脱落膜由来幹細胞または脂肪由来幹細胞を含有する尿失禁の細胞治療剤
本発明は脱落膜または脂肪由来幹細胞を含有する尿失禁の細胞治療剤に係り、さらに詳しくは、胎盤若しくは生理血の脱落膜由来幹細胞、または脂肪由来幹細胞を含有する尿失禁の細胞治療剤に関する。本発明に係る脱落膜または脂肪由来幹細胞は尿漏出圧増加及び尿道括約筋収縮力を向上させる効果を示すことから、尿失禁治療剤として有用である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脱落膜または脂肪由来幹細胞を含有する尿失禁の細胞治療剤に係り、さらに詳しくは、胎盤若しくは生理血の脱落膜由来幹細胞、または脂肪由来幹細胞を含有する尿失禁の細胞治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞とは、自己複製能力を有し、且つ、2以上の細胞に分化する能力を有する細胞のことをいい、万能幹細胞(totipotent stem cells)、全能性(全分化能)幹細胞(pluripotent stem cells)、多能性(多分化能)幹細胞(multipotent stem cells)に分類することができる。
【0003】
万能幹細胞は一つの完全な個体に発生していける万能の性質を持った細胞であって、卵子と精子の受精後に8細胞期までの細胞がこのような性質を持ち、この細胞を分離して子宮に移植すると一つの完全な個体に発生していくことができる。全分化能幹細胞は外胚葉、中胚葉、内胚葉層由来の様々な細胞と組織に発生していく細胞であって、受精4〜5日後に現れる胚盤胞の内側に位置している内細胞塊から由来し、これを胚幹細胞といい、様々な他の組織細胞に分化するが、新たな生命体を形成することはできない。多能性幹細胞はこの細胞が含まれている組織及び器官を形成する特異的な細胞にしか分化することができない幹細胞である。
【0004】
多能性幹細胞は成体骨髄から最初に分離され(Y. Jiang et al., Nature, 418:41, 2002)、その後、他の多くの成体組織からも確認された(C.M. Verfaillie, Trends Cell Biol., 12:502, 2002)。すなわち、骨髄は最も広く知られた幹細胞のソースであるが、多能性幹細胞は皮膚、血管、筋肉及び脳からも確認された(J.G. Toma et al., Nat. Cell Biol., 3:778, 2001; M. Sampaolesi et al., Science, 301:487, 2003; Y. Jiang et al., Exp. Hematol., 30:896, 2002)。しかしながら、骨髄などの成体組織内の幹細胞は極めて稀に存在し、これらの細胞は分化誘導せずには培養することは困難であって、特異的に選択された培地がなければ、それらの細胞を培養することが困難である。すなわち、幹細胞を分離して体外において保存することが極めて困難であるという欠点がある。
【0005】
これに対し、脂肪組織が多能性幹細胞の新たなソースであることが判明した(B.Cousin et al., BBRC., 301:1016, 2003; A. Miranville et al., Circulation, 110:349, 2004; S. Gronthos et al., J. Cell Physiol., 189:54, 2001; M.J.Seo et al., BBRC., 328:258, 2005)。すなわち、脂肪吸入により得られたヒト脂肪組織に未分化細胞群が含まれており、これはインビトロにおいて脂肪細胞、骨形成細胞、筋芽細胞及び軟骨芽細胞への分化能を有する細胞であるということが報告された(P.A.Zuk et al., Tissue Eng., 7:211, 2001; A.M Rodriguez et al., BBRC., 315:255, 2004)。このような脂肪組織は大量に抽出することができるというメリットがあり、従来の欠点を補完する新たな幹細胞のソースとして注目されている。なお、最近の研究においては、脂肪組織由来細胞が筋肉再生能及び神経血管分化を促進する能力があることが動物モデル実験を通じて知られるに伴い、幹細胞の新たなソースとして関心が寄せられている。
【0006】
本出願人は、細切した胎盤組織をコラゲナーゼ及びbFGF含有培地において培養して胎盤幹細胞を分離した後、筋細胞、骨形成細胞、神経細胞、脂肪細胞、軟骨細胞または膵臟ベータ細胞に分化させている(KR2007−0101756A)。
【0007】
一方、女性の尿失禁は多産と老齢による陰部神経の損傷に起因する骨盤筋肉の支持弱化から由来する尿道及び膀胱の垂れが原因となる。現在、大韓民国の女性尿失禁患者数は400〜500万名であると推定され、老年層女性の急激な増加によって毎年患者数が増加している傾向にある。そこで、現在、女性尿失禁は全世界的に発生する深刻な社会的問題の一つとなってきている。尿失禁患者を治療するために注射療法や尿道及び膀胱を支持するための手術療法と注射療法が使用されている。現在、手術療法は侵襲的な方法であって、合併症が発生する恐れがあるという問題点があり、注射療法は高価な物質であるため患者に容易に使用することができないだけではなく、成功率が50〜60%ほどにしかならず、再注射及び再手術が求められるという問題点がある。
【0008】
幹細胞注射治療は麻酔を必要とせず、しかも、手軽に尿道括約筋に注射することができる。従って、幹細胞注射療法が尿道括約筋の収縮力を向上させ、且つ、尿漏出圧を増加させることができる限り、尿失禁は幹細胞治療の立派な適応症になると考えられる。しかしながら、幹細胞を用いた尿失禁治療に関する研究は全くないのが現状である。
【0009】
そこで、本発明者らは、幹細胞を用いた尿失禁治療剤を開発するために鋭意努力した結果、脱落膜または脂肪由来幹細胞が尿失禁の治療に効果的であるということを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の要約】
【0010】
本発明の主たる目的は、胎盤若しくは生理血の脱落膜由来幹細胞、または脂肪由来幹細胞を有効成分として含有する尿失禁細胞治療剤を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、胎盤若しくは生理血の脱落膜由来幹細胞、または脂肪由来幹細胞を有効成分として含有する尿失禁細胞治療剤の製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、胎盤若しくは生理血の脱落膜由来幹細胞、または脂肪由来幹細胞の尿失禁治療または予防用途を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】胎盤の脱落膜由来間葉幹細胞(mesenchymal stem cell、MSC)の形態に対する顕微鏡写真である。
【図2】基底脱落膜由来幹細胞の継代数による蓄積集団倍加レベル(cumulative population doubling level、CPDL)を示すグラフである。
【図3】SFM培地において7日間培養した1継代目基底脱落膜の球体形成写真である。
【図4】フローサイトメータ(FACS)を用いて基底脱落膜由来MSCの表面抗原を分析した結果である。
【図5】それぞれに表記された特定の抗体を用いた免疫組織化学検査の結果写真である[A:OCT4;B:SSEA4;C:CD44、CD54及び対照群]。
【図6】OCT4に対するRT−PCRの結果である[レーン1:マーカー、レーン2:RT反応対照群、レーン3:羊膜幹細胞、レーン4:基底脱落膜幹細胞、レーン5:PCR反応対照群]。
【図7】筋細胞への分化において、MM−3160培地(筋肉細胞分化用SKBM培地)において10日間誘導した基底脱落膜由来幹細胞に対する免疫組織化学検査(αMyosin−FITC)の顕微鏡写真である。
【図8】ヌードマウスにおいて陰部神経を剥離する場面を示す写真である。
【図9】チルトテーブルを用いて尿漏出圧を測定する過程を示す写真である(A及びB)。
【図10】実施例6の実験結果による尿漏出圧結果を示すグラフである(A:4週目の尿漏出圧、B:8週目の尿漏出圧、N:正常群、D:対照群、P1:実験群1、P2:実験群2)。
【図11】実施例7の実験結果による尿漏出圧結果を示すグラフである(A:4週目の尿漏出圧、B:8週目の尿漏出圧、N:正常群、D:対照群、A1:実験群1、A2:実験群2)。
【図12】器官槽(organ bath)を用いて尿道括約筋収縮力を測定する過程を示す写真である(A及びB)。
【図13】実施例8の実験結果に従って、電気刺激による尿道括約筋収縮力を示すグラフである(A:4週目の尿道括約筋収縮力、B:8週目の尿道括約筋収縮力、N:正常群、D:対照群、P1:実験群1、P2:実験群2)。
【図14】実施例8の実験結果に従って、アセチルコリン投与による尿道括約筋収縮力を示すグラフである(A:4週目の尿道括約筋収縮力、B:8週目の尿道括約筋収縮力、N:正常群、D:対照群、P1:実験群1、P2:実験群2)。
【図15】実施例9の実験結果に従って、電気刺激による尿道括約筋収縮力を示すグラフである(A:4週目の尿道括約筋収縮力、B:8週目の尿道括約筋収縮力、N:正常群、D:対照群、A1:実験群1、A2:実験群2))。
【図16】実施例9の実験結果に従って、アセチルコリン投与による尿道括約筋収縮力を示すグラフである(A:4週目の尿道括約筋収縮力、B:8週目の尿道括約筋収縮力、N:正常群、D:対照群、A1:実験群1、A2:実験群2)。
【図17】実施例10によって雌性ヌードマウスにおける尿道組織の組織学的H/E免疫染色、SMA、MyHC結果を示すものである。
【図18】実施例10によって雄性マウスにおける尿道組織の組織学的H/E免疫染色結果を示すものである。
【図19】実施例11によって雌性ヌードマウスにおける尿道組織の組織学的H/E免疫染色、SMA、MyHC結果を示すものである。
【図20】実施例11によって雄性マウスにおける尿道組織の組織学的H/E免疫染色結果を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、一観点において、胎盤若しくは生理血の脱落膜由来幹細胞、または脂肪由来幹細胞を有効成分として含有する尿失禁の細胞治療剤に関する。
【0015】
本発明において、前記胎盤の脱落膜由来幹細胞は、(a)CD29及びCD90に対して陽性の免疫学的特性を示し、CD31及びCD45に対して陰性の免疫学的特性を示す、(b)Oct4、SSEA−4及びクリプト−1に対して陽性の免疫学的特性を示す、(c)プラスチックに付着して成長し、円形または紡錘状の形態学的特性を示し、SFM培地において球体を形成して未分化状態で長期間維持可能である、及び(d)筋細胞に分化する能力を有することができる。
【0016】
1.用語の定義
本発明において使用された用語「幹細胞」とは、組織及び器官の特殊化された細胞を形成するように非制限的に再生可能なマスター細胞のことを言う。幹細胞は発達可能な万能性または多能性細胞である。幹細胞は2つの娘幹細胞、または一つの娘幹細胞と一つの由来(「転移」)細胞に分裂することができ、この後、組織の成熟で且つ完全な形態の細胞に増殖される。
【0017】
本発明において使用された用語「分化」とは、細胞が分裂増殖して成長する間に互いに構造や機能が特殊化する現象、すなわち、生物の細胞、組織などがそれぞれに与えられた仕事を行うために形態や機能が変化していくことを言う。一般的に、比較的、単純な系が2以上の質的に異なる部分系に分離される現象である。例えば、個体発生において最初に同質的であった卵部の間に頭や胴体などの区別が付いたり、細胞にも筋細胞または神経細胞などの区別がつくように最初にほとんど同質であったある生物系の部分の間に質的な相違点ができること、またはその結果として質的に区別可能な部域または部分系に分けられている状態を分化と称する。
【0018】
本発明において使用された用語「細胞治療剤」とは、ヒトから分離、培養及び特殊な操作を通じて製造された細胞及び組織であって、治療、診断及び予防の目的で使用される医薬品(米国FDA規定)である。具体的には、細胞もしくは組織の機能を復元するために、生きている自己、同種、または異種細胞を体外において増殖選別したり、他の方法により細胞の生物学的特性を変化させるなどの一連の行為を通じて治療、診断及び予防の目的で使用される医薬品のことを言う。細胞治療剤は、細胞の分化の度合いに応じて、大きく、体細胞治療剤、幹細胞治療剤に分類され、本発明は特に脱落膜または脂肪由来幹細胞治療剤に関する。
【0019】
2.脱落膜由来幹細胞の分離及び精製
胎盤は妊娠中に胎児のために生成されるものであり、一般的に重さ500g、直径15−20cm、厚さ2−3cm程度の円盤状となっている。胎盤の一方は母体と接しており、他方は胎児と接しており、その間の空間に母体の血液が入れられていて胎児に栄養分を供給することになる。胎盤は羊膜、絨毛膜及び脱落膜の3層から構成されている。羊膜は胎児を取り囲んでいる薄くて透明な膜であり、羊水が入れられており、羊膜には胎児の幹細胞が存在する。脱落膜は受精卵が子宮に着床されるために子宮の上皮細胞が変形されて形成された膜であって、母体の幹細胞が存在する。本発明においては前記脱落膜から幹細胞を分離した。
【0020】
本発明に係るヒト胎盤組織から分離された脱落膜由来幹細胞は成人の自家性成体幹細胞に分類され、胎盤組織を使用するため倫理的に問題視されない。
【0021】
通常、下記の方法を通じて、胎盤の脱落膜から幹細胞を分離及び精製する。哺乳類の胎盤(好ましくは、ヒトの胎盤)を子宮から娩出し、これから脱落膜を分離した後、処理及び培養して多能性幹細胞、胎盤脱落膜由来幹細胞及び他の生体物質を生成する。胎盤の脱落膜由来幹細胞は子宮から娩出された胎盤から得られる。好ましい実施態様において、胎盤の脱落膜は成長因子[例:bFGF(Basic Fibroblast Growth Factor)]の存在下において培養される。
【0022】
本発明においては、下記の方法を通じて、ヒト胎盤組織の脱落膜から幹細胞を分離及び精製した。ヒト胎盤組織サンプルから脱落膜を分離してそれぞれPBSにより洗浄した後、脱落膜組織を細切する。細切した脱落膜組織を100mm皿に移した後、コラゲナーゼ(1mg/mL)を添加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM:Dulbecco’s Modified Eagle Medium、Gibco)を用いて37℃において1時間かけて化学的に分解する。
【0023】
化学的に分解された組織を100μmメッシュでろ過して未分解組織を除去した後、1200rpmにて1〜10分間遠心分離した。上澄液は吸引し、底面に残留しているペレットはPBSにより洗浄した後に1200rpmにて1〜10分間遠心分離した。底面にあるペレットを単一細胞として上手く懸濁させた後、bFGFが含有されているDMEM培地において培養する。このとき、間葉幹細胞の場合には底面に付着し、これ以外の細胞は浮遊している。
【0024】
このような胎盤の脱落膜由来幹細胞はプラスチックに付着して成長し、円形または紡錘状の形態学的特性を示す。2日が経過した後、皿の底面に付着できなかった細胞はPBSにより洗浄し、培地を2〜3日おきに交替しながら培養してヒト胎盤から分離した脱落膜由来幹細胞液を得た。
