説明

膜の後処理

【課題】本発明は、膜、特に精密濾過及び限外濾過における使用のための中空繊維膜の親水性化のための組成物及び方法に関する。本発明はまた、これらの方法によって調製される膜に関する。
【解決手段】PVMEを取り込んだポリマー状限外または精密濾過膜であって、PVMEが膜全体に均一なまたは不均一な分散物として膜に取り込められ、且つPVMEが膜のコーティングとして存在する、ポリマー状限外または精密濾過膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜、特に精密濾過及び限外濾過における使用のための中空繊維膜の親水性化のための組成物及び方法に関する。本発明はまた、これらの方法によって調製される膜に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の議論は、共通の一般的知見に関する認容として考慮されるべきではない。
【0003】
合成膜は、脱塩、ガス分離、濾過、及び透析を含む各種の応用のため使用されている。膜の特性は、膜の形態、即ち対称性、孔の形状と孔のサイズ、及び膜を形成するために使用されるポリマー材料のような特性に依存して変化する。
【0004】
各種の膜が、精密濾過、限外濾過、及び逆浸透を含む特定の分離工程のために使用できる。精密濾過及び限外濾過は圧力で駆動される工程であり、膜が維持または通過可能である粒子または分子のサイズによって区別される。精密濾過は、マイクロメートル、及びマイクロメートル以下の範囲の非常に微細なコロイド状粒子を除去できる。一般的なルールとして、精密濾過は、0.1μmまでの粒子を濾過でき、限外濾過は、0.01μm以下の粒子を維持できる。逆浸透は、更に小さいスケールで操作される。
【0005】
分離される粒子のサイズが減少するにつれて、膜の孔のサイズは減少し、分離を実施するのに必要な圧力は増大する。
【0006】
大きな濾過液の流動が必要とされる場合、大きな表面領域が必要である。濾過装置をよりコンパクトにするための一つの既知の方法は、中空多孔性繊維の形状に膜を形成することである。そのような繊維のモジュールは、単位体積当たり非常に大きな表面領域で作製できる。
【0007】
微細多孔性合成膜は、中空繊維での使用に特に適しており、転相によって生産される。この工程では、少なくとも一つのポリマーが適切な溶媒に溶解され、適切な粘度の溶液が達成される。ポリマー溶液をフィルムまたは中空繊維としてキャストでき、次いで水のような沈降バスに浸液される。これにより、均一なポリマー溶液が固体のポリマーと液体の溶媒相へと分離を生ずる。沈降したポリマーは、均一な孔のネットワークを含む多孔性構造体を形成する。膜の構造と特性に影響する生産パラメーターは、ポリマー濃度、沈降媒体と温度、ポリマー溶液中の溶媒と非溶媒の量を含む。これらの因子は、大きな範囲の孔のサイズ(0.1未満から20μm)を有し、各種の化学的、熱的、及び機械的特性を有する微細多孔性膜を生産するために変化できる。
【0008】
微細多孔性転相膜は特に、ウイルス及び細菌の除去の応用に十分適している。全てのタイプの膜について、中空繊維は単位体積当たり最大の膜を含む。
【0009】
平坦シート膜は、少なくとも一つのポリマーと溶媒とからなるポリマー溶液を、凝集バスと接触させることによって調製される。溶媒は凝集バス内で外側に拡散し、沈降した溶液がキャストフィルム内に拡散するであろう。所定の期間の後、非溶媒と溶媒の交換が進行し、溶液は熱力学的に不安定となり脱混合が生じる。最後に平坦シートが得られ、それは非対称または対称な構造を有する。
【0010】
疎水性表面は「嫌水性」と称され、親水性表面は「好水性」と称される。多孔性膜の製造で使用されるポリマーの多くは疎水性ポリマーである。水は疎水性膜を通過できるが、通常は非常に高圧(150-300psi)の場合のみである。そのような圧力下では膜は損傷し、これらの環境では一般的に均一には湿らない。
【0011】
疎水性微小多孔性膜は、その優れた化学的耐性、生体適合性、低膨潤性、及び良好な分離特性によって特徴付けられる。かくして、水濾過の応用で使用された場合、疎水性膜は親水性化または「ウェットアウト」されて水の透過を可能とする必要がある。ポリマーに存在する水分子は可塑剤の役割を果たし得るため、いくつかの親水性材料は機械的強度と熱安定性を必要とする精密濾過及び限外濾過には適していない。
【0012】
