腸管ホルモン分泌調整成分の製造方法,使用方法,機能性食品および医薬
【課題】食物中からの分画成分により、肥満、糖尿病あるいは腸疾患の予防あるいは治療に供しうる機能食品や医薬を提供する。
【解決手段】食物から得られる脂肪酸を変性し、変性脂肪酸を少なくとも1回のHPLCを含むクロマトグラフィーによって分画することにより、変性脂肪酸から腸管ホルモン分泌調整成分を取り出す。複数回のHPLCによる分画を行なってもよい。脂肪酸としては、特に、αリノレン酸、DHA等不飽和長鎖脂肪酸あるいは天然の油脂、たとえば紫蘇油や魚油から画分された脂肪酸が適している。カラムクロマトグラフィーにより分画することにより、SIHRおよびIIHRと名付けた物質が得られる。SIHRは、カロリー当たりの腸管ホルモン分泌調整(促進または抑制)機能が高いので、長期間摂取しても、肥満等を招くことなく、糖尿病の予防,改善に役立つ。IIHRは腸疾患等の予防、改善に役立つ。
【解決手段】食物から得られる脂肪酸を変性し、変性脂肪酸を少なくとも1回のHPLCを含むクロマトグラフィーによって分画することにより、変性脂肪酸から腸管ホルモン分泌調整成分を取り出す。複数回のHPLCによる分画を行なってもよい。脂肪酸としては、特に、αリノレン酸、DHA等不飽和長鎖脂肪酸あるいは天然の油脂、たとえば紫蘇油や魚油から画分された脂肪酸が適している。カラムクロマトグラフィーにより分画することにより、SIHRおよびIIHRと名付けた物質が得られる。SIHRは、カロリー当たりの腸管ホルモン分泌調整(促進または抑制)機能が高いので、長期間摂取しても、肥満等を招くことなく、糖尿病の予防,改善に役立つ。IIHRは腸疾患等の予防、改善に役立つ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸管ホルモン分泌調整成分の製造方法,使用方法,ならびに腸管ホルモン分泌調整成分を含む機能性食品および医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
食物を摂取すると腸管から種々のホルモンが分泌され、種々の生理機能を発揮することが知られている。これら腸管ホルモンのうち、膵蔵のβ細胞からインスリンを放出促進する能力を持つホルモンは、インクレチンと称されている。インクレチンとしてはグルカゴン様ペプチド(以下、GLP-1(glucagon-like peptide 1)と呼ぶ)およびGIP(gastric inhibitory peptide)が知られている。インクレチンはインスリン分泌を介して、血糖の組織取り込みを調節する重要なホルモンである。インクレチン分泌の障害は糖尿病発症の原因となる。
【0003】
一方、末梢でサブスタンスP(Subastance P)やニューロキニン(Neurokinin)がニューロキニン受容体(Neurokinin receptor)に反応することによる疾患として、例えば腸管の神経性炎症(非特許文献1参照),内臓の痛み/痛覚過敏症(非特許文献2参照),下痢(非特許文献3参照),腸管や膵臓の炎症惹起(非特許文献4参照),ストレス性皮膚炎症(非特許文献5参照),神経性炎症(非特許文献6参照),急性腸炎(非特許文献7,8参照),腸管憩室疾患(非特許文献9参照)などが知られている。
【0004】
腸管ホルモンであるサブスタンスP、ニューロキニンやCCKは過剰に継続的に放出された場合はIBS(過敏性腸疾患)やIBD(炎症性腸疾患)の発症や増悪を推進するが、健常人では、腸管免疫を惹起し、消化管に侵入する病原菌等から生体を守る働きや、消化液の分泌や腸管運動の調節を行い消化活動を推進する働きを行っている、生体にとって有用な物質である。サブスタンスP、ニューロキニンやCCK等の腸管ホルモン分泌が十分行われない患者に対しては、腸管ホルモン分泌を促進する療法が必要である。
【0005】
また、腸管より腸管ホルモン放出を促進する食物中成分として、糖類、アミノ酸、ペプチド、脂質や脂肪酸類が知られている。いずれも栄養素として人体に利用される。また、腸管ホルモン分泌をコントロールしてインスリン放出を促進し、糖尿病を治療しようとする医薬品が開発されている。体内で分解されにくいGLP-1誘導体を投与するアプローチと、体内でのGLP-1分解を抑える分解酵素阻害剤(DPP4インヒビター)が次世代糖尿病薬として注目されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Am J Physiol Gatrointesti Liver Physiol 279, G1298-G1306, 2000
【非特許文献2】Neuroscience,98(2), 345-352, 2000
【非特許文献3】Br. J. Pharmacol. 121(3), 375-80)1997
【非特許文献4】Am J Physiol 272, G785-93, 1997
【非特許文献5】Clin Exp Dermatol, 29, 644-648, 2004
【非特許文献6】Neurocience 125(2), 449-459, 2004
【非特許文献7】Neuroscience, 145(2), 699-707 2007
【非特許文献8】IBD (Eur J Pharmacol, 548(1-3), 150-137, 2006
【非特許文献9】Dig Liver Dis 36(5), 348-354,2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記次世代糖尿病薬などの臨床結果から、GLP-1の血中濃度を上昇させることが、糖尿病治療に有効であることが明確になってきている。一方、GLP-1は満腹中枢を刺激して、食欲を抑制することが知られている。GLP-1誘導体の臨床結果により、肥満抑制効果が明確に示された。したがって、食物を摂取すれば、腸管からGLP-1が放出され、GLP-1の血中濃度が上昇するので、自然に食物を摂取することは、糖尿病を予防することにもつながるといえる。
【0008】
しかしながら、食物は栄養ともなるので、食物を摂取過剰することで、肥満、ひいては糖尿病を招く。カロリーの取り過ぎで肥満状態に陥ると、生活習慣病として糖尿病が誘発されることは周知の通りである。
したがって、GLP-1の血中濃度を上昇させるために、食物を過剰に摂取することは、糖尿病の予防または治療方法として適切でない。
【0009】
一方、食物摂取はGLP−1以外にも様々な腸管ホルモン放出を促進する。サブスタンスP,ニューロキニン,CCK等は、腸管免疫の促進による腸管からの微生物の体内への侵入を防ぎ、また消化活動を助ける。これら腸管ホルモン分泌能力の低下した人は、腸管からの微生物侵入を防御する機能が低下して、腸のみならず全身の感染症誘発の危険にさらされる。また、消化活動の低下に端を発するさまざまな疾患の危険にさらされる。
食物摂取による腸管ホルモン分泌能力が低下した人には、腸管ホルモン分泌促進物質投与が有効であるが、当然のことながら、通常の食物に対して、カロリーあるいは分子(モル数)あたりの腸管ホルモン分泌能力の高い物質を投与する必要がある。
【0010】
反面、腸管ホルモンの過剰分泌が継続することは、腸疾患、例えばIBS, IBD発症あるいは増悪につながる。IBS,IBD等の腸疾患発症を予防治療するためには、腸管ホルモン分泌を抑制する物質を投与する必要がある。
【0011】
本発明の目的は、食物中からカロリー当たりあるいは分子(モル数)の腸管ホルンの調整機能の高い成分を取り出す手段を講ずることにより、肥満、糖尿病あるいは腸疾患の予防あるいは治療に供しうる機能食品や医薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者達は、食物中に存在する、カロリー当たりあるいは分子(モル数)当たりの、GLP-1放出活性などの腸管ホルモン調整機能の高い成分(分泌調整成分)を取り出すことができれば、これを摂取することにより、肥満、糖尿病あるいは腸疾患の予防あるいは治療が可能ではないかと考えた。
かかる発想の下に、鋭意努力の結果、カロリー当たりあるいは分子(モル数)当たりの腸管ホルモン分泌促進活性あるいは腸管ホルモン分泌抑制活性が高い成分など、腸管ホルモン調整機能の高い成分を食品より取り出すことに成功した。
本発明は、本発明者達が出願した特願2008−066909号の発明を前提とし、これをさらに発展させたものである。したがって、特願2008−066909号中の各発明を前提としている。
【0013】
すなわち、本発明の腸管ホルモン分泌調整成分の製造方法は、脂肪酸を変性し、変性脂肪酸を少なくとも1回の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を含むクロマトグラフィーにより分画して、変性脂肪酸から腸管ホルモン分泌調整成分を取り出す方法である。
【0014】
脂肪酸としては、より好ましくは、αリノレン酸(αLA)、Docosahexanoic Acid(DHA)等の不飽和長鎖脂肪酸,紫蘇油および魚油等の天然油脂,あるいは、天然油脂から調整した脂肪酸画分が適している。
そして、これらを変性する方法としては、周知の方法を採用することができる。たとえば、高温(30℃から150℃)で加熱あるいは空気中や酸素中で攪拌し、酸化させる、あるいは紫外線照射等により変性する。あるいはこれらを組み合わせて変性させるなどの方法がある。
【0015】
天然油脂からの脂肪酸の調製方法は、周知の方法を採用して実施することができる。典型的な方法としては、以下の処理がある。
アルカリで元の油脂をけん化し、けん化物を水と石油エーテルの混合物を用いて分画し、水−エタノール画分を酸処理すると、水−エタノール画分として遊離の脂肪酸とグリセリンの混合物が得られ、石油エーテル画分として不けん化物が得られる。次に、水−エタノール画分を石油エーテルで再度洗浄すると、石油エーテル側に脂肪酸が分画され、残りにグリセリンが分画される。
【0016】
分画の方法としては、溶媒抽出法や各種クロマトグラフィーを用いることができるが、一部で必ず少なくとも1回のHPLC(高速液体クロマトグラフィ−)を用いる。本発明者達は、後述する各実施例に記載されるように、分離能の高いHPLCを用いることにより、より高精度で物質を特定しあるいは物質を特定できることを見出した。
たとえば、変性脂肪酸を逆相クロマトグラフを用いたHPLCにより、メタノールと水との容量比が80〜50:20〜50であり容量比0.05%±0.01%の酢酸を含む溶出液により溶出し、分画する。
その際、特願2008−066909号に記載したように、シリカゲルプレート上で、展開溶媒としてヘキサン、エーテルおよび酢酸を、容量比60:40:1の割合で用い、Rf値が、0.10〜0.12、0.13〜0.15、0.22〜0.24、0.23〜0.25、0.24〜0.26、および0.25〜0.27の領域にスポットを示す画分を分画する。
【0017】
また、分画の方法として、シリカゲルカラムを用いたクロマトグラフィー(たとえばシリカゲルカートリッジSep-Pak等),各種カラム(例えば逆相カラム、シリカゲルカラム等)を装着したHPLC,あるいは他のクロマトグラフイー)によることができる。たとえば、変性脂質をシリカゲルカートリッジ(Sep-Pak Plus long, Waters, WT020520)にチャージし、溶媒ヘキサン:エーテルの比率を段階的に変えて溶出する。HPLCの前処理としてシリカゲルカートリッジを用いる場合は、例えばヘキサン:エーテル=100:1〜50混合液でカートリッジを洗浄後、ヘキサン:エーテル=0〜50:100混合液で溶出する。この操作により未変性のαリノレン酸を除去でき、次の精製ステップであるHPLCでの分離性能向上あるいは、カラム劣化の防止に役立つ。
また、シリカゲルカートリッジを用いたクロマトグラフィーにより、腸管ホルモン分泌調整成分を大まかに分別することができる、たとえば溶出液として、ヘキサン:エーテルの比を、
(1)100:5
(2)90:10
(3)80:20
(4)70:30
(5)60:40
(6)50:50
(7)40:60
(8)30:70
(9)20:80
(10)10:90
(11)0:100
に変化させた混合液に、段階的に溶出する。目的の腸管ホルモン分泌調整物質に合わせて、洗浄に用いる溶出液と溶出に用いる溶出液を選択する。たとえば、上記溶出液(2)で洗い、溶出液(6)で目的物質を溶出する。機能性食品あるいは医薬品の成分として腸管ホルモン分泌調整物質を用いる時に、部分精製物で目的を達成できる場合があり、シリカゲルカラムでの部分精製は有効である。
シリカゲルカートリッジを用いる方法の詳細は、特願2008−066909号に記載したとおりである。
【0018】
そして、分画する際に、薄層クロマトグラフィー(TLC)(シリカゲルプレートと、ヘキサン,エーテル,酢酸を容量比60:40:1で混合した展開溶媒とを用いる)においてRf値が、0.10〜0.12、0.13〜0.15、0.22〜0.24、0.23〜0.25、0.24〜0.26、および0.25〜0.27の領域にスポットを示す画分を分画することにより、カロリー、又は分子(モル数)当たりのGLP-1(Glucagon-like peptide-1)分泌促進活性が高い物質が取り出される。本明細書においては、この分泌促進成分をSIHR(Stimulators of intestinal hormone release )と呼ぶことにする。SIHRは、その物質自体がGLP-1放出促進活性を有するものである。
【0019】
また、分画する際に、HPLC(送液装置(SHIMADZU, LC-6AD)、カラムオーブン(SHIMADZU, CTO-10A)、検出器(SHIMADZU, SPD-M20A))において、逆相カラム(TOSOH, TSKgel ODS-80Ts, 4.6mmID×250mm)、カラムオーブン温度40℃±5℃の条件で分画し、HPLCにおいて、逆相カラム(TOSOH, TSKgel ODS-80Ts, 4.6mmID×250mm)カラムオーブン温度40℃±5℃の条件でそれぞれ分画し、メタノールと水との容量比が64〜66:36〜34であり容量比0.05%±0.01%の酢酸を含む溶出液により流速0.9〜1.1ml/分で溶出し、溶出時間が11〜12.5分,18.75〜20.25分,26.5〜28分、60〜62分,および62〜64分の画分を分画することにより、アゴニストとして機能するSIHRが得られる。
