説明

腸内菌叢改善剤及びそれを含有する飲食品

【課題】優れた腸内菌叢改善作用を有し、加熱処理してもその効果が損われることのない腸内菌叢改善剤及びそれを含有する飲食品を提供する。
【解決手段】腸内菌叢改善剤の有効成分として、乳酸菌、ビフィズス菌、納豆菌及び酵母から選ばれた1種以上の加熱処理菌体を含有させる。中でも、乳酸菌の加熱処理菌体が好ましく、特に乳酸球菌(Enterococcus faecalis)の加熱処理菌体が好ましい。この腸内菌叢改善剤は、前記加熱処理菌体を1日当たり1×1010個以上摂取できるように調製されたものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、乳酸菌等の加熱処理菌体を有効成分として含有し、加熱処理しても腸内菌叢改善効果を失うことのない腸内菌叢改善剤及びそれを含有する飲食品に関する。
【0002】
【従来の技術】
ヒトの腸内(特に大腸)には、多種多様な細菌(腸内細菌)が定住しており、腸内菌叢(腸内フローラ)と呼ばれる細菌群を形成している。腸内菌叢は、100種類以上、100兆個の腸内細菌から構成されていると言われており、ヒト(宿主)の健康と密接な関係があることが知られている。腸内細菌は、ヒトが消化できなかった食物残渣や消化管からの分泌物等を餌として増殖して便となって体外に排出され、便の固形分の3分の1から、多い時は2分の1位までが腸内細菌の菌体である。
【0003】
腸内菌叢を構成する細菌として、ビフィズス菌、バクテロイデス、ユウバクテリウム、クロストリジウム、大腸菌、乳酸桿菌、腸球菌等が知られている。腸内菌叢における細菌のバランスは相当の個人差はあってもその人自身のバランスは新生児の頃から成年に至るまで健康時ではほとんど変わらないと言われている。しかし、ストレス、過労、暴飲・暴食、偏食、気候・温度、薬、感染、加齢等の様々な要因によって、そのバランスが崩れ、ビフィズス菌等の有用菌が減少してウエルシュ菌や大腸菌等の有害菌が増えると、下痢、便秘、免疫力の低下による感染症、腸内腐敗産物の増加による発ガン等の様々な疾患の原因になることが指摘されている。
【0004】
乳酸菌やビフィズス菌等の有用菌は、乳酸や酢酸等の有機酸を産生してウエルシュ菌や大腸菌等の有害菌の増殖を抑制し、腸内菌叢を良好な状態に保つことが知られており、乳酸菌やビフィズス菌等の生菌を含む、生菌製剤、発酵乳、乳酸菌飲料、納豆等を積極的に摂取することにより、腸内菌叢のバランスが改善されることが分かっている。
【0005】
一般に、乳酸菌やビフィズス菌等を摂取して腸内菌叢のバランスを改善するためには、これらの菌を生きたまま腸に到達させて定着させる必要があると言われている(日本食品科学工学会誌、第48巻、第1号、p35〜43、2001年1月)。しかし、乳酸菌やビフィズス菌等は酸に弱く、生菌を摂取しても胃酸や胆汁酸等でそのほとんどが死んでしまうため、これらの菌を生きたまま腸に到達できるように、より高い耐酸性を有する菌株の選択やカプセル化等の様々な方法が行なわれている。
【0006】
また、元々腸内にいるビフィズス菌等を増やすことによって腸内菌叢を改善するために、食物繊維やビフィズス菌に選択的に資化される各種オリゴ糖(ビフィズス菌増殖因子)を配合した飲食品もあるが、腸内菌叢改善効果が期待できるような量の食物繊維や上記オリゴ糖を摂取した場合、おなかが張ったり、下痢を起こしたりすることがあった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように乳酸菌やビフィズス菌等の摂取による腸内菌叢のバランス改善効果はこれらの生菌に由来するものであるとの認識が一般的であり、これまでに乳酸菌やビフィズス菌等の死菌体による腸内菌叢改善効果について研究されたことはなかった。また、同様の理由から腸内菌叢の改善を目的とする場合、乳酸菌やビフィズス菌等を添加した後にも加熱処理が必要とされるような飲食品に添加することは行なわれていない。
【0008】
