説明

腎保護剤としての中鎖長脂肪酸およびグリセリド

慢性腎疾患における腎不全進行に対する保護のための、腎保護剤としてのカプリン酸、カプリル酸もしくはラウリン酸およびそれらの塩等の中鎖長脂肪酸、またはモノグリセリドもしくはジグリセリドもしくはトリグリセリドの使用。これは、腎摘出、腎線維症、糸球体硬化症および末期腎疾患に関連する腎疾患の治療を含む。また、化学療法または自己免疫疾患もしくは移植に使用される細胞毒性薬に対する腎臓の保護を含む。さらに、高血圧、梗塞、腫瘍、糖尿病、自己免疫、または炎症に関連する腎不全進行の治療を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2007年11月2日に出願された仮出願第60/985,094号の優先権の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、慢性腎疾患における腎不全進行に対する保護に関する。これは、腎摘出、腎線維症、糸球体硬化症、および末期腎疾患に関連する腎疾患の治療を含む。これは、また、化学療法、または自己免疫疾患、または移植に使用される細胞毒性薬に対する腎臓の保護も含む。これは、高血圧、梗塞、腫瘍、糖尿病、自己免疫、または炎症に関連する腎不全進行の治療をさらに含む。本発明は、また、腎臓に対する薬物毒性(例えば、抗生物質、鎮痛剤)の低減にも関する。具体的には、本発明は、腎保護剤としての、カプリン酸、カプリル酸、もしくはその塩等の中鎖長脂肪酸、またはトリグリセリド、モノもしくはジグリセリド、または他の類似体の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
腎臓は、例えば、代謝の老廃物の排泄、体内水分および塩の調節、適切な酸平衡の維持、ならびに様々なホルモンおよびオータコイドの分泌等の数多くの重要な機能を実施するために進化した構造的に複雑な臓器である。腎臓の疾患は、その構造と同様に複雑であるが、それらの研究は、4つ基本的な形態学的構成要素、すなわち、糸球体、尿細管、間質、および血管に影響するものにこれらを分けることにより容易になる。この従来のアプローチは、これらの構成要素のそれぞれに影響する疾患の早期発現が特有である傾向があるため、有用である。さらに、いくつかの構成要素は、特定形態の腎損傷に対して脆弱であるように見える。例えば、糸球体疾患は、しばしば、免疫学的に媒介されるが、尿細管および間質障害は、毒性また感染病原体により生じる可能性が高い。それにもかかわらず、いくつかの障害は、複数の構造に影響する。さらに、腎臓における構造の解剖的相互依存は、1つへの損傷が常に二次的に他に影響することを意味する。したがって、重症の糸球体損傷は、管周囲の脈管系を通る流れの障害となり、逆に、糸球体内圧の増加による尿細管病変は、糸球体萎縮を誘発する場合がある。したがって、原因が何であれ、全ての形態の慢性腎疾患に、腎臓の4つの構成要素全てを最終的に破壊する、傾向があり、結果的に慢性腎不全になり、これは、末期萎縮腎と呼ばれている(Cotran et al., Basic Pathology,Sixth Edition,1997)。
【0004】
化学療法および免疫抑制療法は、癌患者を治療するために、または移植患者における移植片拒絶を抑制するために、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ブレオマイシン、エトポシド、トポテカン、イリノテカン、タキソテール、タキソール、5−フルオロウラシル、メトトレキサート、ゲムシタビン、シスプラチン、カルボプラチンまたはクロラムブシルおよびシクロスポリンA、タクロリムス、ラパマイシン、または副腎皮質ステロイド等(これらに限定されない)の細胞毒性薬または免疫抑制剤の使用を指す。それらの有効性にも関わらず、これらの薬剤は、非特異的であり、特に、高用量で、これらは正常で急速な分裂細胞への毒性がある。さらに、これらの使用は、急性骨髄抑制、腎毒性、心毒性、神経毒性、胃腸管、膀胱、および肺毒性が長期間にわたり患者の転帰を悪化させる場合がある特有の有害作用により制限される場合がある。
【0005】
糖尿病等の自己免疫疾患において、腎臓は、組織の損傷または病変を患う主要な標的である。(1)糸球体病変、(2)腎血管病変、特に、細動脈硬化、および(3)壊死性乳頭炎を含む腎盂腎炎の、3つの重要な病変を受ける。腎摘出または腎臓除去も、腎機能障害につながる可能性がある。腎摘出は、腎臓癌(すなわち、腎細胞癌)、嚢のような構造が健康な細胞を置換する多発性嚢胞腎、および腎臓の重篤な感染を伴う患者において実施される。また、腎臓移植の目的のため、ドナーから健康な腎臓を除去するために使用される。腎臓は、血流からの老廃物および体液の濾過に関与するため、腎機能は、生命にとってきわめて重要である。重篤な腎疾患、癌、または感染を患う腎摘出候補者には、通常、ほとんど治療選択がなく、手技を受けなければならない。しかし、残りの腎臓で機能が失われた場合、患者は、生命を維持するために、慢性的な透析治療または健康な腎臓の移植を必要とする。したがって、腎臓の健康を延長するか、または腎臓がもはや機能できない範囲で悪化から腎臓を保護できる腎疾患を有する患者へ投与され得る、良好な安全性プロファイルを有する薬剤の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、このような治療を必要とするヒト患者を含む哺乳類における腎保護のための新規方法を提供することにより腎保護剤の必要性を満たす。本発明は、また、化学療法、免疫抑制、および副腎皮質ステロイド治療、ならびに腎保護が治療効果のある任意の他の状態の腎毒性作用を治療するための新規方法も提供する。
【0007】
本方法に従い、医薬的に許容し得る担体において、カプリン酸、カプリル酸、ラウリン酸、または金属塩(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム)もしくはそのトリグリセリド、またはそのモノもしくはジグリセリド等の、有効量の1種以上の化合物を含む組成物は、腎臓または唯一の健康な腎臓の保護を著しく増加するために、哺乳類、特にヒトへ投与される。
