説明

脳機能改善剤

【課題】痴呆症における記憶・学習能障害を効果的に改善することができる、脳機能改善剤を提供する。
【解決手段】この脳機能改善剤は、黒霊芝の特定成分を含有することを特徴とする。本発明の特定成分は、280〜330nmに吸収の極大を示し、分子内に芳香環を含有する物質であり、本成分の酢酸エチル可溶分の溶液は着色性であるといった特徴がある。
本成分はアセチルコリンエステラーゼおよびプロリルエンドペプチダーゼの阻害作用を有し、脳機能の改善に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳機能改善作用を有する黒霊芝の特定の成分を含有することを特徴とする医薬品、医薬部外品または食品に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会を迎えた現代において、老人性痴呆患者の増加は大きな社会問題となってきている。痴呆の症状は、人によって様々であるが、共通して見られる症状として、記憶傷害、見当識障害、判断力・思考力・実行機能の低下等が挙げられる。
【0003】
痴呆は、その原因によってアルツハイマー型痴呆症と脳血管性痴呆症に大別することができる。例えば、脳血管性痴呆は、脳梗塞によって脳の血管が詰まり、脳の組織が破壊されることによって起こる。そのため、脳血管性痴呆症においては、脳梗塞を起こす原因となった動脈硬化、高血圧、高脂血症、糖尿病等の治療・予防が重要であり、これを通じて痴呆の進行を遅らせる治療方法が採られている。
【0004】
一方、痴呆患者の多くを占めているといわれるアルツハイマー型痴呆症は、原因が未だはっきりと解明されていないが、その患者には、脳内の神経の伝達物質であるアセチルコリンのレベルの低下が認められることから、コリン作動性神経の機能低下が原因の一つであると考えられている(例えば、非特許文献1参照)。そのため、アルツハイマー型痴呆症においては、アセチルコリンの濃度を高めてコリン作動性神経の機能低下を防ぐことを目的とする治療方法が主流となっている。すなわち、アセチルコリンは、アセチルコリントランスフェラーゼによって合成されて、アセチルコリンエステラーゼにより分解されることにより、一定の濃度に保たれているため、アセチルコリンエステラーゼの活性を阻害してアセチルコリンの分解を抑制し、アセチルコリンの減少を抑える方法である。この方法では、症状を完全に治療することはできないものの、症状を改善したり、症状の進行を遅らせることができることが分かっている。
【非特許文献1】Neurodegeneration,4,349−356(1995)
【0005】
現在、アルツハイマー型痴呆症の治療薬として、例えば、タクリン、ドネペジル等のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤が市販されている。
【0006】
しかしながら、上記のタクリン、ドネペジル等のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、肝臓毒性や強い副作用を有するため、長期間服用できず、また高価であるという問題があった。
【0007】
また、天然物からもアセチルコリンエステラーゼを阻害する成分を探索し、痴呆症の治療を目指す研究がなされている(特許文献1、2)。
【特許文献1】特開2006−131589号公報
【特許文献2】特開2003−286164号公報
【0008】
プロリルエンドペプチダーゼはプロリンを含むペプチドのプロリンのカルボキシル側を特異的に切断する酵素で、記憶の固定場所とされている脳の海馬部分に高い活性がみられるほか、動物臓器に広く分布することが知られている(非特許文献2〜4)。また、同様の酵素がフラボバクテリウム属細菌からも発見されている(非特許文献5)。
【非特許文献2】Science,173,827(1971)
【非特許文献3】Molecular&Cellular Biochemistry,30,111(1980)
【非特許文献4】日本農芸化学会誌,58,1147(1984)
【非特許文献5】J.Biol.Chem.,255,4786(1980)
【0009】
本酵素は神経伝達物質とされているサブスタンスPやニューロテンシン、記憶に関係していると考えられるTHR(甲状腺刺激ホルモン)やステップスルー型受動的回避学習法で記憶保持活性があるとされている脳内バソプレシンに作用し、不活性化することが知られている(非特許文献6、7)。バソプレシンは腎臓で水分再吸収に働くペプチドホルモンであるが、脳内においては学習、記憶の過程にも関与しており、このホルモンの分解能が不活性化されると記憶保持に障害が現れるといわれている。また、痴呆症患者のバソプレシン量は、正常人のそれより少ないことが知られている(非特許文献8)。
