説明

腫瘍細胞の増殖を阻害するための方法

本発明は、白金錯体であるCPA-1、CPA-3、CPA-7、式(I、II、III)を用いてSTAT生物学的機能を阻害するための方法に関する。


【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、米国国立癌研究所助成金番号5 P01 CA78038-03の下で政府の支援を受けて行われた。米国政府は本発明に一定の権利を保有する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、それぞれの開示の全内容物が参照により本明細書に組み入れられる、2003年8月13日に提出された米国特許仮出願第60/481,226号、2003年10月30日に提出された米国特許仮出願第60/515,580号、2003年11月25日に提出された米国特許仮出願第60/525,295号、および2003年11月14日に提出された米国特許仮出願第60/519,943号の恩典を主張する。
【0003】
発明の背景
増殖因子およびサイトカインに対する細胞の反応は、細胞質転写因子のシグナル伝達転写活性化(STAT)ファミリーの活性化を特徴とする(Darnell, 1997;Darnellら、1994;Schindlerら、1995;Starkら、1998;Smithgallら、2000;Akira、2000;Hiranoら、2000;Brombergら、1996;Fukudaら、1996;Kotenkoら、2000)。STATは、増殖因子受容体のタンパク質チロシンキナーゼ、受容体関連ヤーヌスキナーゼ(Jaks)、またはSrcキナーゼファミリーによって誘導されるチロシンリン酸化による伝達経路の非常に初期段階において活性化される。次に、これは二つのSTAT単量体のあいだのホスホチロシン(pTyr)-SH2相互作用および二量体形成を誘導し、これらが核に移動して、特異的DNA反応エレメントに結合して、細胞増殖、分化、発達、および生存にとって必須の遺伝子の発現を調節する。
【0004】
正常なSTAT活性化は、厳密に制御されて短期間であり、外部刺激に対する反応を開始するという正常な細胞の必要条件と一致している。しかし、特異的STATタンパク質、特にStat3およびStat5の持続的な活性化は、いくつかの腫瘍において高頻度で起こり、持続的に活性なStat3は、乳癌、前立腺癌、および頭頚部扁平上皮癌細胞、リンパ腫、ならびに白血病細胞を含む、形質転換細胞および腫瘍細胞の増殖および生存を促進することによって、悪性の形質転換において原因的役割を有する(Brombergら、1999;Turksonら、1998;Brombergら、1998;Catlett-Falconeら、1999a;Garciaら、2001;Grandisら、2000a;Grandisら、1998;Nielsenら、1997;Nielsenら、1999;Epling-Burnetteら、2001;Bowmanら、2000aにおける論評;Turksonら、2000;Songら、2000;Cofferら、2000;Linら、2000;Catlett-Falconeら、1999b;Garciaら、1998)。臨床的に重要であるのは、持続的に活性なStat3を含む悪性細胞または腫瘍全体におけるStat3シグナル伝達を遮断すると、アポトーシスおよび腫瘍の退縮を誘導する点である。
【0005】
シスプラチンのプロトタイプである白金錯体は、精巣癌、卵巣癌、膀胱癌、頭頚部癌、および肺の非小細胞癌を含む様々なヒト腫瘍において、活性な抗癌剤として広く用いられている(Ardizzoniら、1999;Nitiss、2002)。シスプラチンおよび他の白金含有化合物による治療の転帰は、DNAに及ぼすそのアルキル化作用に強く関連している。しかし、細胞のシグナル伝達に及ぼす白金錯体に基づく治療の影響の可能性、およびそのような相互作用の治療的重要性はまだ、研究されていない。シスプラチンが、薬剤誘発性のアポトーシスに影響を及ぼす可能性があるマイトゲン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)経路(Personsら、1999;Sanchez-Perezら、1998)のメンバーの活性化を誘導することを示す報告がある。
【発明の開示】
【0006】
発明の簡単な概要
本発明は、白金錯体を用いてSTATタンパク質機能を阻害するための方法に関する。一つの態様において、白金錯体を、STATタンパク質を発現する細胞に接触させる。STATタンパク質は、例えばstat3となりうる。
【0007】
発明の詳細な開示
本発明は、STATタンパク質の機能を阻害するための方法に関する。本発明において有用な白金錯体を以下に示す。