【0008】
したがって、腎毒性を誘発する薬剤を伴う、および/または伴わない単一の薬剤として、または2種以上の薬剤の組み合わせとして、化学的予防、または免疫抑制、または抗炎症、または抗生物質、または沈痛医薬的組成物製造のための、カプリン酸、カプリル酸、ラウリン酸、または金属塩(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム)またはそのトリグリセリド、またはそのモノもしくはジグリセリド等の有効量の1種以上の化合物を使用する組成物を提供することが、本発明の目的である。
【0009】
本発明の別の目的は、心毒性、神経毒性、胃腸管、膀胱、および肺毒性等(これらに限定されない)の薬剤誘発毒性の予防または保護のための薬剤として、カプリン酸、カプリル酸、ラウリン酸、またはナトリウム塩、またはそのトリグリセリド、またはモノもしくはジグリセリドの使用に関する。
【0010】
ヒト患者を含む哺乳類の化学的保護を提供するのに有効な保護または予防方法を提供することが、本発明の目的である。
【0011】
本発明の別の目的は、ヒト患者を含む哺乳類の化学療法および放射線療法の有効性を増大させるのに有効な方法を提供することである。
【0012】
また本発明の別の目的は、腎毒性、心毒性、および神経毒性等(これらに限定されない)の副作用の増加を避ける一方で、より良好な治療有益性を達成するために必要な化学療法の組成物の追加の常用量を使用するための、または用量をさらに増加するための方法を提供することである。
【0013】
最後に、本発明の別の目的は、レシピエントへの有害作用を最小限に、または全く引き起こさない方法を提供することである。ヒト患者を含む哺乳類は、このような治療前に治療を必要としている時に選択されてもよい。
【0014】
本発明のこれら、および他の目的、特徴および利点は、以下の開示される実施形態の詳細な説明および添付の特許請求の範囲を確認した後に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】腎摘出(Nx)ラットにおける血清クレアチニン濃度へのカプリン酸ナトリウムの効果を示す。
【図2】カプリン酸ナトリウム処理された腎摘出(Nx)ラットにおける血清クレアチニン濃度へのカプリン酸ナトリウムの腎保護効果を示す。
【図3】カプリン酸ナトリウム処理された腎摘出(Nx)ラットにおけるGFR(クレアチニンクリアランス)でのカプリン酸ナトリウムの腎保護効果を示す。
【図4】カプリン酸ナトリウム処理された腎摘出(Nx)ラットにおける尿素クレアチニン濃度へのカプリン酸ナトリウムの腎保護効果を示す。Day21と比較したDay42の尿素クレアチニン濃度のP値:カプリン酸ナトリウムp=0.0002。
【図5】カプリン酸ナトリウム処理された腎摘出(Nx)ラットにおける血清クレアチニン濃度へのカプリン酸ナトリウムの腎保護効果を示す。
【図6】対照およびカプリン酸ナトリウム処理された腎摘出ラットの組織学的顕微鏡写真(40X)を示す。
【図7】対照およびカプリン酸ナトリウム処理された腎摘出ラットの組織学的顕微鏡写真(400X)を示す。
【図8】カプリン酸ナトリウム処理された腎摘出(Nx)ラットにおける血圧に対するカプリン酸ナトリウムの心保護効果を示す。
【図9】マウスにおいて、ドキソルビシン(DOX)により誘発された血清クレアチニン濃度増加へのカプリン酸ナトリウムの腎保護効果を示す。
【図10】マウスにおいて、ドキソルビシン(DOX)により誘発された濃度へのカプリン酸ナトリウムの腎保護効果を示す。
【図11】マウスにおいて、ドキソルビシン(DOX)により誘発された組織学的腎臓(尿細管)病変へのカプリン酸ナトリウムの腎保護効果を示す。
【図12】ドキソルビシン誘発腎毒性モデルにおける対照およびカプリン酸ナトリウム処理されたマウスの組織学的顕微鏡写真(400X)を示す。
【図13】マウスにおいて、ドキソルビシン(DOX)により誘発された組織学的腎臓(尿細管)病変へのカプリン酸ナトリウムの腎保護効果を示す。
【図14】ドキソルビシン誘発腎毒性モデルにおける対照およびトリカプリン処理されたマウスの組織学的顕微鏡写真(400X)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
腎摘出、腎線維症、糸球体硬化症および末期腎疾患の内の1つ以上に関連する腎疾患は、高血圧、梗塞、腫瘍、糖尿病、および自己免疫または炎症疾患に認められる。化学療法で使用される細胞毒性薬、移植もしくは自己免疫で使用される免疫抑制または抗炎症(例えば、ステロイドおよび非ステロイド)薬剤、抗生物質、または沈痛剤も、腎毒性を誘発する。その後、患者は、重症に罹患し得る。
【0017】
本発明は、腎臓系を保護するための方法に関し、心臓系および神経系に拡大し得る。慢性疾患を有する患者は、多くの臓器損傷を示し得、例えば、スタチン糖尿病を有する患者は、腎臓病変に対して腎保護処置、心臓病変には心保護処置、および神経系のいかなる病変にも神経保護を必要とする。使用される現行の方法または治療は、臓器保護療法、ならびに複数の臓器機能不全の同時補正を目的とする保護処置から成る。臓器保護処置は、腎保護、心保護、または神経保護等の単一臓器に集中される。いくつかの臓器保護処置は、他の臓器にも保護作用を示す。例えば、ACE阻害剤は、腎保護作用を有するが、同時に、これらは、心および脳保護作用も有する。これらの場合、臓器保護処置は、複数の臓器または多臓器保護の分野に入る。問題は、共通の治療保護処置を課す類似する病変を説明するための腎臓、脳、および心臓の共通の特徴を確立することである。例えば、高血圧は、同時に腎臓、心臓、および脳に影響する。ACE阻害剤およびテンジオテンシンII受容体遮断薬の使用は、複雑な腎、心、および神経保護作用を有する。粥状動脈硬化、ならびに炎症疾患に続発する病変は、血管内皮に影響する。