【0025】
前記分離された脱落膜由来幹細胞の増殖率を調べてみると、継代数が12に至るまで、CPDLが次第に増加して優れた増殖率を持つということが分かる(図2)。
【0026】
得られた胎盤の脱落膜由来幹細胞はSFM培地において球体を形成して未分化状態で長期間維持可能である(図3)。本発明において使用可能なSFM培地の一つとして、2%B27、500mM 2-メルカプトエタノール、1μg/mLヒドロコルチゾン、5μg/mLインシュリン、20ng/mL EGF、20ng/mL bFGFを含有する乳腺上皮基礎培地(MEBM:Mammary Epithelial Basal Medium)を挙げることができる。
【0027】
増殖された細胞の数及び類型はフローサイトメトリー、セルソーティング、免疫細胞化学(例えば、組織特異性または細胞マーカー特異的抗体により染色する)、蛍光活性化細胞分類(fluorescence activated cell sorting、FACS)、磁気活性化細胞分類(magnetic activated cell sorting、MACS)などの標準的な細胞検出技術を使用する形態及び細胞の表面マーカーにおける変化を測定したり、光学顕微鏡または共焦点顕微鏡を用いて細胞の形態を検査したり、またはPCR及び遺伝子発現プロファイリングのように当該分野で周知の技術を用いて遺伝子発現における変化を測定することにより容易にモニタリング可能である。
【0028】
好適な実施態様において、胎盤若しくは生理血の脱落膜由来幹細胞は当該分野に公知された技法、例えば、密度勾配遠心分離、磁性細胞分離、フローサイトメータ、または他の細胞分離法を用いて、または当該分野で公知の分類方法を用いて分類される。
【0029】
例えば、得られた胎盤若しくは生理血の脱落膜由来幹細胞液から目的の表面抗原を発現している多能性幹細胞を得る方法としては、ソート機能を持つフローサイトメータを用いたFACS法(Int. Immunol., 10(3):275, 1998)、磁気ビーズを使用する方法、多能性幹細胞を特異的に認識する抗体を用いたパニング法(J. Immunol., 141(8):2797, 1998)などがある。なお、大量の培養液などから多能性幹細胞を得る方法としては、細胞の表面に発現されて分子(以下、表面抗原と称する。)を特異的に認識する抗体を単独または組み合わせてこれをカラムとして使用する方法がある。
【0030】
フローサイトメータソート方式としては、水滴荷電方式、セルキャプチャー方式などを挙げることができる。一実施態様において、細胞表面マーカー特異的抗体またはリガンドは明らかな蛍光ラベルにより標識される。細胞はセルソーターによって処理されてそれらの使用された抗体に対する結合能力に基づいて細胞が分離される。FACSでソートされた粒子は96ウェルまたは384ウェルプレートの個別ウェル内に直接的に沈着されて分離及びクローニングを促進することができる。
【0031】
いかなる方法によっても細胞の表面抗原を特異的に認識する抗体を蛍光により標識し、標識された抗体と抗原の結合体に対する蛍光を測定して蛍光強度を電気信号に変換することにより細胞の抗原発現量を定量することができる。なお、使用する蛍光物質の種類を組み合わせることにより、複数の表面抗原を発現している細胞を分離することも可能である。ここに使用可能な蛍光物質として、FITC(fluorescein isothiocyanate)、PE(phycoerythrin)、APC(Allo-phycocyanin)、TR(TexasRed)、Cy3、CyChrome、Red613、Red670、TRI-Color、QuantumRedなどがある。
【0032】
本発明において使用可能な一つの方法であるフローサイトメータを用いたFACS法としては、上記において得られた幹細胞溶液を収集し、遠心分離などの方法により細胞を分離した後、直接的に抗体により染色する方法と、一回適当な培地中において培養、増殖を実施した後に抗体を染色する方法を利用することができる。細胞の染色は、先ず、表面抗原を認識する一次抗体と目的細胞サンプルを混合し、4℃において30分から1時間インキュベーションする。一次抗体が蛍光により標識されている場合には洗浄後にフローサイトメータにより分離を実施する。一次抗体が蛍光標識されていない場合には洗浄後に一次抗体に対して結合活性を有する蛍光標識された2次抗体と一次抗体が反応した細胞を混合し、再び4℃において30分から1時間インキュベーションする。洗浄後、一次抗体と2次抗体により染色された細胞をフローサイトメータにより分離する。
【0033】
前記脱落膜由来幹細胞の分離及び精製方法は本発明の脂肪由来幹細胞にも容易に適用可能である。
【0034】
3.胎盤の脱落膜由来幹細胞の特性
胎盤の脱落膜から分離された胎盤の脱落膜由来幹細胞は均質であり、しかも、無菌的である。なお、幹細胞はヒトに投与されるのに適した形態(すなわち、薬学的等級)で容易に得られる。
【0035】
長期間培養後に細胞を表面CDシリーズ抗原マーカー、例えば、CD29(単核球マーカー:mononuclear cell marker)、CD31(上皮細胞及び幹細胞マーカー:endothelial cell and stem cell marker)、CD45(造血幹細胞マーカー:hematopoietic cell marker)及びCD90(単核球マーカー:mononuclear stem cell marker)により特徴付けしてFACS分析に適用することができる。
【0036】
本発明の方法により得られた好適な胎盤の脱落膜由来幹細胞は、下記の細胞表面マーカーの存在により同定可能である:CD29及びCD90に対していずれも陽性の免疫学的特性を示し、CD31及びCD45に対していずれも陰性の免疫学的特性を示す。このような細胞表面マーカーは当該分野に周知の方法により、例えば、フローサイトメータにより一括して測定された後に洗浄し、抗細胞表面マーカー抗体により着色される。
【0037】
また、本発明の胎盤の脱落膜由来幹細胞は未分化状態の幹細胞マーカーと言えるOct4、SSEA4、及びクリプト−1のマーカーを用いて確認することができる(図4、図5及び図6)。Oct4は幹細胞において未分化状態標識因子としてよく知られており、技術分野においては、大韓民国特許出願第10−2004−0105716号「ヒト胚幹細胞に特異的な単一クローン抗体」、大韓民国特許出願第10−2004−0096780号「哺乳類胚及び幹細胞の未分化状態維持Oct4遺伝子発現抑制用二重螺旋RNA」、大韓民国特許出願第10−2006−0092128号「骨芽細胞基盤適所類似構造により増殖能が増加されたヒト臍帯血由来多分化能幹細胞及びその製造方法」などに開示するように、未分化状態の幹細胞であることを立証するための実験としてOct4発現能実験を行うのが一般的である。なお、SSEA4(Stage Specific Embryonic Antigen 4)とクリプト−1がヒト胚幹細胞の表面に存在するということも当業者に既に知られている事実である。
【0038】
Oct4発現を、FACS法と一緒に逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応法(RT−PCR:Reverase Transcriptase-Polymerase Chain Reaction)を用いて確証する。RT−PCRの方法は当分野で公知の技術である。RT−PCRは特定の部位のRNAを鋳型としてこれに対応するcDNAを合成した後、これを用いてPCR増幅を行う技術であり、実験過程は、(1)逆転写酵素を用いてRNAからcDNAを製造する過程と、(2)cDNAを用いて特定部位を増幅する過程と、からなり、過程(2)はゲノムDNAから特定の遺伝子部位を増幅する方法と同様である。この方法は、ノーザンブロットハイブリダイゼーションなどの方法を通じて可能であったRNA分析よりも実験方法が一層簡単であるだけではなく、遺伝子の塩基配列決定が可能であるため、主としてmRNAの塩基配列及び転写量を研究するときに大幅に役立つ技術である。
【0039】
本発明の胎盤の脱落膜由来幹細胞はOct4、SSEA4及びクリプト−1の発現に対して陽性反応を示す(図4、図5及び図6)。
【0040】
4.胎盤の脱落膜由来幹細胞の分化
本発明の方法により得られた胎盤の脱落膜由来幹細胞は筋細胞への分化をはじめとする、特定の細胞系統(lineages)によって分化するように誘導可能である。特定の実施態様において、本発明の方法により得られた胎盤の脱落膜由来幹細胞は移植及び生体外処理プロトコールにおける使用のために分化するように誘導される。特定の実施態様において、本発明の方法により得られた胎盤の脱落膜由来幹細胞は特定細胞類型に分化するように誘導され、治療遺伝子生成物を提供するように遺伝子的に設計される。
【0041】
胎盤の脱落膜由来幹細胞の特定筋細胞への分化測定は当該分野で周知の方法により行うことができ、例えば、胎盤の脱落膜由来幹細胞を一日、アザサイチジンにより前処理した後にSKBM培地(cambrex,co.)において筋細胞への分化を誘導することができる。
【0042】
また、前記分化細胞はフローサイトメトリーまたは免疫細胞化学などの技法を用いて細胞表面マーカー(例えば、組織特異的または細胞マーカー特異的抗体により細胞を染色する)及び形態の変化を測定しながら、光学顕微鏡または共焦点顕微鏡を用いて細胞の形態を調べることにより、またはPCR及び遺伝子発現プロファイルなどの当該分野で周知の技法を用いて遺伝子発現上の変化を測定することにより確認可能である。
【0043】
5.胎盤の脱落膜由来幹細胞及び分化細胞の利用
本発明の胎盤の脱落膜由来幹細胞は、身体の組織または器官が、目的とする細胞集団、例えば、胎盤の脱落膜由来幹細胞または胎盤の脱落膜由来細胞集団の生着、移植または注入により強化、治療または代替される様々な種類の治療プロトコルに使用可能である。前記本発明の胎盤の脱落膜由来幹細胞は存在する組織を代替または強化させて、新規または変化された組織にしたり、生物学的組織または構造と結合することができる。
【0044】
本発明の好適な実施態様において、胎盤の脱落膜由来幹細胞は適合及び不適合HLA型造血移植を含む、自家及び同種造血移植に使用可能である。
【0045】
胎盤の脱落膜由来幹細胞は、典型的に由来細胞が使用される治療または研究プロトコルにおいて特定のクラスの前駆細胞(例えば、軟骨細胞、幹細胞、造血細胞、膵臟実質細胞、神経幹細胞及び筋肉前駆細胞など)の代わりに使用可能である。
【0046】
また、本発明に係る胎盤の脱落膜由来幹細胞は注射可能物質(例えば、本願の参照文献として引用される国際特許公開公報第WO96/39101号)として剤型化可能である。他の実施態様において、本発明の細胞及び組織は米国特許第5,709,854号、第5,516,532号、第5,654,381号(いずれも本願の参照文献として引用される)に記述されたような重合成または架橋性ハイドロゲルを用いて剤型化可能である。
【0047】
6.脂肪由来幹細胞及び利用
本発明の脂肪由来幹細胞は、ヒト脂肪組織の脂肪吸入術において付随的に得られる脂肪組織から純粋に分離してフラスコ培養容器に付着して生長する脂肪由来間葉幹細胞から得られる。
【0048】
本発明の脂肪由来幹細胞は、具体的に、出願人の先特許出願である大韓民国特許出願第10−2007−0050624号、大韓民国特許出願第10−2007−0042645号、大韓民国登録特許第10−0679642号または大韓民国登録特許第10−0788632号に記載された内容によって分離及び培養された脂肪由来幹細胞である。
【0049】
前記脂肪由来幹細胞は、次の特性を有することができる:
(a)CD73、CD90、CD29、CD44及びCD105に対していずれも陽性の免疫学的特性を示し、CD33、CD34、CD45、CD4、CD31、CD62p、CD14及びHLA−DRに対していずれも陰性の免疫学的特性を示す。
(b)プラスチックに付着して成長し、紡錘状の形態学的特性を示し、CORM−2含有培地において球体を形成して未分化状態で長期間維持可能である。
【0050】
本発明の幹細胞の球体培養のために、分離された脂肪組織由来多分化能幹細胞をCORM−2含有MEBM培地において培養すれば、接種後3日目から球体の形状を形成し始めて、これから、未分化状態を維持しながら優れた増殖率を有するということが分かる。
【0051】
また、これに制限されるものではないが、前記脂肪由来幹細胞の免疫学的特性を調べるために、上述した公開特許に記載された免疫学的特性分析方法によって、脂肪由来幹細胞をPBSにより洗浄し、トリプシンにより処理した後、細胞を回収して5分間1000rpmにて遠心分離する。上澄液を捨てた後、2%FBS及びPBSの混合液を入れて洗浄した後に1000rpmにて5分間遠心分離し、上澄液を捨てた後、細胞をPBSに浮遊させて各サンプルに対して1×105個の細胞を分注する。各細胞に対しては抗体(R−phycoerythrin-conjugated mouse anti-human monoclonal antibody)を添加して氷において40分間放置して結合を誘導し、反応が終結すると、1000rpmにて5分間遠心分離して上澄液を除去した後、PBSにより2回洗浄する。洗浄後には最終的に1%パラホルムアルデヒドを添加して固定し、FACS方法を通じて得られた多分化能幹細胞の表面抗原を分析した結果、本発明の脂肪由来幹細胞はCD73に対しては91%、CD90に対しては97%、CD29に対しては96%、CD44に対しては83%、CD105に対しては80%の陽性反応を示し、他の抗原に対する免疫表現型を確認した結果、CD33、CD34、CD45、CD4、CD31、CD62p、CD14及びHLA−DRに対していずれも陰性の免疫学的特性を示す。
【0052】
前記脂肪由来多分化能幹細胞を生理食塩水、生理食塩水+スクロース、生理食塩水+スクロース+5%アルブミン及びPBS+スクロースの条件下において保管後の、球体形成能を確認する場合、10μMCORM−2、5mL抗生剤抗真菌剤溶液(100X)、1μg/mLハイドロコチソン、5μg/mLインシュリン、20ng/mL EGF、40ng/mL FGF、B27及びβ−メルカプトエタノールを含有する無血清MEBM培地を含有する6ウェル細胞培養機の各ウェルに5×104〜1×105個/mLの細胞を分注して培養した結果、3〜7日目から球体を形成しはじめ、7〜10日目にも幹細胞が増殖して球体を形成する。
【0053】
本発明の脂肪由来幹細胞は、一態様として、脂肪吸入術またはカテーテルを連結した使い捨て注射器から得られるチュメスント溶液と脂肪が含有された原料から、マイコプラズマ試験と無菌試験を通じて原料品質管理基準を通過した試料を遠心分離して脂肪層と水層を分離して水層の試料をコラゲナーゼ溶液により前処理した後に得られた細胞を前記公開特許に記載された培地において培養して脂肪幹細胞を利用することができる。
【0054】
本発明の脂肪由来幹細胞は、身体の組織または器官が目的とする細胞集団、例えば、脂肪由来幹細胞または由来細胞集団の生着、移植または注入により強化、治療または代替される様々な種類の治療プロトコルに使用可能である。前記本発明の脂肪由来幹細胞は存在する組織を代替または強化させて、新規または変化された組織にしたり、生物学的組織または構造と結合することができる。
