説明

腫瘍患者の治療における組み換えアデノウイルスP53薬剤の新規な使用

抗腫瘍化学療法および放射線治療によって引き起こされるような特定の毒性副作用に対抗する組み換えアデノウイルスp53。単一の組み換えアデノウイルスp53はまた、ヘモグラムの促進といった生化学的指標、肝機能、腎機能等を含む、腫瘍患者の身体の機能を増強させ、食欲を増大させ精神状態を寛解させるといったように生活の質を改善することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍を患う個人の生活の質を改善し、これらの患者が受ける、化学療法、放射線治療およびその他の種類の腫瘍治療といった腫瘍治療によって生じる副作用を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍は、動物およびヒトにおいて主要な死因である。今日、腫瘍治療の一般的な形態は、手術、放射線治療および化学療法を含む。腫瘍治療の分野の進歩ににもかかわらず、これらの既知の治療法ではそれぞれ重大な副作用が生じる。例えば、手術は患者を傷つけまたは正常な身体の機能を妨害する。化学療法または放射線治療は、吐き気、嘔吐、下痢、光に対する過敏症、脱毛等を含む、急性の衰弱症状の発生を患者に引き起こす可能性がある。これらの細胞毒性化合物によって引き起こされる副作用は、しばしば投与できる頻度および投与量を制限する。
【0003】
これらの副作用の指標は、白血球(WBC)、ヘモグロビン(Hb)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)といった、生化学的および生理学的試験を通して示すことが可能である。これらの試験の結果から、化学療法および放射線治療を受けた患者の生化学的および生理学的パラメーターは、腫瘍治療を受けていない対照患者のパラメーターと比較して低いレベルに達していることが示される。しばしば、腫瘍患者は、化学療法または放射線治療を受けたとき、これらの副作用に非常に苦しむ。ある場合には、患者にとって、これらの副作用による痛みおよび苦痛の方が癌自体のそれよりも大きいものとなる。
【0004】
現在、これらの癌治療の重篤な副作用を低減するために多くの試みが為されている。
【0005】
米国特許第6,479,500号は、抗腫瘍剤によって引き起こされる副作用を低減することができる化学薬品の構造および有効性を記載している。米国特許第5,017,371号は、放射線治療または化学療法に関した毒性副作用の低減におけるインターフェロンの使用を記載している。米国特許第6,462,017号は、チモシンアルファと化学療法の併用による、腫瘍患者における副作用の重症度を低下させる方法を記載している。従って、腫瘍患者の生活の質を改善し、患者が化学療法または放射線治療のどちらかの全過程を耐え得るようにするために、腫瘍治療の副作用を低減する有効なおよび新規な方法を開発する大きな要望が存在する。
【発明の概要】
【0006】
本発明によると、伝統的な腫瘍治療と組み合わせによる有効量の組み換えp53アデノウイルスを投与する方法は、それが化学療法および放射線治療といった伝統的な治療に適用された場合に、腫瘍患者の副作用を有効に低減することが可能である。副作用の軽減は、化学療法または放射線治療を受けるこれらの患者の生活の質を改善するだろう。生物学的、生理学的および生化学的パラメーターの試験結果は、患者における改善を証明することができる。
【0007】
本発明によると、組み換えアデノウイルスp53を投与する方法のみでも、腫瘍患者の生活の質を改善することが可能である。そのような改善の徴候に従い、腫瘍患者に、より良好な食欲、より良好な睡眠、より高いレベルの活力、より少ない痛み、および望ましい体重増加が観察される可能性がある。
【発明の詳細な説明】
【0008】
臨床試験において、頭部および頚部扁平上皮癌、非小細胞癌、肝臓癌、肺癌、甲状腺癌、子宮頚癌等といった様々な癌が、患者に組み換えp53アデノウイルスを投与することによって治癒された。その腫瘍を抑える能力とは独立に、組み換えp53アデノウイルスは、従来の化学療法および放射線治療によって起こる副作用を低減し、および腫瘍患者の生活の質を改善することもできることがわかった。以下に、まず、我々は、組み換えp53アデノウイルスの構築およびその臨床応用について記載する。実施例において選択された組み換えp53アデノウイルスは、ゲンディシン(Gendicine)という商品名で商業的に入手可能な製品である。
【0009】
1. p53および癌におけるp53変異
p53は現在、腫瘍抑制遺伝子として認識されている(Montenarh, M., 1992)。化学的発癌、紫外線照射、およびSV40(シミアンウイルス40)を含む様々なウイルスによって癌化した(transformed)多くの細胞において、発現量が高くなっていることがわかった。p53遺伝子は、幅広いヒトの腫瘍において、頻繁に変異による不活性化の標的となっており、既に現在までに、ヒト腫瘍において最も頻繁に変異の入った遺伝子であると記述されている(Mercer, 1992)。p53の変異は、50%を超える非小細胞肺癌(non-small cell lung cancer)において起こっている(hollestein et al., 1991)。
【0010】
p53遺伝子は、ラージT抗原およびE1Bタンパク質に結合し得る393アミノ酸残基リン酸化タンパク質をコードする。p53タンパク質の発現は、正常な組織および細胞においてみられるが、その発現量は、癌化した細胞または腫瘍細胞におけるその量よりも低い。興味深いことに、野生型p53は、細胞の増殖および分裂の調節において重要な役割を果たす。野生型p53の過剰発現は、ある腫瘍細胞株において抗増殖作用を示した。それゆえ、p53は、細胞増殖において負の調節因子として機能することができ(Weinberg, 1991)、非調節的な細胞増殖を直接抑制する可能性があり、または下流の標的遺伝子を活性化することで間接的に非調節的な増殖を阻害する可能性がある。従って、野生型p53の欠損または不活性化は、持続的な癌化に寄与する可能性がある。しかしながら、ある研究では、変異型p53の存在が、遺伝子の癌化能力の十分な発現のために必要である可能性があることが示されている。
【0011】
野生型p53は、その遺伝的および生化学的特性の役割のために、多くの細胞において非常に重要な増殖制御因子として認識されている。ミスセンス変異はp53に共通しており、癌遺伝子の癌化能力に必須である。点変異によって促される単一の遺伝的変化により、発癌性p53が生じる。しかしながら、その他の癌遺伝子と異なり、p53点変異は少なくとも30の異なるコドンで生じることが知られており、その変異は優性の変異であり、ホモ接合体の変異まで蓄積することなく細胞の表現型の変化を生じさせることができる。加えて、これらの優性負対立遺伝子(dominant negative alleles)は、生物体にて許容され、生殖系列において伝えられる。p53の様々な変異対立遺伝子にて、最小限に機能障害性のものから優性のものまで、機能的な変化が発見されている(Weinberg, 1991)。
【0012】