スタチンの使用は、脂質(主に、コレステロール)プロファイルに影響し、したがって、冠血管、腎臓、および脳血流の後者に影響する。同様に、スロデキシドは、グリコサミノグリカンを補正することにより、血管内皮に保護効果を及ぼす。糖代謝の変化は、脂質代謝にも影響する。低タンパク質摂取も、腎臓の保護に影響する(J.Vet.Med.Sci.69:247−253,2007)。シクロオキシゲナーゼ−2の阻害も、一側性腎摘出された糖尿病ラットにおいて、適度な腎保護に関係し、これらの効果は、代謝調節および血圧に依存しない(Clin.Exp.Pharmacol.Physiol.34:36−41,2007)。エンドセリンA受容体のアンタゴニストも、腎臓における、成長因子およびコラーゲンの発現の低減およびメタロプロテイナーゼ−2活性の改善により、進行性腎機能障害(Hypertension31:995−1001,1998)に影響すると思われる(J.Cardiovasc.Pharmacol.39:892−900,2002)。静脈内負荷投与および経口維持措置としてのテオフィリンの予防投与は、シスプラチン療法を伴う患者において、糸球体濾過の観点から腎機能を保護する場合がある(J.Am.Soc.Nephrol.16:452−458,2005)。ゲニステイン等の大豆イソフラボンは、腎保護の可能性を有するかもしれないメサンギウム細胞において信号を発するTGF−βSoyのアンタゴニストである(Medical Hypothesis66:1093−1114,2006)。γアミノ酪酸(GABA)も、血圧および脂質プロファイルの調節を介して腎機能障害を減衰し、腎摘出により誘発される酸化ストレスも回復させる。(J.Pharm.Pharmacol.58:1515−1525,2006)。進行慢性腎疾患を伴う貧血に続発する低酸素症は、同時に、心臓および脳を冒す。鉄、葉酸、およびエリスロポエチンから成る腎保護処置を通した慢性腎疾患の貧血の補正は、エリスロポエチン生成の減少およびその機能の改善により、腎臓に影響をもたらす。しかし、これらは、腎および脳傷害を伴う心疾患を改善することにより、心臓に影響も与える。エリスロポエチンの使用を制限する、利用性、毒性および有効性等の制限もある。しかし、長期において疾患進行を停止するための最終的な必要性は、まだ保留中である。腎疾患の病原性の複雑さのため、最小限の副作用での多薬剤の介入は、疑いの余地もなく、腎疾患の進行を止める次のステップである。
【0018】
中鎖トリグリセリド(MCT)は、炭素鎖の長さが8(C8、オクタン酸またはカプリル酸)、または10(C10、デカン酸またはカプリン酸)を有する脂肪酸を用いてグリセロールをエステル化することにより生成され得る。MCTは、通常、C8およびC10のグリセロールエステルの混合物であるが、MCTは、少量(各2±1%)のC6(ヘキサン酸またはカプロン酸)およびC12(ドデカン酸またはラウリン酸)のグリセロールエステルも含み得る。一方、長鎖トリグリセリド(LCT)は、炭素鎖の長さが12を超える脂肪酸を用いてエステル化されたグリセロールから成る。LCTに存在する典型的な脂肪酸は、パルミチン酸(C16)およびステアリン酸(C18)を含む。MCTと異なり、LCTは、食物性脂肪の一次成分である。実際、MCTおよびLCTは、著しく異なる生物学的性質を有する。MCTとLCTとの間の生理的差異のいくつかは、Harrison’s Principles of Internal Medicine,8thEdition,1520−1521(1977)、15thEdition,1668−1669(2001)に記載されている。例えば、LCTと対照的にMCTは、腸上皮細胞により吸収され得るため、膵リパーゼによる加水分解を必要としない。
【0019】
MCTおよびそれらの構成成分中の鎖脂肪酸は、食品および医薬品産業で使用される非毒性材料である。例えば、Traulら(Food Chem.Toxicol.38:79−98,2000)は、MCTが、LCTに対して数多くの利点を提供するため、増加する数多くの食品および栄養用途に利用されていると記載している。MCTは、主に、様々なヒトおよび獣医医薬調製物、ならびに化粧品における乳化剤としても使用されている。彼らは、MCTの安全性を支持する数多くの毒性学研究を参照している。例えば、彼らは、最大1g/kgの濃度のMCTのヒトの食事からの摂取量の安全性が、臨床試験で確認されていることを記述している。C8およびC10脂肪酸は、類似した安全性および使用を備えている。例えば、The Merck Index,11th Edition,266(1989)では、カプリル酸は、基本的に非毒性であるLD50(経口、ラット)=10.08g/kgを有すると報告される。実際、米国連邦規制基準の第184部によると、米国食品医薬品局(FDA)は、カプリル酸をGRAS(一般的に安全と認識している)確認と認可している。同様に、第172部(CFR)によると、遊離脂肪酸(例えば、カプリン酸、カプリル酸)およびそれらの金属塩は、食品に使用するための安全な添加剤として認識されている。Dimitrijevicら(J.Pharm.Pharmacol.53:149−154,2001)によって言及されるように、カプリン酸(ナトリウム塩)は、直腸薬剤製品の吸収促進薬として、日本およびスエーデンでヒトへの使用が承認されている。米国特許第4,602,040(1986)号は、医薬賦形剤としてMCTの使用を記載している。最近、国際公開特許第WO01/97799号は、抗菌剤として、中鎖脂肪酸、特に、カプリル酸およびカプリン酸の使用を記載している。
【0020】
