説明

脱窒プロセス及び脱窒装置

【課題】汚水から窒素を効果的に除去する。
【解決手段】汚水を固定微生物を用いて脱窒するプロセスにおいて、流入流量を測定し、汚水中の硝酸塩類、亜硝酸塩類及び溶存酸素の流入濃度を測定し、この流入濃度を用いて脱窒用に供給されるメタノールの基準量を決定する。更に、硝酸塩類及び亜硝酸塩類(すなわちNO)の流出濃度の測定と、供給されるメタノールの前記基準量を調節するために流出濃度を適宜利用して、フィードフォワード制御ループおよびフィードバック制御ループを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2005年8月24日に申請した米国仮出願第60/710,612号及び2006年8月15日に申請した関連米国出願の便益を主張し、そのすべての内容は参照により本開示に含まれるものである。
【背景技術】
【0002】
本発明は、概略的には、汚水を処理するシステム及びプロセスに関し、より詳しくは、汚水を脱窒するシステム及びプロセスに関する。
【0003】
ワシントンポスト紙に掲載された最近の記事(Troubled Waters in the Shenandoah: Death of Smallmouth Bass Brings Attention But No Quick Answers on Improving Quality、ワシントンポスト編集委員Michael Alison Chandler著、2005年6月20日水曜日、B01頁)では、チェサピーク湾に最終的に注ぎ込むシェナンドア渓谷内の水路に流れ込む水の水質に関する問題がしきりに提起されている。この記事に記載された幾つかのファクターの中でも、川に流れ込む水の栄養分(及び窒素分)が多いことが、水質問題の明らかな原因であると記されている。
「この川は、高濃度の栄養分を含むことでも知られている。多量の窒素及びリンが、植物や藻類の過度な成長を引き起こしており、これにより溶存酸素濃度は減少してしまう。魚は呼吸が困難となるため、病気やバクテリアへの耐性が弱まってしまう。」
「魚の大量死影響を受けている3河川のすべてに沿った地域では、主に農業がおこなわれている。シェナンドア渓谷における900を超える農場では、養鶏業が広く行われている。農場からの高栄養廃棄物は、肥料として利用されるが、河川へ流れ込む可能性もある。」
したがって、汚水の窒素分をコントロールするためのより効果的な方法が必要とされていることが明らかである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液体(例えば、汚水処理システムにおける汚水)の処理に用いられ、その処理のために供給される化学物質(以下、供給化学物質)の制御は、コンピュータ化された制御装置を用いて自動化可能であることが知られている。しかしながら、処理システムに化学物質を自動的に添加する際に、処理システム内に存在する化学物質の測定誤差と液体流量の変化に起因した液体対化学物質の比率の変動とにより、問題が生じる虞がある。
【0005】
従来、添加は流入化学物質濃度を流入流量測定と共に試験する検査室又は検査ベンチで行われてきた。したがって、添加量計算が行われ、その計算結果にしたがって添加装置(例えば薬品注入ポンプ)が手動で調節されてきた。一方、近年では、添加ポンプのペース調節の一部で流入水量信号が用いられている。流出化学物質濃度の試験結果を望ましいものに維持するために、添加率を変化させることがより直接的なアプローチであると考えられてきた。
【0006】
近年、信頼性の高い化学物質濃度の自動分析計が入手可能となってきており、したがって、添加工程のすべてを自動化することが可能となっている。更に自動分析計は、汚水処理システム中の重要な複数の化学物質を検出するようにセットアップすることができる。このため、具体的な処理内容(例えば、重炭酸ナトリウムの曝気生物反応槽への添加又は沈殿池前のリン除去制御のための鉄又はアルミニウム塩の添加)に応じて、種々の化学物質を用いることができるようになる。
【0007】
