説明

脱穀装置

【課題】刈り取られた穀稈の穂先部に付いている穀粒を脱粒させるための脱穀装置において、排稈塊に紛れ込んだササリ粒を機外へ排出してしまう脱穀ロスの発生を抑制する。
【解決手段】支持枠86の後面下部に、排稈口84のうち下向き開口部を覆う複数の仕切部材90を、扱胴23の後端側にある扱歯85と対峙するように溶接にて連設する。仕切部材90には穀粒や塵の通過を許容する通過穴91を形成する。仕切部材90は支持枠86後面の内周側より半径方向外側に位置させ、支持枠86の後部と仕切部材90とにより、搬送方向下流側に向けて一段下がる段差を形成する。仕切部材90上には、脱穀物を後方且つ機体中央側へ案内するための複数の起立片92を立設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、刈り取られた穀稈の穂先部に付いている穀粒を脱粒させるための脱穀装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自走自脱型コンバインの脱穀装置は、扱室内にて回転する扱胴と、穀稈を挟持した状態で扱胴の軸線方向に搬送する挟持搬送機構としてのフィードチェンとを備えている。扱胴の外周面には、半径方向外向きに突出した多数個の扱歯が、扱胴の円周方向に飛び飛びの間隔で且つ扱胴の軸線方向に多数列に並べて設けられている。脱穀処理の際は、フィードチェンにて扱室内に搬送される刈取穀稈の穂先側に、多数個の扱歯を扱胴の回転にて接触させることにより、穂先側に付いた穀粒が叩き落とされて脱粒される(例えば特許文献1及び2等参照)。
【特許文献1】実開平6−45425号公報
【特許文献2】特開平7−250548号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、例えば稲や麦等の刈取穀稈は脱粒性がよく、扱室の前方側でほとんど脱粒する。このため、脱穀物(穀粒や藁屑)は扱胴の下側を囲うクリンプ網から漏下して、次の選別工程に移行する。クリンプ網から漏下しなかった排稈や藁屑は、扱胴の回転による各扱歯の搬送作用にて塊状になりながら(一部は各扱歯にて分断され又はほぐされながら)、扱室の後部に形成された後ろ及び下向き開口状の排稈口から、扱室外ひいては機外へ排出される。
【0004】
しかし、前記従来の構成では、扱室後部の排稈口が後ろ及び下向きに開口しているだけであるから、扱胴の後端側まで塊の状態で搬送された排稈塊は、扱胴の後端側に位置する扱歯にてほぐされたりせずに、そのまま排稈口から排出されることになる。排稈塊の中には穀粒(ササリ粒)が紛れ込んでいることも多く、ササリ粒までも排稈塊と共に機外へ排出してしまうと、脱穀ロスが多くなるという問題があった。
【0005】
本願発明は、このような現状を改善することを主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、刈取穀稈をフィードチェンにて挾持搬送しながら扱室内で回転する扱胴によって脱穀処理し、脱穀後の排稈を扱室後部に形成された排稈口から排出するように構成されている脱穀装置であって、前記扱室の後部には前記排稈口のうち下向き開口部を覆う仕切部材が、前記扱胴の後端側にある扱歯と対峙するように設けられていて、前記仕切部材には穀粒や塵の通過を許容する通過穴が形成されているというものである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載した脱穀装置において、前記仕切部材は前記扱室の内周下部より半径方向外側に位置していて、前記扱室の内周下部と前記仕切部材とで段差が形成されている一方、前記仕切部材上には、脱穀物を後方且つ機体中央側へ案内するための複数の起立片が立設されているというものである。
【0008】
請求項3の発明は、請求項2に記載した脱穀装置において、前記各起立片の高さが前記段差内に収まる寸法になっていて、前記扱胴の前記扱歯と干渉しないように設定されているというものである。
【0009】
請求項4の発明は、請求項2又は3に記載した脱穀装置において、前記各起立片の後端部は、前端部と同じ高さか又はそれよりも低い高さに設定されているというものである。
【発明の効果】
