説明

腐食疲労試験装置

【課題】海洋環境下での金属材料の腐食疲労特性をより精度よく評価できる腐食疲労試験装置を提供する。
【解決手段】腐食疲労試験装置10は、金属試験片12に繰返し荷重を負荷する試験装置本体14と、金属試験片が浸漬される腐食液22が入れられた試験セル20と、試験セル内に前記腐食液に浸漬されて配置された試験片模擬電極28及び参照電極30と、電位計測器32と、腐食液貯蔵容器40と、腐食液搬送手段44、46、48と、制御手段60とを備え、腐食液は、腐食液貯蔵容器に貯められた人工海水と、人工海水に入れた海棲生物56により繁殖した藻類とを含み、制御手段は、試験セルへの腐食液の搬送を制御し、金属試験片の浸漬電位を予め自然海水に金属試験片と同じ材質で形成された金属電極を浸漬させて求めた基準浸漬電位と同電位にして、金属試験片に繰返し荷重を負荷する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食疲労試験装置に係り、特に、海洋環境下での金属材料の腐食疲労を評価する腐食疲労試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、海洋環境で金属製構造体や金属製機器が多く使用されており、海洋環境下での金属材料の耐腐食疲労特性の評価が必要とされている。金属材料、例えば、ステンレス鋼は、表面に形成されるCr酸化物からなる不働態皮膜の下地保護性(優れた耐食性)から、各種腐食環境において使用されている。しかし、ステンレス鋼の使用環境中に塩化物が存在すると、不働態皮膜が破られ、孔食やすきま腐食等の局部腐食が発生する。そして、孔食やすきま腐食した箇所を基点として腐食疲労が発生し進展する。
【0003】
非特許文献1には、海洋環境下等の使用を目的に開発された2.5%Mo含有高強度オーステナイト系ステンレス鋼について3%NaCl水溶液中で腐食疲労試験を行い、腐食疲労強度低下率が比較的小さいことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】江原降一郎他、「2.5%Mo含有高強度オーステナイト系ステンレス鋼の腐食疲労挙動」、第30回疲労シンポジウム講演論文集(平成22年10月28日から30日)、社団法人日本材料学会 疲労部門委員会 第67頁〜第70頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の海洋環境下での金属材料の腐食疲労特性評価は、非特許文献1等に示されるように人工海水を用いて評価を行っている。しかし、実際の海洋環境下では、金属製構造体や金属製機器等の表面に藻類等の微生物が付着する。自然海水に浸漬された状態の金属製構造体や金属製機器等に藻類等が付着すると、藻類等が付着した部位の浸漬電位がより高くなるので、孔食やすきま腐食等の局部腐食が発生しやすくなる。
【0006】
金属材料の腐食疲労評価を人工海水を用いて評価した場合には、人工海水には藻類等の微生物が含まれていないので、海洋環境下における金属材料の腐食疲労特性を精度よく評価できない可能性がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、海洋環境下での金属材料の腐食疲労特性をより精度よく評価できる腐食疲労試験装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る腐食疲労試験装置は、金属材料の腐食疲労を評価する腐食疲労試験装置であって、金属試験片に繰返し荷重を負荷する試験装置本体と、前記試験装置本体に配置され、前記金属試験片が浸漬される腐食液が入れられた試験セルと、を備え、前記腐食液は、塩化ナトリウムを含む人工海水を含み、前記腐食液に浸漬された金属試験片の浸漬電位を、予め自然海水に前記金属試験片と同じ材質で形成された金属電極を浸漬させて求めた基準浸漬電位と同電位にして、前記金属試験片に繰返し荷重を負荷することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る腐食疲労試験装置は、前記試験セル内に前記腐食液に浸漬されて配置され、前記金属試験片と同じ材質で形成された試験片模擬電極と、前記試験セル内に前記腐食液に浸漬されて配置される参照電極と、前記試験片模擬電極と前記参照電極とに接続される電位計測器と、前記腐食液が貯められた腐食液貯蔵容器と、前記腐食液貯蔵容器から前記試験セルへ前記腐食液を搬送する腐食液搬送手段と、前記試験装置本体と、前記電位計測器と、前記腐食液搬送手段と、を制御する制御手段と、を備え、前記腐食液は、前記腐食液貯蔵容器に貯められた前記人工海水と、前記人工海水に入れた海棲生物により繁殖した藻類と、を含み、前記制御手段は、前記試験セルへの前記腐食液の搬送を制御し、前記腐食液に浸漬された前記金属試験片の浸漬電位を、予め自然海水に前記金属試験片と同じ材質で形成された金属電極を浸漬させて求めた基準浸漬電位と同電位にして、前記金属試験片に繰返し荷重を負荷することが好ましい。
【0010】
本発明に係る腐食疲労試験装置は、前記試験セル内に前記腐食液に浸漬されて配置され、前記金属試験片と同じ材質で形成された試験片模擬電極と、前記試験セル内に前記腐食液に浸漬されて配置される参照電極と、前記試験片模擬電極と前記参照電極とに接続される電位計測器と、前記人工海水が貯められた人工海水貯蔵容器と、前記人工海水貯蔵容器から前記試験セルへ前記人工海水を搬送する人工海水搬送手段と、酸化剤が貯められた酸化剤貯蔵容器と、前記酸化剤貯蔵容器から前記試験セルへ前記酸化剤を搬送する酸化剤搬送手段と、前記試験装置本体と、前記電位計測器と、前記人工海水搬送手段と、前記酸化剤搬送手段とを制御する制御手段と、を備え、前記腐食液は、前記試験セルに入れられた前記人工海水に前記酸化剤を加えて作製され、前記制御手段は、前記試験セルへの酸化剤の搬送を制御し、前記腐食液に浸漬された前記金属試験片の浸漬電位を、予め自然海水に前記金属試験片と同じ材質で形成された金属電極を浸漬させて求めた基準浸漬電位と同電位にして、前記金属試験片に繰返し荷重を負荷することが好ましい。
