説明

腐朽菌の培養方法及び動物用忌避材、抑草・防草材、並びに人工ほだ木の処理方法

【課題】
山野に放置されたり産業廃棄物として処理される松葉の有効利用を図るとともに、従来難しかった腐朽菌の増殖を簡単且つ安価に量産する方法を提供する。
【解決手段】
地下水や河川水或いは海水に、小枝とともに適宜長さに裁断したのち摺り潰した摺り松葉を浸漬し、15℃以上の温度下で放置しておくと、2日程度で白い膜状の腐朽菌菌糸が発生する。この状態で20日程度置くと、松葉が黒ずみ、発酵して菌糸に覆われた松葉が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、松葉のエキスを利用した腐朽菌の培養方法に関わり、更に該培養液等を動物用忌避材や抑草・防草材に使用したり、人工ほだ木の処理に用いる新規な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、天然素材を用いた抑草材や防草材を開発する目的で様々な植物を加工する研究を行っていた。
【0003】
このような観点から、本発明者は、畑地の周囲や、果樹園、公園、庭、道路端、荒れ地などに松葉を散布或いは敷き詰め、この松葉から滲出してくる松葉エキスで雑草の発生や生育を抑制或いは防止する技術を開発した(特開2004−166701号:特許文献1)。また、この出願では松葉を食塩等を溶解した液に松葉を浸漬する技術が記載されている。
【0004】
この発明(特開2004−166701号)では、塩水に松葉や小枝を浸漬したり、松葉エキスが滲出しやすいように裁断或いは粉砕(長さ3cm以下、好ましくは0.1〜1cm程度)したものを使用するものである。
【0005】
ところが、この抑草材製造中に松葉やエキス中に白い菌糸状のものが生じることがあることが判明した。これは、使用した水が水道水では出ず、また食塩水では時間がかかるが、くみ上げた地下水では数日で白い菌糸が生じるようになった。
【0006】
当初、本出願人らは、液や松葉が腐敗したと思ったが、念のために、この松葉や液を畑に撒いたところ(平成18年暮れ)年明けに白い腐朽菌が発生し菌糸の先端に小さな毛玉様ボールが形成されていることが見られた(平成19年2月9日)。そこで、その上に合板や杉板を被せておいたところ、1週間後に板の下面に白い菌糸が発生し、2ケ月後にはびっしり付着するようになった。3月8日には毛玉様ボールが変化して毛が発達しないボール状になり、地元で言う「米松露」らしき茸(直径数mm〜1cm程度)が生育していた。この茸は白色或いは褐色で顕微鏡が見ると裁断面はシルク光沢がありスポンジ状をなしていた。そして、そのまま放置しておいたところ、約1年後の春にも同様の茸が見られた。しかし、後日これは、松露ではないことが判明した。
【0007】
一方、板の表面が褐色或いは白色に侵されていことが判明した。そのため、この菌糸は腐朽菌らしく思われた。腐朽菌を人工的に増殖させることはなかなか難しい。白色腐朽菌の増殖方法は、特許文献2や特許文献3に示す技術が公知であるが、褐色腐朽菌の場合は知られていない。他に調査した範囲では腐朽菌の増殖や繁殖に関する技術は知られておらず、ことに、松葉を使用した腐朽菌の繁殖や増殖方法は全く見当たらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−166701号公報
【特許文献2】特表平06−505634号公報
【特許文献3】特開2001−046052号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「ネズミ」(中公新書:宇田川竜男著:昭和40年10月 25日発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、腐朽菌を簡単に増殖させることにあり、また、その用途を開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで本発明者らは更に研究を続け、本発明を完成させたものである。即ち本発明は、松葉を水に浸漬したものに腐朽菌を植え付けて増殖させることを特徴とするものである。
