説明

腐食環境センサおよび腐食環境測定方法

【課題】部材どうしが重畳する部分の腐食環境を正確に測定できる腐食環境センサおよび腐食環境測定方法を提供する。
【解決手段】導体である第一の部材81と導体または絶縁体である第二の部材82との間の隙間83の内部の腐食環境を測定する腐食環境センサ1であって、導体からなる第一の部材81に対向可能な表面を有するベース11と、ベース11の表面に設けられ、第一の部材81とイオン化傾向が異なる材料により形成され、第一の部材81と離間して対向することにより第一の部材とガルバニックカップリングを形成する電極とを有し、電極12と第一の部材81との間のガルバニック電流を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食環境センサおよび腐食環境測定方法に関するものであり、詳しくは、構造体に存在する隙間の内部の腐食環境の測定に好適な腐食環境センサと、この腐食環境センサを用いて構造体に存在する隙間の内部の腐食環境を測定する腐食環境測定方法に関する。なお、「腐食環境」とは、環境が構造体などの腐食に与える影響(=環境の腐食性)をいうものとする。
【背景技術】
【0002】
金属部材が組み合わされて構成される構造体は、金属部材どうしが重畳する部分に隙間が存在することがある。たとえば、金属部材どうしが重畳する部分がスポット溶接される構成においては、金属部材どうしが完全に密着せずに隙間が生じることがある。このような隙間の内部は、外気に開放している部分に比較して腐食しやすいことが分かってきた。その理由は次のとおりであると考えられる。このような隙間の内部は、毛管現象によって水分が侵入しやすく、かつ乾燥しにくい。このため、隙間の内部の湿度は、外気に比較して高い状態に維持される。金属部材の腐食の防止方法としては、防食塗料を塗布する方法が用いられることがある。しかしながら、このような隙間の内部には防食塗料が回り込みにくいため、隙間の内部に防食塗料を充分に塗布できないことがある。
【0003】
ところで、自動車などの車両も、金属部材が組み合わされる構造体を有する。たとえば、自動車のシャーシやボディは、金属部材どうしが溶接されて構成される構造体である。そして、自動車が雨中走行や雪中走行などすると、雨水や融雪剤を含んだ水分が構造体に付着し、隙間に侵入し、腐食を生じることがある。このため、このような隙間の腐食環境を把握することは、自動車の構造体の防食設計のために重要である。
【0004】
構造体の使用環境の腐食性を測定する腐食環境センサとしては、たとえば、ACM(Atmospheric Corrosion Monitor)型腐食環境センサ(以下、「ACMセンサ」と称する)が知られている。ACMセンサは、イオン化傾向が異なる金属からなる二種類の電極を有し、これらの二種類の電極が絶縁材料によって絶縁されるという構成を有する。そして、降雨や結露などによって、水が二種類の電極にまたがって接触すると、二種類の電極間にガルバニック電流が流れる。ガルバニック電流は、腐食速度(すなわち、使用環境の腐食性)と良好な相関を有している。このため、ガルバニック電流を測定することによって、使用環境の腐食性をモニタリングできる。そして、橋梁や住宅などの設計においては、ACMセンサを用いて連続的にガルバニック電流を測定し、この測定結果を、構造体などの各部位の耐用年数の算定などに用いている。
【0005】
しかしながら、ACMセンサを用いて構造体に存在する隙間の内部の腐食環境を測定することは困難である。ACMセンサの電極が構造体に接触すると、電極と構造体とが電気的に導通したり、電極どうしが短絡したりするため、ガルバニック電流を正確に測定できないことがある。構造体に存在する隙間の寸法は一般的に小さいため、ACMセンサを、電極が構造体に接触しない状態で、微小な隙間の内部に配設することは困難である。
【0006】
なお、構造体などの腐食試験には、複合サイクル試験機(Cyclic Corrosion Tester)が用いられることがある。複合サイクル試験機は、大気腐食を再現することができる。しかしながら、使用環境を完全に再現することは困難である。また、測定結果の個体差やばらつきが大きい。