【0011】
本発明に係る腐食疲労試験装置において、前記酸化剤は、次亜塩素酸、次亜塩素酸塩、過酸化水素またはオゾンであることが好ましい。
【0012】
本発明に係る腐食疲労試験装置は、前記試験セルに設けられ、前記腐食液に浸漬されて配置される白金電極と、前記試験セルに設けられ、前記腐食液に浸漬されて配置される参照電極と、前記白金電極と、前記参照電極と、前記金属試験片とに接続されるポテンショスタットと、前記試験装置本体と、前記ポテンショスタットと、を制御する制御手段と、を備え、前記腐食液は、前記人工海水からなり、前記制御手段は、前記ポテンショスタットを制御し、前記腐食液に浸漬された前記金属試験片の浸漬電位を、予め自然海水に前記金属試験片と同じ材質で形成された金属電極を浸漬させて求めた基準浸漬電位と同電位にして、前記金属試験片に繰返し荷重を負荷することが好ましい。
【0013】
本発明に係る腐食疲労試験装置において、前記金属材料は、不働態皮膜を形成する金属材料であることが好ましい。
【0014】
本発明に係る腐食疲労試験装置において、前記基準浸漬電位は、前記自然海水中における藻類が付着した金属電極の浸漬電位に基づいて定められることが好ましい。
【0015】
本発明に係る腐食疲労試験装置において、前記基準浸漬電位は、前記金属電極に付着した藻類量に基づいて定められることが好ましい。
【0016】
本発明に係る腐食疲労試験装置において、前記金属試験片がステンレス鋼で形成される場合には、前記基準浸漬電位が+0.6V vs. SHE(標準水素電極)以上であり、前記金属試験片がチタン材料で形成される場合には、前記基準浸漬電位が+0.7V vs. SHE(標準水素電極)以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
上記構成の腐食疲労試験装置によれば、人工海水に含まれる塩化物の影響と、藻類等の微生物が付着することによる浸漬電位上昇の影響とが複合的に評価されるので、海洋環境下での金属材料の腐食疲労特性をより精度よく評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態において、腐食疲労試験装置の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態において、試験セルの構成を示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態において、ステンレス電極の浸漬電位を測定したグラフである。
【図4】本発明の実施の形態において、海洋環境下で自然海水に浸漬したチタン電極の浸漬電位を測定したグラフである。
【図5】本発明の実施の形態において、ステンレス鋼及びチタンの浸漬電位(自然腐食電位Esp)における温度とpH依存性を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態において、腐食疲労試験方法の手順を示すフローチャートである
【図7】本発明の他の実施の形態において、試験セルの構成を示す模式図である。
【図8】本発明の他の実施の形態において、腐食疲労試験方法の手順を示すフローチャートである。
【図9】本発明の別な実施の形態において、試験セルの構成を示す模式図である。
【図10】本発明の別な実施の形態において、腐食疲労試験方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、腐食疲労試験装置10の構成を示す模式図である。
【0020】
腐食疲労試験装置10は、金属試験片12に繰返し荷重を負荷する試験装置本体14と、油圧源16と、を備えている。試験装置本体14は、金属試験片12の両端を把持して繰返し荷重を負荷するためのロッド18a、18bを有している。試験装置本体14には、金属試験片12を腐食液に浸漬させるための試験セル20が取り付けられている。
【0021】
なお、腐食疲労を評価する金属材料は、特に限定されないが、不働態皮膜を形成する金属材料であることが好ましい。これらの金属材料は、環境中に存在する塩化物により、局所的に不働態皮膜が破られ、孔食やすきま腐食等の局部腐食を起こしやすいからである。不働態皮膜を形成する金属材料は、例えば、チタン材やステンレス鋼等である。
【0022】
図2は、試験セル20の構成を示す模式図である。試験セル20は、中空状に形成されており、腐食液22を注入可能な空間を有している。試験セル20には、例えば、200cc程度の腐食液22を注入することができる。
【0023】
試験セル20には、その上面及び下面に、試験装置本体14のロッド18a、18bが挿通可能な開口部24が設けられている。試験セル20と、ロッド18a、18bとの間には、試験セル20内から腐食液22が漏れないようにシール部材26が設けられている。試験セル20には、腐食液22を加温するためのヒータ(図示せず)が設けられている。
【0024】
試験セル20には、試験片模擬電極28と、参照電極30とが取り付けられている。試験片模擬電極28と参照電極30とは、絶縁被覆した金属製のリード線で電位計測器32に接続されている。
【0025】
試験片模擬電極28は、腐食液22に浸漬された金属試験片12の浸漬電位を求めるために、金属試験片12と同じ材質のもので小片に形成されている。例えば、金属試験片12を汎用ステンレス鋼SUS304で形成する場合には、試験片模擬電極28も汎用ステンレス鋼SUS304で形成される。また、金属試験片12を工業用純チタンTi−Gr1で形成する場合には、試験片模擬電極28も工業用純チタンTi−Gr1で形成される。
【0026】
