気用中空糸膜は、その被表面積を大きくすることで脱気性能が向上する。ただし、被表面積を大きくすると樹脂表面からブリードアウトする成分の量も多くなる。したがって、脱気用複合中空糸膜については、通常の配管類などよりも厳しい管理が必要と考えられる。
【0017】
本発明においては、均質膜と多孔質支持層を有する複合中空糸膜全体に含まれる酸化防止剤の含有量を0.005質量%以下(中空糸膜全体の質量100質量%基準)にすることにより、前記目的を達成する。さらに、酸化防止剤の含有量は0.001質量%以下が好ましい。
【0018】
また、多孔質支持層を構成するポリオレフィン系樹脂の酸化防止剤量は、0.001質量%以下(多孔質支持層100質量%基準)であることが好ましい。支持層は多孔質化しているので、膜の外表面積だけでなく多孔質内部も含めて被表面積が著しく大きくなっており、酸化防止剤量の影響が比較的大きいからである。
【0019】
一方、均質膜を構成するポリオレフィン系樹脂の酸化防止剤量は、0.02〜0.05質量%(均質膜100質量%基準)が好ましく、0.02〜0.03質量%がより好ましい。均質膜は、多孔質構造をとらないので液と接触する面積が小さく、またその表面が多孔質支持層に被覆されているので実質的な被表面積が小さく、酸化防止剤量の影響が比較的少ない。また、多孔質支持層に一般的に用いられる高密度ポリエチレンと比較して、均質膜に用いられるポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン系樹脂等)は耐熱性が低い。したがって、両ポリマーを同温度条件で紡糸する必要がある場合には、均質膜のポリエチレン系樹脂の熱劣化が進み易く、生産性の悪化あるいは性能の低下を招き易い。したがって、均質膜を構成するポリエチレン系樹脂に酸化防止剤を0.02〜0.05質量%(より好ましくは0.02〜0.03質量%)含有させることにより、熱劣化を抑制し、より厳しい温度条件での溶融紡糸に耐えながら、膜全体の酸化防止剤溶出量を著しく低減でき、かつ融点差の大きなポリマーとの複合により気体透過性能の高い脱気用複合中空糸膜を得ることができる。
【0020】
均質膜を構成するポリオレフィン系樹脂に用いる酸化防止剤の種類に関して特に制限はなく、公知のものを使用できる。その具体例としては、ヒンダードフェノール系、ホスファイト系、硫黄系、リン系、あるいはこれらを複合した酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤を含有せしめる方法としては、均一に混合可能であれればいかなる方法でも良い。
【0021】
均質膜を構成するポリオレフィン系樹脂には、必要に応じて、紫外線吸収剤、滑剤、アンチブロッキング剤、着色剤、難燃化剤等の添加物を、本発明の目的を損なわない範囲で添加できる。
【0022】
均質膜を構成するポリオレフィン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、好ましくは0.1〜5g/10min・190℃、より好ましくは0.3〜2g/10min・190℃である。このMFRの各範囲の上限値は、ポリマーの流動性、支持層側に均質膜用樹脂が流出する事による均質膜の厚さの不均一化を防ぎ、脱気膜としての気体透過性能を十分維持する点で意義がある。また、下限値は、押出成型性の点で意義がある。MFRは、ASTM D1238のE条件に従い、試験温度190℃、試験荷重2.16kgfで測定した値である。
【0023】
均質膜を構成するポリオレフィン系樹脂の重量平均分子量と数平均分子量の比率(Mw/Mn)(多分散度)は、好ましくは3.0以下である。これにより、均質膜の成形性を維持しながら耐クレイズ強度が大きくなる。また、分子量分布が比較的狭い樹脂を用いれば、低分子量成分の割合が低くなり、高耐溶剤性、耐エンジンオイル性、耐溶剤抽出性、耐牛脂性等が向上する。
【0024】
均質膜を構成するポリオレフィン系樹脂は、メタロセン触媒を使用して得た重合体であることが好ましい。メタロセン触媒を使用すると、他の触媒(チグラーナッター系触媒等)を使用した場合と比較して、基本的には同種のポリオレフィン系樹脂であるにも関わらず分子量分布が狭く、低分子量成分や低結晶成分が少なく、かつ低融点のポリオレフィン系樹脂が得られる。
【0025】
