説明

脳電図解析システム

【課題】 皮質入力の変化と皮質状態の変化とを区別することができる脳電図信号を解析する方法及びシステムを提供する。
【解決手段】 脳の活動を表す脳電図信号を解析するための方法であって、i)前記信号の一部分の信号表現のための係数データを生成するステップと、ii)前記信号表現及び前記係数データに基づいて生成された出力信号の平均振幅を表す第1の利得データを生成するステップと、iii)前記一部分の平均振幅を表す第2の利得データを生成するステップと、iv)前記第1の利得データ及び前記第2の利得データに基づいて、前記脳の皮質下活動を表す脳状態データを生成するステップとを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳の活動を表す表示を生成するために脳電図(EEG)信号を解析する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
脳の機能状態を定量化するための方法は、被験者からの自発的な、又は刺激に対して固定された、頭皮の記録可能な電気活動を解析することを含むことがある。これは、(たとえば、国際公開第2001/74248号パンフレットに記載されている)早期、中期、及び/又は後期の刺激によって誘発された成分の波形を解析すること、若しくは(たとえば、欧州特許出願EP0898234号に記載されている)周波数領域法又は時間領域法を使用する(特定の、又は一般的な刺激に応じたものではない)自発的に記録された活動のスペクトル解析、又は(たとえば、国際公開第2004/054441号パンフレットに記載されている)脳の状態を決定するために、自発的なEEG活動と誘発されたEEG活動が共に解析される混成手法を含むことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そのような方法は、適切に構築された統計的判別関数が使用されたとき臨床効率を有することが示されているが、そのような測定が、どのような挙動の生理学的側面及び脳機能を反映するか不明確である。たとえば、EEG活動ではなくEMG活動の変化がこれらの手法で検出されている可能性がある。(Anesth Analg、2003、97、488〜491頁で公開されている)Messnerレポートは、完全に覚醒している人における神経筋遮断中に、どのようにバイスペクトル指数が低下するかについて述べている。しかし、律動性の、頭皮の記録可能な脳電気活動の生成に責任がある生体機構に関する(国際公開第2004/064633号パンフレット及びその中で参照されている参照に記載されている)Lileyらによる最近の理論的、及び実験的業績は、脳機能の、より生理学的な特定の測定量の構築を可能にする、特定の理論的枠組みを提供している。
【0004】
健康、疾患、及び/又は治療介入中に脳の状態を評価する上で、変化した脳(皮質)機能の結果として発生する脳状態の変化と、大脳皮質に対する変化した入力の結果として発生する変化とを区別することが重要である。様々な事象関連電位(ERP)の早期成分の解析は、皮質に対する様々な入力経路の完全性に関する情報をもたらすことができるが、皮質領域すべてが、周囲から送達される感覚情報の受け手であるわけではないため、この技法は、必然的に制限される。たとえば、前頭皮質は、どのような感覚情報をも、直接的にも(皮質下核を介して)間接的にも受け取らない。この手法の別の制限は、十分な信号対雑音比を得るために、いくつかの順次与えられる刺激の、得られる結果の時間分解能を明らかに制限する誘発反応を決定しなければならないことである。しかし、(たとえば、国際公開第2001/74248号パンフレットに記載されている)いくつかの形態の予想法を使用して時間分解能を改善しようと試みる方法がある。
【0005】
(たとえば、欧州特許出願EP0898234号に記載されている)時間領域法又は周波数領域法を使用するスペクトル解析を含む定量的EEG(QEEG)法は、皮質入力の変化と脳(皮質)状態の変化とを区別することができない。なぜなら、そのような技法は、EEGスペクトルパワーの変化の生理学的発生源に関して仮定することができないからである。これは主に、現行のQEEG法の発見的(heuristic)手法の結果である。
【0006】
したがって、被験者からのEEG信号の変化が、(たとえば、脳の相異なる部分に対する)皮質入力の変化によって引き起こされるのか、それとも皮質がこの入力に対してどのように応答するかという点での定性的、定量的変化の結果であるのか判定することは困難である。
【0007】
したがって、上記の1つ又は複数に対処すること、又は少なくとも有用な代替を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、脳の活動を表す脳電図の信号を解析するための方法であって、
i)前記信号の一部分の信号表現のための係数データを生成するステップと、
ii)前記信号表現及び前記係数データに基づいて生成された出力信号の平均振幅を表す第1の利得データを生成するステップと、
iii)前記一部分の平均振幅を表す第2の利得データを生成するステップと、
iv)前記第1の利得データ及び前記第2の利得データに基づいて、前記脳の皮質下活動を表す脳状態データを生成するステップと
を含む方法が提供される。
【0009】
また、本発明は、脳の活動を表す脳電図の信号を解析するためのシステムであって、
i)前記信号の一部分の信号表現のための係数データを生成し、
ii)前記信号表現及び前記係数データに基づいて生成された出力信号の平均振幅を表す第1の利得データを生成し、
iii)前記一部分の平均振幅を表す第2の利得データを生成し、
iv)前記第1の利得データ及び前記第2の利得データに基づいて、前記脳の皮質下活動を表す脳状態データを生成する
ように適合されたプロセッサモジュールを含むシステムを提供する。
【0010】
また、本発明は、上述の方法におけるステップのいずれかを実施するための、コンピュータ可読媒体上で記憶されたコンピュータ実行可能コードを提供する。
【0011】
また、本発明は、上述の方法を実施するためのシステムを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る脳電図信号を解析する方法及びシステムによれば、皮質入力の変化と皮質状態の変化とを区別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】EEG処理システム内の構成要素のブロック図である。
【図2】EEG処理システムの制御下で実施されるステップの流れ図である。
【図3】このシステムのEEG記録インターフェースの図である。
【図4】レビュー状態にあるこのシステムのEEG記録インターフェースの図である。
【図5】このシステムのセンサ診断インターフェースの図である。
【図6】このシステムのセットアップインターフェースの図である。
【図7】このシステムの日付/時刻セットアップインターフェースの図である。
【図8】このシステムのシステム構成インターフェースの図である。