米国特許第6,129,104号(以下、’104号特許)(その内容は、本明細書に参照によって組み込まれるものとする)では、自動添加制御による液体処理化学物質の添加処理方法が提供されている。この方法では、システムに添加される化学物質量の計算は、液体流量計、流入化学物質濃度分析計及び流出化学物質濃度分析計からの信号の組み合わせによりなされている。これらの信号は、コンピュータ化化学物質添加制御装置に送られる。このコンピュータ化化学物質添加制御装置では、これらの信号によるデータの分析及び調節がなされ、更に化学物質添加機構を制御する出力信号が生成される。’104号特許によれば、この方法は、例えば、供給化学物質としてメタノールを用いる汚水の脱窒に利用してもよい。
【0008】
脱窒には、通性従属栄養細菌を用いて硝酸塩及び亜硝酸塩を汚水流から除去することが含まれる。この通性従属栄養細菌は、炭素源(例えばメタノール)の存在下及び溶存酸素(DO)の非存在下で、硝酸塩及び亜硝酸塩の両方から酸素原子を取り除き、窒素ガス(N)を残すことができる。この窒素ガスは、汚水流から大気中(空気の約80%は窒素ガスである)へ移動する。この結果、汚水流を「脱窒」することができる。メタノールの消費量は、硝酸塩及び亜硝酸塩の流入量並びにDOの流入量に依存する。したがって、脱窒を十分に行うためには、流入したDOを消費し、続いて硝酸塩及び亜硝酸塩に付随した酸素原子をすべて取り除くための、十分なメタノールが必要となる。
【0009】
ところが、’104号特許では、DOおよび亜硝酸塩類が考慮されておらず、更には、硝酸塩類のみの流入及び流出濃度が、脱窒システムに供給するメタノール量を決定するために測定されることが記載されている。しかしながら、上述のように硝酸塩類の流入及び流出濃度の測定では、脱窒システムに供給するメタノールの適量を決定するには不十分である。言い換えれば、流入及び流出硝酸塩に厳密に対応させたメタノール添加システムでは、流入する亜硝酸塩及びDOの濃度変動に伴ったメタノール需要の変化に対処することができず、添加メタノールの過不足を招く可能性がある。例えば、流入硝酸塩の測定のみに頼ると、流入DO濃度の減少により添加量が過剰となる虞がある。同様に、流出硝酸塩の測定のみに頼ると、添加量が不足する虞がある。これは、流出硝酸塩の濃度減少が測定された場合、硝酸塩濃度の減少はその硝酸塩が全て亜硝酸塩(更に還元する必要有り)に変換されたことを単に意味するとの事実が見逃されているためである。つまり、硝酸塩が窒素ガスへ完全に変換される場合には、硝酸塩はまず亜硝酸塩に変換される(このため亜硝酸塩濃度は増加する)。一方、’104号特許では、測定対象を硝酸塩濃度に限定したことによる固有の誤差を補正するために、「調整(fudge)」ファクターを利用する。これには、例えば、「作業者により決定される調節可能なファクター」の使用や「作業者により選択される感度ファクター」の使用が挙げられている。まず、このような作業者により決定される「ファクター」は、知識に基づく推測によるものにすぎず、また、精々経験的に導き出されるものである。このように作業者による技術では、作業者がシステムの要求する「スピードに追いつく」必要があり、またこの要求は、多大な時間を要求する「ラーニングカーブ」を示してしまう。
【0010】
したがって、脱窒システムに供給する化学物質(例えばメタノール)の供給量を決定するための、より正確で自動化された方法であって、作業者により決定される調節可能ファクター又は感度ファクターを利用しない方法が必要である。特に、硝酸塩類(例えば亜硝酸塩類)(いわゆるNO)に加えて窒素含有物質の流入濃度、溶存酸素、及びこれら窒素含有物質(すなわちNO)の流出濃度を考慮して、供給する化学物質の適正添加量を計算する方法が必要である。これらの測定は、流入サンプルのみ、又は流入サンプル及び流出サンプルの両方について行うことができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様では、汚水処理システムの水脱窒(aqueous denitrification)プロセスを提供する。この汚水処理システムは、流入及び流出水流、ろ床に付着(harboring)する微生物、並びにフィードフォワード制御ループとフィードバック制御ループ(適宜)とを有する。このプロセスは、
