説明

腫瘍壊死因子結合リガンド

【課題】TNFアルファの異なる活性を選択的に阻害したり、促進したりする抗体。
【解決手段】TNFアルファの異なるトポグラフィック領域に対して特異的な、モノクローナル抗体等のリガンド。これらのリガンドは、TNFに結合すると、腫瘍退行、内皮プロコアギュラントの誘導、腫瘍フイブリン沈着の誘導、細胞毒性、受容体結合の活性が、選択的に影響を受ける。リガンドの好ましい例としては、抗体、F(ab)断片、再構成抗体(CDR移植ヒト化抗体)単一ドメイン抗体(dAbs)、単一鎖抗体、血清結合タンパク質、受容体等が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ヒト腫瘍壊死因子アルファ(TNF)に結合するリガンドであって、この結合によってTNFの生物学的活性が修飾されるものに関する。ここでいう修飾は、すでに明らかにされているような、TNFアルファに結合してTNFアルファの活性すべてを阻害する抗体によるものとは異なるものである。新規の発見は、TNFアルファの異なる活性を選択的に阻害したり、促進したりするものである。また、本発明は、TNFに結合する分子を含む組成物と、TNFに対して活性を示す分子およびTNFを用いた治療方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
腫瘍壊死因子アルファ(TNF)は、活性マクロファージによって産生されるもので、バシラス・カルメッテグエリン(Bacillus Calmette-Guerin)またはコリネバクテリリウム・パルバム(Corynebacterium parvum)によってプレセンシタイズされ、エンドトキシン(LPS)によってチャレンジされた実験動物の血清中において最初に発見された。TNFの計画的な(systematic)投与によって、出血性の壊死が、マウスの移植可能な腫瘍に見出されることがあった。一方、インビトロ系ではTNFは腫瘍細胞系に対して細胞溶解性または細胞増殖抑制性効果を示す。
【0003】
宿主保護効果に加えて、TNFは敗血症、悪液質、そして脳マラリア(cerebral malaria)の原因となる因子とみなされてきた。TNFに対する多クローン性ウサギ血清によるマウスの受動免疫は、感染に先立ってされた場合、中毒ショックのイニシエート剤であるLPSエンドトキシンの致死効果からマウスを守ることが示されている。
【0004】
TNFをコードする遺伝子はクローン化されており、潜在的なガン治療剤としてこのモノカインの有用性を調査することを可能にしている。
【0005】
一方、ステージ1臨床治験における癌患者へのTNF点滴によって腫瘍が退行するが、一方で血小板減少症、リンパ球減少症、肝毒性、腎臓障害、そして高血圧症などのような副作用が報告されている。TNFの臨床での使用に伴うこれらの顕著な副作用は、数多くの知られているTNFの効果から予測されるものであり、そのいくつかは第1表に挙げられている。
【0006】
第1表
TNFの生物学的活性
抗腫瘍活性
抗ウイルス活性
抗寄生虫活性

