説明

脱臭抗菌材及び脱臭抗菌方法

【課題】二酸化塩素ガスを徐放して脱臭・抗菌を行うことができる脱臭抗菌材を実現することにある。
【解決手段】亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム、亜塩素酸カルシウム等の亜塩素酸塩化合物に対して不活性且つ耐酸化性の粉末状の基材に亜塩素酸塩化合物を吸着させ、上記粉末状の基材と、粉末状のクエン酸、リンゴ酸、スルファミン酸、リン酸、及びこれらの塩類等の不揮発性酸性物質とを混和させた状態で、通気性及び通水性を有する容器内に充填した脱臭抗菌材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、二酸化塩素ガスを徐放して脱臭・抗菌を行う脱臭抗菌材及び脱臭抗菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強い酸化力を有する二酸化塩素ガスは、優れた脱臭作用・抗菌作用を有することから、従来より、二酸化塩素ガスを用いた脱臭抗菌材や脱臭抗菌方法が提案されている。
一例として、亜塩素酸塩と酸性物質とを樹脂や鉱物に含浸させた組成物に加水することにより、二酸化塩素ガスを発生させて脱臭・抗菌を行う方法が有る。これは、亜塩素酸塩と酸性物質が、水等の極性溶媒中で反応して二酸化塩素ガスを発生する仕組みを利用したものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記方法の場合、水中において亜塩素酸塩と酸性物質は激しく反応し、この反応は不可逆的であるため、二酸化塩素ガスの発生量を制御できないという問題があった。すなわち、反応直後には大量の二酸化塩素ガスが発生するが、時間の経過と共にその発生量が著しく減少するものであった。
二酸化塩素ガスは優れた脱臭作用・抗菌作用を有する反面、一定濃度以上の二酸化塩素ガスは、金属等の物質を腐食させたり、人体に悪影響(呼吸器障害等)を与えることから、短時間に大量の二酸化塩素ガスが発生する上記従来方法は使用に際して問題があった。
【0004】
この発明は、従来の上記問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、二酸化塩素ガスを徐放して脱臭・抗菌を行うことができる脱臭抗菌材及び脱臭抗菌方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係る請求項1に記載の脱臭抗菌材は、
亜塩素酸塩化合物に対して不活性且つ耐酸化性の粉末状の基材に亜塩素酸塩化合物を吸着させ、上記粉末状の基材と、粉末状の不揮発性酸性物質とを混和させた状態で、通気性及び通水性を有する容器内に充填して成ることを特徴とする。
【0006】
本発明に係る請求項2に記載の脱臭抗菌材は、請求項1に記載の脱臭抗菌材において、
上記粉末状の基材が、タルク又はゼオライトであることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る請求項3に記載の脱臭抗菌材は、請求項1又は2に記載の脱臭抗菌材において、
上記不揮発性酸性物質が、クエン酸、リンゴ酸、スルファミン酸、リン酸及びこれらの塩類の何れか1種以上であることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る請求項4に記載の脱臭抗菌材は、請求項1乃至3の何れかに記載の脱臭抗菌材において、
上記通気性及び通水性を有する容器が、不織布、不織紙、織布の何れかで構成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る請求項5に記載の脱臭抗菌材は、請求項1乃至4の何れかに記載の脱臭抗菌材において、
上記亜塩素酸塩化合物が、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム、亜塩素酸カルシウムの何れか1種以上であることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る請求項6に記載の脱臭抗菌方法は、
請求項1乃至4の何れかに記載の脱臭抗菌材を空間内に設置して行う脱臭抗菌方法であって、
基材に吸着させる亜塩素酸塩化合物の量を2.5g/m〜10g/mと成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の脱臭抗菌材は、亜塩素酸塩化合物を吸着した粉末状の基材と、粉末状の不揮発性酸性物質とを混和させた状態で、通気性及び通水性を有する容器内に充填して構成したので、該脱臭抗菌材を空間内に設置すると、空気中の水分が通水性を有する容器を透過して亜塩素酸塩化合物及び不揮発性酸性物質と接触することにより二酸化塩素ガスが発生し、この二酸化塩素ガスが通気性を有する容器を透過して外部へ放出されることにより、空間内の脱臭及び抗菌を行うことができる。
而して、本発明に係る脱臭抗菌材は、通水性を有する容器を透過した空気中の水分と、亜塩素酸塩化合物及び不揮発性酸性物質とを反応させて二酸化塩素ガスを発生させる仕組みであるため、反応は緩やかに進行し、二酸化塩素ガスを徐放することができる。
また、空気中の水分と反応させて二酸化塩素ガスを発生させる本発明の脱臭抗菌材は、カビや細菌等が繁殖し易く、臭気も発生し易い梅雨の季節等、湿度が高く空気中の水分が多い時は、二酸化塩素ガスの発生量が多くなり、一方、空気中の水分が少ない時は、二酸化塩素ガスの発生量が少なくなるので、効果的且つ経済的に脱臭、抗菌を行うことができる。
【0012】