【図9】このシステムの出力セットアップインターフェースの図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に示されている脳電図(EEG)処理システム100は、信号処理モジュール106、応答指数計算モジュール108、完全性試験モジュール110、メモリモジュール112、表示プロセッサモジュール114、データエクスポートモジュール116、構成モジュール120を含む。モジュール106及び110は、被験者の頭皮上に配置された複数の頭皮電極102に結合される。電極102は、国際10−20標準システムに従って被験者の頭皮上で位置決めされ、必要に応じて追加の中点電極の使用を含むことができる。たとえば、電極102は、被験者の額の中点に対して電極を位置決めする条片に取り付けられてもよい。電極102は、好ましくは両耳たぶ(linked ears)を基準にし、鼻根点を接地として使用する電極キャップに取り付けられるが、他の電極構成を使用することもできる。電極102は、被験者の頭皮からのEEG信号を検出し、次いでこの信号は、EEG処理システム100によって受け取られ、処理される。
【0015】
EEG処理システム100の構成要素は、ソフトウェアで実装することができ、(Microsoft Windows(商標)又はUnixなど)標準的なオペレーティングシステムを実行する(IBM Corporation <http://www.ibm.com>によって提供されるものなど)標準的なコンピュータ上で実行することができる。また、これらの構成要素によって実施されるプロセスは、少なくとも部分的には、専用のハードウェア回路、たとえば、特定用途向け集積回路(ASIC)又はフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)によって実行させることもできることを、当業者なら理解するであろう。システム100の構成要素は、ハードウェア、埋込みファームウェア、及びソフトウェアの組合せとして実装されてもよい。
【0016】
信号処理モジュール106は、電極102によって検出されたEEG信号を受け取り、且つ増幅し、低周波のムーブメントアーティファクト、筋電図(EMG)アーティファクト、及び/又は(概して20Hzから75Hzに及ぶ)主電源妨害ノイズ(mains interference noise)をそのEEG信号からフィルタで除去することによって、予備的な信号アーティファクト除去を実施する。たとえば、モジュール106は、50〜60Hzノッチフィルタを使用して、検出されたEEG信号を濾波してから、その信号に、0Hzから60Hzの範囲のどこかでバンドパスフィルタ(たとえば、ローパスフィルタ)を適用することができる。次いで、モジュール106は、標準的なアナログ−デジタル変換構成要素を使用して、EEG信号を表すデジタルサンプルを生成する。EEG信号は、(1秒当たり128サンプルから512サンプルの間など)固定レートで、また好ましくは14ビット分解能以上でデジタル化することができる。
【0017】
応答指数計算モジュール108は、デジタルEEG信号からの追加のアーティファクトを除去することを含めて、さらなる信号のアーティファクトの除去を実施することができる。なお、デジタルEEG信号からの追加のアーティファクトは信号処理モジュール106によって除去されず、後続のARMAモデル係数の推定を損なうことがあるものである。これは、最小2乗平均適応フィルタリングなど、様々な手段又はアルゴリズムを使用して、50〜60Hz主電源汚染をさらに除去することを含む。
【0018】
次いで、応答指数計算モジュール108は、サンプルをメモリ112内に格納し、ユーザによって選択された処理オプションに従ってサンプルを処理する。ユーザは、EEG記録セッションのために生成されたサンプルを記憶し、記憶されたサンプルを取り出し、且つ処理するように応答指数計算モジュール108を制御する処理オプションを選択することができる。モジュール108によって実施される処理は、それぞれが(たとえば、EEG信号の2秒部分を表す)所定の数の逐次サンプルを含む複数のセグメントを生成することを含む。モジュール108は、たとえば、各新しいセグメントが、信号処理モジュール106によって生成された1つの新しいサンプル若しくは複数の新しいサンプル、又はモジュール106によって以前に生成されたサンプルを含むように、所定の時間間隔で新しいセグメントを生成することによって、増分(又は「スライディングウィンドウ」)手法に基づいてセグメントを生成することができる。モジュール108は、(たとえば、式2に基づいて)セグメントごとのそれぞれのサンプルに基づいて、セグメントごとのEEG信号の、時不変性の自己回帰移動平均(ARMA)表現を生成する。次いで、モジュール108は、それぞれの時不変ARMA表現に基づいて、セグメントごとの脳応答データを生成する。
【0019】
各セグメント/EEGサンプル点ごとの脳応答データは、(i)自己回帰(AR)係数及び移動平均(MA)係数を表す係数データ、(ii)係数データに基づいて決定された、複素平面上の1つ又は複数の極の位置を表す極データ、(iii)係数データに基づいて決定された、複素平面上の1つ又は複数のゼロの位置を表すゼロデータ、及び(iv)極データから決定された極の平均位置を表す平均極データを含む。
【0020】
ユーザは、サンプルをメモリ112内に格納し、再帰的手法に基づいてサンプルを処理するように応答指数計算モジュール108を制御する、異なる処理オプションを選択することができる。モジュール108によって実施される処理は、EEG信号の各逐次サンプル点ごとの、EEG信号の一部分の、時変性のARMA表現を生成することを含む。サンプル点は、モジュール106によって生成されたそれぞれのサンプルに対応してもよく、或いは、モジュール108が、所定の時間間隔で新しいサンプル点を選択する。モジュール108は、現在のサンプル点についての、またいくつかの以前のサンプル点についてのサンプリング済みEEG信号値に依存するEEG信号の固定次数(fixed order)時変ARMA表現と、前のEEGサンプル点に対応する係数データとに基づいて、(たとえば、式3に基づいて)再帰的に各サンプル点ごとの係数データをそれぞれ生成する。次いで、モジュール108は、各サンプル点ごとの極データ、ゼロデータ、及び/又は平均極データを、そのサンプル点についての対応する係数データに基づいて生成する。
【0021】
モジュール108によって実施される処理は、各セグメント/サンプル点ごとのARMA表現のためにAR係数及びMA係数を生成することを含み、ARMA表現のそれぞれは、8と13の間のAR次数、及び5と11の間のMA次数を有する。しかし、ARMA表現は、8のAR次数、及び5のMA次数を有することが好ましい。各セグメント/サンプル点ごとに生成されたAR係数及びMA係数により、対応するARMA表現が(AR係数及びMA係数をパラメータとして使用したとき)、対応するセグメント/サンプル点についてのEEG信号を表すことが可能になる。
【0022】