a)流入流量(適宜、1日あたり百万ガロン単位で表す)Q、流入溶存酸素濃度(適宜、mg/Lで表す)DOin、流入硝酸塩濃度(適宜、mg/Lで表す)NO‐Nin、及び流入亜硝酸塩濃度(適宜、mg/Lで表す)NO‐Nin、を測定すること、
b)ために下記フィードフォワード制御ループ関係式(1)を用いて供給化学物質要求量(feed chemical requirement、FCR)を求めること、
FCR=Q[(X×DO)+(Y×NO‐Nin)+(Z×NO‐Nin) (1)
(ここで、X、Y及びZは、約0.7〜約3.0の範囲の所定のファクター(単位なし)である。)
c)流出硝酸塩濃度(適宜、mg/Lで表す)NO‐Neff、及び流出亜硝酸塩濃度(適宜、mg/Lで表す)NO‐Neff、を適宜測定すること、並びに
d)下記フィードバック制御ループ関係式(2)、(3)及び(4)を適宜用い並びに下記関係式(5)を用いて調節供給化学物質要求量(adjusted feed chemical requirement、AFCR)を求めること、を含んで構成される。
AP=GAIN×ERR (2)
【0012】
【数1】

【0013】
A=AP+AI (4)
AFCR=FCR×(1+A) (5)
(ここで、GAINは、所定の作用係数(単位なし)であり、ERRは、NO‐Neff(NO‐NeffとNO‐Neffとの合計)測定値とNO‐Neff設定値との差であり、dlは、マイクロプロセッサの処理時間(適宜、秒で表す)と測定間の時間間隔TI(適宜、秒で表す)との合計であり、記号new及びoldは、それぞれ今回及び前回の測定を表す。)
FCR値は、関係式(1)により得られたFCRを換算係数(8.34)で乗算し、1日あたりのポンドで表す。X、Y及びZの値は、メタノール存在下での溶存酸素、硝酸塩類、亜硝酸塩類の消費量を表す化学量論的な式により決定される。最良の形態に関しての詳細は後述する。本発明の一実施形態では、X値は例えば0.81に、Y値は例えば2.25に、Z値は例えば1.35に設定する。GAIN値は、例えば0.2に設定する。TI値は、例えば400秒に設定する。NO‐Neff設定値は、0.25mg/L〜10.0mg/Lの範囲内の値に設定する。dl/TIの商は、おおよそ1に等しい。AI(old)値及びERR(old)値は、初期測定時には0に設定する。しかしながら、本発明は、上記の式に限定することも上記の式により限定されることも意図しない。これらの式は、本発明の好ましい実施形態を単に例示するためだけのものである。
【0014】
本発明の他の態様では、汚水脱窒システムを提供する。このシステムは、流入流量(適宜、1日あたり百万ガロン単位で表す)Qを測定する流入流量計と、流入溶存酸素濃度(適宜、mg/Lで表す)DOin、流入硝酸塩濃度(適宜、mg/Lで表す)NO‐Nin及び流入亜硝酸塩濃度(適宜、mg/Lで表す)NO‐Ninを測定する流入濃度分析計と、流出硝酸塩濃度(適宜、mg/Lで表す)NO‐Neff及び流出亜硝酸塩濃度(適宜、mg/Lで表す)NO‐Neffを測定する流出濃度分析計(適宜)と、供給化学物質を制御された量で供給する供給化学物質制御装置と、を含んで構成される。供給化学物質制御装置は、流入濃度分析計及び流出濃度分析計(適宜)からの入力信号を受けた自動化制御ループから出力される1以上の出力信号に応答するように構成される。入力信号は、少なくともNO‐Nin及びNO‐Ninに、更に、適宜NO‐Neff及びNO‐Neffに、関連するように構成されている。更に、自動化制御ループは、DOinに関連する入力信号を受けてもよい。更に、自動化制御ループは、Qに関連する入力信号を受けてもよい。また、供給化学物質を、流入流量の一部として供給してもよい。供給化学物質は、任意の炭素源を含んでもよく、この炭素源には、限定を意図するものではないが、酢酸、糖類、メタノール、エタノール等が含まれる。自動化制御ループは、所定の時間間隔TIで入力信号を受けるように構成されてもよい。
【0015】
