腹足類の剥離方法
【課題】生簀または水槽の壁面に付着するエゾアワビやクロアワビなどの腹足類を安全かつ効率よく剥離し得る腹足類の剥離方法を提供することを課題とする。
【解決手段】壁面に腹足類が付着する生簀または水槽内に、ニコチン酸、ニコチン酸アミドまたはそれらの混合物を含有する腹足類の剥離剤を、該生簀または水槽内のニコチン酸濃度（但し、ニコチン酸アミドはニコチン酸換算濃度）が１〜１０００ｍｇ／リットルになるように添加して、生簀または水槽の壁面に付着する腹足類を剥離させることを特徴とする腹足類の剥離方法により、上記の課題を解決する。
【解決手段】壁面に腹足類が付着する生簀または水槽内に、ニコチン酸、ニコチン酸アミドまたはそれらの混合物を含有する腹足類の剥離剤を、該生簀または水槽内のニコチン酸濃度（但し、ニコチン酸アミドはニコチン酸換算濃度）が１〜１０００ｍｇ／リットルになるように添加して、生簀または水槽の壁面に付着する腹足類を剥離させることを特徴とする腹足類の剥離方法により、上記の課題を解決する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明は、腹足類の剥離方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、生簀または水槽の壁面に付着する腹足類を安全かつ効率よく剥離し得る腹足類の剥離方法に関する。
【背景技術】
【０００２】
アワビの種苗を生産する過程、例えば付着硅藻から海藻への飼料転換、殻長別の選り分け、密度調整などにおいては、稚貝を採苗器から剥離する作業が不可欠である。これらの剥離作業では、作業効率や作業時の稚貝の生残率を向上させるためのより有効な技術開発が広く要望されている。
【０００３】
従来から、アワビの種苗生産現場では、アワビの剥離方法として主に温水剥離法や麻酔剥離法が採用されてきた。
温水剥離法は、付着したアワビを温水に浸漬してアワビを剥離する方法であり、特に殻長１０ｍｍ以下の稚貝に対して効率が悪いという問題がある。
【０００４】
麻酔剥離法は、薬剤で一時的にアワビの知覚を鈍麻・消失させ、その間にアワビを剥離する方法であり、例えば、薬剤として塩化カリウムを用いる方法（浜田サツ子，「アワビの事故死を防ごう」，養殖，株式会社緑書房，１９６５年，２月号，ｐ．４３〜４５：非特許文献１）およびパラアミノ安息香酸エチルを用いる方法（小畑千賀志ら，「パラアミノ安息香酸エチルによるアワビ稚貝の麻酔剥離」，栽培技研，１９８１年，第１０巻，第１号，ｐ．２９〜３４：非特許文献２）などがある。
しかしながら、これらの麻酔剥離法は実用化に対して問題がある。例えば、非特許文献２の方法では、アワビが麻酔からの回復するまでの時間が長く、大量処理時に海水により薬剤濃度が低下するという問題がある。
【０００５】
また、特公昭５２−７０５３号公報（特許文献１）には、ニコチン酸アミドを含有する二枚貝の開殻および除具用薬剤が開示されている。この薬剤は、ムラサキイガイ、アサリ、スミノエガキ、アコヤガイなどの二枚貝を対象とし、海水利用工業における二枚貝による各種障害の防止、二枚貝の養殖時における開殻に用いられる。具体的には、ニコチン酸アミドを含有する薬剤は二枚貝に作用して開殻させ、二枚貝を付着面から剥離させる。
【０００６】
ムラサキイガイのような二枚貝は、足から足糸を分泌して海水冷却水系などの壁面や岸壁などに付着する。
一方、アワビのような腹足類は、二枚貝とは異なるメカニズム、すなわち足裏から分泌される粘着物質（タンパク質）により壁面に付着する。
上記特許文献１には、腹足類の剥離効果については一切記載されておらず、また上記のような付着メカニズムの違いから、特許文献１に記載の薬剤を腹足類の剥離剤として転用することは、技術的に想定し得なかった。
【０００７】
【特許文献１】特公昭５２−７０５３号公報
【非特許文献１】浜田サツ子，「アワビの事故死を防ごう」，養殖，株式会社緑書房，１９６５年，２月号，ｐ．４３〜４５
