説明

膜の修復

実施形態には膜の修復方法が含まれる。電解槽の陽極液及び陰極液を、有機酸を有する溶液で置き換えることによって、膜が修復できる。電解槽には、陽極、陰極、及び金属で汚染された膜が含まれ得る。金属と溶液の有機酸とでキレートの形成が可能であり、そして、キレート形成の間に電解槽が腐食されることを防ぐために、電解槽の陽極と陰極の間に電流を供給することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、膜の修復方法及び前記膜の修復方法によって修復された膜に関するものであり、特に、電気化学的プロセスに用いられる膜を修復する膜の修復方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塩素−アルカリ工業(chlor-alkali industry)は、塩水から塩素、水素、及び苛性ソーダを製造するために、3つの方法を用いている:水銀電解槽法、隔膜電解槽法、及び膜電解槽法である。水銀電解槽法及び隔膜電解槽法の両者は、水銀又はアスベストを含み得る有害廃棄物を発生する可能性があり、このためしばしば嫌われる。
【0003】
膜電解槽法では膜を利用するが、この膜は、ナトリウムイオンと水酸イオンが反応して苛性ソーダが生成する陰極液室へと、ナトリウムイオンを通過させる。電解槽で使用される膜の性能は時間の経過とともに低下し、その結果、電解槽電圧の上昇、苛性ソーダの電流効率の低下、及び消費電力の上昇を含む可能性がある、望ましくない効果を生じる場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
膜の交換は、しばしば費用がかかり、かつ労働集約的なプロセスであって、膜電解槽の大幅な停止時間が必要となり、その結果相当な生産量の低減となる場合がある。そのため、塩素−アルカリ工業においては、電解槽膜の交換に代わる手段となり、一方でそれと同時に、生産費の低減、性能の改善、生産速度の向上、又は膜の稼動寿命の延長のための機会を提供する手段が、求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、膜の修復方法の実施形態を提供するものである。本開示の実施形態によれば修復された膜を提供することができ、それは本明細書に記載された1以上の方法によって得ることができるものである。
【0006】
本開示の実施形態によれば、膜の修復方法には、膜を有する電解槽中の陰極を保護することを含めることができ、この保護は、電解槽の陽極と陰極の間に電流を流し、陰極を保護する間に、膜上に堆積した金属イオンを有機酸を有する溶液を用いてキレート化し、そしてキレート化された金属イオンを電解槽から除去することによって行う。
【0007】
本開示の実施形態によれば、修復された膜は、前記膜の修復方法によって得ることができる。
【0008】
本開示の実施形態は、以下を含む膜の修復方法もまた含むことができる:電解槽が陽極、陰極、及び金属で汚染された膜を含む場合において、電解槽の陽極液及び陰極液を、有機酸を有する溶液で置き換えること;金属と溶液の有機酸とによりキレートを形成すること;及び、電解槽の陽極と陰極の間に、キレート形成の間に腐食から電解槽を保護するために、電流を供給すること。
【0009】
本開示の実施形態によれば、溶液は強塩基を含むことができる。種々の実施形態について、強塩基は、アルカリ、アルカリ土類金属水酸化物、及びそれらの組合せからなる群から選択することができる。本開示の実施形態によれば、有機酸は、シュウ酸、クエン酸、酢酸、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。本開示の実施形態によれば、溶液は約2〜約7のpHを有することができる。
【0010】
本開示の実施形態によれば、溶液が電解槽内に約0.5時間〜約48時間の間とどまることができるように、溶液を陽極液及び陰極液と置き換えることができる。本開示の実施形態によれば、溶液は約0℃〜約90℃の温度に維持することができる。本開示の実施形態によれば、溶液は約摂氏20度(℃)〜約70℃の温度に維持することができる。
【0011】
本開示の実施形態によれば、電解槽の陰極を腐食から保護するための方法は、以下を含むことができる:電解槽の陽極、陰極、及び膜を、膜を汚染する金属とキレートを形成できる溶質を有する溶液と接触させること、及び、溶質が膜を汚染する金属とキレートを形成する間に、電解槽の陰極を腐食から保護するために、陽極と陰極との間に槽電圧を供給すること。
【0012】
上述した本開示の要約は、本開示の個々の実施形態又はすべての実施(implementation)を説明することを意図したものではない。以下の説明において、具体的な実施形態をより詳細に例示する。本願全体の中のいくつかの箇所において、実施例のリストによって指針が与えられるが、これらの実施例は様々に組み合わせて用いることができるものである。各場合において、記載されたリストは単なる代表的なグループとしての役割のみを果たすのであって、排他的なリストとして解釈されるべきではない。
【0013】
本明細書で用いられるとき、「一つの(a)」、「一つの(an)」、「その(the)」、「少なくとも一つの(at least one)」、及び「一つ以上の(one or more)」は、相互に置き換え可能なものとして用いられる。用語「含む(include)」及び用語「包含する(comprise)」及びそれらの変化形は、これらの用語が明細書及び特許請求の範囲で用いられる場合には、制限的意味を有しない。したがって、例えば、「一つの(an)」有機酸を含む溶液とは、「一つ以上の(one or more)」有機酸を含む溶液を意味すると解釈することができる。
