説明

腹囲長測定装置及び腹囲長測定機能を備えた体幹部脂肪測定装置

【課題】 腹囲長を正確且つ容易に測定することができるとともに、腹囲長の測定とインピーダンス測定の双方を行うことができる装置を提供する。また、内臓器組織周辺に付着、蓄積する内臓脂肪組織および皮下層に蓄積する皮下脂肪組織層情報を高精度で簡便に測定可能とする装置を提供する。
【解決手段】 第一装置部と第二装置部から成り、互いに分離された状態で腹囲周上を移動して、各装置部で測定された移動距離に基づいて腹囲長を求める。また、被験者の腹囲周上を転がして腹囲長を測定するために利用することができるローラー部材と、被験者の体幹部におけるインピーダンスを測定するインピーダンス測定部とを有し、測定された腹囲長とインピーダンスを利用して、被験者の体幹部脂肪を測定する。装置は2つ一組として使用される第一装置部と第二装置部から構成され、第一装置部及び第二装置部のそれぞれにローラー部材とインピーダンス測定部が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腹囲長測定装置及び腹囲長測定機能を備えた体幹部脂肪測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
体幹部の脂肪測定の際によく利用される測定要素の一つとして、臍付近における胴回り長である腹囲長を挙げることができる。従来、この腹囲長の測定は、例えば、ヒモ状のメジャーを用いて行われてきた。
【0003】
また、体幹部の脂肪測定の際によく用いられる、生体電気インピーダンスを利用した体脂肪組織の推定技術は、体脂肪組織および体脂肪率を計測する技術として世に広がってきたが、実際には、脂肪組織を直接的に測定するものとはなっておらず、脂肪組織以外の水が支配的な除脂肪組織を電気的に計測したものである。特に、全身(Whole Body)計測では、旧来のタイプでは仰臥位姿勢で片手-片足間を一つの円柱でモデル化している(片手-片足間誘導法)し、簡易型としては、立位姿勢で測定する両掌間誘導法や、体重計と一体になった両脚裏間誘導法、上肢と下肢または、上肢と下肢と体幹部、または、左右上肢、左右下肢、体幹部の様に5セグメントに分けて個別に円柱モデルを適用可能としてインピ−ダンスを計測した技術も顕在化してきている。また、インピ−ダンスCT計測技術を簡略して体幹部臍囲に電流印加・電圧計測電極を配置して腹部のインピ−ダンスを計測し、内臓脂肪組織量を推定する計測技術について、特許出願がなされている(特許文献1および特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特許第3396677号
【特許文献2】特許第3396674号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
体幹部の脂肪測定にあたり、メジャー等の用いた従来の測定方法では、腹囲長の正確な測定を行うことが困難であり、この結果、体幹部の脂肪測定を正確に行うことができないという問題がある。本発明の1つの目的は、このような従来技術における問題点を解消することにあり、腹囲長の正確な測定を行うことができる装置を提供することにある。
【0006】
近年、体脂肪の情報は、糖尿病や高血圧および高脂血症などの生活習慣病のスクリ−ニング用としての有用性が特に問われており、内臓器組織近辺に付着、蓄積した内臓脂肪組織に関して、その計測の重要性が日に日に高まってきている。
【0007】
内臓脂肪組織は、体幹部の腹部付近に集中的に分布する脂肪組織で、X線CТやMRI等による腹部横断画像でその脂肪組織の横断面積で判断されてきていた。しかし、装置が大掛かりで、また、X線の場合被曝の問題もあり、費用面もあり、フィールドおよび家庭用での計測に適さない。そこで、内臓脂肪組織は、全身脂肪組織との相関または、全身の除脂肪組織との相関から推定するのが一般的で、スクリーニング用としても、十分な信頼性を確保するにいたらなかった。
【0008】
最近では、体幹部の臍囲周辺に電極を配置し、体幹部の内部インピ−ダンスを計測して、内臓脂肪組織情報を推定するといった方法も開発中である。しかしながら、この方法では、骨格筋組織層と皮下脂肪組織層と内臓脂肪組織の間に有意な相関が存在することに基づくものであり、いずれかの組織の情報が捕捉出来ればおおよその情報の推定が可能であることを前提とするものである。このため、非常に有意な相関が存在し得る自立性の高い健康域の被験者については良好な結果が期待できるが、各組織間の相関が異なる対象者、例えば、内臓脂肪組織が顕著に肥大し、かつ、皮下脂肪組織層や骨格筋組織層との相関性が顕著に低い被験者における計測結果については大きな誤差を含んだものとなり得る。つまり、この開発中の方法にあっても、健康な自立生活が可能な被験者であれば、臍部全周囲のどこに電極を配置しても何とか計測の可能性は考えられるが、麻痺・介護患者等、特にベッド上の寝たきり患者での計測となると課題が大きい。
【0009】
また、この開発中の方法は、測定対象としている組織部位を腹部表面から電流を印加通電させて、内部の組織に関連するインピ−ダンス値を取得している点で高い技術と言えるが、測定部位である体幹部が有する内部構造上の問題から、測定されたインピ−ダンス情報そのものが内臓脂肪組織に対してほとんど有用な感度を有していないのが実情である。即ち、測定部位である体幹部は太短く、多重構造、つまり、測定対象である内臓脂肪組織は内臓器組織や背骨組織とともに非常に良好な導電性を示す骨格筋組織層で覆われ、更に、この骨格筋組織層は電気導電性が非常に悪い皮下脂肪組織層で覆われているといった構造になっている。特に、測定対象である内臓脂肪組織周辺は、骨格筋組織層より導電性が劣る内臓器組織とこの内臓器組織に付着、蓄積した導電性が悪い内臓脂肪組織が支配的で、かつ、複雑な構成のため、骨格筋組織層より内部の導電性はかなり劣るものとなっている。このため、単純に電流印加電極を腹周囲に配置したとしても、大半は、骨格筋組織層を通じた通電になり、電流密度分布も、骨格筋組織層に支配的な電位分布として表面計測電極から観測されることになる。さらに、電流印加電極の表面積または腹周囲方向への電極幅で印加電流密度の分布が決まり、電極直下の皮下脂肪組織層における電流密度が高い拡がり抵抗領域での情報の観測が支配的となってしまう。
【0010】
更に言えば、測定部位である体幹部は太短いため、電流印加電極直下の電流密度集中(広がり抵抗)領域の皮下脂肪組織層における感度が高くなり、さらに、骨格筋組織は脂肪組織に比べて導電性が相当高いことから、皮下脂肪組織層を通過した電流の大半が骨格筋組織層を介して対抗する電流印加電極側に皮下脂肪組織層を通って戻るル−トを取り、結果的に、内部での電位分布はこの骨格筋組織層で大幅に歪められてしまう。よって、従来の方法では、測定される電位の大半は、皮下脂肪組織層の情報となってしまい、測定対象である内臓脂肪組織、即ち、内臓器組織およびその周囲に付着、蓄積する内臓脂肪組織への通電はほとんど期待できず、全インピ−ダンス計測区間の10%以下の極めて計測感度の低い情報しか捕捉出来ていないのである。
【0011】
これらの問題を回避するために、皮下脂肪組織層面積と相関性が高い腹囲長を推定式に組み込むことで、その推定誤差の拡大を防止する方法も考えられてはいるが、この方法はあくまで構成組織間の相関性による間接推定にほかならず、腹部中央に必要な通電感度を確保した計測法とは言いづらい。つまり、統計的相関デザインからずれる個々人の誤差は、保証出来ず、特に病的に皮下や内臓脂肪組織が多い場合や、中間の骨格筋組織層が多い/少ない場合などは顕著な誤差が生じ得る。尚、皮下脂肪組織層面積が腹囲長と相関性が高いのは、人間の体幹部は同心円上の組織配列デザインとなっており、皮下脂肪組織層は、最も外側の配置であるため、外周囲長と皮下脂肪組織厚でその面積が決まることになるからである。
【0012】
体幹部に対しての電極配置にも通常は、四電極法が用いられる。この方法は、被験者の体内に電流を印加するとともに、印加電流によって被験者の測定部位区間に生じた電位差を測定して測定部位区間生体電気インピーダンスを測定するというものである。体幹部のような太短い測定部位に四電極法を適用した場合、電流が広がり始めの電流密度集中(即ち、広がり抵抗領域)が、例えば、電流印加電極直下のため、皮下脂肪組織層付近で大きな電位差を生じ、電圧計測電極間で計測される電位差の大半を占めることになる。この広がり抵抗による影響を小さくするためには、電流印加電極と電圧計測電極間距離を十分確保する配置とすることが重要である。一般的な測定では、測定区間が長く電圧計測電極間距離が十分確保できる条件での測定であるため、いわゆるS/N感度(Nは広がり抵抗による影響(ノイズ)、Sは電圧電極間で計測される信号)は十分確保されるはずである。しかしながら、体幹部のような太短い測定部位の場合は、Nを小さくすべく、電流印加電極からの距離を確保しようとして電圧計測電極を遠ざけると、逆に、電圧計測電極区間距離が小さくなり、この結果、Sが小さくなって、結局、S/Nは悪くなってしまう。さらに、電流密度が高い広がり抵抗部は、皮下脂肪組織層部であり、厚みがある肥満傾向の被験者が一般的であるため、かなり大きなNとなってしまい、二重にS/Nが悪くなってしまう。このように、体幹部のような太短い測定部位に対して四電極法を用いる場合には、単に臍囲周上に電極を配置しただけでは、内臓脂肪組織への有用なS/N感度を確保することにかなり無理があると推測される。尚、S/Nに関しては、後述する実施例についての説明において更に詳述する。
【0013】
故に、上述した目的に加え、本発明は、通電性の悪い内臓器組織および内臓脂肪組織の領域においても測定に必要な感度を確保し、体幹部に蓄積される脂肪組織、特に、内臓器組織周辺に付着、蓄積する脂肪組織および皮下層に蓄積する脂肪組織情報を高精度で簡便に測定可能とする装置を提供することをも目的とする。また、内臓脂肪や皮下脂肪の測定にあたり、腹囲長の測定を容易にするとともに、腹囲長の測定とインピーダンス測定の双方を行うことができる装置を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、第一装置部と第二装置部から成り、互いに分離された状態で腹囲周上を移動して、各装置部で測定された移動距離に基づいて腹囲長を求める腹囲長測定装置を特徴とする。
【0015】
上記装置において、第一装置部と第二装置部から成り、互いに分離された状態で腹囲周上を移動して、各装置部で測定された移動距離に基づいて腹囲長を求める腹囲長測定部と、前記腹囲長測定部で求めた腹囲長に基づいて前記被験者の体幹部脂肪を測定する体幹部脂肪測定部とを備えていてもよい。
【0016】
上記装置において、前記第一装置部と前記第二装置部は、前記腹囲長を求める際、互いに分離された状態で前記腹囲周上を互いに反対方向に移動して、再び合体されるようにされていてもよい。