機能
腫瘍細胞に対する細胞毒性作用
(腫瘍起因性)血管形成作用
発熱原活性
リポタンパク質リパーゼ阻害化
好中球活性化
破骨細胞活性
内皮細胞、単球、そして腫瘍細胞プロコアグラント活性の誘導
内皮細胞上の表面抗原誘導
IL-6誘導
c-mycおよびc-fosの誘導
EGF受容体の誘導
IL-1の誘導
TNF合成の誘導
GM-CSF合成の誘導
プロスタグランジンおよびコラゲナーゼ合成増加
急性相タンパク質C3の誘導
【0007】
とくに重要な点は、内皮および抹消血単球のTNF活性化の結果として起こる凝固活性化にある。播種性血管内凝固は中毒ショック(toxic shock)に関連しており、また胃腸癌、膵臓癌、前立腺癌、肺癌、乳癌、子宮癌、メラノーマ、急性白血病、骨髄腫、骨髄増殖性症候群、そして骨髄芽性白血症などを含む多くの癌に関連している。腫瘍退行活性には影響がないが、凝固活性化のような好ましくない効果が除去またはマスクされるようなTNF活性の修飾は、明らかにより一層癌治療に有益なものとなるが、一方でTNF活性の完全な廃止が中毒ショックの完全治癒に求められる。
【0008】
部位特異性抗体(多クローンおよびモノクローン)の利用によるホルモン活性の分離によってホルモン活性を強めることができる(Aston 1989, Mol. Immunol. 26, 435)。今日、3次元構造が既知のTNF分子の特定領域に対する機能または抗原性を同定する試みがほとんどなされていない。そのような領域に対する機能の同定は、治療目的に合ったモノクローン抗体および他のリガンドの開発を可能とする。アミノ酸1から15に対するポリクローン性抗体は、TNFによるHeLa R19細胞受容体結合を阻害することが報告されている(Socher et al., 1987, PNAS 84, 8829)。一方で、TNF上の未決定の構造的エピトープを認識するモノクローン抗体がインビトロ系でTNFの細胞毒性活性を阻害することが報告されている(Bringman and Aggarwal, 1987,Hybridoma 6, 489)。しかし、これらの抗体が他のTNF活性に対してどのような効果を示すかは明らかではない。
【非特許文献1】Aston 1989, Mol. Immunol. 26, 435
【非特許文献2】Socher et al., 1987, PNAS 84, 8829
【非特許文献3】Bringman and Aggarwal, 1987,Hybridoma 6, 489
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者は、ヒトTNFに対して活性を示す一連のモノクローン抗体群を作った。そして、TNFの抗腫瘍効果(インビトロおよびインビボ系)と、TNF受容体結合と、凝固の活性化(インビトロおよびインビボ系)に関しての影響について特徴づけ、そしてそれらのトポグラフィックな特異性を定義した。このようなアプローチによって、本発明者はTNFアルファの異なるトポグラフィック領域が、異なる活性に関係していることを発見した。したがって、本発明者は、TNFアルファ活性を選択的に高めるか阻害するリガンドまたは抗体の同定を可能とし、それによってTNFアルファを含む改善された治療薬や治療方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一の発明は、ヒトTNFに結合可能なリガンドからなるもので、このリガンドがTNFに結合すると、TNFの下記生物学的活性が阻害される。
1.腫瘍退行
2.内皮プロコアギュラントの誘導
3.腫瘍フイブリン沈着の誘導
4.細胞毒性
5.受容体結合
【0011】
本発明の全ての態様における好ましい実施形態では、リガンドは抗体、F(ab)断片、再構成抗体(CDR移植ヒト化抗体(grafted humanised antibodies))単一ドメイン抗体(dAbs)、単一鎖抗体、血清結合タンパク質、受容体、そして天然の阻害剤から選択される。また、リガンドは合成されたタンパク質またはぺプチドであって前記断片のひとつと類似している。しかし、好ましくは、リガンドはモノクローン抗体またはそのF(ab)断片である。
【0012】
本発明の第二の発明は、ヒトTNFに結合可能なリガンドからなるものであって、TNFへのリガンドの結合によって、残基1-18、58-65、115-125、そして138-149からなるトポグラフイック領域、または残基1-18、108-128からなるトポグラフイック領域、または残基56-79、110-127、そして135-155からなるトポグラフイック領域が実質的に、自然発生的な生物学的活性リガンドに対する結合から遮るようにして、リガンドがTNFに結合することによって、TNFによる内皮プロコアギュラント誘導、腫瘍退行、腫瘍フイブリン沈着誘導、細胞毒性、そして受容体結合の活性を阻害することを特徴とするものである。
【0013】
本発明の第三の発明は、主として残基1-20からなるトポグラフィック領域と、残基56-77からなるトポグラフイック領域と、残基108-127からなるトポグラフイック領域と、そして残基138-149からなるトポグラフイック領域からなる群から選択される少なくとも2つの領域において、ヒトTNFに結合可能なリガンドからなるものである。
【0014】
本発明の第三の発明にもとづく好適な実施態様では、リガンドはトポグラフイック領域1-18、58-65、115-125、そして138-149においてヒトTNFと結合する。このような配列からなる領域をトポグラフイックにして第23図に示した。
【0015】
本発明の第三の発明にもとづくより好適な実施態様では、リガンドはトポグラフイック領域1-18および108-128においてヒトTNFと結合する。このような配列からなる領域をトポグラフイックにして第24図に示した。
【0016】
本発明の第二の発明にもとづくより好適な実施態様では、リガンドはトポグラフイック領域56-79、110-127、そして136-155においてヒトTNFと結合する。このような配列からなる領域をトポグラフイックにして第25図に示した。
【0017】
本発明の第一、第二および第三の発明にもとづく特に好適な実施態様では、リガンドは、MAb1、MAb47、そしてMAb54と命名されたモノクローン抗体からなる群から選択されるモノクローン抗体である。MAb1、MAb47、そしてMAb54を産生するハイブリドーマからなる細胞系統の試料は、英国(Porton Down, Salisbury, Wilthshire SP4 OJG, United Kingdom)にあるヨーロピアンコレクションオブアニマルセルカルチャーズ(European Collection of Animal Cell Cultures; ECACC)、ワクチン開発製造研究所(Vaccine Research and Production Laboratory)、公衆衛生ラボラトリーサービス(Pubic Health Laboratory Service)、応用微生物学研究センター(Centre for Applied Microbiology and Research)へ寄託された。MAb1は、1989年8月3日に寄託され、その登録番号は89080301である。MAb54は、1989年8月31日に寄託され、その登録番号は89083103である。MAb47は、1989年12月14日に寄託され、その登録番号は89121402である。
【0018】
本発明の第四の発明は、本発明の第一、第二または第三の発明にもとづくリガンドと組み合わさってTNFを含む組成物からなるものであって、TNFに対してリガンドが結合することを特徴とする。
【0019】
本発明の第五の発明は、本発明の第一、第二または第三の発明にもとづくリガンドもしくは本発明の第四の発明にもとづく組成物のどちらか一方を投与することからなる中毒ショック治療方法からなるものである。
【0020】
本発明の第六の発明は、ヒトTNFに結合可能なリガンドからなるものであって、このリガンドはTNFに結合すると、TNFの内皮プロコアギュラント誘導活性を阻害し、内皮細胞上の受容体へのTNF結合を阻害し、そしてTNFによる腫瘍フイブリン沈着誘導および腫瘍退行活性を促進させるが、一方で細胞毒性は影響されず、またTNFの腫瘍受容体結合活性については影響を受けないかあるいは促進されることを特徴としている。
【0021】
本発明の第七の発明は、ヒトTNFに結合可能なリガンドに関するものであって、このリガンドはTNFに結合すると、TNFの内皮プロコアギュラント誘導活性を阻害し、内皮細胞上の受容体へのTNF結合を阻害し、そしてTNFによる腫瘍フイブリン沈着誘導および腫瘍退行活性を促進させ、TNFの細胞毒性及び受容体結合活性は影響されず、TNFへのこのリガンドの結合は、残基1-30、117-128、そして141-153からなるトポグラフイック領域によって規定されるTNFのエピトープが自然発生的な生物学的活性リガンドへの結合を遮られることを特徴とする。
【0022】
本発明の第八の発明は、残基1-30、117-128、そして141-153からなるトポグラフイック領域においてヒトTNFに結合するリガンドからなる。
【0023】
この第八の発明の好適な実施態様では、リガンドは残基1-26、117-128、そして141-153のトポグラフィック領域においてヒトTNFへ結合する。そのような配列からなる領域は、トポグラフイックに第26図に示した。
【0024】
本発明の第六、第七および第八の発明にもとづく好適な実施態様では、リガンドは、MAb32と命名されたモノクローン抗体である。MAb32を産生するハイブリドーマからなる細胞系統の試料は、英国(Porton Down, Salisbury, Wilthshire SP4 OJG, United Kingdom)にあるヨーロピアンコレクションオブアニマルセルカルチャーズ(European Collection of Animal Cell Cultures; ECACC)、ワクチン開発製造研究所(Vaccine Research and Production Laboratory)、公衆衛生ラボラトリーサービス(Pubic Health Laboratory Service)、応用微生物学研究センター(Centre for Applied Microbiology and Research)へ1989年8月3日に寄託され、その登録番号は89080302である。
【0025】
本発明の第九の発明は、本発明の第六、第七または第八の発明にもとづくリガンドと組み合わさってTNFを含む組成物からなるものである。この組成物は、そのTNFに対してリガンドが結合することを特徴とする。投与されたサイトカインの活性を修飾するためにモノクローン抗体(MAb)とともにTNFを投与することを開示した文献はいままでのところない。
【0026】
本発明の第十の発明は、本発明の第六、第七または第八の発明にもとづくリガンド、又は本発明の第九の発明における組成物のどちらか一方を投与することを含むもので、TNFによって腫瘍の増殖を阻害する腫瘍処置方法からなるものである。
【0027】
本発明の第十一の発明は、ヒトTNFの残基1-18へ結合するリガンド(ペプチド301)からなるものである。
【0028】
本発明の第十二の発明は、ヒトTNFに結合可能なリガンドからなるものであって、このリガンドはTNFへ結合すると、TNFの内皮プロコアギュラント誘導活性を阻害し、TNFの腫瘍フイブリン沈着誘導および腫瘍退行を促進させるが、TNFの細胞毒性は影響されず、またTNFの腫瘍受容体結合活性は影響されないかあるいは促進され、リガンドのTNFへの結合は、残基1ー18からなるトポグラフイック領域によって規定されるTNFのエピトープが実質的に自然発生的な生物学的活性リガンドへの結合を遮られることを特徴とするものである。
【0029】
本発明の第十三の発明は、本発明の第11または第12の発明にもとづくリガンドと組み合わさってTNFを含む組成物からなるものである。この組成物は、そのTNFに対してリガンドが結合していることを特徴とするものである。
【0030】
本発明の第十四の発明は、本発明の第十一または第十二の発明にもとづくリガンド、又は本発明の第十三の発明にもとづく組成物のどちらか一方を投与することを含む、TNFによって腫瘍の増殖を阻害する腫瘍処置方法からなるものである。
【0031】