【0014】
用語「及び/又は(and/or)」は、列挙された要素の一つ以上又はすべてを意味する。
【0015】
また、本明細書において、端点をもって数値範囲を記述する場合は、当該範囲内に含まれるすべての数が含まれる(例えば、約1〜約5には、1,1.5,2,2.75,3,3.80,4,5,などが含まれる。)。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本開示の1以上の実施形態に従って修復できる膜を含む電解槽の実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
電気分解は、動作電流が電極を通過し、それに続いて正に帯電したイオン及び負に帯電したイオンが負極及び正極に移動することを伴う、電気化学的なプロセスである。電気分解の間に、電解質中の化合物の分解が生じ、その結果1種又はそれ以上の種々の化学品及び/又は化合物が生成し得る。そのような電気分解の一例は、塩水の塩素及び水酸化ナトリウムへの電気分解である。
【0018】
図1は、電気分解に使用できる電解槽100の実施形態を示す。電解槽は特に、膜電解槽又は電気化学反応器とも呼ばれる。電解槽100には、陽極液室104中の陽極102、及び陰極液室108中の陰極106を含むことができる。電気分解に使用できるためには、電極である陽極102と陰極106は電気伝導性でなければならない。陽極102は正極であり、陰極106は負極である。
【0019】
電解質は電気伝導体として機能する物質である。電解質は溶液中のイオンによって構成することができ、しばしばイオン溶液と呼ばれる:しかし、溶融電解質及び固体電解質もまた知られている。動作電流が電解槽100の陽極102及び陰極106の間に流されると、陽極液、これは陽極液室104中の電解質である、及び陰極液、これは陰極液室108中の電解質である、は動作電流を流すことができ、これにより、陰極106からの電子を消費して陰極反応生成物を生じる化学反応が陰極106で起こり、一方陽極102では、陽極102から取り込まれる電子を生成して陽極反応生成物を生じる、別の反応が起こる。電気分解の間、正に帯電したイオン、カチオンと呼ばれる、は陰極106の方向に移動し、一方、負に帯電したイオン、アニオンと呼ばれる、は陽極102の方向に移動する。
【0020】
図1に示されるように、膜110は電解槽100の陽極液室104と陰極液室108とを分離することができる。さまざまな実施形態について、膜110はイオン透過性かつ選択性であってよく、これは特定の電荷を持つイオンが膜を通過可能となるようにできるものである。カチオン交換膜はカチオンが通過可能であり、一方アニオン交換膜はアニオンが通過可能である。
【0021】
膜110について考慮すべき事項には次の事項が含まれる:膜が対イオンには透過性で共イオン(co-ion)には非透過性であるような、イオン選択性;膜の対イオンに対する透過性が可能な限り高くなるような、低電気抵抗性;膜が損傷に対して抵抗性であり、希薄なイオン溶液から高濃度のイオン溶液に移った場合に低い膨潤度を示すような、機械的安定性及び寸法安定性;及び、膜が異なるpH値にわたって及び酸化剤の存在下で安定であるような、化学的安定性。さまざまな実施形態について、膜110は、膜110のポリマーマトリックスに固定された負に帯電した基を有する、カチオン交換膜とすることができる。実施形態についてのそのような膜の限定的ではない例としては、旭化成F4401膜(旭化成、東京、日本、から入手可能)、NAFION(登録商標)900シリーズ膜(デュポン、Nafionグローバルカスタマーサービス、フェイエットビル、ノースカロライナ、から入手可能)、及び、旭硝子F8000シリーズ膜(旭硝子株式会社、東京、日本、から入手可能)が含まれる。他の膜、電気分解プロセスで使用されるイオン交換膜を含むがこれに限定されない、もまた本開示の範囲内のものとして考慮することができる。
【0022】
さまざまな実施形態について、膜110は、電解槽100の陽極液室104と陰極液室108とを分離し、さらに陽極反応生成物と陰極反応生成物とを分離することができる。いくつかの実施形態においては、膜110は、ナトリウムイオンのようなカチオンや水及び他の非荷電種が、陽極液室104から陰極液室108へ通過することを許容し、一方、塩素イオンや水酸イオンなどのアニオンの通過を妨げることができる。陽極102と陰極106の間を電気的接続116を通じて動作電流を流すことにより、イオンが膜を通して移動するようにできる。
【0023】