【0055】
本発明の方法により得られた脂肪由来幹細胞は筋細胞への分化をはじめとする、特定の細胞系統によって分化するように誘導可能である。特定の実施態様において、本発明の方法により得られた脂肪由来幹細胞は移植及び生体外処理プロトコルにおける使用のために分化するように誘導される。特定の実施態様において、本発明の方法により得られた脂肪由来幹細胞は特定の細胞類型に分化するように誘導され、治癒遺伝子生成物を提供するように遺伝子的に設計される。脂肪由来幹細胞の特定の筋細胞への分化測定は当該分野で周知の方法により行うことができる。
【0056】
また、前記分化細胞はフローサイトメトリーまたは免疫細胞化学などの技法を用いて細胞表面マーカー(例えば、組織特異的または細胞マーカー特異的抗体により細胞を染色する)及び形態の変化を測定しながら、光学顕微鏡または共焦点顕微鏡を用いて細胞の形態を調べることにより、またはPCR及び遺伝子発現プロファイルなどの当該分野で周知の技法を用いて遺伝子発現上の変化を測定することにより確認可能である。
【0057】
7.胎盤の脱落膜または脂肪由来幹細胞を用いた尿失禁治療剤の開発
本発明に係る胎盤の脱落膜由来幹細胞または脂肪由来幹細胞を含有する尿失禁細胞治療剤は、前記胎盤の脱落膜由来幹細胞または脂肪由来幹細胞が内尿道括約筋の機能向上を示す尿漏出圧上昇及び外尿道括約筋の機能向上を示す尿道括約筋の収縮力を増加させる原理に基づくものである。
【0058】
尿漏出圧とは、尿漏出時の膀胱内圧または尿漏出時の腹圧を意味するものであり、尿漏出圧の減少は尿失禁の主な原因である。
【0059】
本発明においては、胎盤の脱落膜由来幹細胞または脂肪由来幹細胞が尿失禁治療に及ぼす影響、特に、尿漏出圧に及ぼす影響を測定するために、雌性ヌードマウスをそれぞれ正常群、対照群及び実験群に分類した後、生理食塩水を用いて前記正常群、対照群(陰部神経切断群)及び実験群(陰部神経切断後に胎盤の脱落膜由来幹細胞または脂肪由来幹細胞を使用した群)の膀胱内圧を増加させて尿漏出圧を測定することにより、本発明に係る胎盤の脱落膜由来幹細胞が尿漏出圧を増加させ、これにより、尿失禁細胞治療剤としての可能性を確認する。
【0060】
尿道括約筋は収縮力により排尿を調節して機能するものであり、尿道括約筋の収縮力弱化もまた尿失禁の主な原因である。
【0061】
本発明においては、胎盤の脱落膜由来幹細胞または脂肪由来幹細胞が尿失禁治療に及ぼす影響、特に、尿道括約筋の収縮力に及ぼす影響を測定するために、雄性マウスをそれぞれ正常群、対照群及び実験群に分類した後、尿道の組織断片に電気場刺激(EFS)またはアセチルコリン薬物を適用して尿道括約筋の収縮力を測定することにより、本発明に係る胎盤の脱落膜由来幹細胞または脂肪由来幹細胞が尿道括約筋の収縮力を増加させ、これにより、尿失禁細胞治療剤としての可能性を確認する。
【0062】
8.胎盤の脱落膜由来幹細胞または生理血の脱落膜由来幹細胞または脂肪由来幹細胞を含有する尿失禁細胞治療剤
胎盤の脱落膜とは、受精卵が子宮に着床されるために子宮の上皮細胞が変形されて形成された膜のことを言う。
【0063】
生理血は子宮頸管粘液、膣分泌物、子宮内細胞、子宮の上皮細胞と毛細血管の血が混ざっており、細胞などを形成するタンパク質が主流をなしており、このとき、生理血内に含まれている子宮から脱落された子宮の上皮細胞生理血を脱落膜と称する。
【0064】
脂肪由来幹細胞は、ヒト脂肪組織の脂肪吸入術において付随的に得られる脂肪細胞とフラスコ培養容器に付着して生長する脂肪由来間葉幹細胞から得られる。
【0065】
上述したように、胎盤の脱落膜と生理血の脱落膜は主に子宮の上皮細胞で構成され、本発明の実施例においては、具体的に胎盤の脱落膜由来幹細胞の尿失禁治療効果だけを究明したが、生理血の脱落膜由来幹細胞も尿失禁治療効果があるということを容易に類推することができる。さらに、脂肪由来幹細胞もまた多分化能を有していて、脂肪組織由来幹細胞もまた適用可能であるということを容易に類推することができる。このため、本発明によれば、胎盤の脱落膜由来幹細胞を含有する尿失禁細胞治療剤だけではなく、生理血の脱落膜由来幹細胞を含有する、または脂肪組織由来幹細胞を含有する尿失禁細胞治療剤を実現することは当業者にとって自明であるといえる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例を挙げて詳述する。これらの実施例は単に本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例に制限されないことは当業界において通常の知識を持った者にとって自明である。
【0067】
実施例1:本発明に係る幹細胞の分離及び培養
(1)胎盤の脱落膜由来幹細胞の分離及び培養
本出願人の先特許出願(大韓民国公開特許10−2007−0101756A)に記載された下記の方法により胎盤から脱落膜を分離した。
【0068】
具体的に、胎盤は高麗大学病院臨床試験倫理委員会ガイドラインに従って高麗大学付属九老病院において正常分娩と早産分娩から収集されて研究用に使用した。胎盤組織は抗生剤が含まれている生理食塩水に入れて研究室まで持ち運び、研究室に運ばれた胎盤組織はPBSを用いて洗浄して血球細胞と多数の組織の残骸を除去したり組織を溶血バッファを用いて血球細胞を除去したり、胎盤を構成している羊膜、絨毛膜、基底脱落膜及び胎盤組織をそれぞれ鉗子を用いて丁寧に分離した。
【0069】
前記分離された脱落膜組織を100mm皿に載せ、滅菌されたメッシュを用いて1〜2mmのサイズに細切した。その後、コラゲナーゼが含まれている培地に放置し、37℃の培養器において最小1時間から最大4時間かけて反応させた後、100μmワイヤー織物体を用いてコラゲナーゼ処理された組織をろ過した。このようにして分離した細胞は75−フラスコに37℃、5%CO2の条件下でbFGF含有DMEM培地において培養した(図1)。
【0070】
(2)脂肪由来幹細胞の分離及び培養
この実施例において利用された脂肪由来幹細胞は本出願人の先特許出願(大韓民国登録特許第10−0679642号)に記載された方法によって分離された脂肪由来幹細胞であって、具体的には、脂肪吸入を通じて腹部から採取された脂肪組織を分離してPBSにより洗浄し、組織を細切した後、コラーゲン分解酵素タイプ1(1mg/mL)を添加したDMEM培地を用いて37℃において2時間かけて分解した。次に、PBSにより洗浄した後、1000rpmにて5分間遠心分離した。上澄液は除去し、底面に残留しているペレットはPBSにより洗浄した後、1000rpmにて5分間遠心分離した。100μmメッシュを用いて浮遊物を除去した後、PBSにより再洗浄した。DMEM培地において培養し、一晩経過後に培養容器の底面に付着した細胞はPBSにより洗浄し、ケラチノサイトSFM培地を2日おきに交替しながら培養して多分化能幹細胞を分離した。
【0071】
実施例2:胎盤の脱落膜由来幹細胞の増殖率調査
前記分離されたヒト胎盤の脱落膜由来多能性幹細胞の増殖方法により得られた幹細胞の増殖率を調査した。それぞれ異なるヒト個体の胎盤の脱落膜サンプルから採取した胎盤の脱落膜由来幹細胞を実施例1の分離方法と同様にして得た後、75フラスコに2x105ずつ接種した。
【0072】
CPDL(cumulative population doubling level)は細胞の増殖率を示す指数であって、
CPDL=ln(Nf/Ni)/ln2
(Ni=初期に接種した細胞数、Nf=最終細胞数)
の式により表わすことができる。
【0073】
基底脱落膜由来幹細胞のCPDLを継代数によって観察した結果、継代数が12のときに約30に達するCPDL値を示す。このようなCPDL値はヒト脂肪組織由来幹細胞(Lin et al., stem cells and development,14:92, 2005; Zuk et al., Tissue eng., 7:211, 2001)の値とほとんど同様であり、この結果から、本発明に係る胎盤の脱落膜由来幹細胞は増殖率が極めて高いことが分かる(図2)。
【0074】
実施例3:胎盤の脱落膜由来多能性幹細胞の免疫学的特性
実施例1において得られた胎盤の脱落膜由来多能性幹細胞をPBSにより洗浄し、トリプシン処理した後、細胞を回収して5分間1000rpmにて遠心分離した。上澄液を捨て、5%FBS及びPBSの混合液を入れて洗浄した後、1000rpmにて5分間遠心分離した。上澄液を捨てた後、細胞をPBSに浮遊させてサンプル数に見合う分だけ1x105細胞を分注した。各ウェルに抗体(R−phycoerythrin-conjugated mouse anti-human monoclonal antibody)を入れ、4℃において40分間インキュベーションした。インキュベーション後に1000rpmにて5分間遠心分離した。上澄液を除去した後にPBSにより洗浄し、1000rpmにて5分間遠心分離した。再度、前記上澄液除去後にPBSにより洗浄し、1000rpmにて5分間遠心分離する過程を繰り返し行った。上澄液を除去した後に1%パラホルムアルデヒドを入れてシングル化し、フローサイトメータを用いて分析した。その結果、表1に示すように、本発明の胎盤の脱落膜由来幹細胞はCD29、CD90、Oct−4、SSEA−4及びクリプト−1に対していずれも陽性の免疫学的特性を示し、CD31及びCD45に対していずれも陰性の免疫学的特性を示すことが分かる(図4)。
【0075】
【表1】
【0076】
実施例4:胎盤の脱落膜由来多能性幹細胞のOct4及びSSEA−4発現分析
前記実施例1において得られた胎盤の脱落膜由来幹細胞をPBSにより3回洗浄し、4%パラホルムアルデヒドを含有するPBSにより30分間固定した。PBSにより3回洗浄した後、0.1%トリトンX100を含有するPBSにより10分間浸透させる。PBSにより3回洗浄した後、ブロッキングバッファ(5%山羊血清)を処理して4℃において1時間かけて反応させ、一次抗体を含有するブロッキングバッファに一晩反応させる。PBSにより3回洗浄し、2次抗体により暗室において1時間かけて反応させた。PBSにより3回洗浄した後にマウントした。その結果、図5に示すように、本発明に係る分化能幹細胞はヒト胚幹細胞のマーカーであるOct4とSSEA−4に対して陽性反応を示した。
【0077】
また、RT−PCRを用いてOct4の発現を確認した。RT反応は37℃において50分間、70℃において10分間行い、PCR反応は95℃において5分間、そして95℃において30秒/58℃において40秒/72℃において1分にて40回のサイクルを行った後、72℃において10分間行った。その結果、図6に示すように、基底脱落膜由来幹細胞の場合、800bpにおいて発現されていることを確認することができた。
【0078】
実施例5:胎盤の脱落膜由来多能性幹細胞の筋細胞への分化
実施例1において得られた胎盤の脱落膜由来多能性幹細胞を10ng/mLフィブロネクチンがコーティングされているフラスコに分注した後に10μM5’−アザサイチジンを用いて24時間かけて前処理を行う。前処理後にSKBM培地(Cambrex, Co.)を用いて10日間培養した後に免疫染色を実施した。
【0079】
その結果、本発明に係るヒト胎盤組織由来多能性幹細胞は筋肉細胞の特異抗原であるミオシンに対して陽性反応を示した。この結果から、本発明に係るヒト胎盤組織由来多能性幹細胞が筋肉細胞に分化されたことを確認することができた(図7)。
【0080】
実施例6:胎盤の脱落膜由来幹細胞を注入した雌性ヌードマウスにおける尿漏出圧の測定
1)実験群動物モデルの準備
胎盤の脱落膜由来幹細胞が尿漏出圧に及ぼす影響を測定するための動物実験を実施するために、雌性ヌードマウス56匹を使用した。前記56匹の雌性ヌードマウスをそれぞれ正常群14匹(n=14)、対照群(陰部神経切断群)14匹(n=14)、及び実験群1(陰部神経切断2週後に胎盤の脱落膜由来幹細胞105細胞を注入した群)14匹(n=14)と実験群2(陰部神経切断2週後に胎盤の脱落膜由来幹細胞107細胞を注入した群)14匹(n=14)に分けて実験を実施した。このとき、それぞれの群はさらに4週群7匹(n=7)及び8週群7匹(n=7)に分けて、4週及び8週に尿漏出圧を測定した。
【0081】
対照群の準備:雌性ヌードマウス14匹をハロタンにより麻酔させ、坐骨直腸窩の両側に切開を加えて陰部神経を剥離した後、前記陰部神経に2cm程度電気焼灼を行った後、皮膚を縫合した。
【0082】
実験群1及び2の準備:雌性ヌードマウス28匹をハロタンにより麻酔させ、下腹部に縦切開を入れて膀胱と尿道を剥離し(図8)、次いで、陰部神経切断2週後に尿失禁が発生したことを確認した後、顕微鏡を用いて10mLハミルトンシリンジにより、実施例2において得られた胎盤の脱落膜由来多能性幹細胞を注入するが、14匹に105細胞(実験群1)を注入し、残りの14匹に107細胞(実験群2)を注入した。
【0083】
2)尿漏出圧の測定
前記雌性ヌードマウスをウレタン(1.2g/kg)により麻酔させ、T9−T10レベルにおいて脊髄切断を行った後、下腹部に縦切開を入れることにより、膀胱を剥離したPE−90カテーテルを用いて恥骨上部膀胱瘻形成術を行った。
【0084】
尿漏出圧の測定のために前記正常群、対照群及び実験群の雌性ヌードマウスをvertical tilt/intraversical pressure clamp modelに位置した(図9)。PE−90チューブに生理食塩水150mLを連結し、この生理食塩水の高さを少しずつ高めることにより実験マウスの膀胱内の圧力を増加させた。尿漏出が開始されるときの圧力をLPP(leak point pressure)と定義した。
【0085】
図10に示すように、正常群(N)、対照群(D)、実験群1(P1)、実験群2(P2)の尿漏出圧は4週においてそれぞれ22.8±0.9、11.6±0.6、20.4±0.8及び21.5±0.9cmH2Oであり(図10のA)、8週においてはそれぞれ22.6±0.8、11.5±0.7、20.6±0.6及び22.5±0.8cmH2Oを示して(図10のB)、4週及び8週の両方において正常群、実験群1及び実験群2は対照群の場合よりも統計学的に高く現れ、対照群の尿漏出圧は正常群の尿漏出圧に比べて減少し、実施例1の胎盤の脱落膜由来幹細胞を投与した結果、実験群1及び2の尿漏出圧は正常群の尿漏出圧にほとんど近いレベルに増加したことが分かり、胎盤の脱落膜由来幹細胞が尿漏出圧を増加させる機能をすることを確認することができた。
【0086】
実施例7:脂肪由来幹細胞を注入した雌性ヌードマウスにおける尿漏出圧の測定
1)実験群動物モデルの準備
脂肪由来幹細胞が尿漏出圧に及ぼす影響を測定するための動物実験を実施するために、雌性ヌードマウス56匹を使用した。前記56匹の雌性ヌードマウスをそれぞれ正常群14匹(n=14)、対照群(陰部神経切断群)14匹(n=14)、及び実験群1(陰部神経切断2週後に脂肪由来幹細胞105細胞を注入した群)14匹(n=14)と実験群2(陰部神経切断2週後に脂肪由来幹細胞107細胞を注入した群)14匹(n=14)に分けて実験を実施した。このとき、それぞれの群はさらに4週群7匹(n=7)及び8週群7匹(n=7)に分けて、4週及び8週に尿漏出圧を測定した。
【0087】
対照群の準備:雌性ヌードマウス14匹をハロタンにより麻酔させ、坐骨直腸窩の両側に切開を加えて陰部神経を剥離し、前記陰部神経に2cm程度電気焼灼を行った後、皮膚を縫合した。