本発明の白金錯体は、標準的な化学合成法および当技術分野で公知の材料を用いて調製することができる。
【0008】
本発明の化合物にはまた、本発明の白金錯体の薬学的に許容される塩が含まれる。薬学的に許容される塩という用語は、本明細書に記述の本発明の錯体において認められる特定の置換基に応じて、酸または塩基によって調製された本発明の白金錯体の塩を意味する。薬学的に許容される塩基付加塩の例には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、またはマグネシウム塩が含まれる。薬学的に許容される塩付加塩の例には、塩酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、および酢酸、プロピオン酸、安息香酸、コハク酸、フマル酸、マンデル酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、マレイン酸等のような有機酸が含まれる。本発明の白金錯体の薬学的に許容される塩は、通常の技術を用いて調製することができる。
【0009】
本発明の特定の白金錯体は、立体異性体を生じうる一つまたはそれ以上の非対称に置換された炭素原子を含んでもよいことは当業者に認識されるであろう。本発明は、エナンチオマーおよびジアステレオマー、およびそのラセミ混合物を含む混合物を含む、そのような全ての立体異性体に及ぶと理解される。
【0010】
本発明の白金錯体は、STAT活性の強力かつ選択的破壊物質である。例としての化合物ISSCPA-1(本明細書においてCPA-1とも呼ばれる)およびISSCPA-7(本明細書においてCPA-7とも呼ばれる)は、Stat3活性を強く破壊してそのコンセンサス結合配列に対するその結合能を妨害する。本発明の白金錯体は、持続的に活性なSTATを有する形質転換細胞および腫瘍細胞において、細胞増殖阻害およびアポトーシスを誘導する。異常なまたは構成的なSTATシグナル伝達を有する悪性細胞は、本発明の白金錯体に対して非常に感受性が高い。本発明の白金錯体の正常細胞に対する一般的毒性は、最小であるかまたはない。例としての化合物ISSCPA-1およびISSCPA-7が、異常なStat活性を含む形質転換および腫瘍細胞の増殖および複製を選択的に遮断するが、異常なStat3活性を有しない細胞の増殖は遅らせるに過ぎないという知見は、非常に重要である。さらに、持続的に活性なSTATシグナル伝達を有する悪性細胞において、本発明の白金化合物によって強いアポトーシスが誘導され、このことはこれらの細胞における異常なSTAT活性の抑制と相関する。
【0011】
本発明の白金錯体はまた、インビボで黒色腫および結腸腫瘍において抗腫瘍活性を示す。本発明の白金錯体によって処置した腫瘍における構成的に活性なSTATの消失は、インビトロおよび細胞全体の双方におけるSTAT活性に対するその影響と一致し、これらは共に、これらの化合物のSTATに基づく抗腫瘍効果を確立する。
【0012】
本発明の方法は、細胞内に取り込まれるかまたはそうでなければ細胞内で提供される本発明の白金錯体を、STATを発現する細胞に接触させることによって、STATの機能を阻害する段階を含む。例としての態様において、白金錯体ISSCPA-1およびISSCPA-7は、Stat3のDNA結合ドメインと物理的に相互作用して、それによってDNAに対するその結合能を破壊する。Src形質転換マウス線維芽細胞と共に、構成的Stat3活性を含む乳癌、前立腺癌、および肺癌のヒト腫瘍細胞、ならびにマウス黒色腫細胞において、ISSCPA-1およびISSCPA-7はいずれも、Stat3シグナル伝達機能を消失させて、それによって細胞の増殖阻害およびアポトーシスを誘導する。
【0013】
本発明の方法はまた、Stat1またはStat3のようなSTATを異常または構成的に発現する細胞の機能および/または増殖、ならびに複製を阻害する段階を含む。一つの態様において、方法は本発明の白金錯体を細胞に接触させる段階を含む。一つの態様において、細胞は腫瘍細胞、癌細胞、または形質転換細胞である。細胞は、ヒト、サル、チンパンジー、類人猿、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、またはブタを含む哺乳類の細胞となりうる。本発明の白金錯体は、細胞との直接接触を通して、または担体手段によって細胞に送達することができる。組成物を細胞に送達する担体手段は当技術分野で公知であり、例えばリポソーム部分に白金錯体を封入することが含まれる。本発明の白金錯体を細胞に送達するもう一つの手段は、標的細胞への送達のためにターゲティングされるタンパク質または核酸に、白金錯体を結合させる段階を含む。公表された米国特許出願第20030032594号および第20020120100号は、もう一つの組成物に結合させることができ、組成物を生体膜を超えて転移させるアミノ酸配列を開示している。公表された米国特許出願第20020035243号はまた、細胞内送達のために細胞膜を超えて生物学的部分を輸送するための組成物を記述する。
【0014】