参照電極30には、一般的なAg/AgCl電極を用いることができる。電位計測器32には、一般的なエレクトロメータ(電位差計)等が用いられる。腐食液22に浸漬された試験片模擬電極28と参照電極30との電位差を計測して試験片模擬電極28の浸漬電位を求めることにより、腐食液22に浸漬された金属試験片12の浸漬電位を求めることができる。
【0027】
試験セル20の下面には、試験セル20内に腐食液22を注入するための注入口34が設けられている。試験セル20には、腐食液22のオーバーフローを防止すると共に、試験セル20と後述する腐食液貯蔵容器40との間で腐食液22を循環させるためのオーバーフロー管36が設けられている。オーバーフロー管36は、金属試験片12の全体を腐食液22に浸漬させるために、オーバーフロー管36の先端38が金属試験片12の上端よりも鉛直方向上側に位置するように配置されている。
【0028】
腐食液貯蔵容器40には、試験セル20に注入するための腐食液22が貯められている。腐食液貯蔵容器40は、試験セル20より鉛直方向下方に配置されている。腐食液貯蔵容器40には、例えば、50L程度の腐食液22を貯めることができる。
【0029】
腐食液貯蔵容器40の送液口42と、試験セル20の注入口34とは、配管44で接続されている。配管44には、ポンプ46、バルブ48、流量計(図示せず)等が設けられている。ポンプ46には、一般的な液送ポンプ等が用いられる。バルブ48には、一般的な電磁弁等が用いられる。
【0030】
配管44と、ポンプ46と、バルブ48とは、腐食液搬送手段としての機能を有しており、ポンプ46とバルブ48とを作動させることにより腐食液22を腐食液貯蔵容器40から試験セル20へ搬送することができる。また、腐食液貯蔵容器40の送液口42には、後述する海棲生物56が流れ出さないようにフィルタ50が設けられている。フィルタ50は、例えば、合成樹脂等でメッシュ状に形成されている。
【0031】
配管44には、搬送される腐食液22の一部を腐食液貯蔵容器40へ戻すための分岐配管52を設けることが好ましい。分岐配管52の一端は、バルブ48に接続され、分岐配管52の他端は腐食液貯蔵容器40の上面に接続される。分岐配管52を設ける場合には、バルブ48には三方弁等が用いられる。バルブ48を調節することにより、試験セル20へ搬送される腐食液22の量と、腐食液貯蔵容器40へ戻される腐食液22の量との比率を変えることができる。分岐配管52を設けることにより、試験セル20内へ注入される腐食液22の一部を腐食液貯蔵容器40へ戻すことができるので、試験セル20内への腐食液22の注入量をより精度よく調節することができる。
【0032】
腐食液貯蔵容器40の上面には、オーバーフロー管36と接続した受液口54が設けられている。試験セル20内に注入された腐食液22は、オーバーフロー管36を通って受液口54から腐食液貯蔵容器40に戻される。このように、試験セル20と腐食液貯蔵容器40との間で腐食液22を循環させることができる。
【0033】
腐食液22は、腐食液貯蔵容器40に貯められた人工海水中に海棲生物56を入れて作製される。腐食液貯蔵容器40に貯められた人工海水に海棲生物56を入れて、例えば、飼育等することにより、人工海水中に珪藻等の藻類を繁殖させられるので、自然海水により近い腐食液22を作製することができる。
【0034】
腐食液貯蔵容器40には、海棲生物56を飼育等するために、空気吹き込み機器58、図示しないヒータ、水温計、比重計等が設けられる。なお、腐食液貯蔵容器40は、外側から目視で藻類の繁殖を確認するために、透明なアクリル等の合成樹脂で形成された合成樹脂容器やガラス容器で構成されることが好ましい。
【0035】
人工海水には、海棲生物56を飼育等するために、自然海水と略同等の化学組成成分(塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等)を含む塩類水溶液が用いられる。人工海水には、例えば、一般的に市販されているアクアマリン(八州薬品株式会社製)等を用いることができる。
【0036】
海棲生物56は、特に限定されないが、一般に観賞用として飼育されている海水魚や海草等を用いることが好ましい。海水魚には、例えば、スズメダイ、チョウチョウウオ、フグ等を用いればよい。
【0037】
制御手段60は、試験装置本体14、油圧源16、試験セル20、電位計測器32、腐食液貯蔵容器40、ポンプ46、及びバルブ48等と電気的に接続され、これらの機器を制御する機能を有している。また、制御手段60は、ポンプ46やバルブ48を制御して、試験セル20内への腐食液22の搬送量を調節することができる。制御手段60は、例えば、一般的なパーソナルコンピュータ等で構成される。
【0038】
制御手段60は、データを計算処理する計算処理部62と、データを記憶する記憶部64と、金属試験片12への繰返し荷重の負荷の可否を判定する判定部66と、を有している。
【0039】
計算処理部62では、電位計測器32から送られたデータに基づいて、試験片模擬電極28の浸漬電位が計算処理される。
【0040】
記憶部64には、予め自然海水(天然海水)に金属試験片12と同じ材質で形成された金属電極を浸漬させて求められた浸漬電位が記憶されている。この予め求められた浸漬電位は、金属試験片12への繰返し荷重の負荷の可否を判定するための基準浸漬電位を構成する。
【0041】
判定部66では、試験片模擬電極28の浸漬電位に基づいて、金属試験片12への繰返し荷重の負荷の可否が判定される。判定部66では、試験片模擬電極28の浸漬電位と、基準浸漬電位とが比較される。そして、試験片模擬電極28の浸漬電位が基準浸漬電位と同電位になったときに、金属試験片12へ繰返し荷重の負荷が可能であると判定する。
【0042】
次に、基準浸漬電位の求め方について説明する。基準浸漬電位は、予め自然海水中に金属試験片12と同じ材質で形成された金属電極を浸漬させて求められる。
【0043】