電気化学的プロセス用電解槽100中の膜110の性能は、時間の経過とともに低下する可能性がある。膜の性能低下の原因のひとつは、膜110の汚染によるものである場合がある。汚染された膜は、物質の蓄積、沈殿及び/又は堆積にさらされた膜である可能性がある。さまざまな実施形態について、前記の物質は金属であり得る。さまざまな実施形態について、前記の金属は、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、又はそれらの組合せ、ただしこれらに限定されない、を含む金属のイオンであり得る。そのような物質は、膜の性能を変えてしまう可能性があり、電気化学的プロセスにとっての汚染物質とみなすことができる。電気化学的プロセスにとっての汚染物質は、電解槽100を構成する物質、電解槽100の部品、及び電解槽100への流入物、ただしこれらに限定されない、を含むいくつかの発生源から生じ得る。さまざまな実施形態について、電解槽100へのインプットには陽極液室インプット112及び陰極液室インプット114を含むことができ、この両者ともに電解槽100に流入物を供給することができる。
【0024】
さまざまな実施形態について、電解槽100は、陰極106を保護するための陰極保護整流器118を含むことができる。さまざまな実施形態について、陰極106を保護するために、陰極保護整流器118は、電解槽100の陽極102及び陰極106の間に電流を供給することができる。陰極106の保護が陰極保護整流器118によってもたらされると、膜110を本開示の実施形態に従って修復する場合に、電解槽100における陰極106のような金属表面が腐食することを低減及び/又は防止することができる。
【0025】
本開示の実施形態に従うと、膜の修復方法は、電解槽100の陽極102及び陰極106の間に流される電流による陰極106の保護を含むことができる。陽極102は、保護すべき金属表面、例えば陰極106と電気的に接続することができ、そして陽極102と陰極106の間に電流を流すことにより、保護すべき金属表面の全領域が陰極性(cathodic)となり、それにより腐食を最少化又は防止するようにできる。さまざまな実施形態について、電気的接続120及び電気的接続122は、陰極保護整流器118を経由して陽極102と陰極106を電気的に接続する。陰極保護整流器118は、陽極102と陰極106の間を流れる電流が直流であるようにできる。電気的接続120及び電気的接続122を経由して電解槽100の陽極102及び陰極106の間を流れる電流は、陽極102と陰極106の間の槽電圧を達成するように流すことができる。理解されるように、槽電圧は、異なる電気化学プロセスに対しては異なる値となり得る。例えば、約1.6ボルト〜約2.0ボルトの槽電圧を、電解槽100の陽極102と陰極106の間に供給することができる。いくつかの実施形態においては、陰極106を保護するために陽極102と陰極106の間に流される電流は、電気的接続116を経由して陽極102と陰極106の間を流れる動作電流が止まったときに流すことができる。
【0026】
膜の修復方法の実施形態には、陰極106を保護しながら、膜110上に堆積した金属イオンを有機酸を有する溶液を用いてキレート化することを含み得る。当業者には理解されるように、キレートは、キレート剤の2又はそれ以上の原子と結合した金属イオンを含む錯体である。シュウ酸、クエン酸、酢酸、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される有機酸を含むいくつかの有機酸は、キレート形成能を有しており、キレート剤とみなすことができる。金属イオンのキレート化又はキレート形成は、有機酸のようなキレート剤を含む溶液が、本明細書で説明されるような金属イオンと接触する場合に生じる。
【0027】
膜のふくれ(blistering)は、膜110への機械的損傷の1つの形態であり、電解槽100の性能の低下につながり、さらには電解槽100の膜の再形成を必要とする場合がある。膜のふくれは、過剰な酸性化によって引き起こされ得る。過剰な酸性化は、膜110が、酸及び特定の膜110についてのふくれ濃度(blistering concentration)以上の濃度を有する有機酸と接触した場合に生じ得るものであり、この場合、膜修復プロセスの後の電気化学的プロセスの間に、水素イオンが、膜110を通過しようとするナトリウムイオンに対する抵抗を生じさせる。
【0028】
膜110のふくれの可能性を低減させ、かつ/又は、溶液が電解槽100の膜110及び陰極106と接触する際に電解槽100の陰極106が損傷を受ける可能性を低減させるために、溶液は、脱イオン水のような水によって一般的なモル濃度(molarity)になるように希釈された有機酸を含むことができる。例えば、シュウ酸を脱イオン水で希釈してモル濃度約0.05〜約0.22にすることができる。本明細書の説明において、膜の修復方法に使用される溶液中の有機酸は、弱酸と呼ばれる場合がある。弱酸は、当業者に知られているように、水溶液中で完全には解離しない酸である。それで、溶液中の弱酸及びその共役塩基は、本開示の実施形態のための緩衝液を提供することができる。さまざまな実施形態について、強塩基を、有機酸と脱イオン水の緩衝液に、溶液のpHを約2〜約7として本開示の溶液が得られるように、添加することができる。さまざまな実施形態について、強塩基は、アルカリ、アルカリ土類金属水酸化物、及びそれらの組合せからなる群から選択することができる。さまざまな実施形態について、強塩基は水酸化ナトリウムであり、これをシュウ酸と脱イオン水の0.2モル液(molar solution)に添加して、pHが約5の溶液を形成するようにできる。さまざまな実施形態について、水酸化ナトリウムは、溶液の全重量に基づいて約32重量%の水酸化ナトリウムを含む溶液として、添加することができる。さまざまな実施形態について、膜の修復方法を実行するために使用する溶液は、膜110を汚染する金属をキレート化することができ、それとともに、膜の修復プロセスの後に電解槽100において電気化学的プロセスが再開されたときに、膜110が過剰に酸性化されたり、かつ/又はふくれを生じたりすることがないようにできる。さまざまな実施形態について、陽極102、陰極106、及び膜110を、膜110を汚染する金属とキレートを形成できる溶質を有する溶液と接触させ、そしてかつ、溶質が膜110を汚染する金属とキレートを形成している間に、陽極102と陰極106の間に槽電圧を供給すると、電解槽100の陰極106の腐食を防ぐことができる。