【非特許文献6】Science,221,1310(1983)
【非特許文献7】Nature,308,276(1984)
【非特許文献8】BIOINDUSTRY,4,788(1987)
【0010】
健康人では脳でのPEPが正常に働いているが、何らかの理由で調節機構がはずれるとバソプレシンが必要以上に分解され、記憶保持に傷害が現れる。従って、本酵素の活性を阻害することによる痴呆症の治療を目指す研究がなされている(特許文献3〜7)。
【特許文献3】特許第3148739号
【特許文献4】特開2006−28091号公報
【特許文献5】特開2006−96709号公報
【特許文献6】特開2002−265377号公報
【特許文献7】特開2001−64197号公報
【0011】
黒霊芝は、担子菌類ヒダナシタケ目サルノコシカケ科マンネンタケ属に属し、マンネンタケの一種である。マンネンタケの代表として、赤霊芝(霊芝)が一般的であり、中国の薬学古書である「神農本草経」に「知恵を増し、忘れなくする」と記載されている(非特許文献9)。また、赤霊芝の長期間投与で学習・記憶機能の増強や保持が認められている(非特許文献10)。しかし、黒霊芝の脳機能改善作用に関しては報告されていない。
【非特許文献9】難波恒雄著 「原色和漢薬図鑑(下)」 保育社、1980年
【非特許文献10】和漢医薬学会誌 7,388(1990)
【0012】
一般にマンネンタケは、赤霊芝(霊芝)、白霊芝、黄霊芝、紫霊芝、青霊芝の他、黒霊芝(黒芝)があげられ、これらは子実体の色が赤、白、黄、紫、青、黒であることから単純に命名されたものであるが、最近では、黒霊芝は赤霊芝、紫霊芝などと区別して研究されている。例えば、非特許文献2によると、黒霊芝には赤霊芝や紫霊芝に含有する代表的なトリテルペン成分(ガノデリン酸類)は含有されず、味も全く異なると報告されている。以上のことから、黒霊芝の薬効について更に深く研究する余地があった。
【0013】
また、赤霊芝とは学名も成分も異なる、黒霊芝中に含有する特定成分の脳機能改善効果については従来全く知られていなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、アセチルコリンエステラーゼおよびプロリルエンドペプチダーゼに対して阻害活性を有する、脳機能改善剤を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この様な事情により、本発明者らは鋭意研究検討した結果、主として黒霊芝に含有する特定成分に非常に高いアセチルコリンエステラーゼ及びプロリルエンドペプチダーゼ阻害作用を示すことを発見し、また実験的痴呆症モデルを用いた動物実験においても、高い記憶学習能改善作用を有していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明の脳機能改善剤に含まれる黒霊芝の特定成分は、次の事項によって特徴付けられるものである。
(1)赤外吸収スペクトルを測定すると(KBr法)、2925、1700、1600、1455、1170、835cm−1に吸収の極大を示す。
(2)上記黒霊芝の成分をエタノールに溶解し、紫外吸収スペクトルを測定すると、280〜330nmに吸収の極大を示す。
(3)分子内に芳香環を含有する。
(4)本成分に酢酸エチルを加えたとき、酢酸エチル可溶分の溶液は着色性であり、主として茶色〜赤褐色を示す。
【0017】
上記のうち、(3)はH、13C−NMR分析により判別可能である。すなわち、溶媒を重メタノール(CDOD)を用いて測定した場合、6〜8ppm(H−NMR)、100〜150ppm(13C−NMR)に芳香族に置換した水素原子のスペクトル吸収が認められる。上記のスペクトル分析値は分析器、手法、ピークの幅広さなどにより、若干数値の誤差がある場合がある。(4)については、本成分約1〜10mgに酢酸エチル1mLを加えることで着色性を判別できる。
【0018】
また、黒霊芝の特定成分は、定法により加水分解を行うと、ヒドロキシケイヒ酸を遊離する性質がある。例えば、水酸化ナトリウム水溶液などを用いた定法より加水分解でき、HPLCなどで分析することで確認できる。
【0019】
黒霊芝の特定成分は、以下に示した高速液体クロマトグラフ(HPLC)により確認できる(図1参照)。黒霊芝の特定成分のHPLCチャートを示す。横軸は保持時間(分)、縦軸は強度を示す。本分析によれば、保持時間が約10〜25分の幅広のピーク群が黒霊芝の特定成分である(分析条件により、保持時間、パターンは若干変化することがある)。
(A)カラム:オクタデシル化シリカゲル(内径4.5mm×250mm)