本発明の脱臭抗菌方法は、基材に吸着させる亜塩素酸塩化合物の量を2.5g/m〜10g/mと成した請求項1乃至4の何れかに記載の脱臭抗菌材を空間内に設置して行うものである。
而して、基材に吸着させた亜塩素酸ナトリウムの量が2.5g/m〜10g/mの脱臭抗菌材を使用することにより、十分なる脱臭効果及び抗菌効果を発揮すると共に、空間内に長期間設置しても、二酸化塩素ガスが高濃度とならず安全である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る脱臭抗菌材は、亜塩素酸塩化合物に対して不活性且つ耐酸化性の粉末状の基材に亜塩素酸塩化合物を吸着させ、上記粉末状の基材と、粉末状の不揮発性酸性物質とを混和させた状態で、通気性及び通水性を有する容器内に充填して成るものである。
【0014】
上記亜塩素酸塩化合物としては、亜塩素酸ナトリウム[NaClO]、亜塩素酸カリウム[KClO]、亜塩素酸カルシウム[Ca(ClO]等が該当し、これらを単独或いは混合して用いることができる。
これら亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム、亜塩素酸カルシウム等の亜塩素酸塩化合物と、後述する酸性物質とが共存する状態において、水が添加されることにより二酸化塩素ガス(ClO)が発生する。
【0015】
亜塩素酸塩化合物に対して不活性且つ耐酸化性の基材としては、タルク又はゼオライト等の鉱物類を好適に用いることができる。
タルク[MgSi10(OH)]は滑石とも称され、水酸化マグネシウムとケイ酸塩からなる粘土鉱物である。また、ゼオライトは沸石とも称され、ケイ素、酸素、アルミニウムの化合物であるアルミノケイ酸塩である。
而して、タルク又はゼオライト等より成る粉末状の基材の表面や細孔内に、上記亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム、亜塩素酸カルシウム等の亜塩素酸塩化合物が吸着されているのである。
【0016】
上記不揮発性酸性物質としては、固体の有機及び無機の酸、及びその塩類が該当し、
具体的には、クエン酸(C)、リンゴ酸(C)、スルファミン酸(HNSO)、リン酸(HPO)、及びこれらの塩類が好適に使用でき、これらを単独或いは混合して用いることができる。
【0017】
上記通気性及び通水性を有する容器は、不織布、不織紙、織布で構成することができる。不織布は、多数の布繊維が立体的に絡み合って形成されたものであり、繊維間に多数の空隙が形成されているものである。 不織紙は、多数の紙繊維が立体的に絡み合って形成されたものであり、繊維間に多数の空隙が形成されているものである。織布は、繊維を引き揃えて撚りをかけた糸を織り込んで形されたものであり、糸間に多数の空隙が形成されているものである。
尚、樹脂等より成る多孔質フィルムで上記通気性及び通水性を有する容器を構成しても良い。
【0018】
以下において、本発明に係る脱臭抗菌材の製造方法を説明する。
先ず、濃度25%の亜塩素酸塩化合物の水溶液を用意し、該亜塩素酸塩化合物水溶液中に、タルク又はゼオライト等より成る粉末状の基材を浸漬する。浸漬後、基材を乾燥させることにより、亜塩素酸塩化合物を吸着した粉末状の基材を得ることができる。
次に、亜塩素酸塩化合物を吸着した粉末状の基材と、粉末状の不揮発性酸性物質とを乾燥状態で混和させ、その後、亜塩素酸塩化合物を吸着した粉末状の基材及び粉末状の不揮発性酸性物質を、通気性及び通水性を有する容器内に充填し、密封すれば良い。
【0019】
本発明に係る脱臭抗菌材は、亜塩素酸塩化合物を吸着した粉末状の基材と、粉末状の不揮発性酸性物質とを混和させた状態で、通気性及び通水性を有する容器内に充填して構成したので、該脱臭抗菌材を空間内に設置すると、空気中の水分が通水性を有する容器を透過して亜塩素酸塩化合物及び不揮発性酸性物質と接触することにより二酸化塩素ガスが発生し、この二酸化塩素ガスが通気性を有する容器を透過して外部へ放出されることにより、空間内の脱臭及び抗菌を行うことができるのである。
【0020】
而して、本発明に係る脱臭抗菌材にあっては、通水性を有する容器を透過した空気中の水分と、亜塩素酸塩化合物及び不揮発性酸性物質とを反応させて二酸化塩素ガスを発生させる仕組みであるため、反応は緩やかに進行し、二酸化塩素ガスを徐放することができる。
【0021】
また、空気中の水分と反応させて二酸化塩素ガスを発生させる本発明の脱臭抗菌材は、カビや細菌等が繁殖し易く、臭気も発生し易い梅雨の季節等、湿度が高く空気中の水分が多い時は、二酸化塩素ガスの発生量が多くなり、一方、空気中の水分が少ない時は、二酸化塩素ガスの発生量が少なくなるので、効果的且つ経済的に脱臭、抗菌を行うことができる。
【0022】
尚、亜塩素酸塩化合物を吸着した基材及び不揮発性酸性物質は粉末状であるため、水分と接触する表面積を大きく確保することができる。
【実施例】
【0023】
以下に本発明を、実施例を挙げて更に詳細に説明する。
【0024】
[実施例1:脱臭効果試験]
悪臭物質である硫化水素、アンモニア及び揮発性脂肪酸をそれぞれ充填した閉鎖空間内に、本発明に係る脱臭抗菌材を設置し、4時間経過後の硫化水素、アンモニア及び揮発性脂肪酸の濃度(ppm)を測定した。本発明の脱臭抗菌材は、基材に吸着させた亜塩素酸塩化合物としての亜塩素酸ナトリウムの量が2.5g/mのものを使用した。また、閉鎖空間は200リットル容量のガス置換デシケーターを用い、外部との空気交換が行われないようシールした。濃度の測定は、ガステック検知管を用いた。
試験結果を表1に示す。
【表1】