【0007】
部材どうしの間の隙間の内部の腐食環境を測定するため、たとえば、特許文献1のような構成が考えられている。特許文献1に記載の腐食環境センサは、所定の間隔をおいて検出部に対向する隙間形成部材を有する。そして、この隙間形成部材によって、部材どうしの間に形成される隙間を模した空間(=疑似空間)を形成する。このようなセンサを、構造体における部材どうしが重畳する部分の近傍に配置することにより、当該部分の腐食環境を測定できる。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の腐食環境センサは、部材どうしが重畳する部分の隙間に直接に配設することはできない。部材どうしが重畳する部分と、当該部分から離れた部分とでは、腐食環境センサの向きや、構造体の振動や、気流などといった、腐食環境や測定結果に影響する因子が相違する。このため、腐食環境センサに形成される疑似空間の腐食環境を、部材どうしが重畳する部分の現実の腐食環境に完全に一致させることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−134161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記実情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、部材どうしが重畳する部分に生じる隙間の腐食環境を正確に測定できる腐食環境センサおよび腐食環境測定方法を提供することである。特に、部材どうしが重畳する部分に生じる隙間の腐食環境を直接的に測定できる腐食環境センサおよび腐食環境測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明は、少なくとも一方の部材が導体である二つの部材の間の隙間の内部の腐食環境を測定する腐食環境センサであって、導体である前記一方の部材に対向可能な表面を有するベースと、前記ベースの前記表面に設けられ、導体である前記一方の部材とイオン化傾向が異なる材料により形成され、導体である前記一方の部材と離間して対向することにより導体である前記一方の部材とガルバニックカップリングを形成する電極とを有することを特徴とする。
【0012】
前記ベースには、導体である前記一方の部材と前記電極とを離間するためのスペーサが設けられることを特徴とする。
【0013】
前記ベースには、前記二つの部材のうちの他方の部材に係止する係止部が設けられることを特徴とする。
【0014】
本発明は、少なくとも一方の部材が導体である二つの部材の間の隙間の内部の腐食環境測定方法であって、導体である前記一方の部材とは異なるイオン化傾向を有する材料からなる電極を前記一方の部材と離間して対向するように配設し、前記電極と導体である前記一方の部材との間のガルバニック電流を測定することを特徴とする。
【0015】
本発明は、少なくとも一方の部材が導体である二つの部材の間の隙間の内部の腐食環境測定方法であって、導体である前記一方の部材に対向する他方の部材に切欠きまたは開口を形成し、前記一方の部材とイオン化傾向が異なる材料からなる電極がベースの表面に設けられる腐食環境センサを、前記他方の部材に形成される切欠きまたは開口に配設して前記電極を導体である前記一方の部材に離間して対向させ、前記電極と導体である前記一方の部材との間のガルバニック電流を測定することを特徴とする。
【0016】
前記電極と導体である前記一方の部材との間の距離は、導体である前記一方の部材と前記他方の部材との間の距離と同じであることを特徴とする。
【0017】
前記ベースに突起状のスペーサを設け、前記スペーサによって前記電極と導体である前記一方の部材とを離間した状態に維持することを特徴とする。
【0018】
前記ベースによって前記他方の部材に形成される前記切欠きまたは前記開口を塞ぐことを特徴とする。
【0019】
前記ベースの厚さは前記他方の部材の厚さと同じであるとともに、前記ベースにはフランジ状の係止部が設けられ、前記係止部が前記他方の部材に係止することにより、前記電極と導体である前記一方の部材との間の距離が導体である前記一方の部材と前記他方との間の距離と同じ距離に維持されることを特徴とする。