(B)カラム温度:40℃
(C)展開溶媒:0.2%リン酸/0.2%リン酸を含有するアセトニトリルを用い、0.2%リン酸を含有するアセトニトリルを20%〜100%に20分かけて直線的に溶媒を変化させ、100%で25分保持する(計45分分析)。
(D)流速:1mL/分
(E)検出:313nm
(F)試料:10mg/mLのエタノール溶液を0.02mL導入
【0020】
本発明に用いられる黒霊芝は、マンネンタケ科(Ganodermataceae)、マンネンタケ属(Ganoderma)に属し、学名は、G.atrum、G.japonicum、G.sinenseなどといわれている。また、マンネンタケ属のキノコについては、中国の薬学古書である「本草綱目」や「神農本草経」には、黒霊芝(黒芝)のほか、赤霊芝(霊芝)、紫霊芝(紫芝)、青霊芝(青芝)、黄霊芝(黄芝)及び白霊芝(白芝)が存在すると記載されている。黒霊芝は広く中国や日本市場などで流通しているものを用いることができるし、自生品や栽培品を用いても良い。
【0021】
なお、黒霊芝は紫霊芝と外観が似ているために紫霊芝として市場に流通していることもある。この場合、例えば、上記の条件で高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析することにより、黒霊芝の特定成分の検出が可能であり、本発明の範囲に属するものとする。
【0022】
本発明に用いられる黒霊芝は、子実体、菌糸体、天産物、栽培物、培養物などを問わず使用することができる。また、必要に応じてそのままの状態、破砕物、乾燥物などを適宜選択して抽出操作に付することができる。
【0023】
本発明の薬効成分の抽出方法の一例として、好ましくは黒霊芝の子実体を溶媒抽出することにより得ることができる。
【0024】
抽出する溶媒としては、例えば、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノールなど)、液状多価アルコール(1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトンなど)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、石油エーテルなど)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテルなど)が挙げられる。好ましくは、低級アルコール、ケトン類、アセトニトリル、エステル類などや、これらの含水溶媒が良く、特に好ましくは、安全性の面からエタノール又は含水エタノールが良い。これらの溶媒は一種でも二種以上を混合して用いても良い。また、塩基性下で抽出することも好ましい。
【0025】
黒霊芝の特定成分をさらに精製する方法として、互いに混合しない溶媒で液・液分配抽出により溶媒分画精製することもできる。
【0026】
液・液分配抽出に用いる溶媒としては、上記の溶媒を用いることが可能である。例えば、(水又は含水アルコール)・炭化水素系、(水又は含水アルコール)・エーテル系、(水又は含水アルコール)・エステル系、水・ブタノール系などを採用できる。上記にとらわれず、互いに混合しない溶媒系であれば採用できる。好ましくは、溶媒抽出物(固形物)に含水低級アルコールと炭化水素溶媒を加えて抽出し、炭化水素溶媒可溶分を除去した残液にエステル溶媒を加えて抽出することにより黒霊芝の特定成分を精製することができる。また、酸や塩基による分別抽出を行うこともできる。
【0027】
黒霊芝の特定成分をさらに精製する方法として、黒霊芝抽出物又は上記の溶媒分画物を吸着剤に吸着させ、溶媒により溶出させることにより、特定成分を精製することができる。
【0028】
吸着剤としては、例えば、スチレン−ジビニルベンゼン系の合成吸着樹脂、イオン交換樹脂、オクタデシル化シリカゲル(ODS)、シリカゲル、セルロース、デキストラン、修飾デキストランなどの吸着剤が挙げられる。中でも、スチレン−ジビニルベンゼン系の合成吸着樹脂やODSが好ましい。
【0029】
吸着方法としては、吸着剤をカラムに充填し、これに抽出物の溶液を通す方法や、抽出物の溶液に吸着剤をそのまま混合する方法などがあるが、特に限定されない。
【0030】