Caseyおよびその学生らは、野生型p53をコードするDNAを2つのヒト乳癌細胞株に形質移入すると、そのような細胞の増殖抑制調節が回復することを報告している(Casey et al., 1991)。同様の効果がまた、ヒト肺癌細胞株に、野生型p53を形質移入した場合に実証されたが、変異型p53を形質移入した場合には見られなかった(Takahashi, et al., 1992)。野生型p53は、変異遺伝子に対して優性であり、変異型p53遺伝子を有する細胞に形質移入された場合に、細胞増殖を特異的に阻害するだろう。形質移入された野生型p53の正常な発現は、内因性のp53が存在する細胞において観察され、そのような細胞の増殖に影響を与えない。従って、本発明によるそのような構築物(constructs)は、悪影響を生じることなく正常な細胞に取り込まれる可能性がある。
【0013】
従って、野生型p53を用いてp53変異に関係する腫瘍を治療し、悪性細胞の数を減らすことが可能である。しかしながら、上述した研究では、全くそのような目的を達成できていない。というのは、DNAの形質移入は、患者の腫瘍細胞にin vivoでDNAを導入するために使用することができないというのが少なくとも1つの理由である。
【0014】
2. 遺伝子治療法
現在までに、遺伝子治療のために提案されている実験的方法が幾つか存在するが、それぞれ特別な欠点があることが示されている(Mulligan, 1993)。上述した基本的形質移入法において、興味ある遺伝子を含むDNA断片は、非生物学的に、例えば物理的または化学的に細胞膜を透過化処理させることによって細胞に導入される。従って、この方法は、一時的に体内から取り出すことが可能で治療による細胞障害に耐え得るリンパ球といった細胞の治療に限られている。リポソームまたは特定の脂質が融合したタンパク質および両染性(amphophilic)ペプチドが形質移入に使用することが可能であるが、遺伝子組込みの効率は、それでもなお非常に低く、1,000から100,000細胞に1回組込みが生じる程度であり、形質移入した遺伝子の発現は、しばしば増殖している細胞では数日間または増殖していない細胞では数週間に限られる。それゆえ、DNAの形質移入は明らかに腫瘍治療のための方法には適してない。
【0015】
第2の方法は、細胞に入るウイルスの自然の能力を利用しており、それ自身の遺伝的物質の幾つかとともに標的遺伝子を細胞に導入している。レトロウイルスは、その遺伝子を宿主ゲノムDNAに組み込み、大量の外来遺伝子物質を保持し、幅広い範囲の種および細胞種に感染し、ならびに生産およびそのパッケージングを行うためにパッケージング細胞株を使用することが可能であるという能力のために、望ましい遺伝子送達ベクターとみなされてきた。しかしながら、3つの主な問題が、レトロウイルスの実用性を妨げている。第1に、レトロウイルスの感染性は、標的細胞の表面にあるウイルス受容体の有効性に依存している。第2に、レトロウイルスは複製している細胞にのみ効率的に組み込まれる。そして最後に、レトロウイルスは濃縮および精製することが困難である。
【0016】
3. 遺伝子治療のためのアデノウイルスの構築
ヒトアデノウイルスは、ゲノムサイズが約36 kbの二本鎖DNAウイルスである(Tooza. 1981)。真核生物の遺伝子発現の研究のためのモデルシステムとして、アデノウイルスは広く研究され十分に特徴が調べられており、遺伝子転移システムの開発のための魅力的な候補システムとなっている。ウイルスのこのグループは、容易に増殖し扱うことができ、それらはin vitroおよびin vivoで幅広い宿主範囲を示す。細胞溶解的に感染した細胞において、アデノウイルスは、宿主のタンパク質合成を止め細胞の機構にウイルス性タンパク質の合成を大量に行わせ、およびおびただしい量のウイルスを複製する能力を有す。
【0017】
アデノウイルスゲノムのE1領域は、ウイルスゲノムの転写調節に関するタンパク質をコードするE1AおよびE1B遺伝子、ならびにわずかな宿主細胞の遺伝子を含む。E2領域は、E2AおよびE2B遺伝子を含み、DNA結合タンパク質、DNAポリメラーゼおよび複製のプライマーとしての末端タンパク質(TPタンパク質)といった、そのコードされたタンパク質産物は、ウイルスの複製に関する。E3遺伝子産物は、アデノウイルスが免疫から免れることに関係し、宿主細胞が、キラーT細胞から攻撃されその結果崩壊されることを阻害する。従って、ウイルスの生存およびウイルスの繁殖において重要な役割を持つ。要約すると、様々なEタンパク質(初期タンパク質)の機能は、DNA複製、後期遺伝子発現、および宿主細胞のある機能の停止と関係している。後期遺伝子産物は、大部分のウイルス粒子キャプシドタンパク質を含み、該タンパク質は、アデノウイルスの複製が実質的に完了し、主要な後期プロモーター(major late promoter)(MLP)によって刺激を受けた(primed)後にのみ発現する。MLPは、アデノウイルス感染の後期段階において、高効率で転写を惹起する(Stratford-Perricaudet and Perricaudet. 1991a)。
【0018】
シス作用(cis-acting)(すなわち、複製およびアデノウイルスのパッケージング)において、ウイルスゲノムの小さな部分のみしか必要ではないので(Tooza, 1981)、アデノウイルス由来のベクターは、293細胞で産生される場合、大きなDNA断片が置換するための挿入部分を提供し得る。Ad5-癌化ヒト胚性腎臓293細胞株(Graham, et al., 1977)は、複製およびアデノウイルスベクターのパッケージングのためのトランス作用(trans-acting)要素を提供する能力を有する。それゆえ、そのような特徴から、アデノウイルスはin vivoにおける腫瘍遺伝子治療のための良い候補となっている(Grunhaus and Horwitx, 1992)。
【0019】
外来タンパク質を細胞に送達するためのアデノウイルスシステムの特別な利点は以下を含む:(i) ウイルスDNAの相対的に大きな部分を外来DNAに置換する能力を有すること;(ii) 組み換えアデノウイルスの構造が安定していること;(iii) ヒトへのアデノウイルスの感染が安全であること;および(iv) アデノウイルス感染と、癌または悪性腫瘍との関連性が知られていないこと;(v) アデノウイルスは、高いタイターで産生することができること;および(vi) アデノウイルスは、高い感染力を有していること。
【0020】
レトロウイルスベクターと比較すると、アデノウイルスベクターは、高いレベルの外因性遺伝子発現を示し、アデノウイルス複製は宿主の遺伝子複製と独立している。アデノウイルスのE1領域における癌化された遺伝子は容易に削除でき、外因性遺伝子の効率的な発現に影響はないため、アデノウイルスベクターによる発癌の危険性は無視できると考えられている(Grunhaus & Horwitz, 1992)。
【0021】