したがって、本発明の目的は、優れた腸内菌叢改善作用を有し、加熱処理してもその効果が損われることのない腸内菌叢改善剤及びそれを含有する飲食品を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、意外にも乳酸菌等の加熱処理菌体を摂取することにより、ビフィズス菌の増殖が促進され、有害菌の増殖が抑制されて、腸内菌叢が改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の一つは、乳酸菌、ビフィズス菌、納豆菌及び酵母から選ばれた1種以上の加熱処理菌体を有効成分として含有することを特徴とする腸内菌叢改善剤である。
【0011】
本発明の腸内菌叢改善剤は、乳酸菌、ビフィズス菌、納豆菌及び酵母から選ばれた1種以上の加熱処理菌体を有効成分として含有することにより、理由は明確には分からないが、腸内のビフィズス菌の増殖を促進し、ウエルシュ菌等の有害菌の増殖を抑制して腸内菌叢を良好な状態に改善する効果を有する。その結果、糞便性状を良好にし、便秘症状を改善することができる。また、有効成分である乳酸菌等の加熱処理菌体は死菌体であるので、更に加熱処理を行なってもその腸内菌叢改善効果が損われることがない。したがって、加熱処理が必要な飲食品にも幅広く添加することができ、また、保存安定性が高く、飲食品や医薬品の原料として用いる場合の安全性も非常に高い。
【0012】
本発明の腸内菌叢改善剤は、乳酸菌の加熱処理菌体を有効成分として含有することが好ましい。また、前記乳酸菌が乳酸球菌(Enterococcus faecalis)であることが好ましい。これらの態様によれば、より高い腸内菌叢改善効果を有する腸内菌叢改善剤を得ることができる。
【0013】
更に、前記加熱処理菌体を1日当たり1×1010個以上摂取できるように調製されたものであることが好ましい。この態様によれば、充分な腸内菌叢改善効果を有する腸内菌叢改善剤を得ることができる。
【0014】
また、本発明のもう一つは、上記腸内菌叢改善剤を含有することを特徴とする飲食品である。
【0015】
本発明の飲食品は、乳酸菌等の加熱処理菌体を有効成分として含有する腸内菌叢改善剤を含有するので、摂取することにより優れた腸内菌叢改善効果が期待できる。該腸内菌叢改善剤は死菌体を有効成分とするので、加熱処理が必要な飲食品であっても腸内菌叢改善効果が損なわれることがなく、また、乳酸菌等による不要な発酵が起こることがないので、飲食品の保存安定性に影響を与えることもない。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明の腸内菌叢改善剤は、乳酸菌、ビフィズス菌、納豆菌及び酵母から選ばれた1種以上の加熱処理菌体を有効成分として含有するものである。
【0017】
乳酸菌としては、例えば、Enterococcus faecalisEnterococcus faeciumLactobacillus acidophilusLactobacillus caseiLactobacillus lactiStreptococcus thermophilus等が挙げられる。
ビフィズス菌としては、例えば、Bifidobacterium LongumBifidobacterium breveBifidobacterium bifidum等が挙げられる。
納豆菌としては、例えば、Bacillus Natto等が挙げられる。
酵母としては、例えば、Saccharomyces cerevisiaeSaccharomyces Carlsbergensis等が挙げられる。
【0018】
本発明における加熱処理菌体とは、上記の菌を加熱殺菌して得られる死菌体であり、上記の菌を常法にしたがって培養して得られた培養物から、例えば、濾過、遠心分離等の方法により菌体を回収し、水洗後、水等に懸濁して80〜115℃、30分〜3秒間加熱処理した後、必要に応じて濃縮、乾燥することにより調製できる。
【0019】
本発明の腸内菌叢改善剤は、上記菌の中でも乳酸菌の加熱処理菌体を含有することが好ましく、特にEnterococcus faecalis(ATCC 19433、ATCC 14508、ATCC 23655、IFO 16803、IFO 16804等)の加熱処理菌体を含有することが好ましい。
【0020】