吸着剤の溶出溶媒としては、各吸着剤の特性により選択できるが、例えば、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノールなど)、液状多価アルコール(1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトンなど)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、石油エーテルなど)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテルなど)が挙げられる。好ましくは、水、低級アルコールなどの溶媒が良く、特に好ましくは、水やエタノールが良い。これらの溶媒は一種でも二種以上を混合して用いても良い。更に、上記溶出溶媒に酸やアルカリを添加してpH調整して用いても良い。
【0031】
上記抽出物や精製物は、抽出した溶液のまま用いても良く、必要に応じて、濃縮、希釈
、ろ過、活性炭などによる脱色、脱臭、エタノール沈殿などの処理をして用いても良い。更には、抽出や精製した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥などの処理を行い、乾燥物として用いても良い。
【0032】
特に好ましい例を挙げると、上記の液・液分配抽出(上記の好ましいとされる溶媒系で抽出)を行なった後、上記の合成吸着樹脂(スチレン−ジビニルベンゼン系、上記の好ましいとされる溶媒で溶出)で精製して黒霊芝の特定成分を精製することができる。
【0033】
ただし、黒霊芝の特定成分は、使用目的に応じ、抽出物のままでも良いし、液・液分配抽出や吸着剤による精製を単独又は組み合わせることができる。
【0034】
本発明の脳機能改善剤には、上記抽出物や吸着剤などによる精製物をそのまま使用しても良く、抽出物の効果を損なわない範囲内で、希釈剤を用いることができ、希釈剤としては固体、液体、半固体でもよく、たとえば次のものがあげられる。すなわち、賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、香料、保存料、溶解補助剤、溶剤などである。具体的には、乳糖、ショ糖、ソルビット、マンニット、澱粉、沈降性炭酸カルシウム、重質酸化マグネシウム、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、セルロース又はその誘導体、アミロペクチン、ポリビニルアルコール、ゼラチン、界面活性剤、水、生理食塩水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、カカオ脂、ラウリン脂、ワセリン、パラフィン、高級アルコールなどである。
【0035】
本発明の脳機能改善剤は、医薬品、医薬部外品または食品のいずれにも用いることができ、その剤形としては、例えば、経口用として散剤、顆粒剤、錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、シロップ剤、丸剤、懸濁剤、液剤、乳剤などである。非経口用として注射液にすることが出来る。また、座薬とすることも出来る。
【0036】
本発明の脳機能改善剤の摂取量は、投与形態、使用目的、年齢、体重などによって異なるが黒霊芝の特定成分を含む抽出物や精製物に換算して、0.1〜5,000mg/日、好ましくは1〜500mg/日の範囲で1日1回から数回経口投与できる。もちろん前記したように、投与方法や投与量は種々の条件で変動するので、上記投与範囲より少ない量で十分な場合もあるし、また、範囲を超えて投与する場合もある。また、製剤化における脳機能改善剤の添加法については、予め加えておいても、製造途中で添加しても良く、作業性を考えて適宜選択すれば良い。
【発明の効果】
【0037】
本発明の新規な黒霊芝の特定成分を含有する脳機能改善剤は、脳機能改善作用が非常に高かった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
本発明を詳細に説明するため、実施例として本発明に用いる抽出物の製造例、本発明の処方例及び実験例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例に示す配合量の部とは重量部をし、%は重量%を示す。
【実施例1】
【0039】
製造例1 黒霊芝の熱水抽出物
黒霊芝子実体の乾燥物100gに2Lの精製水を加え、95〜100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮後、凍結乾燥して、黒霊芝の熱水抽出物を5.4g得た。
【0040】
製造例2 黒霊芝の50%エタノール抽出物
黒霊芝子実体の乾燥物100gに精製水1L及びエタノール1Lを加え、常温で7日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して黒霊芝の50%エタノール抽出物を2.9g得た。
【0041】
製造例3 黒霊芝のエタノール抽出物
