説明

腹水濾過濃縮装置及び高濃度タンパク質溶液の製造方法

【課題】希薄なタンパク質溶液を濃縮し、濃厚なタンパク質溶液を得る方法において、目詰まりによる処理速度低下をきたさず、追加濃縮工程など施行者の負担なしで高いタンパク質濃度の濃厚タンパク質溶液を得る腹水濾過濃縮装置を提供する。
【解決手段】腹水濾過濃縮装置100は、腹水を貯留する貯留容器1と、腹水中に存在する細胞成分を分離する濾過用フィルタ3と、貯留容器1と濾過用フィルタ3とを接続する第1流路31と、所定の限外濾過性能で親水性高分子が付与されたポリスルホン系中空糸膜型の濃縮用フィルタ4と、濾過用フィルタ3と濃縮用フィルタ4とを接続する第2流路32と、濾過用フィルタ3の出口3bに接続された第3流路33と、濃縮されたタンパク質溶液を回収する回収容器2と、濃縮用フィルタ4の濃縮液出口4bと回収容器2とを接続する第4流路34と、濃縮用フィルタ4の濾液排出口4cに接続された第5流路35と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腹水を濾過濃縮する装置及び高濃度タンパク質溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、肝硬変などの腹水や胸水(以下、腹水と総称する)の溜まり易い患者に対して、腹水中のタンパク質を利用して患者の血中タンパク質濃度を上昇させるため、貯留部に針を刺し体外に排出した腹水を、中空糸膜などを用いた2種のフィルタにより濾過濃縮処理し、濃厚タンパク質溶液を得、これを患者に点滴する腹水濾過濃縮再静注法が行われている(例えば、特許文献1参照)。2種のフィルタの1つ目は腹水中に含まれるがん細胞、血球成分などの細胞成分を除くための濾過フィルタであり、細胞成分を通過させず、水分、タンパク質などの溶質成分は通過させるような孔径を有する膜が用いられる。一方もうひとつのフィルタは希薄なタンパク質濃度である腹水から除水し、タンパク質を濃縮するための濃縮フィルタであり、タンパク質成分はほとんど通過せず、水分、電解質などは通過させる膜が用いられる。通常、利便性の観点から、濾過器で細胞成分を濾別した腹水を濃縮器で濃縮する方法が取られ、これらを連続して行う装置が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−297242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
患者に投与するタンパク質溶液は、投与後患者の血中タンパク質濃度を増加させる目的もあるため、ある程度高い濃度であることが必要となるが、そのために高い濃縮倍率になるよう濃縮する必要がある。処理する腹水のタンパク質濃度が濃くなると、濃縮用フィルタはタンパク質により目詰まりし、濃縮速度が低下してしまい、目標とする濃縮倍率に濃縮できない場合がある。このような場合、一旦濃縮不十分の状態でタンパク質溶液を回収し、追加で濃縮するといった非常に煩雑な工程を経る必要があり、さらに場合によっては濃縮用フィルタを新しいものと交換する必要があるため、施行者にとり、作業面、作業時間で負担のかかるものである上、経済面の不利益もある。また、患者にとってもタンパク質溶液が投与されるまでの拘束時間が長くなるという不利益がある。
【0005】
一方、腹水が貯留する患者は、大別すると肝硬変などの疾患が元で貯留する肝性腹水患者と、胃癌、卵巣癌、大腸癌などの癌が元で貯留する癌性腹水患者に分けられる。従来、本治療は主に肝性腹水患者に対して施行されることがほとんどであったが、近年、癌性腹水患者に対して本治療を実施することの治療効果が認められつつあり、癌性腹水患者に対する施行機会が増加している。しかし癌性腹水は一般的に肝性腹水よりタンパク質濃度が濃い傾向があるため、前記のような追加濃縮工程が必要な場合が頻発していた。
【0006】
また、特許文献1には、濃縮フィルタの廃液側に設けられた吸引装置により濃縮する方法において、濃縮フィルタの下流に陰圧発生装置を設置し、堆積物の堆積を抑制する方法が開示されているが、この方法においても吸引装置の途中に設けられた圧開放ラインを開放し、濃縮器にかかる吸引圧を開放させる、施行者による対応が必要であった。
【0007】
本発明は、上記従来法の問題点に対し、腹水などの希薄なタンパク質溶液を濃縮し、濃厚なタンパク質溶液を得る方法において、目詰まりによる処理速度低下をきたさず、追加濃縮工程など施行者の負担なしで高いタンパク質濃度の濃厚タンパク質溶液を得る腹水濾過濃縮装置及び高濃度タンパク質溶液の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、濃縮器の目詰まりには装置に用いる濃縮フィルタの限外濾過性能が関係することを見出し、腹水を濃縮処理するのにも最適な限外濾過性能を有する濃縮用フィルタを用いた装置とすることによって濃縮速度の低下が抑えられ、またタンパク質を損失することなく高倍率にまで濃縮できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下に関する。
【0009】
〔1〕
細胞成分を含む採取されたタンパク質溶液を貯留する貯留容器と、
前記貯留容器内のタンパク質溶液中に存在する前記細胞成分を分離可能な中空糸膜型の腹水濾過用フィルタと、
