説明

腫瘍の磁気共鳴画像化法のためのリポソームナノ粒子

本発明は、哺乳動物における腫瘍の磁気共鳴画像を強調するための磁気共鳴造影剤の調製においてとりわけ有用な、Gd・DOTA・DSA(2-{4,7-ビスカルボキシメチル-10-[(N,N-ジステアリルアミドメチル-N'-アミドメチル]-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカ-1-イル}-酢酸ガドリニウム(III))を含む新規のリポソームであって、中性の完全飽和リン脂質成分(例えばDSPC(1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン])をさらに含むことを特徴とするリポソームを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴画像化法(MRI)の増強、とりわけ、腫瘍の磁気共鳴画像の強調において使用するための造影剤の調製における使用に適した新規のリポソームに関する。
【背景技術】
【0002】
がん画像化は、分子イメージングが、がんの検出および後続の治療の両方において主要な役割を果たすことになる、最も重要な疾患分野の1つである。磁気共鳴画像化法(MRI)により有効にがんを画像化するために、有効な生体適合性の分子イメージング用プローブの開発が明らかに必要である1、2。この分野において、ナノ医療が、薬物送達、疾患検出および療法の重要な分野において大いに貢献することになることから、ナノテクノロジーが役立つ。がん画像化にナノテクノロジープラットフォームが応用されることにより、がんの検出および療法の研究において、リポソームなどの多機能ナノ粒子系の使用の機会が広がっている。
【0003】
MRIは、水を含有する組織の3D不透過像を生成する、臨床用の画像化モダリティーである。現在、全世界の臨床の画像化の40%超が、何らかの形態のMRI造影剤の注入を必要とする。これは、MRIは本来感受性が低いという欠点があるという事実によるものであり、多くの場合、病理を正確に診断するために、常磁性造影剤を患者の体内に静脈内注入して、磁気共鳴(MR)シグナル、したがって疾患部位をさらに強調する。これらの薬剤は、常磁性金属イオン、最も一般的にはガドリニウムまたは鉄を組み込んでいる分子から成る。画像の改善は、こうした配位金属イオンにより、周囲の大量の水プロトンの縦緩和時間(T1)または横緩和時間(T2)が強調される効果によりもたらされる。ガドリニウムを組み込んでいる造影剤は、1/T1および1/T2を両方とも増加させるが、その1/T1効果が組織においてその1/T2強調より大きいT1強調画像化において一般に使用される3。一方、鉄を含有する薬剤は、より大きな1/T2の増加をもたらすことから、T2強調画像で可視化される。ガドリニウムベースのMRI造影剤を使用すると、明るく画像を強調し(画像上の明るいシグナル)、鉄剤を使用すると、暗く画像を強調する(画像が暗くなる)。
【0004】
Gd・DTPA[ジエチレントリアミン五酢酸ガドリニウム(III)錯体](図1)は、1988年半ば以来FDAにより臨床使用について認可を受けている、初の腎臓で排出できる水溶性造影剤であり、Magnevist(登録商標)の商品名で現在常用されている4。図1は、臨床現場において最も一般的に利用されている造影剤のいくつかの例を示すものである。
【0005】
これらの化合物は、金属イオンがポリ(アミノカルボキシレート)リガンドに強くキレート化されている、一般に不活性で安定な錯体である。このような種類の薬剤は、非特異的であり、血流内に主に滞留し、糸球体濾過されることにより腎臓中にも蓄積し、一般に、代謝されずに排出される。それにもかかわらず、臨床でのMR画像化においてこうした薬剤を使用することには、正常な生理学的条件下でこれらの薬剤は損傷のない血液脳関門を通過しないことから、神経膠腫および脳内病変などの解剖学的な異常を可視化できるという多大な価値がある。こうした造影剤は間質性の空間中に急速に蓄積し、したがって流体の体積が増加した当該領域中のシグナル/ノイズ比を高めることができるため、肝臓および他の器官内の病態も可視化できる。
【0006】
しかし、こうした薬剤は非特異的であり、注入の数時間内に除去されるので、MR画像化におけるその有用性は、短い画像化時間枠、および、主に、血液プールの強調に限定される。MRI造影剤の特性を改善するため、分子イメージングの分野内で最近多くの試みがなされており、Gd担体としてのポリマー、デンドリマーおよび多様なナノ粒子の使用をもたらしている。本発明者らは、MRI活性脂質の独自の新規のライブラリーを合成した。次いで、こうした脂質を使用して、腫瘍画像化用のリポソームを製剤化した。
【0007】
リポソームは、親水性の頭部基および疎水性の尾部基を有する脂質要素から構成される(図2)。水和されると、これらの脂質が凝集し合って、水性の区画を取り囲む自己集合型の二分子層ベシクルを形成する。この水性の空洞があることから、リポソームは、薬物動態を改善するために水溶性の薬物を封入する薬物送達ビヒクルとして伝統的に使用されている。加えて、有効な形質移入および遺伝子送達のために、核酸もまたリポソーム製剤中に濃縮されている。このような追加的な機能性はあるものの、リポソームは、本来は生体膜のモデルとして研究されており、このことは、その生体適合性を認識するうえでの重要な概念である。
【0008】
リポソームの多岐にわたる性質を変更して、多様な分子またはさらに大きい構造(細胞など)との相互作用を変化させることができる。このことは、高度に荷電した極性頭部基を有する脂質をリポソーム製剤中に組み込むことによってリポソーム表面の全体の電荷を変化させることにより実現でき、例えば、製剤中にカチオン性の脂質を組み込むと、カチオン性のリポソームが作製される。カチオン性の脂質を用いて、in vitroおよびin vivoでの遺伝子送達系として使用されるリポソーム/DNA複合体(リポプレックス)が製剤化されている。
【0009】
リポソームは、典型的には、そのサイズ、形状および層構造(lamellarity)を特徴とする。リポソームは、単一の二分子層(単層)、いくつかの二分子層(オリゴ層)、または多数の二分子層(多重層)から構成されてもよい。膜の硬さは、適当な脂質を使用することで改変でき、膜の流動性は、相転移温度が高いまたは低いリン脂質を用いることにより変化させることができる。一般には、ステアリン酸(完全飽和C18脂質鎖)の脂質誘導体は、膜に硬さと不浸透性とを与え、オレイン酸(不飽和C18脂質鎖)の脂質誘導体は、より浸透性が高く安定性の低い脂質二分子層をもたらす。
【0010】
ガドリニウム脂質をリポソーム膜中に組み込むことにより、リポソームはMRI可視性になり、サイズがより良好に制御された系を得ることができる5。リポソームは、高担持量のガドリニウムを細胞中に輸送する担体として好適である。両親媒性のガドリニウム錯体をリポソーム膜中に組み込むことにより、プロトン緩和度を顕著に強化する、常磁性に標識化されたリポソームが得られている。こうした常磁性リポソームは、細胞の標識化および追跡の調査など、いくつかの調査において使用されている6。ガドリニウム脂質のリポソーム製剤中への組込みは、Kabalkaらにより20数年前に実証され、Kabalkaらの試験において使用されたガドリニウム脂質Gd・DTPA・BSA[ガドリニウム(III)・ジエチレントリアミノ五酢酸-ビス(ステアリルアミド)]は、現在、常磁性リポソームの調製に頻繁に使用されている7
【0011】
リポソームサイズ、表面電荷および特異性を調整できることにより、強力な病理学的な画像化(in vivoでの充実性腫瘍の画像化など)が可能になる。リポソームのこのような調整は、リポソーム製剤の組成を調節することにより可能になる。中性寄りの表面電荷は、血漿タンパク質および細網内皮系(RES)によるリポソーム粒子の認識を低下させるためのin vivoでの用途には最適である。このことは、電荷が中性の脂質をリポソーム製剤中に含ませることにより達成できる。
【0012】
これまでの研究から、この新規のガドリニウム脂質Gd・DOTA・Chol(ガドリニウム(III)・1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-N,N',N'',N'''-テトラアセテート-コレステロール)(図3を参照のこと)は有効なMRシグナル強調物質であり、このガドリニウム脂質を含有するリポソーム製剤であるMAGfectは、効率的な細胞の二重標識化および形質移入ビヒクルであることが示されている6
【0013】
比較的有効な細胞標識化脂質ではあるものの、この脂質を使用する高リポソーム濃度の製剤には問題があることが見出されており、これはおそらく、高濃度では、リポソーム二分子層中のコレステロールの尾部の繋ぎ止めが十分ではないことが原因である。そのため、このような制限のために、より高濃度のリポソームが必要とされるin vivo用途のために設計されたより強固な膜アンカーを提供する必要性から、コレステロールアンカーの代わりとなる代替的な飽和アルキル鎖部分が調査された。この目的のために、常磁性脂質Gd・DOTA・DSA(2-{4,7-ビスカルボキシメチル-10-[(N,N-ジステアリルアミドメチル-N'-アミドメチル]-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカ-1-イル}-酢酸ガドリニウム(III))(図4を参照のこと)を、溶液と固相化学との組合せを用いて合成した。
【0014】
このDOTAキレートを、安定であるが生分解性であるアミド官能基を介して脂質とコンジュゲートした。このガドリニウム脂質は、ガドリニウムキレート剤と脂質アルキル鎖部分との間に5原子スペーサーを用いても設計した。頭部基と脂質アルキル尾部との間のこの間隔は、ガドリニウムキレートをリポソーム粒子の親水性表面上の水に確実に最大限曝露させるのに最適であると考えられた。さらに、このガドリニウム脂質は、より頻繁に使用されるDTPA[ジエチレントリアミノ五酢酸]ではなくDOTAリガンドを用いても設計したが、その理由は、DOTAの大環状リガンドは、金属イオンをエンドソームの酸性環境中でも保持することが可能な、ガドリニウムのより有効なキレート剤であると考えられるからである8。そのより高い安定度定数から、DOTAベースのコンジュゲートは、DTPAリガンドと比較するとin vivoでより安定であることが公知であるため、FDA認可を受けているGd.DOTAキレートを選んだ。
【0015】
MRI有効性
Gd・DOTA・DSAの緩和特性を立証するために、水溶液中の脂質のMRI試験を実施し、T1値および緩和度パラメーターをミリ秒単位で生成させた。ガドリニウム脂質Gd・DOTA・DSAの有効性を、臨床用の造影剤Magnevist(登録商標)(Schering AG)およびGd・DTPA・BSA(Table 1(表1)を参照のこと)と比較したところ、臨床的に意義のある用量で好都合に匹敵することが見出された。このデータから、Gd・DOTA・DSAは、より広く使用されているGd・DTPA・BSA脂質に匹敵する、むしろわずかにより良好な、T1緩和値を有することも示された。標準的なT1飽和回復法(スピンエコーシーケンス)を使用して、T1値を決定した(式1により)。式中、xはTR(繰返し時間)であり、Siは、所与のTRについてのシグナル測定値である。
Si=S0(1-e(-x/T1))
式1.T1値を決定するために用いたT1飽和回復の式。
【0016】
Table 1(表1)は、関連する対照に加え、合成されたGd脂質についてのT1緩和値を示す。