黒霊芝子実体の乾燥物1Kgにエタノール15Lを加え、常温で7日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、黒霊芝のエタノール抽出物1を20g得た。
【0042】
製造例4 黒霊芝のカラム精製物1
製造例1の黒霊芝子実体の熱水抽出物10.0gを精製水に溶解し、スチレン−ジビニルベンゼン系の合成吸着樹脂500mLを充填したカラムに通液した。次いで、精製水、10、20、50、80、90、100%エタノール各1Lで溶出させた後、それぞれを濃縮乾固した。黒霊芝の特定成分は、80%以上のエタノール画分に多く含まれており、80%以上のエタノール画分をまとめ、黒霊芝のカラム精製物を約0.40g得た。
【0043】
製造例5 黒霊芝の溶媒分画精製物
製造例3の黒霊芝のエタノール抽出物2.00gをエタノール350mLに溶解し、同容量の精製水とヘキサンを加えて抽出した。水層部分を1/2に濃縮し、同容量の酢酸エチルを加えて抽出した後、濃縮乾固し、ヘキサン画分0.84g、酢酸エチル画分0.56g、水画分0.60g得た。このうち、酢酸エチル画分を黒霊芝の溶媒分画精製物とする。
【0044】
製造例6 黒霊芝のHPLC精製物
製造例3の黒霊芝のエタノール抽出物0.50gを分取HPLCにより精製し、黒霊芝のHPLC精製物を0.21g得た。なお、HPLCの分画範囲は、「0019」段落に記載の範囲とした。
<HPLC分画条件>
(A)充填剤:ODS(内径20mm×長さ250mm)
(B)展開溶媒
0.2%リン酸/0.2%リン酸を含有するアセトニトリルを用い、0.2%リン酸を含有するアセトニトリルを20%から100%を20分かけて直線的に溶媒を変化させ、100%で25分保持する。
(C)流速:10mL/分
(D)検出:350nm
【0045】
製造例7 黒霊芝のカラム精製物2
製造例3の黒霊芝のエタノール抽出物2.0gをエタノール350mLに溶解し、同容量の精製水とヘキサンを加えて抽出した。水層部分を1/2に濃縮し、同容量の酢酸エチルを加えて抽出した後、濃縮乾固し、酢酸エチル画分0.56gを得た。これを50%エタノールに溶解し、スチレン−ジビニルベンゼン系の合成吸着樹脂100mLを充填したカラムに通液した。次いで、精製水、10、20、50、80、90、100%エタノール各1Lを溶出させた後、80%以上のエタノール画分をまとめ、黒霊芝のカラム精製物2を0.24g得た。
【0046】
<製造例6及び7のスペクトル解析>
赤外吸収スペクトル解析
製造例6の黒霊芝のHPLC精製物及び製造例7の黒霊芝のカラム精製物2をKBr法で赤外吸収スペクトルを測定した。その結果、3294、2926、1698、1604、1456、1169、823cm−1に吸収の極大を示した。
紫外吸収スペクトル分析
製造例6の黒霊芝のHPLC精製物及び製造例7の黒霊芝のカラム精製物2の5mgを100mLのエタノールに溶解し、紫外吸収スペクトルを測定した。その結果、295.3nmに吸収の極大を示した。
NMRスペクトル分析
製造例6の黒霊芝のHPLC精製物及び製造例7の黒霊芝のカラム精製物2を用い、定法によりH、13C−NMR分析した結果、6.6〜7.6ppm(H−NMR)、100〜150ppm(13C−NMR)にスペクトル吸収を認め、芳香環の存在が確認された。なお、溶媒は重メタノール(CDOD)を用いた。
溶液の色
製造例6の黒霊芝のHPLC精製物及び製造例7の黒霊芝のカラム精製物2の10mgに5mLの酢酸エチルを加えた。酢酸エチル可溶分を濾過した後、溶液の色を目視にて確認した。その結果、溶液の色は、赤褐色を示した。
【0047】
比較製造例1 赤霊芝の熱水抽出物
赤霊芝子実体の乾燥物100gに2Lの精製水を加え、95〜100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮後、凍結乾燥して、赤霊芝の熱水抽出物を6.0g得た。
【0048】
比較製造例2 赤霊芝の溶媒分画精製物
製造例5の黒霊芝を赤霊芝に変えて同様に行い、酢酸エチル画分(溶媒分画精製物)を0.64g得た。
【実施例2】
【0049】
本発明の脳機能改善剤は、処方例として下記の製剤化を行うことができる。
【0050】
処方例1 散剤
処方 配合量
1.黒霊芝のHPLC精製物(製造例6) 20部
2.乾燥コーンスターチ 30
3.微結晶セルロース 50
[製法]成分1〜3を混合し、散剤とする。
【0051】
処方例2 錠剤
処方 配合量
1.黒霊芝のカラム精製物2(製造例7) 5部
2.乾燥コーンスターチ 25
3.カルボキシメチルセルロースカルシウム 20
4.微結晶セルロース 40
5.ポリビニルピロリドン 7
6.タルク 3