図3は、ステンレス電極の浸漬電位を測定したグラフであり、図3(a)は、海洋環境下で自然海水中に浸漬したステンレス電極の浸漬電位を測定したグラフであり、図3(b)は、人工海水中(3.5%〔NaCl〕+5g/L〔NaSO〕の空気飽和溶液、pH8.2、液温20℃)に浸漬したステンレス電極の浸漬電位を測定したグラフである。図3(a)及び図3(b)に示すグラフの横軸は、ステンレス電極の浸漬時間(s)を示し、グラフの左縦軸は、標準水素電極を基準とした浸漬電位(V vs. SHE)を示し、グラフの右縦軸は、飽和カロメル電極を基準とした浸漬電位(V vs. SCE)を示している。
【0044】
図3(a)のグラフから明らかなように、ステンレス電極を自然海水中に浸漬した場合には、浸漬開始から浸漬時間の増加とともにステンレス電極の電極表面における藻類の付着量が増加し、浸漬電位が上昇する。そして、約1×10s(278hrs)を経過すると浸漬電位は+0.6V vs. SHE(標準水素電極)で略一定となる。
【0045】
これに対して、ステンレス電極を人工海水中に浸漬した場合には、図3(b)のグラフから明らかなように、浸漬電位は、浸漬開始から+0.15〜+0.25V vs. SHE(標準水素電極)で略一定となる。このように、人工海水中には藻類が含まれていないので、電極表面に藻類の付着がなく、浸漬電位の上昇はみられない。
【0046】
図4は、海洋環境下で自然海水に浸漬したチタン電極の浸漬電位を測定したグラフである。チタン電極を海洋環境下で自然海水に所定期間(300hrsから500hrs)浸漬させて電極表面に藻類を付着させた後、自然海水中でチタン電極の浸漬電位を測定した。図4のグラフの横軸は浸漬電位の測定時間を示し、グラフの縦軸は標準水素電極を基準とした浸漬電位を示している。なお、チタン電極には工業用純チタンTi−Gr.1を使用し、参照電極にはAg/AgCl電極を使用した。
【0047】
まず、自然海水に所定期間(300hrsから500hrs)浸漬させた後、チタン電極の表面に藻類が付着した状態で自然海水に浸漬させて浸漬電位を測定した。藻類が付着したチタン電極68aの浸漬電位は、+0.7V vs. SHE(標準水素電極)であった。
【0048】
次に、チタン電極68aに付着した大きな藻類の塊を取り除いた後(微細な藻類はチタン電極に付着したままの状態)、自然海水に浸漬させて浸漬電位を測定した。大きな藻類の塊を取り除いたチタン電極68bの浸漬電位は、+0.6V vs. SHE(標準水素電極)であった。
【0049】
更に、チタン電極68bの表面を研磨した後(微細な藻類もチタン電極からほとんど除去された状態)、自然海水に浸漬させて浸漬電位を測定した。表面を研磨したチタン電極68cの浸漬電位は、+0.25V vs. SHE(標準水素電極)であった。
【0050】
藻類が付着したチタン電極68a、68bの浸漬電位は、表面を研磨したチタン電極68cの浸漬電位と比較して高い浸漬電位を示した。また、藻類の付着量が多いチタン電極68aの浸漬電位は、藻類の付着量が少ないチタン電極68bより高い浸漬電位を示した。
【0051】
図5は、ステンレス鋼及びチタンの浸漬電位(自然腐食電位Esp)における温度とpH依存性を示すグラフである。図5のグラフの横軸はpH値を示し、グラフの左縦軸は、標準水素電極を基準とした浸漬電位(mV vs. SHE)を示し、グラフの右縦軸は、飽和カロメル電極を基準とした浸漬電位(mV vs. SCE)を示している。
【0052】
図5のグラフから、20℃における標準的な自然海水のpH値であるpH8.2のときのステンレス鋼及びチタンの浸漬電位を、Esp=0.733−0.059pHにpH8.2を代入して求めると、+0.25V vs. SHE(標準水素電極)である。この結果は、図3(b)のグラフに示すステンレス鋼の浸漬電位、図4のグラフに示すチタン電極68cの浸漬電位と略一致している。
【0053】
このように、金属材料を自然海水中に浸漬させた場合には、自然海水中に含まれる藻類等の付着量の影響により金属材料の浸漬電位が高くなるので、孔食やすきま腐食等の局部腐食生起を加速する可能性がある。
【0054】
そこで、基準浸漬電位は、金属材料が使用される海洋環境を考慮して、自然海水中における藻類が付着した金属電極の浸漬電位に基づいて定められる。更に、基準浸漬電位は、金属電極に付着した藻類の単位面積当りの付着量に基づいて定められることが好ましい。
【0055】
標準的な海洋環境でステンレス鋼を使用する場合には、通常、図3(a)のグラフに示すように浸漬電位が+0.6V vs. SHE(標準水素電極)となるので、基準浸漬電位を+0.6V vs. SHE(標準水素電極)またはそれ以上とすればよい。また、藻類の発生が比較的少なく、浸漬電位が+0.6V vs. SHE(標準水素電極)に到達しない海洋環境でステンレス鋼を使用する場合には、基準浸漬電位を、例えば+0.4〜+0.5V vs. SHE(標準水素電極)とすればよい。更に、藻類の発生がほとんど生じない海洋環境でステンレス鋼を使用する場合には、基準浸漬電位を、例えば、人工海水中の浸漬電位より少し高い+0.25〜+0.3V vs. SHE(標準水素電極)とすればよい。
【0056】
標準的な海洋環境でチタン材料を使用する場合には、通常、図4のチタン電極68aのグラフに示すように浸漬電位が+0.7V vs. SHE(標準水素電極)となるので、基準浸漬電位を+0.7V vs. SHE(標準水素電極)またはそれ以上とすればよい。また、藻類の発生が比較的少なく、浸漬電位が+0.7V vs. SHE(標準水素電極)に到達しない海洋環境でチタン材料を使用する場合には、基準浸漬電位を、例えば+0.6V vs. SHE(標準水素電極)とすればよい。更に、藻類の発生がほとんど生じない海洋環境でチタン材料を使用する場合には、基準浸漬電位を、例えば、人工海水中の浸漬電位より少し高い+0.25〜+0.3V vs. SHE(標準水素電極)とすればよい。