現在、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、及びポリ(ビニリデンフルオリド)(PVDF)が、最も著名で利用可能な疎水性膜材料である。ポリ(エチレン-クロロトリフルオロエチレン)(Halar)は、膜のポリマー材料として期待を示す別の疎水性材料である。ポリ(ビニリデンフルオリド)(PVDF)は、結晶相と非晶相とを含む半結晶性ポリマーである。結晶相は良好な熱安定性を提供する一方で、非晶相は膜にある程度の柔軟性を加える。PVDFは、耐熱性、合理的な化学的耐性(次亜塩素酸ナトリウムを含むある範囲の腐食性化合物に対して)、及び気候(UV)耐性を含む、膜での応用のための数多くの所望の特徴を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平5−115760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
PVDFは、微小多孔性膜に適した材料の中から最も所望のオプションの一つであると証明されたデータを有する一方、より良好な化学的安定性及び特性を提供しながら、膜を適切な態様で形成し作用させるのに必要な所望の物性を維持する膜材料について、研究が続けられている。
【0015】
良好な膜を形成する疎水性膜の特性、並びにその好ましい機械的及び化学的特性、並びにそのような材料での産業上の一般的な親和性を考慮して、疎水性膜に対する一つのアプローチは、ほぼ疎水性のポリマーに基づく膜を合成するが、膜の疎水性/親水性バランスを改変することである。膜の特性の改変の二つの主な態様は、(i)膜を生産するのに使用される開始材料、試薬、または条件を改変すること、あるいは(ii)生産後の膜を改変すること(後処理)である。二つのアプローチを組み合わせることも可能であり、例えば、膜の機能を単独では変更しないが、後に適用される試薬と相互作用することによって、改変された特性を有する膜を生産する成分を膜に導入することが挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願発明は、特定の場合に、特定の疎水性膜の疎水性度を改変、特に減少するために、ポリ(ビニルメチルエーテル)(PVME)を使用できることを見出した。PVMEの溶液中に中空繊維膜を浸液することによってというように後処理によって、または膜を形成するためのドープ溶液にPVMEを取り込ませることによって、PVMEを取り込ませることができる。ポリ(ビニリデンフルオリド)(PVDF)、ポリ(エチレンクロロトリフルオロエチレン)(Halar)、及びポリ(プロピレン)(PP)のような各種のタイプの膜を含む広範囲の反応タイプについて、それぞれのアプローチが示されるであろう。
【0017】
後処理としてのPVMEは、PVDF及びHalar膜を親水性にすることが見出されたが、前記処理はPP膜に対しても有用であった。
【0018】
膜添加物としてのPVMEは、非対称性のようなPVDFの孔構造に変化を誘導し、並びに最終膜に対する親水性度を与えることが見出された。これは、膜を作成するTIPS法及びDIPS法の両者について明らかであった。
【0019】
ここで使用されるPVMEは、製品のポリマー形態だけでなく、モノマー形態の化合物、特にビニルメチルエーテル、並びにジ、トリ、オリゴマー形態をも包含する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1はリーチング試験の結果を示す。
【図2】図2は、PVMEを有するサンプルについての、SEMによって観察される膜の構造を示す写真である。
【図3】図3は、PVMEを有しないサンプルについての、SEMによって観察される膜の構造を示す写真である。
【図4】図4は、Halarの場合では、非溶媒が存在しないベースポリマー(Halar)との不混和性のため、脱混合は最も可能性があることを示す写真である。
【図5】図5は、SEMの写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
第一の特徴点によると、本発明は、PVMEを取り込んだポリマー状限外濾過または精密濾過膜を提供する。ポリマー状限外濾過または精密濾過膜は、PVMEのコーティングを取り込んでも良く、別法としてポリマー全体にPVMEの均一な分散を含んでも良く、両者であっても良い。ポリマー状膜は、ポリマーの全体にPVMEの不均一な分散を含んでも良い。
【0022】
別の特徴点では、本発明は、Halar、PVDF、またはPPの一つ以上を含む親水性ポリマー状膜を提供する。
【0023】
更に別の特徴点では、本発明は、Halar、PVDF、またはPPの一つ以上から好ましくは形成された、高度な非対称構造を有する親水性ポリマー状膜を提供する。