各セグメント内のサンプルは、EEG信号の異なる部分を表し、隣り合うセグメント内のサンプルは、重なり合い、EEG信号の共通部分を表す可能性がある。たとえば、あるセグメントは、直前の別のセグメント内に含まれるサンプルの50%を含む可能性がある。隣り合うセグメント内のサンプルの重なり合いの度合いは、変わる可能性があり、(たとえば、サンプルの50%超を共通に有する)より大きい度合いの重なり合いは、AR係数及びMA係数の、よりよい推定を可能にする。したがって、被験者の脳機能、及び/又は皮質下入力/活動のレベルのより正確な表現を、AR係数及びMA係数に基づいて提供され得る。
【0023】
次いで、応答指数計算モジュール108は、対応する脳応答データに基づいて、各セグメント/サンプル点ごとの指数データ及び積データを生成し、その指数データ及び積データをメモリ112内に格納する。積データは、被験者の脳に対する皮質入力のレベルを表すと共に対応するセグメント/サンプル点ごとのEEGサンプル、係数データ、及びARMA表現に基づいて生成される積値を表す。積値は、(たとえば、式13又は式14に基づいて、0以上100以下の)所定の範囲内に入るようにスケーリングされ得る。積値が大きくなると、被験者の脳に対する、より大きなレベルの皮質入力を表し、積値が小さくなると、より低いレベルの皮質入力を表す。
【0024】
指数データは、被験者の脳の機能状態(すなわち、脳が脳に対する皮質下入力に応答する仕方)を表すと共に平均極データに基づいて生成される指数を表す。指数は、(たとえば、式13又は式14に基づいて、0以上100以下の)所定の範囲内に入るようにスケーリングされ得る。(たとえば、皮質応答を減少させる麻酔薬を被験者に導入することによって引き起こされる)脳機能に対する低下又は抑制により、モジュール108は、脳のより低い機能状態を表すように、小さい指数を生成する。たとえば、0の指数は、脳活動がないことを表す。(たとえば、皮質に影響を及ぼす介入のない、正常な、はっきり目覚めた精神状態の間に)脳機能が正常である、又は抑制されていない場合、これにより、モジュール108は、脳のより高い機能状態を表すように、大きい指数を生成する。たとえば、100の指数は、完全な覚醒状態にある脳を表す。被験者の脳の機能状態の変化は、相異なるセグメント/ウィンドウについての指数の値の変化によって決定することができる。本発明の利点は、被験者の脳機能の評価が、固有の皮質状態によって引き起こされる脳活動の度合いを考慮していることである。
【0025】
応答指数計算モジュール108は、表示デバイス104(たとえば、CRT又はLCDディスプレイ)用の1つ又は複数のユーザインターフェース表示を表す表示データを生成するための表示プロセッサモジュール114に、脳応答データ、指数データ、及び/又は積データ(まとめて脳状態データと称する)を渡す。表示プロセッサモジュール114は、表示デバイス104用の表示データを生成している間に、入力デバイス118(たとえば、マルチキーデータ入力デバイス又はマウス)からユーザ入力を受け取るものとすることができる。一実施形態では、入力デバイス118及び表示デバイス104は、1つのI/Oデバイス(たとえば、タッチスクリーンディスプレイ)に組み合わされ、その結果、表示プロセッサモジュール114は、同じI/Oデバイスからユーザ入力を受け取り、同じI/Oデバイスに表示データを送る。また、表示プロセッサモジュール114は、メモリ112から取り出された脳応答データ、指数データ、及び/又は積データに基づいて、1つ又は複数の表示インターフェースを生成することができる。図3及び図7は、モジュール114によって生成されたユーザインターフェース表示の例である。
【0026】
図3は、スライディングウィンドウオプションを使用してEEG信号を処理するとき表示モジュール114によって生成されたEEG記録インターフェース300である。インターフェース300は、EEG処理システム100によって実施される様々な機能に関連付けられたユーザインターフェースにアクセスするために、モニタタブ308、センサチェックタブ312、セットアップタブ314を含む。インターフェース300は、モニタタブ308の下で生成され、指数データに基づいて生成された脳応答指数302と、時間の経過につれて脳応答指数302の値の変化を表す脳応答グラフ304と、EEGサンプルに基づいて生成された検出EEG信号を表すEEGグラフ306とを含む。インターフェース300は、ユーザが、EEG処理システム100によって実施されるEEG記録/監視セッションを開始及び停止することができる制御ボタン310を含む。また、インターフェース300は、現在の日付/時刻を表示する日付/時刻フィールド322、及びユーザによって選択された処理オプションと、インターフェース300上で現在表示されているレコードデータに関する作成日付/時刻とを表示するための状況フィールド320など、情報を表示するためのフィールドを含む。インターフェース300は、ユーザが、インターフェース300上で表示するためにグラフ304及び/又はグラフ306の閲覧部分を選択することができる、調整可能なスクロールバー334を含む。
【0027】
インターフェース300は、それぞれのボタンに関連付けられた事象を記録するために、1つ又は複数の事象マーカボタン324、326、328を含むことができる。たとえば、ボタン324は、被験者が麻酔下で意識を失った時刻を示すために使用することができ、ボタン326は、被験者が意識を取り戻した時刻を示すために使用することができる。各ボタン324、326、328は、異なる色に関連付けられており、ボタン324、326、328がユーザによって選択されたとき、そのボタンが操作された時刻に対応して、対応する色の線が脳応答グラフ304上で生成される。脳応答グラフ304上で記録された事象の時間位置は、メモリ112内に格納される。
【0028】
記録インターフェース300の脳応答グラフ304は、脳応答指数302に基づいて生成され、その結果、グラフ304の一部分は、応答指数302の値の所定の範囲に対応する色で表示するように生成され、所定の各範囲は、異なる色によって表される。たとえば、指数302が0以上20以下である場合、グラフ304下の対応するエリアが第1の色で(たとえば青で)表示される。指数302が21以上40以下である場合、グラフ304下の対応するエリアが第2の色で(たとえば、図3における項目318として示されている濃緑色で)表示される。指数302が41以上60以下である場合、グラフ304下の対応するエリアが第3の色で(たとえば薄緑色で)表示される。指数302が61以上80以下である場合、グラフ304下の対応するエリアが第4の色で(たとえば、図3における項目316として示されているオレンジ色で)表示される。指数302が81以上100以下である場合、グラフ304下の対応するエリアが第5の色で(たとえば赤で)表示される。記録インターフェース300は、積データに基づいて生成された同様のグラフを含むことができ、たとえば、グラフの一部分が、積値の所定の範囲に対応する色で表示するように生成され、所定の各範囲は、異なる色によって表される。
【0029】