一端が前記貯留容器に接続され他端が前記腹水濾過用フィルタの入口に接続された第1の流路と、
限外濾過性能が85mL〜150mL/分/200mmHgであり親水性高分子が付与されたポリスルホン系中空糸膜型の腹水濃縮用フィルタと、
前記腹水濾過用フィルタの濾過側出口に接続され、他端が前記腹水濃縮用フィルタの入口に接続された第2の流路と、
前記腹水濾過用フィルタの出口に接続された第3の流路と、
前記腹水濃縮用フィルタで濃縮されたタンパク質溶液を回収する回収容器と、
一端が前記腹水濃縮用フィルタの出口に接続され、他端が前記回収容器に接続された第4の流路と、
前記腹水濃縮用フィルタの濾過側出口に接続された第5の流路と、
を備えた、腹水濾過濃縮装置。
【0010】
〔2〕
前記貯留容器内に貯留された前記タンパク質溶液を前記第1の流路を通して前記腹水濾過用フィルタに送液し、前記細胞成分が除去された濾過済タンパク質溶液を前記腹水濾過用フィルタの濾過側出口から前記第2の流路に送出させるとともに、前記細胞成分を含む溶液を前記腹水濾過用フィルタの出口から第3の流路に排出させるステップと、
前記第2の流路に送出された前記濾過済タンパク質溶液を前記腹水濃縮用フィルタに送液し、濃縮された濃厚タンパク質溶液を前記腹水濃縮用フィルタの出口から第4の流路に送出させるとともに、水溶液を前記腹水濃縮用フィルタの濾過側出口から第5の流路に水溶液を排出させるステップと、
前記第4の流路に送出された前記濃厚タンパク質溶液を、前記回収容器に回収するステップと、を行い、
前記第1〜第5の流路のうちの少なくとも1つの流路の流量を制御する制御手段を更に備える、請求項1に記載の腹水濾過濃縮装置。
【0011】
〔3〕
前記制御手段は、前記第1の流路に設けられた送液ポンプを含む、請求項2に記載の腹水濾過濃縮装置。
【0012】
〔4〕
前記腹水濾過用フィルタは、該腹水濾過用フィルタの入口における液体の落差圧が前記貯留容器と前記第1の流路との接続部における液体の落差圧よりも低くなるような位置に配置され、かつ、
前記回収容器は、該回収容器と前記第4の流路との接続部における液体の落差圧が前記腹水濃縮用フィルタの出口における液体の落差圧よりも低くなるような位置に配置された、請求項1に記載の腹水濾過濃縮装置。
【0013】
〔5〕
前記腹水濃縮用フィルタは、該腹水濃縮用フィルタの入口における液体の落差圧が前記腹水濾過用フィルタの濾過側出口における液体の落差圧と等しくなるような位置に配置された、請求項4に記載の腹水濾過濃縮装置。
【0014】
〔6〕
前記腹水濃縮用フィルタは、該腹水濃縮用フィルタの入口における液体の落差圧が前記腹水濾過用フィルタの濾過側出口における液体の落差圧よりも低くなるような位置に配置された、請求項4に記載の腹水濾過濃縮装置。
【0015】
〔7〕
前記腹水濃縮用フィルタの限外濾過性能が腹水の濃縮処理に最適なものであることから、腹水の濃縮が1回で足り、追加濃縮工程を必要としないことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の腹水濾過濃縮装置。
【0016】
〔8〕
前記腹水濃縮用フィルタによる1回の濃縮で、タンパク質濃度を5倍以上に濃縮することが可能なことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の腹水濾過濃縮装置。
【0017】
〔9〕
前記腹水濃縮用フィルタによる1回の濃縮で、タンパク質濃度が7g/dl以上の濃厚タンパク質溶液を得られることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の腹水濾過濃縮装置。
【0018】
〔10〕
細胞成分を含む採取されたタンパク質溶液を貯留する貯留容器と、
前記貯留容器内のタンパク質溶液中に存在する前記細胞成分を分離可能な中空糸膜型の腹水濾過用フィルタと、
一端が前記貯留容器に接続され他端が前記腹水濾過用フィルタの入口に接続された第1の流路と、
時間当たりのタンパク質濃縮倍率が0.1倍/分以上であり親水性高分子が付与されたポリスルホン系中空糸膜型の腹水濃縮用フィルタと、
前記腹水濾過用フィルタの濾過側出口に接続され、他端が前記腹水濃縮用フィルタの入口に接続された第2の流路と、
前記腹水濾過用フィルタの出口に接続された第3の流路と、
前記腹水濃縮用フィルタで濃縮されたタンパク質溶液を回収する回収容器と、
一端が前記腹水濃縮用フィルタの出口に接続され、他端が前記回収容器に接続された第4の流路と、
前記腹水濃縮用フィルタの濾過側出口に接続された第5の流路と、
を備えた、腹水濾過濃縮装置。
【0019】
〔11〕
タンパク質濃度が5g/dL以下の低濃度タンパク質溶液を貯留容器に貯留する工程と、
前記貯留容器に貯留された前記低濃度タンパク質溶液を、限外濾過性能が85mL〜150mL/分/200mmHgであり親水性高分子が付与されたポリスルホン系中空糸膜型フィルタに通液させ、前記フィルタの濾過側出口からタンパク質濃度が100mg/dL以下である低濃度タンパク質溶液を送出させるとともに、前記フィルタの出口からタンパク質濃度が7g/dL以上である高濃度タンパク質溶液を送出させる工程と、