【0024】
好ましくは前記膜は、PVMEの添加の結果として、減少した孔のサイズを有する。更に好ましくは前記膜は、実質的に巨大空隙を実質的に含まない。
【0025】
好ましくは本発明に係る膜は架橋したPVMEを含む。本発明に係る膜は、吸着したPVMEと埋め込まれたPVMEを含み、吸着したPVMEは埋め込まれたPVMEと架橋している。
【0026】
好ましくは、本発明のポリマー状限外濾過または精密濾過膜は、0.1:24から0.5:24の比で、より好ましくは0.5:18から1:18の比で、更により好ましくは0.4:13から2.3:13の比でPVDFとPVMEとを含む。
【0027】
ポリマー状限外濾過または精密濾過膜は、好ましくは0.4から30重量%のPVMEを含む。
【0028】
一つの実施態様では、本発明のポリマー状限外濾過または精密濾過膜は、8時間浸液した際に検出可能な量のPVMEを生じ、例えば48時間浸液した際に、少なくとも5ppmのPVMEを有する浸出液を生ずる。
【0029】
好ましくは、疎水性ポリマー状限外濾過または精密濾過膜は、0.05から5重量%の濃度を有するPVMEの水溶液またはアルコール溶液と膜を接触させることによって親水性となる。より好ましくは、ポリマー状限外濾過または精密濾過膜は、0.5から50バールの圧力で、0.05から5重量%の濃度を有するPVMEの水溶液またはアルコール溶液と膜を接触させることによって親水性となる。
【0030】
第二の特徴点によれば、本発明は、適合的な少なくとも部分的に水溶性のポリマー状親水性化剤と、ポリマー状材料とを接触させる工程を含む、ポリマー状材料から調製される膜を親水性化する方法を提供する。
【0031】
好ましくは、少なくとも部分的に水溶性のポリマー状親水性化剤は、標準的な温度及び圧力で、少なくとも5-10g/lの量で可溶性である。好ましくは、少なくとも部分的に水溶性のポリマー状親水性化剤は、ビニルメチルエーテルモノマーを含む。より好ましくは、ポリマー状親水性化剤はポリビニルメチルエーテル(PVME)である。
【0032】
ポリマー状親水性化剤は、ビニルメチルエーテルモノマーと少なくとも一つの他のコモノマーとを含むコポリマーであっても良い。ビニルメチルエーテルモノマーは、ポリマー状親水性化剤の少なくとも50モル%の量で存在することが好ましい。
【0033】
コモノマーが使用されるならば、前記コモノマーが共重合可能なアクリラートモノマー、及び共重合可能なビニルモノマーからなる群から選択されることが好ましい。
【0034】
より好ましくは前記コモノマーは、ビニルアセタート、アクリル酸、メチルアクリラート、メチルメタクリラート、アリルメタクリラート、エチルアクリラート、エチルメタクリラート、メタクリル酸、フマル酸、フマル酸のモノエステル、フマル酸のジエステル、マレイン酸、マレイン酸のモノエステル、マレイン酸のジエステル、ジアリルマレアート、無水マレイン酸、アジピン酸のエステル(ジビニルアジパート)、エチレン性不飽和カルボキサミド(アクリルアミド)、エチレン性不飽和カルボニトリル(アクリロニトリル)、エチレン性不飽和スルホン酸(ビニルスルホン酸)からなる群から選択される。
【0035】
第三の特徴点によれば、本発明は、ポリマー状材料をポリビニルメチルエーテル(PVME)と接触させて、改変ポリマー状膜を生産する工程を含む、ポリマー状材料から調製されるポリマー状膜の疎水性/親水性バランスを改変する方法を提供する。
【0036】
好ましくはポリマー状膜はPVMEで被覆される。
【0037】
前記膜は限外濾過膜または精密濾過膜の形態であって良い。
【0038】
一つの好ましい実施態様では、ポリマー状材料は疎水性ポリマーであり、前記ポリマーの疎水性/親水性バランスが改変されて、親水性改変ポリマー状膜が提供される。
【0039】
好ましくはポリマー状材料は、ポリ(ビニリデンフルオリド)(PVDF)、ポリ(エチレン-クロロトリフルオロエチレン)(Halar)、及びポリ(プロピレン)(PP)、またはそれらの混合物である。ポリ(ビニリデンフルオリド)(PVDF)及びポリ(エチレン-クロロフルオロエチレン)(Halar)が特に好ましい。
【0040】
ポリマー状材料は、形成された膜をPVMEの溶液で処理したものでも良い。好ましくはポリマー状材料は、前記膜へのPVMEの飽和が生じるのに十分な濃度と時間でPVMEの溶液で処理される。一つの好ましい実施態様では、ポリマー状材料は、エタノール中のPVMEの溶液で浸液することによって後処理される。別の好ましい実施態様では、ポリマー状材料は、水中のPVMEの溶液で浸液することによって後処理される。PVMEの濃度は、10%未満、より好ましくは5%未満、更により好ましくは3%未満であることが好ましいが、PVMEの濃度は0.1%より大きいことが好ましい。