更に、本発明の他の態様では、ろ床に付着する微生物に供給される供給化学物質の量を自動制御する方法を提供する。この方法は、(i)流入流量(適宜、1日あたり百万ガロン単位で表す)Q、流入溶存酸素濃度(適宜、mg/Lで表す)DOin、流入硝酸塩濃度(適宜、mg/Lで表す)NO‐Nin及び流入亜硝酸塩濃度(適宜、mg/Lで表す)NO‐Ninを測定すること、(ii)供給化学物質要求量(FCR)を、ステップ(i)で得られたQ、DOin、NO‐Nin、NO‐Ninの値に一部基づいて求めること、(iii)流出硝酸塩濃度(適宜、mg/Lで表す)NO‐Neff及び流出亜硝酸塩濃度(適宜、mg/Lで表す)NO‐Neffを適宜測定すること、(iv)ステップ(iii)で得られたNO‐Neff及びNO‐Neff(すなわちNO‐Neff)、並びにNO‐Neff(すなわち、NO‐NeffとNO‐Neffとの合計)測定値とNO‐Neff設定値との差であるERRに一部基づいて、調節供給化学物質要求量(AFCR)を適宜求めること、並びに(v)ステップ(i)、(ii)、(iii)及び(iv)を所定の時間間隔TIで繰り返すこと、を含んで構成される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の好ましい実施形態による脱窒システムのブロック図を示す。
【図2】本発明の好ましい実施形態による、脱窒システムに供給されるメタノールの添加量を計算する方法を示すフローチャートを示す。
【図3】流入硝酸塩、流入リン酸塩、及び流入溶存酸素の流入濃度について観測される日変化を、色と形によってプロットした図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、液流(代表的には汚水)の脱窒を行うシステム及び方法に関するものである。従来の脱窒システム、すなわち、供給化学物質(代表的にはメタノール)の添加量の計算を助けるための測定値である硝酸塩類の流入及び流出濃度の測定値に専ら依存し、供給化学物質添加量を「調節」するために熟練した作業者が「調節可能な」ファクター及び「感度」ファクターを決定する必要がある従来の脱窒システムとは異なり、本発明は、汚水処理プロセスで用いられるメタノールの添加量をより正確に決定するための硝酸塩類の流入及び流出濃度並びに溶存酸素の流入濃度の測定により得られる利点をも含む。つまり、本発明では、本明細書中に記載するように、作業者により決定されるファクターは必要とならない。更に、本発明には、流出測定が任意に適宜行われるシステムであって、これによりシステムの複雑さやコストを抑えることができるシステムを含む。
【0018】
図1は、本発明の好ましい実施形態による脱窒システム100のブロック図を示している。システム100は、処理対象の液体(代表的には汚水)の流入流105を受け入れるように構成されている。流入流105は、まず流入流量計110にかけられる。この流入流量計110は、液体の流量を測定し、この測定結果に対応した流量信号を出力する。続いて、流入流105は、流入濃度分析計115にかけられる。この分析計115は、1以上の装置を含んで構成されてもよく、流入流中の硝酸塩類、亜硝酸塩類及び溶存酸素の濃度を測定し、各流入濃度に対応した信号を出力する。これらの信号は、その後、制御信号を供給するために流量信号と共に組み合わされてもよい。その後、流入流105は、処理プロセス120へ進む。この処理プロセス120では、汚水の処理が行われる。
【0019】
処理プロセス120には、ろ過システムを含んでもよい。例えば、汚水から固形物質をろ過するために砂ろ過システムを用いてもよい。好ましい一実施形態として、処理プロセス120には、1又は複数の連続逆洗上向流砂ろ過システムを用いてもよい。適当な砂ろ過システムの例としては、米国特許第4,126,546号、第4,197,201号及び第4,246,102号を参照されたい。なお、これらの特許の内容は、参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0020】