【非特許文献２】小畑千賀志ら，「パラアミノ安息香酸エチルによるアワビ稚貝の麻酔剥離」，栽培技研，１９８１年，第１０巻，第１号，ｐ．２９〜３４
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００８】
本発明は、生簀または水槽の壁面に付着するエゾアワビやクロアワビなどの腹足類を安全かつ効率よく剥離し得る腹足類の剥離方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【０００９】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、意外にもニコチン酸またはニコチン酸アミドが腹足類の剥離効果を有することを見出し、本発明を完成するに到った。
【００１０】
かくして、本発明によれば、壁面に腹足類が付着する生簀または水槽内に、ニコチン酸、ニコチン酸アミドまたはそれらの混合物を含有する腹足類の剥離剤を、該生簀または水槽内のニコチン酸濃度（但し、ニコチン酸アミドはニコチン酸換算濃度）が１〜１０００ｍｇ／リットルになるように添加して、生簀または水槽の壁面に付着する腹足類を剥離させることを特徴とする腹足類の剥離方法が提供される。
【発明の効果】
【００１１】
本発明は、生簀または水槽の壁面に付着するエゾアワビやクロアワビなどの腹足類を安全かつ効率よく剥離し得る腹足類の剥離方法を提供することができ、産業上極めて有用である。
また、ニコチン酸およびニコチン酸アミドは、別名ナイアシンおよびナイアシンアミドと呼ばれるビタミンＢ複合体の一つあり、腹足類や周辺環境に悪影響を及ぼすことがなく、本発明の剥離方法は安全性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【００１２】
本発明で剥離される腹足類としては、巻貝類、ナメクジ類、マイマイ、カタツムリ類などが挙げられる。
巻貝類としては、例えば、エゾアワビ、クロアワビ、マダカアワビ、メガイアワビなどのミミガイ科が挙げられる。
ナメクジ類としては、例えば、コウラナメクジ、チャコウラナメクジ、ノハラナメクジなどのコウラナメクジ科；ナメクジ、ヤマナメクジなどのナメクジ科；ニワコウラナメクジなどニワコウラナメクジ科が挙げられる。
【００１３】
カタツムリ類としては、例えば、オカモノアライガイなどのオカモノアライガイ科；アフリカマイマイなどのアフリカマイマイ科；ウスカワマイマイなどのオナジマイマイ科が挙げられる。
【００１４】
本発明で使用される腹足類の剥離剤は、ニコチン酸、ニコチン酸アミドまたはそれらの混合物を含有することを特徴とする。
本発明で使用されるニコチン酸およびニコチン酸アミドとしては、通常、工業用として市販されているものが挙げられる。
本発明におけるニコチン酸およびニコチン酸アミドによる腹足類の剥離の作用機序は定かでないが、ナイアシンが腹足類に対して筋弛緩作用を及ぼしているものと考えられる。
【００１５】
本発明で使用される腹足類の剥離剤は、ニコチン酸およびニコチン酸アミド以外に本発明の効果を阻害しない範囲で公知の麻酔剤などを含有していてもよい。
このような麻酔剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、二酸化炭素、エタノール、フェノキシエタノール、オイゲノール、パラアミノ安息香酸エチルなどが挙げられる。
【００１６】
本発明で使用される腹足類の剥離剤は、液剤、固形剤など種々の剤型が可能であり、公知の方法により製剤化することができる。
【００１７】
液剤とする場合には、例えば、ニコチン酸、ニコチン酸アミドまたはそれらの混合物とその他の構成成分とを水に溶解または分散させて製剤化することができる。また、必要に応じて、水溶性有機溶媒を加えてもよい
液剤中のニコチン酸、ニコチン酸アミドまたはそれらの混合物のニコチン酸濃度（但し、ニコチン酸アミドはニコチン酸換算濃度）としては、通常、１〜５０％が好ましく、２０〜５０％が特に好ましい。
