説明

脱臭装置

【課題】折り曲げ電極と組み合わせて用いるメッシュ電極の断面構造を最適化してスパークによる電極の溶融破壊を抑制した安価な脱臭装置を提供する。
【解決手段】
高電圧放電によってオゾンおよび紫外線を発生させる手段9と、この高電圧放電手段で発生させた紫外線による光触媒作用で空気中に含まれている臭気成分や有害物質などの分解をおこなう光触媒モジュール3と、前記高電圧放電手段により発生させたオゾンを分解するオゾン分解手段4とをファン11によって送風される送風経路2内に配置してなり、前記高電圧放電をおこなう放電電極6を格子状の薄板金属で形成し、対極7a,7bをメッシュ状にした金属のワイヤ8で形成するとともに、前記ワイヤ8の断面積S(mm)を、
(1回の放電エネルギ×検知までの放電回数/電極材料の融点×比熱)×10
の値以上の関係としたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中に含まれている臭気成分や有害物質などを分解して脱臭をおこなう脱臭装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、住宅の高気密化の進展、屋外空気汚染の定常化により、居住空間内における空気質改善の要望が高まっている。空気質の中でも、タバコ煙の臭気や介護環境などにおける代謝臭気の低減、または建材から発生するVOC(揮発性有機物)に代表される有害ガス成分の除去に対するニーズは特に大きくなっている。
【0003】
これらの要望に対して、従来より活性炭に代表される吸着剤による脱臭、あるいは臭気成分を他の薬剤成分と反応させ、臭気の質を変えて臭気を低減する方法が多く採用されてきた。
【0004】
上記方法に対して、送風用のファンによって送風される送風経路内に、高電圧放電によってオゾンおよび紫外線を発生させる手段と、この高電圧放電手段で発生させた紫外線による光触媒作用で空気中に含まれている臭気成分や有害物質などの分解をおこなう光触媒モジュールと、前記高電圧放電手段により発生させたオゾンを分解するオゾン分解手段とを配置してなるより有効な脱臭装置が特許文献1に示されている。この脱臭装置は、性能のコントロールが高圧電源の波形制御で容易におこなうことができるとともに、紫外線ランプを用いないで光触媒を励起できるので寿命を長く保持できるなどの長所があり、居住空間や家電製品に採用されている。
【0005】
前記脱臭装置の性能は、印加電圧、放電周波数を変えることで広範囲に亙って変更することができるが、高性能を得るために入力を上げていくと電極寿命が短くなる問題点があり、特に、異物の侵入や水分の影響によって発生するスパーク時には、放電エネルギーが一箇所に集中するため、非常に短い時間で電極が溶融し破壊してしまうことがある。
【0006】
そして、空気を脱臭する場合において、送風経路内に空気とともに混入する異物や水分を分離除去することはきわめて困難であり、前記異物などを分離除去させることでスパークの発生を防ぐ方策は不可能と考えられている。
【0007】
前記スパーク発生による電極損傷の防止対策として、図6に示すような、スパークしても部分的な損傷ですむハニカム構造の電極(51)を用い、高圧電源では、いち早くスパーク発生を検知して出力を遮断する安全回路を設けるなどの工夫がなされているが、ハニカム電極は、その折り曲げ成形やスポット溶接による製造加工が複雑であることから高価となる問題があった。
【0008】
このハニカム電極の欠点を補う構成として、後述する図2に示すようなエッチングおよび折り曲げ方式の電極構造があり、この構成によれば、折り曲げ構造によりスパークに対する強度を強くした放電電極を得ることができるが、対極に同構成の折り曲げ電極を用いると、相対向する電極の位置がずれることによって放電し易い箇所が形成され、スパーク発生の原因となるため、対極は薄板金属をエッチングによってワイヤ格子状に形成したメッシュ電極を用いることになる。
【特許文献1】特開2003−339839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のように、折り曲げ電極を放電電極に用い、メッシュ電極を対極に用いる組み合わせは、安価であり製造も容易となる利点を有するが、高性能の放電をおこなうと依然としてスパークが発生する場合がある。そして、スパークが発生すると、放電電極については、折り曲げ部の先端が融けるだけで特に支障を生じることはないが、対極のメッシュ電極は、厚みが薄いことからスパークによってメッシュが融けてしまい、溶融破壊を起こす可能性がある。