処理プロセス120の一態様は、汚水の脱窒である。脱窒は、供給化学物質(代表的にはメタノール)を汚水に供給することにより行われる。上述のように、ろ床に付着する微生物は、メタノールを汚水中に存在する硝酸塩類及び亜硝酸塩類と共に消費して、窒素ガスを生成する。この窒素ガスは周辺の大気中へ自然に拡散する。このように、汚水中の窒素分相当量が取り除かれ、つまり「脱窒」が行われる。
【0021】
本発明の好ましい実施形態では、供給化学物質としてメタノールを選択する。これは、メタノールが他の合成供給化学物質と比較して入手しやすく、コストがかからないためである。また、下流における流出水中のメタノール存在量は、最小限に抑える必要がある。したがって、本発明は、脱窒を所望のレベルで行うために必要なメタノールの量をより正確に決定すること、また、流出水中の存在が問題となりえるメタノールを過剰に供給しないことを実現するものである。
【0022】
脱窒システムに導入されるメタノールにより、最初に流入水中の溶存酸素が次式で示されるように消費されることが知られている。
3O+2CHOH=2CO+4H
続いて、メタノールにより硝酸塩及び亜硝酸塩が還元される。この変換は、下記化学量論的な式で表される。
6NO+5CHOH=3N+5CO+7HO+6OH、及び
2NO+CHOH=N+CO+HO+2OH
生成された窒素ガスは、大気中に拡散する。したがって、脱窒を完全に行うために必要なメタノールの化学量論的な量は、次式で与えられる。
CHOH=0.7DO+2.0NO‐N+1.1NO‐N
(ここで、メタノール、流入溶存酸素、流入硝酸塩及び流入亜硝酸塩は、mg/Lで表される。)
実際のX、Y及びZの値は、最初に選択可能であり、また、必要があれば後々の変更も可能である。また、実際の値は、化学量論的に必要とされるものよりも数パーセント多くなることがある。
【0023】
処理プロセス120の完了後、処理された汚水(処理水)は、流出濃度分析計125に適宜かけられる。この分析計125は、ろ過システムから放流された流出流130中の硝酸塩類及び亜硝酸塩類の濃度を適宜測定する。更に、分析計125は、流出硝酸塩及び流出亜硝酸塩の濃度にそれぞれ対応する信号を出力するように構成することもできる。
【0024】
脱窒システム100の態様では、処理プロセス120に供給されるメタノール添加量の決定が重要である。システム効率を最適化するために、計算して得られる量は可能な限り正確である必要がある。本発明では、複数の分析対象物を測定することにより、供給化学物質の必要量のより完全な実態が把握され、正確性を改善することができる。
【0025】
図2は、処理プロセス120に供給されるメタノールの量を計算する方法を示すフローチャート200である。最初に、ステップ205では、流入流量を、流入流量計110を用いて測定する。この第1の測定により、流量信号が出力される。この流量信号は、変数Qで表され、代表的には1日あたり百万ガロン単位で表されてもよい。第2のステップ210では、硝酸塩類、亜硝酸塩類及び溶存酸素の流入濃度を測定する。これにより、対応する信号が出力される。これらの信号は、代表的には、1リットルあたりのミリグラム(mg/L)単位で表され、次の変数で表現される。
溶存酸素の流入濃度=DOin
硝酸塩類の流入濃度=NO‐Nin
亜硝酸塩類の流入濃度=NO‐Nin
【0026】
その後、ステップ215では、出力された信号を用いて、下記式(1)により、供給化学物質要求量(FCR)の基準(nominal)値を計算する。
FCR=Q[(X×DOin)+(Y×NO‐Nin)+(Z×NO‐Nin)] (1)
(ここで、X、Y及びZは、代表的には0.7〜3.0の範囲の所定のファクター(単位なし)である。)
上述のように、脱窒を完全に行うために必要なメタノールの化学量論的な量には、X=0.7、Y=2.0、Z=1.1が要求される。これらは最小値である。しかしながら、通常、化学量論的に反応を完了させるためには、過剰なメタノールが必要となる。したがって、化学量論的な要求量の最大で50%にあたる過剰なメタノールが必要となることがある。通常は10〜30%の過剰分、好ましくは15〜20%の過剰分、が必要となることもある。したがって、本発明の一実施形態では、X=0.9、Y=2.5、Z=1.5である。更に本発明の他の実施形態では、X=0.8、Y=2.3、Z=1.4である。FCR値は、初期値を換算係数(8.34)で乗算することで、その単位を1日あたりのポンドに変換してもよい。
