説明

膜−電極接合体、これを用いた電解ユニット、電解水噴出装置及び殺菌方法

【課題】過酸化水素等の電解生成物を高濃度で溶解する電解水製造用の膜−電極接合体や電解ユニット、及びこれらを使用して得られた電解水を噴出する装置、特に得られた電解水を霧状に噴霧する小型スプレー装置を提供する。
【解決手段】棒状又は筒状の陽極7の周囲に、帯状の隔膜8を被覆し、当該隔膜の表面に帯状の多孔性カーボン材料製の陰極9を設置した膜−電極接合体、及びこれをチューブ5内に設置した電解ユニット6、及びこの電解ユニット6を有する電解水噴出装置1。得られた電解水を対象物に噴出又は噴霧することにより所望濃度の電解種での殺菌が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌や洗浄等に用いられる、電解水、特に過酸化水素水を含む電解水の噴出に用いる電極−膜接合体、これを用いた電解ユニットの構造とその電解水噴出装置(電解水スプレー装置)、及びこれらを利用する殺菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[殺菌消毒液]
従来、広範な環境における殺菌消毒剤として、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム等の塩素系殺菌剤が広く用いられている。中でも次亜塩素酸ナトリウム等次亜塩素酸塩は、価格面と効果の点で汎用されているが、医療、食品工業等、種々の分野で要求される微生物の殺菌、滅菌に対して、更にその効力を向上させるための多くの提案がなされている(特開2001−253803号公報、特開2001−342496号公報及び特開2002−145710号公報など)。
通常、このような組成物は各成分を水中に添加するか、各成分を含有する水溶液を混合することで調製される。
【0003】
[電解水の代替利用]
しかしながら、塩素系殺菌剤を多量に使用すると弊害が発生する。例えば大量に食材を取り扱う工場、小売店では100ppmを越える次亜塩素酸ナトリウムによる洗浄を行っており、これが食材の味を損なうのみならず危険性(THMの増加)を生じさせるため問題視されている。
これを解決することを主目的として、電気分解により生成される電解水が、農業、食品、医療等の分野において有用であることが鋭意検討され、日本を中心に電解水、或いは、オゾン水への代替利用が進んでいる。クリーンな電気エネルギーを利用して、電極表面で化学反応を制御することにより、水素、酸素、オゾン、過酸化水素などを合成できるが、特に陽極での酸化反応では、水処理に有効な酸化剤(有効塩素、オゾンなど過酸化物)が生成し、一部OHラジカルなどの活性種も発生することが知られている(強酸性電解水の基礎知識、オーム社)。
【0004】
電解水の優れた殺菌・消毒作用に着目し、医療現場や家庭での利用、例えば患部、切開部、留置カテーテルの経皮開口部等の殺菌、消毒、あるいはキッチン用品、ベビー用品、家具等の家庭用品、トイレ、浴槽等の住居まわりの殺菌、消毒に使用することが検討されている。このような電解水は、溶解によりイオンが生じる溶質、例えば塩化ナトリウム等を添加し、また必要に応じpH調整のための酸を添加した水(被電解水)を、電気分解することによって得られる。
【0005】
[電解水の種類]
電解水は食品添加物以外にも利用可能である。電解セルでの陽極反応は、水のみの場合、
2H2O = O2 + 4H+ + 4e (1)
の酸素発生が進行するが、触媒、電解条件によって、
3H2O = O3 + 6H+ + 6e (2)
の通りオゾンが生成し、これを溶解したオゾン水が合成できる。
【0006】
塩酸、塩化物イオンを添加した場合には、式(3)及び(4)に従って次亜塩素酸が生成するが、
Cl- = Cl + 2e (3)
Cl+ H2O = HCl + HClO (4)
硫酸を添加した場合には式(5)の通り反応して過硫酸が生成する。
2SO42- = S282-+ 2e (5)
炭酸イオンが存在する場合、式(6)の通り反応して過炭酸が生成する。
2CO32- = C262-+ 2e (6)
【0007】
陰極反応では、水素を過剰に溶解している水素水、アルカリイオン水などの合成可能である。
2H+ + 2e = H2 (7)
2H2O + 2e = H2 + 2OH- (8)
また、式(9)に過酸化水素などの合成も可能である。
2O + O2 + 2e → HO2-+ OH- (9)
このように、食品添加物として認可される酸性水のほかに、電解質の選択による複数の過酸化物を含有する電解水が製造できる。
【0008】
[電解水の特徴](参考:「水の特性と新しい利用技術」(2004年、NTS社))
食品添加物として認可されている電解水の種類には、
a)弱アルカリの電解次亜水(添加物名:電解次亜塩素酸ナトリウム水、20〜200ppm、pH>7.5、0.2〜2%食塩水原料、無隔膜)
b)微酸性電解水(添加物名:微酸性次亜塩素酸水、10〜30ppm、pH=5〜6.5、2〜6%%塩酸原料、無隔膜)
c)強酸性電解水(添加物名:強酸性次亜塩素酸水、20〜60ppm、pH<2.7、0.2%以下食塩水原料、隔膜セル陽極水)
がある。
【0009】
これらの中で酸性水のメリットは、
(1)TEMは酸性では生成しにくいため安全性が優れている。
(2)耐性菌が発生しにくい、オンサイトで管理がしやすい。
(3)アルカリ性電解水との併用処理ができる。
(4)水道水のような感覚で利用でき、手指に匂いが残らない。
(5)直前での使用で十分(殺菌時間が短い)。
などである。
従来の次亜塩素ナトリウム薬液処理では200ppmまで食品添加物として認可されているものの、味覚も悪くなり、残留性があるのに比較して、これらの電解水は装置としての初期投資はかかるが、低濃度で殺菌効果が高く、有益である。
【0010】
[オゾン水の特徴]