【0010】
本願発明によると、扱室の後部には排稈口のうち下向き開口部を覆う仕切部材が、扱胴の後端側にある扱歯と対峙するように設けられているから、前記扱室の下方に漏下せずに塊状になった排稈塊を、前記排稈口から後方に排出する前に、前記扱胴後端側の前記扱歯と前記仕切部材とで確実に分断し又はほぐすことが可能になる。その上、前紀仕切部材には穀粒や塵の通過を許容する通過穴が形成されているから、排稈塊の中に紛れ込んだササリ粒は、効率よく分離回収されて前記通過穴や前記排稈口から漏下することになる。従って、排稈塊と共にササリ粒を機外に排出してしまう脱穀ロス(3番ロス)が少なくなり、脱穀効率を向上できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本願発明を具体化した実施形態をコンバインに適用した場合の図面(図1〜図6)に基づいて説明する。図1はコンバインの側面図、図2はコンバインの平面図、図3は脱穀装置の側面断面図、図4は動力伝達系のスケルトン図、図5は脱穀装置の背面断面図、図6は送塵弁と起立片との連動関係を示す平面説明図である。
【0012】
(1).コンバインの概略構造
まず、図1〜図3を参照しながら、コンバインの概略構造について説明する。
【0013】
実施形態における2条刈り用のコンバインは、走行部としての左右一対の走行クローラ2にて支持された走行機体1を備えている。走行機体1の前部には、圃場の植立穀稈(未刈穀稈)を刈り取りながら取り込む刈取装置3が単動式の油圧シリンダ(図示省略)にて昇降調節可能に装着されている。
【0014】
走行機体1には、フィードチェン6付きの脱穀装置5と、脱穀後の穀粒を貯留するグレンタンク7とが横並び状に搭載されている。この場合、脱穀装置5が走行機体1の進行方向左側に、グレンタンク7が走行機体1の進行方向右側に配置されている。走行機体1の後部には排出オーガ8が旋回可能に設けられている。グレンタンク7内の穀粒は、排出オーガ8の先端籾投げ口から例えばトラックの荷台やコンテナ等に搬出される。
【0015】
刈取装置3とグレンタンク7との間に設けられた操縦部9内には、走行機体1の旋回方向及び旋回速度を変更操作する操向ハンドル10や、オペレータが着座する操縦座席11等が配置されている。操縦座席11の一側方に配置されたサイドコラム12には、走行機体1の変速操作を行う主変速レバー13及び副変速レバー14と、刈取装置3や脱穀装置5への動力継断操作用のクラッチレバー15とが前後傾動可能に設けられている。
【0016】
操縦部9の下方には、動力源としてのエンジン17が配置されている。エンジン17の前方には、当該エンジン17からの動力を適宜変速して左右両走行クローラ2に伝達するためのミッションケース18が配置されている。実施形態のエンジン17にはディーゼルエンジンが採用されている。
【0017】
刈取装置3は、バリカン式の刈刃装置19、2条分の穀稈引起装置20、穀稈搬送装置21及び分草体22を備えている。刈刃装置19は、刈取装置3の骨組を構成する刈取フレーム47(図1参照)の下方に配置されている。穀稈引起装置20は刈取フレーム47の上方に配置されている。穀稈搬送装置21は穀稈引起装置20とフィードチェン6の送り始端部との間に配置されている。分草体22は穀稈引起装置20の下部前方に突設されている。走行機体1は、エンジン17にて左右両走行クローラ2を駆動させて圃場内を移動しながら、刈取装置3の駆動にて圃場の未刈穀稈を連続的に刈取る。
【0018】
脱穀装置5は、刈取穀稈を脱穀処理するための扱胴23と、扱胴23の下方に配置された揺動選別機構24及び唐箕ファン25とを備えている。詳細は後述するが、扱胴23は脱穀装置5の扱室80内に配置されている。揺動選別機構24は扱胴23にて脱穀された脱穀物を揺動選別するためのものであり、唐箕ファン25は前記脱穀物を風選別するためのものである。刈取装置3から送られてきた刈取穀稈の株元側はフィードチェン6に受け継がれる。そして、刈取穀稈の穂先側が脱穀装置5内に搬入され、扱胴23にて脱穀処理される。
【0019】