【0020】
また、HPLC(送液装置(SHIMADZU, LC-6AD)、カラムオーブン(SHIMADZU, CTO-10A)、検出器(SHIMADZU, SPD-M20A))において、逆相カラム(TOSOH, TSKgel ODS-80Ts, 4.6mmID×250mm)、カラムオーブン温度40℃±5℃の条件で分画し、メタノールと水との容量比が49〜51:51〜49であり容量比0.05%±0.01%の酢酸を含む溶出液により流速0.9〜1.1ml/分で溶出し、溶出時間が48.25〜50.25分、50.25〜52.5分の画分を分画することによっても、アゴニストとして機能するSIHRを得ることができる。
【0021】
また、分画する際に、HPLC(送液装置(SHIMADZU, LC-6AD)、カラムオーブン(SHIMADZU, CTO-10A)、検出器(SHIMADZU, SPD-M20A))において、逆相カラム(TOSOH, TSKgel ODS-80Ts, 4.6mmID×250mm)、カラムオーブン温度40℃±5℃の条件で分画し、メタノールと水との容量比が69〜71:31〜29であり容量比0.05%±0.01%の酢酸を含む溶出液により流速0.9〜1.1ml/分で溶出し、溶出時間が0〜5分,35〜40分,45〜50分,および65〜70分の画分を分画することにより、腸管ホルモン例えばGLP−1,CCK、サブスタンスPやニューロキニン類(例えばニューロキニンAの分泌抑制成分が得られる。
腸管ホルモンの過剰分泌あるいは継続的分泌は疾患の原因となり、CCK, サブスタンスP(Substance P)およびニューロキニンA(Neurokinin A)の過剰分泌が人体に有害であることが知られている。本明細書においては、腸管ホルモンの分泌を抑制する食品成分を、IIHR(Inhibitor of Intestinal hormone-release)と呼ぶことにする。サブスタンスP、ニューロキニンまたはCCKはIBS(過敏性腸疾患症候群)、IBD(炎症性腸疾患)等の腸疾患において、疾患の発症、増悪に関係することが知られており、IIHRはIBS, IBD等腸疾患予防治療医薬あるいは機能性食品として有用である。
【0022】
上記3種類のHPLCのうちのいずれかを一回目のHPLCとして行なって、得られた画分について、さらに、二回目のHPLCとして上記3種類のHPLCのうちのいずれかを行うことにより、より夾雑物が除かれたSIHRおよびIIHRを得ることができる。
上記二回目のHPLCの後、さらに、三回目,四回目,・・・と、多数回のHPLCを行なってもよい。
【0023】
GLP−1分泌促進物質を含む機能性食品、あるいはGLP−1分泌促進物質を有効成分として含む医薬の用途としては以下の用途がある。
GLP-1の濃度増加にともなう対象疾患または症状として、例えば、(1)膵臓β細胞からインスリン分泌を促進することによる糖尿病治療薬 (2)膵臓β細胞の分化増殖促進による、高血糖、インスリン抵抗性、肥満などから糖尿病に移行することを予防する糖尿病予防薬。またはβ細胞移植時の移植細胞の生着率向上;(3)胃酸分泌抑制による胃酸過多治療;(4)腸管運動抑制による下痢治療(5)神経の可塑性や生存を維持し、神経障害による疾患の治療;及び(6)食欲抑制による肥満予防治療、などが対象となる。ただし、対象疾患または症状は、上記に限定されるものでなく、GLP-1の濃度亢進にともなう治療,症状改善のすべてが対象となる。
【0024】
CCK分泌抑制物質を含む機能性食品、あるいはCCK分泌抑制成分を有効成分として含む医薬の用途としては以下の用途がある。
CCKの濃度増加にともなう対象疾患または症状として、たとえば(1)CCKは膵炎を促進するために、CCK濃度を低下させることにより、膵炎治療が可能になる。(2)CCKは胃酸の分泌を促進するので、CCK濃度の抑制により、胃酸過多の治療が可能になる。(3)CCKは中枢で不安、ストレスによる行動障害を起こすために、CCK濃度の抑制により、行動障害の治療や精神安定剤としての利用が可能になる。(4)CCKはモルヒネ等の鎮痛剤に拮抗するので、CCK濃度を低下させることにより、鎮痛剤の効果増強が可能である。(5)CCK濃度の抑止により、感染性下痢など下痢の治療が可能になる。ただし、対象疾患または症状は、上記に限定されるものでなく、CCKの濃度亢進にともなう疾患の治療または症状改善のすべてが対象となり得る。
【0025】
サブタンスPまたはニューロキニン分泌抑制物質を含む機能性食品、あるいはサブタンスPまたはニューロキニン分泌抑制物質を有効成分として含む医薬の用途としては以下の用途がある。
末梢で、サブスタンスPやニューロキニンの濃度増加にともなう対象疾患として、例えば腸管の神経性炎症(非特許文献1参照),内臓の痛み/痛覚過敏症(非特許文献2参照),下痢(非特許文献3参照),腸管や膵臓の炎症惹起(非特許文献4参照),ストレス性皮膚炎症(非特許文献5参照),神経性炎症(非特許文献6参照),急性腸炎(非特許文献7,8参照),腸管憩室疾患(非特許文献9参照)などが知られている。IIHR(サブスタンスP/ニューロキニン分泌抑制物質)により、これらの疾患または症状の治療または症状改善が可能となる。ただし、対象疾患または症状は、上記に限定されるものでなく、サブスタンスPやニューロキニンの濃度亢進にともなう疾患の治療または症状改善のすべてが対象となり得る。
【発明の効果】
【0026】
本発明の腸管ホルモン分泌調整成分の製造方法,機能性食品または医薬によると、食物中からカロリー当たりの腸管ホルモン調整機能促進成分を分画して取り出すことにより、肥満、糖尿病の予防あるいは治療に供しうる機能食品や薬品を提供することができる。
食品成分の脂肪から腸管ホルモン分泌を促進あるいは抑制する成分の製造法を確立し、
分離された成分を含む機能性食品や医薬品の提供を試みた。目的の成分の純度を向上させることにより、夾雑物が持つ可能性のある副作用の危険を回避できる。あるいは活性本体の構造、性質を明らかにすることにより、目的の成分の安定的供給を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例3における一回目HPLCのクロマトグラフを示す図である。
【図2】実施例6における一回目HPLで分取された画分と各画分のGLP−1放出特性を示す図である。
【図3】実施例7における一回目HPLCのクロマトグラフを示す図である。
【図4】実施例7における一回目HPLCで分取された画分のGLP−1分泌阻害活性を示す図である。
【図5】実施例7における一回目HPLCで分取された画分のCCK分泌阻害活性を示す図である。
【図6】実施例7における一回目HPLCで分取された画分のサブスタンスP分泌阻害活性を示す図である。
【図7】実施例8における一回目HPLCのクロマトグラムと短時間側で分取された画分を示す図である。
【図8】実施例8における一回目HPLCのクロマトグラムと長時間側で分取された画分を示す図である。
【図9】一回目HPLCで分取された画分(1)に対する二回目HPLCのクロマトグラムと分取された画分を示す図である。
【図10】一回目HPLCで分取された画分(1)に対する二回目HPLCで分取された画分の腸管ホルモン放出特性を表にして示す図である。
【図11】一回目HPLCで分取された画分(5)に対する二回目HPLCで分取された画分の腸管ホルモン放出特性を表にして示す図である。
【図12】一回目HPLCで分取された画分(9)に対する二回目HPLCで分取された画分の腸管ホルモン放出特性を表にして示す図である。
【図13】一回目HPLCで分取された画分(5)に対する二回目HPLCのクロマトグラムと分取された画分を示す図である。
【図14】一回目HPLCで分取された画分(9)に対する二回目HPLCのクロマトグラムと分取された画分を示す図である。
【図15】一回目HPLCで分取された画分(13)に対する二回目HPLCのクロマトグラムと分取された画分を示す図である。
【図16】一回目HPLCで分取された画分(13)に対する二回目HPLC分画で分取された画分の腸管ホルモン放出特性を表にして示す図である。
【図17】一回目HPLCで分取された画分(14)に対する二回目HPLC分画で分取された画分の腸管ホルモン放出特性を表にして示す図である。
【図18】一回目HPLCで分取された画分(14)に対する二回目HPLCのクロマトグラムと分取された画分を示す図である。
【図19】各実施例で説明したSIHRおよびIIHRの調製法のフローを示すフロー図である。
【図20】二回目HPLCの結果得られた各画分についてのTLC測定結果を示す図である。
【図21】腸管ホルモン分泌調整物質のTLC・Rf値、およびHPLCにおける溶出時間を表にして示す図である。
【図22】画分SIHR1-1のMS分析によるマススペクトルを示す図である。
【図23】画分SIHR1-2のMS分析によるマススペクトルを示す図である。
【図24】SIHR1−1のNMR分析結果を示す図である。
【図25】SIHR1−2のNMR分析結果を示す図である。
【図26】(a),(b)は,順に、SIHR1−1,SIHR1−2の分子構造を示す図である。
【図27】画分SIHR2-1のMS分析によるマススペクトルを示す図である。
【図28】画分SIHR2-2のMS分析によるマススペクトルを示す図である。
【図29】画分SIHR3-1のMS分析によるマススペクトルを示す図である。
【図30】画分SIHR3-2のMS分析によるマススペクトルを示す図である。
【図31】推定されるモノヒドロキシα−リノレン酸の構造、およびフラグメント構造を示す図である。
【図32】二回目HPLCにより調製した各画分SIHRの比活性を表にして示す図である。
【図33】シリカゲルカートリッジを用いた溶媒のヘキサン:エーテルの比を表にして示す図である。
【図34】シリカゲルカートリッジによる変性αLA分画物についてのTLC測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本実施の形態は、本発明者達の発明を記載した特願2008−066909号における実施の形態を前提とし、その各実施例に追加して、以下の各実施例を行なった。したがって、特願2008−066909号中の各実施例中の記載は、そのまま本出願にも適用される。
−実施例1−
脂肪酸として、αリノレン酸(αLA(Sigma, L2376))475μlをチューブ(容量2ml)に入れ、60℃の恒温槽内で6日回転(7rpm)させ、空気と混合させて、変性αリノレン酸を得た。変性αリノレン酸は次の精製操作まで、−30℃で保存した。
【0029】
−実施例2−
実施例1で調製した変性αリノレン酸の200μlをヘキサン:エーテル=95:5混合液3mlに溶解し、シリカゲルカートリッジ(Sep-Pak Plus long, Waters, WT020520)にチャージした。同溶媒40mlでカートリッジを洗浄した後に、エーテルで溶出した溶出液を、窒素気流下で乾固した。残留物をジメチルスルホキシド(DMSO(Sigma, D5879))200μl中に溶解し、次の精製操作のサンプルとした。
同様の操作を繰り返し、サンプルをストックした。サンプルは、次の操作まで、−30℃で保存した。
本シリカゲルカートリッジを用いた精製操作は、未変性のαリノレン酸を除くことが主たる目的で、次の精製過程に用いるHPLCのカラムでの成分分離効果の向上およびカラム寿命の延長効果がある。
【0030】
−実施例3−
実施例2で得たサンプルに対して、送液装置(SHIMADZU, LC-6AD)、カラムオーブン(SHIMADZU, CTO-10A)、検出器(SHIMADZU, SPD-M20A)を用いて、HPLC分画を行なった。即ち、逆相カラム(TOSOH, TSKgel ODS-80Ts, 4.6mmID×250mm)、カラムオーブン温度40℃、流速1ml/分、移動相はメタノール:H2O=65:35混合液(酢酸0.05%含む)で緩衝化し、このカラムに実施例2で得たサンプルの75μlをチャージし、メタノール:H2O=65:35混合液(酢酸0.05%含む)で溶出した。
図1は、実施例3における一回目HPLCのクロマトグラフを示す図である。
【0031】
−実施例4−
溶出時間10〜30分、および55〜75分の間を2分間隔で分取した。同様の操作を2回行い、3回分の溶出液からFolch法で脂溶性成分を回収した。Folch法とは脂溶性成分を抽出する方法で、以下の操作による。
溶媒の組成から各溶媒の量を計算し、遠沈管に最終組成がクロロホルム:メタノール:H2O=2:1:0.9となるように調整する。試験管ミキサーで攪拌した後、2400rpm、4℃、10分間遠心し、2層に分離した下層(クロロホルム層)を回収する。回収した溶媒と等量のクロロホルムを遠沈管に加え、同様に攪拌、遠心をし、再び下層を回収する。回収した溶液を窒素ガス気流下で乾固し、クロロホルム:メタノール=2:1の混合液(4ml)に溶解する。サンプルは、次の操作まで、−30℃で保存した。
【0032】
−実施例5−
実施例4のサンプルから2mlをサンプリングし、窒素気流化で乾固し、5μlのDMSOに溶解して、活性測定用サンプルとした。サンプルは、次の操作まで、−30℃で保存した。
【0033】
−実施例6−
実施例5のサンプルのSTC-1(腸管のホルモン分泌細胞の株化細胞:Am. J. Pathol. 136:1349-1363(1990)参照)からのGLP-1分泌促進活性を測定した。STC-1細胞を4×105細胞/mlの濃度で1mlずつ12ウェルプレートにまき、48時間培養後、各フラクション(2μl)をDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM(SIGMA, D6429))(500μl)に溶解したものを添加して、1時間刺激後、培養上清のGLP−1量をELISAで測定した。ELISAとしては、Rat GLP-1 ELISA Kit wako(和光純薬工業, 29-59201)を用いた。