【0088】
実験群1及び2の準備:雌性ヌードマウス28匹をハロタンにより麻酔させ、下腹部に縦切開を入れて膀胱と尿道を剥離し(図8)、次いで、陰部神経切断2週後に尿失禁が発生したことを確認した後、顕微鏡を用いて10mLハミルトンシリンジにより、実施例1において得られた脂肪由来多能性幹細胞を注入するが、14匹には105細胞(実験群1)を注入し、残りの14匹には107細胞(実験群2)を注入した。
【0089】
2)尿漏出圧の測定
前記雌性ヌードマウスをウレタン(1.2g/kg)により麻酔させ、T9−T10レベルにおいて脊髄切断を行った後、下腹部に縦切開を入れることにより、膀胱を剥離したPE−90カテーテルを用いて恥骨上部膀胱瘻形成術を行った。
【0090】
尿漏出圧の測定のために前記正常群、対照群及び実験群の雌性ヌードマウスをvertical tilt/intraversical pressure clamp modelに位置させた(図9)。PE−90チューブに生理食塩水150mLを連結し、この生理食塩水の高さを少しずつ高めることにより実験マウスの膀胱内の圧力を増加させた。尿漏出が開始されるときの圧力をLPP(leak point pressure)と定義した。
【0091】
図11に示すように、正常群(N)、対照群(D)、実験群1(A1)、実験群2(A2)の尿漏出圧は4週において22.8±0.9、11.6±0.7、18.7±0.9及び19.2±0.7cmH2Oであり(図11のA)、8週においては22.6±0.9、11.5±0.7、20.4±0.7及び21.5±0.8cmH2Oを示して(図11のB)、本発明の脂肪由来幹細胞の投与結果、4週及び8週の両方において尿漏出圧を増加させることを確認することができ、A2がA1群に比べて高く現れたが、統計学的な違いはなかった(図11)。
【0092】
実施例8:胎盤の脱落膜由来幹細胞を注入した雄性マウスにおける尿道括約筋の収縮力の測定
1)実験群動物モデルの準備
胎盤の脱落膜由来幹細胞が尿道括約筋の収縮力に及ぼす影響を測定するための動物実験を実施するために、雄性マウス56匹を使用した。前記56匹の雄性マウスをそれぞれ正常群14匹(n=14)、対照群(陰部神経切断群)14匹(n=14)、及び実験群1(陰部神経切断2週後に胎盤の脱落膜由来幹細胞105細胞を注入した群)14匹(n=14)と実験群2(陰部神経切断2週後に胎盤の脱落膜由来幹細胞107細胞を注入した群)14匹(n=14)に分けて実験を実施した。このとき、それぞれの群はさらに4週群7匹(n=7)及び8週群7匹(n=7)に分けて、4週及び8週に尿道括約筋の収縮力を測定した。
【0093】
対照群の準備:雄性マウス14匹をハロタンにより麻酔させ、坐骨直腸窩の両側に切開を加えて陰部神経を剥離し、前記陰部神経に2cm程度電気焼灼を行った後、皮膚を縫合した。
【0094】
実験群1及び2の準備:雄性マウス28匹をハロタンにより麻酔させ、下腹部に縦切開を入れて膀胱と尿道を剥離し(図8)、次いで、陰部神経切断2週後に尿失禁が発生したことを確認した後、顕微鏡を用いて10mLハミルトンシリンジにより、実施例2において得られた胎盤の脱落膜由来多能性幹細胞を注入するが、14匹には105細胞(実験群1)を注入し、残りの14匹には107細胞(実験群2)を注入した。
【0095】
2)尿道括約筋収縮力の測定
前記雄性マウスの尿道をそれぞれ得た後に螺旋状に尿道を切開して尿道組織断片(102mm)を準備した。器官浴(organ bath)実験においてバーティカルチャンバー(体積20mL)にCO2/重炭酸塩容器緩衝液(bicarbonate buffered Tyrode solution)を満たした後、尿道組織断片を固定し、その後、アセチルコリン薬物を用いて尿道括約筋収縮力を調べてた(図12)。
【0096】
その結果、図13に示すように、雄性マウス実験において従来の技術分野において通常的に利用される電気場刺激(Electrical Field stimulation(EFS)、60V)時に正常群(N)、対照群(D)、実験群1(P1)及び実験群2(P2)において尿道括約筋収縮力は4週においてそれぞれ0.45±0.06、0.34±0.02、0.39±0.02及び0.45±0.05g/テンションであり、8週においてはそれぞれ0.44±0.06、0.35±0.02、0.41±0.04及び0.46±0.03g/テンションを示した。このため、電気刺激時には4週及び8週の両方において対照群よりも高い尿道括約筋収縮力を示し、正常群とほとんど同様、またはそれ以上の尿道括約筋収縮力を示した。なお、実験群2が実験群1よりも高い数値を示した。
【0097】
また、図14に示すように、アセチルコリン(Ach)の投与時には正常群(N)、対照群(D)、実験群1(P1)及び実験群2(P2)における尿道括約筋収縮力は4週においてそれぞれ0.54±0.04、0.28±0.03、0.52±0.02及び0.54±0.03g/テンションであり(図14のA)、8週においてはそれぞれ0.56±0.03、0.3±0.02、0.56±0.04及び0.59±0.04g/テンションを示した(図14のB)。このため、アセチルコリンの投与時には正常群、実験群1及び実験群2はいずれもD群よりも高く、実験群2の方が実験群1よりも尿道括約筋収縮力が高く現れたが、統計学的に意義があるとはいえない。すなわち、実際に実験群2が実験群1よりも高い尿道括約筋数値を示すと結論付けることはできない。
【0098】
実施例9:脂肪由来幹細胞を注入した雄性マウスにおける尿道括約筋の収縮力の測定
1)実験群動物モデルの準備
脂肪由来幹細胞が尿道括約筋の収縮力に及ぼす影響を測定するための動物実験を実施するために、雄性マウス56匹を使用した。前記56匹の雄性マウスをそれぞれ正常群14匹(n=14)、対照群(陰部神経切断群)14匹(n=14)、及び実験群1(陰部神経切断2週後に脂肪由来幹細胞105細胞を注入した群)14匹(n=14)と実験群2(陰部神経切断2週後に脂肪由来幹細胞107細胞を注入した群)14匹(n=14)に分けて実験を実施した。このとき、それぞれの群はさらに4週群7匹(n=7)及び8週群7匹(n=7)に分けて、4週及び8週に尿道括約筋の収縮力を測定した。
【0099】
対照群の準備:雄性マウス14匹をハロタンにより麻酔させ、坐骨直腸窩の両側に切開を加えて陰部神経を剥離し、前記陰部神経に2cm程度電気焼灼を行った後、皮膚を縫合した。
【0100】
実験群1及び2の準備:雄性マウス28匹をハロタンにより麻酔させ、下腹部に縦切開を入れて膀胱と尿道を剥離し(図8)、次いで、陰部神経切断2週後に尿失禁が発生したことを確認した後、顕微鏡を用いて10mLハミルトンシリンジにより、実施例1において得られた脂肪由来多能性幹細胞を注入するが、14匹には105細胞(実験群1)を注入し、残りの14匹には107細胞(実験群2)を注入した。
【0101】
2)尿道括約筋収縮力の測定
前記雄性マウスの尿道をそれぞれ得た後に螺旋状に尿道を切開して尿道組織断片(102mm)を準備した。器官浴実験においてバーティカルチャンバー(体積20mL)にCO2/重炭酸塩容器緩衝液を満たし、尿道組織断片を固定した後、アセチルコリン薬物を用いて尿道括約筋収縮力を調べてた(図12)。
【0102】
その結果、図15に示すように、雄性マウス実験において従来の技術分野において通常利用される電気場刺激(Electrical Field stimulation(EFS)、60V)時に正常群(N)、対照群(D)、実験群1(A1)及び実験群2(A2)群における尿道括約筋収縮力はそれぞれ4週において0.46±0.08、0.32±0.03、0.35±0.03及び0.38±0.03g/テンションであり、8週においては0.44±0.06、0.31±0.02、0.39±0.02及び0.44±0.05g/テンションを示した。電気刺激時には4週及び8週の両方においてN及びA群はD群よりも統計学的に高く現れ、A2とA1群との間に大差はなかった。
【0103】
また、図16に示すように、アセチルコリン(Ach)の投与時には正常群(N)、対照群(D)、実験群1(A1)及び実験群2(A2)における尿道括約筋収縮力は4週において0.54±0.05、0.29±0.04、0.48±0.03及び0.51±0.05g/テンションであり、8週においては0.55±0.05、0.29±0.03、0.55±0.02及び0.54±0.05g/テンションを示した。アセチルコリンの投与時にはN、A1及びA2群は両方ともD群よりも高く、A2とA1群との間には大差はなかった。
【0104】
実施例10:胎盤の脱落膜由来幹細胞を注入したマウスの組織における免疫染色
前記実施例6及び8に従い4週及び8週に尿漏出圧及び尿道括約筋収縮力を測定した後、それぞれの尿道組織を採取して液化窒素において既に冷却された2−メチルブタンを用いて組織の損傷なしに冷凍した。尿道組織を冷却切片した後にH/E染色を行い、幹細胞の平滑筋及び骨格筋への分化を観察するためにDAPI、筋肉アクチン(α−SMA)及びミオシン重鎖(MyHC)免疫染色を行って蛍光顕微鏡により観察した。
【0105】
その結果、図17に示すように、実施例6による雌性ヌードマウスにおいて、正常尿道括約筋においては平滑筋が豊富であり、骨格筋は極めて弱く染色されている(図17のA、B、C)。陰部神経切断後には平滑筋の減少が観察され(図17のD、E、F)、胎盤幹細胞の注入時には4週(図17のG、H、I)及び8週(図17のJ、K、L)において平滑筋が緑色に明るく染色されて平滑筋の量が増加されたことが分かり、平滑筋の間において赤色と緑色が共染色された黄色細胞が観察された。MyHC染色時は骨格筋が緑色に極めて弱く染色され、平滑筋の間に注入された細胞が赤色を帯びた。
【0106】
また、図18に示すように、実施例8における雄性マウス尿道は螺旋状に切開したため元の尿道形状を観察することはできなかったが、尿道括約筋収縮実験後の組織においてPKHが発現されることが観察されて(図18のA及びB)、注入した胎盤由来幹細胞が尿道括約筋収縮力に寄与したことが分かる。参考までに、PKHは生きている細胞を蛍光染色する蛍光染色物質であって、胎盤の脱落膜幹細胞をPKH(赤色)により標識して注入した。
【0107】
要するに、尿失禁患者と類似する腹圧性尿失禁動物モデルを構築した前記実施例6から8において、胎盤の脱落膜由来幹細胞の注入結果、尿失禁モデルヌードマウスの尿道の尿漏出圧を増加させ、尿失禁モデルマウスの尿道括約筋の収縮力を増加させることが分かる。尿漏出圧においては、注入した細胞数による差が大きく現れたわけではないが、括約筋収縮力の場合に注入した幹細胞の数が多いほど優れた尿道括約筋収縮力を示した。この点は、尿失禁患者に対しても本発明に係る胎盤の脱落膜由来幹細胞が優れた細胞治療剤として使用可能であることを示唆している。
【0108】
上述したように、胎盤の脱落膜と生理血の脱落膜は主な構成成分が共通的に子宮の上皮細胞であって、本発明の実施例においては具体的に胎盤の脱落膜由来幹細胞の尿失禁治療効果だけを究明したが、生理血の脱落膜由来幹細胞も尿失禁治療効果があるということを容易に類推することができる。
【0109】
実施例11:脂肪由来幹細胞を注入したマウスの組織における免疫染色
前記実施例7及び9に従い4週及び8週に尿漏出圧及び尿道括約筋収縮力を測定した後、それぞれの尿道組織を採取して液化窒素において既に冷却された2−メチルブタンを用いて組織の損傷なしに冷凍させた。尿道組織を冷却切片した後にH/E染色を行い、幹細胞の平滑筋及び骨格筋への分化を観察するためにDAPI、筋肉アクチン(α−SMA)及びミオシン重鎖(MyHC)免疫染色を行って蛍光顕微鏡により観察した。
【0110】
その結果、図19に示すように、実施例7によるヌードマウスにおいて、正常尿道括約筋においては平滑筋が豊富であり、骨格筋は弱く染色されている(図19のA、B、C)。陰部神経切断後には平滑筋の減少が観察され(図19のD、E、F)、幹細胞の注入時(8週)には平滑筋が緑色に明るく染色されて平滑筋の増加されたことが分かり、平滑筋の間に赤色と緑色が共染色された黄色細胞が観察された。MyHC染色時には骨格筋は極めて弱く染色され、平滑筋の間に注入された細胞が赤色を帯びた。
【0111】
また、図20に示すように、実施例9における雄性マウス尿道は螺旋状に切開したため元の尿道形状を観察することはできなかったが、尿道括約筋収縮実験後の組織(8週)においてPKHが発現されることが観察されて(図20のA及びB)注入した脂肪由来幹細胞が尿道括約筋収縮力に寄与したことが分かる。参考までに、PKHは生きている細胞を蛍光染色する蛍光染色物質であって、脂肪由来幹細胞をPKH(赤色)により標識して注入した。
【産業上の利用可能性】
【0112】
以上述べたように、本発明に係る胎盤若しくは生理血の脱落膜由来幹細胞または脂肪由来幹細胞は筋細胞に分化する能力に優れていて、尿漏出圧増加及び尿道括約筋収縮力を向上させる効果を示すことから、尿失禁治療剤として有用である。
【0113】
以上、本発明の内容の特定の部分を詳述したが、当業界における通常の知識を持った者にとって、このような具体的な記述は単なる好適な実施態様に過ぎず、これにより本発明の範囲が制限されることはないという点は明らかである。よって、本発明の実質的な範囲は特許請求の範囲とこれらの等価物により定義されると言える。本発明の単純な変形ないし変更はこの分野の通常の知識を持った者によって容易に利用可能であり、このような変形や変更はいずれも本発明の領域に含まれるものであるといえる。
【技術分野】
【0001】
本発明は脱落膜または脂肪由来幹細胞を含有する尿失禁の細胞治療剤に係り、さらに詳しくは、胎盤若しくは生理血の脱落膜由来幹細胞、または脂肪由来幹細胞を含有する尿失禁の細胞治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞とは、自己複製能力を有し、且つ、2以上の細胞に分化する能力を有する細胞のことをいい、万能幹細胞(totipotent stem cells)、全能性(全分化能)幹細胞(pluripotent stem cells)、多能性(多分化能)幹細胞(multipotent stem cells)に分類することができる。
【0003】
万能幹細胞は一つの完全な個体に発生していける万能の性質を持った細胞であって、卵子と精子の受精後に8細胞期までの細胞がこのような性質を持ち、この細胞を分離して子宮に移植すると一つの完全な個体に発生していくことができる。全分化能幹細胞は外胚葉、中胚葉、内胚葉層由来の様々な細胞と組織に発生していく細胞であって、受精4〜5日後に現れる胚盤胞の内側に位置している内細胞塊から由来し、これを胚幹細胞といい、様々な他の組織細胞に分化するが、新たな生命体を形成することはできない。多能性幹細胞はこの細胞が含まれている組織及び器官を形成する特異的な細胞にしか分化することができない幹細胞である。
【0004】
