説明

腫瘍崩壊性のアデノウイルス

ウイルスベクターおよびこのようなベクターを作製する方法が記載される。このようなベクターは、新生物細胞を優先的に死滅させるが、正常細胞は死滅させない。好ましいベクターは、E1A領域および/またはE4領域における内因性プロモーターが、腫瘍特異的プロモーター(好ましくは、E2F応答性である)で置換されたアデノウイルスである。本発明は、アデノウイルスベクターと、そのベクターの作製方法と使用方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、改良したアデノウイルスベクターに関連し、そのベクターは、E1A領域および/またはE4領域のプロモーター中に変異と置換を含み、そのプロモーターは、実質的な、腫瘍細胞に特異的な腫瘍崩壊性の活性を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、アデノウイルスベクターと、そのベクターの作製方法と使用方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、改良したアデノウイルスベクターに関連し、そのベクターは、E1A領域および/またはE4領域のプロモーター中に変異と置換を含み、そのプロモーターは、実質的な、腫瘍細胞に特異的な腫瘍崩壊性の活性を与える。
【背景技術】
【0002】
(背景)
今世紀初頭から、ウイルスは癌を治療するために使われてきた。この取り組みは2重である;第1には、新生物細胞の中で選択的に複製して、新生物細胞を死滅させるが、正常細胞には損傷を与えない腫瘍崩壊性ウイルスを単離または創生することである。研究者は、初め、野生型のウイルスを使用し、この取り組みはいくつかの限られた成功しか得られなかった。腫瘍の崩壊および腫瘍の発育の遅延が、正常組織にはほとんどまたはまったく損傷を与えずに起こった一方、この疾患の過程で、有意な変化はなかった。非特許文献1:Smith et al.,Cancer 9:1211−1218(1956)、非特許文献2:Cassel,W.A.et al.,Cancer 18:863−868(1965)、非特許文献3:Webb,H.E.et al.,Lancet 1:1206−1209(1966)を参照。非特許文献4:Kenny,S and Pagano,J.J.Natl.Cancer Inst.,vol.86,no.16,p.1185(1994)も参照。
【0003】
さらに最近、野生型ウイルスの使用による制限された効率に関連した疾患の再発のために、研究者は、高投与量で送達し得、かつ正常細胞ではなく新生物細胞の中で複製能のある組換えウイルスの使用に頼っていた。そのようなウイルスは、それら自体、有効な腫瘍崩壊性薬剤であり、さらに、そのウイルスの抗腫瘍活性を促進する導入遺伝子を保有および発現するように操作され得る。この部類のウイルスの例は、ウイルスゲノムのE1B領域に変異を有するアデノウイルスである。特許文献1:米国特許第5,677,178号と非特許文献5:Bischoff,J.R.,D.H.Kirn,A.Williams,C.Heise,S.Horn,M.Muna,L.Ng,J.A.Nye,A.Sampson−Johannes,A.Fattaey,and F.McCormick.1996,Science.274:373−6を参照。
【0004】
癌を処置するための導入遺伝子有りまたは無しで複製能のあるウイルスの使用と、研究者が用いた、導入遺伝子を発現する複製しないウイルスである2つ目の取り組みとを区別することは重要である。そこで、そのウイルスを、導入遺伝子を送達する単なるビヒクルとして使用する。この導入遺伝子は、直接的または間接的に新生物細胞を死滅させる原因となる。この取り組みは、癌を処置するためにウイルスを使用する有力な取り組みとなり続けている。しかし、それは、限られた成功しか得られず、ウイルスの複製に比べて、効果的ではないようである。それにも関わらず、外来遺伝子が、E1領域に(非特許文献6:McGrory,Virology 163:614−17(1988)を参照)およびE3領域に(非特許文献7:Hanke,Virology 177:437−44(1990)、および非特許文献8:Bett,J.Virol.67:5911−21(1993)を参照)またはE1を欠失したベクターのE3領域に挿入されてきた。
【0005】
上記のように、高投与量のウイルス治療に起因する正常細胞への損傷を回避するため、そのウイルスは、そのウイルスの複製を容易にし、よって腫瘍細胞内での腫瘍崩壊性活性を促進するが、そのウイルスが正常細胞に対して基本的に損傷を与えない変異を有することが好ましい。この取り組みは、以下の知見を活用している。その知見とは、正常細胞の増殖を制御している細胞増殖制御機構の多くが新生物細胞では失活または欠失していることと、それらの同じ増殖制御機構がウイルスの複製を容易にするためにウイルスによって失活されることである。したがって、特定の正常細胞の増殖制御機構を不活性化するウイルス遺伝子の欠失もしくは不活性化によって、そのウイルスは正常細胞内での複製を阻止される。しかし、そのようなウイルスは、特定の増殖制御活性を欠失している新生物細胞の中で複製し、新生物細胞を死滅させる。
【0006】
例えば、正常な分裂細胞は一過的に、増殖制御機構である網膜芽細胞腫の腫瘍サプレッサーを欠失する。その網膜芽細胞腫の腫瘍サプレッサーは、特定の新生物細胞の中で欠失し、その癌細胞の中での無制限な増殖に関連する。網膜芽細胞腫の腫瘍サプレッサー遺伝子(RB)の遺伝子機能の欠失は、腫瘍の様々な型の病因に関連している。この腫瘍サプレッサー遺伝子産物である、pRBまたはp105とよばれる105キロダルトンのポリペプチドは、細胞周期調節タンパク質である。そのpRBポリペプチドは、細胞周期のG期で細胞を停止させることにより、細胞増殖を阻害する。そのpRBタンパク質は、アデノウイルスE1a、SV40ラージT抗原、およびパピローマウイルスE7を含む、いくつかのDNAウイルス腫瘍タンパク質の主要な標的である。これらのウイルスタンパク質は、pRBと結合し、pRBを不活性化する。pRBを不活性化するその機能は、ウイルスの複製を容易にすることにおいて重要である。そのpRBタンパク質は、E2F転写因子と相互作用する。その転写因子は、アデノウイルスE2遺伝子といくつかの細胞性遺伝子の発現に関与し、この転写因子の活性を阻害する(非特許文献9:Bagchi et al.(1991)Cell 65:1063;非特許文献10:Bandara et al.(1991)Nature 351:494;非特許文献11:Chellappan et al.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.(U.S.A.)89:4549)。
【0007】
アデノウイルスの腫瘍タンパク質E1aは、E2Fの活性化を生じるpRB/E2F複合体を破壊する。しかし、E2Fと複合体をつくるために十分機能的なpRBを欠失している新生物細胞または正常な分裂細胞は、転写活性のあるE2Fを保有するために、E1aのような機能的な腫瘍タンパク質の存在を必要としない。したがって、複製欠損アデノウイルス種は、RBと複合体を形成する能力を欠損し、しかし複製するために不可欠な他の機能は実質的に保有し、RBの機能が欠損している細胞(例えば、正常な分裂している細胞、または実質的に欠失したRB対立遺伝子に関して同型接合または異型接合である細胞、基本的に機能のない変異RBタンパク質をコードするRB対立遺伝子を含む細胞、RBタンパク質の機能の欠失を生じる変異を含む細胞)の中で複製の表現型を示すが、複製しない非新生物細胞において複製の表現型を実質的に示さないと考えられる。そのような複製欠損アデノウイルス種を、E1a−RB(−)複製欠損アデノウイルスとよぶ。
【0008】
ある細胞集団(混合した細胞培養物またはヒトの癌患者など)は、新生物細胞と正常な分裂細胞(ともに、RB機能を欠失している)の亜集団と、正常なRB機能を基本的に発現する分裂していない非新生物細胞の亜集団を包含する。その細胞集団を、感染性の条件(つまり、その細胞集団のアデノウイルス感染に適切な条件、代表的には生理的条件)の下で、E1a−RB(−)複製欠損アデノウイルスの感染を示す投与量を含む組成物と、接触させ得る。これは結果として、E1a−RB(−)複製欠損アデノウイルスをその細胞集団に感染させることになる。この感染によって、細胞(RB機能を欠失した新生物細胞および正常な分裂細胞(RB細胞)の亜集団を含む)の有意な画分において、複製の表現型の発現を優先的に生じるが、その感染によって、正常なRB機能を基本的に有する分裂してない新生物細胞の亜集団において、複製の表現型の実質的な発現を生じない。感染したRB(−)細胞(新生物細胞または正常な分裂細胞)における複製の表現型の発現の結果として、細胞変性効果(CPE)、細胞溶解、アポトーシスなどによる細胞死を生じ、このことによって、細胞集団からそのようなRB(−)細胞の選択的な除去を生じる。特許文献2:米国特許第5,801,029号と特許文献3:同第5,972,706号を参照。
【0009】
代表的に、RB(−)新生物細胞を選択的に死滅させることに適するE1a−RB(−)複製欠損アデノウイルス構造物は、RBタンパク質と効率的に結合するためのE1aポリペプチドの能力を不活性化する変異(例えば、欠失、置換、フレームシフト)を包含する。そのような不活性化変異は、代表的に、E1aのCR1ドメイン(Ad5におけるアミノ酸30−85;ヌクレオチド697位からヌクレオチド790位)および/またはCR2ドメイン(Ad5におけるアミノ酸120―139;ヌクレオチド920位からヌクレオチド967位)の中で起こる。それらドメインは、p105RBタンパク質とp107タンパク質の結合に関与する。好ましくは、CR3ドメイン(アミノ酸150−186に及ぶ)が残存し、トランケートされたp289Rのポリペプチドとして発現され、アデノウイルス初期遺伝子のトランス活性化において機能的である。図1に、E1a−289Rポリペプチドのドメイン構造を模式的に記す。
【0010】
アデノウイルスのE1a領域の中の改変に加え、転写活性化E2Fの制御下、重要な複製機能を有するウイルスを構築することによって、RB機能を欠失した新生物細胞のウイルス特異的な死滅を促進させることは望ましい。アデノウイルスの複製周期は、2段階を有する:4つの転写ユニットであるE1、E2、E3、E4が発現する間の初期と、後期転写物が主要後期プロモーター(MLP)から最初に発現されるときのウイルスDNAの合成の開始後に起きる後期である。後期メッセンジャーはウイルスの構造タンパク質のほとんどをコードしている。E1、E2、E4の3つの遺伝子産物は、転写活性化、細胞トランスフォーメーション、ウイルスDNA複製、および他のウイルス機能を担い、ウイルスの増殖に必要である。非特許文献12:Halbert,D.N.,et al.,1985,J.Virol.56:250−7を参照。
【0011】
ウイルス複製に関わるアデノウイルスの領域を、E2F応答性転写ユニットを経由してE2Fの制御下に置くことができる場合、このことにより、正常細胞ではなく、RB機能を欠損した新生物細胞を選択的に死滅させる、増強したアデノウイルスが与えられる。
【0012】
背景として、以下の参考文献は、E4領域を含む、ウイルスの複製に関わる領域とE2F応答性プロモーターにおける改変を伴うアデノウイルスベクターに関連していることを示す。
【0013】
発明者Branton et al.特許文献4:WO98/091563は、細胞死を誘導するためにアデノウイルスE4タンパク質を用いるための方法と組成物を示している。
【0014】
Gao,G−P.,et al.は、肝臓指向性遺伝子治療について、E1とE4が欠失したアデノウイルスベクターの使用を記載する。非特許文献13:J.Virology,Dec.1996,p.8934−8943を参照。
【0015】
特許文献5:WO98/46779は、改変されたE4領域を含むE4orf3を保持している以外は導入遺伝子の発現を可能とする、あるアデノウイルスベクターを記載している。
【0016】
Yeh,P.,et al.は、293細胞の中の最低限のE4機能的ユニットの発現を記載し、その細胞は、アデノウイルスのE1領域とE4領域の2つの効果的なトランス相補を可能にする。非特許文献14:Yeh,P.,et al.,J.Virology,Jan.1996.pages 559−565を参照。
【0017】
特許文献6:米国特許第5,885,833号には、アクチベーター配列、プロモーターモジュール、および構造遺伝子を含む核酸の構築物が記載されている。プロモーターモジュールは、CHR領域と、E2Fファミリーのタンパク質と結合する核酸配列を包含する。
【0018】
非特許文献15:Wang,Q.et al.,Gene Ther.2:775−83(1995)は、E1領域および/またはE4領域を欠失している組換えアデノウイルスのベクターの増殖のための293パッケージング細胞株を記載する。293親細胞の中のE1A遺伝子産物のトランス活性化およびE4遺伝子の過剰発現を避けるために、E4プロモーターを、細胞性誘導ホルモン遺伝子プロモーターであるマウスアルファインヒビンプロモーターに置換した。
【0019】
KrougliakとGrahamは、アデノウイルス5型のE1遺伝子、E4遺伝子、pIX遺伝子を発現し、したがって、それら遺伝子の領域それぞれが欠損しているアデノウイルス変異体の複製を相補することができる細胞株の開発について記載している。非特許文献16:Krougliak,V.and Graham,F.,Human Gene Therapy,vol.6:p.1575−1586,1995を参照。
【0020】
Fang,B.,et al.非特許文献17:J.Virol.71:4798−803(1997)は、弱毒化した、複製能のないアデノウイルスベクターについて記載している。そのベクターは、合成したGALA/VP16プロモーターと置換されたE4プロモーターを有し、そのE4プロモーターは、GAL4/VP16トランスアクチベーターを安定に発現する293細胞の中で、アデノウイルスベクターのパッケージングを容易にする。そのウイルスは、そのE1領域の欠失により、複製能がなくなった。
【0021】
特許文献7:米国特許第5,670,488号に、E4オープンリーディングフレームのうちの1以上が欠失したアデノウイルスベクターが記載されている。そのベクターは、インビトロでウイルスの複製を促進するために十分なE4配列を保持するが、興味あるDNA配列を発現制御配列に繋げられ、アデノウイルスゲノムの中に挿入されている。