本発明の白金錯体およびそれらを含む組成物の治療的応用は、当業者に現在公知であるか、公知となる見通しである任意の適した治療法および技術によって行うことができる。本発明の白金錯体は、例えば経口、鼻腔内、直腸内、および非経口投与経路を含む、当技術分野における如何なる適した経路によっても投与することができる。本明細書において用いられるように、非経口という用語には、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、腹腔内、および注射によるような胸骨内投与が含まれる。本発明の白金錯体の投与は、当業者によって容易に決定されうるように、連続的または不連続な間隔となりうる。当業者は、患者の特定の病態、疾患、または障害を治療するために有効である、患者に投与される本発明の白金錯体の量を決定することができる。
【0015】
本発明の方法において有用な化合物は薬学的に有用な組成物を調製する公知の方法に従って調製することができる。製剤は、当業者に周知であって容易に入手できる多数の起源において詳細に記述されている。例えば、E.W. Martinによって記述される「Remington's Pharmaceutical Science」は、本発明に関連して用いることができる製剤について記述している。一般的に、本発明の組成物は、生物活性白金錯体の有効量が組成物の有効な投与を促進するために適した担体と組み合わせられるように調製されるであろう。本発明の方法において用いられる組成物はまた、多様な製剤となりうる。これらには、例えば錠剤、丸剤、粉剤、液体溶液または懸濁液、坐剤、注射剤および注入溶液、ならびに噴霧剤のような、固体、半固体、および液体投与剤形が含まれる。好ましい剤形は、意図される投与様式および治療応用に依存する。組成物にはまた、当業者に公知である通常の薬学的に許容される担体および希釈剤が含まれる。本発明の白金錯体と共に用いられる担体または希釈剤の例には、エタノール、ジメチルスルホキシド、グリセロール、アルミナ、デンプン、ならびに同等の担体および希釈剤が含まれる。本発明の望ましい治療的治療のためのそのような用量の投与を提供するために、本発明の薬学的組成物は、担体または希釈剤を含む総組成物の重量に基づいて、本発明の白金錯体の一つまたはそれ以上を全体の重量で、約0.1〜99%、特に1〜15%を含むことが都合がよいであろう。
【0016】
本発明の化合物はまた、リポソーム技術、徐放性カプセル、埋め込み型ポンプ、および生体分解性容器を利用して投与することができる。これらの送達法は、均一な用量を一定期間にわたって都合よく提供することができる。本発明の白金錯体はまた、その塩誘導体型または結晶型で投与することができる。
【0017】
本明細書において言及または引用された全ての特許、特許出願、仮出願、および刊行物は、本明細書の明白な教示とそれらが矛盾しない程度に、全ての図面および表を含むその全内容物が参照により本明細書に組み入れられる。
【0018】
材料および方法
細胞、プラスミド、および他の試薬
Stat3レポーターを安定に発現するv-Src形質転換(NIH3T3/v-Src)および誘導相対物、pLucTKS3(NIH3T3/v-Src/pLucTKS3)またはStat3非依存的プラスミド、pRLSRE(NIH3T3/v-Src/pRLSRE)、およびRas形質転換(NIH3T3/v-Ras)線維芽細胞、ヒト乳癌MDA-MB-231、MDA-MB-435、MDA-MB-453、およびMDA-MB-468、黒色腫B16細胞、前立腺癌細胞、DU145、ならびにPC3と共に、ヒト肺癌A459細胞については既に記述されている(Garciaら、2001;Turksonら、2001;Yuら、1995;Johnsonら、1985)。プラスミドpLucTKS3(ファイアフライルシフェラーゼ遺伝子の発現を促進する)およびpRLSRE(ウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子(Promega)の発現を促進する)については、既に記述されている(Turksonら、2001;Turksonら、1999)。細胞は、G418を含むまたは含まない5%鉄含有仔ウシ胎児血清(BCS)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)において増殖させた。
【0019】
細胞質抽出物調製物およびルシフェラーゼアッセイ
ルシフェラーゼアッセイに関して、線維芽細胞からのまたはバキュロウイルス感染Sf-9昆虫細胞からの細胞質溶解物調製については既に記述されている(Turksonら、1998;Turksonら、2001;Turksonら、1999;Zhangら、2000)。ルシフェラーゼアッセイは供給元(Promega)のマニュアルに概要が示されている通りに行い、ルミノメーターによって測定した。
【0020】
核抽出物調製およびゲルシフトアッセイ
核抽出物は、既に記述されているように細胞株から調製してEMSAのために用いた(Turksonら、1998;Yuら、1995;Garciaら、1997)。場合によっては、細胞を回収前に表記の時間、白金錯体によって前処置した。細胞をEGF(6 ng/ml)によって刺激する場合、処置時間は15分であった。核抽出物を化合物と共に室温で30分間プレインキュベートした後、放射標識プローブと共にインキュベートした。用いた32P放射標識オリゴヌクレオチドプローブは、Stat1およびStat3の双方に結合するhSIE(高親和性sis誘導エレメント、m67変種、