本発明の第十五の発明は、ヒトTNFに結合可能なリガンドからなるものであって、このリガンドはTNFへ結合すると、TNFの細胞毒性および腫瘍退行活性は影響されず、TNFの内皮プロコアギュラント誘導、及び腫瘍フイブリン沈着誘導の活性を阻害するが、TNFの腫瘍受容体結合活性は影響されないことを特徴とするものである。
【0032】
本発明の第十六の発明は、ヒトTNFに結合可能なリガンドからなるものであって、このリガンドは、TNFへ結合すると、TNFの細胞毒性および腫瘍退行の活性は影響されないが、TNFの内皮プロコアギュラント誘導およひ腫瘍フイブリン沈着誘導の活性は阻害され、さらにTNFの腫瘍受容体結合活性は影響されず、リガンドのTNFへの結合は、残基22-40,49-97、110-127、そして136-153からなるトポグラフイック領域によって規定されるTNFのエピトープが実質的に自然発生的な生物学的活性リガンドにへ結合するのを妨げることを特徴とする。
【0033】
本発明の第十七の発明は、残基22-40,49-97、110-127、そして136-153からなるトポグラフイック領域においてヒトTNFへ結合するリガンドからなるものである。そのような配列からなる領域は、トポグラフイックに第27図に示した。
【0034】
本発明の第十七の発明の好適な実施態様では、残基22-40,49-96、110-127、そして136-153からなるトポグラフイック領域においてヒトTNFへ結合するリガンドからなるものである。この領域はTNFアルファの3D構造に近似する
【0035】
本発明の第十五、第十六および第十七の発明の好適な実施態様では、リガンドはMAb42と命名たモノクローン抗体である。このMAb42を産生するハイリドーマからなる細胞系統の試料は、英国(Porton Down, Salisbury, Wilthshire SP4 OJG, United Kingdom)にあるヨーロピアンコレクションオブアニマルセルカルチャーズ(European Collection of Animal Cell Cultures; ECACC)、ワクチン開発製造研究所(Vaccine Research and Production Laboratory)、公衆衛生ラボラトリーサービス(Pubic Health Laboratory Service)、応用微生物学研究センター(Centre for Applied Microbiology and Research)へ1989年8月3日に寄託され、その登録番号は89080304である。
【0036】
本発明の第十八の発明は、本発明の第十五、第十六または第十七の発明にもとづくリガンドと組み合わさってTNFを含む組成物からなるものであって、TNFに対してリガンドが結合することを特徴とするものである。
【0037】
本発明の第十九の発明は、本発明の第十五、第十六または第十七の発明にもとづくリガンド、又は本発明の第十八の発明にもとづく組成物のどちらか一方を投与することを含むもので、TNFの作用によって腫瘍の増殖を阻害する腫瘍処置方法からなるものである。
【0038】
本発明の第二十の発明は、ヒトTNFに結合可能なリガンドであって、TNFに結合すると、TNFの腫瘍フイブリン沈着活性を促進させ、一方で、TNFの内皮プロコアギュラント誘導活性には影響を与えないが、細胞毒性、腫瘍退行、そして受容体結合活性を阻害することを特徴とするものである。
【0039】
本発明の第二十一の発明は、ヒトTNFに結合可能なリガンドであって、TNFに結合すると、TNFの腫瘍フイブリン沈着活性を促進させ、一方で、TNFの内皮プロコアギュラント誘導活性には影響を与えないが、TNFの細胞毒性、腫瘍退行、そして受容体結合活性を阻害し、このリガンドのTNFへの結合は、残基12-22,36-45、96-105、そして132-157からなるトポグラフイック領域によって規定されるTNFのエピトープが実質的に自然発生的な生物学的リガンドによって遮る事を特徴とするものである。
【0040】
本発明の第二十二の発明は、残基12-22,36-45、96-105、そして132-157からなるトポグラフイック領域においてヒトTNFへ結合するリガンドからなるものである。この領域はTNFアルファの3D構造に近似する。そしてトポグラフイックに第28図に示した。
【0041】
本発明の第二十、第二十一および第二十二の発明の好適な実施態様では、リガンドはMAb25と指定しれたモノクローン抗体である。このMAb25を産生するハイリドーマからなる細胞系統の試料は、英国(Porton Down, Salisbury, Wilthshire SP4 OJG, United Kingdom)にあるヨーロピアンコレクションオブアニマルセルカルチャーズ(European Collection of Animal Cell Cultures; ECACC)、ワクチン開発製造研究所(Vaccine Research and Production Laboratory)、公衆衛生ラボラトリーサービス(Pubic Health Laboratory Service)、応用微生物学研究センター(Centre for Applied Microbiology and Research)へ1989年12月14日に寄託され、その登録番号は8912401である。
【0042】
本発明の第二十三の発明は、ヒトTNFに結合するリガンドからなるものであって、このリガンドはTNFに結合すると、TNFの腫瘍フイブリン沈着活性を促進させ、一方で、TNFの細胞毒性、腫瘍退行、内皮プロコアギュラント誘導、そしてTNFの受容体結合活性を阻害することを特徴とするものである。
【0043】
本発明の第二十四の発明は、ヒトTNFに結合可能なリガンドであって、TNFに結合すると、TNFの腫瘍フイブリン沈着活性を促進させ、一方で、TNFの細胞毒性、腫瘍退行、内皮プロコアギュラント誘導、そして受容体結合活性を阻害し、このTNFへのリガンドの結合は、残基1-20および76-90からなるトポグラフイック領域によって規定されるTNFのエピトープが実質的に自然発生的な生物学的リガンドへ結合するのを遮ぎる事を特徴とするものである。
【0044】
本発明の第二十五の発明は、残基1-20および76-90からなるトポグラフイック領域においてヒトTNFに結合するリガンドからなるものである。これらの領域は、TNFアルファの3D構造に近似する。そしてトポグラフイックに第29図に示した。
【0045】
本発明の第二十五の発明の好適な実施態様では、リガンドは残基1-28および76-90からなるトポグラフイック領域においてヒトTNFに結合する。
【0046】
本発明の第二十三、第二十四および第二十五の発明の好適な実施態様では、リガンドはMAb21と命名されたモノクローン抗体である。このMAb21を産生するハイリドーマからなる細胞系統の試料は、英国(Porton Down, Salisbury, Wilthshire SP4 OJG, United Kingdom)にあるヨーロピアンコレクションオブアニマルセルカルチャーズ(European Collection of Animal Cell Cultures; ECACC)、ワクチン開発製造研究所(Vaccine Research and Production Laboratory)、公衆衛生ラボラトリーサービス(Pubic Health Laboratory Service)、応用微生物学研究センター(Centre for Applied Microbiology and Research)へ1990年1月25日に寄託され、その登録番号は90012432である。
【0047】
本発明の第26の発明は、ヒトTNFに結合可能なリガンドであって、TNFに結合すると、TNFの腫瘍フイブリン沈着活性には影響が及ばず、しかしTNFの細胞毒性、腫瘍退行、内皮プロコアギュラント誘導活性、そして受容体結合活性が阻害されることを特徴とするものである。
【0048】
本発明の第27の発明は、ヒトTNFに結合可能なリガンドであって、TNFに結合すると、TNFの腫瘍フイブリン沈着活性には影響せず、TNFの細胞毒性、腫瘍退行、内皮プロコアギュラント誘導、そして受容体結合活性が阻害され、このTNFへのリガンドの結合は、残基22-40、69-97、105-128、そして135-155からなるトポグラフイック領域によって規定されるTNFのエピトープが実質的に自然発生的な生物学的リガンドへ結合するのを遮ぎるものである事を特徴とする。
【0049】
本発明の第二十八の発明は、残基22-40、69-97、105-128、そして135-155からなるトポグラフイック領域においてヒトTNFに結合するリガンドからなるものである。これらの領域は、TNFアルファの3D構造に近似する。そしてトポグラフイックに第30図に示した。
【0050】
本発明の第二十六、第二十七および第二十八の発明の好適な実施態様では、リガンドはMAb53と命名されたモノクローン抗体である。このMAb53を産生するハイリドーマからなる細胞系統の試料は、英国(Porton Down, Salisbury, Wilthshire SP4 OJG, United Kingdom)にあるヨーロピアンコレクションオブアニマルセルカルチャーズ(European Collection of Animal Cell Cultures; ECACC)、ワクチン開発製造研究所(Vaccine Research and Production Laboratory)、公衆衛生ラボラトリーサービス(Pubic Health Laboratory Service)、応用微生物学研究センター(Centre for Applied Microbiology and Research)へ1990年1月25日に寄託され、その登録番号は90012433である。
【0051】
本発明の第二十九の発明は、ヒトTNFに結合可能なリガンドであって、TNFに結合すると、TNFの腫瘍フイブリン沈着、内皮プロコアギュラント誘導、細胞毒性、腫瘍退行、そして受容体結合活性は影響されない事を特徴とするものである。
【0052】
本発明の第三十の発明は、ヒトTNFに結合可能なリガンドであって、TNFに結合すると、TNFの腫瘍フイブリン沈着、内皮プロコアギュラント誘導、細胞毒性、腫瘍退行、そして受容体結合活性は影響されず、このTNFへのリガンドの結合は、残基22-31および146-157からなるトポグラフイック領域によって規定されるTNFのエピトープが、実質的に自然発生的な生物学的リガンドへ結合することを遮ぎるものである事を特徴とする。
【0053】
本発明の第三十一の発明は、残基22-31および146-157からなるトポグラフイック領域においてヒトTNFに結合するリガンドからなるものである。これらの領域は、TNFアルファの3D構造に近似する。そしてトポグラフイックに第31図に示した。
【0054】
本発明の第二十九、第三十および第三十一の発明の好適な実施態様では、リガンドはMAb37と命名されたモノクローン抗体である。このMAb53を産生するハイリドーマからなる細胞系統の試料は、英国(Porton Down, Salisbury, Wilthshire SP4 OJG, United Kingdom)にあるヨーロピアンコレクションオブアニマルセルカルチャーズ(European Collection of Animal Cell Cultures; ECACC)、ワクチン開発製造研究所(Vaccine Research and Production Laboratory)、公衆衛生ラボラトリーサービス(Pubic Health Laboratory Service)、応用微生物学研究センター(Centre for Applied Microbiology and Research)へ1989年8月3日に寄託され、その登録番号は89080303である。
【0055】
本発明の第三十二の発明は、ヒトTNFに結合するリガンドであって、TNFに結合すると、TNFの内皮プロコアギュラント誘導活性は影響されず、一方で、細胞毒性、腫瘍退行、腫瘍フイブリン沈着、そしてTNFの受容体結合活性を阻害することを特徴とする。
【0056】