本発明の腸内菌叢改善剤は、上記菌の加熱処理菌体を1日当たり1×1010個以上、より好ましくは5×1011個以上、特に好ましくは1×1012個以上摂取できるように調製されていることが好ましい。該加熱処理菌体の1日当たりの摂取量が上記より少ないと、充分な腸内菌叢改善効果が期待できない。
【0021】
本発明の腸内菌叢改善剤は、上記の加熱処理菌体の他に、必要に応じて、賦形剤、甘味料、酸味料、ビタミン類、ミネラル類、オリゴ糖類、食物繊維等を添加して、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、ペースト状又はゼリー状の飲料として調製することができる。
【0022】
また、本発明の腸内菌叢改善剤を、例えば、パン、うどんやラーメン等の各種麺類、納豆、ドリンク剤やゼリー飲料等の各種飲料、ゼリー、グミ、キャンディー、ビスケット、インスタントスープやインスタント味噌汁等の各種インスタント食品、レトルト食品、電子レンジ対応食品等の一般の飲食品に添加することもできる。上記各飲食品における腸内菌叢改善剤の添加量は、各飲食品中に上記加熱処理菌体が1×1010個以上、より好ましくは5×1011個以上、特に好ましくは1×1012個以上含有されるように添加することが好ましい。なお、添加方法は、特に制限はなく、各飲食品に用いられる他の原料と一緒に最初から添加することができる。
【0023】
本発明の腸内菌叢改善剤は、乳酸菌等の加熱処理菌体、すなわち死菌体を有効成分とするので、加熱処理(加熱殺菌、焼成、蒸煮等の菌体が死滅するような温度条件下での処理)が必要な飲食品に添加しても、腸内菌叢改善効果が損われることがない。
【0024】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を表す。
【0025】
実施例
Enterococcus faecalis(ATCC 19433)をロゴサ培地で37℃、24時間培養した前培養液を、酵母エキス4%、ポリペプトン3%、乳糖10%を含む液体培地に0.1(v/v)%接種し、pHスタットを用いてpH6.8〜7.0に苛性ソーダ水溶液で調整しながら37℃、22〜24時間中和培養を行なった。
【0026】
培養終了後、連続遠心機で菌体を分離、回収した後、水を加えて元の液量まで希釈して再度連続遠心機で菌体を分離、回収した。この操作を合計4回繰り返して菌体を洗浄した。次いで、洗浄した菌体を適量の水に懸濁し、100℃、30分間殺菌した後、スプレードライヤーを用いて菌体を乾燥して加熱処理菌体粉末を調製した。
【0027】
得られた加熱処理菌体粉末を用いて、表1に示す組成で試験サンプル及びプラセーボ(それぞれ1g/包)を調製し、以下の方法により実験を行なった。なお、試験サンプルは、乳酸菌加熱処理菌体を1×1012個含むように調製した。
【0028】
【表1】



【0029】
実験期間は4週間とし、ボランティア8名に、最初の1週間はプラセーボを1日1回1g/包を就寝前に服用してもらい、次の2週間は試験サンプルを同様に服用してもらい、最後の1週間はプラセーボを同様に服用してもらった。そして、0日目(実験前)、7日目(プラセーボ服用1週間目)、14日目(試験サンプル服用1週間目)、21日目(試験サンプル服用2週間目)、28日目(プラセーボ服用1週間目)にそれぞれ糞便を採取してもらい、糞便中の菌叢の変化を調べた。
【0030】
糞便中の菌叢の測定は、光岡知足の方法(感染症学会雑誌 45巻 第9号、406頁〜)に準じて行なった。すなわち、採取した糞便1gを乳鉢に取り、嫌気希釈液9mLを加えて均質化した後、嫌気希釈液を用いて10倍段階希釈した。この希釈液を、BL培地及びネオマイシンNagler寒天培地(NN培地)に塗布して、嫌気下、37℃で培養し、総菌数、バクテロイデス、ビフィズス菌、ウエルシュ菌の数を測定した。なお、上記嫌気希釈液は、蒸留水に、KHPOを4.5g、NaHPOを6.0g、L−システイン塩酸塩を0.5g、Tween 80を0.5g加え、全量を1000mLに調製したものである。また、総菌数は、BL培地に出現したコロニー数に希釈倍率を乗じて求めた。バクテロイデス及びビフィズス菌は、BL培地に出現したコロニーを釣菌し、グラム染色と検鏡により同定した。ウエルシュ菌は、NN培地を使用し、コロニー周囲のレシチナーゼ反応陽性のものをウエルシュ菌と判定した。そして、糞便1g中に含まれる総菌数、ビフィズス菌数及びウエルシュ菌数の変化を図1に示した。