[製法]成分1〜5を混合し、次いで10%の水を結合剤として加えて、押出し造粒後乾燥する。成形した顆粒に成分6を加えて混合し打錠する。1錠0.52gとする。
【0052】
製造例3 錠菓
処方 配合量
1.黒霊芝のエタノール抽出物(製造例3) 1.5部
2.乾燥コーンスターチ 50.0
3.エリスリトール 40.0
4.クエン酸 5.0
5.ショ糖脂肪酸エステル 3.4
6.香料 0.1
[製法]成分1〜4を混合し、10%の水を結合剤として加え流動層増粒する。成形した顆粒に成分5及び6を加えて混合し打錠する。1粒1.0gとする。
【0053】
処方例4 飲料
処方 配合量
1.黒霊芝の溶媒分画精製物(製造例5) 0.05部
2.ステビア 0.05
3.リンゴ酸 5.0
4.グリセリン脂肪酸エステル 0.5
5.香料 0.1
6.水 94.3
[製法]成分1〜5を成分6の一部の水に撹拌溶解する。次いで、成分6の残りの水を加えて混合する。
【実施例3】
【0054】
次に、本発明の効果を詳細に説明するため、実験例を挙げる。
【0055】
実験例1 アセチルコリンエステラーゼ阻害試験
アセチルコリンエステラーゼ(以下AChEという)の活性阻害作用を試験した。AChE阻害活性の測定は、酵素にラット脳のホモジネート、基質にアセチルチオコリンを使用し、AChEの作用により基質から遊離されるチオコリンにDTNB(5,5−dithio−bis(2−nitro benzonic acid))を反応させることで生じるTNB(5−チオ−2−ニトロ安息香酸)の吸光度を412nmで測定する方法で行った。
【0056】
50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0、以下リン酸緩衝液とする)0.54mLにAChEを0.05mL、各々DMSO(ジメチルスルホキシド)に溶解した試料0.01mL、2.5mMヨウ化アセチルチオコリンのリン酸緩衝溶液を0.2mL、1.5mM DTNBのリン酸緩衝溶液を0.2mL加え37℃で反応させ、1分毎の412nmの吸光度の傾き(SX)を算出した。
【0057】
AChEの代わりにリン酸緩衝液0.01mLを用いて、上記と同様に反応を行い、吸光度の傾き(SXB)を算出した。
【0058】
試料溶液の代わりにDMSO 0.01mLを用いて、上記と同様に反応を行い、吸光度の傾き(SC)を算出した。
【0059】
試料溶液の代わりにDMSO 0.01mL、AChEの代わりにリン酸緩衝液0.01mLを用いて、上記と同様に反応を行い、吸光度の傾き(SB)を算出した。
【0060】
各試料のAChE阻害率の評価は、得られた各々の傾きから、下記式により算出した。

AChE阻害率(%) = [1−(SX−SXB)/(SC−SB)] x 100

【0061】
その結果、表1に示すように、黒霊芝の特定成分に他の熱水や、エタノール抽出物と比べて高いアセチルコリンエステラーゼ阻害活性が認められた。
【0062】
【表1】

【0063】
実験例2 プロリルエンドペプチダーゼ阻害試験
プロリルエンドペプチダーゼ(以下、PEPという。)の活性阻害作用を試験した。PEP阻害活性の測定は、酵素にフラボバクテリウム属(Flavobacterium
meningoseepticum)由来のPEP、基質にZ−Gly−Pro−pNAを使用し、PEPのエステラーゼ作用により、基質から遊離されるp−NA(パラニトロアニリン)の吸光度を410nmで測定する方法で行った。本測定法に用いた各試料の終濃度は0.2mg/mLとした。
【0064】
0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)1.0mLに、各々40%ジオキサン溶液に溶解した試料0.125mLと2mM Z−Gly−Pro−pNA 0.125mLを加え、30℃で5分間プレインキュベーションした。5分後に、0.05Mリン酸ナトリウム緩衝液に溶解したPEP(0.175U/mL)0.1mLを加え、10分間の反応を実施した。その後、2.0mLのTriton X−100溶液により反応を停止さえ、410nmの吸光度を測定した。
【0065】
PEP阻害率の評価は、上記の操作(A)の他に、(B)Aのコントロールのために酵素反応前にTriton X−100溶液を加え、(C)サンプル溶液の代わりに40%ジオキサン溶液を用いて測定し、(D)Cのコントロールのために酵素反応前にTritonX−100溶液を加える、各々の段階での吸光度の測定値を下式に代入することにより算出した。

PEP阻害活性(%)=[(C−D)−(A−B)]/(C−D)×100

【0066】
その結果、表2に示すように、黒霊芝の特定成分は他の熱水、エタノール抽出物と比べて高いPEP阻害活性が認められた。