一般に、アデノウイルス遺伝転移システムとは、そのゲノムのE1領域の欠失によって複製の機能不全の特徴が与えられるが、なお感染能力は保持するように遺伝子操作された組み換えアデノウイルスである。アデノウイルスゲノムにさらに欠失を施せば、相対的に大きな外来性遺伝子の発現を行うことが可能である。例えば、E1およびE3の両領域を欠失させたアデノウイルスは、10 kbまでの外来性DNAを保持することが可能であり、293細胞にて高いタイターで増殖可能である(Stratford-Perricaudet and Perricaudet, 1991a)。アデノウイルス感染の後に、驚くほど持続的な外来遺伝子の発現も報告されている。
【0022】
アデノウイルスが介在する遺伝子転移は、近年、真核細胞および実験動物への遺伝子転移を介在する方法として評価されてきた。例えば、稀な劣性遺伝的障害であるオルニチンカルバミル転移酵素(OTC)欠損症を患うマウスの治療において、アデノウイルスベクターは、正常なOTC酵素の遺伝子の送達に使用可能であることがわかった。残念ながら、OTCの発現は、17例のうち4例のみでしか達成できなかった(Stratford-Perricaudet et al., 1991b)。それゆえ、欠損は、実験的マウスのほとんどで部分的にしか回復されず、生理学的または表現型の変化は誘導されなかった。これらの結果は確実に、腫瘍治療におけるアデノウイルスベクターの使用をほとんど促進しない。
【0023】
嚢胞性線維症の治療のために、ラットの肺上皮に嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)の遺伝子を形質導入するためのアデノウイルスの使用の研究は、部分的にのみ成功したものの、動物の上皮に移行した遺伝子の生物学的活性を評価することはできなかった(Rosenfeld et al., 1992)。また、これらの研究は、肺の気道細胞におけるCFTRタンパク質の発現が生理学的影響を示さないことを実証した。
【0024】
これらの結果からは、アデノウイルスが、感染した細胞中において生理学的影響を達成するのに十分な外因性発現を誘導することが可能であることを証明できておらず、それゆえ、研究者らは、腫瘍治療におけるアデノウイルスシステムの使用を提案していない。さらに、本発明に先立って、p53は、パッケージング細胞に対するその毒性のために、組み換えアデノウイルスの産生に使用されるパッケージング細胞への取り込みが不可能であると一般に考えられていた。アデノウイルスの初期発現タンパク質E1Bはp53タンパク質に結合するため、アデノウイルスベクターとp53遺伝子とが併用できないという、さらなる技術的理由が存在すると考えられていた。
【0025】
4. Ad-p53の構築および腫瘍抑制
本発明は、腫瘍遺伝子治療のための、新規なおよびより効率的な腫瘍抑制因子およびベクターを提供する。この組み換えウイルスは、アデノウイルスベクターの利点、例えば高いタイター、幅広い標的範囲、効率的な形質導入、おおよび標的細胞に組み込まれない点などを利用する。特に、本発明は、ラウス肉腫ウイルスプロモーターの制御下、野生型p53(Ad5RSV-p53)を発現する、複製不能で、ヘルパーウイルスに非依存的なアデノウイルスを提供する。
【0026】
哺乳動物細胞における外来遺伝子の発現が必要な場合、発現ベクター上の制御機能が、ウイルスからしばしば提供される。例えば、一般に使用されるプロモーターは、ポリオーマ、アデノウイルス2およびシミアンウイルス40(SV40)由来である。SV40ウイルスの初期および後期プロモーターは、ともに、SV40ウイルスの複製開始点も含むウイルスの断片から容易に得ることができるため、特に有用である。より小さなまたはより大きなSV40断片はまた、複製開始点に位置するHindIIIサイトからBglIサイトへと伸びる約250 bpの配列を含む場合は使用してもよい。この250 bpの配列は、必要に応じて、保持しても欠失させてもよい。さらに、プロモーターまたは選択された標的遺伝子に正常に関係する制御配列は、そのような制御配列が宿主細胞のシステムに適合性である限り、使用することが可能でありおよびしばしば望ましい。
【0027】
複製開始点は、SV40またはその他のソース(例えば、ポリオーマ、アデノウイルス、疱疹口内炎ウイルスVSV、ウシ乳頭腫ウイルスBPV)を由来とする外因性開始点から提供されてよく、または、宿主細胞の染色体複製機構から提供されてよい。ベクターが宿主細胞の染色体に組み込まれた場合、しばしば後者で十分である。
【0028】
組み換えp53アデノウイルスの設計および構築は図1に例示される。これと関連して、改善されたプロトコルが、そのような組み換えアデノウイルスの構築および同定を行うために開発された。同定後、p53組み換えアデノウイルスは、PCR分析によって構造的に確認された。単離され構造的に確認されたあと、p53アデノウイルスは、相同的なp53遺伝子をノックアウトしたヒト喉頭癌Hep2細胞および非小型肺癌H1299細胞を感染させるのに用いられた。ウエスタンブロットの結果は、外来性のp53タンパク質が高レベルで発現していることを示した。
【0029】
本願に開示される研究は、p53組み換えアデノウイルスが腫瘍抑制の特性を有することを示す。そして、それは、腫瘍細胞でp53タンパク質の機能を回復させることを原因とするようである。これらの結果は、腫瘍治療のための治療薬としてのAd5RSV-p53ビリオンの使用を支持する可能性がある。
【0030】
新しい遺伝子移入システムとしての組み換えアデノウイルスは、遺伝子治療とワクチンの開発において多くの潜在的な応用法を有している。組み換えアデノウイルスの増殖は、それゆえ、重要な分子生物学的ツールである。組み換えアデノウイルスを増殖させる既存の方法は、リン酸カルシウム沈殿および続く形質移入された細胞におけるプラク分析による293の細胞の形質移入を含む。この方法と関連する形質移入効率は、改善する必要があり、その手順は単純化する必要がある。
【0031】
5.化学療法と放射線治療に起因する副作用の回復のための改善されたプロトコル
腫瘍の治療は、この20年にわたって、重要な研究および開発における苦労の中心であった。腫瘍治療のための多くのアプローチが検討された。実際問題として、腫瘍治療は、外科的切除、放射線治療、化学療法、骨髄移植(ある種の血液学的悪性腫瘍、特に急性顆粒球白血病の患者を処置するためのもの)および中国の伝統的な草本医学等を含む多数の処置方法の使用を含む。所定の悪性腫瘍を処置するために利用される特定のプロトコルは、治療する悪性腫瘍の性質、位置および種類に依存する。外科的切除は、なお腫瘍の治療のために最も好ましい方法であり、約60%の腫瘍にとって主要な治療として使用される。しかしながら、外科的切除は、しばしば放射線治療および/または化学療法と併用され治療プロトコル全体が貫徹される。悪性腫瘍が局所化されない場合またはその位置が手術技術による除去または切除の成功の確率を低下させる場合、化学療法と放射線療法がしばしば併用される。
【0032】
化学療法は、ホジキン病、急性リンパ球および顆粒球白血病、精巣癌、非ホジキンリンパ腫等を含むある種の癌を効果的に治療することが示された。その他の腫瘍において、化学療法は、手術に先立って腫瘍の容積を効果的に減少させるのに用いられた。化学療法は、しばしば化学療法剤との併用を必要とする。新たなプロトコルは、医学研究共同体(the medical research community)によって持続的に開発され試験されている。