【0029】
本開示の実施形態に従えば、膜の修復方法は、電解槽100が陽極102、陰極106、及び金属で汚染された膜110を含む場合において、電解槽100の陽極液及び陰極液を、本明細書に記載されるような有機酸を有する溶液で置き換えることを含むことができる。本明細書で説明するように、陽極液及び陰極液は、それぞれ、電解槽100の陽極液室104及び電解槽100の陰極液室108中に存在するようにでき、ここにおいて陽極液室104及び陰極液室108は膜110によって分離されており、そして膜110は、本明細書で説明されるように、金属などの汚染物質によって汚染され得る。
【0030】
電解槽100の陽極液及び陰極液を、本明細書で説明されるように溶液で置き換えることにより、電解槽100中の溶液と金属とを、キレートが形成できるように近接させることができる。例えば、有機酸を含む溶液は、陽極液及び陰極液と置き換わって、溶液が汚染された膜110と接触し、これにより金属と有機酸のキレートが生成するようにできる。理解されるように、陽極液及び陰極液と置き換わる溶液は、陽極液室104、陽極102、陰極液室108、及び陰極106とも接触し得る。こうして、電解槽100中の金属イオンを含む金属は、陽極液及び陰極液と置き換わった溶液の有機酸とキレートを形成することができる。
【0031】
本開示の実施形態に従えば、溶液は電解槽100内に約0.5時間〜約48時間の間とどまることができる。こうして、さまざまな実施形態について、陽極液及び陰極液は、本明細書で説明されるように、溶液によって、約0.5時間〜約48時間、約2時間〜約24時間、約6時間〜約10時間、又は約8時間にわたって、置き換えられ得る。溶液が電解槽100内にとどまる時間が、本明細書で規定されるいずれかの時間よりも短いと、生じるキレートの量が、意味があるとみなすことができる程度の理論的キレート量よりも、少なくなってしまう可能性がある。溶液が電解槽100内にとどまる時間が、本明細書で規定されるいずれかの時間よりも長いと、電解槽100の停止時間が、無視しうる程度のキレート量の増加しか認められない時間まで拡がってしまう可能性がある。
【0032】
本開示の実施形態はまた、電解槽100中の溶液を、約0℃〜約90℃の温度に維持することを含むことができる。こうして、さまざまな実施形態について、陽極液及び陰極液は、本明細書で説明されるように、溶液で置き換えられ、そして溶液は約0℃〜約90℃の温度、約20℃〜約70℃の温度、約40℃〜約60℃の温度、約50℃の温度、又は約45℃の温度に維持することができる。溶液を、本明細書で規定する温度よりも低い温度で維持すると、生じるキレートの量が、意味があるとみなすことができる程度の理論的キレート量よりも、少なくなってしまう可能性がある。溶液を、本明細書で規定する温度よりも高い温度で維持すると、膜の過膨張(overexpansion)による膜の損傷を生じ、及び/又は、より多くの利用設備を消費しながら、キレート量がまったく増加しないか若しくは無視しうる程度しか増加しないということになる可能性がある。
【0033】
本開示の実施形態には、キレート化された金属イオンを電解槽100から除去することを含むことができる。それで、電解槽100の陽極液及び陰極液が、本明細書で説明されるように、本明細書に記載された実施形態に従って、溶液によって置き換えられてしまったときには、キレート化金属イオンは電解槽100の陽極液室104及び陰極液室108から除去することができ、したがってキレート化金属イオンは電解槽100から除去される。例えば、溶液が電解槽100中に約0.5時間〜約48時間とどまった後に、溶液は電解槽100の陽極液室104及び陰極液室108から除去することができる。溶液が電解槽100から除去されてしまった後に、電解槽100を水、例えば脱イオン水によって洗い流すことができる。
【0034】
本明細書で説明するように、電気化学的プロセスは電解槽100中で行うことができるが、また、理解されるように、多数の電解槽が結合して一つのユニットとなった電解装置中で行うこともできる。例えば、電気化学的プロセスは、電解槽100の陰極106が隣接する電解槽の陽極に直接接続されたバイポーラ型電解装置で行うか、又は、電気化学的プロセスは、陽極及び陰極が並列に接続されたモノポーラ型電解装置で行うことができる。
【0035】