【0020】
なお、本発明にいう「二つの部材」は、別個独立した部材に限定されるものではない。たとえば、単一の部材が曲げられるなどして重畳する部分に生じる隙間も、測定対象となる。説明の便宜上、隙間の内側の一方の面を形成する部分を「一方の部材」と称し、隙間の内側の他方の面を形成する部分を「他方の部材」と称するに過ぎない。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、測定対象の隙間の内側の表面を構成する一方の部材を、ガルバニック電流を測定するための電極として用いる。このような構成によれば、一方の部材と他方の部材との間の隙間に、腐食環境センサを配設できる。このため、この隙間の内部の腐食環境を直接測定できる。そして、他方の部材に形成される切欠きまたは開口は、ベースおよび係止部によって塞がれる。さらに、電極と一方の部材との間の距離は、隙間の寸法と同じに維持される。このため、本発明にかかる腐食環境センサが設けられる部分の腐食環境は、本発明にかかる腐食環境センサが設けられない部分(すなわち、一方の部材と他方の部材との重畳部)と同じ状態に維持される。したがって、隙間の腐食環境を正確に測定できる。そして、ベースの表面にはスペーサが設けられるから、振動などした場合であっても、電極と一方の部材とが接触しない。したがって、走行する自動車など、振動が発生する環境下においても、腐食環境を正確に測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本腐食環境センサの構成と、本腐食環境センサが構造体に取り付けられる構成を模式的に示した斜視図である。
【図2】図2は、本腐食環境センサの構成と、本腐食環境センサが構造体に取り付けられる構成を模式的に示した斜視図であり、図1とは反対側から見た図である。
【図3】図3は、本腐食環境センサの構成と、本腐食環境センサが構造体に取り付けられる構成を模式的に示した断面図である。
【図4】図4は、本腐食環境センサと、従来の腐食環境センサの取り付け態様を、模式的に示した断面図である。
【図5】図5は、本腐食環境センサおよび従来の腐食環境センサによるガルバニック電流の測定結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。本発明の実施形態にかかる腐食環境センサ1は、少なくとも一方の部材が導体である二つの部材の間の隙間の腐食環境を測定できる。以下の説明においては、測定対象として、第一の部材81と第二の部材82とが重畳する重畳部を有する構造体8を例に示す。そして、第一の部材81は導体であるものとする。導通が無い場合は削る、鉄箔を貼るなどし、導通をとる。なお、第二の部材82は、導体であってもよく絶縁体であってもよい。第一の部材81が、本発明の「一方の部材」に相当し、第二の部材82が、本発明の「他方の部材」に相当する。
【0024】
まず、図1〜3を参照して、本発明の実施形態にかかる腐食環境センサ1の構成を説明する。説明の便宜上、本発明の実施形態にかかる腐食環境センサ1を、「本腐食環境センサ1」と称することがある。図1〜3は、本腐食環境センサ1の構成と、本腐食環境センサ1の構造体8の重畳部への組み付け構成を、模式的に示した図である。なお、図1と図2は互いに反対側から見た斜視図であり、図3は断面図である。図1〜3に示すように、本腐食環境センサ1は、ベース11と、電極12と、スペーサ13と、係止部14とを有する。
【0025】
ベース11は、所定の厚さを有する板状の部分であり、電気的な絶縁性を有する。ベース11の厚さ方向の一方の面が、構造体8の第一の部材81に対向可能な表面である。図1〜3においては、ベース11が平面状に形成される構成を示すが、ベース11は平面状でなくてもよい。ベース11の形状は、構造体8における第一の部材81と第二の部材82の重畳部の形状に応じて設定される。たとえば、第一の部材81と第二の部材82の重畳部が曲面状に形成される場合には、ベース11は、第一の部材81と第二の部材82の重畳部の形状に倣った曲面状に形成される。
【0026】
