説明

腫瘍進行を阻害するための組成物及び方法

REST機能の喪失、β2の発現および/またはNotchの活性化によって特徴を表される腫瘍の分類、診断、治療および予防のための組成物及び方法が提供される。さらに、EMT、細胞移動およびアポトーシスなどの細胞プロセスの調節のための組成物および方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の説明)
本出願は、2007年11月19日に出願の米国特許仮出願60/988874の優先権を主張する。その開示内容は出典明記によって本明細書において援用される
(技術分野)
本発明は、腫瘍進行および他の細胞過程に伴われる遺伝子およびポリペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
EMT
腫瘍形成の間に、カルシノーマ細胞は、通常の上皮の特徴の多くを失い、「上皮間葉転換」又はEMTと称されるプロセスにより間葉系性質を獲得する。EMTは、局所の浸潤と遠隔部位への転移の両方を促す細胞接着および運動性の変化と関係している。モデル系においてEMTを誘導することが可能ないくつかの遺伝子、例えばMMP11およびTGFB1が記述されている。参考のために、例としてHuber et al., Curr. Opin. Cell Biol. 17:548-558, 2005;Lee et al., J. Cell Biol. 172:973-981, 2006;Theiry et al., Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 7:131-142, 2006を参照のこと。しかしながら、当分野では、腫瘍細胞におけるEMTの誘導と関係している遺伝子をさらに同定する必要がある。このような遺伝子およびそのコード化されたタンパク質は、例えば、癌の治療において有用な標的である。本明細書において記述される本発明は、この必要性を満たして、他の利点を提供するものである。
【0003】
β2
SCN2B遺伝子によってコード化されるβ2は、細胞接着タンパク質に見られるものと類似する免疫グロブリンフォールドを含む細胞外ドメインを有する一回膜貫通タンパク質である(Eubanks et al., Neuroreport 8:2775-2779, 1997;Isom et al., Cell 83:433-442, 1995)。また、β1サブユニットと同様に、当初ナトリウムチャネル性質および表層膜領域の活性調節因子として特徴付けられたβ2(上掲のEubanks et al.)は、ナトリウムチャネルとは関係なく、細胞接着分子として働くことができる。ショウジョウバエS2細胞では、β1及びβ2サブユニットは、トランスホモフィリックな様式で、EGFリピートモチーフを介してマトリックスタンパク質であるテネイシンC及びテネイシンRと結合し、その結果、細胞骨格の変化並びに細胞接着と凝集性質の変化が生じうる(Malhotra et al., J. Biol. Chem. 275:11383-11388, 2000;Xiao et al., J. Biol. Chem. 274:26511-26517, 1999)。さらに、β2は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞において移動を誘導するγ-分泌酵素としての特徴を有していた(Kim et al., J. Biol. Chem. 280:23251-23261, 2005)。また、これらの研究は、β2がα-分泌酵素様プロテアーゼによって媒介されて外部ドメインが分離されることを示唆していた。上掲のKim et al.。
【0004】
Notch
Notchレセプターファミリーは、ウニやヒトと同じくらい多様な有機体の発達に作用するシグナルを伝達する、進化上保存された膜貫通型レセプターの一種である。Notchレセプター及びリガンドDelta及びSerrate(哺乳動物ではJaggedとして知られる)のファミリーは、上皮細胞増殖因子(EGF)様レセプターを含有する大きな細胞外ドメインを有する膜貫通型タンパク質である。Notchパラログの数は種間で異なる。例えば、哺乳動物では4つ(Notch1−Notch4)、線虫では2つ(LIN-12及びGLP-1)、及びキイロショウジョウバエでは1つ(Notch)のNotchレセプターがある。Notchレセプターは、膜貫通ドメインに対して外側の部位S1でfurin様プロテアーゼによって細胞表面への運搬の間にタンパク分解性にプロセシングされ、細胞外Notch(ECN)サブユニット及びNotch膜貫通サブユニット(NTM)が生じる。これら2つのサブユニットは、非共有的に結合したままで、成熟したヘテロダイマー細胞表面レセプターを構成する。Notch1 ECNサブユニットは、36のN末端EGF様リピートの後に、S1部位に先行する3つのタンデムリピートLin12/Notchリピート(LNR)モジュールを含有する。各LNRモジュールは、カルシウムイオンを調整することが予測される3つのジスルフィド結合及び一群の保存された酸性かつ極性の残基を含有する。EGFリピート領域内に、活性化リガンドのための結合部位が位置する。Notchレセプターの固有のドメインを含むLNRモジュールは、リガンドが誘導する活性化の前に静止高次構造にNotchを維持することに関与する。Notch1 NTMは、細胞外領域(S2切断部位を内部に持つ)、膜貫通部分(S3切断部位を内部に持つ)、及びRAMドメイン、アンキリンリピート、トランスアクチベーションドメイン及びカルボキシ末端PEST配列を含む大きな細胞内部分を含む。ECN及びNTMサブユニットの安定な結合は、ECNのカルボキシ終末端(HD−Cと称される)及びNTMの細胞外アミノ末端(HD−Nと称される)を含むヘテロ二量体化ドメイン(HD)に依存している。ECNサブユニットへのNotchリガンドの結合により、制御された細胞内タンパク質分解により生じる2つの連続的なタンパク質分解性切断が開始する。部位S2のメタロプロテアーゼによる第一切断によって、Notch膜貫通サブユニットの、原形質膜の内側の小葉の近くの部位S3での第二切断が起こりやすくなる。プレセニリンとニカストリンを含む多タンパク質複合体により触媒される部位S3切断は、Notch膜貫通サブユニットの細胞内部分を遊離し、核に転位させ、標的の遺伝子の転写を活性化する。
【0005】
Jagged及びDelta様クラスの5つのNotchリガンドは、ヒト(Jagged1(Serrate1とも称される)、Jagged2(Serrate2とも称される)、Delta様1(DLL1とも称される)、Delta様3(DLL3とも称される)、及びDelta様4(DLLとも称される))において同定された。各々のリガンドは、Notchを結合するために必須の、保存されたN末端のDelta、Serrate、LAG−2(DSL)モチーフを有するシングルパス膜貫通タンパク質である。DSLモチーフに対する一連のEGF様モジュールC末端は膜に拡がる(membrane-spanning)部分に先行する。Notchレセプターとは異なり、リガンドは、C末端に70−215アミノ酸の短い細胞質の尾部を有する。さらに、他のタイプのリガンドも報告されている(例えばDNER、NB3、及びF3/コンタクチン)。
Notch経路は、ハエ及び脊椎動物の神経発生に作用するプロセスなど、多様な発達上及び生理学上のプロセスに際に機能する。通常は、Notchシグナル伝達は、側方抑制、系統決定及び複数の細胞群間の境界の形成に関与する(例としてBray, Molecular Cell Biology 7:678-679, 2006を参照)。癌及び神経変性障害を含む多様なヒトの疾患は、Notchレセプター又はそのリガンドをコードする遺伝子の突然変異によるものであることが示されている(例としてNam et al., Curr. Opin. Chem. Biol. 6:501-509, 2002を参照)。ヒトNotch1の切断された構造的に活性な変異体を造る反復性のt(7;9)(q34;q34.3)染色体転座がヒト急性リンパ性白血病(T−ALL)のサブセットにおいて同定された時に、無制限のNotchシグナル伝達と悪性腫瘍との関連が初めて認識された。マウスモデルでは、Notch1シグナル伝達はT細胞発達に必須であり、Notch1が媒介するシグナルがB細胞発達を犠牲にしてT細胞の発達を促すことが示された。また、マウスモデルでは、発達の間の過剰なNotchシグナル伝達によりT細胞腫瘍形成が引き起こされる。
【0006】
さらに、Notchレセプターはヒトの癌及び腫瘍由来の細胞株の広い範囲で発現され、ヒトの胚性幹細胞の神経運命を促す。例えば、Notchは、ヒトの子宮頸管、及びヒトの腎臓細胞カルシノーマ細胞の腫瘍性病変において高く発現される。多くのヒトの疾患にNotchシグナル伝達が関与していることを考えると、治療薬としての開発に適する臨床上の特性を有するNotchシグナル伝達を制御する薬剤が求められていることは明らかである。本明細書中に記載の本発明はこの要求を満たし、他の利点を提供する。
【0007】
REST
REST(NRSFとも称される)は、非神経性組織の神経系遺伝子発現の転写リプレッサーである(Westbrook et al., Cell: 121:837-848, 2005)。RESTは腫瘍抑制遺伝子としての特徴を有する。REST遺伝子は、結腸直腸癌において欠失していることが多いことが確認された。さらに、上皮細胞を転換することができる、RESTのドミナントネガティブな形態が同定されている。当分野では、REST腫瘍抑制に関与する遺伝子を同定することが求められている。このような遺伝子およびそのコードされたタンパク質は、例えば、癌の治療の有用な標的である。本明細書において記述される本発明は、この必要性を満たして、他の利点を提供するものである。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、転写リプレッサーであるRESTの欠失がβ2の発現を引き起こし、次に腫瘍のNotchシグナル伝達を活性化するという発見に、ある程度基づく。さらに、本発明は、Notchの新規のリガンドとしてβ2を同定し、そのβ2がNotchに結合し、Notchシグナル伝達を活性化することによってEMTを誘導するということにある程度基づく。これらの発見は、REST/β2/Notch経路が腫瘍進行および/または転移を促進することを示す。
【0009】
一態様では、REST機能の喪失、β2の発現および/またはNotchの活性化に特徴がある腫瘍の分類、診断、治療および予防のための組成物および方法が提供される。
他の態様では、β2に結合し、Notchへのβ2の結合をブロックするモノクローナル抗体が提供される。一実施態様では、モノクローナル抗体は、(a) ATCC受託番号PTA−8404、PTA−8405およびPTA−8406から選択されるハイブリドーマによって生産されるか、(b) (a)の抗体のヒト化形態であるか、(c) (a)の抗体と同じエピトープに結合するか、又は、(d)β2への結合について(a)の抗体と競合する。
他の態様では、β2に特異的に結合するNotchの断片を含む、単離された可溶性ポリペプチドが提供される。
【0010】
他の態様では、腫瘍をβ2のアンタゴニストにさらすことを含む、腫瘍進行の阻害方法が提供される。一実施態様では、β2のアンタゴニストは、SCN2Bに特異的なアンチセンス核酸である。そのような実施態様では、アンチセンス核酸は、RNAi能を有する調節RNAである。他の実施態様では、β2のアンタゴニストは、β2に結合し、Notchへのβ2の結合をブロックする抗体である。そのような実施態様では、抗体は、(a) ATCC受託番号PTA−8404、PTA−8405およびPTA−8406から選択されるハイブリドーマによって生産されるか、(b) (a)の抗体のヒト化形態であるか、(c) (a)の抗体と同じエピトープに結合するか、又は、(d) β2への結合について(a)の抗体と競合する。他の実施態様では、β2のアンタゴニストは、Notchに結合し、β2へのNotchの結合をブロックする抗体である。そのような実施態様では、抗体は、EGFリピート10−21を含むNotch1の領域内で結合する。他の実施態様では、β2のアンタゴニストは、β2に特異的に結合するNotchの断片を含む可溶性ポリペプチドを含む。他の実施態様では、腫瘍は転移性である。他の実施態様では、腫瘍は化学療法に対して抵抗力がある。他の実施態様では、腫瘍は結腸腫瘍である。他の実施態様では、腫瘍は、REST活性を低減しているか、又はβ2活性を増加させている。
【0011】
他の態様では、細胞をβ2のアンタゴニストにさらすことを含む、細胞のEMTの阻害方法が提供される。一実施態様では、β2のアンタゴニストは、SCN2Bに特異的なアンチセンス核酸である。そのような実施態様では、アンチセンス核酸は、RNAi能を有する調節RNAである。他の実施態様では、β2のアンタゴニストは、β2に結合し、Notchへのβ2の結合をブロックする抗体である。そのような実施態様では、抗体は、(a) ATCC受託番号PTA−8404、PTA−8405およびPTA−8406から選択されるハイブリドーマによって生産されるか、(b) (a)の抗体のヒト化形態であるか、(c) (a)の抗体と同じエピトープに結合するか、又は、(d) β2への結合について(a)の抗体と競合する。他の実施態様では、β2のアンタゴニストは、Notchに結合し、β2へのNotchの結合をブロックする抗体である。そのような実施態様では、抗体は、EGFリピート10−21を含むNotch1の領域内で結合する。他の実施態様では、β2のアンタゴニストは、β2に特異的に結合するNotchの断片を含む可溶性ポリペプチドを含む。他の実施態様では、細胞は腫瘍細胞である。他の実施態様では、腫瘍細胞は転移性腫瘍に由来する。他の実施態様では、腫瘍細胞は、化学療法に対して抵抗力がある腫瘍に由来する。他の実施態様では、腫瘍細胞は結腸腫瘍細胞である。他の実施態様では、細胞はインビトロである。他の実施態様では、細胞はインビボである。
【0012】
他の態様では、腫瘍がβ2のアンタゴニスト又はNotchのアンタゴニストに応答するか否かの決定方法であって、腫瘍においてREST活性の低減又はβ2活性の増加を検出することを含み、このとき腫瘍におけるREST活性の低減又はβ2活性の増加が、腫瘍がβ2のアンタゴニスト又はNotchのアンタゴニストに応答することを示す方法が提供される。一実施態様では、方法はREST活性の低減を検出することを含む。他の実施態様では、方法はβ2活性の増加を検出することを含む。他の実施態様では、腫瘍は転移性である。他の実施態様では、腫瘍は化学療法に対して抵抗力がある。他の実施態様では、腫瘍は結腸腫瘍である。
前記実施態様および更なる実施態様は、下記の説明において示される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1A:正常な結腸上皮(レーン1−5)および結腸腫瘍上皮(レーン6−13)におけるSCN2B発現。RNAはレーザーキャプチャ顕微解剖後に単離し、SCN2B発現はマイクロアレイ分析によって測定した。値は、汎用比較RNA(腫瘍細胞株のプールから入手)に対するSCN2B転写産物の比率として、相対的な発現レベルを表す。レーン7の試料では33の値を切り捨て、バーで表す。図1B:α−β2モノクローナル抗体(3D1)を用いた、結腸腫瘍および正常な結腸におけるβ2のタンパク質発現の例。
【図2】図2A:コントロール調整培地(C−CM)又はβ2 ECDを含む調整培地(β2-CM)にて処理した細胞株、又は完全長β2を形質移入した細胞株(FL:β2)(左上の名称)のアクチン細胞骨格の可視化。実験群の画像は同じ条件を用いて撮影した。アクチン細胞骨格はファロイジンにて、核はDAPIにて染色した。15μmスケールバーを左下角に示す。図2B:ブタクサ(RW、左パネル)又はβ2(右パネル)に対する抗体にて処理した、β2形質移入CHO細胞(上2パネル)又はβ2形質移入SW620細胞(下2パネル)におけるβ2誘導表現型変化の抗体ブロック。アクチン細胞骨格はファロイジンにて、核はDAPIにて染色した。実験群の画像はすべて同じ条件を用いて撮影した。スケールバー:15μm。図2C:β2 ECD枯渇アッセイ:NCI-H226細胞は、偽(mock)β2枯渇又は部分的ないしは完全なβ2枯渇を受けたコントロール(C−CM)又はβ2調整培地(β2−CM)にて処理した。対応するタンパク質回復は、α−β2イムノブロットにてレーンごとに示す。レーン1はポジティブコントロールとして調整培地から単離されるβ2を含む。アクチン細胞骨格はファロイジンにて、核はDAPIにて染色した。画像はすべて同じ条件を用いて撮影した。スケールバー:15μm。
【図3A−B】図3A:0.1%ウシ胎児血清(FBS)中の、ベクター形質移入(Vec)SW620コントロール細胞又はβ2形質移入(FL:β2)SW620細胞、又はβ2 ECDを含む調整培地(β2−CM)又はコントロール調整培地(C−CM)にて処理したSW620細胞の移動。血清がない場合(0%FBS)には移動は観察されなかった。蛍光強度はYO−PRO−1にて染色した移動した細胞のものである。誤差バーは3通りの結果から求めた平均値の標準偏差を表す。β2形質移入SW620細胞又はβ2−ECD処理SW620細胞の両方において、移動の統計学的に有意な増加が観察された(それぞれp=0.03、p=0.0009)。図3B:α−ブタクサ(RW)抗体又は2つの異なるα−β2抗体(3D1又は12A9)にて処理したSW480細胞の移動。蛍光強度はYO−PRO−1にて染色した移動した細胞のものである。誤差バーは3通りの結果から求めた平均値の標準偏差を表す。両方のα−β2抗体の存在下において、移動の統計学的に有意な減少が観察された(それぞれp=0.001)。
【図3C−E】図3C:飢餓アッセイ:飢餓後の全細胞中の割合としての、ベクター形質移入(Vec)SW620コントロール細胞又はβ2形質移入(FL:β2)SW620細胞の細胞死。実験は3回行い、誤差バーは平均値の標準偏差を表す。β2を形質移入したSW620細胞に、細胞死の統計学的に有意な減少が観察された(p=0.002)。図3D:SW620細胞のドキソルビシン耐性:ベクターのみ(Vec)又は完全長β2(FL:β2)を形質移入した細胞についての、ドキソルビシン(μg/ml、X軸)存在下における細胞生存率(Y軸)。実験は3回行い、誤差バーは平均値の標準偏差を表す。図3E:CHO細胞のメトトレキセート耐性:全体中の割合としての、コントロール調整培地(C−CM)又はβ2 ECDを含む調整培地(β2-CM)にて処理した細胞の細胞死。実験は3回行い、誤差バーは平均値の標準偏差を表す。β2 ECDにて処理したCHO細胞では、細胞死の統計学的に有意な減少が観察された(p=0.01)。
【図4A−C】図4A:SW620コントロール処理細胞(C−CM)又は、β2タンパク質を形質移入した細胞(FL:β2)ないしはβ2 ECDを含む調整培地にて処理した細胞(β2−CM)の、Eカドヘリン染色。核はDAPIにて染色した。画像はすべて同じ条件を用いて撮影した。スケールバー:15μm。図4B:(i) ベクター(Vec)又は完全長β2(FL:β2)を形質移入した細胞、又は(ii) コントロール調整培地(C-CM)又はβ2 ECDを含む調整培地(β2−CM)にて処理した細胞における、SW620のEカドヘリン染色のFACS分析。中央の比率値をプロットし、誤差バーは2つの実験結果の標準偏差を表す。図4C:SW620コントロール処理細胞(C−CM)又は、β2タンパク質を形質移入した細胞(FL:β2)ないしはβ2 ECDを含む調整培地にて処理した細胞(β2−CM)の、Eビメンチン染色。核はDAPIにて染色した。画像はすべて同じ条件を用いて撮影した。スケールバー:15μm。
【図4D−E】図4D:Twist1枯渇:非ターゲティングコントロール配列(siNT)又はsiRNAターゲティングTwist1(siTwist1)を用いてsiRNAノックダウンを行った後の、β2 ECDを含む調整培地にて処理したSW620細胞(β2−CM)のアクチン細胞骨格(ファロイジン、上パネル)およびEカドヘリン(下パネル)染色。コントロール調整培地(C−CM)にて処理したsiNT細胞又はsiTwist1細胞では、表現型又はEカドヘリン染色の変化は検出されなかった。実験群の画像は同じ条件を用いて撮影した。核はDAPIにて染色した。スケールバー:15μm。図4E:Eカドヘリンレベル:コントロール調整培地(C−CM)又はβ2調整培地(β2−CM)にて処理したSW620細胞についての、Twist1枯渇実験におけるEカドヘリン染色の定量分析。統計学的分析は、Twist1を枯渇させたβ2−ECD処理細胞(siTwist1およびsiTwist1(3))のEカドヘリンレベルが、非ターゲッティングコントロール(siNT)を形質移入したβ2−ECD処理細胞と比較して有意に異なる(p=0.001および0.009)ことを示した。最後のカラムであるsiTwist1(3)は、Twist1をターゲティングする3つの更なる独立したsiRNA配列についてのデータの併用分析を表す。記述されるように、細胞の少なくとも5つの別々のフィールドをMetamorphを用いた定量分析に使用した。誤差バーは標準誤差を表す。
【図5A−C】図5A:SW620およびSW480細胞(上方2つのパネル)と結腸腫瘍および正常結腸(下方2つのパネル)のβ2(左列)およびREST(右列)染色。実験群の画像はすべて同じ条件を用いて撮影した。スケールバー:15μm。図5B:非ターゲッティングコントロール(siNT)と比較したときの、RESTのsiRNAノックダウン後のSW620(siREST)におけるREST(上方パネル)とβ2(下方パネル)のイムノブロット分析。分子量(KDa)を左に示す。また、ブロットは、β-チューブリンをローディングコントロールとしてプロットした(中央のパネル)。図5C:非ターゲッティングsiRNAコントロール(siNT、100%とする)に関して基準化したときの、siRNAによるRESTノックダウン後のRESTタンパク質(REST)の相対的な減少とβ2(β2)の相対的な増加。図5BのイムノブロットのLicor強度読み取り値から決定された、バックグラウンドを減算し、β-チューブリンに基準化した値。
【図5D−E】図5D:REST枯渇:siRNAによりRESTをノックダウンした後(siREST)又は非ターゲッティングコントロール(siNT)、及びα-ブタクサ(siREST、α-RW)又はα−β2(siREST、α−β2)抗体の存在下での、SW620細胞のアクチン細胞骨格(ファロイジン、上方パネル)、Eカドヘリン(中央パネル)およびビメンチン(下方パネル)染色。実験群の画像はすべて同じ条件を用いて撮影した。核はDAPIにて染色した。スケールバー:15μm。図5E:Eカドヘリンレベル:図5DのSW620細胞実験グループについてのsiREST枯渇のEカドヘリン染色の定量分析。REST特異的siRNAを形質移入した細胞(siREST)のEカドヘリンレベルは、非ターゲッティングコントロールを形質移入した細胞において検出されたレベル(siNT;p=0.001)と比較して、有意に低減していた。α−β2抗体である3D1(siREST:3D1)および2E3(siREST:2E3)の存在下でのREST枯渇は、REST枯渇細胞(siREST)又はα-ブタクサ抗体にて処理したREST枯渇細胞(siREST:α-RW)と比較して有意に増加した野生型レベルのEカドヘリン染色となった(p=0.02およびp=0.01)。記述したように、細胞の少なくとも5つの独立したフィールドをMetamorphを用いた定量分析に使用した。誤差バーは標準誤差を表す。
【図6】図6A:Notch1枯渇:非ターゲッティングコントロール配列(siNT)又はsiRNAターゲティングNotch1(siNotch1)によりsiRNAノックダウンした後の、β2 ECDを含む調整培地(β2-CM)にて処理したSW620細胞のアクチン細胞骨格(ファロイジン、上方パネル)及びEカドヘリン(下方パネル)染色。コントロール調整培地(C-CM)にて処理したsiNT又はsiNotch1細胞において、表現型又はEカドヘリン染色の変化は検出されなかった。実験群の画像は同じ条件を用いて撮影した。核はDAPIにて染色した。スケールバー:15μm。図6B:Notchシグナル伝達の化学的な阻害:DMSO又はDAPTを含むDMSO(DAPT)の添加後のβ2 ECDを含む調整培地(β2-CM)にて処理したSW620細胞のEカドヘリン染色。DMSO中のコントロール調整培地(C-CM)にて処理した細胞では、Eカドヘリン染色の変化は検出されなかった。実験群の画像は同じ条件を用いて撮影した。核はDAPIにて染色した。スケールバー:15μm。図6C:Eカドヘリンレベル:コントロール調整培地(C−CM)又はβ2調整培地(β2-CM)にて処理した、siNotch1枯渇及びDAPT処理のSW620細胞におけるEカドヘリン染色の定量分析。統計学的分析は、Notch1(siNotch1およびsiNotch1(3))を枯渇させたβ2-ECD処理細胞のEカドヘリンレベルが、非ターゲッティングコントロール(siNT)を形質移入したβ2−ECD処理細胞と比較して、有意に異なる(p=0.03および0.03)ことを示した。siNotch1(3)と表示した列は、3つの更なる別々のNotch1をターゲティングするsiRNA配列についてのデータを併用した分析を表す。DMSO中のβ2−ECD処理細胞(DMSO)と比較して、β2−ECD(β2−CM)にて処理したDAPT処理細胞(DAPT)のEカドヘリンレベルもまた有意に異なっていた(p=0.00001)。記述したように、細胞の少なくとも5つの独立したフィールドをMetamorphを用いた定量分析に使用した。誤差バーは標準誤差を表す。