前記フィルタの出口から送出された前記高濃度タンパク質溶液を回収容器に回収する工程と、を含む、高濃度タンパク質溶液の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の腹水濾過濃縮装置及び高濃度タンパク質溶液の製造方法は、高効率に濃縮できるよう、最適な限外濾過性能を有するフィルタを用いることを特徴としているため、濃縮速度の低下はほとんど発生しない。よって施行者の手技を容易にでき、また短時間で処理が完了する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の腹水濾過濃縮装置の第1実施形態を示す図である。
【図2】本発明の腹水濾過濃縮装置の第2実施形態を示す図である。
【図3】本発明の腹水濾過濃縮装置の第3実施形態を示す図である。
【図4】濃縮用フィルタに係る腹水濃縮性能の試験装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0023】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態として、図1に示す腹水濾過濃縮装置100の構成及び当該装置100を用いて腹水(タンパク質溶液)を濾過濃縮し濃厚タンパク質溶液(高濃度タンパク質溶液)を得る方法の一例を示す。
【0024】
まず、患者の腹水は貯留容器1に採取され貯留される。一般に、腹水は、タンパク質濃度が5g/dL以下の低濃度タンパク質溶液である。貯留容器1の出口1bは、第1流路31と接続され、当該第1流路31を介して濾過用フィルタ3の入口3aと接続される。貯留容器1の腹水は第1流路31を介し、濾過用フィルタ3に供給される。濾過用フィルタ3の中で、細胞成分は濾過膜を通過できないため、濾過用フィルタ3の濾液出口3cからは細胞成分が除かれた、タンパク質を含む濾過後腹水が排出される。濾過用フィルタ3の出口3bには第3流路33が接続されており、細胞成分を含む腹水の一部は、第3流路33を通じて装置100外に排出される。濾液出口3cは、第2流路32を介して濃縮用フィルタ4の腹水流入口4aに接続されており、濾液出口3cから排出される濾過後腹水は、第2流路32を介して濃縮用フィルタ4に導入される。
【0025】
濃縮用フィルタ4の中では濾過後腹水の水分などが濾別され、濾液排出口4cに接続された第5流路35より装置100外に排出される。ここで濾液排出口4cから排出される液体は、タンパク質濃度が100mg/dL以下である低濃度タンパク質溶液である。濃縮用フィルタ4の孔径は、濾過用フィルタ3の孔径よりも小さい。濾過後腹水に含まれていたタンパク質は濾過膜を通過せず濃縮用フィルタ4内に保持されるので、上記の水分の排出によって濾過後腹水のタンパク質濃度が高まり、濃厚タンパク質溶液として濃縮用フィルタ4の濃縮液出口4bより排出される。濃縮用フィルタ4の濃縮液出口4bは、第4流路34を介して回収容器2の入口2aに接続されており、濃縮液出口4bより排出された濃厚タンパク質溶液は、第4流路34を介して回収容器2に回収される。ここで回収される濃厚タンパク質溶液は、少なくとも貯留容器1の腹水よりもタンパク質濃度が高い高濃度タンパク質溶液であり、例えば、タンパク質濃度が7g/dL以上である。
【0026】
貯留容器1及び回収容器2は液体を貯留することができればどのようなものでもよいが、通常、取り扱い性の観点から、ポリ塩化ビニル製のバッグが用いられる。容器の大きさは採取してきた腹水の量などにより決定される。
【0027】
濾過用フィルタ3は細胞成分と水分、及び電解質やタンパク質などの溶質成分を分離できれば特に限定されるものではない。フィルタの構造、形状、寸法としては、貯留容器1または濃縮用フィルタ4と接続する流路と接続ができる腹水流入口、及び濾過腹水出口を備えていれば制限はない。また濾過用フィルタ3に用いられる中空糸について、素材は特に限定はなく、製膜時に孔径制御がしやすく且つ化学的安定性に優れる理由から、ポリエチレンなどのポリオレフィン系、ポリスルホン系、再生セルロース系、ポリビニルアルコール系などが好ましい。これら例示した中空糸素材には他の材料が含有されていても良く、また化学的に修飾されていても良い。通常、孔径が0.2μm以下で、かつタンパク質の透過率が80%以上である中空糸膜フィルタが用いられる。
【0028】
図1は濾過用フィルタ3を内圧濾過方式で使用し、腹水濾過を行っているが、細胞成分を濾別することができれば、外圧濾過方式とすることもできる、また第3流路33を封止し、デッドエンド方式で濾過することもできるし、第3流路33を開放しクロスフロー方式とすることもできる。
【0029】
本発明の装置を構成するそれぞれの流路31〜35も貯留容器1、回収容器2、濾過用フィルタ3および濃縮用フィルタ4と接続できるものであれば材質、寸法などに限定はない。通常、流路31〜35を形成するチューブとして、ポリ塩化ビニルなどから製造される軟質チューブが用いられる。
【0030】
貯留容器1から濾過用フィルタ3への腹水の送液はどのような手段でもよい。例示するならば、図1に示すように第1流路31にポンプ5を設置し送液しても良い。ポンプ5としてはローラーポンプや輸液ポンプなどが一般的に用いられる。この場合、ポンプ5の駆動を制御する制御装置41を設けても良い。制御装置41は、ポンプ5の駆動を制御することにより、第1流路31における腹水の流量(単位時間当たりの送液量)を制御する。制御装置41は、例えばコンピュータであり、所望の制御に係る情報を施行者に入力させる入力端末を兼ねてもよい。また、第2流路32および第3流路33上にも送液ポンプを追加してもよい。