長期にわたる次亜塩素酸塩の使用によりこの薬剤に対する耐性菌が生じており、殺菌効果に疑念が生じている。一方、オゾン水は既に食品添加物リストに登載され、米国FDA(食品医薬品局)で食品貯蔵、製造工程での殺菌剤として認可(2001年)が得られている。既に食品工場内の殺菌、食品そのものの殺菌に多くの実績がある。最近では、皮膚科、眼科、歯科などの医療現場においても、これまでの殺菌水と同等以上の効果を発揮しつつ、生体への負荷を軽減できることが注目されている。
オゾン水のメリットとして、
(1)オゾン(OHラジカル)殺菌効果は細胞壁の酸化破壊であり無差別性のため耐性菌が存在しないといえる。
(2)残留性がない。
などがあり、必要に応じて他の残留性を有する酸化剤(次亜塩素酸塩、過硫酸塩、過炭酸塩など)と併用すれば、より有効な殺菌処理が可能となる。
【0011】
[オゾン水の従来製法]
オゾン水は従来から放電型のオゾンガス発生器を用いて製造することが一般的であり、数ppmのオゾン水を容易に製造でき、浄水処理、食品洗浄分野で利用されている。しかしながら、瞬時応答性に優れたハンディかつ高濃度なオゾン水装置の発生器としては以下の理由により不適当であった。
(1)オゾンをいったんガスとして発生させ、その後、水に溶解させる2つの工程を必要とすること。
(2)後述する電解法に比較して生成オゾン濃度が低いため高圧下で水中に注入し、溶解させ、製造する必要がある。
(3)発生電源が高電圧・高周波のため、小型化しにくい。
(4)放電によるオゾン水生成装置では、オゾンガス発生能力が安定するまで時間(数分間の待機時間)を要し、瞬時に一定濃度のオゾン水を調製することが困難である。
【0012】
[電解オゾン製造法]
電解法は、放電法に比較して電力原単位は劣るが、高濃度のオゾンガス及び水が容易に得られる特徴により、電子部品洗浄などの特殊分野で汎用されている。原理的に直流低圧電源を用いるため、瞬時応答性、安全性に優れており、小型のオゾンガス、オゾン水発生器としての利用が期待されている。また、用途に応じて電池駆動、発電機駆動、交流直流変換駆動が選択できる。
オゾン水に溶解したオゾンガスは、大気中に放置されると、目的反応により減少する以外に、大気中にオゾンガスとして散逸するため、安全性、臭気管理が不可欠となる。
【0013】
[過酸化水素水の特徴]
過酸化水素は、消毒の目的には数%の水溶液が利用され、残留しないことを前提として食品添加物としても承認されている。食品洗浄などに用いる場合は過酸化水素濃度は20〜500ppmであり、下限値未満であると十分な殺菌効果が得られず、又上限値を超えると殺菌力が強くなり過ぎて食品中への過酸化水素の残留や食品の劣化等が問題になる。
【0014】
[過酸化水素製造法]
過酸化水素は、通常アントラキノン法により合成されているが、過酸化水素自体は不安定であり、長期間の保存が不可能である。又輸送に伴う危険性、汚染対策の面から、オンサイト型の装置の需要が高まっている。電解法はその用途に最適である。
Journal of Applied Electrochemistry Vol.25, 613-(1995)では各種電解生成方法の比較が示されている。これらの発生方法はいずれもアルカリ水溶液の雰囲気で効率良く得られるため、原料としてのアルカリ成分を供給する必要があり、KOHやNaOHなどのアルカリ水溶液が必須である。Journal of Electrochemical Society Vol.141, 1174-(1994)では純水を原料とするイオン交換膜を用いた電解でオゾンと過酸化水素をそれぞれ陽極と陰極で合成する手段が提案されている。
【0015】
特開平11−269686では、導電性ダイアモンド構造を有する電極物質を含有する陽極を使用して水を電解し、酸素、オゾン及び過酸化水素を陽極室内で生成することを特徴とする過酸化水素の製造方法が開示されている。
特開2000−104189では、隔膜により少なくとも陽極室及び陰極室に区画された電解槽の陽極と陰極の間に粒子などのイオン伝導性を有する材料を配置し、原料である水及び酸素含有ガスを供給しながら電解し、過酸化水素を製造する方法を開示している。
特開2002−275671では、有効塩素や有機ハロゲン化合物が殆ど含まれない過酸化水素水を海水を原料に用いて製造する方法を開示している。
特開平7−118002では、パラジウム箔を用いた電解方法も提案されている。
【0016】
[オンサイト型小型殺菌水製造装置の開発]
医療現場や家庭でより簡易に殺菌、消毒等を行うために、携帯可能な小型の電解水噴出器が提案されている(特許文献1〜3)。特許文献4ではオゾン水の生成装置が開示されている。小型であれば、室内、水回り、食器、衣類等の家庭用あるいは業務用の消臭、殺菌、漂白、又は人体、例えば手指等の殺菌、消毒等に広く使用することができる。
【特許文献1】特開2000−79393号公報
【特許文献2】特開2000−197889号公報
【特許文献3】特開2001−276826号公報
【特許文献4】特開2004−277755号公報
【0017】
これら以外にも、特開2004−129954号公報(電気分解に必要な電力を発生する手段を有する)、特開2004−130263号公報(ピストンの内容積とセル筒部分の体積、断面積などの比率の特定している)、特開2004−130264号公報(pH調整剤、界面活性剤、塩素化合物、水からなる電解原水を用い、pH3〜8.5の電解水を得る)、特開2004−130265号公報(特開2004−130264号の電解水を泡状にして使用する)、特開2004−130266号公報(電極への電圧の印加方向を交互に変える)、特開2004−148108号公報(電極への電圧の印加電圧を可変とする)、特開2004−148109号公報(吸引経路に電極を配置する)、特開2003−93479号公報、特開2003−266073号公報、特開2002−346564号公報(スプレー部に円筒形の電極を有する分離型)及び特開2001−47048号公報(ガン型、非噴射時に目詰まり防止、モーター使用)などが知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