【００１８】
固形剤とする場合には、例えば、ニコチン酸、ニコチン酸アミドまたはそれらの混合物とその他の構成成分とを固体希釈剤（例えば、カオリン、クレー、ベントナイト、ＣＭＣ、二酸化チタン、ホワイトカーボン、タルク、木粉、澱粉、デキストリン、シリカゲル粉末、無水石膏、水酸化カルシウムなどのカルシウム塩など）で希釈し、混合粉砕して製剤化することができる。
固形剤中のニコチン酸、ニコチン酸アミドまたはそれらの混合物のニコチン酸含有量（但し、ニコチン酸アミドはニコチン酸換算重量）としては、製剤を１００重量部としたとき、５〜５０重量部が好ましく、１０〜５０重量部が特に好ましい。
【００１９】
本発明の腹足類の剥離方法は、壁面に腹足類が付着する生簀または水槽内に、ニコチン酸、ニコチン酸アミドまたはそれらの混合物を含有する腹足類の剥離剤を、該生簀または水槽内のニコチン酸濃度（但し、ニコチン酸アミドはニコチン酸換算濃度）が１〜１０００ｍｇ／リットルになるように添加して、生簀または水槽の壁面に付着する腹足類を剥離させることを特徴とする。
【００２０】
本発明の腹足類の剥離剤を生簀または水槽内に添加するにあたっては、液剤の剥離剤を海水または淡水で所定の濃度に希釈して、あるいは固形剤の剥離剤を海水または淡水で所定の濃度に溶解または分散させて用いるのが好ましい。
生簀または水槽内に剥離剤を添加し、これらを分散させて濃度を均一する方法としては、公知の方法が適用できるが、実用上、生簀または水槽の上方から剥離剤を散布する方法が、簡便であって好ましい。
【００２１】
ニコチン酸濃度は、腹足類の種類や数量、水温などの周辺状況や薬剤での処理時間により適宜設定すればよく、通常、１〜１０００ｍｇ／リットルであり、１０〜２００ｍｇ／リットルが特に好ましい。
ニコチン酸濃度が１ｍｇ／リットル未満である場合には、腹足類の剥離効果が得られないことがある。また、ニコチン酸濃度が１０００ｍｇ／リットルを超える場合には、腹足類が衰弱または斃死ことがある。
【００２２】
本発明の方法における剥離剤での処理時間（剥離剤と腹足類との接触時間）は、例えば、ニコチン酸濃度が２５ｍｇ／リットルのときは２〜１０時間、好ましくは３〜５時間である。このような処理であれば、生簀または水槽の壁面からエゾアワビやクロアワビなどの腹足類を死滅させることなく、効率よく剥離することができる。
【実施例】
【００２３】
この発明を試験例により具体的に説明するが、この発明はこれらの試験例により限定されるものではない。
【００２４】
試験例１（アワビの剥離効果確認試験）
人工海水（製品名：アクアマリン、八洲薬品株式会社製）１リットルを容量１リットルのビーカーに満たし、それぞれ表１に示す濃度１２．５ｍｇ／リットル、２０ｍｇ／リットルおよび５０ｍｇ／リットルになるようにニコチン酸アミド（キシダ化学株式会社製）を加えて試験液とした。
飼育水槽から取り出した巻貝（メガイアワビの稚貝、殻長約１５ｍｍ）を白色のポリ塩化ビニル板（２０ｃｍ×１０ｃｍ）１枚につき１０個体ずつ、巻貝同士が重なり合うことがないように離して付着させた。
得られたポリ塩化ビニル板を略鉛直方向になるように各試験液に浸漬し、それぞれ表１に示す経過時間毎（分）に落下した巻貝の累積個数を計数した。
【００２５】
また、ニコチン酸アミドの代わりに、それぞれ表１に示す濃度５０ｍｇ／リットルおよび１００ｍｇ／リットルになるようにパラアミノ安息香酸エチル（和光純薬工業株式会社製）を用いたこと以外は上記と同様にして試験した。
【００２６】
さらに、巻貝の代わりに、それぞれ二枚貝（ムラサキイガイおよびカリガネエガイの稚貝、殻長約１８ｍｍ）を用い、ニコチン酸アミドの濃度を１００ｍｇ／リットルにしたこと以外は上記と同様にして試験した。なお、人工海水中のポリ塩化ビニル板に二枚貝を並べ、一昼夜かけて二枚貝を付着させた。
得られた結果を、薬剤を用いないブランクの結果と共に表１に示す。
【００２７】
【表１】
【００２８】