【0031】
第4流路34の途中に制御部14が設置され、第5の流路35途中に制御部15が設置されている。制御部14は第4流路34の流量を調整し、制御部15は第5流路35の流量を調整する。制御部14,15によって、濃縮用フィルタ4の濾液の排出量と濃厚タンパク質溶液の量とのバランスを調整し、濃縮倍率を調整することができる。
【0032】
制御部14及び15は、濃縮用フィルタ4に供給された腹水のうち、濃縮用フィルタ4から濾過されて濃縮液出口4bから排出される濾液量と、回収容器2に向かう液量と、のバランスを制御できればどのようなものでもよい。制御部14,15は、例示すれば、ローラークランプなどの流路を圧迫し流路抵抗を調整し制御するものでもよく、一定の陰圧又は陽圧をかけることで各流路34,35の流量を制御するものでもよく、またローラーポンプや輸液ポンプ等といったような流量を制御する装置であってもよい。濃縮用フィルタ4から濾過されて排出される液量と回収容器に向かう液量のバランスを制御できれば制御部14,15はいずれかのみが存在してもよい。また、制御部14,15を制御装置41からの制御信号で駆動するものとして流路34,35の流量を制御装置41で制御するものとしてもよい。
【0033】
図1に示す装置100では、第1流路31が濾過用フィルタ3の下方に接続され、第3流路33が濾過用フィルタ3の上方に接続されているが、これを逆にしても同様の効果が得られる。また、第2流路32は、濾過用フィルタ3の中空糸外側室部分に通じていれば、いずれの位置に接続されていてもよい。
【0034】
本発明で用いられる濃縮用フィルタ4の限外濾過性能は85mL〜150mL/分/200mmHgである。限外濾過性能がこの範囲以下であると、濃縮中に濾液の排出量が低下し、十分に濃縮されたタンパク質溶液が得られない。また95mL/分/200mmHg以上であればより目詰まりのおそれが低く、好ましい。150mL/分/200mmHg以上であるとタンパク質が濾液中に漏れ出てしまい、十分な濃度のタンパク質濃度が得られないので適さない。
【0035】
本発明の限外濾過性能とは、以下に示すような試験により規定される。タンパク質濃度を6g/dLに調整した牛血漿を用意し、ローラーポンプにより毎分200mLの定速で濃縮用フィルタに送液する。このとき、濃縮器の濾液排出口は開放状態である。濃縮用フィルタの回収液出口に接続した回路を圧迫し、フィルタ内外にかかる圧力差(以下、TMPとも言う)が200mmHgとなるよう調整する。このとき、濾液排出口から排出される濾液の時間当たり容積を測定する。TMPは以下のように算出する。
TMP=(フィルタ入口側の圧力+フィルタ出口側の圧力)/2−濾液側圧力
【0036】
また本発明では、濃縮効率の観点から中空糸膜を用いたフィルタを用いる。ここで言う中空糸膜は、その形状、寸法は特に限定されるものでは無く、上記限外濾過性能を有するものであれば良い。材質については、製膜時に孔径制御がしやすく且つ化学的安定性に優れる理由から、ポリスルホン系がよい。ポリスルホン系高分子は、芳香族化合物であることから放射線耐性に特に優れており、また、熱や化学的処理にも非常に強く、安全性にも優れている。従って、様々な製膜条件を採択できるとともに放射線滅菌が可能となり、腹水濃縮器に用いる膜材質として特に好ましい。なお、「〜系」とは、ホモポリマーのみではなく、他のモノマーとの共重合体や化学修飾された類縁体も含むという意味である。
【0037】
ここで言うポリスルホン系高分子(以下、PSfと称することがある)とは、スルホン結合を有する高分子化合物の総称であり、特に規定するものではないが、例えば、繰返し単位が下記の式(1)、式(2)、式(3)、式(4)および式(5)で示されるポリスルホン系ポリマーが挙げられる。これらの芳香環の一部に置換基が導入された修飾ポリマーであっても構わない。工業的に入手し易い点から、繰返し単位が式(1)、式(2)および式(3)で示される芳香族ポリスルホン系ポリマーが好ましく、中でも(1)式で示す化学構造を持つポリスルホンが特に好ましい。このビスフェノール型ポリスルホン樹脂は、例えばソルベイ・アドバンスド・ポリマーズより「ユーデル(登録商標)」の商品名で市販されており、重合度等によっていくつかの種類が存在するが特に限定するものではない。
【0038】
【化1】

【0039】
本発明におけるポリスルホン系中空糸膜は、親水性高分子により、親水性を持たせたものが好ましい。ポリスルホン系高分子だけでは中空糸膜表面が疎水性となり、このような表面にはタンパク質が吸着しやすく、タンパク質の回収性能を低下させる原因になるためである。親水性高分子としては、ポリビニルピロリドン(以下、PVPと称することがある)や、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられるが、中でもPVPが親水化の効果や安全性の面より好ましい。PVPについても分子量等によっていくつかの種類が存在し、例えば、市販品としてPVPのK−15、30、90(いずれもアイ・エス・ピー(ISP)社製)等を挙げることができる。本発明で使用するPVPの分子量(粘度平均分子量)は1万〜200万、好ましくは5万〜150万である。親水性高分子の膜中の含有率はポリマー全量の3〜20%、好ましくは3〜10%である。含有率が3%以下の場合には親水化剤としての効果が薄れ、また含有率が20%を越えた場合には製膜原液の粘度が上がりすぎるため生産上好ましくない。