【0033】
しかしながら、制癌剤は、腫瘍細胞を殺すことに加えて、正常組織にダメージを与え得る薬剤である。投薬量レベルおよび薬剤の投与計画を決定するために行われた広範囲な調査でさえ、化学療法は、薬物毒性のために、不快なおよびおそらく危険な副作用をしばしば引き起こす。放射線治療も、同様な問題を引き起こす。最も共通したそのような副作用は、嘔気、嘔吐、脱毛症およびと骨髄低下(bone marrow depression)である。そのような副作用は通常可逆的であるが、常にそうであるわけではない。ある抗癌剤は、永久に、神経系、心臓、肺、肝臓、腎臓、生殖腺または他の器官にダメージを与える可能性がある。ある化学療法剤は、それ自身発癌性である。放射線療法または化学療法を受ける患者はまた、抗癌療法によって誘導される免疫抑制状態に起因する致命的な感染症を回避するために、同時に予防薬剤または予防処置をとらなければならない
ある治療戦略が、腫瘍に対する放射線治療および化学療法の副作用に対抗するよう開発された。例えば、若干の嘔気の軽減を提供するために投与できる薬剤、感染との戦いを助ける抗生物質の投与または層状気流病棟への居住、および、投与することで血球数および血小板数を増大することができる輸血等である。
【0034】
そのような化学療法剤は、アルキル化剤(alkyleting agents)(例えば、ナイトロジェンマスタード)、代謝拮抗剤(例えば、ピリミジンの類似体)、放射性同位元素(例えば、亜リン酸およびヨウ素)、ホルモン(例えば、エストロゲンと副腎皮質ステロイド)、ミセレイニアス剤(miscellaneous agents)(例えば、ヒドロキシ尿素)、そして、天然物(例えば、パシリタキセル(pacilitaxel)、ビンブラスチンと抗生物質)を含むが、これらに限定されない。前述の化合物が治療薬剤でないにもかかわらず、それらは、悪性腫瘍の抑制、緩和、遅滞および制御に役立つと医学的専門家に広く認識されている。これらの化合物が効果的であることがわかり、一般に抗増殖薬剤として臨床的に使用される一方、抗癌薬としてのそれらの投与と関連した欠陥が十分認められている。アルキル化剤は細胞障害性の作用が特徴的であり、および正常細胞の有糸分裂および増殖を妨げるこれらの薬剤の能力は致命的と成り得る。代謝拮抗剤は、摂食障害、漸進性重量減少、うつ病および昏睡をもたらし得る。代謝拮抗剤の長期投与は、骨髄に深刻な抑制(suppression)をもたらし得る。アルキル化剤および代謝拮抗剤はともに、一般に、免疫系に抑圧的な影響を及ぼす。ビンブラスチンといった天然物の長期投与はまた、骨髄低下をもたらし得る。ヒドロキシ尿素とその他の化学的誘導体は、副腎皮質ステロイドおよびその代謝産物のレベルの急速な減少を誘導し得る。ホルモン化合物または放射性同位元素の投与はまた、免疫系にダメージを負わし、それによって一般的な感染に対する身体の防衛手段を使用不能にするという観点から望ましくない。ほとんどの場合、悪性腫瘍を制御し、遅延させ、または抑制する一方で、同時に患者の免疫機能を刺激し促進する化学療法剤を使用することが好ましい。
【0035】
化学療法剤は、単一もしくは複数回の大用量で与えられてよく、または、より一般に、1日当り1から4回の小用量で与えられ、および数週間または数月へ延長してよい。癌の治療に用いられる多くの細胞障害性の薬剤が存在し、それらの作用の機構は、一般に十分に理解されていない。
【0036】
機構に関わりなく、有用な化学療法剤は、腫瘍と正常組織の細胞を損傷し殺すことが知られている。腫瘍の治療のための化学療法剤の成功した使用は、その重要な正常組織への副作用と比較して、薬剤の腫瘍細胞への特異的な死滅効果に依存する。これらの効果の中でも、造血細胞と白血球の死滅は、感染をもたらし得る。急性および慢性骨髄毒性はまた、腫瘍の治療において化学療法剤の使用を制限する主な要因である。それらはともに、細胞障害性薬剤の致死効果またはこれらの細胞への照射の療法に起因する造血細胞(例えば、多能性幹細胞およびその他の前駆細胞)の数の減少に関連し、そのような効果は、より成熟した髄構成成分の欠乏を引き起こし、フィードバック機構により幹細胞の分化を促進し、そのため幹細胞の量を減少させる(本願にそのまま援用される、米国特許第5,595,973号)。骨髄動力学の刺激剤(Stimulators)および阻害剤は、ダメージおよび回復パターンの誘導において、顕著な役割を担う(Tubiana, et al., Radiothereapy and Oncology, 29: 1, 1993)。
【0037】
化学療法の副作用の予防、または化学療法の副作用に対する保護は、腫瘍患者に対して大きな利益をもたらすだろう。しかしながら、これらの副作用を低減させる多くの努力は成功していない。生命を脅かす副作用に対して、投与の量および計画の変化に努力が集中された。化学療法の開始の前において、様々な組織における正常細胞の数を増大させるため、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球-マクロファージ-CSF (GM-CSF)、上皮細胞成長因子(EGF)、インターロイキン11、エリスロポエチン、トロンボポエチン、巨核球発生および増殖因子(megakaryocyte development and growth factor)、ピクシキン(pixykines)、幹細胞因子、FLT-リガンド、ならびにインターロイキン1、3、6、および7の使用といったその他の選択肢が利用可能になっている(Jimenez and Yunis, Cancer Research, 52: 413-415; 1992参照)。これらの因子による保護の機構は、十分にはわかっていないものの、化学療法前における正常で重要な標的細胞の数の増大に関係があり、化学療法に続く細胞の生存能力の増大には関係がないようである。
【0038】
急性骨髄抑制は、しばしば細胞障害性化学療法の結果として生じ、腫瘍治療において投与量を制限する因子(dose-limiting factor)として十分認識されている(米国特許第5,595,973号)。その他の正常組織に悪影響を及ぼす可能性はあるが、骨髄は特に、化学療法または放射線治療といった抗増殖特異的治療(antiproliferation-specific treatment)に敏感である。ある腫瘍患者にとって、化学療法剤によって引き起こされた造血性の毒性は、しばしば化学療法の投与量増大の機会を制限する。繰り返されるまたは高用量の化学療法のサイクルは、重篤な幹細胞欠乏の原因となる可能性があり、重篤な長期的造血性機能低下および髄の消耗をもたらす可能性がある。
【0039】
本発明において開示される方法は化学療法剤と組み合わせた使用に適している。化学療法剤は、シクロホスファミド、タキソール、5-フルオロウラシル、シスプラチン、メトトレキセート、シトシンアラビノシド、マイトマイシンC、プレドニゾン、ビンデシン、カルバプラチナ(carbaplatinum)、およびビンクリスチンを含むがこれらに限定されないような、あらゆる種類の医薬であってよい。とりわけ、細胞障害性薬剤は、増殖性細胞を破壊する能力のある抗ウイルス性化合物であってもよい。化学療法に使用される細胞障害性薬剤の一般的な議論には、Sathe, M. et al., Cancer Chemotherapeutic Agents: Handbook of Clinical Data (1978)が参照され、これは本願に援用される。