【0057】
なお、上記の基準浸漬電位の求め方はステンレス鋼及びチタン材料について説明したが、他の金属材料についても同様の方法で基準浸漬電位を求めることができる。
【0058】
次に、腐食疲労試験方法について説明する。図6は、腐食疲労試験方法の手順を示すフローチャートである。
【0059】
腐食液貯蔵容器40に貯められた人工海水中に海水魚や海草等の海棲生物を入れて、例えば、飼育等を行い、人工海水中に藻類を繁殖させて腐食液22を作製する(S10)。藻類の繁殖は、例えば、腐食液貯蔵容器40の表面に付着した付着物等で確認することができる。
【0060】
試験セル20及び金属試験片12のセットアップを行なう(S11)。試験装置本体14のロッド18a、18bに金属試験片12を取り付けて、試験装置本体14に試験セル20をセットする。
【0061】
試験セル20へ腐食液22を注入し、循環させる(S12)。腐食液貯蔵容器40から試験セル20内に腐食液22を注入する。制御手段60によりポンプ46を作動させると共にバルブ48を開けて、腐食液22を試験セル20へ搬送する。試験セル20内に注入された腐食液22は、オーバーフロー管36を通って腐食液貯蔵容器40へ戻される。試験セル20内の金属試験片12と試験片模擬電極28と参照電極30とは、腐食液22に浸漬される。そして、試験セル20と腐食液貯蔵容器40との間で腐食液22を循環させることにより、金属試験片12と試験片模擬電極28とに腐食液22中に含まれる藻類が付着する。
【0062】
試験片模擬電極28の浸漬電位を測定する(S13)。電位測定器から制御手段60へ試験片模擬電極28のデータが送られ、計算処理部62で試験片模擬電極28の浸漬電位が算出される。試験片模擬電極28の表面に付着する藻類の量が増えるのに伴って、試験片模擬電極28の浸漬電位が高くなる。
【0063】
試験片模擬電極28の浸漬電位と、予め求められた基準浸漬電位とを比較して、繰返し荷重の負荷の可否を判定する(S14)。制御手段60の判定部66で、試験片模擬電極28の浸漬電位と基準浸漬電位とが比較される。試験片模擬電極28の浸漬電位が基準浸漬電位より低い場合には、金属試験片12に繰返し荷重を負荷せずに腐食液22中への浸漬を継続する。
【0064】
試験片模擬電極28の浸漬電位が基準浸漬電位と同電位になったら、金属試験片12の浸漬電位が基準浸漬電位に達したとみなして金属試験片12に繰返し荷重を負荷して疲労試験を開始する(S15)。制御手段60は、金属試験片12に繰返し荷重を負荷している間についても、試験片模擬電極28の浸漬電位が基準浸漬電位となるようにポンプ46やバルブ48の作動を制御して、腐食液貯蔵容器40から試験セル20へ搬送される腐食液量を調整する。それにより、金属試験片12に繰返し荷重を負荷している間も腐食液22に含まれる藻類が試験セル20内へ供給されるので基準浸漬電位を保持することができる。
【0065】
金属試験片12が疲労破壊した場合または疲労限に達した場合には、繰返し荷重の負荷を停止する(S16)。制御手段60により試験装置本体14のロッド18a、18bの作動を停止して、金属試験片12への繰返し荷重の負荷を停止する。以上により、腐食疲労試験が完了する。
【0066】
上記構成によれば、藻類を含む人工海水からなる腐食液を用いて腐食疲労試験を行えるので、人工海水に含まれる塩化物の影響と、藻類の付着による浸漬電位上昇の影響とが複合的に評価され、海洋環境下での金属材料の腐食疲労特性をより精度よく評価することができる。
【0067】
上記構成によれば、腐食液貯蔵容器に貯められた人工海水中に入れた海棲生物により藻類を繁殖させているので、金属試験片に繰返し荷重を長期間(例えば、1ヶ月から3ヶ月)負荷する場合でも、活性のある藻類を試験セルへ供給することができる。そのため、実海洋環境下で腐食疲労試験を実施する必要がなく、実験室レベルでも実海洋環境下に近い環境で腐食疲労特性を評価できる。
【0068】
次に、他の腐食疲労試験装置について説明する。
【0069】
他の腐食疲労試験装置は、腐食疲労試験装置10と試験セル及び腐食液搬送手段等の構成が相違しており、試験装置本体14及び油圧源16は同じ構成を備えている。なお、同様な要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0070】
図7は、試験セル70の構成を示す模式図である。試験セル70は、中空状に形成されており、腐食液72を注入可能な空間を有している。試験セル70には、金属試験片12を把持したロッド18a、18bが挿通可能な開口部24が設けられている。開口部24の周りには、試験セル70とロッド18a、18bとの間から腐食液72が漏れないようにシール部材26が設けられている。
【0071】
試験セル70には、試験片模擬電極28と、参照電極30とが取り付けられている。試験片模擬電極28と参照電極30とは、電位計測器32に接続されている。試験片模擬電極28と参照電極30とは、いずれも腐食液72に浸漬されており、試験片模擬電極28の浸漬電位を計測することにより、腐食液72に浸漬された金属試験片12の浸漬電位が求められる。
【0072】
人工海水貯蔵容器74には、人工海水が貯蔵されている。人工海水貯蔵容器74と試験セル70とは、人工海水を搬送する配管76で接続されている。配管76には、ポンプ78やバルブ80等が設けられている。配管76と、ポンプ78と、バルブ80とは、人工海水貯蔵容器74から試験セル70へ人工海水を搬送する人工海水搬送手段としての機能を有している。ポンプ78には、一般的な液送ポンプが用いられ、バルブ80には、一般的な電磁弁等が用いられる。
【0073】
人工海水には、塩化ナトリウムを含む塩類水溶液が用いられる。人工海水には、自然海水と略同等の化学組成成分、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等を含む塩類水溶液を用いることが好ましい。人工海水には、例えば、上述したアクアマリン(八州薬品株式会社製)、ASTM D1141−52に準拠した塩類水溶液、3〜3.5重量%NaClを含む塩類水溶液等が使用される。