脱穀装置5の下部には、両選別機構24,25にて選別された穀粒のうち精粒等の一番物が集まる一番受け樋27と、枝梗付き穀粒や穂切れ粒等の二番物が集まる二番受け樋28とが設けられている。第1実施形態の両受け樋27,28は、走行機体1の進行方向前側から一番受け樋27、二番受け樋28の順で、走行クローラ2の後部上方に横設されている。
【0020】
揺動選別機構24は、扱胴23の下方に張設されたクリンプ網41、クリンプ網41の下方に配置されたフィードパン42及びチャフシーブ43、チャフシーブ43の下方に配置された網状のグレンシーブ44、並びに、チャフシーブ43の下流側(後方側)に配置されたストローラック45を備えている。唐箕ファン25はフィードパン42の下方に配置されていて、チャフシーブ43を下から上向きに抜け、脱穀装置5の後部に配置された排塵ファン36に向かう選別風を吹き出すように構成されている。
【0021】
扱胴23にて脱穀されクリンプ網41から漏れ落ちた脱穀物は、前後揺動するフィードパン42上に落下して揺動選別を受けながら、後方のチャフシーブ43に送られる。このとき、フィードパン42やチャフシーブ43上の脱穀物は、唐箕ファン25から後ろ向きに流れる選別風を受ける。かかる揺動選別と風選別との相互作用によって、脱穀物は穀粒と藁屑とに分離される。
【0022】
精粒等の一番物は、チャフシーブ43からグレンシーブ44を通り抜けて、流穀板等に案内されながら一番受け樋27内に集められ、ここから一番受け樋27内の一番コンベヤ29及び揚穀筒31内の揚穀コンベヤ32(図4参照)を介してグレンタンク7に送られる。
【0023】
枝梗付き穀粒等の二番物は、グレンシーブ44を通り抜けできずに、一番受け樋27より後方の二番受け樋28に集められ、ここから二番受け樋28内の二番コンベヤ30及び還元筒33内の還元コンベヤ34(図4参照)を介して二番処理胴35に送られる。そして、二番物は、二番処理胴35にて再脱穀されたのち、脱穀装置5内に戻されて再選別される。藁屑は、排塵ファン36に吸い込まれて、脱穀装置5の後部に設けられた排出口39(図3参照)から機外へ排出される。
【0024】
フィードチェン6の後方側(送り終端側)には排稈チェン37が配置されている。フィードチェン6の後端から排稈チェン37に受継がれた排稈(脱粒した稈)は、長い状態で走行機体1の後方に排出されるか、又は脱穀装置5の後方にある排稈カッタ38にて適宜長さに短く切断されたのち、走行機体1の後方に排出される。
【0025】
(2).コンバインの動力伝達系
次に、図4を参照しながら、コンバインの動力伝達系について説明する。
【0026】
エンジン17の動力は、エンジン17の左右一側に突設された出力軸51から、ミッションケース18と、刈取前処理装置3及び脱穀装置5と、排出オーガ8との3方向に分岐して伝達される。
【0027】
ミッションケース18内には、油圧ポンプ油圧モータ式(HST式)の直進用無段変速機52と、同じくHST式の旋回用無段変速機52とを備えている。出力軸51からミッションケース18に向かう分岐動力は、直進用無段変速機52の直進入力軸54に伝達され、当該直進入力軸54から旋回用無段変速機53の旋回入力軸55に動力伝達される。
【0028】
そして、操縦部9に配置された操向ハンドル10の操作量に応じて、各油圧ポンプにおける回転斜板の傾斜角度を調節することにより、油圧ポンプ油圧モータ間の圧油の吐出方向及び吐出量が変更され、直進出力軸又は旋回出力軸(図示省略)の回転方向及び回転数、ひいては左右の走行クローラ2の駆動速度及び駆動方向が任意に調節される。
【0029】
出力軸51から排出オーガ8に向かう分岐動力は、動力継断用のオーガクラッチ56及びグレン入力軸57を介して、グレンタンク7内の底コンベヤ58及び排出オーガ8における縦オーガ筒内の縦コンベヤ59に動力伝達され、次いで、受継スクリュー60を介して、排出オーガ8における横オーガ筒内の排出コンベヤ61に動力伝達される。
【0030】
出力軸51から脱穀装置5に向かう分岐動力は、脱穀クラッチ62を介して唐箕ファン25の唐箕軸63に伝達される。唐箕軸63に伝達された動力の一部は、プーリ・ベルト伝動系を介して、一番コンベヤ29及び揚穀コンベヤ32、二番コンベヤ30及び還元コンベヤ34、排塵ファン36の排塵軸64、並びに排稈カッタ38に伝達される。
【0031】