【0017】
上記装置において、前記腹囲長は、前記第一装置部の移動距離と前記第二装置部の移動距離を合算して求めるものであってもよい。
【0018】
上記装置において、前記第一装置部と前記第二装置部はそれぞれ、ローラー部材を利用して前記腹囲周上を移動して移動距離を測定するものであってもよい。
【0019】
また、本発明は、被験者の腹囲周上を転がして該腹囲長を測定するために利用することができるローラー部材と、被験者の体幹部におけるインピーダンスを測定するインピーダンス測定部と、を有し、前記測定された腹囲長と前記インピーダンスを利用して、前記被験者の体幹部脂肪を測定する腹囲長測定機能を備えた体幹部脂肪測定装置を特徴としている。
【0020】
本発明の一つの実施の形態によれば、前記装置は2つ一組として使用される第一装置部と第二装置部から構成され、前記第一装置部及び前記第二装置部のそれぞれに前記ローラー部材と前記インピーダンス測定部が設けられていてもよい。
【0021】
本発明の別の実施の形態によれば、前記第一装置部及び前記第二装置部のローラー部材のそれぞれを被験者の腹囲周上で半周させることにより前記被験者の腹囲長を測定するのが好ましい。
【0022】
本発明のさらに別の実施の形態によれば、前記第一装置部又は前記第二装置部のインピーダンス測定部は、それぞれ、電流印加電極対を備える電流印加電極装置として又は電圧計測電極対を備える電圧計測電極装置として選択的に機能し得るものであってもよい。
【0023】
本発明のさらに別の実施の形態によれば、前記第一装置部が前記電流印加電極装置として機能するとき、前記第二装置部は電圧計測電極装置として機能し、一方、前記第一装置部が前記電圧計測電極装置として機能するとき、前記第二装置部は電流印加電極装置として機能するものであってもよい。
【0024】
本発明のさらに別の実施の形態によれば、前記第一装置部と前記第二装置部はハンディタイプであってもよい。
【0025】
本発明のさらに別の実施の形態によれば、前記第一装置部又は前記第二装置部が前記電流印加電極装置として機能する際、該装置の電流印加電極対の一方の電極は、前記第一装置部又は前記第二装置部を把持する被験者の左手又は右手の指若しくはその近傍と接触し得る位置に設けられているのが好ましい。
【0026】
本発明のさらに別の実施の形態によれば、前記第一装置部又は前記第二装置部が前記電流印加電極装置として機能する際、該装置の電流印加電極対の他方の電極は、前記第一装置部又は前記第二装置部を把持した状態で、前記被験者の皮下脂肪組織層が薄い部位、及び、骨格筋組織層の筋腹部が無いまたは薄い部位のうちの少なくともいずれか一方に押し当てて使用するのに適当な位置に設けられているのが好ましい。
【0027】
本発明のさらに別の実施の形態によれば、前記第一装置部又は前記第二装置部が前記電圧計測電極装置として機能する際、該装置の電圧計測電極対の一方の電極は、前記第一装置部又は前記第二装置部を把持する被験者の左手又は右手の指若しくはその近傍と接触し得る位置に設けられているのが好ましい。
【0028】
本発明のさらに別の実施の形態によれば、前記第一装置部又は前記第二装置部が前記電圧計測電極装置として機能する際、該装置の電圧計測電極対の他方の電極は、前記第一装置部又は前記第二装置部を把持した状態で、前記被験者の皮下脂肪組織層が薄い部位、及び、骨格筋組織層の筋腹部が無いまたは薄い部位のうちの少なくともいずれか一方に押し当てて使用するのに適当な位置に設けられているのが好ましい。
【0029】
本発明のさらに別の実施の形態によれば、前記第一装置部又は前記第二装置部が前記電圧計測電極装置として機能する際、該装置の電圧計測電極対の他方の電極は、前記第一装置部又は前記第二装置部を把持した状態で、前記電流印加電極対の他方の電極直下の広がり抵抗の影響が支配的な位置となるように設けられているのが好ましい。
【0030】
本発明のさらに別の実施の形態によれば、前記他方の電極は前記ローラー部材又はその近傍に設けられた電極であってもよい。
【0031】
本発明のさらに別の実施の形態によれば、前記電圧計測電極対は、皮下脂肪組織層が薄い部位、または、骨格筋組織層の筋腹部が無いまたは薄い部位にて電位差を測定するものであってもよい。
【0032】
本発明のさらに別の実施の形態によれば、前記第一装置部と前記第二装置部は、前記第一装置部又は前記第二装置部のいずれか一方又は双方において発生させた吸着力により前記第一装置部と前記第二装置部の尾部同士及び前部同士にて互いに吸着されるものであってもよい。
【0033】
本発明のさらに別の実施の形態によれば、前記吸着力は磁石による磁力であってもよい。
【0034】
本発明のさらに別の実施の形態によれば、前記第一装置部と前記第二装置部は互いに吸着されたときに前記腹囲長の測定の開始及び/又は終了を認識するものであってもよい。
【0035】
本発明のさらに別の実施の形態によれば、前記第一装置部と前記第二装置部はそれらの間で光通信可能であってもよい。
【0036】
本発明のさらに別の実施の形態によれば、前記第一装置部と前記第二装置部は同じ構成を有するものであってもよい。
【0037】
本発明のさらに別の実施の形態によれば、前記第一装置部と前記第二装置部は、互いに、マスター/スレーブの関係とされているのが好ましい。
【0038】
本発明のさらに別の実施の形態によれば、前記部位は、臍と腸骨稜上縁間の区間、又は、腹直筋と外腹斜筋間の結合腱部であってもよい。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、腹囲長を正確且つ容易に測定することができるとともに、この測定結果を利用して、内臓器組織及び内臓脂肪組織への通電量及び感度を引き上げて、体幹部内臓脂肪組織を精度よく測定できる。また、ノイズとなる骨格筋組織層による電位の乱れによるN成分も、筋腹組織を外す位置で電圧計測電極を配置することでS/N特性を改善できる。
【0040】
また、麻痺患者及び介護等によりベッド上で寝たきりの被験者においても、測定部を背中部を除く腹部前面とすることで、被験者が容易に測定を可能と出来る。更に、腹部への電極装着により、測定部位を被験者が意識できることによって、意識的拘束による測定精度の向上及びモチベ−ションの確保に有益となる。
【0041】
更に、内臓器組織付近に付着する蓄積脂肪組織の蓄積具合を従来の簡易計測法との組み合わせ及び簡便性を踏襲する中で、必要なレベルに応じた精度の高いスクリーニング情報を顕在化させることができる。
【0042】
更に、本発明によれば、小型で簡便な装置にて体幹部内臓脂肪組織を精度よく測定できるので、家庭用として最適なものとすることもできる。しかも、測定前の腹部コンディションチェック、すなわち、内臓器組織等での炎症や病的な体液分布異常の早期チェック等も可能で、それに応じた適切な健康指針アドバイスも与えることができる。したがって、ユーザにとっては、食事および運動による日々のダイエットを適正に行い且つそのためのモチベーションを維持し、継続可能な健康の維持増進の自己管理をする上で役立つ諸情報を簡便な仕方で得ることができ、非常に有用なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本発明の実施の形態および実施例について詳細に説明する前に、本発明による体幹部の内臓脂肪測定の原理について簡単に説明する。本発明は、基本的には、生体電気インピーダンス情報と身体特定化情報を用いて、体幹部(体幹腹部)の内臓脂肪組織情報(横断面積量、体積量または重量)、更に言えば、体幹部に蓄積される脂肪組織、特に内臓器組織周辺に付着、蓄積する内臓脂肪組織および皮下層に蓄積する皮下脂肪組織層情報を、高精度で簡便に測定可能とする方法等に関する。
【0044】
本発明は、このため次のような手法を駆使する。
(1)体幹部の生体電気インピーダンス情報に含まれる組織情報を骨格筋組織層と内臓器組織と内臓脂肪組織で直並列の等価回路モデルで仮定すること。ここでは内臓器組織と内臓脂肪組織を直列に考える(したがって、内臓脂肪組織の大小により通電量の変化を期待できる)。
【0045】
(2)腹囲長が身体特定化情報として確保できる場合は、皮下脂肪組織量も、等価回路モデルに含めた、高精度モデルとして、皮下脂肪組織層と骨格筋組織層と内臓器組織と内臓脂肪組織で直並列の等価回路モデルで仮定すること。
【0046】
(3)皮下脂肪組織量推定は、身体特定化情報のうち腹囲長を主体的な説明変数とした重回帰式で構成されること。さらには、腹囲長の二乗を主体的説明変数と置くこと。
【0047】
(4)内臓器組織情報の確定は、身体特定化情報のうち、身長情報が主体的な説明変数とした重回帰式で構成し、内臓脂肪組織情報推定のための未確定情報の確定に用いる。
【0048】
(5)各組織を定量化するための重回帰分析(検量線作成手法)に用いる組織の基準測定は、臍位でのX線CT断層画像からの組織横断面積(CSA)やMRI法によるCSA及び体幹部全体でのDEXA法、MRI法(長さ方向へ、スライス毎の積分処理)を用いた組織体積量,重量(体積量から重量への変換は、先行研究による組織密度情報より算出可能)で実現できる。DEXA法では、腹部内臓脂肪組織と皮下脂肪組織の合計の総脂肪組織情報を基準測定できる。
【0049】
(6)上記のような手法を用いて内臓脂肪組織の情報を高精度に捕捉可能とするためには、呼吸等による体幹部の計測インピ−ダンス情報の変動を一定条件値に置き換える手立てが必要となり、インピーダンス計測サンプリング周期を一般的な呼吸周期の1/2以内とし、呼吸変化を時系列的にモニタリングして、呼吸周期及び呼吸周期毎の最大値と最小値を呼吸周期毎に判別し、安静呼吸の中央値を捕捉可能とすること。
【0050】
(7)さらに、測定前の飲食及び膀胱尿の貯留などによる悪影響の事前チェックも、計測インピーダンス情報より可能とする。一般に、体幹部のインピーダンス値は、健康な一般的な被験者集団では、骨格筋組織層の情報が支配的に反映される。また、体幹部の骨格筋組織層の情報は、測定値としては非常に小さく個々人毎で大きな違いが認められない。理由は、地球重力下で自重を支えて発達する抗重力筋との相関の高いデザインとなるため、特別に寝たきりで重力の影響を受けない被験者とか、自重の数倍のストレスが加わる種目のアスリートなど、特殊な集団以外ではほぼ身体サイズで決定されてしまうためである。ここで、骨格筋組織層及び前記呼吸変動以外で体幹部のインピーダンスに影響が大きいのは、飲食及び膀胱尿の貯留などによる悪影響である。よって、集団デ−タとして体幹部のインピーダンス値を収集し、平均値[mean]と偏差[SD]で見ると、飲食及び膀胱尿の貯留などによる影響は、2SDを超える範囲にあることがわかった。ただ、ある程度のアスリート等の準一般的集団まで踏まえると、3SDをクライテリアとすることで、本影響のスクリーニングを可能と出来る。