【0074】
酸化剤貯蔵容器82には、酸化剤が貯蔵されている。酸化剤貯蔵容器82と試験セル70とは、酸化剤を搬送する配管84で接続されている。配管84には、ポンプ86やバルブ88等が設けられている。配管84と、ポンプ86と、バルブ88とは、酸化剤貯蔵容器82から試験セル70へ酸化剤を搬送する酸化剤搬送手段としての機能を有している。ポンプ86には、一般的な液送ポンプが用いられ、バルブ88には、一般的な電磁弁等が用いられる。
【0075】
酸化剤には、例えば、次亜塩素酸または次亜塩素酸塩(例えば、次亜塩素酸ナトリウム)、過酸化水素、オゾン等が用いられる。試験セル70に入れられた人工海水に酸化剤を添加して腐食液72を作製することにより、腐食液72に浸漬させた金属試験片12の浸漬電位を高めることができる。例えば、金属試験片12にステンレス鋼製試験片を使用し、酸化剤に次亜塩素酸を用いた場合には、約1ppmの次亜塩素酸濃度でステンレス鋼製試験片の浸漬電位を+0.6V vs. SHE(標準水素電極)とすることができる。
【0076】
制御手段90は、試験装置本体14、油圧源16、試験セル70、人工海水貯蔵容器74、酸化剤貯蔵容器82、電位計測器32、ポンプ78、86、バルブ80、88等と電気的に接続され、これらの機器を制御する機能を有している。また、制御手段90は、ポンプ78、86やバルブ80、88を制御して、試験セル70内への人工海水や酸化剤の搬送量を調節することができる。
【0077】
制御手段90は、制御手段60と同様にパーソナルコンピュータ等で構成され、試験片模擬電極28の浸漬電位等を計算処理する計算処理部62と、基準浸漬電位を記憶する記憶部64と、金属試験片12への繰返し荷重負荷の可否を判定する判定部66と、を有している。
【0078】
次に、腐食疲労試験方法について説明する。図8は、腐食疲労試験方法の手順を示すフローチャートである。
【0079】
試験セル70及び金属試験片12のセットアップを行なう(S20)。試験装置本体14のロッド18a、18bに金属試験片12を取り付けて、試験装置本体14に試験セル70をセットする。
【0080】
試験セル70内へ人工海水を注入する(S21)。制御手段90によりポンプ78を作動させると共にバルブ80を開いて、人工海水を人工海水貯蔵容器74から試験セル70へ搬送する。そして、試験セル70内の金属試験片12と試験片模擬電極28と参照電極30とが、人工海水に浸漬される。
【0081】
試験片模擬電極28の浸漬電位を測定する(S22)。電位計測器32から制御手段90へ試験片模擬電極28のデータが送られ、計算処理部62で試験片模擬電極28の浸漬電位が算出される。
【0082】
試験セル70へ酸化剤を添加する(S23)。制御手段90によりポンプ86を作動させると共にバルブ88を開いて、酸化剤を酸化剤貯蔵容器82から試験セル70へ搬送する。人工海水に添加される酸化剤の量が増えるのに伴って、試験片模擬電極28の浸漬電位がより高くなる。
【0083】
試験片模擬電極28の浸漬電位と、予め求められた基準浸漬電位とを比較し、繰返し荷重負荷の可否を判断する(S24)。制御手段90の判定部66で、金属試験片12の浸漬電位と基準浸漬電位とが比較される。試験片模擬電極28の浸漬電位が基準浸漬電位より低い場合には、金属試験片12に繰返し荷重を負荷せずに酸化剤の添加を継続する。
【0084】
試験片模擬電極28の浸漬電位が基準浸漬電位と同電位となったら、金属試験片12の浸漬電位が基準浸漬電位に達したとみなして金属試験片12に繰返し荷重を負荷して疲労試験を開始する(S25)。制御手段90は、金属試験片12に繰返し荷重を負荷している間についても、試験片模擬電極28の浸漬電位が基準浸漬電位となるように、ポンプ86やバルブ88の作動を制御して酸化剤貯蔵容器82から試験セル70へ搬送される酸化剤量を調節する。
【0085】
金属試験片12が疲労破壊した場合または疲労限に達した場合には、繰り返し荷重の負荷を停止する(S26)。制御手段90により試験装置本体14のロッド18a、18bの作動を停止して、金属試験片12への繰返し荷重の負荷を停止する。以上により、腐食疲労試験が完了する。
【0086】
上記構成によれば、人工海水に酸化剤を添加した腐食液を用いて腐食疲労試験を行えるので、人工海水に含まれる塩化物の影響と、浸漬電位上昇の影響とが複合的に評価され、海洋環境下での金属材料の腐食疲労特性をより精度よく評価することができる。
【0087】
上記構成によれば、酸化剤を添加して金属試験片の浸漬電位を高めることにより、金属試験片に藻類を付着させるよりも短時間で基準浸漬電位と同電位にすることができるので、試験時間を節約することができる。
【0088】
次に、別の腐食疲労試験装置について説明する。
【0089】
別の腐食疲労試験装置は、腐食疲労試験装置10と試験セル及び腐食液供給系等の構成が相違しており、試験装置本体14及び油圧源16は同じ構成を備えている。なお、同様な要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0090】
図9は、試験セル92の構成を示す模式図である。試験セル92は、中空状に形成されており、金属試験片12を浸漬させる腐食液94が入れられる空間を有している。試験セル92には、金属試験片12を把持したロッド18a、18bが挿通可能な開口部24が設けられている。開口部24の周りには、腐食液94が試験セル92から漏れないようにシール部材26が設けられている。
【0091】
また、金属試験片12と、ロッド18a、18bの把持部との間には、絶縁樹脂等で形成された絶縁部材96が挿入されており、金属試験片12とロッド18a、18bとの間が絶縁されている。