唐箕軸62からの動力は、プーリ・ベルト伝動系を介して扱胴入力軸65にも伝達される。扱胴入力軸65に伝達された動力は、扱胴23と二番処理胴35との2方向に分岐して伝達される。扱胴入力軸65から扱胴23への分岐動力は、扱胴23の回転軸66から排稈入力軸67を経て排稈チェン37に伝達される。扱胴入力軸65から二番処理胴35への分岐動力は、処理胴入力軸68を介して二番処理胴35の回転軸69に伝達される。
【0032】
また、唐箕軸58からは、プーリ・ベルト伝動系を介して変速クラッチ機構70にも動力伝達される。変速クラッチ機構70に伝達された動力は、刈取装置3とフィードチェン6との2方向に分岐して伝達される。
【0033】
変速クラッチ機構70から刈取装置3への分岐動力は、変速クラッチ機構70の左右一側に突設された刈取PTO軸71から、刈取クラッチ72を介して刈取入力軸73に伝達され、当該刈取入力軸73から、刈取装置3の各装置19〜21に伝達される。
【0034】
変速クラッチ機構70からフィードチェン6への分岐動力は、変速クラッチ機構70の左右他側に突設された揺動軸74から、フィードチェンクラッチ75を介してフィードチェン6の前端に動力伝達される。なお、揺動軸74には揺動リンク76が取り付けられており、揺動軸74の回転に伴う揺動リンク76の駆動にて、揺動選別機構24が所定のストロークで前後往復揺動するように構成されている。
【0035】
(3).扱室周辺の詳細構造
次に、図3、図5及び図6を参照しながら、脱穀装置における扱室周辺の詳細構造について説明する。
【0036】
脱穀装置5における揺動選別機構24の上方には、前仕切り壁81と後仕切り壁82とで前後を区画された扱室80を備えている。扱胴23は前後仕切り壁81,82間に位置しており、当該両仕切り壁81,82に扱胴23の回転軸66が回転可能に軸支されている。前仕切り壁81の下方は、フィードチェン6にて挟持搬送される刈取穀稈の穂先側が搬入される供給口83になっている一方、後仕切り壁82の下方は、フィードチェン6にて挟持搬送される刈取穀稈(排稈)の穂先側が搬出される排稈口84になっている。
【0037】
図3及び図6に示すように、扱胴23の回転軸66は、フィードチェン6による刈取穀稈の搬送方向(走行機体1の進行方向)に沿って延びていて、図5において反時計回りの矢印R方向に回転駆動するように構成されている。扱胴23の外周面には、半径方向外向きに突出した多数個の扱歯85が、扱胴23の円周方向に沿って飛び飛びの間隔で且つ回転軸66の軸線方向(前後方向)に多数列に並ぶように取り付けられている。
【0038】
扱室80内のうちフィードチェン6から遠い側には、扱胴23の略下半部を囲う支持枠86が取り付けられていて、当該支持枠86にクリンプ網41が張設されている。支持枠86の前後長さは、扱室80の前後長さ、すなわち前後仕切り壁81,82の配置間隔より短く設定されている。実施形態の支持枠86は、前部を前仕切り壁81側に寄せ、後部を後仕切り壁82側から離した状態で扱室80内に配置されている。このため、支持枠86と後仕切り壁82との間には、後ろ及び下向きに開口した開口スペースが形成されていて、当該開口スペースが扱室80後部の排稈口84になっている。
【0039】
この場合、フィードチェン6にて挟持搬送される刈取穀稈の穂先側は、前仕切り壁81の下方に位置する供給口83から扱室80内に入り、扱胴23とクリンプ網41との間を通過して、後仕切り壁82の下方に位置する排稈口84から排稈チェン37へ向けて送り出されることになる。なお、実施形態では、排稈口84の下方に一番受け樋27が位置するように設定されている。
【0040】
扱室80のうち上面及びフィードチェン6側の側面は、上部カバー体87にて覆われている。詳細は図示していないが、上部カバー体87は、機体中央側の部位を中心にして上下開閉回動可能に構成されている。
【0041】
支持枠86の前面下部には、刈取穀稈の穂先側を供給口83から扱胴23とクリンプ網41との間に案内するための供給ガイド板88が、前向きに突出するように取り付けられている一方、支持枠86の後面下部には、排稈口84のうち下向き開口部を覆う複数の仕切部材90が、扱胴23の後端側にある扱歯85と対峙する姿勢で溶接にて連設されている。