【図7】図7A:ベクターのみ(Vec:レーン1−3)又はβ2(FL:β2:レーン4−6)を形質移入したSW620細胞における、α−β2抗体(β2:レーン2、3、5、6)又はα-ブタクサ抗体(RW:レーン1、4)を用いた、SW620細胞の内在性Notch1の共免疫沈降。イムノブロットはNotch1ポリクローナル抗体(G20)にてプローブし、バンドは該抗体の予測された大きさに(およそ120kDa、左に示す)検出された。内在性Notch1のレベルおよび二重バンドパターンをレーン7に示す。このレーン7はSW620細胞溶解物(25μgの総タンパク質)を含む。図7B:Notch1およびβ2 ECDの結合。レーン1および3はCHO細胞からのβ2調整培地(His(8)タグ付加β2 ECDを含む)を含み、レーン2及び4は無関係なHis(8)タグ付加タンパク質(Gli-1)を含むCHO細胞からのコントロール調整培地を含む。Flagタグ付加Notch1 ECDタンパク質を、記載のようにレーン1−4に加えた。レーン5は100ngの精製されたNotch1 ECDを含み、レーン6は50ngのβ2 ECD(大腸菌から発現されて精製されたもの)を含む。ブロットは、α-Flag抗体(標識したNotch1、イムノブロットの上部)を用いてNotch1についてプローブし、次いで取り除き、α−β2モノクローナル抗体(3D1、標識したβ2、イムノブロットの下部)を用いてβ2について再プローブした。分子量(KDa)を左に示す。図7C:EGFリピート領域10−21およびβ2 ECDを含むNotch1 ECD断片の結合。レーン1および3はCHO細胞からのβ2調整培地(His(8)タグ付加β2 ECDを含む)を含み、レーン2及び4は無関係なHis(8)タグ付加タンパク質を含むCHO細胞からのコントロール調整培地を含む。Flagタグ付加Notch1 ECD EGFリピート領域を、レーン1および2(EGF10−21)とレーン3および4(EGF22−33)に加えた。レーン5および6は、それぞれ、75ngの精製したNotch1 ECD、EGF10−21又はEGF22−33を含む。ブロットは、α-Flag抗体を用いてNotch ECDをプローブした。分子量(KDa)を左に示す。 図7D:β2に応答する核へのNotch1 NICDの転移。ベクターのみ(Vec)又は完全長β2タンパク質(FL:β2)を形質移入したSW620細胞におけるNotch1 NICD染色は左の2つのパネルに示し、コントロール調整培地(C-CM)又はβ2 ECDを含む調整培地(β2-CM)にて処理したSW620細胞のNICD染色は右の2つのパネルに示す。核はDAPIにて染色した。スケールバー:15μm。パネルの下列は、上パネルの画像から拡大した領域を含む。
【図8】RESTの喪失、β2の発現およびNotch経路シグナル伝達の活性化から生じるEMTの誘導についての提唱される経路の概略。CDH1=E-カドヘリン。
【図9】腫瘍細胞株におけるREST及びβ2の反相関:RESTおよびβ2の発現についての腫瘍細胞株の免疫蛍光分析の概要。染色の半定量的評価を+によって示す。
【図10A−C】図10A:十分に分化した原発性結腸腫瘍(HF3766、上パネル)およびあまり分化していない浸潤性原発性結腸腫瘍(HF3546、下パネル)の例による、新鮮凍結結腸腫瘍切片のLCM実験。キャプチャした細胞を左パネルに概説する。図10B:β-アクチン発現に基準化した、LCMおよびマイクロアレイ分析に用いた試料からの切片におけるβ2転写産物発現のRT−PCR分析。図10C:LCMに用いたものに対応する結腸腫瘍切片(新鮮凍結切片)上のβ2転写産物についての非アイソトープインサイツハイブリダイゼーション(ISH)。センスコントロールを一致する切片について実行し、下パネルの各画像について示す。
【図10D−E】図10D:ベクターのみ(VEC:レーン2)又は完全長β2(β2:レーン3)を形質移入したSW620における、α−β2モノクローナル抗体(3D1)を用いたイムノブロット上のβ2タンパク質の検出。25μgの総細胞タンパク質をレーン2および3に流した。精製したβ2 ECD(4ng)をレーン1(標識したECD)に流した。分子量(KDa)を右に示す。図10E:α−β2モノクローナル抗体(3D1、上パネル)を用いたイムノブロット分析によるヒト腫瘍全体に対する検出。すべての試料は腫瘍試料であり、起源の組織を初めに列挙する。また、ブロットは、ローディングコントロールとしてβ-チューブリンを用いてプローブした(下パネル)。分子量(KDa)を左に示す。
【図11A−B】図11A:β2 ECDを含む調整培地(β2-CM、右パネル)又はコントロール調製培地(C-CM、左パネル)にて処理した様々な細胞株についてのアクチン細胞骨格の染色(ファロイジン)。細胞株(名称は左に列挙する):SW480、PC3、HUVEC、MDCK、HEK293。核はDAPIにて染色した。図11B:β2応答性の腫瘍細胞株SW620、SW480、NCI−H226、PC−3と、内皮細胞株HUVECにおけるNotch1転写産物発現。Affymetrixマイクロアレイデータから、MAS5強度値をY軸にプロットする。
【図11C−D】図11C:β2応答性の腫瘍細胞株SW620、SW480、NCI−H226、PC−3と、内皮細胞株HUVECにおけるNotch2転写産物発現。Affymetrixマイクロアレイデータから、MAS5強度値をY軸にプロットする。図11D:SW620における他のNotchリガンドとレセプターの発現:Jagged1(JAG1)、Jagged2(JAG2)、Notch3、Notch4。Affymetrixマイクロアレイデータから、MAS5強度値をY軸にプロットする。
【図12】図12A:β2 ECDを含む調整培地にて処理したSW620細胞における、0〜72時間のHES1およびTwist1転写産物発現。RNAは0、6、18、24、48および72時間の時点に細胞から抽出し、汎用比較RNAに対してAgilent全ヒトゲノムマイクロアレイによりマイクロアレイ分析を行った。ログ比率(Y軸)は時間ごとにプロットした(X軸)。2つの独立したHES1オリゴヌクレオチドプローブ配列、及びTwist1についての転写産物データを示す。図12B:β2 ECDにて処理したSW620細胞における0、6および18時間のTwist1転写産物発現のRT−PCR分析。Twist1発現は、ハウスキーピング遺伝子RPL19に対して基準化した。
【図13A−B】図13A:REST枯渇:RESTに特異的なsiRNA(siREST)又は非ターゲッティングコントロール(siNT)を形質移入したSW620細胞における、REST(i)及びβ2(ii)の転写産物発現のRT−PCR分析。転写産物レベルは、ハウスキーピング遺伝子RPL19に基準化した。図13B:REST枯渇:RESTに特異的なsiRNA(siREST:右パネル)又は非ターゲッティングコントロール(siNT:左パネル)を形質移入したSW620細胞における、REST(上パネル)及びβ2(下パネル)の免疫蛍光分析。核はDAPIにて染色した。すべての実験群は同じ条件を用いて撮影した。スケールバー:15μm。
【図13C】図13C:Notch1枯渇:Notch1に特異的なsiRNA(siNotch1)又は非ターゲッティングコントロール(siNT)を形質移入したSW620細胞における、Notch1転写産物発現のRT−PCR分析。転写産物レベルはハウスキーピング遺伝子RPL19に対して基準化した。
【図14】抗体ブロック実験。5つの異なる抗β2抗体を競合結合アッセイに用いた。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、RESTの喪失をNotchシグナル伝達の活性化と結びつけるNotchの新規リガンドとしてのβ2の同定にある程度基づき、それによって腫瘍進行および転移におけるβ2、RESTおよびNotchのための役割を定める。
【0015】
I.定義
特に明記しない限り、「β2」なる用語は、霊長類(例えばヒト)および齧歯動物(例えばマウスおよびラット)のような哺乳動物を含む、任意の脊椎動物の供与源からの任意の天然のナトリウムチャネルβ2サブユニットを指す。この用語は、「完全長」、プロセシングされていないβ2、並びに細胞でのプロセシングから生じるβ2の任意の形態を包含する。また、この用語は、β2の天然に生じる変異体、例えばスプライス変異体又は対立遺伝子変異体を包含する。
本願明細書において用いられる「Notch」又は「Notchレセプター」なる用語は、一回貫通ヘテロ二量体膜貫通レセプターのNotchファミリーに属する任意のタンパク質を指す。特に明記しない限り、この用語は、霊長類(例えばヒト)および齧歯動物(例えばマウスおよびラット)のような哺乳動物を含む、任意の脊椎動物の供与源からの天然のNotchを包含する。この用語は、哺乳類のNotchレセプター(Notch1、Notch2、Notch3及びNotch4)を包含する。この用語は、「完全長」、プロセシングされていないNotch、並びに細胞でのプロセシングから生じるNotchの任意の形態を包含する。また、この用語は、Notchの天然に生じる変異体、例えばスプライス変異体又は対立遺伝子変異体を包含する。
【0016】
本願明細書において用いられる「Jagged」なる用語は、NotchのためのリガンドのJagged(または、「Serrate」)ファミリに属する任意のタンパク質を指す。特に明記しない限り、この用語は、霊長類(例えばヒト)および齧歯動物(例えばマウスおよびラット)のような哺乳動物を含む任意の脊椎動物の供与源からの天然のJaggedを包含する。この用語は、Jagged1(Serrate1とも称される)およびJagged2(Serrate2とも称される)と称される哺乳動物のJaggedファミリを包含する。この用語は、「完全長」、プロセシングされていないJagged、並びに細胞でのプロセシングから生じるJaggedの任意の形態を包含する。また、この用語は、Jaggedの天然に生じる変異体、例えばスプライス変異体又は対立遺伝子変異体を包含する。
本願明細書において用いられる「DLL」は、NotchのためのリガンドのDelta様ファミリに属する任意のタンパク質を指す。特に明記しない限り、この用語は、霊長類(例えばヒト)および齧歯動物(例えばマウスおよびラット)のような哺乳動物を含む任意の脊椎動物の供与源からの天然のDLLを包含する。この用語は、Delta様1(DLL1)、Delta-様3(DLL3)およびDelta-様4(DLL4)と称される哺乳動物のDLLファミリメンバーを包含する。この用語は、「完全長」、プロセシングされていないDLL、並びに細胞でのプロセシングから生じるDLLの任意の形態を包含する。また、この用語は、DLLの天然に生じる変異体、例えばスプライス変異体又は対立遺伝子変異体を包含する。
【0017】
本明細書において用いられる「REST」なる用語は、特に明記しない限り、霊長類(例えばヒト)および齧歯動物(例えばマウスおよびラット)のような哺乳動物を含む任意の脊椎動物の供与源からの任意の天然のリプレッサーエレメント1サイレンシング転写(REST)因子を指す。この用語は、「完全長」、プロセシングされていないREST、並びに細胞でのプロセシングから生じるRESTの任意の形態を包含する。また、この用語は、RESTの天然に生じる変異体、例えばスプライス変異体又は対立遺伝子変異体を包含する。
「PRO」なる用語は、概して、限定するものではないが、β2、Notch、Jagged、DLLおよびRESTのいずれかを含む、本明細書中に記載の任意のタンパク質を指す。
「β2のアンタゴニスト」は、β2又はβ2をコードする核酸(例えばSCN2B核酸)の産生を阻害する薬剤;β2のプロセシングを阻害する薬剤(例えばβ2からのECDの放出);又は、Notchへのβ2の結合を阻害するためにβ2又はNotchと直接相互作用する薬剤を指す。
【0018】
「疾患」は、本発明の組成物又は方法による処置により利益を得るであろう任意の症状又は疾患である。これには、哺乳動物を問題の疾患に罹りやすくする病的状態を含む、慢性及び急性の疾患が含まれる。本明細書において治療される疾患の非限定的な例には、抵抗性又は転移性の癌を含む、癌(例えば結腸癌)などの症状が含まれる。
ここで使用される「治療」(及び「治療する」又は「治療している」などの変形)とは、治療される個体又は細胞の自然の経過を変化させる試みにおける臨床的介入を意味し、予防のため、又は臨床病理経過中に実施することができる。治療の所望する効果には、疾患の発症又は再発の予防、症状の緩和、疾病の任意の直接的又は間接的な病理学的結果の減少、転移の予防、疾病の進行速度の低減、病状の回復又は緩和、及び寛解又は予後の改善が含まれる。ある実施態様では、本発明の抗体は、疾患又は疾病の発達を遅らせるか、又は疾患又は疾病の進行を緩徐化するために用いられる。
【0019】
「個体」、「被検体」又は「患者」は脊椎動物である。特定の実施態様では、脊椎動物は哺乳動物である。哺乳動物には、これに限定されないが、家畜(例えばウシ)、スポーツ用動物、愛玩動物(例えばネコ、イヌ及びウマ)、霊長類、マウス及びラットが含まれる。特定の実施態様では、哺乳動物はヒトである。
「薬学的製剤」なる用語は、活性成分の生物学的活性が有効となるような形態であり、製剤が投与される被検体に対して許容できない毒性がある付加的化合物を含まない調製物を指す。このような製剤は無菌でもよい。
【0020】
「有効量」とは、所望される治療的又は予防的結果を達成するのに必要な期間、必要な用量での有効量を意味する。
個体に所望する反応を引き出すための本発明の物質/分子の「治療的有効量」は、病状、年齢、性別、個体の体重、及び物質/分子の能力等の要因に応じて変わり得る。また、治療的有効量とは、物質/分子の任意の毒性又は有害な影響を、治療的に有益な効果が上回る量を含む。「予防的有効量」は、所望する予防的結果を達成するのに必要な期間、用量で有効な量を意味する。必ずではないが、典型的には、予防的用量は、疾病の前又は初期の段階に患者に使用されるために、予防的有効量は治療的有効量よりも少ない。
【0021】
ここで用いられる「細胞障害性剤」という用語は、細胞の機能を阻害又は阻止し及び/又は細胞死又は破壊を生ずる物質を意味する。この用語は、放射性同位元素(例えば、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212及びLuの放射性同位元素)、化学治療薬、例えばメトトレキセート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド類(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシン又は他の挿入剤、酵素及びその断片、例えば核酸分解酵素、抗生物質、及び毒素、例えばその断片及び/又は変異体を含む小分子毒素又は細菌、糸状菌、植物又は動物起源の酵素的に活性な毒素、そして下記に開示する種々の抗腫瘍又は抗癌剤を含むように意図されている。他の細胞毒性剤を以下に記載する。殺腫瘍性剤は、腫瘍細胞の破壊を引き起こす。
「毒素」は、細胞の成長又は増殖に対して有害な影響を有する任意の物質である。
【0022】
「化学療法剤」は、癌の治療に有用な化学的化合物である。化学療法剤の例には、チオテパ及びシクロホスファミド(CYTOXAN(商標登録))のようなアルキル化剤;ブスルファン、インプロスルファン及びピポスルファンのようなスルホン酸アルキル類;ベンゾドーパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドーパ(meturedopa)、及びウレドーパ(uredopa)のようなアジリジン類;アルトレートアミン(altretamine)、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミド(triethiylenethiophosphoramide)及びトリメチローロメラミン(trimethylolomelamine)を含むエチレンイミン類及びメチラメラミン類;アセトゲニン(特にブラタシン及びブラタシノン);デルタ−9−テトラヒドロカンナビノール(ドロナビロール、MARINOL(登録商標));β−ラパコン;ラパコール;コルヒチン;ベツリン酸;カンプトテシン(合成アナログトポテカン(HYCAMTIN(登録商標)、CPT−11(イリノテカン、CAMPTOSAR(登録商標))、アセチルカンプトテシン、スコポレチン、及び9−アミノカンプトテシンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン;CC-1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン及びビゼレシン合成アナログを含む);ポドフィロトキシン;ポドフィリン酸;テニポシド;クリプトフィシン(特にクリプトフィシン1及びクリプトフィシン8);ドラスタチン;ドゥオカルマイシン(合成アナログ、KW-2189及びCB1-TM1を含む);エリュテロビン;パンクラチスタチン;サルコジクチン;スポンジスタチン;クロランブシル、クロルナファジン(chlornaphazine)、チョロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イフォスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシドヒドロクロリド、メルファラン、ノベンビチン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン(prednimustine)、トロフォスファミド(trofosfamide)、ウラシルマスタードなどのナイトロジェンマスタード;カルムスチン、クロロゾトシン(chlorozotocin)、フォテムスチン(fotemustine)、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチンなどのニトロスレアス(nitrosureas);抗生物質、例えばエネジイン抗生物質(例えば、カリケアマイシン(calicheamicin)、特にカリケアマイシンγ1I及びカリケアマイシンωI1(例えばNicolaou et al., Angew. Chem Intl. Ed. Engl., 33: 183-186 (1994)参照);CDP323、経口α-4インテグリンインヒビター;ダイネマイシン(dynemicin)Aを含むダイネマイシン;エスペラマイシン;並びにネオカルチノスタチン発色団及び関連する色素タンパクエネジイン抗生物質発色団)、アクラシノマイシン類(aclacinomysins)、アクチノマイシン、オースラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン(cactinomycin)、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン、カルジノフィリン(carzinophilin)、クロモマイシン類、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン(detorbicin)、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(ADRIAMYCIN(登録商標)、モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシン、ドキソルビシンHClリポソーム注射(DOXIL(登録商標))、リポソームドキソルビシンTLC D−99(MYOCET(登録商標))、ペグ化リポソームドキソルビシン(CAELYX(登録商標))及びデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マーセロマイシン(marcellomycin)、マイトマイシンCのようなマイトマイシン、マイコフェノール酸(mycophenolic acid)、ノガラマイシン(nogalamycin)、オリボマイシン(olivomycins)、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、ケラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン(tubercidin)、ウベニメクス、ジノスタチン(zinostatin)、ゾルビシン(zorubicin);代謝拮抗剤、例えばメトトレキセート、ゲムシタビン(GEMZAR(登録商標))、テガフール(UFTORAL(登録商標))、カペシタビン(XELODA(登録商標))、エポチロン及び5-フルオロウラシル(5-FU);葉酸アナログ、例えばデノプテリン(denopterin)、メトトレキセート、プテロプテリン(pteropterin)、トリメトレキセート(trimetrexate);プリンアナログ、例えばフルダラビン(fludarabine)、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン;ピリミジンアナログ、例えばアンシタビン、アザシチジン(azacitidine)、6-アザウリジン(azauridine)、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン(enocitabine)、フロキシウリジン(floxuridine);アンドロゲン類、例えばカルステロン(calusterone)、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン(testolactone);抗副腎剤、例えばアミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン;葉酸リプレニッシャー(replenisher)、例えばフロリン酸(frolinic acid);アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン(amsacrine);ベストラブシル(bestrabucil);ビサントレン(bisantrene);エダトラキセート(edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルシン(demecolcine);ジアジコン(diaziquone);エルフォルニチン(elfornithine);酢酸エリプチニウム(elliptinium);エポチロン(epothilone);エトグルシド(etoglucid);硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダミン(lonidainine);メイタンシノイド(maytansinoid)類、例えばメイタンシン(maytansine)及びアンサミトシン(ansamitocine);ミトグアゾン(mitoguazone);ミトキサントロン;モピダモール(mopidanmol);ニトラクリン(nitracrine);ペントスタチン;フェナメット(phenamet);ピラルビシン;ロソキサントロン;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標)多糖複合体(JHS Natural Products, Eugene, OR);ラゾキサン(razoxane);リゾキシン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム(spirogermanium);テニュアゾン酸(tenuazonic acid);トリアジコン(triaziquone);2,2',2''-トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン類(特にT-2毒素、ベラクリン(verracurin)A、ロリジン(roridine)A及びアングイジン(anguidine));ウレタン;ビンデシン(ELIDISINE(登録商標)、FILDESIN(登録商標));ダカルバジン;マンノムスチン(mannomustine);ミトブロニトール;ミトラクトール(mitolactol);ピポブロマン(pipobroman);ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);チオテパ;タキソイド、例えばパクリタキセル(TAXOL(登録商標))、パクリタキセルのアルブミン操作ナノ粒子製剤(ABRAXANETM)およびドセタキセル(TAXOTERE(登録商標));クロランブシル;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキセート;プラチナ薬剤、例えばシスプラチン、オキサリプラチン(例えばELOXATIN(登録商標))及びカルボプラチン;チューブリン重合が微小管を形成するのを妨げるビンカ、例えばビンブラスチン(VELBAN(登録商標))、ビンクリスチン(ONCOVIN(登録商標))、ビンデシン(ELDISINE(登録商標)、FILDESIN(登録商標))およびビノレルビン(NAVELBINE(登録商標));エトポシド(VP-16);イホスファミド;マイトキサントロン;ロイコボリン;ノバントロン(novantrone);エダトレキセート;ダウノマイシン;アミノプテリン;イバンドロナート(ibandronate);トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチロールニチン(DMFO);レチノイン酸などのレチノイド、例えばベキサロテン(TARGRETIN(登録商標));ビスホスホネート、例えばクロドロネート(例えばBONEFOS(登録商標)又はOSTAC(登録商標))、エチドロン酸(DIDROCAL(登録商標))、NE−58095、ゾレドロン酸/ゾレドロネート(ZOMETA(登録商標))、アレンドロネート(FOSAMAX(登録商標))、パミドロン酸(AREDIA(登録商標))、チルドロネート(SKELID(登録商標))、又はリセドロネート(ACTONEL(登録商標));トロキサシタビン(1,3-ジオキソランヌクレオシドシトシン類似体);アンチセンスオリゴヌクレオチド、特に異常な細胞増殖に関係するシグナル伝達経路における遺伝子の発現を阻害するもの、例えばPKC−α、Raf、H−Rasおよび上皮増殖因子レセプター(EGF-R);ワクチン、例えばTHERATOPE(登録商標)ワクチンおよび遺伝子治療ワクチン、例えばALLOVECTIN(登録商標)ワクチン、LEUVECTIN(登録商標)ワクチンおよびVAXID(登録商標)ワクチン;トポイソメラーゼ1インヒビター(例えばLURTOTECAN(登録商標));rmRH(例えばABARELIX(登録商標));BAY439006(ソラフェニブ;Bayer);SU-11248(スニチニブ、SUTENT(登録商標)、Pfizer);ペリホシン、COX-2インヒビター(例えばセレコキシブ又はエトリコキシブ)、プロテオゾームインヒビター(例えばPS341);ボルテゾミブ(VELCADE(登録商標));CCI-779;ティピファニブ(R11577);オラフェニブ(orafenib)、ABT510;BCL-2インヒビター、例えばオブリメルセンナトリウム(GENASENSE(登録商標));ピクサントロン;EGFRインヒビター(下記の定義を参照);チロシンキナーゼインヒビター(下記の定義を参照);セリン-スレオニンキナーゼインヒビター、例えばラパマイシン(シロリムス、RAPAMUNE(登録商標));ファルネシルトランスフェラーゼインヒビター、例えばロナファーニブ(SCH6636、SARASARTM);及び上述したものの薬学的に許容可能な塩類、酸類又は誘導体、並びに、上記のうちの2つ以上の組み合わせ、例えば、CHOP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、及びプレドニゾロンの併用療法の略称)、及びFOLFOX(5−FU及びロイコボリンと組み合わせたオキサリプラチン(ELOXATINTM)を用いる治療計画の略称)が含まれる。