(Garciaら、1997;Wagnerら、1990)、Stat1およびStat5の双方に結合するMGFe(ウシβカゼイン遺伝子プロモーターからの乳腺因子エレメント、

(Gouilleuxら、1995;Seidelら、1995)、NF-κB結合オリゴ

、ならびにE2F1に結合するDHFRプロモーターからのオリゴヌクレオチド配列である。
【0021】
細胞増殖とTUNEL染色
増殖しつつある細胞を、トリパンブルー排除を用いて生存細胞に関して位相差顕微鏡によって計数した。TUNEL染色は、アポトーシス細胞を検出するために供給元の説明書に従って行った。細胞(NIH3T3またはNIH3T3/v-Src)をまず、化合物と共に、または化合物を含まずに24〜48時間した後、染色した。
【0022】
以下は、本発明の実践のための技法を説明する実施例である。これらの実施例は制限的に解釈してはならない。百分率は全て重量であり、溶媒混合比は全て、特に明記していなければ容積比である。
【0023】
実施例1−ISSPCA複合体によるインビトロStat3 DNA結合活性の阻害
白金化合物を、インビトロでのSTAT DNA結合に対する阻害活性に関して評価した。Stat1、Stat3、およびStat5を活性化する上皮細胞増殖因子(EGF)刺激線維芽細胞から調製した核抽出物のEMSAによる分析では、32P標識オリゴヌクレオチドとのインキュベーション前に、異なる濃度のISSCPA-1、ISSCPA-3(CPA-3とも呼ばれる)、またはISSCPA-7と(等しい総蛋白質の抽出物を)30分間プレインキュベーションすると、m67高親和性sis誘導エレメント(hSIE)プローブ(hSIEはStat1およびStat3に結合する)により、Stat3およびStat1のDNA結合活性レベルの用量依存的な減少が起こり(図1A)、化合物はStat1よりStat3に対して2倍強力である(表1および表2に示す低いマイクロモル濃度でのIC50値)ことを示している。対照的に、核抽出物を化合物によって同様に処置すると、それらのStat5 DNA結合活性の阻害作用はかなり低いことが示され(図1B)、ISSCPA-1、ISSCPA-3およびISSCPA-7がStat3およびStat1活性を選択的に破壊することを示唆している。
【0024】
ISSCPA-1およびISSCPA-7の双方における白金の原子価は4である;このように、認められた効果が白金(IV)に関連するか否かを決定した。この目的に関して塩化白金(IV)を類似のアッセイにおいて評価した。EMSAによって分析すると、結果は、塩化白金(IV)によって核抽出物を前処置すると、ISSCPA-1およびISSCPA-7に関して認められたようにStat3のDNA結合活性を同様に破壊することを示している(図1A、最後の6レーン)。Stat3に関する化合物の選択性を決定するために、E2F1およびNF-κBを含む他のタンパク質に及ぼす影響を調べた。EMSAによる分析から、二つの非STAT関連転写因子のDNA結合活性が、評価される化合物によって有意に変化しないことが示される(図1Cおよび1D)。
【0025】
(表1)インビトロでのSTAT DNA結合活性の破壊に関するIC50値(μM)

【0026】
(表2)細胞増殖の阻害に関するIC50値(μM)