図2は、実施例6における一回目HPLCで分取された画分と各画分のGLP−1放出特性を示す図である。
【0034】
−実施例7−
STC-1からのGLP-1分泌抑制活性を測定するために、実施例2で得たサンプルに対してHPLC分画を行なった。実施例3と装置条件は同じで、移動相はメタノール:H2O=70:30混合液(酢酸0.05%含む)で緩衝化し、このカラムに、実施例2で得たサンプルの75μlをチャージし、メタノール:H2O=70:30混合液(酢酸0.05%含む)(流速1ml/分)で溶出した。分画は0〜80分の間を5分間隔で分画した。
図3は、実施例7における一回目HPLCで分取された画分のクロマトグラフを示す図である。
【0035】
これらの溶出液からFolch法で脂溶性成分を回収し、溶液を窒素ガス気流下で乾固し、DMSO 25μlに溶解した。
そして、実施例6と同様に、STC-1細胞を12ウェルプレートにまき、48時間培養後、αLAを50μM添加と同時に各フラクションを添加して、1時間刺激後、培養上清のGLP-1, CCK, およびサブスタンスP濃度をELISAで測定した。CCK、およびサブスタンスPのELISAには、Cholecytokinin Octapeptide (CCK) (26-30) (Human, Rat, Mouse) (Non-Sulfated) EIA Kit(PHOENIX PHARMACEUTICALS, INC., EK-069-04)、ParameterTM Substance P Assay(R&D Systems, KGE007)を用いた。
図4は、実施例7における一回目HPLCで分取された画分のGLP−1分泌阻害活性を示す図である。
図5は、実施例7における一回目HPLCで分取された画分のCCK分泌阻害活性を示す図である。
図6は、実施例7における一回目HPLCで分取された画分のサブスタンスP分泌阻害活性を示す図である。
【0036】
−実施例8−
実施例2で調整したサンプル 75μlを実施例3と同じHPLC条件で、HPLCを行い、以下に記す時間の画分を分取した。
画分1(11〜12.5分)
画分5(18.75〜20.25分)
画分9(26.5〜28分)
画分13(60〜62分)
画分14(62〜64分)
同様のHPLC分画を4回行い、計5回分の脂溶性成分を別々にFolch法で回収した。 図7は、実施例8における一回目HPLCのクロマトグラムと短時間側で分取された画分を示す図である。
図8は、実施例8における一回目HPLCのクロマトグラムと長時間側で分取された画分を示す図である。
これらのサンプルを、それぞれ、一回目HPLC画分1、5、9、13、14とする。回収した溶液は窒素ガス気流下で乾固し、DMSO(50μl)に溶解した。サンプルは、次の操作まで、−30℃で保存した。
【0037】
−実施例9−
実施例8で調製した一回目HPLC溶出画分1(画分(1)と称する)に対して、さらにHPLC分画を行なった。ここでは、一回目HPLCとは条件を変更して、逆相カラム(実施例3と同様のカラム)を用い、メタノール:H2O=50:50混合液(酢酸0.05%含む)で緩衝化した。画分(1)を20μlだけチャージし、メタノール:H2O=50:50混合液(酢酸0.05%含む)(流速1ml/分)で溶出した。分画に際しては、主要なピークおよびその前後を含む領域を分取した。
その結果、図9に示すように、SIHR1-1前画分(46.25〜48.25分)、SIHR1-1画分(48.25〜50.25分)、SIHR1-2画分(50.25〜52.5分)、SIHR1-2後画分(52.5〜54.5分)が分取された。
図9からわかるように、一回目HPLCにおいて一成分に見えた画分(1)は、SIHR1-1画分(48.25〜50.25分)、SIHR1-2画分(50.25〜52.5分)という2成分に分かれた。
分取画分は、Folch法で脂質成分を回収し、クロロホルム:メタノール=2:1の混合液2mlに溶解して、次の操作まで、−30℃で保存した。
【0038】
−実施例10−
実施例9で分取された画分の1.2ml(60%分)を窒素気流下で乾固し、4μlのDMSOに溶解し、その2μlをGLP-1、CCK、およびサブスタンスP分泌促進活性を測定した。
GLP-1分泌促進活性の測定は、実施例6と同様に行った。
図10は、一回目HPLCで分取された画分(1)に対する二回目HPLCで分取された画分の腸管ホルモン放出特性を表にして示す図である。
【0039】
−実施例11−
実施例8で調製した一回目HPLC溶出画分5(画分(5)と称する)に対して、さらにHPLC分画を行なった。一回目HPLCと同じ条件で、逆相カラム(実施例3と同様のカラム)を用い、メタノール:H2O=65:35混合液(酢酸0.05%含む)で緩衝化した。画分(5)の20μlをチャージし、メタノール:H2O=65:35混合液(酢酸0.05%含む)(流速1ml/分)で溶出した。分画時間を、(16.75〜18.75分)、(18.75〜20.25分)、(20.25〜22.5分)として、画分(5)の20μlについてHPLC分画を行った。本操作を二回目のHPLC分画とする。分取画分は、Folch法で脂質成分を回収し、クロロホルム:メタノール=2:1混合液(2ml)に溶解して、次の操作まで、−30℃で保存した。
図13に示すように、SIHR2-1前画分(16.75〜18.75分),SIHR2-1画分(18.75〜20.25分)、SIHR2-1後画分(20.25〜22.5分)の3つの画分が分取された。
【0040】
−実施例12−
実施例11で分取された画分の1.2ml(60%分)を窒素気流下で乾固し、4μlのDMSOに溶解し、その2μlをGLP-1、CCK、およびサブスタンスP分泌促進活性を測定した。GLP-1分泌促進活性の測定は、実施例6と同様に行った。
図11は、一回目HPLCで分取された画分(5)に対する二回目HPLC分画で分取された画分の腸管ホルモン放出特性を表にして示す図である。
【0041】
−実施例13−
実施例8で調製した一回目HPLC溶出画分9(画分(9)と称する)に対して、さらにHPLC分画を行なった。一回目HPLCと同じ条件で、逆相カラム(実施例3同様のカラム)を用い、メタノール:H2O=65:35(酢酸0.05%含む)で緩衝化した。画分(9)の20μlをチャージし、メタノール:H2O=65:35(酢酸0.05%含む)(流速1ml/分)で溶出した。分画時間を、(24.5〜26.5分)、(26.5〜28分)、(28〜30分)として、画分(9)の20μlをHPLC分画を行った。本操作を二回目HPLC分画とする。分取画分は、Folch法で脂質成分を回収し、クロロホルム:メタノール=2:1混合液( 2ml)に溶解して、次の操作まで−30℃で保存した。
図14に示すように、SIHR2-2前画分(24.5〜26.5分)、SIHR2-2画分(26.5〜28分)、SIHR2-2後画分(28〜30分)の3つの画分が分取された。
【0042】
−実施例14−
また、実施例13の分取画分の1.2ml(60%分)を窒素気流下で乾固し、4μlのDMSOに溶解し、その2μlをGLP-1、CCK、およびサブスタンスP分泌促進活性を測定した。GLP-1分泌促進活性の測定は、実施例6と同様に行った。
図12は、一回目HPLCで分取された画分(9)に対する二回目HPLC分画で分取された画分の腸管ホルモン放出特性を表にして示す図である。
【0043】
−実施例15−
実施例8で調製した一回目HPLC溶出画分13(画分(13)と称する)に対して、さらにHPLC分画を行なった。一回目HPLCと同じ条件で、逆相カラム(実施例3同様のカラム)を用い、メタノール:H2O=65:35混合液(酢酸0.05%含む)で緩衝化した。画分(13)の20μlをチャージし、メタノール:H2O=65:35混合液(酢酸0.05%含む)(流速1ml/分)で溶出した。分画時間は、(58〜60分)、(60〜62分)、(62〜64分)である。本操作を二回目HPLC分画とする。分取画分は、Folch法で脂質成分を回収し、クロロホルム:メタノール=2:1混合液(2ml)に溶解して、次の操作まで、−30℃で保存した。
図15に示すように、SIHR3-1前画分(58〜60分)、SIHR3-1画分(60〜62分)、SIHR3-1後画分(62〜64分)の3つの画分が分取された。
【0044】
−実施例16−
実施例15のサンプルの1.2ml(60%分)を窒素気流下で乾固し、4μlのDMSOに溶解し、その2μlについて、GLP-1、CCK、およびサブスタンスP分泌促進活性を測定した。GLP-1分泌促進活性の測定は、実施例6と同様に行った。
図16は、一回目HPLCで分取された画分(13)に対する二回目HPLC分画で分取された画分の腸管ホルモン放出特性を表にして示す図である。
【0045】
−実施例17−
実施例8で調製した一回目HPLC溶出画分14(画分(14)と称する)に対して、さらにHPLC分画を行なった。一回目HPLCと同じ条件で、逆相カラム(実施例3同様のカラム)を用い、メタノール:H2O=65:35混合液(酢酸0.05%含む)で緩衝化した。画分(14)の20μlをチャージし、メタノール:H2O=65:35混合液(酢酸0.05%含む)(流速1ml/分)で溶出した。分画時間は、(60〜62分)、(62〜64分)、(64〜65.75分)である。画分(14)の20μlについて、HPLC分画を行った。本操作を二回目HPLC分画とする。分取画分は、Folch法で脂質成分を回収し、クロロホルム:メタノール=2:1混合胃液(2ml)に溶解して、次の操作まで、−30℃で保存した。
図18に示すように、SIHR3-2前画分(60〜62分)、SIHR3-2画分(62〜64分)、SIHR3-2後画分(64〜65.75分)の3つの画分が分取された。
【0046】
−実施例18−
実施例17のサンプルの1.2ml(60%分)を窒素気流下で乾固し、4μlのDMSOに溶解し、その2μlについて、GLP-1、CCK、およびサブスタンスP分泌促進活性を測定した。GLP-1分泌促進活性の測定は、実施例6と同様に行った。
図17は、一回目HPLCで分取された画分(14)に対する二回目HPLC分画で分取された画分の腸管ホルモン放出特性を表にして示す図である。
【0047】
−実施例19−
図19は、上記各実施例で説明したSIHRおよびIIHRの調製法のフローを示すフロー図である。
図19に示すように、SIHR画分1については、一回目HPLCと異なる条件で、二回目HPLCを行い、SIHR画分2〜5については、一回目HPLCと同じ条件で二回目HPLCを行っている。ただし、SIHR画分2〜5についても、一回目HPLCと異なる条件で、二回目HPLCを行なうことができる。IIHR画分1〜4についてもSIHRと同様に、一回目と同じ条件で2回目HPLCを行うことも、一回目HPLCと異なる条件で二回目HPLCを行うこともできる。
【0048】
−実施例20−
実施例9、11、13、15および17で得た調整サンプル(2ml)のうち、GLP-1、CCK、およびサブスタンスP分泌促進活性の測定に使用した分を除く残存部分0.8ml(40%分)を窒素気流下で乾固し、クロロホルム:メタノール=2:1混合液(32μl)に溶解し、そのうち16μl(20%分)を、TLC(担体:シリカゲル、Whatman 社、Thin Layer Chromatography Plate, Partisil (R)K6F Silica Gel 60 Å with Fluorescent Indicator Size: 10x20cm Layer Thickness 250 μm, catalogue No. 4861-720)にかけ、溶媒:(ヘキサン:エーテル:酢酸=60:40:1混合液)にて展開させ(室温において)、硫酸銅による炭化発色により有機炭素の存在を測定した。
図20は、二回目HPLCの結果得られた各画分についてのTLC測定結果を示す図である。
図21は、腸管ホルモン分泌調整物質のTLC・Rf値、およびHPLCにおける溶出時間を表にして示す図である。
図20や図21のデータから各SIHRおよびIIHRを同定することができる。なお、IIHRについては、特願2008−066909号に記載されている通りである。
【0049】
−実施例21−
実施例10、12、14,16、18で調整したサンプルの各1μlずつについて、質量分析(MS)を行った。HPLC部には逆相カラム(TOSOH, TSKgel super ODS (2.0mmID×50mm))を用い、質量分析装置としてはLCMS-IT-TOF(SHIMADZU)を用い、条件(ネガティブモード、CDL温度200℃、ヒートブロック温度200℃、ネブライザーガス1.5L/min、CIDエネルギー100%、コリジョンガス100%)で、分析を行なった。
図22は、画分SIHR1-1のMS分析によるマススペクトルを示す図である。図23は、画分SIHR1-2のMS分析によるマススペクトルを示す図である。
画分SIHR1-1および画分SIHR1-2については、主要なピークにおいてマススペクトル223(M−H)を確認した。これより、画分SIHR1-1および画分SIHR1-2の主要成分の分子量は224であることがわかる。
【0050】
次に、実施例2(変性αLAのSep−pak分画)、実施例8(一回目HPLC分画)、実施例9(SIHR1の二回目HPLC分画)を繰り返し行い、SIHR1−1、1−2を各400nmol調製した。サンプルは次の操作まで、−30℃で保存した。