【0023】
本明細書において定義する化学療法剤には、癌の増殖を促しうるホルモンの影響を調節する、低減する、ブロックする又は妨げるように働く「抗ホルモン剤」又は「内分泌療法」が含まれる。それらは、それ自体ホルモン類であり、限定するものではないが、混合アゴニスト/アンタゴニスト性質を有する抗エストロゲン類、例えば、タモキシフェン(NOLVADEX(登録商標))、4-ヒドロキシタモキシフェン、トレミフェン(FARESTON(登録商標))、イドキシフェン、ドロロキシフェン(droloxifene)、ラロキシフェン(EVISTA(登録商標))、トリオキシフェン(trioxifene)、ケオキシフェン(keoxifene)およびSERM3などの選択的なエストロゲンレセプター調節因子(SERM);アゴニスト性質を有さない純粋な抗エストロゲン類、例えばフルベストラント(FASLODEX(登録商標))およびEM800(このような薬剤は、エストロゲンレセプター(ER)二量体化をブロックする、DNA結合を阻害する、ER代謝回転を増やす、および/またはERレベルを抑制しうる);アロマターゼインヒビター、例えば、ホルメスタンおよびエキセメスタン(AROMASIN(登録商標))などのステロイド系アロマターゼインヒビター、及びアナストロゾール(ARIMIDEX(登録商標))、レトロゾール(FEMARA(登録商標))およびアミノグルテチミドなどの非ステロイド性アロマターゼインヒビター、及びボロゾール(RIVISOR(登録商標))、メゲストロールアセテート(MEGASE(登録商標))、ファドロゾール及び4(5)-イミダゾールを含む他のアロマターゼインヒビター;黄体形成ホルモン放出ホルモンアゴニスト、例えばロイプロリド(LUPRON(登録商標)およびELIGARD(登録商標))、ゴセレリン、ブセレリンおよびトリプトレリン;性ステロイド、例えばプロゲスチン、例えばメゲストロールアセテートおよびメドロキシプロゲステロンアセテート、エストロゲン、例えばジエチルスチルベストロールおよびプレマリン、およびアンドロゲン/レチノイド、例えばフルオキシメステロン、すべてのトランスレチオニン酸およびフェンレチニド;オナプリストン;抗プロゲステロン;エストロゲンレセプター下方制御因子(ERD);抗アンドロゲン類、例えばフルタミド、ニルタミドおよびビカルタミド;及び上記いずれかの薬学的に許容可能な塩類、酸又は誘導体;並びに、上記のうちの2以上の組合せを含む。
【0024】
ここで用いられる際の「増殖阻害剤」は、細胞の増殖をインビトロ又はインビボの何れかで阻害する化合物又は組成物を意味する。よって、増殖阻害剤は、S期で細胞の割合を有意に減少させるものである。増殖阻害剤の例は、細胞周期の進行を(S期以外の位置で)阻害する薬剤、例えばG1停止又はM期停止を誘発する薬剤を含む。古典的なM期ブロッカーは、ビンカス(ビンクリスチン及びビンブラスチン)、タキサン類、及びトポイソメラーゼII阻害剤、例えばドキソルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、エトポシド、及びブレオマイシンを含む。またG1停止させるこれらの薬剤は、S期停止にも波及し、例えば、DNAアルキル化剤、例えば、タモキシフェン、プレドニゾン、ダカルバジン、メクロレタミン、シスプラチン、メトトレキセート、5-フルオロウラシル、及びアラ-Cである。更なる情報は、The Molecular Basis of Cancer, Mendelsohn及びIsrael, 編, Chapter 1, 表題「Cell cycle regulation, oncogene, and antineoplastic drugs」, Murakami et al., (WB Saunders: Philadelphia, 1995)、例えば13頁に見出すことができる。タキサン類(パクリタキセル及びドセタキセル)は、共にイチイに由来する抗癌剤である。ヨーロッパイチイに由来するドセタキセル(TAXOTERE(登録商標)、ローン・プーラン ローラー)は、パクリタキセル(TAXOL(登録商標)、ブリストル-マイヤー スクウィブ)の半合成類似体である。パクリタキセル及びドセタキセルは、チューブリン二量体から微小管の集合を促進し、細胞の有糸分裂を阻害する結果となる脱重合を防ぐことによって微小管を安定化にする。
【0025】
「癌」及び「癌性」は、一般的に、無秩序な細胞成長/増殖により特徴付けられる哺乳動物の生理的状況を意味する。このような癌の例には、これに限定されないが、カルシノーマ、リンパ腫(例えばホジキンリンパ腫及び非ホジキンリンパ腫)、芽細胞腫、肉腫及び白血病を含む。癌のより詳細な例は、扁平上皮癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺の腺癌、肺の扁平上皮癌、腹膜の癌、肝細胞癌、消化管癌、膵臓癌、グリオーマ、子宮頸癌、卵巣癌、肝癌、膀胱癌、ヘパトーマ、乳癌、結腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜又は子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌、肝臓癌、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、肝癌、白血病及び他のリンパ球増殖性疾患、及び様々な型の頭部癌及び頸部癌が含まれる。
「細胞増殖性疾患」及び「増殖性疾患」は、無視できない程の異常な細胞増殖に関連した疾患を意味する。一実施態様において、細胞増殖性疾患は癌である。
「細胞成長又は増殖を阻害する」とは、細胞の成長又は増殖が少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%又は100%減少することを意味し、細胞死を誘導することを含む。
【0026】
本明細書中で用いる「腫瘍」なる用語は、悪性、良性を問わずすべての腫瘍性細胞成長及び増殖、及び全ての前癌性及び癌性細胞及び組織を意味する。「癌」、「癌性」、「細胞増殖性疾患」、「増殖性疾患」及び「腫瘍」は、ここで述べられるように、相互に排他的ではない。
「結腸直腸腫瘍」又は「結腸直腸癌」なる用語は、大腸の任意の腫瘍又は癌を指し、結腸(盲腸から直腸の大腸)および直腸を含む。
「結腸直腸癌細胞」は、インビボ又はインビトロの結腸癌細胞又は直腸癌細胞を指し、結腸直腸癌細胞由来の細胞株を包含する。
「結腸腫瘍」又は「結腸癌」は、結腸の任意の腫瘍又は癌を指す。
「結腸癌細胞」は、インビボ又はインビトロの結腸癌細胞を指し、結腸癌細胞由来の細胞株を包含する。
「新生物」又は「新生物性細胞」なる用語は、対応する正常な組織又は細胞より早く増殖し、増殖を開始させた刺激の除去の後にも増殖し続ける異常な組織又は細胞を指す。
【0027】
「上皮間葉相互作用」又は「EMT」なる用語は、細胞が上皮性質を喪失し、細胞接着の喪失及び移動の増加などの間葉性質を獲得するプロセスを指す。腫瘍細胞の場合、局所の浸潤および/または転移を促進する。
「腫瘍進行」なる用語は、腫瘍形成、腫瘍成長および増殖、浸潤および転移を含む腫瘍のすべての段階を指す。
「腫瘍進行を阻害する」なる用語は、腫瘍の発達、成長、増殖又は拡散を阻害することを意味し、限定するものではないが以下の効果を含む。(1) 緩徐化又は完全な増殖停止を含む、腫瘍増殖のある程度の阻害;(2) 腫瘍細胞の数の減少;(3) 腫瘍サイズの低減;(4) 隣接した末梢臓器および/または組織への腫瘍細胞浸潤の阻害(すなわち緩徐化又は完全な停止);(5) 転移の阻害(すなわち緩徐化又は完全な停止);(6) 腫瘍治療後の患者又は患者集団の生存率の増加;および/または、(7) 腫瘍治療後のある時点での患者又は患者集団の死亡率の低下。
腫瘍進行が上記の通り阻害される場合、腫瘍は特定の薬剤に「反応する」。
【0028】
「アンチセンス核酸」なる用語は、部分的又は完全に相補的である標的ポリヌクレオチドの発現を低減する核酸を指す。アンチセンス核酸は、標的ポリヌクレオチドのために「特定である」、(a)標的ポリヌクレオチド又はコードされたmRNAに選択的に結合し、(b)標的ポリヌクレオチドの発現を少なくともおよそ10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%低減する場合、標的ポリヌクレオチドに「特異的で」ある。
「RNAi」又は「RNA干渉」は、例えば二本鎖RNA媒介メカニズムによるRNA媒介メカニズムによる遺伝子発現の部分的な又は完全な阻害を意味する。「ノックダウン」なる用語は、遺伝子発現の一部又は完全な阻害を指す。
「調節RNA」又は「調節RNA分子」なる用語は、例えば対応するmRNAの発現を調節することにより、遺伝子の発現を調節することができるRNAを意味する。かかる調節RNAには、限定するものではないが、RNAi可能なRNAが含まれる。調節RNAは、もしそれが、(a)標的ポリヌクレオチド又はこのコードされたmRNAに選択的に結合し、及び/又は(b)標的ポリヌクレオチドを発現する細胞において調節RNAが発現される場合、標的ポリヌクレオチドの発現を少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%だけ低減させるならば、標的ポリヌクレオチドに対して「特異的」である。
【0029】
「siRNA」又は「低分子干渉RNA」なる用語は、siRNAが標的ポリヌクレオチドと同じ細胞中で発現される場合に標的ポリヌクレオチドの発現を減少させ又は阻害する能力を有している二本鎖RNAを意味する。二本鎖RNAを形成するsiRNAの相補鎖は典型的には実質的な又は完全な同一性を有している。一実施態様では、siRNAは二本鎖RNAであって、その一方の鎖(「アンチセンス」鎖とも呼ぶ)が標的mRNAの少なくとも一部と実質的な又は完全な同一性を有している。ある実施態様では、siRNAは、約15−50ヌクレオチド長、約20−30ヌクレオチド長、約20−25ヌクレオチド長、又は24−29ヌクレオチド長であり、上述の範囲内の整数である任意の長さを含む。その全体が出典明示によりここに援用されるWO03076592として公開されたPCT/US03/07237もまた参照のこと。siRNA分子は、もしそれが、(a)標的ポリヌクレオチド又はそのコードされたmRNAに選択的に結合し、及び/又は(b)標的ポリヌクレオチドを発現する細胞においてsiRNAが発現される場合、標的ポリヌクレオチドの発現を少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%だけ低減させるならば、標的ポリヌクレオチドに対して「特異的」である。
「siRNA」なる用語は、例えばミクロRNA前躯体(プレ-miRNA)及び低分子ヘアピン型RNA(shRNA)のようなヘアピン構造を形成可能なRNAを包含する。例えば、Brummelkamp等 (2002) Science 550-553を参照のこと。プレ−miRNA又はshRNAは、センス領域、アンチセンス領域、及びループ領域を有し、ヘアピン構造を形成可能である自己相補的なRNA分子である。ある実施態様では、センス及びアンチセンス領域はそれぞれ約15−50ヌクレオチド長、約20−30ヌクレオチド長、約20−25ヌクレオチド長、又は24−29ヌクレオチド長であり、前記範囲内の整数である任意の長さを含む;またループ部分は約2−15ヌクレオチド長又は約6−9ヌクレオチド長であり、前記範囲内の整数である任意の長さを含む。
【0030】
「細胞外ドメイン」又は「ECD」なる用語は、膜貫通及び細胞質のドメインの実質すべてを除外する膜貫通タンパク質の領域を指す。
「可溶性ポリペプチド」は、膜結合性でないポリペプチドを指す。
「抵抗性」腫瘍は、関連する分野の臨床医が、治療に対して有意に耐性がある及び/又は有意に応答しない(又はそのことが予測される)(例えば、治療が施される場合であっても、腫瘍体積、癌細胞の数及び/又は癌の拡散の増加がある)と結論付けるであろう腫瘍を指す。この文脈において、このような治療には、限定するものではないが、化学療法、放射線、幹細胞移植および外科的処置が含まれるが、RESTのアゴニスト、β2のアンタゴニスト又はNotchのアンタゴニストによる処置は除外される。「化学療法に耐性がある」なる表現は、関連する分野の臨床医が、RESTのアゴニスト、β2のアンタゴニスト又はNotchのアンタゴニストによる化学療法を除く、化学療法に対して有意に耐性がある及び/又は有意に応答しない(又はそのことが予測される)腫瘍を指す。
「再発した」とは、治療後に以前の罹患状態に実質的に戻る患者の疾患の退行、特に、治療に応答して見かけの回復又は部分的な回復(例えば寛解)後の症状(例えば癌細胞)の戻りを指す。この文脈において、このような治療には、限定するものではないが、化学療法、放射線、幹細胞移植および外科的処置が含まれるが、RESTのアゴニスト、β2のアンタゴニスト又はNotchのアンタゴニストによる処置は除かれる。
【0031】
本明細書中の「抗体」は最も広義に用いられ、具体的にはモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも2のインタクトな抗体から形成される多特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、および所望の生物学的活性を表す限りにおける抗体断片を包含する。
「単離された」抗体とは、その自然環境の成分から同定され分離され及び/又は回収されたものである。その自然環境の汚染成分とは、抗体の研究、診断又は治療的な使用を妨害する物質であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質様又は非タンパク質様溶質が含まれる。ある実施態様では、タンパク質は、(1)例えばローリー法で測定した場合95%を超える抗体、ある実施態様では99重量%を超えるまで、(2)例えばスピニングカップシークエネーターを使用することにより、少なくとも15のN末端あるいは内部アミノ酸配列の残基を得るのに充分なほど、あるいは、(3)例えばクーマシーブルーあるいは銀染色を用いた非還元あるいは還元条件下でのSDS-PAGEにより均一になるまで十分なほど精製される。抗体の自然環境の少なくとも一の成分が存在しないため、単離された抗体には、組換え細胞内のインサイツでの抗体が含まれる。しかしながら、通常は、単離された抗体は少なくとも一の精製工程により調製される。
【0032】
「天然抗体」は、通常、2つの同一の軽(L)鎖及び2つの同一の重(H)鎖からなる、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は一つの共有ジスルフィド結合により重鎖に結合しており、ジスルフィド結合の数は、異なった免疫グロブリンアイソタイプの重鎖の中で変化する。また各重鎖と軽鎖は、規則的に離間した鎖間ジスルフィド結合を有している。各重鎖は、多くの定常ドメインが続く可変ドメイン(V)を一端に有する。各軽鎖は、一端に可変ドメイン(V)を、他端に定常ドメインを有する;軽鎖の定常ドメインは重鎖の第一定常ドメインと整列し、軽鎖の可変ドメインは重鎖の可変ドメインと整列している。特定のアミノ酸残基が、軽鎖及び重鎖可変ドメイン間のインターフェイスを形成すると考えられている。
「抗PRO抗体」又は「PROに結合する抗体」は、抗体がPROをターゲッティングする際に診断用及び/又は治療用の薬剤として有用である程度に十分な親和性を有してPROを結合することが可能である抗体を指す。好ましくは、関係がなくPROでないタンパク質への抗PRO抗体の結合の程度は、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)によって測定するところの、PROへの抗体の結合のおよそ10%未満である。ある実施態様では、PROに結合する抗体は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、又は≦0.1nMの解離定数(Kd)を有する。ある実施態様では、抗PRO抗体は、異なる種のPRO間で保存されるPROのエピトープに結合する。
【0033】
抗体の「可変領域」又は「可変ドメイン」とは、抗体の重鎖又は軽鎖のアミノ末端ドメインを意味する。重鎖の可変ドメインは「VH」と称されうる。軽鎖の可変ドメインは「VL」と称されうる。これらのドメインは一般に抗体の最も可変の部分であり、抗原結合部位を含む。
「可変」という用語は、可変ドメインのある部位が、抗体の中で配列が広範囲に異なっており、その特定の抗原に対する各特定の抗体の結合性及び特異性に使用されているという事実を意味する。しかしながら、可変性は抗体の可変ドメインにわたって一様には分布していない。軽鎖及び重鎖の可変ドメインの両方の高頻度可変領域(HVR)と呼ばれる3つのセグメントに濃縮される。可変ドメインのより高度に保持された部分はフレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、βシート構造を結合し、ある場合にはその一部を形成するループ結合を形成する、3つのHVRにより連結されたβシート配置を主にとる4つのFR領域をそれぞれ含んでいる。各鎖のHVRは、FRによって近接して結合され、他の鎖のHVRと共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与している(Kabatら, Sequence of Proteins ofImmunological Interest, 5th Ed. National Institutes of Health, BEthesda, MD. (1991))。定常ドメインは、抗体の抗原への結合に直接関連しているものではないが、種々のエフェクター機能、例えば抗体依存性細胞毒性への抗体の関与を示す。
【0034】
任意の脊椎動物種からの抗体(イムノグロブリン)の「軽鎖」には、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2つの明確に区別される型の一つが割り当てられる。
その重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、抗体(免疫グロブリン)は異なるクラスが割り当てられる。免疫グロブリンには5つの主なクラスがある:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgM、更にそれらは、IgG、IgG、IgG、IgG、IgA、及びIgA等のサブクラス(アイソタイプ)に分かれる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインはそれぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造及び三次元立体配位はよく知られており、例えば、Abbas等.Cellular and Mol. Immunology, 第4版(2000)(W.B. Saunders, Co., 2000)に概説されている。抗体は、抗体と1以上の他のタンパク質又はペプチドとの共有結合性又は非共有結合性の会合により形成された融合大分子の一部であり得る。
【0035】
「完全長抗体」、「インタクトな抗体」、及び「全抗体」という用語は、本明細書では交換可能に使用され、ほぼインタクトな形態の抗体を指し、以下に定義するような抗体断片は意味しない。この用語は、特にFc領域を含む重鎖を有する抗体を指す。
本明細書中の「ネイキッド抗体」は、細胞障害性部分又は放射性標識にコンジュゲートしていない抗体である。
「抗体断片」は、好ましくは抗原結合領域を含む、インタクトな抗体の一部を含む。抗体断片の例には、Fab、Fab'、F(ab')およびFv断片;ダイアボディ;線形抗体;単鎖抗体分子;及び抗体断片から形成される多特異性抗体が含まれる。
【0036】
抗体のパパイン消化は、「Fab」断片と呼ばれる2つの同一の抗体結合断片を生成し、その各々は単一の抗原結合部位を持ち、残りは容易に結晶化する能力を反映して「Fc」断片と命名される。ペプシン処理はF(ab')断片を生じ、それは2つの抗原結合部位を持ち、抗原を交差結合することができる。
「Fv」は、完全な抗原結合部位を含む最小抗体断片である。ある実施態様では、二本鎖Fv種は、堅固な非共有結合をなした一つの重鎖及び一つの軽鎖可変ドメインの二量体からなる。一本鎖Fv(scFv)種では、柔軟なペプチドリンカーによって1の重鎖及び1の軽鎖可変ドメインは共有結合性に連鎖することができ、よって軽鎖及び重鎖は、二本鎖Fv種におけるものと類似の「二量体」構造に連結することができる。この配置において、各可変ドメインの3つのHVRは相互に作用してVH-VL二量体表面に抗原結合部位を形成する。集合的に、6つのHVRが抗体に抗原結合特異性を付与する。しかし、単一の可変ドメイン(又は抗原に対して特異的な3つのHVRのみを含むFvの半分)でさえ、全結合部位よりも親和性が低くなるが、抗原を認識して結合する能力を有している。
【0037】
またFab断片は、重鎖及び軽鎖の可変ドメインを含み、軽鎖の定常ドメインと重鎖の第一定常領域(CH1)を有する。Fab'断片は、抗体ヒンジ領域からの一又は複数のシステインを含む重鎖CH1領域のカルボキシ末端に数個の残基が付加している点でFab断片とは異なる。Fab'-SHは、定常ドメインのシステイン残基が一つの遊離チオール基を担持しているFab'に対するここでの命名である。F(ab')抗体断片は、間にヒンジシステインを有するFab'断片の対として生産された。また、抗体断片の他の化学結合も知られている。
「一本鎖Fv」又は「scFv」抗体断片は、抗体のVH及びVLドメインを含み、これらのドメインは単一のポリペプチド鎖に存在する。通常、scFvポリペプチドはVH及びVLドメイン間にポリペプチドリンカーを更に含み、それはscFvが抗原結合に望まれる構造を形成するのを可能にする。scFvの概説については、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg及びMoore編, Springer-Verlag, New York, pp. 269-315 (1994)のPluckthunを参照のこと。
【0038】
「ダイアボディ」なる用語は、2つの抗原結合部位を持つ抗体断片を指し、その断片は同一のポリペプチド鎖(VH−VL)内で軽鎖可変ドメイン(VL)に重鎖可変ドメイン(VH)が結合してなる。非常に短いために同一鎖上で2つのドメインの対形成が可能であるリンカーを使用して、ドメインを他の鎖の相補ドメインと強制的に対形成させ、2つの抗原結合部位を創製する。ダイアボディは二価でも二特異性であってもよい。ダイアボディは、例えば、欧州特許第404097号;国際公開第93/11161号;Hudson等 (2003) Nat. Med. 9:129-134;及びHollinger等, Proc.Natl.Acad.Sci. USA 90:6444-6448 (1993)に更に詳細に記載されている。トリアボディ及びテトラボディもまたHudson等 (2003) Nat. Med. 9:129-134に記載されている。
【0039】
ここで使用される「モノクローナル抗体」なる用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指し、すなわち、集団に含まれる個々の抗体は、少量で存在しうる可能性がある突然変異、例えば自然に生じる突然変異を除いて同一である。従って、「モノクローナル」との形容は、個別の抗体の混合物ではないという抗体の性質を示す。ある実施態様では、このようなモノクローナル抗体は、通常、標的に結合するポリペプチド配列を含む抗体を含み、この場合、標的に結合するポリペプチド配列は、複数のポリペプチド配列から単一の標的結合ポリペプチド配列を選択することを含むプロセスにより得られる。例えば、この選択プロセスは、雑種細胞クローン、ファージクローン又は組換えDNAクローンのプールのような複数のクローンからの、唯一のクローンの選択とすることができる。重要なのは、選択された標的結合配列を更に変化させることにより、例えば標的への親和性の向上、標的結合配列のヒト化、細胞培養液中におけるその産生の向上、インビボでの免疫原性の低減、多選択性抗体の生成等が可能になること、並びに、変化させた標的結合配列を含む抗体も、本発明のモノクローナル抗体であることである。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的に含むポリクローナル抗体の調製物とは異なり、モノクローナル抗体の調製物の各モノクローナル抗体は、抗原の単一の決定基に対するものである。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体の調製物は、それらが他の免疫グロブリンで通常汚染されていないという点で有利である。
