説明

腸管吸収促進剤および食品補助剤

【課題】レスベラトロール類の腸管吸収を促進させる腸管吸収促進剤およびこれを用いた食品補助剤を提供する。
【解決手段】ゲニステイン類(ゲニステインまたはゲニステイン誘導体)を有効成分とするレスベラトロール類(レスベラトロール、レスベラトロール誘導体、レスベラトロール配糖体またはレスベラトロール重合体)の腸管吸収促進剤とする。また、レスベラトロール類およびゲニステイン類を含む食品補助剤とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレスベラトロール類の腸管吸収を促進させる腸管吸収促進剤およびこの腸管吸収促進剤を含む食品補助剤に関する。
【背景技術】
【0002】
レスベラトロールは3,4',5-Trihydroxy-stilbeneであらわされるポリフェノールの一種であるスチルベントリオールである。レスベラトロールの立体異性体としてはtrans-レスベラトロール、cis-レスベラトロールが知られている。レスベラトロールは、そのもののみならず、その配糖体のtrans-パイシード、cis-パイシード、レスベラトロール配糖体の脱水二量体epsilon-ビニフェリン、レスベラトロール四量体、四量体以上に重合が進んだ重合体として天然に存在することが知られている。このようなレスベラトロール類はピーナッツの薄皮やぶどうの皮、どくだみ、アロエなどに含まれている。近年このレスベラトロール類は、健康機能性成分として注目されており、例えば、皮膚老化防止作用や口腔疾患治癒作用を有することが知られている(特許文献1〜3参照)。またグルコサミンなどと共にレスベラトロール類を摂取して、関節痛などの緩和や治療に役立てる方法も提案されている(特許文献4参照)。
しかしながら、レスベラトロール類は腸管吸収性があまりよくないという欠点があり、そのため、せっかく摂取しても体内に吸収されにくく、その効果が充分に発揮されにくかった。
【0003】
【特許文献1】特開2002−293736号公報
【特許文献2】特開2001−69948号公報
【特許文献3】特開2000−256154号公報
【特許文献4】特開2001−72582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は以上述べたような従来の事情に鑑みてなされたもので、レスベラトロール類の腸管吸収性を高める腸管吸収促進剤、およびこの腸管吸収促進剤を含む食品補助剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等はこのような事情に鑑みて鋭意検討を重ねた結果、レスベラトロール類をゲニステイン類と共に含ませることでレスベラトロール類の腸管吸収性が改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち本発明は、ゲニステインまたはゲニステイン誘導体からなる群の一種または二種以上(以下、ゲニステイン類と称する。)を有効成分とすることを特徴とするレスベラトロール、レスベラトロール誘導体、レスベラトロール配糖体、レスベラトロール重合体からなる群の一種または二種以上(以下、レスベラトロール類と称する。)の腸管吸収促進剤である。
【0007】
また本発明によれば、ゲニステイン類を有効成分とする腸管吸収促進剤とレスベラトロール類を含むことを特徴とする食品補助剤が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の腸管吸収促進剤は、レスベラトロール類の腸管吸収性に優れ、レスベラトロール類を体内に吸収されやすくすることができる。
また本発明による食品補助剤は、レスベラトロール類の腸管吸収性が顕著に高められたものであり、レスベラトロール類の有する種々の効果が体内で充分に発揮され得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の最良の実施の形態について詳述する。
本発明によるレスベラトロール類の腸管吸収促進剤は、ゲニステイン類を有効成分とするものである。本発明の腸管吸収促進剤は、ゲニステイン類のみからなるものであっても、その他の成分を含んでいるものであってもよい。
本発明で用いられるゲニステイン類とは、主にマメ科植物中に存在しているイソフラボンの一種である。ゲニステイン類としては、ゲニステインおよびゲニステイン誘導体が含まれ、このうちゲニステイン誘導体としては、置換型ゲニステインであるゲニスチン、バイオカニンAや、アセチルゲニステイン、マロニルゲニステインなどが挙げられる。