表１の結果から、パラアミノ安息香酸エチルよりもニコチン酸アミドを用いた方が、低濃度でかつ短時間で巻貝を剥離できることがわかる。
また、ニコチン酸アミドは、二枚貝に対して剥離効果がないことがわかる。なお、二枚貝の試験では一晩観察を続けたが（経過時間２４時間）、剥離は観察されなかった。
【００２９】
試験例２（剥離後のアワビの安全性確認試験）
試験例１と同様にして、人工海水１リットルを容量１リットルのビーカーに満たし、それぞれ表２に示す濃度５０ｍｇ／リットル、１００ｍｇ／リットルおよび２００ｍｇ／リットルになるようにニコチン酸アミドを加えて試験液とした。
得られた各試験水に、飼育水槽から取り出した巻貝（メガイアワビの稚貝、殻長約１５ｍｍ）を１０個体ずつ３０分間浸漬した。
次いで、人工海水１リットルで満たした容量１リットルのビーカーの内底に、試験水のビーカーから取り出した巻貝を殻が下の状態になるように設置し、それぞれ表２に示す経過時間毎（分）に反転した巻貝の累積個数を計数した。反転とは、巻貝が自力で殻が下の状態から上の状態に動くことを意味する。
【００３０】
また、ニコチン酸アミドの代わりに、表２に示す濃度１００ｍｇ／リットルになるようにパラアミノ安息香酸エチル（和光純薬工業株式会社製）を用いたこと以外は上記と同様にして試験した。
得られた結果を、薬剤を用いないブランクの結果と共に表２に示す。
【００３１】
【表２】
【００３２】
表２の結果から、パラアミノ安息香酸エチルよりもニコチン酸アミドを用いた方が、短時間で巻貝が反転したことから、巻貝に対して安全性がより高いことがわかる。
【技術分野】
【０００１】
本発明は、腹足類の剥離方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、生簀または水槽の壁面に付着する腹足類を安全かつ効率よく剥離し得る腹足類の剥離方法に関する。
【背景技術】
【０００２】
アワビの種苗を生産する過程、例えば付着硅藻から海藻への飼料転換、殻長別の選り分け、密度調整などにおいては、稚貝を採苗器から剥離する作業が不可欠である。これらの剥離作業では、作業効率や作業時の稚貝の生残率を向上させるためのより有効な技術開発が広く要望されている。
【０００３】
従来から、アワビの種苗生産現場では、アワビの剥離方法として主に温水剥離法や麻酔剥離法が採用されてきた。
温水剥離法は、付着したアワビを温水に浸漬してアワビを剥離する方法であり、特に殻長１０ｍｍ以下の稚貝に対して効率が悪いという問題がある。
【０００４】
麻酔剥離法は、薬剤で一時的にアワビの知覚を鈍麻・消失させ、その間にアワビを剥離する方法であり、例えば、薬剤として塩化カリウムを用いる方法（浜田サツ子，「アワビの事故死を防ごう」，養殖，株式会社緑書房，１９６５年，２月号，ｐ．４３〜４５：非特許文献１）およびパラアミノ安息香酸エチルを用いる方法（小畑千賀志ら，「パラアミノ安息香酸エチルによるアワビ稚貝の麻酔剥離」，栽培技研，１９８１年，第１０巻，第１号，ｐ．２９〜３４：非特許文献２）などがある。
しかしながら、これらの麻酔剥離法は実用化に対して問題がある。例えば、非特許文献２の方法では、アワビが麻酔からの回復するまでの時間が長く、大量処理時に海水により薬剤濃度が低下するという問題がある。
【０００５】
また、特公昭５２−７０５３号公報（特許文献１）には、ニコチン酸アミドを含有する二枚貝の開殻および除具用薬剤が開示されている。この薬剤は、ムラサキイガイ、アサリ、スミノエガキ、アコヤガイなどの二枚貝を対象とし、海水利用工業における二枚貝による各種障害の防止、二枚貝の養殖時における開殻に用いられる。具体的には、ニコチン酸アミドを含有する薬剤は二枚貝に作用して開殻させ、二枚貝を付着面から剥離させる。
【０００６】
ムラサキイガイのような二枚貝は、足から足糸を分泌して海水冷却水系などの壁面や岸壁などに付着する。
一方、アワビのような腹足類は、二枚貝とは異なるメカニズム、すなわち足裏から分泌される粘着物質（タンパク質）により壁面に付着する。