【0051】
次に、前述したような手法に基づく本発明の測定原理につき、更に詳述する。
1.体幹部構成組織の電気的等価回路モデル化
(1)体幹部は、主として、皮下脂肪組織層と、骨格筋組織層(腹筋群,背筋群)と、内臓器組織とその隙間に付着する内臓脂肪組織から成ると考えることが出来る。骨組織を構成組織として挙げていないのは、骨組織は骨格筋組織層と量的相関が非常に高く、一体の組織体として考えられるからである。体積抵抗率も、生体内では骨髄組織なども含めることでかなり導電性が良く、骨格筋組織層や内臓器組織に近い特性を有するものと考えられる。よって、この4組織を電気的な等価回路モデルで表すと、内臓器組織と内臓脂肪組織を直列に構成し、その直列の合成組織に対して、皮下脂肪組織層および骨格筋組織層がそれぞれ並列に構成される。この等価回路モデルについては、後述する実施例についての説明において詳述する。このモデルによると、体幹部の長さ方向への通電に対しては、骨格筋組織層に支配的に電流が流れる。内臓脂肪組織は、内臓器組織の周辺の隙間に付着することから、内臓脂肪組織が無い時、または少ない時、内臓器組織が骨格筋組織層に近い導電性を示すことから、内臓器組織側にも電流が通電されることになる。また、内臓脂肪組織が多くなるほど、内臓器組織と内臓脂肪組織の複合体としての複合組織層への通電量が低下してゆくことになる。体幹部の計測インピーダンスと、それを構成する4組織を等価回路モデルで表した時のモデル式は、下記の様に表現できる。
Ztm = ZFS//ZMM//(ZVM+ZFV) ・・・式1
ここで、
体幹部全体のインピーダンス:Ztm
皮下脂肪組織層のインピーダンス:ZFS・・・体積抵抗率は、大きい。
骨格筋組織層のインピーダンス:ZMM・・・体積抵抗率は、小さい。
内臓器組織のインピーダンス:ZVM・・・骨格筋組織層に近い体積抵抗率と考えられている。
内臓脂肪組織のインピーダンス:ZFV・・・体積抵抗率は、皮下脂肪組織層と同等かそれよりも、やや小さ目と考えられる。脂肪の合成分解が皮下脂肪組織に比べて速いことから、組織内血管及び血液量が多いものと考えられる。
【0052】
組織間の電気的特性は、インピーダンスよりはむしろ体積抵抗率ρ[Ωm]で決まる。上の関係から、各組織の電気的特性値は一般に以下の関係で説明される。
ρMM<<ρ(VM+FV)<ρFS
ρVM<<ρFV
ρMM=ρMV、若しくは、ρMM<ρMV
ρFV=ρFS、若しくは、ρFV<FS
ここで、
皮下脂肪組織層の体積抵抗率:ρFS
骨格筋組織層の内側の内臓器組織と内臓脂肪組織の複合組織層の体積抵抗率:ρ(VM+FV)
骨格筋組織層の体積抵抗率:ρMM
よって、式1との関連により、各組織間の電気的特性の比較関係は、
ZFS >> (ZVM+ZFV) >> ZMM ・・・式2
となる。
【0053】
2.体幹部骨格筋組織横断面積量(AMM)と体幹部骨格筋組織層インピーダンス(ZMM)の推定
(2)内臓脂肪組織量は横断面積量や体積量で表すことができる。横断面積量の場合は、臍囲周での計測においては、CT(X線−CT、MRI)法による横断面積量が一般的な計測基準と考えられる。一方、体積量の場合は、CT法からのスライスによる横断面積量を長さ方向に複数のスライス情報で積分することで求めることができる。骨格筋組織量(骨格筋量)は、これら横断面積量と体積量の双方に高い相関を有すると考えられる。ここでは横断面積量で考えることにする。骨格筋組織層の横断面積量(AMM)は、身体特定化情報でおおよそ推定することができる。なぜなら、身体の骨格筋組織層の発達デザインは、地球重力下で自重を支えるための発達、適応でほとんど決まってしまうからである。よって、アスリートや麻痺看者や介護者などの重力非適応者を除けば、身体特定化情報で推定可能となる。この推定は、身長H、体重W、年齢Ageを以下の式に代入することによって行う。
AMM=a*H+b*W+c*Age+d・・・式3
ここで、a、b、c、dは、定数である。
(3)体幹部骨格筋組織層インピーダンス(ZMM)も身体特定化情報によって推定できる。便宜上、ここでは上で求めた横断面積量(AMM)を利用する。この推定は以下の式を用いて行うことができる。
ZMM=a0*H/AMM+b0・・・式4
ここで、a0、b0は、定数である。
【0054】
3.内臓脂肪組織インピーダンス(ZFV)及び内臓脂肪組織量(AFV)の推定
式1、2の関係式から、次の様な二つのアプローチ案によって、内臓脂肪組織情報を推測可能とする手法が考えられる。
(4)アプローチ1
皮下脂肪組織層は、他の構成組織と比較する中で体積抵抗率が高いことから体幹部の等価回路から見て、省略して考える。つまり、体幹部で計測されるインピーダンス値には、体幹部の皮下脂肪組織層を除いた内臓脂肪組織を含む除脂肪組織の情報が計測されているものと考えることが出来る。よって、この関係式は、次の様に表現できる。
Ztm ≒ ZMM//(ZVM+ZFV) ・・・式5
式5を変形すると、
1/Ztm ≒ 1/ZMM + 1/(ZVM+ZFV) ・・・式6
この式中の骨格筋組織層のインピーダンスZMMおよび内臓器組織のインピーダンスZVMを下記で記述される手段で顕在化することで、内臓脂肪組織のインピーダンスZFVを算出可能となる。そして、この内臓脂肪組織のインピーダンス情報より、内臓脂肪組織量を推定可能と出来る。式6からZFVを誘導すると、次の式7となり、内臓脂肪組織の情報を有するインピーダンス情報を求めることができる。
ZFV= 1/[ 1/Ztm−1/ZMM] − ZVM・・・式7
【0055】
(5)アプローチ2
前記アプローチ1では皮下脂肪組織層を省略して考えたが、皮下脂肪組織を大量に有する被験者に対しては誤差要因となりえるため、式1のままで進める方法である。
この式中の骨格筋組織層のインピーダンスZMMおよび内臓器組織のインピーダンスZVMは、前記手法と同様とし、皮下脂肪組織層のインピーダンスZFSに対して、インピーダンス情報は他の組織と同様の考え方で皮下脂肪組織量と有用な関係がある。ここで、皮下脂肪組織量は、その組織表面での周囲長、つまり、腹囲長との相関が非常に高い関係があることが一般に報告されている(特に皮下脂肪組織が多い被験者に対して、または、皮下脂肪組織を除く除脂肪組織に比較して多い場合)ことから、皮下脂肪組織層は腹囲長情報から推定可能となる。よって、皮下脂肪組織層のインピーダンスは、腹囲長の情報から推測可能と出来る。以下、前記アプローチと同様の手法で内臓脂肪組織のインピーダンスZFVを算出可能となる。そして、この内臓脂肪組織のインピーダンス情報より、内臓脂肪組織量を推定可能と出来る。
式1を変形すると、
1/Ztm = 1/ZFS + 1/ZMM + 1/(ZVM+ZFV) ・・・式8
ZFV= 1/[ 1/Ztm−1/ZMM−1/ZFS] − ZVM・・・式9
【0056】
(6)内臓脂肪組織量(AFV)は、ここでは内臓脂肪組織横断面積として取り扱う。内臓脂肪組織組織量(AFV)は、式10において、上記インピーダンス情報と身長情報から算出することができ、
AFV=aa*H/ZFV+bb・・・式10
ここで、aa、bbは定数である。
【0057】
4.内臓器組織量[AVM]及び内臓器組織インピーダンス [ZVM]の推定
(7)体幹部の内臓器組織量[VM]は、身長、体重、性別、年齢等の身体(個人)特定化情報から推定することが出来る。説明変数の中で、身長項の影響が大きい。
内臓器組織量[AVM] = a1*身長[H]+ b1*体重[W] + c1*年齢[Age] + d1・・・式11
ここで、a1、b1、c1、d1は、男女で別の値を与える定数である。
なお、本検量線(回帰式)に用いる内臓脂肪組織量VMの基準量の計測は、MRI法やX線CТ法により得られるスライス毎のCSA(組織横断面積)を長さ方向に積分して求めた組織体積、または、臍位等の1スライスからのCSAとする。組織体積は、先行研究論文等で公知の組織密度情報から重量へ変換することで組織量とすることが出来る。
【0058】
(8)次に、内臓器組織のインピーダンスZVMを推定する。
内臓器組織のインピーダンス[ZVM]は、身長、体重、性別、年齢等の身体(個人)特定化情報から推定することが出来る。説明変数の中で、身長項の影響が大きい。また、内臓器組織量[AVM]を考慮することで、より高い推定ができる。そこで、便宜上、ここでは上記で求めた内臓器組織量[AVM]を利用する。この推定は、以下の式を用いて行うことができる。
ZVM=a2*H/AVM+b2・・・式12
ここで、a2、b2は、定数である。
【0059】
5.皮下脂肪組織量[AFS]の推定
(9)体幹部の皮下脂肪組織量[AFS]は、腹囲長[Lw]2から推定することが出来る。さらに、他の身体特定化情報を説明変数として付加して重回帰式とすることで精度向上が期待できる。
男性用: 皮下脂肪組織量[AFS] = a10*腹囲長[Lw]2+b10*身長[H]+ c10*体重[W]
+ d10*年齢[Age] + e10・・・式13
女性用: 皮下脂肪組織量[AFS] = a11*腹囲長[Lw]2+b11*身長[H]+ c11*体重[W]
+ d11*年齢[Age] + e11・・・式14
ここで、a10、a11、b10、b11、c10、c11、d10、d11、e10、e11は、回帰係数で定数である。
なお、本検量線(回帰式)に用いる皮下脂肪組織量FSの基準量の計測は、MRI法やX線CТ法により得られるスライス毎のCSA(組織横断面積)を長さ方向に積分して求めた組織体積、または、臍位等の1スライスからのCSAとする。組織体積は、先行研究論文等で公知の組織密度情報から重量へ変換することで組織量とすることが出来る。
【0060】
6.体幹部内臓脂肪/皮下脂肪比[V/S]の推定
(10)内臓脂肪/皮下脂肪比[V/S]は、式13、14からの皮下脂肪組織量[AFS]と式10からの内臓脂肪組織量[AFV]から求めることが出来る。
V/S=AFV/AFS・・・式15
【0061】
7.体幹部(中部)のインピーダンスによる内臓器組織異常判定の考え方
(11)内臓脂肪組織量推定に必要な体幹部のインピーダンスZtmは、呼吸及び飲食等により変動が大きな部位でもあることから、安定性及び信頼性の高い情報の計測が必要となる。よって、次の様な処理を加えることで、信頼性の高い体幹部のインピーダンス情報を確保出来る。また、一部体幹部の体液分布の乱れに関連する情報としての視点から、体幹部の組織異常の判定も可能と出来る。
【0062】
(12)呼吸による変動の影響除去処理
(a)一般的な呼吸周期時間の1/2より短いサンプリング周期で、体幹部のインピーダンスを測定する。
(b)サンプリング毎の測定デ−タに対して移動平均等によるスムージング処理を施す。