図4は、レビュー状態にある、すなわち、システム100がEEG信号を処理するのを停止するようにユーザが制御ボタン310を操作したときのEEG記録インターフェース300である。図4に示されているように、状況フィールド320は、処理が停止されたことを示すメッセージを表示する。また、インターフェース300は、最近のEEG記録に関連するデータをメモリ112から削除するための削除ボタン332と、最近のEEG記録に関連するデータをエクスポートするための記憶ロケーション(たとえば、ファイルパス及び名前)及び/又はパラメータをユーザが指定するための(たとえば、ドロップダウンメニューとしての)記憶ロケーションフィールド330とを含む。
【0030】
図5は、ユーザがセンサチェックタブ312を選択したとき表示モジュール114によって生成されたセンサ診断インターフェース500である。診断インターフェース500は、ユーザが、電極102の動作状態を確認するために診断プロセスを制御することを可能にする。システム100は、診断プロセスの制御下で、それぞれの電極間のインピーダンスを測定し、参照値に比較する。診断インターフェース500は、それぞれの電極に対応するフラグ502、504、506を含み、特定の電極用のフラグは、その電極が、正確な性能に必要な範囲外のインピーダンスを有する場合(たとえば、5〜10kΩより大きい場合)、着色される。
【0031】
図6は、ユーザがセットアップタブ314を選択したとき表示モジュール114によって生成されたセットアップインターフェースである。セットアップインターフェースは、EEG処理システム100の動作パラメータを構成するためのユーザインターフェースにアクセスするために、表示セットアップタブ602、日付/時刻セットアップタブ604、システム構成タブ606、出力セットアップタブ608、プリンタセットアップタブ610を含む。表示モジュール114は、ユーザが表示セットアップタブ602を選択したとき表示セットアップインターフェース600を生成する。インターフェース600は、閾値脳応答指数レベル/範囲のそれぞれ、及びそれらの対応する色と、各事象マーカボタン324、326、328に関連付けられた事象と、表示リフレッシュレートと、表示スムージングパラメータと、脳応答グラフ304及び/又はEEGグラフ306の掃引速度及び感度(すなわち、振幅)とをユーザが選択及び/又は構成するためのフィールドを含む。
【0032】
図7は、ユーザが日付/時刻セットアップタブ604を選択したとき表示モジュール114によって生成された日付/時刻セットアップインターフェース700である。インターフェース700は、ユーザがシステムクロックの日付/時刻表示フォーマットを選択及び/又は構成するためのフィールドを含む。
【0033】
図8は、ユーザがシステム構成タブ606を選択したとき表示モジュール114によって生成されたシステム構成インターフェース800である。インターフェース800は、シリアル番号、ハードウェアバージョン番号、ファームウェアバージョン番号、システム100のジャンパ設定を表示するための表示フィールドを含む。インターフェース800は、ローパスフィルタ用のパラメータ値と、EEG信号を検出するためのチャネルと、サンプリングレートと、(たとえば、ミリ秒単位の)ポーリング間隔と、EEGサンプルを、EEGグラフ304上で表示するために事前にスケーリングするためのパラメータとをユーザが選択及び/又は構成するためのフィールドを含む。
【0034】
図9は、ユーザが出力セットアップタブ608を選択したとき表示モジュール114によって生成された出力セットアップインターフェース900である。このインターフェースは、データエクスポートモジュール116によって生成された出力データのタイプ及び/又はフォーマットと、データエクスポートモジュール116の(たとえば、シリアルポートに関する)ポート速度とをユーザが選択及び/又は構成するためのフィールドを含む。データエクスポートモジュール116によって生成された出力データは、出力デバイス104a(たとえば、プリンタ、ディスクドライブ、USBポート、シリアル/パラレルポートなど)に転送される。データエクスポートモジュール116によって生成された出力データは、
i)患者状況レポート(たとえば、グラフ、チャート、患者の脳機能状況の概要説明、及び/又は経時的なこの状況の変化を含む)
ii)記録済みEEG信号を表す信号出力、及び/又は
iii)上述の特徴のいずれかを含むデータファイル
を表すことができる。
【0035】
表示モジュール114は、ユーザがプリンタセットアップタブ610を選択したときプリンタセットアップインターフェースを生成し、プリンタセットアップインターフェースは、出力デバイス104a(たとえば、プリンタ)のために、データエクスポートモジュール116によって生成された出力データのタイプ及び/又はフォーマットを選択及び構成するための、ユーザが調整可能なフィールドを含む。
【0036】
EEG処理システム100の構成モジュール120は、入力デバイス118からユーザ入力を受け取り、応答指数計算モジュール108及び表示プロセッサモジュール114の動作を制御するための構成データを生成する。構成データは、以下の1つ又は複数を実施するように、すなわち
i)EEGサンプルを処理するための処理オプションを選択し、
ii)隣り合うセグメント/ウィンドウ間の重なり合いの度合いを規定し、
iii)EEGサンプル、脳応答データ、指数データ、及び/又は積データをメモリ112内に格納するようにモジュール108を構成し、
iv)(インターフェース表示のレイアウト、画面サイズ、画面リフレッシュレート、表示されるグラフの掃引速度及び感度、脳応答指数閾値範囲及び対応する色、スムージング設定などを含めて)表示モジュールによって生成されるユーザインターフェースの表示特性を規定し、
v)日付及び時刻設定を規定し、
vi)(たとえば、各事象マーカボタンに関連付けられた事象の数及びタイプと、事象の各タイプに関連付けられた色とを含めて)事象マーカ設定を規定し、
vii)(たとえば、データエクスポートモジュール116によって生成しようとするデータ出力のタイプ、フォーマット、及び/又は伝送速度を含めて)日付エクスポート設定を規定し、及び/又は
viii)(センサチェックレート、及びモジュール106及び108によって実施されるフィルタリングのためのバンドパスフィルタ範囲(Hz)など)システム100の他の動作パラメータを規定、選択、又は構成する
ようにモジュール108及び/又はモジュール114を制御する制御信号、パラメータ、及び/又は命令を含む。
【0037】
完全性試験モジュール110は、電極102の動作状況を決定するために、電極102からの検出EEG信号を、予想されるパラメータ(たとえば、2マイクロボルトから100マイクロボルトの範囲内の生EEGのRMS振幅、及び0Hzと30Hzの間のEEGパワーの90%)と突き合わせて比較することによって、その信号を連続的に評価する。
【0038】
被験者から検出されたEEG信号は、EEG信号がフィルタ後の不規則過程(filtered random process)の結果であるという理論的仮定に基づいて解析することができる。国際公開第2004/064633号パンフレットに記載されているように、被験者から検出されたEEG信号は、数学的には、式1として述べることができる。すなわち、
【数1】