これまでの小型の電解スプレーでは、過酸化水素を主成分として溶解する電解水の合成装置はなく、また、オゾン水と過酸化水素を高濃度で含有する電解水の合成装置もなかった。
【0019】
以上の課題を克服すれば、電解スプレーの利用が拡大する。
【0020】
本発明は、前記課題の多くを解決でき、過酸化水素の製造も容易で、かつ高性能を得ることができる膜−電極接合体、これを用いた電解ユニット及び電解水噴出装置、及び殺菌方法を提供することを目的とする。本発明の電解水噴出装置は、原料水溶液を電解し、生成した過酸化水素水溶液を直ちに噴出して利用できる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の膜−電極接合体は、棒状又は筒状の陽極の周囲に、帯状の隔膜を被覆し、当該隔膜の表面に過酸化水素を合成するための多孔性カーボン材料を陰極として設置したことを特徴とし、また、前記過酸化水素と同時に、陽極でオゾンを合成することも可能である。
本発明の電解ユニットは、棒状又は筒状の陽極の周囲に、帯状の隔膜を被覆し、当該隔膜の表面に陰極を設置した膜−電極接合体をチューブ内に固定し、給電端子を該チューブ内の陽極及び/又は陰極に接続したことを特徴とし、本発明の過酸化水素水噴出装置は、原料水を収容した容器と、前記電解ユニットと、ヘッドを含んで成り、前記原料水を前記電解ユニットで電解して生成する過酸化水素水を前記ヘッドから噴出させることを特徴とする。
本発明方法は、棒状又は筒状の電極の周囲に、帯状の隔膜を被覆し、当該隔膜の表面に前記陰極を設置した膜−電極接合体で、原料水を電解して過酸化水素水を生成させ、生成水を殺菌対象に噴出することを特徴とする。
【0022】
本発明では、隔膜は棒状又は筒状の陽極の周囲に部分的に存在しても良く、例えば帯状の隔膜を間隔を開けて棒状又は筒状の陽極の周囲に巻きつけることができる。この場合、陽極、陰極で発生した電解生成物は容易に、反対の電極面に到達しうる。従って、(1)式により生成した酸素は、前記陰極において還元され、(9)式により過酸化水素を合成することができる。
このとき、陰極のカーボン材料を原料として消費すること及び(7)、(8)式による陰極における水素発生が抑制され、酸素ガスも消費により減少する。
オゾン水を合成する場合、通常の水素発生陰極の場合と比較して、気相中のオゾンガス分圧が高まり、これと平衡するオゾン水を高濃度で合成することができる。
【0023】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明の膜−電極接合体は、棒状又は筒状の陽極(以下棒状陽極という)の周囲に、帯状の隔膜を被覆し、当該隔膜の表面に過酸化水素を合成するための帯状の多孔性カーボン材料を陰極として設置してある。また、前記陰極で過酸化水素を生成させるのと同時に前記棒状陽極でオゾン合成を行っても良く、オゾン合成用陽極としては導電性ダイアモンド電極を好ましく使用できる。
この膜−電極接合体では、前記陽極、前記隔膜及び前記陰極が一体化しているため、一旦製造すると、取り扱い易い。その製造も前記棒状陽極に帯状の隔膜や陰極を巻きつけたり、被覆するといった簡単な操作で実施できる。なお本発明における螺旋状とは棒状陽極の周囲に隔膜や陰極が連続的に傾斜して位置することを総称する。
【0024】
この膜−電極接合体は、棒状の陽極の周囲に、帯状の隔膜を被覆し、当該隔膜の表面に帯状の陰極を設置する。前記帯状隔膜は、前記棒状の陽極の周囲に、螺旋状に被覆することが好ましく、螺旋状被覆の場合、上下に隣接する帯状隔膜が一部重なっても、あるいは上下に隣接する帯状隔膜間に間隙が生じるようにしても良い。隔膜は1枚とすることが望ましい。しかし隔膜は1枚には限定されず、水平方向のリング状の複数の帯状隔膜を間隔をあけて前記棒状の陽極の周囲に被覆しても良い。
棒状陽極の周囲に通常のシート状の隔膜を巻きつけても、シートが円滑に棒状陽極に被覆されず、密着が不十分な膜−電極接合体となってしまうが、本発明では、隔膜を帯状とし、これを前記棒状陽極に被覆するため、密着性の高い膜−電極接合体が得られる。
前記陰極は帯状に成形して隔膜に巻きつけたり、箔状にして被覆形成しても良く、箔状も「帯状」に含まれる。陰極を巻きつける場合は、前記隔膜の形状に追従するように、つまり隔膜が螺旋状の場合には螺旋状に、隔膜がリング状の場合にはリング状に巻きつけることが好ましい。
【0025】
この膜−電極接合体は、隔膜と両極を一体化しているため、この接合体をそのまま任意の電解ユニットや電解装置に組み込むだけで、隔膜で分離された陽極及び陰極を前記電解ユニット等に装着できる。
更にこの膜−電極接合体は、チューブ内に固定し、給電端子を該チューブ内の陽極及び/又は陰極に接続した電解ユニットを構成できる。
【0026】
この電解ユニットは、前記チューブ内に原料水を流通させ、この原料水を前記棒状陽極や陰極に接触させて、主に過酸化水素水を製造する。製造されるこの過酸化水素、或いはオゾンと過酸化水素を含有する水は、種々の用途に使用され、その濃度は、原料水の種類と濃度、温度、電流値、単位時間当たりの流量、電解ユニット内の原料水の流通断面積を変更することで調節できる。
【0027】
更にこの電解ユニットを、原料水を収容した容器とヘッドを含む過酸化水素水噴出装置に収容し、前記原料水を吸引して前記チューブ内を流通させると、前記原料水が前記電解ユニット内の棒状陽極や陰極に接触して電解され、オゾン、過酸化水素などの活性種が効率良くかつ高濃度で合成され、殺菌・脱色力のある電解水が生成する。この電解水は前記ヘッドのノズルから、必要に応じてポンプ等の動力を利用して、外部に霧状又は液状で放出される。