(c)処理後の時系列データより、呼吸の周期性と周期毎の最大値と最小値を検出する。
(d)毎周期毎の最大値と最小値を各々別個に平均処理する。
(e)最大値と最小値の平均処理後の値を平均して、呼吸の中央値を算出する。
(f)呼吸周期毎の呼吸の中央値が規定回数規定以内の安定域に入った時点で、呼吸中央値確定と判断し、確定した中央値のインピ-ダンス値を体幹部のインピーダンス値として登録し、測定を完了とする。
【0063】
(13)飲食及び膀胱等への水分貯留(尿等)による異常値判定処理
(a)体幹部のインピーダンスは、26.7±4.8Ω(mean±SD)が集団の一般的な値となる。
(b)反面、便秘及び膀胱尿の貯留や胃での飲食物の充満時の値は、mean±3SDの範囲を超える。
(c)よって、3SDを超える測定値が得られる場合には、飲食及び膀胱尿等の影響の可能性を被験者へ報知し、最善の環境で測定に望んで貰う様促す。ただし、実際にこれらの影響なしに骨格筋組織層の発達及び内臓器組織が標準サイズとは異なる被験者においては、測定を継続出来る様に進める。
(d)さらに、判定感度を上げる方法としては、性別、体重、身長別で規定値を細分化する。又は、体重で割るか、身長で割って単位当たりの値として規定値を規定する。
【0064】
次に、本発明の原理を説明するため、ここで、電気的な等価回路モデルを導入する。図1に、この等価回路の基になる体幹部(腹部)の構造を模式的に示す。電気的特性の観点でみると、体幹部は、皮下脂肪組織層(FS)、骨格筋組織層(MM)、内臓器組織(VM)、その隙間に付着する内臓脂肪組織(FV)の各組織に分けることができる。
【0065】
図2は、図1に示された体幹部の模式図を臍高さにおける腹囲周横断面にてモデル化した図である。この図に示すように、体幹部断面は、最も外側にある皮下脂肪組織層(FS)と、そのすぐ内側にある骨格筋組織層(MM)と、最も内側にある内臓器組織(VM)とそれに取り巻く内臓脂肪組織(FV)を含む。
【0066】
図3は、図2に示された模式図を更に電気的な等価回路として表したものである。例えば、電流印加電極43’、43で電流(I)を印加し、電圧計測電極44’、44で電位差(V)を測定するものとした場合、この等価回路における電気抵抗は、主として、臍前後付近の皮下脂肪組織層のインピーダンス(ZFS1、ZFS2)と、腹周囲の皮下脂肪組織層のインピーダンス(ZFS0)と、臍の左右各側の骨格筋組織層のインピーダンス(ZMM1、ZMM2)と、臍前後付近の内臓脂肪組織のインピーダンス(ZFV1、ZFV2)、更に、体幹部中心付近の内臓器組織のインピーダンス(ZVM)として現れる。
【0067】
図4に、図3を更に簡略化した回路を示す。ZFS1とZFS2は略同じ大きさと考えられるため、ここでは、それらを同値のZFSとして表し、また、ZMM1とZMM2、或いは、ZFV1とZFV2は、それぞれ、ZMM、ZFVとして表している。また、導電性が他の領域に比べて著しく低いと考えられるZFS0は省略した。これを省略できる点は、前項「1.体幹部構成組織の電気的等価回路モデル化」(1)の記載から明らかであろう。
【0068】
次に、図5を参照して、四電極法における電極間距離と広がり抵抗の関係を説明する。図5は、電極間距離と広がり抵抗の関係を示したものである。図中、丸い点線で囲った部分40は広がり抵抗領域を示す。電流印加電極からの電流は、印加後に徐々に被験者の体内に広がることになるが、印加直後の領域、即ち、広がり抵抗領域においては、それほど大きくは広がっておらず、このため、これらの領域では電流密度が他の領域に比べて非常に高くなる。したがって、電流印加電極43と電圧計測電極44をあまりに接近させて配置した場合には、電圧計測電極44において測定される電圧は広がり抵抗領域における電流の影響を大きく受けてしまう。
【0069】
例えば、前述した式2より明らかなように、臍付近における皮下脂肪組織層のインピーダンス(ZFS)と、腹周囲における皮下脂肪組織層のインピーダンス(ZFS0)、骨格筋組織層のインピーダンス(ZMM)、内臓脂肪組織のインピーダンス(ZFV)、及び、体幹部中心付近の内臓器組織のインピーダンス(ZVM)の間には、
ZFS >> (ZVM+ZFV) >> ZMM
の関係がある。
したがって、I−V電極間距離がほとんど無く近接して配置されたときの電位差計測インピーダンスΣZ1は、
ΣZ1=2*ZFS+ZMM//(ZVM+ZFV)≒2*ZFS
となる。これにより明らかなように、広がり抵抗の影響でZFSが数倍に増幅されるため、ここでは、ZFSによる情報が支配的となる。
【0070】
広がり抵抗の影響を小さくするには、電流印加電極と電圧計測電極の間の距離を大きくする必要がある。例えば、I−V電極間距離を10cm程度確保して配置した場合の電位差計測インピーダンスΣZ2は、
ΣZ2≒2*ZFS+ZMM//(ZVM+ZFV)
である。明らかなように、I−V電極間距離を広げることによって、広がり抵抗の影響は多少小さくなっているが、この程度離しただけでは、まだZFSの情報が支配的である。
【0071】
この広がり抵抗の影響を詳細に検討するため、図6に示すように、電極43’、44’b、44b、43におけるI−V電極間及びV−V電極間相互の距離が各々1/3程度になるよう10cm程度確保して配置した場合を考える。ただし、電極44’a、44aは、前記I−V電極間距離がほとんど無い近接配置とする。この場合の電位差計測インピーダンスΣZ3は、
ΣZ3≒2*ZFS+ZMM//(ZVM+ZFV)である。
このとき電極間で計測される電位差(電圧降下)の関係は、おおよそ次のようになる。
V1=I*ZMM//(ZVM+ZFV)
V2=V3=I*2*ZFS
V1:(V2+V3)≒1〜2:10〜20=S:N
上式におけるSの1〜2やNの10〜20のバラツキは、皮下脂肪組織層の厚みの個人差と骨格筋組織層の発達具合によるものである。この結果からも分かるように、たとえ電極間距離を調節しても、十分なS/Nが確保できるとは言いがたい。
【0072】
また、ほとんどの電流は骨格筋組織層で支配的に通電されるため、内臓器組織と内臓脂肪組織の複合組織層への通電感度を十分に確保することはできない。即ち、骨格筋組織層に流れる電流をI1、測定対象である内臓器組織と内臓脂肪組織に流れる電流をI2とすれば、
V1=I*ZMM//(ZVM+ZFV)=I1*ZMM=I2*(ZVM+ZFV)
I=I1+I2
となり、よって、
ZMM:(ZVM+ZFV)=I2:I1≒1:2〜5
となる。これより明らかなように、たとえ広がり抵抗の影響を排除できたとしても、骨格筋組織層に流れる電流は内臓器組織と内臓脂肪組織に流れる電流の2〜5倍にも及ぶため、この結果、S/N特性は更に悪くなる。このように、体幹部のような太短い測定部位においては、たとえ電極間距離を調整しても、電流電極間距離で上限が決まってしまうことから、S/N特性の改善には限界がある。
【0073】
図7に、図2と同様の方法で、本発明による電極配置方法の一例を示す。最適なS/N条件を確保するため、ここでは、骨格筋組織層より内側の内臓器組織及び内臓脂肪組織における電流印加電極43’、43からの電流通電量を増やし、測定対象組織への計測感度を確保する。更に言えば、皮下脂肪組織層の薄い部位、及び、骨格筋組織層の筋腹部が無い又は薄い部位、換言すれば、皮下脂肪組織層のインピーダンス(ZFS)が小さい骨格筋組織層へのリークの少ない部位から電流を印加することによって、広がり抵抗の影響を最小限にとどめ、内臓器組織や内臓脂肪組織への通電感度を改善する。広がり抵抗の影響を少なくするため、電圧計測電極44’、44による電位差の測定も、電流印加電極43’、43から十分距離を離して配置するとともに、皮下脂肪組織層による影響が少ない皮下脂肪組織層の薄い部位、及び、骨格筋組織層の筋腹部が無い又は薄い部位、換言すれば、皮下脂肪組織層のインピーダンス(ZFS)が小さい骨格筋組織層へのリークの少ない部位で行うのが好ましい。尚、腹囲周横断面積を測定基準とする場合、電流印加電極43’、43から電流を印加する部位は、皮下脂肪組織層が最も薄く沈着する部位、または、導電性の良い骨格筋組織層の筋腹部が無いまたは薄い骨格筋結合領域である、例えば、腱部(腱画,腱膜等)45、更に具体的に言えば、臍と腸骨稜上縁間の区間、腹直筋と外腹斜筋間の結合腱部(腱膜部)となる。
【0074】
更に、最適なS/N条件を確保するため、本発明では、四電極の全てを腹囲周上に揃わせることはせず、少なくとも一つの電極を腹囲周上からずらした位置に配置する。臍囲周から離した配置を取ることで、最善の距離条件を確保することができ、また、皮下脂肪組織層のインピ−ダンス(ZFS)を本来の四電極法の計測として、分離除去することができる。
【0075】
このような配置方法として、例えば、電流印加電極対は腹(臍)囲周上に配置し、電圧計測電極のみを対としてまたは対を形成する電極のうちの一方を周上から外れた位置に配置する方法が考えられる。また、電流印加電極対のうちの一方を周上に配置し、他方を周上から外れた位置に配置してもよい。尚、電流印加電極対、或いは、電圧計測電極対は、被験者の臍Aを中心として見た場合の左右の上記部位間、つまり、皮下脂肪組織層の薄い部位、及び、骨格筋組織層の筋腹部が無い又は薄い部位に配置してもよい。但し、電圧計測電極は、例えば、腹(臍)囲周上から外れた腹部領域内の体幹部長手方向とする。
【0076】
次に、前述した測定原理に基づいた、本発明の好適な一つの実施形態による腹囲長測定装置及び腹囲長測定機能を備えた体幹部脂肪測定装置を説明する。
【0077】
図8のa)、b)に、本装置の一部を構成する装置部の表面側と装置裏面側の外観斜視図をそれぞれ示し、図9に、図8に示した装置部を2つ1組として構成され得る本装置の外観斜視図を示す。尚、明細書及び図面を通じて、「R」及び「L」のアルファベット文字は、それぞれ、右側及び左側を意味し、左右の関係が問題になる場合にのみそれらを付している。特にそれらを付していない場合は、R、L双方の構成を説明しているものと考えてよい。
【0078】
図8、図9から明らかなように、本装置は、互いに分離可能な状態で設けた2つ一組の装置部10R、10Lから成る。各装置部10は、ハンディタイプとして適当な大きさとされており、各装置部それぞれが左手若しくは右手に把持して使用される(後述する図15によく示されている)。
【0079】
各装置部10は全体として略矩形である。各装置部10の上面には、操作部71及び表示部72を有する操作表示パネル70が設けてある。操作部71は、身長、体重を含む身体特定化情報の入力等に使用され、表示部72は、各種結果、アドバイス情報等を表示するために使用される。図示のように、操作部71と表示部72を別体で設けてもよいが、これらを一体とし、タッチパネル式の液晶表示器として形成してもよい。更に、これらに加えて、装置部の各種状態を被験者に知らせるため、報知器ブザー62を設けてもよい。