【0040】
親水化されたポリスルホン中空糸膜の製造方法は、公知の乾湿式製膜技術を利用できる。まず、ポリスルホン系高分子とポロビニルピロリドンなどの親水性高分子を両方に共通の溶媒に溶解し、均一な紡糸原液を調製する。このような共通溶媒としては、親水性高分子がポリビニルピロリドンの場合には、例えば、ジメチルアセトアミド(以下、DMACと称する)、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、スルホラン、ジオキサン等の溶媒、あるいは上記溶媒2種以上の混合液からなる溶媒が挙げられる。なお、孔径制御のため、紡糸原液には水などの添加物を加えても良い。
【0041】
中空糸膜を製膜するに際しては、チューブインオリフィス型の紡糸口金を用い、該紡糸口金のオリフィスからの紡糸原液と、チューブからの中空内液と、を同時に空中に吐出させる。中空内液は紡糸原液を凝固させる為のものであり、水、または水を主体とした凝固液が使用できる。中空内液は、目的とする中空糸膜の限外濾過性能などの性能に応じてその組成等は決めていけば良く、一概には決められないが、一般的には紡糸原液に使った溶剤と水との混合溶液が好適に使用される。例えば、中空内液として、0〜65重量%のDMAC水溶液などが用いられる。紡糸口金から中空内液とともに吐出された紡糸原液は、空走部を走行し、紡糸口金下部に設置した水を主体とする凝固浴中へ導入、浸漬されて凝固が完了する。その後、凝固した中空糸の洗浄工程等を経て、湿潤状態の中空糸膜巻き取り機で巻き取り、中空糸膜の束を得、その後乾燥する。あるいは、洗浄工程を経て、続いて乾燥機内にて乾燥を行い、中空糸束を得ても良く、製造方法を特定するものではない。
【0042】
中空糸を用いたフィルタの製造方法に関しても公知の方法を利用すればよい。例えば、中空糸膜束を流体の出入口を持つ筒状の容器へ挿入し、両束端にポリウレタン等のポッティング剤を注入してポッティング層を形成して両端をシールした後、硬化後の余分なポッティング剤を切断除去し中空糸端面を開口させ、流体の出入口を持つヘッダーを取り付けることにより製造できる。この方法により中空糸膜束が容器に充填され、中空糸膜内側室と中空糸膜外側室とが形成され、中空糸膜内側室に通じる流体出入口および中空糸膜外側室に通じる流体出入口を持つ中空糸膜型濃縮フィルタが製造できる。
【0043】
本発明の装置及び方法により得られる濃厚タンパク質溶液のタンパク質濃度は7g/dL以上である。この濃度以下であると、患者に投与しても、患者の血中タンパク質濃度上昇効果が低く、患者が再度腹水を貯留してしまいやすいなどの弊害がある。またタンパク質濃度は10g/dL以上とすることが上記効果から好ましい。
【0044】
本発明の装置及び方法は、追加濃縮工程なしに、短時間で、タンパク質濃度を5倍程度まで濃縮することを可能としたものである。濃縮後のタンパク質濃度を、初期のタンパク質濃度で割った値をタンパク質濃縮倍率とし、タンパク質濃縮倍率を、濃縮後のタンパク質溶液の液量が初期のタンパク質溶液の液量の5分の1以下に達するのに必要な時間(分)で割った値を、時間当たりのタンパク質濃縮倍率とすると、時間当たりのタンパク質濃縮倍率は、0.10倍/分以上であることが好ましく、0.15倍/分以上であることがより好ましい。
【0045】
(第2実施形態)
図2に示す腹水濾過濃縮装置200は、各構成部位における液体の落差圧により腹水を送液するようにしたものである。落差圧を利用した送液を行うために、腹水濾過濃縮装置200では、濾過用フィルタ3の入口3aにおける液体の落差圧が、貯留容器1の出口1bにおける液体の落差圧よりも低くなるように配置され、かつ、回収容器2の入口2aにおける液体の落差圧が、濃縮用フィルタ4の濃縮液出口4bにおける液体の落差圧よりも低くなるように配置されている。また、濃縮用フィルタ4の腹水流入口4aにおける液体の落差圧が、濾過用フィルタ3の濾液出口3cにおける液体の落差圧よりも低くなるように配置されている。
【0046】
上記のような配置の具体例として、図2に示すように、濾過用フィルタ3と貯留容器1とは、入口3aの上下位置が出口1bの上下位置よりも低くなるような位置関係で配置される。回収容器2と濃縮用フィルタ4とは、入口2aの上下位置が濃縮液出口4bの上下位置よりも低くなるような位置関係で配置される。また、濃縮用フィルタ4と濾過用フィルタ3とは、腹水流入口4aの上下位置が濾液出口3cの上下位置よりも低くなるような位置関係で配置される。以上のような配置により、各流路31〜35で落差圧を利用した送液が行われるので、ポンプ5や制御装置41(図1参照)を省略することもできる。なお、図2に表わされる各部位の上下位置関係は、実際の腹水濾過濃縮装置200の各部位の上下位置関係にそのまま対応するものとする。また、腹水濾過濃縮装置200において、前述の腹水濾過濃縮装置100と同一又は同等な構成部分には同一符号を付し重複する説明を省略する。