電極12は、ベース11の厚さ方向の一方の表面(=第一の部材81に対向可能な面)に形成される。そして、電極12は、構造体8に固定された状態において、導体である第一の部材81の隙間83の内側の表面に離間して対向し、この第一の部材81とガルバニックカップリングを形成する。電極12は、第一の部材81とイオン化傾向が異なる材料により形成される。特に、電極12は、第一の部材81よりもイオン化傾向が低い材料(=電気的に貴な材料)により形成される構成であることが好ましい。たとえば、第一の部材81が鉄系の材料(たとえば、鉄や鋼など)である場合や、亜鉛メッキ鋼板である場合には、電極12として、銀や白金が適用できる。なお、電極12の形状は、特に限定されるものではない。たとえば、電極12は、単純な平板状であってもよく、メッシュ状または格子状であってもよく、帯状であってもよい。
【0027】
スペーサ13は、電極12と第一の部材81の表面とを離間する状態に維持する構造物である。たとえば、スペーサ13は、突起状または柱状の構造を有した絶縁物で、ベース11の電極12が設けられる表面に設けられる。そして、電極12の表面からスペーサ13の先端までの寸法H1が、第一の部材81と第二の部材82との間の隙間83の寸法Cと同じ寸法に設定される。
【0028】
係止部14は、第二の部材82の隙間83の外側の表面に係止できる部分で、絶縁物である。たとえば、係止部14は、ベース11の厚さ方向の他方の面(=電極12およびスペーサ13が設けられる面の反対側の面)の周縁部に設けられ、ベース11の面方向の外側に向かって延伸するリブ状またはフランジ状の構成を有する。そして、係止部14が第二の部材82に係止することによって、本腐食環境センサ1が第一の部材81に対して位置決めされる。なお、係止部14は、ベース11と別個の部材であってもよく、ベース11と一体に形成される構成であってもよい。係止部14の表面と電極12の表面までの寸法H2は、第二の部材82の厚さTと略同じ寸法に設定される。この寸法H2の調整はベース11で行う。
【0029】
次に、本腐食環境センサ1を構造体8に取り付ける方法と、本腐食環境センサ1を用いる構造体8の隙間83の腐食環境測定方法について説明する。
【0030】
本腐食環境センサ1を構造体8に取り付ける方法は、次のとおりである。まず、構造体8の第一の部材81と第二の部材82との重畳部において、第二の部材82に切欠きまたは開口84を形成する。この切欠きまたは開口84は、本腐食環境センサ1のベース11は挿入可能であるが、係止部14は挿入不可能な寸法および形状に形成される。たとえば、この切欠きまたは開口84は、ベース11と略同じか、またはベース11より少し大きい寸法および形状に形成される。第二の部材82に切欠きまたは開口84が形成されると、この切欠きまたは開口84を通じて、第一の部材81の隙間83の内側の表面が露出する。そして、この切欠きまたは開口84に、本腐食環境センサ1のベース11を挿入する。そうすると、本腐食環境センサ1の係止部14が、第二の部材82の隙間83の外側の表面に当接する。そして、本腐食環境センサ1のベース11の一方の表面および電極12が、第一の部材81の隙間83の内側の表面に対向する。そして、係止部14が第二の部材82の隙間83の外側の表面に当接する状態で、本腐食環境センサ1を構造体8に固定する。たとえば、係止部14に形成される貫通孔を介して、係止部14が第二の部材82にネジ止めされる。そして、電極12と第一の部材81とに電流計2を接続する。この電流計2は、電極12と第一の部材81との間に流れる電流(=ガルバニック電流)を測定できる。
【0031】
係止部14から電極12の表面までの寸法H2は、第二の部材82の厚さTと同じ寸法に設定される。さらに、電極12の表面とスペーサ13の先端との間の寸法H1は、第一の部材81と第二の部材82との間の隙間83の寸法Cと同じに設定される。このため、電極12の表面と第一の部材81の隙間83の内側の表面との間の寸法は、第一の部材81と第二の部材82との間の隙間83の寸法Cと同じになる。そして、スペーサ13によって、電極12と第一の部材81とが離間する状態に維持される。したがって、第一の部材81とは異なるイオン化傾向を有する材料からなる電極12が、第一の部材81と離間して対向するように配設される。また、ベース11および係止部14によって、第二の部材82に形成される切欠きまたは開口84が塞がれる。このため、第一の部材81と本腐食環境センサ1とが対向する空間の環境は、第一の部材81と第二の部材82との間の隙間83の環境と同じ環境に維持される。