【0025】
表1に示す通り、初期値濃度10ppmの硫化水素が4時間経過後には3ppm(除去率70%)となり、初期値濃度1.2ppmのアンモニアが4時間経過後には0.4ppm(除去率67%)となり、初期値濃度1ppmの揮発性脂肪酸が4時間経過後には0ppm(除去率100%)となり、硫化水素、アンモニア及び揮発性脂肪酸に対する臭気抑制効果が確認された。
【0026】
[実施例2:抗菌効果試験]
本発明に係る脱臭抗菌材を設置した閉鎖空間内に、大腸菌(Escherichia coli MBRC3972株)及び真菌類である酵母(Saccharomyces cerevisiae)を摂取した培地を設置した試験区と、本発明に係る脱臭抗菌材を設置しない閉鎖空間内に大腸菌及び酵母を摂取した培地を設置した対照区を設け、両区における大腸菌及び酵母の生育具合を比較した。本発明の脱臭抗菌材は、基材に吸着させた亜塩素酸ナトリウムの量が2.5g/mのものを使用した。また、閉鎖空間は200リットル容量のガス置換デシケーターを用い、外部との空気交換が行われないようシールした。試験は48時間経過後の培地上に形成されたコロニー形成数(cfu)から菌の発生量を算出した。
試験結果を表2に示す。
【表2】

【0027】
表2に示す通り、本発明に係る脱臭抗菌材を設置しなかった対照区では48時間経過後に大腸菌及び酵母が10個発生したが、本発明に係る脱臭抗菌材を設置した試験区では大腸菌及び酵母が生育せず、大腸菌及び酵母に対する抗菌効果が確認された。
【0028】
[実施例3:二酸化塩素ガス濃度試験]
閉鎖空間内に、本発明に係る脱臭抗菌材を設置し、0〜30日迄の空間内の二酸化塩素ガス濃度(ppm)を測定した。本発明の脱臭抗菌材は、基材に吸着させた亜塩素酸ナトリウムの量が10g/mのものを使用した。また、閉鎖空間は200リットル容量のガス置換デシケーターを用い、外部との空気交換が行われないようシールした。濃度の測定は、ガステック検知管を用いた。
試験結果を表3に示す。
【表3】