本発明の第三十三の発明は、ヒトTNFに結合可能なリガンドであって、このリガンドはTNFに結合すると、TNFの内皮プロコアギュラント誘導は影響されず、一方、TNFの細胞毒性、腫瘍退行、腫瘍フイブリン沈着、そして受容体結合活性は阻害され、このTNFへのリガンドの結合は、残基22-40および49-98からなるトポグラフイック領域によって規定されるTNFのエピトープが実質的に自然発生的な生物学的リガンドへ結合するのを遮ぎる物であることを特徴とする。
【0057】
本発明の第三十四の発明は、残基22-40からなるトポグラフイック領域、残基49-98からなるトポグラフイック領域、そして残基69-97からなるトポグラフイック領域からなる群から選択される少なくともひとつの領域においてヒトTNFに結合するリガンドからなるものである。
【0058】
本発明の第三十四の発明の好適な実施態様では、リガンドは残基49-98からなるトポグラフイック領域においてヒトTNFと結合する。この領域は、トポグラフイックに第32図に示した。
【0059】
本発明の第三十四の発明のより好適な実施態様では、リガンドは残基22-40および70-87からなるトポグラフイック領域においてヒトTNFと結合する。この領域は、TNFの3D構造に近似し、トポグラフイックに第32図に示されている。
【0060】
本発明の第三十二、第三十三および第三十四の発明の好適な実施態様では、リガンドはMAb11またはMAb12と命名されたモノクローン抗体である。
【0061】
本発明の第三十五の発明は、ヒトTNFに結合することが可能なリガンドであって、TNFに結合すると、TNFの内皮プロコアギュラント誘導活性を阻害する事を特徴とする。
【0062】
本発明の第三十六の発明は、ヒトTNFに結合することが可能なリガンドからなるものであって、TNFに結合すると、TNFの内皮プロコアギュラント誘導を阻害し、TNFへのリガンドの結合は、残基108-128からなるトポグラフイック領域によって規定されるTNFのエピトープが、実質的に自然発生的な生物学的リガンドへ結合するのを遮ぎるものである事を特徴とする。
【0063】
本発明の第三十七の発明は、残基108-128からなるトポグラフイック領域においてヒトTNFへ結合するリガンドからなる。
【0064】
本発明の第三十五、第三十六および第三十七の発明の好適な実施態様では、リガンドは、MAb1、MAb32、MAb42、MAb47、MAb53そしてMAb54と命名されたモノクローナル抗体からなる群から選択されるリガンドである。
【0065】
ここで述べられているTNFの生物学的活性は、「腫瘍退行」、「内皮プロコアギュラント」「腫瘍フイブリン沈着誘導」、「細胞毒性」、そして「受容体結合」という用語の意味は下記の方法によって決定される。
【0066】
「単一ドメイン抗体」という用語は、ワードらの文献(Nature 341, 544-546, 1989)に開示されたような抗体断片を意味するように使用される。
本発明をより一層明らかにするために、好ましい態様を下記の実施例と添付された図面をもとにして記載する。
【0067】
動物および腫瘍細胞系統
すべての実験において用いられたマウスは、CSIRO動物施設から入手した生後10-12週間の雌でBALB/C系統のマウスである。MethA固形腫瘍およびMethA腹水腫瘍の細胞株は、オルド博士(Dr. Lloyd J. Old, Sloan Kettering Cancer Centre)に提供して頂いた。また、WEHI-164繊維肉腫系統は、チャウドリ博士(Dr. Geeta Chauhdri, John Curtin School of Medical Research, Autralian National University)に提供して頂いた。
【0068】
ハイブリドーマの融合と産生
完全フロイトアジュバント中の10μgのヒト組換え体TNFをマウスの腹腔内に注入してマウスを免疫した。その一ヶ月後に、完全フロイントアジュバントに中の10μgのTNFを投与した。六週間後および融合四日前に、PBS中の10μgのTNFでマウスをブーストした。免疫されたマウスから得た脾臓細胞をラスジェンとアンダーウッドの方法(Rathjen & Underwood, Mol. Immunol. 23, 441. 1986)にもとづいてミエローマsp2/0と融合させた。ラジオイムノアッセイによって抗TNF抗体を産生することが判明した細胞系統をマウス腹腔マクロファージからなる支持細胞層(feeder layer)上で限界希釈によりサブクローン化した。さらに、抗体のサブクラスは、ELISA(Misotest, Commonwealth Serum Laboratories)によって決定した。
【0069】
ラジオイムノアッセイ
標準的な方法によってラクトぺルオキシダーゼを用いてTNFをヨウ素化した。ハイブリドーマの培地の上清(50μl)を125I-TNF(20,000 cpm/50ul)とともに一晩、4℃でインキュベートとした。そして、100μlのSac-Cel(ロバ抗マウス/ラット免疫グロブリン被覆セルロース,Wellcome Diagnositics)を添加し、さらに室温(20℃)で20分間インキュベートした。このインキュベーションに続いて、1mlのPBSを添加し、そして試験管を2,500rpmで5分間遠心した。この遠心後、上清をデカントして、沈澱物の放射活性を測定した。
【0070】
抗体-抗体拮抗アッセイ
モノクローン抗体間の特性比較を行なうために、固定化抗原(LACT)または抗体(PACT)のどちらか一方を用いて拮抗アッセイを行なった(Aston & Ivanyi, 1985, Pharmac. Therapeut. 27, 403)。
【0071】
PACT
1%ウシ血清アルブミン含有PBS(BSA/PBS)によって非特異的結合部位をブロックするのに先立って、フレキシブルなマイクロタイタートレーを、モノクローン抗体(マウス腹水から得られた硫酸ナトリウム沈澱グロブリンを100μg/mlで含む重炭酸ナトリウム緩衝液、0.05M、pH9.6)で一晩、4℃で静置してコートした。固定された抗体への125I-TNFの結合は、種々の濃度の二次抗TNFモノクローン抗体存在下で決定した。抗体およびTNFは同時に添加され、そしてPBS(4回)による洗浄に先立って24時間インキュベートされた。そして、ウエルの結合放射活性を測定した。100%結合は、異種のモノクローン抗体の非存在下で決定され、一方100%拮抗は、過剰な同種のモノクローン抗体存在下で決定された。すべての希釈はBSA/PBSにて行なった。
【0072】
LACT
プロテインAで精製済み、且つ放射能で標識したモノクローン抗体の、TNF被覆マイクロタイターウエルへの結合は、種々の濃度の二次モノクローン抗体存在下で決定した。マイクロタイタープレートは前記のようにしてTNF(50μg/ml)がコートされている。125I-モノクローン抗体(30,000cpm)を添加して24時間保つ前に、拮抗する抗体(50μl)をプレート上で4時間、4℃でプレインキュベートした。ウエルに結合した放射能の測定は、PBSでウエルを4回洗った後に行なった。100%結合は、拮抗する抗体の非存在下で決定され、一方100%拮抗は、過剰の未標識モノクローン抗体存在下で決定された。
【0073】
WEHI-164細胞毒性試験
組換えTNF活性のバイオアッセイをエスペヴィックとニッセンマイヤーの方法(Espevik & Nissen-Meyer, J. Immunol. Methods 95, 99. 1986)にもとづいて実施した。TNF活性に対するモノクローン抗体の効果は、ABT90にある細胞培養へモノクローン抗体を添加することによって決定した。
【0074】
腫瘍退行実験
モノクローン抗体によるTNF誘導性腫瘍退行の変化を3種類の腫瘍モデルを用いて実施した。すなわち、3種類の腫瘍モデルは、皮下腫瘍WEHI-164、MethAサルコーマ、そして腹水MethA腫瘍である。皮下腫瘍は、約5X105細胞を注射することによって誘導された。これによって約14日後に10-15mmの腫瘍が形成された。マウスの腹腔に、ヒト組換えTNF(10μg)と、モノクローン抗体(200μl腹水グロブリン)とを4日間つづけて注射した。対照群は、PBSのみ、あるいはTNFと牛ウシ成長ホルモンに対するモノクローン抗体とを注射した。それぞれの実験の開始時には、固形腫瘍の場合にはカリパスで腫瘍サイズを、そして腹水症マウスの場合には体重を測定した。これらの測定は実験中、日々実施された。
【0075】
ラジオレセプターアッセイ
コンフルエントに増殖したWEHI-164細胞を培地から回収し、1%BSA含有ハンク平衡塩溶液(Hank's balanced salt solution, HBSS, Gibco)で1回洗浄した。100μlの未標識TNF(1-10,000ng/試験管)またはモノクローン抗体(10倍希釈液シリーズ、腹水グロブリンで1対10ないし1対100,000)を50μlの125I-TNF(50,000cpm)へ添加した。その後、WEI-164細胞を添加した(2 X 106細胞を含む200μl)。この混合物を振とうウオーターバスで37℃、3時間インキュベーションした。このインキュベーションの終了時に、1mlのHBSSを添加し、そして細胞を16,000rpm、30秒の遠心処理した。上清を捨てて、細胞沈澱物に結合した125I-TNFを測定した。すべての希釈は、1%BSAを含むHBSSで行なった。
【0076】
内皮細胞でのTNFによるプロコアギュラント誘導
ウシ大動脈内皮細胞(継代10)を、37℃、5%CO2の条件下で10%ウシ胎児血清(FCS)、ペニシリン、ストレプトマイシン、そして2-メルカプトエタノールを含むRPMI-1640中で増殖させた。TNFによるプロコアギュラント誘導活性のために、細胞をトリプシン処理し、そして24穴(ウエル)コスタートレイに播種した(Bevilacqua et al., PNAS 83, 4533, 1986によるプロトコール)。HBSSで、コンフルエントな細胞単層を洗浄した後にTNF(0-500単位/培養)と、モノクローン抗体(希釈は、腹水グロブリン1:250に)とを添加した。4時間後、細胞を回収して凍結し、ソニケーション処理した。全体の細胞プロコアギュラント活性を、37℃で正常なドナー血小板・血漿欠乏(normal donor platelet-poor plasma)のリカルシフイケーション(recalcification)時間によって決定した。100μlのクエン酸処理済 (citrated)血小板欠乏血漿を、100μlの塩化カルシウム(30mM)と100μlの細胞ライセートに添加し、クロット(血ぺい)形成時間を記録した。いくつかの実験では、腫瘍細胞培養の上清をTNFおよび(または)モノクローン抗体(最終濃度2対1)によって処理された内皮細胞に添加した。
【0077】
TNFおよびモノクローン抗体によって処理されたマウスへの125Iフイブリノーゲンの取り込み
インビボ系でのフイブリン形成に対するモノクローン抗体とTNFとの効果について試験するために、BALB/cマウスの皮下にWEHI-164細胞(105細胞/動物)を注射した。7-14日後、腫瘍の直径が約1cmに達した時点で、動物の腹腔内に、TNF(10ug/動物)および125I-ヒトフイブリノーゲン(7.5ug/動物、122μCi/mg,Amersham)を、単独で、あるいはヒトTNFに対するモノクローン抗体(200μl/動物腹水グロブリン)とともに注射した。ウシ成長ホルモンに対するモノクローン抗体は、対照用のモノクローン抗体として用いられた。TNFの注入2時間後、マウスの組織への125I-フイブリノーゲンの取り込みを、組織片を除去して試料とし、その重量を測定し、そしてガンマカウンターで試料の放射能を測定した。
【0078】
ヒトTNFと反応する13種類のモノクローン抗体が単離された。これらのモノクローン抗体は、それぞれMAb1、MAb11、MAb12、MAb20、MAb21、MAb25、MAb31、MAb32、MAb37、MAb42、MAb47、MAb53、そしてMAb54と定められた。ヒトTNF生物活性に対するこれらのモノクローン抗体の効果を第2表に示した。
【0079】
第2表から明らかなように、いくつかのモノクローン抗体は、ヒトTNFにより、凝固活性及び抗腫瘍活性を阻害したが(MAb1、47および54)、すべての抗腫瘍活性を阻害するすべての抗体が、インビボおよびインビトロで凝固活性を阻害したわけではない(MAb11、12、25および53)。実際、腫瘍退行を阻害するMAb21はインビボで凝固活性化を促進させた。
【0080】
【表1】