【0031】
図1から、試験サンプル(乳酸菌加熱処理菌体)の服用期間に該当する実験期間14日目〜21日目において、ビフィズス菌数が有意に増加し、ウエルシュ菌数が有意に減少していることが分かる。なお、有意差の検定は、t−検定で行なった。
【0032】
また、総菌数に占めるビフィズス菌及びバクテロイデスの割合を表2に示した。
【0033】
【表2】



【0034】
表2からも同様に、試験サンプルの服用期間に該当する実験期間14日目〜21日目において、総菌数に占めるビフィズス菌の割合が増加し、バクテロイデスの割合が減少していることが分かる。
【0035】
また、各被験者に実験期間中の排便状況についてアンケートしたところ、下痢等の症状は見られなかった。そして、普段から便秘気味の被験者を含むほとんどの被験者において、試験サンプルの服用期間に該当する実験期間中は、排便回数が増えると共に糞便性状も良好になり、便秘が改善される傾向にあった。
【0036】
以上の結果から、乳酸菌(Enterococcus fecalis)の加熱処理菌体を摂取することにより、腸内のビフィズス菌の増殖を促進し、バクテロイデスやウエルシュ菌等の有害菌の増殖を抑制して腸内菌叢を改善する効果があり、更に便秘改善効果もあることが示された。
【0037】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、乳酸菌、ビフィズス菌、納豆菌及び酵母から選ばれた1種以上の加熱処理菌体を有効成分として含有させることにより、腸内のビフィズス菌の増殖を促進し、バクテロイデスやウエルシュ菌等の有害菌の増殖を抑制する効果を有する腸内菌叢改善剤を提供できる。この腸内菌叢改善剤を摂取することにより、腸内菌叢を良好な状態に改善することができ、また、糞便性状を良好にして、便秘等の症状を改善することができる。
【0038】
本発明の腸内菌叢改善剤は、死菌体を有効成分とするので、加熱処理が必要な飲食品にも幅広く添加することができ、様々な飲食品に腸内菌叢改善効果を付与できる。更に、飲食品に添加しても、乳酸菌等による不要な発酵が起こることがないので、飲食品の保存安定性に影響を与えることがなく、また、飲食品、医薬品の原料として用いる場合の安全性も非常に高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】乳酸菌(Enterococcus fecalis)の加熱処理菌体の摂取による糞便中の菌叢の変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌、ビフィズス菌、納豆菌及び酵母から選ばれた1種以上の加熱処理菌体を有効成分として含有することを特徴とする腸内菌叢改善剤。
【請求項2】
乳酸菌の加熱処理菌体を有効成分として含有する、請求項1に記載の腸内菌叢改善剤。
【請求項3】
前記乳酸菌が乳酸球菌(Enterococcus faecalis)である、請求項1又は2に記載の腸内菌叢改善剤。
【請求項4】
前記加熱処理菌体を1日当たり1×1010個以上摂取できるように調製された、請求項1〜3のいずれか一つに記載の腸内菌叢改善剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の腸内菌叢改善剤を含有することを特徴とする飲食品。

【図1】
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【公開番号】特開2004−51530(P2004−51530A)
【公開日】平成16年2月19日(2004.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−210445(P2002−210445)
【出願日】平成14年7月19日(2002.7.19)
【出願人】(391003912)コンビ株式会社 (165)
【Fターム(参考)】