【0022】
特許文献8:米国特許第5,882,877号に、アデノウイルスゲノムのE1領域、E2領域、E3領域、およびE4領域と後期遺伝子が欠失し、かつ発現制御配列に作動可能に連結された目的の核酸をさらに含むアデノウイルスベクターが記載されている。
【0023】
特許文献9:WO98/13508に、目的の導入遺伝子に作動可能に連結されたE2F応答性プロモーターを用いて、選択的に悪性腫瘍細胞を標的にすることが記載されている。
【0024】
Neuman,E.,et al.は、E2F−1遺伝子の転写が、E2F−1のプロモーターの中のE2F−DNA結合部位によって細胞周期依存性にされることを示す。非特許文献18:Mol Cell Biol.15:4660(1995)を参照。Neuman,E.,et al.はまた、ヒトE2F1遺伝子の構造と部分的なゲノム配列を示す。非特許文献19:Gene.173:163−9(1996)を参照。
【0025】
Parr,M.J.,et al.は、インビボの腫瘍選択的導入遺伝子発現がE2F応答性アデノウイルスベクターに媒介されることを示す。非特許文献20:Nat.Med.3:1145−9(1996)を参照。
【0026】
Adams,P.D.and W.G.Kaelin,Jr.は、E2Fによる転写制御を示す。非特許文献21:Semin Cancer Biol.6:99−108(1995)を参照。
【0027】
Hallenbeck,P.,et al.は、組織特異的に複製するベクターについて記載している。そのようなベクターの1つが、アデノウイルスである。このアデノウイルスは、ベクターそれ自体から、またはベクターから発現した異種遺伝子産物から、治療の恩恵を与えるために、標的組織の中で、選択的に複製すると述べられている。ベクターそれ自体からの例において、組織特異的な転写制御配列は、ベクターの複製に必須な遺伝子のコード領域に作動可能に連結される。いくつかのコード領域が、E1a、E1B、E2、およびE4を含むことを、特許文献10:WO96/17053と特許文献11:WO96/17053を参照のこと。
【0028】
特許文献12:米国特許第5,698,443号において、Henderson,et al.は、前立腺細胞に特異的な応答性要素の転写制御の下で、E1A遺伝子、E1B遺伝子またはE4遺伝子のうちの少なくとも1つを有するアデノウイルスベクターを示す。
【0029】
ウイルスが、癌を処置するためのもう1つの手段を提供することは明らかである。したがって、新生物細胞の中で選択的に複製し、それを死滅させるウイルスは、癌と闘う医師の蓄積した選択肢(arsenal)の中でも計り知れない武器になるだろう。
【特許文献1】米国特許第5,677,178号明細書
【特許文献2】米国特許第5,801,029号明細書
【特許文献3】米国特許第5,972,706号明細書
【特許文献4】国際公開第98/091563号パンフレット
【特許文献5】国際公開第98/46779号パンフレット
【特許文献6】米国特許第5,885,833号明細書
【特許文献7】米国特許第5,670,488号明細書
【特許文献8】米国特許第5,882,877号明細書
【特許文献9】国際公開第98/13508号パンフレット
【特許文献10】国際公開第96/17053号パンフレット
【特許文献11】国際公開第96/17053号パンフレット
【特許文献12】米国特許第5,698,443号明細書
【非特許文献1】Smith et al.,Cancer 9:1211−1218(1956)
【非特許文献2】Cassel,W.A.et al.,Cancer 18:863−868(1965)
【非特許文献3】Webb,H.E.et al.,Lancet 1:1206−1209(1966)
【非特許文献4】Kenny,S and Pagano,J.J.Natl.Cancer Inst.,vol.86,no.16,p.1185(1994)
【非特許文献5】Bischoff,J.R.,D.H.Kirn,A.Williams,C.Heise,S.Horn,M.Muna,L.Ng,J.A.Nye,A.Sampson−Johannes,A.Fattaey,and F.McCormick.1996,Science.274:376−6
【非特許文献6】McGrory,Virology 163:614−17(1988)
【非特許文献7】Hanke,Virology 177:437−44(1990)
【非特許文献8】Bett,J.Virol.67:5911−21(1993)
【非特許文献9】Bagchi et al.(1991)Cell 65:1063
【非特許文献10】Bandara et al.(1991)Nature 351:494
【非特許文献11】Chellappan et al.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.(U.S.A.)89:4549
【非特許文献12】Halbert,D.N.,et al.,1985,J.Virol.56:250−7
【非特許文献13】Gao,G−P.,et al.,J.Virology,Dec.1996,p.8934−8943
【非特許文献14】Yeh,P.,et al.,J.Virology,Jan.1996.pages 559−565
【非特許文献15】Wang,Q.et al.,Gene Ther.2:775−83(1995)
【非特許文献16】Krouglick,V.and Graham,F.,Human Gene Therapy,vol.6:p.1575−1586,1995
【非特許文献17】Fang,B.,et al.,J.Virol.71:4798−803(1997)
【非特許文献18】Neuman,E.,et al.,Mol Cell Biol.15:4660(1995)
【非特許文献19】Neuman,E.,et al.,Gene.173:163−9(1996)
【非特許文献20】Parr,M.J.,et al.,Nat.Med.3:1145−9(1996)
【非特許文献21】Adams,P.D.and W.G.Kaelin,Jr.,Semin Cancer Biol.6:99−108(1995)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0030】
(発明の要旨)
本明細書に記載の本発明は、組換えアデノウイルスベクターならびにこのベクター(好ましくは、複製能のあるアデノウイルスベクター)を構築するための方法および組成物を提供する。複製能のあるアデノウイルスベクターは、最初期遺伝子の発現を制御するアデノウイルスプロモーター領域を少なくとも1つ、好ましくは2つ有する非新生物細胞をほとんど、またはまったく死滅させることなく、実質的かつ選択的に新生物細胞を死滅させるこのアデノウイルスプロモーター領域は、特定の転写ヌクレオチド調節開始部位が取り除かれるかまたは別の方法で不活性化されると同時に、必要とされるかもしくは実質的にウイルスの複製を容易にする部位を保持して、このようなヌクレオチド調節開始部位の除去の代わりになるように改変され、そして、腫瘍細胞特異的転写ユニット、および必要に応じて抗新生物細胞活性を有する異種遺伝子が、欠失したウイルス遺伝子の代わりとなるように改変される。
【0031】
本発明はさらに、組換えウイルスベクターと上記の方法を提供する。ここで、このアデノウイルスプロモーター領域は、好ましくはE1aおよび/またはE4であり、異種遺伝子はウイルス複製サイクルの後期に発現され、その異種遺伝子は、アデノウイルス内在性遺伝子発現機構の制御下におかれる。
【0032】
もう1つの局面において、特定のE1aプロモーターとE4プロモーター転写ヌクレオチド開始部位が除去または別の方法で不活性化され、したがって腫瘍細胞特異的転写ユニットに置換されている、非新生物細胞をほとんど、またはまったく死滅させることなく実質的かつ選択的に癌細胞を死滅させるアデノウイルスベクターを、本発明は提供する。
【0033】
もう1つの局面において、少なくとも特定のE4プロモーター転写ヌクレオチド開始部位を除去または別の方法で不活性化させると同時に、ウイルスの複製を容易にし、特定のSp1、ATF、NF1、NFIII/Oct−1結合部位を含み、かつE4プロモーターヌクレオチド開始部位の代わりに腫瘍細胞特異的転写ユニットを用いる、非新生物細胞をほとんど、またはまったく死滅させることなく実質的かつ選択的に癌細胞を死滅させるアデノウイルスベクターを、本発明は提供する。
【0034】
本発明の目的は、E1aおよび/E4プロモーター転写ヌクレオチド開始部位を除去して、結果(腫瘍細胞特異的転写ユニットに置き換った)、上記アデノウイルスベクターについて記述することである。そこでそのようなアデノウイルスベクターはさらに、E1aポリペプチドのRBタンパク質と有効に結合する能力を不活化させる変異(例えば、欠失、置換、フレームシフト)を示す。
【0035】
本発明のさらなる特徴は、上記で言及されるE1aおよび/E4プロモーターヌクレオチド開始配列を腫瘍細胞特異的転写ユニット(pRb/p107、E2F−1/−2/−3、G1サイクリン/cdk複合体を含む、pRbシグナル伝達経路に応答性のユニット)で置き換えることからなる。そのプロモーターはE2F応答性が好ましい。
【0036】
本発明はまた、本明細書に記載のアデノウイルスベクター単独、または抗癌剤との併用を用いて、疾患、好ましくは、新生物疾患を含む、過剰増殖性の細胞増殖に起因する疾患の予防または処置のための方法を提供する。
【0037】
本発明のさらにもう一つの特徴は、上記のアデノウイルスベクターを使用して、新生物疾患を処置するための方法である。このアデノウイルス中で、欠失したウイルス遺伝子と置き換わった異種遺伝子は、ウイルス複製サイクルの後期に発現して、アデノウイルスベクターの抗新生物活性を促進する。
【0038】
本発明の上記局面および上記にない他の局面は、本発明の完全な考察によって明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
(発明の詳細な説明)
特許および特許出願を含め、本明細書で言及される全ての刊行物は、各個々の刊行物の全てが、完全に参考として援用されていることが具体的にそして個々に示されているかのような程度に、参考として援用される。
【0040】
さらに、本発明のアデノウイルスベクターの腫瘍崩壊性活性は、E2F応答性プロモーター制御下でウイルス遺伝子の発現に影響を与えるpRb経路に関わる分子を含む作用機構に基づくが、本発明はその機構によって制限されるとは解釈されるべきでないことが重要である。むしろ、本発明のアデノウイルスベクターの腫瘍崩壊性活性は、その構造的要素(そのpRb経路を介して腫瘍崩壊性を及ぼすと考えられるが、そうでないかもしれない)の機能であることが、理解される。したがって、本発明のアデノウイルスベクターは、E1a遺伝子発現またはE4遺伝子発現のどちらかを駆動する少なくとも1つのE2F応答性プロモーターを有することによって、腫瘍細胞対正常細胞の選択的死滅を得る。以下のように、好ましいアデノウイルスベクターは、1つがE2F応答性プロモーターを2つ有するベクター、もう1つがE1aプロモーターが置換されたベクター、残りがE4プロモーターが置換されたベクターである。
【0041】
(定義)
別の方法で定義しなければ、本明細書で使われている全ての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する分野の当業者より一般に理解されているものと同じ意味を有する。一般的に、本明細書で用いられている名称と以下の実験手順は、周知のものであり、当該分野において一般に使用されている。
【0042】
組換え核酸法、ポリヌクレオチド合成、そして細菌の培養と形質転換(例えば、電気穿孔、リポフェクション)については、標準的な技術が用いられる。一般的に、酵素反応と精製工程は、製造者の仕様書に従って行う。その技術と手順は、一般に、当該分野における従来方法と、本明細書全体を通して提供される一般的な様々な参考文献(一般には、Sambrook et al. Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd.edition(1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.を参照)に従い、行う。本明細書で用いられる名称と、以下の分析化学、有機合成化学、薬剤の処方における実験手順は、周知のものであり、当該分野において一般に使用されている。標準的な技術は、化学合成、化学分析、薬剤の処方と送達、患者への治療に使われている。
【0043】
語句「内在性遺伝子発現機構」とは、遺伝子発現を担う内在性ウイルス要素(例として、プロモーター、エンハンサー、選択的スプライシング部位、選択的翻訳開始部位、ポリアデニル化シグナルなどを包含するヌクレオチド配列が挙げられる)に言及する。
【0044】
当業者はまた、本発明のE1Aおよび/またはE4シャトルベクターを産生するために本発明のアデノウイルスの遺伝的操作を容易にする刊行物を認識する。そのような刊行物として、Hitt,M.,et al.の、Construction and propagation of human adenovirus vector、Cell Biology:a Laboratory Handbook;J.Celis(Ed),Academic Press,N.Y.(1996);Graham,F.L. and Prevec,L.Adenovirus based expression vectors and recombinant vaccines、Vaccines:New approaches to Immunological Problems.R.W.Ellis(ed)Butterworth.Pp.363−390;およびGraham,F.L.and Prevec,L.Manipulation of adenovirus vectors、Methods in Molecular Biology,Vol.7:Gene Transfer and Expression Techniques.E.J.Murray and J.M.Walker(eds)Human Press Inc.,Clifton,N.J.pp109−128,1991の研究を参照。これら論文に記述の材料と方法は以下に用いられるかまたは用いることができた。
【0045】