次に、上記手順により調製したSIHR1−1、1−2のNMR分析を行った。1H NMRスペクトルの測定はJEOL ECA500(500 MHz)(日本電子)で行った。ケミカルシフト(δ)はトリメチルシランに対する相対的なppm値で示す。カップリングコンスタント(J値)はHzで示す。多重度はsinglet:s、doublet:d、multiplet:mの略号で示す。
図24は、SIHR1−1のNMR分析結果を示し、1H NMR(500 MHz、CDCl3):δ=1.30−1.39(m、6H)、1.41−1.50(m、2H)、1.60−1.69(m、2H)、2.30−2.40(m、4H)、5.97−6.04(m、1H)、6.15(dd、1H、J=8.0、14.9 Hz)、6.24−6.31(m、1H)、7.45(dd、1H、J=11.5、14.9 Hz)、9.62ppm(d、1H、J=8.0 Hz)となる。同図のデータを採取した条件は、Original Points Count:16.384,Actual Points Count:16.384,Acquisition Times 1.7459(sec),Spectrum Width:18.763(ppm)である。
図26(a)は、上記結果から導かれるSIHR1−1の分子構造を示す図である。
図25は、SIHR1−2のNMR分析結果を示し、1H NMR(500 MHz、CDCl3):δ=1.29−1.38(m、6H)、1.41−1.50(m、2H)、1.57−1.69(m、2H)、2.18−2.25(m、2H)、2.29−2.24(m、2H)、6.09(dd、1H、J=8.0、15.4 Hz)、6.21−6.38(m、2H)、7.08(dd、1H、J=9.7、15.4 Hz)、9.54ppm(d、1H、J=8.0 Hz)となる。同図のデータを採取した条件は、Original Points Count:16.384,Actual Points Count:16.384,Acquisition Times 1.7459(sec),Spectrum Width:18.763(ppm)である。
図26(b)は、上記結果から導かれるSIHR1−2の分子構造を示す図である。
【0051】
図27は、画分SIHR2-1のMS分析によるマススペクトルを示す図である。図28は、画分SIHR2-2のMS分析によるマススペクトルを示す図である。
画分SIGR2-1および画分SIHR2-2の主要なピークにおいて、マススペクトル309(M−H)を確認した。これより、画分SIHR2-1および画分SIHR2-2の主要成分の分子量は310であることがわかった。構造は、αリノレン酸が二箇所ヒドロキシ化された分子の可能性がある。
図29は、画分SIHR3-1のMS分析によるマススペクトルを示す図である。図30は、画分SIHR3-2のMS分析によるマススペクトルを示す図である。
図29,図30に示すように、画分SIHR3-1および画分SIHR3-2の主要なピークにおいて、マススペクトル293(M−H)を確認した。これにより、画分SIHR3-1および画分SIHR3-2の主要成分の分子量は294であり、構造はαリノレン酸のいずれかの二重結合が酸化されモノヒドロキシ構造となった物質であると推定された。
さらにMS/MS測定を行ったところ、画分SIHR3-1ではフラグメントイオンとして、分子量171(M-H)、および分子量235(M-H)が確認された(図29参照)。画分SIHR3-2ではフラグメントイオンとして、分子量195(M-H)、および分子量211(M-H)が確認された(図30参照)。
【0052】
図31は、上記結果から推定されるモノヒドロキシα−リノレン酸の構造、およびフラグメント構造を示す図である。リノレン酸の自動酸化の位置については9位、12位、13位、16位が酸化を受ける4パターン(シス、トランスも含めると8パターン)の可能性があり(非特許文献:Prog Lipid Res., 23(4), 197-221, 1984)、それぞれフラグメント化の可能性も図31に示すように起こる。SIHR3-1でフラグメントイオンとして、分子量171(M-H)、および分子量235(M-H)が確認できたことは、主要な成分として9位、もしくは16位がモノヒドロキシ化されたαリノレン酸であることが推定された。SIHR3-2ではフラグメントイオンとして、分子量195(M-H)、および分子量211(M-H)が確認できたことは、主要な成分として12位、もしくは13位がモノヒドロキシ化されたαリノレン酸であることが推定された。
【0053】
−実施例22−
本実施例では、実施例9,11,13,15,17で調製した、SIHR画分の比活性を測定した。
比活性の算出は、以下の2通りの方法で行った。
1)実施例20で行ったTLCの結果をLAS-4000mini(FUJIFILM)で撮影した後、各サンプルのスポットをMulti Gauge Ver3.0(FUJIFILM)で数値化した。同時に、展開したαリノレン酸の数値を対照にした。発色は硫酸銅による炭化発色で、炭化水素が存在する物質はすべて発色するため発色強度が含有炭素数に比例する。TLCの数値と実施例10、12、14、16、18の腸管ホルモン分泌促進活性の結果から、各SIHR画分の比活性を求めた。
2)遊離脂肪酸のカルボキシル基への反応により遊離脂肪酸のモル数を定量するNEFA C-テストワコー(和光純薬工業, 279-75401)を用いた。実施例9、11、13、15および17で調整し、腸管ホルモン分泌促進活性及び、実施例20でTLCに使用した残りの各サンプル16μl(20%分)を窒素気流下で乾固し、5% Triton X-100(SIGMA, T-8787)を含むH2O (5μl)に溶解し、その4μlをNEFA C-テストワコーで定量した。この定量値と実施例10、12、14、16、18の腸管ホルモン分泌促進活性の結果から比活性を求めた。
図32は、二回目HPLCにより調製した各画分SIHRの比活性を表にして示す図である。
【0054】
−実施例23−
本精製法において、シリカゲルカートリッジ(Sep-Pak Plus long, Waters, WT020520) はHPLCの前処理として実施した。主たる目的は、未変性のαリノレン酸を除去して、HPLCにおけるサンプルの分離能力の向上、およびカラム劣化防止である。しかしながら、目的により、SIHRやIIHRの粗精製物を利用する場合がある。粗精製物を調製する目的でこのシリカゲルカートリッジを用いることができる。
実施例1で調製した変性αリノレン酸の200μlを、ヘキサン:エーテル=10:0.5混合液(3ml)に溶解して、Sep-Pak plus long (Waters)にチャージした。ヘキサン:エーテルの比を変化させ段階的に溶出した。
図33は、シリカゲルカートリッジを用いた溶媒のヘキサン:エーテルの比を表にして示す図である。
【0055】
また、各溶出画分を窒素気流下で乾固し、クロロホルム:メタノール=2:1混合液(200μl)に溶解して、その4μlについてTLCを実施した。TLCの条件は、実施例19と同様である。
図34は、シリカゲルカートリッジによる変性αLA分画物についてのTLC測定の結果を示す図である。
画分SIHR1-1および画分SIHR1-2粗精製物を得るには、溶出液1〜5のうちいずれかの溶出液で処理後、溶出液6、又は溶出液7で溶出する。
画分SIHR2-1および画分SIHR2-2粗精製物を得るには、溶出液1〜10のうちいずれかの溶出液で処理後、溶出液11、又は溶出液12で溶出する。
画分SIHR3-1および画分SIHR3-2粗精製物を得るには、溶出液1〜6のうちいずれかの溶出液で処理後、溶出液7、又は溶出液8で溶出する。以上の操作を行うことにより、各粗精製物を調製することができる。
【0056】
−機能性食品,医薬としての機能−
SIHR1−1, SIHR1−2, SIHR2−2、SIHR2−2,SIHR3−13およびSIHR3−2は、糖尿病や肥満予防治療に効果があるGLP-1の腸管からの放出を促進する。通常の食事においては脂肪酸がこの働きをするが、これらの物質は、脂肪酸よりもカロリー当たりあるいは分子あたりのGLP-1放出活性が2〜50倍高い。よって、脂肪酸投与に比べて、カロリーが低く、高いGLP-1放出活性を発揮する、有効な糖尿病や肥満予防治療薬あるいは機能性食品を提供できる。
【0057】
また、サブスタンスPおよびCCKの放出は炎症を惹起したり、痛みを発生したりする。IBS、IBDなどの腸炎の発症あるいは増悪の原因となると考えられる。IIHR1, IIHR2, IIHR3, IIHR4は、サブスタンスPおよびCCKの放出を抑制するので、これらの成分を利用して、IBS、IBDなどの腸炎の発症あるいは増悪をおさえる予防治療薬あるいは機能性食品を提供できる。IBS,IBDの発症、増悪の環境では脂肪酸に対する反応が過敏になっていることから、これを抑制することは、IBS,IBDに対する重要な医薬あるいは機能性食品を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の腸管ホルモン分泌調節剤は、医薬だけでなく、機能性食品として利用することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸管ホルモン分泌調整成分の製造方法,使用方法,ならびに腸管ホルモン分泌調整成分を含む機能性食品および医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
食物を摂取すると腸管から種々のホルモンが分泌され、種々の生理機能を発揮することが知られている。これら腸管ホルモンのうち、膵蔵のβ細胞からインスリンを放出促進する能力を持つホルモンは、インクレチンと称されている。インクレチンとしてはグルカゴン様ペプチド(以下、GLP-1(glucagon-like peptide 1)と呼ぶ)およびGIP(gastric inhibitory peptide)が知られている。インクレチンはインスリン分泌を介して、血糖の組織取り込みを調節する重要なホルモンである。インクレチン分泌の障害は糖尿病発症の原因となる。
【0003】
一方、末梢でサブスタンスP(Subastance P)やニューロキニン(Neurokinin)がニューロキニン受容体(Neurokinin receptor)に反応することによる疾患として、例えば腸管の神経性炎症(非特許文献1参照),内臓の痛み/痛覚過敏症(非特許文献2参照),下痢(非特許文献3参照),腸管や膵臓の炎症惹起(非特許文献4参照),ストレス性皮膚炎症(非特許文献5参照),神経性炎症(非特許文献6参照),急性腸炎(非特許文献7,8参照),腸管憩室疾患(非特許文献9参照)などが知られている。
【0004】
腸管ホルモンであるサブスタンスP、ニューロキニンやCCKは過剰に継続的に放出された場合はIBS(過敏性腸疾患)やIBD(炎症性腸疾患)の発症や増悪を推進するが、健常人では、腸管免疫を惹起し、消化管に侵入する病原菌等から生体を守る働きや、消化液の分泌や腸管運動の調節を行い消化活動を推進する働きを行っている、生体にとって有用な物質である。サブスタンスP、ニューロキニンやCCK等の腸管ホルモン分泌が十分行われない患者に対しては、腸管ホルモン分泌を促進する療法が必要である。
【0005】
また、腸管より腸管ホルモン放出を促進する食物中成分として、糖類、アミノ酸、ペプチド、脂質や脂肪酸類が知られている。いずれも栄養素として人体に利用される。また、腸管ホルモン分泌をコントロールしてインスリン放出を促進し、糖尿病を治療しようとする医薬品が開発されている。体内で分解されにくいGLP-1誘導体を投与するアプローチと、体内でのGLP-1分解を抑える分解酵素阻害剤(DPP4インヒビター)が次世代糖尿病薬として注目されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Am J Physiol Gatrointesti Liver Physiol 279, G1298-G1306, 2000
【非特許文献2】Neuroscience,98(2), 345-352, 2000
【非特許文献3】Br. J. Pharmacol. 121(3), 375-80)1997
【非特許文献4】Am J Physiol 272, G785-93, 1997
【非特許文献5】Clin Exp Dermatol, 29, 644-648, 2004
【非特許文献6】Neurocience 125(2), 449-459, 2004
【非特許文献7】Neuroscience, 145(2), 699-707 2007
【非特許文献8】IBD (Eur J Pharmacol, 548(1-3), 150-137, 2006
【非特許文献9】Dig Liver Dis 36(5), 348-354,2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記次世代糖尿病薬などの臨床結果から、GLP-1の血中濃度を上昇させることが、糖尿病治療に有効であることが明確になってきている。一方、GLP-1は満腹中枢を刺激して、食欲を抑制することが知られている。GLP-1誘導体の臨床結果により、肥満抑制効果が明確に示された。したがって、食物を摂取すれば、腸管からGLP-1が放出され、GLP-1の血中濃度が上昇するので、自然に食物を摂取することは、糖尿病を予防することにもつながるといえる。
【0008】
しかしながら、食物は栄養ともなるので、食物を摂取過剰することで、肥満、ひいては糖尿病を招く。カロリーの取り過ぎで肥満状態に陥ると、生活習慣病として糖尿病が誘発されることは周知の通りである。
したがって、GLP-1の血中濃度を上昇させるために、食物を過剰に摂取することは、糖尿病の予防または治療方法として適切でない。
【0009】
一方、食物摂取はGLP−1以外にも様々な腸管ホルモン放出を促進する。サブスタンスP,ニューロキニン,CCK等は、腸管免疫の促進による腸管からの微生物の体内への侵入を防ぎ、また消化活動を助ける。これら腸管ホルモン分泌能力の低下した人は、腸管からの微生物侵入を防御する機能が低下して、腸のみならず全身の感染症誘発の危険にさらされる。また、消化活動の低下に端を発するさまざまな疾患の危険にさらされる。