【0047】
(第3実施形態)
図3に示す腹水濾過濃縮装置300では、濃縮用フィルタ4の腹水流入口4aにおける液体の落差圧が、濾過用フィルタ3の濾液出口3cにおける液体の落差圧と等しくなるように配置されている。具体的には、濃縮用フィルタ4と濾過用フィルタ3とは、腹水流入口4aの上下位置が濾液出口3cの上下位置と同じ高さになるような位置関係で配置される。これ以外の部位の位置関係は前述の腹水濾過濃縮装置200と同様である。なお、図3に表わされる各部位の上下位置関係は、実際の腹水濾過濃縮装置300の各部位の上下位置関係にそのまま対応するものとする。また、腹水濾過濃縮装置300において、前述の腹水濾過濃縮装置200と同一又は同等な構成部分には同一符号を付し重複する説明を省略する。
【0048】
以上説明した腹水濾過濃縮装置100,200,300及び高濃度タンパク質溶液の製造方法によれば、濃縮用フィルタ4が、腹水を濃縮処理するのに最適な限外濾過性能を有するので、濃縮速度の低下が抑えられ、またタンパク質を損失することなく高倍率にまで濃縮することができる。また、濃縮用フィルタ4の最適な限外濾過性能ゆえに、濃縮速度の低下はほとんど発生しない。よって施行者の手技を容易にでき、また短時間で処理が完了するので、患者は早くタンパク質溶液の投与を受けることができ、拘束時間が短い。
【実施例】
【0049】
以下、実施例に従って本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
以下、腹水濃縮性能の試験の方法を示す。3g/dLの総タンパク質濃度に調整した牛血漿を擬似腹水とし、3L用意した。擬似腹水として細胞成分のない牛血漿を用いていることから、本擬似腹水は濾過器を通過したものとみなすことができるため、本試験では濾過器を省略しても結果に影響はないと判断し、濾過用フィルタ3は省略した方法で実施した。すなわち、図4に示す試験装置400によって、実施例・比較例に係る各濃縮用フィルタ54の性能試験を行った。試験装置400は、図1に示す装置100において、第1流路31と第2流路32とを、濾過用フィルタ3を介さずに直接接続する構造としたものである。貯留容器1及び回収容器2にはポリ塩化ビニル製のバッグを用い、おのおのの流路にはポリ塩化ビニル製のチューブ、ポンプ5にはローラーポンプ、制御部15としてローラークランプを用いた。ポンプ5を毎分100mLの流量となるよう調整し、擬似腹水を濃縮用フィルタ54へ導入した。
【0051】
濃縮目標については、濃厚タンパク質溶液として15g/dL程度のタンパク質濃度を得るために、濃厚タンパク質溶液のタンパク質濃度が、被処理液のタンパク質濃度の5倍程度になるまで濃縮することを目標とした。タンパク質濃度を5倍程度に濃縮するため、濃厚タンパク質溶液の液量が、被処理液の液量の5分の1以下になるよう調節を行った。具体的には、濃縮用フィルタ54の濾液排出口4cより排出される廃液の流量と、濃縮用フィルタ54の上方に設置した回収容器2への流入量と、をローラークランプ15の流路35圧迫度によって調整しながら、擬似腹水の濃縮を行った。3Lの擬似腹水全てを濃縮用フィルタ54へ導入したところ、すなわち30分後にローラーポンプを停止し、回収容器2に回収された液量を重量法で測定し、液量が被処理液の5分の1以下に達していればここで処理を終了し、達していなければ、回路、ローラーポンプを組み替え、回収容器2内の回収液の追加濃縮を行った。追加濃縮量は、濃厚タンパク質溶液の液量が被処理液の5分の1以下に達するのに必要な、残り廃液量を計算し、これに基づき実施した。各フィルタの評価は追加濃縮が必要であったか否かと、目標までの濃縮処理にかかった時間、及び回収された濃厚タンパク質溶液のタンパク質濃度を指標とした。
【0052】
[実施例1]
ポリスルホン樹脂(ソルベイ社製、P−1700)18重量部、ポリビニルピロリドン(以下PVPとも言う)(日本触媒社製、K−85N)5重量部、N,N−ジメチルアセトアミド(以下、DMACとも言う)77重量部からなる均一な製膜原液を作成した。40重量%のN,N−ジメチルアセトアミド水溶液を中空内液と同時に二重紡口から押し出し、外界から遮断するためにとりつけたフードの中を通って30cm下方に設けた50℃の水からなる凝固浴中に浸漬し50m/minの速度で巻取った。得られた中空糸膜は20重量%のグリセリン水溶液で処理した後、75℃で乾燥した。膜面積1.5m2になるように中空糸膜束を調整し、筒状容器に装填し、両端をポリウレタン樹脂でポッティング加工してポリスルホン中空糸膜フィルタを作製した。本フィルタの限外濾過性能は107mL/分/200mmHgであった。本フィルタを前述の濃縮用フィルタ54として腹水濃縮性能試験に供したところ、全ての擬似腹水を追加濃縮せずに液量が被処理液の5分の1以下になるまで処理することができ、追加濃縮工程は不要であった。よって濃縮時間は30分である。時間当たりのタンパク質濃縮倍率は、0.17倍/分であった。得られたタンパク質溶液の濃度を表1に示す。
【0053】
[実施例2]