本発明方法や本発明の電解水噴出装置は、室内、水回り、食器、衣類等の家庭用あるいは業務用の消臭、殺菌、漂白、又は人体、例えば手指等の殺菌、消毒等に広く使用することができる。このように本発明の殺菌方法における「殺菌」は、殺菌以外に、消臭、漂白、消毒などを含む。
【0028】
本発明で得られる電解水は、過酸化水素を主に含むが、原料により、アルカリ性電解水、酸性電解水、新規な複合電解水(殺菌力向上を目的としたpH調製のための有機酸・界面活性剤の添加、殺菌力や清涼感を向上させる等のためのアルコールなどの添加による新規な殺菌効果の発現)などの電解水を生成できる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の、棒状陽極の周囲に、帯状の隔膜を被覆し、当該隔膜の表面に過酸化水素を合成するための多孔性カーボン材料からなる帯状の陰極を設置した膜−電極接合体は、隔膜と両極を一体的に含む接合体であるため、取り扱いが容易で、様々な電解水製造装置に簡単に装着できる。また、前記陰極とオゾンを合成する陽極を組み合わせることにより、高活性なオゾンと過酸化水素を含有する電解水を調製できる。
チューブ内に装着する際には棒状陽極の径を調節することにより得られる電解水の電解種濃度を所望値に設定できる。
得られた電解水を対象物に噴出又は噴霧することにより所望濃度の電解種での殺菌が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
次に本発明の各構成要素に関し説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
[陽極材料]
本発明の棒状陽極で酸化を行う陽極触媒には、白金、イリジウムなどの貴金属、DSA(貴金属酸化物を主体とする電極)、カーボン、導電性ダイアモンドなどがあり、耐食性の観点から、電極触媒として白金、イリジウムなどの貴金属及びそれらの酸化物、導電性ダイアモンドの使用が望ましく、これらの触媒は特にオゾン合成に好適である。また、電極基体として使用しうる材料は、長寿命の観点と処理表面への汚染が起きないように耐食性を有することが必要であり、陽極基材としてはチタン、ニオブなどの弁金属、その合金の使用が望ましい。
触媒は陽極の一部に存在すればよく、前記基材の一部が露出していても支障ない。
【0032】
ダイアモンドはドーピングにより電気伝導性の制御も可能であることから、電極材料として有望とされている。ダイアモンド電極は水の分解反応に対しては不活性であり、酸化反応では酸素以外にオゾン、過酸化水素の生成が報告されている。導電性ダイアモンドを用いることにより、電解反応が進行しやすくなり、これらの電解生成過酸化物が格段に効率良く製造される。更にダイアモンド電極では前述の電解種以外に、OHラジカル、電解質の酸化体が生成し、これらと前記電解種による殺菌、漂白効果が相乗的に利用できる。
導電性ダイアモンドを使用する際の基材としてはSi(単結晶,多結晶)のみならず,Nb、Ta、Zr、Tiや、Mo、W、黒鉛、各種カーバイドなどが使用可能であり、用途によって選択できる。
【0033】
[陰極材料]
酸素ガスから過酸化水素を合成するための帯状の多孔性カーボン材料を含む材料を陰極とする。カーボン材料としては、黒鉛、フルオロカーボンを含浸させたグラッシーカーボン及び導電性ダイアモンドなどが使用できる。
この多孔性カーボン材料は単独で使用しても、他の触媒を担持させても良い。陰極反応の一部は水素発生であるため、当該担持触媒としては、水素に対して脆化しない。白金族金属、チタン、金、銀、カーボン、ダイアモンドなどが好ましい。更にポリアニリンやチオール(SH含有有機物)などの有機材料を担持させても良い。
【0034】
それらの触媒は多孔性カーボン基材に、熱分解法、樹脂による固着法、複合メッキなどにより1〜1000g/mとなるように形成させる。反応生成ガス、液の供給、除去を速やかに行うために疎水性や親水性の材料を分散担持するのが好ましい。
過酸化水素を合成する原料である酸素は、(1)式により陽極で発生する酸素が主体となるが、空気を供給する工夫を施すことも可能である。一般に酸素濃度が大きいほど(9)式により過酸化水素を効率よく製造できる。陰極では、酸素還元反応以外は(7)、(8)式の水素発生が進行する。不足する酸素原料を補うために、空気中の酸素を供給することは好ましい。
【0035】
陰極給電体は線状とすることが好ましく、前記棒状陽極と接触しないよう隔膜の幅より小さいことが好ましい。形態としては、線状以外に箔でもよく、また、細く切断した金網でもよく、いずれも隔膜の上に沿って、螺旋状に巻きつける。又は前述の通り、隔膜表面にメッキしても良い。材料としては、白金、ニッケル、ステンレス、チタン、ジルコニウム、銀、白金めっきしたチタンなどが好適である。
【0036】
[隔膜材料]
電極反応で生成した活性な物質を安定に保つために中性隔膜やイオン交換膜が利用可能である。隔膜はフッ素樹脂系、炭化水素樹脂系のいずれでも良いが、オゾンや過酸化物に対する耐食性の面で前者が好ましい。イオン交換膜は、陽極、陰極で生成した物質が反対の電極で消費されるのを防止するとともに、液の電導度の低い場合でも電解を速やかに進行させる機能を有するため、伝導性の乏しい純水などを原料として利用する場合に好ましく使用できる。
隔膜表面に凹凸を施したり、電極表面に開口部を設けることは、気液透過性を高めることができ、好適である。
【0037】
[膜−電極接合体]
膜−電極接合体の棒状陽極の長さ及び径はスプレー要求吐出量、タンク容積により選択される。通常、長さは10mmから300mm、径は0.5mmから10mmが好ましい。当該棒状陽極の断面は、円、四角形、楕円など、あるいは中空の円筒、角筒から選択されることが望ましいが、これらに限定されない。
棒状陽極の表面に凹凸を施したり、電極表面に開口部を設けることは、気液透過性を高めるために有効である。また、中空の材料の場合、電極表面に開口部を設けることは、気液透過性を高めるために有効である。