食物摂取による腸管ホルモン分泌能力が低下した人には、腸管ホルモン分泌促進物質投与が有効であるが、当然のことながら、通常の食物に対して、カロリーあるいは分子(モル数)あたりの腸管ホルモン分泌能力の高い物質を投与する必要がある。
【0010】
反面、腸管ホルモンの過剰分泌が継続することは、腸疾患、例えばIBS, IBD発症あるいは増悪につながる。IBS,IBD等の腸疾患発症を予防治療するためには、腸管ホルモン分泌を抑制する物質を投与する必要がある。
【0011】
本発明の目的は、食物中からカロリー当たりあるいは分子(モル数)の腸管ホルンの調整機能の高い成分を取り出す手段を講ずることにより、肥満、糖尿病あるいは腸疾患の予防あるいは治療に供しうる機能食品や医薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者達は、食物中に存在する、カロリー当たりあるいは分子(モル数)当たりの、GLP-1放出活性などの腸管ホルモン調整機能の高い成分(分泌調整成分)を取り出すことができれば、これを摂取することにより、肥満、糖尿病あるいは腸疾患の予防あるいは治療が可能ではないかと考えた。
かかる発想の下に、鋭意努力の結果、カロリー当たりあるいは分子(モル数)当たりの腸管ホルモン分泌促進活性あるいは腸管ホルモン分泌抑制活性が高い成分など、腸管ホルモン調整機能の高い成分を食品より取り出すことに成功した。
本発明は、本発明者達が出願した特願2008−066909号の発明を前提とし、これをさらに発展させたものである。したがって、特願2008−066909号中の各発明を前提としている。
【0013】
すなわち、本発明の腸管ホルモン分泌調整成分の製造方法は、脂肪酸を変性し、変性脂肪酸を少なくとも1回の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を含むクロマトグラフィーにより分画して、変性脂肪酸から腸管ホルモン分泌調整成分を取り出す方法である。
【0014】
脂肪酸としては、より好ましくは、αリノレン酸(αLA)、Docosahexanoic Acid(DHA)等の不飽和長鎖脂肪酸,紫蘇油および魚油等の天然油脂,あるいは、天然油脂から調整した脂肪酸画分が適している。
そして、これらを変性する方法としては、周知の方法を採用することができる。たとえば、高温(30℃から150℃)で加熱あるいは空気中や酸素中で攪拌し、酸化させる、あるいは紫外線照射等により変性する。あるいはこれらを組み合わせて変性させるなどの方法がある。
【0015】
天然油脂からの脂肪酸の調製方法は、周知の方法を採用して実施することができる。典型的な方法としては、以下の処理がある。
アルカリで元の油脂をけん化し、けん化物を水と石油エーテルの混合物を用いて分画し、水−エタノール画分を酸処理すると、水−エタノール画分として遊離の脂肪酸とグリセリンの混合物が得られ、石油エーテル画分として不けん化物が得られる。次に、水−エタノール画分を石油エーテルで再度洗浄すると、石油エーテル側に脂肪酸が分画され、残りにグリセリンが分画される。
【0016】
分画の方法としては、溶媒抽出法や各種クロマトグラフィーを用いることができるが、一部で必ず少なくとも1回のHPLC(高速液体クロマトグラフィ−)を用いる。本発明者達は、後述する各実施例に記載されるように、分離能の高いHPLCを用いることにより、より高精度で物質を特定しあるいは物質を特定できることを見出した。
たとえば、変性脂肪酸を逆相クロマトグラフを用いたHPLCにより、メタノールと水との容量比が80〜50:20〜50であり容量比0.05%±0.01%の酢酸を含む溶出液により溶出し、分画する。
その際、特願2008−066909号に記載したように、シリカゲルプレート上で、展開溶媒としてヘキサン、エーテルおよび酢酸を、容量比60:40:1の割合で用い、Rf値が、0.10〜0.12、0.13〜0.15、0.22〜0.24、0.23〜0.25、0.24〜0.26、および0.25〜0.27の領域にスポットを示す画分を分画する。
【0017】
また、分画の方法として、シリカゲルカラムを用いたクロマトグラフィー(たとえばシリカゲルカートリッジSep-Pak等),各種カラム(例えば逆相カラム、シリカゲルカラム等)を装着したHPLC,あるいは他のクロマトグラフイー)によることができる。たとえば、変性脂質をシリカゲルカートリッジ(Sep-Pak Plus long, Waters, WT020520)にチャージし、溶媒ヘキサン:エーテルの比率を段階的に変えて溶出する。HPLCの前処理としてシリカゲルカートリッジを用いる場合は、例えばヘキサン:エーテル=100:1〜50混合液でカートリッジを洗浄後、ヘキサン:エーテル=0〜50:100混合液で溶出する。この操作により未変性のαリノレン酸を除去でき、次の精製ステップであるHPLCでの分離性能向上あるいは、カラム劣化の防止に役立つ。
また、シリカゲルカートリッジを用いたクロマトグラフィーにより、腸管ホルモン分泌調整成分を大まかに分別することができる、たとえば溶出液として、ヘキサン:エーテルの比を、
(1)100:5
(2)90:10
(3)80:20
(4)70:30
(5)60:40
(6)50:50
(7)40:60
(8)30:70
(9)20:80
(10)10:90
(11)0:100
に変化させた混合液に、段階的に溶出する。目的の腸管ホルモン分泌調整物質に合わせて、洗浄に用いる溶出液と溶出に用いる溶出液を選択する。たとえば、上記溶出液(2)で洗い、溶出液(6)で目的物質を溶出する。機能性食品あるいは医薬品の成分として腸管ホルモン分泌調整物質を用いる時に、部分精製物で目的を達成できる場合があり、シリカゲルカラムでの部分精製は有効である。
シリカゲルカートリッジを用いる方法の詳細は、特願2008−066909号に記載したとおりである。
【0018】
そして、分画する際に、薄層クロマトグラフィー(TLC)(シリカゲルプレートと、ヘキサン,エーテル,酢酸を容量比60:40:1で混合した展開溶媒とを用いる)においてRf値が、0.10〜0.12、0.13〜0.15、0.22〜0.24、0.23〜0.25、0.24〜0.26、および0.25〜0.27の領域にスポットを示す画分を分画することにより、カロリー、又は分子(モル数)当たりのGLP-1(Glucagon-like peptide-1)分泌促進活性が高い物質が取り出される。本明細書においては、この分泌促進成分をSIHR(Stimulators of intestinal hormone release )と呼ぶことにする。SIHRは、その物質自体がGLP-1放出促進活性を有するものである。
【0019】
また、分画する際に、HPLC(送液装置(SHIMADZU, LC-6AD)、カラムオーブン(SHIMADZU, CTO-10A)、検出器(SHIMADZU, SPD-M20A))において、逆相カラム(TOSOH, TSKgel ODS-80Ts, 4.6mmID×250mm)、カラムオーブン温度40℃±5℃の条件で分画し、HPLCにおいて、逆相カラム(TOSOH, TSKgel ODS-80Ts, 4.6mmID×250mm)カラムオーブン温度40℃±5℃の条件でそれぞれ分画し、メタノールと水との容量比が64〜66:36〜34であり容量比0.05%±0.01%の酢酸を含む溶出液により流速0.9〜1.1ml/分で溶出し、溶出時間が11〜12.5分,18.75〜20.25分,26.5〜28分、60〜62分,および62〜64分の画分を分画することにより、アゴニストとして機能するSIHRが得られる。
【0020】
また、HPLC(送液装置(SHIMADZU, LC-6AD)、カラムオーブン(SHIMADZU, CTO-10A)、検出器(SHIMADZU, SPD-M20A))において、逆相カラム(TOSOH, TSKgel ODS-80Ts, 4.6mmID×250mm)、カラムオーブン温度40℃±5℃の条件で分画し、メタノールと水との容量比が49〜51:51〜49であり容量比0.05%±0.01%の酢酸を含む溶出液により流速0.9〜1.1ml/分で溶出し、溶出時間が48.25〜50.25分、50.25〜52.5分の画分を分画することによっても、アゴニストとして機能するSIHRを得ることができる。
【0021】
また、分画する際に、HPLC(送液装置(SHIMADZU, LC-6AD)、カラムオーブン(SHIMADZU, CTO-10A)、検出器(SHIMADZU, SPD-M20A))において、逆相カラム(TOSOH, TSKgel ODS-80Ts, 4.6mmID×250mm)、カラムオーブン温度40℃±5℃の条件で分画し、メタノールと水との容量比が69〜71:31〜29であり容量比0.05%±0.01%の酢酸を含む溶出液により流速0.9〜1.1ml/分で溶出し、溶出時間が0〜5分,35〜40分,45〜50分,および65〜70分の画分を分画することにより、腸管ホルモン例えばGLP−1,CCK、サブスタンスPやニューロキニン類(例えばニューロキニンAの分泌抑制成分が得られる。
腸管ホルモンの過剰分泌あるいは継続的分泌は疾患の原因となり、CCK, サブスタンスP(Substance P)およびニューロキニンA(Neurokinin A)の過剰分泌が人体に有害であることが知られている。本明細書においては、腸管ホルモンの分泌を抑制する食品成分を、IIHR(Inhibitor of Intestinal hormone-release)と呼ぶことにする。サブスタンスP、ニューロキニンまたはCCKはIBS(過敏性腸疾患症候群)、IBD(炎症性腸疾患)等の腸疾患において、疾患の発症、増悪に関係することが知られており、IIHRはIBS, IBD等腸疾患予防治療医薬あるいは機能性食品として有用である。
【0022】
上記3種類のHPLCのうちのいずれかを一回目のHPLCとして行なって、得られた画分について、さらに、二回目のHPLCとして上記3種類のHPLCのうちのいずれかを行うことにより、より夾雑物が除かれたSIHRおよびIIHRを得ることができる。
上記二回目のHPLCの後、さらに、三回目,四回目,・・・と、多数回のHPLCを行なってもよい。
【0023】
GLP−1分泌促進物質を含む機能性食品、あるいはGLP−1分泌促進物質を有効成分として含む医薬の用途としては以下の用途がある。
GLP-1の濃度増加にともなう対象疾患または症状として、例えば、(1)膵臓β細胞からインスリン分泌を促進することによる糖尿病治療薬 (2)膵臓β細胞の分化増殖促進による、高血糖、インスリン抵抗性、肥満などから糖尿病に移行することを予防する糖尿病予防薬。またはβ細胞移植時の移植細胞の生着率向上;(3)胃酸分泌抑制による胃酸過多治療;(4)腸管運動抑制による下痢治療(5)神経の可塑性や生存を維持し、神経障害による疾患の治療;及び(6)食欲抑制による肥満予防治療、などが対象となる。ただし、対象疾患または症状は、上記に限定されるものでなく、GLP-1の濃度亢進にともなう治療,症状改善のすべてが対象となる。
【0024】
CCK分泌抑制物質を含む機能性食品、あるいはCCK分泌抑制成分を有効成分として含む医薬の用途としては以下の用途がある。
CCKの濃度増加にともなう対象疾患または症状として、たとえば(1)CCKは膵炎を促進するために、CCK濃度を低下させることにより、膵炎治療が可能になる。(2)CCKは胃酸の分泌を促進するので、CCK濃度の抑制により、胃酸過多の治療が可能になる。(3)CCKは中枢で不安、ストレスによる行動障害を起こすために、CCK濃度の抑制により、行動障害の治療や精神安定剤としての利用が可能になる。(4)CCKはモルヒネ等の鎮痛剤に拮抗するので、CCK濃度を低下させることにより、鎮痛剤の効果増強が可能である。(5)CCK濃度の抑止により、感染性下痢など下痢の治療が可能になる。ただし、対象疾患または症状は、上記に限定されるものでなく、CCKの濃度亢進にともなう疾患の治療または症状改善のすべてが対象となり得る。
【0025】
サブタンスPまたはニューロキニン分泌抑制物質を含む機能性食品、あるいはサブタンスPまたはニューロキニン分泌抑制物質を有効成分として含む医薬の用途としては以下の用途がある。
末梢で、サブスタンスPやニューロキニンの濃度増加にともなう対象疾患として、例えば腸管の神経性炎症(非特許文献1参照),内臓の痛み/痛覚過敏症(非特許文献2参照),下痢(非特許文献3参照),腸管や膵臓の炎症惹起(非特許文献4参照),ストレス性皮膚炎症(非特許文献5参照),神経性炎症(非特許文献6参照),急性腸炎(非特許文献7,8参照),腸管憩室疾患(非特許文献9参照)などが知られている。IIHR(サブスタンスP/ニューロキニン分泌抑制物質)により、これらの疾患または症状の治療または症状改善が可能となる。ただし、対象疾患または症状は、上記に限定されるものでなく、サブスタンスPやニューロキニンの濃度亢進にともなう疾患の治療または症状改善のすべてが対象となり得る。
【発明の効果】
【0026】
本発明の腸管ホルモン分泌調整成分の製造方法,機能性食品または医薬によると、食物中からカロリー当たりの腸管ホルモン調整機能促進成分を分画して取り出すことにより、肥満、糖尿病の予防あるいは治療に供しうる機能食品や薬品を提供することができる。
食品成分の脂肪から腸管ホルモン分泌を促進あるいは抑制する成分の製造法を確立し、
分離された成分を含む機能性食品や医薬品の提供を試みた。目的の成分の純度を向上させることにより、夾雑物が持つ可能性のある副作用の危険を回避できる。あるいは活性本体の構造、性質を明らかにすることにより、目的の成分の安定的供給を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例3における一回目HPLCのクロマトグラフを示す図である。
【図2】実施例6における一回目HPLで分取された画分と各画分のGLP−1放出特性を示す図である。