【0041】
1から5%の範囲が特に好ましい。
【0042】
PVMEでの処理は、5分から16時間の間で生じることが好ましい。好ましくは、PVMEの溶液でのそのような処理は、非結合PVMEを除去するためのすすぎ工程が引き続く。
【0043】
別の実施態様では、ポリマー状材料は、キャスティング前の膜のドープにPVMEを添加することによってPVMEで処理される。膜のドープは、熱的に誘導される相分離工程を介して、または拡散で誘導される相分離工程によってキャストされて良い。
【0044】
好ましくは膜のドープは、TIPS法が使用される場合1重量%までの量でPVMEを含み、DIPS法が使用されるならばより高い。好ましくはPVMEは、ポリマードープ/溶媒/非溶媒混合物に溶解される。より好ましくは、溶媒/非溶媒混合物はPVME溶媒及びPVME非溶媒を含む。
【0045】
好ましくは、PVME溶媒は弱極性を有し、例えばグリセロールトリアセタートである。好ましくは、PVME非溶媒は強極性であり、例えばジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、またはそれらの混合物である。
【0046】
好ましくは、溶媒混合物は40-60%の非溶媒を含む。
【0047】
好ましくは、溶媒混合物は、0.2-2重量%の量、より好ましくは0.7-1重量%の量でPVMEを含む。
【0048】
好ましくは、キャスティングの方法がTIPS法である場合、それは更に、最も好ましくは溶媒及び非溶媒を含むコーティング溶液での処理を含む。DIPS法が使用される場合、N-メチルピロリドンが溶媒として存在し、水が非溶媒として存在する。
【0049】
本発明は更に、PVMEが膜ドープに取り込まれて膜を形成し、前記膜が更にPVMEで処理される方法を提供し、例えば前記膜は、取り込まれて吸着されたPVMEを架橋するように処理される。好ましい架橋方法は電子ビームの照射である。
【0050】
PVMEは、電子ビームまたはγ線での照射により容易に架橋され、開始ビニルメチルエーテルモノマー及びその分解生成物と同様に、非常に低い毒性しか有しない。これにより、それを生体適合性を必要とする多くの応用のための適切な候補とする。更に、すでに有している低毒性にもかかわらず、開始ビニルエーテルモノマーは、pH7以下で容易に加水分解し、そのため容易に除去可能であり、残余のモノマーによる膜への混在の危険を更に減少できる。
【0051】
後処理として膜を浸液することによって、または膜ドープに取り込まれた親水性化剤としてPVMEを含ませることによっていずれかで、さもなければ疎水性であるPP、PVDF、及びHalar膜を親水性化する際に、PVMEが有効であることが驚くべきことに見出された。好ましくは0.5重量%より高い濃度で、例えばエタノールまたは水といった適切な溶媒中のPVMEの溶液に膜を浸液することによって、親水性化は達成できる。PVDF及びHalar膜は特に、表面に吸着されたPVMEを有する長期的安定性を示すが、PVMEはさらにPPとの良好な親和性を有するようである。PVDF及びHalarサンプルでの10日後に膜から得たPVMEの最小の浸出物が、この期間の後未だに親水性であることがリーチング試験により示される。
【0052】
TIPS法を介してドープにPVMEを含ませることも、膜に親水性を与えるのに成功した。ドープにおけるPVMEの割合は、最も好ましくは0.1から0.5%の間であったが、これはドープ中の非溶媒の量に依存する。使用される非溶媒の割合が60重量%より低いのであれば、より大量のPVMEがドープに取り込まれるであろう。驚くべきことに、膜へのPVMEの導入は、膜に親水性を与えるのに加えて、非対称性を増大し孔を小さくするような膜の構造的変化を誘導することが見出された。
【0053】
PVMEはまた、DIPS法を介してドープに成功して取り込ませることが可能であった。親水性/疎水性バランスの改変と並んで、PVMEの存在は、ベースPVDF膜構造を有意に変更し、巨大空隙の形成を抑制した。DIPS法の場合、良好なウイルス/デキストラン維持を有する高い透過性の膜を達成するために、より高濃度のPVDF、並びにより高濃度のPVMEを使用することが所望されることが見出された。
【0054】
