説明

腹壁治療用具

体壁の開口部を治療または修復する用具および方法を提供する。用具および方法は、無細胞組織マトリックスを含むことができる。組織マトリックスを腹部開口部内に配置することができ、それを使用して開口部を閉鎖することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国特許法119条の下に、2010年2月19日に出願された米国仮特許出願第61/306,006号明細書の優先権を主張する。
【0002】
本開示は、腹部開口部を含む、体腔の開口部を治療または修復する用具および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
外科医が腹部切開を閉鎖することが非常に困難または不可能となり得る状況が多く存在する。例えば、外傷の後、または特定の疾患を有する場合、腹部内臓が膨張し、比較的大きい切開を行った後、腹部内容物を腹部に戻すことが非常に困難になることがある。さらに、非常に大柄な(例えば、肥満した)患者の場合、または、例えば、事前の外科的切除もしくは外傷のため腹壁の一部を失った患者の場合、腹壁を完全に閉鎖することが困難または不可能なことがある。しかし、腹部切開を閉鎖するための様々な用具および方法にはある一定の欠点があった。
【0004】
さらに、特定の手術では、複数回、腹腔にアクセスすることが必要な場合がある。しかし、最初の切開がまだ治癒中である時、同じ位置で複数回切開を行うことは一般に望ましくない。さらに、複数回アクセスした切開を閉鎖すると、感染のリスクが高くなることがあり、このような切開は二次的近似(secondary approximation)により閉鎖されることが多く、これは患者にとって不快なことがある。
【0005】
従って、腹部切開または筋膜(fascia)の切開もしくは欠損を閉鎖するための改善された用具が必要とされている。
【0006】
腹部または筋膜の治療用具を提供する。本用具は、第1の合成ポリマー材料と、合成ポリマー材料の周縁部に取り付けられている無細胞組織マトリックスとを備えてもよく、第1の合成ポリマー材料を組織に取り付けることなく、無細胞組織マトリックスを体腔の開口部の周囲の組織に固定して体腔を閉鎖できるようになっている。
【0007】
腹部または筋膜の開口部を治療する方法を提供する。本方法は、開口部に合成ポリマー材料を配置するステップを含んでもよく、合成ポリマー材料は、合成ポリマー材料の周縁部に沿って無細胞組織マトリックスに取り付けられている。本方法はさらに、腹部開口部の周縁部の周囲の組織に無細胞組織マトリックスを固定し、開口部を閉鎖するステップを含む。
【0008】
腹部または筋膜の治療用具を提供する。用具は、無細胞組織マトリックスのシートを備えてもよく、シートは細長い開口部と、開口部の両側に、縫合糸を受け入れるための補強された複数の穴とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、特定の実施形態による、腹部開口部を治療するための用具および方法を示す。
【図2】図2は、特定の実施形態による、腹部開口部を治療するための用具を示す。
【図3】図3は、特定の実施形態による、腹部開口部を治療するための用具を示す。
【図4】図4は、特定の実施形態による、腹部開口部を治療するために使用されている時の図3の用具を示す。
【図5A】図5Aは、一実施形態による、図2の用具の断面図である。
【図5B】図5Bは、一実施形態による、図2の用具の断面図である。
【図5C】図5Cは、一実施形態による、図2の用具の断面図である。
【図5D】図5Dは、一実施形態による、図2の用具の断面図である。
【図6】図6は、特定の実施形態による、図2の用具の斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本出願では、単数形の使用は、特記しない限り、複数形を含む。本出願では、「または」の使用は、特記しない限り、「および/または」を意味する。さらに、「含む(including)」という用語ならびに「含む(includes)」および「含む(included)」などの他の形態の使用は、限定的ではない。
【0011】