【0010】
この溶融破壊を防ぐためにはメッシュの断面積を増やすようにすればよい。すなわち、対極のメッシュを形成している金属ワイヤの断面積を増やすことで、エネルギーが集中しても断面全体が融点以上の温度にならない状態であれば、融けてなくなることはないが、このとき、断面積を大きくし過ぎると電極全体の体積が増えるため放電負荷が増えてしまい、高圧電源への負担が大きくなるという欠点を生じる。
【0011】
本発明は上記の事情を考慮してなされたものであり、折り曲げ電極と組み合わせて用いるメッシュ電極の断面構造を最適化してスパークによる電極の溶融破壊を抑制した安価な脱臭装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明の脱臭装置は、高電圧放電によってオゾンおよび紫外線を発生させる手段と、この高電圧放電手段で発生させた紫外線による光触媒作用で空気中に含まれている臭気成分や有害物質などの分解をおこなう光触媒モジュールと、前記高電圧放電手段により発生させたオゾンを分解するオゾン分解手段とをファンによって送風される送風経路内に配置してなり、前記高電圧放電をおこなう放電電極を格子状の薄板金属で形成し、対極をメッシュ状にした金属のワイヤで形成するとともに、前記ワイヤの断面積S(mm)を、
(1回の放電エネルギ×検知までの放電回数/電極材料の融点×比熱)×10
の関係としたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の構成によれば、高電圧放電による光触媒の励起で、寿命が長く性能の優れた脱臭効果を得るとともに、メッシュ状の対極の構成を最適化して高圧電源への負担を軽くし、スパークの発生を抑制して電極が容易に溶融破壊しない、安価で安定した脱臭装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面に基づき本発明の1実施形態について説明する。図1は、家庭内の厨房におけるレンジフードなどに取り付けた脱臭装置(1)の概略図であり、脱臭をおこなう対象エリアに設けた風路(2)内に配設している。この脱臭装置(1)は、光触媒モジュール(3)とオゾン分解触媒(4)とを備え、前記風路(2)内を流通する空気に含まれる臭い分子や有機物質を吸着し脱臭するものである。
【0015】
光触媒モジュール(3)は、アルミナやシリカ等の多孔質セラミックからなる基体の表面に、酸化チタンに代表される光触媒粒子を固定した光触媒フィルタ(5)を2枚隣接し、この光触媒フィルタ間には、放電電極(6)を立設するとともに、前記2枚の光触媒フィルタ(5a)(5b)の風上と風下側には、メッシュ電極からなる対極(7a)(7b)をそれぞれ配置することで構成されている。
【0016】
前記放電電極(6)は、図2、およびその要部詳細を図3に示すように、0.1mm厚程度のステンレスなどの薄板金属(6a)をエッチングして格子状に成形し、形成される多数の角穴(6b)の各辺の一部を上下方向にそれぞれ折り曲げて折曲片(6c)を設けたものであり、前記折り曲げ成形によりスパークに強い形状となっている。
【0017】
一方、対極(7a)(7b)は、図4に示すように、風路(2)を流れる空気を通し、また電気を通すために、前記同様のステンレス薄板をエッチングすることで幅、厚さとも0.1mm程度のワイヤ状にし、メッシュ電極としたものである。このメッシュ電極は製造が容易なためコスト的にも安価となる利点がある。
【0018】
なお、前記光触媒モジュール(3)における光触媒フィルタ(5)は、必ずしも2枚隣設せずとも、臭気成分や有害物質が比較的少ない場合には、1枚の光触媒フィルタの前後に対極(7)と放電電極(6)を設ける構成でもよい。
【0019】
(9)は電源装置であり、トランスなどの高電圧発生部(10)により前記放電電極(6)と各対極(7a)(7b)との間に正のパルス状直流高電圧を印加するものであって、この構成により、放電電極(6)と対極(7a)(7b)は紫外線発生用の放電手段として機能し、双方の電極間に放電が起きて波長が380nm以下である紫外線が発生する。 また、(11)はファンであり、風路(2)内に前記ファン(11)を風下側として配列することで空気流通を促進し、脱臭作用を助長するものであり、前記ファン(11)の風上側には、特に図示しないが、集塵フィルタを配置するようにしてもよい。
【0020】