本発明の選択的な具体的な実施形態を表す慣用表現の中で、しばしば具体的に示されていないが、アミノ末端とカルボキシ末端の基は、別段特定されなければ、生理的pH値でとる形態で存在すると理解される。本明細書で記述されているアミノ酸残基は、「L」異性体として存在することが望ましい。従来の20個のアミノ酸の立体異性体(例えば、D−アミノ酸)、a,a−distributed(分布の)アミノ酸、N−アルキルアミノ酸、乳酸や他の従来型でないアミノ酸などの非天然のアミノ酸もまた、望ましい機能特性を本発明のポリペプチドが保持している限りは、本発明のポリペプチドの適切な成分であり得る。示されたペプチドに関して、それぞれのコードされた残基は、適切であれば、3文字表示として表記され、その表記は、従来のアミノ酸の普通の名称に対応し、標準的なポリペプチドの名称と一致している(J.Biol.Chem.,243:3552−59(1969)に記述され、37 CFR §1.822(b)(2)で採用されている)。
【0046】
この開示をとおして使用している場合、以下の用語は、別途示されなければ、以下の意味を有すると理解されるものとする。
【0047】
「アデノウイルスの転写における核酸の制御部位」配列に適用される「不活性化」という用語は、変異により機能がない配列にするという意味で、その配列の全部または一部を欠失する、またはアデノウイルスの転写における核酸の配列に他の配列を挿入し、その結果、機能がない配列にするという意味も含む。
【0048】
本明細書で言及される“アデノウイルス”という用語は、ヒトから単離された47を超えるサブタイプを示し、他の動物や鳥から単離されたサブタイプもヒトと同じくらい多い。Strauss,“Adenovirus infections in humans”,in The Adenoviruses,Ginsberg,ed.,Plenum Press,New York,NY,pp.451−596(1984)を参照。その用語は、好ましくは2つのヒト血清型である、Ad2とAd5に適用する。
【0049】
本明細書で言及されている「ポリヌクレオチド」という用語は、少なくとも10塩基の長さのヌクレオチド(リボヌクレオチドまたはデオキシヌクレオチドのどちらか、またはどちらかの型のヌクレオチドの改変体)の重合体を意味する。この用語は、DNAの一本鎖と二本鎖を含む。
【0050】
本明細書で言及されている「オリゴヌクレオチド」という用語は、天然に存在する、および改変されたヌクレオチドが、自然発生的および非自然発生的なオリゴヌクレオチド重合により、互いに結合することを含む。オリゴヌクレオチドは、200塩基以下の長さのポリヌクレオチドの部分集合である。好ましくは、オリゴヌクレオチドは、10〜60塩基の長さである。オリゴヌクレオチドは、例えば、プローブに関しては通常、一本鎖である;、しかし例えば、遺伝子の変異体の構築における使用に関しては、オリゴヌクレオチドは二本鎖として存在してもよい。本発明のオリゴヌクレオチドは、センス鎖またはアンチセンス鎖のどちらかであり得る。
【0051】
本明細書で使われる「標識」または「標識された」という用語は、検出可能なマーカーの取り込みを言及する。例えば、放射性標識されたアミノ酸の取り込み、あるいは標識されたアビジン(例えば、視覚的または比色分析法により検出され得る、蛍光マーカーまたは酵素活性を含むストレプトアビジン)によって検出され得るビオチン化部分の、ポリペプチドへの付加による。標識したポリペプチドと糖タンパク質を検出する様々な方法が、当該分野において公知であり、使用され得る。
【0052】
本発明のアデノウイルスの死滅の選択性に適用される語句「腫瘍細胞特異的」は、E2F応答性プロモーターに作動可能に連結されるウイルス遺伝子の発現によって死滅させられる腫瘍細胞を意味する。E2Fが正常細胞、特に正常な分裂細胞によって発現されることを考えると、本発明のアデノウイルスは、正常な分裂細胞も死滅させるとしても、腫瘍細胞よりその度合いは少ないことが予測される。
【0053】
本明細書で言及されている「配列相同性」という用語は、2つの核酸配列間で塩基がマッチする割合、または2つのアミノ酸配列間でアミノ酸がマッチする割合を記述する。配列相同性が、例えば50%の百分率として表されているとき、その百分率は、いくつかの他の配列と比較されている配列の長さに対してマッチする割合を意味する。ギャップ(2つの配列のどちらにもある)は、マッチを最大限にするために許容される;15塩基以下のギャップの長さが、通常使われ、6塩基以下が好ましく、2塩基以下がより望ましい。
【0054】
本明細書で使われる「に対応する」という用語は、ポリヌクレオチド配列が、あるポリヌクレオチド参照配列全部または一部に相同性がある(すなわち、同一であって、厳密に進化的な関連はない)か、またはあるポリペプチド配列が、ある参照ポリペプチド配列と同一であることを意味する。それと対比して、「に相補的である」という用語は、相補的な配列が、ある参照ポリヌクレオチド配列の全部または一部と相同性があるという意味するために本明細書で使われ、例として、「TATAC」というヌクレオチド配列は、「TATAC」という参照配列に対応しており、「GTATA」という参照配列と相補的である。
【0055】
以下の用語は、2以上のポリヌクレオチド間の配列関係を記述するために使用される:「参照配列」、「比較ウインドウ」、「配列同一性」、「配列同一性の百分率」、「実質的な同一性」。「参照配列」は、配列の比較のための基本として使用される、定義された配列である;例えば、配列表にある全長のcDNAまたは遺伝子配列の断片が、完全長のcDNAまたは遺伝子配列を構成するように、参照配列は、より大きな配列の部分集合であり得る。一般的に、参照配列は少なくとも20ヌクレオチドの長さがあり、しばしば、少なくとも25ヌクレオチドの長さをいい、多くの場合、少なくとも50ヌクレオチドの長さがある。2つのポリヌクレオチドは、それぞれ(1)2つのポリヌクレオチド間で類似している配列(例えば、完全長のポリヌクレオチド配列の一部)を含み得、(2)さらにこの2つのポリヌクレオチド間で相違する配列を含み得るので、2(以上)のポリヌクレオチド間での比較配列は、代表的には、配列類似性の局所的な領域を同定および比較するための「比較ウインドウ」にわたって2つのポリヌクレオチドの配列を比較することによって実行される。本明細書で用いられ得る「比較ウインドウ」は、ポリヌクレオチド配列が少なくとも20の連続したヌクレオチドの参照配列と比較され得、比較ウインドウ内のポリヌクレオチド配列の一部が、2配列の最適なアラインメンとの参照配列(付加も欠失も含まない)と比較して20%以下の付加または欠失(言い換えると、ギャップ)を含み得る、少なくとも20の連続したヌクレオチド位置の概念的な断片を言及している。比較ウインドウに整列させるための最適な配列アラインメントは、以下によって導かれ得る。Smith and Watermanの局所的な相同性アルゴリズム(1981)Adv.Appl.Math.2:482、および、Needleman and Wunschの相同性アラインメントアルゴリズム(1970)J.Mol.Biol.48:443、および、Pearson and Lipmanの類似性に検索(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.(U.S.A.)85:2444、および、これらのアルゴリズム(the Wisconsin Genetics Software Package Release 7.0,Genetics Computer Group,575 Science Dr.,Madison,WIのGAP、BESTFIT、FASTA、TFASTA)のコンピュータ処理による実行、または、検討、および様々な方法によって行われる最も良いアラインメント(つまり比較ウインドウにより相同性の百分率が最も高いという結果になる)を選択する。「配列同一性」という用語は、比較ウインドウにわたって2つのポリヌクレオチド配列が同一であること(つまり、1ヌクレオチド毎を基に)を意味する。「配列同一性の百分率」という用語は、比較ウインドウにわたって2つの最適に整列された配列を比較し、それは、同一の核酸塩基(つまり、A、T、C、G、U、またはI)が両配列において存在する位置の数を決定して、マッチした位置の数を得、比較ウインドウ(つまり、ウインドウの大きさ)おける位置の全数でマッチした位置の数を割り、その結果に100を掛けて、配列同一性の百分率を得ることによって算出する。この中で使われる「実質的な同一性」という用語は、ポリヌクレオチド配列の特徴を意味する。ここで少なくとも20個のヌクレオチド位置の比較ウインドウにわたって、しばしば少なくとも25〜50個のヌクレオチド位置の比較ウインドウにわたって参照配列と比較した場合、そのポリヌクレオチドは、少なくとも85%の配列同一性をもち、好ましくは少なくとも90〜95%の配列同一性を有し、より通常には、少なくとも99%の配列同一性を有する配列を包含し、ここで配列同一性の百分率は、比較ウインドウにわたって、参照配列の20%以下占める欠失または付加を含み得るポリヌクレオチド配列と、参照配列とを比較することによって算出される。参照配列は、より大きな配列の部分集合であり得る。
【0056】
本発明の好ましい実施形態は、ヒトE2Fプロモーターの組み込みであるが、「実質的な同一性」であるプロモーターが、E2F応答性プロモーターの定義内に入ることを意味することに注意することは重要である。
【0057】
本明細書で用いる「実質的に純粋」は、ある目的の種が、優勢に存在する種である(つまり、モル濃度で、この種が、その組成物の中のいかなる他の個々の種よりも大量にある)ことを意味し、好ましくは実質的に精製された画分は、目的の種が存在する全ての高分子量種の中で(モル濃度で)少なくとも約50%を構成する組成物である。一般的に、実質的に純粋な組成物は、その組成物中に存在する全ての高分子種の80%より多く、さらに好ましくは、約85%、90%、95%、そして99%より多くを構成する。もっとも好ましくは、その目的の種は、本質的に均一になる(この組成物が、単一の高分子種から本質的になる)まで精製される(従来の検出法で、その組成物中で夾雑する種を検出できない)。
【0058】
本明細書で使われている「ポリペプチド断片」または「ペプチド断片」という用語は、アミノ末端および/またはカルボキシ末端が欠失しているが、残されたアミノ酸配列が、例えば、完全長のcDNA配列から推測される、天然に存在する配列の中の対応する位置と同一である。断片は、代表的には、8〜10アミノ酸の長さであり、好ましくは、少なくとも10〜20アミノ酸の長さであり、さらに好ましくは、20〜70アミノ酸の長さである。
【0059】
語句「pRb経路」または「pRbシグナル伝達経路」は、pRb/p107、E2F−1/―2/−3、G1サイクリン/cdk複合体を含むpRb活性に影響を与える分子を、少なくとも一部、意味する。現在既知でない分子も、この定義内に入ると認識される。これらの分子は、E2F応答性プロモーターをとおして転写のレベルにおいて少なくとも一部、その生物学的な効果を媒介する。
【0060】
本明細書の他の化学用語は、The McGraw−Hill Dictionary of Chemical Terms(ed.Parker,S.,1985)、McGraw−Hill,San Francisco(これらは、本明細書中に参考として援用される)により例示されるように、当該分野において従来の使用法にしたがって使われる。
【0061】
遺伝子操作によってクローン化された遺伝子からのタンパク質産物は、周知である。例えば、米国特許第4,761,371号(Bellら)の第6欄の3行から第9欄の65行までを参照。以下の考察は、結果的にこの分野の概要として意図され、当該分野の完全な技術水準を反映する意図はない。
【0062】
本開示を考慮すると、化学合成、適切な細胞または細胞株培養物からのmRNAの逆転写産物のスクリーニング、適切な細胞からのゲノムライブラリーのスクリーニング、またはこれらの手順の組み合わせ(以下に図示する)によって、タンパク質をコードするDNAは、本発明のE1Aおよび/またはE4アデノウイルス構築物に挿入され得る。例えば、本発明の1つの実施形態は、プロドラッグ活性酵素をコードする遺伝子(ここでそのような遺伝子は、本発明のアデノウイルスの、複製能に影響を与えない領域に組み込まれる)の発現である。mRNAまたはゲノムDNAのスクリーニングは、既知の遺伝子配列情報から生成されたオリゴヌクレオチドプローブで実行され得る。プローブは、検出可能な基で標識され得る。
【0063】
代案として、遺伝子配列を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)手順によって回収し得る。米国特許第4,683,195号(Mullisら)と同第4,683,202号(Mullis)を参照。
【0064】
ベクターは、複製可能なDNA構造であり、望ましいタンパク質をコードするDNAを増幅し、そして/またはこのタンパク質をコードするDNAを発現するために使用される。発現ベクターは、複製可能なDNA構築物であり、この構築物中で、目的のタンパク質をコードするDNA配列は、適切な宿主の中でタンパク質の発現をもたらし得る適切な制御配列に作動可能に連結される。そのような制御配列の必要性は、選択した宿主と選択した形質転換法に依存して、変わる。一般的に、制御配列は、転写プロモーター、転写を制御する任意のオペレーター配列、適切なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、転写と翻訳の終結を制御する配列が挙げられる。増幅ベクターは、発現制御ドメインを必要としない。必要とされる全ては、宿主の中で複製する能力(この能力は、通常、複製起点によって付与される)および形質転換株の認識を容易にする選択遺伝子である。
【0065】
DNA領域は、それらが互いに機能的に関連しているときに、作動可能に連結される。例えば:プロモーターは、コード配列の転写を制御する場合、その配列に作動可能に連結される;リボソーム結合部位は、翻訳を可能にする位置にある場合、コード配列に作動可能に連結される。一般的に、作動可能に連結されるとは、近接していることを意味し、リーダー配列の場合は、近接して、かつリーディングフレーム内にあることを意味する。内在性のアデノウイルスのE1a領域および/またはE4領域のプロモーター転写ヌクレオチド制御開始部位が除去された場合において、本発明の好ましい実施形態のプロモーターは、腫瘍細胞特異的プロモーターと置換されている。その腫瘍細胞特異的プロモーターは、直接的または間接的に、タンパク質pRb/p107、E2F−1/―2/―3、G1サイクリン/cdk複合体を含むpRbシグナル伝達経路における分子に応答性であるものであり、好ましくは、そのプロモーターは、E2F応答性であり、より好ましくは、そのプロモーターは、ヒトE2F−1である。