PVME改変膜は、例えば電子での照射(電子ビーム)により更に改変できる。PVMEは架橋可能であり、照射下では膜表面で架橋するであろう。PVMEで後処理されている膜、またはドープに含まれたPVMEを有している膜のいずれかに、照射を適用することが可能である。PVMEはまた、適切な条件下で、膜マトリックスに存在する場合にPVDFとも架橋されて良い。
【0055】
PVDF及び同様な構造を有するフルオロポリマー(例えばPVC、PVF、及びPVDC)は、電子またはγ線での照射の際に幾分架橋を受けることが既知であり、PVMEでの同様な架橋も可能である。γ線がフルオロポリマーに使用された場合、鎖切断(分解)の可能性が存在するため注意をしなければならないことは当業者に予測されよう。
【0056】
ドープにおいて架橋可能な親水性剤を有する膜もまた、更なる架橋可能な試薬(ドープにおいて使用されるものと同じでもまたは異なっても良い)で後処理され、その後電子ビームに曝露されても良い。これは、吸着された架橋可能な試薬が、埋め込まれたPVME剤と架橋することをを可能にし、前者が表面から脱着される機会を減少する。
【0057】
これの特定の例は、水性PVME溶液でも後処理され、その後電子ビーム照射に曝露されるドープ中のPVMEを取り込んだ膜の調製である。いずれかの理論に結び付けられることを所望しないが、これにより、吸着されたPVMEが埋め込まれたPVMEと架橋し、膜の表面に括り付けられ、PVMEが膜の表面から脱着されて溶液に溶解する機会を減少すると解される。
【実施例】
【0058】
後処理の研究
架橋可能な親水性化剤を有する各種の膜の後処理を調査した。PVDF、Halar、及びPP膜を全て試験した。Halar膜については、MF(精密濾過)及びUF(限外濾過)膜を試験した。
【0059】
事前調製されたPP及びPVDF膜を処理するための一般的方法は以下の通りであった:
【0060】
乾燥膜を、特定されたような溶媒、濃度、及び浸液時間でPVME(Lutonal M40)溶液に浸液した。次いで膜をPVME溶液から取り出し、4時間水での洗浄に配置した。次いで膜を約4時間乾燥させた。
【0061】
次いで膜を、染料の水溶液の「ウィッキング」について試験し、繊維の透過性も試験した。
【0062】
次いで膜のサンプルを、65℃で1時間水中に浸液し、熱処理された膜の透過性も試験した。
【0063】
事前調製されたHalar膜を処理するための一般的方法は、Halar膜の生産方法の結果として存在するグリセロールをロードした孔のためより複雑であった。膜を12時間エタノールに浸液し、次いで15分間水に浸けた。
【0064】
次いで膜を、特定されたような溶媒、濃度、及び浸液時間でPVME(Lutonal M40)溶液に浸液した。次いで膜をPVME溶液から取り出し、4時間水での洗浄に配置した。次いで膜を約4時間乾燥させ、その後孔をリロードするために16時間20重量%のグリセロールの水溶液に再浸液した。次いで膜を24時間乾燥させ、標準的な未処理及び処理膜の透過性を試験した。
【0065】
各種のPVMEの濃度及び時間の長さで、全ての繊維を記載されたように処理した。以下の表1-3は、試験された各繊維の各変数から得られる結果を示す。
【0066】
染料の溶液が、そのような溶液中に部分的に垂直に浸されている繊維内に自発的に吸着され、溶液メニスカスの上部で上方に向かって移動する場合に生ずる現象をウィッキングと称する。これは明らかに、強力な親水性繊維(毛管作用)において観察されるが、疎水性繊維では観察できない。孔におけるグリセロールの結果としてアーティファクトの結果が生ずるであろうため、Halar繊維ではウィッキング試験を実施しなかった。
【0067】
【表1】

【0068】
表1の結果は、PVDFがPVMEでの後処理により親水性となることを示す。水中またはエタノール中での各種の濃度のPVME(0-3重量%)を調査した。溶液中のPVMEの濃度は、約0.1%と解される特定の臨界値より高ければ重要ではないようである。0.5%より高いPVMEを使用するとほとんど利益がないようである。これは溶液中の繊維密度に依存する、言い換えるとPVMEが膜表面に吸着している場合、完全に親水性の膜表面を得るのに必要とされる溶液中のPVMEの量が最小で存在するために、遊離溶液に対する利用可能な膜表面領域の比に依存すると仮定される。過剰なPVMEが吸着する膜表面には単純に余地が存在せず、結果として濾過の際に膜から流れ落ちるのであろう。
【0069】
PVMEの添加量があまりに小さいと、表面は完全に親水性とはならず、次いで錯体化と結合に影響するであろう。
【0070】
【表2】

【0071】
表2の結果は、ウィッキングにより示されるように(表2の第2欄参照)親水性となるが、透過性は標準的な未処理のPP膜の繊維のものの約半分のみであることを示す。