【0017】
【表1】

【0018】
Gd・DOTA・DSAを使用すると、カチオン性および中性のリポソームを両方とも良好に製剤化することが可能であることが見出されており、これらのリポソームは、その安定性、in vitro毒性、in vitroでの形質移入およびin vivoでの腫瘍画像化能力について研究されている[Kamalyら、2009、Bioconjug Chem.、2009年4月、20(4)、648〜55頁、および、Kamalyら、2008、Bioconjug Chem.、2008年1月、19(1)、118〜29頁を参照のこと。Epub、2007年11月7日]。Kamalyらは、安定性が増していることに加え、in vivoでの優れた腫瘍MRシグナル強調能力を有する2つの中性のペグ化リポソームをさらに開発した。これらの粒子もまた、Gd・DOTA・DSAを組み込んでいる。これらのリポソームは、不飽和ホスホリド(phospholid)DOPC(1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン)を含有し、その構造は以下のとおりである。
【0019】
【化1】

【先行技術文献】
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Kamalyら、2009、Bioconjug Chem.、2009年4月、20(4)、648〜55頁
【非特許文献2】Kamalyら、2008、Bioconjug Chem.、2008年1月、19(1)、118〜29頁
【非特許文献3】Bioconjugate Chem.、2009、20、648〜655頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかし、in vivoでの優れた腫瘍MRシグナル強調能力を有する、ガドリニウムを含む強固で安定なリポソームナノ粒子に対する必要性は、未だに存在する。特に、充実性腫瘍中での前記リポソームの蓄積を最適化しながら肝臓などの体の器官中でのその蓄積を最小限にするような特性を有し、したがって、このようなガドリニウムリポソームの毒性を大きく低下させ、その安全性を改善しながらそのMRシグナル強調効果を増強させる、リポソームが必要である。本発明者らは、こうした必要性を満たす、Gd・DOTA・DSAを含む新規のリポソームを開発した。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の第1の態様では、以下が提供される:
(1)Gd・DOTA・DSA(2-{4,7-ビスカルボキシメチル-10-[(N,N-ジステアリルアミドメチル-N'-アミドメチル]-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカ-1-イル}-酢酸ガドリニウム(III))を含むリポソームであって、中性の完全飽和リン脂質成分をさらに含むことを特徴とするリポソーム。
【0023】
本発明のこの第1の態様のリポソームの好ましい態様としては、以下が挙げられる:
(2)前記完全飽和リン脂質成分が、1,2-ジ(C12〜C20飽和脂質)-sn-グリセロ-3-ホスホコリンであり、該飽和脂質基が、互いに同じであっても、または異なっていてもよい、(1)に記載のリポソーム。
(3)前記完全飽和リン脂質成分がDSPC(1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン)である、(1)に記載のリポソーム。
(4)コレステロールをさらに含む、(1)から(3)のいずれか1つに記載のリポソーム。
(5)ポリエチレングリコール-リン脂質成分をさらに含む、(1)から(4)のいずれか1つに記載のリポソーム。
(6)前記ポリエチレングリコール-リン脂質がDSPE-PEG(2000)[ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン-ポリエチレングリコール(2000)]である、(5)に記載のリポソーム。
(7)前記リポソーム中のGd・DOTA・DSAの量が、リポソーム製剤全体の29から31mol%である、(1)から(6)のいずれか1つに記載のリポソーム。
(8)前記リポソーム中のGd・DOTA・DSAの量が、リポソーム製剤全体の30mol%である、(1)から(6)のいずれか1つに記載のリポソーム。
(9)前記リポソーム中の完全飽和リン脂質成分の量が、リポソーム製剤全体の32から34mol%である、(1)から(8)のいずれか1つに記載のリポソーム。
(10)前記リポソーム中の完全飽和リン脂質成分の量が、リポソーム製剤全体の33mol%である、(1)から(8)のいずれか1つによるリポソーム。
(11)前記リポソーム中のコレステロールの量が、リポソーム製剤全体の29から31mol%である、(1)から(10)のいずれか1つに記載のリポソーム。
(12)前記リポソーム中のコレステロールの量が、リポソーム製剤全体の30mol%である、(1)から(10)のいずれか1つに記載のリポソーム。
(13)前記リポソーム中の前記ポリエチレングリコール-リン脂質成分の量が、リポソーム製剤全体の5〜8mol%である、(1)から(12)のいずれか1つに記載のリポソーム。
(14)前記リポソーム中の前記ポリエチレングリコール-リン脂質成分の量が、リポソーム製剤全体の7mol%である、(1)から(12)のいずれか1つに記載のリポソーム。
(15)前記リポソームの、リン酸緩衝溶液中の10倍希釈での平均粒径が100nm以下である、(1)から(14)のいずれか1つに記載のリポソーム。
(16)前記リポソームの、リン酸緩衝溶液中の10倍希釈での平均粒径が80nm以下である、(1)から(14)のいずれか1つに記載のリポソーム。
(17)Gd・DOTA・DSA、コレステロール、DSPCおよびDSPE-PEG(2000)を含む、(1)に記載のリポソーム。
(18)Gd・DOTA・DSA、コレステロール、DSPCおよびDSPE-PEG(2000)が、前記リポソーム製剤中でそれぞれ、30:33:30:7(mol%)の比率で存在する、(17)に記載のリポソーム。
【0024】
本発明の第2の態様では、以下が提供される:
(19)腫瘍標的化剤(tumour targeting agent)をさらに含む、(1)から(17)のいずれか1つに記載のリポソーム。
【0025】
腫瘍標的化剤を含む好ましいリポソームとしては、以下が挙げられる:
(20)前記腫瘍標的化剤が、哺乳動物の非腫瘍組織の細胞における受容体の発現に比べて腫瘍細胞において過剰発現される前記受容体のリガンドを含む、(19)に記載のリポソーム。
(21)前記腫瘍標的化剤が葉酸部分を含む、(20)に記載のリポソーム。
(22)前記腫瘍標的化剤が、リン脂質-ポリエチレングリコール-葉酸化合物である、(20)に記載のリポソーム。
(23)前記リン脂質-ポリエチレングリコール-葉酸化合物が、DSPE-PEG(2000)-葉酸[ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン-ポリエチレングリコール(2000)-葉酸]である、(22)に記載のリポソーム。
(24)前記リポソーム中に存在する前記葉酸部分の量が、リポソーム製剤全体の1〜2mol%である、(21)から(23)のいずれか1つに記載のリポソーム。
(25)Gd・DOTA・DSA、コレステロール、DSPC、DSPE-PEG(2000)およびDSPE-PEG(2000)-葉酸を含む、(19)に記載のリポソーム。
(26)Gd・DOTA・DSA、コレステロール、DSPC、DSPE-PEG(2000)およびDSPE-PEG(2000)-葉酸が、前記リポソーム製剤中にそれぞれ30:33:30:5.5:1.5mol%の比率で存在する、(25)に記載のリポソーム。
【0026】
本発明の第3の態様では、以下が提供される:
(27)(21)から(26)のいずれか1つに記載のリポソームと薬学的に許容される担体とを含む磁気共鳴造影剤。
【0027】
好ましい一実施形態では、以下が提供される:
(28)前記薬学的に許容される担体が、水性担体である、(27)に記載の磁気共鳴造影剤。
【0028】
本発明の第4の態様では、以下が提供される:
(29)医療において、例えば診断において使用するための、(27)または(28)に記載の磁気共鳴造影剤。
【0029】
本発明の第5の態様では、以下が提供される:
(30)哺乳動物における器官および器官構造の磁気共鳴画像を強調するための磁気共鳴造影剤の調製における、(1)から(26)のいずれか1つに記載のリポソームの使用。
【0030】
この第5の実施形態の好ましい態様としては、以下が挙げられる:
(31)哺乳動物における腫瘍の磁気共鳴画像を強調するための磁気共鳴造影剤の調製における、(30)に記載の使用。
(32)前記磁気共鳴造影剤中の前記リポソームの濃度が、1〜50mg/mL、より好ましくは1〜30mg/mLである、(30)または(31)に記載の使用。
【0031】
本発明の第6の態様では、以下が提供される:
(33)哺乳動物における器官または器官構造の磁気共鳴画像化の方法であって、
(a)(27)または(28)に記載の磁気共鳴造影剤を患者に投与するステップと、
(b)該患者において対象とする器官を撮像するステップと
を含む方法。
【0032】
この第6の実施形態の好ましい態様としては、以下が挙げられる:
(34)前記磁気共鳴造影剤が、哺乳動物における腫瘍の磁気共鳴画像を強調するために使用される、(33)に記載の方法。
(35)前記磁気共鳴造影剤中のリポソームの濃度が、1〜50mg/mL、より好ましくは1〜30mg/mLである、(33)または(34)に記載の方法。
【0033】
本発明の第7の態様では、以下が提供される:
(36)(27)または(28)に記載の磁気造影剤が事前投与された哺乳動物における器官または器官構造の磁気共鳴画像化の方法であって、
(i)該患者における対象とする器官を撮像するステップを含む方法。
【0034】
本発明の第8の態様では、以下が提供される:
(37)(1)から(26)に記載のリポソームを作製する方法であって、Gd・DOTA・DSA(2-{4,7-ビスカルボキシメチル-10-[(N,N-ジステアリルアミドメチル-N'-アミドメチル]-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカ-1-イル}-酢酸ガドリニウム(III))の溶液と、中性の完全飽和リン脂質の溶液とを混合するステップを含む方法。
【0035】
第8の実施形態の好ましい態様には、以下が含まれる:
(38)該混合物を乾燥させ(例えば真空中で)、その結果得られるリポソームを場合により再水和するステップ。
【0036】
本発明の第9の態様では、以下が提供される:
(39)(1)から(26)のリポソームと薬学的に許容される担体とを混合するステップを含む、(27)または(28)に記載の磁気造影剤を作製する方法。
【0037】
第8および第9の実施形態の好ましい態様は、第1、第2および第3の態様に関して先に挙げたものと同じである。
【0038】
次に、本発明をさらに詳細に論じることとする。本発明はまた、図1から29を参照することによってさらに理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】FDAによる認可を受けている、ガドリニウムベースの臨床用の造影剤を示す図である。
【図2】両親媒性脂質のリポソーム形成を示す図である。
【図3】MAGfectのT1脂質造影剤成分であるGd・DOTA・Cholを示す図である。