本明細書で使用される節の見出しは、構成を目的とするに過ぎず、前述の対象を限定するものと解釈されるべきではない。以下に限定されるものではないが、特許、特許出願、論文、書籍および条約文書を含む、本出願に引用される文献または文献の一部は全て、あらゆる目的でその内容全体が参照により本明細書に明示的に援用される。
【0012】
「無細胞組織マトリックス」という用語は、本明細書で使用する場合、一般に、細胞および他の抗原性材料を実質的に含まない任意の組織マトリックスを指す。皮膚、皮膚の一部(例えば、真皮)、ならびに、血管、心臓弁、筋膜および神経結合組織などの他の組織を使用して、本開示の範囲に入る無細胞マトリックスを作製してもよい。
【0013】
「腹部欠損」という用語は、本明細書で使用する場合、一般に、腹壁の破損を指す。この破損は、腹壁全体を貫通する穴(腹壁を貫通する切開など)を含んでもよく、または腹壁の1層以上(皮膚および皮下脂肪など)の切開もしくは欠損を含んでもよい。
【0014】
図1は、特定の実施形態による、腹部開口部を治療するための用具および方法を示す。特定の実施形態によれば、用具100を使用して、例えば、手術により形成される切開を含む、腹部欠損140を閉鎖することができる。図1に示すように、用具100は、正中切開の閉鎖を助けることもでき、または他の切開(例えば、より側方に位置する切開、横切開、または斜切開)の閉鎖を助けるために使用することもできる。
【0015】
後述するように、用具100は、創傷、外科的切開、または他の腹部欠損140の対向する縁部を接合するために使用することができる1枚以上の材料のシート110、120を含んでもよい。例えば、欠損140の周囲の既存の筋膜または他の組織が、何らかの理由で不十分である場合、用具100は、欠損140の周囲の組織(例えば、筋膜)が接合され、欠損140全体を被覆することを可能にする追加の材料を提供することができる。特定の実施形態では、用具100は、最終的な閉鎖が所望されるまたは可能となるまで一時的に欠損140を被覆するのに使用することができる。例えば、腹部内容物の膨張のため最終的な閉鎖が可能でない場合、膨張が軽減するまで、用具100を使用して腹部を閉鎖することができる。さらに、用具100は、複数の手術を可能にするアクセス部位を提供することができる。さらに、後述するように、2回以上の手術の間、より正常な手術閉鎖が可能となるように用具100を調整することができる。
【0016】
特定の実施形態では、用具100のシート110、120は、真皮無細胞組織マトリックスなどの無細胞マトリックスを含む、生物学的材料を含む。さらに、特定の実施形態では、シート110、120はさらに、無細胞組織マトリックスに取り付けられている合成ポリマー材料を含む。下記の図2〜5Dを参照して、用具100の様々な実施形態を説明する(200、300と標示する)。
【0017】
図2は、特定の実施形態による、腹部欠損治療用具200を示す。特定の実施形態では、用具200は、第1の合成ポリマー材料210と、合成ポリマー材料210の周縁部全体230に取り付けられている無細胞組織マトリックス220とを含む。使用中、組織に第1の合成ポリマー材料を取り付けることなく、無細胞組織マトリックス220を体腔の欠損140の周囲の組織に固定して体腔(例えば、腹部)を閉鎖することができる。例えば、腹部切開が(正中または別の位置で)形成されるとき、切開を完全に閉鎖することが困難な場合がある。この理由としては、腹部内容物の膨張、患者が大柄であること、および/または事前手術、外傷もしくは疾患による組織の損失がある。さらに、場合によっては、例えば、追加の手術を行うために、手術部位に再度アクセスすることが望ましいことがある。用具200は、切開または他の欠損の閉鎖を助けることもでき、手術部位に再アクセスする、および/または、通常の閉鎖を妨げた問題が軽減した後(例えば、膨張が減少した後、またはその後の手術工程が完了した後)、欠損を閉鎖するために使用することもできる。
【0018】
本明細書で使用する場合、「合成ポリマー材料」という用語は、化学反応により、またはシートを製造する天然材料を組み合わせることにより、人工的に製造される任意のポリマー材料シートを含む。例えば、人工的に製造されるポリマーとしては、ポリエチレンまたはポリアミドを挙げることができる。天然材料を組み合わせることにより製造される材料としては、例えば、シルク製のシートを挙げることができる。
【0019】