【0066】
pRbシグナル伝達経路における分子に応答性であるとは、E2F応答性プロモーターの制御下で、ウイルスの遺伝子の発現によって引き起こされる腫瘍細胞の死滅を意味する。本発明で使用するために適切な宿主細胞としては、原核生物、酵母細胞、または
高等真核細胞が挙げられる。原核生物としては、グラム陰性生物またはグラム陽性生物(例えば、Eschechia coli(E.coli)またはBacilli)が挙げられる。高等真核生物細胞としては、以下に示すように、哺乳動物起源の樹立細胞株が挙げられる。例示的な宿主細胞は、DH5a、Eschechia coli W3110(ATCC番号27,325)、E.coli B、E.coli X1776(ATCC番号31,537)、およびE.coli 294(ATCC番号31,446)が挙げられる。
【0067】
多細胞生物由来の細胞の培養物は、組換えタンパク質合成にとって好ましい宿主である。原則的に、脊椎動物由来の培養物であっても無脊椎動物からの培養物であっても、任意の高等真核生物細胞の培養物が機能し得る。しかし、哺乳動物細胞が好ましい。細胞培養におけるそのような細胞の増殖は、慣用的な手順になっている。Tissue Culture,Academic Press,Kruse and Peterson,editors(1973)を参照。有用な宿主細胞株の例は、VERO細胞、HeLa細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株、FL5.12細胞株、WI138細胞株、BHK細胞株、COS−7細胞株、CV細胞株、およびMDCK細胞株である。そのような細胞に対する発現ベクターは普通、複製起点、発現される遺伝子から上流に位置するプロモーター、これとともにリボソーム結合部位、RNAスプライス部位(イントロンを含むゲノムDNAを用いる場合)、ポリアデニル化部位、および転写終結配列を(必要な場合)含む。
【0068】
本明細書で使われている「複製欠損ウイルス」という用語は、ウイルス複製の表現型の発現を支持する所定の細胞集団(例えば、pRbシグナル伝達経路における分子に応答性の腫瘍細胞)において、細胞の増殖を優先的に阻害するか、細胞溶解を引き起こすか、またはアポトーシスを誘導し(まとめて死滅と考えられる)、かつ複製も形質転換もしていない細胞では、細胞増殖を阻害することも、細胞溶解を引き起こすことも、アポトーシスを誘導することも実質的にできないウイルスをいう。
【0069】
「RBの機能」という用語は、RB遺伝子にコードされているポリペプチドの基本的に標準な(つまり、組織学的に同じ型の非新生物細胞に対する)レベルを有する性質に言及する。ここでRBポリペプチドは、野生型アデノウイルス2型または5型のE1aタンパク質に結合できる。例えば、RBの不活性(つまり、変異)体の産生または、pRBポリペプチド発現の実質的な減少もしくは完全な喪失、またはpRbレベルをもたらすpRb経路に存在する分枝の内の1以上の改変などによって、RBの機能が失われ得る。代わりに、「RBの機能」は、発現する時期と発現するタンパク質量の点から、E2F応答性のpRb経路感受性プロモーターの制御の下にある遺伝子の標準的な転写活性に言及する。
【0070】
RBの機能は、野生型RBタンパク質をコードするRB対立遺伝子を含む新生物細胞内では実質的に存在しない。例えば、細胞下の異常なプロセッシングもしくはRBの局在化に起因する変異、またはpRB経路にある分子のような、RB座の外側の遺伝的変化は、RBの機能の欠失に起因する。
【0071】
「複製の表現型」という用語は、複製欠損アデノウイルスのようなウイルスに感染した細胞が示す、1以上の、以下のような表現型の特徴に言及する:(1)キャプシドタンパク質のような後期遺伝子産物、または後期発現プロフィールを示す異種遺伝子、またはウイルスの後期遺伝子プロモーターから開始されるRNA転写産物の実質的な発現、(2)ウイルスゲノムの複製、または複製中間体の形成、(3)ウイルスのキャプシドの集合、またはパッケージされたウイルス粒子、(4)感染した細胞における細胞変性効果(CPE)の出現、(5)ウイルスの溶解周期の完了、および(6)機能的な新生物タンパク質をコードする、野生型の複製能のあるDNAウイルスに感染した非新生物細胞における、代表的にRB機能の抑止に付随する、他の表現型の変化。複製の表現型は、上記表現型の特徴を少なくとも1つ含み、好ましくは、その表現型の特徴の1つより多くを含む。
【0072】
「抗新生物の複製欠損ウイルス」という用語は、その細胞の死滅は、同じ組織学的細胞型の、複製しない新生物でない、ウイルスに感染した細胞と比較して、ウイルスに感染した新生物細胞の溶解またはアポトーシスのいずれにせよ、優先的な細胞の死滅によって、ヒトにおける新生物の発生または進行を阻害する機能的特性を有する組換えウイルスに言及するために使用される。
【0073】
本明細書で使用される「新生物細胞」と「新形成」は、相対的に自立的成長を示し、よって細胞増殖の制御の重大な欠失を特徴とする、異常な成長の表現型を示す細胞に言及する。新生物細胞は、活発に複製しているか、または一時的に複製しない休止状態(G1またはG0)の中にあり得る細胞を含む;同様に、新生物細胞は、十分に分化した表現型、ほとんど分化していない表現型の細胞、または両方の型の細胞の混合物を含む。したがって、全ての新生物細胞が、必ずしも、所定の時点で複製している細胞であるわけではない。新生物細胞として定義されるひとまとまりのものは、良性新生物の細胞と悪性(または明白な)新生物の細胞からなる。率直に、新生物細胞はしばしば、腫瘍細胞または癌細胞として言及され、代表的に、組織学的に内胚葉もしくは外肺葉が起源の細胞に由来する場合に癌腫、中胚葉に由来する細胞型に起源があるものが肉腫といわれる。
【0074】
本明細書で使われる「生理学的条件(生理的条件)」とは、完全な哺乳動物細胞または生きている哺乳動物の組織空間もしくは器官における条件に実質的に類似したイオン強度、pH、温度を有する水性の環境をいう。代表的には、生理的条件は、150mM NaCl(または任意にKCl)、pH6.5〜8.1、約20〜45℃の温度を有する水溶液を含む。一般的に、生理的条件は、生物学的高分子が分子間会合するために適切な結合条件である。例えば、150mM NaCl、pH7.4、37℃の生理的条件が一般的に適切である。
【0075】
(発明の実施形態)
アデノウイルスのE1aとE4領域は、ヒトの細胞に効率的、増殖的に感染するために必須である。E1a遺伝子は、増殖的な感染における転写される、最初のウイルス遺伝子である。そしてその転写産物は、いかなる他のウイルス遺伝子産物の作用にも依存しない。しかし、残っているウイルスの初期遺伝子の転写産物は、E1a遺伝子発現を必要とする。E1aプロモーターもまた、E1a遺伝子の発現を制御することに加え、ウイルスDNAの複製開始に必要な部位のみならず、ウイルスゲノムのパッケージングのためのシグナルを組み込む。Schmid,S.I.,and Hearing,P.in Current Topics in Microbiology and Immunology,vol.199:pages67−80(1995)を参照。
【0076】
E1aアデノウイルスベクターに適用される本発明は、CAATボックス、TATAボックス、転写開始部位を含む、基本的なアデノウイルスE1aプロモーターを、腫瘍特異性を示し、好ましくはE2F応答性で、より好ましくはヒトのE2F−1プロモーターである基本的なプロモーターと置換することを含む。したがって、このウイルスは、分子を欠失している(すなわち、このような分子が非機能性である)E2F応答性プロモーターからの転写物を活性化する細胞では抑制される。正常な分裂しない細胞、または静止期の細胞は、転写因子E2FがpRb(すなわち網膜芽細胞腫タンパク質)と結合して、E2FをE2F応答性プロモーターの結合に利用できなくして、このプロモーターを活性化できなくなると、このクラスに入る。それとは対照的に、遊離のE2Fを含む細胞は、E2Fを基本とする転写を支持する。そのような細胞の例は、pRbの機能がなく、増殖性のウイルスの感染を可能にする新生物細胞である。
【0077】
E1aプロモーターに位置するエンハンサー配列、パッケージングシグナル、DNA複製開始部位を保持することは、pRb機能がない新生物細胞内でのアデノウイルス感染が野生型のレベルまで進行することを確証するものである。本質的に、改変されたE1aプロモーターは、実質的な腫瘍特異的死滅を生じる腫瘍特異的転写活性化を与え、正常細胞ではより一層の安全性をさらに与える。
【0078】
内在性E1aプロモーターをE2F応答プロモーターと置換することによって、E1aアデノウイルスベクターを作製することにおいて、アデノウイルス5型のゲノムにおけるヌクレオチド375の上流にある要素は、そのままに保たれる。ヌクレオチドの番号付けは、Schmid,S.I.,and Hearing,P.Current Topics in Microbiology and Immunology,vol.199:pages 67−80(1995)に記載されているとおりである。これは、ウイルスゲノムのパッケージングのために同定された7つ全てのAの繰り返しモチーフを含む(上記、SchmidとHearingの図2を参照)。ヌクレオチド375〜ヌクレオチド536の配列は、BsaAI〜BsrBI制限酵素開始部位によって欠失されるが、E1Aタンパク質の転写開始コドンの23塩基対上流はまだ保持している。E2F応答性プロモーター(好ましくはヒトE2F−1)は、既知の材料と方法を使用して、欠失した内在性のE1aプロモーター配列の代わりに置換されている。E2F−1プロモーターは、実施例1に述べられているとおりに単離され得る。
【0079】
E4領域は、アデノウイルス感染の後期に起こる事象の多くに関係しており、効率的なウイルスDNA複製、後期mRNAの蓄積とタンパク質合成、スプライシング、および宿主細胞のタンパク質合成の遮断に必要である。E4転写ユニットの大部分が欠損したアデノウイルスは、複製が大幅に不完全で、総じて、高い力価に達するには、E4を相補している細胞株で増殖させなければならない。E4プロモーターは、ウイルスゲノムの右末端の近くに位置し、複数のオープンリーディングフレーム(ORF)の転写を支配する。多くの調節要素が、最大限の転写活性を仲介するために重要であるこのプロモーターにおいて特徴づけられた。これらの配列に加え、E4プロモーター領域は、ウイルスDNA複製に必要な調節配列を含む。E4プロモーターの描写とこれらの調節配列の位置は、図2と図3でみることができる。
【0080】
本発明のもう1つの実施形態は、E4の基本的なプロモーターが腫瘍特異性を示すことが実証されたもの(好ましくは、E2F応答性プロモーター、さらに好ましくはヒトE2F−1プロモーター)と置換されたアデノウイルスベクターの作製である。E4発現を駆動するE2F応答性プロモーターが好ましい理由は、E1aプロモーターがE2F応答性プロモーターと置換されたE1aアデノウイルスベクターについて上記に考察したものと同じである。pRbの腫瘍抑制機能は、E2F−1プロモーターなどのようなE2F応答性プロモーターを抑制するその能力と相関する(Adams,P.D.,and W.G.Kaelin,Jr.1995,Cancer Biol.6:99−108;Sellers,W.R.,and W.G.Kaelin.1996.公表された正誤表は、Biochim Biophys Acta 1996 Dec 9;1288(3):E−1,Biochim Biophys Acta.1288:M1−5.Sellers,W.R.,J.W.Rodgers,and W.G.Kaelin,Jr.1995,Proc Natl Acad Sci U S A.92:11544−8で見られる)。ヒトE2F−1プロモーターは、徹底的に特徴付けられ、pRb/p107、E2F−1/―2/―3、G1サイクリン/cdk複合体、およびE1Aを含むpRbシグナル伝達経路に応答することが示された(Johnson,D.G.,K.Ohtani,and J.R.Nevins.1994,Genes Dev.8:1514−25;Neuman,E.,E.K.Flemington,W.R.Sellers,and W.G.Kaelin,Jr.1995,Mol Cell Biol.15:4660;Neuman,E.,W.R.Sellers,J.A.McNeil,J.B.Lawrence,and W.G.Kaelin,Jr.1996,Gene.173:163−9)。全てでなくても、この制御のほとんどがE2F−1プロモーター内に存在する複数のE2F部位の存在に起因していた。それゆえ、この(これらの)改変を有するウイルスは、完全な(野生型の)pRb経路を含む正常な細胞の中で弱毒化されることが予測されるが、pRbの抑制機能が欠損している細胞の中で正常な感染/複製プロフフィールを示す。この変異ウイルスの正常な感染/複製プロフィールを維持するために、本発明者らは、E4プロモーターの遠位の末端に逆末端反復配列(ITR)を保持した。なぜなら、これはウイルスDNA複製に必要な制御配列の全てを含むからである(Hatfield,L.and P.Hearing.1993,J Virol.67:3931−9;Rawlins,D.R.,P.J.Rosenfeld,R.J.Wides,M.D.Challberg,and T.J.Kelly,Jr.1984,Cell.37:309−19;Rosenfeld,P.J.,E.A.O’Neill,R.J.Wides,and T.J.Kelly.1987,Mol Cell Biol.7:875−86;Wides,R.J.,M.D.Challberg,D.R.Rawlins,and T.J.Kelly.1987,Mol Cell Biol.7:864−74)。これにより、このウイルスに感染したpRb経路欠損腫瘍細胞中で、ウイルスが野生型のレベルに達成しやすくなる。
【0081】
本発明において、E4領域を含む本発明のアデノウイルス構築物において、E4プロモーターは、好ましくはウイルスゲノムの右末端の近くに位置し、そしてそれは複数のオープンリーディングフレーム(ORF)の転写を支配する:
【0082】
【表1】