【図4】常磁性のガドリニウム脂質標的であるGd・DOTA・DSAを示す図である。
【図5】Gd・DOTA・DSAのエレクトロスプレー質量スペクトル(m/z:1117.2(M-H))を示す図であり、Gdの同位体ピークは右上隅に見える。
【図6】Gd・DOTA・DSA2のHPLCトレースを示す図である:tR=36.22分、カラムC-4ペプチド、グラジエントミックスA=MeCN/0.1%TFA、ミックスB=H2O/TFA、ミックスC=MeOH、0.0分[100%B]、15〜25.0分[100%A]、25.1〜45.0分[100%C]、流速1mL/分。
【図7】EPRを示す図である。正常組織は、血管内側の細胞外組織中に巨大分子またはナノ微粒子の薬剤を漏出させるために十分広い内皮の間隙を有さないのに対し、腫瘍組織は、内皮層が破壊されていることから、より大きい粒子を腫瘍細胞外ドメイン中に「浸出」させる。
【図8】本発明の好ましいリポソームの1つであるLiposome A、すなわち、腫瘍画像化における有用性を有する新規のMRI活性リポソームを示す図である。
【図9】本発明の好ましいリポソームの1つであるLiposome Aを形成する脂質の構造を示す図である。
【図10】コレステロール脂質がリポソーム二分子層の透過性および硬さに及ぼす影響を示す図である。
【図11】Liposome A粒子のサイズ分布を示す図である。
【図12】本発明のLiposome A粒子を多様な用量および3通りのインキュベーション期間で用いた、腎臓のLCC PK1細胞に対するMTT細胞生存率アッセイの結果を示すグラフである。
【図13】本発明のLiposome A粒子を多様な用量および3通りのインキュベーション期間で用いた、HepG2肝細胞に対するMTT細胞生存率アッセイの結果を示すグラフである。
【図14】本発明のLiposome A粒子を多様な用量および3通りのインキュベーション期間で用いた、腎臓のLCC PK1細胞に対するLDHアッセイにおいて得られた結果を示すグラフである。
【図15】本発明のLiposome A粒子を多様な用量および3通りのインキュベーション期間で用いた、HepG2肝細胞に対するLDHアッセイにおいて得られた結果を示すグラフである。
【図16】Liposome Aを含む調製物を注入した後の、多様な期間での担腫瘍マウスの磁気共鳴画像を示す図であり、白色の点線の円は腫瘍領域を印しており、白色の矢印は腫瘍部位を指している。
【図17】図16の画像を得た24時間のMRI実験にわたる、Liposome Aの投与後の多様なTR時点での腫瘍シグナル強度の比率(%)を示すグラフである。
【図18】図16の画像を得た24時間のMRI実験にわたる、Liposome Aの投与後の、時間の経過に伴う腫瘍シグナル強度の増加を示すグラフである。
【図19】Liposome A投与後の切片化されたIGROV-1腫瘍に対する蛍光顕微鏡法の結果を示す図である。左のパネルには蛍光画像を示し、右のパネルにはH&E染色(400倍)を示す。
【図20】本発明の好ましいリポソームの1つであるLiposome B、すなわち、葉酸受容体部分を有し腫瘍画像化における有用性を有する新規のMRI活性リポソームを示す図である。
【図21】本発明の好ましいリポソームの1つであるLiposome Bを形成する脂質の構造を示す図である。
【図22】4つの細胞株の、α-FR発現についてのFACS分析の結果を示すグラフである。
【図23】葉酸を標的化する脂質のmol%を変化させたLiposome Bでインキュベーション後のIGROV-1細胞により取り込まれたGdの量を示すグラフである。
【図24】Liposome Bのサイズおよび多分散分布のデータを示す図である。
【図25】Liposome B粒子を多様な用量および3通りのインキュベーション期間で用いた、LCC PK1細胞におけるMTTアッセイの結果を示すグラフである。
【図26】Liposome B粒子を多様な用量および3通りのインキュベーション期間で用いた、LCC PK1細胞におけるLDH細胞毒性アッセイの結果を示すグラフである。
【図27】Liposome Bを含む調製物を注入した後の、多様な期間での担腫瘍マウスの磁気共鳴画像を示す図であり、白色の点線の円は腫瘍部位を印している。
【図28】図27の画像を得た24時間のMRI実験にわたる、Liposome Bの投与後の多様なTR時点での腫瘍シグナル強度の比率(%)を示すグラフである(n=3)。
【図29】Liposome B投与後の切片化されたIGROV-1腫瘍に対する蛍光顕微鏡法の結果を示す図である。左のパネルには蛍光画像を示し、右のパネルにはH&E染色(400倍)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
Gd・DOTA・DSAの有望なT1緩和データは、広く報告されているEPR(enhanced permeation and retention)効果を利用して、MRIによる腫瘍画像化を目的とした、in vivoで体循環させるためのGd・DOTA・DSAを用いたガドリニウムリポソーム製剤の開発をもたらした。このことは、本発明の新規のGd・DOTA・DSAリポソーム系であって、前記リポソームが中性の完全飽和リン脂質成分をさらに含むことを特徴とするリポソーム系の開発をもたらした。
【0041】
本発明者らは、驚くべきことに、中性の完全飽和リン脂質成分を本発明のGd・DOTA・DSAリポソーム系中に組み込むことにより、その結果得られるリポソームは、より小さく、磁気共鳴造影剤の調製において使用するための理想的な特性を結果として有するより均質なリポソーム調製物をもたらすことを見出した。
【0042】
本発明のGd・DOTA・DSAリポソームの構成における使用に適した、適切な中性の完全飽和リン脂質は、典型的には、1,2-ジ(C12〜C20飽和脂質)-sn-グリセロ-3-ホスホコリンである。より好ましい例としては、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)または1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)脂質が挙げられる。1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)が最も好ましい。典型的には、前記リポソーム中の完全飽和リン脂質成分の量は、リポソーム製剤全体の32から34mol%であり、最も好ましくは、その量は33mol%である。典型的には、前記リポソーム中のGd・DOTA・DSA成分の量は、リポソーム製剤全体の29から31mol%であり、最も好ましくは、その量は30mol%である。
【0043】
典型的には、このリポソームのサイズは100nm以下である。このようにしてリポソームを慎重にナノ加工して、確実にそのサイズを100nm未満に維持することにより、このサイズ範囲は、腫瘍組織の特徴から、充実性腫瘍中でのリポソームの蓄積にとって最適と考えられる。腫瘍組織は、巨大分子の薬剤に対する共通の親和性(EPR(enhanced permeation and retention)効果と呼ばれる)を有し、それにより、巨大分子薬剤は腫瘍組織中に蓄積すると考えられる。EPRはMaedaら13により最初に導入されたものであり、ここでは、血管新生の増加、不均質で破壊的な血管基盤、リンパ排液の障害および「漏出しやすい」内皮層など腫瘍の特性は、全て、腫瘍組織内への巨大分子構造の蓄積に寄与する因子であると考える(図7を参照のこと)。以下にさらに説明および例示するように、このことは、結果として、先行技術のMRI活性リポソームおよびリポソームでない常磁性造影剤より優れた、特定の実質的な利点をもたらす。
【0044】
EPR効果は、巨大分子薬物およびポリマー状またはリポソーム状の巨大分子を腫瘍に標的化するための標準的なモデルとなっている。こうした薬剤は、画像化用プローブまたはシグナル局在化のための部分が含まれるように修飾することにより、腫瘍の画像化用に容易に適合される。この場合の重要な機序は、充実性腫瘍中で巨大分子が保持されることであり、これとは対照的に、Gd・DTPA(Magnevist(商標))など低分子量の薬剤は、拡散により血液中に再循環され、注入後、比較的短期間で腎臓により除去される。腫瘍組織内でのこうした保持効果または粒子の蓄積は、受動的標的化とも呼ばれ、この有効な現象により、非常に高レベル(10〜50倍)のポリマー性薬物が腫瘍部位で数日間蓄積できることが示されている14。腫瘍組織中でのナノ粒子の腫瘍蓄積の機序は、腫瘍血管内側の破壊された内皮を通る大きな分子の溢出として立証されている。腫瘍への溢出サイズの閾値に適合することに加え、リポソームサイズがin vivoでの注入の場合100nm範囲内で維持されるさらなる理由は、大きなリポソームは肝臓により除去されることである。大きなリポソームは肝細胞(肝実質細胞およびクッパー細胞など)により取り込まれ、リポソーム粒子は、そのより大きい内皮のために肝臓または脾臓組織中に蓄積し得る。
【0045】
コレステロールはリポソームの二分子層に対する多様な効果を誘導するため、この製剤中には、この脂質を好ましくは組み込んでもよい。コレステロールは、リポソーム製剤中の頭部基の間隔を増加させ、結果として得られた二分子層膜を安定化させることが示されている9。本発明においては、リポソーム製剤中にコレステロールが存在すると、脂質鎖の立体配座の秩序化が誘導されることにより、流動性の二分子層および硬い二分子層両方の膜透過性が制御される(図10)。加えて、コレステロールは、中性の電荷を有する直接の結果として、血清誘導性の凝集を減少させることができる10。典型的には、前記リポソーム中のコレステロール成分の量は、リポソーム製剤全体の29から31mol%であり、最も好ましくは、その量は30mol%である。
【0046】
リポソームナノ粒子の循環時間を長期化して、確実に腫瘍曝露を最大化させるために、ポリエチレングリコール-リン脂質テザー構築物(tethered construct)を使用して、リポソーム二分子層中にポリエチレングリコール(PEG)を繋ぎ止めることもできる。本発明のリポソームにおいて使用するための好ましいポリエチレングリコール-リン脂質の例としては、DSPE-PEG(2000)[ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン-ポリエチレングリコール(2000)]が挙げられる。中性の親水性PEGポリマーで装飾されている表面を有するリポソームには循環時間の長期化が有効であることが示されており、半減期は、齧歯動物において2から24時間、ヒトにおいては45時間もの長さであると報告されている11。この場合の理論は、表面にグラフトされたPEGリポソームは、当該リポソームには血漿タンパク質が有効に結合しないことから肝細胞による取込みが減少した、ということである12。このようなリポソームは、立体的に安定化されたリポソームとも呼ばれる。この場合、PEG層は、血漿成分とリポソーム二分子層との静電性および疎水性の相互作用を両方とも立体的に阻害する。典型的には、前記リポソーム中のポリエチレングリコール-リン脂質成分の量は、リポソーム製剤全体の5から8mol%であり、最も好ましくは、その量は7mol%である。
【0047】