【図3】実施例7における一回目HPLCのクロマトグラフを示す図である。
【図4】実施例7における一回目HPLCで分取された画分のGLP−1分泌阻害活性を示す図である。
【図5】実施例7における一回目HPLCで分取された画分のCCK分泌阻害活性を示す図である。
【図6】実施例7における一回目HPLCで分取された画分のサブスタンスP分泌阻害活性を示す図である。
【図7】実施例8における一回目HPLCのクロマトグラムと短時間側で分取された画分を示す図である。
【図8】実施例8における一回目HPLCのクロマトグラムと長時間側で分取された画分を示す図である。
【図9】一回目HPLCで分取された画分(1)に対する二回目HPLCのクロマトグラムと分取された画分を示す図である。
【図10】一回目HPLCで分取された画分(1)に対する二回目HPLCで分取された画分の腸管ホルモン放出特性を表にして示す図である。
【図11】一回目HPLCで分取された画分(5)に対する二回目HPLCで分取された画分の腸管ホルモン放出特性を表にして示す図である。
【図12】一回目HPLCで分取された画分(9)に対する二回目HPLCで分取された画分の腸管ホルモン放出特性を表にして示す図である。
【図13】一回目HPLCで分取された画分(5)に対する二回目HPLCのクロマトグラムと分取された画分を示す図である。
【図14】一回目HPLCで分取された画分(9)に対する二回目HPLCのクロマトグラムと分取された画分を示す図である。
【図15】一回目HPLCで分取された画分(13)に対する二回目HPLCのクロマトグラムと分取された画分を示す図である。
【図16】一回目HPLCで分取された画分(13)に対する二回目HPLC分画で分取された画分の腸管ホルモン放出特性を表にして示す図である。
【図17】一回目HPLCで分取された画分(14)に対する二回目HPLC分画で分取された画分の腸管ホルモン放出特性を表にして示す図である。
【図18】一回目HPLCで分取された画分(14)に対する二回目HPLCのクロマトグラムと分取された画分を示す図である。
【図19】各実施例で説明したSIHRおよびIIHRの調製法のフローを示すフロー図である。
【図20】二回目HPLCの結果得られた各画分についてのTLC測定結果を示す図である。
【図21】腸管ホルモン分泌調整物質のTLC・Rf値、およびHPLCにおける溶出時間を表にして示す図である。
【図22】画分SIHR1-1のMS分析によるマススペクトルを示す図である。
【図23】画分SIHR1-2のMS分析によるマススペクトルを示す図である。
【図24】SIHR1−1のNMR分析結果を示す図である。
【図25】SIHR1−2のNMR分析結果を示す図である。
【図26】(a),(b)は,順に、SIHR1−1,SIHR1−2の分子構造を示す図である。
【図27】画分SIHR2-1のMS分析によるマススペクトルを示す図である。
【図28】画分SIHR2-2のMS分析によるマススペクトルを示す図である。
【図29】画分SIHR3-1のMS分析によるマススペクトルを示す図である。
【図30】画分SIHR3-2のMS分析によるマススペクトルを示す図である。
【図31】推定されるモノヒドロキシα−リノレン酸の構造、およびフラグメント構造を示す図である。
【図32】二回目HPLCにより調製した各画分SIHRの比活性を表にして示す図である。
【図33】シリカゲルカートリッジを用いた溶媒のヘキサン:エーテルの比を表にして示す図である。
【図34】シリカゲルカートリッジによる変性αLA分画物についてのTLC測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本実施の形態は、本発明者達の発明を記載した特願2008−066909号における実施の形態を前提とし、その各実施例に追加して、以下の各実施例を行なった。したがって、特願2008−066909号中の各実施例中の記載は、そのまま本出願にも適用される。
−実施例1−
脂肪酸として、αリノレン酸(αLA(Sigma, L2376))475μlをチューブ(容量2ml)に入れ、60℃の恒温槽内で6日回転(7rpm)させ、空気と混合させて、変性αリノレン酸を得た。変性αリノレン酸は次の精製操作まで、−30℃で保存した。
【0029】
−実施例2−
実施例1で調製した変性αリノレン酸の200μlをヘキサン:エーテル=95:5混合液3mlに溶解し、シリカゲルカートリッジ(Sep-Pak Plus long, Waters, WT020520)にチャージした。同溶媒40mlでカートリッジを洗浄した後に、エーテルで溶出した溶出液を、窒素気流下で乾固した。残留物をジメチルスルホキシド(DMSO(Sigma, D5879))200μl中に溶解し、次の精製操作のサンプルとした。
同様の操作を繰り返し、サンプルをストックした。サンプルは、次の操作まで、−30℃で保存した。
本シリカゲルカートリッジを用いた精製操作は、未変性のαリノレン酸を除くことが主たる目的で、次の精製過程に用いるHPLCのカラムでの成分分離効果の向上およびカラム寿命の延長効果がある。
【0030】
−実施例3−
実施例2で得たサンプルに対して、送液装置(SHIMADZU, LC-6AD)、カラムオーブン(SHIMADZU, CTO-10A)、検出器(SHIMADZU, SPD-M20A)を用いて、HPLC分画を行なった。即ち、逆相カラム(TOSOH, TSKgel ODS-80Ts, 4.6mmID×250mm)、カラムオーブン温度40℃、流速1ml/分、移動相はメタノール:H2O=65:35混合液(酢酸0.05%含む)で緩衝化し、このカラムに実施例2で得たサンプルの75μlをチャージし、メタノール:H2O=65:35混合液(酢酸0.05%含む)で溶出した。
図1は、実施例3における一回目HPLCのクロマトグラフを示す図である。
【0031】
−実施例4−
溶出時間10〜30分、および55〜75分の間を2分間隔で分取した。同様の操作を2回行い、3回分の溶出液からFolch法で脂溶性成分を回収した。Folch法とは脂溶性成分を抽出する方法で、以下の操作による。
溶媒の組成から各溶媒の量を計算し、遠沈管に最終組成がクロロホルム:メタノール:H2O=2:1:0.9となるように調整する。試験管ミキサーで攪拌した後、2400rpm、4℃、10分間遠心し、2層に分離した下層(クロロホルム層)を回収する。回収した溶媒と等量のクロロホルムを遠沈管に加え、同様に攪拌、遠心をし、再び下層を回収する。回収した溶液を窒素ガス気流下で乾固し、クロロホルム:メタノール=2:1の混合液(4ml)に溶解する。サンプルは、次の操作まで、−30℃で保存した。
【0032】
−実施例5−
実施例4のサンプルから2mlをサンプリングし、窒素気流化で乾固し、5μlのDMSOに溶解して、活性測定用サンプルとした。サンプルは、次の操作まで、−30℃で保存した。
【0033】
−実施例6−
実施例5のサンプルのSTC-1(腸管のホルモン分泌細胞の株化細胞:Am. J. Pathol. 136:1349-1363(1990)参照)からのGLP-1分泌促進活性を測定した。STC-1細胞を4×105細胞/mlの濃度で1mlずつ12ウェルプレートにまき、48時間培養後、各フラクション(2μl)をDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM(SIGMA, D6429))(500μl)に溶解したものを添加して、1時間刺激後、培養上清のGLP−1量をELISAで測定した。ELISAとしては、Rat GLP-1 ELISA Kit wako(和光純薬工業, 29-59201)を用いた。
図2は、実施例6における一回目HPLCで分取された画分と各画分のGLP−1放出特性を示す図である。
【0034】
−実施例7−
STC-1からのGLP-1分泌抑制活性を測定するために、実施例2で得たサンプルに対してHPLC分画を行なった。実施例3と装置条件は同じで、移動相はメタノール:H2O=70:30混合液(酢酸0.05%含む)で緩衝化し、このカラムに、実施例2で得たサンプルの75μlをチャージし、メタノール:H2O=70:30混合液(酢酸0.05%含む)(流速1ml/分)で溶出した。分画は0〜80分の間を5分間隔で分画した。
図3は、実施例7における一回目HPLCで分取された画分のクロマトグラフを示す図である。
【0035】
これらの溶出液からFolch法で脂溶性成分を回収し、溶液を窒素ガス気流下で乾固し、DMSO 25μlに溶解した。
そして、実施例6と同様に、STC-1細胞を12ウェルプレートにまき、48時間培養後、αLAを50μM添加と同時に各フラクションを添加して、1時間刺激後、培養上清のGLP-1, CCK, およびサブスタンスP濃度をELISAで測定した。CCK、およびサブスタンスPのELISAには、Cholecytokinin Octapeptide (CCK) (26-30) (Human, Rat, Mouse) (Non-Sulfated) EIA Kit(PHOENIX PHARMACEUTICALS, INC., EK-069-04)、ParameterTM Substance P Assay(R&D Systems, KGE007)を用いた。
図4は、実施例7における一回目HPLCで分取された画分のGLP−1分泌阻害活性を示す図である。
図5は、実施例7における一回目HPLCで分取された画分のCCK分泌阻害活性を示す図である。
図6は、実施例7における一回目HPLCで分取された画分のサブスタンスP分泌阻害活性を示す図である。
【0036】
−実施例8−
実施例2で調整したサンプル 75μlを実施例3と同じHPLC条件で、HPLCを行い、以下に記す時間の画分を分取した。
画分1(11〜12.5分)
画分5(18.75〜20.25分)
画分9(26.5〜28分)
画分13(60〜62分)
画分14(62〜64分)
同様のHPLC分画を4回行い、計5回分の脂溶性成分を別々にFolch法で回収した。 図7は、実施例8における一回目HPLCのクロマトグラムと短時間側で分取された画分を示す図である。
図8は、実施例8における一回目HPLCのクロマトグラムと長時間側で分取された画分を示す図である。
これらのサンプルを、それぞれ、一回目HPLC画分1、5、9、13、14とする。回収した溶液は窒素ガス気流下で乾固し、DMSO(50μl)に溶解した。サンプルは、次の操作まで、−30℃で保存した。
【0037】
−実施例9−
実施例8で調製した一回目HPLC溶出画分1(画分(1)と称する)に対して、さらにHPLC分画を行なった。ここでは、一回目HPLCとは条件を変更して、逆相カラム(実施例3と同様のカラム)を用い、メタノール:H2O=50:50混合液(酢酸0.05%含む)で緩衝化した。画分(1)を20μlだけチャージし、メタノール:H2O=50:50混合液(酢酸0.05%含む)(流速1ml/分)で溶出した。分画に際しては、主要なピークおよびその前後を含む領域を分取した。
その結果、図9に示すように、SIHR1-1前画分(46.25〜48.25分)、SIHR1-1画分(48.25〜50.25分)、SIHR1-2画分(50.25〜52.5分)、SIHR1-2後画分(52.5〜54.5分)が分取された。
図9からわかるように、一回目HPLCにおいて一成分に見えた画分(1)は、SIHR1-1画分(48.25〜50.25分)、SIHR1-2画分(50.25〜52.5分)という2成分に分かれた。
分取画分は、Folch法で脂質成分を回収し、クロロホルム:メタノール=2:1の混合液2mlに溶解して、次の操作まで、−30℃で保存した。
【0038】
−実施例10−
実施例9で分取された画分の1.2ml(60%分)を窒素気流下で乾固し、4μlのDMSOに溶解し、その2μlをGLP-1、CCK、およびサブスタンスP分泌促進活性を測定した。
GLP-1分泌促進活性の測定は、実施例6と同様に行った。
図10は、一回目HPLCで分取された画分(1)に対する二回目HPLCで分取された画分の腸管ホルモン放出特性を表にして示す図である。
【0039】
−実施例11−
実施例8で調製した一回目HPLC溶出画分5(画分(5)と称する)に対して、さらにHPLC分画を行なった。一回目HPLCと同じ条件で、逆相カラム(実施例3と同様のカラム)を用い、メタノール:H2O=65:35混合液(酢酸0.05%含む)で緩衝化した。画分(5)の20μlをチャージし、メタノール:H2O=65:35混合液(酢酸0.05%含む)(流速1ml/分)で溶出した。分画時間を、(16.75〜18.75分)、(18.75〜20.25分)、(20.25〜22.5分)として、画分(5)の20μlについてHPLC分画を行った。本操作を二回目のHPLC分画とする。分取画分は、Folch法で脂質成分を回収し、クロロホルム:メタノール=2:1混合液(2ml)に溶解して、次の操作まで、−30℃で保存した。
図13に示すように、SIHR2-1前画分(16.75〜18.75分),SIHR2-1画分(18.75〜20.25分)、SIHR2-1後画分(20.25〜22.5分)の3つの画分が分取された。
【0040】
−実施例12−
実施例11で分取された画分の1.2ml(60%分)を窒素気流下で乾固し、4μlのDMSOに溶解し、その2μlをGLP-1、CCK、およびサブスタンスP分泌促進活性を測定した。GLP-1分泌促進活性の測定は、実施例6と同様に行った。
図11は、一回目HPLCで分取された画分(5)に対する二回目HPLC分画で分取された画分の腸管ホルモン放出特性を表にして示す図である。
【0041】
−実施例13−
実施例8で調製した一回目HPLC溶出画分9(画分(9)と称する)に対して、さらにHPLC分画を行なった。一回目HPLCと同じ条件で、逆相カラム(実施例3同様のカラム)を用い、メタノール:H2O=65:35(酢酸0.05%含む)で緩衝化した。画分(9)の20μlをチャージし、メタノール:H2O=65:35(酢酸0.05%含む)(流速1ml/分)で溶出した。分画時間を、(24.5〜26.5分)、(26.5〜28分)、(28〜30分)として、画分(9)の20μlをHPLC分画を行った。本操作を二回目HPLC分画とする。分取画分は、Folch法で脂質成分を回収し、クロロホルム:メタノール=2:1混合液( 2ml)に溶解して、次の操作まで−30℃で保存した。