多くの調節要素が、転写活性を媒介するこのプローブにおいて特徴づけられた:
【0083】
【表2】

これらの配列に加え、E4プロモーター領域は、ウイルスのDNA複製に必要とされる要素を含む(Hatfield,L.,and P.Hearing.1993,J Virol.67:3931−9;Rawlins,D.R.,P.J.Rosenfeld,R.J.Wides,M.D.Challberg,and T.J.Kelly,Jr.1984,Cell.37:309−19;Rosenfeld,P.J.,E.A.O‘Neill,R.J.Wides,and T.J.Kelly.1987,Mol Cell Biol.7:875−86;Wides,R.J.,M.D.Challberg,D.R.Rawlins,and T.J.Kelly.1987,Mol Cell Biol.7:864−74)。E4プロモーターの描写とこれらの調節配列の位置は、図1と図2で見ることができる。Jones,C.,and K.A.Lee.Mol Cell Biol.11:4297−305(1991)も参照。これらの考察を考慮して、E4プロモーターシャトルを、2つの新規な制限エンドヌクレアーゼ部位:ヌクレオチド35,576にあるXhoI部位とヌクレオチド35,815にあるSpeI部位を創出することによって設計した(図3参照)。XhoIとSpeIで消化し、ヌクレオチド35,581〜ヌクレオチド35,817を取り除く。これによって、E4の転写に最大限影響を与えることが示された配列の全てを含む、E4転写開始部位に対して塩基−208〜塩基+29を効率的に除去する。とりわけ、これは、プロモーターの活性化に最も重要な効果をもつことが実証されたE4F結合部位の2つの逆反復配列を含む。しかし、ウイルスのDNA複製にとって重要な3つ全てのSp1結合部位、5つのATF結合部位のうちの2つ、NF1とNFIII/Oct−1の両方の結合部位は保持されている。除去されたE4プロモーター要素の多くは、同様な機能を保持する部位(例えば、転写開始部位とTATAボックス)で置換され得るが、E2F応答性プロモーター部位をとおして腫瘍細胞特異性を与えられる。
【0084】
好ましいE2F応答性プロモーターは、ヒトE2F−1プロモーターである。pRb経路に対する応答を媒介するE2F−1プロモーターにおいて重要な調節要素は、インビトロとインビボの両方で位置づけてられている(Johnson,D.G.,K.Ohtani,and J.R.Nevins.1994,Genes Dev.8:1514−25;Neuman,E.,E.K.Flemington,W.R.Sellers,and W.G.Kaelin,Jr.1995,Mol Cell Biol.15:4660;Parr,M.J.,Y.Manome,T.Tanaka,P.Wen,D.W.Kufe,W.G.Kaelin,Jr.,and H.A.Fine.1997,Nat Med.3:1145−9)。したがって、SpeI部位とXhoI部位をその中に組み込んだプライマーを用いてPCRを行い、転写開始部位に対して―218〜+51の塩基対にあるヒトE2F−1プロモーター断片を、本研究者らは単離した。これによって、E4プロモーターシャトル内に存在する同じ部位を作製し、E4プロモーターをE2F−1プロモーターに直接的に置換することが可能となる。このベクターの構造の詳細は、実施例に記述した。
【0085】
本発明の1つの実施形態は、pRbシグナル伝達経路における要素(すなわち、分子)に対して応答するヌクレオチド転写制御配列で、内在性のヌクレオチド転写制御配列を、高速かつ容易に置換することを可能にする、アデノウイルスE1aおよび/またはE4シャトルベクターを記載するものである。ここで、そのような内在性のヌクレオチド転写制御配列は、好ましくは、E1aおよび/またはE4プロモーター配列であり、上述のpRbシグナル伝達経路における要素としては、pRb/p107、E2F転写因子(例えば、E2F−1/E2F−2/E2F−3)およびG1サイクリン/cdk複合体が挙げられる。上記のE1aアデノウイルスベクターまたはE4アデノウイルスベクターは、インタクトな(つまり、野生型である)pRb経路を含む正常な細胞においては弱毒されているが、Rb経路の機能が欠失している細胞(ここで、この機能としては、pRbの抑制機能が挙げられる)では、通常の感染プロファイルが提示されるものと予測される。内在性のE1aおよび/またはE4の配列が置換された、pRbシグナル伝達経路における要素に応答性であるヌクレオチド転写制御配列を有するE1AアデノウイルスベクターまたはE4アデノウイルスベクターのいずれもが、E2F−1プロモーターにおいて自己調節するE2F部位の存在のために、E1A−CR2(保存領域2)ドメインにおける第2の変異を有することが好ましい。これは、E2F要素のpRb媒介性抑制を破壊するE1Aの能力を最小化するのに、望ましい。
【0086】
上記で言及したように、アデノウイルスの腫瘍性タンパク質(oncoprotein)E1aは、pRB/E2F複合体を破壊し、その結果、E2Fを放出することで、E2Fを活性化させる。好ましいE1aおよび/またはE4アデノウイルスシャトルベクター構築物は、pRbに結合しかつE2Fを排除するE1aの領域での変異体である構築物である。したがって、本発明のE1aシャトルベクターおよび/またはE4シャトルベクターを作製するために、本発明の方法および組成物を使用するための、適切なE1a−RBの複製欠損アデノウイルス構築物としては、以下の例が挙げられる、それらに限定されない:(1)効率的なRBの結合に必要であるCR1とCR2ドメインを欠失しているが(アミノ酸2〜150;ヌクレオチド560〜1009の欠失)、そのCR3ドメインを実質的に保持している、アデノウイルス血清5型NT dl1010(Whyte et al.(1989)Cell56:67)、および(2)野生型アデノウイルス中のE1a領域の全てがコードされているヌクレオチド448〜1349に及ぶ領域を欠失した欠損型ウイルスゲノムを含む、アデノウイルス血清5型dl312(Jones N and Shenk T(1979)Proc.Natl.Acad.Sci.(U.S.A.)76:3665)。Ad5 NT dl1010が、好ましいE1a−RBの複製欠損アデノウイルスであり、E.Harlow博士(Massachusetts General Hospital,Boston,MA)から入手可能である。
【0087】
RB(E1a(−))と結合する能力を欠失している、さらなるE1a変異体は、E1a遺伝子領域(代表的には、CR1ドメインおよび/またはCR2ドメイン)に変異を生成し、その変異体E1aポリペプチドをp105またはRBの結合フラグメントと水性結合条件で接触させ、そして、RBに特異的に結合しない変異体E1aポリペプチドを本発明の用途の適切なE1a(−)変異体であると同定することによって、当業者により作製され得る。代替的なアッセイは、300kDaタンパク質および/またはp107タンパク質あるいはそれらの結合フラグメントと、E1aポリペプチドの変異体とを水性結合条件下で接触する工程、ならびに、300kDaタンパク質および/またはp107タンパク質に特異的に結合しない変異体E1aポリペプチドを、E1aおよび/またはE4シャトルベクターを作製する本発明の用途にとって適切な候補E1a(−)変異体であると同定する工程を包含する。代替的な結合アッセイは、Ela(−)変異体タンパク質が転写因子E2Fとの複合体を形成する能力がないこと(またはE1aタンパク質が存在しないこと)あるいは/または生理条件下で、RB:E2F複合体からRBタンパク質を解離させる能力を欠失することを決定する工程を包含する。(Chellappan et al.1991,Cell,Jun14;65(6):1053−61)。
【0088】
あるいは、E1a依存的転写調節配列などに連結した様々なレポーターポリペプチドのE1aの転写によるトランス活性化の欠失などのような、E1a機能を欠失している変異体を決定するための機能性アッセイが使用される。このような不活性する変異は、代表的に、E1a CR1ドメイン(Ad5中のアミノ酸30〜85:ヌクレオチド697〜790位)および/またはCR2ドメイン(Ad5中のアミノ酸120〜139;ヌクレオチド920〜967位)で生じ、これらのCR1ドメインおよびCR2ドメインは、p105RBタンパク質とp107タンパク質との結合に関連する。好ましくは、CR3ドメイン(アミノ酸150〜186の範囲にある)が残っており、短縮型p289Rポリペプチドとして発現し、アデノウイルス初期遺伝子のトランス活性化において機能的である。
【0089】
E2F応答性プロモーターであるヒトE2F−1は、E1a内在性プロモーターおよび/またはE4内在性プロモーターと置き換わる、好ましいプロモーターであるが、pRb経路の要素によって直接的または間接的に活性化される任意のE2F応答性ヌクレオチド配列が、内在性プロモーターを置換するのに十分であることに留意することが重要である。
【0090】
E1aアデノウイルスベクターおよび/またはE4アデノウイルスベクターの構築は、特定の転写ヌクレオチド開始部位を除去することを包含するが、除去または保持されるそのような部位の正確な数は、本発明を制限するように解釈されないことに留意することが重要である。本発明を記載する上で意図されることは、内在性のプロモーターの位置において、E2F応答性プロモーターが、腫瘍細胞を死滅させるE1a遺伝子および/またはE4遺伝子を駆動するように機能することである。このプロセスは、E2F応答性プロモーターに存在する転写開始部位の数またはタイプに従い依存して変化する。
【0091】
上記で言及したように、本発明の別の局面は、異種遺伝子を本発明のアデノウイルスベクターに組み込むことである。そのアデノウイルス複製サイクルには、2つの段階があるつまり、E1、E2、E3、およびE4の4つの転写ユニットが発現される期間である初期、ならびにウイルスのDNA合成の開始の後におこる後期であって、このとき、後期転写産物が主要後期プロモーター(MLP)から主に発現される(Halbert,D.N.,et al.,1985,J Virol.56:250−7を参照)。異種遺伝子の発現の好ましい特徴は、その発現がアデノウイルス複製サイクルの後期に起こることである。本発明のアデノウイルスベクターは、RB機能が実質的に欠如している新生物細胞で複製するので、そのような異種遺伝子は、このような新生物細胞では発現するが、正常細胞では発現しない。したがって、異種遺伝子を伴うこのようなアデノベクターは、抗腫瘍活性を増大させる。この抗腫瘍活性の増大は、部分的には、新生物細胞で複製されるアデノウイルスベクターのためであり、部分的には、アデノウイルス複製の後期の機能としてその異種遺伝子が発現するためである。その結果として、異種遺伝子の後期の発現は、アデノウイルスの感染の新生物細胞特異性に直接的に関連する。
【0092】
本発明のアデノウイルスベクターの驚くべき局面は、ウイルスのE3領域、好ましくはE3B領域に挿入されている異種遺伝子が、感染の後期に発現した遺伝子と同様な発現パターンを示すことであり、すなわち、発現が、ウイルスDNA複製に依存するか、またはウイルスのDNA複製の間に起こるということである。したがって、E3B領域に挿入されている異種遺伝子を有するそのようなウイルスは、異種遺伝子の発現にとって好ましい実施形態であるが、この後期の発現はまた、主要後期プロモーターなどのような、後期遺伝子発現を調節する内在性アデノウイルス遺伝子発現機構の制御下に、異種遺伝子を置くことによって実現され得る。
【0093】
本明細書に記載される発明は、アデノウイルスおよびE2F応答性プロモーターの面から記されるが、本発明は、アデノウイルスに限定されてないことに留意することが重要である。実際、このようなウイルスによる選択的な腫瘍細胞の死滅を与える特定の遺伝子の発現を制御するためにE2F応答性プロモーターが組み入れられ得るように、アデノウイルスと類似のライフサイクルを提示するウイルスの事実上全てに対して応用できることを当業者は認識する。
【0094】
(発明の使用)
上記のように、本発明のアデノウイルスは、pRb経路の機能を改変してしまった疾患を処置するために使用され得る。さらに、本発明のアデノウイルス療法は、従来の化学療法のような抗新生物プロトコール、または他のウイルスと併用され得る。米国特許第5,677,178号を参照のこと。化学療法は、当業者によって周知の方法によって施され、それらの周知の方法としては、全身的に、癌に対して直接注入すること、または適切な徐放性物質を用いるかまたは腫瘍内動脈に灌流させることで癌部位に対して局所化されることによって、施されることが挙げられる。好ましい化学療法薬剤は、シスプラチンであり、好ましい投与量は、処置される癌の特性および慣用的として考慮される他の要因に基づき、当業者によって選択され得る。好ましくは、シスプラチンは、50〜120mg/mの投与量で3〜6時間かけて静脈投与される。さらに、80mg/mの投与量で4時間かけて静脈注射することが望ましい。シスプラチンと併用され投与されることが好ましい第二の化学療法薬剤は、5−フルオロウラシルである。好ましい5−フルオロウラシルの投与量は、5日間に亘って連続して1日当たり800〜1200mg/mである。
【0095】
本発明のアデノウイルスを使用するアデノウイルス治療は、遺伝子治療などのような、他の抗新生物プロトコールと組み合わせられ得る。米国特許第5,648,478号を参照。上記のように、本発明における使用のためのアデノウイルス構築物は、特異的な癌細胞死滅を示す。そのような構築物はまた、チミジンリン酸化酵素、シトシン脱アミノ酵素などを含む、プロドラッグ活性化因子遺伝子を有し、それは、適切なプロドラッグの存在下、本発明のE1aアデノウイルスベクターおよび/またはE4アデノウイルスベクターの抗新生物効果を促進する。米国特許第5,631,236号を参照。
【0096】
本発明のアデノウイルス変異体が、宿主動物でのウイルスの効果を弱める免疫反応を誘発する事象において、アデノウイルス変異体は、ウイルスの効果を最大限にするために、適切な免疫抑制薬剤とともに投与され得る。あるいは、アデノウイルスの外側のコートタンパク質を改変して、免疫原性の低いウイルスを産生することによる種々の方法が存在する。PCT/US98/0503(アデノウイルスの外側のコートであるヘキソンタンパク質の主要な免疫原性成分が、免疫原性を下げるために遺伝子操作され得ることが示される)を参照のこと。ヘキソンタンパク質には通常見られないアミノ酸の配列を、正常なウイルスのヘキソンタンパク質のエピトープの代わりに使用することによって、キメラヘキソンタンパク質を作製することにより、これを行う。そのようなアデノウイルスの構築物は、野生型のウイルスに比べ、免疫原性が低い。
【0097】
本発明のもう1つの局面は、抗新生物活性を有する異種遺伝子を、E1aシャトルベクターおよび/E4シャトルベクター、好ましくはそのウイルスのE1B領域およびE3領域、さらに好ましくはE3B領域、または異種遺伝子が後期発現パターンを示すウイルスの他の領域に組み込むことである。生物学的に活性なペプチドをコードする、そのような異種遺伝子、またはその断片の例としては、免疫調節性タンパク質、および上記のプロドラッグアクチベーター(つまり、シトシン脱アミノ酵素、チミジンリン酸化酵素、米国特許第5,358,866号または同第5,677,178号)をコードするものが挙げられる。前者の例は、インターロイキン2(米国特許第4,738,927号または同第5,641,665号);インターロイキン7(米国特許第4,965,195号または同第5,328,988号);インターロイキン12(米国特許第5,457,038号);腫瘍壊死因子α(米国特許第4,677,063号または同第5,773,582号);インターフェロンガンマ(米国特許第4,727,138号または同第4,762,791号);またはGM−CSF(米国特許第5,393,870号または同第5,391,485号)が挙げられる。さらなる免疫調節性のタンパク質は、マクロファージ炎症性タンパク質をさらに含み、MIP−3(Well,T.N.and Peitsch,MC.J.Leukoc.Biol vol 61(5):pages 545−50,1997)、細胞自殺誘導タンパク質またはアポトーシス誘導タンパク質、BADとBAXが挙げられる。Yang,E.,et al.Cell,vol80,pages 285−291(1995);およびSandeep,R.,et al Cell,vol.91,pages231−241(1997)を参照。単球走化タンパク質(MCP−3アルファ)も使われ得る。異種遺伝子の好ましい実施形態は、正常細胞には毒性がなく、癌に対して毒性があることが好ましいタンパク質をコードする遺伝子に融合されている、細胞膜を横切るタンパク質をコードする遺伝子(VP22またはTAT)からなるキメラ遺伝子である。本発明のアデノウイルスE1A変異体構築物の効率を上げるために、それらは、特定の腫瘍細胞の型への促進された向性を示すために改変され得る。例えば、PCT/US98/04964に示すように、アデノウイルスの外側のコートにあるタンパク質は、正常細胞に比べ腫瘍細胞でより多く存在する受容体と結合する化学薬剤(好ましくは、ポリペプチド)を提示するために、改変され得る。米国特許第5,770,442号および米国特許第5,712,136号も参照。そのポリペプチドは、抗体であり得、好ましくは単鎖抗体である。
【0098】
(アデノウイルス変異体の精製)
アデノウイルスを、超遠心を使用する塩化セシウムによるバンド形成を含む多くの技術によって、慣用的に精製される。しかし、アデノウイルスを大きなスケールで生成するには、塩化セシウム超遠心により容易に得られるものよりさらに多くの収量を得られる方法が望ましく、その方法は1回以上のクロマトグラフの工程を含む。イオン交換クロマトグラフィーを利用する方法が望ましい。例えば、PCT/US97/21504;およびHuygheら Human Gene Therapy,vol.6:1403−1416(1996)を参照。
【0099】
(処方)
アデノウイルス(アデノウイルス変異体を含む)は、患者に対する治療的投与および診断的投与のために処方され得る。治療または予防に使うために、薬理学的に有効な用量のアデノウイルスを含む滅菌組成物を、例えば、新生物状態の処置のために、ヒト患者または獣医学的な非ヒト患者に投与する。一般的に、その組成物は、水性懸濁液中で、約1013〜1015以上のアデノウイルス粒子を含む。薬剤的に受容可能なキャリアまたは賦形剤が、しばしばそのような滅菌組成物において使われる。様々な水溶液が使用され得る。例えば、水、緩衝化した水、0.4%生理食塩水、0.3%グリシンなどである。これらの溶液は無菌であり、一般的に所望されるアデノウイルスベクター以外の特定の物質はない。その組成物は、生理的条件に近づけるために必要とされるような薬学的に受容可能な補助物質(例えば、pHを調整し緩衝する薬剤、毒性を調整する薬剤など(例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなど))を含む。アデノウイルスによる細胞への感染を促進する賦形剤が含まれ得る。
【0100】
本発明のアデノウイルス、またはこのウイルスに含まれるDNAもまた、リポソームまたは免疫リポソームによる送達によって新生物細胞へ送達され得る;そのような送達は、新生物細胞の集団に存在する細胞表面特性(例えば、免疫リポソームのイムノグロブリンに結合する細胞表面タンパク質)に基づき新生物細胞を選択的に標的にする。代表的に、ビリオンを含む水性懸濁液は、リポソームまたは免疫リポソームに包まれる。例えば、アデノウイルスビリオンの懸濁液は、従来の方法により、ミセルの中に包まれて、免疫リポソームが形成され得る(米国特許第5,043,164号、米国特許第4,957,735号、米国特許第4,925,661号;Connor and Huang(1985)J.Cell.Biol.101:582;Lasic DD(1992)Nature355:279;Novel Drug Delivery(ed.Prescott LF and Nimmo WS:Wiley,New York,1989);Reddy et al.(1992)J.Immunol.148:page1585)。固体の癌細胞に存在する癌細胞抗原(例えば、CALLA、CEA)に特異的に結合する抗体を含む免疫リポソームは、細胞を標的にビリオンまたはビリオンDNAを向けるために使われ得る。
【0101】
本発明のアデノウイルスまたはそのカクテルを含む組成物は、新生物の疾患に対する予防的処置および/または治療的処置のために投与されうる。治療の応用において、組成物は、特定の新生物の疾患が既に発症している患者に対して、治癒するために充分な量またはこの状態とその合併症を少なくても部分的に停止させるのに充分な量で投与される。これを遂行するために充分な量とは、「治療上有効な量」または「有効用量」と定義される。この使用に際し、有効な量は、この状態の重篤度、患者の総合的な状況、および投与経路に依存する。
【0102】
予防への応用において、本発明のアデノウイルスまたはそのカクテルを含む組成物は、新生物の疾患の状態に現在置かれていない患者に対して、癌の再発に対する患者の耐性を高め、緩解の時間を長くするために投与される。そのような量は、「予防上有効な量」と定義される。このとき、繰り返すと、正確な量は、患者の健康状態と免疫の総合的なレベルに依存使用する。
【0103】
以下に続く実施例は、本発明の具体的な実施形態およびその種々の用途を示す。それらは、例示の目的で示されているに過ぎず、そして本発明を限定するとは解釈されない。
【実施例】
【0104】
(実施例1)
(E2F−1E4アデノウイルスのベクターの構築)
組換えプラスミドpAd75−100は、Patrick Hearingから入手した。このプラスミドは、pBR322においてウイルスゲノムの右末端の方へ75.9マップユニット(m.u.)にあるEcoRI部位から、100m.u.(BamHIリンカーは、100m.u.に位置する)にあるEcoRI部位とBamHI部位との間に、Ad5dl309断片を含む。このEcoRI〜BamHI断片をLitmus28(New England Biolabs)に直接サブクローニングし、L28:p75−100.dl309を生成した。dl309(Ad5のヌクレオチド30,005からヌクレオチド30,750)において失われている野生型Ad5E3の配列は、L28:p75−100.dl309のNotI〜NdeI断片を、pAD5−SN(米国特許出願第09/347,604号(未公開)に記載されている企業内でもっているベクター)に由来する野生型NotI〜NdeI断片(Ad5ヌクレオチド29,510−ヌクレオチド31,089)と置き換えることにより再構築した。このプラスミドをL28:p75−100.wtとした。プロモーターの往復的利用(promoter shuttle)を発生させるために、わずかに小さいベクターを作製して、変異誘発の鋳型にした。pAD75−100に由来するEcoRV〜BamHI断片(Ad5のヌクレオチド33,758からヌクレオチド33,939)をpKSII+に直接サブクローニングすることによって、pKSII+:p94−100を構築した。ヌクレオチド35,577のXhoI部位とヌクレオチド35,816のSpeI部位とを、Stratagene Quickchange部位指向性変異誘発法を用いて作製した。これらの部位を作製するために使用したオリゴヌクレオチドは以下であった:XhoI
【0105】
【化1】