in vivo用途の場合、中性の頭部基を有する完全飽和リン脂質がリポソーム製剤中に組み込まれており、前述のように、このようなリン脂質としては、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)または1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)の脂質が挙げられるが、これらに限定されない。リポソーム製剤中に5〜10モル比の間のペグ化された脂質を組み込むことに加え、中性の脂質を利用すると、立体安定化、および、血漿タンパク質(オプソニンなど)からの保護がもたらされ、クッパー細胞取込みの減少に繋がる。安定化は、リポソーム表面周囲で、高度に水和されたポリマー分子の遮蔽物が形成されることにより生じると考えられる。この「遮蔽」特性により、このような種類のリポソームはしばしば、「ステルス」リポソームと呼ばれる。
【0048】
本発明のさらなる一実施形態では、本発明のリポソームは、腫瘍標的化剤をさらに組み込んでもよい。腫瘍標的化剤を含む本発明のリポソームは、典型的には、哺乳動物の非腫瘍組織の細胞における前記受容体の発現に比べて腫瘍細胞において過剰発現される受容体のリガンドを含む。
【0049】
そのような腫瘍標的化剤の一例は、葉酸部分を含むものである。本発明の好ましい例においては、腫瘍標的化剤は、リン脂質-ポリエチレングリコール-葉酸化合物である。より好ましくは、このリン脂質-ポリエチレングリコール-葉酸化合物は、DSPE-PEG(2000)-葉酸[ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン-ポリエチレングリコール(2000)-葉酸]である。
【0050】
典型的には、本リポソーム中に存在する葉酸部分の量は、リポソーム製剤全体の1〜2mol%である。
【0051】
腫瘍標的化剤の例として、葉酸はそのような標的化部分の好例であり、その理由は、葉酸ベースの標的化系は、治療剤または画像化剤を腫瘍に選択的に送達する有効な手段を提示するからである15。進行段階にある侵襲性のまたは未分化な腫瘍は葉酸受容体(FR)密度が高まっていることが示されており、このことから、がん療法には、FRを介した薬物送達が提供する広範なアプローチが有効と考えられることが示唆される16。FRは、脳腫瘍、腎臓がん、肺がんおよび乳がんなどのいくつかのがん型、とりわけ、卵巣がんなどの上皮性癌において過剰発現する17。FRリガンド、フォレート(または葉酸)は、ヌクレオチドの生合成に使用され、増殖性のがん細胞の必要を満たすように高レベルで利用されるビタミンである18
【0052】
多数の薬物送達の試みに加え、葉酸標的型の技術は、治療剤の放射線画像化19、がん細胞の蛍光画像化20、MRI造影剤21およびガドリニウムリポソーム22への応用に成功している。Choiらは、誘導されたKB腫瘍の画像化のための、葉酸標的型の酸化鉄ナノ粒子の使用を実証し、これらの粒子が対照と比較してシグナル強度が38%増加していることを示している23。非標的型のバイモダルの(bimodal)リポソーム造影剤を用いた腫瘍MRIの成功が最近示されたが、この腫瘍MRIでは、約100nmのサイズの、常磁性および蛍光性を有するバイモダルのリポソームが卵巣がんのマウス異種移植モデルにおいて蓄積することが認められた24。リポソームは、広く報告されているEPR(enhanced permeation and retention)効果(この効果は、約40kDaのコロイド状巨大分子の受動的な蓄積に依存する)により腫瘍組織内に、また、腫瘍中の上部に蓄積することが可能である25。EPR効果は、異常な腫瘍内皮により生じ、異常な腫瘍内皮は、その「漏出しやすさ」の結果として、ナノ粒子を腫瘍組織中へ浸透させる。腫瘍組織中でのリポソーム蓄積は、リポソームの表面に追ってコンジュゲートするか、または、リポソームの二分子層内に組み込まれることになる脂質と結び付けるか、そのいずれかである受容体標的化部分の使用により改善できると考えられる。FR結合親和性(Kd=1×1-10M)は、そのリガンドである葉酸が自身のγ-カルボキシルを介して画像化剤または治療部分とコンジュゲートされるときには影響されないようである26ことから、脂質性のPEG両親媒性物質の遠位端上に繋留される葉酸リガンドにより、FR標的型のリポソーム系の開発が可能になる。
【0053】
ヒト鼻咽頭のKB癌細胞株には、最高レベルのFRが発現していると考えられるが、このがんの症例数は、最も頻度の高い(症例の90%超)卵巣がんと比較すると少ない27。とりわけ、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー膜タンパク質であるα-FRアイソフォームは、卵巣癌において高度に発現する28。加えて、α-FRアイソフォームは特定のバイオマーカー値を有し、転移性の腫瘍部位の起源の同定に役立つことも示されている29。したがって、本発明者らは、MRIを用いた卵巣の腫瘍の画像化にとっての葉酸標的型のバイモダルのリポソームの有効性を試験するために、この受容体を使用することに関心をもった。葉酸ベースのリポソームの薬物送達は広範に研究されている30が、葉酸標的化による腫瘍におけるリポソーム蓄積の速度増大効果(rate-enhancing effect)は、リアルタイムで力学的にあまり試験されていなかった。FRは、主に腎尿細管、肺上皮および胎盤組織に限定される正常組織において顕著に低い量で発現される31ため、有効な腫瘍シグナルの強調が予想された。標的化リガンドを付加した場合の値を、充実性腫瘍中でのリポソームの蓄積の速度および程度について評価するために、本発明において、FR標的型の蛍光性および常磁性を有するバイモダルのリポソームを製剤化し、MRIおよび蛍光顕微鏡法の両方により、非標的型のリポソームと比較している。本発明者らは、このリポソームが著しく良好な結果を示し、低い毒性、標的化されたMRシグナルの優れた強調、および、腫瘍中での最初の急速な蓄積後、それに次ぐ体からの造影剤の急速且つ自然な除去を伴うことを見出している。
【0054】
本発明の第3の態様では、本発明の第1および第2の態様のいずれか1つによるリポソームと薬学的に許容される担体とを含む磁気共鳴造影剤も提供される。典型的には、薬学的に許容される担体は、HEPES[(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸]緩衝溶液などの水性担体である。
【0055】
本発明の第4の態様では、医療における使用、好ましくは診断における使用、とりわけ好ましくは器官および器官構造(例えば腫瘍)の画像化における使用のための、第3の態様による磁気共鳴剤が提供される。
【0056】
本発明の第5の態様では、哺乳動物における器官および器官構造の磁気共鳴画像を強調するための磁気共鳴造影剤の調製における、本発明の第1および第2の態様のいずれか1つによるリポソームの使用が提供される。本発明のリポソームは、哺乳動物における腫瘍の磁気共鳴画像を強調するための磁気共鳴造影剤の調製においてとりわけ有用である。
【0057】
ここまでにすでに説明したように、また、以下にさらに例示するように、本発明の常磁性リポソームは、その最適なサイズによる優れた特性(EPR効果による腫瘍中での蓄積の増加、および、クッパー細胞による取込みの減少による肝毒性の低下)、高い安定性、強力なガドリニウムキレート化を有し、一方、その非イオン性の性質により、過剰な負電荷がin vivoでの競合反応およびGd3+の置換をもたらす、イオン性のガドリニウム造影剤でこれまでに観察されている物理化学的な結果を低下させる。結果として、本発明のガドリニウムリポソームは、他の器官、とりわけ肝臓中に蓄積せずに腫瘍組織中に徐々に蓄積することから、本発明の磁気共鳴造影剤は、優れた画像強調能力を有しながら、同時に、必要とされるガドリニウムの用量が減少することによる安全性プロファイルの大きな改善も示すという、先行技術による常磁性のガドリニウム造影剤に勝る重要な驚くべき利点をもたらす。低い毒性と組み合わせた高い有効性の結果として、本発明の造影剤は、臨床現場において、現在までに公知の薬剤より広い範囲の画像化を対象とする磁気共鳴を提供できる。
【0058】
典型的には、本発明の磁気共鳴造影剤中のリポソームの濃度は、1〜50mg/mL、より好ましくは1〜30mg/mLであるが、本発明はこれらの範囲に限定されない。この磁気共鳴造影剤の調製において使用するための薬学的に許容される担体の例は、HEPESなどの水性担体である。
【0059】
本発明の第6の態様では、哺乳動物における器官または器官構造の磁気共鳴画像化の方法であって、
(a)本発明の第3の態様による磁気共鳴造影剤を患者に投与するステップと、
(b)該患者における対象とする器官を撮像するステップと
を含む方法も提供される。
【0060】
また、典型的には、この方法は、哺乳動物における腫瘍の磁気共鳴画像を強調するために用いられる。本発明者らは、典型的には、磁気共鳴造影剤中で1〜50mg/mL、より好ましくは1〜30mg/mLのリポソーム濃度を用いるが、本発明はこの範囲に限定されない。
【0061】
本発明は、以下の実施例を参照することによりさらに理解できる。
【0062】
(実施例)
(実施例1)
Liposome A
Liposome Aを図8に示す。Liposome Aは、以下に実証するように、腫瘍画像化能力を有する新規のMRI活性リポソームである。
【0063】
Liposome A製剤は、Gd・DOTA・DSA/DSPC/コレステロール/DSPE_PEG2000:30/33/30/7(mol%)から成る。前臨床の組織学試験については、1mol%のDOPE-ローダミンも該製剤に加え、32mol%のDSPCを使用する。
【0064】
Liposome Aは、MRIによるin vivoでの腫瘍組織のシグナル強調を観察するために開発された。このリポソーム系を含む脂質の構造を図9に示す。MRIシグナルの強調は、常磁性脂質Gd・DOTA・DSAをリポソーム製剤中に組み込むことにより達成される。
【0065】
Liposome Aの特徴付け
毒性アッセイに先立ち、図11のように、粒子のサイズ分布を測定した。図11では、下のグラフには多様なPBS希釈液中でのLiposome Aの粒径を示し、上のグラフには対照粒子の値を示す。Liposome A製剤は、Gd・DOTA・DSA/DSPC/コレステロール/DSPE_PEG2000:30/33/30/7(mol%)から成り、対照のナノ粒子は、DOTA・DSA/DSPC/コレステロール/DSPE_PEG2000:30/33/30/7(mol%)である。NB:1000nm+でのピークを、0.2μmフィルターを通して濾過した後で除去する(データは示していない)。
【0066】
Liposome Aおよび対照粒子(いずれのGdもDOTA頭部基でキレート化されていない)は両方とも極めて安定であり、PBS中での多様な希釈条件では、サイズは100nm未満であった。粒子の多分散指標も非常に低かったが、これは、均一で均質な試料であったことを示唆するものである。
【0067】
Liposome Aについて測定されたサイズは、これまでに発表されたDOPCリポソームより小さく、多分散指標(Pdl)も、DOPCを含有する同じ製剤について測定された値よりはるかに低い(Table 2(表2)を参照のこと)。このことは、この新しいDSPC製剤が、より小さいサイズ分布をもたらす(これは、リポソームの肝臓クリアランスおよび腫瘍組織内での漸次的な蓄積にとってより好都合である)こと、さらに、多分散指標がより低いことから、より均質で均一なリポソーム試料であることが裏付けられることを示唆するものである。
【0068】
【表2】

【0069】
in vitroでの毒性学的な調査