上記脱臭装置(1)は、電源装置(8)に通電して高電圧発生部(10)から放電電極(6)と各対極(7a)(7b)との間に高電圧を与えることで電極間に放電が起き、発生した紫外線が光触媒フィルタ(5a)(5b)に照射されることで光触媒を活性化させ、発生した活性酸素が風路(2)を流下し、水酸化ラジカル(遊離基)の強い酸化作用で光触媒フィルタ(5a)(5b)の表面に付着した臭気ガス成分や有機化合物の結合を分解し、無臭化若しくは低臭気化することで脱臭するものである。
【0021】
また、菌細胞膜を脆化させ抗菌をおこなうとともに、酸化分解作用によって光触媒フィルタ(5a)(5b)表面の微生物、特に好気性細菌の繁殖を抑制して、脱臭装置(1)や周囲壁表面の汚れを分解除去する。
【0022】
そしてまた、この放電電極(6)と対極(7)が放電すると、紫外線とともにオゾンが発生するため、前記光触媒モジュール(3)は、紫外線による活性酸素の発生で有機物質を分解させる機能とともに、オゾン発生手段としても機能するものであり、臭気成分を含んだ空気を発生したオゾンと混合し反応させることで臭気成分を酸化分解し脱臭することができる。
【0023】
光触媒モジュール(3)の風下側には、所定距離を空けて2酸化マンガンを主体にしたハニカム形状の焼結体からなるオゾン分解触媒(4)を設置しており、臭気物質と反応しないでそのまま流下する所定値以上の余剰オゾンを分解するようにしている。なお、オゾン発生手段は、上記の光触媒モジュール(3)によるものだけでなく、沿面放電電極と高電圧トランスを組み合わせたものや電解方式によるものでもよい。
【0024】
しかして、放電電極(6)からエネルギーを受けた対極(7a)(7b)のメッシュ電極が溶融するのは、微小部分の断面全体の温度が上昇して融点まで達した場合であり、換言すれば、断面全体が融点まで達しない場合は電極の損傷は部分的なもので終わることになる。
【0025】
高圧電源からのパルス、若しくは交流波形電圧の1回の放熱エネルギーと、これに安全回路によって高電圧が切断されるまでの放電回数を乗じた値が、スパークによってその発生部分に与えられるエネルギーの大きさになり、そのエネルギーを受けることによる電極の温度は、比熱と融点を考慮して、「1回の放熱エネルギー×検知までの放電回数/電極材料の融点×比熱」の値と相関関係がある。
【0026】
実際の現象では、エネルギーの集中する電極の体質、熱伝導による温度の平準化、放電場でのエネルギーロス、電極からの輻射熱による温度低下などの種々の要因があることから、電極の温度を計算によって求めることは不可能である。しかしながら、電極を設計する際にその断面積を知ることは試行錯誤の回数を激減できることから大きなメリットになる。
【0027】
そこで、発明者らは、対極(7a)(7b)を形成するメッシュ電極ワイヤ(8)の断面積S(mm)を、
(1回の放電エネルギー×検知までの放電回数/電極材料の融点×比熱)×α(係数)
として、ワイヤ(8)の断面積を変えた複数のメッシュ電極によって放電による電極の溶融実験をおこない、データから係数αを求めたところ、図5に示すグラフのように、係数αの適正値=10000との結果を得た。
【0028】
そして、通常の仕様として、放電周波数を20kHz以上、1回の放電エネルギーを2〜2.5mJ(ミリジュール)、検知までの放電回数を1回、電極材料をステンレス(SUS)とすると、融点は約1500℃、比熱は500mJ/g・K(ミリグラム・ケルビン)であることから、係数を10000として前記式に当てはめると、0.027〜0.033となり、メッシュ電極のワイヤ(8)の断面積Sは、前記数値以上の例えば0.03mmあるいは0.04mm以上の値が必要になる。
【0029】
一方、メッシュ電極からなる対極(7a)(7b)のメッシュを粗くするとともに金属ワイヤの断面積を大きくするようにしてもよいが、断面積を増やすことは、前述したように、電極の負荷を増やすことにつながり高圧電源でのロスが増大してしまうため、メッシュを粗くして断面積を増やす場合には、前記式に沿った断面積にして電極の負荷を調整することが望ましい。
【0030】
また、対極(7a)(7b)におけるワイヤ(8)の断面積を増やす場合には、厚さを増やさずに幅を拡げることで対応するとよい。電極はエッチングにより形成するため、金属薄板の厚さを増加した場合には、エッチング加工時間が長くなるだけでなく、メッシュ孔が角錐孔となって内側面に傾斜面が形成され、メッシュ密度が高くなった場合には送風機能に弊害を生じるなどの不具合を生じるため、厚みは薄肉にして幅寸法を増やすことで断面積を増やすように形成することが望ましい。