「モノクローナル」との形容は、抗体の、実質的に均一な抗体の集団から得られたものであるという特性を示し、抗体を何か特定の方法で生産しなければならないことを意味するものではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は様々な技術によって作製することができ、それらの技術には、例えば、ハイブリドーマ法(例えば、Kohler and Milstein, Nature, 256:495-97 (1975);Hongo等, Hybridoma, 14 (3): 253-260 (1995);Harlow等, Antibodies: A Laboratory Manual, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2nd ed. 1988);Hammerling等: Monoclonal Antibodies and T-Cell hybridomas 563-681 (Elsevier, N. Y., 1981))、組換えDNA法(例えば、米国特許第4816567号参照)、ファージディスプレイ技術(例えば、Clackson等, Nature, 352:624-628 (1991);Marks等, J. Mol. Biol. 222:581-597 (1992);Sidhu等, J. Mol. Biol. 338(2): 299-310 (2004);Lee等, J. Mol. Biol. 340(5);1073-1093 (2004);Fellouse, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101(34):12467-12472 (2004);及びLee等, J. Immounol. Methods 284(1-2): 119-132 (2004))、並びに、ヒト免疫グロブリン座位の一部又は全部、或るいはヒト免疫グロブリン配列をコードする遺伝子を有する動物にヒト又はヒト様抗体を生成する技術(例えば、国際公開第98/24893号;国際公開第96/34096号;国際公開第96/33735号;国際公開第91/10741号;Jakobovits等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 2551 (1993);Jakobovits等, Nature 362: 255-258 (1993);Bruggemann等, Year in Immunol. 7:33 (1993);米国特許第5545807号;同第5545806号;同第5569825号;同第5625126号;同第5633425号;同第5661016号; Marks等, Bio.Technology 10: 779-783 (1992);Lonberg等, Nature 368: 856-859 (1994);Morrison, Nature 368: 812-813 (1994);Fishwild等, Nature Biotechnol. 14: 845-851 (1996);Neuberger, Nature Biotechnol. 14: 826 (1996)及びLonberg及びHuszar, Intern. Rev. Immunol. 13: 65-93 (1995)参照)が含まれる。
【0040】
ここでモノクローナル抗体は、特に「キメラ」抗体を含み、それは特定の種由来又は特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体において、対応する配列に一致する又は類似する重鎖及び/又は軽鎖の一部であり、残りの鎖は、所望の生物学的活性を表す限り、抗体断片のように他の種由来又は他の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体において、対応する配列に一致するか又は類似するものである(米国特許第4816567号;及びMorrison等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6851-6855(1984))。キメラ抗体には、抗体の抗原結合領域が例えば対象の抗原をマカクザルに免疫投与することによって作製される抗体に由来している、PRIMATIZED(登録商標)抗体が含まれる。
【0041】
非ヒト(例えばマウス)の抗体の「ヒト化」型は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含むキメラ抗体である。一実施態様では、ヒト化抗体は、レシピエントの高頻度可変領域の残基が、マウス、ラット、ウサギ又は所望の特異性、親和性及び/又は能力を有する非ヒト霊長類のような非ヒト種(ドナー抗体)からの高頻度可変領域の残基によって置換されたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。例として、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基によって置換される。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも、もしくはドナー抗体にも見出されない残基を含んでいてもよい。これらの修飾は抗体の特性をさらに洗練するために行われる。一般に、ヒト化抗体は、全てあるいは実質的に全ての高頻度可変ループが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、全てあるいは実質的に全てのFRが、ヒト免疫グロブリン配列のものである少なくとも一又は典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含むであろう。また、ヒト化抗体は、場合によっては免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、典型的にはヒト免疫グロブリンのものの少なくとも一部も含む。さらなる詳細については、例えばJones等, Nature 321:522-525(1986);Riechmann等, Nature 332:323-329(1988);及びPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596(1992)を参照のこと。また例としてVaswani及びHamilton, Ann. Allergy, Asthma & Immunol. 1:105-115 (1998);Harris, Biochem. Soc. Transactions 23:1035-1038 (1995);Hurle及びGross, Curr. Op. Biotech. 5:428-433 (1994);米国特許第6982321号及び同第7087409号も参照のこと。
【0042】
「ヒト抗体」は、ヒトによって生産される抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有するもの、及び/又はここで開示されたヒト抗体を製造するための何れかの技術を使用して製造されたものである。ヒト抗体のこの定義は、特に非ヒト抗原結合残基を含んでなるヒト化抗体を除く。ヒト抗体は、ファージディスプレイライブラリを含む、当該分野で知られている様々な技術を使用して生産することが可能である。Hoogenboom and Winter, J. Mol. Biol., 227:381 (1991);Marks et al., J. Mol. Biol., 222:581 (1991)。また、Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, p. 77 (1985);Boerner et al., J. Immunol., 147(1): 86-95 (1991)において記述される方法は、ヒトモノクローナル抗体の調製に利用できる。van Dijk and van de Winkel, Curr. Opin. Pharmacol., 5: 368-74 (2001)も参照のこと。抗原刺激に応答して抗体を産生するように修飾されているが、その内在性遺伝子座が無効になっているトランスジェニック動物、例えば免疫化ゼノマウスに抗原を投与することによってヒト抗体を調製することができる(例として、XENOMOUSETM技術に関する米国特許第6075181号及び同第6150584号を参照)。また、例えば、ヒトのB細胞ハイブリドーマ技術によって生成されるヒト抗体に関するLi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:3557-3562 (2006)も参照のこと。
【0043】
ここで使用される「高頻度可変領域」、「HVR」又は「HV」なる用語は、配列において高頻度可変であり、及び/又は構造的に定まったループを形成する抗体可変ドメインの領域を意味する。一般に、抗体は6つの高頻度可変領域を含み;VHに3つ(H1、H2、H3)、VLに3つ(L1、L2、L3)である。天然の抗体では、H3及びL3は6つの高頻度可変領域のうちで最も高い多様性を示す、特にH3は抗体に良好な特異性を与える際に特有の役割を果たすように思われる。例としてXu等 (2000) Immunity 13:37-45;Methods in Molecular Biology 248:1-25 (Lo, ed., Human Press, Totowa, NJ)のJohnson and Wu (2003)を参照。実際、重鎖のみからなる天然に生じるラクダ科の抗体は機能的であり、軽鎖が無い状態で安定である。例としてHamers-Casterman等 (1993) Nature 363:446-448;Sheriff等 (1996) Nature Struct. Biol. 3:733-736を参照。
「フレームワーク」又は「FR」残基は、ここで定義する高頻度可変領域(HVR)残基以外の可変ドメイン残基である。
【0044】
「親和性成熟」抗体とは、その改変を有していない親抗体と比較して、抗原に対する抗体の親和性に改良を生じせしめる、その一又は複数のHVRにおいて一又は複数の改変を持つものである。一実施態様では、親和成熟抗体は、標的抗原に対してナノモル又はピコモルの親和性を有する。親和成熟抗体は、当該分野において知られているある手順を用いて生産されてよい。例えば、Marks等, Bio/Technology, 10:779-783(1992)は、VH及びVLドメインシャッフリングによる親和成熟について記載している。HVR及び/又はフレームワーク残基のランダム突然変異誘導は、例としてBarbas等, Proc Nat Acad. Sci, USA 91:3809-3813(1994);Schier等, Gene, 169:147-155(1995);Yelton等, J. Immunol.155:1994-2004(1995);Jackson等, J. Immunol.154(7):3310-9(1995);及びHawkins等, J. Mol. Biol.226:889-896(1992)に記載されている。
「遮断(ブロック)」抗体又は「アンタゴニスト」抗体とは、結合する抗原の生物学的活性を阻害するか又は低下させる抗体である。遮断抗体又はアンタゴニスト抗体は、抗原の生物学的活性を、ほぼ又は完全に遮断しうる。
本明細書において使用する「アゴニスト」抗体は、対象とするポリペプチドの機能活性の少なくとも一つを部分的に又は完全に模倣する抗体である。
【0045】
「増殖阻害性」抗体は、抗体が結合する抗原を発現している細胞の増殖を妨げるか又は低減するものである。例えば、抗体は、インビトロおよび/またはインビボの癌細胞の増殖を妨げる又は低減しうる。
抗体の「エフェクター機能」とは、抗体のFc領域(天然配列Fc領域又はアミノ酸配列変異体Fc領域)に帰する生物学的活性を意味し、抗体のアイソタイプにより変わる。抗体のエフェクター機能の例には、C1q結合及び補体依存性細胞障害;Fcレセプター結合性;抗体依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC);貪食作用;細胞表面レセプター(例えば、B細胞レセプター)のダウンレギュレーション;及びB細胞活性化が含まれる。
【0046】
「Fc領域」なる用語は、天然配列Fc領域及び変異形Fc領域を含む、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界は変化するかも知れないが、通常、ヒトIgG重鎖Fc領域はCys226の位置又はPro230からの位置のアミノ酸残基からFc領域のカルボキシル末端まで伸長すると定義される。Fc領域のC末端リジン(EU番号付けシステムによれば残基447)は、例えば、抗体の産生又は精製中に、又は抗体の重鎖をコードする核酸を組み換え遺伝子操作することによって取り除かれてもよい。したがって、インタクト抗体の組成物は、すべてのK447残基が除去された抗体群、K447残基が除去されていない抗体群、及びK447残基を有する抗体と有さない抗体の混合を含む抗体群を含みうる。
「機能的Fc領域」は、天然配列Fc領域の「エフェクター機能」を有する。例示的「エフェクター機能」には、C1q結合、補体依存性細胞障害作用(CDC)、Fcレセプター結合、抗体依存性細胞媒介性細胞障害作用(ADCC)、食作用、細胞表面レセプター(例えばB細胞レセプター; BCR)の下方制御などが含まれる。そのようなエフェクター機能は、通常、Fc領域が結合ドメイン(例えば、抗体可変ドメイン)と組み合わさることを必要とし、例えば本明細書中の定義に開示される様々なアッセイを使用して評価される。
【0047】
「天然配列のFc領域」は、天然に見出されるFc領域のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を包含する。天然配列のヒトFc領域は、天然配列のヒトIgG1Fc領域(非A-及びA-アロタイプ);天然配列のヒトIgG2Fc領域;天然配列のヒトIgG3Fc領域;及び天然配列のヒトIgG4Fc領域;並びに、これらの自然に生じる変異体が含まれる。
「変異体Fc領域」は、少なくとも1つのアミノ酸修飾、好ましくは一又は複数のアミノ酸置換により、天然配列のFc領域とは異なるアミノ酸配列を包含するものである。好ましくは、変異体Fc領域は、天然配列のFc領域もしくは親ポリペプチドのFc領域と比較した場合、少なくとも1つのアミノ酸置換、例えば、天然配列のFc領域又は親のポリペプチドのFC領域におよそ1からおよそ10のアミノ酸置換、好ましくはおよそ1からおよそ5のアミノ酸置換を有する。本明細書中の変異体Fc領域は、好ましくは、天然配列のFc領域及び/又は親ポリペプチドのFc領域と、少なくともおよそ80%の同一性を有するか、最も好ましくは少なくともおよそ90%の配列同一性を、より好ましくは少なくともおよそ95%の配列又はそれ以上の同一性を有するものであろう。
【0048】
「Fcレセプター」又は「FcR」は、抗体のFc領域に結合するレセプターを記載するものである。ある実施態様では、FcRは天然のヒトFcRである。ある実施態様では、FcRはIgG抗体(ガンマレセプター)と結合するもので、FcγRI、FcγRII及びFcγRIIIサブクラスのレセプターを含み、これらのレセプターの対立遺伝子変異体、選択的にスプライシングされた形態のものも含まれる。FcγRIIレセプターには、FcγRIIA(「活性型レセプター」)及びFcγRIIB(「阻害型レセプター」)が含まれ、主としてその細胞質ドメインは異なるが、類似のアミノ酸配列を有するものである。活性型レセプターFcγRIIAは、細胞質ドメインにチロシン依存性免疫レセプター活性化モチーフ(immunoreceptor tyrosine-based activation motif ;ITAM)を含んでいる。阻害型レセプターFcγRIIBは、細胞質ドメインにチロシン依存性免疫レセプター阻害性モチーフ(immunoreceptor tyrosine-based inhibition motif;ITIM)を含んでいる(例としてDaeron, Annu. Rev. immunol. 15:203-234 (1997)を参照)。FcRに関しては、 例としてRavetch and Kinet, Annu.Rev. Immunol. 9:457-492 (1991); Capel等, Immunomethods 4:25-34 (1994);及びde Haas等, J.Lab. Clin. Med. 126:330-41 (1995) に概説されている。将来的に同定されるものも含む他のFcRはここでの「FcR」という言葉によって包含される。
また、「Fcレセプター」又は「FcR」なる用語には、母性IgGの胎児への移送と(Guyer等, J. Immunol. 117:587 (1976) Kim等, J. Immunol.24:249 (1994))、免疫グロブリンのホメオスタシスの調節を担う新生児性レセプターFcRnも含まれる。FcRnへの結合の測定方法は公知である(例としてGhetie and Ward., Immunol. Today 18(12):592-598 (1997);Ghetie et al., Nature Biotechnology, 15(7):637-640 (1997);Hinton et al., J. Biol. Chem. 279(8):6213-6216 (2004):国際公開2004/92219(Hinton et al.)を参照)。
インビボでのヒトFcRnへの結合とヒトFcRn高親和性結合ポリペプチドの血清半減期は、例えばヒトFcRnを発現するトランスジェニックマウス又は形質転換されたヒト細胞株、又は変異体Fc領域を有するポリペプチドを投与された霊長類動物においてアッセイすることができる。国際公開公報00/42072(Presta) にFcRへの結合を向上又は減弱させた抗体変異型が述べられている。例としてShields等, J. Biol. Chem. 9(2): 6591-6604 (2001)も参照のこと。
【0049】
「ヒトエフェクター細胞」とは、一又は複数のFcRsを発現し、エフェクター機能を実行する白血球のことである。ある実施態様では、その細胞が少なくともFcγRIIIを発現し、ADCCエフェクター機能を実行することが望ましい。ADCCを媒介するヒト白血球の例として、末梢血液単核細胞(PBMC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、細胞障害性T細胞及び好中球が含まれる。エフェクター細胞は天然源、例えば血液から単離してもよい。
【0050】
「抗体依存性細胞媒介性細胞障害」又は「ADCC」とは、ある種の細胞障害細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球及びマクロファージ)上に存在するFcレセプター(FcR)と結合した分泌Igにより、これらの細胞障害エフェクター細胞が抗原-担持標的細胞に特異的に結合し、続いて細胞毒により標的細胞を死滅させることを可能にする細胞障害性の形態を意味する。ADCCを媒介する主要な細胞NK細胞はFcγRIIIのみを発現するのに対し、単球はFcγRI、FcγRII及びFcγRIIIを発現する。造血細胞でのFcRの発現は、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol 9:457-92 (1991) の464頁の表3に要約されている。対象の分子のADCC活性をアッセイするために、米国特許第5500362号又は同第5821337号に記載されているようなインビトロADCCアッセイを実施することができる。このようなアッセイにおいて有用なエフェクター細胞には、末梢血液単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー細胞(NK細胞)が含まれる。代わりとして、もしくは付加的に、対象の分子のADCC活性は、例えば、Clynes等, (USA) 95:652-656 (1998)において開示されているような動物モデルにおいて、インビボで評価することが可能である。
【0051】
「補体依存性細胞障害」もしくは「CDC」は、補体の存在下で標的を溶解することを意味する。典型的な補体経路の活性化は補体系(Clq)の第1補体が、同族抗原と結合した(適切なサブクラスの)抗体に結合することにより開始される。補体の活性化を評価するために、CDCアッセイを、例えばGazzano-Santoro等, J. Immunol. Methods 202:163 (1996)に記載されているように実施することができる。Fc領域アミノ酸配列を変更して(変異体Fc領域を有するポリペプチド)C1q結合能力が増大又は減少したポリペプチド変異体は、例として米特許第6194551号B1及び国際公開公報99/51642に記述される。また例としてIdusogie 等 J. Immunol. 164: 4178-4184 (2000)を参照のこと。
「Fc領域含有抗体」なる用語は、Fc領域を含む抗体を指す。Fc領域のC末端リジン(EU番号付けシステムに従うと残基447)は、例えば、抗体の精製中又は抗体をコードする核酸を組み換え操作することによって除去してもよい。したがって、本発明のFc領域を有する抗体を含んでなる組成物は、K447を有する抗体、すべてのK447が除去された抗体、又はK447残基を有する抗体とK447残基を有さない抗体の混合集団を包含しうる。
【0052】
一般的に「結合親和性」は、分子(例えば抗体)の単一結合部位とその結合パートナー(例えば抗原)との間の非共有結合的な相互作用の総合的な強度を意味する。特に明記しない限り、「結合親和性」は、結合対のメンバー(例えば抗体と抗原)間の1:1相互作用を反映する内因性結合親和性を意味する。一般的に、分子XのそのパートナーYに対する親和性は、解離定数(Kd)として表される。親和性は、本明細書中に記載のものを含む当業者に公知の共通した方法によって測定することができる。低親和性抗体は抗原にゆっくり結合して素早く解離する傾向があるのに対し、高親和性抗体は抗原により密接により長く結合したままとなる。結合親和性の様々な測定方法が当分野で公知であり、それらの何れかを本発明のために用いることができる。以下に結合親和性を測定するための具体的な例示的実施態様を記載する。
【0053】
一実施態様では、本発明の「Kd」又は「Kd値」は、以下のアッセイで示されるような、所望の抗体のFab型(バージョン)とその抗原を用いて実行される放射性標識した抗原結合アッセイ(RIA)で測定される。段階的な力価の非標識抗原の存在下で、最小濃度の(125I)-標識抗原にてFabを均衡化して、抗Fab抗体コートプレートと結合した抗原を捕獲することによって抗原に対するFabの溶液結合親和性を測定する(例としてChen, et al., J. Mol. Biol. 293:865-881(1999)を参照)。アッセイの条件を決めるために、MICROTITER(登録商標)マルチウェルプレート(Thermo Scientific)を5μg/mlの捕獲抗Fab抗体(Cappel Labs)を含む50mM炭酸ナトリウム(pH9.6)にて一晩コートして、その後2%(w/v)のウシ血清アルブミンを含むPBSにて室温(およそ23℃)で2〜5時間、ブロックする。非吸着プレート(Nunc#269620)に、100pM又は26pMの[125I]抗原を段階希釈した所望のFabと混合する(例えば、Presta等, (1997) Cancer Res. 57: 4593-4599の抗VEGF抗体、Fab-12の評価と一致する)。ついで所望のFabを一晩インキュベートする;しかし、インキュベーションは平衡状態に達したことを確認するまでに長時間(例えばおよそ65時間)かかるかもしれない。その後、混合物を捕獲プレートに移し、室温で(例えば1時間)インキュベートする。そして、溶液を取り除き、プレートを0.1%のTween20TMを含むPBSにて8回洗浄する。プレートが乾燥したら、150μl/ウェルの閃光物質(MicroScint-20TM;Packard)を加え、プレートをTopcountTMγ計測器(Packard)にて10分間計測する。最大結合の20%か又はそれ以下濃度のFabを選択してそれぞれ競合結合測定に用いる。
他の実施態様によると、〜10反応単位(RU)の固定した抗原CM5チップを用いて25℃のBIAcoreTM-2000又はBIAcoreTM-3000(BIAcore, Inc., Piscataway, NJ)にて表面プラズモン共鳴アッセイを行ってKd又はKd値を測定する。簡単に言うと、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5, BIAcore Inc.)を、提供者の指示書に従ってN-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN-ヒドロキシスクシニミド(NHS)で活性化した。抗原を10mM 酢酸ナトリウム(pH4.8)で5μg/ml(〜0.2μM)に希釈し、結合したタンパク質の反応単位(RU)がおよそ10になるように5μl/分の流速で注入した。抗原の注入後、反応しない群をブロックするために1Mのエタノールアミンを注入した。動力学的な測定のために、2倍の段階希釈したFab(0.78nMから500nM)を25℃、およそ25μl/分の流速で0.05%Tween20TM界面活性剤(PBST)を含むPBSに注入した。会合及び解離のセンサーグラムを同時にフィットさせることによる単純一対一ラングミュア結合モデル(simple one-to-one Langmuir binding model) (BIAcore Evaluationソフトウェアバージョン3.2)を用いて、会合速度(kon)と解離速度(koff)を算出した。平衡解離定数(Kd)をkoff/kon比として算出した。例として、Chen, Y.,等, (1999) J. Mol Biol 293:865-881を参照。上記の表面プラスモン共鳴アッセイによる結合速度が10−1−1を上回る場合、分光計、例えば、流動停止を備えた分光光度計(stop-flow equipped spectrophometer)(Aviv Instruments)又は撹拌キュベットを備えた8000シリーズSLM-Aminco分光光度計(ThermoSpectronic)で測定される、漸増濃度の抗原の存在下にて、PBS(pH7.2)、25℃の、20nMの抗抗原抗体(Fab型)の蛍光放出強度(励起=295nm;放出=340nm、帯域通過=16nm)における増加又は減少を測定する蛍光消光技術を用いて結合速度を測定することができる。
また、本発明の「結合速度」又は「会合の速度」又は「会合速度」又は「kon」は、〜10反応単位(RU)の固定した抗原CM5チップを用いて25℃のBIAcoreTM-2000又はBIAcoreTM-3000(BIAcore, Inc., Piscataway, NJ)を用いた前述と同じ表面プラズモン共鳴アッセイにて測定される。
【0054】
ここで用いる「実質的に類似」、「実質的に同じ」なる用語は、当業者が2つの数値(例えば、本発明の抗体に関連するもの、及び参照/比較抗体に関連する他のもの)の差異に、該値(例えばKd値)によって測定される生物学的性質上わずかに又は全く生物学的及び/又は統計学的有意差がないと認められるほど、2つの数値が有意に類似していることを意味する。前記2つの値間の差異は、参照/比較値の例えば約50%以下、約40%以下、約30%以下、約20%以下、及び/又は約10%以下である。