【0038】
水流を確保するため、隔膜を棒状陽極に隙間を保ちつつ、棒状陽極に巻きつけることが好ましい。隙間を設けずに巻きつけても良い。
帯状の隔膜と陰極の厚さはそれぞれ0.1〜2mm、膜幅が0.2〜2mmの範囲であることが好ましい。これより幅が細いと巻き付け作業において、物理強度が不足するため切断され易くなる。また、太いと電解の原料や生成物の隙間からの物質移動が抑制され、電圧の増加や電流効率の低下を招く。棒状陽極に巻く帯状の隔膜と陰極の間隔は、0.1mmから1mm程度が好適である。帯状の隔膜と陰極に、予め開口部を設け、接合体の気液透過性を高めることも好ましい。開口部の寸法は、切り口周囲長さとして、1mm〜10mmが好適である。
【0039】
隔膜と陰極を螺旋状に巻きつけるときの角度は、棒状陽極の径と隔膜、陰極の幅、隔膜の隙間により特定される。例えば、隔膜の幅2mm、隙間を0.5mm、棒状陽極の直径を2mmとすると、角度は約20度となる。前述の通り、複数のリング状の隔膜を間隙をあけて水平方向(角度0度)に被覆しても良い。
隔膜、陰極や線状の陰極給電線の巻き始めの部位において、給電線の接合に配慮し、棒状陽極の両端を細く切削しておくと、前記吸引経路のチューブに収まるため好ましい。
【0040】
[電解ユニット]
前記膜−電極接合体は、チューブ状の原料水の吸引経路に接続可能なチューブ内に固定されて電解ユニットを構成するが、前記膜−電極接合体の一部のみの周囲にチューブを設置しても良い。前記チューブは、接合体が収まる径を有するが、太過ぎると、管内の流速が低下し、例えば、オゾン水合成の場合には、気液接触の効率が低下するため、高濃度の電解水を得るには不都合となる。従って所望濃度の電解水を得られるようチューブの径を選定することが好ましい。チューブの径でなく棒状陽極の径の選定により濃度調節を行っても良い。
チューブ内に接合体を設置しない場合、生成した電解水の大半をスプレー流路に流すことができず、電解水収率及び濃度が低下する。
【0041】
チューブ材料としてはPP、PVC、PEなどの炭化水素系樹脂、フッ素系樹脂、金属管などが好ましい。管が熱収縮性を有するものであれば、電解ユニット部の容積を調整でき好ましい。チューブの厚さは、電解ユニット内での発熱を速やかに除去する目的から、薄い方が好ましいが、機械的強度も必要であることから、0.05mmから2mmが好適である。
後述するスプレー構造において、最初に噴出する水は、十分に電解されていない原料水が噴出するため、電解ユニット内に存在する水量やそれ以外の配管部の容積は小さい方が好ましい。しかしながら、細過ぎると、十分な水量が吸引できなくなる恐れがある。
【0042】
適切な寸法の部材として、例えば長さ100mm、外径2mmの棒状陽極に、幅2mm、隙間0.5mm、厚さ0.35mmの隔膜、幅1.5mm、厚さ0.4mmの陰極、線径0.4mmの線状給電線を使用でき、この場合チューブの内径を6mmとすると、全体の巻き数は24回程度となり、このときの空間容積は約0.7mLとなる。従って、1回の噴出量を1mLとするスプレーであれば、1回程度の予備噴出(トリガー操作)以降は、新鮮な過酸化水素を含む電解水が利用できることになる。
電極からの2本の給電線は互いに接触することがないよう、絶縁材料で被覆しておくことが好ましい。チューブ内部から取り出した後、外側から熱収縮性を有する被覆チューブで覆い溶着し、該ユニット電解水経路と隔離することが好ましい。
【0043】
[原料水容器]
原料水を貯留する容器のタンク材質は原料水により侵されない材料を選択する。特に酸、アルカリを原料とするのでなければPE樹脂でよい。
【0044】
[原料水と生成電解水]
本発明では条件によってオゾンや次亜塩素酸イオンが生成し、その量が多い場合、過酸化水素と反応し双方の分解を促進するため、原料水中の不純物量を適宜選定する必要がある。特に塩化物を多量に含む電解液原料は避けることが好ましい。0.1M以下が好ましい。
水道水、井戸水などを原料水として使用する際は、それらの伝導度が小さいため、セル電圧に占める抵抗損失が無視できず、伝導度を高めることが好ましく、NaSO、KSO、NaCl、KCl、NaCOなどの塩、酸、アルカリを電解質として溶解することが好ましい。これらの塩は電解により過酸化物を生成し、殺菌効果の残留性を担う。濃度としては0.01〜10g/Lの範囲が好ましい。濃度が高いほど、アルカリ性であるほど、過酸化水素の効率は向上する。なお隔膜としてイオン交換膜を使用する場合には、塩の溶解が不要になることがある。
【0045】
水道水、井戸水、海水などの金属イオンを多く含む処理対象では、陰極表面に水酸化物或いは、炭酸化物が沈殿し反応が阻害される恐れがある。また陽極表面にはシリカなどの酸化物が析出する。これを防ぐために、適当な時間(1分から1時間)ごとに逆電流を流すことにより、陰極では酸性化し、陽極ではアルカリ化するため、発生ガス及び供給水の流動により加速され、析出物の脱離反応が容易に進行する。
生成する電解水は目的により組成・濃度を制御しうる。目的対象に従って適切に過酸化物を選択すればよい。過酸化水素は5〜500ppm、次亜塩素酸では1〜100ppm、オゾン水濃度は1〜20ppm、過硫酸は1〜100ppm、過炭酸では1〜100ppmである。
【0046】
一般には、アルカリ性溶液よりも酸性溶液の方が殺菌力の高い場合が多く、特に芽胞菌等にはアルカリ性溶液よりも酸性溶液の殺菌力が高いが、カビに対する殺菌力は酸性溶液よりもアルカリ性溶液が高い。そこで、噴出対象物に応じて殺菌力を向上させるため、溶液の液性を酸性又はアルカリ性に適宜調節することが好ましい。
溶液を酸性に調節する場合、解離度の低い弱酸の水溶性の有機酸を使用することが、溶液のpH制御の容易性の点から好ましい。ここで、水溶性の有機酸としては、コハク酸、乳酸、酢酸、クエン酸、酒石酸等をあげることができる。