周縁部230に無細胞組織マトリックス220が取り付けられ、接合部235(図5A〜図5D参照)を形成している合成ポリマー材料210を、最初の移植時に、腹壁の欠損に配置する。次に、無細胞組織マトリックスを腹部欠損の周縁部の周囲の組織に取り付けて欠損を閉鎖する。一般に、正中切開では、無細胞組織マトリックス220は腹部筋膜(例えば、腹直筋鞘)に固定され、それにより、腹部正中切開の閉鎖に通常使用される腹直筋鞘の延長部の役割を果たすことになる。通常の縫合糸、外科用ステープル、もしくはクリップ、または、当該技術分野で公知の他の適した接合機構を使用して無細胞組織マトリックスを組織に取り付けることができる。特定の実施形態では、無細胞組織マトリックス220に縫合糸を通すことにより、無細胞組織マトリックス220を接合することができる。特定の実施形態では、補強されていてもよい、予備形成された開口部295(または、図3に示す開口部360)に縫合糸を通すことができる。
【0020】
様々な材料を使用して合成ポリマー材料210および無細胞組織マトリックス220(集合的に「材料」)を製造することができる。一般に、材料は両方とも滅菌または無菌状態(asceptic)でなければならず、使用中の破損または引裂を防止するのに適した生物機械的特性を有していなければならない。さらに、幾つかの実施形態では、材料の機械的特性は、下記に詳述するように、異なる材料に対して均一な応力分布を提供し、破壊を防止するのに適合している。さらに、合成材料は、過度の炎症を防止するように、一般に不活性または生体適合性でなければならない。適した合成材料としては、例えば、GORETEX(登録商標)(もしくは他のポリテトラフルオロエチレン材料)、MARLEX(登録商標)(高密度ポリエチレン)、またはプロレンを挙げることができる。特定の実施形態では、合成材料は、その寸法の一部または全部に合成吸収性材料を含むことができる。さらに、材料に治療剤(例えば、癒着防止コーティング、抗微生物剤など)がコーティングされてもよい。
【0021】
無細胞組織マトリックスは、様々な異なる生物学的特性および機械的特性を提供するように選択されてもよい。例えば、無細胞組織マトリックスは、マトリックスが移植される部位に通常見られる組織の再生を可能にするため、組織の侵入(ingrowth)および再構築を可能にするように選択されてもよい。例えば、無細胞組織マトリックスは、筋膜上または筋膜内に移植されるとき、過度の線維化または瘢痕形成が起こることなく筋膜の再生を可能にするように選択されてもよい。さらに、無細胞組織マトリックスは過度の炎症反応を誘発してはならず、最終的に、元の宿主組織に類似の組織を形成するように再構築されなければならない。特定の実施形態では、無細胞組織マトリックスとしては、ALLODERM(登録商標)またはStrattice(商標)を挙げることができ、これらはそれぞれヒトおよびブタの無細胞真皮マトリックスである。あるいは、後述するような、他の適した無細胞組織マトリックスを使用してもよい。
【0022】
一般に、合成ポリマー材料210と無細胞組織マトリックス220は両方とも、使用中に材料が破壊(即ち、破損または引裂)しないような機械的特性を有していなければならない。さらに、材料は、移植時、外科医が操作するのに、下にある構造の被覆を可能にするような形状にするのに、および患者が動く時、引裂することなく伸張し、隣接する組織に均一な応力分布を提供することを可能にするのに十分な可撓性と弾性を有していなければならない。これらの特性は、一般的材料特性(例えば、引張強度および弾性)、ならびに材料の構造的特性(例えば、厚み)を変えることにより、変化させることができることが分かるであろう。特定の実施形態では、材料は、材料が破壊することなく少なくとも20Nの引張力に耐えることができるように選択されるであろう。幾つかの実施形態では、材料は、患者に応じて、少なくとも20N/cm、少なくとも24N/cm、またはそれより大きいものなどの、単位幅当たりの最小限の力に耐えることができる。さらに、特定の実施形態では、材料は、縫合糸の保持を可能にするように選択される。幾つかの実施形態では、材料は、少なくとも20Nの縫合糸保持強度を有する。
【0023】