さまざまな実施形態について、電解槽100には、陽極液室104及び/又は陰極液室108の内容物を電解槽100から除去することができるように、陽極液室液相アウトプット124、陽極液室気相アウトプット126,陰極液室液相アウトプット124、陽極液室気相アウトプット126を含むことができる。実施形態について、電解槽100には、帰還路132を含むことができ、これにより、陰極液室108から陰極液室液相アウトプット128を経由して除去された液体の一部分を、陰極液室インプット114に供給できるようになっている帰還路132を経由して、陰極液室108に戻すことができる。実施形態について、追加的な液体インプット134を含むようにでき、これを利用して、陰極液室インプット114を経由して陰極液室108に戻れるようにされた液体の一部の濃度及び/又は組成を、追加的な液体をインプットすることにより、変えることができる。例えば、陰極液室108に戻す液体の一部は、水のような追加の液体を入力して、希釈することができる。追加の液体が水の場合は、その水は脱イオン水にすることができる。実施形態について、液体生成物アウトプット136を含ませることができ、これによって、陰極液室108から除去された液体の一部が陰極液室108に戻らないようにすることができる。
【0036】
塩素−アルカリプロセスは、塩水から塩素、水素、及び苛性ソーダを生産するものである。本明細書で用いる場合、塩水には、塩で飽和した水、又は、飽和濃度未満の高濃度の塩を有する水が含まれ得る。塩素−アルカリプロセスは電解槽100の実施形態において生じるようにすることができ、そして、当業者には理解されるように、塩素−アルカリプロセスは電解装置において生じるようにすることもできる。
【0037】
塩素−アルカリプロセスにおいては、塩水は、陽極液室インプット112を経由して陽極液室104に供給することができ、これにより塩素ガスが陽極102で生成し、電解槽100から陽極液室気相アウトプット126を経由して除去されるようにする。
【0038】
電流密度は、電気的接続116を経由して陽極102及び陰極106間に流される動作電流の量を決める。電気的接続116を経由して陽極102及び陰極106間に流される動作電流は、水和したナトリウムイオンが膜110を通って陰極液室108へと移動することを可能にする。塩素−アルカリプロセスにおいては、電流密度は、約1.5キロアンペア/立方メートル(kM/m2)から8.0kM/m2の範囲の値をとることができる。水素ガスは、陰極106で生成し、陰極液室気相アウトプット130を経由して電解槽100から除去することができ、そしてヒドロキシルイオンが陰極液室108中に残る。ヒドロキシルイオンは、浸透するナトリウムイオンとともに苛性ソーダを構成し、これは陰極液室液相アウトプット128を経由して陰極液室108から除去することができる。苛性ソーダの一部は、陰極液室114に供給可能な帰還路132を経由して陰極液室108に戻すことができる。陰極液室108に戻される苛性ソーダの一部は、追加的液相インプット134を経由して脱イオン水を添加することにより、希釈してもよい。陰極液室108に戻されない苛性ソーダの一部は、生成物として、液体生成物アウトプット136から取り除くことができる。劣化した塩水(depleted brine)、これは陽極液室インプット112を経由して電解槽100に供給される塩水よりも低い塩化ナトリウム濃度を有する塩水である、は陽極液室液相アウトプット124を経由して陽極液室104から除去することができる。
【0039】
電解槽100の性能は、稼動条件によって影響される場合があり、そのような条件としては、ただしこれに限定するものではないが、陽極液の濃度、陰極液の濃度、動作電流密度、操作温度、電解槽プロセスにおける汚染物質、及び本明細書で説明されるように汚染物質で汚染された膜が含まれる。
【0040】
膜110の性能の決定には、苛性ソーダ電流効率(CCE(caustic soda current efficiency))の決定が含まれ得る。CCEは、生成する苛性ソーダの理論量と関連させて、生成した苛性ソーダの量を直接計測するか、又は、陽極ガス及び陽極液の組成を明らかにする陽極バランス(anodic balance)によって、決定することができる。陽極バランスは式1のように与えられる。
式1
CCE(%,NaOH)=100−ηO2−ηClO3−ηClO+ηNaOH+ηNa2CO3
【0041】
ここで、ηO2、ηClO3、及びηClOは酸素、次亜塩素酸塩及び塩素酸塩の発生による電流効率の損失を示し、ηNaOH及びηNa2CO3は、供給塩水中に導入されたNaOH及びNa2CO3を考慮したものである。
【0042】
CCEは、本開示の実施形態に従って膜を補修する方法に先立って決定することができ、そして、CCEは本開示の実施形態に従って膜を補修する方法の後に決定することができるものであり、それぞれCCEBefore及びCCEAfterで示すことができる。本開示の実施形態に従って膜を補修する方法は、特定のCCEBefore値に達する前に実行するとより効果的である場合がある。例えば、膜を補修する方法は、膜のCCEBefore値が96パーセントとなる前に実行し、膜のCCEBefore値が95パーセントとなる前に実行し、膜のCCEBefore値が93パーセントとなる前に実行し、膜のCCEBefore値が92パーセントとなる前に実行することができる。CCEBeforeとCCEAfterの差は、式2に与えられるようにCCEの変化を示すことができる。
式2
ΔCCE=CCEBefore−CCEAfter
【0043】
CCEAfter値は、本開示の1以上の実施形態に従った膜の修復方法の後で、CCEBefore値よりも大きい場合には、膜の性能が改善されたことを示すと考えることができる。
【0044】