【0027】
ステップ220では、硝酸塩類及び亜硝酸塩類の濃度について流出流を適宜測定する。再度、この測定結果にそれぞれ対応した信号が出力される。この信号は、次の変数で表してもよい。
硝酸塩類の流出濃度=NO‐Neff
亜硝酸塩類の流出濃度=NO‐Neff
硝酸塩類及び亜硝酸塩類の流出濃度の合計=NO‐Neff+NO‐Neff
=NO‐Neff
その後、ステップ225では、これらの信号(すなわちNO‐Neff)を用いて計算し、基準FCR値を適宜調節する。その後、メタノールの値が、連続的な流入流と共に連続的に更新されるように、フローチャート200による方法全体を連続的に繰り返す。
【0028】
本発明の好ましい実施形態では、FCR値の調節値は、比例積分(PI)ループを用いるフィードバックプロセスを適宜用いて決定される。調節値Aは、比例成分AP及び積分成分AIを含み、したがってA=AP+AIとなる。比例成分APは、下記式(2)で規定される。
AP=GAIN×ERR (2)
(ここで、GAINは、認知されたエラーに応じた所望の反応の程度であり、ERRは、制御偏差であって、また流出設定値とプロセス値との差である。)
ここで、流出設定値は、硝酸塩類及び亜硝酸塩類の合計流出濃度の予測値であり、プロセス値は、硝酸塩類及び亜硝酸塩類の流出濃度の実測値の合計である。代表的には、流出設定値は、0.25mg/L〜10.0mg/Lの範囲内の値である。そのため、例えば、所定の時間では、流出設定値は0.5mg/L、硝酸塩類の実測流出濃度は、0.5mg/L、亜硝酸塩類の実測流出濃度は、0.4mg/L、であり、したがって、硝酸塩類及び亜硝酸塩類の合計流出濃度は、0.5mg/L+0.4mg/L=0.9mg/Lとなるため、ERR=0.9mg/L−0.5mg/L=0.4mg/Lとなる。GAIN値は、代表的には0.2となる。したがって、この例では、AP=0.2×0.4=0.08となる。
【0029】
調節値の積分成分AIは、下記式(3)で規定される。
【0030】
【数2】

【0031】
ここで、TI=(時間間隔又はリセット時間)=(連続測定間の所定の時間間隔)である。例えば、TIは、400秒と等しくなるように設定される。dl=(今回のスキャン時間)=(内部システム機能)であり、これは、システムがすべてのプロセス変数を受け取った時点から機能を実行するために必要な時間である。今回のスキャン時間dlは、TIと実際の計算時間との合計である。これは、代表的にはミリ秒オーダーであり、例えば、約20ミリ秒である。したがって、この例では、dl=400秒+20ミリ秒=400.020秒となる。したがって、dl/TIの商は、通常は、1におおよそ等しく、しかしながら、常に1よりも僅かに大きく、つまり1と完全に等しくはならない。添え字の「new」及び「old」は、それぞれ今回と前回の計算を表す。したがって、積分成分AIが今回計算されたものである場合は、AI(new)と表され、AI(old)は、400秒前に計算されたAIの値であることを表す。
【0032】
AI(old)及びERR(old)の初期値は、通常0に設定される。そのため、上述の例による値をすべて式(3)に代入すると、次の結果が得られる。
AI(new)=0+0.2×(400.020/400)×[(0.5)×(0.4mg/L+0)]=0.040002mg/L=約0.04mg/L
したがって、調節合計値A=AP+AI=0.08+0.04=0.12となる。
【0033】
調節量が所定の最大調節量を超えないように、合計調節値Aを制限してもよい。例えば、特定の測定結果が前回までの測定による傾向から大きく外れた場合、測定異常又は測定エラーであるとみなすことができる。どの調節量についてもその最大量を制限することで、このような異常に対処することができる。ステップ225では、式(5)を用いて、AFCRを、AFCR=FCR×(1+0.12)又はFCRの12%増、と計算する。
【0034】