【0012】
当初、抑草材を製造している段階では水道水を使用していたが、ある時点で地下水をくみ上げたものを使用したところ、松葉を浸漬した液に白い膜状のものが出来はじめた。また、当初は食塩を水に添加していたからか、白いものの出来が悪かった。しかし、当初はこの白いものを腐敗菌と思っていたので、この抑草材は失敗と思っていた。しかし、ある時前記のように畑に撒き、その上に板を被せておいたところ、数ケ月後には、板の下面に白い菌糸がびっしり付着するようになったので、松露菌と思い、様々な実験を1〜2年間繰り返した。
【0013】
白い菌糸の発生は、毟った松葉をただ地下水に浸漬しただけでは発生が悪く、松葉を或いは松葉を小枝とともに適宜長さ(例えば3〜10cm)に裁断したのち摺り潰した摺り松葉を使用すると発生が早いことが判明した。水道水を用いた場合は発生しなかったが、これは一つには当初使用した小屋中に菌が少なかったことにもよるが、水道水には塩素が含まれており、この殺菌作用であったものと推察された。尚、くみ上げた地下水のpHは5.6〜5.7であった。塩水は海水を使用したが、菌の発生は幾分劣っていた。当初は、小屋に菌が少なかったのか、白い膜の発生に時間がかかった(3日程度でうっすらと白色の膜、5日程度で一様な厚い膜)。しかし、現在では1〜2日で白い膜が出来はじめる。尚、小屋の室温が15℃以下になると発酵が鈍り、膜の発生は見られなかった。
【0014】
松葉は、以前は貴重な燃料として農家などが里山などで収拾していたが、現在では燃料として使用されることもなく、山野には毎年大量の落ち松葉が発生しそのまま放置されている。また、庭や庭園などの松は年2回定期的に剪定され、これらは産業廃棄物として処理されている。本発明はこれら産業廃棄物の有効利用にも資するものである。また、松葉が大量に必要になれば、減反で余っている田畑に松の苗木を植えれば、数年の内に大量の松葉が採取できることになる。
【0015】
松葉は小枝付きのまま或いは毟ったものを裁断或いは粉砕した松葉や松の小枝を使用する。水は地下水や河川水がよい。まだ確認していないが、pHが低いのがのぞましければ、塩酸等で低くすればよい。
【0016】
この松葉を浸漬した液は、20日程度で発酵が終わり、pHは4.3〜4.4程度になる。そして、液中には酵素が発生しているものと思われる。また、松葉は黒ずんでくる。
【0017】
腐朽菌は、松葉に付着させたままでもよいが、水苔に接触付着させたのち、保管させてもよい。但し、何れも乾燥していると菌糸は消滅すにが、水を与えれば、数日で菌糸が発生する。水苔に寒天粉や米粉を振りかければ、保存性が増す。
【0018】
この発酵液や松葉を畑の「けもの道」に1〜2m程度にわたって撒いたところ、ヌートリアが全くよりつかなくなった。現在、このけもの道への散布は3年目になるが(年1回散布)、いまだに効果が続いている。また、犬や猫の場合、発酵液を散布すると、3ケ月程度は忌避効果がある。また、水苔に発酵液を含浸させておくと効果が長続きする。
【0019】
一方、松葉は当初ビニールハウス内で浸漬していたが、このビニールハウスにはサツマイモが置いてある。今までは、毎年鼠に食べられていたが、ここ1〜2年は、鼠が全く寄りつかなくなった。尚、現在ではビニールハウスの隣の小屋で松葉を浸漬しているが、ビニールハウスには発酵した松葉と発酵液を散布している。この液や松葉が発酵した臭いをだすので、そのために鼠が寄りつかないものと思われる。ただ、鼠は嗅覚が悪く殆ど臭いで忌避することはできないと、非特許文献1に記載されている(同書110〜113頁)。しかし、本発明品はサツマイモの近くにおくだけで鼠避けになっているので、余程鼠にとっていやな臭いであるものと思われる。因みに、個包装した菓子をビニールの買い物袋にいれておいたところ、夜中に直ぐにハツカネズミが買い物袋にもぐりこんだことがあるので、嗅覚が全くだめと言うわけでもなさそうである。
【0020】