【0067】
【表2】

【0068】
実験例3 モリス水迷路試験
本発明についてモリス水迷路試験により記憶・学習改善効果を検討した。
【0069】
直径120cm,高さ20cmの水槽に直径5cm,高さ10cmのプラットフォームを設置し、水面がプラットフォームより1cm高くなるようにし、スキムミルクで白濁させたものを用いた。水温を18±1℃となるよう調製し、試験中はすべての位置を固定して行った。
【0070】
水槽の縁の4点を任意に北,南,東,西とし、それぞれの点よりマウスを泳がせ、プラットフォームに到達するまでの時間を最高90秒まで測定した。試行は各方向より1回ずつ計4回行い、その日の試行を終了した。マウスが自力到達した場合はそのまま15秒間静置し、1回の試行を完了した。90秒を越えてもマウスがプラットフォームに到達できない場合は、実験者によりマウスをプラットフォームまで誘導し、その上に15秒間静置させて1回の試行を完了した。4回の試行の間隔は2分間とし、1日4試行の到達時間の平均値を1日のデータとした。
【0071】
2日間訓練試行を行った後、3日目に薬物を投与せずに試験試行を行い、各群の到達時間および体重の平均を均一にした。4、5日目は試行30分前にスコポラミン(ムスカリン性アセチルコリン受容体拮抗薬)1mg/kgを腹腔内投与し記憶・学習障害を誘発する条件下で試験試行を行い、到達時間の結果から各々の試料の記憶・学習障害改善作用を評価した。試料は蒸留水に懸濁したものを試行60分前に経口投与し、コントロール群については、同量の蒸留水を投与した。
【0072】
試験5日目の各々の試料投与による到達時間を表3に示した。その結果、黒霊芝の特定成分は他の熱水、エタノール抽出物と比べて遊泳時間の顕著な短縮が認められた。
【0073】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の脳機能改善剤は、高いアセチルコリンエステラーゼ阻害作用およびプロリルエンドペプチダーゼ阻害作用を示した。従って、安全で優れた脳機能改善作用を有する医薬品、医薬部外品または食品としての利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】黒霊芝の特定成分のHPLCチャートを示す。横軸は保持時間(分)、縦軸 は強度を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒霊芝から抽出され、かつ(1)〜(4)の物性を有する特定成分を含有する脳機能改善剤。
(1)赤外吸収スペクトルを測定すると(KBr法)、2925、1700、1600、1455、1170、835cm−1に吸収の極大を示し、
(2)本成分をエタノールに溶解し、紫外吸収スペクトルを測定すると、280〜330nmに吸収の極大を示し、
(3)分子内に芳香環を含有し、
(4)本成分に酢酸エチルを加えたとき、酢酸エチル可溶分の溶液は着色性であり、茶色〜赤褐色を示す。
【請求項2】
黒霊芝の溶媒抽出物を含有することを特徴とする、請求項1記載の脳機能改善剤。
【請求項3】
黒霊芝の溶媒抽出物を液・液分配抽出により溶媒分画精製したものであり、液・液分配の方法として、
(1)溶媒抽出物(固形物)に含水低級アルコールと炭化水素溶媒を加えて抽出し、
(2)炭化水素溶媒可溶分を除去した残液にエステル溶媒を加えて抽出し、
(3)そのエステル層に含有する、
以上の操作により抽出した成分を含有することを特徴とする、請求項1乃至2何れか1項記載の脳機能改善剤。
【請求項4】
黒霊芝の溶媒抽出物もしくはその溶媒分画精製物を、スチレン−ジビニルベンゼン系の合成吸着樹脂、イオン交換樹脂、オクタドテシル化シリカゲル(ODS)、シリカゲル、セルロース、デキストラン、修飾デキストランから選択された吸着剤により精製した成分を含有することを特徴とする請求項1乃至3何れか1項記載の脳機能改善剤。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項記載の脳機能改善剤を含有することを特徴とする医薬品、医薬部外品または食品。


【図1】
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【公開番号】特開2008−156240(P2008−156240A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−343660(P2006−343660)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(592262543)日本メナード化粧品株式会社 (223)
【Fターム(参考)】