均質膜を構成するポリオレフィン系樹脂は、オレフィンを主体として得た重合体である。オレフィンのみを用いて得た重合体であってもよいし、オレフィンと他のモノマーの共重合体であってもよいし、それらの変性樹脂であってもよい。その具体例としては、エチレン・α−オレフィン共重合体、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、直鎖状超低密度ポリエチレン(VLDPE)、ポリプロピレン、ポリ4−メチルペンテン−1(PMP)、アイオノマー樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体、変性ポリオレフィン(例えば、オレフィンの単独重合体または共重合体とマレイン酸やフマル酸等の不飽和カルボン酸や酸無水物やエステルもしくは金属塩などとの反応物)等が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂の中では、特にポリエチレン系樹脂が好ましい。
【0026】
均質膜を構成するポリオレフィン系樹脂としては、特に密度(JISK−7112=ASTM D1505により測定)が0.910g/cm3以下、0.85g/cm3以上の樹脂が好ましい。密度がこの範囲内であれば、均質膜の酸素透過性をより高めることができ、また実用上適した融点又は軟化点となる。このようなポリエチレン系樹脂の具体例としては、上述したHDPE、LDPE、LLDPE、VLDPE、及びメタロセン触媒を使用して得た主としてエチレンからなる(共)重合体が挙げられる。
【0027】
このようなポリエチレン系樹脂は、軟化温度が低く、分子量分布も狭いという特徴がある。密度との相関から、ポリエチレン系樹脂の融点(Tm)は40〜100℃以下が好ましい。Tmは示差走査型熱量計(DSC)で測定した値である。
【0028】
特に、メタロセン触媒系ポリエチレン系樹脂の中で気体透過性部材として有効なものに、エチレン・α−オレフィン共重合体がある。代表的なものとしては、ダウ・ケミカル社が開発したインサイト(シングルサイト)触媒、いわゆるメタロセン触媒の一種である拘束幾何触媒を使用して得たエチレン・α−オレフィン共重合体が挙げられる。
【0029】
エチレン・α−オレフィン共重合体としては、エチレン・C3〜C20α−オレフィン共重合体が好ましい。エチレン・C3〜C20α−オレフィン共重合体とは、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンの少なくとも一種との共重合体である。C3〜C20α−オレフィンの具体例としては、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテンが挙げられる。さらに、C4〜C20α−オレフィンが好ましく、C6〜C8α−オレフィンがより好ましく、1−ヘキセン又は1−オクテンが特に好ましい。エチレン・α−オレフィン共重合体としては、C3〜C20α−オレフィンを約10モル%以上(特に好ましくは約20〜約40モル%)の割合で用いて共重合して得たものが好ましい。
【0030】
エチレン・C8α−オレフィン共重合体の市販品としては、例えば、ダウ・ケミカル社製のアフィニティー(AFFINITY)(商標)が挙げられる。また、エチレン・C6α−オレフィン共重合体の市販品としては、例えば、プライムポリマー社製のエボリュー(商標)が挙げられる。
【0031】
中空糸膜を構成する複合膜は、均質膜と多孔質支持層との二層複合膜であってもよいし、均質膜が多孔質支持層で挟まれた三層複合膜であってもよい。
【0032】
均質膜の厚さは、0.5〜10μmが好ましい。これが0.5μm以上であれば使用時の耐圧性が向上し、10μm以下であれば気体透過性が向上する。
【0033】
多孔質支持層の厚さについて、二層複合膜の場合の一層の厚さ、三層複合膜の内層又は外層の一層の厚さは、10〜200μmが好ましい。これが10μm以上であれば機械的強度が向上し、200μm以下であれば中空糸膜の糸外径が細くなり、膜モジュールへ内蔵する際の膜の容積効率が向上する。
【0034】
多孔質支持層は、一般にポリオレフィン系樹脂から構成されるものであり、高密度ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂で構成されることが好ましい。また、多孔質支持層と均質膜との質量比は、90/10〜99/1の範囲内にあることが好ましい。
【0035】