【0040】
本発明の方法はまた、繰り返されるまたは高用量の化学療法または放射線治療の必要がある患者に特に適している。ある腫瘍患者にとって、化学療法剤によって生じる毒性は、しばしば化学療法の投与量増大の機会を制限する。繰り返しのまたは高用量の化学療法のサイクルは、重篤な幹細胞欠乏の原因となり、重篤で長期的な造血性機能低下および髄の消費を引き起こす可能性がある。本発明による方法は、化学療法と組み合わせて使用されたときに、死亡率の低下および血球数の増大を提供する。
【0041】
活性製剤(本願では、組み換えp53アデノウイルスと呼ぶ)は、腫瘍内局所的注射、腹腔内注射、膀胱内注入、気管支内滴注、肝動脈注射および末梢静脈滴注等といった何れかの適した経路によって投与することができる。全ての投与方法が、安全で効率的である。現在の推奨される投与方法は、腫瘍内局所注射である。医薬の範囲において、通常のベクター、アジュバントおよび賦形剤を、局所注射の製剤に使用することが可能である。
【0042】
活性製剤は、固体形態(顆粒剤、粉剤または坐薬等)または液体形態(溶液、懸濁液または乳濁液等)に処方することが可能であり、および様々な溶液に溶解することが可能であるが、無菌的で十分なペプチドを含み、推奨される適用において無害であり、およびこれらの条件において非常に安定であるべきであるが、強酸または強塩基によって分解することが可能である。
【0043】
活性製剤の投与療法は、腫瘍の種類、被験者の年齢、体重、性別、一般的な健康状態、患者の重症度、投与経路および医薬の製剤形態等といった多くの因子に依存する。
【0044】
それぞれ1×107 VPから7×1013 VPの投与量範囲(最大許容用量は決定されていない)の腫瘍内局所注射が最も好ましい。現在、1週間当りそれぞれ1×1012 VPが臨床実験において通常使用される。この投与量は、最小のアゴニストの投与量による最大の治療効果をもたらすのに十分な製剤である。この療法は、治療コストおよび潜在的な毒性副作用を最小化する可能性がある。
【0045】
最も好ましい実施態様において、1週間当り毎回1×1012 VPの投与量の局所注射を、化学療法または放射線治療の72時間前に適用することができる。その他の実施態様において、製剤は、治療の多数の過程に繰り返し適用することができる。患者の血算(白血球、血小板、および好中球)が、次の化学療法に適した(医師により決定される)レベルに回復することが好ましく、次の工程は、その前の工程が完了後すぐに開始されるべきである。
【0046】
活性成分の添加において、医薬組成物はさらに、活性化合物を適用可能な製剤へと加工することを促進する、賦形剤および補助剤(auxiliaries)を含む、適した医薬的に許容可能な担体を含んでよい。製剤の技術における更なる詳細は、Remington's Pharmaceutical Sciences (Maack Publishing Co., Easton, Pa.)の最新版にて参照してよい。
【0047】
以下の実施例は、本発明の更なる記述および説明であるが、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきである。
【実施例】
【0048】
実施例1.ゲンディシン(Gendicine)、組み換えp53アデノウイルス製剤の製法
組み換えp53アデノウイルスを作製し臨床試験に使用した。組み換えアデノウイルスの商品名は、「ゲンディシン」である。ゲンディシンの製法を記述する詳細な方法は、中国特許No.: ZL 02115228.4に開示されており、これは本願にそのまま援用される。
【0049】
ヒト組み換えp53アデノウイルスは図1および2に記載のとおりに構築され作製された。p53遺伝子を含むアデノウイルスベクターおよびシャトルベクターは、ともにE. coliに導入され、そのような組み換えアデノウイルスが選択され陽性の組み換えクローンが得られた。組み換えクローンは293細胞中で増殖され、複数の段階の精製を通して、臨床グレードのヒト組み換えp53アデノウイルスが収集された。図3は、組み換えヒトp53アデノウイルスの構造的安定性の決定の結果を示している。図3における結果は、多くの世代交代後でも、組み換えアデノウイルスは、その安定性を維持していることを示している。図4は、ウエスタンブロッティングであり、ヒト組み換えp53アデノウイルスが、喉頭癌細胞Hep-2、および非小肺癌細胞H1299において、高度に発現し得ることを示している。図5は、組み換えp53アデノウイルスの、Hep-2細胞に対する死滅効果を示している。細胞をトリパンブルーで染色し、青い細胞(死んだ細胞)のパーセンテージを計測し、その結果が図5に示されている。
【0050】
実施例2
材料:組み換えヒトp53アデノウイルス注射剤(ゲンディシン)は、中国シンセンのShenzhen Sibiono Gene Tech社から提供され、バッチ番号は#S010731であり、薬剤は、それぞれの投与ごとに1x1012 VPで充填され、それぞれの投与量は、2ml容量の生理食塩水ボトル(Saline Bottle)に入れられていた。それぞれの箱に1つのbottleが入っていた。
【0051】
臨床試験は、多施設、同時対照(concurrent control)、単一薬剤、非盲検、無作為化臨床試験として設計した。
【0052】
患者の選択方法は以下の通りとした:患者は、臨床試験に関与するための同意書に署名した。病理学的分析によって、患者が確かに頭部および頚部の腫瘍を患っていることを確認した。その後、TNM分類方法に従って腫瘍を分類した。試験に入った患者は、容易に観察可能で薬剤の局所的注入を行いやすい、測定できる腫瘍病変を持っていた。患者の年齢は18歳から70歳にわたり、彼らの平均余命は少なくとも3ヶ月であった。男性および女性の患者の両方を認めてよい。
【0053】
除外基準は以下のように選択した:急性上気道炎(acute upper respiratory infection)を患う患者、またはそのような感染を由来とする非慣習的発熱(uncontrolled fever)の患者は除外した。観察される病変がその他の局所的投与される薬物によって治療されていた場合、その患者も除外した。重篤な心臓、肝臓、肺、または腎臓の疾病、出血の傾向がある患者、妊娠中の女性または母乳で育てている母親の患者もまた除外した。
【0054】
試験の間、患者が以下の基準を満たした場合、試験から離脱させた:試験する医薬の使用に起因する高熱に耐え切れなくなった患者;予期しない毒性副作用の発生が原因で試験を中止しなければならない患者;および個人的理由で試験から離脱する患者。これらの臨床試験は、2001年6月から2003年5月まで、4つの病院で、155人の患者によって続けられた。
【0055】
臨床試験のプロトコルは以下のように設計された:
1.放射線治療を併用した遺伝子治療の群