膜面積を1.1m2になるようにした以外は実施例1と同じ方法で、ポリスルホン中空糸膜フィルタを作製した。本フィルタの限外濾過性能は88mL/分/200mmHgであった。本フィルタを前述の濃縮用フィルタ54として腹水濃縮性能試験に供したところ、全ての擬似腹水を処理し、回収液量を測定したところ、全ての擬似腹水を追加濃縮せずに液量が被処理液の5分の1以下になるまで処理することができ、追加濃縮工程は不要であった。よって濃縮時間は30分である。時間当たりのタンパク質濃縮倍率は0.17倍/分であった。得られたタンパク質溶液の濃度を表1に示す。
【0054】
[実施例3]
膜面積を2.1m2になるようにした以外は実施例1と同じ方法で、ポリスルホン中空糸膜フィルタを作製した。本フィルタの限外濾過性能は134mL/分/200mmHgであった。本フィルタを前述の濃縮用フィルタ54として腹水濃縮性能試験に供したところ、全ての擬似腹水を処理し、回収液量を測定したところ、全ての擬似腹水を追加濃縮せずに液量が被処理液の5分の1以下になるまで処理することがで、追加濃縮工程は不要であった。よって濃縮時間は30分である。時間当たりのタンパク質濃縮倍率は0.16倍/分であった。得られたタンパク質溶液の濃度を表1に示す。
【0055】
[比較例1]
限外濾過性能が77mL/分/200mmHgである旭化成クラレメディカル社製の腹水濃縮器、AHF-UNH(ポリアクリロニトリル中空糸、1.1m2)を用い、当該濾過器を前述の濃縮用フィルタ54に適用して腹水濃縮性能試験を実施した。全ての擬似腹水を処理し、回収液量を測定したところ、液量が被処理液の5分の1以下に達しておらず、追加濃縮工程が必要であった。追加濃縮工程により、液量が被処理液の5分の1以下に達するのに、30分の時間を要したため、濃縮時間は1時間であった。時間当たりのタンパク質濃縮倍率は0.09倍/分であった。得られたタンパク質溶液の濃度を表1に示す。
【0056】
[比較例2]
PSf(ソルベイ社製、P−1700)18重量部、PVP(日本触媒社製、K−85N)4.5重量部、ジメチルアセトアミド77.5重量部からなる均一な紡糸原液を作成した。DMAC57%水溶液の中空内液と同時に二重紡口から押し出し外界から遮断するためにとりつけたフードの中を通って90cm下方に設けた水よりなる75℃の凝固浴に浸漬し、40m/分の速度で巻き取った。得られた中空糸膜は40重量%のグリセリン水溶液で処理した後、80 ℃で乾燥した。
【0057】
膜面積2.0m2になるように中空糸膜束を調整し、筒状容器に装填し両端をポリウレタン樹脂でポッティング加工してポリスルホン中空糸膜フィルタを作製した。本フィルタの限外濾過性能は170mL/分/200mmHgであった。本フィルタを前述の濃縮用フィルタ54として腹水濃縮性能試験に供したところ、30分程度で、被処理液の5分の1液量のタンパク質溶液を得た。しかし、タンパク質は濃縮されておらず、得られたタンパク質溶液のタンパク質濃度は処理前とほぼ同じであった。時間当たりのタンパク質濃縮倍率は0.03倍/分であった。得られたタンパク質溶液の濃度を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
実施例1、2では、追加濃縮工程なく、また7g/dL以上の濃いタンパク質溶液を得ることができた。一方限外濾過性能が低いフィルタを使用した比較例1では追加濃縮工程が必要で、濃縮に時間がかかる。また、限外濾過性能が非常に高いフィルタを用いた比較例2では、タンパク質が濃縮されておらず、低いタンパク質濃度のタンパク質溶液しか得られない。
【0060】
以上より、本発明の装置及び方法を実施すると、短時間で、高濃度のタンパク質溶液を得ることができる。
【符号の説明】
【0061】
1…貯留容器、1b…出口(貯留容器と第1流路との接続部)、2…回収容器、2a…入口(回収容器と第4流路との接続部)、3…濾過用フィルタ、3a…濾過用フィルタの入口、3b…濾過用フィルタの出口、3c…濾液出口(腹水濾過用フィルタの濾過側出口)、4…濃縮用フィルタ、4a…腹水流入口(腹水濃縮用フィルタの入口)、4b…濃縮液出口(腹水濃縮用フィルタの出口)、4c…濾液排出口(腹水濃縮用フィルタの濾過側出口)、5…ポンプ(制御手段)、14,15…制御部(制御手段)、31…第1流路、32…第2流路、33…第3流路、34…第4流路、35…第5流路、41…制御装置(制御手段)、100,200,300…腹水濾過濃縮装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞成分を含む採取されたタンパク質溶液を貯留する貯留容器と、
前記貯留容器内のタンパク質溶液中に存在する前記細胞成分を分離可能な中空糸膜型の腹水濾過用フィルタと、
一端が前記貯留容器に接続され他端が前記腹水濾過用フィルタの入口に接続された第1の流路と、
限外濾過性能が85mL〜150mL/分/200mmHgであり親水性高分子が付与されたポリスルホン系中空糸膜型の腹水濃縮用フィルタと、
前記腹水濾過用フィルタの濾過側出口に接続され、他端が前記腹水濃縮用フィルタの入口に接続された第2の流路と、
前記腹水濾過用フィルタの出口に接続された第3の流路と、
前記腹水濃縮用フィルタで濃縮されたタンパク質溶液を回収する回収容器と、