【0042】
図3及び図5に示すように、仕切部材90は支持枠86後面の内周側、すなわち扱室23の内周下部より半径方向外側に位置していて、支持枠86の後部と仕切部材90とにより、搬送方向下流側に向けて一段下がる段差が形成されている。仕切部材90群のうち左右中央のものには、穀粒や塵の通過を許容する複数の通過穴91が上下貫通状に形成されている。すなわち、左右中央に位置する仕切部材90は格子状に形成されたものである。
【0043】
左右中央に位置する仕切部材90の上面には、脱穀物を後方且つ機体中央側へ案内し得る複数の起立片92が左右方向に適宜間隔を空けて互いに平行状に立設されている。実施形態では、各起立片92の前端部は仕切部材90の上面に枢支軸93にて回動可能に枢着されている。仕切部材90には、各枢支軸93を中心とした円弧状のガイド溝穴94が各起立片92に対応して形成されている。各起立片92の長手中央部に固着された縦向きの連結ピン95は、ガイド溝穴94を上方から貫通した状態で、仕切部材90の下面側に位置するリンクアーム96に回動可能に連結されている。このため、起立片92群は、それぞれの枢支軸93回りに、一緒に且つ同じ向きに開閉回動することになる。すなわち、起立片92群はその立設姿勢を一体的に変更調節し得るように構成されている。
【0044】
ここで、図6において、起立片92の後端部が支持枠86の後面に近付く矢印A方向を開き方向と称し、起立片92の後端部が支持枠86の後面から離れる矢印B方向を閉じ方向と称する。実施形態では、各ガイド溝穴94の存在により、各起立片92が後方且つ機体中央側に延びる閉じ位置(図6の実線状態参照)から左右横向きの開き位置までの回動ストロークにてそれぞれの枢支軸93回りに開閉回動するように構成されている。
【0045】
前述の通り、各起立片92は、その立設姿勢によって、排稈口84を通過した脱穀物を後方且つ機体中央側へ案内する役割を担っている。但し、起立片92の開き方向への回動角度が大きいほど、扱胴23の回転方向Rに対する起立片92の対峙面積が小さくなって抵抗が減るため、扱室80内の脱穀物が速やかに排稈口84の後方下部にあるチャフシーブ43に向けて搬送され易くなる。
【0046】
図3及び図5に示すように、各起立片92の高さは、支持枠86の後部と仕切部材90とで形成される段差内に収まる寸法になっていて、扱胴23の外周面に突設された扱歯85と干渉しないように設定されている。また、各起立片92の後端部は、前端部と同じ高さか又はそれよりも低い高さに設定されている。すなわち、各起立片92の上端面は、側面視で水平に延びているか、若しくは、前側が高く後ろ側に行くに連れて低くなるように傾斜している。
【0047】
一方、図3、図5及び図6に示すように、上部カバー体87の上部内周面には、扱室80内における脱穀物の搬送速度を調節する複数の送塵弁97が前後方向に適宜間隔を空けて互いに平行状に配置されている。実施形態では、各送塵弁97の長手中央部が上部カバー体87の上面に支点軸98にて回動可能に枢着されている。各送塵弁97の一端部は、略板状の連結リンク99に縦向きの枢支ピン100にて回動可能に連結されている。このため、当該送塵弁97群は、それぞれの支点軸98回りに、一緒に且つ同じ向きに開閉回動することになる。
【0048】
ここで、図6において、送塵弁97のうちフィードチェン6に近い側が扱胴23の終端側に変位する矢印C方向を開き方向と称し、逆に、フィードチェン6に近い側が扱胴23の始端側に変位する矢印D方向を閉じ方向と称する。この場合、送塵弁97の開き方向への回動角度が大きいほど、扱室23内の脱穀物は扱胴23後部の排稈口84側にスムーズに搬送され易くなる。
【0049】
支点軸98群のうち任意の1つには、送塵弁97群の開閉回動角度を調節操作する送塵弁調節レバー101の基端部が、前記任意の支点軸98に対応した送塵弁97と一体的に回動するように連結されている。送塵弁調節レバー101の先端部は、上部カバー体87の上面に形成されたガイド溝(図示省略)から操縦座席11に向けて扱室80外に突出している。
【0050】