上記特許文献１には、腹足類の剥離効果については一切記載されておらず、また上記のような付着メカニズムの違いから、特許文献１に記載の薬剤を腹足類の剥離剤として転用することは、技術的に想定し得なかった。
【０００７】
【特許文献１】特公昭５２−７０５３号公報
【非特許文献１】浜田サツ子，「アワビの事故死を防ごう」，養殖，株式会社緑書房，１９６５年，２月号，ｐ．４３〜４５
【非特許文献２】小畑千賀志ら，「パラアミノ安息香酸エチルによるアワビ稚貝の麻酔剥離」，栽培技研，１９８１年，第１０巻，第１号，ｐ．２９〜３４
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００８】
本発明は、生簀または水槽の壁面に付着するエゾアワビやクロアワビなどの腹足類を安全かつ効率よく剥離し得る腹足類の剥離方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【０００９】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、意外にもニコチン酸またはニコチン酸アミドが腹足類の剥離効果を有することを見出し、本発明を完成するに到った。
【００１０】
かくして、本発明によれば、壁面に腹足類が付着する生簀または水槽内に、ニコチン酸、ニコチン酸アミドまたはそれらの混合物を含有する腹足類の剥離剤を、該生簀または水槽内のニコチン酸濃度（但し、ニコチン酸アミドはニコチン酸換算濃度）が１〜１０００ｍｇ／リットルになるように添加して、生簀または水槽の壁面に付着する腹足類を剥離させることを特徴とする腹足類の剥離方法が提供される。
【発明の効果】
【００１１】
本発明は、生簀または水槽の壁面に付着するエゾアワビやクロアワビなどの腹足類を安全かつ効率よく剥離し得る腹足類の剥離方法を提供することができ、産業上極めて有用である。
また、ニコチン酸およびニコチン酸アミドは、別名ナイアシンおよびナイアシンアミドと呼ばれるビタミンＢ複合体の一つあり、腹足類や周辺環境に悪影響を及ぼすことがなく、本発明の剥離方法は安全性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【００１２】
本発明で剥離される腹足類としては、巻貝類、ナメクジ類、マイマイ、カタツムリ類などが挙げられる。
巻貝類としては、例えば、エゾアワビ、クロアワビ、マダカアワビ、メガイアワビなどのミミガイ科が挙げられる。
ナメクジ類としては、例えば、コウラナメクジ、チャコウラナメクジ、ノハラナメクジなどのコウラナメクジ科；ナメクジ、ヤマナメクジなどのナメクジ科；ニワコウラナメクジなどニワコウラナメクジ科が挙げられる。
【００１３】
カタツムリ類としては、例えば、オカモノアライガイなどのオカモノアライガイ科；アフリカマイマイなどのアフリカマイマイ科；ウスカワマイマイなどのオナジマイマイ科が挙げられる。
【００１４】
本発明で使用される腹足類の剥離剤は、ニコチン酸、ニコチン酸アミドまたはそれらの混合物を含有することを特徴とする。
本発明で使用されるニコチン酸およびニコチン酸アミドとしては、通常、工業用として市販されているものが挙げられる。
本発明におけるニコチン酸およびニコチン酸アミドによる腹足類の剥離の作用機序は定かでないが、ナイアシンが腹足類に対して筋弛緩作用を及ぼしているものと考えられる。
【００１５】
本発明で使用される腹足類の剥離剤は、ニコチン酸およびニコチン酸アミド以外に本発明の効果を阻害しない範囲で公知の麻酔剤などを含有していてもよい。
このような麻酔剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、二酸化炭素、エタノール、フェノキシエタノール、オイゲノール、パラアミノ安息香酸エチルなどが挙げられる。
【００１６】
本発明で使用される腹足類の剥離剤は、液剤、固形剤など種々の剤型が可能であり、公知の方法により製剤化することができる。
【００１７】