【0080】
各装置部10の一方の側面に、指接触用電極部(グリップ溝部)11が、更に、各装置部の底面に、体幹腹部用電極、即ち、体幹腹部接触用平板電極部13と体幹腹部接触用ローラー電極部15が、それぞれ設けてある。
【0081】
被験者は、指接触用電極部11に左手や右手の指を突っ込んだ状態で、その掌付近で装置部10を確実に把持することができるとともに、指接触用電極部11に自身の手指を電気的に確実に接触させることができる。後述するように、これらの電気的な接触は、内臓脂肪組織の測定において重要な意味を持つ。尚、指接触用電極部11は、このような位置に限らず、指若しくはその近傍と接触し得る位置に設けられていれば十分である。
【0082】
一方、ローラー電極部15、或いは、その近傍、例えば、ローラー22と同一平面上に設けた平板電極部13は、各装置部10を把持した状態で、被験者の腹部(特に腱部)に電気的に接触させて使用する。後述するように、これらの接触もまた、内臓脂肪組織の測定において重要な意味を持つ。尚、ローラー電極部15や平板電極部13は、これら位置に限らず、腹部に押し当てて使用するのに適当な位置に設けられていれば十分である。
【0083】
特に、ローラー電極部15は、腹囲長を測定するために利用することもできる。腹囲長を測定するため、ローラー電極部15には、被験者の腹囲周上を転がすことができるローラー22が設けてある。ローラー22と被験者との接触がスムーズに行われるように、ローラー22を支持する底面側壁23は滑らかな曲線を描くように形成されている。
【0084】
各装置部10R、10Lは、このように、腹囲長を測定するための機構を有するとともに、一対の電極、即ち、指接触用電極部11と平板電極部13の組み合わせ、或いは、指接触用電極部11とローラー電極部15の組み合わせを装備する。
【0085】
内臓脂肪組織の測定において、これらの各装置部10R、10Lは、切替機構を用いて、一方は電流印加電極及び通電装置部として、他方は、電圧計測電極及び測定装置部として、それぞれ選択的に設定され得る。いずれも、電流印加電極として使用できるし、電圧計測電極として使用することもできる。
【0086】
各装置部10R、10Lの尾部16R、16L及び前部16’R、16’Lに、それぞれ、それら尾部同士、又は、前部同士を吸着させるための、組合型マグネット部と金属切片部が設けてある。更に、装置部10Rと装置部10Lの間で電気的な通信を行うための通信部も設けてある。図10、図11は、特に、尾部の斜視図と上面図をそれぞれ透過的に示したものである。前部(16’R、16’L)については、特に図示していないが、図10、図11に示す構成と同様の構成を有するものと考えてよい。
【0087】
組合型マグネット部には、吸着鉄切片17、18と、これらの間に挟持されたマグネット切片19が含まれる。一方、金属切片部には、組合型マグネット部によって吸着され得る被吸着鉄切片20が含まれる。通信部には、相手装置部へ光信号を発する近赤外受光素子24と、相手装置部から光信号を受ける近赤外発光素子25が含まれる。
【0088】
各装置部の尾部16R、16Lが近接して対向配置されたとき、被吸着鉄切片20R(20L)は、マグネット切片19L(19R)による磁石の吸着力により、図示矢印ア方向にて吸着鉄切片17L(17R)及び吸着鉄切片18L(18R)に吸着される。この結果、両装置部間の尾部16R、16L同士(或いは、前部16’R、16’L同士)は、互いに安定的に吸着される。更に、この吸着力により尾部16R、16L(或いは、前部16’R、16’L)間の電気的接触状態を確保することで、両装置部10R、10Lが吸着していることを確実に検出することができる。電気的接触状態の有無は、吸着鉄切片17、18に通電電極21(図11参照)によって通電させることにより簡単に検知することができる。また、両装置部間の安定吸着状態の判断は、自動的に接触情報から判断されてもよいし、操作スイッチを手動で操作して判断操作がなされてもよい。
【0089】
安定吸着状態とした後、両装置部間で光通信を実施することができる。この光通信機能を利用して、装置部10Rと装置部10Lはそれらの間で互換性を持ち、自動的にマスター/スレーブの関係を確保する。ここでは、情報管理のために、煩雑な操作を必要としない。尚、被験者の体格によっては、両装置部が尾部或いは前部間において離れてしまうことも考えられるが、そのような場合であっても、光通信により情報伝達を行うことができる。上述したように、これら両装置部10R、10Lは同様の構成を有することから、いずれの装置部をマスターとして、或いは、スレーブとして使用してもよい。被験者の初期操作により、或いは、自動的に、左右装置部間の役割機能を設定できる。これらの装置部間では、それらの間で自動的にデータ交信がなされるため、二台を別々に操作する必要がない。一方の装置部においてのみ、データ入力や操作を実行すれば十分である。
【0090】
図12に、腹囲長測定機能を備えた体幹部脂肪測定装置部全体の概略機能ブロック図を示す。更に、図13に、図12に含まれるブロックのうち、腹囲長測定のための機能ブロックのみを示す。
【0091】
図12に示すように、各装置部には、腹囲長の測定に用いられる腹囲長測定部82と、内臓脂肪組織の測定に用いられるインピーダンス測定部83が含まれる。腹囲長測定部82には、操作部71、表示部72、報知器ブザー62を含む操作表示パネル70や、尾部16、前部16’に加え、更に、ローラー22の回転数や回転角度を計測するための角度センサR(θ)28、R(θ)/D変換器29や、近赤外受光素子24、24’、近赤外発光素子25、25’、演算・制御部61との間の通信を制御する通信制御部30、30’、及び尾部間や前部間の接触(ショート)状態を確認するための接点信号検出部31、31’が含まれる。
【0092】
演算・制御部61には、電源部68や記憶部60が接続されていてもよい。電源部68は、本装置部の電気系統各部に電力を供給し、記憶部60は、身長、体重、性別、年齢、体幹部長等の身体特定化情報や、前記の式1から式15等を記憶する他、後述するような健康指針アドバイスのための適当なメッセージ等も記憶する。演算・制御部61は、記憶部60に記憶されたデータや、操作部71、表示部72を通じて入力された身体特定化情報、計測したインピーダンス、上述した各式に基づいて、体幹部骨格筋組織横断面積量、体幹部骨格筋組織層インピーダンス、内臓脂肪組織インピーダンス、内臓脂肪組織量、内臓器組織量、内臓器組織インピーダンス、皮下脂肪組織量、皮下脂肪組織層インピーダンス、体幹部内臓脂肪/皮下脂肪比等を演算したり、呼吸による変動の影響除去処理や、内臓器組織異常判定等の処理を行ったり、その他、各種の入出力、測定、演算等を行う。
【0093】
インピーダンス測定部83は、2つの電極対、つまり、指接触用電極部11と平板電極部13、或いは、指接触用電極部11とローラー電極部15を有する。このインピーダンス測定部83における切替に応答して、装置部10R、10Lは、電圧計測電極装置として或いは電流印加電極装置として選択的に機能し得る。更に言えば、これら2つの電極対は、ある1つの使用状態においては、電圧計測電極対としてのみ、若しくは、電流印加電極対としてのみ機能することとされており、また、一方の装置部(例えば、装置部10R)における電極が、電流印加電極対として機能するときは、他方の装置部(例えば、装置部10L)における電極は、電圧計測電極対として機能することとされている。これらの機能設定は、演算・制御部61からの指示により、電極選択部80によって実行される。例えば、電流印加電極装置として使用される場合、電流源52で生じた電流は、電極選択部80を介して、指接触用電極部11と平板電極部13から、又は、指接触用電極部11とローラー電極部15から、被験者に印加され、一方、電圧計測電極として使用される場合、演算・制御部61からの指示により、指接触用電極部11と平板電極部13を用いて、又は、指接触用電極部11とローラー電極部15を用いて、電極選択部80を介して、被験者における電圧を測定する。測定した電圧は、差動増幅器63、66によって増幅し、バンドパスフィルタ64によってフィルタリングし、また、検波部65によって検波し、更に、A/D変換器67によってデジタル変換する等して、適当なデータに処理される。
【0094】
尚、図面からは明らかでないが、各電極11、平板電極部13、ローラー電極部15は、SUS材及び樹脂材表面を金属めっき処理等して実現してもよい。このタイプの電極は、金属電極表面に、保水性高分子膜をコ−ティングすることで、測定前に水分をふきつけるか、水にぬらして使用する。水にぬらすことにより、皮膚との電気的接触の安定性を確保することができる。また、特に図示しないが、粘着性貼り付けタイプの電極を用いることもできる。これは交換可能な粘着パッドを各電極のベ−ス電極面に貼り付けて皮膚との接触安定性を確保するタイプのものである。このタイプは、例えば、低周波治療器や心電図電極等でよく用いられており、測定後に取り外して廃棄するようなディスポ形態と、パッド表面が汚れて密着性が低下したり水分が蒸発した場合にのみ廃棄交換し、廃棄するまでの間はカバ−シ−ト等で保管する形態がある。また、これら電極は、長期保管や水分補給及び汚れ落し等に対応するため、脱着可能な構造とされてもよい。脱着構造は、心電図電極などで多用されているホック式や、フレキ基板用のコネクタ等が考えられる。
【0095】
図14を参照して、本装置部を用いた腹囲長の測定方法について説明する。本装置部によれば、体幹腹部内組織等の測定に重要な腹囲長(腹囲周長)を簡単に測定できる。更に言えば、従来のメジャーを用いて測定する場合のように、測定メモリを自分で読む必要がなく、また、メジャーを途中で持ち替えてねじれを直すといった煩雑さが存在しない。
【0096】
腹囲長を測定するにあたり、被験者は、装置部10R、10Lを、互いに分離させた状態で且つ互いに反対方向に、自身の腹囲周上に沿って移動させるだけでよい。腹囲長を測定する際の装置部10R、10Lの位置関係は、例えば、図9に示すようなものである。測定操作の一例を説明する。先ず、各装置部10R、10Lを左右独立に手で握り、背中側にて、装置部10Rの尾部16Rと装置部10Lの尾部16Lとを接触させて測定初期状態とする。測定の開始は、尾部16R、16Lにおける通電電極21の作用によって自動的に判定できる。その後、各装置部10R、10Lを、被験者の背中側において分離させ、それぞれ、右脇腹周り方向と左脇腹周り方向に互いに反対方向に、背中から臍までの腹囲長の左右半分ずつ、例えば腹部表面を腹囲周に沿って移動させ、再び、お腹側の腹部前面の臍部Aで前部16’R、16’Lを接触(合体)させて測定を完了する。尚、測定の終了は、測定の開始と同様に、装置部の前部における通電電極21の作用によって自動的に判定することができる。この動作に伴う各装置部10R、10Lの移動距離は、例えば、各装置部10R、10Lの裏面に設けたローラー電極部15のローラー22R、22Lの回転量から求めることができる。腹囲長は、各装置部10R、10Lで求めた移動距離を合算することによって容易に求めることができる。