特定の実施形態では、材料210、220は、使用中、材料全体にわたって比較的均一な応力分布が維持されるように選択され、そのようなサイズに作られてもよい。例えば、様々な実施形態で、合成ポリマー材料210と無細胞組織マトリックス220は、通常の操作範囲での極限引張強度および/または弾性が比較的等しくなるように、または互いの特定の範囲に入るように選択することができる。さらに、合成ポリマー材料210と無細胞組織マトリックス220との接合部235の機械的特性も同様に、合成ポリマー材料210および/または無細胞組織マトリックス220のものと一致させることができる。例えば、特定の実施形態では、合成ポリマー材料210の極限強度は、無細胞組織マトリックス220の極限強度との差が20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、またはこれらのパーセンテージの間の任意の値である。特定の実施形態では、合成ポリマー材料210の弾性率は、無細胞組織マトリックス220の弾性率との差が20%未満、15%未満、10%未満、5%未満、またはこれらのパーセンテージの間の任意の値である。
【0024】
多くの用具または方法を使用して、合成ポリマー材料210と無細胞組織マトリックス220を互いに取り付けることができる。例えば、材料210、220は、プロレン縫合糸などの永久縫合糸を含む、様々な縫合糸、ステープル、タック、または接着剤を使用して接合されてもよい。材料210、220は、多くの構成で互いに接合されてもよい。図5A〜図5Dは、様々な例示的実施形態による、図2の用具の断面図である。図示するように、材料は、端々接合部235(図5A)で、重複接合部235’(図5B)により、分岐ポケット接合部235”(図5C)を形成する合成材料210で、または分岐ポケット接合部235”’(図5D)を形成する無細胞組織マトリックスで、取り付けられてもよい。
【0025】
特定の実施形態では、材料の一方または両方を他方に織り合わせることにより、材料を取り付けてもよい。例えば、図6は、接合部250で合成織物材料211に取り付けられている無細胞組織マトリックス220を示している。他の実施形態では、使用中の破壊を防止すると共に、比較的均一な応力分布を可能にするのに十分な機械的特性を有する接合部250を形成するように、生物学的材料220を織ることができる、または両方の材料220、221を織る。
【0026】
前述のように、第1の合成ポリマー材料を組織に取り付けることなく、体腔の欠損140の周囲の組織に無細胞組織マトリックス220を固定して、欠損を閉鎖することができる。このようにして、組織の侵入および再構築を可能にするように選択される無細胞組織マトリックス220は、組織に接合される、取り付けられる、および/または固定される唯一の材料(縫合糸または他の接合用具以外で)となる。さらに、取り付けた後、筋膜または他の組織は侵入および再構築を開始することができる。
【0027】
さらに、前述のように、幾つかの実施形態では、手術部位/切開に複数回アクセスすること、および/または、後処置の完了後または患者の状態が変化した後(例えば、腹部内容物の膨張が減少した後)、最終的に切開を永久的に閉鎖することが望ましい場合がある。従って、幾つかの実施形態では、繰り返しアクセスすることが可能になるように、合成ポリマー材料は、開口部240を含んでもよく、または、隣接する組織を切断することなく切断されてもよい。その後、開口部240は縫合糸260または他の用具で再密閉されてもよい。幾つかの実施形態では、合成ポリマー材料の一部(卵形線250で画定されている)を除去してもよく、合成ポリマー材料210を短くして、切開縁にさらに張力を加えても、または余分なもしくは汚染された材料を除去してもよい。
【0028】
場合によっては、無細胞組織マトリックス220を組織に取り付けたまま、合成ポリマー材料210を完全に除去することが望ましい場合がある。例えば、合成ポリマー材料210は後で、例えば、膨張が減少した後、または後の手術が完了した後、除去されてもよく、無細胞組織マトリックス220は腹部欠損の周縁部の周囲の組織に取り付けられたままにされてもよい。さらに、合成ポリマー材料210を除去した後、縫合糸、ステープル、または他の外科的手段を使用して、無細胞組織マトリックス220の残りの部分を互いに取り付けることにより、腹部欠損を閉鎖してもよい。様々な実施形態では、無細胞組織マトリックス220は、欠損の周囲の筋膜または他の組織を支持し、再開放または裂開を防止する。さらに、既存の組織が通常の筋膜閉鎖に不十分な場合、無細胞組織マトリックスは、追加の組織を提供することができる。