【0032】
水分が本腐食環境センサ1と第一の部材81との間に侵入し、電極12と第一の部材81とにまたがって接触すると、電極12と第一の部材81とがガルバニックカップリングを形成し、ガルバニック電流が流れる。ガルバニック電流は、ガルバニックカップリングを構成する部材の腐食速度と良好な相関を有している。そこで、電極12と第一の部材81との間に生じる電流(=ガルバニック電流)を電流計2によって測定することにより、隙間83の腐食環境を測定できる。このように、本腐食環境センサ1は、測定対象の隙間83の内側の表面を構成する第一の部材81を、ガルバニック電流を測定するための電極として用いる。このような構成によれば、第一の部材81と第二の部材82との間の隙間83の内部に、本腐食環境センサ1を配設できる。このため、この隙間83の内部の腐食環境を直接測定できる。また、第二の部材82に形成される切欠きまたは開口84は、ベース11および係止部14によって塞がれる。さらに、電極12と第一の部材81との間の距離は、この隙間83の寸法Cと同じに維持される。このため、本腐食環境センサ1が設けられる部分の腐食環境は、第一の部材81と第二の部材82との重畳部の隙間83と同じ状態に維持される。したがって、この隙間83の腐食環境を正確に測定できる。そして、ベース11の表面にはスペーサ13が設けられるから、構造体8が振動などした場合であっても、電極12と第一の部材81とが前記の距離をおいて離間した状態に維持されており接触しない。したがって、本腐食環境センサ1を自動車などに搭載して実際に走行して測定することが可能になる。
【0033】
(実施例)
次に、図4と図5を参照して、本腐食環境センサ1を用いた腐食環境の測定例(実施例)と、従来の腐食環境センサ91,92を用いた腐食環境の測定例(比較例1,2)について説明する。本腐食環境センサ1と従来の腐食環境センサ91,92を自動車のフロントメンバ6に取り付け、雨天走行を実施してガルバニック電流を測定した。図4は、本腐食環境センサ1と、従来の腐食環境センサ91,92のフロントメンバ6への取り付け態様を模式的に示した断面図である。図5は、本腐食環境センサ1および従来の腐食環境センサ91,92によるガルバニック電流の測定結果を示したグラフである。なお、一方の従来の腐食環境センサ91を「比較例1の腐食環境センサ91」と称し、他方の従来の腐食環境センサ92を、「比較例2の腐食環境センサ92」と称する。
【0034】
本腐食環境センサ1と比較例1,2の腐食環境センサ91,92の取り付け態様を、図4を参照して説明する。取り付け対象である自動車のフロントメンバ6は、内部が空洞のシェル状の構造体であり、プレス成形された複数の金属部材がスポット溶接されて構成される。具体的には、フロントメンバ6には、二つの金属部材61,62が重なり合う重畳部63を有し、この重畳部63において、二つの金属部材61,62がスポット溶接される。このため、この重畳部63において、二つの金属部材61,62の間に隙間64が生じる。そして、二つの金属部材61,62の一方に開口が形成され、この開口に本腐食環境センサ1が取り付けられる。比較例1の腐食センサ91は隙間形成部材を有し、電極はこの隙間形成部材により形成される隙間の内部に設けられる。比較例2の腐食センサ92は、隙間形成部材を有さず、電極が外気に開放する。これらの比較例1,2の腐食環境センサ91,92は、二つの金属部材61,62の間の隙間64の内部に取り付けることができないため、フロントメンバ6の内部であって、二つの金属部材61,62の重畳部63の近傍に取り付けられる。
【0035】