膜110の性能の決定には、槽電圧の決定が含まれ得る。槽電圧は、分解電圧、膜電位、電極過電圧、膜での抵抗低下、電解質での抵抗低下、並びに、電極及び導体における抵抗低下などの要素を含むと考えることができる。電解槽を含む塩素−アルキルプロセスの分解電圧は、約2.20ボルトとなることがあるが、これは塩素−アルカリプロセスの温度、濃度、及び/又は圧力に応じて変化し得る。膜電位は膜の表面における過電圧を示し得るもので、電解槽が3.0kA/m2、90℃、及び、32重量パーセント水酸化ナトリウム溶液などの32重量パーセント苛性溶液で稼動する場合には、概ね0.08ボルトの値となる。塩素についての電極過電圧の値は、イリジウム、ルテニウム又は白金の酸化物により被覆されたチタン陽極を用いた3.0kA/m2の稼動条件下では、概ね0.05ボルトになり得る;水素についての電極過電圧の値は、被覆されたニッケル基板を含み得る活性化された陰極を用いた場合であって、前記被覆がニッケル、コバルト、ルテニウムを含み得る被覆、又は貴金属などの別の金属の被覆を含む他の被覆であり、3.0kA/m2の稼動条件下では、概ね0.10ボルトになり得る。市販の膜における抵抗低下は、3.0kA/m2、90℃、及び、32重量パーセント苛性溶液で稼動する場合には、約0.25ボルト〜約0.30ボルトとなり得る。電解液における抵抗低下は、膜と電極の間の間隙を最小化することによって最小化できる。電極及び導体における抵抗低下は、金属構造物に沿った望ましくない電流経路により生じ得るものであり、塩素−アルカリ電解槽では、3.0kA/m2において約20ミリボルト〜約40ミリボルトの抵抗低下となり得る。
【0045】
さまざまな実施形態について、槽電圧は、本開示の実施形態に従って膜を補修する方法に先立って決定することができ、そして、槽電圧は、本開示の実施形態に従って膜を補修する方法の後に決定することができるものであり、それぞれUBefore及びUAfterで示すことができる。UBeforeとUAfterの差により、式3で示されるように、槽電圧の変化ΔUを示すことができる。
式3
ΔU=UBefore−UAfter
【0046】
After値は、本開示の実施形態に従った膜の修復方法の後で、UBefore値よりも小さい場合には、膜の性能が改善されたことを示すと考えることができる。
【0047】
NaOHを1メートルトン(metric ton)生産するのに必要な電力は、式4に示すように、電解槽での電圧低下及びNaOH電流効率から決定することができる。
式4
CS[kWh/t100%NaOH]=670.1(Ucell/CCE)100
ここで
cell=槽電圧(ボルト)
CCE=NaOH電流効率(%)
【0048】
電力消費の減少は、式5で示されるようにして決定できる。
【0049】
【数1】

【0050】
電力消費量は、電解槽プロセスの稼動における経済的な留意点であり、プロセス中で使用されるエネルギーのコストによるものである。本明細書に記載される膜の修復プロセスの前の時点から膜の修復プロセスの後の時点までに、電力消費量が減少することは、膜の性能が改善されたことを示すと考えることができる。
【0051】
本明細書で説明されるように、塩素と苛性ソーダとを生成する塩素−アルカリプロセスは電解槽100中で行うことができる。本開示の実施形態には、電解槽100における塩素−アルカリプロセスなどの塩素及び苛性ソーダ生成プロセスを、停止させることを含み得る。電解槽100における塩素及び苛性ソーダ生成プロセスを停止させることは、電解槽プロセスのシャットダウン、又は電解槽100を生成プロセスから遮断することと考えることができる。電解槽100の停止の後は、標準的操作手順のような一般的な手順に従うことができる。電解槽100の塩素及び苛性ソーダ生成プロセスを停止させることは、電気的接続116を経由して陽極102及び陰極106の間に流れる動作電流を停止させることを含み得る。電解槽100の停止には、さらに、電解槽100のインプットに供給するプロセスの流れを停止させることを含み得る。電解槽100のインプットに供給するプロセスの流れには、陽極液室インプット112、陰極液室インプット114、及び追加的な液体インプット134が、ただしこれらに限定されないが、含まれ得る。プロセスの流れは、電解槽100の反応物質と生成物が枯渇するように、停止させることができる。電解槽100へのプロセスの流れを停止させた後は、生成プロセスの反応物質及び生成物が電解槽100から実質的になくなるように、電解槽100を洗い流すことができる。電解槽100は、特に脱イオン水で洗い流すことができ、そして膜の修復プロセスを実施することができる。
【0052】
本開示の実施形態は、膜110が電解槽100から取り除かれたときに、膜の修復方法を使用に供することを開示する。膜110を電解槽100から取り除くことには、電解槽100における塩素及び苛性ソーダ生成プロセスのような生成プロセスを、本明細書で説明されるように停止させることを含み得る。電解槽100がシャットダウン又は遮断されれば、膜110を取り除くために電解槽100を分解することができる。
【0053】
電解槽100から取り除かれた膜110は、本明細書で説明するような溶液が膜110の一部を覆うように配置することができる。例えば、取り除かれた膜110は水平に配置することができ、これにより、本明細書で説明するような溶液が膜110を完全に覆って、膜の両主表面が溶液と接触するようにできる。様々な実施態様において、溶液は本発明で説明される膜110に接触する。
【0054】