【0081】
TNF上のエピトープを分かち合うための拮抗的結合についてのテストで示されたMAb1、47および54は、TNFの完全中和に必要とされる高いTNFレベルである中毒ショックおよび他の細菌、ウイルスおよび寄生虫感染の状態を治癒する上で要求される特徴を備えている。MAb32のような他のモノクローン抗体は、癌治療の際にTNFと一緒に投与されることが好ましい。なぜなら、腫瘍退行を阻害しないが、凝固を阻害するからである。このような治療方法は、TNFによる凝集活性を促すような癌治療に用いられる細胞毒性剤(cytotoxic drugs)と組み合わせる場合に特に指摘される(例えば、ビンブラスチン、アシクロビル(acyclovir)、IFNアルファ、IL-2、アクチノマイシンD、AZT、ラジオセラピイ、アドリアミシン、マイトマイシンC、シトシンアラビノシド、ドウノルビシン(dounorubicin)、シス・プラチン、ビンクリスチン、5-フルオロウラシル、ブレオマイシン(Watanabe N et al. 1988. Immunopharmacol. Immunotoxicol. 10 117-127)、またはTNFレベルが低い段階の疾患(例えば免疫不全症候群)および癌、例えばカポジサルコーマ、ノンホジキンズリンホーマおよびスクアマウスセルカルシノーマ(squamous cell carcinoma)に関連した免疫不全症候群を有する患者)。
【0082】
モノクローン抗体MAb1は、以下の特徴を有することがわかった。
1.ヒト組換え体TNFアルファと結合する。しかし、ヒトリンパ毒(TNFベータ)またはヒトインターフェロンとは結合しない。同様にMAb1は、組換え体マウスTNF(第1図)と交差反応しない。
2.MAb1は免疫グロブリン型がIgG1、Kである。親和性は約4,4X10-9モル/リットルである(第2図)。
3.MAbは、培養中のWEHI-164マウスフイブロサルコーマ細胞上の組換え体ヒトTNFの細胞毒性効果を中和する。インビトロ系で1μgのMAb1は、約156.25単位のTNFを中和する(第3図)。
4.MAb1は、インビボ系で下記のマウス腫瘍モデル:WEHI-164皮下ソリッド腫瘍(subcutaneous solid tumour)、Meth A 皮下ソリッド腫瘍、そしてMeth A 腹水症腫瘍(ascites tumour)においてTNFの腫瘍退行活性を中和する(第4図、第5図および第9図)。
5.MAb1は、マラリア病原虫に感染したマウスにおいて、ヒトTNFによって引き起こされる大脳損傷を抑える。
6.ラジオリセプターアッセイにおいて、MAb1は、 WEHI-164上にある受容体(レセプター)へのTNFの結合を抑える(第3表)。
7.MAb1は、ウシ大動脈内皮培養細胞上のプロコアギュラント誘導活性(組織因子)を阻害する(第6図)。
8.MAb1は、TNF処理されたマウスの腫瘍への125Iフイブリノーゲン取り込みを減少させる(第7図)。
9.MAb1は、125I-TNFの結合に対して拮抗する。したがって下記のモノクローン抗体:21、25、32、47、54、そして37と、オーバラッピングしたエピトープを分かち合う。
10.MAb1は、下記のモノクローン抗体:11、12、42、53、31、そして20と、125I-TNFの結合に対して拮抗しない(第8図)。
【0083】
【表2】