しかし、本明細書で以外な所見が開示されるまで、腎保護のためのカプリン酸、カプリル酸、もしくは金属塩、またはそれらのモノ、ジ、またはトリグリセリド(MCT)等の中鎖脂肪酸の効果は、知られていなかった。本明細書に記載するように、MCTは、腎保護に関連する活性を構成するC8(カプリル酸)、C10(カプリン酸)およびC12(ラウリン酸)脂肪酸のトリグリセリドを含む場合がある。実際、本発見は、腎保護における不飽和長鎖脂肪酸またはトリグリセリドの賛否両論の効果に関して、文献でほとんど報告されていなかったため、完全に予想外であった。さらに、慢性腎不全の進行の理由としての、必須脂肪酸およびトリグリセリドの影響は、まだ考察中である。慢性腎疾患の治療における脂肪酸または食事の効果は、賛否両論である。5/6腎摘出ラットにおけるトリグリセリドおよび必須脂肪酸の異なる濃度を含有する4種の食事の転帰は、異なる群での生存率、タンパク尿、尿素およびクレアチニン濃度、ならびに組織学的所見において、有意差を示さなかった(Nephron38:233−237, 1984)。食物性ポリ不飽和脂肪酸(PUFA)の組成物は、ラットにおける誘発された腎疾患の経過を変更する(Prostaglandins32:211−219,1986、J.Am.Soc.Nepthrol.1:1343−1353,1991、Metabolism41:382−389,1992、Kidney Intl.32:700−709,1987)。いくつかの実験試験(Prostaglandins32:21 1−219,1986、J.Am.Soc.Nepthrol.1:1343−1353,1991)において、(n=3)PUFAを用いた食物性補給は、腎保護であったが、他(Metabolism41:382−389,1992、Kidney Intl.32:700−709,1987)では、PUFA補給は、糸球体濾過率における糸球体硬化症および/または減衰の悪化を伴った。ヒトでの試験の結果は、同様に、利点がある(N.Engl.J.Med.331:1194−1 199,1994)、または効果がない(Kidney Intl.44:75−86,1993)と報告され、矛盾している。要約すると、従来の技術は、中鎖脂肪酸、またはトリグリセリド、または金属塩が腎保護活性を備えていることを教示しない。
【0021】
本発明は、腎保護剤としての、中鎖脂肪酸、または金属塩もしくはそれらのトリグリセリド、またはそれらのモノもしくはジグリセリドの使用に関する。医療の必要性に応じて、中鎖脂肪酸、または金属塩もしくはそれらのトリグリセリド、またはそれらのモノもしくはジグリセリドは、腎臓または他の臓器を保護するために、または腎機能障害を遅延するために、治療前、治療中および/または治療後に投与される。さらに、他の腎保護剤を用いた治療に関する複数の点で、それらの金属塩もしくはそれらのトリグリセリド、またはモノもしくはジグリセリドと中鎖脂肪酸の組み合わせを使用することが可能である。代替的に、化学療法、放射線治療、免疫抑制剤、抗生物質、鎮痛剤、および腎疾患に関連する病理学を用いて、治療前、治療中および/または治療後、腎保護のための化合物を投与することが可能である。
【0022】
「治療上有効量」の化合物が使用される。そのような有効量は、例えば、腎保護を提供する、腎臓形態の有害効果を減らす、腎疾患の症状の数および/もしくは重症度を低減する、またはこれらの任意の組み合わせといった、所望の治療効果を達成するための用量を変えることにより決定することができる。活性医薬成分としての1種以上の化合物は、医薬的に許容し得る担体とともに、医薬組成物に製剤化することができる。
【0023】
本明細書において、「医薬的に許容し得る担体」という用語は、カプリン酸、カプリル酸もしくはラウリン酸またはそれらの金属塩もしくはトリグリセリド等の中鎖長脂肪酸、またはモノもしくはジグリセリドの生理学的効果に干渉せず、またヒトを含む哺乳類に対して有害ではない物質を指す。
【0024】
医薬組成物は、当業者に知られている方法を用いて、カプリン酸、もしくはカプリル酸、もしくはラウリン酸、またはその塩、またはトリグリセリド、またはモノもしくはジグリセリド、またはMCT、ならびに医薬的に許容し得る担体を使用して製剤化され得る(Merck Index, Merck & Co., Rahway, NJ)。これらの組成物としては、固形剤、液剤、油剤、乳剤、ゲル剤、エアロゾル剤、吸入剤、カプセル剤、丸剤、貼付剤、坐剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
医薬組成物を製造する方法は、1種以上の活性成分を、1種以上の副成分を構成する医薬的に許容し得る担体と一緒にするステップを含む。
【0026】
本明細書に使用される「腎保護」という用語は、腎臓内の疾患の進行速度が遅延もしくは停止され、したがって以降、腎臓が保護される、プロセスを指す。
【0027】
本発明の方法が、薬物性腎毒性に適用される際、カプリン酸、またはカプリル酸、またはラウリン酸、またはその塩もしくはトリグリセリド、またはそのモノもしくはジグリセリドが、薬物投与の前、薬物投与の間、または薬物投与の後(すなわち、細胞毒性薬、または抗炎症剤もしくは免疫抑制剤の投与前、投与中、または投与後)に投与することができる。
【0028】
細胞毒性薬とは、高増殖性細胞、例えば腫瘍細胞、ウイルス感染細胞または造血細胞を死滅させる薬剤を意味する。本発明の実施に使用することができる細胞毒性薬の例としては、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ブレオマイシン、エトポシド、トポテカン、イリノテカン、タキソテール、タキソール、5−フルオロウラシル、メトトレキサート、ゲムシタビン、シスプラチン、カルボプラチンまたはクロラムブシル、および上記化合物のうちのいずれかのアゴニストが挙げられるが、これらに限定されない。細胞毒性薬はまた、AZT(すなわち3’−アジド−3’−デオキシチミジン)または3TC/ラミブジン(すなわち3−チアシチジン)のような抗ウイルス薬であってもよい。
【0029】
腎保護は、哺乳類に提供される、化学療法薬を用いた哺乳類の治療により生じる毒性効果からの保護を指す。ほとんどの場合、後者は、治療効果が、DNA複製、RNA転写、もしくはそれに続くタンパク質の翻訳のいくつかの側面を干渉または阻害する能力から生じる細胞毒性薬である。したがって、腎保護剤は、哺乳類に投与される任意の化合物であって、化学療法薬を用いた哺乳類の治療の結果生じる毒性効果から哺乳類を保護する、または哺乳類の回復を促進するものを指す。