中空糸膜の太さは、特に限定されない。通常、その外径は100〜2000μm程度が好ましい。外径を100μm以上にすると、中空糸膜間の隙間が比較的広くなりポッティング用材料が浸入し易くなる。また2000μm以下にすると、多数本の中空糸膜を有するモジュール全体のサイズが小さくなり、これに伴いポッティング部の容積が小さくなり、その結果、ポッティング部の成形加工時の収縮による寸法精度の低下を抑制できる。
【0036】
多孔質支持層の空孔率及び細孔の大きさは、特に限定されない。通常、空孔率は30〜80vol%が好ましい。空孔率を30vol%以上にすると、気体透過性が向上し、また80vol%以下にすると、耐圧性等の機械的強度が向上する。
【0037】
複合中空糸膜は、例えば、多層複合紡糸工程と延伸多孔質化工程を経て製造される。その製造方法の具体例は、以下の通りである。まず、同心円状複合構造ノズル口金の最外層ノズル部及び最内層ノズル部に支持層前駆体(未延伸層)用溶融ポリマー(高密度ポリエチレン等)を供給し、中間層ノズル部に均質膜用溶融ポリマー(ポリエチレン系樹脂)を供給する。そして、同心円状口金から溶融ポリマーを押出してドラフトのかかった状態で冷却固化させ、未延伸中空繊維を得る。次に、この未延伸中空繊維を延伸し、中間層の均質膜を挟んだ内層と外層を多孔質化する。これにより、均質膜とこれを支持する多孔質支持層(内層及び外層)とを有する三層複合中空糸膜が得られる。
【0038】
支持層の多孔化のための延伸工程において、延伸倍率は用いるポリマーの種類に応じて決定すればよい。通常、延伸倍率は、未延伸繊維の2〜5倍が好ましい。延伸倍率を2倍以上にすれば、多孔質支持層の空孔率が高くなり気体透過性が向上する。また、5倍以下にすれば、複合中空糸膜の破断伸度が向上する。
【0039】
支持層の多孔化のための延伸工程において、延伸温度は、均質膜を構成するポリマーの融点(Tm)−20℃以上、(Tm+40℃)以下であり、かつ支持層のビカット軟化点以下であることが好ましい。さらに下限値については、(Tm−10℃)以上が特に好ましい。上記各範囲の上限値は、ポリオレフィン系樹脂の分子の乱れによる欠陥が生じ難くさせながら支持層ポリマーが充分に多孔化することを両立する上で、脱気膜として充分な性能を得る点で意義がある。
【0040】
上記複合中空糸膜を製造するための方法であって、支持層の多孔化のための延伸工程を有し、該延伸工程における緩和温度が、均質膜を構成するポリマーの融点(Tm)℃以上、(Tm+60℃)以下であれば、ポリオレフィン系樹脂の分子の乱れによる欠陥が生じ難くなる点で意義がある。
【0041】
また、熱による収縮率を抑えるための緩和倍率が0.2倍以上0.5倍以下であり、さらには0.3倍以上0.45倍以下であると、75℃×8hr後の熱収縮率を5%以下に低減できるため、モジュールの成形安定性の点でより好ましい。
【0042】
以上説明した複合中空糸膜を用いて、薬液の脱気を良好に実施できる。通常、複合中空糸膜を中空糸膜モジュールとして構成したものを脱気に使用する。中空糸膜モジュールは、例えば中空糸膜を数百本束ねて筒状のハウジングに挿入し、封止材を複合中空糸膜の外側多孔質の細孔に浸透させながら隣り合う中空糸膜間を封止材で充填して製造することができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳しく説明する。なお、各物性は以下の方法より測定した。なお、以下の記載において「%」は「質量%」を意味する。
【0044】
[融点(Tm)]
融点(Tm)の測定には、セイコー電子工業製の示差走査型熱量計(DSC)を用いた。具体的には、約5mgの試料を200℃で5分間融解し、40℃まで10℃/minの速度で降温して結晶化し、その後更に10℃/minで200℃まで昇温して融解した時の融解ピーク温度及び融解終了温度により融点を求めた。
【0045】
[重量平均分子量と数平均分子量の比率(Mw/Mn)]
ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により、以下の条件で測定した。
GPC測定装置:WATERS 150−GPC(WATERS社製)
温度:140℃
溶媒:1,2,4−トリクロロベンゼン
濃度:0.05%(インジェクション量:500マイクロリットル)
カラム:Shodex GPC AT−807/S 1本、Tosoh TSK−GEL GMH6−HT 2本
溶解条件:160℃、2.5時間