Liposome A、および、同じ組成であるがDOTA大環状分子中でGdがキレート化されていない対照ナノ粒子のin vitro毒性を、MTTアッセイおよびLDH毒性アッセイを用いて評価した。リポソームを、緩衝液[20mM HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)、pH6.8、150mM NaCl]中で、総濃度25mg mL-1にて製剤化した。
【0070】
MTT細胞生存率アッセイ
細胞の増殖および生存率の決定は、外部因子への細胞集団の応答のin vitroアッセイについて評価される重要な領域であることから、MTTアッセイを実施して、Liposome Aが細胞生存率に及ぼす効果を測定した。MTTアッセイは、細胞増殖率と、逆に、代謝事象がアポトーシスまたは壊死をもたらす場合の細胞生存率の減少(増殖と細胞死との間のバランス)とを測定する。このアッセイには、ミトコンドリアのデヒドロゲナーゼ酵素によるテトラゾリウム塩の還元が含まれる。黄色のテトラゾリウムMTT(3-(4,5-ジメチルチアゾリル-2)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)は、代謝活性のある細胞により、デヒドロゲナーゼ酵素の作用を通して、紫色の生成物ホルマザンに転換する。結果として得られた細胞内の紫色ホルマザンを可溶化して、分光光度法で定量化することができる。こうして、添加したガドリニウムリポソームの存在下での細胞の生存率を、測定および定量化できる。
【0071】
2つの細胞株、LLC-PK1腎細胞およびHep G2肝細胞を、96ウェルのプレートに2.5×10-5細胞/mLで播種し、アッセイに先立ち成長培地中で24時間インキュベートした。次に、Liposome Aを、細胞に0.004〜1.0mg mL-1の濃度で加え、細胞を6時間、24時間および48時間インキュベートした。細胞毒性を決定したので、データを図12に示す。
【0072】
腎臓のLLC PK1細胞に対するMTT生存率アッセイから、リポソームを加えた後は、細胞生存率は良好なレベルであることが明らかになり、生存率は、より高い用量およびインキュベーション期間でのみ低下することが示された。Liposome Aの毒性は、対照ナノ粒子より低く、この効果はおそらく、Liposome A製剤中でGd3+にキレート化され、したがって、細胞環境内では中性および比較的不活性になるDOTA頭部基のカルボン酸によるものである。
【0073】
HepG2細胞の生存率は、Liposome Aまたは対照ナノ粒子を加えた結果として、最小限にしか影響を受けなかった(図13)。しかし、Liposome Aの毒性は、細胞生存率の減少が、より高い用量およびより長いインキュベーション期間では観察された対照ナノ粒子(図13、上のグラフ)より低かった。
【0074】
乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)細胞毒性アッセイ
LDHアッセイは、細胞死中の細胞溶解時に放出される安定なサイトゾル酵素であるLDHを定量的に測定する非放射性の比色分析による細胞毒性アッセイである。細胞培地中で放出されるLDHの量を、テトラゾリウム塩(INT)から赤色のホルマザン生成物への変換をもたらす30分の共役酵素アッセイで測定する。形成される色の量は、溶解、したがって死滅した細胞の数に比例する。次に、この結果を、化合物を加えていない細胞から放出されたLDHなどの対照に対して正規化する。図14は、対照ナノ粒子およびLiposome Aについての、腎臓のLCC PK1細胞に対するNCL LDHアッセイの結果を表す。
【0075】
図14のデータから、より低い用量範囲およびインキュベーション期間(4時間)では細胞毒性は低いことが示される。Liposome Aは、対照ナノ粒子と比較した場合、毒性が低いようである。
【0076】
対照リポソームの細胞毒性は、対照ナノ粒子の場合に、よりばらつきが大きく、これらの粒子は、Liposome Aより、HepG2肝細胞(図15、上)に対し、より毒性が高いようである。Liposome AのHepG2毒性、したがって肝毒性は、全ての濃度およびインキュベーション期間でかなり低いようである。これらのデータから、Liposome Aについては全体的に低い毒性が確認される。
【0077】
in vivoでの腫瘍画像化
ヒトがんのマウス腫瘍は、画像化剤、および、腫瘍シグナル強調物質としてのその有効性の予備調査には良好なモデルである。ヒト卵巣がん細胞株IGROV-1を使用して、Balb/cヌードマウスにおいて腫瘍を誘導した。このとき、細胞を、生後6〜8週の雌のマウスの右側腹下に注入し、2週間後、マウスには、画像化に適した十分大きい腫瘍が成長した。Liposome A粒子をHepes緩衝液中で調製し、担腫瘍マウスの尾静脈を通して注入したが、この方法は、血液循環中へのリポソームの急速な送り込みを確実にする。注入に先立ち、腫瘍を同定しベースラインシグナルの強度値を測定するために、4.7T磁石上でベースラインのMRIスキャンデータを得た。リポソーム注入後、次いで、マウスを、注入後2時間、16時間および24時間時点で画像化した。各時点についてT1強調画像を得、リポソームが腫瘍組織内に蓄積した結果としてのシグナル強度の強調の比率(%)を、腫瘍組織から生じた腫瘍シグナルの強度値から計算した(図16を参照のこと)。
【0078】
図16は、担腫瘍マウスのMR画像を示すものであり、腫瘍は、Liposome Aの注入前は暗く見えており、リポソームの投与後は、より強調されるようになる。この効果は、実験の24時間の終了時点まで持続する。Liposome Aの腫瘍シグナル強調を図17によりさらに確認するが、この図では、異なるTR時点で腫瘍シグナル強度が時間の経過に伴い一貫して上昇するのが見られ、このことから、EPR効果により腫瘍中でLiposome Aが徐々に蓄積されたことが確認される。
【0079】
このデータを、図18において、腫瘍シグナル強度の増加として表すと、腫瘍シグナル強度が24時間にわたり増加し、実験の24時間の終了時点までに72%のシグナル増加が達成されるのがわかる。このデータは、非常に印象的であり、本発明によるLiposome Aの、「受動的に」標的化される腫瘍画像化剤としての有用性を実証するものである。
【0080】
注入後24時間時点でマウスを屠殺し、その腫瘍を切除した。腫瘍を凍結させ、固定し、凍結切片化(cryo-sectioning)したが、このとき、7mの切片を切り取り、このスライドを、その蛍光について、顕微鏡法を用いて分析した。Liposome A製剤中に赤色蛍光の脂質DOPE-ローダミンを含ませることにより、腫瘍組織内でのリポソーム局在化のバイモダルでの評価が可能になった。
【0081】
MRI試験を見れば予想されるとおり、腫瘍切片の組織学的分析から、腫瘍組織中では蛍光シグナルが非常に高いレベルであることが明らかになった(図19を参照のこと)。腫瘍組織内で異常に高い蛍光シグナルが現れることが観察できた。これらの蛍光強度結果から、MR画像での定性的な視覚的一致が示され、異種移植片腫瘍内でのLiposome Aの蓄積が実証された。腫瘍組織は、大きな開窓のある微小血管を有することから、リポソームは、腫瘍中に溢出することが可能である。こうした溢出したリポソームは、リンパ排液系が障害されていることから除去されず、時間の経過に伴い、腫瘍細胞外液内に蓄積できる。
【0082】
結論
Liposome Aは、MRIによる有効な腫瘍画像化を可能にする新規のリポソームナノ粒子製剤である。本発明のGd・DOTA・DSAリポソーム中で使用するためにDSPC、すなわち完全飽和リン脂質を組み込むと、優れた結果が得られる。この結果から、Liposome Aは、低い肝毒性と、非常に高いMRIシグナル強調活性とを有することが明確に実証される。これは、最適なサイズのLiposome A、すなわち本発明の典型的なGd・DOTA・DSAリポソームによるものであると考えられ、その理由は、このリポソームが、EPR効果により腫瘍中に蓄積されるために十分小さく、この小さいサイズが、とりわけ、クッパー細胞取込みの減少により、リポソームが肝臓中に蓄積されることも防止するからである。
【0083】
(実施例2)
Liposome B
さらなる実験において、本発明者らは、さらなる、腫瘍標的型のMRI活性リポソーム(以後「Liposome B」と呼ぶ)を開発した。
【0084】
Liposome Bは、MRIのための新規の腫瘍標的型のリポソームナノ粒子である。本発明者らの標的型リポソームの研究調査の一部として、本発明者らは、葉酸受容体を発現する腫瘍モデルにおいて蓄積の増強を示す、葉酸標的型の常磁性リポソーム、すなわちLiposome Bを開発した(図20のLiposome Bの描写を参照のこと)。この粒子を、サイズ分布がおよそ100nmで多分散指標が確実に低くなるように製剤化した。IGROV-1細胞を使用して、Balb/cヌードマウスに腫瘍を誘導し、葉酸標的型のリポソームを静脈内注入した。非標的型のリポソームと比較して、腫瘍組織内に葉酸標的型のリポソームが急速に蓄積することが観察された。Liposome Bの製剤化はLiposome Aと似ているが、但し、DSPE-PEG2000ステルス脂質のモル比(%)が、標的化両親媒性物質、すなわちDSPE-PEG-2000(葉酸)[ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン-ポリエチレングリコール(2000)-葉酸]を組み込むために1.5mol%低下している点を除く(粒子の組成については図21を参照のこと)。
【0085】
ヒト鼻咽頭のKB癌細胞株には、最高レベルのFRが発現していると考えられるが、このがんの症例数は、最も頻度の高い(症例の90%超)卵巣がんと比較すると少ない27。とりわけ、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー膜タンパク質であるα-FRアイソフォームは、卵巣癌において高度に発現する28。加えて、α-FRアイソフォームは特定のバイオマーカー値を有し、転移性の腫瘍部位の起源の同定に役立つことも示されている29。したがって、本発明者らは、MRIを用いた卵巣の腫瘍の画像化にとっての葉酸標的型のバイモダルのリポソームの有効性を試験するために、この受容体を使用することに関心をもった。葉酸ベースのリポソームの薬物送達は広範に研究されている30が、葉酸標的化による腫瘍におけるリポソーム蓄積の速度増大効果は、リアルタイムで力学的にあまり試験されていなかった。FRは、主に腎尿細管、肺上皮および胎盤組織に限定される正常組織において顕著に低い量で発現される31ため、有効な腫瘍シグナル強調が予想された。標的化リガンドを付加した場合の値を、充実性腫瘍中でのリポソームの蓄積の速度および程度について評価するために、FR標的型の、蛍光性および常磁性を有するバイモダルのリポソームを製剤化し、MRIおよび蛍光顕微鏡法の両方により、非標的型のリポソームと比較した。
【0086】