【0072】
PVMEとPPとの相互作用は、PVDFとPVMEの間の相互作用と同じではないことが、これらの結果から明らかである。いずれかの理論により結び付けられることを期待しないが、完全に無極性であると考慮されるPPの表面よりむしろ、わずかに極性であるPVDF表面に対して、PVMEはより強固に結合することが仮定される。PVMEが水中での溶液に対する嗜好性で疎水性表面に単純に結合するというよりはむしろ、支配している効果がこの親和性であることを想像させる。
【0073】
【表3】

【0074】
Halarの透過性は、PVMEでの処理の結果としてわずかに減少する。一般的に、Halar MF繊維についての透過性の測定は1500-2000LMH/バールの範囲であり、Halar UF膜については200-600LMH/バールの間で変化する。
【0075】
グリセロールが孔から完全に除去されるので、孔の内部のグリセロールが、固定値に向かってゆっくりと増大する下限初期清浄水透過性を生じると解されるため、Halar膜の結果を正確に定量することは困難である。これは、グリセロールが水中よりエタノール中でより容易に可溶性であるため、エタノールで洗浄した繊維がわずかに高い見掛けの透過性を有する理由を説明するであろう。
【0076】
HalarはPVDFとは異なる穏やかな極性構造を有し、HalarとPVMEとの間の親和性は、PVMEとPVDFの間の相互作用とある程度重ね合わされる。以下の結果は、PVMEでのHalar膜の処理の永久性の指標を与える。
【0077】
ウィッキングは、強力な親水性繊維(毛管作用)において明白に観察できるが、疎水性繊維では観察できない。
【0078】
リーチング試験(図1)は、PVMEが高い割合で最初にリーチされるが、これは安定な溶液濃度が段階的に達成されるまで経時的に減少することを示す。
【0079】
リーチング試験は、240時間逆浸透(RO)水中に繊維を浸すことによって実施された。浸出水は24時間ごとに置換し(線浄水は全部で9回置換した)、等量をUV-Vis吸収によって分析し、PVME較正曲線と比較した。上述の結果は、PVMEの検出において迅速な減少が存在し、これはウェット及びドライのスタンダード、並びに全てのサンプルについて生じることを示す。最大の減少は、PVMEに浸されたサンプルから由来し、一方でこれらのサンプルでは、1重量%のエタノール性PVMEに浸された繊維は最低の開始濃度を有する。一般的な傾向として、ある部分のPVMEは迅速に浸出するが、およそ48時間後で、スタンダードと比較して洗浄水中のPVME濃度の有意な変化は存在しないようである。しかしながら上述の通り、この試験に基づくスタンダードと比較して、濃度の変化は有意であると考慮できない。
【0080】
ドライスタンダードは、第一に最初にPVME濃度において、1重量%のエタノール性PVMEとHalarサンプルに浸されたサンプルより高い濃度に増大を示すようである。
【0081】
水中にわずかにのみ可溶性であるが、完全に浸出し尽くすのは非常に困難であるPVDF膜中の非常に定量の残余の溶媒が存在してUV-Vis読み取りに影響するため、エタノールウェットスタンダードとドライスタンダードの両者を使用した。UV-Vis分析の前のエタノールでの洗浄は、膜から残余の溶媒を除去するはずである。これは、PVDFサンプルがPVME浸出濃度を上昇させるようであること、またはエタノールウェットサンプルよりむしろわずかに高い定常状態の値を有することを説明するであろう。しかしながら、PVMEは水溶液から、PVDF表面よりむしろHalar表面に強固に結合するようであると解される。
【0082】
PVME処理の前後での多くの膜の透過性が表4に示されている。
【0083】
リーチングの後の透過性を試験するため、繊維をRO水から取り出し、室温で乾燥させた。スタンダード(未処理)繊維を透過性試験の前にエタノールで湿らせる一方、処理繊維は単純に水で試験した。透過性の結果は、リーチングのこの期間の後に繊維はいまだ親水性であるが、透過性は著しく下降することを示す。これは比較的均一な下降であるが、1重量%の水性PVMEに浸液されたサンプルを除き、スタンダードを含む全てのサンプルで40-45%の間である。
【0084】
【表4】

【0085】
PVMEへのPVDF繊維膜の浸出液は、いずれの態様でもサンプルのいずれの機械的特性を改変しないようであった。処理膜は、未処理サンプルと同じ破壊伸張度を示した。
【0086】
ドープ添加物の研究
TIPS膜