上式で、Hは、周波数領域内のEEG信号を表し、Pは、被験者の皮質の機能状態を評価するために使用することができる、脳の他の部分からのその皮質内への入力を表す。N及びDは、ωにおける多項式を規定し、それらのルートにより、EEG信号の卓越周波数が決定される。P(ω)は、ガウス白色ノイズを表すものと仮定され、したがって、周波数ωから独立である(すなわち、P(ω)=Pは、皮質下入力に比例するものと理論的に決定される定数である)。式1では、qは、分子N及び分母D双方に対する、ωにおける多項式の係数を理論的に決定する生理学的パラメータのリストを表す。
【0039】
それぞれのセグメント/サンプル点ごとのEEG信号は、それぞれのARMA時系列表現として、またより有利には、8の自己回帰次数、及び5の移動平均次数を有するそれぞれの固定次数ARMA時系列表現として表すことができる。式2は、あるEEG信号の一部分の表現を生成するための(8,5)次数ARMA表現を表す差分方程式である。すなわち、
【数2】


上式で、y[n]は、サンプリング済みEEG信号値の順序系列(ordinal sequence)を表し(すなわち、y[n]は、n番目の逐次サンプル)、y[n−k]は、y[n]のk番目前のサンプリング済み値を表し、u[n−k]は、ガウス白色ノイズ過程を表し、a及びbは、係数データに含まれ、それぞれ、あるセグメントに対応するEEG信号の一部分についてのAR(自己回帰)係数及びMA(移動平均)係数を表す。AR係数及びMA係数の推定値は、たとえばDelft University of TechnologyのP.M.T.BroersenによるARMASA Matlab Toolboxアプリケーションを使用して、又は任意の他のARMAモデル化ソフトウェアパッケージを使用して、いくつかのやり方で生成することができる。
【0040】
式2に示されているEEG信号の時不変ARMA表現は、式3に示されているEEG信号の時変ARMA時系列表現として書き直すことができる。すなわち、
【数3】

【0041】
それぞれ
【数4】


及び
【数5】


によって表される式3についてのAR係数及びMA係数は、(時点nについての)時間の関数として表される。式4及び式5、すなわち、
【数6】


を示すことにより、式3は、式6として状態空間形態で書き直すことができる。すなわち、
【数7】


上式で、
【数8】


は、回帰ベクトルを表し、θは、式4におけるものに対応するモデルパラメータ(又は状態)を表し、uは、式3におけるu[n−k]に対応するガウス白色ノイズ過程を表す。事前の(a priori)情報が何も使用可能でないときモデルパラメータθがランダムウォークとして発展すると仮定することにより、θは、式7に示されている以下の一般的なスキームに従って、θ及びyの以前の値から再帰的に推定することができる。すなわち、
【数9】


上式で、K及びεは、それぞれ、再帰的に決定されたフィルタ利得、及びEEG信号の前のサンプル点で推定されたARMAモデルの予測誤差を表す。時変性のAR係数及びMA係数θの推定値を再帰的に生成するために、様々な方法が使用可能である。たとえば、(たとえばTarvainenらの「Estimation of non−stationary EEG with Kalman smoother approach:an application to event related synchronization(ERS)」IEEE Trans Biomed Eng、2004年、51、516〜524頁に記載されている)カルマン適応フィルタリング法に基づいて、又は任意の他の回帰的処理法(たとえば、Ljung L.「System Identification−Theory for the User」Prentice Hall、Upper Saddle River、NJ.第2版1999年に記載されている回帰的処理法)に基づいて、又は(
【数10】


で表される)θにおけるモデルパラメータについての(たとえば、2乗平均の意味で)最適な推定値を生成するために、ソフトウェア(たとえば、MATLAB(登録商標)System Identification Toolboxバージョン6.0に関連付けられた関数)を使用して、係数データを生成することが可能である。
【0042】
式2及び式3は、式8に示されているように、z領域表現で書き直すことができる。すなわち、
【数11】


上式で、Y(z)は、z領域における、EEG信号の一部分のARMA表現を表し、U(z)は、z領域におけるガウス白色ノイズ過程を表し、係数a及びbは、それぞれ、対応するセグメント/サンプル点についてのAR係数及びMA係数に対応する。一般に、ARMA係数の推定は、b及びaを1単位(unity)として規定することを含む。
【0043】
式8によって述べられているシステムに関連する極は、式8における分母のルートに対応する。各セグメント/サンプル点ごとの極データは、対応するセグメント/サンプル点についての係数データを使用して、式9に基づいて生成される(ただし、極はpによって表される)。式9に対する8つの可能な解(又は極)があり、それらのすべてが必ずしも異なるわけではない。
【数12】

【0044】
式8によって述べられているシステムに関連するゼロは、式8における分子のルートに対応する。各セグメント/サンプル点ごとのゼロデータは、対応するセグメント/サンプル点についての係数データを使用して、式10に基づいて生成される(ただし、ゼロはzによって表される)。式10に対する5つの可能な解(又はゼロ)があり、それらのすべてが必ずしも異なるわけではない。
【数13】

【0045】
式9及び式10に基づいて生成されたデータによって表される極及びゼロは、複素数である。それぞれのセグメント/サンプル点ごとの極及びゼロは、z平面上でプロットすることができ、その場合、1つ又は複数の極及び/又はゼロの位置の変化が、被験者の脳に対する皮質下入力のレベルの変化を表し、極の平均位置の変化が、被験者の脳の機能状態の変化を表す。しかし、1つ又は複数の極及び/又はゼロの移動に基づいて脳の機能状態を定量化するのは、技術的に非常に困難である。
【0046】
国際公開第2004/064633号パンフレットに記載されているように、様々な薬理学的介入により、複素平面(又はz平面)内でプロットされたとき式8の極の部分集合が運動することが予想される。式8に基づいて生成されたデータによって表される極すべての平均運動を表す値を生成することによって、極の部分集合の運動を定量化することが可能である。具体的には、極運動の平均実部が脳に対する薬理学的操作/介入に特に敏感であることが判明している。
【数14】