多能性幹細胞は成体骨髄から最初に分離され(Y. Jiang et al., Nature, 418:41, 2002)、その後、他の多くの成体組織からも確認された(C.M. Verfaillie, Trends Cell Biol., 12:502, 2002)。すなわち、骨髄は最も広く知られた幹細胞のソースであるが、多能性幹細胞は皮膚、血管、筋肉及び脳からも確認された(J.G. Toma et al., Nat. Cell Biol., 3:778, 2001; M. Sampaolesi et al., Science, 301:487, 2003; Y. Jiang et al., Exp. Hematol., 30:896, 2002)。しかしながら、骨髄などの成体組織内の幹細胞は極めて稀に存在し、これらの細胞は分化誘導せずには培養することは困難であって、特異的に選択された培地がなければ、それらの細胞を培養することが困難である。すなわち、幹細胞を分離して体外において保存することが極めて困難であるという欠点がある。
【0005】
これに対し、脂肪組織が多能性幹細胞の新たなソースであることが判明した(B.Cousin et al., BBRC., 301:1016, 2003; A. Miranville et al., Circulation, 110:349, 2004; S. Gronthos et al., J. Cell Physiol., 189:54, 2001; M.J.Seo et al., BBRC., 328:258, 2005)。すなわち、脂肪吸入により得られたヒト脂肪組織に未分化細胞群が含まれており、これはインビトロにおいて脂肪細胞、骨形成細胞、筋芽細胞及び軟骨芽細胞への分化能を有する細胞であるということが報告された(P.A.Zuk et al., Tissue Eng., 7:211, 2001; A.M Rodriguez et al., BBRC., 315:255, 2004)。このような脂肪組織は大量に抽出することができるというメリットがあり、従来の欠点を補完する新たな幹細胞のソースとして注目されている。なお、最近の研究においては、脂肪組織由来細胞が筋肉再生能及び神経血管分化を促進する能力があることが動物モデル実験を通じて知られるに伴い、幹細胞の新たなソースとして関心が寄せられている。
【0006】
本出願人は、細切した胎盤組織をコラゲナーゼ及びbFGF含有培地において培養して胎盤幹細胞を分離した後、筋細胞、骨形成細胞、神経細胞、脂肪細胞、軟骨細胞または膵臟ベータ細胞に分化させている(KR2007−0101756A)。
【0007】
一方、女性の尿失禁は多産と老齢による陰部神経の損傷に起因する骨盤筋肉の支持弱化から由来する尿道及び膀胱の垂れが原因となる。現在、大韓民国の女性尿失禁患者数は400〜500万名であると推定され、老年層女性の急激な増加によって毎年患者数が増加している傾向にある。そこで、現在、女性尿失禁は全世界的に発生する深刻な社会的問題の一つとなってきている。尿失禁患者を治療するために注射療法や尿道及び膀胱を支持するための手術療法と注射療法が使用されている。現在、手術療法は侵襲的な方法であって、合併症が発生する恐れがあるという問題点があり、注射療法は高価な物質であるため患者に容易に使用することができないだけではなく、成功率が50〜60%ほどにしかならず、再注射及び再手術が求められるという問題点がある。
【0008】
幹細胞注射治療は麻酔を必要とせず、しかも、手軽に尿道括約筋に注射することができる。従って、幹細胞注射療法が尿道括約筋の収縮力を向上させ、且つ、尿漏出圧を増加させることができる限り、尿失禁は幹細胞治療の立派な適応症になると考えられる。しかしながら、幹細胞を用いた尿失禁治療に関する研究は全くないのが現状である。
【0009】
そこで、本発明者らは、幹細胞を用いた尿失禁治療剤を開発するために鋭意努力した結果、脱落膜または脂肪由来幹細胞が尿失禁の治療に効果的であるということを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の要約】
【0010】
本発明の主たる目的は、胎盤若しくは生理血の脱落膜由来幹細胞、または脂肪由来幹細胞を有効成分として含有する尿失禁細胞治療剤を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、胎盤若しくは生理血の脱落膜由来幹細胞、または脂肪由来幹細胞を有効成分として含有する尿失禁細胞治療剤の製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、胎盤若しくは生理血の脱落膜由来幹細胞、または脂肪由来幹細胞の尿失禁治療または予防用途を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】胎盤の脱落膜由来間葉幹細胞(mesenchymal stem cell、MSC)の形態に対する顕微鏡写真である。
【図2】基底脱落膜由来幹細胞の継代数による蓄積集団倍加レベル(cumulative population doubling level、CPDL)を示すグラフである。
【図3】SFM培地において7日間培養した1継代目基底脱落膜の球体形成写真である。
【図4】フローサイトメータ(FACS)を用いて基底脱落膜由来MSCの表面抗原を分析した結果である。
【図5】それぞれに表記された特定の抗体を用いた免疫組織化学検査の結果写真である[A:OCT4;B:SSEA4;C:CD44、CD54及び対照群]。
【図6】OCT4に対するRT−PCRの結果である[レーン1:マーカー、レーン2:RT反応対照群、レーン3:羊膜幹細胞、レーン4:基底脱落膜幹細胞、レーン5:PCR反応対照群]。
【図7】筋細胞への分化において、MM−3160培地(筋肉細胞分化用SKBM培地)において10日間誘導した基底脱落膜由来幹細胞に対する免疫組織化学検査(αMyosin−FITC)の顕微鏡写真である。
【図8】ヌードマウスにおいて陰部神経を剥離する場面を示す写真である。
【図9】チルトテーブルを用いて尿漏出圧を測定する過程を示す写真である(A及びB)。
【図10】実施例6の実験結果による尿漏出圧結果を示すグラフである(A:4週目の尿漏出圧、B:8週目の尿漏出圧、N:正常群、D:対照群、P1:実験群1、P2:実験群2)。
【図11】実施例7の実験結果による尿漏出圧結果を示すグラフである(A:4週目の尿漏出圧、B:8週目の尿漏出圧、N:正常群、D:対照群、A1:実験群1、A2:実験群2)。
【図12】器官槽(organ bath)を用いて尿道括約筋収縮力を測定する過程を示す写真である(A及びB)。
【図13】実施例8の実験結果に従って、電気刺激による尿道括約筋収縮力を示すグラフである(A:4週目の尿道括約筋収縮力、B:8週目の尿道括約筋収縮力、N:正常群、D:対照群、P1:実験群1、P2:実験群2)。
【図14】実施例8の実験結果に従って、アセチルコリン投与による尿道括約筋収縮力を示すグラフである(A:4週目の尿道括約筋収縮力、B:8週目の尿道括約筋収縮力、N:正常群、D:対照群、P1:実験群1、P2:実験群2)。
【図15】実施例9の実験結果に従って、電気刺激による尿道括約筋収縮力を示すグラフである(A:4週目の尿道括約筋収縮力、B:8週目の尿道括約筋収縮力、N:正常群、D:対照群、A1:実験群1、A2:実験群2))。
【図16】実施例9の実験結果に従って、アセチルコリン投与による尿道括約筋収縮力を示すグラフである(A:4週目の尿道括約筋収縮力、B:8週目の尿道括約筋収縮力、N:正常群、D:対照群、A1:実験群1、A2:実験群2)。
【図17】実施例10によって雌性ヌードマウスにおける尿道組織の組織学的H/E免疫染色、SMA、MyHC結果を示すものである。
【図18】実施例10によって雄性マウスにおける尿道組織の組織学的H/E免疫染色結果を示すものである。
【図19】実施例11によって雌性ヌードマウスにおける尿道組織の組織学的H/E免疫染色、SMA、MyHC結果を示すものである。
【図20】実施例11によって雄性マウスにおける尿道組織の組織学的H/E免疫染色結果を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、一観点において、胎盤若しくは生理血の脱落膜由来幹細胞、または脂肪由来幹細胞を有効成分として含有する尿失禁の細胞治療剤に関する。
【0015】
本発明において、前記胎盤の脱落膜由来幹細胞は、(a)CD29及びCD90に対して陽性の免疫学的特性を示し、CD31及びCD45に対して陰性の免疫学的特性を示す、(b)Oct4、SSEA−4及びクリプト−1に対して陽性の免疫学的特性を示す、(c)プラスチックに付着して成長し、円形または紡錘状の形態学的特性を示し、SFM培地において球体を形成して未分化状態で長期間維持可能である、及び(d)筋細胞に分化する能力を有することができる。
【0016】
1.用語の定義
本発明において使用された用語「幹細胞」とは、組織及び器官の特殊化された細胞を形成するように非制限的に再生可能なマスター細胞のことを言う。幹細胞は発達可能な万能性または多能性細胞である。幹細胞は2つの娘幹細胞、または一つの娘幹細胞と一つの由来(「転移」)細胞に分裂することができ、この後、組織の成熟で且つ完全な形態の細胞に増殖される。
【0017】
本発明において使用された用語「分化」とは、細胞が分裂増殖して成長する間に互いに構造や機能が特殊化する現象、すなわち、生物の細胞、組織などがそれぞれに与えられた仕事を行うために形態や機能が変化していくことを言う。一般的に、比較的、単純な系が2以上の質的に異なる部分系に分離される現象である。例えば、個体発生において最初に同質的であった卵部の間に頭や胴体などの区別が付いたり、細胞にも筋細胞または神経細胞などの区別がつくように最初にほとんど同質であったある生物系の部分の間に質的な相違点ができること、またはその結果として質的に区別可能な部域または部分系に分けられている状態を分化と称する。
【0018】
本発明において使用された用語「細胞治療剤」とは、ヒトから分離、培養及び特殊な操作を通じて製造された細胞及び組織であって、治療、診断及び予防の目的で使用される医薬品(米国FDA規定)である。具体的には、細胞もしくは組織の機能を復元するために、生きている自己、同種、または異種細胞を体外において増殖選別したり、他の方法により細胞の生物学的特性を変化させるなどの一連の行為を通じて治療、診断及び予防の目的で使用される医薬品のことを言う。細胞治療剤は、細胞の分化の度合いに応じて、大きく、体細胞治療剤、幹細胞治療剤に分類され、本発明は特に脱落膜または脂肪由来幹細胞治療剤に関する。
【0019】
2.脱落膜由来幹細胞の分離及び精製
胎盤は妊娠中に胎児のために生成されるものであり、一般的に重さ500g、直径15−20cm、厚さ2−3cm程度の円盤状となっている。胎盤の一方は母体と接しており、他方は胎児と接しており、その間の空間に母体の血液が入れられていて胎児に栄養分を供給することになる。胎盤は羊膜、絨毛膜及び脱落膜の3層から構成されている。羊膜は胎児を取り囲んでいる薄くて透明な膜であり、羊水が入れられており、羊膜には胎児の幹細胞が存在する。脱落膜は受精卵が子宮に着床されるために子宮の上皮細胞が変形されて形成された膜であって、母体の幹細胞が存在する。本発明においては前記脱落膜から幹細胞を分離した。
【0020】
本発明に係るヒト胎盤組織から分離された脱落膜由来幹細胞は成人の自家性成体幹細胞に分類され、胎盤組織を使用するため倫理的に問題視されない。
【0021】
通常、下記の方法を通じて、胎盤の脱落膜から幹細胞を分離及び精製する。哺乳類の胎盤(好ましくは、ヒトの胎盤)を子宮から娩出し、これから脱落膜を分離した後、処理及び培養して多能性幹細胞、胎盤脱落膜由来幹細胞及び他の生体物質を生成する。胎盤の脱落膜由来幹細胞は子宮から娩出された胎盤から得られる。好ましい実施態様において、胎盤の脱落膜は成長因子[例:bFGF(Basic Fibroblast Growth Factor)]の存在下において培養される。
【0022】
本発明においては、下記の方法を通じて、ヒト胎盤組織の脱落膜から幹細胞を分離及び精製した。ヒト胎盤組織サンプルから脱落膜を分離してそれぞれPBSにより洗浄した後、脱落膜組織を細切する。細切した脱落膜組織を100mm皿に移した後、コラゲナーゼ(1mg/mL)を添加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM:Dulbecco’s Modified Eagle Medium、Gibco)を用いて37℃において1時間かけて化学的に分解する。
【0023】
化学的に分解された組織を100μmメッシュでろ過して未分解組織を除去した後、1200rpmにて1〜10分間遠心分離した。上澄液は吸引し、底面に残留しているペレットはPBSにより洗浄した後に1200rpmにて1〜10分間遠心分離した。底面にあるペレットを単一細胞として上手く懸濁させた後、bFGFが含有されているDMEM培地において培養する。このとき、間葉幹細胞の場合には底面に付着し、これ以外の細胞は浮遊している。
【0024】
このような胎盤の脱落膜由来幹細胞はプラスチックに付着して成長し、円形または紡錘状の形態学的特性を示す。2日が経過した後、皿の底面に付着できなかった細胞はPBSにより洗浄し、培地を2〜3日おきに交替しながら培養してヒト胎盤から分離した脱落膜由来幹細胞液を得た。
【0025】
前記分離された脱落膜由来幹細胞の増殖率を調べてみると、継代数が12に至るまで、CPDLが次第に増加して優れた増殖率を持つということが分かる(図2)。
【0026】
得られた胎盤の脱落膜由来幹細胞はSFM培地において球体を形成して未分化状態で長期間維持可能である(図3)。本発明において使用可能なSFM培地の一つとして、2%B27、500mM 2-メルカプトエタノール、1μg/mLヒドロコルチゾン、5μg/mLインシュリン、20ng/mL EGF、20ng/mL bFGFを含有する乳腺上皮基礎培地(MEBM:Mammary Epithelial Basal Medium)を挙げることができる。
【0027】
増殖された細胞の数及び類型はフローサイトメトリー、セルソーティング、免疫細胞化学(例えば、組織特異性または細胞マーカー特異的抗体により染色する)、蛍光活性化細胞分類(fluorescence activated cell sorting、FACS)、磁気活性化細胞分類(magnetic activated cell sorting、MACS)などの標準的な細胞検出技術を使用する形態及び細胞の表面マーカーにおける変化を測定したり、光学顕微鏡または共焦点顕微鏡を用いて細胞の形態を検査したり、またはPCR及び遺伝子発現プロファイリングのように当該分野で周知の技術を用いて遺伝子発現における変化を測定することにより容易にモニタリング可能である。
【0028】
好適な実施態様において、胎盤若しくは生理血の脱落膜由来幹細胞は当該分野に公知された技法、例えば、密度勾配遠心分離、磁性細胞分離、フローサイトメータ、または他の細胞分離法を用いて、または当該分野で公知の分類方法を用いて分類される。
【0029】
例えば、得られた胎盤若しくは生理血の脱落膜由来幹細胞液から目的の表面抗原を発現している多能性幹細胞を得る方法としては、ソート機能を持つフローサイトメータを用いたFACS法(Int. Immunol., 10(3):275, 1998)、磁気ビーズを使用する方法、多能性幹細胞を特異的に認識する抗体を用いたパニング法(J. Immunol., 141(8):2797, 1998)などがある。なお、大量の培養液などから多能性幹細胞を得る方法としては、細胞の表面に発現されて分子(以下、表面抗原と称する。)を特異的に認識する抗体を単独または組み合わせてこれをカラムとして使用する方法がある。