本明細書で説明するように溶液と一定時間接触させた膜110は、溶液、キレート化された金属を含む、と分離することができ、そして膜110は、脱イオン水のような水で洗い流し又はリンスを行う。洗い流され又はリンスされた膜110は、再び電解槽100に配置することができる。組み立て直した電解槽100で、塩素と苛性ソーダの生成を再開することができる。
【0055】
以上のように本開示を詳細に示し説明してきたが、当業者には、本開示の精神及び範囲から逸脱することなく変更や修正を行い得ることは明らかであろう。従って、上述の記載及び図面により説明した内容は、ただ説明のみを目的とするものであって、制限的なものではない。本開示の実際の範囲は、特許請求の範囲、及び当該特許請求の範囲に認められるすべての均等物によって、定義づけられることが意図されている。
【0056】
加えて、当業者であれば、本開示を読みそして理解することによって、本明細書に記載された開示についての他の変更が、本開示の範囲に含まれ得ることが分かるであろう。
【実施例】
【0057】
以下の実施例によって、本開示の範囲についての非制限的な説明を行う。
【0058】
材料
有機酸:シュウ酸、>99%の純度;メルク社(ダルムシュタット、ドイツ)から入手可能。
強塩基:水酸化ナトリウム、NaOH32重量パーセント水溶液;塩素−アルカリ膜プラントの現場で製造。
塩素−アルカリ膜電解槽:佐藤の米国特許第4734180号に記載されたバイポーラ型電解装置、その全内容は参照することにより本明細書中に組み込まれる。
実験用の塩素−アルカリ電解槽:200ミリリットル(ml)の陽極室、500mlの陰極室、電極のサイズ7.5X7.5センチメートル2(cm2)、Tsouの米国特許第5645930号に記載された陰極活性化被覆、その全内容は参照することにより本明細書中に組み込まれる、Tsouの米国特許第5503663号に記載された陽極活性化被覆、その全内容は参照することにより本明細書中に組み込まれる。
膜:旭化成F4401;旭化成ケミカルズ(東京、日本)から入手可能。
【0059】
塩素−アルカリ膜プラントのF4401膜2枚が実験室試験に用いられる。膜はそれぞれ2ヶ月及び7ヶ月稼動させたもので、製造用電解槽から取り除かれる前には、陽極液温度約90℃、NaOH濃度約32重量パーセント、陽極におけるNaCl濃度約210グラム/リットル、及び電流密度約5.5kA/m2であった。それぞれの膜から小片、各小片の大きさは9センチメートル(cm)X9cmである、を切り取り、それぞれ実験用の塩素−アルカリ電解槽中に配置する。実施例1は2ヶ月間使用された膜についての方法に関するもので、実施例2は7ヶ月間使用された膜についての方法に関するものである。実験用の塩素−アルカリ電解槽には、陽極室、塩水注入口、電流接続、塩素排出口、劣化塩水排出口、加熱ロッド、電解槽温度計、塩水吸引毛細管、陰極室、注水口、水素排出口、苛性排出口、及び苛性吸引毛細管が含まれる。
【0060】
NaClが概ね26重量パーセントである塩水及びF4401膜に使用する純度の脱イオン水を、塩水注入口を経由して電解槽に流入する貯槽と、注水口を経由して電解槽に流入する貯槽に、それぞれ供給する。陽極表面と陰極表面の間隔は、約0ミリメートル(mm)から2.7mmである。
【0061】
約24時間にわたって、温度を概ね85℃、電流密度を概ね4kA/m2、及び苛性アルカリ濃度を約31〜32.5重量パーセントに維持する。約24時間後に、電流密度を5.5kA/m2に上げ、温度を90℃に上げ、そして水及び塩水の供給を、苛性アルカリ濃度約32パーセント、陽極液中の塩濃度約210グラム/リットルを維持するように、増加させる。それぞれの実験用電解槽について、2〜7日後に安定化した後に、UBefore及びCCEBeforeを記録する。UBeforeは、精度が2mVであるフルーク社のハンドヘルド電圧計を用いて陽極及び陰極間で測定する。CCEBeforeは、一定の時間間隔に生成する苛性アルカリを測定し、これを一定の時間間隔及び電流でファラデーの法則により求まる苛性アルカリの理論量で割ることによって得られる。
【0062】
シュウ酸は脱イオン水で希釈して0.2モル/リットル(M)にする。溶液のpHを5に調節するために、32重量パーセントの水酸化ナトリウム溶液を添加する。実験用電解槽を、作動電流のスイッチを切ることによってシャットダウンさせる。電解槽は、陽極液及び陰極液を排出した後に、脱イオン水を陽極室及び陰極室に供給して、ついで脱イオン水を排出し廃棄することによって、洗い流す。これを2回繰り返す。溶液を実験用電解槽の陽極液室そして陰極液室に注入するとともに、他方で、電流を陰極保護整流器を経由して陽極及び陰極間に流し、陰極陽極間の槽電圧約1.6〜約2ボルト(V)となるようにする。電解槽の加熱ロッドにより、溶液温度を約45℃に維持する。溶液を電解槽の陽極液室及び陰極液室に約8時間とどめるとともに、他方で、陰極保護整流器は陽極陰極間の槽電圧1.6〜2ボルトVを維持する。
【0063】
溶液を陽極液室及び陰極液室から除去し、そして溶液が電解槽から除去された後に陰極保護整流器を遮断する。各室は脱イオン水で2回洗い流される。電解槽を再起動し、続いて標準的な手順に従い、そして修復プロセスの前と同じ条件で稼動させる。各実験用電解槽について、2〜7日後に安定化した後に、UBefore及びCCEBeforeを測定する。
【0064】
膜の修復前に収集したデータと膜の修復後に収集したデータを分析する。
【0065】
実施例1.