【0030】
薬物または病理学(例えば、自己免疫疾患)に関連する腎機能障害が診断され得、その重症度は、当業者により判断され得る。「腎機能障害」という用語は、タンパク尿、血清尿素窒素、クレアチニン、クレアチニンクリアランス、尿毒、糸球体濾過率、および尿細管間質性線維症等(これらに限定されない)、複数のパラメータが認められる時に存在する状態を意味する場合がある。限定されないが、腎機能障害は、腎不全および死亡を引き起こす場合がある。治療の有効性もまた、当業者が決定することができる。緩和効果もまた提供され得る。
【0031】
本発明の好ましい一実施形態において、医薬組成物は、腎疾患の腎保護または治療での使用のために、経口投与、舌下投与、直腸投与、局所投与または吸入(例えば、鼻内噴霧)、筋肉内投与、皮内投与、腹腔内投与、皮下投与または静脈投与に適した形態を採る。
【0032】
治療での使用に必要な化合物の量は、投与経路、治療される症状の性質、患者の年齢や症状によって異なり、最終的に主治医の判断によるということはいうまでもない。望ましい投与量は、単回投与、または、作用のためもしくは治療をもたらすための必要に応じた適切な間隔をとった、例えば1日あたり2回、3回もしくはそれ以上の回数といった分割投与に好都合に提供され得る。「治療」または「治療すること」という用語は、哺乳類における、現存する疾患もしくは症状のあらゆる治療、および、疾患もしくは症状(例えば、腎疾患)の予防が含まれる。このことは、(a)疾患にかかりやすい可能性があるが、まだ疾患にかかっていると診断されていない患者に、疾患もしくは症状が発生するのを予防すること、(b)疾患または症状の進行を阻害または抑止すること、および(c)1つ以上の症状を退行もしくは改善することにより、疾患または症状を緩和することを含む。
【0033】
中鎖脂肪酸、またはその金属塩もしくはトリグリセリド、またはそのモノもしくはジグリセリドは療法で使用するために純粋化学物質として投与することが可能であるが、活性医薬成分を医薬製剤もしくは医薬組成物として提供するのが好ましい。非毒性組成物は、例えばマンニトール、ラクトース、トレハロース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、タルカム、セルロース、カルボキシメチルセルロース、グルコース、ゼラチン、ショ糖、グリセロール、炭酸マグネシウム、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、グリシン等(これらに限定されない)の、通常用いられる任意の賦形剤を配合することによって形成される。
【0034】
別の一実施形態において、医薬組成物は、腸内投与、粘膜投与(舌下投与、肺投与および直腸投与を含む)、非経口投与(筋内投与、皮内投与、腹腔内投与、皮下投与、および静脈内投与を含む)に適した形態を採る。前記製剤は、必要に応じて個々の用量単位に好都合に提供され得、また薬学分野で知られているいかなる方法でも調製され得る。すべての方法は、活性医薬成分を液体担体、もしくは微粉化した固体担体、またはその両方と組み合わせるステップ、また必要に応じて、製品を所望の形状に成形するステップを含む。望ましい場合は、活性医薬成分の徐放に適した上述の剤形を採用しても良い。本技術分野でよく知られた徐放性製剤としては、リポソーム、生体適合性ポリマー、ボーラス注射、または持続注入剤の使用が挙げられる。
【0035】
中鎖脂肪酸、またはその塩またはトリグリセリド、またはそのモノもしくはジグリセリドはまた、細胞毒性抗癌剤、または抗生物質、または免疫抑制薬(抗炎症剤を含む)といった、他の治療活性薬剤と組み合わせて使用することができる。そのような組み合わせの個々の成分は、別々のまたは組み合わせた医薬製剤で、連続的または同時に投与してもよい。上述した組み合わせは、医薬製剤の形で用いるのに好都合に提供され得、したがって、上記に定義した組み合わせを含む医薬製剤は、その医薬的に許容し得る担体と一緒になって、本発明のさらなる態様を成す。
【実施例】
【0036】
以下の実施例は、本発明の実施をさらに示したものであるが、これに限定するよう意図されたものではない。
【0037】
実施例1:5/6腎摘出ラットモデルにおける腎保護へのカプリン酸ナトリウムのインビボ効果
以下の手順を使用して、5/6腎摘出(Nx)ラットモデルにおいて、カプリン酸ナトリウムのインビボ保護効果の実証を実施した。雄の6週齢ウィスターラットに対して5/6腎摘出または偽手術を行った。ケタミン麻酔(60〜100mg/kg,i,p.)下で、左の腎臓の3分の2を除去した後、7日後に右の一側性腎摘出により腎切除を達成した。偽ラットに対して腎臓の曝露および腎周囲の脂肪の除去を行った。最初の手術から21日後、血清クレアチニンが腎臓の機能障害を示す125μmol/Lを超えた場合、ラットを実験に割り当てた。偽手術を受けた動物は、ビヒクル(生理食塩水)が与えられ、対照として使用された。Nx動物をビヒクルまたはカプリン酸ナトリウムを受ける群に分けた。35日間、1日1回、経胃的強制栄養法により生理食塩水またはカプリン酸ナトリウムを与えた。本末期腎疾患モデルの重症度を評価するために、血清クレアチニンを毎週測定した。Day63にラットを屠殺した。
【0038】
図1は、Nxおよびカプリン酸ナトリウム処理Nxラットにおける、血清のクレアチニン濃度を表す。血清クレアチニンの弱い減少(6μM/L)が、生理食塩水処理Nxラットにおいて観察された。血清クレアチニンの強い減少(21μM/L)が、カプリン酸ナトリウム処理Nxラットにおいて観察された。
【0039】
これらのNxラットから、カプリン酸ナトリウムで処理された80%の動物は、生理食塩水処理Nxラットで観察された保護なし(図2)と比較して腎臓の強い保護を示す、初期の血清クレアチニン濃度の平均の31μM/Lの減少を示した。
【0040】
図3は、カプリン酸ナトリウム処理Nxラットが、Day21からDay42までの対照Nxラットと比較して、クレアチニンクリアランス(糸球体濾過率GFR)において、有意な(p=0.004)増加を示すことを示す。