【0027】
実施例2−白金錯体はDNA配列の完全性を調節しない
シスプラチンおよびその類似体がアルキル化によってDNA配列を変性させることができることは公知である。本発明の白金錯体がDNAの完全性を破壊するか否かを調べるために、実施例1に記述のインビトロDNA結合アッセイにおいて行ったように、白金錯体によって同様に前処置したコールドのhSIEオリゴヌクレオチドについて、非アニーリングおよび再アニーリング試験を行い、再アニールしたオリゴを1.8%アガロースゲルにおいて分析して、バンドをエチジウムブロマイドによるゲルの染色によって可視化した。ISSCPA-1、ISSCPA-7、またはPtCl4を処置したオリゴヌクレオチド配列は、本発明の化合物を処置していない対照オリゴヌクレオチドと同一の移動パターンおよびバンドの鮮明度を示した(図2)。この知見は、hSIEオリゴヌクレオチドプローブを本発明の白金化合物によって処置しても、変性作用を示さないことを示し、本発明の白金化合物がインビトロDNA結合アッセイにおいてhSIEプローブのStat3結合配列を変化させない可能性があることを示唆している。
【0028】
実施例3−ISSCPA-1およびISSCPA-7による形質転換および腫瘍細胞における構成的Stat3シグナル伝達の消失
Src形質転換線維芽細胞およびヒト腫瘍細胞におけるStat3の持続的な活性化に及ぼす白金錯体の影響を調べた。ISSCPA-1およびISSCPA-7を処置した細胞に関して、核抽出物におけるインビトロStat3 DNA結合活性のEMSA分析は、構成的Stat3活性化の強い阻害を示し(図3)、化合物が構成的なStat3活性化を遮断することを示唆している。これらの試験を、Stat3転写活性に及ぼす白金錯体の影響を評価するように拡大した。ISSCPA-1およびISSCPA-7はいずれも、ルシフェラーゼレポーターのStat3依存的誘導を有意に抑制したが(図4)、Stat3非依存的ルシフェラーゼ活性の誘導に対してほとんどまたは全く影響を及ぼさなかった(図4)。対照的に、白金錯体ISSCPA-3およびシスプラチンによる構成的Stat3活性化の阻害は中等度であるか、無視できる程度であった(図3および4)。
【0029】
本発明の白金錯体が広範なインビボ作用を有するか否かを調べるために、他のシグナル伝達経路の変化を調べた。MAPK、PI-3キナーゼ、およびタンパク質キナーゼC経路の誘導に及ぼす化合物の作用を評価した。EGFによって刺激したSrc形質転換NIH3T3/v-SrcおよびNIH3T3/hEGFRにおいて、ウェスタンブロッティングによって分析したところ、本発明の白金錯体による処置によって、チロシンリン酸化タンパク質のレベルは変化しない(図5A)。同様に、EGFによるMAPキナーゼErk1またはERk2の誘導は、化合物による処置を有意に変化させなかった(図5B)。これらの知見は共に、ISSCPA-1およびISSCPA-7が形質転換および腫瘍細胞におけるStat3の構成的活性化ならびにStat3媒介遺伝子発現の強力な阻害剤であることを示している。
【0030】
実施例4−白金錯体による細胞増殖の阻害と細胞生存率の減少
[3H]チミジンの取り込みによって測定した細胞増殖に及ぼす白金錯体の影響を調べた。ISSCPA-1およびISSCPA-7による処置は、Src形質転換マウス線維芽細胞と共にヒト乳癌および肺の非小細胞癌細胞株の増殖を強く阻害した(図6)。対照的に、構成的に活性なStat3を含まない正常なマウス線維芽細胞またはヒト腫瘍細胞に同様の処置を行っても、処置細胞の増殖速度の減少として認められるが、増殖阻害性ではない、ごくわずかな作用を有するに過ぎなかった(図6)。細胞増殖におけるStat3の重要な役割と一致して、このデータは、構成的に活性なStat3の阻害が細胞増殖停止を誘導することを示している。
【0031】
実施例5−白金化合物によるアポトーシスの誘導
研究は、形質転換および腫瘍細胞の生存における構成的Stat3シグナル伝達の重要な役割を確立した(Catlett-Falconeら、1999a;Grandisら、2000a;Epling-Burnetteら、2001;Bowmanら、2000b;Grandisら、2000b;Horiguchiら、2002)。悪性細胞の生存率および生存に及ぼす本発明の白金化合物の影響を評価した。構成的に活性なStat3の本発明の化合物による阻害によってアポトーシスが起こるか否かを決定するために、Src形質転換および正常マウス線維芽細胞を本発明の白金化合物によって処置して、アポトーシスの証拠に関してTUNEL染色を行った。図7における結果は、ISSCPA-1およびISSCPA-7がSrc形質転換NIH3T3線維芽細胞において強いアポトーシスを誘導したことを示している。対照的に、同様に処置した正常線維芽細胞ではごく軽微な程度のアポトーシスを認めたに過ぎなかった。これらの結果は、本発明の白金錯体によってStat3依存的形質転換細胞においてアポトーシスが誘導されることを示している。
【0032】
実施例6−塩化白金(IV)による黒色腫および結腸腫瘍の退縮の誘導
黒色腫および結腸腫瘍のマウスモデルを用いて本発明の塩化白金(IV)の抗腫瘍有効性を評価した。確立された腫瘍に、塩化白金(IV)の用量を直接注射して、その後の腫瘍の大きさをモニターした。黒色腫および結腸腫瘍の双方に関して、結果は、塩化白金(IV)による処置後に完全な退縮を示す(図8B)が、無処置対照腫瘍は増殖し続けた。平行な試験において、処置した腫瘍を抽出して、EMSAによって分析したDNA結合活性に基づいてStat3活性を決定した。本発明の塩化白金(IV)によって処置した腫瘍において、構成的に活性なStat3は強く減弱した(図8A)。知見は共に、塩化白金(IV)による構成的に活性なSTATの阻害によって黒色腫および結腸腫瘍の退縮が起こることを支持している。
【0033】
本明細書に記述の実施例および態様は説明する目的に限られ、それに照らして様々な改変または変更が当業者に示唆されるであろうが、それらも本出願の趣旨および範囲、ならびに添付の特許請求の範囲に含まれると理解すべきである。
【0034】
参考文献