但し、猪にはあまり効果がなかった。そこで、発酵液に木酢液や竹酢液、氷酢酸を混合したものを水苔に含浸させ、その一握りずつをけもの道の数カ所に散布しておいたところ、忌避効果が2年継続している(年1回散布)。この含浸水苔は、犬や猫に対しても半年以上もの長期にわたって効果が持続している。現在、鹿やハクビシン対策の実験中である。
【0021】
また、この発酵液及び松葉を小さな竹の竹の子の根元にまいたところ、成長がおそく、他の竹の半分以下の高さにしか成長せず、地下茎も縮んだようになっていた。発酵液と松葉を撒いた地下茎の周囲には、菌糸がびっしりついていた。また、茅の根元に撒くと菌糸が根を包み込むようになっており、草丈も短くなった。即ち、この発酵液や松葉には、抑草作用があることが判明した。
【0022】
次に、椎茸を栽培した後の人工ほだ木を5日程度この発酵液に漬けておくと、体積が約1/10程度になった。使用後の人工ほだ木は水分が60%もあって燃焼処理が難しく、現在では廃棄物として業者に引き取って貰っているが、コストがかかって栽培者は困っている。本発明品を使用すれば、大幅に体積が減少するので、その後は、畑に撒くなど簡単に処理できてコストも掛からない利点がある。
【0023】
尚、椎茸は白色腐朽菌であり、おがくず(人工ほだ木の場合)のリグニンを分解して成長するものであり、セルロースが残る(リグニンも一部残る)。従って、その使用後の人工ほだ木を分解することからみると、本発明の腐朽菌は、褐色腐朽菌或いは非選択性白色不朽菌ではないかと思われる。菌の種類は現在のところ不明である。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、以上詳述したように、松葉を水に浸漬したものに腐朽菌を植え付けて増殖させることを特徴とするものである。
【0025】
従って、以下に述べるような特徴を有する。
(1)くみ上げた地下水や河川水或いは海水などに、松葉をより好ましくは破砕粉砕した松葉や松の小枝を浸漬し数日放置して腐朽菌の白い膜をはらせ、そのまま20日程度発酵を続けることにより、簡単に腐朽菌の増殖を行わせることができる。
(2)水や松葉は田舎では簡単に入手でき、小屋さえあれば、誰でも腐朽菌を大量に増殖させることができる。尚、当初は増殖した腐朽菌を種菌として使用すればよい。
(3)得られた発酵液や松葉は、害獣の忌避剤として使用できる。「けもの道」に撒けば、少量で大きな効果が得られる。
(4)木酢液や竹酢液、氷酢酸を混ぜたものを水苔に含浸させておくと、忌避材としてより大きな効果を生じる。
(5)腐朽菌は、水苔に接触付着させておくと、保管が便利である。
(6)得られた発酵液や松葉は、抑草の効果がある。
(7)得られた発酵液や松葉は、使用後の椎茸ほだ木の処理に大きな効果を示す。
(8) 山野に放置されたり産業廃棄物として処理される松葉の有効利用が図れる。また、松は成長が早いので、放置田畑に植栽すれば、減反対策としても有効である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
小枝とともに適宜長さに裁断したのち摺り潰した摺り松葉を、地下水に浸漬して放置することにより数日で白い腐朽菌の膜を作り、これをそのまま20日程度置くことにより発酵液と黒ずんだ松葉を得る。
【実施例1】
【0027】
(発酵液の調製)
小屋の内部に、大きなプラスチックのタンクを置き、その中に、小枝付き松葉をカッターで3〜10cm程度に切断しクラッシャーで摺り潰した摺り松葉の80Lを入れ、地下水80L(pH5.6)を入れて浸漬し、そのままで2日間放置した。小屋内部の室温は35℃であった。2日経過後、松葉周辺の上部に白い膜がはりだした。そのまま放置しておくと、白い菌糸がどんどん成長し、松葉が黒ずみ発酵が始まり泡で出だした。20日経過後、ほぼ発酵が終了した。pHは4.3〜4.4になっていた。
【0028】
これで、腐朽菌を含んだ発酵液が完成した。この発酵液は容器に入れておくと長期間(3年以上)の保存が可能である。尚、腐朽菌自体は松葉や土壌表面などで長期間生存しているが、水苔に接触付着させておくと、腐朽菌の保管が便利に行われる。寒天粉や米粉も保管に効果がある。