ここで用いる「実質的に異なる」という句は、当業者が2つの数値(一般に、分子に関連するもの、及び参照/比較分子に関連する他のもの)の差異に、該値(例えばKd値)によって測定される生物学的性質上統計学的に有意であると認められるほど、2つの数値が有意に異なっていることを意味する。前記2つの値間の差異は、参照/比較分子の値の、例えば約10%より大きく、約20%より大きく、約30%より大きく、約40%より大きく、及び/又は約50%より大きい。
【0055】
「精製」とは、分子が、含まれる試料中の重量にして少なくとも95%、又は重量にして少なくとも98%の濃度で試料中に存在することを意味する。
「単離された」核酸分子は、例えば天然の環境に通常付随している少なくとも一の他の核酸分子から分離された核酸分子である。さらに、単離された核酸分子は、例えば、核酸分子を通常発現するが、その核酸分子がその天然の染色体位置と異なる染色体位置にあるか又は染色体外に存在する、細胞に含まれる核酸分子を含む。
【0056】
ここで使用される「ベクター」という用語は、それが結合している他の核酸を輸送することのできる核酸分子を意味するものである。一つのタイプのベクターは「プラスミド」であり、これは付加的なDNAセグメントが結合されうる円形の二本鎖DNAを意味する。他の型のベクターはファージベクターである。他の型のベクターはウイルスベクターであり、付加的なDNAセグメントをウイルスゲノムへ結合させうる。所定のベクターは、それらが導入される宿主細胞内において自己複製することができる(例えば、細菌の複製開始点を有する細菌ベクターとエピソーム哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノム中に組み込まれ、宿主ゲノムと共に複製する。更に、所定のベクターは、それらが作用可能に結合している遺伝子の発現を指令し得る。このようなベクターはここでは「組換え発現ベクター」(又は単に「発現ベクター」)と呼ぶ。一般に、組換えDNA技術で有用な発現ベクターはしばしばプラスミドの形をとる。本明細書では、プラスミドが最も広く使用されているベクターの形態であるので、「プラスミド」と「ベクター」を相互交換可能に使用する場合が多い。
【0057】
ここで交換可能に使用される「ポリヌクレオチド」又は「核酸」は、任意の長さのヌクレオチドのポリマーを意味し、DNA及びRNAが含まれる。ヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、修飾されたヌクレオチド又は塩基、及び/又はそれらの類似体(アナログ)、又はDNAもしくはRNAポリメラーゼにより、もしくは合成反応によりポリマー中に取り込み可能な任意の基質とすることができる。ポリヌクレオチドは、修飾されたヌクレオチド、例えばメチル化ヌクレオチド及びそれらの類似体を含み得る。存在するならば、ヌクレオチド構造に対する修飾は、ポリマーの組み立ての前又は後になされ得る。ヌクレオチドの配列は非ヌクレオチド成分により中断されてもよい。ポリヌクレオチドは合成後になされる修飾(一又は複数)、例えば標識との結合を含みうる。他のタイプの修飾には、例えば「キャップ(caps)」、類似体との自然に生じたヌクレオチドの一又は複数の置換、ヌクレオチド間修飾、例えば非荷電連結(例えばホスホン酸メチル、ホスホトリエステル、ホスホアミダート、カルバマート等)及び荷電連結(ホスホロチオアート、ホスホロジチオアート等)を有するもの、ペンダント部分、例えばタンパク質(例えばヌクレアーゼ、毒素、抗体、シグナルペプチド、ply-L-リジン等)を含むもの、インターカレータ(intercalators)を有するもの(例えばアクリジン、ソラレン等)、キレート剤(例えば金属、放射性金属、ホウ素、酸化的金属等)を含むもの、アルキル化剤を含むもの、修飾された連結を含むもの(例えばアルファアノマー核酸等)、並びにポリヌクレオチド(類)の未修飾形態が含まれる。更に、糖類中に通常存在する任意のヒドロキシル基は、例えばホスホナート基、ホスファート基で置き換えられてもよく、標準的な保護基で保護されてもよく、又は付加的なヌクレオチドへのさらなる連結を調製するように活性化されてもよく、もしくは固体又は半固体担体に結合していてもよい。5'及び3'末端のOHはホスホリル化可能であり、又は1〜20の炭素原子を有する有機キャップ基部分又はアミンで置換することもできる。また他のヒドロキシルは標準的な保護基に誘導体化されてもよい。またポリヌクレオチドは当該分野で一般的に知られているリボース又はデオキシリボース糖類の類似形態のものをさらに含み得、これらには例えば2'-O-メチル-、2'-O-アリル、2'-フルオロ又は2'-アジド-リボース、炭素環式糖の類似体、アルファ-アノマー糖、エピマー糖、例えばアラビノース、キシロース類又はリキソース類、ピラノース糖、フラノース糖、セドヘプツロース、非環式類似体、及び非塩基性ヌクレオシド類似体、例えばメチルリボシドが含まれる。一又は複数のホスホジエステル連結は代替の連結基で置き換えてもよい。これらの代替の連結基には、限定されるものではないが、ホスファートがP(O)S(「チオアート」)、P(S)S(「ジチオアート」)、「(O)NR(「アミダート」)、P(O)R、P(O)OR'、CO又はCH(「ホルムアセタール」)と置き換えられた実施態様のものが含まれ、ここでそれぞれのR及びR'は独立して、H又は、エーテル(-O-)結合を含んでいてもよい置換もしくは未置換のアルキル(1-20C)、アリール、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル又はアラルジル(araldyl)である。ポリヌクレオチド中の全ての結合が同一である必要はない。先の記述は、RNA及びDNAを含むここで引用される全てのポリヌクレオチドに適用される。
ここで使用される「オリゴヌクレオチド」とは、短く、一般的に単鎖であり、また必ずしもそうではないが、一般的に約200未満のヌクレオチド長さの、一般的に合成のポリヌクレオチドを意味する。「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」なる用語は、相互に排他的なものではない。ポリヌクレオチドについての上述した記載はオリゴヌクレオチドと等しく、十分に適用可能である。
【0058】
II.本発明の実施態様
様々な実施態様では、REST機能の喪失、β2の発現および/またはNotchの活性化に特徴がある腫瘍の分類、診断、治療および予防のための組成物および方法が提供される。更なる実施態様では、EMT、細胞移動およびアポトーシスなどの細胞プロセスの調節のための組成物および方法が提供される。これらおよび本発明の更なる実施態様は、転写リプレッサRESTの喪失によりβ2が発現され、次に結合し、腫瘍におけるNotchシグナル伝達を活性化するという発見に基づく。
【0059】
A.組成物
抵抗性腫瘍を含む腫瘍の治療又は予防のための組成物が提供される。このような組成物は、RESTアゴニスト、β2アンタゴニストおよびNotchアンタゴニストを、単独又は組み合わせて含みうる。
一態様では、β2アンタゴニストは、β2に結合するブロック抗体である。一実施態様では、このような抗体はNotchへのβ2の結合を(部分的に又は完全に)ブロックする。一実施態様では、ブロック抗体はβ2のECDに結合する。β2に結合するある抗体は本明細書において記述され、3D1.4.1(「3D1」)、12A9.22.1(「12A9」)、2E3.1.1(「2E3」)、12E3又は3G5と称される。また、本明細書において、3D1、12A9、2E3、12E3又は3G5のいずれかと同じエピトープに結合する抗体、並びにβ2への結合について3D1、12A9、2E3、12E3又は3G5のいずれかと競合する抗体が提供される。一実施態様では、ブロック抗体は3D1、12A9、2E3又は3G5から選択される。一実施態様では、ブロック抗体は3D1、12A9、2E3又は3G5と同じエピトープに結合する。一実施態様では、ブロック抗体は、β2への結合について3D1、12A9、2E3又は3G5のいずれかと競合する。
ある実施態様では、本明細書において提供される抗体はモノクローナル抗体である。ある実施態様では、抗体は、抗体断片、例えばFab、Fab'-SH、Fv、scFv又は(Fab')2断片、又は単一ドメイン抗体である(Domantis, Inc., Waltham, MA;例として米国特許第6248516号B1参照)。ある実施態様では、抗体は二重特異性抗体である(例として国際公開94/04690およびSuresh et al. (1986) Methods in Enzymology 121:210を参照)。ある実施態様では、抗体は、キメラ、ヒト化、又はヒトの抗体である。例えば、3D1、12A9、2E3、12E3又は3G5のいずれかのヒト化形態が本願明細書において提供される。
【0060】
他の態様では、β2アンタゴニストは、SCN2B発現を減少させる核酸である。一実施態様では、核酸は、SCN2Bに特異的なアンチセンス核酸である。そのような実施態様では、核酸は調節RNAである。そのような実施態様では、核酸は、RNAiによってSCN2B発現を低減する。そのような実施態様では、核酸はsiRNAである。あるSCN2B特異的siRNAは当分野で公知である。例えば、あるSCN2B特異的shRNAは市販されている(例えばSigma-Aldrich, St. Louis, MOから)。特定の他のβ2アンタゴニストは当分野で知られていてよい。例えば、α-分泌酵素の小分子インヒビターであるTAPI-1は、β2からの外部ドメイン分断を阻害するために用いられうる。(Kim et al., J. Biol. Chem. 280:23251-23261, 2005を参照)。
他の態様では、β2アンタゴニストは、β2に結合するNotchの断片を含む、単離されたポリペプチド、好ましくは可溶性ポリペプチドである。β2に結合するNotchの断片は、β2への結合について内在性Notchと競合すると思われる。ある実施態様では、このような断片は、Notchシグナル伝達をもたらすことが実質的にできない。一実施態様では、ポリペプチドは、EGFリピート10−21又は14−21を含む哺乳動物のNotch1の断片、又はNotchファミリ、例えばNotch2、Notch3又はNotch4のメンバーの機能的に等価な断片を含む。このような機能的に等価な断片は、例えばNotch1のアミノ酸配列を第二のNotchファミリメンバーのポリペプチド配列と整列させ、後者において対応する断片を同定し、場合によってβ2結合について同定された断片を試験することによって、常法で確認されてよい。ヒトNotchのアミノ酸配列は配列番号:1に示される。EGFリピート10−21は、配列番号:1のおよそ以下の位置に位置する。
【0061】

【0062】
他の実施態様では、単離されたポリペプチドは、β2に特異的に結合するNotchの断片を含み、このときこの文脈において「特異的に結合する」とは、この断片が他のいかなるNotchリガンドにも実質的に結合しないことを意味する。他の実施態様では、単離されたポリペプチドは、β2に結合するが、Jaggedおよび/またはDLLに結合しないNotchの断片を含む。他の実施態様では、単離されたポリペプチドは、β2に結合し、500、450、400、350、300、250、200、150又は100のアミノ酸以下の長さであるNotchの断片を含む。
他の態様では、β2アンタゴニストは、β2に結合するNotchの領域に結合する抗体である。一実施態様では、領域は、EGFリピート10−21又は14−21を含む哺乳動物のNotch1の領域、又はNotchファミリ、例えばNotch2、Notch3又はNotch4のメンバーの機能的に等価な領域である。このような機能的に等価な断片は、例えばNotch1のポリペプチド配列を第二のNotchファミリメンバーのポリペプチド配列と整列させ、後者において対応する領域を同定し、場合によってβ2結合について同定された領域を試験することによって、常法で確認されてよい。ある実施態様では、β2に結合するNotchの領域に結合する抗体は、Notchへのβ2の結合を特異的にブロックし、このときこの文脈において「特異的に結合する」とは、この抗体が他のいかなるNotchへのNotchリガンドの結合もブロックしないことを意味する。ある実施態様では、β2に結合するNotchの領域に結合する抗体は、Jaggedおよび/またはDLLの結合をブロックしない。
【0063】
他の態様では、組成物はRESTアゴニストを含む。一実施態様では、RESTアゴニストはRESTであり、RESTの生物学的活性(例えば腫瘍サプレッサー活性)を保持する完全長RESTの断片又は変異体を含む。他の実施態様では、RESTアゴニストは前記いずれかをコードする核酸である。
他の態様では、組成物はNotchアンタゴニストを含む。Notch活性は、様々な選択的な手法(例えばアンチセンス、モノクローナル抗体およびRNAi)、および選択的でない手法(例えばNotchの可溶型又はNotchデコイ、γ-分泌酵素インヒビター、細胞内MAML1デコイおよびRasシグナル伝達インヒビター)によってアンタゴナイズされ得、様々なNotchアンタゴニストは当分野で公知である。例えば、様々なγ-分泌酵素インヒビターは、Notchシグナル伝達活性を阻害することが知られている。Zayzafoon et al., J. Biol. Chem. 279:3662-3670, 2004(ペプチド模倣薬L−685458のNotch阻害効果を記載している);及びCurry et al., Oncogene 24:6333-6344, 2005(トリペプチドアルデヒドインヒビターおよびγ-分泌酵素のペプチド模倣インヒビター(LY−411575)のNotch阻害効果を記載している)を参照のこと。γ-分泌酵素の小分子インヒビターおよびNotchシグナル伝達活性のインヒビターであるMK-0752は、現在臨床試験が実施されている。J. Clin. Oncol., 2006 ASCO Annual Meeting Proceedings Part I. Vol 24, No. 18S (June 20 Supplement), 2006: 6585を参照。
【0064】
また、本明細書において、EMT、細胞移動および/またはアポトーシスへの耐性を促すための組成物が提供される。例えば、細胞生存率及び/又は細胞移動の増加が望ましい場合(例えば創傷治癒)、このような組成物は治療的環境において有用である。また、このような組成物は研究環境において有用である。このような組成物は、β2アゴニスト、RESTアンタゴニスト又はNotchアゴニストを単独又は組み合わせて含んでいてよい。
一態様では、例示的なβ2アゴニストは、β2の生物活性(例えばNotchを結合するおよび/またはNotchシグナル伝達を活性化する能力)を保持する完全長β2の断片又は変異体を含む、β2を含む。β2アゴニストは、例えば、β2のECD、又はNotchを結合しておよび/またはNotchシグナル伝達を活性化する能力を保持する断片ないしは変異体を含んでいてよい。他の実施態様では、β2アゴニストは前述のいずれかをコードする核酸である。ヒトβ2のアミノ酸配列は配列番号:2に示される。以下の形質のおよその位置を示す。アミノ酸1−29のシグナルペプチド;アミノ酸30−159のECD;アミノ酸160−180の膜貫通ドメイン;アミノ酸181−215の細胞質ドメイン、およびアミノ酸32−154のIg様ドメイン。
【0065】
他の態様では、例示的なNotchアゴニストは、Notchの生物活性(例えば標的遺伝子の発現を活性化する能力)を保持する完全長Notchの断片ないしは変異体を含むNotchを含む。例えば、細胞外サブユニットを欠いているNotchレセプターは構成的に活性化され、インビトロ及び動物モデルでトランスフォーミング活性を有する。Nickoloff et al., Oncogene 22:6598-6608を参照。他の実施態様では、Notchアゴニストは、Notchに結合するアゴニスト抗体である。
他の態様では、例示的なRESTアンタゴニストには、欠失突然変異体と、REST活性を低減させた(例えば、腫瘍サプレッサー活性を低減させた)RESTの他の変異型が含まれる。例としてWestbrook et al., Cell 121:837-848, 2005参照。
【0066】
B.方法
一態様では、本明細書において、抵抗性腫瘍の進行を含む腫瘍進行の治療又は防止のための方法が提供される。ある実施態様では、腫瘍進行の阻害方法であって、腫瘍をβ2のアンタゴニスト、NotchのアンタゴニストおよびRESTのアゴニストから選択される一又は複数の薬剤にさらすことを含む方法が提供される。特定のβ2のアンタゴニスト、NotchのアンタゴニストおよびRESTのアゴニストが上記されており、本明細書において記述される方法で用いられてよい。一実施態様では、薬剤はβ2のアンタゴニストである。
他の実施態様では、腫瘍はREST活性を低減させた。「低減したREST活性」は、例えば、限定するものではないがREST遺伝子の一部又はすべての欠損を含むREST遺伝子における突然変異、又はRESTの生物活性を低減する任意の他の事象(例えば転写レプレッサー活性及び/又は腫瘍サプレッサー活性)による、RESTのレベルの有意な減少又はREST機能の有意な喪失(REST機能の完全又は一部の喪失)を指す。腫瘍におけるREST活性の減少は、例えば、腫瘍と同じ組織タイプの正常組織におけるRESTのレベル又は活性と比較して、腫瘍におけるRESTのレベル又は活性を比較することによって検出されてもよい。
【0067】
他の実施態様では、腫瘍はβ2活性を増加させている。「増加したβ2活性」は、β2のレベル又は活性(例えば、Notchを結合する能力;EMTを誘導する能力;細胞移動を誘導する能力;又はアポトーシスをブロックする能力)の有意な増加を指す。β2活性の増加は、例えば、腫瘍と同じ組織タイプの正常組織におけるβ2のレベル又は活性と比較して、腫瘍におけるβ2のレベル又は活性を比較することによって検出されてもよい。
他の実施態様では、腫瘍はNotch活性を増加させている。「増加したNotch活性」は、Notchのレベル又は活性(例えば一又は複数の標的遺伝子、例えばHESファミリ遺伝子、細胞周期調節遺伝子(例えばp21cip1/waf1、サイクリンD1)、NF−κBファミリ遺伝子、又はPPARファミリ遺伝子の発現を増やす能力)の有意な増加を指す。Notch活性の増加は、例えば、腫瘍と同じ組織タイプの正常組織におけるNotchのレベル又は活性と比較して、腫瘍におけるNotchのレベル又は活性を比較することによって検出されてもよい。
他の実施態様では、腫瘍は抵抗性腫瘍である。そのような実施態様では、腫瘍は化学療法に抵抗力がある。他の実施態様では、腫瘍は転移性である。他の実施態様では、腫瘍は、結腸腫瘍又は図10Eに示される腫瘍タイプから選択される腫瘍である。他の実施態様では、腫瘍は再発した患者に起こる。
【0068】
他の態様では、細胞におけるEMTの阻害方法であって、細胞をβ2のアンタゴニスト、RESTのアゴニストおよびNotchのアンタゴニストから選択される一又は複数の薬剤にさらすことを含む方法が提供される。特定のβ2のアンタゴニスト、NotchのアンタゴニストおよびRESTのアゴニストは上記されており、本明細書において記述される方法で用いられてよい。一実施態様では、薬剤はβ2のアンタゴニストである。他の実施態様では、上記の通り、細胞はREST活性を低減させている。他の実施態様では、上記の通り、細胞はβ2活性を増加させている。他の実施態様では、上記の通り、細胞はNotch活性を増加させている。他の実施態様では、細胞はインビトロである。他の実施態様では、細胞はインビボである。他の実施態様では、細胞は腫瘍細胞である。そのような実施態様では、腫瘍細胞は抵抗性腫瘍由来である。そのような実施態様では、腫瘍は化学療法に耐性がある。他の実施態様では、腫瘍細胞は転移性腫瘍由来である。他の実施態様では、腫瘍細胞は、結腸腫瘍細胞又は図10Eから選択される腫瘍細胞型である。他の実施態様では、腫瘍細胞は再発した患者から得られる。
【0069】
他の態様では、細胞の移動の阻害方法であって、細胞をβ2のアンタゴニスト、RESTのアゴニストおよびNotchのアンタゴニストから選択される一又は複数の薬剤にさらすことを含む方法が提供される。特定のβ2のアンタゴニスト、NotchのアンタゴニストおよびRESTのアゴニストは上記で検討されており、本明細書において記述される方法で用いられてよい。一実施態様では、薬剤はβ2のアンタゴニストである。他の実施態様では、上記の通り、細胞はREST活性を減少させている。他の実施態様では、上記の通り、細胞はβ2活性を増加させている。他の実施態様では、上記の通り、細胞はNotch活性を増加させている。他の実施態様では、細胞はインビトロである。他の実施態様では、細胞はインビボである。他の実施態様では、細胞は腫瘍細胞である。そのような実施態様では、腫瘍細胞は抵抗性腫瘍に由来する。そのような実施態様では、腫瘍は化学療法に耐性がある。他の実施態様では、腫瘍細胞は転移性腫瘍に由来する。他の実施態様では、腫瘍細胞は、結腸腫瘍細胞又は図10Eから選択される腫瘍細胞型である。他の実施態様では、腫瘍細胞は再発した患者から得られる。
【0070】
他の態様では、細胞のアポトーシスの促進方法であって、細胞をβ2のアンタゴニスト、RESTのアゴニストおよびNotchのアンタゴニストから選択される一又は複数の薬剤にさらすことを含む方法が提供される。特定のβ2のアンタゴニスト、NotchのアンタゴニストおよびRESTのアゴニストは上記で検討されており、本明細書において記述される方法で用いられてよい。一実施態様では、薬剤はβ2のアンタゴニストである。他の実施態様では、上記の通り、細胞はREST活性を低減させている。他の実施態様では、上記の通り、細胞はβ2活性を増加させている。他の実施態様では、上記の通り、細胞はNotch活性を増加させている。他の実施態様では、細胞はインビトロである。他の実施態様では、細胞はインビボである。他の実施態様では、細胞は腫瘍細胞である。そのような実施態様では、腫瘍細胞は抵抗性腫瘍に由来する。そのような実施態様では、腫瘍は化学療法に耐性がある。他の実施態様では、腫瘍細胞は転移性腫瘍に由来する。他の実施態様では、腫瘍細胞は、結腸腫瘍細胞又は図10Eから選択される腫瘍細胞型である。他の実施態様では、腫瘍細胞は再発した患者から得られる。
【0071】
他の態様では、細胞におけるEMTの促進方法であって、細胞をβ2のアゴニスト、RESTのアンタゴニストおよびNotchのアゴニストから選択される一又は複数の薬剤にさらすことを含む方法が提供される。特定のβ2のアゴニスト、NotchのアゴニストおよびRESTのアンタゴニストは上記で検討されており、本明細書において記述される方法で用いられてよい。一実施態様では、薬剤はβ2のアゴニストである。他の実施態様では、細胞はインビトロである。他の実施態様では、細胞はインビボである。
他の態様では、細胞移動の促進方法であって、細胞をβ2のアゴニスト、RESTのアンタゴニストおよびNotchのアゴニストから選択される一又は複数の薬剤にさらすことを含む方法が提供される。特定のβ2のアゴニスト、NotchのアゴニストおよびRESTのアンタゴニストは上記で検討されており、本明細書において記述される方法で用いられてよい。一実施態様では、薬剤はβ2のアゴニストである。他の実施態様では、細胞はインビトロである。他の実施態様では、細胞はインビボである。
他の態様では、アポトーシスの遮断方法であって、細胞をβ2のアゴニスト、RESTのアンタゴニストおよびNotchのアゴニストから選択される一又は複数の薬剤にさらすことを含む方法が提供される。特定のβ2のアゴニスト、NotchのアゴニストおよびRESTのアンタゴニストは上記で検討されており、本明細書において記述される方法で用いられてよい。一実施態様では、薬剤はβ2のアゴニストである。他の実施態様では、細胞はインビトロである。他の実施態様では、細胞はインビボである。
【0072】
他の態様では、腫瘍がβ2のアンタゴニスト又はNotchのアンタゴニストに応答するか否かの決定方法であって、腫瘍においてREST活性の低減又はβ2活性の増加を検出することを含み、このとき腫瘍におけるREST活性の低減又はβ2活性の増加が、腫瘍がβ2のアンタゴニスト又はNotchのアンタゴニストに応答することを示す方法が提供される。一実施態様では、方法は、腫瘍におけるREST活性の低減を検出することを含む。そのような実施態様では、方法は、REST活性の低減をもたらすREST遺伝子の突然変異を検出することを含む。そのような実施態様では、方法は、REST遺伝子の欠失を検出することを含む。他の実施態様では、方法は、腫瘍におけるβ2活性の増加を検出することを含む。そのような実施態様では、方法は、SCN2B mRNAのレベルの増加を検出することを含む。他の実施態様では、方法は、β2タンパク質のレベルの増加を検出することを含む。そのような実施態様では、方法は、細胞外環境におけるβ2 ECDのレベルの増加を検出することを含む。他の実施態様では、腫瘍は抵抗性腫瘍である。そのような実施態様では、腫瘍は化学療法に耐性がある。他の実施態様では、腫瘍は転移性である。他の実施態様では、腫瘍は、結腸腫瘍又は図10Eに示される腫瘍タイプから選択される腫瘍である。他の実施態様では、腫瘍は再発した患者に由来する。
【0073】
他の態様では、腫瘍の予後の評価方法であって、腫瘍におけるREST活性の低減又はβ2活性の増加を検出することを含み、このときREST活性の低減又はβ2活性の増加が、腫瘍の予後が悪いことを示す方法が提供される。「予後が悪い」とは、腫瘍が抵抗性および/または転移性であるという実質的な可能性(>50%の見込み)があることを意味する。一実施態様では、方法は、腫瘍におけるREST活性の低減を検出することを含む。そのような実施態様では、方法は、REST活性の低減をもたらすREST遺伝子の突然変異を検出することを含む。そのような実施態様では、方法は、REST遺伝子の欠失を検出することを含む。他の実施態様では、方法は、腫瘍におけるβ2活性の増加を検出することを含む。そのような実施態様では、方法は、SCN2B mRNAのレベルの増加を検出することを含む。別の実施態様では、方法は、β2タンパク質のレベルの増加を検出することを含む。そのような実施態様では、方法は、細胞外環境におけるβ2 ECDのレベルの増加を検出することを含む。他の実施態様では、腫瘍は、結腸腫瘍又は図10Eに示される腫瘍タイプから選択される腫瘍である。