式11では、zi,pは、i番目の極を表し、したがって、
【数15】


は、複素平面上の平均極位置を表す。極zi,pは、複素数である場合、複素共役対内に存在するので、
【数16】


は、常に実数である。平均極データは、式12に基づいて生成される。すなわち、
【数17】

【0047】
多項式の諸特性の結果として、平均極位置は、(aとして表される)式2に基づいて生成される第1のAR係数から、a係数を8で除すことによって決定することができる。しかし、平均極位置は、適切な指数(すなわち、たとえば0から100に及ぶ数値)を形成するようにスケーリングされることになるので、平均極位置を得るためにこの除算を行う必要はない。しかし、その代わりに、
【数18】


の値それ自体に基づいて平均極位置の変化の効果を決定することが可能である。
【数19】


は、常に−1以上、且つ1以下になるので、0から100の区間にわたって延在するように適切にスケーリングすることができる。たとえば、
【数20】


は、皮質活動又は機能を表す指数をもたらすように、式13に基づいて線形でスケーリングすることができる。すなわち、
【数21】


上式で、c及びmは、指数が確実に何らかの所定の範囲内にあるように選択された定数である。また、
【数22】


は、式14に基づいて、皮質活動又は機能を表す指数をもたらすように非線形でスケーリングされてもよい。すなわち、
【数23】


上式で、a、b、dは、指数が確実に何らかの所定の範囲内にあるように選択された定数である。それぞれのセグメント/サンプル点ごとの指数データは、指数が、対応するセグメント/サンプル点についての平均極データを使用して、式13又は式14に基づいて生成されることを表す。
【0048】
それぞれのセグメント/サンプル点ごとの平均極データによって表される、スケーリングされていない平均実数極値がグラフ(たとえば、図3におけるグラフ304)としてプロットされ、時間の関数として、又は対応するセグメント/サンプル点数に比べて、スケーリングされていない平均実数極値の変化を示す。スケーリングされていない平均実数極は、治療介入又は疾患に応じて、増大又は減少することが予想される。或いは、平均実数極、並びに他のAR係数及びMA係数は、脳の機能状態を表す単一のスカラ量を生成するように、適切に規定され構築された判別関数によって処理され得る。そのような判別関数は、任意の数の、市販の統計パッケージ、たとえばSystat(Systat Software Inc、米国リッチモンド)を使用して、1段ずつの判別分析を介して決定することができる。
【0049】
式1に示されている理論的に導出された伝達関数は、式15として因数分解標準形で書き直すことができる。
【数24】


上式で、P(ω)は、脳に対する皮質入力のレベルを表す。実際の皮質における皮質入力の、予想される時間複雑性のため、そのような入力は、ガウス不規則(白色ノイズ)過程から区別不能であり、その過程を表すものと仮定される。すなわち、P(ω)=P0である。式15では、(p’によって表される)8個の極、及び(z’によって表される)5個のゼロのそれぞれについての値は、(qによって表される)いくつかの生理学的パラメータに基づいて決定される。式15に関するz’の値は、式10に基づいて生成されたゼロデータを使用して、式16に基づいて生成される。式15に関するp’の値は、式9に基づいて生成された極データを使用して、式17に基づいて生成される。
【0050】
z’=fln|z|+fArg(z)/2π 式16
p’=fln|p|+fArg(p)/2π 式17
上式で、fは、EEGサンプリング(デジタル化)周波数である。式15で、g(q)は、qによって表されるパラメータの1つ又は複数に明示的に基づく利得率(gain factor)を表す。理論的には、ある被験者に関するg(q)の値は、皮質の機能状態に影響を及ぼす介入(たとえば、麻酔薬)を被験者に施す前にも、施している間にも概して変化しないままであることが予想される。したがって、g(q)の値は、定数であるものと仮定される。積g(q)P(ω)を使用し、被験者の脳に対する皮質入力のレベルを推定することができ、g(q)が定数であるものと仮定されるので、g(q)P(ω)の値のどんな変化も、P(ω)の変化によって引き起こされることが予想される。
【0051】
EEG処理システム100は、P(ω)がガウス白色ノイズを表すという仮定に基づいて、式15から積g(q)P(ω)を表す式18に基づいて積データを生成する。すなわち、
【数25】


上式で、
【数26】


は、あるEEG信号の一部分(たとえば、EEG信号の選択されたセグメント)の平均信号振幅を表し、<Y(t)>は、EEG信号の対応する部分についてのARMA利得値を表す。
【数27】


の値は、選択されたセグメント/サンプル点について、EEG信号の振幅の2乗平均平方根(RMS)として決定することができる。ARMA利得値<Y(t)>は、選択されたセグメント/サンプル点について、EEG信号の信号表現の振幅のRMSとして決定することができる。
【0052】
選択されたセグメントについてのAR係数及びMA係数は、時不変ARMA表現に基づいて(すなわち、式2に基づいて)生成され、その結果、そのセグメントについてのEEG信号の信号表現は、式2に基づいて生成される。この信号表現は、式2に基づいて生成された一連の値(すなわち、式2におけるy[n])を表し、式2の出力は、正規化された白色ノイズ入力によって駆動されたとき、選択されたセグメントについてのAR係数及びMA係数に基づいて生成される(すなわち、u[n−k]は、ゼロ平均単位分散ガウス不規則過程によって決定される不規則値を表す)。
【0053】
選択されたサンプル点についてのAR係数及びMA係数は、時変ARMA表現に基づいて(すなわち、式3に基づいて)生成され、そのサンプル点についてのEEG信号の信号表現は、式3に基づいて生成される。この信号表現は、一連の値(すなわち、式3におけるy[n])を表し、式3の出力は、正規化された白色ノイズ入力によって駆動されたとき、選択されたサンプル点についてのAR係数及びMA係数に基づいて生成される(すなわち、u[n−k]は、ゼロ平均単位分散ガウス不規則過程によって決定される不規則値を表す)。
【0054】
ARMA利得は、たとえばDelft University of TechnologyのP.M.T.BroersenによるARMASA Matlab Toolboxアプリケーションのarma2cor機能を使用して、又は任意の他のARMAモデル化ソフトウェアパッケージを使用して、いくつかのやり方で生成することができる。
【0055】
式2及び式3は、EEG信号の一部分の固定次数(8,5)ARMA表現を表す。8の自己回帰次数、及び5の移動平均次数を有するARMA表現が最良の結果をもたらすと予想されるが、他のAR次数及びMA次数を選択することもできる。
【0056】
理論的には、利得率gは、式19に従って、パラメータqに基づく。すなわち、
【数28】