【0066】
【数2】

【0067】
実施例1のデータ及び計算結果の示すところによれば、膜の修復後には槽電圧は182mV低下し、苛性アルカリ電流効率は1%向上する。これらの改善の結果、電力消費量は7パーセント減少する。
【0068】
実施例2.
【0069】
【数3】

【0070】
実施例2のデータ及び計算結果の示すところによれば、膜の修復後には槽電圧は90mV低下する。実施例2では、苛性アルカリ電流効率は0.9%低下する。しかしながら、実施例2において、電力消費量は1.8パーセントの減少という結果となる。
【0071】
実施例1及び実施例2の両方のデータから、膜の再生プロセスにより膜の性能改善を達成できることが示される。
【0072】
実施例3.
追加的に実施例2の膜(7ヶ月使用)の小片を切り取り、膜上の汚染物質を測定するために抽出法分析に供する。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
追加的に実施例2の膜(7ヶ月使用)の小片複数枚を9cmX9cmの大きさに切り取り、それぞれの小片を水平になるように実験用ビーカー中に配置する。
【0075】
シュウ酸を脱イオン水で0.2Mに希釈する。溶液のpHを5に調節するために、32重量パーセントの水酸化ナトリウム溶液を添加する。溶液約500mlを各実験用ビーカーに入れて、実験用ビーカー中の膜を覆うようにする。試料1については、溶液は膜と接触させつつ約18℃で8時間維持する;試料2については、溶液は膜と接触させつつ約45℃で8時間維持する;試料3については、溶液は膜と接触させつつ約80℃で8時間維持する。溶液を実験用ビーカーから除去し、各試料の汚染物質の量及び種類を、Ultima2発光分光計(ホリバ・ジョバンイボン社、ニュージャージー州エディソン、から入手可能)を用いて、ICP(誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma))発光分析法により測定する。結果を表2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
実施例3のデータから、膜の修復方法により膜からの汚染物質除去を達成することができることが示される。
【0078】
さらに、膜の修復プロセスに用いられる溶液はNa+イオンを含むので、膜の後処理は不要であり、膜の修復プロセスの後直ちに、膜を塩素−アルカリ膜電解槽プロセスに戻すことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解槽が陽極、陰極、及び金属で汚染された膜を含む場合において、電解槽の陽極液及び陰極液を、有機酸を有する溶液で置き換えること;
金属と溶液の有機酸とによりキレートを形成させること;及び
電解槽の陽極と陰極の間に、キレート形成の間に腐食から電解槽を保護するために、電流を供給すること;
を含む、膜の修復方法。
【請求項2】
有機酸が、シュウ酸、クエン酸、酢酸、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶液が強塩基を含み、そして強塩基が、アルカリ、アルカリ土類金属水酸化物、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
強塩基が水酸化ナトリウムである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
溶液が約2〜約7のpHを有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
溶液が電解槽内に約0.5時間〜約48時間の間とどまる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
電解槽内の溶液を約0℃〜約90℃の温度に維持することを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法により得ることができる、修復された膜。
【請求項9】
電解槽の陽極、陰極及び膜を、膜を汚染する金属とキレートを形成することができる溶質を有する溶液と接触させること;及び
溶質が膜を汚染する金属とキレートを形成している間に、電解槽の陰極が腐食することを防ぐために、陽極と陰極の間に槽電圧を供給すること;
を含む、電解槽の陰極を腐食から保護する方法。
【請求項10】
槽電圧の供給が、陽極と陰極の間に約1.6ボルト〜約2.0ボルトの槽電圧を供給することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
槽電圧の供給が、陽極と陰極の間に直流を供給して槽電圧に達するようにすることを含む、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
溶質が、シュウ酸、クエン酸、酢酸、及びそれらの組合せからなる群から選択される有機酸を含む、請求項9〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
溶質が強塩基を含み、該強塩基が、アルカリ、アルカリ土類金属水酸化物、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
強塩基が水酸化ナトリウムである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
溶液が約2〜約7のpHを有する、請求項9〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
電解槽の陽極、陰極及び膜を、溶液と接触させる時間が、約0.5時間〜約48時間である、請求項9〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
電解槽内の溶液を約0℃〜約90℃の温度に維持することを含む、請求項9〜16のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−515848(P2012−515848A)
【公表日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−547953(P2011−547953)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【国際出願番号】PCT/US2010/000094
【国際公開番号】WO2010/085320
【国際公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【Fターム(参考)】