一端が前記腹水濃縮用フィルタの出口に接続され、他端が前記回収容器に接続された第4の流路と、
前記腹水濃縮用フィルタの濾過側出口に接続された第5の流路と、
を備えた、腹水濾過濃縮装置。
【請求項2】
前記貯留容器内に貯留された前記タンパク質溶液を前記第1の流路を通して前記腹水濾過用フィルタに送液し、前記細胞成分が除去された濾過済タンパク質溶液を前記腹水濾過用フィルタの濾過側出口から前記第2の流路に送出させるとともに、前記細胞成分を含む溶液を前記腹水濾過用フィルタの出口から第3の流路に排出させるステップと、
前記第2の流路に送出された前記濾過済タンパク質溶液を前記腹水濃縮用フィルタに送液し、濃縮された濃厚タンパク質溶液を前記腹水濃縮用フィルタの出口から第4の流路に送出させるとともに、水溶液を前記腹水濃縮用フィルタの濾過側出口から第5の流路に水溶液を排出させるステップと、
前記第4の流路に送出された前記濃厚タンパク質溶液を、前記回収容器に回収するステップと、を行い、
前記第1〜第5の流路のうちの少なくとも1つの流路の流量を制御する制御手段を更に備える、請求項1に記載の腹水濾過濃縮装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記第1の流路に設けられた送液ポンプを含む、請求項2に記載の腹水濾過濃縮装置。
【請求項4】
前記腹水濾過用フィルタは、該腹水濾過用フィルタの入口における液体の落差圧が前記貯留容器と前記第1の流路との接続部における液体の落差圧よりも低くなるような位置に配置され、かつ、
前記回収容器は、該回収容器と前記第4の流路との接続部における液体の落差圧が前記腹水濃縮用フィルタの出口における液体の落差圧よりも低くなるような位置に配置された、
請求項1に記載の腹水濾過濃縮装置。
【請求項5】
前記腹水濃縮用フィルタは、該腹水濃縮用フィルタの入口における液体の落差圧が前記腹水濾過用フィルタの濾過側出口における液体の落差圧と等しくなるような位置に配置された、請求項4に記載の腹水濾過濃縮装置。
【請求項6】
前記腹水濃縮用フィルタは、該腹水濃縮用フィルタの入口における液体の落差圧が前記腹水濾過用フィルタの濾過側出口における液体の落差圧よりも低くなるような位置に配置された、請求項4に記載の腹水濾過濃縮装置。
【請求項7】
前記腹水濃縮用フィルタの限外濾過性能が腹水の濃縮処理に最適なものであることから、腹水の濃縮が1回で足り、追加濃縮工程を必要としないことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の腹水濾過濃縮装置。
【請求項8】
前記腹水濃縮用フィルタによる1回の濃縮で、タンパク質濃度を5倍以上に濃縮することが可能なことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の腹水濾過濃縮装置。
【請求項9】
前記腹水濃縮用フィルタによる1回の濃縮で、タンパク質濃度が7g/dl以上の濃厚タンパク質溶液を得られることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の腹水濾過濃縮装置。
【請求項10】
細胞成分を含む採取されたタンパク質溶液を貯留する貯留容器と、
前記貯留容器内のタンパク質溶液中に存在する前記細胞成分を分離可能な中空糸膜型の腹水濾過用フィルタと、
一端が前記貯留容器に接続され他端が前記腹水濾過用フィルタの入口に接続された第1の流路と、
時間当たりのタンパク質濃縮倍率が0.1倍/分以上であり親水性高分子が付与されたポリスルホン系中空糸膜型の腹水濃縮用フィルタと、
前記腹水濾過用フィルタの濾過側出口に接続され、他端が前記腹水濃縮用フィルタの入口に接続された第2の流路と、
前記腹水濾過用フィルタの出口に接続された第3の流路と、
前記腹水濃縮用フィルタで濃縮されたタンパク質溶液を回収する回収容器と、
一端が前記腹水濃縮用フィルタの出口に接続され、他端が前記回収容器に接続された第4の流路と、
前記腹水濃縮用フィルタの濾過側出口に接続された第5の流路と、
を備えた、腹水濾過濃縮装置。
【請求項11】
タンパク質濃度が5g/dL以下の低濃度タンパク質溶液を貯留容器に貯留する工程と、
前記貯留容器に貯留された前記低濃度タンパク質溶液を、限外濾過性能が85mL〜150mL/分/200mmHgであり親水性高分子が付与されたポリスルホン系中空糸膜型フィルタに通液させ、前記フィルタの濾過側出口からタンパク質濃度が100mg/dL以下である低濃度タンパク質溶液を送出させるとともに、前記フィルタの出口からタンパク質濃度が7g/dL以上である高濃度タンパク質溶液を送出させる工程と、
前記フィルタの出口から送出された前記高濃度タンパク質溶液を回収容器に回収する工程と、を含む、高濃度タンパク質溶液の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−125557(P2012−125557A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256180(P2011−256180)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(507365204)旭化成メディカル株式会社 (65)
【Fターム(参考)】