図14に示すように、SIHR2-2前画分(24.5〜26.5分)、SIHR2-2画分(26.5〜28分)、SIHR2-2後画分(28〜30分)の3つの画分が分取された。
【0042】
−実施例14−
また、実施例13の分取画分の1.2ml(60%分)を窒素気流下で乾固し、4μlのDMSOに溶解し、その2μlをGLP-1、CCK、およびサブスタンスP分泌促進活性を測定した。GLP-1分泌促進活性の測定は、実施例6と同様に行った。
図12は、一回目HPLCで分取された画分(9)に対する二回目HPLC分画で分取された画分の腸管ホルモン放出特性を表にして示す図である。
【0043】
−実施例15−
実施例8で調製した一回目HPLC溶出画分13(画分(13)と称する)に対して、さらにHPLC分画を行なった。一回目HPLCと同じ条件で、逆相カラム(実施例3同様のカラム)を用い、メタノール:H2O=65:35混合液(酢酸0.05%含む)で緩衝化した。画分(13)の20μlをチャージし、メタノール:H2O=65:35混合液(酢酸0.05%含む)(流速1ml/分)で溶出した。分画時間は、(58〜60分)、(60〜62分)、(62〜64分)である。本操作を二回目HPLC分画とする。分取画分は、Folch法で脂質成分を回収し、クロロホルム:メタノール=2:1混合液(2ml)に溶解して、次の操作まで、−30℃で保存した。
図15に示すように、SIHR3-1前画分(58〜60分)、SIHR3-1画分(60〜62分)、SIHR3-1後画分(62〜64分)の3つの画分が分取された。
【0044】
−実施例16−
実施例15のサンプルの1.2ml(60%分)を窒素気流下で乾固し、4μlのDMSOに溶解し、その2μlについて、GLP-1、CCK、およびサブスタンスP分泌促進活性を測定した。GLP-1分泌促進活性の測定は、実施例6と同様に行った。
図16は、一回目HPLCで分取された画分(13)に対する二回目HPLC分画で分取された画分の腸管ホルモン放出特性を表にして示す図である。
【0045】
−実施例17−
実施例8で調製した一回目HPLC溶出画分14(画分(14)と称する)に対して、さらにHPLC分画を行なった。一回目HPLCと同じ条件で、逆相カラム(実施例3同様のカラム)を用い、メタノール:H2O=65:35混合液(酢酸0.05%含む)で緩衝化した。画分(14)の20μlをチャージし、メタノール:H2O=65:35混合液(酢酸0.05%含む)(流速1ml/分)で溶出した。分画時間は、(60〜62分)、(62〜64分)、(64〜65.75分)である。画分(14)の20μlについて、HPLC分画を行った。本操作を二回目HPLC分画とする。分取画分は、Folch法で脂質成分を回収し、クロロホルム:メタノール=2:1混合胃液(2ml)に溶解して、次の操作まで、−30℃で保存した。
図18に示すように、SIHR3-2前画分(60〜62分)、SIHR3-2画分(62〜64分)、SIHR3-2後画分(64〜65.75分)の3つの画分が分取された。
【0046】
−実施例18−
実施例17のサンプルの1.2ml(60%分)を窒素気流下で乾固し、4μlのDMSOに溶解し、その2μlについて、GLP-1、CCK、およびサブスタンスP分泌促進活性を測定した。GLP-1分泌促進活性の測定は、実施例6と同様に行った。
図17は、一回目HPLCで分取された画分(14)に対する二回目HPLC分画で分取された画分の腸管ホルモン放出特性を表にして示す図である。
【0047】
−実施例19−
図19は、上記各実施例で説明したSIHRおよびIIHRの調製法のフローを示すフロー図である。
図19に示すように、SIHR画分1については、一回目HPLCと異なる条件で、二回目HPLCを行い、SIHR画分2〜5については、一回目HPLCと同じ条件で二回目HPLCを行っている。ただし、SIHR画分2〜5についても、一回目HPLCと異なる条件で、二回目HPLCを行なうことができる。IIHR画分1〜4についてもSIHRと同様に、一回目と同じ条件で2回目HPLCを行うことも、一回目HPLCと異なる条件で二回目HPLCを行うこともできる。
【0048】
−実施例20−
実施例9、11、13、15および17で得た調整サンプル(2ml)のうち、GLP-1、CCK、およびサブスタンスP分泌促進活性の測定に使用した分を除く残存部分0.8ml(40%分)を窒素気流下で乾固し、クロロホルム:メタノール=2:1混合液(32μl)に溶解し、そのうち16μl(20%分)を、TLC(担体:シリカゲル、Whatman 社、Thin Layer Chromatography Plate, Partisil (R)K6F Silica Gel 60 Å with Fluorescent Indicator Size: 10x20cm Layer Thickness 250 μm, catalogue No. 4861-720)にかけ、溶媒:(ヘキサン:エーテル:酢酸=60:40:1混合液)にて展開させ(室温において)、硫酸銅による炭化発色により有機炭素の存在を測定した。
図20は、二回目HPLCの結果得られた各画分についてのTLC測定結果を示す図である。
図21は、腸管ホルモン分泌調整物質のTLC・Rf値、およびHPLCにおける溶出時間を表にして示す図である。
図20や図21のデータから各SIHRおよびIIHRを同定することができる。なお、IIHRについては、特願2008−066909号に記載されている通りである。
【0049】
−実施例21−
実施例10、12、14,16、18で調整したサンプルの各1μlずつについて、質量分析(MS)を行った。HPLC部には逆相カラム(TOSOH, TSKgel super ODS (2.0mmID×50mm))を用い、質量分析装置としてはLCMS-IT-TOF(SHIMADZU)を用い、条件(ネガティブモード、CDL温度200℃、ヒートブロック温度200℃、ネブライザーガス1.5L/min、CIDエネルギー100%、コリジョンガス100%)で、分析を行なった。
図22は、画分SIHR1-1のMS分析によるマススペクトルを示す図である。図23は、画分SIHR1-2のMS分析によるマススペクトルを示す図である。
画分SIHR1-1および画分SIHR1-2については、主要なピークにおいてマススペクトル223(M−H)を確認した。これより、画分SIHR1-1および画分SIHR1-2の主要成分の分子量は224であることがわかる。
【0050】
次に、実施例2(変性αLAのSep−pak分画)、実施例8(一回目HPLC分画)、実施例9(SIHR1の二回目HPLC分画)を繰り返し行い、SIHR1−1、1−2を各400nmol調製した。サンプルは次の操作まで、−30℃で保存した。
次に、上記手順により調製したSIHR1−1、1−2のNMR分析を行った。1H NMRスペクトルの測定はJEOL ECA500(500 MHz)(日本電子)で行った。ケミカルシフト(δ)はトリメチルシランに対する相対的なppm値で示す。カップリングコンスタント(J値)はHzで示す。多重度はsinglet:s、doublet:d、multiplet:mの略号で示す。
図24は、SIHR1−1のNMR分析結果を示し、1H NMR(500 MHz、CDCl3):δ=1.30−1.39(m、6H)、1.41−1.50(m、2H)、1.60−1.69(m、2H)、2.30−2.40(m、4H)、5.97−6.04(m、1H)、6.15(dd、1H、J=8.0、14.9 Hz)、6.24−6.31(m、1H)、7.45(dd、1H、J=11.5、14.9 Hz)、9.62ppm(d、1H、J=8.0 Hz)となる。同図のデータを採取した条件は、Original Points Count:16.384,Actual Points Count:16.384,Acquisition Times 1.7459(sec),Spectrum Width:18.763(ppm)である。
図26(a)は、上記結果から導かれるSIHR1−1の分子構造を示す図である。
図25は、SIHR1−2のNMR分析結果を示し、1H NMR(500 MHz、CDCl3):δ=1.29−1.38(m、6H)、1.41−1.50(m、2H)、1.57−1.69(m、2H)、2.18−2.25(m、2H)、2.29−2.24(m、2H)、6.09(dd、1H、J=8.0、15.4 Hz)、6.21−6.38(m、2H)、7.08(dd、1H、J=9.7、15.4 Hz)、9.54ppm(d、1H、J=8.0 Hz)となる。同図のデータを採取した条件は、Original Points Count:16.384,Actual Points Count:16.384,Acquisition Times 1.7459(sec),Spectrum Width:18.763(ppm)である。
図26(b)は、上記結果から導かれるSIHR1−2の分子構造を示す図である。
【0051】
図27は、画分SIHR2-1のMS分析によるマススペクトルを示す図である。図28は、画分SIHR2-2のMS分析によるマススペクトルを示す図である。
画分SIGR2-1および画分SIHR2-2の主要なピークにおいて、マススペクトル309(M−H)を確認した。これより、画分SIHR2-1および画分SIHR2-2の主要成分の分子量は310であることがわかった。構造は、αリノレン酸が二箇所ヒドロキシ化された分子の可能性がある。
図29は、画分SIHR3-1のMS分析によるマススペクトルを示す図である。図30は、画分SIHR3-2のMS分析によるマススペクトルを示す図である。
図29,図30に示すように、画分SIHR3-1および画分SIHR3-2の主要なピークにおいて、マススペクトル293(M−H)を確認した。これにより、画分SIHR3-1および画分SIHR3-2の主要成分の分子量は294であり、構造はαリノレン酸のいずれかの二重結合が酸化されモノヒドロキシ構造となった物質であると推定された。
さらにMS/MS測定を行ったところ、画分SIHR3-1ではフラグメントイオンとして、分子量171(M-H)、および分子量235(M-H)が確認された(図29参照)。画分SIHR3-2ではフラグメントイオンとして、分子量195(M-H)、および分子量211(M-H)が確認された(図30参照)。
【0052】
図31は、上記結果から推定されるモノヒドロキシα−リノレン酸の構造、およびフラグメント構造を示す図である。リノレン酸の自動酸化の位置については9位、12位、13位、16位が酸化を受ける4パターン(シス、トランスも含めると8パターン)の可能性があり(非特許文献:Prog Lipid Res., 23(4), 197-221, 1984)、それぞれフラグメント化の可能性も図31に示すように起こる。SIHR3-1でフラグメントイオンとして、分子量171(M-H)、および分子量235(M-H)が確認できたことは、主要な成分として9位、もしくは16位がモノヒドロキシ化されたαリノレン酸であることが推定された。SIHR3-2ではフラグメントイオンとして、分子量195(M-H)、および分子量211(M-H)が確認できたことは、主要な成分として12位、もしくは13位がモノヒドロキシ化されたαリノレン酸であることが推定された。
【0053】
−実施例22−
本実施例では、実施例9,11,13,15,17で調製した、SIHR画分の比活性を測定した。
比活性の算出は、以下の2通りの方法で行った。
1)実施例20で行ったTLCの結果をLAS-4000mini(FUJIFILM)で撮影した後、各サンプルのスポットをMulti Gauge Ver3.0(FUJIFILM)で数値化した。同時に、展開したαリノレン酸の数値を対照にした。発色は硫酸銅による炭化発色で、炭化水素が存在する物質はすべて発色するため発色強度が含有炭素数に比例する。TLCの数値と実施例10、12、14、16、18の腸管ホルモン分泌促進活性の結果から、各SIHR画分の比活性を求めた。
2)遊離脂肪酸のカルボキシル基への反応により遊離脂肪酸のモル数を定量するNEFA C-テストワコー(和光純薬工業, 279-75401)を用いた。実施例9、11、13、15および17で調整し、腸管ホルモン分泌促進活性及び、実施例20でTLCに使用した残りの各サンプル16μl(20%分)を窒素気流下で乾固し、5% Triton X-100(SIGMA, T-8787)を含むH2O (5μl)に溶解し、その4μlをNEFA C-テストワコーで定量した。この定量値と実施例10、12、14、16、18の腸管ホルモン分泌促進活性の結果から比活性を求めた。
図32は、二回目HPLCにより調製した各画分SIHRの比活性を表にして示す図である。
【0054】
−実施例23−
本精製法において、シリカゲルカートリッジ(Sep-Pak Plus long, Waters, WT020520) はHPLCの前処理として実施した。主たる目的は、未変性のαリノレン酸を除去して、HPLCにおけるサンプルの分離能力の向上、およびカラム劣化防止である。しかしながら、目的により、SIHRやIIHRの粗精製物を利用する場合がある。粗精製物を調製する目的でこのシリカゲルカートリッジを用いることができる。
実施例1で調製した変性αリノレン酸の200μlを、ヘキサン:エーテル=10:0.5混合液(3ml)に溶解して、Sep-Pak plus long (Waters)にチャージした。ヘキサン:エーテルの比を変化させ段階的に溶出した。
図33は、シリカゲルカートリッジを用いた溶媒のヘキサン:エーテルの比を表にして示す図である。
【0055】