【0084】
MAb32は、InG2b,K抗体で、ヒトTNFアルファに対する親和性はスキャッチャード分析よれば、8.77X10-9moles/lである。しかし、このモノクローン抗体は、ヒトTNFベータ(リンパ毒(lymphotoxin))やマウスTNFアルファとは反応しない。
【0085】
第3図に示したように、MAb32は、インビトロ系でのWEHI-164アッセイの結果によれば、TNF細胞毒性を阻害しない。
【0086】
モノクローン抗体32は、TNF投与量が10μg/日であるBALB/cマウスに皮下経由で移植された、腫瘍であるWEHI-164繊維肉腫に対するTNF誘導腫瘍退行活性を不安定に抑制する(第10図および第11図を見よ)。このような特徴は、TNFに対して生じたすべての抗体に当てはまるわけではなく(第9図)、受容体を介した腫瘍細胞へのTNF取込み増大を許すMAb32に特異的な結合部位に当てはまる(第8図、第4表)。
【0087】
【表3】

【0088】
TNF投与量が低いときのMAb32によるTNF活性の促進とは、少なくとも10分の1以下のTNFが、同程度の腫瘍退行を達成するのに必要とされることである(第11図および第18図参照)。結果は、1日目(day 1)では2.5μgおよび1μgTNFと、2日目(day 2)では5μg、2.5μgと1μgであった。統計学的違いは、t検定でp<0.01であった。このようなTNF活性増大の程度は、またレシピエントの生存率を上げることになる。なぜなら、低濃度のTNFを使用するので毒性効果が生じることはない。第19図は、MAb32の単一の価からなるFab断片が、MAb32全体と同様にしてTNF誘導腫瘍退行を促進させることを示している(下記参照)。
【0089】
MAb32は、TNFと培養細胞とをインキュベーションすることによって正常に誘導される内皮細胞の凝固因子(clotting factors)発現を阻害する(第6図)。この応答は、事前に同定されていないTNF受容体によって媒介されるものであるが、これは、他の細胞で発見された受容体と異なるものである。
【0090】
逆に言えば、MAb32は、放射性同位元素で標識されたフイブリノーゲンの取り込みによって示されるような腫瘍床内での凝固のインビボ系での活性化を促進させる(第7図)。このことは、単球/マクロファージ・プロコアギュラントの活性化にもとづくものであり、さらにTNFによって誘導される腫瘍退行の機構を明らかにすることを可能とするものであろう。
【0091】
MAb32を用いた実験で得られた結果を、第2表において他のものと比較した。
【0092】
内皮細胞に対するTNFの結合を阻害する能力について、MAb32とMAb47ともアッセイした。
【0093】
ウシ大動脈内皮細胞(BAE)(継代11)を24穴の培養皿(コーニング社製)に播種した。この培養皿の各ウエルには事前にゲラチン(0.2%)をコートしておいた。また、20%ウシ胎児血清を含むマッコイ5A(修飾)メジウム中でコンフルエントとなるように増殖させた。このメジウムは、ラジオイムノアッセイにおける希釈溶液(未標識TNFおよびMAb)としても用いられた。BAE細胞を未標識TNF(0-100ng)またはMAb(1/100-1/100,000)に希釈された腹水グロブリン)と、ヨウ素化TNF(50,000cpm)との存在下において1時間インキュベートした。この時間が経過した後、メジウムを捨てて、細胞を洗った。その後、細胞を1Mの水酸化ナトリウムで溶解した。溶解された細胞を結合放射性TNFについてを測定し、細胞に特異的に結合した標識TNFを決定した。
【0094】
MAb32、MAb47、そして対照のMAbに関するのアッセイで得られた結果は、第12図に示した。
【0095】
TNFおよび抗TNFモノクローン抗体存在下で培養されたBAE細胞を用いた凝固(血ぺい形成;クロッテイング)アッセイにおいて得られた結果は、BAEラジオレセプターアッセイで得られた結果と関係している。すなわち、内皮細胞の表面上への凝固因子誘導を阻害するモノクローン抗体は、またTNFがその受容体へ結合することも阻害する(TNF単独の場合と比較して凝固時間が増加する)。これは、MAb32および47によって示される。
【0096】
WEHI-164細胞へのTNF結合を阻害しないMAb32は、内皮細胞へのTNF結合を阻害しない。このような結果は、TNF分子上に異なる機能部位が存在していること、またこのような部位が異なる細胞型の異なる受容体サブ集団と相互作用するというよいうな仮説を支持するものとなる。したがって、TNFの規定された領域に結合するリガンドは、特定の受容体サブタイプへ結合することを限定することによってTNFの生物学的活性を修飾する。
【0097】
第12図に示すように、MAb47は、内皮細胞に作用するTNFの特に強力な阻害剤であって、1/100ないし1/10,000希釈での特異的結合の率は、事実上ゼロである。
【0098】
インビトロ系での、ヒトカルシノーマ細胞上のMAb32と複合体を形成するヒトTNFに関する受容体結合実験
MAb32は、ヒトTNFの抗腫瘍活性を促進させることが示されている。この促進効果に隠されているメカニズムには、特定の(腫瘍)受容体サブタイプに対するTNFの結合を制限することが含まれるが、非腫瘍細胞に対するTNF毒性が続いて減少する他のもの(内皮)は含まれない。このメカニズムは、インビトロ系において、腫瘍細胞によるTNFの取り込みを促進させることは必要ではない。また、MAb32は、ある種のヒトカルシノーマ細胞系上のTNF受容体に対するヒトTNFの直接的結合を可能とさせる。
【0099】
材料と方法
下記のヒトカルシノーマ細胞系統を用いて、MAb32存在下におけるTNFによる受容体媒介取り込み促進についてアッセイした。
【0100】
ヒトカルシノーマ細胞系統:B10、CaCo、HT29、SKC01(これらは結腸カルシノーマ)、5637(膀胱カルシノーマ)、MM418E(メラノーマ)、IGR3(メラノーマ)、そして MCF(胸部カルシノーマ)。
【0101】
細胞を、10%ウシ胎児血清、ペニシンリン/ストレプトマイシン、そしてL-グルタミンを添加したRPMI-1640(MM418E)、DMEM(CaCoおよびIGR3)またはイスコーブ修飾DMEM(B10、HT29、SK01、S637、MCF7)のどれかによって増殖させた。受容体アッセイは、既に知られている内皮細胞に対する方法にもとづいて行なったが、以下の点を変えた。すなわち、ヨウ素化TNFとのインキュベーション時間を3時間まで延長した。例外として、B10の場合はインキュベーション時間を1時間とした。
【0102】
結果
メラノーマ細胞系統MM418EおよびIGR3(第13図および第14図)、膀胱カルシノーマ5637(第15図)、そして胸部カルシノーマMCF7(第16図)によって、MAb32存在下において、TNF取り込み促進が観察された。MAb32は、B10(第17図)によって示されるような他の細胞系統においてTNF受容体相互作用に対してなんら影響を与えなかった。MAb47は、WEHI-164細胞および内皮細胞へのTNF結合を阻害し、またTNF媒介腫瘍退行を阻害するが、これはTNF媒介腫瘍退行を、試験したすべての細胞系統において、顕著にTNF結合を阻害することが観察された(第13図-第17図)。
【0103】
結論
受容体結合実験によれば、TNFの抗腫瘍活性を高めるような役割をMAb32が有するというような第二の機構が存在することを示す。TNFの働きを高めるこの第二の経路は、MAb32の存在下での腫瘍全受容体によるTNFの取り込み増加にもとづくものである。
【0104】
WEHI-164皮下腫瘍を有するマウス(N=5動物/群)を用いて、上記方法にもとづいて腫瘍退行を調べた。腫瘍の大きさは、実験継続期間中、毎日測定した。MAb32を用いて得られた結果は、第22図に示した。その結果によれば、処理完了時点(2日目; day 2)で、腫瘍領域の平均+/-SD%の変化を示した。
対照MAb-TNF処理群と、MAb32-TNF処理群との間に認められる違いは、統計学的に顕著であった(t検定 p<0.01レベル)。
【0105】
MAb32の一価FAb’断片を用いた結果は、第19図に示されている。腫瘍の大きさは、実験継続期間中、毎日測定した。処理完了時点(2日目; day 2)で、腫瘍領域の平均+/-SD%の変化を示した。 対照MAb-10F処理群と、MAb32-TNF処理群との間に認められる違いは、統計学的に顕著であった(t検定 p<0.01レベル)。
【0106】
TNF誘導腫瘍退行:抗ペプチド301血清の効果
第20図は、TNF+対照MAb(ウシ成長ホルモンに対する抗体)、TNF+MAb32、あるいはTNF+抗ぺプチド301血清(グロブリン分画)によって3日間処理された腫瘍を有するマウスにおける腫瘍領域の変化率を示すものである。対となっていない(unpaired)t-検定において、対照群は、試験群(MAb32、抗血清301)の両方と顕著に異なった。一方、MAb32とペプチド抗血清301群とは、互いに顕著な違いが認められなかった。(対照群対MAb32、p<0.002; 対照群対抗ペプチド301、p<0.025)。したがって、MAb32の特異性を有する部分を含むペプチドを用いて調製した抗血清は、TNFの腫瘍退行促進も引き起こさせる。
【0107】
第9図に示すように、拮抗(競合)結合実験によって13種類のモノクローン抗体が2つのメイングループに分類された。すなわち、MAb1、21、47、54、37、32、そして25のグループと、MAb11、12、53、そして42のグループである。よって、つぎの実験は、これらのモノクローン抗体によって認識されたヒトTNF上の領域を同定することである。
【0108】
モノクローン抗体により認識される、ヒトTNF上の領域の同定
1.7ないし10個のアミノ酸配列程度の長さからなる重なり合ったペプチドは、ゲイセンらの方法(Geysen et al., 1984, PNAS 81, 3998-4002)にもとづいてポリプロピレン・ピン上で合成された。重なり合いはそれぞれ6残基および9残基のもので、ペプチドは全体で全TNFアミノ酸配列を覆っている。このペプチドは、ELISAによってMAbとの反応性が調べられた。全TNFと事前のインキュベーションによってTNF反応性が吸収されたMAbもまた、ペプチドとの反応性について調べられ、そして負の対照群として作用した。
【0109】
2.TNFの長めのペプチドは、下記の通りに合成された。このペプチドは、下記のプロトコールにもとづいてヒツジから抗血清を調製するのに用いられた。オバルブミンにコンジュゲートされ、完全フロインドアジュバント中に乳濁化されたTNFペプチドによって一次接種されたメリノヒツジ(Merino sheep)に、4週間の間隔で、ペプチド・オボアルブミンでブーストし、ラジオイムノアッセイにより、抗TNF抗体の存在をアッセイした。その結果、ペプチド275、301、305、306、そして307のみが全TNFと反応する血清から得られた。よって、陽性血清をMAbとの拮抗結合アッセイ(PACTアッセイ)に用いた。
【0110】
下記のペプチドが合成された。これらのペプチドは、それぞれのアミノ酸を表わすために従来の3文字コードを用いた。TNF配列領域は括弧で示した。
「配列表1」
ペプチド275
H-Ala-Lys-Pro-Trp-Tyr-Glu-Pro-Ile-Tyr-Leu-OH (111-120)