アルカリ性に調節するためには、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム塩などの使用が好ましい。炭酸塩は電解により過炭酸に酸化される。
【0047】
溶液には、さらに殺菌力を向上させるため、界面活性剤を添加してもよい。溶液に界面活性剤を添加すると、電気分解後の溶液の噴出対象物に対する濡れ性を向上し、カビや菌の細胞膜との親和性も向上するので、殺菌効果がさらに向上する。
界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等の陰イオン界面活性剤、塩化ベンザルコニウム等の陽イオン界面活性剤、アミンオキサイド(例えばアルキルジメチルアミンオキサイド)等の両性界面活性剤、ポリグリセリン脂肪酸エステル、アルキルグリコシド等の非イオン界面活性剤等を使用することができる。界面活性剤の溶液における濃度は、0.01〜10重量%とすることが好ましい。
溶液には、この他、殺菌力や清涼感を向上させる等のためにアルコールを添加してもよく、また、必要に応じて香料、色素、界面活性剤以外の殺菌剤、増粘剤、酵素、漂白剤、キレート剤、塩素化合物以外の電解質、ビルダー、防腐剤、防錆剤等を添加してもよい。特に、保存安定性の面からは被電解水が防腐剤を含有することが好ましい。
【0048】
[トリガースプレー機能を有するヘッド]
例えば図1及び3に示す通り、トリガースプレーは、電池を収容できるヘッドに固定されている。電源として電池を用いずに、トリガーの操作により電気分解のための電力を発電する手段を備えることもできる。電池駆動の場合、電池は充電可能な2次電池でもよい。また、交流電源から直流電力を供給できるアダプターを利用して稼動させることも可能である。
印加する電圧・電流の大きさは、噴出対象物、消臭あるいは殺菌等の噴出目的に応じて所定の殺菌力を得るために適した濃度、電気分解される溶液の容積等に応じて、適宜定める。1回のトリガー操作で0.1〜1cc噴出し、電極間には3〜25V程度印加する。回路部に、電極に印加される電圧を可変にする手段を形成することができる。
【0049】
電解条件としては、生成した過酸化物の安定性、活性の観点から、温度は5℃から40℃が好ましく、電流密度は0.01〜1A/cmが好ましい。
電極への電力の印加を入力・切断するスイッチは、使用時にのみ電圧がかかるように、トリガーを引くと自動的にスイッチがオンとなり、トリガーを離すとスイッチがオフとなるように、トリガースプレー内に設けられる。
本発明の噴出器は、噴出操作により電気分解のための電力を発生する手段を有することができる。該手段は、例えば、トリガーと連動して作動するモーターが挙げられ、該モーターは通常トリガースプレー内に設けられる。
また、本発明の噴出装置は、電気分解が実行されていることを表示する手段を持つことができる。該手段の例としては、トリガーの動作と連動して通電中に表示されるLEDランプが挙げられる。電池の劣化などにより、規定の電流が流れない場合に、LEDランプを消灯する機能を付加してもよい。
【0050】
本発明の電解水生成噴出器は、トリガーの操作によりスイッチがONとなり回路に電流が流れ、その結果、電極間に電流が流れる。このとき、チューブ内の原料水はほぼ瞬時に電気分解され、且つピストン・シリンダー機構によりヘッドのノズルから外部に噴出又は噴霧される。すなわち、本発明の噴出器では、噴出操作(例えばトリガーの操作)と連動して電気分解が行われる。トリガーの操作開始から1秒以内で電気分解により生成した電解水を噴出することが好ましい。
噴出装置としてトリガースプレーを設けた本発明の電解水生成噴出器は、図示した他に種々の態様をとることができる。さらに、トリガースプレーには種々の機構のものがあり、その機構に応じてトリガースプレー内の液流路やトリガーの支点の位置等が異なるが、本発明の噴出器は、任意のトリガースプレーに適用することができる。
【0051】
次に本発明の過酸化水素水を含む電解水の噴出装置(電解水スプレー装置)を図示の例に基づいて説明する。
図1は本発明の電解水スプレー装置の第1の例を示す概略縦断面図、図2は図1の電解ユニットの要部拡大図である。
【0052】
図1に示す電解水スプレー装置1は、原料水2を収容する容器3とこの容器3の上部開口に連結されたヘッド4とから成っている。前記容器3は、硬質なものでも、軟質なものでも良いが、各種硬質樹脂、金属、ガラス、セラミックス等の硬質材料で形成することが好ましい。容器3の容量は、10〜1000mL程度が好ましく、200〜500mLが更に好ましい。
【0053】
前記容器3内には、下端が原料水2内に開放され、上端が縮径して前記ヘッド4内に達する吸引チューブ5が設置されている。図示の例では縮径部を形成したが、この縮径部は必ずしも必要ではなく、単一径のチューブとしても良い。
この吸引チューブ5内には、棒状陽極、陰極及び隔膜からなる電解ユニット6が収容されている。この電解ユニット6は例えば図2に示すように、触媒を担持した金属製棒状電極である陽極7の周囲に、イオン交換膜から成る隔膜8の帯を螺旋状に巻き、この隔膜8の周囲に帯状の多孔性カーボン材料から成る陰極9を巻き付けて構成されても良い。図中7’は線状の陽極給電体、9’は線状の陰極給電体である。
吸引チューブ5の上部の縮径部は垂直管路10として機能し、その上端はヘッド4内の水平管路11に連通している。
【0054】
水平管路11の他端側には、噴霧ノズル12が配置され、当該噴霧ノズル12のやや内方にはトリガーアーム13の支点14が設けられ、この支点14を中心にトリガーアーム13が回動するようになっている。当該トリガーアーム13には内向きにピストン杆15が接続され、トリガーアーム13の動きに応じてシリンダー16内を移動するようになっている。
17はトリガーアーム13に接触するよう設置されたトリガー連動スイッチ、18はヘッド4内に設置された電源用電池、19は電気分解の進行時にのみ点灯するLEDである。