したがって、皮質入力P(ω)は、式20を使用して推定することができる。
【数29】


ただし、式19及び式20において、
【数30】


は、皮質内興奮の有効性を表し(また安静時の興奮活動に関する膜内外駆動力に比例する)、γは、興奮に関する、対応する速度定数を表し、τは、有効受動的膜時定数(effective passive membrane time constant)を表す。平均場モデル化では、介入中の
【数31】


及びτについてのそれぞれの値は、それらの乱されていない値から著しく擾乱されることは予想されない。式2又は式3に基づいて生成された係数a及びbから得られる極及びゼロと共に式20を使用して決定される皮質入力P(ω)は、被験者から検出されるEEG信号のダイナミックスの、より包括的な線形特徴付けを表す。
【0057】
したがって、特定の薬剤が、それについて広範な情報がある単神経生理学的特性にどのように影響を及ぼすかについての知識で武装して、本明細書に開示されている技法を使用し、前記薬剤によって影響を受ける、脳に対する入力の変動を決定することができる。これは、脳機能に影響を及ぼすことが知られている様々な薬剤が、中枢神経系全体にわたって分布する部位及び作用の標的を有すると考えられるとき、特に関連がある。
【0058】
たとえば、亜酸化窒素は、睡眠薬でも鎮痛薬でもあり、皮質及び皮質下で部位に影響を及ぼすことが知られている(たとえば、Hopkins PM、Nitrous oxide:a unique drug of continuing importance for anaesthesia、Best Pract Res Clin Anaesthesiol.、2005年9月、19(3)、381〜9頁及びRudolph U & Antkowiak B.、Molecular and neuronal substrates for general anaesthetics.、Nat Rev Neurosci.、2004年9月、5(9)、709−20頁で論じられている)。睡眠及び痛覚脱失のレベルを共に非侵襲的に定量化することができることは、非常に臨床的に有用である。というのは、別々の測定には、後続の、また継続中の臨床管理及び臨床結果の点で重要な含意があるからである。たとえば、適切な痛覚脱失を検出することは、外科的処置中に生理学的(自立)安定を達成するために重要であり、術後臨床結果を改善する助けとなる。皮質下入力の大きさを定量化することは、末梢で導出された感覚情報が皮質に達する度合いを監視することによって痛覚脱失のレベルを評価する1つの方法をもたらすことができる。
【0059】
図2は、EEG処理システム100によって実施されるEEG解析プロセス200の流れ図である。プロセス200は、ステップ202で、信号処理モジュール106が電極102を介して被験者からのEEG信号を受け取って始まる。ステップ204では、モジュール106は、EEG信号を増幅する。ステップ206では、モジュール106は、バンドパスフィルタを使用してEEG信号を濾波し、低周波のムーブメントアーティファクト、EMG成分、及び(概して0Hzから50〜60Hzの間で生じる)主アーティファクト、並びに外部ノイズの他の発生源を除去する。ステップ208では、モジュール106は、EEG信号をデジタルEEGサンプルに変換する。
【0060】
ステップ210では、ユーザの選択に基づいて、EEGサンプルをどのように処理するか判断される。ユーザが、サンプルを実質的にリアルタイムで解析するための処理オプションを選択した場合、ステップ210はステップ212に進む。そうでない場合には、デフォルトの処理オプションが選択され、ステップ210はステップ216に進む。
【0061】
応答指数計算モジュール108によって生成される各新しいサンプル点に関連して、モジュール108がステップ212及びステップ214を実施する。ステップ212では、モジュール108は、AR係数及びMA係数の後続の推定を損なうことが知られている周期的な0Hzから50〜60Hzの妨害をサンプルからさらに除去することを含めて、追加のアーティファクト除去をEEGサンプルに対して実施する。
【0062】
ステップ214では、モジュール108は、各ウィンドウごとのEEG信号の時変ARMA表現のためのAR係数及びMA係数を表す、各サンプル点ごとの係数データを生成する。たとえば、ステップ214では、モジュール108は、カルマン適応フィルタリング法を使用して、EEGサンプルから直接、AR係数及びMA係数を生成する。ステップ214では、係数データは、上述のようにAR係数及びMA係数の最適値を表す。次いで、ステップ214は、互いに平行して実施されるステップ222及びステップ224に進む。
【0063】
ステップ216では、モジュール108は、それぞれが同じ持続時間の間のデジタルEEG信号の一部分を表す複数のセグメントを生成する。たとえば、各セグメントは、EEG信号の2秒サンプルを表すことができ、隣り合うセグメントの一部分と重なり合うことができる。ステップ218では、モジュール108は、各セグメントを濾波し、AR係数及びMA係数の後続の推定を損なうことが知られている周期的な0Hzから50〜60Hzの妨害を除去することを含めて、追加のアーティファクトを信号から除去する。ステップ220では、モジュール108は、セグメントごとのEEG信号のそれぞれの時不変ARMA表現に基づいて(たとえば、(8,5)次数ARMA表現に基づいて)係数データを生成する。係数データは、MATLAB(登録商標)System Identification Toolboxバージョン6.0に関連付けられた関数など、ソフトウェアを使用して生成され得る。次いで、ステップ220は、ステップ222及びステップ224に進む。
【0064】
ステップ222では、モジュール108は、各セグメント/サンプル点ごとに、対応するセグメント/サンプル点についての係数データを生成するためにステップ214又はステップ220で使用された対応するARMA表現に基づいて、ARMA利得値(すなわち、式18における<Y(t)>)を表すARMA利得データを生成する。これは、推定されたAR係数及びMA係数を対応するARMA表現(すなわち、式2又は式10)に適用すること、及び(u[n−k]によって表される)正規化された白色ノイズ入力を用いて対応するARMA表現を導出することによって、(y[n]によって表される)信号表現を生成することを含む。
【0065】
ステップ222では、モジュール108はまた、各セグメント/サンプル点ごとに、(ステップ216、218、220で)時不変ARMA表現が使用される場合、対応するセグメントについてのEEGサンプルに基づいて、或いは(ステップ212及びステップ214で)時変ARMA表現が使用される場合、ある範囲のEEGサンプル値について、信号利得値(すなわち、式18における
【数32】