【0031】
なお、格子状の放電電極(6)およびメッシュ状の対極(7a)(7b)をエッチング加工で形成すると、プレス成形方式でおこなった場合などに比較してバリが残るようなことがなく、スパーク発生を抑制することができる。
【0032】
次に、本発明の1実施例について説明する。放電周波数が23kHzで1回の放電エネルギーが2.0mJ、高圧電源の安全装置がスパークを検知して動作を停止するまでの放電回数が2回、電極の材質をSUSとした条件にて、ワイヤの厚さを0.2mm、幅を0.2mmとしたメッシュ電極(A)と、厚さ0.2mm、幅0.3mmのメッシュ電極(B)と2枚の電極を設けた。
【0033】
本発明によるワイヤ断面積Sを前記関係式で計算した値は、0.053mmである。これに対して、前記電極(A)は断面積が0.04mmと計算値より小さく、電極(B)は同0.06mmと計算値より大きいものであるが、これを温度40℃、湿度90%の恒湿恒温槽中の環境で100時間運転し、電極の損傷を調査した。
【0034】
上記実験については、運転途中でスパーク回路が動作し、放電動作が停止することがあったが、リセットすることで運転を続行させたところ、ワイヤ断面積が0.04mmの電極(A)では、スパークによる溶融破壊が7箇所検知されたため、採用困難との判定となり、本発明の関係式による0.053mmよりワイヤ断面積の大きい0.06mmの電極(B)については、破壊が発生することはなく、採用可能となった。
【0035】
本発明は以上のように構成されているが、脱臭装置(1)の設置場所については、前記した厨房などの家庭内居住空間に限るものではなく、公共の場所に置かれたゴミ収集場や分煙機、あるいは、エアコンや、冷蔵庫の内部貯蔵空間の脱臭をおこなうように送風経路に設けられた脱臭装置にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の1実施形態を示す脱臭装置の概略図である。
【図2】図1における放電電極の平面図である。
【図3】図2の要部構成を示す斜視図である。
【図4】図1における対極であるメッシュ電極の平面図である。
【図5】係数と電極破壊との関係を示すグラフである。
【図6】従来のハニカム電極を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0037】
1 脱臭装置
2 風路
3 光触媒モジュール
4 オゾン分解触媒
5 光触媒フィルタ
6 放電電極
6a 薄板金属
6b 角穴
6c 折曲片
7a、7b 対極
8 ワイヤ
9 電源装置
10 高電圧発生部
11 ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧放電によってオゾンおよび紫外線を発生させる手段と、この高電圧放電手段で発生させた紫外線による光触媒作用で空気中に含まれている臭気成分や有害物質などの分解をおこなう光触媒モジュールと、前記高電圧放電手段により発生させたオゾンを分解するオゾン分解手段とをファンによって送風される送風経路内に配置してなり、前記高電圧放電をおこなう放電電極を格子状の薄板金属で形成し、対極をメッシュ状にした金属製のワイヤで形成するとともに、前記ワイヤの断面積S(mm)を、
(1回の放電エネルギ×検知までの放電回数/電極材料の融点×比熱)×10
の値以上の関係としたことを特徴とする脱臭装置。
【請求項2】
光触媒モジュールを形成する光触媒フィルタの両側に、金属薄板をエッチングして格子状に成形し角穴の各辺の一部を上下方向にそれぞれ折り曲げて形成した放電電極、および金属薄板をエッチングすることでワイヤメッシュ状にした対極を離間して位置させたことを特徴とする請求項1記載の脱臭装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−173296(P2008−173296A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−9514(P2007−9514)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(502285664)東芝コンシューマエレクトロニクス・ホールディングス株式会社 (2,480)
【出願人】(503376518)東芝ホームアプライアンス株式会社 (2,436)
【Fターム(参考)】