液剤とする場合には、例えば、ニコチン酸、ニコチン酸アミドまたはそれらの混合物とその他の構成成分とを水に溶解または分散させて製剤化することができる。また、必要に応じて、水溶性有機溶媒を加えてもよい
液剤中のニコチン酸、ニコチン酸アミドまたはそれらの混合物のニコチン酸濃度（但し、ニコチン酸アミドはニコチン酸換算濃度）としては、通常、１〜５０％が好ましく、２０〜５０％が特に好ましい。
【００１８】
固形剤とする場合には、例えば、ニコチン酸、ニコチン酸アミドまたはそれらの混合物とその他の構成成分とを固体希釈剤（例えば、カオリン、クレー、ベントナイト、ＣＭＣ、二酸化チタン、ホワイトカーボン、タルク、木粉、澱粉、デキストリン、シリカゲル粉末、無水石膏、水酸化カルシウムなどのカルシウム塩など）で希釈し、混合粉砕して製剤化することができる。
固形剤中のニコチン酸、ニコチン酸アミドまたはそれらの混合物のニコチン酸含有量（但し、ニコチン酸アミドはニコチン酸換算重量）としては、製剤を１００重量部としたとき、５〜５０重量部が好ましく、１０〜５０重量部が特に好ましい。
【００１９】
本発明の腹足類の剥離方法は、壁面に腹足類が付着する生簀または水槽内に、ニコチン酸、ニコチン酸アミドまたはそれらの混合物を含有する腹足類の剥離剤を、該生簀または水槽内のニコチン酸濃度（但し、ニコチン酸アミドはニコチン酸換算濃度）が１〜１０００ｍｇ／リットルになるように添加して、生簀または水槽の壁面に付着する腹足類を剥離させることを特徴とする。
【００２０】
本発明の腹足類の剥離剤を生簀または水槽内に添加するにあたっては、液剤の剥離剤を海水または淡水で所定の濃度に希釈して、あるいは固形剤の剥離剤を海水または淡水で所定の濃度に溶解または分散させて用いるのが好ましい。
生簀または水槽内に剥離剤を添加し、これらを分散させて濃度を均一する方法としては、公知の方法が適用できるが、実用上、生簀または水槽の上方から剥離剤を散布する方法が、簡便であって好ましい。
【００２１】
ニコチン酸濃度は、腹足類の種類や数量、水温などの周辺状況や薬剤での処理時間により適宜設定すればよく、通常、１〜１０００ｍｇ／リットルであり、１０〜２００ｍｇ／リットルが特に好ましい。
ニコチン酸濃度が１ｍｇ／リットル未満である場合には、腹足類の剥離効果が得られないことがある。また、ニコチン酸濃度が１０００ｍｇ／リットルを超える場合には、腹足類が衰弱または斃死ことがある。
【００２２】
本発明の方法における剥離剤での処理時間（剥離剤と腹足類との接触時間）は、例えば、ニコチン酸濃度が２５ｍｇ／リットルのときは２〜１０時間、好ましくは３〜５時間である。このような処理であれば、生簀または水槽の壁面からエゾアワビやクロアワビなどの腹足類を死滅させることなく、効率よく剥離することができる。
【実施例】
【００２３】
この発明を試験例により具体的に説明するが、この発明はこれらの試験例により限定されるものではない。
【００２４】
試験例１（アワビの剥離効果確認試験）
人工海水（製品名：アクアマリン、八洲薬品株式会社製）１リットルを容量１リットルのビーカーに満たし、それぞれ表１に示す濃度１２．５ｍｇ／リットル、２０ｍｇ／リットルおよび５０ｍｇ／リットルになるようにニコチン酸アミド（キシダ化学株式会社製）を加えて試験液とした。
飼育水槽から取り出した巻貝（メガイアワビの稚貝、殻長約１５ｍｍ）を白色のポリ塩化ビニル板（２０ｃｍ×１０ｃｍ）１枚につき１０個体ずつ、巻貝同士が重なり合うことがないように離して付着させた。
得られたポリ塩化ビニル板を略鉛直方向になるように各試験液に浸漬し、それぞれ表１に示す経過時間毎（分）に落下した巻貝の累積個数を計数した。
【００２５】
また、ニコチン酸アミドの代わりに、それぞれ表１に示す濃度５０ｍｇ／リットルおよび１００ｍｇ／リットルになるようにパラアミノ安息香酸エチル（和光純薬工業株式会社製）を用いたこと以外は上記と同様にして試験した。
【００２６】