【0097】
このように、腹囲長の測定に関連した装置部10R、10L間における通信は、背中側で、装置部の尾部16Rと装置部の尾部16Lを接触させたときに開始される。その後、各装置部10R、10Lが腹囲周上を半周し、前部16’R、16’L同士で接触され、測定完了となった後に、相互に処理タイミング及び測定情報の交信が実施される。尚、通信開始時から測定完了時までの間は、ローラー22の回転による実測値以外の影響を排除するため、ローラー位置補正処理等が実施される。
【0098】
次に、図15乃至図17を参照して、本装置部を用いた内臓脂肪組織の測定について説明する。ここで、図15は、本装置部を内臓脂肪組織の測定に用いる際の、その使用状態の一態様を示す概略図であり、図16は、内臓脂肪組織を測定する際の電流印加電極と電流印加電極に関連する電流の流れを模式的に示した図である。図17は、本装置部における電流印加電極と電圧計測電極間で電極切替を行うための切替回路の一例を示す図である。
【0099】
腹囲長を測定した後、本装置部10R、10Lは、自動的に、或いは、操作部71等を操作することにより、内臓脂肪組織を測定するための電極として使用することができる。この場合は、図15に示すように、装置部10R、10Lの指接触用電極部11に、例えば指等の腕の一部を接触させた状態で、装置部10R、10Lの平板電極部13又はローラー電極部15を、体幹腹部の臍位にて被験者の腱部(腱画、腱膜等)に押し当てるように使用する。
【0100】
電極をこのような状態で人体に接触させたとき、図16に示すように、左右各々側の腕−腹部腱部間に、一方の装置部で電流を印加し、他方の装置部で電位差を計測するように設定され、この結果、内臓脂肪組織推定の情報を仮想電極位置Bからに見たてて計測することができる。例えば、装置部10Rの指接触用電極部11Rと平板電極部13R又はローラー電極部15Rとの間に所定の電流を流し、この電流によって体幹部、特に、内臓脂肪組織推定に必要な電位差を、装置部10Lの指接触用電極部11L(仮想電極位置Bに相当)と平板電極部13L又は体幹腹部接触用ローラー電極部15Lとの間で測定し、それらの間のインピーダンスを計算することができる。計算されたインピーダンスを元に、記憶部60内のデータ等を利用して内臓脂肪組織を測定することができる。
【0101】
尚、装置部10Rと10Lの間に互換性を持たせる折は、電流印加と電圧計測を交互に実施させればよい。例えば、図17に示すように、インピーダンス測定部83の内部回路として設けた双極スイッチ機構81で選択的に切替て用いることができるものとする。これらスイッチの設定状態等に関する情報は、各装置部の近赤外受光素子24、近赤外発光素子25を通じて共有され、一方が電圧計測電極として機能する場合は、他方は電流印加電極として機能する。尚、電流印加機能か電圧計測機能かの個々装置部の認識手段は、腹囲周長測定時に用いた、通信手段を用いて両装置部の役割を設定して測定を実施してもよい。
【0102】
次に、図18に示す基本フローチャートと図19から図25に示すサブルーチンフローチャートを参照して、図8および図9に示す本発明の実施例での内臓脂肪測定装置部の操作および動作について説明する。
【0103】
図18に示す基本フローチャートにおいては、先ず、操作部71において電源スイッチがオンされ、電源部68から電気系統各部に電力が供給される(ステップS1)。
【0104】
次いで、表示部72の表示を参照しながら操作部71を操作等することにより、身長等を含む身体特定化情報(身長、体重、性別、年齢等)が入力される(ステップS2)。但し、この入力は、装置部10のいずれか一方、即ち、マスター側に対してのみ行えばよい。他方の装置部、即ち、スレーブ側については、マスター側との間の通信によって情報を伝達することができる、つまり、直接入力したのと同様の状態とすることができる。
【0105】
続いて、ユーザ(被験者)は、操作部71を操作等することにより、身長、体重、性別、年齢等を入力する(ステップS3)。この場合において、体重については、操作部71から入力してもよいが、装置部10に導線を介して接続できる体重測定装置部(図示されていない)により測定したデータを自動的に入力して、演算・制御部61により身体目方特定情報(体重)を演算するようにしてもよい。これら入力値は、記憶部60に記憶される。
【0106】
ステップS3では、体幹部長、腹囲長等の形態計測実測値を入力するか否かの判断を行う。それら形態計測実測値を入力する場合には、ステップS4にて、形態計測を実施して、体幹部長、腹囲長等の実測値を操作部71から入力し、ステップS5へ移行する。ステップS5では、例えば、装置部の尾部同士を接触させて、通信処理を開始する。更に言えば、マスター側或いはスレーブ側としての認識を各装置部に設定するとともに、マスター側において入力された入力情報やマスター側における設定をスレーブ側へ伝送させる。
【0107】
ステップS3において、形態計測実測値を入力しないと判断する場合には、ステップS6に移行する。ステップ6において、装置部が腹囲長を測定できる状態とされるまで待ち、測定可能な状態となったら、ステップS7に進み、腹囲長(Lw)を測定する。この処理については、図25を参照して後に説明する。
【0108】
ステップS7において、腹囲長を測定して記憶部60に記憶させた後、ステップS8において、演算・制御部61は、記憶部60に記憶された腹囲長、身長、体重、性別、年齢等の身体特定化情報から、体幹部長、腹囲長等を推定する形態計測情報推定処理(例えば、人間身体情報データベースから作成する検量線使用)を行う。
【0109】
続いて、ステップS9において、インピーダンス測定部83により、体幹部インピーダンス計測処理を行う。この体幹部インピーダンス計測処理については、図22等に示すサブルーチンフローチャートを参照して後述する。
【0110】
次に、ステップS10において、演算・制御部61により、体幹部骨格筋組織横断面積量(AMM)の推定処理を行う。この演算処理は、例えば、記憶部60に記憶された身長H、体重W、年齢Ageを用いて、前述の式3に基づいて行われる。
【0111】
次に、ステップS11において、演算・制御部61により、体幹部骨格筋組織層インピーダンス(ZMM)の推定処理を行う。このZMMは、記憶部60に記憶された身長Hと、ステップS7で求めたAMMとを用いて、前述の式4に基づいて行われる。
【0112】
次に、ステップS12において、演算・制御部61により、皮下脂肪組織量(AFS)の推定処理を行うものである。このステップS12については、図19に示すサブルーチンフローチャートを参照して後で詳述する。
【0113】
ステップS13は、演算・制御部61により、内臓器組織量(AVM)および内臓器組織インピーダンス(ZVM)の推定処理を行うものである。このステップS13については、図20に示すサブルーチンフローチャートを参照して後で詳述する。
【0114】
ステップS14は、演算・制御部61により、内臓脂肪組織インピーダンス(ZFV)および内臓脂肪組織量(AFV)の推定処理を行うものである。このステップS14については、図21示すサブルーチンフローチャートを参照して後で詳述する。
【0115】
次に、ステップS15において、演算・制御部61により、内臓脂肪/皮下脂肪比(V/S)の演算処理を行う。この処理は、記憶部60に記憶された前述した式15に従って行われる。
【0116】
次に、ステップS16において、演算・制御部61により、体格指数(BMI)の演算処理を行う。この演算処理は、記憶部60に記憶された体重Wと身長Hから次の式にて算出され得る。
BMI=W/H2
【0117】
更に、ステップS17において、演算・制御部61により、体幹部体脂肪率(%Fatt)の演算処理を行う。この演算処理は、記憶部60に記憶された皮下脂肪組織量(AFS)、内臓脂肪組織量(AFV)、体幹部骨格筋横断面積量(AMM)、及び、内臓器組織量(AVM)から次の式にて算出されるものである。
%Fatt=(AFS+AFV)/[(AFS+AFV)+AMM+AVM]*100
【0118】
次に、ステップS18において、演算・制御部61により、内臓脂肪率(%VFat)の演算処理が行われる。この処理は、前述の演算処理により算出され記憶部60に記憶された体幹部体脂肪率(%Fatt)、内臓脂肪/皮下脂肪比(V/S)から次の式にて行われる。
%VFat=%Fatt*(V/S)/[(V/S)+1]
【0119】
次に、ステップS19において、マスター側での演算結果をスレーブ側へ光信号等を利用して伝送する。
【0120】
最後に、ステップS20において、演算・制御部61は、前述したような演算処理にて求められた内臓脂肪組織情報(AFV、%VFat)、体組成情報(%Fatt、AMM、AFS、AVM)、体格指数(BMI)や、後述する処理によって得られるアドバイス指針等を、表示部72に表示させるような表示処理を行う。これにより、一連の処理を終了する(終了)。
【0121】
次に、前述のステップS12の皮下脂肪組織量(AFS)の推定処理について、図19のサブルーチンフローチャートを参照して詳述する。この推定処理は、ステップS21にて、記憶部60に記憶された諸数値および前述の式13、14を用いて行われる。
【0122】
次に、前述のステップS13の内臓器組織量(AVM)および内臓器組織インピーダンス(ZVM)の推定処理について、図20のサブルーチンフローチャートを参照して詳述する。この推定処理は、ステップS13において、記憶部60に記憶された諸数値および前述の式11を用いて内臓器組織量(AVM)を算出し、ステップS23において、記憶部60に記憶された諸数値および前述の式12を用いて実行される。
【0123】
次に、前述のステップS14の内臓脂肪組織インピーダンス(ZFV)および内臓脂肪組織量(AFV)の推定処理について、図21のサブルーチンフローチャートを参照して詳述する。この推定処理は、ステップS24において、記憶部60に記憶された諸数値および前述の式7を用いて内臓脂肪組織インピーダンス(ZFV)を算出し、ステップS25おいて、記憶部60に記憶された身長Hおよび算出した内臓脂肪組織インピーダンス(ZFV)および前述の式10を用いて内臓脂肪組織量(AFV)を算出するものである。
【0124】
次に、ステップS9の体幹部インピーダンス計測処理について、第一の実施形態を示す図22のサブルーチンフローチャートを参照して詳述する。この第一形態においては、前項7.(12)および(13)において説明したような「呼吸による変動の影響除去処理」および「飲食および膀胱等への水分貯留(尿等)による異常値判定処理」を行うものである。