【0092】
試験セル92には、参照電極30と白金電極98とが取り付けられている。金属試験片12と参照電極30と白金電極98とは、絶縁被覆した金属製のリード線でポテンショスタット(定電位電解装置)100に接続されている。また、ポテンショスタット100は、電位測定器としての機能も有している。金属試験片12と参照電極30と白金電極98とは、いずれも腐食液94に浸漬されている。
【0093】
腐食液貯蔵容器102には、人工海水からなる腐食液94が貯蔵されている。腐食液貯蔵容器102と試験セル92とは、腐食液94を搬送する配管104で接続されている。配管104には、ポンプ106やバルブ108等が設けられている。配管104とポンプ106とバルブ108とは、腐食液貯蔵容器102から試験セル92へ腐食液94を搬送する腐食液搬送手段としての機能を有している。ポンプ106には、一般的な液送ポンプが用いられ、バルブ108には、一般的な電磁弁等が用いられる。
【0094】
人工海水には、塩化ナトリウムを含む塩類水溶液が用いられる。人工海水には、自然海水と略同等の化学組成成分、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等を含む塩類水溶液を用いることが好ましい。人工海水には、例えば、上述したアクアマリン(八州薬品株式会社製)、ASTM D1141−52に準拠した塩類水溶液、3〜3.5重量%NaClを含む塩類水溶液等が使用される。
【0095】
制御手段110は、試験装置本体14と、油圧源16と、試験セル92と、腐食液貯蔵容器102と、ポテンショスタット100と、ポンプ106と、バルブ108と電気的に接続され、これらの機器等を制御する機能を有している。また、制御手段110は、ポテンショスタット100を制御して、金属試験片12の浸漬電位を調節することができる。
【0096】
制御手段110は、制御手段60と同様にパーソナルコンピュータ等で構成され、金属試験片12の浸漬電位等を計算処理する計算処理部62と、基準浸漬電位を記憶する記憶部64と、金属試験片12への繰返し荷重負荷の可否を判定する判定部66と、を有している。
【0097】
次に、腐食疲労試験方法について説明する。図10は、腐食疲労試験方法の手順を示すフローチャートである。
【0098】
試験セル92及び金属試験片12のセットアップを行なう(S30)。試験装置本体14のロッド18a、18bに金属試験片12を取り付けて、試験装置本体14に試験セル92をセットする。
【0099】
試験セル92内へ人工海水からなる腐食液94を注入する(S31)。制御手段110によりポンプ106を作動させると共にバルブ108を開いて、腐食液貯蔵容器102から試験セル92内に人工海水からなる腐食液94を搬送する。試験セル92内の金属試験片12と参照電極30白金電極98とが、腐食液94に浸漬される。
【0100】
金属試験片12の浸漬電位を測定する(S32)。ポテンショスタット100から制御手段110へ金属試験片12の測定データが送られ、計算処理部62で金属試験片12の浸漬電位が算出される。
【0101】
ポテンショスタット100により金属試験片12に電位を印加する(S33)。ポテンショスタット100により金属試験片12へ電位が印加されるのに伴って、金属試験片12の浸漬電位が高くなる。
【0102】
金属試験片12の浸漬電位と、予め求められた基準浸漬電位とを比較し、繰返し荷重負荷の可否を判断する(S34)。制御手段110の判定部66で金属試験片12の浸漬電位と基準浸漬電位とが比較されて、金属試験片12への繰返し荷重負荷の可否が判定される。
【0103】
金属試験片12の浸漬電位が基準浸漬電位と同電位となったら(浸漬電位が基準浸漬電位に達したら)、金属試験片12に繰返し荷重を負荷して疲労試験を開始する(S35)。制御手段110は、金属試験片12に繰返し荷重を負荷している間についても、金属試験片12の浸漬電位が基準浸漬電位となるようにポテンショスタット100を制御する。
【0104】
金属試験片12が疲労破壊した場合や疲労限に達した場合には、繰り返し荷重の負荷を停止する(S36)。制御手段110により試験装置本体14のロッド18a、18bの作動を停止して、金属試験片12への繰返し荷重の負荷を停止する。以上により、腐食疲労試験が完了する。なお、上記のように金属試験片12を絶縁した系での定電位保持において、定常的に流れる不働態保持の電流に加えて、局部腐食が発生・進展すれば、局部腐食の発生・進展に相当する電流が畳重なることになるので、電流の経時変化をモニタリングすることにより、腐食ピットの発生、腐食疲労き裂の発生・進展をモニタリングすることが好ましい。
【0105】
上記構成によれば、人工海水からなる腐食液に金属試験片を浸漬させてポテンショスタット(外部電源)で電位を印加して腐食疲労試験を行えるので、人工海水に含まれる塩化物の影響と、浸漬電位上昇の影響とが複合的に評価され、海洋環境下での金属材料の腐食疲労特性をより精度よく評価することができる。
【0106】
上記構成によれば、ポテンショスタット(外部電源)で金属試験片に電位を印加することにより、金属試験片に藻類を付着させるよりも短時間で基準浸漬電位と同電位にすることができるので、試験時間を節約することができる。例えば、ステンレス鋼製試験片に藻類を付着させて基準浸漬電位+0.6V vs. SHE(標準水素電極)とする場合には、上記の図3(a)に示すように300時間から500時間を要する。従って、試験準備をして藻類がステンレス鋼製試験片に付着して+0.6V vs. SHE(標準水素電極)になるまでの待ち時間が2週間から1ヶ月になる。上記構成によれば、ポテンショスタット(外部電源)で直ちに+0.6V vs. SHE(標準水素電極)に定電位保持することにより、2週間から1ヶ月の待ち時間が節約できる。
【符号の説明】
【0107】