さらに、巻貝の代わりに、それぞれ二枚貝（ムラサキイガイおよびカリガネエガイの稚貝、殻長約１８ｍｍ）を用い、ニコチン酸アミドの濃度を１００ｍｇ／リットルにしたこと以外は上記と同様にして試験した。なお、人工海水中のポリ塩化ビニル板に二枚貝を並べ、一昼夜かけて二枚貝を付着させた。
得られた結果を、薬剤を用いないブランクの結果と共に表１に示す。
【００２７】
【表１】
【００２８】
表１の結果から、パラアミノ安息香酸エチルよりもニコチン酸アミドを用いた方が、低濃度でかつ短時間で巻貝を剥離できることがわかる。
また、ニコチン酸アミドは、二枚貝に対して剥離効果がないことがわかる。なお、二枚貝の試験では一晩観察を続けたが（経過時間２４時間）、剥離は観察されなかった。
【００２９】
試験例２（剥離後のアワビの安全性確認試験）
試験例１と同様にして、人工海水１リットルを容量１リットルのビーカーに満たし、それぞれ表２に示す濃度５０ｍｇ／リットル、１００ｍｇ／リットルおよび２００ｍｇ／リットルになるようにニコチン酸アミドを加えて試験液とした。
得られた各試験水に、飼育水槽から取り出した巻貝（メガイアワビの稚貝、殻長約１５ｍｍ）を１０個体ずつ３０分間浸漬した。
次いで、人工海水１リットルで満たした容量１リットルのビーカーの内底に、試験水のビーカーから取り出した巻貝を殻が下の状態になるように設置し、それぞれ表２に示す経過時間毎（分）に反転した巻貝の累積個数を計数した。反転とは、巻貝が自力で殻が下の状態から上の状態に動くことを意味する。
【００３０】
また、ニコチン酸アミドの代わりに、表２に示す濃度１００ｍｇ／リットルになるようにパラアミノ安息香酸エチル（和光純薬工業株式会社製）を用いたこと以外は上記と同様にして試験した。
得られた結果を、薬剤を用いないブランクの結果と共に表２に示す。
【００３１】
【表２】
【００３２】
表２の結果から、パラアミノ安息香酸エチルよりもニコチン酸アミドを用いた方が、短時間で巻貝が反転したことから、巻貝に対して安全性がより高いことがわかる。
【特許請求の範囲】
【請求項１】
壁面に腹足類が付着する生簀または水槽内に、ニコチン酸、ニコチン酸アミドまたはそれらの混合物を含有する腹足類の剥離剤を、該生簀または水槽内のニコチン酸濃度（但し、ニコチン酸アミドはニコチン酸換算濃度）が１〜１０００ｍｇ／リットルになるように添加して、生簀または水槽の壁面に付着する腹足類を剥離させることを特徴とする腹足類の剥離方法。
【請求項２】
腹足類が、ミミガイ科の巻貝類である請求項１に記載の腹足類の剥離方法。
【請求項３】
巻貝類が、アワビである請求項２に記載の腹足類の剥離方法。
【請求項１】
壁面に腹足類が付着する生簀または水槽内に、ニコチン酸、ニコチン酸アミドまたはそれらの混合物を含有する腹足類の剥離剤を、該生簀または水槽内のニコチン酸濃度（但し、ニコチン酸アミドはニコチン酸換算濃度）が１〜１０００ｍｇ／リットルになるように添加して、生簀または水槽の壁面に付着する腹足類を剥離させることを特徴とする腹足類の剥離方法。
【請求項２】
腹足類が、ミミガイ科の巻貝類である請求項１に記載の腹足類の剥離方法。
【請求項３】
巻貝類が、アワビである請求項２に記載の腹足類の剥離方法。
【公開番号】特開２００９−５６１４（Ｐ２００９−５６１４Ａ）
【公開日】平成２１年１月１５日（２００９．１．１５）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２００７−１６９４７６（Ｐ２００７−１６９４７６）
【出願日】平成１９年６月２７日（２００７．６．２７）
【出願人】（０００１５４７２７）株式会社片山化学工業研究所 (82)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成２１年１月１５日（２００９．１．１５）
【国際特許分類】
【出願日】平成１９年６月２７日（２００７．６．２７）
【出願人】（０００１５４７２７）株式会社片山化学工業研究所 (82)
【Ｆターム（参考）】
[ Back to top ]