IGROV-1細胞株、すなわちヒト卵巣癌細胞株が十分なレベルの葉酸受容体を発現するかどうかを立証するために、4つの異なる細胞株のFACS分析を実施した。この目的のために、正常組織における発現レベルが限定されている葉酸輸送体であるα-葉酸受容体(α-FR)アイソフォームを選んだ。ヒト卵巣細胞株IGROV-1、OVCAR-3およびHeLa(子宮頸がん)細胞のα-FR発現レベルを測定するために、フローサイトメトリー実験を実施した。これらの細胞株に加え、乳がん細胞株(SKBR-3)も、α-FR発現のない陰性対照細胞株として分析した。細胞は、葉酸不含の培地中で培養し、血清でインキュベートして、非特異的な相互作用を遮断した。α-FRに特異的なモノクローナル抗体(MAb Mov18/ZEL)を用いて免疫染色を実施し、この抗体でのインキュベーション後、二次的なFITC標識を施した抗体(ヤギ抗体IgG、FITCコンジュゲートしたもの)を細胞でインキュベートさせた。染色後、細胞を固定し、蛍光顕微鏡法により分析した。葉酸不含の細胞培養培地を用いた同じ標準化条件下で全ての細胞株を培養したFACS α-FR発現分析(図22を参照のこと)から、IGROV-1細胞株の方が明確に高いレベルのα-FR発現を呈することが示された。こうした典型的なFACSデータからα-FR発現を測定したところ、以下の順序であった:IGROV-1>>OVCAR-3>Hela>SKBR-3(播種後3日)。
【0087】
IGROV-1細胞株についてα-FRの過剰発現が立証されたので、Liposome B標的型リポソームを、細胞受容体と特異的に結合しIGROV-1腫瘍がん細胞中へ取り込まれるように調製した。
【0088】
葉酸を標的化する両親媒性物質の比率(%)を、MR画像化に先立ち最初に最適化した。Table 3(表3)は、IGROV-1細胞でインキュベーションするために製剤化した、葉酸を標的化するさまざまな両親媒性物質を有する一連のリポソームを示すものである。
【0089】
【表3】

【0090】
リガンド最適化実験のために、Table 3(表3)に示すLiposome Bリポソームを、培養中のIGROV-1細胞に加え、6時間インキュベートした。このインキュベーション期間後、細胞を洗浄し、溶解させ、その157Gd含有量を調べるためのICP-MS測定にかけた。図23は、得られたデータを表す。このデータから、IGROV-1細胞中への取込みが最大のリポソーム製剤は、1.5mol%のDSPE-PEG-2000(葉酸)を含有するものであることがわかる。本発明者らが過去に発表した研究では、DOPC、および3mol%のDSPE-PEG-2000(葉酸)標的化リガンドを組み込んだ中性のペグ化リポソームを利用したが、Liposome Bに必要なのは半量の標的化リガンドであり、これにより生産コストは大幅に減少する。したがって、わずか半分の量の標的化リガンドが必要であることによりコストがこのように減少することは、本発明のリポソーム中で完全飽和リン脂質(DSPCなど)を使用することによりもたらされるさらなる利点であることがわかる。
【0091】
Liposome Bは、in vivoでのMR画像化実験のために腫瘍を培養した元である細胞株と同じ細胞株を使用して確立した、最適化された比率の標的化リガンドを組み込んでいる新規の製剤である。
【0092】
Liposome Bリポソームの標的化リガンドの比率が最適化されたので、次に、サイズおよび分布についてリポソームを特徴付けた。図24は、Liposome B粒子のサイズ特徴付けについてのデータを表す。この粒子の平均サイズはおよそ100nmであり、濾過された粒子は優れた多分散指数を有する。
【0093】
in vitro毒性
LLC PK1腎細胞に対するMTTアッセイを、Liposome Bリポソームについて実施したところ、細胞生存率は、大部分の用量およびインキュベーション時間ではあまり影響されなかった(図25を参照のこと)。より高い用量およびインキュベーション期間は、細胞の生存率の減少はもたらさなかったが、このことは、最適な用量範囲が0.001から0.5mg/mLの間であることを示唆している。LDHアッセイのデータを図26に示すが、この図では、Liposome Bの毒性効果は、48時間のインキュベーション期間でははるかに顕著になるようである。
【0094】
Liposome Bリポソームの緩和度
さまざまな濃度のGd・DOTA・DSA脂質を有するリポソームを製剤化して、Gd原子の濃度が1.972から0.2466mMの範囲内である5つの製剤を得ることにより、Liposome Bリポソームの緩和度を測定した。Liposome B、および、DOPC脂質を含有する葉酸標的型のリポソーム(本発明者らのこれまでの刊行物(Bioconjugate Chem.、2009、20、648〜655頁)による)の緩和度をTable 4(表4)に示す。MRI活性のあるGd脂質:Gd・DOTA・DSAおよびその濃度は両方の製剤において同じであることから、4.7Tで得られたr1およびr2の緩和度は匹敵する。
【0095】
【表4】

【0096】
in vivoでの腫瘍MRI
Liposome B粒子(総リポソーム濃度は15mg mL-1)をHepes緩衝液(20mM、NaCl、135mM、pH6.5)中で調製し、IGROV-1担腫瘍マウスの尾静脈を通して注入した。注入に先立ち、腫瘍を同定しT1ベースライン値を測定するために、4.7T磁石上でベースラインのMRIスキャンデータを得た。次に、マウスを、注入後2時間、16時間および24時間の間隔で画像化した。Liposome B粒子が腫瘍組織内に蓄積した結果としてのシグナル強調の比率(%)を、腫瘍から生じたシグナル強度から計算した。図27は、注入前、Liposome Bの投与後2時間、16時間および24時間時点での腫瘍のMR画像を表す。腫瘍画像から、24時間時点で腫瘍領域周囲の強調されたシグナルの明るい周縁が明らかになり、このことから、本発明による葉酸受容体標的型の常磁性のLiposome Bの多大な有効性が示される。
【0097】
測定された腫瘍シグナルの強度値(図28を参照のこと)は、i.v.注入後わずか2時間以内に、葉酸リポソームの活性で特異的な標的化効果がはっきり見える(この時点で、腫瘍シグナルは20%強調されている)ことを示している。この後、このシグナル強調は16時間の画像化時点まで継続して増加し、その時点では62%の腫瘍シグナル強調が達成される。この実質的な強調は、従来の、DOPC-3mol%のDSPE-PEG2000(葉酸)を含有するリポソームと比較して半分の量の葉酸標的化リガンドを含有するLiposome B粒子を注入したにも関わらず、観察される。
【0098】
腫瘍シグナル強度が16時間でピークとなった後、腫瘍シグナルが下落し始めるという事実から、Liposome Bのさらなる新規性および有用性が実証される。Liposome Aを用いると腫瘍シグナル強度は24時間の終了時点まで増加するが、Liposome Bの腫瘍シグナル強度がこのように低下する効果は、画像化後、粒子が腫瘍から「自然に」除去されることから有利であり、このことは、あらゆる安全で生体適合性のナノ粒子に必要なことである。標的化リガンドを用いて腫瘍部位でのより速い蓄積速度および用量は達成できるものの、最近の報告は、標的型ナノ粒子の蓄積および保持が長期化された場合の安全性に注意を促している。本発明者らは、Liposome Bは、μM用量範囲内で、腫瘍組織を実質的に強調し、シグナル強調の飽和点後は除去することができ、現在の臨床的に利用可能な小分子量のMRI造影剤に勝る利点を実証する最適なMRI活性リポソームナノ粒子であると考える。
【0099】
IGROV-1腫瘍の組織学
MRI後、次にマウスを屠殺し、腫瘍を切除し、凍結させ、固定し、組織学的分析用に切片化した。リポソーム製剤中に蛍光のDOPE-ローダミン脂質を含ませると、腫瘍組織内のリポソームの存在についての敏感な指標である蛍光顕微鏡法による死後分析が可能になる。図29は、Liposome B注入後24時間時点での切片化された腫瘍の蛍光顕微鏡画像を表すものである。これらの切片化された腫瘍スライスからの強い赤色蛍光の存在は、腫瘍組織において標的型のLiposome Bが蓄積していることを示す。
【0100】
これらの知見から、腫瘍のin vivoでの画像化のための葉酸標的化は、腫瘍画像化のための強固で広範なプラットフォームをもたらすことが示唆される。
【0101】
結論
充実性腫瘍の有効な画像化にとってこれまで以上に最適なナノ粒子を求めると、粒径、電荷および標的化エレメントを考慮することが、腫瘍画像化のための粒子開発を成功させるための重要な要件である。実験1および2の結果は、結論として、本発明の新規のリポソームは、とりわけ、腫瘍の磁気共鳴画像化法における造影剤としての使用に適したものとなる最適な特性を実証することを示すものである。
【0102】
実験
材料
ホスファチジルエタノールアミン-リサミンローダミンB(DOPE-ローダミン)、コレステロール、ジステアロイルホスホコリン(DSPC)および1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン-N-メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000(DSPE-PEG2000)を、Avanti Polar Lipids Inc.(Alabaster、AL、USA)から購入した。他の化学薬品は全て、分析グレードのものまたは入手可能な最高のグレードのものであり、Sigma-Aldrich(UK)またはMacrocyclics(USA)から購入した。Gd・DOTA・DSAを次のように合成した。
【0103】
一般的な手順
1H NMRスペクトルは、400MHz Bruker Advance 400分光計で記録した。化学シフトは、積分基準として残留クロロホルム(7.27ppm)を用いて、TMS由来の低磁場での百万分率(ppm)で報告される。データは次のように支持される:化学シフト、s=一重線、br=幅広い一重線、d=二重線、t=三重線、q=四重線、m=多重線、結合定数Jはヘルツ(Hz)で示す。13C NMRスペクトルは、400MHz Bruker Advance 400分光計で記録した。化学シフトは、積分基準として中程度の共鳴のCDCl3(77.0ppm)を用いて、TMS由来の低磁場での百万分率(ppm)で報告される。赤外線(IR)スペクトルはJASCO FT/IR-620赤外分光光度計で記録し、吸収量は波数(vmax、単位はcm-1)で記録される。分析用HPLCは、Polymer Laboratories PL-ELS 1000蒸発光散乱検出器が装備されたHitachi-LaChrom L-7150ポンプシステムで行った。HPLCグラジエントミックスを次のように割り当てた:グラジエントミックスA=H2O/0.1%TFA、ミックスB=MeCN/0.1%TFA、ミックスC=MeOH。質量スペクトルは、VG-070B、Joel SX-102またはBruker Esquire 3000ESIの装置を用いて実施した。融点は、Stuart Scientific SMP3の器具で決定し、補正せずに報告する。空気に敏感な材料を用いる反応は、標準的な注射器手法により実施した。CH2Cl2をP2O5で蒸留した。薄層クロマトグラフィー(TLC)分析は、Merckの、0.2mmのアルミニウムで裏打ちされたシリカゲル60 F254プレートで実施し、成分は、紫外線を当てることにより、または、過マンガン酸カリウム、酸性のモリブデン酸アンモニウム(IV)、ヨウ素、ニンヒドリン、ローダミンB、希硫酸またはブロモクレゾールグリーンで染色することにより可視化し、このとき、適切なPharmacia LKB-Ultrospec III(300nmの重水素ランプ)を使用して、UV吸光度を可視化した。フラッシュカラムクロマトグラフィーは、Merckの、0.040から0.063mm、230から400メッシュのシリカゲルを用いて実施した。顕微鏡法実験は、Nickon Eclipse E600顕微鏡で行った。FACS分析は、Becton Dickinson FACSCaliburの機械で行った。全てのMRI実験は、4.7T Magnex磁石(Oxford、UK)Varian Unity Inovaコンソール(Palo Alto、CA、USA)で行った。