【図面の簡単な説明】
【0035】
本特許または出願書は、カラーで作製された少なくとも一つの図面を含む。カラー図面を含む本特許または特許出願刊行物のコピーは、請求して必要な料金を支払えば特許庁によって提供されるであろう。
【図1】図1A〜1Dは、白金錯体のDNA結合活性および作用に関するEMSA分析を示す写真である。活性化Stat1、Stat3、およびStat5を含む核抽出物を、表記の濃度の白金錯体ISSCPA-1、ISSCPA-3、ISSCPA-7、またはPtCl4によって室温で30分間処置してから、放射標識オリゴヌクレオチドプローブと共にインキュベートした。図1Aは、hSIEプローブに対するStat1およびStat3の結合活性を示し、図1BはMGFeプローブに対するStat1およびStat5の結合活性を示し、図1Cは、プローブとしてのDHFR配列に対するE2F1の結合を示し、および図1Dは、プローブとしてのα2マクログロブリンプロモーターにおける結合配列に対するNFκBの結合を示す。ゲルにおけるSTAT、E2F1、またはNFκB(p65、p50)とDNAとの複合体の位置を表示する。対照レーンは白金錯体と予めインキュベートしていない核抽出物を表す。
【図2】白金錯体を処置したまたは処置しなかったDNAのアガロースゲル電気泳動を示す写真である。白金錯体処置hSIEオリゴヌクレオチドおよびDMSO処置対照オリゴを70℃で10分間加熱して巻き戻しして、室温で一晩冷却することによって再アニールさせ、UV可視化のためにエチジウムブロマイドを含む2%アガロースでのゲル電気泳動によって分析した。ゲルにおいてhSIEに対応するバンドの位置を示す。
【図3】EMSAによって分析したStat3活性化に及ぼす白金錯体の効果の評価を示す写真である。構成的に活性化されたStat3を含み、白金錯体を表記の時間処置した悪性細胞から調製した核抽出物を、hSIEオリゴヌクレオチドプローブを用いてEMSAによって分析した。抽出物は、v-Src形質転換NIH3T3/v-Src;ヒト乳癌MDA-MB-231;MDA-MB-435;およびMDA-MB-2468から調製した。ゲルにおけるStat3:DNA複合体の位置を示す。
【図4】図4A〜4Bは、無傷の細胞における白金錯体によるStat3媒介遺伝子発現の阻害を示す。Stat3依存的(NIH3T3/v-Src/pLucTKS3)およびStat3非依存的(NIH3T3/v-Src/pRLSRE)ルシフェラーゼレポーターを安定に発現するv-Src形質転換マウス線維芽細胞を、表記の時間白金錯体によって処置した。Stat3依存的ファイアフライルシフェラーゼ活性(図4A)、およびStat3非依存的ウミシイタケルシフェラーゼ測定(図4B)のために、細胞質抽出物を細胞から調製した。値は独立したアッセイ5回の平均値およびS.D.である。
【図5】図5A〜5Cは、シグナル分子に及ぼす白金錯体の影響を示す写真である。EGF受容体を過剰発現する線維芽細胞(NIH3T3/Hegfr)およびそのv-Src形質転換相対物(NIH3T3/v-Src)を白金錯体によって24時間処置して、EGFの存在下または非存在下で5分間刺激した。全細胞溶解物を調製して、5%SDS-PAGEにおいて分析して、ニトロセルロースメンブレンに転写し、(パネルA)抗pTyr抗体(4G10)またはMAPKファミリーメンバーの活性化型に対する抗体、(パネルB)ERK、および(パネルC)p38mapkを用いるウェスタンブロッティングによってプロービングした。