このゲニステイン類には骨粗しょう症、乳がん、冠状動脈性心疾患に対する予防効果があるといわれている。
【0010】
レスベラトロール類の腸管吸収促進作用は、ゲニステイン類の中でもゲニステインが特に優れている。ゲニステインとしては、例えば和光純薬社製546−00171が挙げられる。本発明に使用するゲニステイン類の由来としては、有機化学合成、微生物発酵による合成、発酵大豆、定法で製造した納豆、テンペ等のゲニステイン類を含む食品より水および/または有機溶媒を用いて抽出した抽出物があげられるがこれらに限定されるものではない。
【0011】
本発明の腸管吸収促進剤は、食品、飲料、動物用飼料、経腸栄養剤、医薬品等の形で適用することができる。
【0012】
本発明の食品補助剤は、上記のゲニステイン類を有効成分とする腸管吸収促進剤と共に、レスベラトロール類を含むものである。
レスベラトロール(Resveratrol)類はピーナッツの薄皮やぶどうの皮、どくだみ、アロエなどに含まれ、特にブドウ果皮に多く含まれるポリフェノールの一種である。レスベラトロール類は、ワイン消費量の多い地域で心血管障害の罹患率が低いという疫学調査結果の原因物質のひとつとされている。
【0013】
レスベラトロール類としては、レスベラトロールのほか、レスベラトロール誘導体またはレスベラトロール配糖体が挙げられ、例えばtrans-レスベラトロール、cis-レスベラトロール、レスベラトロール分子の配糖体などの誘導体、レスベラトロールまたはレスベラトロール配糖体またはレスベラトロール誘導体の2分子以上が重合した重合体のうち1つまたはそれ以上を含む混合物を使用することが可能である。レスベラトロールの市販品としては、例えば和光純薬社製185−01721がある。
【0014】
本発明には本発明に使用するレスベラトロール類の由来としては有機化学合成、微生物発酵による合成、イタドリ、ブドウ新芽、ピーナッツ果皮等のレスベラトロール類を含む天然物から水および/または有機溶媒を用いて抽出した抽出物、定法で製造した赤ワイン等のレスベラトロール類を含む食品から水および/または有機溶媒を用いて抽出した抽出物があげられるがこれらに限定されるものではない。
【0015】
本発明の食品補助剤は、レスベラトロール類を一日当り0.1〜1000mg、好ましくは1〜500mg摂取できるように調製されていることが望ましい。
【0016】
また本発明の食品補助剤は、ゲニステイン類を一日当り0.1〜10000mg、好ましくは1〜5000mg摂取できるように調製されていることが望ましい。
【0017】
本発明の食品補助剤において、レスベラトロール類とゲニステイン類の摂取割合は、ゲニステイン類:レスベラトロール類=(1:1)〜(10:1)が好ましく、より好ましくは(2:1)〜(5:1)である。レスベラトロール類1に対してゲニステイン類が1よりも少ないと、腸管吸収促進効果が劣り、ゲニステイン類が10を超えてもそれ以上の腸管吸収促進効果が期待できない。
【0018】
〔その他の成分〕
本発明の食品補助剤には、前記必須成分の他に、必要に応じ添加剤を任意に選択し併用することができる。添加剤としては賦形剤、呈味剤、着色剤、保存剤、増粘剤、安定剤、ゲル化剤、酸化防止剤、機能性素材等を含ませることができる。
機能性素材としては、各種ビタミン類、パントテン酸、葉酸、ビオチン、亜鉛、カルシウム、マグネシウム、アミノ酸、オリゴ糖、プロポリス、ローヤルゼリー、EPA、DHA、コエンザイムQ10、コンドロイチン、乳酸菌、ラクトフェリン、イソフラボン、プルーン、キチン、キトサン、グルコサミンなどが挙げられる。これらの機能性素材は、単独で又は二種以上で組み合わせて使用できる。
【0019】
賦形剤としては、所望の剤型としたときに通常用いられるものであれば何でも良く、例えば、微粒子二酸化ケイ素のような粉末類、ショ糖脂肪酸エステル、結晶セルロース・カルボキシメチルセルロースナトリウム、リン酸水素カルシウム、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、デキストリン、シクロデキストリンなどのでんぷん類、結晶セルロース類、乳糖、ブドウ糖、砂糖、還元麦芽糖、水飴、フラクトオリゴ糖、乳化オリゴ糖などの糖類、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、ラクチトール、マンニトールなどの糖アルコール類が挙げられる。これら賦形剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0020】