キャリブレーションカーブ:ポリスチレンの標準試料を測定し、ポリエチレン換算定数(0.48)を使用し、3次で計算。
【0046】
[メルトフローレート(MFR)]
ASTM D1238のE条件に従い、190℃における2.16kg荷重での10分間にストランド状に押し出される樹脂の質量を測定することによりメルトフローレート(MFR2.16)(g/10min)を求めた。
【0047】
[密度]
JIS K7112に準拠して、190℃で2.16kg荷重におけるMFR測定時に得られるストランドを100℃で1時間熱処理し、1時間かけて室温まで徐冷したサンプルを、密度勾配管を用いて測定した。
【0048】
<実施例1>
均質膜(中間層)の部分に、メタロセン系触媒により製造されたエチレン−オクテン共重合体(商品名 アフィニティー(AFFINITY)EG8100G、ダウケミカル(株)製、MFR1.0g/10min、密度0.870g/cm3、融点55℃、Mw/Mn=2.0、オクテン含有量35%、酸化防止剤(商品名イルガノックス1010)0.02%含有)を用いた。
【0049】
支持層(内層と外層)には、乳等省令に適合した高密度ポリエチレン(商品名サンテックHD B161、MFR1.35g/10min、密度0.963g/cm3、融点140℃、酸化防止剤を含まず)を用いた。
【0050】
上記の組み合わせで三層複合ノズルを用いて巻取速度95m/minで紡糸し、三層が同心円状に配された未延伸中空糸を得た。
【0051】
この未延伸中空糸を108℃でアニール処理した。次いで、23±2℃で1.25倍延伸し、引き続き70℃の加熱炉中で4.4倍の延伸を行った上で、100℃の加熱炉中で0.4倍の緩和工程を実施し、最終的に総延伸倍率が4倍になるように成形して総延伸量が4倍になるまで熱延伸を行い、複合中空糸膜を得た。この多層複合中空糸膜は、均質膜(非多孔質薄膜)が二つの多孔質層で挟まれた三層構造であった。
【0052】
<実施例2>
均質膜(中間層)の部分に、メタロセン系触媒により製造されたエチレン−ヘキセン共重合体(商品名EVOLUE SP0510、プライムポリマー(株)製、MFR1.2g/10min、密度0.903g/cm3、融点98℃、Mw/Mn=2.0、酸化防止剤(商品名イルガノックス1076)0.03%含有)を用い、巻取速度を90m/minに変更したこと以外は実施例1と同様にして紡糸して、三層が同心円状に配された未延伸中空糸を得た。
【0053】
この未延伸中空糸を実施例1と同様にしてアニール処理及び延伸を行ない、複合中空糸膜を得た。この多層複合中空糸膜は、均質膜(非多孔質薄膜)が二つの多孔質層で挟まれた三層構造であった。
【0054】
<比較例1>
均質膜(中間層)の部分に、エチレン−プロピレン共重合体(商品名 VERSIFY2000、ダウケミカル(株)製、MFR2g/10min、密度0.888g/cm3、融点120℃、Mw/Mn=2、酸化防止剤(商品名イルガノックス1010)0.05%含有)を用いた。
【0055】
支持層(内層と外層)には、ポリプロピレン(商品名 NOVATEC FY6H、日本ポリプロ(株)製、MFR1.9g/10min、密度0.90g/cm3、融点170℃、Mw/Mn=5、酸化防止剤0.06%含有)を用いた。
【0056】
上記の組み合わせで三層複合ノズルを用いて巻取速度90m/minで紡糸し、三層が同心円状に配された未延伸中空糸を得た。
【0057】
この未延伸中空糸を140℃でアニール処理した。次いで、23±2℃下で1.25倍の延伸をし、引き続き120℃の加熱炉中で総延伸量が3.3倍になるまで熱延伸を行い、130℃の加熱炉中で0.3倍の緩和工程を実施し、最終的に総延伸倍率が3倍になるような成形を行った。この多層複合中空糸膜は、均質膜(非多孔質薄膜)が二つの多孔質層で挟まれた三層構造であった。
【0058】
<比較例2>
均質膜(中間層)の部分に、ポリ4−メチルペンテン−1(商品名 TPX MX002、三井化学(株)製、MFR21g/10min、密度0.835g/cm3、融点222℃、Mw/Mn=10、酸化防止剤(商品名イルガノックス1010)0.18%含有)を用いた。
【0059】
支持層(内層と外層)には、ポリ4−メチルペンテン−1(商品名 TPX RT31、三井化学 (株)製、MFR26g/10min、密度0.833g/cm3、融点237℃、Mw/Mn=10、酸化防止剤0.18%含有)を用いた。
【0060】