【0074】
他の態様では、Notchシグナル伝達が活性化されるものとして腫瘍を分類する方法であって、腫瘍におけるREST活性の低減又はβ2活性の増加を検出することを含み、このときREST活性の低減又はβ2活性の増加が、腫瘍がNotchシグナル伝達が活性化されるものであることを示す方法が提供される。一実施態様では、方法は、腫瘍におけるREST活性の低減を検出することを含む。そのような実施態様では、方法は、REST活性の低減をもたらすREST遺伝子の突然変異を検出することを含む。そのような実施態様では、方法は、REST遺伝子の欠失を検出することを含む。他の実施態様では、方法は、腫瘍におけるβ2活性の増加を検出することを含む。そのような実施態様では、方法は、SCN2B mRNAのレベルの増加を検出することを含む。別の実施態様では、方法は、β2タンパク質のレベルの増加を検出することを含む。そのような実施態様では、方法は、細胞外環境におけるβ2 ECDのレベルの増加を検出することを含む。他の実施態様では、腫瘍は、結腸腫瘍又は図10Eに示される腫瘍タイプから選択される腫瘍である。他の実施態様では、腫瘍は抵抗性腫瘍である。そのような実施態様では、腫瘍は化学療法に耐性がある。他の実施態様では、腫瘍は転移性である。他の実施態様では、腫瘍は再発した患者に由来する。
【0075】
C.薬学的製剤と投与
薬剤、例えば上記のセクションII.Aに示す抗体、タンパク質又は核酸を含んでなる薬学的製剤は、一般に当分野で公知の方法に従って調整されうる。このような製剤は、所望の純度を持つ薬剤と、場合によっては生理学的に許容される担体、賦形剤又は安定化剤を混合することにより(Remington: The Science and Practice of Pharmacy 20th edition (2000))、水溶液、凍結乾燥又は他の乾燥製剤の形態に調製されて保存される。許容される担体、賦形剤又は安定化剤は、用いられる用量と濃度でレシピエントに一般に低毒性であり、ホスフェート、シトレート、ヒスチジン及び他の有機酸等のバッファー;アスコルビン酸及びメチオニンを含む酸化防止剤;保存料(例えばオクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロリド;ベンザルコニウムクロリド、ベンズエトニウムクロリド;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;メチル又はプロピルパラベン等のアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリシン等のアミノ酸;グルコース、マンノース、又はデキストリンを含む単糖類、二糖類、及び他の炭水化物;EDTA等のキレート化剤;スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトール等の糖;ナトリウム等の塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質複合体);及び/又はTWEENTM、PLURONICSTM又はポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤を含む。インビボ投与に使用される薬学的製剤は一般に無菌でなければならない。これは、滅菌濾過膜を通して濾過することにより容易に達成される。
【0076】
また薬剤は、例えばコアセルベーション技術あるいは界面重合により調製されたマイクロカプセル、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチンマイクロカプセル及びポリ-(メタクリル酸メチル)マイクロカプセルに、コロイド状ドラッグデリバリー系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフィア、マイクロエマルション、ナノ-粒子及びナノカプセル)に、あるいはマクロエマルションに捕捉させてもよい。このような技術はRemington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)において開示される。
【0077】
徐放性調合物を調製してもよい。徐放性調合物の好ましい例は、活性な薬剤を含む疎水性固体ポリマーの半透性マトリクスを含み、そのマトリクスは成形物、例えばフィルム又はマイクロカプセルの形態である。徐放性マトリクスの例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、又はポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3773919号)、L-グルタミン酸とγエチル-L-グルタメートのコポリマー、非分解性エチレン-酢酸ビニル、分解性乳酸-グリコール酸コポリマー、例えばLUPRON DEPOTTM(乳酸-グリコール酸コポリマー及び酢酸ロイプロリドからなる注射可能なミクロスフィア)、及びポリ-D-(-)-3-ヒドロキシブチル酸が含まれる。エチレン-酢酸ビニル及び乳酸-グリコール酸等のポリマーは、分子を100日以上かけて放出することを可能にするが、ある種のヒドロゲルはタンパク質をより短い時間で放出する。カプセル化された薬剤が体内に長時間残ると、37℃の水分に暴露された結果として変性又は凝集し、生物活性を喪失させ抗体の場合に免疫原性を変化させるおそれがある。合理的な戦略を、関与するメカニズムに応じて安定化のために案出することができる。例えば、凝集機構がチオ-ジスルフィド交換による分子間S−S結合の形成であることが見いだされた場合、安定化はスルフヒドリル残基を修飾し、酸性溶液から凍結乾燥させ、水分含有量を制御し、適当な添加剤を使用し、また特定のポリマーマトリクス組成物を開発することによって達成されうる。
【0078】
他の態様では、治療又は予防のために、上記セクションII.Aに示す薬剤、例えば抗体、タンパク質又は核酸を投与するための方法が提供される。ある実施態様では、薬剤は、少なくとも一の更なる治療薬および/またはアジュバントと組み合わせて投与される。ある実施態様では、更なる治療的薬剤は、細胞障害性剤、化学療法剤又は増殖阻害性剤である。このような実施態様のうちの1において、化学療法剤は、結腸癌の治療で用いられる薬剤又は薬剤の組み合わせてある。このような薬剤には、限定するものではないが、フルオロウラシル(5FU)単独、又はロイコボリン又はレバミゾール;エドレコロマブ;イリノテカン;オキサリプラチン;raltitrexed;及びフルオロピリミジンとの組合せが含まれる。
上記した併用療法は、併用投与(2以上の治療薬が同じ又は別々の製剤に含まれる場合)、及び別々の投与を包含し、その場合、薬剤の投与は、更なる治療的薬剤および/またはアジュバントの投与の前、同時及び/又は後に行うことができる。また、薬剤は放射線療法と組み合わせて用いられてよい。
【0079】
薬剤(と任意の更なる治療薬又はアジュバント)は、非経口、皮下、腹腔内、肺内、及び鼻腔内、及び望ましい場合には局所治療の場合には病巣内投与を含む任意の適切な方法により投与されうる。非経口注入には、筋肉内投与、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、又は皮下投与が含まれる。加えて、薬剤は、特に薬剤の用量を漸減しながらパルス注入によって投与されてもよい。投薬は、投与が短期のものであるか長期のものであるかにある程度依存して、例えば静脈内注射又は皮下注射などの注射により任意の好適な経路により行われる。
遺伝子治療方法は、例えば本明細書中に記載の核酸のいずれかをインビボの細胞に運搬するために用いられてよい。一実施態様では、ターゲッティング薬剤は、核酸を含有している媒介物を所望の組織へ導くために用いられる。
【0080】
現在、核酸(場合により、ベクターを含む)を哺乳動物の細胞に導入するためには、2つの主用なアプローチ:インビボおよびエクスビボがある。インビボデリバリー用には、核酸を、哺乳動物内の、通常は核酸及び該当する場合にはコードされたポリペプチドが必要とされる部位に間接的に注入する。エクスビボ処置用には、哺乳動物の細胞を取り出し、これらの単離された細胞に核酸を導入し、この修飾された細胞を直接哺乳動物に投与するか、あるいは、例えば多孔性膜内に包んで哺乳動物に移植する(例えば米国特許第4892538号および第5283187号を参照のこと)。
生存能力のある細胞に核酸を導入するための種々の利用可能な技術が存在する。この技術は、核酸を意図される宿主のインビトロ培養細胞に移すのか、あるいはインビボ細胞に移すのかに依存して変化する。核酸をインビトロ哺乳類細胞に移すのに適当な技術には、リポソーム、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、形質導入、細胞融合、DEAE−デキストラン、リン酸カルシウム沈殿法の使用などが含まれる。形質導入には、複製欠損性組換えウイルス(レトロウイルスを含むがこれに限定しない)粒子を細胞レセプターと結合させ、次いで粒子内に含まれる核酸を細胞に導入することが含まれる。遺伝子のエクスビボデリバリー用に一般に用いられるベクターはレトロウイルスベクターである。
【0081】
一般に用いられるインビボ核酸輸送技術には、ウイルス性または非ウイルス性ベクター(例えばアデノウイルス、レンチウイルス、単純ヘルペスIウイルスまたはアデノ関連ウイルス(AAV))でのトランスフェクションおよび脂質に基づく系(核酸の脂質媒介性輸送に有用な脂質は例えば、DOTMA、DOPEおよびDC−Cholである;例えば Tonkinson et al., Cancer Investigation, 14(1): 54-65 (1996) を参照のこと)が含まれる。このようなベクターを用いて、本発明のアンタゴニストや核酸分子などのデリバリー薬剤のための媒介物として用いられうるウイルスを合成する。遺伝子治療に用いるために最も一般的に用いられるベクターはウイルスであり、例えばアデノウイルス、AAV、レンチウイルスまたはレトロウイルスである。一実施態様では、ウイルス性ベクター、例えばレトロウイルスベクターには、少なくとも1つの転写プロモーター/エンハンサーまたは遺伝子座規定因子(locus-defining element)(群)、または、メッセンジャーの選択的スプライシング、核RNA輸出または翻訳後修飾のような他の手段によって遺伝子発現を制御する他の因子が含まれる。さらに、ウイルス性ベクター、例えばレトロウイルスベクターには、対象の核酸に作動可能に連結されており、翻訳開始配列として作用する核酸分子が含まれる。このようなベクターコンストラクトにはまた、用いられるウイルスに適当な、パッケージングシグナル、長末端反復(LTR群)またはその一部、およびポジティブおよびネガティブ鎖プライマー結合部位が含まれる(これらが該ウイルス性ベクターに存在しない場合)。さらに、このようなベクターコンストラクトは、置き換えられている宿主細胞からのコードされたポリペプチドの分泌のためのシグナル配列を含んでよい。場合により、このベクターコンストラクトは、ポリアデニル化用のシグナル、ならびに1つまたはそれ以上の制限部位および翻訳終結配列が含まれることもある。例示として、このようなベクターには典型的に、5’LTR、tRNA結合部位、パッケージングシグナル、第二鎖DNA合成の起点および3’LTRまたはその一部が含まれる。非ウイルス性の他のベクター、例えばカチオン性脂質、ポリリシンおよびデンドリマー(dendrimers)を用いることもできる。
【0082】
いくつかの状況では、核酸又は他の分子の運搬に用いられる媒介物は、特定の細胞集団に媒介物をターゲティングする標的薬剤と関連している。一実施態様では、標的薬剤は、標的細胞上の細胞−表面膜タンパク質、標的細胞上のレセプターに対するリガンドなどに特異的な抗体である。リポソームを用いる場合、エンドサイトーシスに関連する細胞表面膜タンパク質と結合するタンパク質を、標的化のために用い、ならびに/あるいはこれを用いて取り込みを促進してもよい。レセプター媒介性エンドサイトーシスの技術は、例えば Wu et al., J. Biol. Chem., 262: 4429-4432 (1987); および Wagner et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87: 3410-3414 (1990) に記載されている。
現在既知の遺伝子マーキング(gene marking)および遺伝子治療プロトコルの総括に関しては、Anderson et al., Science, 256: 808-813 (1992) を参照のこと。また、国際公開93/25673およびその引用文献を参照のこと。適当な遺伝子治療およびレトロウイルス粒子および構造タンパク質の作製方法は、例えば米国特許第5681746号に見出すことができる。
【0083】
本発明の抗体は、医学的実用性に合わせた様式で調製し、1回分に分けて、投与される。ここで考慮する要因は、治療する特定の疾患、治療する特定の哺乳動物、個体の臨床状態、疾患の原因、薬剤の運搬部位、投与の方法、投与の日程計画、及び医師が知る他の因子を含む。必要ではないが場合によっては、対象の疾患を予防するか又は治療するために現在用いられる一又は複数の薬剤と抗体とが調製される。そのような他の薬剤の有効量は、製剤中の抗体の量、疾患又は治療の種類、及び上記の他の因子に依存する。これらは一般的に、本明細書中に記載されるように同じ用量及び投与経路で、又は本明細書中に記載される用量のおよそ1〜99%で、又は経験的/臨床的に適切であることが決定される任意の用量及び経路で用いられる。
【0084】
疾患の予防又は治療のために、本発明の抗体の好適な用量は(単独で用いる場合、又は一又は複数の他の更なる治療薬と組み合わせて用いる場合)、治療する疾患の種類、抗体の種類、疾患の重症度及び経過、抗体を予防目的で投与するか治療目的で投与するか、以前の治療法、患者の病歴及び抗体への応答性、及び担当医師の判断に依存するであろう。抗体は一時的又は一連の治療にわたって好適に個体に投与される。疾患の種類及び重症度に応じて、約1μg/kg〜15mg/kg(例えば0.1mg/kg〜10mg/kg)の抗体が、例えば一以上の分割投与又は連続注入による個体投与の初期候補用量である。ある典型的な1日量は、上記の要因に応じて、約1μg/kg〜100mg/kg以上の範囲であろう。症状に応じて、数日間以上にわたる繰り返し投与は、所望の疾患症状の抑制が得られるまで持続する。抗体の用量の例は、約0.05mg/kg〜約10mg/kgの範囲であろう。ゆえに、約0.5mg/kg、2.0mg/kg、4.0mg/kg又は10mg/kgの一又は複数の用量を(又はそれらを組み合わせて)個体に投与してもよい。このような用量は、間欠的に、例えば週ごと又は3週ごとに投与してもよい(例えば患者に約2〜約20、例えば約6用量の抗体が投与される)。初期の比較的高い負荷用量の後、一又は複数の比較的低い用量が投与されてもよい。例示的用量計画は、約4mg/kgの初期負荷用量の後、約2mg/kgの毎週の維持用量の抗体が投与されることを含む。しかしながら、他の投与計画が有効かもしれない。この治療の進行は、従来の技術及びアッセイにより容易にモニターすることができる。
【実施例】
【0085】
III.実施例
A.材料および方法
1.腫瘍組織におけるβ2の検出
新鮮凍結大腸腫瘍組織をグラススライド上で5〜10mmに切断した。LCMは、Arcturus PixCellシステムを使用して実行した。腫瘍細胞又は正常上皮を、15又は30mmのレーザーピクセルサイズを用いてH&E染色切片から切り出し、1試料当たり100〜3000の細胞等価物を回収した。RNAを単離し、プローブを生成し、cDNAマイクロアレイ上でハイブリダイズさせた。製造業者の指示に従ってBiocare Medical (Concord, CA)のMACH3ウサギプローブHRPポリマーキット又はMACH3マウスプローブHRPポリマーキットを用いて免疫組織化学法(IHC)を行った。α-RESTポリクローナル抗体(Upstate, Lake Placid, NY)又はα−β2モノクローナル抗体(3D1、Genentech, Inc.)を、ヒトの結腸腺癌(グレードIII)および結腸転移性カルチノーマ組織アレイ(Cybrdi, Gaithersburg,MD)とともに用いた。
【0086】
2.SCN2B(β2)プラスミド構築および形質移入
SCN2B.ECD.HISコンストラクト:SCN2BのC末端ポリヒスチジンタグ化(HIS8) ECDをコードする核酸を、pSVI7ベクター(DHFR)にクローニングし、Fugene6(Roche Diagnostics, Indianapolis, IN)を用いてDP12 CHO細胞に形質移入した。クローンは、200nMメトトレキセートを含有する培地中で選択した。β2タンパク質は、表現型研究、モノクローナル抗体の生成及びNotch1結合研究のためにNi-NTAビーズ(Qiagen, Valencia, CA)を用いてDP12細胞培養液から精製した。SCN2B.FL.GFP:完全長SCN2Bコンストラクトは、pSVIPD.IRES.GFPベクター(ピューロマイシン耐性マーカー)にクローニングし、抗体スクリーニングおよび表現型アッセイのためにCHO又はSW620細胞に形質移入した。
【0087】
3.細胞培養
ヒト腫瘍細胞株は、10%FBS、L−グルタミンおよびペニシリン-ストレプトマイシンを添加したRPMI1640又はF12:DMEM50:50培地にて維持した。CHO細胞は、10%FBS、GHT、L−グルタミンおよびペニシリン-ストレプトマイシンを添加したF12:DMEM50:50中で維持した。HUVEC細胞は、EGM-2 (Cambrex, Valkersville, MD)を添加したEBM−2培地中で維持した。
【0088】
4.免疫ブロット分析
細胞は超音波処理により溶解緩衝液(100mM NaH2PO4、10mM トリス-HCL、8M 尿素及び0.05%Tween20、pH8.0)中で溶解させ、溶解物(一般的に25μg総タンパク質)を4−12%トリス−グリシンゲル(Invitrogen)に流した。タンパク質は、PVDFメンブレン(Invitrogen, Carlsbad, CA)又はニクトロセルソースメンブレン(Invitrogen)に移した。免疫ブロットは、2%BSA、5%粉ミルクを含むPBS中で4℃で終夜遮断した。以下の抗体、マウスα−β2モノクローナル又はウサギα−β2ポリクローナル(Genentech, Inc.)、α-RESTポリクローナル抗体(Upstate, Lake Placid, NY)、α-Notch1(G20)ポリクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)、α-FLAG抗体(Sigma)を用いた。IRDye680コンジュゲートヤギα-マウスIgG又はIRDye680コンジュゲートロバα-ウサギIgG (Rockland Inc., Gilbertsville, PA)を用いて二次検出を行った。免疫反応バンドを検出し、Odyssey Infrared画像システム(LI-COR Biosciences, Lincoln, NE)にてブロットをスキャニングすることによって分析した。あるいは、二次検出は、ECLα-マウスIgGHRP(Amersham)を用いて行い、Chemiglow West (Alpha Innotech)を用いて検出した。
【0089】
5.β2抗体の生成
5匹のBalb/cマウス(Charles River Laboratories, Hollister, CA)を、Ribiアジュバント(Ribi Immunochem Research, Inc., Hamilton, MO)のCHO細胞(Genentech, Inc., South San Francisco, CA)からの組み換えポリヒスチジンタグ化(HIS8)ヒトβ2 ECDにて過剰免疫化した。直接ELISAにて高いα−β2抗体力価とFACSにてCHO細胞上に発現されるβ2への特異的結合を示すこれらマウスのB細胞を、既に開示されているもの(Kohler and Milstein, Nature 256:495-497, 1975;Hongo et al., Hybridoma 14:253-260, 1995)に類似の変更プロトコールを用いて、マウス骨髄腫細胞(X63.Ag8.653;American Type Culture Collection, Rockville, MD)と融合させた。10〜12日後に、上清を回収し、直接ELISAとFACSによって抗体産生を検査した。2回のサブクローニングの後、最も高い免疫結合を示すクローンを播種して培養した。各々のハイブリドーマ系統から回収した上清は、既に開示されているもの(上掲のHongo et al.)に類似の変更プロトコールを用いて、親和性クロマトグラフィ(ファルマシア高速タンパク質液体クロマトグラフィ[FPLC];Pharmacia, Uppsala, Sweden)によって精製した。次いで、精製された抗体調製物をフィルター滅菌し(0.2-μm細孔径;Nalgene, Rochester NY)、リン酸緩衝食塩水(PBS)中で4℃に保存した。
【0090】
6.免疫蛍光法
ビメンチンおよびアクチン細胞骨格(ローダミン-ファロイジン):細胞は、4%パラホルムアルデヒドにて室温で20分間固定し、0.05%サポニンにて室温で5分間透過処理した。β2、REST、切断Notch1 NICDおよびEカドヘリン染色のために、細胞は、メタノール中で4℃で2分間固定した。一次抗体インキュベートは、室温で1時間(ビメンチン染色のため)、または15分(ローダミン-ファロイジン染色のため)、または37℃で1時間(β2、REST、分割Notch1 NICDおよびEカドヘリン染色のため)行った。二次抗体インキュベートは30分間室温で行った。使用する抗体は以下の通りとした:α-アンキリンモノクローナル抗体(Chemincon International, Temecula, CA);α-ビメンチンモノクローナル抗体(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO);ローダミン-ファロイジン(Molecular Probes, Eugene, OR)、α-RESTポリクローナル抗体(Upstate, Lake Placid, NY)、α-Eカドヘリンモノクローナル抗体(Invitrogen, Carlsbad, CA)、α-Notch1(Val1744ペプチド、完全及び切断のNotch1 NICDを検出する) (Cell Signaling, Danvers, MA)又はα−β2モノクローナル抗体(Genentech, Inc.)。二次抗体は以下の通りとした:Cy3コンジュゲートウサギα-マウスIgG又はCy3コンジュゲートロバα-ウサギIgG (Jackson Lab, Bar Harbor, Maine)。スライドは、DAPI(4',6-ジアミジノ-2−フェニルインドール) (Vector Lab, Burlingame, CA)を有するVectashieldマウント培地にてマウントした。画像は、カメラを具備する顕微鏡の60X拡大を用いて撮像した。画像の上敷は、Adobe Photoshopソフトウェアを使用して生成した。完全又は切断のNotch1 NICD染色のために、二次抗体インキュベートの後に、スライドをヘキスト44257とともに20分間インキュベートし、室温で20分間核を染色し、Prolong Gold抗fade試薬(Invitrogen, Carlsbad, CA)にてマウントした。画像は、LSM510レーザースキャニング共焦点顕微鏡(Carl Zeiss Micro Imaging, Inc., Thornwood, NY)を用いて撮像した。全開ピンホールにて、カメレオンレーザー(Coherent, Santa Clara, CA)による二光子励起を、DAPI視覚化のために用いた。1Airy単位に設定したピンホールにて、HeNe(543nm)レーザーを蛍光色素励起に用いた。画像は、TIFF形式で保存し、フォトショップに蓄積した。
【0091】
7.β2およびβ2-ECD誘導表現型アッセイ
β2 ECDを発現するCHO細胞は、80%コンフルエンスまで増殖させ、培地を回収し、遠心して細胞片を取り除いた。この調整培地を用いて、記述した分析のために細胞株を処理した。ベクターを形質移入したCHO細胞から回収した培地をコントロールとして用いた。ファロイジン、ビメンチンおよびEカドヘリン染色のために、調整培地で処理した細胞を、48又は72時間に抗体にて染色した。
【0092】
8.抗体遮断アッセイ
SCN2Bおよびベクターを形質移入したCHO細胞とSW620細胞は、25%コンフルエンス時に1ウェルのチャンバガラススライド(Nalge Nunc International, Rochester, New York)上に播種した。100ng/mlのα−β2モノクローナル抗体を細胞培養液に加えた。72時間後に、細胞をローダミンファロイジンにて染色した。
【0093】
9.β2枯渇アッセイ
α−β2モノクローナル抗体結合ゲルは、製造業者の指示に従いSeize Primary免疫沈降キット(Pierce, Rockford, IL)を用いて作製した。DP12/SCN2B.ECD.HIS細胞から回収した細胞培養液をα−β2モノクローナル抗体結合ゲルとともに2時間インキュベートしβ2を取り除いた。流したものを表現型分析のために細胞に加えた。同じ手順を用いて、PBS結合ゲルにてβ2の擬枯渇を行った。また、β2は、Ni-NTAビーズ(Qiagen)を使用して枯渇させた。
【0094】
10.移動アッセイ
移動アッセイは、8mmの細孔径(BD Biosciences, Bedford, MA)を有するHTS FluoroBlockマルチウェルインサートシステムを使用して実行した。10細胞/ウェルを上のウェルに播き、FBSを底のウェルに加えた。18時間後、トランスウェルメンブレンの反対側に移動した細胞は、10umのYO−PRO−1ヨウ素(Invitrogen, Eugene, OR)にて染色し、蛍光プレート読み取り機Spectra Max GeminiEM (Molecular Devices, Sunnyvale, CA)を使用して定量した。