【0029】
前述のように、幾つかの実施形態では、無細胞組織マトリックス220は開口部295を含むことができ、開口部は、腹部開口部を閉鎖するための縫合糸を受け入れるのに使用することができる。幾つかの実施形態では、後述のように、開口部295は補強されていてもよい。
【0030】
特定の実施形態では、前述のようなシート状の合成ポリマー材料を含まない腹部欠損治療用具を提供する。このような用具は、無細胞組織マトリックスだけを含んでもよいが、前述の問題(例えば、膨張、不十分な組織、手術部位に複数回アクセスする必要性)が存在する場合、特定の切開の閉鎖に有用となり得る。図3は、特定の実施形態による、腹部欠損治療用具300を示す。用具300は、無細胞組織マトリックスのシート310を備え、シート310は細長い開口部340と、開口部340の両側に、縫合糸を受け入れるための複数の穴360とを含み、複数の穴360は補強されている。用具300は、創縁に(例えば、縫合糸を使用し筋膜を介して)固定することができ、補強された穴360は、創傷または切開を閉鎖するために用具300と創縁に張力を提供する縫合糸を受け入れることができる。
【0031】
場合によっては、例えば、後の手術を行うため、創傷/腹部部位を清浄にするため、または他のいずれかの目的で、開口部340を再開放することができる。さらに、場合によっては、用具300は、様々な距離で用具を縫合することができるように、例えば、創縁に加える張力を大きくするために、または余分な材料を除去するために、補強された穴360を複数組有してもよい。例えば、幾つかの実施形態では、予備形成された穴360は、細長い開口部340の各側に配置された2列以上の穴365、367を含み、選択された距離だけ離れた穴に縫合糸を通すことができる。例えば、図4に示すように、縫合糸を、最初、開口部340に最も近接した第1列の穴365に通して取り付け、切開を閉鎖してもよい。しかし、後で、腹部の内臓の膨張が減少した時、または組織が伸張した時、外科医は他の縫合糸を追加して、または縫合糸を取り替えて、開口部367に縫合糸を通してもよい。このようにして、縫合糸を引き締めると、または短くすると、創縁または切開縁を互いに引き寄せることができる。
【0032】
図3および図4に示すように、用具300は単一の材料シートを含んでもよい。しかし、幾つかの実施形態では、2枚以上の無細胞組織マトリックス310を使用してもよい。例えば、線370から延びる線に沿って図3の用具を2枚に分割し、2枚の材料を作製してもよい。この2枚を創傷または切開の両側に移植し、前述のように、創傷または切開を閉鎖するために所定の位置で縫合してもよい。
【0033】
開口部360(および295)を多くの方法で補強してもよい。幾つかの実施形態では、開口部360の周縁または縁部の周囲に塗布される生体適合性接着剤を使用して、開口部360を補強してもよい。適した接着剤としては、例えば、フィブリン糊、シアノアクリレートをベースにする組織接着剤(例えば、DERMABOND(登録商標))、およびキトサン組織接着剤が挙げられる。幾つかの実施形態では、開口部360の周縁または縁部を架橋して、その強度を増加させ、引裂を防止してもよい(例えば、化学的または放射線誘導架橋を使用する)。
【0034】
適した無細胞組織マトリックス
前述のように、「無細胞組織マトリックス」という用語は、本明細書で使用する場合、一般に、細胞および他の抗原性材料を実質的に含まない任意の組織マトリックスを指す。皮膚、皮膚の一部(例えば、真皮)、ならびに、血管、心臓弁、筋膜および神経結合組織などの他の組織を使用して、本開示の範囲に入る無細胞マトリックスを作製してもよい。
【0035】