【0041】
さらに、尿中クレアチニンにおける有意な(p=0.0002)増加は、カプリン酸ナトリウム処理Nxラットにおいて、Day21からDay42まで観察された(図4)。これは、対照Nxラットと比較して、カプリン酸ナトリウム処理Nxラットにおける血清クレアチニンにおいて、有意な(p=0.00006)減少に反映された(図5)。
【0042】
図6および7は、対照およびカプリン酸ナトリウム処理Nxラットの組織学的顕微鏡写真を表す。40X(図6)において、腎構造(密度、糸球体、および尿細管構造)は、対照と比較して、カプリン酸ナトリウム処理Nxラットにおいて、より温存される。対照Nxラットにおいて、硬化症は、尿細管レベルで非常に良く導入される(図6)。さらに、糸球体レベル(図7、400X)において、硝子質堆積により見られる通り、線維症は、対照Nxラットの腎臓に非常に良く移植される。さらに、糸球体間質組織の壊死が観察された。カプリン酸ナトリウムを用いた治療は、線維症および腎臓組織の壊死を減少した。
【0043】
実施例2:5/6腎摘出ラットモデルにおける心保護へのカプリン酸ナトリウムのインビボ効果
実施例1に記載する手順を使用して、5/6腎摘出ラットモデルにおいて、インビボにおけるカプリン酸ナトリウムの心保護効果の実証を実施した。つまり、カプリン酸ナトリウムが、重症に罹患した5/6腎摘出ラットにおける心臓の保護を示すことを実証するために、5/6腎摘出ラットにおいて、心圧力をRTBP2000(Kent Scientific)を用いて記録した。カプリン酸ナトリウム処理Nxラットにおいて、血圧の著しい低下が観察された(図8)。
【0044】
実施例3:ドキソルビシン誘発腎毒性モデルにおける腎保護および化学保護へのカプリン酸ナトリウムのインビボ効果
以下の手順を使用して、ドキソルビシン誘発腎毒性モデルにおいて、カプリン酸ナトリウムの経口投与のインビボ保護効果の実証を実施した。C57B1/6マウス(6〜10週齢)をDay3からDay10までカプリン酸ナトリウムで予防的処置、またはDay1からDay10まで、治療的に処置した。腎毒性は、Day0に、10mg/kgのドキソルビシンの静脈内注入により誘発された。Day4、7および11に、血清クレアチニンおよび尿素をモニタした。
【0045】
カプリン酸ナトリウムを用いた予防的処置は、ドキソルビシンにより誘発された血清クレアチニンの増加を、対照マウス(正常、ドキソルビシンなし)で観察された同様の濃度まで抑制した。カプリン酸ナトリウムを用いた予防的処置は、ドキソルビシンにより誘発された血清クレアチニン濃度を低下させた(図9)。
【0046】
さらに、カプリン酸ナトリウムを用いた予防的および治療的処置は、ドキソルビシンにより誘発された血清尿素の増加を、対照マウス(正常、ドキソルビシンなし、図10)で観察された同様の濃度まで抑制した。
【0047】
ドキソルビシンは、腎毒性および心毒性を誘発することがよく知られている。図11は、ドキソルビシン誘発腎毒性モデルにおける組織化学により判断されるように、組織学的腎臓病変スコアを表す。図11に示す通り、ドキソルビシンは、Day7およびDay11に、著しい腎臓病変を誘発した。カプリン酸ナトリウムを用いた予防的(プレドキソルビシン)および治療的(ポストドキソルビシン)処置は、ドキソルビシンにより誘発された、尿細管レベルで腎臓病変を減少させた。
【0048】
ドキソルビシンは、尿細管領域で、主に、早期病変を誘発した。毒性は、さらに糸球体に拡大した(Day11辺りのポストドキソルビシン)。図12は、対照およびカプリン酸ナトリウム処理(予防的処置)マウスにおける、ドキソルビシン誘発病変の組織学的顕微鏡写真を表す。ドキソルビシンは、罹患尿細管領域において、腎細胞アポトーシス、線維症、硬化症、およびタンパク質の堆積を誘発する。カプリン酸ナトリウムを用いた予防的および治療的処置は、ドキソルビシン毒性に対して腎臓を保護する。
【0049】
実施例4:ドキソルビシン誘発腎毒性モデルにおける腎保護および化学予防へのトリカプリンのインビボ効果
実施例3に記載する手順を使用して、ドキソルビシン誘発腎毒性モデルにおいて、トリカプリンの経口投与のインビボ保護効果の実証を実施した。
【0050】
図13は、ドキソルビシン誘発腎毒性モデルにおける組織化学により判断されるように、組織学的腎臓病変スコアを表す。図13に示すように、ドキソルビシンは、Day12に、著しい腎臓病変を誘発した。トリカプリンを用いた予防的(プレドキソルビシン)および治療的(ポストドキソルビシン)処置は、ドキソルビシンにより誘発された、尿細管レベルで腎臓病変を低減した。
【0051】
図14は、対照およびトリカプリン処置(予防的治療)マウスにおけるドキソルビシン誘発病変の組織学的顕微鏡写真を表す。ドキソルビシンは、罹患尿細管領域において、腎細胞アポトーシス、線維症、硬化症、およびタンパク質の堆積を誘発する。トリカプリンを用いた予防的および治療的処置は、ドキソルビシン毒性に対して腎臓を保護する。
【0052】
本明細書で引用された特許、特許出願、および他の刊行物は、その全体が参照により組み込まれる。
【0053】
特許請求の範囲およびその法律上均等の範囲内の変更および置換は全て、本発明の範囲内に包含される。「含む(comprising)」の移行部を用いた請求項は、他の要素がその請求項の範囲内に含まれることを許容するものである。また本発明は、「含む」の用語の代わりに、「実質的に〜から成る(consisting essentially of)」の移行句(すなわち、もし発明の作用効果に重大な影響を与えない要素であれば、そのような他の要素も特許請求の範囲内に含まれることを許容する)、および「から成る(consisting)」の移行部(すなわち、通常発明に伴う不純物または重要ではないものを除き、請求項に挙げられた要素のみを許容すること)を用いて記載されてもいる。これら3つの慣用句はいずれも、本発明を特許請求の範囲に記載するために用いることができる。
【0054】