【0030】
フローサイトメータソート方式としては、水滴荷電方式、セルキャプチャー方式などを挙げることができる。一実施態様において、細胞表面マーカー特異的抗体またはリガンドは明らかな蛍光ラベルにより標識される。細胞はセルソーターによって処理されてそれらの使用された抗体に対する結合能力に基づいて細胞が分離される。FACSでソートされた粒子は96ウェルまたは384ウェルプレートの個別ウェル内に直接的に沈着されて分離及びクローニングを促進することができる。
【0031】
いかなる方法によっても細胞の表面抗原を特異的に認識する抗体を蛍光により標識し、標識された抗体と抗原の結合体に対する蛍光を測定して蛍光強度を電気信号に変換することにより細胞の抗原発現量を定量することができる。なお、使用する蛍光物質の種類を組み合わせることにより、複数の表面抗原を発現している細胞を分離することも可能である。ここに使用可能な蛍光物質として、FITC(fluorescein isothiocyanate)、PE(phycoerythrin)、APC(Allo-phycocyanin)、TR(TexasRed)、Cy3、CyChrome、Red613、Red670、TRI-Color、QuantumRedなどがある。
【0032】
本発明において使用可能な一つの方法であるフローサイトメータを用いたFACS法としては、上記において得られた幹細胞溶液を収集し、遠心分離などの方法により細胞を分離した後、直接的に抗体により染色する方法と、一回適当な培地中において培養、増殖を実施した後に抗体を染色する方法を利用することができる。細胞の染色は、先ず、表面抗原を認識する一次抗体と目的細胞サンプルを混合し、4℃において30分から1時間インキュベーションする。一次抗体が蛍光により標識されている場合には洗浄後にフローサイトメータにより分離を実施する。一次抗体が蛍光標識されていない場合には洗浄後に一次抗体に対して結合活性を有する蛍光標識された2次抗体と一次抗体が反応した細胞を混合し、再び4℃において30分から1時間インキュベーションする。洗浄後、一次抗体と2次抗体により染色された細胞をフローサイトメータにより分離する。
【0033】
前記脱落膜由来幹細胞の分離及び精製方法は本発明の脂肪由来幹細胞にも容易に適用可能である。
【0034】
3.胎盤の脱落膜由来幹細胞の特性
胎盤の脱落膜から分離された胎盤の脱落膜由来幹細胞は均質であり、しかも、無菌的である。なお、幹細胞はヒトに投与されるのに適した形態(すなわち、薬学的等級)で容易に得られる。
【0035】
長期間培養後に細胞を表面CDシリーズ抗原マーカー、例えば、CD29(単核球マーカー:mononuclear cell marker)、CD31(上皮細胞及び幹細胞マーカー:endothelial cell and stem cell marker)、CD45(造血幹細胞マーカー:hematopoietic cell marker)及びCD90(単核球マーカー:mononuclear stem cell marker)により特徴付けしてFACS分析に適用することができる。
【0036】
本発明の方法により得られた好適な胎盤の脱落膜由来幹細胞は、下記の細胞表面マーカーの存在により同定可能である:CD29及びCD90に対していずれも陽性の免疫学的特性を示し、CD31及びCD45に対していずれも陰性の免疫学的特性を示す。このような細胞表面マーカーは当該分野に周知の方法により、例えば、フローサイトメータにより一括して測定された後に洗浄し、抗細胞表面マーカー抗体により着色される。
【0037】
また、本発明の胎盤の脱落膜由来幹細胞は未分化状態の幹細胞マーカーと言えるOct4、SSEA4、及びクリプト−1のマーカーを用いて確認することができる(図4、図5及び図6)。Oct4は幹細胞において未分化状態標識因子としてよく知られており、技術分野においては、大韓民国特許出願第10−2004−0105716号「ヒト胚幹細胞に特異的な単一クローン抗体」、大韓民国特許出願第10−2004−0096780号「哺乳類胚及び幹細胞の未分化状態維持Oct4遺伝子発現抑制用二重螺旋RNA」、大韓民国特許出願第10−2006−0092128号「骨芽細胞基盤適所類似構造により増殖能が増加されたヒト臍帯血由来多分化能幹細胞及びその製造方法」などに開示するように、未分化状態の幹細胞であることを立証するための実験としてOct4発現能実験を行うのが一般的である。なお、SSEA4(Stage Specific Embryonic Antigen 4)とクリプト−1がヒト胚幹細胞の表面に存在するということも当業者に既に知られている事実である。
【0038】
Oct4発現を、FACS法と一緒に逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応法(RT−PCR:Reverase Transcriptase-Polymerase Chain Reaction)を用いて確証する。RT−PCRの方法は当分野で公知の技術である。RT−PCRは特定の部位のRNAを鋳型としてこれに対応するcDNAを合成した後、これを用いてPCR増幅を行う技術であり、実験過程は、(1)逆転写酵素を用いてRNAからcDNAを製造する過程と、(2)cDNAを用いて特定部位を増幅する過程と、からなり、過程(2)はゲノムDNAから特定の遺伝子部位を増幅する方法と同様である。この方法は、ノーザンブロットハイブリダイゼーションなどの方法を通じて可能であったRNA分析よりも実験方法が一層簡単であるだけではなく、遺伝子の塩基配列決定が可能であるため、主としてmRNAの塩基配列及び転写量を研究するときに大幅に役立つ技術である。
【0039】
本発明の胎盤の脱落膜由来幹細胞はOct4、SSEA4及びクリプト−1の発現に対して陽性反応を示す(図4、図5及び図6)。
【0040】
4.胎盤の脱落膜由来幹細胞の分化
本発明の方法により得られた胎盤の脱落膜由来幹細胞は筋細胞への分化をはじめとする、特定の細胞系統(lineages)によって分化するように誘導可能である。特定の実施態様において、本発明の方法により得られた胎盤の脱落膜由来幹細胞は移植及び生体外処理プロトコールにおける使用のために分化するように誘導される。特定の実施態様において、本発明の方法により得られた胎盤の脱落膜由来幹細胞は特定細胞類型に分化するように誘導され、治療遺伝子生成物を提供するように遺伝子的に設計される。
【0041】
胎盤の脱落膜由来幹細胞の特定筋細胞への分化測定は当該分野で周知の方法により行うことができ、例えば、胎盤の脱落膜由来幹細胞を一日、アザサイチジンにより前処理した後にSKBM培地(cambrex,co.)において筋細胞への分化を誘導することができる。
【0042】
また、前記分化細胞はフローサイトメトリーまたは免疫細胞化学などの技法を用いて細胞表面マーカー(例えば、組織特異的または細胞マーカー特異的抗体により細胞を染色する)及び形態の変化を測定しながら、光学顕微鏡または共焦点顕微鏡を用いて細胞の形態を調べることにより、またはPCR及び遺伝子発現プロファイルなどの当該分野で周知の技法を用いて遺伝子発現上の変化を測定することにより確認可能である。
【0043】
5.胎盤の脱落膜由来幹細胞及び分化細胞の利用
本発明の胎盤の脱落膜由来幹細胞は、身体の組織または器官が、目的とする細胞集団、例えば、胎盤の脱落膜由来幹細胞または胎盤の脱落膜由来細胞集団の生着、移植または注入により強化、治療または代替される様々な種類の治療プロトコルに使用可能である。前記本発明の胎盤の脱落膜由来幹細胞は存在する組織を代替または強化させて、新規または変化された組織にしたり、生物学的組織または構造と結合することができる。
【0044】
本発明の好適な実施態様において、胎盤の脱落膜由来幹細胞は適合及び不適合HLA型造血移植を含む、自家及び同種造血移植に使用可能である。
【0045】
胎盤の脱落膜由来幹細胞は、典型的に由来細胞が使用される治療または研究プロトコルにおいて特定のクラスの前駆細胞(例えば、軟骨細胞、幹細胞、造血細胞、膵臟実質細胞、神経幹細胞及び筋肉前駆細胞など)の代わりに使用可能である。
【0046】
また、本発明に係る胎盤の脱落膜由来幹細胞は注射可能物質(例えば、本願の参照文献として引用される国際特許公開公報第WO96/39101号)として剤型化可能である。他の実施態様において、本発明の細胞及び組織は米国特許第5,709,854号、第5,516,532号、第5,654,381号(いずれも本願の参照文献として引用される)に記述されたような重合成または架橋性ハイドロゲルを用いて剤型化可能である。
【0047】
6.脂肪由来幹細胞及び利用
本発明の脂肪由来幹細胞は、ヒト脂肪組織の脂肪吸入術において付随的に得られる脂肪組織から純粋に分離してフラスコ培養容器に付着して生長する脂肪由来間葉幹細胞から得られる。
【0048】
本発明の脂肪由来幹細胞は、具体的に、出願人の先特許出願である大韓民国特許出願第10−2007−0050624号、大韓民国特許出願第10−2007−0042645号、大韓民国登録特許第10−0679642号または大韓民国登録特許第10−0788632号に記載された内容によって分離及び培養された脂肪由来幹細胞である。
【0049】
前記脂肪由来幹細胞は、次の特性を有することができる:
(a)CD73、CD90、CD29、CD44及びCD105に対していずれも陽性の免疫学的特性を示し、CD33、CD34、CD45、CD4、CD31、CD62p、CD14及びHLA−DRに対していずれも陰性の免疫学的特性を示す。
(b)プラスチックに付着して成長し、紡錘状の形態学的特性を示し、CORM−2含有培地において球体を形成して未分化状態で長期間維持可能である。
【0050】
本発明の幹細胞の球体培養のために、分離された脂肪組織由来多分化能幹細胞をCORM−2含有MEBM培地において培養すれば、接種後3日目から球体の形状を形成し始めて、これから、未分化状態を維持しながら優れた増殖率を有するということが分かる。
【0051】
また、これに制限されるものではないが、前記脂肪由来幹細胞の免疫学的特性を調べるために、上述した公開特許に記載された免疫学的特性分析方法によって、脂肪由来幹細胞をPBSにより洗浄し、トリプシンにより処理した後、細胞を回収して5分間1000rpmにて遠心分離する。上澄液を捨てた後、2%FBS及びPBSの混合液を入れて洗浄した後に1000rpmにて5分間遠心分離し、上澄液を捨てた後、細胞をPBSに浮遊させて各サンプルに対して1×105個の細胞を分注する。各細胞に対しては抗体(R−phycoerythrin-conjugated mouse anti-human monoclonal antibody)を添加して氷において40分間放置して結合を誘導し、反応が終結すると、1000rpmにて5分間遠心分離して上澄液を除去した後、PBSにより2回洗浄する。洗浄後には最終的に1%パラホルムアルデヒドを添加して固定し、FACS方法を通じて得られた多分化能幹細胞の表面抗原を分析した結果、本発明の脂肪由来幹細胞はCD73に対しては91%、CD90に対しては97%、CD29に対しては96%、CD44に対しては83%、CD105に対しては80%の陽性反応を示し、他の抗原に対する免疫表現型を確認した結果、CD33、CD34、CD45、CD4、CD31、CD62p、CD14及びHLA−DRに対していずれも陰性の免疫学的特性を示す。
【0052】
前記脂肪由来多分化能幹細胞を生理食塩水、生理食塩水+スクロース、生理食塩水+スクロース+5%アルブミン及びPBS+スクロースの条件下において保管後の、球体形成能を確認する場合、10μMCORM−2、5mL抗生剤抗真菌剤溶液(100X)、1μg/mLハイドロコチソン、5μg/mLインシュリン、20ng/mL EGF、40ng/mL FGF、B27及びβ−メルカプトエタノールを含有する無血清MEBM培地を含有する6ウェル細胞培養機の各ウェルに5×104〜1×105個/mLの細胞を分注して培養した結果、3〜7日目から球体を形成しはじめ、7〜10日目にも幹細胞が増殖して球体を形成する。
【0053】
本発明の脂肪由来幹細胞は、一態様として、脂肪吸入術またはカテーテルを連結した使い捨て注射器から得られるチュメスント溶液と脂肪が含有された原料から、マイコプラズマ試験と無菌試験を通じて原料品質管理基準を通過した試料を遠心分離して脂肪層と水層を分離して水層の試料をコラゲナーゼ溶液により前処理した後に得られた細胞を前記公開特許に記載された培地において培養して脂肪幹細胞を利用することができる。
【0054】
本発明の脂肪由来幹細胞は、身体の組織または器官が目的とする細胞集団、例えば、脂肪由来幹細胞または由来細胞集団の生着、移植または注入により強化、治療または代替される様々な種類の治療プロトコルに使用可能である。前記本発明の脂肪由来幹細胞は存在する組織を代替または強化させて、新規または変化された組織にしたり、生物学的組織または構造と結合することができる。
【0055】
本発明の方法により得られた脂肪由来幹細胞は筋細胞への分化をはじめとする、特定の細胞系統によって分化するように誘導可能である。特定の実施態様において、本発明の方法により得られた脂肪由来幹細胞は移植及び生体外処理プロトコルにおける使用のために分化するように誘導される。特定の実施態様において、本発明の方法により得られた脂肪由来幹細胞は特定の細胞類型に分化するように誘導され、治癒遺伝子生成物を提供するように遺伝子的に設計される。脂肪由来幹細胞の特定の筋細胞への分化測定は当該分野で周知の方法により行うことができる。
【0056】
また、前記分化細胞はフローサイトメトリーまたは免疫細胞化学などの技法を用いて細胞表面マーカー(例えば、組織特異的または細胞マーカー特異的抗体により細胞を染色する)及び形態の変化を測定しながら、光学顕微鏡または共焦点顕微鏡を用いて細胞の形態を調べることにより、またはPCR及び遺伝子発現プロファイルなどの当該分野で周知の技法を用いて遺伝子発現上の変化を測定することにより確認可能である。
【0057】
7.胎盤の脱落膜または脂肪由来幹細胞を用いた尿失禁治療剤の開発
本発明に係る胎盤の脱落膜由来幹細胞または脂肪由来幹細胞を含有する尿失禁細胞治療剤は、前記胎盤の脱落膜由来幹細胞または脂肪由来幹細胞が内尿道括約筋の機能向上を示す尿漏出圧上昇及び外尿道括約筋の機能向上を示す尿道括約筋の収縮力を増加させる原理に基づくものである。
【0058】
尿漏出圧とは、尿漏出時の膀胱内圧または尿漏出時の腹圧を意味するものであり、尿漏出圧の減少は尿失禁の主な原因である。
【0059】
本発明においては、胎盤の脱落膜由来幹細胞または脂肪由来幹細胞が尿失禁治療に及ぼす影響、特に、尿漏出圧に及ぼす影響を測定するために、雌性ヌードマウスをそれぞれ正常群、対照群及び実験群に分類した後、生理食塩水を用いて前記正常群、対照群(陰部神経切断群)及び実験群(陰部神経切断後に胎盤の脱落膜由来幹細胞または脂肪由来幹細胞を使用した群)の膀胱内圧を増加させて尿漏出圧を測定することにより、本発明に係る胎盤の脱落膜由来幹細胞が尿漏出圧を増加させ、これにより、尿失禁細胞治療剤としての可能性を確認する。
【0060】