一般に、無細胞組織マトリックスの製造に必要なステップには、ドナー(例えば、ヒトの死体または動物源)から組織を採取するステップと、生物学的および構造的機能を維持する条件下で細胞を除去するステップが含まれる。特定の実施形態では、このプロセスには、組織を安定化させ、細胞除去と共に起こるまたは細胞除去の前に起こる生化学的および構造的分解を回避するための化学処理ステップが含まれる。様々な実施形態において、安定化溶液は、浸透圧性、低酸素性、自己分解性、およびタンパク質分解性分解を抑制および防止し、微生物汚染から保護し、例えば、平滑筋成分を含有する組織(例えば、血管)で起こり得る機械的損傷を低減する。安定化溶液は、適切な緩衝液、1種類以上の酸化防止剤、1種類以上の膠質浸透圧剤(oncotic agents)、1種類以上の抗生物質、1種類以上のプロテアーゼ阻害剤、および/または1種類以上の平滑筋弛緩剤を含有してもよい。
【0036】
次いで、組織を脱細胞化溶液に入れ、コラーゲンマトリックスの生物学的および構造的完全性を損傷することなく、構造的マトリックスから生細胞(例えば、上皮細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、および線維芽細胞)を除去する。脱細胞化溶液は、適切な緩衝液、塩、抗生物質、1種類以上の界面活性剤(例えば、TRITON X−100(商標)、デオキシコール酸ナトリウム、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート)、架橋を防止するための1種類以上の薬剤、1種類以上のプロテアーゼ阻害剤、および/または1種類以上の酵素を含有してもよい。幾つかの実施形態では、脱細胞化溶液は、ゲンタマイシンおよび25mM EDTA(エチレンジアミン四酢酸)を有するRPMI媒体中1%のTRITON X−100(商標)を含む。幾つかの実施形態では、組織を脱細胞化溶液中で終夜、37℃にて、90rpmで穏やかに撹拌しながらインキュベートする。特定の実施形態では、追加の界面活性剤を使用して、組織サンプルから脂肪を除去してもよい。例えば、幾つかの実施形態では、脱細胞化溶液に2%デオキシコール酸ナトリウムを添加する。
【0037】
脱細胞化プロセスの後、組織サンプルを生理食塩水で十分に洗浄する。幾つかの例示的実施形態では、例えば、異種間材料を使用する場合、脱細胞化された組織を終夜、室温にてデオキシリボヌクレアーゼ(DNアーゼ)溶液で処理する。幾つかの実施形態では、DNアーゼ緩衝液(20mM HEPES(4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸)、20mM CaCl2および20mM MgCl2)中で調製されたDNアーゼ溶液で組織サンプルを処理する。任意選択により、抗生物質溶液(例えば、ゲンタマイシン)をDNアーゼ溶液に添加してもよい。緩衝液が適切なDNアーゼ活性を提供する限り、任意の適した緩衝液を使用してもよい。
【0038】
無細胞組織マトリックスは無細胞組織マトリックス移植片のレシピエントと同種の1つ以上の個体から製造され得るが、必ずしもそうとは限らない。従って、例えば、無細胞組織マトリックスは、ブタから製造されて、ヒトの患者に移植されることがある。無細胞組織マトリックスのレシピエント、および、無細胞組織マトリックスを製造するための組織または器官のドナーの役割を果たすことができる種としては、ヒト、ヒト以外の霊長類(例えば、サル、ヒヒ、またはチンパンジー)、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、アレチネズミ、ハムスター、ラット、またはマウスなどの哺乳類が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
コラーゲン含有材料からα−galエピトープを除去すると、コラーゲン含有材料に対する免疫反応が低下することがある。α−galエピトープは、霊長類以外の哺乳類および新世界ザル(南米のサル)に、ならびに細胞外成分であるプロテオグリカンなどの高分子に発現する。U.Galili et al.,J.Biol.Chem.263:17755(1988)。しかし、このエピトープは、旧世界霊長類(アジアやアフリカのサル、および類人猿)およびヒトには存在しない。ld.抗gal抗体は、ヒトおよび霊長類では、腸内細菌のα−galエピトープ糖鎖構造に対する免疫反応の結果として産生される。U.Galili et al.,Infect.Immun.56:1730(1988);R.M.Hamadeh et al.,J.Clin.Invest.89:1223(1992)。
【0040】