【0095】
11.細胞死および薬剤耐性:
飢餓に対する耐性:SW620細胞を完全培地中で終夜25%コンフルエンスで6ウェルプレートに播種した。この培地は、翌朝FBSを欠く培地と交換した。アッセイのために、細胞をトリプシンを用いて剥離させ、洗浄し、0.4%トリパンブルー(Invitrogen, Carlsbad, CA)にて染色した。すべての細胞と死細胞は血球計数器を使用して計数した。アッセイは3通り実行した。ドキソルビシン耐性:2×10のSW620細胞を、塩酸ドキソルビシン(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)の階段希釈とともに96ウェルの透明な黒底プレート(Corning Inc., Corning, NY)に播種し、5日間インキュベートした。細胞生存率は、Cell Titer Glo発光細胞生存率キット(Promega, Madison, WI)を用いて測定した。発光は、Envision 2103マルチラベル読み取り機(PerkinElmer, Finland)を使用して定量した。メトトレキセート耐性:5×10のCHO細胞を、200nmのメトトレキセート(Genentech Inc.)を含有する調整培地又はコントロール調整培地中のβ2 ECDとともに6ウェルプレートに播種した。細胞は、プレートから分離されて引き剥がし、記載のようにトリパンブルー0.4%(Invitrogen, Carlsbad, CA)にて染色した。
【0096】
12.siRNAノックダウン
SW620細胞のREST、Twist1又はNotch1のsiRNAノックダウンは、形質移入体としてDharmaFECT 2を有する60nmのsiRNAを使用して実行した。ネガティブコントロールとして、非ターゲッティングsiRNA配列(Dharmacon, Lafayette, CO)を用いた。免疫蛍光染色およびRT-PCR分析はsiREST形質移入の4日後に実施した。Twist1およびNotch1ノックダウンのために、細胞は、形質移入の24〜48時間後に調整培地中のβ2 ECDにて処理し、そのインキュベートの更に24〜48時間後に免疫蛍光染色又はRT−PCR分析を行った。siREST実験のために、形質移入の12時間後にα−β2抗体を加えた。siRNA二本鎖を設定し、Dharmacon (Lafayette, CO)によって合成した。一次標的配列は以下の通りである:
siREST:5'-CAACGAAUCUACCCAUAUUUU-3'(配列番号:3)。
siTwist1:5'-GCGACGAGCUGGACUCCAAUU-3'(配列番号:4)。
siNotch1:5'-GCGACAAGGUGUUGACGUUUU-3'(配列番号:5)。
更なるsiRNA配列:siTWIST1:5'-CUGCAGACGCAGCGGGUCAUU-3'(配列番号:6)、
5'-GGAGUCCGCAGUCUUACGAUU-3'(配列番号:7)、
5'-GAGCAAGAUUCAGACCCUCUU-3'(配列番号:8);
SiNOTCH1:5'-GAUGCGAGAUCGACGUCAAUU-3'(配列番号:9)、
5'-GAACGGGGCUAACAAAGAUUU-3'(配列番号:10)、
5'-GCAAGGACCACUUCAGCGAUU-3'(配列番号:11)。
【0097】
13.Eカドヘリン強度計算のための画像処理
画像は、フォトショップ形式からフォトショップCS2(version 9.0.2, Adobe; San Jose, CA)のTifに変換した。画像は、Metamorph (version 7.0r4, Molecular Devices; Sunnyvale, CA)に開き、オートメーション化した分析処理を行った。簡単に言うと、閾値を画像の各々の設定(最大画素値の約10〜15%)に適用しバックグラウンドを除いた。標準的なエロード機能を用いて更にバックグラウンドを減らし、残りの領域の端をスムースにした。個々の領域についての領域および強度測定値は、直接エクセル(Microsoft, Redmond, WA)へ出力した。画像の小さいサブセットは、バックグラウンドより上でかつ閾値より下の特異的な染色を示した。領域及び強度測定値を得るために、このサブセットについて、対象の領域を手動で作成した。一般的に、5つの別々の領域を分析し、各分析のために組み合わせた。
【0098】
14.統計学的分析
分析は3通り(またはそれ以上)行い、マイクロソフトエクセルのスチューデントT検定(等しい分散量、1テール分布)を使用して分析した。
【0099】
15.結合アッセイ
免疫沈降:細胞は、5mmのEDTAを用いて培養プレートから取り除き、0.5%NP−40、EDTAのないプロテアーゼインヒビター(Roche Diagnostics, Indianapolis, IN)および1mmのPMSFを含むTBSバッファに溶解した。細胞溶解物は、予め飽和させたプロテインGアガロース(Roche Diagnostics, Indianapolis, IN)とともに4℃で1.5時間インキュベートし、その後α−β2モノクローナル抗体とともに4℃で2時間インキュベートした。次いで、この細胞溶解物と抗体の混合物を予め飽和させたプロテインGアガロースとともに4℃で終夜インキュベートした。アガロースを回収し、タンパク質は免疫ブロット分析のためにトリス-グリシンゲルローディングバッファ(Invitrogen, Carlsbad, CA)において溶出させた。直接結合:調整培地を上記のように回収し、15mlのFLAGタグ付加Notch1 ECD:6−36(5μg)とともに室温で2時間振とうさせながらインキュベートした。50μlのNi-NTAアガロースビーズスラリー(Qiagen)を加え、振とうさせながら室温で2時間インキュベートした。遠心によりNi-NTAビーズを回収し、PBSにて3回洗浄した。あるいは、調整培地をNi-NTAビーズにて処理し、β2について濃縮し、結果として得たスラリーを1mlPBS中のNotch1 ECD:6−36(5μg)とともにインキュベートし、上記のようにインキュベートし、洗浄した。試料を2Xローディングバッファに溶出させた。
【0100】
16.マイクロアレイ分析
9031個の遺伝子を表しているマイクロアレイは、robotic arrayer (Norgren Systems, Mountain View, California)を用いて、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(Aldrich, Milwaukee WI)と1,4-フェニレンジイソチオシアネート(Aldrich, Milwaukee, WI)にてコートしたガラススライド上に、cDNAクローン(Invitrogen, Carlsbad, California and Genentech, Inc.)から得られるPCR生成物をプリンティングすることによって生成した。LCM材料からのRNA単離は、CsCl処置勾配(Kingston RE, Current Protocols in Molecular Biology, Vol. 1 (Ausubel FM, et al.編集) 4.2.5-4.2.6 (John Wiley and Sons, Inc., USA, 1998))によって行った。アレイ分析のためのプローブは、以下のような保存的増幅とその後のラベリングにより生成した:総RNA(Invitrogen, Carlsbad, CA)のオリゴdTプライミングから生成される二本鎖DNAは、単回の変更インビトロ転写プロトコール(Ambion, Austin, TexasのMEGASCript T7)を用いて増幅した。結果として生じたcRNAを鋳型として用い、MMLV由来のリバーストランスクリプターゼ(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いてランダムプライマー(9mer、0.15mg/ml)、Alexa488 dUTP又はAlexa546 dUTP(40μMおよび6μM、それぞれ、Molecular Probes, Eugene, Oregon)を用いてセンスDNAプローブを生成した。一般的な上皮細胞発現を反映する比較プローブは、汎用比較RNA(Strategene, La Jolla, CA)により0.1μgの総RNAから生成した。プローブは、50%ホルムアミド/5×SSC中で37℃で終夜アレイにハイブリダイズさせ、翌日2×SSC、0.2%SDS、その後0.2×SSC、0.2%SDSにて洗浄した。アレイ画像は、各々の色素に適切なXenon光源および光学フィルターを具備するCCD−カメラベースの画像システム(Norgren Systems, Mountain View, California)を用いて撮像した。完全な動的範囲画像を収集し(Autograb, Genentech Inc)、強度および比率は、Matlab (the MathWorks, Natick, Massachusetts)プラットフォームに構築されるオートメーション化したグリッド作成とデータ抽出ソフトウェア(gImage, Genentech, Inc.)を用いて導いた。
【0101】
17.マイクロアレイデータ分析
比率値は、N強度に対するログ比率をプロットし、各強度レベルでの正常な分布をフィットさせることによって、各実験内の異なる強度値で実験的散乱について基準化した。平均ゼロ前後の標準偏差(Zスコア)の測定値を各実験の各転写産物について得、この値をデータマイニングに用いた。具体的には、各々のマイクロアレイについて、我々は、試験データと比較データの最小の対数に対する試験データと比較データの比率の対数の散乱プロットから得たZスコアを算出することによってデータを基準化した。我々は、散乱プロットにレスアルゴリズムを適用することによって、強度に対する比率の中央値を推定した。我々は、絶対残差の平方根にレスを適用し、結果を二乗して中央値の絶対偏差(MAD)を得、乗法的補正を行ってMADから標準誤差に変換することによって、標準誤差を推定した。各比率について、中央値のレス曲線からの垂直距離をその強度での標準誤差で除して、Zスコアを決定した。腫瘍と正常な上皮の間で差次的に発現された遺伝子は、Rosetta Resolverの統計的検定(スチューデントT検定、等しい分散量、2テール分布)を用いて同定した。
【0102】
B.結果
1.β2は腫瘍において発現される
我々は、レーザーキャプチャの顕微解剖した材料のマイクロアレイ発現プロファイルにより結腸腫瘍細胞におけるβ2発現を発見した。この技術は、複雑な組織及び腫瘍などの罹患部位から別々の細胞集団を単離する際に有用性を示し、以前はこれらの細胞との関連付けがされていなかった遺伝子発現の同定を可能にする(Buckanovich et al., Cancer Biol. Ther. 5:635-642, 2006;Espina et al., Methods Mol. Biol. 319:213-229, 2006)。
レーザーキャプチャ顕微解剖(LCM)および転写産物プロファイリングは、新鮮凍結結腸腫瘍切片に実行した。試料採取は腫瘍間質境界近くの腫瘍細胞に偏っている。5組の正常な結腸上皮もLCMを用いて単離した。試料集団を比較するスチューデントT検定において、正常上皮と比較して腫瘍上皮でのβ2転写が過剰発現していることが同定された(p値=0.0014、図1A;図10A)。β2転写産物の検出は、隣接した腫瘍切片のサブセットから単離されたRNAに対するRT−PCRを使用して有効であることが認められた(図10B)。更なる確認のために、いくつかの隣接した腫瘍切片に対して非アイソトープインサイツハイブリダイゼーションを行い(図10C)、腫瘍細胞発現を確認した。
α−β2モノクローナル抗体を用いた免疫組織化学と組織マイクロアレイによる結腸腫瘍におけるβ2発現の詳細な分析により、41人の患者のうちの22人(54%)のグレードIII原発性腫瘍および転移性腫瘍(一般的にリンパ節)の腫瘍細胞、そして、62のうちの5(8%)の正常結腸試料での発現が明らかとなった。腫瘍染色は異種性であり、実際は斑点状であることが多かったことから、腫瘍上皮全体の強度と分布の変化を示す(図1B)。LCM分析は腫瘍間質境界に偏っているが、これは他の場所での発現を妨げることにはならず、β2は腫瘍端だけでなく間質に明らかに囲まれていない腫瘍上皮の他の領域で検出された。5つのβ2ポジティブ正常結腸において観察された染色は弱〜中程度であって、周辺細胞にのみに存在し、上皮腺窩細胞には存在しなかった。概して、これらのデータは、β2の転写産物およびタンパク質が50%以上の結腸腫瘍において発現されるのに対して、正常な結腸上皮では非常に限られた発現であることを示す。同様に、腫瘍組織から単離されるタンパク質のイムノブロット分析は、β2が他の腫瘍種類でも発現されることを示した(図10E)。
【0103】
2.β2は細胞の形態学的変換を誘導する
EMTは、上皮細胞が紡錘様の線維芽細胞形態の発達を含む運動性の浸潤性細胞の多くの特質を獲得する分化転換プロセスである。β2の完全長タンパク質の発現又はβ2細胞外ドメイン(ECD)のみを含有する調整培地による細胞の処理は、細胞の有意な伸長と拡大とアクチン細胞骨格の再構築を誘導した(図2A)。これらの変化は、CHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣;図2A)並びにNCI−H226およびSW620のような腫瘍細胞株を含む多数の細胞株において観察された。これらの変化がβ2タンパク質の発現から生じたことが確認され、これらの作用は、β2のECDに特異的なモノクローナル抗体を用いてブロックされうる(図2B)。多くの新しく分化した細胞は正常な円形の外観に回復した。無関係なコントロール抗体(α-ブタクサ)にて処理された細胞はβ2が誘導する形態学的変化を保持した。
β2は、およそ129アミノ酸の予測される成熟ECDを含み、膜貫通領域と短い(およそ35アミノ酸)細胞内ドメインとともに、主にIgドメインからなる。我々は、CHO細胞から分泌されるように設定されたC末端his(8)タグ付加ECDコンストラクトを発現させることによって、ECD単独で形態学的変化を誘導するか否かを調べた。β2 ECDを含む調整培地は、様々な異なる細胞種(ナイーブCHO細胞、MDCK細胞、HUVEC(内皮)又は腫瘍細胞株NCI−H226、SW620、SW480およびPC-3;図2A、図11A)に置いた場合に、48〜72時間後に上記と同様な表現型変化を誘導することが可能であった。これらの作用がβ2 ECDの存在によるものであることを確認するために、β2タンパク質を培地から枯渇させ、次いでナイーブNCI−H226細胞に加えた。アクチン細胞骨格の変化は、ローダミン-ファロイジン染色を用いて評価し、各試料を、β2タンパク質についてのイムノブロッティングによっても分析した(図2C)。偽枯渇調整培地は、β2タンパク質を含み、完全な表現型変化を誘導した。β2が実質的に枯渇された(>90%)調整培地から検出可能な表現型変化は得られなかったが、β2が部分的に枯渇された調整培地は、細胞が伸長及び拡大しているが偽処理細胞よりは小さい程度である中間的な表現型を示した。これらのデータは、β2 ECD調整培地において観察される表現型変化はβ2 ECDに依存しており、β2タンパク質のレベルを反映することを示す。
【0104】
3.β2は移動を促進し、細胞死から守る
EMTを経る細胞と密接に関係する物理学的性質は運動性の増加である。腫瘍細胞の移動に対するβ2の作用は、β2形質移入とベクター形質移入のSW620細胞、又はβ2 ECD処理細胞の、貫通膜をまたいでの胎児ウシ血清(0.1%)を含む培地へ移動させる能力を比較することによって調べた。形質移入効率はおよそ75%であり、SCN2B形質移入プールのおよそ40%の細胞は代表的なβ2が誘導する表現型変化を表した。18時間後、β2形質移入細胞とβ2 ECDを含む調整培地にて処理した細胞について移動の有意な増加が観察された(図3A;それぞれp=0.03および0.0009)。対照的に、β2を内在的に発現するSW480細胞(図5A)を異なる2つのα−β2抗体にて処理すると、移動が増加した(図3B、各抗体についてp=0.001)ことから、さらに細胞性移動を促進する際のβ2の役割が裏付けられた。
EMTの他の特徴は細胞死への耐性の増加である(Lee et al., 2006)。この性質に影響するβ2の能力を、飢餓及び化学療法剤による処理を行ったSW620細胞において調査した。β2形質移入細胞又はベクター形質移入コントロール細胞は、血清を欠く培地中で2週間飢餓状態にし、トリパンブルー排除アッセイを用いて細胞生存率をベクター形質移入コントロール細胞と比較した。β2は細胞生存率を有意に増加し、35%のベクター形質移入コントロール細胞と比較して10%未満の細胞死であった(p=0.002、図3C)。また、β2は、化学療法剤であるドキソルビシンへの曝露による細胞死への耐性を促進した(図3D)。定量的細胞生存率アッセイ(Cell Titer Glo, Promega, Madison, WI)によって測定したところ、β2を形質移入したSW620細胞は、ベクターを形質移入したコントロール細胞と比較して、薬剤濃度の10倍範囲を上回る有意な生存率増加を表した。最後に、我々は、CHO細胞によるβ2の発現が、完全長β2形質移入CHO細胞の選別に用いられる化学療法剤、メトトレキセートに対する耐性を増加させたことを観察した。これを別々に評価するために、β2 ECDのみを発現するCHO細胞の調整培地をナイーブCHO細胞に加え、コントロール調整培地処理細胞と比較した。48時間200nMメトトレキセートがある場合には、60%のコントロール処理細胞が死んだのに対して、β2 ECD処理細胞の多くが生存したままであり(図3E、p=0.01)、10%の細胞死のみであった。これらのデータは、β2 ECDのみが化学療法剤への耐性を与えることを示す。
【0105】
4.β2はEカドヘリンの喪失とビメンチンの獲得を誘導し、このプロセスはEMT−関連転写因子Twist1に依存している
Eカドヘリンは上皮表現型を管理するものの一つとして働き、その喪失は腫瘍の開始と進行に関連している(Thiery and Sleeman, Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 7:131-142, 2006)。また、Eカドヘリンの喪失はEMTを経る細胞と強く関係している。免疫蛍光(図4A)およびFACS分析(図4B)によって明らかなように、SW620細胞はEカドヘリンを発現し(図4A)、β2の形質移入又はβ2 ECDを含む調整培地による48時間の処理によりEカドヘリンタンパク質レベルが大きく減少した。中葉中間生成物フィラメントタンパク質であるビメンチンの発現の誘導はEMTを経る上皮細胞のもう一つの特徴である(Huber et al., Curr. Opin. Cell Biol. 17:548-558, 2005;Lee et al., J. Cell Biol. 172:973-981, 2006;上掲のThiery and Sleeman)。完全長β2を発現するSW620細胞又はβ2 ECDを含む調整培地により処理されたSW620細胞をαビメンチン抗体にて免疫蛍光染色すると、他の検出されないレベルからビメンチンタンパク質発現における実質的な増加が明らかとなった(図4C)。
完全長β2とβ2 ECDのEカドヘリンの喪失と形態学的転換を誘導する能力をかんがみて、EMTを媒介することが可能な転写因子の発現を調べた。過渡的な発現を表すか又はフィードバック調節の対象となりうる転写の検出を容易にするために、SW620細胞をβ2 ECDを含む調整培地にて処理し、異なる時間にRNAを抽出した。マイクロアレイ分析により、β2 ECDに処置の6時間後にTwist1転写産物の誘導が明らかとなり、その後の時点で発現は振動パターンを示した(図12A)。RT-PCR分析により、Twist1の発現(図12B)とSnail及びSlug/Snail2などの他の特徴的なEMT転写因子の転写産物の誘導の証拠が有意又は強くないことが確認された(データは示さない)。調節の振動パターンは、独自のネガティブ調節を媒介するHES1などの転写因子について報告されており(Hirata et al., Science 298:840-843, 2002)、Twist1についての我々の所見は、この様式で振動する転写因子によって同様に調節又は誘導される可能性を示唆している。Twist1は、EカドヘリンのプロモーターのEbox配列に作用し、上皮細胞のEMTを誘導することが可能である転写リプレッサーであるので(Batlle et al., Nat. Cell Biol. 2:84-89, 2000;Bolos et al., J. Cell Sci. 116: 499-511, 2003;Cano et al., Nat. Cell Biol. 2:76-83, 2000;Conacci-Sorrell et al., J. Cell Biol. 163:847-857, 2003;Yang et al., Cell 117:927-939, 2004)、これらのデータは、β2への曝露の後のTwist1発現の誘導は観察される形態学的転換において有意な役割を果たしうることを示唆する。
【0106】
β2により誘導されるEMT様形態学的転換におけるTwist1の役割を調査するために、Twist1をsiRNAノックダウンを用いてSW620細胞から枯渇させた。次いで細胞を、β2 ECDを含む調培地にて処理し(図4D)、アクチン細胞骨格およびEカドヘリン染色を評価した。非ターゲッティングsiRNAにて処置したコントロール細胞では、β2による処置はアクチン細胞骨格の再構築とEカドヘリンの喪失を誘導したのに対して、コントロール調整培地は細胞に対して作用を示さなかった。しかしながら、Twist1に特異的なsiRNAがある場合には、β2は、EMTを誘導することがもはやできず、Eカドヘリン染色はポジティブのままで、細胞の形態は正常であった(図4D)。細胞の複数の別々の分野からのEカドヘリン染色の定量分析により、コントロール細胞と比較してTwist1について枯渇されたβ2 ECD処理細胞について統計学的に有意な相違が明らかとなった(図4E、p=0.001および0.009)。これらのデータは、SW620においてβ2により誘導されるEMTがTwist1の存在に依存していることを示す。発達におけるEMT関連転写因子間のクロストークと協力が記載されており(Aybar et al., Development 130:483-494, 2003;Ganguly et al., Development 132:3419-3429, 2005)、この実験ではそれらの転写産物は強く検出されなかったが、SnailおよびSlugのような転写因子もまた、これらの細胞又は異なる種類の細胞でのβ2誘導EMTにおいて役割を有する可能性がある。概して、β2 ECDによる処置の際のTwist1の誘導と、β2誘導性の形態学的転換のTwist1(特徴的なEMT誘導転写因子)への依存をかんがみて、これらの結果は、β2が実際にEMTを誘導するという我々の表現型データ所見を強く裏付けるものである。
【0107】
5.腫瘍細胞におけるRESTのノックダウンにより、β2によって誘導されるEMT様形態学的転換が生じる
非神経組織における神経系遺伝子の発現を制限するネガティブ転写調節因子であるRESTは、結腸およびおそらく他の癌における腫瘍抑制遺伝子として最近特徴づけされた(Westbrook et al., Cell 121:837-848, 2005)。タイプII電位依存的ナトリウムチャネルおよび関連のタンパク質は神経系及び発生的に発現され、SCN2Aは同定された初めのREST調節遺伝子の一つであった。SCN2Bゲノム領域(β2をコードする)の分析により、第一イントロンの4つのコンセンサスREST結合部位のクラスターが明らかとなったことから、RESTがβ2の発現を制御しうることが示唆された。我々は、さらに、腫瘍細胞のβ2の発現と結腸腫瘍細胞株を用いたREST非制御との間の関係を調べた。RESTおよびβ2のタンパク質について細胞株を染色したところ相反的な発現が示された。結腸細胞株SW480、RESTネガティブとして示されたSW1417(上掲のWestbrook et al.)、並びにSW1116はβ2ポジティブであったのに対して、RESTポジティブ株であるSW620ではβ2は検出されなかった(図9、図5A)。DLD-1は抑制因子ドメインを欠く変異型RESTタンパク質を発現し(上掲のWestbrook et al.)、β2についてはポジティブに染色された(図9)。これらのデータはRESTによって転写が抑制されるβ2と直接的又は間接的に一致している。免疫組織化学による結腸腫瘍におけるREST及びβ2のタンパク質発現の分析により、この関係が持続することが明らかとなった。我々は、先に記載したグレードIIIの腺癌と転移性結腸腫瘍の試料におけるRESTとβの相反的な染色パターンを発見した。斑状REST染色は41人の患者のうちの18人(44%;図5A)の腫瘍において観察され、1の腫瘍でのみRESTとβ2との染色にオーバーラップがあった(この発現は、41の症例のうちの22において検出された)。REST染色は62の正常結腸試料のうちの40(65%)において検出され、いずれもβ2ポジティブではなかった。これらの結果は、発現の反相関性はまさに細胞株の現象ではなく、腫瘍組織について真性であり、ヒト腫瘍細胞におけるRESTの喪失がβ2の発現に寄与しうるという仮説を裏付けることを示す。
【0108】
我々は、さらにREST腫瘍抑制遺伝子とβ2の生物学的に関係のある機能的関係の可能性を調べた。RESTの喪失が腫瘍細胞状況においてβ2の発現とEMTの誘導を生じるか否かを決定するために、RESTをRNAiを用いてSW620において枯渇させた。SW620は、SW480のREST及びβ2染色のパターンと反対のパターンを示すが(図5A)、同じ個体からの腫瘍に由来する。REST特異的なsiRNAの形質移入の5日後のイムノブロット分析により、非ターゲッティングコントロールsiRNAを形質移入した細胞と比較して、RESTの実質的な減少とβ2タンパク質の有意な増加が確認された(図5B、C;図13A、B)。アクチン細胞骨格のローダミン-ファロイジン染色を用いて可視化したように、細胞形態の変化はβ2誘導性のEMTと一致しており、Eカドヘリンの実質的な減少とビメンチンの誘導もまた、RESTノックダウン細胞において明らかであった(図5D)。細胞の複数の別々のフィールドからのEカドヘリン染色の定量分析により、非ターゲッティングコントロールsiRNAを形質移入した細胞と比較して、REST特異的siRNAを形質移入した細胞では統計学的に有意な減少が明らかとなった(図5E;p=0.001)。概して、これらのデータは、腫瘍細胞状況において、RESTの喪失の一つの結果は、β2の発現とEMTと一致した形態学的変化の誘導であることを示す。