0から1重量%まで変化する割合で、標準的なTIPS PVDFまたはTIPS HalarドープにPVMEを添加した。TIPSの押出成形を連続法で操作した(所望であればバッチ法での使用を禁ずるものは何もないが)。PVDFについて、PVMEをGTAとジエチレングリコール、トリエチレングリコール、または1,4-ブタンジオールとの溶媒/非溶媒混合物に溶解した。Halarについて、PVMEを単純にGTAに溶解した。PVMEはGTAに非常に可溶性であるが、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、及び1,4-ブタンジオールのようなより極性の化合物には不溶性である。
【0087】
この混合物は40-60重量%の非溶媒であるため、溶媒/非溶媒混合物に溶解できるPVMEの最大量が存在した(約0.7重量%)。しかしながら、この割合のPVMEで形成される膜は、PVDFのある部分の脱混合が生じていることを示唆するSEMを提供した。かくしてほとんどの状況で、サブ飽和レベルのPVMEが必要とされると解される。
【0088】
0.1-0.2重量%のドープ混合物の割合としての濃度と、試験されるそれらの割合を有する膜を調製した。膜の押出成形の間でPVMEの熱的不安定性の実験のいずれからも指標は存在しなかった。以下の表5は、各種のTIPS膜の詳細を示す。
【0089】
【表5】

【0090】
PVMEを有するまたは有しないサンプルについての、SEMによって観察される膜の構造の間の差異は、0.1及び0.2重量%とほんのマイナーなものである。これらは図2及び3に観察できる。構造内の平均よりわずかに大きいセルが、PVMEで調製されているサンプルのSEMで観察できる。しかしながら、約0.5重量%では、ある部分の不混和性が現れ、ある部分の脱混合が生じる。1重量%の濃度では、この脱混合はより極端となった。PVDFの場合、膜繊維を押出成形するためにドープ混合物で使用される非溶媒の高い割合のため、これは最も可能性がある。Halarの場合では、図4に観察できるように、非溶媒が存在しないベースポリマー(Halar)との不混和性のため、脱混合は最も可能性がある。
【0091】
しかしながら、そのような高い割合のPVMEは、繊維に疎水性を与えるのに必要であるとは限らない。0.1重量%が膜の親水性化を開始するのに十分であるようだが、この濃度では、親水性ではなかった繊維のある部分が存在するようである;つまり、水中での浸液の際に、繊維の一部のみが湿らされることが観察される一方、ある部分はドライなままであるが、エタノールの補助では湿らされる。しかしながら、繊維中に存在する0.2重量%のPVMEでは、完全な親水性化が生じるようである。
【0092】
膜中のより高い割合のPVMEは、高い度合いの非対称性を生ずるようであり、ある点までMF及びIF膜における所望の特性であることに注意すべきである。0.5及び1重量%のPVMEを有するサンプルは、前記議論された脱混合の証拠を示すが、それらはまた、構造中にPVMEに直接寄与できる高い度合いの非対称性を示す。更にこの脱混合は、求核試薬として作用し、相分離に遭遇することによって小さな孔を誘導するために使用できる。非対称性とPVME含量との間の関係は、PVME含量が増加するにつれてバブル点の増大に向けたトレンドによって示される。
【0093】
要約すると、TIPSトライアルにおけるドープへのPVMEの取り込みは、膜に親水性を与えるのに成功した。使用されるPVMEの割合は、0.1から0.5%の間であることが最も好ましかったが、これはドープ中の非溶媒の量に依存する。使用される非溶媒の割合が60重量%より低いならば、より大量のPVMEがドープ中に取り込ますことが可能であろう。しかしながら、上述の好ましい範囲は、非対称性およびより小さな孔のような膜の構造的変化を有するし始め、並びに膜の親水性化を生し始めるのにほとんどの場合で十分である。
【0094】
DIPS膜
以下の表6に示された組成物で3種のドープを調製した。2種の異なる割合のPVME(0.1重量%及び2.5重量%)を、代替的な添加剤としてポリ(ビニルピロリドン-ビニルアセタート)(S630)を含むDIPS PVDFと比較した。これらの繊維は全て同一の態様で押出成形され、その結果が以下の比較されている。
【0095】
【表6】

【0096】
前記繊維は、PVMEを添加した場合、破壊伸張度、破壊力、及びバルブ点の増大を示す。いずれかの理論と結び付けられることを所望しないが、これらの増大は、粘度効果により部分的に由来するかも知れず、それはS630をPVMEで置換することが、より粘性のドープを生し、次いでより小さい巨大空隙およびより強靭な構造を導き、より大きな破壊力及び破壊伸張度を与え、バブル点の増大に寄与するかもしれない。透過性のバリエーションは、恐らくサンプル間の水(非溶媒)濃度の変化によるであろう。