霊長類以外の哺乳類(例えば、ブタ)は、α−galエピトープを産生するため、コラーゲン含有材料をこれらの哺乳類から霊長類に異種移植すると、コラーゲン含有材料上のこれらのエピトープに霊長類の抗α−Galが結合するため、拒絶が起こることが多い。結合の結果、補体結合により、および抗体依存性細胞障害によりコラーゲン含有材料が破壊される。U.Galili et al.,Immunology Today 14:480(1993);M.Sandrin et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:11391(1993);H.Good et al.,Transplant.Proc.24:559(1992);B.H.Collins et al.,J.Immunol.154:5500(1995)。さらに、異種移植の結果、免疫系の著しい活性化が起こり、多量の高親和性抗gal抗体が産生される。従って、幾つかの実施形態では、α−galエピトープを産生する動物を組織源として使用する場合、細胞から、およびコラーゲン含有材料の細胞外成分からα−galエピトープを実質的に除去すること、ならびに細胞α−galエピトープの再発現を防止することにより、α−galエピトープへの抗gal抗体の結合に関連する、コラーゲン含有材料に対する免疫反応を低下させることができる。
【0041】
α−galエピトープを除去するため、組織を生理食塩水で十分に洗浄してDNアーゼ溶液を除去した後、サンプル中に特定の免疫原性抗原が存在する場合、それを除去するために、組織サンプルに1つ以上の酵素処理を施してもよい。幾つかの実施形態では、組織中にα−galエピトープが存在する場合、それを除去するために、組織サンプルをα−ガラクトシダーゼ酵素で処理してもよい。幾つかの実施形態では、100mMリン酸緩衝液(pH6.0)中で調製された300U/Lの濃度のα−ガラクトシダーゼで組織サンプルを処理する。他の実施形態では、採取した組織からα−galエピトープを十分除去するために、α−ガラクトシダーゼの濃度を400U/Lまで増加させる。抗原の十分な除去が達成される限り、任意の適した酵素濃度および緩衝液を使用してもよい。
【0042】
あるいは、酵素で処理するのではなく、1つ以上の抗原性エピトープが欠損するように遺伝子操作された動物を組織源として選択してもよい。例えば、末端α−ガラクトース部分が欠損するように遺伝子操作された動物(例えば、ブタ)を組織源として選択してもよい。適切な動物の説明については、同時係属中の米国特許出願第10/896,594号明細書および米国特許第6,166,288号明細書を参照されたい(これらの開示は、その内容全体が参照により本明細書に援用される)。さらに、α−1,3−ガラクトース部分が減量または欠損しているまたはしていない、無細胞マトリックスを製造するための特定の例示的組織処理方法が、Xu,Hui.et al.,“A Porcine−Derived Acellular Dermal Scaffold that Supports Soft Tissue Regeneration:Removal of Terminal Galactose−α−(1,3)−Galactose and Retention of Matrix Structure,”Tissue Engineering,Vol.15,1−13(2009)に記載されており、この文献は参照により本明細書に援用される。
【0043】
無細胞組織マトリックスを形成した後、任意選択により組織適合性生細胞を無細胞組織マトリックス中に播種して移植片を製造してもよく、それはさらに宿主により再構築されてもよい。幾つかの実施形態では、移植前に標準的なin vitro細胞共培養法により、または移植後にin vivo再増殖により組織適合性生細胞をマトリックスに添加してもよい。in vivo再増殖は、無細胞組織マトリックス中に移動するレシピエント自身の細胞で行っても、またはレシピエントから得られた細胞もしくは別のドナーからの組織適合性細胞を無細胞組織マトリックス中にin situで注入もしくは注射することにより行ってもよい。胚性幹細胞、成人幹細胞(例えば、間葉系幹細胞)、および/または神経細胞を含む様々な種類の細胞を使用することができる。様々な実施形態で、これらの細胞を移植直前または移植後に無細胞組織マトリックスの内部に直接加えてもよい。特定の実施形態では、移植される無細胞組織マトリックス内に細胞を配置し、移植前に培養してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腹部または筋膜の治療用具であって、