【0109】
RESTのノックダウンが形態の変化とEMTと一致した形態マーカー発現を誘導したことを示したので、我々は、RESTの喪失により生じるEMTの誘導が主にβ2の発現によって媒介されるか否かを決定するために機能的にブロックするβ2モノクローナル抗体を用いた。RESTはsiRNAを用いてSW620細胞において枯渇させ、β2又は無関係な標的(ブタクサ)に対する抗体の存在下にて、細胞を4日間増殖させた。次いで、細胞を、アクチン細胞骨格を可視化するためにファロイジンにて、又はα-Eカドヘリン又はα-ビメンチン抗体にて染色した。α-ブタクサ抗体処理細胞は、形態学的に変化し、β2誘導性のEMTの代表であるEカドヘリンが喪失し、RESTがノックダウンされた。しかしながら、β2特異的なブロックモノクローナル抗体3D1および2E3にて処理したREST枯渇細胞は、正常な形態であり、Eカドヘリンを強力に発現し、ビメンチンをわずか又は全く発現しなかった。これは非ターゲッティングsiRNAコントロールにより観察されるものと類似していた(図5D)。細胞の複数の別々のフィールドからのEカドヘリン染色の定量分析により、無処置のsiREST細胞又はα-ブタクサ処理siRNA細胞と比較して、各々の異なるβ2機能的ブロック抗体3D1および2E3にて処理されたsiREST細胞のEカドヘリンレベルに統計学的に有意な増加が明らかとなった(図5E、それぞれp=0.02および0.01)。これらの結果は、β2によって媒介され、実際にβ2の細胞外発現を必要とするREST喪失により誘導されるEMT様形態転換と一致している。
【0110】
6.β2によるEMT様形態転換の誘導はNotch1に依存する
Notchシグナル伝達は、発生及び成体の自己再生細胞における細胞運命を調節する古代からの保存されたシステムである(Artavanis-Tsakonas et al., Science 284:770-776, 1999)。HES1は、自己媒介ネガティブ調節により(Hirata et al., Science 298:840-843, 2002)、転写発現の振動サイクルを経るNotch経路シグナル伝達の特徴的な標的である(Jarriault et al., Nature 377:355-358, 1995)。ECDにて処理したSW620細胞から得られる転写発現データにおける早い時点(6−24時間)の振動HES1発現は(図12A)、β2により誘導されるEMTにおけるNotchシグナル伝達の役割を示唆した。転写産物分析は、Notch1がSW620細胞において有意なレベルで発現される唯一のNotchファミリレセプターであったことを示唆した(図11B、C、D)。Notch1がSW620細胞のEMTを誘導するためにβ2 ECDを必要としたか否かを決定するために、細胞にNotch1に特異的なsiRNA又は非ターゲティングコントロールsiRNAを形質移入し、β2 ECDを含む調整培地にて処理し、Twist1活性及びEMTの一次マーカーとしてEカゼインの喪失について分析した。非ターゲッティングsiRNAを形質移入した細胞及びβ2 ECDにて処理した細胞は、コントロール培地処理細胞と比較してEカゼイン染色の喪失を示したが、Notch1の枯渇はこの形態学的転換をブロックし、正常なアクチン細胞骨格を有する細胞となり、Eカゼインについてポジティブであった(図6A、C)。これらのデータは、Notch1がβ2によるEMT様形態転換の誘導に必要であることを示す。
【0111】
Notchシグナル伝達の活性化は、Notch細胞内ドメイン(NICD)を放出するために、ADAMプロテアーゼおよびγ−分泌酵素によるレセプターの切断を必要とする。ゆえに、我々は、Notchシグナル伝達を妨げる(De Strooper et al., Nature 398:518-522, 1999)γ−分泌酵素がβ2誘導性のEMTも阻害するか否かを調べた。SW620細胞を、DMSO(ベヒクルコントロール)又は500nMの特定のγ−分泌酵素インヒビターDAPT(N-[N-(3,5−ジフルオロフェニルアセチル-L-アラニン)]-S-フェニルグリシン t−ブチルエステル)を含むDMSOと混合し、β2 ECDを含む調整培地にて処理し、Eカドヘリンの喪失について分析した。完全長β2とは異なり、β2 ECDコンストラクトは、特徴的なγ−分泌酵素切断部位を含んでおらず(Kim et al., J. Biol. Chem. 280:23251-23261, 2005)、ゆえにDAPTによるプロセシングの阻害のための標的とならない。コントロール調整培地にて処理された細胞と比較すると、DMSO存在下でβ2 ECDにて処理された細胞は、Eカドヘリンの代表的な喪失を示した。しかしながら、DAPT存在下でβ2 ECDにて処理された細胞はEカドヘリンポジティブのままであることから、Notch1シグナル伝達がβ2によるEMTの誘導に必要であることが示唆された(図6B、C)。siRNAノックダウンおよびγ-分泌酵素阻害実験におけるEカドヘリンの定量分析により、Notch1が枯渇されたか又はNotch1シグナル伝達が阻害されたβ2 ECD処理細胞においてEカドヘリンレベルが統計学的に有意に異なることが確認された(図6C)。
【0112】
SW620細胞は、NotchリガンドであるJagged1およびJagged2を発現するが(図11D)、EMTを経ていない。β2によって誘導されるEMTにおけるNotchシグナル伝達の見かけの役割をかんがみて、我々は、Jagged又はDelta様ファミリのNotchリガンドがEMTを誘導することができるか否かを調べた。細胞は、リガンドを発現している細胞と共に培養することによるトランス又はプレートに結合させたリガンドを用いてなどして、様々な形式のリガンドJagged1又はDLL1の外因性添加によって刺激されるが、用いたいずれの条件下でもEMTの所見が観察されなかった(データは示さない)。ポジティブコントロールとして、Notch1を形質移入した3T3細胞と共にNotchリガンドを発現する細胞を培養すると、CSL-結合プロモーターコンストラクトからのルシフェラーゼレポーターアッセイによって決定されるように、Notch経路シグナル伝達の所見が示された(データは示さない)。しかしながら、Jagged1を発現する細胞又はDLL1を発現する細胞による類似の共培養アッセイにおけるSW620の処置は、レポーターコンストラクトによるEMT様形態学的変化又は有意な活性を誘導しなかった(データは示さない)。このレポーターコンストラクトはSW620における内因性のNotchシグナル伝達を検出するほど十分な感度がなく、にもかかわらず、Jagged1又はDLL1によるEMTの誘導や関連の形態学的変化の所見がなかったことから、トランスのこれら特徴的なNotchリガンドの発現と提示はこれら細胞におけるEMT誘導に十分なものではなかったことが示唆される可能性がある。
【0113】
7. β2は、Notch1を結合し、Notch細胞内ドメイン(NICD)の核移行を誘導する
β2 ECDによる細胞の処理が、β2を内在的に発現しない細胞(例えば、SW620)において表現型変化を誘導することから、β2が作用するレセプターはβ2自体ではないことが示唆される。β2によって誘導されるEMTはNotch1およびNotch経路シグナル伝達に依存することが提唱され、表現型変化の出現(24〜72時間)の十分前である6時間の時点でHES1転写の誘導が観察されたことから(図12A)、我々は、β2がNotch1のリガンド又は結合パートナーであるかもしれないという可能性を調査した。Igドメインタンパク質であるβ2は、Jagged-1又は2及びDLL1のような典型的なNotchリガンドの配列特性を共有しない。しかしながら、コンタクチン/F3およびNB3の2つの他のIgドメインタンパク質は、神経系前駆体の細胞運命の決定に寄与する新規のNotchリガンドとして記述された(Cui et al., J. Biol. Chem. 279:25858-25865, 2004;Hu et al., Cell 115:163-175, 2003)。β2の候補レセプターとしてNotch1を考慮すると、Notch1(または、おそらくNotch2)発現は、β2 ECDに応答して形態学的変化を経る細胞において予想される。転写分析により、β2応答性腫瘍細胞株がNotch1(時にNotch2;図11B、Cの実施例)を発現したことが明らかになった。内皮のHUVEC細胞はNotch1を発現し、β2に応答したのに対して、β2に応答して表現型変化を示さなかったHEK293細胞(図11A)はNotch1を発現しない(Hicks et al., Nat. Cell Biol. 2:515-520, 2000;Ray et al., J. Biol. Chem. 274:36801-36807, 1999)。これらの所見は、β2のエフェクター又はレセプターであるNotch1と一致している。
【0114】
Notch1および2が物理的に結びつくか否かを決定するために、我々は、免疫沈降法においてα−β2モノクローナル抗体又は無関係なコントロール抗体(α-ブタクサ)を用いて、完全長β2形質移入SW620細胞の共免疫沈降法およびイムノブロット分析を行った。Notch1特異的モノクローナル抗体によるイムノブロッティングにより、α−β2抗体はβ2形質移入細胞溶解物からの内在性Notch1を共沈降したことが明らかになった。我々は、コントロール抗体を用いて、又はβ2を発現しない細胞のコントロール溶解物によるα−β2抗体を用いてはNotch1沈降を観察しなかったので、この共沈降は特異的であった(図7A)。
β2が直接Notch1を結合する可能性は、C末端ヒスチジンタグ付加β2 ECDと、C末端FLAGタグを有する大部分のEGFリピート領域(リピート6−36)を含有する精製されたNotch1 ECD領域を用いて調査した。Notch1 ECD(0.33μg/ml)は、β2 ECDを含む調整培地(0.4μg/mlと推定されるβ2)と共にインキュベートし、次いでβ2タンパク質をNi-NTAビーズを用いて回収した。あるいは、β2はNi-NTAビーズを用いて調整培地から濃縮し、その後PBS中でタグ付加したNotch1 ECD(3.3μg/ml)と共にインキュベートした。無関係なヒスチジンタグ付加タンパク質を含むコントロール調整培地と比較すると、いずれの方法においてもβ2によるタグ付加Notch1が回復した(図7B)。特に、低濃度の両タンパク質(およそ1nMのNotch1 ECDおよび20nMのβ2 ECD、図7Bレーン1)、及び血清、他のCHO産生タンパク質及び調整培地中に存在する分解性酵素の存在下でも、β2−Notch1結合が生じた。精製されたNotch1 ECDは、おそらくグリコシル化又は他の修飾により、二重バンドとして移動した(図7B)。しかしながら、β2への結合により、タグ付加Notch1 ECDの単一の明確なバンドが生じたことから、結合に関連した特異性又は修飾の可能性が示唆される。概して、これらの結果は、Notch1の結合パートナーとしてのβ2の役割を裏付けるものである。他のNotchリガンドと同様に、我々は、β2もまた、いくつかのβ2応答性細胞株上で高く発現される非常にホモログなNotch2を結合することを予測する。
【0115】
さらにβ2およびNotch1の結合の特徴を特徴付けするために、タグ付加β2 ECDを含む調整培地を、EGFリピート10−21又は22−33を含むNotch1 ECDの精製された断片と共に、上記の通りにインキュベートした。(Jagged1はNotch1のEGFリピート11−13を結合し、ショウジョウバエDeltaおよびSerrateはNotchのEGFリピート11−12を結合する)。これらNotch1 ECD断片の各々はC末端FLAGタグを含み、α-FLAG抗体によるイムノブロットでの検出を可能とする。β2 ECDはEGFリピート10−21を含むNotch1 ECDを特異的に結合し、EGFリピート22−33を含むECD断片の結合は検出されない(図7C)。これらのデータは、β2およびNotch1の結合は、EGFリピート構造を介した非特異的な結合というよりも、特異的であることを示す。
リガンドによるNotch1の活性化によりNICDを放出するための切断が生じ、このNICDは核に転移させ、他のタンパク質と協働して直接Notch標的遺伝子転写を調節する。我々は、核のNICDがβ2に応答して細胞において検出されうるか否かを分析した。NICDは昔から検出が困難であったので、我々は、プロテアソームインヒビター(100umのラクタシスチン)の存在下で細胞を増殖させ、タンパク質安定化を促し、撮像のための高解像度共焦点電子顕微鏡法を用いた。1の細胞を除いて細胞質染色又は膜染色のみが観察されたベクターを形質移入したコントロールと比較して、核のNICDは、β2を形質移入した細胞の大多数において検出された(図7D)。同様に、核NICDは、β2 ECDを含む調整培地による処理の6時間後にSW620細胞において検出され(図7D)、これは6時間目のこれら細胞において観察される高いHES1転写産物と一致している。これらのデータは、β2がNotchシグナル伝達経路の活性化を誘導することを示す。
【0116】
まとめると、我々のデータは、補助的タンパク質又は接着分子としての役割を越え、 EMTと一致した形態転換を誘導しうることを示す。腫瘍におけるこの神経系タンパク質の発現は、非神経組織の神経系遺伝子発現の転写リプレッサーであるRESTの喪失から生じうる。さらに、β2によって誘導される形態 転換は、発達、分化および細胞運命の進化的に保存されたマスター調節因子であるNotchに依存する(Artavanis-Tsakonas et al., Science 284:770-776, 1999)。新規のNotch結合パートナーβ2によるRESTの喪失およびNotch経路シグナル伝達を関連づける場合に、我々は、腫瘍進行および転移において3つすべての役割を記述する。
【0117】
8.抗体交差ブロック実験により3つの異なるエピトープが示唆される
以下のα−β2モノクローナル抗体が同じ又は異なるエピトープに結合するか否かを決定するために、抗体交差ブロック実験を行った。3D1、12A9、12E3、2E3および3G5。それらの実験において、図14にて図示するように、β2抗原に対するビオチン化された抗体の結合を、非標識の「競争者」抗体の存在下で評価した。結果は、抗体3D1および12A9は第一エピトープ(「エピトープA」)に結合し、抗体12E3は第二エピトープ(「エピトープB」)に結合し、そして、抗体2E3および3G5は第3エピトープ(「エピトープC」)に結合したことを示す。
【0118】
9.ATCC寄託
以下のハイブリドーマ細胞株をアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション,10801 University Boulevard, Manassas, VA 20110-2209, USA(ATCC)に寄託した。
ハイブリドーマ/抗体名称 ATCC番号 寄託日
12A9.22.1(12A9) PTA−8404 2007年5月2日
3D1.4.1(3D1) PTA−8405 2007年5月2日
2E3.1.1(2E1) PTA−8406 2007年5月2日
【0119】
この寄託は、特許手続き上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約及びその規則(ブダペスト条約)の規定に従って行われた。これは、寄託の日付から30年間、そして寄託物の試料の供給の直近の要請後少なくとも5年間、寄託の生存可能な培養が維持されることを保証するものである。寄託物はブダペスト条約の条項に従い、またジェネンテク社とATCCとの間の合意に従い、ATCCから入手することができ、これは、関連米国特許の特許査定時に、寄託した材料を公的に入手する際に寄託者により課せられる制限をすべて取消不能に排除されることを保証し、関連米国特許の発行時又は任意の米国又は外国特許出願のいずれか早いものの公開時に、寄託培養物の後代が永久かつ非制限的に一般に入手可能となることを保証し、米国特許法第122条及びそれに従う特許庁長官規則(特に参照番号886OG638の37CFR第1.14条を含む)に従って権利を有すると米国特許商標庁長官が決定した者が後代を入手できることを保証するものである。
本出願の譲受人は、寄託した培養物が、適切な条件下で培養されているときに死亡もしくは損失又は破壊された場合、通知時に材料を同一の他のものに即座に取り替えることに同意する。寄託物質の入手可能性は、特許法に従いあらゆる政府の権限下で認められた権利に違反して、本発明を実施するライセンスであるとみなされるものではない。
前述の発明は、理解を明確にするための図説及び実施例によってある程度詳細に記載されているが、この説明及び実施例は本発明の権利範囲を限定するものとみなされるものではない。本明細書中において引用したすべての特許文献及び科学文献の開示内容は、出典明記によってその全体が特別に援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β2に結合し、Notch1へのβ2の結合をブロックするモノクローナル抗体。
【請求項2】
a. ATCC受託番号PTA−8404、PTA−8405およびPTA−8406から選択されるハイブリドーマによって生産されるモノクローナル抗体、
b. (a)の抗体のヒト化形態であるモノクローナル抗体、
c. (a)の抗体と同じエピトープに結合するモノクローナル抗体、又は、
d.β2への結合について(a)の抗体と競合するモノクローナル抗体
である、請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項3】
β2に特異的に結合するNotch1の断片を含む、単離された可溶性ポリペプチド。
【請求項4】
腫瘍をβ2のアンタゴニストにさらすことを含む、腫瘍進行の阻害方法。
【請求項5】
β2のアンタゴニストがSCN2Bに特異的なアンチセンス核酸である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
アンチセンス核酸がRNAi能を有する調節RNAである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
β2のアンタゴニストが、β2に結合し、Notch1へのβ2の結合をブロックする抗体である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
a. ATCC受託番号PTA−8404、PTA−8405およびPTA−8406から選択されるハイブリドーマによって生産される抗体、
b. (a)の抗体のヒト化形態である抗体、
c. (a)の抗体と同じエピトープに結合する抗体、又は
d.β2への結合について(a)の抗体と競合する抗体
である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
β2のアンタゴニストが、Notch1に結合し、β2へのNotch1の結合をブロックする抗体である、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
抗体がEGFリピート10−21を含むNotch1の領域内で結合する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
β2のアンタゴニストが、β2に特異的に結合するNotch1の断片を含む可溶性ポリペプチドを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項12】
腫瘍が転移性である、請求項4に記載の方法。
【請求項13】
腫瘍が化学療法に対して抵抗力がある、請求項4に記載の方法。
【請求項14】
腫瘍が結腸腫瘍である、請求項4に記載の方法。
【請求項15】
腫瘍がREST活性を低減しているか、又はβ2活性を増加している、請求項4に記載の方法。
【請求項16】
細胞をβ2のアンタゴニストにさらすことを含む、細胞のEMTの阻害方法。
【請求項17】
β2のアンタゴニストがSCN2Bに特異的なアンチセンス核酸である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
アンチセンス核酸がRNAi能を有する調節RNAである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
β2のアンタゴニストが、β2に結合し、Notch1へのβ2の結合をブロックする抗体である、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
a. ATCC受託番号PTA−8404、PTA−8405およびPTA−8406から選択されるハイブリドーマによって生産される抗体、
b. (a)の抗体のヒト化形態である抗体、
c. (a)の抗体と同じエピトープに結合する抗体、又は、
d.β2への結合について(a)の抗体と競合する抗体
である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
β2のアンタゴニストが、Notch1に結合し、β2へのNotch1の結合をブロックする抗体である、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
抗体がEGFリピート10−21を含むNotch1の領域内で結合する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
β2のアンタゴニストが、β2に特異的に結合するNotch1の断片を含む可溶性ポリペプチドを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項24】
細胞が腫瘍細胞である、請求項16に記載の方法。
【請求項25】
腫瘍細胞が転移性腫瘍に由来する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
腫瘍細胞が化学療法に対して抵抗力がある腫瘍に由来する、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
腫瘍細胞が結腸腫瘍細胞である、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
細胞がインビトロである、請求項16に記載の方法。
【請求項29】
細胞がインビボである、請求項16に記載の方法。
【請求項30】
腫瘍がβ2のアンタゴニスト又はNotch1のアンタゴニストに応答するか否かの決定方法であって、腫瘍においてREST活性の低減又はβ2活性の増加を検出することを含み、このとき腫瘍におけるREST活性の低減又はβ2活性の増加が、腫瘍がβ2のアンタゴニスト又はNotch1のアンタゴニストに応答することを示す、方法。
【請求項31】
REST活性の低減を検出することを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
β2活性の増加を検出することを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
腫瘍が転移性である、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
腫瘍が化学療法に対して抵抗力がある、請求項30に記載の方法。
【請求項35】
腫瘍が結腸腫瘍である、請求項28に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A−B】
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【図3C−E】
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【図4A−C】
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【図4D−E】
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【図5A−C】
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【図5D−E】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A−C】
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【図10D−E】
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【図11A−B】
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【図11C−D】
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【図12】
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【図13A−B】
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【図13C】
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【図14】
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【公表番号】特表2011−504503(P2011−504503A)
【公表日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−535024(P2010−535024)
【出願日】平成20年11月18日(2008.11.18)
【国際出願番号】PCT/US2008/083865
【国際公開番号】WO2009/067429
【国際公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(509012625)ジェネンテック, インコーポレイテッド (357)
【Fターム(参考)】