10 腐食疲労試験装置、12 金属試験片、14 試験装置本体、16 油圧源、18a、18b ロッド20、70、92 試験セル、22、72、94 腐食液、26 シール部材、28 試験片模擬電極、30 参照電極、32 電位計測器、34 注入口、36 オーバーフロー管、40、102 腐食液貯蔵容器、42 送液口、44、76、84、104 配管、46、78、86、106 ポンプ、48、80、88、108 バルブ、50 フィルタ、52 分岐配管、54 受液口、56 海棲生物、58 空気吹き込み機器、60、90、110 制御手段、62 計算処理部、64 記憶部、66 判定部、74 人工海水貯蔵容器、82 酸化剤貯蔵容器、96 絶縁部材、98 白金電極、100 ポテンショスタット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料の腐食疲労を評価する腐食疲労試験装置であって、
金属試験片に繰返し荷重を負荷する試験装置本体と、
前記試験装置本体に配置され、前記金属試験片が浸漬される腐食液が入れられた試験セルと、
を備え、
前記腐食液は、塩化ナトリウムを含む人工海水を含み、
前記腐食液に浸漬された金属試験片の浸漬電位を、予め自然海水に前記金属試験片と同じ材質で形成された金属電極を浸漬させて求めた基準浸漬電位と同電位にして、前記金属試験片に繰返し荷重を負荷することを特徴とする腐食疲労試験装置。
【請求項2】
請求項1に記載の腐食疲労試験装置であって、
前記試験セル内に前記腐食液に浸漬されて配置され、前記金属試験片と同じ材質で形成された試験片模擬電極と、
前記試験セル内に前記腐食液に浸漬されて配置される参照電極と、
前記試験片模擬電極と前記参照電極とに接続される電位計測器と、
前記腐食液が貯められた腐食液貯蔵容器と、
前記腐食液貯蔵容器から前記試験セルへ前記腐食液を搬送する腐食液搬送手段と、
前記試験装置本体と、前記電位計測器と、前記腐食液搬送手段と、を制御する制御手段と、
を備え、
前記腐食液は、前記腐食液貯蔵容器に貯められた前記人工海水と、前記人工海水に入れた海棲生物により繁殖した藻類と、を含み、
前記制御手段は、前記試験セルへの前記腐食液の搬送を制御し、前記腐食液に浸漬された前記金属試験片の浸漬電位を、予め自然海水に前記金属試験片と同じ材質で形成された金属電極を浸漬させて求めた基準浸漬電位と同電位にして、前記金属試験片に繰返し荷重を負荷することを特徴とする腐食疲労試験装置。
【請求項3】
請求項1に記載の腐食疲労試験装置であって、
前記試験セル内に前記腐食液に浸漬されて配置され、前記金属試験片と同じ材質で形成された試験片模擬電極と、
前記試験セル内に前記腐食液に浸漬されて配置される参照電極と、
前記試験片模擬電極と前記参照電極とに接続される電位計測器と、
前記人工海水が貯められた人工海水貯蔵容器と、
前記人工海水貯蔵容器から前記試験セルへ前記人工海水を搬送する人工海水搬送手段と、
酸化剤が貯められた酸化剤貯蔵容器と、
前記酸化剤貯蔵容器から前記試験セルへ前記酸化剤を搬送する酸化剤搬送手段と、
前記試験装置本体と、前記電位計測器と、前記人工海水搬送手段と、前記酸化剤搬送手段とを制御する制御手段と、
を備え、
前記腐食液は、前記試験セルに入れられた前記人工海水に前記酸化剤を加えて作製され、
前記制御手段は、前記試験セルへの酸化剤の搬送を制御し、前記腐食液に浸漬された前記金属試験片の浸漬電位を、予め自然海水に前記金属試験片と同じ材質で形成された金属電極を浸漬させて求めた基準浸漬電位と同電位にして、前記金属試験片に繰返し荷重を負荷することを特徴とする腐食疲労試験装置。
【請求項4】
請求項3に記載の腐食疲労試験装置であって、
前記酸化剤は、次亜塩素酸、次亜塩素酸塩、過酸化水素またはオゾンであることを特徴とする腐食疲労試験装置。
【請求項5】
請求項1に記載の腐食疲労試験装置であって、
前記試験セルに設けられ、前記腐食液に浸漬されて配置される白金電極と、
前記試験セルに設けられ、前記腐食液に浸漬されて配置される参照電極と、
前記白金電極と、前記参照電極と、前記金属試験片とに接続されるポテンショスタットと、
前記試験装置本体と、前記ポテンショスタットと、を制御する制御手段と、
を備え、
前記腐食液は、前記人工海水からなり、
前記制御手段は、前記ポテンショスタットを制御し、前記腐食液に浸漬された前記金属試験片の浸漬電位を、予め自然海水に前記金属試験片と同じ材質で形成された金属電極を浸漬させて求めた基準浸漬電位と同電位にして、前記金属試験片に繰返し荷重を負荷することを特徴とする腐食疲労試験装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載の腐食疲労試験装置であって、
前記金属材料は、不働態皮膜を形成する金属材料であることを特徴とする腐食疲労試験装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1つに記載の腐食疲労試験装置であって、
前記基準浸漬電位は、前記自然海水中における藻類が付着した金属電極の浸漬電位に基づいて定められることを特徴とする腐食疲労試験装置。
【請求項8】
請求項7に記載の腐食疲労試験装置であって、
前記基準浸漬電位は、前記金属電極に付着した藻類量に基づいて定められることを特徴とする腐食疲労試験装置。
【請求項9】
請求項7または8に記載の腐食疲労試験装置であって、
前記金属試験片がステンレス鋼で形成される場合には、前記基準浸漬電位が+0.6V vs. SHE(標準水素電極)以上であり、前記金属試験片がチタン材料で形成される場合には、前記基準浸漬電位が+0.7V vs. SHE(標準水素電極)以上であることを特徴とする腐食疲労試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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