【0055】
このような構成から成る電解水スプレー装置1を手で保持しながら、トリガーアーム13に人差し指と中指で内向きに力を加えると、トリガーアーム13が支点14を中心に移動して、トリガー連動スイッチ17がONになって電解ユニット6に通電される。それと同時にシリンダー16内のピストンが動いて、容器3内の原料水2を吸引チューブ5内の電解ユニット6に導いてこの原料水2を電気分解して電解水を生成する。この電解ユニット6の陽極7表面には触媒が形成されており、高濃度過酸化水素あるいはオゾンガス等が溶解した電解水が得られる。更に陽極7表面で水電解により生成する酸素ガスは隔膜8間の空間から陰極9に達し、多孔性カーボン材料により過酸化水素を生成し、得られた過酸化水素は電解水に溶解する。
生成した電解水は瞬時に垂直管路10及び水平管路11を通って、図示を省略した外気導入孔から導入された空気とともに、噴霧ノズル12から殺菌対象に噴霧される。
【0056】
図3は本発明の電解水スプレー装置の他の例を示す概略縦断面図、、図4は図3の電解ユニットの要部拡大図である。本例は図1に示した第1の例の改良に係るもので、図1と同一部材には同一符号を付して説明を省略する。
第1の例の電解水スプレー装置1が、トリガーアーム13に人差し指と中指で内向きに力を加えて電解水を生成しノズル12から噴出させたのに対し、本例の電解水スプレー装置1aでは、ヘッド4aを下方に押すことにより、原料水2を下端が縮径された吸引チューブ5aの電解ユニット6aで電解して電解水を生成させ、この電解水をノズル12aから殺菌対象物に噴霧させるようにしている。
本例の電解ユニット6aでは、棒状陽極7aの周囲に等間隔で3枚のリング状の帯状隔膜8aが被覆され、各隔膜8aの周囲には、さらに3枚の帯状の多孔性カーボン材料製の陰極9aが巻き付けられている。各陰極9aには、給電線が巻き付けられ、各給電線は陰極給電体9”に接続され、各陰極9aに給電される。7”は前記棒状陽極7aへ給電するための陽極給電体である。
【0057】
図5は、電解ユニットを吸引チューブに接続した状態を例示する図である。
この図では、棒状陽極の周囲に帯状の隔膜と陰極を螺旋状に被覆した膜−電極接合体21を第1チューブ22に収容して成る電解ユニット23を、固定用収縮チューブ24を使用して、第2吸引チューブ25と接続する態様を示している。
前記電解ユニット23の上端を固定用収縮チューブ24の下端に挿入し、更に第2吸引チューブ25の下端を前記電解ユニット23の上端に接触又は近接させるように挿入後、前記固定用収縮チューブ24を加熱収縮させ、電解ユニット23と第2吸引チューブ25を接続している。なお26及び27は電源回路からの銅配線で、この銅配線はできるかぎり、原料容器の上部までにとどめ、接液しないようにすることが好ましい。
【0058】
図6a及びbは、それぞれ棒状陽極の構造と給電素子との接続を例示する図である。
図6aに示すように棒状陽極7の上端部の周囲が削られて給電線固定部31が、該給電線固定部31のやや下方の棒状陽極7の周囲が削られて第1隔膜・陰極・給電線固定部32が、棒状電極7の下端部の周囲が削られて第2隔膜・線状電極固定部33がそれぞれ形成されている。
前記給電線固定部31には図6bに示す通り、給電線34が接続固定される。又図示は省略したが、前記第1隔膜・陰極・給電線固定部32及び第2隔膜・線状電極固定部33には、隔膜、陰極を介して巻かれる給電線の巻き始め部と巻き終わり部が固定される。
給電線や隔膜・陰極の巻き始めは、給電線の端部を前記第1又は第2隔膜・陰極・給電線固定部32、33を係合させることにより円滑に行ことができる。この他に、前記第1又は第2隔膜・陰極・給電線固定部32、33に係止させた給電線の端部を熱収縮性のチューブで固定することも可能である。
更に、給電線の巻き始めの部分に適切な方法で輪を形成し、この輪を隔膜や棒状陽極に縛り付けることもできる。
【0059】
図7は、図2及び図4で示した膜−電極接合体とは別の膜−電極接合体を示す。
図示の膜−電極接合体41は、触媒を担持した金属製棒状陽極である陽極42の周囲に、イオン交換膜から成る隔膜43の帯を巻き、さらに隔膜43の周囲に帯状の多孔性カーボン材料製の陰極44を巻き、金属線から成る陰極給電線(図示略)を、それらの上から巻き付けて構成されている。
図7の例では、陽極42の下部及び上部に、第1固定チューブ45及び第2固定チューブ46を設置している。
【0060】
次に本発明の電解水噴出装置による電解水生成に関する実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。各実施例における過酸化水素濃度は、試料に硫酸チタンを添加し、チタン錯体を形成させ、その445nmの吸収ピークから算出、定量した。オゾン濃度、次亜塩素酸濃度、過炭酸濃度は分光光度計、ヨウ化カリウムによるヨウ素滴定法により算定した。
【0061】
[実施例1]
陽極としては白金とイリジウム(原子比1:1)からなる触媒成分を熱分解法によりチタン棒(直径2mm、長さ5cm)に10g/mとなるように形成させたものを使用した。陰極として、触媒として黒鉛粉末(東海カーボン、TGP−2)をPTFE樹脂と体積比で1:1の割合となるよう純水に入れ、混練したペーストを、カーボンクロス(日本カーボン)に塗布し、330℃で焼成し0.4mm厚の陰極シートとしたものを使用した。隔膜としてイオン交換膜(デュポン製Nafion350、厚さ0.35mm、幅2mm)の帯と、前記陰極の帯(幅1.5mm)と、更に陰極給電線として、白金線(直径0.4mm)を前記陽極に順に螺旋状に巻き、陽極−膜−陰極接合体とした。この膜−電極接合体を固定した電解ユニットを、図1に示すトリガー式の噴出器内でインテイクに装着されたPE樹脂製チューブと接続した。トリガー式噴出器のヘッド内には電池を搭載し、回路部内で電極端子と可変抵抗、スイッチを配線で接合し、容器内に1.5g/Lの硫酸ナトリウムを含む純水500ccを満たした。