上記の組み合わせで三層複合ノズルを用いて巻取速度45m/minで紡糸し、三層が同心円状に配された未延伸中空糸を得た。
【0061】
この未延伸中空糸を200℃でアニール処理した。次いで、23±2℃で1.25倍延伸し、引き続き200℃の加熱炉中で総延伸量が2.2倍になるまで熱延伸を行い、220℃の加熱炉中で0.2倍の緩和工程を実施し、最終的に総延伸倍率が2倍になるような成形を行った。この多層複合中空糸膜は、均質膜(非多孔質薄膜)が二つの多孔質層で挟まれた三層構造であった。
【0062】
<酸化防止剤の溶出量とその影響>
実施例および比較例の各多層複合中空糸膜について、酸化防止剤の濃度を測定した。具体的には、40℃のIPA(イソプロピルアルコール)中に、サンプル100gを5日間浸漬し、IPA液中の酸化防止剤の溶出量を測定した。測定条件は以下の通りである。
【0063】
[酸化防止剤の濃度測定条件]
HPLCクロマトグラムを用いて定量分析を行った。
前処理:試料1gを精秤して高周波抽出後、抽出液中の樹脂成分を取り除き、これを供試試料としてHPLC分析を行った。
装置:HewlettPackard(HP)製、1100型。
カラム:逆相分配系カラム。
検出波長:UV210nm。
移動相:アセトニトリル水溶液。
【0064】
また実施例および比較例の各多層複合中空糸膜について、特開2006−15564号公報と同じ方法により、60℃のインク中にサンプル(中空糸膜)を5日間浸漬し、その後のインク中の異物発生の有無を確認した。具体的には、ろ過瓶のメッシュフィルター上に開口径10μmの電鋳製金属フィルターを配置し、減圧ろ過下で電鋳製金属フィルターへ一定量のインクを滴下、ろ過し、金属顕微鏡で結晶性分子錯体と思われる形状の異物を目視により観察・確認し、必要に応じ赤外線吸光光度計(FT−IR)で同定した。
【0065】
下記表1に、IPAへの酸化防止剤の溶出量の測定結果と異物の発生の評価結果を示す。また、支持層及び均質膜を構成する各樹脂中が酸化防止剤の含有量(%)(均質膜と支持層の各々の質量を100%基準とした場合)と、支持層と均質膜との質量比(具体的には紡糸時のノズル吐出量比)と、中空糸膜全体での酸化防止剤含有量(%)(中空糸膜全体の質量を100%基準とした場合)も併せて示す。この表1から明らかなように、実施例1および2においては異物の発生も無く、酸化防止剤の溶出も見られなかった。
【0066】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の脱気用複合中空糸膜は、例えば、半導体の製造ライン、液晶のカラーフィルター製造ライン及びインクジェットプリンタのインク製造などにおいて、水系溶液、有機溶剤、レジスト液中の溶存ガス量を低減するための脱気用途に有用である。特に、半導体の製造ラインにおけるリソグラフィーに用いるフォトレジスト液や現像液の脱気用途に非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体透過能を有する均質膜と、該均質膜を支持する多孔質支持層とを有する脱気用複合中空糸膜において、酸化防止剤量が0.005質量%以下であることを特徴とする脱気用複合中空糸膜。
【請求項2】
多孔質支持層を構成するポリオレフィン系樹脂の酸化防止剤量が0.001質量%以下である請求項1記載の脱気用複合中空糸膜。
【請求項3】
均質膜を構成するポリオレフィン系樹脂の酸化防止剤量が0.02〜0.05質量%である請求項1記載の脱気用複合中空糸膜。
【請求項4】
多孔質支持層と均質膜との質量比が90/10〜99/1の範囲内にある請求項1記載の脱気用複合中空糸膜。
【請求項5】
均質膜を構成するポリオレフィン系樹脂が、エチレンと炭素数3以上20以下のα−オレフィンの少なくとも一種との共重合体である請求項1記載の脱気用複合中空糸膜。
【請求項6】
均質膜を構成するポリオレフィン系樹脂の密度が、0.850〜0.910g/cm3である請求項1記載の脱気用複合中空糸膜。

【公開番号】特開2009−112896(P2009−112896A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286111(P2007−286111)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(000176741)三菱レイヨン・エンジニアリング株式会社 (90)
【Fターム(参考)】