第1の合成ポリマー材料と;
前記合成ポリマー材料の周縁部に取り付けられている無細胞組織マトリックスと;
を備え、前記第1の合成ポリマー材料を組織に取り付けることなく、前記無細胞組織マトリックスを体腔壁の欠損部の周囲の組織に固定して前記体腔を閉鎖することができるようになっている用具。
【請求項2】
請求項1に記載の用具において、前記合成ポリマー材料の極限強度は、前記無細胞組織マトリックスの極限強度との差が20%未満であることを特徴とする用具。
【請求項3】
請求項1または2に記載の用具において、前記合成ポリマー材料の弾性率は、前記無細胞組織マトリックスの弾性率との差が20%未満であることを特徴とする用具。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の用具において、前記無細胞組織マトリックスが真皮無細胞組織マトリックスであることを特徴とする用具。
【請求項5】
請求項4に記載の用具において、前記真皮組織マトリックスがヒト組織マトリックスであることを特徴とする用具。
【請求項6】
請求項4に記載の用具において、前記真皮組織マトリックスがブタ組織マトリックスであることを特徴とする用具。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の用具において、前記無細胞組織マトリックスが予備形成された穴を含むことを特徴とする用具。
【請求項8】
請求項7に記載の用具において、前記予備形成された穴が補強されていることを特徴とする用具。
【請求項9】
請求項8に記載の用具において、前記補強された穴が接着剤を含むことを特徴とする用具。
【請求項10】
請求項9に記載の用具において、前記接着剤がシアノアクリレート接着剤を含むことを特徴とする用具。
【請求項11】
請求項9に記載の用具において、前記接着剤がフィブリンを含むことを特徴とする用具。
【請求項12】
腹部または筋膜の治療用具であって、
無細胞組織マトリックスのシート
を備え、前記シートが細長い開口部と、前記開口部の両側に、縫合糸を受け入れるための補強された複数の穴とを含むことを特徴とする用具。
【請求項13】
請求項12に記載の用具において、前記穴が、細長い開口部の各側に配置された2列以上の穴を含むことを特徴とする用具。
【請求項14】
請求項12または13に記載の用具において、前記無細胞組織マトリックスが、真皮無細胞組織マトリックスであることを特徴とする用具。
【請求項15】
請求項14に記載の用具において、前記真皮組織マトリックスが、ヒト組織マトリックスであることを特徴とする用具。
【請求項16】
請求項14に記載の用具において、前記真皮組織マトリックスがブタ組織マトリックスであることを特徴とする用具。
【請求項17】
請求項13乃至16の何れか1項に記載の用具において、前記補強された穴が接着剤を含むことを特徴とする用具。
【請求項18】
請求項17に記載の用具において、前記接着剤がシアノアクリレート接着剤を含むことを特徴とする用具。
【請求項19】
請求項17に記載の用具において、前記接着剤がフィブリンを含むことを特徴とする用具。
【請求項20】
腹部開口部を閉鎖するための請求項1乃至19の何れか1項に記載の用具の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−520234(P2013−520234A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−554021(P2012−554021)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際出願番号】PCT/US2011/025224
【国際公開番号】WO2011/103276
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(504154148)ライフセル コーポレーション (13)
【氏名又は名称原語表記】LifeCell Corporation
【Fターム(参考)】