【図6】図6Aおよび6Bは、細胞増殖および生存率に及ぼす白金錯体の影響を示す。図6Aは、白金錯体を表記の時間処置した培養正常またはv-Src形質転換マウス線維芽細胞、および顕微鏡下で可視化してトリパンブルー色素排除によって計数した生存細胞数を示す。図6Bは、白金錯体の存在下または非存在下で24〜48時間処置して、[3H]チミジン取り込みの程度に関して分析した正常およびSrc形質転換マウス線維芽細胞、ヒト乳腺上皮細胞と共に、乳腺腫瘍細胞(MDA-MB-231;MDA-MB-435;MDA-MB-453、およびMCF-7)、肺癌(A549)、および前立腺癌(DU145)を示す。値は独立した3〜4回の測定の平均値およびS.D.である。
【図7】白金錯体によるアポトーシスの誘導を示す写真である。正常NIH3T3線維芽細胞およびそのv-Src形質転換相対物を白金錯体によって48時間処置して、TUNEL染色キットを用いてDNA損傷の証拠に関して分析した。
【図8】図8A〜8Cは、塩化白金(IV)によって誘導された腫瘍の退縮を示す。そのいずれも構成的に活性化されたStat3を有するB16黒色腫およびCT26結腸腫瘍を用いたマウスにおける腫瘍モデルを、塩化白金(IV)の用量を腫瘍内注射することによって処置し、腫瘍の大きさを9日まで1日おきにモニターした。図8Aは、インビトロDNA結合アッセイおよびEMSA分析におけるStat3活性に関して分析した、抽出された腫瘍組織を示す写真である。図8Bおよび8Cは、処置日に対してプロットした、キャリパーによってモニターした腫瘍の大きさを示す。
【配列表フリーテキスト】
【0036】
配列の簡単な説明
(配列番号:1)オリゴヌクレオチドプローブのヌクレオチド配列である。
(配列番号:2)オリゴヌクレオチドプローブのヌクレオチド配列である。
(配列番号:3)オリゴヌクレオチドプローブのヌクレオチド配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下からなる群より選択される白金錯体、またはその薬学的に許容される塩を、Stat3転写因子を発現する細胞に接触させる段階を含む、Stat3転写因子を阻害するための方法:

【請求項2】
細胞が腫瘍細胞、癌細胞、または形質転換細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
細胞が哺乳類細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
哺乳類細胞がヒト細胞、サル細胞、チンパンジー細胞、類人猿細胞、イヌ細胞、ネコ細胞、ウマ細胞、ウシ細胞、またはブタ細胞である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
白金錯体がリポソーム部分に封入されるか、または白金錯体が、細胞への白金錯体の送達を標的化するタンパク質もしくは核酸を含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
白金錯体が以下であるか、またはその薬学的に許容される塩である、請求項1記載の方法:

【請求項7】
白金錯体が以下であるか、またはその薬学的に許容される塩である、請求項1記載の方法:


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−502301(P2007−502301A)
【公表日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523413(P2006−523413)
【出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【国際出願番号】PCT/US2004/026392
【国際公開番号】WO2005/023824
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(504332089)ユニバーシティー オブ サウス フロリダ (11)
【Fターム(参考)】