本腐食環境センサ1および比較例1,2の腐食環境センサ91,92によるガルバニック電流の測定結果を、図5を参照して説明する。図5に示すように、走行開始前においては、本腐食環境センサ1および比較例1の腐食環境センサ91の電流値は、比較例2の腐食環境センサ92の電流値よりも大きい。本腐食環境センサ1が取り付けられる二つの金属部材61,62の間の隙間64の内部と、比較例1の腐食環境センサ91により形成される疑似的な隙間の内部は、外気に開放される部分と比較して水分がたまりやすい。このため、このような測定結果が得られたものと考えられる。したがって、走行開始前においては、本腐食環境センサ1は、二つの金属部材61,62の間の隙間64の腐食環境を正確に測定できる。また、走行開始前においては、比較例1の腐食環境センサ91の隙間形成部材は、二つの金属部材61,62の間の隙間64の腐食環境を再現しているものと考えられる。これに対して、比較例2の腐食環境センサ92は、隙間64の腐食環境を正確に測定できないものと考えられる。
【0036】
走行開始後においては、本腐食環境センサ1の電流値は急激に上昇し、その後ほぼ一定の値を維持する。これは、自動車が雨天走行を開始すると、隙間64に水分が侵入し、隙間64の内部の湿度が高い状態が維持されるためと考えられる。これに対して、比較例1,2の腐食環境センサ91,92の電流値は、走行開始後に低下する。これは、走行によって生じる空気の流れによって、比較例1,2の腐食環境センサ91,92のセンサ上の水膜が蒸発するためと考えられる。特に、比較例1の腐食環境センサ91の電流値は緩やかに低下するのに対し、比較例2の腐食環境センサ92の電流値は、走行開始後に急激に低下する。これは、比較例1の腐食環境センサ91が隙間形成部材を有しているために、電極周辺の雰囲気が緩やかに乾燥するのに対して、比較例2の腐食環境センサ92の電極は大気開放しており、電極周辺の雰囲気が急激に乾燥するためであると考えられる。このように、走行開始後であっても、隙間64は、他の部分に比較して水分が多い状態に維持される。そして、本腐食環境センサ1の電流値は、隙間64の内部の環境を正確に反映している。これに対して、比較例1,2の腐食環境センサ91,92の電流値は、隙間64の内部の環境を正確に反映していない。したがって、本腐食環境センサ1は、自動車の走行中における二つの金属部材61,62の間の隙間64の腐食環境を正確に測定できる。これに対し、比較例1,2の腐食環境センサ91,92は、正確に測定できない。
【0037】
走行停止後においては、本腐食環境センサ1の電流値は緩やかに低下する。これは、走行停止によって、隙間64への水分の侵入が停止するため、隙間64の内部が徐々に乾燥するためであると考えられる。これに対して、比較例1,2の腐食環境センサ91,92の電流値は、徐々に上昇する。これは、走行風が無くなるために、徐々に湿度が高くなるためであると考えられる。このように、本腐食環境センサ1の電流値は、自動車の停止後における隙間64の内部の状態を正確に反映していると考えられる。このため、本腐食環境センサ1は、自動車の停止後においても、隙間64の内部の腐食環境を正確に測定できる。これに対して、比較例1,2の腐食環境センサ91,92は、自動車の走行停止後においても、この隙間64の内部の腐食環境を正確に測定できない。
【0038】
以上のとおり、本腐食環境センサ1は、自動車の走行前、走行中、走行後のいずれにおいても、二つの金属部材61,62の間の隙間64の内部の腐食環境を、正確に測定できる。これに対して、比較例1,2の腐食環境センサ91,92は、走行により生じる空気の流れの影響を受けるため、隙間64の内部の腐食環境を正確に測定できない。特に、比較例2の腐食環境センサ92は、電極が大気開放しているため、走行風の影響を大きく受ける。一方、比較例1の腐食環境センサ91は、隙間形成部材を有するため、走行開始前においては、隙間64の腐食環境を正確に再現できる。しかしながら、走行開始後においては、正確に測定できない。
【0039】
以上、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明したが、本発明は前記実施形態に何ら限定されるものではない。本発明は、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能である。たとえば、前記実施形態においては、ベースが板状に形成される構成を示したが、ベースがブロック状に形成される構成であってもよい。ベースの寸法および形状は、構造体を構成する部材の寸法および形状に応じて設定される。