)を表す信号利得データを生成する。各サンプル点ごとの
【数33】


の値は、対応するサンプル点についての係数データが生成された時刻を中心に置かれた検出EEG信号の適切な部分に基づいて生成され、又は、現在のサンプル点を含む、及び現在のサンプル点前のサンプリング済みEEG信号の、適切に構築された平均に基づいて生成される。代替的には、
【数34】


の値は、ステップ216でモジュール108によって生成されたそれぞれのセグメントに基づいて生成される。
【0066】
次いでステップ233では、モジュール108は、各セグメント/サンプル点ごとに、対応するARMA利得データ及び信号利得データに基づいて、式18による積g(q)P(ω)の値を表す積データを生成する。g(q)P(ω)の値の変化は、(P(ω)によって表される)皮質下入力の大きさの変化を表す。
【0067】
ステップ224では、式9及び式10に基づいて極データ及びゼロデータを生成し、次いでモジュール108は、それぞれのセグメント/サンプル点ごとのスケーリングされていない平均極位置を表す平均極データを式12に基づいて生成する。次いで、モジュール108は、対応するセグメント/サンプル点についての平均極位置のスケーリングされた数値表現を表す指数データを式13又は式14に基づいて生成する。
【0068】
ステップ223及びステップ224はステップ226に進み、ステップ226では、表示モジュール114が、被験者の脳の機能状態、及び/又は被験者の脳内の皮質下活動のレベルを表すように、脳状態データに基づいて(たとえば、極データ、ゼロデータ、平均極データ、指数データ、及び/又は積データを使用して)、ユーザインターフェースを表すと共に好ましくはEEGサンプルの表現を含む表示データを生成する。また、ステップ226では、EEGサンプル、脳状態データ、生平均極データ、及び/又はスケーリングされた平均極データを表すデータを含む出力データを生成するようにデータエクスポートモジュールが制御される。プロセス200は、ステップ226の後で終了する。
【0069】
スケーリングされた平均極データ(又はスケーリングされていない平均極データ)によって表された値の変化は、被験者の脳の機能状態の変化(すなわち、脳が皮質入力に対してどのように応答するか)を表す。皮質入力データによって表された値の変化は、積g(q)P(ω)の値の変化を、したがって脳皮質入力のレベルを表す。ARMA利得、したがって皮質下入力の測定によってもたらされる利点は、対象の脳機能の決定の生理学的特定性(したがって臨床有用性)を高めることである。
【0070】
添付の図面を参照して本明細書で述べられている本発明の範囲から逸脱することなしに、多数の修正が当業者には明らかになるであろう。
【0071】
本明細書におけるどんな従来技術に対する参照も、その従来技術がオーストラリアにおける共通の一般的な知識の一部を形成するという認知又は何らかの形態の暗示ではなく、またそのように解釈すべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳の活動を表す脳電図の信号を解析するための方法であって、
i)前記信号の一部分の信号表現のための係数データを生成するステップと、
ii)前記信号表現及び前記係数データに基づいて生成された出力信号の平均振幅を表す第1の利得データを生成するステップと、
iii)前記一部分の平均振幅を表す第2の利得データを生成するステップと、
iv)前記第1の利得データ及び前記第2の利得データに基づいて、前記脳の皮質下活動を表す脳状態データを生成するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記信号表現が、前記信号の、選択された前記一部分の時不変自己回帰移動平均表現であり、前記信号表現が、8の自己回帰次数及び5の移動平均次数を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の利得データが、前記出力信号の振幅の2乗平均平方根を表す、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記出力信号が、前記信号表現が白色ノイズ入力信号によって駆動されたとき、前記一部分についての前記係数データを使用して前記信号表現に基づいて生成される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の利得データが、前記一部分の振幅の2乗平均平方根を表す、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記脳状態データに基づいて、1つ又は複数の表示インターフェースを表す表示データを生成するステップを含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記表示データが、グラフを表すデータを含み、前記グラフが、時間に対する前記脳の皮質下活動レベルの変化を表す、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記脳状態データが、前記第2の利得データに基づく前記平均を前記第1の利得データに基づく前記平均で除すことによって生成される商に基づいて、前記皮質下活動レベルを表す、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記表示データが、前記皮質下活動レベルの値の様々な所定の範囲に対応する色に基づいて前記皮質下活動レベルを表し、各前記範囲が、異なる色によって表される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記信号表現が、前記一部分の時変自己回帰移動平均表現であり、前記信号表現が、8の自己回帰次数及び5の移動平均次数を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記信号表現が、特定の時点での前記信号を表し、前記係数データが、前記一部分内で1つ又は複数の他の時点での前記信号に基づいて、また前記他の時点のうちの1時点での前記信号の信号表現のための係数データに基づいて、再帰的に生成される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記係数データが、カルマン適応フィルタリングを含む、前記信号の自己回帰移動平均表現に基づいて生成される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記出力信号が、前記信号表現が白色ノイズ入力信号によって駆動されたとき、前記時点についての前記係数データを使用して前記信号表現に基づいて生成される、請求項11又は請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法を実施するためのシステム。
【請求項15】
脳の活動を表す脳電図の信号を解析するためのシステムであって、
i)前記信号の一部分の信号表現のための係数データを生成し、
ii)前記信号表現及び前記係数データに基づいて生成された出力信号の平均振幅を表す第1の利得データを生成し、
iii)前記一部分の平均振幅を表す第2の利得データを生成し、
iv)前記第1の利得データ及び前記第2の利得データに基づいて、前記脳の皮質下活動を表す脳状態データを生成する
ように適合されたプロセッサモジュールを含むシステム。
【請求項16】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法におけるステップのいずれかを実施するための、コンピュータ可読媒体上で記憶されたコンピュータ実行可能コード。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−539435(P2009−539435A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−513517(P2009−513517)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【国際出願番号】PCT/AU2007/000801
【国際公開番号】WO2007/140536
【国際公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.UNIX
【出願人】(505273349)コーティカル ダイナミックス ピーティーワイ リミテッド (3)
【Fターム(参考)】