ペプチド301
H-Val-Arg-Ser-Ser-Ser-Arg-Thr-Pro-Ser-Asp-Lys-Pro-Val-Ala-His-Val-Val-Ala-OH (1-18)

ペプチド302
H-Leu-Arg-Asp-Asn-Gln-Leu-Val-Val-Pro-Ser-Glu-Gly-Leu-Tyr-Leu-Ile-OH (43-58)

ペプチド304
H-Leu-Phe-Lys-Gly-Gln-Gly-Cys-Pro-Ser-Thr-His-Val-Leu-Leu-Thr-His-Thr-Ile-Ser-Arg-Ile-OH (63-83)

ペプチド305
H-Leu-Ser-Ala-Glu-Ile-Asn-Arg-Pro-Asp-Tyr-Leu-Asp-Phe-Ala-Glu-Ser-Gly-Gln-Val-OH (132-150)

ペプチド306
H-Val-Ala-His-Val-Val-Ala-Asn-Pro-Gln-Ala-Glu-Gly-Gln-Leu-OH (13-26)

ペプチド307
H-Ala-Glu-Gly-Gln-Leu-Gln-Trp-Leu-Asn-Arg-Arg-Ala-Asn-Ala-Leu-Leu-Ala-Asn-Gly-OH (22-40)

ペプチド308
H-Gly-Leu-Tyr-Leu-Ile-Tyr-Ser-Gln-Val-Leu-Phe-Lys-Gly-Gln-Gly-OH (54-68)

ペプチド309
H-His-Val-Leu-Leu-Thr-His-Thr-Ile-Ser-Arg-Ile-Ala-Val-Ser-Thr-Gln-Thr-Lys-Val-Asn-Leu-Leu-COOH (73-94)

ペプチド323
H-Thr-Ile-Ser-Arg-Ile-Ala-Val-Ser-Thr-Gln-Thr-OH (79-89)
【0111】
これらのペプチドは、下記の一般的なプロトコールにしたがって合成された。
すべてのペプチドは、固相ペプチド合成法であるFmoc-ポリアミノ法(Atherton et al., 1978, J. Chem. Soc. Chem. Commun., 13, 537-539)によって合成された。用いられた固形樹脂は、ペプシン(PepSyn)KAであって、4-ヒドロキシメチルフェノキシ酢酸を官能化リンカーとして用いたキエセルグール支持体(Kieselguhr support)上のポリジメチルアクリルアミドゲルである(Atherton et al. 1975, J. Am. Chem. Soc. 97, 6584-6585)。
【0112】
カルボキシル末端のアミノ酸は、DCC/DMAPメジエーテッド・シンメトリカル・アンヒドリド・エスエリフィケーション(DCC/DMAP-mediated symmetrical-anhydride esterification)によって固体支持体に結合する。
【0113】
すべてのFmoc基は、ピペリジン/DMF洗浄によって除去され、またペプチド結合はペンタフルオロフェニル活性エステルを介して、あるいは直接的にBOP/NMM/HOBt(カストロ試薬)(Fournier et al., 1989. Int. J. Peptide Protein Res., 33, 133-139)によって、第5表に示したあるアミノ酸を除き形成された。
【0114】
アミノ酸に対して選ばれる側鎖保護は、合成後に残される、システイン上のAcmを除き、クリービング(cleavage)中に付随的に除去された。
【0115】
【表4】

【0116】
開裂と精製
ペプチド301、302、305 は、95%TFAおよび5%チオアニソール(1.5h)によって樹脂からクリービングされ、そして逆相C4カラム(緩衝液A-0.1% TFA水溶液、緩衝液B-80% ACN 20% A)によって精製された。
【0117】
ペプチド303、304は、 95%TFAおよび5%フェノール(5ー6 h)によって樹脂からクリービングされ、そして逆相C4カラム(緩衝液A-0.1% TFA溶液、緩衝液B-80% ACN 20% A)によって精製された。
【0118】
ペプチド306、308は、 95%TFAおよび5%水(1.5 h)によって樹脂からクリービングされ、そして逆相C4カラム(緩衝液A-0.1% TFA溶液、緩衝液B-80% ACN 20% A)によって精製された。
【0119】
ペプチド309は、 95%TFAおよび5%チオアニソールによって樹脂からクリービングされ、そして逆相C4カラム(緩衝液A-0.1% TFA溶液、緩衝液B-80% ACN 20% A)によって精製された。
【0120】
ペプチド307は、 93%TFA、3.1%アニソール、2.97%エチルメチルスルフィド、そして0.95%エタンジチオールからなる混合物(3 h)によって樹脂からクリービングされ、そして逆相C4カラム(緩衝液A-0.1% TFA溶液、緩衝液B-80% ACN 20% A)によって精製された。
【0121】
結果
7および10量体(mers)を用いたモノクローン抗体ELISAの典型的な結果を第21図に示す。ヒツジ抗ペプチド血清(第6表参照)を用いたPACTの結果とともに、TNFの下記領域は抗TNFモノクローン抗体の結合部位を含む。
【0122】
MAb1 : 残基 1-18、 58-65、 115-125、138-149
MAb11 : 残基 49-98
MAb12 : 残基 22-40、 70-87
MAb21 : 残基 1-18、 76-90
MAb25 : 残基 12-22、36-45、96-105、 132-157
MAb32 : 残基 1-26、 117-128、 141-153
MAb37 : 残基 22-31、 146-157
MAb42 : 残基 22-40、 49-96、 110-127、 136-153
MAb47 : 残基 1-18、 108-128
MAb53 : 残基 22-40、 69-97、 105-128、 135-155
MAb54 : 残基 56-79、 110-127、 136-155
【0123】
【表5】