本明細書に記載されている要素は、特許請求の範囲内ではっきりと述べられているものを除き、特許請求の範囲に記載の本発明の限定として解釈されるべきではないと理解されるべきである。よって、特許請求の範囲は、本明細書に由来し特許請求の範囲中に読み込める限定事項の代わりに、許諾された法的保護の範囲を決定するための基礎となる。対照的に、特許請求の範囲に記載の発明を予期させるか新規性を喪失させる特定の実施形態の範囲内で、先行技術は明確に本発明から除外される。
【0055】
さらに、特許請求の範囲内で明確に述べられていない限り、請求項の限定事項間の関係は特に意図されていない(例えば、ものの請求項における構成要素の並び方、または方法の請求項におけるステップの順番は、明確に述べられている場合を除き特許請求の範囲の限定事項ではない)。本明細書に開示されている個々の要素の全ての可能な組み合わせおよび順序は、本発明の態様として考慮される。同様に、発明の記載の一般化は、本発明の一部分であると考慮される。
【0056】
上記より、本発明を、その精神もしくは不可欠な特徴から逸脱することなく、他の特定の形態に具体化することができることは、当業者には明らかである。記載された実施形態は、限定的なものではなく、単なる例示としてのみ考慮されるべきである。なぜなら、発明に与えられる法的保護の範囲は、本明細書ではなく特許請求の範囲により示されるものだからである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腎機能障害を伴うため、そのような治療を必要とする患者の腎保護の方法であって、前記方法は、前記患者に、治療上有効量の式Iにより表される1種以上の化合物、または式IIにより示される1種以上の化合物、またはその組み合わせを含む組成物を投与するステップを含み、
【化1】

式中、
は、直鎖または分岐鎖、飽和または不飽和C7〜C11アルキル基であり、
AおよびBは、水素または
【化2】

であり、Aは、Bと同一である必要はなく、Xは、ヒドロキシル基、金属性モノもしくはジカチオン性対イオンを伴うオキシアニオン、または直鎖もしくは分岐鎖C1〜C4アルキル部分を伴うアルコキシ基である、方法。
【請求項2】
前記組成物が、中鎖トリグリセリド(MCT)である式Iにより表される少なくとも2つの化合物の混合物を含み、A=B=Rが、それぞれ、直鎖または分岐鎖、飽和または不飽和C7およびC9アルキル基である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記混合物が、2つのトリグリセリドから成り、第1のMCTが式IおよびA=B=R=CH(CH−により表され、第2のMCTが式IおよびA=B=R=CH(CH−により表される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記組成物が、0.1%から3%の式IおよびA=B=R=CH(CH−により表される第3の化合物、ならびに式IおよびA=B=R=CH(CH10−により表される第4の化合物をそれぞれさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記混合物は、
【化3】

により表されるC8、C10およびC12脂肪酸トリグリセリドの4つの幾何異性体から成る、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記組成物が、式IIにより表される1つもしくは複数の化合物を含み、かつXが中鎖脂肪酸であるOHである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記組成物が、式IIにより表される1つもしくは複数の化合物を含み、かつXが、カルシウム、マグネシウム、カリウム、およびナトリウムから成る群から選択される金属性対イオンを伴うオキシアニオンである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記1種以上の化合物が、カプリル酸、またはカプリン酸、またはラウリン酸である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記1種以上の化合物が、カプリル酸ナトリウム、またはカプリン酸ナトリウム、またはラウリン酸ナトリウムである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記1種以上の化合物が、カプリル酸カルシウム、またはカプリン酸カルシウム、またはラウリン酸カルシウムである、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記1種以上の化合物が、カプリル酸トリグリセリド、またはカプリン酸トリグリセリド、またはラウリン酸トリグリセリドである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
治療が、前記患者において、化学療法に起因する腎疾患の発症を予防する、または遅延する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
治療が、前記患者において、放射線治療に起因する腎疾患の発症を予防する、または遅延する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
治療が、前記患者において、抗炎症剤を含む免疫抑制剤に起因する腎疾患の発症を予防する、または遅延する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
治療が、前記患者において、抗生物質に起因する腎疾患の発症を予防する、または遅延する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
治療が、慢性腎疾患に起因する腎機能障害を予防する、または遅延する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