とその相補鎖、
【0106】
【化2】

およびSpeI
【0107】
【化3】

とその相補鎖
【0108】
【化4】

。このベクターはSpeI制限酵素部位、XhoI制限酵素部位の両方を持ち、pKSII+:E4PSVとした。pKSII+骨格にはSpeIとXhoIの両部位が存在するので、pKSII+:E4PSVのEcoRV〜BamHI断片を、PvuII部位およびBamHI部位を介してpRSET(Invitrogen)にサブクローニングし、pRSET:E4PSVとした。全てのベクターと点変異は、ABI自動シークエンサーの二本鎖配列解析により確認した。
【0109】
ヒトE2F−1プロモーターを、pGL3:E2F−1(−242)とpGL3:E2F−1ΔE2F(−242)から、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により単離した。pGL3:E2F−1(−242)は、転写開始部位に対して−242位までヒト野生型E2F−1プロモーターを含む。pGL3:E2F−1ΔE2F(−242)は、E2F結合部位のパリンドロームが、両方とも不活性化点変異を含むこと以外は、全て同じ配列を含む。PCRで使用したプライマーの配列は、以下のとおりであった:SpeI−E2F1P
【0110】
【化5】

とXhoI−E2F1P
【0111】
【化6】

。鋳型DNA100ngを、Pfu DNAポリメラーゼ(Stratagene)を用いて、以下の条件でPCRを行った:最初の変性が98℃で5分、以下変性が98℃で1分、アニーリング/プライマー伸長が68℃で1分を30サイクル、最後に伸長反応を68℃で5分。そのPCR産物をQiagenのキットで精製し(Qiagen purify)、SpeIとXhoIで消化し、ゲルで精製し、SpeIとXhoIで消化したpRSET:E4PSVにライゲーションした。これらのプロモーターシャトルベクターをE2F1−E4PSVおよびE2F1Δ−E4PSVとし、ヒトE2F1プロモーターの転写開始部位に対して−218から+51までの配列を有する。機能的なウイルスを生成するために使用した最終的なベクターを、E2F1−E4PSVとE2F1Δ―E4PSVの両ベクターからのBstEII〜BamHI断片を、上記と同じ制限酵素で消化したL28:p75−100.dl309とL28:p75−100.wtの両方にサブクローニングすることによって作製した。これらのベクターを、E2F1−E4PSV.309、E2F1−E4PSV.wt、E2F1Δ−E4PSV.309、E2F1Δ−E4PSV.wtとした。全てのベクターを、上で述べたように二本鎖配列解析により確認した。
【0112】
(実施例2)
(E2F1−E4アデノウイルスの構築)
10μgのE2F1−E4PSV.309をEcoRIとBamHIで消化し、子牛腸由来リン酸化酵素で処理し、ゲルで精製した。EcoRIで消化した1μgのdl922/47TP−DNAを、E4領域を駆動する野生型E2F−1プロモーターを含む精製した断片約5μgに、16℃で一晩ライゲーションした。ライゲーションしたものを標準的なリン酸カルシウムトランスフェクション法を用いて293細胞にトランスフェクションした。要約すると、ライゲーションしたDNAを、24μgの鮭精子由来DNAと50μlの2.5M塩化カルシウムと混合し、最終体積が500μlになるように水で調整した。この溶液を、500μlのHepes緩衝生理食塩水(pH7.05)に滴下しながら加えた。25分間静置後、2枚の60mmディッシュ上、10%牛胎児血清(FBS)で補充したDMEMの中で60〜80%のコンフルエンシーまで培養した293細胞に、生成した沈殿物を滴下しながら加えた。16時間後、一層の細胞をリン酸緩衝生理食塩水(カルシウムとマグネシウムは入ってない)で1回洗浄し、その後、2%FBSで補充したDMEM中の1%のシープラークアガロースからなる5mlの寒天を重層した。プラークを単離するまで3〜4日毎に、3〜4mlの上記寒天をディッシュに重層した。
【0113】
(実施例3)
(E2F1−E4ウイルス増殖とその確認)
初代プラークをパスツールピペットで単離し、細胞変性効果が完結するまで、6ウェルディッシュに2%FBSで補充した2mlのDMEMの中で培養した293細胞中で増殖させた。ウイルスを含む上清の10分の1(200μl)をDNA解析のために取っておき、残りを凍結バイアルに入れ−80℃で保存した。DNAは、Qiagenが推奨するとおりQiagenのBlood Kitを用いて分離した。この試料の10分の1を用いて、望んでいる変異の存在を確かめるためにPCRによりスクリーニングした。その際、以下のプライマーを使用した:dl922/47に対して
【0114】
【化7】

および
【0115】
【化8】


E4領域のE2F−1プロモーターに対しては
【0116】
【化9】

および
【0117】
【化10】

。PCRを、ClontechのAdvantage cDNA PCRキットを用い、Perkin Elmer9600機器で遂行した。その際、以下の条件を使用した:最初の変性が98℃で5分、以下変性が98℃で1分、アニーリング/プライマー伸長が68℃で3分を30サイクル、最後のプライマー伸長を68℃で5分。陽性のプラーク(PCRで判定した)を、続いて配列解析により確認した。上記PCR産物をゲルで精製し、その同じプライマーで配列解析した。陽性プラークを、プラーク精製の第二ラウンドに供し、上記のように確認した。ウイルスを293細胞の中で増殖させ、二度の塩化セシウム勾配超遠心により精製した。
【0118】
(実施例4)
(E2F1−E1aおよびE2F1−E1a/E2F1−E4ベクターの構築)
pGL3:E2F−1(−242)およびpGL3:E2F−1ΔE2F(−242)を鋳型として用い、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によりヒトE2F−1プロモーターを単離した。pGL3:E2F−1(−242)は、転写開始部位に対して−242位までヒト野生型E2F1プロモーターを含む。pGL3:E2F−1ΔE2F(−242)は、E2F結合部位のパリンドロームが両方とも不活性化点変異を含むこと以外は、全て同じ配列を含む。PCRで使用したプライマーの配列は以下のとおりであった:BamHI−E2F1P
【0119】
【化11】

およびHindIII−E2F1P
【0120】
【化12】

。鋳型DNA100ngを、Pfu DNAポリメラーゼ(Stratagene)を用いて、以下の条件でPCR増幅を行った:最初の変性が98℃で5分、以下変性を98℃で1分、アニーリング/プライマー伸長が68℃で1分を30サイクル、最後のプライマー伸長が68℃で5分。そのPCR産物は、Qiaquickカラム(Qiagen)で精製し、BamHIとHindIIIで消化し、ゲルで精製した後、BamHIとHindIIIで部分的に(partially)消化したp992/47―SVにライゲーションした(以下参照)。これらのプロモーターシャトルベクターをE2F1wt−922/47.PSVとE2F1Δ−922/47.PSVとした。これらのプロモーターシャトルベクターは、ヒトE2F1プロモーターの転写開始に対して−218から+51までの配列を有する。全てのベクターをABI自動シークエンサーの二本鎖配列解析により確認した。
【0121】
P922/47−SVは、ヌクレオチド922からヌクレオチド947まで欠失しているE1A−CR2をも含むE1Aプロモーターシャトルベクターである。プラスミドP922/47−SVは下記の手順で構築した。まず最初にpSP64(Promega)をHindIIIで消化し、Klenow DNAポリメラーゼで平滑化した後、再びライゲーションし、pSP64DeltaH3を作製した。pXC1(Microbix)に由来する1,737bpのEcoRI〜XbaI断片(Ad5とpBR322 DNAの両方を含む)を、EcoRIとXbaIで消化したpSP64DeltaH3にライゲーションし、pSP64−RI/Xbaを作製した。pSP64−RI/XbaをHindIIIとBamHIで消化し、Klenow DNAポリメラーゼで平滑化した後、再びライゲーションしてPDeltaE1Delta+を作製した。この分子間欠失により、pXC1プラスミドの9529から9875までの配列が取り除かれ、HindIII部位とBamHI部位とClaI部位も同時に取り除くことができた。PDeltaE1DeltaをBsAaIで消化し、HindIIIリンカー(NEB)とライゲーションすることによって、Ad5のヌクレオチド376に新しくHindIII部位を創出して、これをPDeltaE1Delta+Hを作製した。そのプラスミドのAd5のヌクレオチド539に、PCR変異誘発により新しくBamHI部位を創出した。最初に2回のPCR反応を行った。PDeltaE1Delta+Hを鋳型として用い、プライマー:pBR322に由来する5’EcoXC1部位と3’Bam
【0122】
【化13】

と3’Bam
【0123】
【化14】

と共に用い、一方、プラスミドpXC1(Microbix)を鋳型として、プライマー:Bsr−Bam
【0124】
【化15】

と3’E1A.Xba
【0125】
【化16】

と共にPCR反応に用いた。そのPCR産物をアガロースゲルで分離し、Qiagenゲル抽出キットで精製した。次に、2種類のPCR産物を混合し、最も外側のプライマー対である5’EcoXC1と3’E1A.Xbaを使い、再びPCRを行った。その結果生じた約1,400bpのPCR産物をEcoRIとXbaIで消化し、EcoRIとXbaIで消化したPDeltaE1Delta+Hにライゲーションし、PDeltaE1Delta+H+Bを作製した。PDeltaE1Delta+H+BをEcoRIとXbaIで消化し、その1,393bp断片を、EcoRIとXbaIで消化したpXC1(Microbix)へライゲーションすることによってpXC1−SVを構築した。最後に、pCIA−922/47(Peter Whiteから贈与)をPCRのための鋳型として、以下のプライマーと共に使用することによってp922/47−SVを作製した:Bsr−Bam
【0126】
【化17】

と3’E1A.Xba
【0127】
【化18】

。生じたPCR産物はQiagen Qiaquickカラムにより精製し、BamHIとXbaIで消化し、続いてBamHIとXbaIで消化したpXC1−SVへライゲーションした。
【0128】
(実施例5)
(E2F1−E1aおよびE2F1−E1a/E2F1−E4ウイルスの構築)
ONYX−150(E2F1wt−922/47)とONYX−151(E2F1Delta−922/47)は、標準的なリン酸カルシウムトランスフェクション法により10μgのE2F1wt−922/47.PSVまたは10μgのE2F1Delta−922/47.PSVをそれぞれ10μgのpJM17(Microbix)とともに293細胞にコトランスフェクションすることによって作製した。ONYX−411(E2F1wt−922/47+E2F1wt−E4)は以下の手順で作製した。まず10μgのプラスミドE2F1−E4PSV.309(ID−086)をEcoRIとBamHIで消化した。次に、消化したDNAを子牛腸由来脱リン酸化酵素で処理し、ゲルで精製した。次に、E4領域を駆動する野生型E2F−1プロモーターを含む精製した断片5μgにEcoRIで消化した1μgのONYX−150(E2F1wt−922/47)TP−DNAを16℃で一晩ライゲーションした。リン酸カルシウムによるトランスフェクションは下記の方法で行った。まず、DNAと50μlの2.5M塩化カルシウムと混合し、最終体積が500μlになるように調整した。ONYX−411の場合には、トランスフェクションミックスは、24μgの鮭精子由来DNA、さらにライゲーションしたDNAを含んだ。この溶液を、500μlのHepes緩衝生理食塩水(pH7.05)に滴下しながら加えた。25分間静置後、2枚の60mmディッシュ上、10%牛胎児血清(FBS)を補充したDMEMの中で60〜80%のコンフルエンシーまで培養した293細胞に、生成した沈殿物を滴下しながら加えた。16時間後、一層の細胞をリン酸緩衝生理食塩水(カルシウムとマグネシウムは入ってない)で1回洗浄し、その後、2%FBSを補充したDMEMの中の1%のシープラークアガロースからなる5mlの寒天を重層した。プラークを単離するまで、3〜4日毎に3〜4mlの上記寒天をディッシュに重層した。
【0129】
(実施例6)
(E2F1−E1aおよびE2F1−E1a/E2F1−E4ウイルスの増殖と確認)
初代プラークをパスツールピペットで単離し、細胞変性効果が完結するまで、6ウェルディッシュの中で2%FBSを補充した2mlのDMEMの中で培養した293細胞またはA549細胞のどちらかの中で増殖させた。ウイルスを含む上清の10分の1(200μl)をDNA解析のために取っておき、残りを凍結バイアルに入れ−80℃で保存した。DNAは、Qiagenが推奨するとおりQiagenのBlood Kitを用いて分離した。この試料の10分の1を用いて、望んでいる変異の存在を確かめるために、以下のセットのプライマー対を使用してPCRによりスクリーニングした。E1Aを駆動するヒトE2F1プロモーターの存在を、プライマーAd5−left
【0130】
【化19】

とE1Astart.NC
【0131】
【化20】

を用い確認した。E1A内のヌクレオチド922からヌクレオチド947までの欠失の存在を、プライマーAf−7
【0132】
【化21】

とAf−5
【0133】
【化22】

を用い確認した。E4領域全体を駆動するヒトE2F1プロモーターの存在を、プライマーE4.3NCb
【0134】
【化23】

とAd5−3’end
【0135】
【化24】

を用い確認した。E3領域の欠失(dl309)の存在を、プライマーE3.C8
【0136】
【化25】

と3’−E3I
【0137】
【化26】

を用い確認した。PCRを、ClontechのAdvantage cDNA PCRキットを用い、Perkin Elmer9600機器で遂行した。その際、以下の条件を使用した:最初の変性が98℃で5分、以下変性が98℃で1分、アニーリング/プライマー伸長が68℃で3分を30サイクル、最後のプライマー伸長を68℃で5分。陽性のプラーク(PCRで判定した)を、続いて配列解析により確認した。上記PCR産物をゲルで精製し、その同じプライマーで配列解析した。陽性プラークを、293細胞またはA549細胞のどちらかを用いてプラーク精製の第二ラウンドに供し、上記のように厳密に確認した。ウイルスを293細胞の中で増殖させ、2度の塩化セシウム勾配超遠心により精製した。全ての大量調製したウイルスを、上記と同様のPCRと配列解析により確認した。さらに、全ての大量調製したウイルスをHindIIIまたはXhoIのどちらかで消化し、その断片を0.9%アガロースゲルで分離することによって解析し確認した。
【0138】
(実施例7)
(Onyx−443の構築)
図4(A)にONYX−443のゲノム構造を示す。それを以下のように構築した。プラスミドpE3SV+V+B(米国特許出願第09/347,604号に記載され、American Type Culture Collection(Bethesda、MD、USA)への寄託物(ATCC第 )上にある)を、ONYX−443を構築するために使用した。このプラスミドはアデノウイルスのE3領域を含む。まず、pE3SV+V+BをNheIエンドヌクレアーゼで消化し(28532)、そして天然のMunIエンドヌクレアーゼで消化(29355)することによってE3領域から6.7Kとgp19K遺伝子を欠失させ、T4 DNAポリメラーゼで埋め、再びライゲーションすることによって、pE3SV+V+BΔgp19Kプラスミドを創出した。NheI部位とMunI部位は、予めpE3SV+V+Bの中に設計しておいた。
【0139】
次に、E.coliのシトシン脱アミノ酵素遺伝子(CD)(pCD2、ATCC第40999 Bethesda、MD、USA)を、プライマーCD−Cla
【0140】
【化27】