【0097】
図5のSEMは繊維の特性から明らかなトレンドを示しており、構造物に対するPVMEの添加は巨大空隙の形成を減少する。しかしながら、S630のPVMEでの0.4重量%未満での置換は、DIPS実施例によって示されたように、特性の劇的な変化を誘導するのに必要である。
【0098】
全てのサンプルは非常に全体的に水をウィックし、標準的な処方の親水性から観察される差異は存在しなかった。透過性の特性は、「ウェッティング」工程、エタノールでの膜の手動のウェッティングなしで実施された。2.3重量%のPVMEサンプルの透過性は、0.4重量%のPVMEサンプルのものより大きいようである。バブル点はこれらの二つのサンプルで同じである一方、透過性は変化するため、PVDF濃度を増大すること、及び各種のPVME濃度を添加することは、高い透過性を有するUF膜を生産することを可能にすることが観察できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PVMEを取り込んだポリマー状限外または精密濾過膜であって、PVMEが膜全体に均一なまたは不均一な分散物として膜に取り込められ、且つPVMEが膜のコーティングとして存在する、ポリマー状限外または精密濾過膜。
【請求項2】
PVMEが膜のコーティングとして存在し、且つ膜全体に均一な分散物として膜に取り込められている、請求項1に記載のポリマー状限外または精密濾過膜。
【請求項3】
ポリマー状限外または精密濾過膜がポリ(エチレン-クロロトリフルオロエチレン)、PVDF、またはPPの一つ以上を含む、請求項1に記載の膜。
【請求項4】
親水性である、請求項1に記載の膜。
【請求項5】
非対称な構造を有する、請求項1に記載の膜。
【請求項6】
PVMEの添加の結果として減少した孔のサイズを有する、請求項1に記載の膜。
【請求項7】
巨大空隙を実質的に含まない、請求項1に記載の膜。
【請求項8】
架橋されたPVMEを含む、請求項1に記載の膜。
【請求項9】
吸着されたPVME及び埋め込まれたPVMEを取り込んでおり、吸着されたPVMEが埋め込まれたPVMEで架橋されている、ポリマー状限外または精密濾過膜。
【請求項10】
0.1:24から0.5:24の比でPVDFとPVMEとを含む、請求項9に記載のポリマー状限外または精密濾過膜。
【請求項11】
0.4から30重量%のPVMEを含む、請求項9に記載のポリマー状限外または精密濾過膜。
【請求項12】
8時間の浸液の際に検出可能な量のPVMEを生産する、請求項9に記載のポリマー状限外または精密濾過膜。
【請求項13】
48時間の浸液の際に少なくとも5ppmのPVMEを有する浸出液を生産するPVMEを含む、請求項9に記載のポリマー状限外または精密濾過膜。
【請求項14】
0.05から5重量%の濃度を有するPVMEの水性またはアルコール性溶液と膜とを接触させることにより親水性となった、請求項9に記載のポリマー状限外または精密濾過膜。
【請求項15】
ビニルメチルエーテルモノマーと少なくとも一つの他のコモノマーとを含む適合可能な少なくとも部分的に水溶性のコポリマーと、ポリマー状材料とを接触させる工程を含む、ポリマー状材料から調製される膜を親水性化する方法。
【請求項16】
ビニルメチルエーテルモノマーが、ポリマー状親水性化剤の少なくとも50モル%の量で存在する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
コモノマーが共重合可能なアクリラートモノマーと共重合可能なビニルモノマーとからなる群から選択される、請求項15に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−40559(P2012−40559A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227009(P2011−227009)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【分割の表示】特願2006−517906(P2006−517906)の分割
【原出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(507058144)シーメンス・ウォーター・テクノロジーズ・コーポレーション (23)
【Fターム(参考)】