【0029】
表3に示す通り、設置当初から5日目までは徐々に濃度が低下(0.5〜0.05ppm)するが、その後(5日〜30日)は0.03〜0.05ppm程度で長期間濃度が安定しており、この結果、本発明に係る脱臭抗菌材を閉鎖空間内に長期間設置しても、二酸化塩素ガスが集積して高濃度とはならず安全であることが判明した。
【0030】
[実施例4:二酸化塩素ガスの腐食性試験]
本発明に係る脱臭抗菌材を設置した閉鎖空間内に、鉄(SS400)、ネパール黄銅(C4640P)、快削黄銅(C3604)、ステンレス(SUS304)、合成ゴム(NBR)、高密度ポリエチレン(HDPE)の試験片を入れて3ヶ月間静置後、試験片の重量を測定し、静置前後の重量変化から腐食具合を測定した。本発明の脱臭抗菌材は、基材に吸着させた亜塩素酸ナトリウムの量が3.0g/mのものを使用した。また、閉鎖空間は200リットル容量のガス置換デシケーターを用い、外部との空気交換が行われないようシールした。
試験結果を表4に示す。
【表4】

【0031】
表4に示す通り、空気中でも酸化しやすい金属である鉄片には腐食が見られたが、それ以外のネパール黄銅(C4640P)、快削黄銅(C3604)、ステンレス(SUS304)、合成ゴム(NBR)、高密度ポリエチレン(HDPE)については3ヶ月経過後においても重量変化がなく、二酸化塩素ガスによる腐食性は見られらなかった。
【0032】
而して、上記実施例1及び実施例2に示す通り、基材に吸着させた亜塩素酸ナトリウムの量が2.5g/mである本発明の脱臭抗菌材は、脱臭効果(表1参照)及び抗菌効果(表2参照)を発揮するものであり、また、実施例3に示す通り、基材に吸着させた亜塩素酸ナトリウムの量が10g/mである本発明の脱臭抗菌材は、閉鎖空間内に長期間設置しても、二酸化塩素ガスが高濃度とはならず安全である(表3参照)。
以上のことから、本発明の脱臭抗菌材を用いて空間の脱臭・抗菌を行う場合には、基材に吸着させた亜塩素酸ナトリウムの量が2.5g/m〜10g/m(脱臭抗菌材を設置する空間1m当たり2.5g〜10g)のものを使用することにより、十分なる脱臭効果及び抗菌効果を発揮すると共に、空間内に長期間設置しても、二酸化塩素ガスが高濃度とならず安全である。
亜塩素酸ナトリウム以外の亜塩素酸塩化合物(亜塩素酸カリウム、亜塩素酸カルシウム等)を用いる場合も同様に、基材に吸着させる亜塩素酸塩化合物の量が2.5g/m〜10g/mのものを使用するのが好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜塩素酸塩化合物に対して不活性且つ耐酸化性の粉末状の基材に亜塩素酸塩化合物を吸着させ、上記粉末状の基材と、粉末状の不揮発性酸性物質とを混和させた状態で、通気性及び通水性を有する容器内に充填して成ることを特徴とする脱臭抗菌材。
【請求項2】
上記粉末状の基材が、タルク又はゼオライトであることを特徴とする請求項1に記載の脱臭抗菌材。
【請求項3】
上記不揮発性酸性物質が、クエン酸、リンゴ酸、スルファミン酸、リン酸及びこれらの塩類の何れか1種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の脱臭抗菌材。
【請求項4】
上記通気性及び通水性を有する容器が、不織布、不織紙、織布の何れかで構成されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の脱臭抗菌材。
【請求項5】
上記亜塩素酸塩化合物が、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム、亜塩素酸カルシウムの何れか1種以上であることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の脱臭抗菌材。
【請求項6】
請求項1乃至4の何れかに記載の脱臭抗菌材を空間内に設置して行う脱臭抗菌方法であって、
基材に吸着させる亜塩素酸塩化合物の量を2.5g/m〜10g/mと成したことを特徴とする脱臭抗菌方法。


【公開番号】特開2012−161493(P2012−161493A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24492(P2011−24492)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(593065545)株式会社工生研 (3)
【Fターム(参考)】