従って、オペレータが送塵弁調節レバー101を支点軸98回りに回動操作することによって、前記支点軸98に対応した送塵弁97が開閉回動すると共に、残りの送塵弁97群も連結リンク99を介して同じ向きに開閉回動することになる。これら送塵弁97群の開閉回動角度の調整によって、扱室80内における脱穀物の搬送速度(滞留時間といってもよい)が穀稈の品種や状態に応じて調節される。
【0051】
起立片92側のリンクアーム96と送塵弁97側の連結リンク99とは、押し引きの両方向に操作力を伝達可能な操作力伝達手段としてのプッシュプルワイヤ102にて連動連結されている。プッシュプルワイヤ102は、リンクアーム96と連結リンク99とをつなぐインナワイヤ103と、インナワイヤ103に摺動可能に被嵌された可撓性のアウタ管104とにより構成されている。
【0052】
アウタ管104の一端部(下端部)は、仕切部材90の下面に固着された下アウタ管受け部105に支持されている一方、アウタ管104の他端部(上端部)は、上部カバー体87の下面に固着された上アウタ管受け部106に支持されている。また、プッシュプルワイヤ102の中途部は、上部カバー体87と後仕切り壁82と脱穀装置5の側板とで囲まれた挿通窓107を通って後仕切り壁82の後方に延びている。
【0053】
起立片92群は、送塵弁97群の開閉回動に連動して、その立設姿勢を変更調節するように構成されている。すなわち、オペレータが送塵弁調節レバー101を支点軸98回りに回動操作すると、送塵弁97群が一体的に開閉回動すると共に送塵弁97側の連結リンク99が前後移動する。そして、連結リンク99の前後移動にて、プッシュプルワイヤ102が起立片92側のリンクアーム96を左右方向に押し引きする結果、起立片92群が一体的に開閉回動することになる。
【0054】
この場合、送塵弁97群が矢印C方向に開き回動すると、起立片92群はプッシュプルワイヤ102の引き作用力にて矢印A方向に開き回動し、送塵弁97群が矢印D方向に開き回動すると、起立片92群はプッシュプルワイヤ102の押し作用力にて矢印A方向に開き回動するように設定されている。
【0055】
(4).作用効果
以上の構成によると、支持枠86の後面下部(扱室80の後部)には、排稈口84のうち下向き開口部を覆う複数の仕切部材90が、扱胴23の後端側にある扱歯85と対峙するように溶接にて連設されているから、クリンプ網41から漏下せずに塊状になった排稈塊を、排稈口84から後方に排出する前に、扱胴23後端側の扱歯85と仕切部材90とで確実に分断し又はほぐすことが可能になる。その上、仕切部材90には穀粒や塵の通過を許容する通過穴91が形成されているから、排稈塊の中に紛れ込んだササリ粒は、効率よく分離回収されて通過穴91や排稈口84から漏下することになる。従って、排稈塊と共にササリ粒を機外に排出してしまう脱穀ロス(3番ロス)が少なくなり、脱穀効率を向上できる。
【0056】
さて、排稈口84付近では、フィードチェン6にて挟持搬送される刈取穀稈はすでに脱穀済の排稈になっている。このため、例えばクリンプ網41の前後長さを扱胴23の前後長さに合わせて延長させただけでは、排稈の穂先側が扱歯85に接触し過ぎて切り刻まれることになって、多量の藁屑を発生させるおそれがある。
【0057】
この点、実施形態では、仕切部材90が支持枠86後面の内周側(扱室23の内周下部)より半径方向外側に位置していて、支持枠86の後部と仕切部材90とにより、搬送方向下流側に向けて一段下がる段差が形成されているから、扱胴23後端側の扱歯85と仕切部材90との対峙距離は、扱歯85とクリンプ網41との対峙距離より長くなる。このため、排稈口84付近において排稈の穂先側が扱歯85に接触し過ぎるのを抑制できる結果、余分な藁屑の発生を低減できる。
【0058】
また、仕切部材90上には、脱穀物を後方且つ機体中央側へ案内するための複数の起立片92が立設されているから、当該起立片92群のガイド作用にて、脱穀物を排稈口84後方の広い範囲に分散させることが可能になり、選別及び排出効率の向上に寄与できる。
【0059】
更に、各起立片92の高さは、支持枠86の後部と仕切部材90とで形成される段差内に収まる寸法になっていて、扱胴23の外周面に突設された扱歯85と干渉しないように設定されているから、各起立片92の存在にて、排稈口84付近においての扱歯85による排稈の穂先側の切り刻み作用が増幅するおそれは少ない。