【実施例2】
【0029】
(動物用忌避材1)
実施例1で得られた発酵液と松葉を、畑のけもの道に約2mにわたって散布しておいたところ、いままでヌートリアが出て作物が荒らされていた畑に全くヌートリアが出ず、作物(スイカ、カボチャ)が食べられなくなった。
【実施例3】
【0030】
(動物用忌避材2)
同様に、小屋の隣のビニールハウスに、サツマイモがおいてあった。今までは毎年鼠に食べられていたが、ビニールハウス内に松葉と発酵液を撒いておいたところ、鼠が全く寄りつかなくなった。
【実施例4】
【0031】
(動物用忌避材3)
発酵液50部(重量部、以下同じ)に、竹酢液或いは木酢液50部と氷酢酸50部、地下水(pH5.8〜6.0)100部を混合したものに、水苔を15日間漬込んだ。そして、水苔を軽く絞ったものを、1握りずつけもの道に数カ所散布して見た。すると3年たっても(年1回散布)いのししの忌避効果が持続している。竹酢か木酢液のみ、或いは氷酢酸のみを発酵液と混合しても、同様の効果がある。
【実施例5】
【0032】
(抑草・防草材)
竹(黄金竹)が生えている箇所の1本の竹の子の根元に、実施例1で得られた発酵液と松葉を撒いておいたところ、他の竹よりも背丈が短くなり、また、根にも腐朽菌が絡みついていた。同様に、ちがやが生えている箇所に実施例1で得られた発酵液と松葉を撒いておいたところ、その周辺の根に腐朽菌が絡み付き、茅の生育が妨げられて丈が短く、且つ疎らになってきた。
【実施例6】
【0033】
(廃椎茸人工ほだ木の処理)
廃椎茸人工ほだ木(直径10cm、高さ13cm程度)をタンクに高さ50cm程度詰め込み、そこに実施例1で得られた発酵液と松葉を注ぎ込み、5日程度浸漬した。その結果、人工ほだ木が厚み約5cm程度に減少し、バラバラに崩壊していた。この中身を取り出し、畑にバラ撒いた。
【実施例7】
【0034】
杉のチップを実施例1で得られた発酵液に漬けておいたところ、白い菌糸は全く出なかった。一方、杉のチップを実施例1で得られた発酵液と松葉の混合液に漬けておいたところ、白い菌糸が発生した。このことから、菌糸の発生には、松葉が必要であると思われる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
松葉を水に浸漬したものに腐朽菌を植え付けて増殖させることを特徴とする、腐朽菌の培養方法。
【請求項2】
松葉は、小枝とともに適宜長さに裁断したのち摺り潰した摺り松葉を使用するものである、請求項1記載の腐朽菌の培養方法。
【請求項3】
水は、水道水を用いず、pHが酸性のものを用いるものである、請求項1又は請求項2記載の腐朽菌の培養方法。
【請求項4】
腐朽菌を水苔に接触付着させて、保管しておくことを特徴とする腐朽菌の保管方法。
【請求項5】
寒天粉或いは米の粉を振りかけるものである、請求項4記載の腐朽菌の保管方法。
【請求項6】
請求項1又は請求項2で得られた培養液や松葉からなる動物用忌避材。
【請求項7】
腐朽菌やその培養液に木酢や竹酢液や氷酢酸を混合したものを水苔に含浸させたことを特徴とする動物用忌避材。
【請求項8】
請求項1又は請求項2で得られた培養液や松葉からなる抑草・防草材。
【請求項9】
請求項1又は請求項2で得られた培養液に、使用済みの人工ほだ木を浸漬して放置することによりほだ木を崩壊させて容積を小さくすることを特徴とする、使用済み人工ほだ木の処理方法。

【公開番号】特開2010−99065(P2010−99065A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223580(P2009−223580)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(500115767)
【出願人】(501249261)株式会社日本海技術コンサルタンツ (17)
【Fターム(参考)】