【0125】
先ず、ステップS26において、装置部の初期設定を行う。具体的には、各装置部10のカウンターXを0に設定し(X←0)、また、マスター側とスレーブ側の設定状態を確認する。
【0126】
次いで、ステップS27において、体幹部インピーダンス(Ztm)を測定するための電極配置を設定する。例えば、スレーブ側については、電流印加電極として設定するとともに、電流の印加処理を開始させ、マスター側については、電圧計測電極として設定するとともに、電流によって生じた電位差を測定して、体幹部のインピーダンスを計測する。
【0127】
次いで、ステップS28において、演算・制御部61は、操作部71等からの指示に基づいて、カウンター等の初期設定体幹部のインピーダンスZtmの測定データのサンプル数及びフラグFの初期設定を行う。Fは、”1”、”0”のフラグである。
【0128】
続いて、ステップS28において、演算・制御部61は、測定タイミングか否かの判定を行う。そして、測定タイミングと判定された場合には、ステップS29にて、演算・制御部61は、体幹部インピーダンス(Ztmx)計測処理を行い、更に、ステップS30にて、カウンターXの値を1インクリメントする(X←X+1)。
【0129】
一方、ステップS28において測定タイミングでないと判定された場合には、ステップS31に移行して、計測インピーダンス(Zx)データスムージング処理(移動平均処理等)を行う。それから、ステップ27において、体幹部インピーダンス計測データ呼吸変動補正処理を行う。この補正処理については、図23のサブルーチンフローチャートを参照して後述する。
【0130】
続いて、ステップS33にて、演算・制御部61は、各部位毎の計測インピーダンスの時系列安定性確認処理を行う。これは、ステップS32の体幹部インピーダンス計測データ呼吸変動補正処理後の各値が所定回数所定変動以内の値に収束したかどうかを判定することによって行われる。ステップS34において、演算・制御部61は、測定したZtmxが安定条件を満足するか否かの判定を行う。この判定は、呼吸周期毎の呼吸の中央値が規定回数規定以内の安定域に入った時点で、呼吸中央値確定と判断するようなものである。このステップS34にて、安定条件が満足されたと判定される場合には、ステップS35に移行して、確定した中央値のインピーダンス値を体幹部のインピーダンス値として、最終安定条件判定値を測定値結果値として記憶部60に登録する。一方、ステップS34において、安定条件が満足されないと判定される場合には、ステップS28に戻って同様の処理が繰り返される。
【0131】
ステップS35に続いて、ステップS36において、演算・制御部61は、飲食および膀胱尿貯留等による異常値判定処理を行い、更に、ステップS37において、測定の完了を報知器ブザー62(図2参照)等を用いてブザー等で報知し、測定を完了する。尚、ステップ36の異常値判定処理については、図24のサブルーチンフローチャートを参照して後述する。
【0132】
次に、ステップS32の体幹部インピーダンス計測データ呼吸変動補正処理について、図23のサブルーチンフローチャートを参照して、詳述する。先ず、ステップS38において、演算・制御部61は、ステップS32にて処理後の時系列データから変極点検知処理を行う。ステップS39において、変極点か否かの判定を行う。これは、前後の微係数または差分値の極性変化位置のデータを検知することにより行われる。ステップS34にて変極点であると判定される場合には、ステップS40に進み、最大値か否かの判定がなされる。これは、最大値と最小値の振り分けを行うステップである。最大値でない場合には、ステップS41にて、記憶部60に記憶された次の式にて最小値判定データ移動平均化処理が行われる。
[Ztm]minx←([Ztm]minx-1+[Ztm]minx)/2
【0133】
ステップS40において最大値と判定される場合には、ステップS42において、記憶部60に記憶された次の式にて最大値判定データ移動平均化処理が行われる。
[Ztm]maxx←([Ztm]maxx-1+[Ztm]maxx)/2
【0134】
続いて、ステップS43において、一呼吸周期分の最大値と最小値データが確保されたかの判定がなされる。ステップS43において、そのデータが確保されたと判定された場合には、ステップS44にて、記憶部60に記憶された次の式にて呼吸変動中央値演算処理(最大値と最小値データの平均値演算)がなされる。
Ztmx←([Ztm]maxx+[Ztm]minx)/2
【0135】
次に、ステップS36の飲食および膀胱尿貯留等による異常値判定処理について、図24のサブルーチンフローチャートを参照して、詳述する。先ず、ステップS45において、演算・制御部61は、記憶部60に記憶された次の式にて、体幹部インピーダンス(Ztm)が正常許容範囲内かのチェックを行う。
Mean−3SD≦Ztm≦Mean+3SD
ここで、許容値例としては、26.7±4.8(Mean±SD)に対して、±3SDが考えられる。
【0136】
ステップS46において、体幹部インピーダンスが許容範囲内かの判定がなされる。許容範囲内でないと判定される場合には、ステップS47に移行して、演算・制御部61にて、体幹部(腹部)コンディション異常に関するメッセージ報知処理がなされ、表示部72に適切なアドバイスの表示等がなされる。このアドバイスとしては、例えば、「体幹部コンディション異常につき、排便、排尿等の準備処理を実施」等の報知が考えられる。また、準備処理後も同様の判定結果となる場合は、異常値を用いて測定を完了させ、測定の中止はしないようにすることもできる。
【0137】
ステップS46において許容範囲内で判定される場合には、ステップS48において、演算・制御部61は、体幹部(腹部)コンディション正常に関するメッセージ報知処理がなされ、表示部72に適切なアドバイスの表示等がなされる。このアドバイスとしては、例えば、「体幹部コンディション正常」等の報知が考えられる。
【0138】
次に、ステップS37の腹囲長測定処理について、図25のサブルーチンフローチャートを参照して、詳述する。
【0139】
ステップS49において、腹囲長の測定準備を開始する。具体的には、体幹臍位背部の背骨部を基準目安位置として、装置部の尾部同士を接触させ、これにより、それらの尾部を電気的にショート状態とし、この電気的接点信号ショートによって両装置部の接触状態を確認して通信処理の実行を開始する。この通信処理により、マスター側或いはスレーブ側としての認識を各装置部に設定するとともに、マスター側において入力された入力情報やマスター側における設定をスレーブ側へ伝送することができる。
【0140】
次いで、ステップS50において、測定準備が完了したことを確認した後、ステップS51において、測定タイミングに達したか否かを判断する。
【0141】
ステップ51において、測定タイミングに達したと判断したとき、例えば、マスター側或いはスレーブ側のいずれか一方、或いは、それらの双方の装置部において、通電電極の動作を通じて吸着状態が解除されたと判断されたとき、各装置部において測定を開始する(ステップS52)。この測定には、例えば、ローラーの回転数の計測や回転角度(R(θx))の計測が含まれる。ステップ52の処理を行ったときは、ステップS53において、カウンターXの値は1だけインクリメントされる(X←X+1)。
【0142】
ステップ51において、測定タイミングに達していないと判断した場合、ステップS54において、距離情報の算出処理を行う。これは、R(θx)の関数計算により求めることができる、即ち、Lx=f(R(θx)。更に、ステップS55において、算出された距離情報Lxを表示部に表示する。
【0143】
次いでステップS56において、測定が完了したか否かの判定を行う。この判定は、装置部の前部同士が接触したか否かを判断することによって行う。前部同士の接触状態は、例えば、通電電極の作用を通じて、それらが接触することによって生じる電気的設定信号を検知することによって確認できる。
【0144】
ステップS57において、測定が未だ完了していないと判断した場合は、ステップS51に戻って、ステップS51乃至53の処理を繰り返す。
【0145】
一方、ステップS57において、測定が完了したと判断した場合には、ステップS58に進む。ステップS58では、最終的に測定された測定距離情報が記憶部60に記憶される。
【0146】
次いで、ステップS59において、装置部間における通信処理を行う。この通信処理により、スレーブ側の測定結果がマスター側へ伝送され得る。マスター側の装置部は、この測定結果に基づいて、ステップS60において腹囲長の演算処理を行う。簡単に言えば、マスター側において、記憶部60に記憶された測定距離情報が足し合わされ、腹囲長が算出される。
【0147】
マスター側で得られた測定結果は、その後、スレーブ側へ伝送されてもよい(ステップS61)。この測定結果は、マスター側或いはスレーブ側のいずれかの、例えば表示部72等に表示されてもよく(ステップS62)、更に、測定の完了を報知器ブザー62(図2参照)等を用いてブザー等で報知して(ステップS63)、測定を完了するようにしてもよい。
【0148】
このような操作および動作にて、本発明によれば、体幹部(体幹部腹部)の内臓脂肪組織情報を求めることができ、しかも、呼吸による変動の影響除去処理や飲食および膀胱等への水分貯留(尿等)による異常判定処理を行い、それに応じたアドバイス情報も提供できる。なお、前述の実施例では、体幹部内臓脂肪組織情報を脂肪率として求めるものとしたが、本発明は、これに限らず、適当な変換式等を用いることにより、横断面積量や、体積量や重量等として求めることができるものである。
【0149】
また、前述の実施例では、皮下脂肪組織量[AFS]は、演算・制御部において、腹囲長測定部82により測定した腹囲長[Lw]と操作部71から入力した身体特定化情報[H、W、Age]とを記憶部60に記憶された式13、式14に代入することによって求めたが、図26に示すように、右側の体幹腹部接触用平板電極部13(体幹腹部接触用ローラー電極部15)直下の広がり抵抗の影響が支配的な位置に左側の体幹腹部接触用平板電極部13(体幹腹部接触用ローラー電極部15)を配置することによって皮下脂肪組織層インピーダンス[ZFS]を測定し、この測定した皮下脂肪組織層インピーダンス[ZFS]と腹囲長測定部82により測定した腹囲長[Lw]とを記憶部60に記憶された次の式に代入することによって求めることも実施可能である。
AFS=aa0×ZFS×Lw+bb0
ここで、aa0、bb0は、回帰係数で定数である。
【0150】