とCD−Swa
【0141】
【化28】

を用いてPCR増幅した。そのPCR産物を精製し、ClaIエンドヌクレアーゼとSwaIエンドヌクレアーゼで消化し、同じくClaIとSwaIで消化したpE3SV+V+BΔgp19Kにライゲーションし、pE3SV+V+BΔgp19K+CD(C/S)を創出した。CDについての細菌の開始コドンであるGTGは、真核生物の開始コドンであるATGと置き換わっていたので、プライマー設計の際に留意すべきである。
【0142】
ウイルスDNAでの相同的組換えを容易にするため、アデノウイルスのさらなる配列をpE3SV+V+BΔgp19K+CD(C/S)の5’領域に付加した。そのプラスミドをSpeIで消化し、NheIエンドヌクレアーゼで(19549)、およびSpeIエンドヌクレアーゼで消化した(27082)pNBから分離した7533bp断片にライゲーションし、pNBΔgp19K−CD(C/S)を作製した。pNBは米国特許出願第09/347,604号に記載されている。NheIとSpeIは互換性のある粘着末端なので、挿入したDNAの方向を制限酵素で消化することにより確認した。
【0143】
最後に、EcoRIで消化したONYX−411由来のウイルス性TP−DNAを利用した相同的組換えによりOnyx−443を産出した(Hermiston TW, et al.In:Wold WSM(ed.)Adenovirus Methods and Protocols.Humana Press:Totowa,NJ,1999,pp11−24)。次に、pNBΔgp19K−CD(C/S)をBamHIで消化し、その消化したプラスミドとTP−DNAを、製造会社(Life Technologies)によって記載されているとおりにLipofectamineを使用してA549細胞にコトランスフェクションした。組換えウイルスONYX−443は3回プラーク精製し、以前に記載された方法(Hawkins LK et al.Gene Therapy 2001;8:1123−1131)を使用してPCR−配列決定により確認した。塩化セシウムで精製したONYX−443ウイルス由来のウイルスDNAに、ONYX−443のE1領域とE3領域全体、さらにE4領域のPCR解析とDNA配列決定により確認した。
【0144】
(実施例8)
(Onyx−443中のシトシン脱アミノ酵素の発現)
インビトロとインビボの両方において、Onyx−443中のCDの発現が存在することを示した。
【0145】
インビトロにおけるCDの発現。
【0146】
本発明者らはまず、培養腫瘍細胞(C33A、H1299、DU145およびLNCap)とヒトの正常な初代細胞(ヒトの肝細胞と静止期にある細い気道の上皮細胞および乳腺の上皮細胞)にONYX−443を感染させ、CDの発現を比較した{(図4(B))}。MOIが1のとき、ONYX−443に感染した癌細胞は、感染24時間後すぐに検出可能なレベルのCDを発現した。CDタンパク質の量は時間と共に増加し、感染72時間後には最大レベルに達した。
【0147】
癌細胞と比較して、ONYX−443に感染した正常な細胞は、感染72時間後までに検出可能なレベルのCDを発現せず、またその発現レベルは、癌細胞の発現レベルより有意に低かった。ヒトの正常な細い気道の上皮細胞と乳腺の上皮細胞の静止期と分裂期で、同様の結果が得られた。ONYX−443を感染させた後のCDの発現パターンは、癌細胞と正常な細胞の中で親ウイルスであるONYX−411が差動的に(differential)複製することと矛盾しなかった。これらの実験で発現したCDは機能的で、インビトロで5−FCを5−FUに変換することができた。
【0148】
免疫ブロット法を、以下に簡単に記したように行った。MOIを1にして培養細胞に感染させた。示された感染して記載した時間の後に、その細胞を、100mM Tris−Cl[pH6.8]、5mM EDTA、1% SDS、5% β―メルカプトエタノール中で溶解した。動物実験用に、癌の試料を瞬間凍結し、液体窒素中で粉末化し、続いて上記の溶解緩衝液に溶解させた。細胞の残骸は遠心して除き、溶解性のタンパク質は、12%の成形済みタンパク質用ゲル(BioWhitaker)で電気泳動し、分画した。電気泳動後、そのタンパク質を電気泳動的にPVDF膜に転写した。その後、ブロットを、1% 粉乳と0.1%Tween−20を含むPBSで希釈した抗体とインキュベートし、ECL(Amersham)で可視化した。抗CD抗体は1:50,000希釈した[Hawkins,L.K.,et al.Gene Ther,8:1123−1131,2001]。ウサギ抗線維抗体(American Qualex)は1:1000に希釈した。
【0149】
インビボにおける、ウイルスの静脈投与後のCDの発現
次に本発明者らは、ヒトの腫瘍を異種移植したヌードマウスに尾静脈を介してONYX−443を静脈注射し、異種移植した腫瘍におけるCDの活性と、肝臓、肺、膵臓などの正常な組織におけるCDの活性を調べた。簡単に記すと、2×10の腫瘍細胞をヌードマウスに皮下注射することで、腫瘍を定着させた。腫瘍の大きさが平均100mmに達したときに、ウイルスを尾静脈注射によって静脈投与した。それぞれの動物に一日当たり2×10pfuのウイルスを5日間連続注射した。例外として、DU145の場合は一日当たり5×10pfuのONYX−443を5日連続で投与した。ウイルス投与の最初の日を、1日目と定義した。動物は示されている時点で屠殺し、それらの腫瘍と正常組織試料を、シトシンからウラシルに変換するアッセイを使ってCD活性を解析した。
【0150】
CDアッセイは、以下に簡単に記すように行った。腫瘍サンプルと肝臓サンプルを瞬間凍結し、液体窒素中で粉末化した。20〜40mgの組織粉末を、20mM Tris−Cl(pH8.0)、0.15M NaCl、1% TritonX−100の中に溶解させ、続いて凍結と融解を3回おこなった。シトシンと5−FC変換アッセイのために、200μgのタンパク質抽出物を[2−14C]シトシンまたは[2−14C]5−フルオロシトシン(1μCi/mmol;Moravek Biochemicals(Brea、CA))と共にインキュベートした。反応は代表的には、37℃で2時間行った。反応産物は薄層クロマトグラフィープレート(VWR)で分離し、オートラジオグラフィーで可視化した。
【0151】
LNCapの異種移植片モデルのデータを図5Aに示す。この研究から2つの知見が得られた。1つ目、腫瘍内にあるCDの活性は、ONYX−443を注射した動物では高く、また長時間持続する。実際、ONYX−443を注射した動物の腫瘍中のCDの活性が、研究期間中ずっと絶えず増加した。この結果は、5−FCを基質として用いてかつ直線的に比例する値域内でアッセイが行われた図5Bに明確に示されている。2つ目、ONYX−443を注射した動物の肝臓内におけるCDの活性は低い(図5A)。ONYX−443を接種した動物の大多数において、肝臓内のCDの活性は検出できなかった。
【0152】
静脈へのウイルスの接種に続くCDの発現を、Hep3B、DU145、C33Aを含む異種移植した他のマウスモデルにおいて評価した。Hep3B腫瘍では、ONYX−443によるCDの発現もまた高かった(図6A)。C33A腫瘍内の発現パターンは、Hep3Bモデルのときと同様であった。DU145腫瘍においては、ONYX−443は、少なくとも24日間、持続して高いレベルのCD活性を示した(図6B)。対照的に、ONYX−443を注射した動物の肝臓ではCD活性が検出されなかった。肺組織と膵臓組織においても、静脈注射に続くCD活性は検出されなかった。
【0153】
まとめると、ONYX−443は、インビボにおいて好ましい異種の発現プロフィールを有し、様々な腫瘍において優れたCD活性レベル、および肝臓と比較してより良好な腫瘍特異性を示している。
【0154】
(CDの活性、CDタンパク質レベルとウイルスの後期遺伝子発現との相関)
本発明者らが検出したCD活性が、CDタンパク質の発現レベルに反映しているか否かを判定するために、CD活性とCDタンパク質レベルの両方を調べられるある代表的な実験により動物の腫瘍試料を解析した。データは、CD酵素活性(シトシンからウラシルへ変換)とCDタンパク質との相関を示す。このことは、そのCD活性アッセイは、CD遺伝子発現レベルを反映することを示している。
【0155】
本発明者らはまた、CD遺伝子の発現がONYX−443の複製に相関しているか、もしそうなら、発現したCDが後期タンパク質なのか判定することができる。2つの実験により、これがその場合であることを確認できた。1つ目、線維は、その発現がウイルスのDNA複製に厳密に依存している後期ウイルスタンパク質であり、アデノウイルスの複製のマーカーとしてよく使われる。したがって、C33A腫瘍を有し、図5Aに書かれているようにONYX−443を静脈から注射したマウスから採取した腫瘍の試料中のアデノウイルス線維の発現を調べる。示されている時点で、腫瘍の試料を取り出し、シトシンからウラシルに変換するアッセイによりCD活性と、免疫ブロット法によりアデノウイルスの線維タンパク質レベルとを解析する。その結果から、CD活性と線維発現とに良い相関があることがわかり、CD発現はウイルスのベクターの複製と直接関連していることがわかる。
【0156】
2つ目に、CDがアデノウイルスの後期タンパク質として発現することを示すために実験を行うことができる。これは、CDの発現に対するaraC(1−B−D−アラビノフラノシルシトシン)の効果を判定することにより行われる。アデノウイルスの後期タンパク質の発現の重要な特徴は、その発現がウイルスのDNA合成に依存していることである。したがって、本物の後期タンパク質の発現を示す実験は、DNA複製のインヒビターであるaraC存在下、発現が起こるのかどうか決めることである。
【0157】
そこで、A549細胞を含む培地に20μg/mlの濃度になるようにaraCを加え得る。A549細胞は、American Type Culture Collectionから入手可能であり、m.o.iを10にしてONYX−443を感染させ、細胞の溶解産物をウェスタンブロットにより解析する。その結果、E3B中のCDは、その発現はDNAの複製に依存しているので、本物の後期タンパク質であることを示す。
【0158】
(実施例9)
(E2F1−E1a/E2F1−E4ウイルスの組換え体)
Onyx−411(E2F1wt−922/47+E2F1wt−E4)は、実施例4と実施例5に記載されているとおりに構築した。ONYX−411のゲノムは、E2F1プロモーターのコピーを2つ含み、それはウイルスのE1A遺伝子とE4遺伝子それぞれの発現を制御する。したがって、これら2つの部位にこのプロモーターを挿入することにより、ONYX−411の相同的組換え体が誘発されると推測される。本発明者らは、2つの生存可能なウイルスがONYX−411の相同的組換えに起因することを観察した。本発明者らは、これら分子内組換え産物をR1、分子間組換え産物をR2と名づけた。そのウイルスのR3体も存在し、詳細は以下で考察する。
【0159】
以下に記載の実験において、ONYX−411骨格に基づいて作製した、ある特定のウイルス構築物を使用した。それらは以下のとおりである:E3領域の中にC.kefyr酵母のシトシン脱アミノ酵素(CD)遺伝子(米国特許仮出願S/N:60/436,707)を含むONYX−451、E3B領域の中にヒトGM−CSF(米国特許第5,393,870号または同第5,391,485号)を含むONYX−452、ヒトTNFアルファ遺伝子(米国特許第4,677,063号または同第5,773,582号)を含むONYX−455。これらのウイルスは、以下のようにpE2F−GBVを用いて作製した。まず、pL28.WT.E2F1P.E4.309(Johnson et al.Cancer Cell.1:325−37.2001に記載)をEcoRIとBamHIで完全に消化した。9kbのウイルス配列を精製し、pGEM−7zf(+)(Promega)のEcoRI〜BamHIの隙間にサブクローニングし、pGEM.dl309.(75−100).WT.E2F1Pを作製した。次に、pE3SV+B+V(Hawkins and Hermiston.Gene Ther.8:1142−1148.2001)をEcoRIとNdeIで完全に消化し、3.8kbのウイルス配列を精製し、このウイルス配列をpGEM.dl309.(75−100).WT.E2F1Pのその対応する断片と置き換えることにより、pE2F−GBVを作製した。この2番目のクローニングの工程で、特有な制限酵素部位を数多く導入し、引き続く外来の導入遺伝子の挿入を容易にした。C.kefyrシトシン脱アミノ酵素、ヒトGM−CSFおよびヒトTNF−αのcDNAを、ClaIとSwaIで消化したpE2F−GBVにクローニングし、それぞれpE2F−yCD、pE2F−GMおよびpE2F−TNFを作製した。pE2F−yCDは野生型gp19Kを含む。pE2F−GMは、NheIとMumIで消化し、Klenowで埋めて、再びライゲーションし、gp19Kを完全に欠失した。mpE2F−TNFは、NheI〜MumIの隙間に挿入することで、gp19Kの代わりに、HSVチミジンリン酸化酵素cDNAを含む。pE2F−yCD、pE2F−GM、pE2F−TNFを、それぞれONYX−451、ONYX−452、ONYX−455を作製するために使用した。要約すると、これらのプラスミドをEcoRIとBamHIで消化し、ウイルス配列を含むその9kb断片を精製し、EcoRIで消化したONYX−411 TP−DNAをA549細胞にコトランスフェクションした。トランスフェクションした細胞を、標準的な栄養素を含むソフトアガーを重層して増殖させた。プラークは、代表的には、感染後6〜10日で現れた。個々のプラークを、正確な組換えウイルスについてスクリーニングした。組換えウイルスを、E1とE3領域全てにおいてPCR解析とDNA配列決定をすることにより確認した。
【0160】
ONYX−411は、逆末端反復配列−パッケージング信号−E2F1プロモーター(ITR−Ψ―P)をその左末端に、逆末端反復配列−E2F1プロモーター(ITR−P)をその右末端に有する。R1では、この配置が逆転している。つまり、ITR−Pがウイルスゲノムの左末端に、ITR−Ψ−Pが右末端に存在する。R2では、ゲノムの両末端にITR−Ψ−Pを有する。これらの構造を図7に示す。この図の中で、ONYX−411はR0とする。
【0161】
PCRとサザンブロット解析に基づき、R1とR2はともに、ONYX−411(R0)の調製物中にそれぞれ存在することが示された。R1は微量に存在し、PCRでのみ検出可能で、R2は全ウイルス集団の20%まで存在する。
【0162】
ONYX−411、R1およびR2の安定性を判定するために実験を行った。R2はOnyx−411と同一なので、R2はR1より安定であると推測した。
【0163】
ONYX−411のE3B領域の中に挿入された異なる導入遺伝子を含むR2ウイルスのいくつかをプラーク精製することによって、このことを証明した。同じウイルスのプラークをいくつか単離した。ONYX−451のR2体は、E3B領域の中に酵母C.kefyrシトシン脱アミノ酵素遺伝子(米国特許仮出願S/N:60/436,707)を含み、一方、ONYX−452のR2体は、E3B領域の中にヒトGM−CSF(米国特許第5,393,870号または同第5,391,485号)を含み、そしてONYX−455のR2体は、E3B領域の中にヒトTNFアルファ遺伝子(米国特許第4,677,063号または同第5,773,582号)を含む。これらR2体の同定は、直接的DNA配列決定により確認した(図8)。混合物の中から純粋なR2体を区別するために、本発明者らは最初の混合物(R0、R1およびR2を含む)を「A」体、精製したR2を「B」体と名づけた。B体は、子孫の増殖、細胞毒性、遺伝子発現パターン、腫瘍細胞対正常細胞の選択性などの点においA体と生物学的に区別不能であることを、本発明者らは示した。これらのデータから、B体は、A体と同じ生物学的活性と腫瘍崩壊性効力を保持することが示唆される。
【0164】
最後に、上記に加え、パッケージング配列の重複、または「A」の反復配列(Schmid and Hearing:J.of Virology,p.3375−3384,vol.71,No.5 1997)が、ウイルスゲノムの左末端に起こった。そのパッケージング配列はAI〜AVIIの7つあると考えられる。ONYX−411とその誘導体(図9の中に、ONYX−4XXとしてまとめて表示した)をインビトロでA549細胞の中で繰り返し継代(8回継代)したときに、それらの配列の重複をサザンブロット解析により示した。その解析は、ONYX−411、ONYX−451、ONYX−452、ONYX−455のそれぞれから2度プラーク精製したウイルスに対して解析を行った。サザンブロット解析を、標準的技術を用いて行った。要約すると、全DNAを細胞の培養上清から抽出し、BamHIまたはXhoIのどちらかで消化し、2%アガロースゲルで分離し、ナイロン膜に転写した。放射性物質で標識したE2F1プロモーター配列をプローブとして、ハイブリダイゼーションを行った。この結果を図9に示す。
【0165】
XhoIで消化したブロットは、A体については、411の単離体(A−1とA−2)、451の単離体(A−1とA−2)において、両方とも3本のバンドが見られることが示される。一番上のバンドは、ウイルスゲノムの左末端にあるE2F1プロモーター配列を表す。下の2本のバンドは、それぞれ右末端にあるR0とR1+R2を表す。451、452、455のB体の2つの単離体であるB−1とB−2については、目で確認できるのは2本のバンドだけである;上のバンドは、ウイルスゲノムの左末端にあるE2F1プロモーター配列を表し、一方、下のバンドは、右末端にあるR2を表す。
【0166】
それに比べ、BamHIのブロット(図9)には、2本のバンドが見られた;上のバンドは、ゲノムの右末端にあるE2F1プロモーターを表し、500bp断片は、ゲノムの左末端にあるE2F1プロモーター配列を表す。さらに、約100〜200bpにある断片が、500bpにある断片より大きいということが重要である。この断片は、継代の後期にしか現れず、5回継代したときに初めて見ることができる。このことは、ONYX−411A−2、451B−1、455B−1および455B−2でもっとも明らかであるが、8回継代したクローンにおいても検出できる。
【0167】
この現象を理解するために、本発明者らは、選択したクローンに対してPCRを実行した。その際、使用したプライマーP3とP5は以下のとおりであった:
P3:
【0168】
【化29】