【0104】
動物に関する全ての手順は、英国内務省の規制およびGuidance for the Operation of Animals(Scientific Procedures)Act(1986)に従い行った。
【0105】
スキーム1は、提案するリポソームナノ粒子の、自社のみで合成した成分、すなわちGd・DOTA・DSA脂質4を生成するために用いた合成経路を表すものである。この脂質は、分析用HPLCにより評価されるように、約98%の純度で生成される。
【0106】
【化2】

【0107】
スキーム1.a:3当量のEt3N、乾燥CH2Cl2、45℃、12時間、68%。b:6H2O.GdCl3、H2O、90℃、12時間、定量的。
【0108】
化学合成:
(i)2-{4,7-ビスカルボキシメチル-10-[(N,N-ジステアリルアミドメチル-N'-アミドメチル]-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカ-1-イル}-酢酸(DOTA・DSA)(3)
【0109】
【化3】

【0110】
DOTA-NHS-エステル(100mg、0.120mmol)およびビス(ステロイルアミド(steroylamide))(80.17mg、0.139mmol)を、真空にしたフラスコに加え、これに、無水のCH2Cl2(40ml)を加えた。次に、トリエチルアミン(66.90l、0.480mmol)を加え、反応物をN2雰囲気下で一晩撹拌した。溶媒を真空中で除去し、未精製の混合物を、フラッシュカラムクロマトグラフィー((CH2Cl2:MeOH:NH3が34.5:9:1)、CH2Cl2 1:9→9:1、v/vで溶出)により精製すると、白色の固形物が得られた。Rf[CH2Cl2:MeOH:H2O:34.5:9:1v/v]0.61。1H NMR (400MHz, CDCl3: MeOD: AcOD: 3:1, 300K) δH (ppm) 10.55 (3H, s, br, 3×COOH)、5.30 (1H, s, br, CH2NHCOO)、3.65 (6H, m, 3×NCH2COOH)、3.22 (6H, m, 2×NCH2CH2, 1×NCH2CONH)、2.58 (16H, s, br, 4×NCH2CH2N)、2.29 (2H, s, br, CH2NH)、1.67〜1.59 (4H, m, OCNCH2CH2)、1.46〜1.44 (27H, sのd, J 6.0, C(CH3)3×3)、1.25 (60H, s, 鎖状CH2)、0.90 (6H, t, J 6.8, CH3×2)。FTIR:vmax(ヌジョール)/cm-1 3750.56、2726.56、1889.87、1793.63、1681.21、1534.22。HPLC:tR=34.16分、カラムC-4ペプチド、グラジエントミックス:0.0分[100%A]、15〜25.0分[100%B]、25.1〜45.0分[100%C]、45.1〜55.0分[100%A]、流速:1mL/分。HRMS(FAB+)の54H104N6O8についての計算値はm/z964.7916、実測値は987.7833(M+Na)+
【0111】
(ii)2-{4,7-ビスカルボキシメチル-10-[(N,N-ジステアリルアミドメチル-N'-アミドメチル]-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカ-1-イル}-酢酸ガドリニウム(III) (Gd・DOTA・DSA)(4)
【0112】
【化4】

【0113】
化学量論的な量のGdCl3.6H2O(28.118mg、0.075mmol)をDOTA・DSA(3)(73mg、0.0757mmol)に加え、反応物を、蒸留H2O(20mL)中で90℃にて一晩撹拌した(ガドリニウムを添加すると、pHは3.5に下落した)。水を凍結乾燥させると、白色の粉末が得られた(83.9mg、収率99%、分解温度=345〜348℃)。Rf[CH2Cl2:MeOH:H2O:34.5:9:1v/v]0.55。キシレノールオレンジ試験では、検出可能な遊離Gd3+イオンは存在しないことが示された。FTIR:vmax(ヌジョール)/cm-1 3750.23、2234.78、1991.59、1889.89、1793.44、1681.90.77。HPLC:tR=36.22分、カラムC-4ペプチド、グラジエントミックス:0.0分[100%A]、15〜25.0分[100%B]、25.1〜45.0分[100%C]、45.1〜55.0分[100%A]、流速:1mL/分。MS(ESI+)のC54H101GdN6O8についての計算値はm/z1119.67、実測値は1120.10(M+H)+
【0114】
(iii)N,N-ジステアリルアミドメチルカルバミン酸tert-ブチルエステル(2a)
【0115】
【化5】

【0116】
Boc-グリシン(310mg、1.77mmol)およびジオクタデシルアミン(923.96mg、1.77mmol)を乾燥クロロホルム(30ml)に溶解した。HBTU(2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート)(804.12mg、2.12mmol)およびDMAP(4-ジメチルアミノピリジン)(648.72mg、5.31mmol)をこの溶液に加え、反応物をN2下で室温にて12時間撹拌した。溶媒を真空中で除去した。この混合物をCH2Cl2(50mL)に溶解し、H2Oで抽出した(3×50mL)。水性の抽出物を合わせたものを2:1のCH2Cl2:MeOHで逆抽出し(2×50mL)、溶媒を減少させ、ジエチルエーテルに再溶解し、続いて7%クエン酸およびH2Oでの抽出を実施し、有機層をブラインで洗浄し、回収し、セライトを通して濾過し、最後にMgSO4で乾燥させた。ジエチルエーテルを真空中で蒸発させると、純粋な白色の固形物が得られた(1.164g、収率97%、mp=82〜85℃)。Rf[CH2Cl2:MeOH:H2O:34.5:9:1v/v]0.56。1H NMR (400MHz, CDCl3) δH (ppm) 5.50 (1H, s, br, アミドNH)、3.99 (2H, s, br, NHCH2)、3.35〜3.25 (2H, d, br, OCNCH2)、3.17〜3.07 (2H, d, br, OCNCH2)、1.44 (9H, s, C(CH3)3)、1.61〜1.44 (13H, m, C(CH3)3およびOCN(CH2CH2))、1.25 (60H, s, CH2アルキル鎖)、0.872 (6H, s, br, CH3×2)。13C NMR (400MHz, CDCl3) δC (ppm) 167.6 (CON(CH2)17)、156.0 (C(CH3)3COCO)、79.0 (C(CH3)3)、46.9 (N(CH2CH2)9)、46.1 (N(CH2CH2)9)、42.2 (NHCH2CO)、31.9〜26.9 (CH2×30)、22.7 (N(CH2CH2)9)、14.1 (C(CH3)3)。FTIR:vmax(ヌジョール)/cm-1 2360.56、1723.85、1650.78、158
0.63、1377.25。HPLC:tR=36.08分、カラムC-4ペプチド、グラジエントミックス:0.0分[100%A]、15〜25.0分[100%B]、25.1〜45.0分[100%C]、45.1〜55.0分[100%A]、流速:1mL/分。HRMS(FAB+)のC43H86N2O3についての計算値はm/z678.6638、実測値は679.6953(M+H)+
【0117】
(iv)N,N-ジステアリルアミドメチルアミン(DSA)(2)
【0118】
【化6】

【0119】
保護されたアミン2aを無水のCH2Cl2(5mL)に溶解し、これに、トリフルオロ酢酸(3mL)を加えた。反応物をN2雰囲気下で2時間撹拌した。溶媒を真空中で除去し、生成物を真空下で乾燥させると、白色の粉末が得られた(158mg、収率94%、mp=59〜64℃)。Rf[ヘキサン:酢酸エチル:9:1v/v]0.44。1H NMR (400MHz, CDCl3) δH (ppm) 3.85 (2H, s, OCCH2NH2)、3.32 (2H, t, J 7.2Hz, OCNCH2CH2)、3.13 (2H, t, J 7.2Hz, OCNCH2CH2)、2.39 (2H, s, 顕著にbr, NH2)、1.61〜1.55 (4H, m, OCNCH2CH2)、1.26 (60H, s, 鎖状CH2)、0.86 (6H, t, J 6.8, CH3×2)。13C NMR (400MHz, CDCl3) δC (ppm) 168.8 (CO)、43.7 (OCN CH2)、41.9 (OCNCH2)、35.6 (CH3CH2CH2)、33.4 (アルキル鎖CH2)、32.3、31.1 (NCH2CH2CH2)、22.7〜14.1 (アルキル鎖CH2)。FTIR:vmax(ヌジョール)/cm-1 1681、1534、1313、1206、1174。HPLC:tR=31.46分、カラムC-4ペプチド、グラジエントミックス:0.0分[100%A]、15〜25.0分[100%B]、25.1〜45.0分[100%C]、45.1〜55.0分[100%A]、流速:1mL/分。HRMS(FAB+)のC38H78N2Oについての計算値はm/z578.6114、実測値は579.6199(M+H)+
【0120】
常磁性のガドリニウム金属が原因で生じる極度のピークの広幅化のため、脂質4の常磁性の性質により、NMR分光法は特徴付けの手段として適当ではなかった。全てのガドリニウム脂質をエレクトロスプレー質量分析(ESI-MS)により分析し、HPLCおよびキシレノールオレンジアッセイを用いて、生成物試料中に遊離Gd3+が存在するかどうかを試験した。キシレノールオレンジアッセイは比色試験であり、この試験では、オレンジ色から紫色への色の変化は、キシレノールオレンジ色素へのGd3+の錯体化を示す。これにより、440nmから573nmへの深色移動が生じる。このとき、既知のガドリニウム濃度対吸光度の標準的な較正曲線を用いることにより、試料中の遊離Gd3+の量をそれに従って評価できた。図5および6に示すように、Gd・DOTA・DSA4のHPLCおよびMS分析を実施したところ、遊離Gd3+は存在しないことが示され、この化合物は、98%の純度、優れた収率で調製された。ガドリニウムの同位体ピークもMSトレースにおいて可視化でき、結果として、ガドリニウムの大量の同位元素が観察されたことから、この金属とDOTA脂質との錯体化が確認された。化合物4についてのHPLC、MSおよび同位体ガドリニウムのピークを図5および6に示す。
【0121】
キシレノールオレンジ試験
Gdが組み込まれた化合物中の遊離ガドリニウムイオンの存在を、キシレノールオレンジ溶液(990μL、0.5mM、酢酸ナトリウム緩衝液(0.1M、pH5.2)中)と、Gd化合物(10μL)を含有する試験溶液(1:1のMeOH:CH2Cl2中)との混合物の、573nmでの吸光度を測定することにより、決定した。吸光係数ε=20,700L mol-1cm-1、それにより、[遊離Gd]=A573/ε。
【0122】