図3は、驚くべき予期不可能な結果を示している。これは、24時間にわたり、流入硝酸塩類(赤/灰色の四角形)流入リン酸類(紺/黒色の菱形)及び流入溶存酸素(薄青/薄灰色の四角形)を測定した結果である。図中に示されるように、流入硝酸塩の濃度(mg/L)は、初期平均値(約5.0mg/L)から、値の低い正午平均値(約4.0mg/L)に減少し、その後、真夜中の数時間前から値の高い平均値(約5.5mg/L)へ向けて再び増加し始める。極めて予想外なことに、流入溶存酸素は、正午ピーク値(約2.7mg/L)まで増加し続け、その後次の5時間にわたって急激に減少する。したがって、流入硝酸塩類及び流入溶存酸素は、反対方向へ推移する。流入硝酸塩類の濃度のみを測定する作業者では、「調節可能」ファクター又は「感度」ファクターを用いたとしても、流入溶存酸素の予測不能な上昇を把握できず、したがって、所望のレベルの脱窒を達成するために必要なメタノールの適量を小さく見積もってしまう虞がある。
【0035】
本発明は、出願時に考えうる好ましい実施形態をもって開示されており、本発明はここで開示した実施形態に限定されるものではない。これに関し、本発明は、特許請求の範囲に含まれる種々の修正や均等物による変更をもその範囲に含むことを意図している。特許請求の範囲は、このような変更並びに等価な構造及び機能のすべてを含むものとして広範囲に解釈されることを意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚水処理システムの水脱窒プロセスであって、
前記汚水処理システムは、
流入及び流出水流と、
ろ床に付着する微生物と、
フィードフォワード制御ループ及びフィードバック制御ループと、
を含んで構成され、
前記水脱窒プロセスは、
流入流量Q、流入溶存酸素濃度DOin、流入硝酸塩濃度NO‐Nin、及び流入亜硝酸塩濃度NO‐Nin、を測定すること、
下記フィードフォワード制御ループ関係式(1)を用いて供給化学物質要求量(FCR)を求めること、
FCR=Q[(X×DOin)+(Y×NO‐Nin)+(Z×NO‐Nin) (1)
(ここで、X、Y及びZは、0.7〜3.0の範囲の所定のファクター(単位なし)である。)
流出硝酸塩濃度NO‐Neff、及び流出亜硝酸塩濃度NO‐Neff、を測定すること、並びに
下記フィードバック制御ループ関係式(2)、(3)及び(4)並びに下記関係式(5)を用いて調節供給化学物質要求量(AFCR)を求めること
を含んで構成される
ことを特徴とする水脱窒プロセス。
AP=GAIN×ERR (2)
【数1】

A=AP+AI (4)
AFCR=FCR×(1+A) (5)
(ここで、GAINは、所定の作用係数(単位なし)であり、ERRは、NO‐Neff測定値とNO‐Neff設定値との差であり、NO‐Neffは、NO‐NeffとNO‐Neffとの合計であり、dlは、マイクロプロセッサの処理時間と測定間の時間間隔TIとの合計であり、記号new及びoldは、それぞれ今回及び前回の測定を表す。)
【請求項2】
前記FCRは、前記関係式(1)により得られるFCR値を換算係数(8.34)で乗算することにより、1日あたりのポンドで表される請求項1に記載の水脱窒プロセス。
【請求項3】
前記X、Y及びZの値は、化学量論により得られる値に設定される請求項1に記載の水脱窒プロセス。
【請求項4】
前記X、Y及びZの値は、化学量論により得られる値よりも15%大きく設定される請求項1に記載の水脱窒プロセス。
【請求項5】
前記X、Y及びZの値は、化学量論により得られる値よりも30%大きく設定される請求項1に記載の水脱窒プロセス。
【請求項6】
前記GAINは、0.2に設定される請求項1に記載の水脱窒プロセス。
【請求項7】
前記TIは、400秒に設定される請求項1に記載の水脱窒プロセス。
【請求項8】
前記NO‐Neff設定値は、0.25mg/L〜10.0mg/Lの範囲内の値に設定される請求項1に記載の水脱窒プロセス。
【請求項9】
前記dl/TIの商は、1より(前記マイクロプロセッサの処理時間)/(前記TI)の商だけ大きい請求項1に記載の水脱窒プロセス。
【請求項10】