また、各溶出画分を窒素気流下で乾固し、クロロホルム:メタノール=2:1混合液(200μl)に溶解して、その4μlについてTLCを実施した。TLCの条件は、実施例19と同様である。
図34は、シリカゲルカートリッジによる変性αLA分画物についてのTLC測定の結果を示す図である。
画分SIHR1-1および画分SIHR1-2粗精製物を得るには、溶出液1〜5のうちいずれかの溶出液で処理後、溶出液6、又は溶出液7で溶出する。
画分SIHR2-1および画分SIHR2-2粗精製物を得るには、溶出液1〜10のうちいずれかの溶出液で処理後、溶出液11、又は溶出液12で溶出する。
画分SIHR3-1および画分SIHR3-2粗精製物を得るには、溶出液1〜6のうちいずれかの溶出液で処理後、溶出液7、又は溶出液8で溶出する。以上の操作を行うことにより、各粗精製物を調製することができる。
【0056】
−機能性食品,医薬としての機能−
SIHR1−1, SIHR1−2, SIHR2−2、SIHR2−2,SIHR3−13およびSIHR3−2は、糖尿病や肥満予防治療に効果があるGLP-1の腸管からの放出を促進する。通常の食事においては脂肪酸がこの働きをするが、これらの物質は、脂肪酸よりもカロリー当たりあるいは分子あたりのGLP-1放出活性が2〜50倍高い。よって、脂肪酸投与に比べて、カロリーが低く、高いGLP-1放出活性を発揮する、有効な糖尿病や肥満予防治療薬あるいは機能性食品を提供できる。
【0057】
また、サブスタンスPおよびCCKの放出は炎症を惹起したり、痛みを発生したりする。IBS、IBDなどの腸炎の発症あるいは増悪の原因となると考えられる。IIHR1, IIHR2, IIHR3, IIHR4は、サブスタンスPおよびCCKの放出を抑制するので、これらの成分を利用して、IBS、IBDなどの腸炎の発症あるいは増悪をおさえる予防治療薬あるいは機能性食品を提供できる。IBS,IBDの発症、増悪の環境では脂肪酸に対する反応が過敏になっていることから、これを抑制することは、IBS,IBDに対する重要な医薬あるいは機能性食品を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の腸管ホルモン分泌調節剤は、医薬だけでなく、機能性食品として利用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸を変性する工程(a)と、
上記工程(a)で変性された変性脂肪酸を、少なくとも1回の高速液体クロマトグラフィーを含むクロマトグラフィーにより分画して、変性脂肪酸から腸管ホルモン分泌調整成分を取り出す工程(b)と、
を含む腸管ホルモン分泌調整成分の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の腸管ホルモン分泌調整剤の製造方法において、
上記工程(b)では、
上記変性脂肪酸をシリカゲルカラムを用いたクロマトグラフで分画し、
続いて、高速液体クロマトグラフィー装置の送液装置,カラムオーブン,および検出器を用いて、分画を行なった後、
メタノールと水との容量比が80〜50:20〜50であり容量比0.05%±0.01%の酢酸を含む溶出液により溶出し、
シリカゲルプレート上で、展開溶媒としてヘキサン、エーテルおよび酢酸を、容量比60:40:1の割合で用い、Rf値が、0.10〜0.12、0.13〜0.15、0.22〜0.24、0.23〜0.25、0.24〜0.26、および0.25〜0.27の領域にスポットを示す画分を分画する、
腸管ホルモン分泌調整剤の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の腸管ホルモン分泌調整剤の製造方法において、
上記工程(b)では、
上記変性脂肪酸を、高速液体クロマトグラフィーにより、逆相カラム、カラムオーブン温度40℃±5℃の条件で分画し、
メタノールと水との容量比が69〜71:31〜29であり容量比0.05%±0.01%の酢酸を含む溶出液により流速0.9〜1.1ml/分で溶出し、
溶出時間が0〜5分,35〜40分,45〜50分、および65〜70分の画分を分画する、
腸管ホルモン分泌調整剤の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2記載の腸管ホルモン分泌調整剤の製造方法において、
上記工程(b)では、
上記変性脂肪酸を、高速液体クロマトグラフィーにより、逆相カラム、カラムオーブン温度40℃±5℃の条件で分画し、
メタノールと水との容量比が64〜66:36〜34であり容量比0.05%±0.01%の酢酸を含む溶出液により流速0.9〜1.1ml/分で溶出し、
溶出時間が11〜12.5分,18.75〜20.25分,26.5〜28分、60〜62分,および62〜64分の画分を分画する、
腸管ホルモン分泌調整剤の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2記載の腸管ホルモン分泌調整剤の製造方法において、
上記工程(b)では、
上記変性脂肪酸を、高速液体クロマトグラフィーにより、逆相カラム、カラムオーブン温度40℃±5℃の条件でそれぞれ分画し、
メタノールと水との容量比が49〜51:51〜49であり容量比0.05%±0.01%の酢酸を含む溶出液により流速0.9〜1.1ml/分で溶出し、
溶出時間が48.25〜50.25分、50.25〜52.5分の画分を分画する、
腸管ホルモン分泌調整剤の製造方法。
【請求項6】
請求項3〜5のうちいずれか1つの請求項において、
一回目の高速液体クロマトグラフィーとして請求項3〜5のうちいずれか1つに記載の工程(b)を行い、得られた画分について、さらに、二回目の高速液体クロマトグラフィーとして請求項3〜5のうちいずれか1つに記載の工程(b)を行なう、
腸管ホルモン分泌調整剤の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のうちいずれか1つに記載の腸管ホルモン分泌調整剤の製造方法において、
上記工程(a)では、上記脂肪酸として、不飽和長鎖脂肪酸,天然油脂,および,上記天然油脂から調整した脂肪酸画分から選ばれる1つの物質を用いる、腸管ホルモン分泌調整剤の製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の腸管ホルモン分泌調整剤の製造方法において、
上記不飽和長鎖脂肪酸は、αリノレン酸またはDHAであり、
上記天然油脂は、紫蘇油または魚油である、腸管ホルモン分泌調整剤の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のうちいずれか1つに記載の腸管ホルモン分泌調整剤の製造方法によって取り出された腸管ホルモン分泌調整成分を含む機能性食品。
【請求項10】
請求項1〜8のうちいずれか1つに記載の腸管ホルモン分泌調整剤の製造方法によって取り出された腸管ホルモン分泌調整成分を有効成分として含有する医薬。
【請求項11】
請求項9記載の機能性食品,または請求項10記載の医薬を投与することにより、腸管からのGLP-1の放出を促進する、腸管ホルモン分泌調整剤の使用方法。
【請求項12】
請求項9記載の機能性食品,または請求項10記載の医薬を投与することにより、腸管からのサブスタンスPの放出を抑制する、腸管ホルモン分泌調整剤の使用方法。
【請求項13】
請求項9記載の機能性食品,または請求項10記載の医薬を投与することにより、腸管からのCCKの放出を抑制する、腸管ホルモン分泌調整剤の使用方法。
【請求項1】
脂肪酸を変性する工程(a)と、
上記工程(a)で変性された変性脂肪酸を、少なくとも1回の高速液体クロマトグラフィーを含むクロマトグラフィーにより分画して、変性脂肪酸から腸管ホルモン分泌調整成分を取り出す工程(b)と、
を含む腸管ホルモン分泌調整成分の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の腸管ホルモン分泌調整剤の製造方法において、
上記工程(b)では、
上記変性脂肪酸をシリカゲルカラムを用いたクロマトグラフで分画し、
続いて、高速液体クロマトグラフィー装置の送液装置,カラムオーブン,および検出器を用いて、分画を行なった後、
メタノールと水との容量比が80〜50:20〜50であり容量比0.05%±0.01%の酢酸を含む溶出液により溶出し、
シリカゲルプレート上で、展開溶媒としてヘキサン、エーテルおよび酢酸を、容量比60:40:1の割合で用い、Rf値が、0.10〜0.12、0.13〜0.15、0.22〜0.24、0.23〜0.25、0.24〜0.26、および0.25〜0.27の領域にスポットを示す画分を分画する、
腸管ホルモン分泌調整剤の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の腸管ホルモン分泌調整剤の製造方法において、
上記工程(b)では、
上記変性脂肪酸を、高速液体クロマトグラフィーにより、逆相カラム、カラムオーブン温度40℃±5℃の条件で分画し、
メタノールと水との容量比が69〜71:31〜29であり容量比0.05%±0.01%の酢酸を含む溶出液により流速0.9〜1.1ml/分で溶出し、
溶出時間が0〜5分,35〜40分,45〜50分、および65〜70分の画分を分画する、
腸管ホルモン分泌調整剤の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2記載の腸管ホルモン分泌調整剤の製造方法において、
上記工程(b)では、
上記変性脂肪酸を、高速液体クロマトグラフィーにより、逆相カラム、カラムオーブン温度40℃±5℃の条件で分画し、
メタノールと水との容量比が64〜66:36〜34であり容量比0.05%±0.01%の酢酸を含む溶出液により流速0.9〜1.1ml/分で溶出し、
溶出時間が11〜12.5分,18.75〜20.25分,26.5〜28分、60〜62分,および62〜64分の画分を分画する、
腸管ホルモン分泌調整剤の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2記載の腸管ホルモン分泌調整剤の製造方法において、
上記工程(b)では、
上記変性脂肪酸を、高速液体クロマトグラフィーにより、逆相カラム、カラムオーブン温度40℃±5℃の条件でそれぞれ分画し、
メタノールと水との容量比が49〜51:51〜49であり容量比0.05%±0.01%の酢酸を含む溶出液により流速0.9〜1.1ml/分で溶出し、
溶出時間が48.25〜50.25分、50.25〜52.5分の画分を分画する、
腸管ホルモン分泌調整剤の製造方法。
【請求項6】
請求項3〜5のうちいずれか1つの請求項において、
一回目の高速液体クロマトグラフィーとして請求項3〜5のうちいずれか1つに記載の工程(b)を行い、得られた画分について、さらに、二回目の高速液体クロマトグラフィーとして請求項3〜5のうちいずれか1つに記載の工程(b)を行なう、
腸管ホルモン分泌調整剤の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のうちいずれか1つに記載の腸管ホルモン分泌調整剤の製造方法において、
上記工程(a)では、上記脂肪酸として、不飽和長鎖脂肪酸,天然油脂,および,上記天然油脂から調整した脂肪酸画分から選ばれる1つの物質を用いる、腸管ホルモン分泌調整剤の製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の腸管ホルモン分泌調整剤の製造方法において、
上記不飽和長鎖脂肪酸は、αリノレン酸またはDHAであり、
上記天然油脂は、紫蘇油または魚油である、腸管ホルモン分泌調整剤の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のうちいずれか1つに記載の腸管ホルモン分泌調整剤の製造方法によって取り出された腸管ホルモン分泌調整成分を含む機能性食品。
【請求項10】
請求項1〜8のうちいずれか1つに記載の腸管ホルモン分泌調整剤の製造方法によって取り出された腸管ホルモン分泌調整成分を有効成分として含有する医薬。
【請求項11】
請求項9記載の機能性食品,または請求項10記載の医薬を投与することにより、腸管からのGLP-1の放出を促進する、腸管ホルモン分泌調整剤の使用方法。
【請求項12】
請求項9記載の機能性食品,または請求項10記載の医薬を投与することにより、腸管からのサブスタンスPの放出を抑制する、腸管ホルモン分泌調整剤の使用方法。
【請求項13】
請求項9記載の機能性食品,または請求項10記載の医薬を投与することにより、腸管からのCCKの放出を抑制する、腸管ホルモン分泌調整剤の使用方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
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【図28】
【図29】
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【図31】
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【図33】
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【公開番号】特開2011−84546(P2011−84546A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−56827(P2010−56827)
【出願日】平成22年3月13日(2010.3.13)
【出願人】(506180040)ファルマフロンティア株式会社 (9)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月13日(2010.3.13)
【出願人】(506180040)ファルマフロンティア株式会社 (9)
【Fターム(参考)】
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