治療が、末期腎疾患に起因する腎機能障害を予防する、または遅延する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
治療が、糖尿病を含む自己免疫疾患に起因する腎機能障害を予防する、または遅延する、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
治療が、腎摘出に起因する腎機能障害を予防する、または遅延する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
治療が、心疾患に起因する腎機能障害を予防する、または遅延する、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
治療が、移植に起因する腎機能障害を予防する、または遅延する、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
治療が、腫瘍に起因する腎機能障害を予防する、または遅延する、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
治療が、炎症疾患に起因する腎機能障害を予防する、または遅延する、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記患者が、心機能障害のため心保護も必要とする、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記患者が、神経機能障害のため神経保護も必要とする、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
神経保護のための薬剤製造のための治療上有効量の1種以上の化合物の使用であって、前記1種以上の化合物が、式IまたはIIによって表される化合物、
【化4】

およびその組み合わせから成る群から選択され、
式中、
は、直鎖または分岐鎖の飽和または不飽和C7〜C11アルキル基であり、
AおよびBは、水素または
【化5】

であり、Aは、Bと同一である必要はなく、Xは、ヒドロキシル基、金属性モノもしくはジカチオン性対イオンを伴うオキシアニオン、または直鎖もしくは分岐鎖C1〜C4アルキル部分を伴うアルコキシ基である、使用。
【請求項27】
請求項26に記載の治療上有効量の薬剤の哺乳類への投与であって、前記薬剤が、ミセルまたは同様の両親媒性凝集体を形成するように、前記薬剤量が、前記哺乳類の腎臓に存在する、投与。
【請求項28】
請求項1に記載の治療上有効量の一化合物、または複数の化合物を用いた哺乳類における腎保護の方法。
【請求項29】
請求項1に記載の治療上有効量の一化合物、または複数の化合物を用いた哺乳類における血清クレアチニンを減少させる方法。
【請求項30】
このような治療を必要とする患者における腎保護のための組成物であって、前記組成物が、治療上有効量の、式Iにより表される1種以上の化合物、式IIにより表される1種以上の化合物、
【化6】

またはその任意の組み合わせを含み、
式中、
は、直鎖または分岐鎖の飽和または不飽和C7〜C11アルキル基であり、
AおよびBは、水素または
【化7】

であり、Aは、Bと同一である必要はなく、Xは、ヒドロキシル基、金属性モノもしくはジカチオン性対イオンを伴うオキシアニオン、または直鎖もしくは分岐鎖C1〜C4アルキル部分を伴うアルコキシ基である、組成物。
【請求項31】
中鎖トリグリセリド(MCT)である式Iにより表される少なくとも2種の化合物の混合物を含み、A=B=Rが、それぞれ、直鎖または分岐鎖の飽和または不飽和C7およびC9アルキル基である、請求項30に記載の組成物。
【請求項32】
2つのトリグリセリドの混合物から成り、第1のMCTが式IおよびA=B=R=CH(CH−により表され、第2のMCTが式IおよびA=B=R=CH(CH−により表される、請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
前記混合物が、0.1%から3%の式IおよびA=B=R=CH(CH−により表される第3の化合物、ならびに式IおよびA=B=R=CH(CH10−により表される第4の化合物をそれぞれさらに含む、請求項31に記載の組成物。
【請求項34】
前記混合物が、
【化8】

により表されるC8およびC10脂肪酸トリグリセリドの4つの幾何異性体から成る、請求項31に記載の組成物。
【請求項35】
式IIにより表される1種以上の化合物を含み、かつXが中鎖脂肪酸であるOHである、請求項30に記載の組成物。
【請求項36】
式IIにより表される1種以上の化合物を含み、かつXが、カルシウム、マグネシウム、カリウム、およびナトリウムから成る群から選択される金属性対イオンを伴うオキシアニオンである、請求項30に記載の組成物。
【請求項37】
前記1種以上の化合物が、カプリル酸またはカプリン酸である、請求項35に記載の組成物。
【請求項38】
前記1種以上の化合物が、カプリル酸ナトリウムまたはカプリン酸ナトリウムである、請求項36に記載の組成物。
【請求項39】
前記1種以上の化合物が、カプリル酸カルシウムまたはカプリン酸カルシウムである、請求項36に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2011−502174(P2011−502174A)
【公表日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−532389(P2010−532389)
【出願日】平成20年11月3日(2008.11.3)
【国際出願番号】PCT/CA2008/001930
【国際公開番号】WO2009/055933
【国際公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(510172848)プロメティック・バイオサイエンシーズ・インコーポレイテッド (4)
【氏名又は名称原語表記】ProMetic BioSciences Inc.
【Fターム(参考)】