それぞれ金曜日に、腫瘍内にゲンディシンを1012 VP/個々の注射の投与量で注射した。注射から3日後、放射線治療を患者に施した。照射は、標準的または強度変調3次元等角照射治療法(standard or intensity modulated 3-dimensional conformal radiation therapy method)を用いて、70Gy/35fの用量で約7−8週間行った。5週間経ち40Gyの累積照射となった後、最初のサイクルが完了する。8週間経ち70Gyの累積照射となった後、第2のサイクルが完了する。12週後、治療結果を、CTスキャナーを用いて確認する。WHO固形腫瘍客観的評価基準(WHO solid tumor objective evaluation standards)を用いて、我々は、40Gy、70Gyに相当する点および治療結果の確認の時点の、癌減少率(%)を計測した。治療結果は、完全寛解(CR)、部分寛解(PR)、安定的疾病(SD)、および進行性疾病(PD)に分類する。
【0056】
2.化学療法を併用した遺伝子治療の群
ゲンディシンを、週に1回の投与で、腫瘍の内部に注射した。一連の全治療は8週間であり、8回の注射を行った。化学療法を、ゲンディシン注射の3日後に開始した。80mg/m2のDDP(Cis-Platinum)を最初の日に静脈内注射した。1日目から5日目まで、5-FU(5-フルオロウラシル(Fluororacil))を、500 mg/m2の投与量で、連続的に静脈注射した。
【0057】
3.臨床研究室試験:
患者の定型的な試験を、患者が臨床試験に入って1週間以内に開始し、および臨床試験の開始後、週ごとに行う。試験項目には、身体的検査、KPSスコアリング、完全血液検査、および完全便検査を含んでいた。毎月、血中尿素窒素(BUN)、クレアチニン(Cr)、ASTおよびALT、EKGを含む生化学的試験ならびに胸部X検査を行う。毎週、我々は、これらの試験におけるゲンディシンの毒性の評価および記録のために、抗癌剤の急性および亜急性毒性の評価のためのWHO分類基準を使用した。カテゴリーは、軽度(light)(I)、中程度(medium)(II)、重篤(serious)(III)、および生命の危機(Life-threatening)(IV)である。フェーズI臨床結果の試験結果に従って、体温の変化を特に記録した。
【0058】
4.結果分析、および統計分析
全ての統計分析は、SPSS11.0統計学ソフトウエアを用いて行った。試験は、ITT試験法に従って行った。腫瘍病変のサイズの減少の比較は、T検定を用いて行った。治療的有意性の比較は、ピアソンχ2乗試験を用いて行った。
【0059】
5.血液、尿、便への効果、および肝臓および腎臓の機能への効果
結果を表1に示してある。
【表1】

【0060】
表1の結果は、ゲンディシンの注射前と、ゲンディシン注射の2週間後との比較では、完全血算および血液生化学的試験は、全く正常な範囲にあったことを示している。ゲンディシンの注射の前において、ALT、AST、BUNおよびCr値は正常であり、ゲンディシン注射の2週間後、その値は、わずかに減少したのみである。胸部X線およびEKGは、ゲンディシン注射の前後で変化は示さなかった。
【0061】
実施例3.肝臓癌患者のための化学療法を併用したゲンディシン治療
ヒト組み換えp53アデノウイルス注射(ゲンディシン)を、実施例1に記載の通りに作製した。
【0062】
臨床試験は、多施設、同時対照、単一薬剤、非盲検、無作為化臨床試験として設計した。
【0063】
患者の選択基準は以下のとおりとした:第1に、彼らは、臨床試験に入ることの同意書に署名した。病理学的および組織学的試験で肝臓癌(HCC)を患っていることを確認した。HCCのための評価基準は、通常の悪性腫瘍の診断および治療のための中国基準プロトコルを満たした。腫瘍は、容易に観察され、薬剤注射が局所的に注射可能な、測定できる病変をもっていなければならない。彼らの年齢は18から75の範囲であり、彼らの平均寿命は少なくとも3ヶ月であった。男性および女性の患者の両方を入れてよい。
【0064】
除外基準は以下のようにした:急性上気道炎(acute upper respiratory infection)を患う患者、またはそのような感染を由来とする非慣習的発熱の患者は除外する。観察される病変がその他の局所的投与される薬物によって治療されていた場合、その患者も除外した。重篤な心臓、肝臓、肺、または腎臓の疾病、出血の傾向がある患者、妊娠中の女性または母乳で育てている母親の患者もまた除外した。
【0065】
離脱基準(withdraw criteria)は以下のようにした:試験する医薬の使用に起因する高熱に耐え切れなくなった患者、予期しない毒性副作用の発生が原因で試験を中止しなければならない患者、および個人的理由により途中で試験から離脱する患者は、試験から離脱させた。
【0066】
2004年3月から2004年7月まで、ゲンディシン遺伝子治療および化学療法の併用治療の肝臓癌臨床試験は、35件あった。
【0067】
1).治療的プロトコル:
全体で75人のHCC患者がこの臨床試験に存在し、内51人が男性、24人が女性であった。HCC癌患者は、中程度から末期の段階であった。
【0068】
2つの群を無作為に設定した。
【0069】
40人の患者の第1群に、経カテーテル肝動脈化学塞栓療法(trans-catheter hepatic arterial chemo-embolization)(TACE)を用いて、単純な化学療法を行った。日常的な大腿動脈穿刺(routine femoral artery puncture)を用いて、カテーテルを腹腔動脈または総肝動脈に移植した。その後、上腸間膜動脈または横隔動脈写真(superior mesenteric arterial or phrenic artery photography)を使用し、腫瘍の数、位置、種類、大きさ、供給血管、および動静脈瘻を決定し、それによって肝臓癌のためのその他の供給動脈を同定した。我々は、化学療法を実行するために、ゼラチン海綿状塞栓を使用し総肝動脈に5-フルオロウラシル(5-FU)、アドリアマイシン(ADM)、マイトマイシン(MMC)、シスプラチンとヒドロキシカンプトテシン(Hydroxycamptothecin)(DDP/HCPT)を注射した。その後、我々は、超選択的に腫瘍のための肝動脈の血液供給分岐に導入し、X線のモニタの下、ゆっくりと肝臓に10mgのADMと10-30mlのヨウ素化油(Iodinate Oil)との完全に乳化した混合物を注射した。TACEを4週ごとに注射し、治療効果を2度の注射の後に評価した。
【0070】
35人の患者の第2群には、TACE(GT-TACE)を併用した遺伝子治療を行った。TACEの48-72時間前に、ゲンディシンを、腫瘍における多数の点に対する経皮的な腫瘍内注射を用いたCTの誘導の下に注射した。腫瘍の容積に基づいて、投与量は、それぞれ約1-4x1012 VP、週1回、連続的な3-4回の注射とした。TACE化学療法は、先に述べたように投与した。
【0071】
WHO固形腫瘍客観的評価標準に従って、治療結果は、完全寛解(CR)、部分寛解(PR)、安定的疾病(SD)、および進行性疾病(PD)に分類する
2).日常的標準臨床試験