P5:
【0169】
【化30】

使用したそのDNAの鋳型は、8回継代したウイルスから精製した。PCR産物を2%のアガロースゲルで分離し、エチジウムブロマイド染色により可視化した(図10)。そのPCR産物は、予測外の様々な大きさの断片を多く含んだ。最も多量の断片を単離し(図10の中に矢印で示してある)、配列決定を行った。
【0170】
DNA配列決定により、ウイルスの配列の縦列反復が明らかとなった(図11)。本発明者らが解析した3つのクローンのうち、1つは107bpの挿入(451B−1)、もう1つは202bpの挿入(455B−1)、残りの1つは、115bpの挿入(455B−2)を有した。周到な検査により、3つの重複した配列全てにアデノウイルス5型のパッケージング配列の一部または全部を含まれることが示される。これら重複した配列は、間に隙間がない本来のパッケージング配列に隣接していた。
【0171】
パッケージング配列の重複は、おそらく相同性組換えの結果ではない。なぜなら複数のバンドがPCRによって検出されたからである(図10)。これは、DNA配列決定の結果(図11)により確認した異なる切断点を用いたことを示している。重複したパッケージング配列を有する全てのウイルスは、まとめて本明細書中でR3体といわれる(図1)。
【0172】
上記の結果は以下を支持する:1)R3は、A体およびB体にも由来し得る。A体はR0体を優勢に含み、A体の中のR2体の比率が継代を重ねても変化しないので、R3体はR0体に由来し得る。R3体はまたR2体にも由来し得る。2)もし同じ条件の下、他のアデノウイルス(例えば、野生型アデノウイルスのONYX−015(米国特許第5,677,178号)または、実施例5に記載のONYX−150のような単一のE2F1プロモーターを有するウイルス)を培養したら、パッケージング配列の重複はこれらウイルスにも起こる。3)R3の増殖は、R0体と、R1体またはR2体を超える利点を有する。それは、パッケージングの効率の向上を可能にするさらなるパッケージング配列の結果であり、このことにより、より大きなウイルスゲノムが完全なウイルス粒子に会合することが可能になる。これは、本発明者らが観察したこと、すなわち連続する継代の実験(図9)においてR3体がウイルス集団を素早く支配したことと一致しており、このことはR3が他の種より早く増殖したことを示唆する。したがって、さらにパッケージング配列を付加することによって、ONYXの選択的に複製するアデノウイルスの全体的な腫瘍崩壊活性を改善し、よってこのウイルスがより効率的に複製し伝播することを可能にするのみならず、任意のアデノウイルス産物(複製能のあるアデノウイルス、または複製能のないアデノウイルス、および弱い(gutless)アデノウイルスを含む)の作製も改良する。
【0173】
今や本発明は十分に記載されており、多くの変更および改変が添付した特許請求の範囲の趣旨または範囲から逸脱することなく、本発明に対して行われ得ることが当業者に明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0174】
【図1】図1は、E1a−289Rポリペプチドのドメイン構造を模式的に示す。
【図2】図2は、アデノウイルスE4プロモーターを示す。
【図3】図3は、本発明のE4シャトルベクターとSpeIとXhoIの制限酵素部位の位置(E4プロモーターを、選択したあるプロモーターで置換することを容易にする)を図式的に示す。
【図4】図4(A)は、ONYX−443のゲノム構造を示す。ONYX−443は、ONYX−411のE3B領域に挿入されているCD遺伝子を有する。ONYX−443はまた、gp19Kの完全な欠失を含む。図4(B)は、ONYX−443に感染した細胞の中のインビトロでのCDの発現を示す。ヒト癌細胞株と培養した正常なヒト肝細胞に、MOIを1pfu/細胞で感染させた。示されている時点に、細胞抽出液を調製し、CDタンパク質発現レベルを免疫ブロット法により解析した。
【図5】図5は、ONYX−443を静脈注射した後の、LNCaP異種移植腫瘍と肝臓におけるCD発現を示す。図5(A)。LNCaP異種移植腫瘍を有するヌードマウスに尾静脈注射を介してウイルスを静脈に投与した。それぞれの動物に、1日当たり2×10pfuの投与量を5日間連続注射した。示されている時点で(〜日目、〜d)、動物を屠殺し、腫瘍と肝臓を取り出し、14C−シトシンからウラシルへ変換するアッセイを用いてCDの酵素活性を解析した。ウイルスを投与した最初の日を1日目(Day1)と定義した。C:14C−シトシン、U:14C−ウラシル。それぞれのレーンは、個々の動物を表す。上のパネル:LNCaP異種移植腫瘍のCD活性。下のパネル:それに対応するマウス肝臓のCD活性。それぞれの反応において、全部で50μgのタンパク質を使用した。図5(B)。14C−5−フルオロシトシン(5−FC)から5−フルオロウラシル(5−FU)へ変換するアッセイを用いて、CD活性を定量した。5−FCと5−FUの量は、フォスフォイメージャーにより決定し、5−FUへ変換された投入量の5−FCの百分率をプロットした。
【図6】図6に、ONYX−443を静脈注射した後のHep3B異種移植腫瘍とDU145異種移植腫瘍とそれに対応する肝臓におけるCDの発現を示す。ウイルスの注射と動物試料の解析を、図5(A)に記載したとおりに行った。Hep3Bの研究において、ONYX−443を、5日間連続、1日当たり2×10pfuの量で注射した(図6(A))。DU145の研究においては、ONYX−443を、5日間連続、1日当たり5×10pfuの量で注射した(図6(B))。示されている時点に(〜日目、〜d)、動物を屠殺し、腫瘍と肝臓を取り出し、CDの酵素活性を解析した。それぞれのレーンは、個々の動物を表す。
【図7】図7は、ONYX−4XXのゲノムの変化を示す。ONYX−4XXは、ONYX−411、ONYX−451、ONYX−452、ONYX−455にまとめて言及する。
【図8】図8は、ONYX−4XX R2末端の配列を確認したことを示す。
【図9】図9に連続継代後の、あるONYX−4XXウイルスのサザンブロット解析を示す。
【図10】図10は、ONYX−4XXの新しい種(具体的にはR3)のPCR解析を示す。
【図11】図11に、野生型アデノウイルスとONYX−4XXウイルス、具体的には、ONYX−451(YCD)−1、ONYX−455(TNF)−1、およびONYX−455(TNF)−2におけるAIからAVIIのアデノウイルスパッケージング要素の重複を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス遺伝子の発現を制御する、E2F応答性転写ヌクレオチド調節部位を含む、ウイルスベクター。
【請求項2】
前記ウイルス遺伝子は、最初期遺伝子である、請求項1に記載のウイルスベクター。
【請求項3】
前記ウイルスベクターは、アデノウイルスである、請求項2に記載のウイルスベクター。
【請求項4】
前記転写ヌクレオチド調節部位は、プロモーターである、請求項3に記載のウイルスベクター。
【請求項5】
前記E2F応答性プロモーターは、内在性のアデノウイルスE1aプロモーターと置換されている、請求項4に記載のウイルスベクター。
【請求項6】
前記E2F応答性プロモーターは、内在性のアデノウイルスE4プロモーターと置換されている、請求項4に記載のウイルスベクター。
【請求項7】
Sp1、ATF、NF1、およびNFIII/Oct−1を含む、ウイルスの複製を実質的に容易にするヌクレオチド調節部位を、前記ウイルスベクターがさらに含む、請求項6に記載のウイルスベクター。
【請求項8】
ウイルス遺伝子の発現を制御するウイルス転写ヌクレオチド調節部位を含む、ウイルスベクターであって、ここで該部位は、E2F応答性転写ヌクレオチド調節部位の挿入によって不活性化され、その結果該E2F応答性転写ヌクレオチド調節部位は、ウイルス遺伝子の発現を制御する、ウイルスベクター。
【請求項9】
前記ウイルス遺伝子は、最初期遺伝子である、請求項8に記載のウイルスベクター。
【請求項10】
前記ウイルスベクターは、アデノウイルスである、請求項9に記載のウイルスベクター。
【請求項11】
前記不活性化転写ヌクレオチド調節部位は、プロモーターである、請求項10に記載のウイルスベクター。
【請求項12】
前記不活性化転写ヌクレオチド調節部位は、内在性アデノウイルスE1aプロモーターである、請求項11に記載のウイルスベクター。
【請求項13】
前記不活性化転写ヌクレオチド調節部位は、内在性アデノウイルスE4プロモーターである、請求項11に記載のウイルスベクター。
【請求項14】
前記不活性化転写ヌクレオチド調節部位は、内在性アデノウイルスE1aプロモーターおよびE4プロモーターの両方を含む、請求項11に記載のウイルスベクター。
【請求項15】
E2F応答性である前記転写ヌクレオチド配列は、ヒトE2F−1である、請求項1または請求項8に記載のウイルスベクター。
【請求項16】
腫瘍細胞および正常細胞の集団において、癌細胞を死滅させて、正常細胞は実質的に死滅させないため方法であって、以下:
感染する条件の下、
(1)請求項1または請求項8に記載のウイルスベクター、と(2)該癌細胞および正常細胞を含む細胞集団、とを接触する工程、ならびに前記ウイルスが該細胞集団に感染するために充分な時間を与える工程、を包含する、方法。
【請求項17】
前記ウイルスベクターは、アデノウイルスベクターであって、さらに異種遺伝子を含む、請求項1に記載のウイルスベクター。
【請求項18】
前記異種遺伝子は、前記ウイルスベクターの複製期の間における後期に発現されるアデノウイルスゲノムの領域に挿入される、請求項17に記載のウイルスベクター。
【請求項19】
前記異種遺伝子は、前記ウイルスのE3b領域に挿入される、請求項18に記載のウイルスベクター。
【請求項20】
前記異種遺伝子の発現は、アデノウイルス内在性遺伝子発現機構の制御下にある、請求項19に記載のウイルスベクター。
【請求項21】
治療を必要とする患者の癌を治療するための方法であって、該患者に対して請求項20に記載のウイルスベクターを投与する工程を包含する、方法。
【請求項22】
前記異種遺伝子は、抗ガン活性を有するタンパク質をコードする、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記異種遺伝子は、免疫調節性、プロドラッグ活性化、アポトーシス誘導または走化性からなる生物学的活性を有する群より選択されるタンパク質をコードする、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
アデノウイルスベクターから異種遺伝子を持続的に発現するための方法であって、該方法は、癌細胞と、該アデノウイルスベクターとを接触させる工程を包含し、ここで該アデノウイルスベクターは、該異種遺伝子を該アデノウイルス複製サイクルの間において後期に発現する、方法。
【請求項25】
前記後期異種遺伝子の発現は、アデノウイルス内在性遺伝子発現機構の制御の下におかれる、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記後期異種遺伝子の発現が、アデノウイルスのE3領域の内在性遺伝子発現機構の制御の下におかれる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
アデノウイルス初期遺伝子の発現を調節するヌクレオチド配列であって、該ヌクレオチド配列は、該初期遺伝子の発現を正常に制御する内在性アデノウイルスプロモーターに挿入されるかもしくは置換されたE2F応答性転写ヌクレオチド調節部位を含み、その結果、該内在性アデノウイルスプロモーターは、もはや該アデノウイルス初期遺伝子の発現を制御しない、ヌクレオチド配列。
【請求項28】
1つより多いウイルスパッケージング配列をさらに含む、請求項1に記載のウイルスベクター。
【請求項29】
前記ウイルスベクターは、アデノウイルスベクターである、請求項28に記載のウイルスベクター。
【請求項30】
前記アデノウイルスベクターは、R1体である、請求項29に記載のウイルスベクター。
【請求項31】
前記アデノウイルスベクターは、R2体である、請求項29に記載のウイルスベクター。
【請求項32】
前記アデノウイルスベクターは、R3体である、請求項29に記載のウイルスベクター。
【請求項33】
腫瘍細胞と、請求項28に記載のウイルスベクターとを接触させる工程を包含する、腫瘍細胞を死滅させるための方法。
【請求項34】
1つより多いパッケージング配列を含む、ウイルスベクター。
【請求項35】
前記ウイルスベクターは、アデノウイルスベクターである、請求項34に記載のウイルスベクター。
【請求項36】
腫瘍細胞と、請求項35に記載のアデノウイルスベクターとを接触させる工程を包含する、腫瘍細胞を死滅させるための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2007−522797(P2007−522797A)
【公表日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−543857(P2006−543857)
【出願日】平成16年11月23日(2004.11.23)
【国際出願番号】PCT/US2004/039632
【国際公開番号】WO2005/060515
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(500132889)オニックス ファーマシューティカルズ,インコーポレイティド (5)
【Fターム(参考)】