また、前述の実施例では、本装置は、被験者の腹囲に沿って第一装置部と第二装置部との各々に備わるローラーを動かし、これら各々のローラーの回転距離を測定し、それぞれの回転距離を合算することによって腹囲長を求めたが、これに限られない。本装置は、腹囲周上において分離(若しくは分割)(例えば、背中側において第一装置部と第二装置部とに分離)してから腹囲周上を反対方向(例えば、右脇腹周り方向と左脇腹周り方向と)に移動(腹部表面を移動)して合体(例えば、お腹側において第一装置部と第二装置部とを合体)するまでの各々の移動距離(例えば、第一装置部と第二装置部とのそれぞれの移動距離)を測定し、それぞれの移動距離を合算することによって腹囲長を求めるものであればよい。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】体幹部腹部の構造を模式的に示す図である。
【図2】図1に示した体幹部の模式図を臍高さにおける腹囲周横断面にてモデル化した図である。
【図3】図2のモデル図を電気的等価回路として表した図である。
【図4】図3の回路を簡略化して示したものである。
【図5】電極間距離と広がり抵抗の関係を説明する図である。
【図6】電極間距離と広がり抵抗の関係を説明する図である。
【図7】本発明による電極配置の一例を体幹部腹部の構造とともに模式的に示す図である。
【図8】本発明の一実施例による体幹部内臓脂肪測定装置部の表面側及び裏面側の外観斜視図をそれぞれ示す図である。
【図9】本装置の外観斜視図である。
【図10】各装置部の尾部又は前部の斜視図を透過的に示す図である。
【図11】各装置部の尾部又は前部の上面図を透過的に示す図である。
【図12】本発明の一実施例による体幹部内臓脂肪測定装置部全体の概略機能ブロック図である。
【図13】図12に含まれるブロックのうち腹囲長測定のための機能ブロックのみを示す図である。
【図14】本装置部を用いた腹囲長の測定方法を説明する図である。
【図15】本装置部を内臓脂肪の測定に用いる際の、その使用状態の一態様を示す概略図である。
【図16】内臓脂肪組織を測定する際の電流印加電極と電流印加電極に関連する電流の流れを模式的に示す図である。
【図17】本装置部における電流印加電極と電圧計測電極間で電極切替を行うための切替回路の一例を示す図である。
【図18】本発明の一実施例による体幹部内臓脂肪測定装置部による内臓脂肪測定用の基本フローチャートを示す図である。
【図19】図18の基本フローのサブルーチンとしての皮下脂肪組織量の推定処理フローを示す図である。
【図20】図18の基本フローのサブルーチンとしての内臓器組織量および内臓器組織インピーダンスの推定処理フローを示す図である。
【図21】図18の基本フローのサブルーチンとしての内臓脂肪組織インピーダンスおよび内臓脂肪組織量の推定処理フローを示す図である。
【図22】図18の基本フローのサブルーチンとしての体幹部インピーダンス計測処理フローを示す図である。
【図23】図22の体幹部インピーダンス計測処理フローのサブルーチンとしての体幹部中部インピーダンス計測データ呼吸変動補正処理フローを示す図である。
【図24】図22の体幹部インピーダンス計測処理フローのサブルーチンとしての飲食および膀胱尿貯留等による異常値判定処理フローを示す図である。
【図25】図18の基本フローのサブルーチンとしての腹囲長測地処理フローを示す図である。
【図26】皮下脂肪組織量の測定原理を説明する図である。
【符号の説明】
【0152】
10 装置部
11 指接触用電極部(グリップ溝部)
13 体幹腹部接触用平板電極部
15 体幹腹部接触用ローラー電極部
16 尾部
16’ 前部
17 吸着鉄切片
18 吸着鉄切片
19 マグネット切片
20 被吸着鉄切片
21 通電電極
22 ローラー
23 底面側壁
24 近赤外受光素子
25 近赤外発光素子
27 近赤外等価フィルターカバー
28 角度センサR(θ)
29 R(θ)/D変換器
30 通信制御部
31 接点信号検出部
52 電流源
60 記憶部
61 演算・制御部
62 報知器ブザー
63 差動増幅器
64 BPF
65 検波部
66 増幅部
67 A/D変換部
68 電源部
70 操作表示パネル
71 操作部
72 表示部
80 電極選択部
81 スイッチ機構
82 腹囲長測定部
83 インピーダンス測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一装置部と第二装置部から成り、互いに分離された状態で腹囲周上を移動して、各装置部で測定された移動距離に基づいて腹囲長を求めることを特徴とする腹囲長測定装置。
【請求項2】
第一装置部と第二装置部から成り、互いに分離された状態で腹囲周上を移動して、各装置部で測定された移動距離に基づいて腹囲長を求める腹囲長測定部と、前記腹囲長測定部で求めた腹囲長に基づいて前記被験者の体幹部脂肪を測定する体幹部脂肪測定部とを備えた体幹部脂肪測定装置。
【請求項3】
前記第一装置部と前記第二装置部は、互いに分離された状態で前記腹囲周上を互いに反対方向に移動して、再び合体される請求項1又は2記載の装置。
【請求項4】
前記腹囲長は、前記第一装置部の移動距離と前記第二装置部の移動距離を合算して求める請求項1乃至3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
前記第一装置部と前記第二装置部はそれぞれ、ローラー部材を利用して前記腹囲周上を移動して移動距離を測定する請求項1乃至4のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
被験者の腹囲周上を転がして該腹囲長を測定するために利用することができるローラー部材と、被験者の体幹部におけるインピーダンスを測定するインピーダンス測定部と、を有し、前記測定された腹囲長と前記インピーダンスを利用して、前記被験者の体幹部脂肪を測定することを特徴とする、腹囲長測定機能を備えた体幹部脂肪測定装置。
【請求項7】
前記装置は2つ一組として使用される第一装置部と第二装置部から構成され、前記第一装置部及び前記第二装置部のそれぞれに前記ローラー部材と前記インピーダンス測定部が設けられている請求項6記載の装置。
【請求項8】
前記第一装置部及び前記第二装置部のローラー部材のそれぞれを被験者の腹囲周上で半周させることにより前記被験者の腹囲長を測定する請求項7記載の装置。
【請求項9】
前記第一装置部又は前記第二装置部のインピーダンス測定部は、それぞれ、電流印加電極対を備える電流印加電極装置として又は電圧計測電極対を備える電圧計測電極装置として選択的に機能し得る請求項7又は8記載の装置。
【請求項10】
前記第一装置部が前記電流印加電極装置として機能するとき、前記第二装置部は電圧計測電極装置として機能し、一方、前記第一装置部が前記電圧計測電極装置として機能するとき、前記第二装置部は電流印加電極装置として機能する請求項9記載の装置。
【請求項11】
前記第一装置部と前記第二装置部はハンディタイプである請求項7乃至10のいずれかに記載の装置。
【請求項12】
前記第一装置部又は前記第二装置部が前記電流印加電極装置として機能する際、該装置の電流印加電極対の一方の電極は、前記第一装置部又は前記第二装置部を把持する被験者の左手又は右手の指若しくはその近傍と接触し得る位置に設けられている請求項9乃至11のいずれかに記載の装置。
【請求項13】
前記第一装置部又は前記第二装置部が前記電流印加電極装置として機能する際、該装置の電流印加電極対の他方の電極は、前記第一装置部又は前記第二装置部を把持した状態で、前記被験者の皮下脂肪組織層が薄い部位、及び、骨格筋組織層の筋腹部が無いまたは薄い部位のうちの少なくともいずれか一方に押し当てて使用するのに適当な位置に設けられている請求項12記載の装置。
【請求項14】
前記第一装置部又は前記第二装置部が前記電圧計測電極装置として機能する際、該装置の電圧計測電極対の一方の電極は、前記第一装置部又は前記第二装置部を把持する被験者の左手又は右手の指若しくはその近傍と接触し得る位置に設けられている請求項9乃至13のいずれかに記載の装置。
【請求項15】
前記第一装置部又は前記第二装置部が前記電圧計測電極装置として機能する際、該装置の電圧計測電極対の他方の電極は、前記第一装置部又は前記第二装置部を把持した状態で、前記被験者の皮下脂肪組織層が薄い部位、及び、骨格筋組織層の筋腹部が無いまたは薄い部位のうちの少なくともいずれか一方に押し当てられるような位置に設けられている請求項14記載の装置。
【請求項16】
前記第一装置部又は前記第二装置部が前記電圧計測電極装置として機能する際、該装置の電圧計測電極対の他方の電極は、前記第一装置部又は前記第二装置部を把持した状態で、前記電流印加電極対の他方の電極直下の広がり抵抗の影響が支配的な位置となるように設けられている請求項14記載の装置。
【請求項17】
前記他方の電極は前記ローラー部材又はその近傍に設けられた電極である請求項13、15又は16に記載の装置。
【請求項18】
前記電圧計測電極対は、皮下脂肪組織層が薄い部位、または、骨格筋組織層の筋腹部が無いまたは薄い部位にて電位差を測定する請求項9乃至17のいずれかに記載の装置。
【請求項19】
前記第一装置部と前記第二装置部は、前記第一装置部又は前記第二装置部のいずれか一方又は双方において発生させた吸着力により前記第一装置部と前記第二装置部の尾部同士及び前部同士にて互いに吸着される請求項7乃至18のいずれかに記載の装置。
【請求項20】
前記吸着力は磁石による磁力である請求項19記載の装置。
【請求項21】
前記第一装置部と前記第二装置部は互いに吸着されたときに前記腹囲長の測定の開始及び/又は終了を認識する請求項7乃至20のいずれかに記載の装置。
【請求項22】
前記第一装置部と前記第二装置部はそれらの間で光通信可能である請求項7乃至21のいずれかに記載の装置。
【請求項23】
前記第一装置部と前記第二装置部は同じ構成を有する請求項7乃至22のいずれかに記載の装置。
【請求項24】
前記第一装置部と前記第二装置部は、互いに、マスター/スレーブの関係にある請求項7乃至23のいずれかに記載の装置。
【請求項25】
前記部位は、臍と腸骨稜上縁間の区間、又は、腹直筋と外腹斜筋間の結合腱部である請求項13、15又は18のいずれかに記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2007−14579(P2007−14579A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−199766(P2005−199766)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(000133179)株式会社タニタ (303)
【Fターム(参考)】