【0060】
しかも、各起立片92の後端部は、前端部と同じ高さか又はそれよりも低い高さに設定されているから、かかる各起立片の形状にて、脱穀物の排出方向を規制でき、この点でも、排出効率の向上に寄与できる。
【0061】
ところで、各起立片92は仕切部材90に固定的に設けたものでもよいが、扱胴23の回転方向Rに対して起立片92の広幅面が対峙した状態になるため、起立片92自体は脱穀物の搬送に対する抵抗として作用することになる。
【0062】
この点、実施形態では、仕切部材90上に立設された起立片92群がその立設姿勢を一体的に変更調節し得るように構成されているから、立設姿勢の変更調節によって、扱胴23の回転方向Rに対する起立片92の対峙面積を小さくして抵抗を減らすことが可能になる。このため、作業状況に合わせて、扱室80内の脱穀物を排稈口84の後方に向けて速やかに搬送できる。
【0063】
また、起立片92群は、送塵弁97群の開閉回動に連動して、その立設姿勢を変更調節するように構成されているから、藁屑(排塵)量が多くその排出を促進させる際に送塵弁97群を開けば、これに連動して、扱胴23の回転方向Rに対する起立片92の対峙面積を小さくして抵抗を減らす方向に、起立片97群の立設姿勢を変更調節できる。従って、起立片92群が送塵弁97群による搬送促進作用を妨げることはなく、藁屑(排塵)の排出促進に効果を発揮できる。
【0064】
(5).その他
本願発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。例えば、本願発明は、前述のような自走自脱型コンバインの脱穀装置に限らず、普通型コンバインの脱穀装置や定置式の脱穀装置に対して広く適用できる。また、仕切部材90は格子状のものに限らず、穀粒の通過を許容する通過穴が空いていれば、網状又は多孔状に形成されたものであっても差し支えない。
【0065】
その他、本願にて説明した各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】コンバインの側面図である。
【図2】コンバインの平面図である。
【図3】脱穀装置の側面断面図である。
【図4】動力伝達系のスケルトン図である。
【図5】脱穀装置の背面断面図である。
【図6】送塵弁と起立片との連動関係を示す平面説明図である。
【符号の説明】
【0067】
1 走行機体
5 脱穀装置
6 フィードチェン
23 扱胴
24 揺動選別機構
66 扱胴の回転軸
80 扱室
84 排稈口
85 扱歯
86 支持枠
87 上部カバー体
90 仕切部材
91 通過穴
92 起立片
96 リンクアーム
97 送塵弁
99 連結リンク
101 送塵弁調節レバー
102 プッシュプルワイヤ






【特許請求の範囲】
【請求項1】
刈取穀稈をフィードチェンにて挾持搬送しながら扱室内で回転する扱胴によって脱穀処理し、脱穀後の排稈を扱室後部に形成された排稈口から排出するように構成されている脱穀装置であって、
前記扱室の後部には、前記排稈口のうち下向き開口部を覆う仕切部材が、前記扱胴の後端側にある扱歯と対峙するように設けられていて、前記仕切部材には穀粒や塵の通過を許容する通過穴が形成されている、
脱穀装置。
【請求項2】
前記仕切部材は前記扱室の内周下部より半径方向外側に位置していて、前記扱室の内周下部と前記仕切部材とで段差が形成されている一方、前記仕切部材上には、脱穀物を後方且つ機体中央側へ案内するための複数の起立片が立設されている、
請求項1に記載した脱穀装置。
【請求項3】
前記各起立片の高さは前記段差内に収まる寸法になっていて、前記扱胴の前記扱歯と干渉しないように設定されている、
請求項2に記載した脱穀装置。
【請求項4】
前記各起立片の後端部は、前端部と同じ高さか又はそれよりも低い高さに設定されている、
請求項2又は3に記載した脱穀装置。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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