患者の定型的な試験を、患者が臨床試験に入って1週間以内に開始し、および臨床試験の開始後週ごとに行う。試験項目には、身体的検査、KPS(カルノフスキー成績状態(Karnofsky Performance Status))スコアリング、完全血液検査、および完全便検査を含んでいた。毎月、血中尿素窒素(BUN)、クレアチニン(Cr)、ASTおよびALT、EKGを含む生化学的試験ならびに胸部X検査を行う。毎週、我々は、これらの試験におけるゲンディシンの毒性の評価および記録のために、抗癌剤の急性および亜急性毒性の評価のためのWHO分類基準を使用した。カテゴリーは、軽度(light)(I)、中程度(medium)(II)、重篤(serious)(III)、および生命の危機(Life-threatening)(IV)である。フェーズI臨床結果の試験結果に従って、体温の変化を特に記録した。患者の一般的状態は、KPSの方法論を用いて採点した。
【0072】
3).結果分析および統計分析
全てのデータを、SPSS11.0統計学ソフトウエアを用いて分析した。
【0073】
4).白血球数、病状、およびKPSスコアへの影響
白血球への影響は、表2に示してある。白血球数は、単純なTACE化学療法の対照群において、有意に減少しているようである。2つの群の間の差は、p<0.05で有意であった。
【表2】

【0074】
表3は、患者の病状の改善における結果を示している。表3より、治療の1ヶ月後、GT-TACE群は、病状の劇的な改善を示したことがわかる。2つの群の間の差は、p<0.05で有意であった。
【表3】

【0075】
表4は、KPSスコアに関しての患者の改善を示している。治療後1ヶ月において、GT-TACEの患者の群は、KPSスコアに関して有意な改善を示していることが、表4からわかる。
【表4】

【0076】
この例の結果は化学療法との併用による遺伝子治療(GT-TACE)の群の患者が、患者の腫瘍サイズの低下、症状の促進、白血球数およびKPSスコアの変化において、化学療法のみの対照群と比較して、より良好な改善を示したことを実証している。加えて、患者の食欲および睡眠は、GT-TACE群において大いに改善された。これらの結果は、ヒト組み換えp53アデノウイルス製品(ゲンディシン)が化学療法との併用により肝臓癌を処置するために使用された場合、ゲンディシンが、化学療法のみに起因する副作用を軽減することができ、また、患者の一般的状態および精神的状態を改善させることができることを示す。
【0077】
実施例4:腫瘍患者の生活の質の改善における、ゲンディシン単独の効果
左側の進行性乳癌を患う40歳の女性は、以前に手術を受けていた。外科的アプローチは、乳房切除術と腋窩のリンパ節切開を含む。手術の後、外科的に除去された12のリンパ節の内10が、癌細胞転移性であることがわかった。後に、45Gy/25f/5wの用量レベルの放射線治療と、エルビシン(Erubicin)さらに5-フルオロウラシルを加えたシクロフォスアミド(Ciclofosfamid)の9サイクルの化学療法との組み合わせが、患者に行われた。しかしながら、併用療法の6ヵ月後、転移した腫瘍が、頚椎、胸椎および腰椎を含む多数の脊椎領域で見つかった。タキソテール、ビノラリビン(Vinoralbine)および新規の経口化学療法剤キセロダ(Xeloda)による化学療法の付加的処置が患者に行われた。化学療法の休止期間の間に、患者は、骨安定性を維持するためにゾメタ(Zometa)を使用した。しかし、上記の処置の全ては、望ましい治療効果を達成することができなかった。2004年1月までに、患者は、ALTおよびASTならびに血算のレベルの増大を示した。彼女の体調は悪化し始め、彼女は、体の痛み、疲労、体重減少、精神的低下等を感じ始め、彼女の症状が進んだことを示した。
【0078】
彼女の地元の病院において化学療法および放射線治療によって有効な効果の達成に失敗した後、患者は病院でゲンディシン治療の1処置を受けた。患者は、その後、家に戻りゲンディシンの治療を続け、治療における彼女の経過を報告した。ゲンディシン注射の1ヵ月後、CTおよびMRI試験は、過去6ヵ月進行していた腫瘍が順調な状態であることを示した。患者は、それが有望な徴候であると考えた。「私は、注射の日に非常に疲れを感じた。しかしながら、私は、次の注射の前日には、全く痛みもなく、より良好で活発に感じた。」ゲンディシンの処置から3ヵ月後、MRIスキャンを行い、脂肪変性が胸椎11、12と腰椎3の病変部に見つかったことが示された。その他の転移において、進行は観察されなかった。血液検査の結果は正常であり、ビリルビンのレベルはかなり高かった。彼女は、背痛を感じることなく、良い食欲を呈した。ゲンディシンの処置から5ヵ月後、患者は彼女の家族とともに休暇をとり、少しも不快と感じることはなく、良好な精神状態であった。ゲンディシンの処置後7ヵ月間、MRIスキャンの結果は、胸椎11の腫瘍が消失したことを示し、新たな病変が発見されることなく、その他の病変部に進行が見られないことを示した。胸部X線で観察において、混濁(opacity)は全く観察されなかった。血算は、完全に正常レベルに達した。患者は、痛みを感じず、良い精神状態を呈した。ゲンディシンの処置後9ヵ月間、MRIスキャンの結果は、腫瘍悪化の徴候がないことを示唆した。肺X線の結果は良好であった。血算は、正常レベルに達した。患者は、痛みを感じることなく、以前より良好な自己知覚を呈した。
【0079】
実施例5
60歳の女性は、5cmの直径の腫瘍による浸潤膵癌と診断されて、たった1年の寿命と予告された。彼女は、化学療法に関した副作用に耐えることができないために、彼女は慣例的化学療法を受けないことに決めた。その代わり、彼女は、ゲンディシン処置を受け、ゲンディシンを静脈注射により8週間に20の投与量を注射した。
【0080】
ゲンディシン処置の後、CT スキャンにより、彼女の膵臓の腫瘍は進行せず、彼女の肝臓の小さい損傷が消えたことが確認された。更なる診察の後、病変が安定し、疑わしい損傷は消え、およびリンパ節腫脹が縮小したことが分かった。
【0081】
結論
我々は、組み換えp53アデノウイルスは、腫瘍患者に注射される場合、驚くほど珍しい効果があることを発見した。すなわち、化学療法または放射線治療と併用される場合、それは、放射線治療または化学療法単独で腫瘍を治療することに起因する副作用を軽減することができる。
【0082】
ゲンディシンの注射の後、腫瘍患者、特に末期患者において、患者の一般的症状が有意に改善したために、この発見は重要である。例えば、彼らの心理的状態および精神状態はより良くなり、彼らの食欲は改善した。我々は、この効果は、神経-内分泌-免疫系におけるゲンディシンの全体的な調節のためだと仮定している。従って、ゲンディシンは、患者のさまざまな器官の機能を向上させ、強化し、および全体的に彼らの健康を増進することが可能である。
【0083】
考えられる機構は、以下のとおりである:
ゲンディシンは、遺伝子工学によって作られるウイルス粒子である。それは、身体の神経系、内分泌系および免疫系を刺激し調整することができ、一連の神経因子、ホルモンおよび細胞性因子を作り出す。上の例から見られるように、ゲンディシンで投与後に患者によって経験される1つの現象は、高い体温、言い換えれば発熱である。この現象は、ゲンディシンが、患者の免疫系を活性化させる可能性があると説明することができる。神経-内分泌に免疫系ネットワークの全体的な調節を通して、患者の免疫能力を向上させ、および腫瘍死滅細胞(killing tumor cells)であるNK細胞およびCTL細胞の能力を効果的に増大させ、従って液性免疫と細胞免疫の抗腫瘍効果を改良しているようである。ゲンディシンは、また、患者の生理的機能を調整するよう作用し、それゆえ患者の全体的な健康を増進することができる。
【0084】
前述の発明は、ゲンディシンの治療効果のための新たな発見に関する理解の明快さの目的のため、例証および実施例により、ある程度詳細に記載されたものの、特定の変更および改変が行われることは、当業者にとって明らかである。従って、説明および実施例は、添付の特許請求の範囲によって定義される、発明の範囲を制限するものとして解釈してはならない。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1A】図1は、本発明による組み換えp53アデノウイルスの構築の模式的方法を示している。
【図1B】図1は、本発明による組み換えp53アデノウイルスの構築の模式的方法を示している。
【図2】図2は、組み換えp53アデノウイルスの作製プロトコルのフローチャートを示している。
【図3】図3は、p53DNAテンプレート、およびプライマーとして5’CCACGACGGTGACACGCTTC、5’CAAGCAAGGGTTCAAAGACを使用した、継代した世代の後の組み換えp53アデノウイルス由来のp53遺伝子のPCR増幅産物のアガロースゲル電気泳動の図を示しており、組み換えp53アデノウイルスの安定性が例証されている。1400 bpのDNA断片が、p53遺伝子のPCR増幅後に得られた。レーン1:DNA分子量標準マーカー;レーン2、3、4:p53 cDNAのPCR増幅の結果。
【図4】図4は、36時間前に組み換えp53アデノウイルスを形質移入した細胞を溶解し抽出した、組み換えp53アデノウイルスのウエスタンブロッティングの結果を示している。形質移入した細胞は、ヒト喉頭癌細胞Hep-2、および非小細胞癌細胞H1299である。レーン1:タンパク質分子量標準マーカー;レーン2および3:Hep-2細胞およびH1299細胞のネガティブコントロール、ともにそれぞれ組み換えp53アデノウイルス(Ad-p53)を形質移入していない;レーン4および5:それぞれ組み換えp53アデノウイルス(Ad-p53)を形質移入したHep-2細胞およびH1299細胞。
【図5】図5は、Hep-2細胞における組み換えp53アデノウイルスの死滅効果を実証する曲線を示している。Hep-2細胞を、1ウェルに1x106細胞の密度となるまで6ウェルプレートで培養した。異なる時点で(24、48、72、および96時間)Ad-p53を投与し、100 MOIで細胞に対して形質移入した。細胞をトリパンブルーで染色し、その後青い細胞(死細胞)のパーセンテージを計測した。
【図6】図6は、臨床観察の方法および腫瘍治療における組み換えp53アデノウイルスの効果の評価方法のフローチャートを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗腫瘍化学療法および放射線治療に起因する副作用であり、しかしそれらに限らないような副作用の回復における、治療的有効量の組み換えp53アデノウイルスおよび医薬的に許容可能な賦形剤を含む医薬組成物の使用。
【請求項2】
請求項1に記載の使用であって、前記医薬組成物が、化学療法と同時に投与される使用。
【請求項3】
請求項1に記載の使用であって、前記医薬組成物の単一投与量が、化学療法剤の投与に先立って投与される使用。
【請求項4】
請求項3に記載の使用であって、前記医薬組成物の単一投与量が、化学療法剤の投与の直前の日に投与される使用。
【請求項5】
請求項3に記載の使用であって、前記医薬組成物の単一投与量が、化学療法剤の投与前の3日間の何れかの日に投与される使用。
【請求項6】
請求項1に記載の使用であって、前記医薬組成物の単一投与量が、化学療法剤の投与後に投与される使用。
【請求項7】
請求項6に記載の使用であって、前記医薬組成物の単一投与量が、化学療法剤の投与の直後の日に投与される使用。
【請求項8】
請求項6に記載の使用であって、前記医薬組成物の単一投与量が、化学療法剤の投与後の3日間の何れかの日に投与される使用。
【請求項9】
請求項1に記載の使用であって、前記医薬組成物の単一投与量が、化学療法の治療期間の何れかのときに投与される使用。
【請求項10】
請求項1に記載の使用であって、前記医薬組成物の単一投与量が、放射線治療の日に投与される使用。
【請求項11】
請求項1に記載の使用であって、前記医薬組成物の単一投与量が、放射線治療の前に投与される使用。
【請求項12】
請求項11に記載の使用であって、前記医薬組成物の単一投与量が、放射線治療前の3日間の何れかの日に投与される使用。
【請求項13】
請求項1に記載の使用であって、前記医薬組成物の単一投与量が、放射線治療後に投与される使用。
【請求項14】
請求項13に記載の使用であって、前記医薬組成物の単一投与量が、放射線治療後の3日間の何れかの日に投与される使用。
【請求項15】
請求項1に記載の使用であって、前記医薬組成物の単一投与量が、放射線治療の治療期間の何れかのときに投与される使用。
【請求項16】
請求項1に記載の使用であって、前記副作用が、食欲不振、不眠症、脱力感、吐き気、嘔吐、下痢、光に対する過敏症、および脱毛症の内の1つまたはそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない使用。
【請求項17】
腫瘍患者の生活の質の改善のための薬物の製造における、治療的有効量の組み換えp53アデノウイルスおよび医薬的に許容可能な賦形剤を含む医薬組成物の使用。
【請求項18】
請求項17に記載の使用であって、前記医薬組成物が、単一投与量で投与される使用。
【請求項19】
請求項17に記載の使用であって、前記改善された生活の質の指標が、より良好な食欲、体重増加、より高いレベルの気力、痛みの低下およびより良好な睡眠の内の1つまたはそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない使用。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2008−528522(P2008−528522A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−552486(P2007−552486)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【国際出願番号】PCT/CN2005/000111
【国際公開番号】WO2006/079244
【国際公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(505337261)
【出願人】(505337283)
【Fターム(参考)】