【0124】
結論
各モノクローン抗体によって認識される領域のマッピングによって、グループI(MAb1,21,47,54,37,32,そして25)のモノクローン抗体は、MAb37と54とを除き、残基1-18の領域においてTNFと結合する。一方、グループII(MAb11,12,53,そして42)は、TNF3次元構造のいわゆるパリンドローム・ループを取り囲む残基70-96の領域においてTNFと結合する。内皮細胞プロコアギュラント誘導活性を阻害するモノクローン抗体(MAb1,32,42,47,54,そして53)はずべて、TNF3次元構造のループ構造をふたたび取り囲む残基108-128の領域においてTNFと結合し、またこの領域は内皮細胞上にはあるが、腫瘍細胞上にはないTNF受容体に作用する。インビボ系でTNFの腫瘍退行と抗ウイルス活性とを促進させるMAb32は、残基1-26,117-128,そして141-153と関係したループ領域のすべてに結合する唯一の抗体である。したがって、これらの領域の結合は、正常細胞に対する毒性の低減が生じ始めるのと同様に、TNF生物学的活性の促進にとって重要なものとなる。
【0125】
第2表から明らかなように、MAb1、47、そして54はTNFの生物学的活性に対して同一の効果を示す。上記に示した結果から、これら3種類のモノクローン抗体は、TNF分子の類似領域へ結合する。したがって、主に残基1-20の領域、残基56-77の領域、残基108-128の領域、そして残基138-149の領域からなる群から選択される少なくとも2つの領域においてTNFに結合するリガンドは、MAb1、47および54と同様にしてTNFの生物学的活性に対する効果を示す。同様に、主に残基1-20および76-90からなる領域においてTNFと結合するリガンドは、モノクローン抗体21と同様に、TNFの生物学的活性に対して効果を示す。主に残基22-40および69-97からなる領域においてTNFと結合するリガンドは、モノクローン抗体12と同様に、TNFの生物学的活性に対して効果を示す。主に残基1-30、117-128、そして141-153からなる領域においてTNFと結合するリガンドは、モノクローン抗体32と同様に、TNFの生物学的活性に対して効果を示す。主に残基22-40、49-97、110-127、そして136-153からなる領域においてTNFと結合するリガンドは、モノクローン抗体42と同様に、TNFの生物学的活性に対して効果を示す。主に22-31および146-157からなる領域においてTNFと結合するリガンドは、モノクローン抗体37と同様に、TNFの生物学的活性に対して効果を示す。主に22-40、69-97、105-128、そして135-155からなる領域においてTNFと結合するリガンドは、モノクローン抗体53と同様に、TNFの生物学的活性に対して効果を示す。
【0126】
本発明者は、以下のことをはっきりと示した。すなわち、TNFの生物学的活性は、TNFへのリガンドの結合によって変更されてしまう。また、生物学的活性への効果はリガンドの特異性の関数である。例えば、残基1-26、117-128、141-153からなる領域においてTNFへのMAb32の結合は、TNFの内皮プロコアギュラント活性の誘導を引き起こし、また内皮細胞上の受容体に対するTNFの結合は阻害された状態となり、TNFによる腫瘍退行活性および腫瘍フイブリン沈着活性は促進された状態となる。細胞毒性については何等影響されず、またTNFの腫瘍受容体活性は影響されないか、あるいは促進される。TNFの生物学的活性に対するこのような効果は、MAb32によって認識されるTNFのエピトープが自然発生的な生物学的活性リガンドへの結合を妨害することによって起こる。したがって、MAb32によって作られた同様の効果もまた、TNFの領域に結合するリガンドによって作られ、MAb32によって認識されたエピトープは、自然発生的な生物学的に活性なリガンドへの結合から阻害される。この結合の妨害は、立体障害または他の機構によるものであろう。
【0127】
したがって、本願に開示された種々のモノクローン抗体によって認識されるエピトープの、自然発生的生物学的活性リガンドへの結合阻害は、本発明の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】第1図は、TNFに対するMAb1の滴定検定の結果を示すものである。
【図2】第2図は、TNF MAb1スキャッチャードプロットと、親和性の測定とを示すものである。
【図3】第3図は、WEHI-164細胞におけるTNF毒性に対する抗TNFモノクローン抗体1および32の効果を示すものである。
【図4】第4図は、TNFに誘導された、Meth A 固形(solid)腫瘍の退行に対するMAb1の効果を示すものである。
【図5】第5図は、TNFに誘導されたMeth A 腹水腫瘍の退行に対するMAb1および25の効果を示すものである。
【図6】第6図は、TNFによる内皮細胞プロコアギュラント活性の誘導に対する抗TNFモノクローン抗体の効果を示すものである。
【図7】第7図は、腫瘍を有するマウスの腫瘍部への、標識されたフイブリノーゲンの取り込み、及び抗TNFモノクローン抗体の効果を示すものである。
【図8】第8図は、TNFのエピトープを概略的に説明するための図である。
【図9】第9図は、WEHI-164腫瘍のTNF誘導性退行に対する抗TNFモノクローン抗体の効果を示すものである。
【図10】第10図は、2つの実験におけるMAb32によるTNF退行活性の促進を示すものである。
【図11】第11図は、1日目および2日目のMAb32投与量応答によるTNF誘導性腫瘍退行の促進を示すものである。
【図12】第12図は、ウシ大動脈内皮細胞上の受容体に対する、放射性標識TNFの結合を示すものである。
【図13】第13図は、TNFの受容体結合アッセイを示すもので、このTNFは、下記のものとメラノーマ細胞系統MM418E上で複合体を形成して用いられた。
【図14】第14図は、TNFの受容体結合アッセイを示すもので、このTNFは、下記のものとメラノーマ細胞系統IGR3上で複合体を形成して用いられた。
【図15】第15図は、TNFの受容体結合アッセイを示すもので、このTNFは、下記のものと膀胱カルシノーマ細胞系統5637上で複合体を形成して用いられた。
【図16】第16図は、TNFの受容体結合アッセイを示すもので、このTNFは、下記のものと胸部カルシノーマ細胞系統MCF7上で複合体を形成して用いられた。
【図17】第17図は、TNFの受容体結合アッセイを示すもので、このTNFは、下記のものと結腸カルシノーマ細胞(colon carcinoma cell)系統B10上で複合体を形成して用いられた。
【図18】第18図は、下記の抗体によるインビボ系(in vivo)でのTNF媒介腫瘍退行効果を示すものである。
【図19】第19図は、対照モノクローン抗体、MAb32、そしてMAb32の一価FAb’断片によるインビボ系でのTNF媒介腫瘍退行効果を示すものである。
【図20】第20図は、下記抗体によるTNF誘導腫瘍退行の効果を示すものである。
【図21】第21図は、アミノ酸長が10個のオーバーラップペプチドとMAb32との反応性を示すものである。
【図22】第22図は、TNF分子の三次元(3D)構造を模式的に示すものである。
【図23】第23図は、残基1-20、56-77、108-127、そして138-149からなる領域をトポグラフイック(立体的)に示したものである。
【図24】第24図は、残基1-18および108-128からなる領域を立体的に示したものである。
【図25】第25図は、残基56-79、110-127および136-155からなる領域を立体的に示したものである。
【図26】第26図は、残基1-26、117-128および141-153からなる領域を立体的に示したものである。
【図27】第27図は、残基22-40、49-97、110-127、そして136-153からなる領域を立体的に示したものである。
【図28】第28図は、残基12-22、36-45、96-105、そして132-157からなる領域を立体的に示したものである。
【図29】第29図は、残基1-20および76-90からなる領域を立体的に示したものである。
【図30】第30図は、残基22-40、69-97、105-128、そして135-155からなる領域を立体的に示したものである。
【図31】第31図は、残基22-31および146-157からなる領域を立体的に示したものである。
【図32】第32図は、残基49-98からなる領域を立体的に示したものである。
【図33】第33図は、残基22-40および70-87からなる領域を立体的に示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TNF−αに特異的に結合する抗体またはその断片であって、TNF−αへの結合に関して、モノクローナル抗体Mab1、53、又は54と競合するものであり、TNF−αへ結合すると、TNF−αの内皮プロコアギュラント活性の誘導が阻害されることを特徴とする抗体またはその断片。
【請求項2】
TNF−αに特異的に結合する抗体またはその断片であって、TNF−αの残基49−105内にある、TNF−αの領域に結合するものであり、TNF−αへ結合すると、TNF−αの内皮プロコアギュラント活性の誘導を阻害することを特徴とする抗体またはその断片。
【請求項3】
請求項2に記載の抗体またはその断片であって、TNF−αの残基49−97内にある、TNF−αの領域に結合することを特徴とする抗体またはその断片。
【請求項4】
請求項2に記載の抗体またはその断片であって、残基56−79、残基58−65、残基76−90、残基96−105、残基49−96、及び残基69−97からなる群より選択されるTNF−α残基内の、TNF−αの領域に結合することを特徴とする抗体またはその断片。
【請求項5】
TNF−αに特異的に結合する抗体またはその断片であって、モノクローナル抗体Mab1、Mab53、又はMab54によって認識されるいずれか一つのエピトープに結合するものであり、TNF−αへ結合すると、TNF−αの内皮プロコアギュラント活性の誘導が阻害されることを特徴とする抗体またはその断片。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項記載の抗体またはその断片であって、該抗体またはその断片は、抗体、F(ab)断片、単一ドメイン抗体(dAbs)再構成抗体、単一鎖抗体、そして血清結合タンパク質からなる群から選択されることを特徴とする抗体またはその断片。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項記載の抗体またはその断片であって、前記抗体がモノクローナル抗体であることを特徴とする抗体またはその断片。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の抗体またはその断片であって、TNF−αの、TNF−α受容体への結合を阻害することを特徴とする抗体またはその断片。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の抗体またはその断片であって、TNF−αの細胞毒性を阻害することを特徴とする抗体またはその断片。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【公開番号】特開2006−89503(P2006−89503A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−352530(P2005−352530)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【分割の表示】特願2003−24901(P2003−24901)の分割
【原出願日】平成2年8月7日(1990.8.7)
【出願人】(500468537)ペプテック リミテッド (16)
【Fターム(参考)】