尿道括約筋は収縮力により排尿を調節して機能するものであり、尿道括約筋の収縮力弱化もまた尿失禁の主な原因である。
【0061】
本発明においては、胎盤の脱落膜由来幹細胞または脂肪由来幹細胞が尿失禁治療に及ぼす影響、特に、尿道括約筋の収縮力に及ぼす影響を測定するために、雄性マウスをそれぞれ正常群、対照群及び実験群に分類した後、尿道の組織断片に電気場刺激(EFS)またはアセチルコリン薬物を適用して尿道括約筋の収縮力を測定することにより、本発明に係る胎盤の脱落膜由来幹細胞または脂肪由来幹細胞が尿道括約筋の収縮力を増加させ、これにより、尿失禁細胞治療剤としての可能性を確認する。
【0062】
8.胎盤の脱落膜由来幹細胞または生理血の脱落膜由来幹細胞または脂肪由来幹細胞を含有する尿失禁細胞治療剤
胎盤の脱落膜とは、受精卵が子宮に着床されるために子宮の上皮細胞が変形されて形成された膜のことを言う。
【0063】
生理血は子宮頸管粘液、膣分泌物、子宮内細胞、子宮の上皮細胞と毛細血管の血が混ざっており、細胞などを形成するタンパク質が主流をなしており、このとき、生理血内に含まれている子宮から脱落された子宮の上皮細胞生理血を脱落膜と称する。
【0064】
脂肪由来幹細胞は、ヒト脂肪組織の脂肪吸入術において付随的に得られる脂肪細胞とフラスコ培養容器に付着して生長する脂肪由来間葉幹細胞から得られる。
【0065】
上述したように、胎盤の脱落膜と生理血の脱落膜は主に子宮の上皮細胞で構成され、本発明の実施例においては、具体的に胎盤の脱落膜由来幹細胞の尿失禁治療効果だけを究明したが、生理血の脱落膜由来幹細胞も尿失禁治療効果があるということを容易に類推することができる。さらに、脂肪由来幹細胞もまた多分化能を有していて、脂肪組織由来幹細胞もまた適用可能であるということを容易に類推することができる。このため、本発明によれば、胎盤の脱落膜由来幹細胞を含有する尿失禁細胞治療剤だけではなく、生理血の脱落膜由来幹細胞を含有する、または脂肪組織由来幹細胞を含有する尿失禁細胞治療剤を実現することは当業者にとって自明であるといえる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例を挙げて詳述する。これらの実施例は単に本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例に制限されないことは当業界において通常の知識を持った者にとって自明である。
【0067】
実施例1:本発明に係る幹細胞の分離及び培養
(1)胎盤の脱落膜由来幹細胞の分離及び培養
本出願人の先特許出願(大韓民国公開特許10−2007−0101756A)に記載された下記の方法により胎盤から脱落膜を分離した。
【0068】
具体的に、胎盤は高麗大学病院臨床試験倫理委員会ガイドラインに従って高麗大学付属九老病院において正常分娩と早産分娩から収集されて研究用に使用した。胎盤組織は抗生剤が含まれている生理食塩水に入れて研究室まで持ち運び、研究室に運ばれた胎盤組織はPBSを用いて洗浄して血球細胞と多数の組織の残骸を除去したり組織を溶血バッファを用いて血球細胞を除去したり、胎盤を構成している羊膜、絨毛膜、基底脱落膜及び胎盤組織をそれぞれ鉗子を用いて丁寧に分離した。
【0069】
前記分離された脱落膜組織を100mm皿に載せ、滅菌されたメッシュを用いて1〜2mmのサイズに細切した。その後、コラゲナーゼが含まれている培地に放置し、37℃の培養器において最小1時間から最大4時間かけて反応させた後、100μmワイヤー織物体を用いてコラゲナーゼ処理された組織をろ過した。このようにして分離した細胞は75−フラスコに37℃、5%CO2の条件下でbFGF含有DMEM培地において培養した(図1)。
【0070】
(2)脂肪由来幹細胞の分離及び培養
この実施例において利用された脂肪由来幹細胞は本出願人の先特許出願(大韓民国登録特許第10−0679642号)に記載された方法によって分離された脂肪由来幹細胞であって、具体的には、脂肪吸入を通じて腹部から採取された脂肪組織を分離してPBSにより洗浄し、組織を細切した後、コラーゲン分解酵素タイプ1(1mg/mL)を添加したDMEM培地を用いて37℃において2時間かけて分解した。次に、PBSにより洗浄した後、1000rpmにて5分間遠心分離した。上澄液は除去し、底面に残留しているペレットはPBSにより洗浄した後、1000rpmにて5分間遠心分離した。100μmメッシュを用いて浮遊物を除去した後、PBSにより再洗浄した。DMEM培地において培養し、一晩経過後に培養容器の底面に付着した細胞はPBSにより洗浄し、ケラチノサイトSFM培地を2日おきに交替しながら培養して多分化能幹細胞を分離した。
【0071】
実施例2:胎盤の脱落膜由来幹細胞の増殖率調査
前記分離されたヒト胎盤の脱落膜由来多能性幹細胞の増殖方法により得られた幹細胞の増殖率を調査した。それぞれ異なるヒト個体の胎盤の脱落膜サンプルから採取した胎盤の脱落膜由来幹細胞を実施例1の分離方法と同様にして得た後、75フラスコに2x105ずつ接種した。
【0072】
CPDL(cumulative population doubling level)は細胞の増殖率を示す指数であって、
CPDL=ln(Nf/Ni)/ln2
(Ni=初期に接種した細胞数、Nf=最終細胞数)
の式により表わすことができる。
【0073】
基底脱落膜由来幹細胞のCPDLを継代数によって観察した結果、継代数が12のときに約30に達するCPDL値を示す。このようなCPDL値はヒト脂肪組織由来幹細胞(Lin et al., stem cells and development,14:92, 2005; Zuk et al., Tissue eng., 7:211, 2001)の値とほとんど同様であり、この結果から、本発明に係る胎盤の脱落膜由来幹細胞は増殖率が極めて高いことが分かる(図2)。
【0074】
実施例3:胎盤の脱落膜由来多能性幹細胞の免疫学的特性
実施例1において得られた胎盤の脱落膜由来多能性幹細胞をPBSにより洗浄し、トリプシン処理した後、細胞を回収して5分間1000rpmにて遠心分離した。上澄液を捨て、5%FBS及びPBSの混合液を入れて洗浄した後、1000rpmにて5分間遠心分離した。上澄液を捨てた後、細胞をPBSに浮遊させてサンプル数に見合う分だけ1x105細胞を分注した。各ウェルに抗体(R−phycoerythrin-conjugated mouse anti-human monoclonal antibody)を入れ、4℃において40分間インキュベーションした。インキュベーション後に1000rpmにて5分間遠心分離した。上澄液を除去した後にPBSにより洗浄し、1000rpmにて5分間遠心分離した。再度、前記上澄液除去後にPBSにより洗浄し、1000rpmにて5分間遠心分離する過程を繰り返し行った。上澄液を除去した後に1%パラホルムアルデヒドを入れてシングル化し、フローサイトメータを用いて分析した。その結果、表1に示すように、本発明の胎盤の脱落膜由来幹細胞はCD29、CD90、Oct−4、SSEA−4及びクリプト−1に対していずれも陽性の免疫学的特性を示し、CD31及びCD45に対していずれも陰性の免疫学的特性を示すことが分かる(図4)。
【0075】
【表1】
【0076】
実施例4:胎盤の脱落膜由来多能性幹細胞のOct4及びSSEA−4発現分析
前記実施例1において得られた胎盤の脱落膜由来幹細胞をPBSにより3回洗浄し、4%パラホルムアルデヒドを含有するPBSにより30分間固定した。PBSにより3回洗浄した後、0.1%トリトンX100を含有するPBSにより10分間浸透させる。PBSにより3回洗浄した後、ブロッキングバッファ(5%山羊血清)を処理して4℃において1時間かけて反応させ、一次抗体を含有するブロッキングバッファに一晩反応させる。PBSにより3回洗浄し、2次抗体により暗室において1時間かけて反応させた。PBSにより3回洗浄した後にマウントした。その結果、図5に示すように、本発明に係る分化能幹細胞はヒト胚幹細胞のマーカーであるOct4とSSEA−4に対して陽性反応を示した。
【0077】
また、RT−PCRを用いてOct4の発現を確認した。RT反応は37℃において50分間、70℃において10分間行い、PCR反応は95℃において5分間、そして95℃において30秒/58℃において40秒/72℃において1分にて40回のサイクルを行った後、72℃において10分間行った。その結果、図6に示すように、基底脱落膜由来幹細胞の場合、800bpにおいて発現されていることを確認することができた。
【0078】
実施例5:胎盤の脱落膜由来多能性幹細胞の筋細胞への分化
実施例1において得られた胎盤の脱落膜由来多能性幹細胞を10ng/mLフィブロネクチンがコーティングされているフラスコに分注した後に10μM5’−アザサイチジンを用いて24時間かけて前処理を行う。前処理後にSKBM培地(Cambrex, Co.)を用いて10日間培養した後に免疫染色を実施した。
【0079】
その結果、本発明に係るヒト胎盤組織由来多能性幹細胞は筋肉細胞の特異抗原であるミオシンに対して陽性反応を示した。この結果から、本発明に係るヒト胎盤組織由来多能性幹細胞が筋肉細胞に分化されたことを確認することができた(図7)。
【0080】
実施例6:胎盤の脱落膜由来幹細胞を注入した雌性ヌードマウスにおける尿漏出圧の測定
1)実験群動物モデルの準備
胎盤の脱落膜由来幹細胞が尿漏出圧に及ぼす影響を測定するための動物実験を実施するために、雌性ヌードマウス56匹を使用した。前記56匹の雌性ヌードマウスをそれぞれ正常群14匹(n=14)、対照群(陰部神経切断群)14匹(n=14)、及び実験群1(陰部神経切断2週後に胎盤の脱落膜由来幹細胞105細胞を注入した群)14匹(n=14)と実験群2(陰部神経切断2週後に胎盤の脱落膜由来幹細胞107細胞を注入した群)14匹(n=14)に分けて実験を実施した。このとき、それぞれの群はさらに4週群7匹(n=7)及び8週群7匹(n=7)に分けて、4週及び8週に尿漏出圧を測定した。
【0081】
対照群の準備:雌性ヌードマウス14匹をハロタンにより麻酔させ、坐骨直腸窩の両側に切開を加えて陰部神経を剥離した後、前記陰部神経に2cm程度電気焼灼を行った後、皮膚を縫合した。
【0082】
実験群1及び2の準備:雌性ヌードマウス28匹をハロタンにより麻酔させ、下腹部に縦切開を入れて膀胱と尿道を剥離し(図8)、次いで、陰部神経切断2週後に尿失禁が発生したことを確認した後、顕微鏡を用いて10mLハミルトンシリンジにより、実施例2において得られた胎盤の脱落膜由来多能性幹細胞を注入するが、14匹に105細胞(実験群1)を注入し、残りの14匹に107細胞(実験群2)を注入した。
【0083】
2)尿漏出圧の測定
前記雌性ヌードマウスをウレタン(1.2g/kg)により麻酔させ、T9−T10レベルにおいて脊髄切断を行った後、下腹部に縦切開を入れることにより、膀胱を剥離したPE−90カテーテルを用いて恥骨上部膀胱瘻形成術を行った。
【0084】
尿漏出圧の測定のために前記正常群、対照群及び実験群の雌性ヌードマウスをvertical tilt/intraversical pressure clamp modelに位置した(図9)。PE−90チューブに生理食塩水150mLを連結し、この生理食塩水の高さを少しずつ高めることにより実験マウスの膀胱内の圧力を増加させた。尿漏出が開始されるときの圧力をLPP(leak point pressure)と定義した。
【0085】
図10に示すように、正常群(N)、対照群(D)、実験群1(P1)、実験群2(P2)の尿漏出圧は4週においてそれぞれ22.8±0.9、11.6±0.6、20.4±0.8及び21.5±0.9cmH2Oであり(図10のA)、8週においてはそれぞれ22.6±0.8、11.5±0.7、20.6±0.6及び22.5±0.8cmH2Oを示して(図10のB)、4週及び8週の両方において正常群、実験群1及び実験群2は対照群の場合よりも統計学的に高く現れ、対照群の尿漏出圧は正常群の尿漏出圧に比べて減少し、実施例1の胎盤の脱落膜由来幹細胞を投与した結果、実験群1及び2の尿漏出圧は正常群の尿漏出圧にほとんど近いレベルに増加したことが分かり、胎盤の脱落膜由来幹細胞が尿漏出圧を増加させる機能をすることを確認することができた。
【0086】
実施例7:脂肪由来幹細胞を注入した雌性ヌードマウスにおける尿漏出圧の測定
1)実験群動物モデルの準備
脂肪由来幹細胞が尿漏出圧に及ぼす影響を測定するための動物実験を実施するために、雌性ヌードマウス56匹を使用した。前記56匹の雌性ヌードマウスをそれぞれ正常群14匹(n=14)、対照群(陰部神経切断群)14匹(n=14)、及び実験群1(陰部神経切断2週後に脂肪由来幹細胞105細胞を注入した群)14匹(n=14)と実験群2(陰部神経切断2週後に脂肪由来幹細胞107細胞を注入した群)14匹(n=14)に分けて実験を実施した。このとき、それぞれの群はさらに4週群7匹(n=7)及び8週群7匹(n=7)に分けて、4週及び8週に尿漏出圧を測定した。
【0087】
対照群の準備:雌性ヌードマウス14匹をハロタンにより麻酔させ、坐骨直腸窩の両側に切開を加えて陰部神経を剥離し、前記陰部神経に2cm程度電気焼灼を行った後、皮膚を縫合した。
【0088】
実験群1及び2の準備:雌性ヌードマウス28匹をハロタンにより麻酔させ、下腹部に縦切開を入れて膀胱と尿道を剥離し(図8)、次いで、陰部神経切断2週後に尿失禁が発生したことを確認した後、顕微鏡を用いて10mLハミルトンシリンジにより、実施例1において得られた脂肪由来多能性幹細胞を注入するが、14匹には105細胞(実験群1)を注入し、残りの14匹には107細胞(実験群2)を注入した。
【0089】
2)尿漏出圧の測定
前記雌性ヌードマウスをウレタン(1.2g/kg)により麻酔させ、T9−T10レベルにおいて脊髄切断を行った後、下腹部に縦切開を入れることにより、膀胱を剥離したPE−90カテーテルを用いて恥骨上部膀胱瘻形成術を行った。
【0090】
尿漏出圧の測定のために前記正常群、対照群及び実験群の雌性ヌードマウスをvertical tilt/intraversical pressure clamp modelに位置させた(図9)。PE−90チューブに生理食塩水150mLを連結し、この生理食塩水の高さを少しずつ高めることにより実験マウスの膀胱内の圧力を増加させた。尿漏出が開始されるときの圧力をLPP(leak point pressure)と定義した。
【0091】
図11に示すように、正常群(N)、対照群(D)、実験群1(A1)、実験群2(A2)の尿漏出圧は4週において22.8±0.9、11.6±0.7、18.7±0.9及び19.2±0.7cmH2Oであり(図11のA)、8週においては22.6±0.9、11.5±0.7、20.4±0.7及び21.5±0.8cmH2Oを示して(図11のB)、本発明の脂肪由来幹細胞の投与結果、4週及び8週の両方において尿漏出圧を増加させることを確認することができ、A2がA1群に比べて高く現れたが、統計学的な違いはなかった(図11)。
【0092】
実施例8:胎盤の脱落膜由来幹細胞を注入した雄性マウスにおける尿道括約筋の収縮力の測定
1)実験群動物モデルの準備