【0062】
トリガーを引くと、スイッチが接続し電池とセルに電流が流れ、同時に純水が噴出された。噴出量は約0.5ccであり、この間に流れた電気量は0.5C(0.5s×1A)であった。セル端子間電圧は6Vであった。100回操作を繰り返し噴出した溶液約50cc中の過酸化水素濃度は48ppmであった(電流効率は25%に相当)。電流値を0.5Aにすると、濃度は15ppm、電圧は5.2Vとなった。
【0063】
[実施例2]
0.15g/Lの硫酸ナトリウムを含む純水を満たしたこと以外は実施例1と同様に試験したところ、電流1Aにおいて、生成した溶液中の過酸化水素濃度は13ppm、電流効率は6%であった。セル端子間電圧は8Vであった。
【0064】
[実施例3]
陽極として導電性ダイアモンド触媒(ホウ素ドープ濃度500ppm)を形成したニオブ製の棒(直径2mm、長さ5cm)を用い、1.5g/Lの硫酸ナトリウムを含む純水を入れ、実施例1と同様の試験をしたところ、電流1Aにおいて、生成した溶液中の過酸化水素濃度は40ppm、オゾン水は2ppm、電流効率はそれぞれ20%及び2%であった。セル端子間電圧は7Vであった。
【0065】
[実施例4]
1g/Lの炭酸ナトリウムを含む純水を満たしたこと以外は実施例1と同様の試験を実施したところ、生成した溶液中の過酸化水素濃度は、電流1Aにおいて、70ppm、電流効率は35%であった。セル端子間電圧は6Vであった。
【0066】
[実施例5]
0.1g/Lの炭酸ナトリウムを含む純水を満たしたこと以外は実施例1と同様の試験を実施したところ、生成した溶液中の過酸化水素濃度は、電流1Aにおいて、20ppm、電流効率は10%であった。セル端子間電圧は7Vであった。
【0067】
[実施例6]
陽極として導電性ダイアモンド電極を用い、純水を入れ、実施例1と同様の試験をしたところ、電流1Aにおいて、生成した溶液中の過酸化水素濃度は10ppm、オゾン水は3ppm、電流効率はそれぞれ5%及び2.5%であった。セル端子間電圧は10Vであった。
【0068】
[比較例1]
陰極として白金網(線0.2mm径、40メッシュ)を用いたこと以外は、実施例1と同様の試験をしたところ、電流1Aにおいて、生成した溶液中の過酸化水素濃度は1ppm以下であった。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の電解水スプレー装置の第1の例を示す概略縦断面図。
【図2】図1の要部の拡大図。
【図3】本発明の電解水スプレー装置の他の例を示す概略縦断面図。
【図4】図3の要部の拡大図。
【図5】電解ユニットを吸引チューブに接続した状態を例示する図。
【図6】図6a及びbは、それぞれ棒状電極の構造と給電素子との接続を例示する図。
【図7】図2及び図4で示した膜−電極接合体とは別の膜−電極接合体を示す図。
【符号の説明】
【0070】
1 電解水スプレー装置
2 原料水
3 容器
4 ヘッド
5 吸引チューブ
6 電解ユニット
7 陽極
8 隔膜
9 多孔性カーボン材料製陰極
12 噴霧ノズル
13 トリガーアーム
17 トリガー連動スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状又は筒状の陽極の周囲に、帯状の隔膜を被覆し、当該隔膜の表面に、過酸化水素を合成するための帯状の多孔性カーボン材料からなる陰極を設置したことを特徴とする膜−電極接合体。
【請求項2】
少なくともその表面をオゾンを合成するための導電性ダイアモンド材料で形成した棒状又は筒状の陽極の周囲に、帯状の隔膜を被覆し、当該隔膜の表面に、過酸化水素を合成するための帯状の多孔性カーボン材料からなる陰極を設置したことを特徴とする膜−電極接合体。
【請求項3】
棒状又は筒状の陽極の周囲に、帯状の隔膜と陰極をそれぞれ螺旋状に被覆した請求項1又は2に記載の膜−電極接合体。
【請求項4】
棒状又は筒状の陽極の周囲に、帯状の隔膜と陰極を、それぞれ間隔をあけて被覆した請求項1から3までのいずれか1項に記載の膜−電極接合体。
【請求項5】
多孔性カーボン材料に、白金族金属、チタン、金、銀、カーボン、ダイアモンドから成る群から選択される触媒成分を担持させた請求項1から4までのいずれか1項に記載の膜−電極接合体。
【請求項6】
棒状又は筒状の陽極の周囲に、帯状の隔膜を被覆し、当該隔膜の表面に過酸化水素を合成するための多孔性カーボン材料からなる帯状の陰極を設置した膜−電極接合体をチューブ内に固定し、給電線を該チューブ内の陽極及び/又は陰極に接続したことを特徴とする電解ユニット。
【請求項7】
原料水を収容した容器と、請求項6記載の電解ユニットと、ヘッドを含んで成り、前記原料水を前記電解ユニットで電解して生成する過酸化水素を含む電解水を前記ヘッドから噴出させることを特徴とする電解水噴出装置。
【請求項8】
棒状又は筒状の陽極の周囲に、帯状の隔膜を被覆し、当該隔膜の表面に過酸化水素を合成するための多孔性カーボン材料を被覆した帯状の陰極として設置した膜−電極接合体で、原料水を電解して過酸化水素を含む電解水を生成させ、生成電解水を殺菌対象に噴出することを特徴とする電解水による殺菌方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−127583(P2008−127583A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−310591(P2006−310591)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(390014579)ペルメレック電極株式会社 (62)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】