呈味剤としては、果汁エキスであるボンタンエキス、ライチエキス、リンゴ果汁、オレンジ果汁、ゆずエキス、ピーチフレーバー、ウメフレーバー、甘味剤であるアセスルファムK、エリスリトール、オリゴ糖類、マンノース、キシリトール、異性化糖類、茶成分である緑茶、ウーロン茶、バナバ茶、杜仲茶、鉄観音茶、ハトムギ茶、アマチャヅル茶、マコモ茶、昆布茶、及びヨーグルトフレーバー等が挙げられる。これら呈味剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0021】
その他の着色剤、保存剤、増粘剤、安定剤、ゲル化剤、酸化防止剤については、食品に使用される公知のものを適宜選択して使用できる。
【0022】
本発明の食品補助剤の形態としては、アンプル、カプセル、丸剤、錠剤、粉末、顆粒、固形、液体、ゲル又は気泡、クリーム等任意とすることができる。
【0023】
具体的には、美容・健康飲料又は食品(ビタミン補給、滋養強壮、疲労回復、肌荒れ改善、体質改善、美髪、育毛・養毛)、医薬品、洋菓子類、和菓子類、ガム、キャンデー、キャラメル等の一般菓子類、果実ジュース等の一般清涼飲料水、かまぼこ、ちくわ等の加工水産ねり製品、ソーセージ、ハム等の畜産製品、生めん、ゆでめん、ソバ等のめん類、ソース、醤油、タレ、砂糖、ハチミツ、粉末あめ、水あめ等の調味料、カレー粉、からし粉、コショウ粉等の香辛料、ジャム、マーマレード、チョコレートスプレッド、チーズ、バター、ヨーグルト等の乳製品、美容・健康クリーム、美容・健康液状品、美容・健康フプレー状品等が挙げられる。
また、これらは従来公知の方法により製造することができる。
【実施例】
【0024】
本発明について以下に実施例を挙げてさらに詳述するが、本発明はこれによりなんら限定されるものではない。
【0025】
試験例1(腸管吸収能の測定)
小腸上皮による食品成分の消化、吸収の評価には、小腸上皮細胞のモデルとなる株化細胞が用いられる。ヒト結腸癌由来株化細胞のCaco-2細胞は、通常の培養条件において自発的に小腸上皮様に分化することが知られている。すなわち、刷子縁膜側にはよく発達した微絨毛、スクラーゼ・イソマルターゼ、アルカリホスファターゼ、アミノペプチダーゼ等の種々の刷子縁膜酵素が発現している。また、Caco-2を透過膜上に培養すると、隣接する細胞との間にタイトジャンクションやデスモソーム等を形成することが観察される。さらに、Caco-2における物質吸収・輸送に関する研究が数多くなされ、その特性が実施の小腸の物質吸収・輸送とよく似ていることが確認されている。これらの特徴より、Caco-2細胞は小腸上皮細胞のモデルとして、最も広く用いられることとなっている(上野川修一, 清水誠, 八村敏志, 戸塚護 編著 生化学実験法50 細胞機能実験法pp. 35-37参照)。
本実施例においては、レスベラトロールを用いてCaco-2細胞を使用した食品成分の消化管透過性の評価を行った。
【0026】
(試験方法)
(1)細胞培養
(1−1)細胞
Caco-2細胞はATCC株(ATCC HTB-37)を大日本住友製薬より購入した。
(1−2)使用培地
DMEMに10%非動化FBS、1%非必須アミノ酸、1%ペニシリン‐ストレプトマイシンを添加した培地を使用した。
【0027】
(1−3)培養および継代
通常培養中は、φ10cmディッシュ1枚に1−10×106 cellsの細胞を播種し、2−3日に1回培地交換を、80−90%コンフルエント時に継代を実施した。継代では、PBS(−)で1回洗浄後、0.25%トリプシン‐EDTAを1mL添加し、37℃で2‐3分間インキュベート後に顕微鏡にて細胞剥離を確認した。使用培地を4mL添加してトリプシンを失活させ、ピペッティングにて細胞浮遊液を調整した。細胞浮遊液を100 μL採取し、生理食塩水(ISOTON,ベックマンコールター)で100倍希釈して細胞計数分析装置(コールターカウンター Z1,ベックマンコールター)で細胞数を計測した。遠心分離により培地を除去し、適量の培地を添加し細胞浮遊液を調整した後、新しいディッシュもしくは透過膜上に細胞を播種した。
【0028】
(2)レスベラトロール透過性試験
透過膜上で19−27日間培養したCaco-2細胞を使用して試験を実施した。使用培地を、透過性試験用バッファー(HBSS 9.7g,HEPES 2.38g,炭酸水素ナトリウム 0.336gをKOHでpH 7.4に調整した後、1Lにメスアップする)に置換し、CO2インキュベーター内37℃で15分間インキュベートした。透過性試験バッファーを除いた後、まずBasorateral側に透過性試験バッファーを2.5mL添加し、その後Apical側にレスベラトロール(Resv)を25μMとゲニステイン(Gen)を0μM(Control)、5μM(Gen 5μM)または25μM(Gen 25μM)含有した透過性試験用バッファー1.5mLを添加して培養を開始した。30分後および60分後にBasorateral側のバッファーを回収し、レスベラトロールをHPLC法で測定した。