【0040】
本発明にいう「二つの部材」は、「別体である二つの部材」に限定されるものではない。たとえば、単一の部材が曲げられるなどして重畳する部分に生じる隙間も、測定対象となる。説明の便宜上、隙間の互いに対向する二つの面の一方を形成する部分を「一方の部材」と称し、他方を形成する部分を「他方の部材」と称するに過ぎない。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、腐食環境センサおよび腐食環境の測定方法に関する。
【符号の説明】
【0042】
1:腐食環境センサ、11:ベース、12:電極、13:スペーサ、14:係止部、2:電流計、8:構造体、81:第一の部材、82:第二の部材、83:隙間、84:切欠きまたは開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の部材が導体である二つの部材の間の隙間の内部の腐食環境を測定する腐食環境センサであって、
導体である前記一方の部材に対向可能な表面を有するベースと、
前記ベースの前記表面に設けられ、導体である前記一方の部材とイオン化傾向が異なる材料により形成され、導体である前記一方の部材と離間して対向することにより導体である前記一方の部材とガルバニックカップリングを形成する電極と、
を有することを特徴とする腐食環境センサ。
【請求項2】
前記ベースには、導体である前記一方の部材と前記電極とを離間するためのスペーサが設けられることを特徴とする請求項1に記載の腐食環境センサ。
【請求項3】
前記ベースには、前記二つの部材のうちの他方の部材に係止する係止部が設けられることを特徴とする請求項1または2に記載の腐食環境センサ。
【請求項4】
少なくとも一方の部材が導体である二つの部材の間の隙間の内部の腐食環境測定方法であって、
導体である前記一方の部材とは異なるイオン化傾向を有する材料からなる電極を前記一方の部材と離間して対向するように配設し、
前記電極と導体である前記一方の部材との間のガルバニック電流を測定することを特徴とする腐食環境測定方法。
【請求項5】
少なくとも一方の部材が導体である二つの部材の間の隙間の内部の腐食環境測定方法であって、
導体である前記一方の部材に対向する他方の部材に切欠きまたは開口を形成し、
前記一方の部材とイオン化傾向が異なる材料からなる電極がベースの表面に設けられる腐食環境センサを、前記他方の部材に形成される切欠きまたは開口に配設して前記電極を導体である前記一方の部材に離間して対向させ、
前記電極と導体である前記一方の部材との間のガルバニック電流を測定することを特徴とする腐食環境測定方法。
【請求項6】
前記電極と導体である前記一方の部材との間の距離は、導体である前記一方の部材と前記他方の部材との間の距離と同じであることを特徴とする請求項5に記載の腐食環境測定方法。
【請求項7】
前記ベースに突起状のスペーサを設け、前記スペーサによって前記電極と導体である前記一方の部材とを離間した状態に維持することを特徴とする請求項6に記載の腐食環境測定方法。
【請求項8】
前記ベースによって前記他方の部材に形成される前記切欠きまたは前記開口を塞ぐことを特徴とする請求項5または6に記載の腐食環境測定方法。
【請求項9】
前記ベースの厚さは前記他方の部材の厚さと同じであるとともに、前記ベースにはフランジ状の係止部が設けられ、前記係止部が前記他方の部材に係止することにより、前記電極と導体である前記一方の部材との間の距離が導体である前記一方の部材と前記他方との間の距離と同じ距離に維持されることを特徴とする請求項5から8のいずれか1項に記載の腐食環境測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−220452(P2012−220452A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89507(P2011−89507)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】