前記AI(old)値及び前記ERR(old)値は、初期測定時には0に設定される請求項1に記載の水脱窒プロセス。
【請求項11】
流入流量Qを測定する流入流量計と、
流入溶存酸素濃度DOin、流入硝酸塩濃度NO‐Nin及び流入亜硝酸塩濃度NO‐Ninを測定する流入濃度分析計と、
流出硝酸塩濃度NO‐Neff及び流出亜硝酸塩濃度NO‐Neffを測定する流出濃度分析計と、
供給化学物質を制御された量で供給する供給化学物質制御装置であって、前記流入濃度分析計及び前記流出濃度分析計からの少なくともNO‐Nin、NO‐Nin、NO‐Neff及びNO‐Neffに関連する入力信号を受ける自動化制御ループから出力される1以上の出力信号に応答する前記供給化学物質制御装置と、
を含んで構成される
ことを特徴とする汚水脱窒システム。
【請求項12】
前記自動化制御ループは、前記流入濃度分析計からのDOinに関連する入力信号を受ける請求項11に記載の汚水脱窒システム。
【請求項13】
前記自動化制御ループは、前記流入流量計からのQに関連する入力信号を受ける請求項11に記載の汚水脱窒システム。
【請求項14】
前記供給化学物質は、前記流入流の一部として供給される請求項11に記載の汚水脱窒システム。
【請求項15】
前記自動化制御ループは、連続測定間の時間間隔TIで入力信号を受ける請求項11に記載の汚水脱窒システム。
【請求項16】
ろ床に付着する微生物に供給される供給化学物質の量を自動制御する方法であって、
(i)流入流量Q、流入溶存酸素濃度DOin、流入硝酸塩濃度NO‐Nin及び流入亜硝酸塩濃度NO‐Ninを測定すること、
(ii)供給化学物質要求量(FCR)を、ステップ(i)で得られたQ、DOin、NO‐Nin、NO‐Ninの値に基づいて求めること、
(iii)流出硝酸塩濃度NO‐Neff及び流出亜硝酸塩濃度NO‐Neffを測定すること、
(iv)ステップ(iii)で得られたNO‐Neff及びNO‐Neff、並びにNO‐Neff測定値とNO‐Neff設定値との差であるERRに基づいて、調節供給化学物質要求量(AFCR)を求めること、ここで、NO‐Neffは、NO‐NeffとNO‐Neffとの合計であり、並びに
(v)ステップ(i)、(ii)、(iii)及び(iv)を連続測定間の時間間隔TIで繰り返すこと、
を含んで構成される
ことを特徴とする方法。
【請求項17】
ろ床に付着する微生物に供給される供給化学物質の量を自動制御する方法であって、
(i)流入流量Q、流入溶存酸素濃度DOin、流入硝酸塩濃度NO‐Nin及び流入亜硝酸塩濃度NO‐Ninを測定すること、並びに
(ii)供給化学物質要求量(FCR)を、Q、DOin、NO‐Nin及びNO‐Ninの値に基づいて求めること、
を含んで構成される
ことを特徴とする方法。
【請求項18】
(iii)流出硝酸塩濃度NO‐Neff及び流出亜硝酸塩濃度NO‐Neffを測定すること、並びに
(iv)調節供給化学物質要求量(AFCR)を、NO‐Neff及びNO‐Neffの値に基づいて求めること、
を更に含んで構成される請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記調節供給化学物質要求量(AFCR)は、更に、NO‐Neff測定値とNO‐Neff設定値との差であるERRに基づいて求められ、
(v)ステップ(i)(ii)(iii)及び(iv)を連続測定間の時間間隔TIで繰り返すこと、を更に含んで構成される
請求項18に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−187587(P2012−187587A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−129978(P2012−129978)
【出願日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【分割の表示】特願2008−528022(P2008−528022)の分割
【原出願日】平成18年8月21日(2006.8.21)
【出願人】(502427895)パークソン コーポレーション (8)
【Fターム(参考)】