胎盤の脱落膜由来幹細胞が尿道括約筋の収縮力に及ぼす影響を測定するための動物実験を実施するために、雄性マウス56匹を使用した。前記56匹の雄性マウスをそれぞれ正常群14匹(n=14)、対照群(陰部神経切断群)14匹(n=14)、及び実験群1(陰部神経切断2週後に胎盤の脱落膜由来幹細胞105細胞を注入した群)14匹(n=14)と実験群2(陰部神経切断2週後に胎盤の脱落膜由来幹細胞107細胞を注入した群)14匹(n=14)に分けて実験を実施した。このとき、それぞれの群はさらに4週群7匹(n=7)及び8週群7匹(n=7)に分けて、4週及び8週に尿道括約筋の収縮力を測定した。
【0093】
対照群の準備:雄性マウス14匹をハロタンにより麻酔させ、坐骨直腸窩の両側に切開を加えて陰部神経を剥離し、前記陰部神経に2cm程度電気焼灼を行った後、皮膚を縫合した。
【0094】
実験群1及び2の準備:雄性マウス28匹をハロタンにより麻酔させ、下腹部に縦切開を入れて膀胱と尿道を剥離し(図8)、次いで、陰部神経切断2週後に尿失禁が発生したことを確認した後、顕微鏡を用いて10mLハミルトンシリンジにより、実施例2において得られた胎盤の脱落膜由来多能性幹細胞を注入するが、14匹には105細胞(実験群1)を注入し、残りの14匹には107細胞(実験群2)を注入した。
【0095】
2)尿道括約筋収縮力の測定
前記雄性マウスの尿道をそれぞれ得た後に螺旋状に尿道を切開して尿道組織断片(102mm)を準備した。器官浴(organ bath)実験においてバーティカルチャンバー(体積20mL)にCO2/重炭酸塩容器緩衝液(bicarbonate buffered Tyrode solution)を満たした後、尿道組織断片を固定し、その後、アセチルコリン薬物を用いて尿道括約筋収縮力を調べてた(図12)。
【0096】
その結果、図13に示すように、雄性マウス実験において従来の技術分野において通常的に利用される電気場刺激(Electrical Field stimulation(EFS)、60V)時に正常群(N)、対照群(D)、実験群1(P1)及び実験群2(P2)において尿道括約筋収縮力は4週においてそれぞれ0.45±0.06、0.34±0.02、0.39±0.02及び0.45±0.05g/テンションであり、8週においてはそれぞれ0.44±0.06、0.35±0.02、0.41±0.04及び0.46±0.03g/テンションを示した。このため、電気刺激時には4週及び8週の両方において対照群よりも高い尿道括約筋収縮力を示し、正常群とほとんど同様、またはそれ以上の尿道括約筋収縮力を示した。なお、実験群2が実験群1よりも高い数値を示した。
【0097】
また、図14に示すように、アセチルコリン(Ach)の投与時には正常群(N)、対照群(D)、実験群1(P1)及び実験群2(P2)における尿道括約筋収縮力は4週においてそれぞれ0.54±0.04、0.28±0.03、0.52±0.02及び0.54±0.03g/テンションであり(図14のA)、8週においてはそれぞれ0.56±0.03、0.3±0.02、0.56±0.04及び0.59±0.04g/テンションを示した(図14のB)。このため、アセチルコリンの投与時には正常群、実験群1及び実験群2はいずれもD群よりも高く、実験群2の方が実験群1よりも尿道括約筋収縮力が高く現れたが、統計学的に意義があるとはいえない。すなわち、実際に実験群2が実験群1よりも高い尿道括約筋数値を示すと結論付けることはできない。
【0098】
実施例9:脂肪由来幹細胞を注入した雄性マウスにおける尿道括約筋の収縮力の測定
1)実験群動物モデルの準備
脂肪由来幹細胞が尿道括約筋の収縮力に及ぼす影響を測定するための動物実験を実施するために、雄性マウス56匹を使用した。前記56匹の雄性マウスをそれぞれ正常群14匹(n=14)、対照群(陰部神経切断群)14匹(n=14)、及び実験群1(陰部神経切断2週後に脂肪由来幹細胞105細胞を注入した群)14匹(n=14)と実験群2(陰部神経切断2週後に脂肪由来幹細胞107細胞を注入した群)14匹(n=14)に分けて実験を実施した。このとき、それぞれの群はさらに4週群7匹(n=7)及び8週群7匹(n=7)に分けて、4週及び8週に尿道括約筋の収縮力を測定した。
【0099】
対照群の準備:雄性マウス14匹をハロタンにより麻酔させ、坐骨直腸窩の両側に切開を加えて陰部神経を剥離し、前記陰部神経に2cm程度電気焼灼を行った後、皮膚を縫合した。
【0100】
実験群1及び2の準備:雄性マウス28匹をハロタンにより麻酔させ、下腹部に縦切開を入れて膀胱と尿道を剥離し(図8)、次いで、陰部神経切断2週後に尿失禁が発生したことを確認した後、顕微鏡を用いて10mLハミルトンシリンジにより、実施例1において得られた脂肪由来多能性幹細胞を注入するが、14匹には105細胞(実験群1)を注入し、残りの14匹には107細胞(実験群2)を注入した。
【0101】
2)尿道括約筋収縮力の測定
前記雄性マウスの尿道をそれぞれ得た後に螺旋状に尿道を切開して尿道組織断片(102mm)を準備した。器官浴実験においてバーティカルチャンバー(体積20mL)にCO2/重炭酸塩容器緩衝液を満たし、尿道組織断片を固定した後、アセチルコリン薬物を用いて尿道括約筋収縮力を調べてた(図12)。
【0102】
その結果、図15に示すように、雄性マウス実験において従来の技術分野において通常利用される電気場刺激(Electrical Field stimulation(EFS)、60V)時に正常群(N)、対照群(D)、実験群1(A1)及び実験群2(A2)群における尿道括約筋収縮力はそれぞれ4週において0.46±0.08、0.32±0.03、0.35±0.03及び0.38±0.03g/テンションであり、8週においては0.44±0.06、0.31±0.02、0.39±0.02及び0.44±0.05g/テンションを示した。電気刺激時には4週及び8週の両方においてN及びA群はD群よりも統計学的に高く現れ、A2とA1群との間に大差はなかった。
【0103】
また、図16に示すように、アセチルコリン(Ach)の投与時には正常群(N)、対照群(D)、実験群1(A1)及び実験群2(A2)における尿道括約筋収縮力は4週において0.54±0.05、0.29±0.04、0.48±0.03及び0.51±0.05g/テンションであり、8週においては0.55±0.05、0.29±0.03、0.55±0.02及び0.54±0.05g/テンションを示した。アセチルコリンの投与時にはN、A1及びA2群は両方ともD群よりも高く、A2とA1群との間には大差はなかった。
【0104】
実施例10:胎盤の脱落膜由来幹細胞を注入したマウスの組織における免疫染色
前記実施例6及び8に従い4週及び8週に尿漏出圧及び尿道括約筋収縮力を測定した後、それぞれの尿道組織を採取して液化窒素において既に冷却された2−メチルブタンを用いて組織の損傷なしに冷凍した。尿道組織を冷却切片した後にH/E染色を行い、幹細胞の平滑筋及び骨格筋への分化を観察するためにDAPI、筋肉アクチン(α−SMA)及びミオシン重鎖(MyHC)免疫染色を行って蛍光顕微鏡により観察した。
【0105】
その結果、図17に示すように、実施例6による雌性ヌードマウスにおいて、正常尿道括約筋においては平滑筋が豊富であり、骨格筋は極めて弱く染色されている(図17のA、B、C)。陰部神経切断後には平滑筋の減少が観察され(図17のD、E、F)、胎盤幹細胞の注入時には4週(図17のG、H、I)及び8週(図17のJ、K、L)において平滑筋が緑色に明るく染色されて平滑筋の量が増加されたことが分かり、平滑筋の間において赤色と緑色が共染色された黄色細胞が観察された。MyHC染色時は骨格筋が緑色に極めて弱く染色され、平滑筋の間に注入された細胞が赤色を帯びた。
【0106】
また、図18に示すように、実施例8における雄性マウス尿道は螺旋状に切開したため元の尿道形状を観察することはできなかったが、尿道括約筋収縮実験後の組織においてPKHが発現されることが観察されて(図18のA及びB)、注入した胎盤由来幹細胞が尿道括約筋収縮力に寄与したことが分かる。参考までに、PKHは生きている細胞を蛍光染色する蛍光染色物質であって、胎盤の脱落膜幹細胞をPKH(赤色)により標識して注入した。
【0107】
要するに、尿失禁患者と類似する腹圧性尿失禁動物モデルを構築した前記実施例6から8において、胎盤の脱落膜由来幹細胞の注入結果、尿失禁モデルヌードマウスの尿道の尿漏出圧を増加させ、尿失禁モデルマウスの尿道括約筋の収縮力を増加させることが分かる。尿漏出圧においては、注入した細胞数による差が大きく現れたわけではないが、括約筋収縮力の場合に注入した幹細胞の数が多いほど優れた尿道括約筋収縮力を示した。この点は、尿失禁患者に対しても本発明に係る胎盤の脱落膜由来幹細胞が優れた細胞治療剤として使用可能であることを示唆している。
【0108】
上述したように、胎盤の脱落膜と生理血の脱落膜は主な構成成分が共通的に子宮の上皮細胞であって、本発明の実施例においては具体的に胎盤の脱落膜由来幹細胞の尿失禁治療効果だけを究明したが、生理血の脱落膜由来幹細胞も尿失禁治療効果があるということを容易に類推することができる。
【0109】
実施例11:脂肪由来幹細胞を注入したマウスの組織における免疫染色
前記実施例7及び9に従い4週及び8週に尿漏出圧及び尿道括約筋収縮力を測定した後、それぞれの尿道組織を採取して液化窒素において既に冷却された2−メチルブタンを用いて組織の損傷なしに冷凍させた。尿道組織を冷却切片した後にH/E染色を行い、幹細胞の平滑筋及び骨格筋への分化を観察するためにDAPI、筋肉アクチン(α−SMA)及びミオシン重鎖(MyHC)免疫染色を行って蛍光顕微鏡により観察した。
【0110】
その結果、図19に示すように、実施例7によるヌードマウスにおいて、正常尿道括約筋においては平滑筋が豊富であり、骨格筋は弱く染色されている(図19のA、B、C)。陰部神経切断後には平滑筋の減少が観察され(図19のD、E、F)、幹細胞の注入時(8週)には平滑筋が緑色に明るく染色されて平滑筋の増加されたことが分かり、平滑筋の間に赤色と緑色が共染色された黄色細胞が観察された。MyHC染色時には骨格筋は極めて弱く染色され、平滑筋の間に注入された細胞が赤色を帯びた。
【0111】
また、図20に示すように、実施例9における雄性マウス尿道は螺旋状に切開したため元の尿道形状を観察することはできなかったが、尿道括約筋収縮実験後の組織(8週)においてPKHが発現されることが観察されて(図20のA及びB)注入した脂肪由来幹細胞が尿道括約筋収縮力に寄与したことが分かる。参考までに、PKHは生きている細胞を蛍光染色する蛍光染色物質であって、脂肪由来幹細胞をPKH(赤色)により標識して注入した。
【産業上の利用可能性】
【0112】
以上述べたように、本発明に係る胎盤若しくは生理血の脱落膜由来幹細胞または脂肪由来幹細胞は筋細胞に分化する能力に優れていて、尿漏出圧増加及び尿道括約筋収縮力を向上させる効果を示すことから、尿失禁治療剤として有用である。
【0113】
以上、本発明の内容の特定の部分を詳述したが、当業界における通常の知識を持った者にとって、このような具体的な記述は単なる好適な実施態様に過ぎず、これにより本発明の範囲が制限されることはないという点は明らかである。よって、本発明の実質的な範囲は特許請求の範囲とこれらの等価物により定義されると言える。本発明の単純な変形ないし変更はこの分野の通常の知識を持った者によって容易に利用可能であり、このような変形や変更はいずれも本発明の領域に含まれるものであるといえる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胎盤若しくは生理血の脱落膜由来幹細胞、または脂肪由来幹細胞を有効成分として含有する尿失禁細胞治療剤。
【請求項2】
前記胎盤の脱落膜由来幹細胞は、以下の特性を表すことを特徴とする請求項1に記載の尿失禁細胞治療剤:
(a)CD29及びCD90に対して陽性の免疫学的特性を示し、CD31及びCD45に対して陰性の免疫学的特性を示す;
(b)Oct4、SSEA−4及びクリプト−1に対して陽性の免疫学的特性を示す;
(c)プラスチックに付着して成長し、円形または紡錘状の形態学的特性を示し、SFM培地において球体を形成して未分化状態で長期間維持可能である;及び
(d)筋細胞に分化する能力を有する。
【請求項3】
前記胎盤の脂肪由来幹細胞は、以下の特性を表すことを特徴とする請求項1に記載の尿失禁細胞治療剤:
(a)CD73、CD90、CD29、CD44及びCD105に対していずれも陽性の免疫学的特性を示し、CD33、CD34、CD45、CD4、CD31、CD62p、CD14及びHLA−DRに対していずれも陰性の免疫学的特性を示す;及び
(b)プラスチックに付着して成長し、紡錘状の形態学的特性を示し、CORM−2含有培地において球体を形成して未分化状態で長期間維持可能である。
【請求項1】
胎盤若しくは生理血の脱落膜由来幹細胞、または脂肪由来幹細胞を有効成分として含有する尿失禁細胞治療剤。
【請求項2】
前記胎盤の脱落膜由来幹細胞は、以下の特性を表すことを特徴とする請求項1に記載の尿失禁細胞治療剤:
(a)CD29及びCD90に対して陽性の免疫学的特性を示し、CD31及びCD45に対して陰性の免疫学的特性を示す;
(b)Oct4、SSEA−4及びクリプト−1に対して陽性の免疫学的特性を示す;
(c)プラスチックに付着して成長し、円形または紡錘状の形態学的特性を示し、SFM培地において球体を形成して未分化状態で長期間維持可能である;及び
(d)筋細胞に分化する能力を有する。
【請求項3】
前記胎盤の脂肪由来幹細胞は、以下の特性を表すことを特徴とする請求項1に記載の尿失禁細胞治療剤:
(a)CD73、CD90、CD29、CD44及びCD105に対していずれも陽性の免疫学的特性を示し、CD33、CD34、CD45、CD4、CD31、CD62p、CD14及びHLA−DRに対していずれも陰性の免疫学的特性を示す;及び
(b)プラスチックに付着して成長し、紡錘状の形態学的特性を示し、CORM−2含有培地において球体を形成して未分化状態で長期間維持可能である。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公表番号】特表2010−538059(P2010−538059A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−523967(P2010−523967)
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【国際出願番号】PCT/KR2008/007094
【国際公開番号】WO2009/069991
【国際公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(508033465)アールエヌエル バイオ カンパニー リミテッド (12)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月1日(2008.12.1)
【国際出願番号】PCT/KR2008/007094
【国際公開番号】WO2009/069991
【国際公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(508033465)アールエヌエル バイオ カンパニー リミテッド (12)
【Fターム(参考)】
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