Gd・DOTA・DSAのMRI分析。T1分析のために、Gd・DOTA・DSA4、Gd・DTPA・BSA、ならびに、対照である金属不含の化合物およびMagnevist(Schering AG、ドイツ)を水に加えて、最終濃度を0.5mMとした。これらの溶液(200μL)をエッペンドルフ管に入れ、4.7T Varian MRスキャナーで周囲温度にてT1緩和値を測定した。緩和度測定用に、0.20から0.66Mの間の5つの異なるガドリニウム濃度を得るために、ガドリニウムリポソーム製剤を200μLの蒸留水中で調製し、モル緩和度(molar relaxivity)r1(mM-1s-1)を決定した。T1値は、標準的なスピンエコーシーケンスおよび2mmの単一のスライス取得を用いて実施する飽和回復実験を用いて得た(TR=50ミリ秒、100ミリ秒、200ミリ秒、300ミリ秒、500ミリ秒、700ミリ秒、1200ミリ秒、3000ミリ秒、5000ミリ秒、7000ミリ秒、TE=15ミリ秒)、シグナル平均の数は2、FOVは70×70mm2、256×128のマトリックス中に回収。
【0123】
リポソーム調製。全ての脂質は、-20℃、アルゴン下にて、無水の有機溶媒(CHCl3、MeOHまたは両方の混合物)中のストック溶液として保管した。適切な体積の各脂質ストックを、クロロホルムを含有する丸底フラスコに入れ、撹拌して、脂質を確実に完全に混合した。溶媒を真空中でゆっくり除去して、平らな脂質フィルムを確実に生成させた。このフィルムを、規定の体積(リポソーム500mg当たり20mL)の緩衝液(HEPES、NaCl、150mM、pH6.8)で再水和させた。その結果得られる溶液を60分間(30℃で)超音波処理した。このリポソーム懸濁液のpHをpH Boy(Camlab Ltd.、Over、Cambridgeshire、UK)により調べた。各調製物について、リポソームのサイズおよび多分散を光子相関分光法(PCS)により測定した。
【0124】
マウス腫瘍モデル。IGROV-1細胞(PBS0.1mL当たり5×106)を、皮下腫瘍を発生させるため、生後6〜8週のBalb/cヌードマウスの腹側中に埋め込んだ。約2週間後(推定される腫瘍重量は40〜50mg)、マウスにイソフルラン/O2ミックスで麻酔をかけ、方形の1Hボリュームコイル中に置き、磁石中に配置した。ベースラインのスキャンデータを得てから、側尾静脈を介してマウスにいずれかの200μLのリポソーム溶液(HEPES(20mM、NaCl 135mM、pH6.5))を静脈内注入し、4.7T(スピンエコーシーケンス:TR=400〜2800ミリ秒、TE=10ミリ秒、FOV=45×45cm2、平均:1、マトリックスサイズ:256×128、厚さ:2.0mm、20枚スライス)で画像化した。
【0125】
組織学実験。MRI後、動物を屠殺し、腫瘍、肝臓および腎臓を切除し、液体窒素中で凍結させ、OCT(VWR)包埋液(embedding fluid)に包埋し、10mまたは7m厚いずれかの切片を切り、スライドに載せて、蛍光顕微鏡法について試験した。
[参考文献]




【特許請求の範囲】
【請求項1】
Gd・DOTA・DSA(2-{4,7-ビスカルボキシメチル-10-[(N,N-ジステアリルアミドメチル-N'-アミドメチル]-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカ-1-イル}-酢酸ガドリニウム(III))を含むリポソームであって、中性の完全飽和リン脂質成分をさらに含むことを特徴とするリポソーム。
【請求項2】
前記完全飽和リン脂質成分が、1,2-ジ(C12〜C20飽和脂質)-sn-グリセロ-3-ホスホコリンであり、前記飽和脂質基が、互いに同じであっても、または異なっていてもよい、請求項1に記載のリポソーム。
【請求項3】
前記完全飽和リン脂質成分がDSPC(1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン)である、請求項1に記載のリポソーム。
【請求項4】
コレステロールをさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のリポソーム。
【請求項5】
ポリエチレングリコール-リン脂質成分をさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のリポソーム。
【請求項6】
前記ポリエチレングリコール-リン脂質が、DSPE-PEG(2000)[ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン-ポリエチレングリコール(2000)]である、請求項5に記載のリポソーム。
【請求項7】
前記リポソーム中のGd・DOTA・DSAの量が、リポソーム製剤全体の29から31mol%である、請求項1から6のいずれか一項に記載のリポソーム。
【請求項8】
前記リポソーム中のGd・DOTA・DSAの量が、リポソーム製剤全体の30mol%である、請求項1から6のいずれか一項に記載のリポソーム。
【請求項9】
前記リポソーム中の完全飽和リン脂質成分の量が、リポソーム製剤全体の32から34mol%である、請求項1から8のいずれか一項に記載のリポソーム。
【請求項10】
前記リポソーム中の完全飽和リン脂質成分の量が、リポソーム製剤全体の33mol%である、請求項1から8のいずれか一項に記載のリポソーム。
【請求項11】
前記リポソーム中のコレステロールの量が、リポソーム製剤全体の29から31mol%である、請求項1から10のいずれか一項に記載のリポソーム。
【請求項12】
前記リポソーム中のコレステロールの量が、リポソーム製剤全体の30mol%である、請求項1から10のいずれか一項に記載のリポソーム。
【請求項13】
前記リポソーム中の前記ポリエチレングリコール-リン脂質成分の量が、リポソーム製剤全体の5〜8mol%である、請求項1から12のいずれか一項に記載のリポソーム。
【請求項14】
前記リポソーム中の前記ポリエチレングリコール-リン脂質成分の量が、リポソーム製剤全体の7mol%である、請求項1から12のいずれか一項に記載のリポソーム。
【請求項15】
前記リポソームの、リン酸緩衝溶液中の10倍希釈での平均粒径が100nm以下である、請求項1から14のいずれか一項に記載のリポソーム。
【請求項16】
前記リポソームの、リン酸緩衝溶液中の10倍希釈での平均粒径が80nm以下である、請求項1から14のいずれか一項に記載のリポソーム。
【請求項17】
Gd・DOTA・DSA、コレステロール、DSPCおよびDSPE-PEG(2000)を含む、請求項1に記載のリポソーム。
【請求項18】
Gd・DOTA・DSA、コレステロール、DSPCおよびDSPE-PEG(2000)が、前記リポソーム製剤中でそれぞれ、30:33:30:7mol%の比率で存在する、請求項17に記載のリポソーム。
【請求項19】
腫瘍標的化剤をさらに含む、請求項1から17のいずれか一項に記載のリポソーム。
【請求項20】
前記腫瘍標的化剤が、哺乳動物の非腫瘍組織の細胞における受容体の発現に比べて腫瘍細胞において過剰発現される前記受容体のリガンドを含む、請求項19に記載のリポソーム。
【請求項21】
前記腫瘍標的化剤が葉酸部分を含む、請求項20に記載のリポソーム。
【請求項22】
前記腫瘍標的化剤が、リン脂質-ポリエチレングリコール-葉酸化合物である、請求項20に記載のリポソーム。
【請求項23】
前記リン脂質-ポリエチレングリコール-葉酸化合物が、DSPE-PEG(2000)-葉酸[ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン-ポリエチレングリコール(2000)-葉酸]である、請求項22に記載のリポソーム。
【請求項24】
前記リポソーム中に存在する前記葉酸部分の量が、リポソーム製剤全体の1〜2mol%である、請求項21から23のいずれか一項に記載のリポソーム。
【請求項25】
Gd・DOTA・DSA、コレステロール、DSPC、DSPE-PEG(2000)およびDSPE-PEG(2000)-葉酸を含む、請求項19に記載のリポソーム。
【請求項26】
Gd・DOTA・DSA、コレステロール、DSPC、DSPE-PEG(2000)およびDSPE-PEG(2000)-葉酸が、前記リポソーム製剤中にそれぞれ30:33:30:5.5:1.5mol%の比率で存在する、請求項25に記載のリポソーム。
【請求項27】
請求項1から26のいずれか一項に記載のリポソームと薬学的に許容される担体とを含む磁気共鳴造影剤。
【請求項28】
前記薬学的に許容される担体が、水性担体である、請求項27に記載の磁気共鳴造影剤。
【請求項29】
医療において、例えば診断において使用するための、請求項27または28に記載の磁気共鳴造影剤。
【請求項30】
哺乳動物における器官および器官構造の磁気共鳴画像を強調するための磁気共鳴造影剤の調製における、請求項1から26のいずれか一項に記載のリポソームの使用。
【請求項31】
哺乳動物における腫瘍の磁気共鳴画像を強調するための磁気共鳴造影剤の調製における、請求項30に記載の使用。
【請求項32】
前記磁気共鳴造影剤中の前記リポソームの濃度が、1〜50mg/mL、好ましくは1〜30mg/mLである、請求項30または31に記載の使用。
【請求項33】
哺乳動物における器官または器官構造の磁気共鳴画像化の方法であって、
(a)請求項27または28に記載の磁気共鳴造影剤を患者に投与するステップと、
(b)前記患者において対象とする器官を撮像するステップと
を含む方法。
【請求項34】
前記磁気共鳴造影剤が、哺乳動物における腫瘍の磁気共鳴画像を強調するために使用される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記磁気共鳴造影剤中のリポソームの濃度が、1〜50mg/mL、好ましくは1〜30mg/mLである、請求項33または34に記載の方法。
【請求項36】
請求項27または28に記載の磁気造影剤が事前投与された哺乳動物における器官または器官構造の磁気共鳴画像化の方法であって、
(i)前記患者における対象とする器官を撮像するステップを含む方法。
【請求項37】
請求項1から26に記載のリポソームを作製する方法であって、Gd・DOTA・DSA(2-{4,7-ビスカルボキシメチル-10-[(N,N-ジステアリルアミドメチル-N'-アミドメチル]-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカ-1-イル}-酢酸ガドリニウム(III))の溶液と、中性の完全飽和リン脂質の溶液とを混合するステップを含む方法。
【請求項38】
前記混合物を乾燥させ(例えば真空中で)、その結果得られるリポソームを場合により再水和するさらなるステップを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
請求項1から26のいずれか一項に記載のリポソームと薬学的に許容される担体とを混合するステップを含む、請求項27または請求項28に記載の磁気造影剤を作製する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公表番号】特表2013−511503(P2013−511503A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−539414(P2012−539414)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【国際出願番号】PCT/GB2010/051925
【国際公開番号】WO2011/061541
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(597166578)メディカル リサーチ カウンシル (60)
【出願人】(511052152)インペリアル・イノベイションズ・リミテッド (3)
【Fターム(参考)】