【0029】
(3)レスベラトロール分析
レスベラトロール分析はHPLC法で行った。レスベラトロール透過性試験でサンプリングした、Apical、Basorateral側のバッファーを、0.2M 酢酸バッファー(pH 5.0)で1:1に希釈したサンプルをHPLC分析に供した。HPLC条件は以下の通りである。
カラム :Capcel Pak UG120(250 mm×4.6 mm,5μm)(Shiseido)
カラム温度:35℃
流速 :1 mL / min
移動相 :水:酢酸(99:1)およびアセトニトリル:酢酸(99:1)
検出器 :UV検出器(SPD-10A,島津製作所) 306 nm
レスベラトロール 22.3 mmol / Lを3200−51600倍希釈(0.435‐13.9 μmol / L)したスタンダードのピーク面積で検量線を作成し、各サンプルのレスベラトロールを定量した。この方法でのアッセイ内CV(22.3 μmol / L,n = 4)は1.9%であった。
【0030】
(3)結果
その結果を図1に示す。図1から、レスベラトロール(Resv)のみを含有するバッファーよりも、さらにゲニステイン(Gen)を含むバッファーを用いたほうがBasorateral側のバッファーのレスベラトロール量が多くなり、特にゲニステイン(Gen)を5μM(Gen 5μM)含有させるよりも、25μM(Gen 25μM)含有させるほうがレスベラトロール量が多くなっていることが分かる。
ゲニステイン(Gen)存在下でのレスベラトロール(Resv)透過性試験の結果を図1に示す。30分ではControl、Gen 5μM、Gen 25μM間に差は認められなかった。60分では、特にGen 25μM群のレスベラトロール透過量がControl群のレスベラトロール透過量と比較して有意に高い値を示した。
【0031】
なお、レスベラトロールとしてはTCI社製R0071、ゲニステインとしては和光純薬社製546−00171をそれぞれ用いた。以下の例においても同様である。
【0032】
実施例1(錠剤)
大豆発酵抽出物 40質量%(ゲニステインとして5.2質量%)
ブドウ新芽エキス 10 (レスベラトロールとして2質量%)
乳糖 47
ショ糖脂肪酸エステル 3
【0033】
実施例2(ドリンク)
大豆発酵抽出物 0.4質量%(ゲニステインとして0.052質量%)
ブドウ新芽エキス 0.1 (レスベラトロールとして0.02質量%)
冷凍濃縮温州ミカン果汁 5
クエン酸 0.2
L−アスコルビン酸 0.02
香料 0.2
色素 0.1
水 残余
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】レスベラトロールにゲニステインを共存させた時の透過膜の透過性試験の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲニステインまたはゲニステイン誘導体からなる群の一種または二種以上を有効成分とすることを特徴とするレスベラトロール、レスベラトロール誘導体、レスベラトロール配糖体、レスベラトロール重合体からなる群の一種または二種以上の腸管吸収促進剤。
【請求項2】
ゲニステインまたはゲニステイン誘導体からなる群の一種または二種以上を有効成分とすることを特徴とするレスベラトロール、レスベラトロール誘導体、レスベラトロール配糖体、レスベラトロール重合体からなる群の一種または二種以上を含むことを特徴とする食品補助剤。
【請求項3】
(a)ゲニステインまたはゲニステイン誘導体からなる群の一種または二種以上と、(b)レスベラトロール、レスベラトロール誘導体、レスベラトロール配糖体、レスベラトロール重合体からなる群の一種または二種以上の摂取割合(質量比)が、(a):(b)=(1:1)〜(10:1)であることを特徴とする請求項2に記載の食品補助剤。

【図1】
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【公開番号】特開2009−173570(P2009−173570A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−12795(P2008−12795)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】